説明

アルコキシ基を有する重合可能なカルボン酸エステルの製造方法

エチレン性不飽和カルボン酸、カルボン酸無水物、あるいはカルボン酸ハライド(一括してカルボン酸成分として示す)を、少なくとも60質量%のC2〜C4−アルコキシ基を含むヒドロキシル化合物(一言でポリアルコキシ化合物として示す)と反応させることにより、該反応を重合禁止剤および還元剤の存在下で行うことを特徴とする、カルボン酸エステルのラジカル重合可能な製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエチレン性不飽和カルボン酸、カルボン酸無水物あるいはカルボニルハライド(一括してカルボン酸成分として示す)を、少なくとも60質量%のC2〜C4−アルコキシ基から構成されるヒドロキシル化合物(一言でポリアルコキシ化合物として示す)と反応させることによるラジカル重合可能なカルボン酸エステルの製造方法において、前記の反応を
・ 重合禁止剤、および
・ 還元剤
の存在下で行うことを含む方法に関する。
【0002】
本発明はさらにはカルボン酸エステルを含むコポリマーに関し、且つセメント性配合物における可塑化添加剤としてのコポリマーの使用に関する。
【0003】
ラジカル重合可能なカルボン酸エステル、特にポリ−C2〜C4アルキレングリコールと、アクリル酸あるいはメタクリル酸とのモノエステル、以下でポリ−C2〜C4アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルとも示されるものを、例えばポリ−C2〜C4アルキレンエーテル側鎖を有する櫛形ポリマーの製造において使用する。後者のポリマーは、それらの様々な用途、例えば洗濯用洗剤添加剤、例えば沈着防止剤、灰色化防止剤、および防汚剤として、および塗料成分として、および医薬品および農産物保護剤における活性成分調製用の配合添加剤のための予め決まった界面活性特性を有する。
【0004】
幹ポリマー上にポリ−C2〜C4アルキレンエーテル側鎖およびカルボキシレート基を有する陰イオン性櫛形ポリマー、特にC1〜C10アルキルポリエチレングリコール側鎖を有するものを、例えば鉱物ベースの結合性建築材料、特にセメント性結合性建築材料、例えばモルタル、セメント結合の下塗り、および特にコンクリートのための可塑剤として用いる使用を提供する。
【0005】
典型的にはポリ−C2〜C4アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルを、アクリル酸あるいはメタクリル酸を用いてOH−を有するポリ−C2〜C4アルキレングリコールをエステル化することによって製造する。
【0006】
文献内には様々な方法の記載がある。
【0007】
DE−A1110866号の記載の一部は、モノアルキルポリアルキレングリコールとエチレン性不飽和カルボン酸の塩化物との反応に関し、該酸塩化物を過剰量で使用している。得られる粗エステル製品は、評価されるように、未反応の過剰な酸塩化物をまだ含んでおり、それはさらなる反応を妨害し、そして高価且つ不便な蒸留の手段によって除去しなければならない。この方法で製造されたポリ−C2〜C4アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルの品質は満足のいくものではない。
【0008】
US4075411号は、オレフィン性不飽和カルボン酸のアルキルフェノキシ(ポリエチレングリコール)モノエステルの、ポリエチレングリコールモノ(アルキルフェニル)エーテルを相応する酸を用いてp−トルエンスルホン酸の存在下でエステル化することによる、あるいはアミンの存在下での酸塩化物との反応による製造を記載する。この方法で製造されるアルキルフェノキシ(ポリエチレングリコール)モノエステルの達成される転化率および品質は満足のいくものではない。
【0009】
WO01/74736号は、ポリ−C2〜C4アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルのコポリマーの、アクリル酸あるいはメタクリル酸を用いてそれらのモノマーを共重合することによる製造方法を記載し、該ポリ−C2〜C4アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルはアミンの存在下でポリアルキレングリコールを(メタ)アクリル酸無水物と反応させることによって製造される。この反応では、該無水物を反応の化学量論組成比に対して少なくとも10モル%の過剰量で使用する。この過剰量にもかかわらず、エステル化の割合は低い。さらには、彼ら自身での調査において、該発明者らは達成されるエステル化転化率が低く且つこの方法で製造されたエステルが遊離無水物のみでなくかなりの量の未反応のポリアルキレングリコールを含み、それがその後製造されるポリマーの品質、特にコンクリート可塑剤としてのそれらの使用に関して悪影響を及ぼすことを示している。
【0010】
WO2006/024538号はアクリル酸無水物および/またはメタクリル酸無水物を少なくとも1つのOH基を有するポリ−C2〜C4アルキレングリコール化合物と塩基の存在下で反応させることを必要とし、該塩基が90℃で10g/l以下の溶解度を有する塩基性化合物から選択され、且つ、(メタ)アクリル酸無水物Aおよびポリ−C2〜C4アルキレングリコール化合物PをA:Pのモル比1:1〜1.095:1の範囲内で使用する方法を記載する。この方法はカルボン酸エステルの品質、および並びに転化率の改善を可能にする。
【0011】
WO2006/024538号は、エステル化の間の重合禁止剤の併用も記載している。適した重合禁止剤は時としてその活性に酸素を必要とし、さらには酸素それ自身が禁止剤としてはたらき得る。しかしながら酸素が存在するときの欠点は、過酸化物の形成である。ポリアルキレン酸化物において、過酸化物は例えばエーテル開裂を起こし、且つ望ましくない架橋反応の結果、それらは一つより多い重合可能な基を有するカルボン酸エステルにみちびく。この種の多官能価のカルボン酸エステルはその後の重合において、架橋の事例をみちびき、且つ広いモル質量分布をもたらす。
【0012】
多くの用途のために、特にセメント性配合物における可塑化添加剤としての使用に対して、均一なコポリマーが有利である。
【0013】
従って、本発明の課題は、共重合で均一なコポリマーを生成し、且つそれが特にセメント性配合物における可塑化添加剤として適している、ラジカル重合可能なカルボン酸エステルの製造方法を提供することである。
【0014】
従って、冒頭で定義された方法を見出した。
【0015】
カルボン酸エステルの成分
カルボン酸成分としての適性は全てのラジカル重合可能なカルボン酸、カルボン酸無水物、あるいはカルボン酸ハライドが有している。それらは例えばジカルボン酸あるいはそれらの無水物、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸あるいはイタコン酸無水物であってよい。それらは好ましくはモノカルボン酸、例えばアクリル酸あるいはメタクリル酸、より好ましくはモノカルボン酸の二量体の無水物、および特にアクリル酸無水物あるいはメタクリル酸無水物である。
【0016】
ポリアルコキシ化合物は、カルボン酸成分と反応してエステルを形成する好ましくは1つあるいは2つ、より好ましくは2つのヒドロキシル基を有する。
【0017】
ポリアルコキシ化合物を好ましくは少なくとも80質量%のC2〜C4アルコキシ基で構成する。好ましいC2〜C4アルコキシ基はエトキシ基、プロポキシ基あるいはそれらの組み合わせ、より好ましくはエトキシ基である。1つの好ましい実施態様において、少なくとも70質量%、より好ましくは少なくとも90質量%、特に100質量%のアルコキシ基がエトキシ基である。
【0018】
ポリアルコキシ化合物は一般に少なくとも3、しばしば少なくとも5、特に少なくとも10、且つ一般には400以下、しばしば300以下、例えば10〜200、および特に10〜150のアルコキシ基を有する。該化合物は直鎖あるいは分岐鎖であってよく、且つ一般に平均して少なくとも1つ、典型的には末端の遊離OH基を分子内に有する。残りの末端基は例えば、OH基、好ましくは1〜10個のC原子を有するアルキルオキシ基、フェニルオキシ基あるいはベンジルオキシ基、好ましくは1〜10個のC原子を有するアシルオキシ基、O−SO3H基あるいはO−PO32基であってよく、後者の2つの基は陰イオン基の形態をとってもよい。1つの好ましい実施態様において、1つの末端基がOH基で且つ他あるいはさらなる末端基あるいは基が1〜10個および特に1〜4個のC原子を有するアルキルオキシ基、例えばエトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシあるいはtert−ブトキシ、および特にメトキシ基である、ポリアルキルオキシ化合物を用いる。
【0019】
1分子当たりおよそ1つの遊離OH基(即ち平均して約0.9〜1.1の遊離OH基)を有する直鎖ポリアルコキシ化合物が好ましい。この種の化合物は一般式P:
【化1】

[式中、
nは繰り返し単位の数を示し、且つ一般に3〜400の範囲、特に5〜300の範囲、より好ましくは10〜200の範囲、および特に好ましくは10〜150の範囲の数であり、
AはC2〜C4アルキレン、例えば1,2−エタンジイル、1,3−プロパンジイル、1,2−プロパンジイル、1,2−ブタンジイルあるいは1,4−ブタンジイルであり、且つ
1は水素、好ましくは1〜10個の、特に1〜4個のC原子を有するアルキル、フェニル、ベンジル、好ましくは1〜10個のC原子を有するアシル(=C(O)−アルキル)、SO3H基あるいはO−PO32基、特にC1〜C10アルキルおよびより好ましくはC1〜C4アルキル、および特にメチルあるいはエチル基である]
によって記述できる。
【0020】
特に好ましくは、AはCH2−CH2あるいは
【化2】

である。
【0021】
特に非常に好ましくは、AはCH2−CH2である。
【0022】
本発明の特に好ましい実施態様は、従って、アルコキシ化合物がポリエチレングリコールモノ(C1〜C10アルキル)エーテル、言い換えればモノ−C1〜C10アルキルエーテル、特にモノ−C1〜C4アルキルエーテル、および特に直鎖ポリエチレングリコールのメチルあるいはエチルエーテルである方法に関する。
【0023】
ポリアルコキシ化合物は好ましくは、250〜20000の範囲、および特に400〜10000の範囲の(GPCの手段によって測定された)数平均分子量を有する。
【0024】
ラジカル重合可能なカルボン酸エステルは従って、好ましくは、上述のポリアルコキシ化合物のアクリル酸あるいはメタクリル酸エステルである。
【0025】
カルボン酸エステルの製造方法
本発明によって重合可能なカルボン酸エステルを重合禁止剤の存在下で製造する。
【0026】
好ましい重合禁止剤は立体障害ニトロキシド、セリウム(III)化合物、および立体障害フェノールおよびそれらの混合物、およびそれらの酸素との混合物から選択されるものである。
【0027】
より具体的に適しているのは、特に、フェノール、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、特に立体障害フェノール、例えば2,6−ジ−tert−ブチルフェノールあるいは2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、およびまたチアジン、例えばフェノチアジンあるいはメチレンブルー、セリウム(III)塩、例えばセリウム(III)酢酸塩、およびニトロキシド、特に立体障害ニトロキシド、即ち、ニトロキシド基に隣接する各々のC原子上に3つのアルキル基を有し、それらのアルキル基のうちの2つ、特に同一のC原子上に位置していないものがニトロキシド基の窒素原子および/またはそれらが結合している炭素原子と一緒に飽和の5あるいは6員環を形成する二級アミンのニトロキシド、例えば2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)あるいは4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(OH−TEMPO)、上述の禁止剤の混合物、上述の禁止剤と例えば空気の形態での酸素との混合物、および上述の禁止剤の混合物の例えば空気の形態での酸素との混合物である。好ましい禁止剤は上述の立体障害ニトロキシド、セリウム(III)化合物、および立体障害フェノールおよびそれらのお互いの混合物、およびかかる禁止剤と酸素との混合物、およびそれらの禁止剤の混合物の例えば空気の形態での酸素との混合物である。特に好ましくは、少なくとも1つの立体障害ニトロキシドおよび立体障害フェノールおよびセリウム(III)成分、およびそれらの例えば空気の形態での酸素と混合物から選択されるさらなる成分を含む禁止剤系である。
【0028】
重合禁止剤の量は特に、カルボン酸成分およびアルコキシ化合物の総量に対して2質量%までであってよい。該禁止剤をカルボン酸成分およびポリアルコキシ化合物の総量に対して10ppmから1000ppmの量で有利に使用する。禁止剤混合物の場合、それらの数値は酸素を除く該成分の総量に対してである。
【0029】
本発明によれば、重合可能なカルボン酸エステルは還元剤の存在下でも製造される。
【0030】
適した還元剤は特にリンあるいは硫黄化合物を含む。
【0031】
硫黄化合物は例えば二硫化ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムあるいはメルカプタン、例えばブチルメルカプタン、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸あるいはメルカプトエタノールを含む。
【0032】
該還元剤は特に好ましくは、有機および無機リン化合物の両方を意味するリン化合物を含む。本発明による使用のための無機リン化合物は、好ましくはリンのオキソ酸および反応媒体中で分散可能あるいは溶解可能であるその塩、好ましくはそれらのアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはアンモニウム塩を含む。
【0033】
適した無機リン化合物の例は下記:
ホスフィン酸(H2PO2)およびそこから誘導される塩、例えばホスフィン酸ナトリウム(一水化物)、ホスフィン酸カリウム、ホスフィン酸アンモニウム;ハイポジホスホン酸(H224)およびそこから誘導される塩;ホスホン酸(H2PO3)およびそこから誘導される塩、例えばホスホン酸水素ナトリウム、ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸水素カリウム、ホスホン酸水素アンモニウム、ホスホン酸アンモニウム;ジホスホン酸(H425)およびそこから誘導される二ホスホン酸;ハイポ二リン酸(H426)およびそこから誘導されるハイポ二リン酸塩;二リン酸(H427)およびそこから誘導される二リン酸塩、およびポリリン酸およびその塩、例えば三リン酸ナトリウムである。
【0034】
カルボン酸エステルを好ましくはホスフィン酸(H3PO2)あるいはそこから誘導される塩、例えばホスホン酸水素ナトリウム、ホスホン酸ナトリウム、ホスホン酸水素カリウム、ホスホン酸カリウム、ホスホン酸水素アンモニウムおよびホスホン酸アンモニウムの存在下で製造する。特に好ましくは、ホスフィン酸ナトリウム一水化物および/またはホスホン酸である。
【0035】
リン化合物はさらには、同様に有機リン化合物、例えばウレアホスフェート、メタンジホスホン酸、プロパン−1,2,3−トリホスホン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラホスホン酸、ポリビニルホスホン酸、1−アミノエタン−1,1−ジホスホン酸、ジエチル(1−ヒドロキシエチル)ホスホネート、ジエチルヒドロキシメチルホスホネート、1−アミノ−1−フェニル−1,1−ジホスホン酸、アミノトリスメチレントリホスホン酸、エチレンジアミノテトラメチレンテトラホスホン酸、エチレントリアミノペンタメチレンペンタホスホン酸、エチレンジアミノテトラメチレンテトラホスホン酸、エチレントリアミノペンタメチレンペンタホスホン酸、エチレンジアミノテトラメチレンテトラホスホン酸、エチレントリアミノペンタメチレンペンタホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ホスホノ酢酸およびホスホノプロピオン酸およびそれらの塩、ジエチルホスフィット、ジブチルホスフィット、ジフェニルホスフィット、トリエチルホスフィット、トリブチルホスフィット、トリフェニルホスフィットおよびトリブチルホスフェートを含む。
【0036】
エチレン性不飽和リン化合物、例えばビニルホスホネート、メチルビニルホスホネート、エチルビニルホスホネート、ビニルホスフェート、アリルホスホネート、あるいはアリルホスフェートも適している。
【0037】
好ましい有機リン化合物は、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸およびその二ナトリウムおよび三ナトリウム塩、アミノトリスメチレントリホスホン酸、および五ナトリウム塩、およびエチレンジアミノテトラメチレンテトラホスホン酸およびその塩である。
【0038】
時として、2つあるいはそれより多くのリン化合物を組み合わせ、例えばトリウムホスフィネート一水化物とホスホン酸、ホスホン酸と二ナトリウム1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホネートおよび/またはアミノトリメチレントリホスホン酸および/または1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸を組み合わせることが有利である。それらを互いに任意の所望の割合で混合し、且つ重合において使用できる。
【0039】
還元剤、好ましくはリン化合物の量は、好ましくはカルボン酸成分およびポリアルコキシ化合物100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.03〜3質量部、特に0.05〜2質量部である。
【0040】
重合可能なカルボン酸エステルの製造を好ましくはさらに、減少した酸素含有率で行う。
【0041】
該反応を好ましくは1〜15容積%の酸素濃度を有するガス混合物の存在下で行う。
【0042】
無水物と化合物Pとの反応を、かかる反応用に典型的な全ての装置、例えば攪拌タンク、攪拌タンク翼列、オートクレーブ、管型反応器あるいは配合機などにおいて実施できる。該装置内で使用可能な反応空間を好ましくは反応混合物で完全には満たさず、一般に反応混合物で最大90容積%だけ、特に最大80容積%だけを満たす。残りの空間をガス混合物で占有させる。該ガス混合物を好ましくは連続的に該反応空間を通過させる。
【0043】
別の方法では、該製造を好ましくはWO2006/024538号に記載の方法によって行う。
【0044】
その結果、重合可能なカルボン酸エステルが塩基の存在下で好ましく製造される。
【0045】
該塩基は好ましくは、ポリアルコキシ化合物中での溶解度が90℃で10g/l以下、より好ましくは5g/l以下である塩基性化合物から選択される。
【0046】
本発明に適した塩基の例は、一価あるいは二価の金属陽イオン、特に周期律表のI族およびII族の典型元素、即ちLi+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBi2+、および一価あるいは二価の遷移金属陽イオン、例えばAg+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Cd2+、Sn2+、Pb2+およびCe2+の水酸化物、酸化物、炭酸塩、および炭酸水素塩を含む。アルカリ金属およびアルカリ土類金属およびZn2+、および特にMg2+あるいはCa2+、および特に好ましくはNa+あるいはK+の陽イオンの水酸化物、酸化物、炭酸塩、および炭酸水素塩が好ましい。それらの中で好ましいのは、それらの金属イオンの水酸化物および炭酸塩、特にアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属水酸化物、および特にナトリウム炭酸塩、カリウム炭酸塩、カリウム水酸化物、およびナトリウム水酸化物である。また、特に適しているのはリチウム水酸化物およびリチウム炭酸塩である。該塩基を好ましくは、ポリアルコキシ化合物に対して0.05〜0.5塩基当量、および特に0.1〜0.4塩基当量の量で使用するが、より多い量の塩基、例えば1塩基当量までの量は一般に問題ない。ここで、水酸化物および炭酸水素塩の場合、塩基当量は使用されたモル当量に相当するのに対し、1モル当量の炭酸塩あるいは酸化物はそれぞれの場合、2塩基当量に相当することに留意すべきである。
【0047】
ラジカル重合可能なカルボン酸エステルを製造するために、カルボン酸成分を過剰量で添加することが望ましい。カルボン酸成分の反応性カルボン酸基とポリアルキルオキシ化合物のヒドロキシル基とのモル比は、例えば1:0.5〜5:1、好ましくは1:1〜5:1、および特に好ましくは1.2:1〜4:1であってよい。過剰なカルボン酸成分を次の共重合において共重合させる。(メタ)アクリル酸無水物が1つの(メタ)アクリル酸無水物あたり2つのカルボン酸基を有する二量体であることに留意すべきである。ここおよび以下で、(メタ)アクリル酸無水物の表現はアクリル酸無水物あるいはメタクリル酸無水物のみではなく、それらの混合物も示す。(メタ)アクリル酸無水物を好ましくは、ポリアルキレン酸化物化合物に対して過剰量(反応性カルボン酸基に対して非常に多い過剰量に相当)で使用する。(メタ)アクリル酸無水物の過剰量は、1つの好ましい実施態様において、1モルの化合物P(ポリアルキレン酸化物)に対して9.5モル%、好ましくは9モル%、特に8.5モル%、とりわけ8モル%を超えない。言い換えれば、(メタ)アクリル酸無水物の量は1モルの化合物Pあたり最大で1.095モル、好ましくは1.09モル以下、特に1.085モル以下、および特に1.08モル以下である。1モルの化合物Pあたり少なくとも1.005モル、特に少なくとも1.01モル、および特に好ましくは少なくとも1.02モルの(メタ)アクリル酸無水物の使用が好ましい。
【0048】
カルボン酸成分とポリアルコキシ化合物との反応を好ましくは0〜150℃の範囲、特に20〜130℃の範囲、およびより好ましくは50〜100℃の範囲の温度で行う。反応の間に優勢な圧力は、反応の成功にはあまり重要ではなく、且つ一般に800mbar〜2barの範囲であり、且つしばしば大気圧である。該反応を不活性ガス雰囲気中で実施するのが好ましい。
【0049】
カルボン酸成分とポリアルコキシ化合物との反応を、好ましくは用いられた化合物Pの転化率が少なくとも80%、特に少なくとも90%、およびより好ましくは少なくとも95%になるまで実施する。かかる転化率に到達するために必要な反応時間は、一般に5時間を超えず、且つ、しばしば4時間未満である。該転化率を、好ましくは強酸、例えばトリフルオロ酢酸の存在下で、反応混合物の1H NMR分光法によってモニターできる。
【0050】
カルボン酸成分とポリアルコキシ化合物との反応を、塊状で、即ち溶剤の添加なく、あるいは不活性溶剤あるいは希釈液中で実施できる。不活性溶剤は一般に非プロトン性化合物である。該不活性溶剤はハロゲン化されていない、あるいはハロゲン化された芳香族炭化水素、例えばトルエン、o−キシレン、p−キシレン、クメン、クロロベンゼン、エチルベンゼン、アルキル芳香族の工業用混合物、および脂肪族および脂環式の炭化水素、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、工業用脂肪族混合物、およびケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、およびエーテル、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、および上述の溶剤の混合物、例えばトルエン/ヘキサンなどを含む。溶剤を用いないで、あるいは非常に少量の溶剤、一般に成分に対して10質量%未満のみを用いて、言い換えれば塊状で作業するのが好ましい。
【0051】
従って反応混合物は、好ましくは5質量%未満の溶剤、例えば水あるいは有機溶剤を含む。
【0052】
カルボン酸成分とポリアルコキシ化合物との反応を0.2質量%未満および特に1000ppm未満の水(Karl−Fischer滴定によって測定)を含む反応媒体中で実施するのが有利であることが証明されている。用語"反応媒体"は、作用物質AおよびPと塩基との、および用いられた任意の溶剤および禁止剤との混合物を示す。水分を含む成分材料の場合、反応の前に例えば蒸留によって、且つ特に好ましくは水と低沸点共沸混合物を形成する有機溶剤の添加を用いる蒸留によって、水を除去するのが適切であることが判明している。この種の溶剤の例は、上述の芳香族溶剤、例えばトルエン、o−キシレン、p−キシレン、クメン、ベンゼン、クロロベンゼン、エチルベンゼン、および工業用芳香族混合物、および脂肪族および脂環式溶剤、例えばヘキサン、ヘプタンおよびシクロヘキサン、および工業用脂肪族混合物および上述の溶剤の混合物である。
【0053】
反応のために典型的な方法は、ポリアルコキシ化合物およびカルボン酸成分および塩基および適宜に溶剤、禁止剤および還元剤を含む反応混合物を適した反応容器内で上に示した温度で反応させることである。ポリアルコキシ化合物および塩基および適宜、溶剤を初充填物として導入し、そしてカルボン酸成分をそれに添加するのが好ましい。
【0054】
成分が水を含んでいる場合、その水を好ましくはカルボン酸成分の添加前に除去する。
【0055】
ポリアルコキシ化合物とカルボン酸成分との反応は、重合可能なカルボン酸エステルを含む混合物を、且つ用いたカルボン酸成分の量に適宜依存して、同様に重合可能なカルボン酸成分を含む混合物をもたらす。
【0056】
コポリマーおよびその使用
得られるラジカル重合可能なカルボン酸エステルを好ましくはホモポリマーあるいはコポリマーの製造に使用する。
【0057】
特に、ラジカル重合可能なカルボン酸エステルをエステル化生成混合物から予め単離しないで使用することが可能である。
【0058】
コポリマーの場合、必要な他のモノマーを生成混合物に単に添加することが可能である。
【0059】
好ましいコポリマーを、
10質量%〜99.9質量%、より好ましくは50質量%〜99質量%、および非常に好ましくは70質量%〜97質量%のラジカル重合可能なカルボン酸エステル(A)、
0.1質量%〜50質量%、より好ましくは1質量%〜30質量%、および非常に好ましくは2質量%〜15質量%のアクリル酸あるいはメタクリル酸(B)、および
0質量%〜30質量%、より好ましくは0質量%〜20質量%、および非常に好ましくは0質量%〜10質量%のさらなるモノマー(C)
から合成する。
【0060】
モノマー(C)の例は、
C1 3〜8個のC原子を有するモノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸、例えばクロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、およびイタコン酸、
C2 モノエチレン性不飽和モノ−およびジ−C3〜C8−カルボン酸と、特にアクリル酸およびメタクリル酸と、C1〜C10−アルカノールあるいはC3〜C10−シクロアルカノール、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートとのアルキルエステル、および相応するメタクリル酸エステル、
C3 モノエチレン性不飽和モノ−およびジ−C3〜C8−カルボン酸、特にアクリル酸およびメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、および4−ヒドロキシブチルメタクリレート、
C4 モノエチレン性不飽和ニトリル、例えばアクリロニトリル、
C5 ビニル芳香族モノマー、例えばスチレンおよびビニルトルエン、
C6 モノエチレン性不飽和スルホン酸およびホスホン酸およびその塩、特にそれらのアルカリ金属塩、例えばビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリロイルオキシエタンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホン酸、アリルホスホン酸、2−アクリルオキシエタンホスホン酸、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸、および
C7 アミノを有するモノマーおよびそれらのプロトン付加生成物およびそれらの第4級化生成物、例えば2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルメタクリレート、2−(N,N,N−トリメチルアンモニオ)エチルアクリレート、2−(N,N,N−トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート、3−(N,N,N−トリメチルアンモニオ)プロピルアクリレート、および2−(N,N,N−トリメチルアンモニオ)プロピルメタクリレート、それらの塩化物、硫酸塩、およびメソ硫酸塩の形態
である。
【0061】
好ましいモノマーCは、モノマーC1、C3およびC6である。重合されるモノマーの総量の割合としてのモノエチレン性不飽和モノマーの率は、一般に30質量%を超えず、且つ特に10質量%を超えない。1つの特に好ましい実施態様においては、重合されるモノマーCの総量に対してゼロあるいは1質量%未満を、重合されるモノマーの総量に対して用いる。
【0062】
さらには、ポリマーの分子量を増加するために、例えば2、3あるいは4つの重合可能な二重結合を有する少量のポリエチレン性不飽和モノマー(架橋剤)の存在下で共重合を実施するのが有用であり得る。それらの例はエチレン性不飽和カルボン酸のジエステルおよびトリエステル、特に3つあるいはそれより多いOH基を有するジオールあるいはポリオールのビス−およびトリスアクリレートであり、例はエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコールあるいはポリエチレングリコールのビスアクリレートおよびビスメタクリレートである。この種の架橋剤を、所望であれば、重合されるモノマーの総量に対して一般に0.01質量%〜5質量%の量で使用する。0.01質量%未満の使用が好ましく、且つ特に架橋剤モノマーを使用しないのが好ましい。
【0063】
カルボン酸エステルとアクリル酸および/またはメタクリル酸、および適宜、さらなるモノマーとの共重合を、典型的には遊離基を形成し且つ開始剤として示される化合物の存在下で行う。この種の化合物を典型的には、重合されるモノマーに対して30質量%まで、好ましくは0.05質量%〜15質量%、および特に0.2質量%〜8質量%の量で使用する。2つあるいはそれより多くの成分で構成される開始剤の場合(例えばレドックス開始剤系の場合の開始剤系)、上記の質量の数値は成分の合計に関する。
【0064】
適した開始剤の例は、有機過酸化物およびヒドロペルオキシド、追加的にペルオキソジスルフェート、ペルカーボネート、過酸化エステル、過酸化水素、およびアゾ化合物を含む。開始剤の例は、過酸化水素、ジシクロヘキシルペルオキシジカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、ジアミルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(o−トリル)ペルオキシド、スクシニルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジ−tert−ブチルヒドロペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド、ブチルペルアセテート、tert−ブチルペルマレエート、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペルピバレート、tert−ブチルペルオクトエート、tert−ブチルペルネオデカノエート、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルネオデカノエート、tert−アミルペルピバレート、tert−ブチルペルピバレート、tert−ブチル ペルベンゾエート、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、およびジイソプロピルペルオキシジカルバメート;追加的にリチウム、ナトリウム、カリウム、およびアンモニウムペルオキソジスルフェート、アゾ開始剤2,2’−アゾビス−イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチロアミジン)ジヒドロクロリド、および2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド、および以下で明らかにするレドックス開始剤系である。
【0065】
レドックス開始剤系は、レドックス共開始剤、例えば還元作用を有する硫黄化合物、例えばアルカリ金属あるいはアンモニウム化合物の亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、ジチオナイトおよびテトラチオネートと組み合わせた少なくとも1つの過酸化物化合物を含む。従って、アルカリ金属亜硫酸水素塩あるいはアンモニウム亜硫酸水素塩を有するペルオキソジスルフェートの組み合わせを使用することが可能であり、かかる組み合わせの例はペルオキソ二硫酸アンモニウムおよび二硫酸アンモニウムである。過酸化物化合物の量はレドックス共開始剤に対して30:1〜0.05:1である。
【0066】
該開始剤を、単独あるいは互いの混合物、例えば過酸化水素とペルオキソ二硫酸ナトリウムとの混合物で用いることができる。
【0067】
該開始剤は水に可溶か、あるいは水に不溶またはわずかに可溶かのいずれかであってよい。水性媒体中での重合のためには、水溶性開始剤の使用が好ましい。即ち、該重合に典型的に用いられる濃度の開始剤は水性重合媒体中で可溶である。かかる開始剤は、ペルオキソジスルフェート、イオン性基を有するアゾ開始剤、6つまでのC原子を有する有機ヒドロペルオキシド、アセトンヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンヒドロペルオキシドおよび過酸化水素、および上述のレドックス開始剤も含む。
【0068】
開始剤との、および/またはレドックス開始剤系との組み合わせにおいて、さらに遷移金属触媒、例えば鉄、コバルト、ニッケル、銅、バナジウムおよびマンガンの塩を使用することが可能である。適した塩の例は、硫酸鉄(II)、コバルト(II)塩化物、硫酸ニッケル(II)、あるいは銅(I)塩化物を含む。モノマーに対して、還元性の遷移金属塩を0.1ppm〜1000ppmの濃度で使用する。従って、過酸化水素と鉄(II)の塩との、例えば0.5%〜30%の過酸化水素と0.1〜500ppmのモール塩との組み合わせの使用が可能である。
【0069】
有機溶剤中での共重合の場合も同様に、上述の開始剤との組み合わせでレドックス共開始剤および/または遷移金属触媒、例えばベンゾイン、ジメチルアニリン、アスコルビン酸、および重金属、例えば銅、コバルト、鉄、マンガン、ニッケルおよびクロムの有機溶剤可溶錯体を追加して使用することが可能である。レドックス共開始剤および/または遷移金属触媒の典型的に使用される量は、用いられるモノマーの量に対しておよそ0.1〜1000ppmである。
【0070】
本発明によって得られるポリマーの平均分子量を測るために、本発明の共重合を調節剤の存在下で実施することが時として有用である。この目的のために、典型的な調節剤、特にSH基を含む有機化合物、特にSH基を含む水溶性化合物、例えば2−メルカプトエタノール、2−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロピオン酸、システイン、N−アセチルシステイン、およびリン(III)あるいはリン(I)化合物、例えばアルカリ金属の次亜リン酸塩あるいはアルカリ土類金属の次亜リン酸塩、例えばナトリウム次亜リン酸塩、およびまた亜硫酸水素塩、例えばナトリウム亜硫酸水素塩を使用することが可能である。該重合調節剤を一般にモノマーに対して0.05質量%〜10質量%、特に0.1質量%〜2質量%の量で使用する。好ましい調整剤は上述のSHを有する化合物、特に水溶性のSHを有する化合物、例えば2−メルカプトエタノール、2−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロピオン酸、システインおよびN−アセチルシステインである。それらの化合物について、それらをモノマーに対して0.05質量%〜2質量%、特に0.1質量%〜1質量%の量で使用することが特に適切であることが証明されている。上述のリン(III)およびリン(I)化合物および亜硫酸水素塩を、典型的には重合されるモノマーに対して0.5質量%〜10質量%、例えば特に1質量%〜8質量%多い量で使用する。適切な溶剤の選択によって、平均分子量に作用することも可能である。例えば、ベンジルあるいはアリルのH原子を有する希釈液の存在下での重合は、連鎖移動の結果として平均分子量の減少をもたらす。
【0071】
該共重合を溶液重合、沈殿重合、懸濁重合、あるいは塊状重合を含む、従来の重合方法に従って行ってよい。好ましいのは溶液重合法、即ち、溶剤あるいは希釈液中での重合である。
【0072】
適した溶剤あるいは希釈液は非プロトン性溶剤、例えば上述の芳香族、例えばトルエン、o−キシレン、p−キシレン、クメン、クロロベンゼン、エチルベンゼン、アルキル芳香族の工業用混合物、脂肪族および脂環式のもの、例えばシクロヘキサンおよび工業用脂肪族混合物、ケトン、例えばアセトン、シクロヘキサノン、およびメチルエチルケトン、エーテル例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、およびtert−ブチルメチルエーテル、および脂肪族C1〜C4カルボン酸のC1〜C4アルキルエステル、例えば、メチルアセテートおよびエチルアセテートだけでなく、プロトン性溶媒、例えばグリコールおよびグリコール誘導体、ポリアルキレングリコールおよびそれらの誘導体、C1〜C4アルカノール、例えばn−プロパノール、n−ブタノール、イソプロパノール、エタノールあるいはメタノール、および水および水とC1〜C4アルカノールとの混合物、例えばイソプロパノール/水混合物も含む。該共重合工程を好ましくは水中あるいは水と60質量%までの溶剤あるいは希釈液としてのC1〜C4アルカノールあるいはグリコールとの混合物中で行う。特に好ましくは水を唯一の溶剤として使用する。
【0073】
該共重合工程を好ましくは実質的にあるいは完全に酸素不在で、好ましくは不活性ガス流中、例えば窒素流中で実施する。
【0074】
該共重合工程を重合手段のために典型的な装置内で実施できる。かかる装置は攪拌タンク、攪拌タンク翼列、オートクレーブ、管型反応器および配合機を含む。
【0075】
該共重合工程を典型的には0〜300℃の範囲、好ましくは40〜120℃の範囲の温度で行う。重合の継続時間は典型的には0.5時間〜15時間の範囲、および特に2〜6時間の範囲である。重合の間に優勢な圧力は、重合の結果にはあまり重要ではなく、且つ一般に800mbar〜2barの範囲であり、且つしばしば大気圧である。揮発性溶剤あるいは揮発性モノマーを使用する場合、該圧力はより高くてもよい。
【0076】
重合条件の選択に依存して、得られるコポリマーは一般に1000〜2000000の範囲の質量平均分子量(Mw)を有している。ポリマーの使用を考慮して、好ましいのは5000〜100000の質量平均分子量を有するものである。質量平均分子量Mwを、実施例において明瞭化されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー法によって通常のやり方で測定できる。本発明によって得られるコポリマーのK値は、以下に示す方法によって測定されるように、好ましくは20〜45の範囲である。
【0077】
該工程を水中での溶液重合として実施する場合、多くの用途に対して水の除去は不要である。別の方法では、本発明によって得られるポリマーを従来の手段、例えば重合混合物の噴霧乾燥によって単離できる。重合を水蒸気揮発性溶剤あるいは溶剤混合物中で実施する場合、水蒸気の導入によって該溶剤を除去し、コポリマーの水溶液あるいは分散液を与えることができる。
【0078】
得られるポリマーおよびコポリマーは均一な分子量分布を有している。質量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnをゲル浸透クロマトグラフィー法によって測定する。
【0079】
使用
該コポリマーは好ましくは水性分散液あるいは水溶液の形態で得られる。固体含有率は好ましくは10質量%〜80質量%、特に30質量%〜65質量%である。
【0080】
該コポリマーは特に(メタ)アクリル酸と(ポリ−C2〜C4アルキレングリコール)−モノ(メタ)アクリル酸とのコポリマー、好ましくはメタクリル酸とポリエチレングリコールモノ(C1〜C10アルキル)モノメタクリレートとのコポリマーがセメント性配合物、例えばコンクリートあるいはモルタル用の混和物として抜群に適しており、且つ特にそれらの可塑化作用に関する優れた特性について顕著である。本発明は従ってさらに本発明の方法によって得られるコポリマー、および特にポリエチレングリコールモノ(C1〜C10アルキル)モノメタクリレートとメタクリル酸とのコポリマーを提供し、且つセメント性配合物、特にコンクリート可塑剤としてのそれらの使用も提供する。
【0081】
セメントとは、例えばポルトランドセメント、高アルミナセメントあるいは混合セメント、例えばポゾランセメント、スラグセメントあるいは他のタイプを意味する。本発明のコポリマーは特にセメント成分としてポルトランドセメントを大部分、および特にセメント成分に対して少なくとも80質量%含むセメント混合物に適している。この目的のために、本発明のコポリマーを一般に、セメント配合物中のセメントの総質量に対して0.01質量%〜10質量%、好ましくは0.05質量%〜3質量%の量で使用する。
【0082】
該コポリマーを固体あるいは水溶液の形態で既製セメント性配合物に添加できる。固体の形態で存在しているコポリマーをセメントと配合し、そしてかかる配合物を使用して既製セメント性配合物を製造することも可能である。該コポリマーを好ましくは液体形態、即ち溶解、乳化あるいは懸濁させた形態で、例えば重合溶液の形態で、配合物を製造するとき、即ち混合の間に使用する。
【0083】
該コポリマーを公知のコンクリート可塑剤および/またはナフタレン/ホルムアルデヒド縮合スルホネート、メラミン/ホルムアルデヒド縮合スルホネート、フェノールスルホン酸/ホルムアルデヒド縮合物、リグノスルホネート、およびグルコネートに基づくコンクリート流動化剤と組み合わせても使用できる。さらに、それらをセルロース、アルキルセルロースまたは例えばヒドロキシアルキルセルロースと共に、あるいはデンプンあるいはデンプン誘導体と共に使用もできる。それらを高分子量ポリエチレンオキシド(100000〜8000000の範囲の質量平均分子量Mw)と組み合わせても使用できる。
【0084】
セメント性配合物をさらに典型的な添加剤、例えばAE剤、膨張剤、撥水剤、硬化遅延剤、硬化促進剤、不凍剤、防水剤、顔料、腐食防止剤、可塑剤、グラウチング補助剤、安定剤あるいは中空微小球と混合してもよい。かかる添加剤は例えばEN934に記載されている。
【0085】
原則として、該コポリマーを膜形成ポリマーと一緒にも使用できる。それらによって、ガラス転移温度が≦65℃、好ましくは≦50℃、より好ましくは≦25℃、および非常に好ましくは≦0℃であるポリマーを意味する。Foxによって仮定されたホモポリマーのガラス転移温度とコポリマーのガラス転移温度との間の関係に基づいて(T.G.Fox, Bull.Am.Phys.Soc.(Ser.II)1,1956,123)、当業者は適切なポリマーを選択できる。適切なポリマーの例は、この目的のために市販のスチレンアクリレートおよびスチレンブタジエンポリマーである(例えば、D.Distler(編集者)内のH.Lutz,"Waessrige Polymerdispersionen" Wiley−VCH, Weinheim 1999, sections 10.3および10.4, pp.230−252を参照)。
【0086】
さらには、時としてコポリマーを消泡剤と共に使用することが有利である。かかる使用は、既製鉱物建築材料製造の間にコンクリート中に導入される空気孔の形態での過剰な空気を防止する。なぜなら、かかる空気は固化した鉱物建築材料の強度を低下させ得るからである。適した消泡剤は特にポリアルキレンオキシドベースの消泡剤、トリアルキスホスフェート、例えばトリブチルホスフェート、およびシリコーンベースの消泡剤を含む。同様に適しているのは、10〜20個の炭素原子を有するアルコールのエトキシ化生成物およびプロポキシ化生成物である。同様に適しているのは、アルキレングリコールおよび/またはポリアルキレングリコールのジエステル、およびさらなる典型的な消泡剤である。消泡剤を典型的にはポリマーに対して0.05質量%〜10質量%、および好ましくは0.5質量%〜5質量%の量で使用する。
【0087】
該消泡剤を様々な手段でポリマーと合わせることができる。例えば、ポリマーが水溶液の形態であれば、消泡剤を固体あるいは溶解した形態でポリマー溶液に添加できる。消泡剤が水性ポリマー溶液中で可溶でなければ、その場合、乳化剤あるいは保護コロイドを添加してそれを安定化できる。
【0088】
コポリマーが例えば噴霧乾燥あるいは流動床噴霧造粒操作から得られたままの固体の形態であれば、その場合、噴霧乾燥あるいは噴霧造粒操作の間に、消泡剤を固体として混合、あるいはポリマーと共に配合できる。
【0089】
以下の実施例は本発明を説明することを意図している。
【0090】
分析
a) K値の測定
コポリマーのナトリウム塩水溶液のK値をH.Fikentscher, Cellulose−Chemie, volume 13, 58−64および71−74(1932)によって、pH7の水溶液中、温度25℃、および1質量%のコポリマーのナトリウム塩のポリマー濃度で測定した。
【0091】
b) 固体含有率の測定
該測定をSartorius MA30分析器によって行う。定義された量の試料(およそ0.5〜1g)をこの目的のためにアルミニウムボート内に計量投入し、そして90℃で一定の質量に乾燥させる。固体含有率(FG)のパーセンテージは以下のように計算される:FG=最終質量×100/初期の質量[質量%]。
【0092】
c) 分子量測定
数平均および質量平均分子量を、水性溶離剤を使用したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法によって測定した。
【0093】
該GPCをAgilent(1100シリーズ)製の装置系を使用して実施した。該系は
ガス化装置 モデルG1322A
定組成ポンプ モデルG1310A
オートサンプラー モデルG1313A
カラムオーブン モデルG1316A
制御モジュール モデルG1323B
示差屈折計 モデルG1362A
を含む。
【0094】
水中の溶液のポリマーの場合に使用された溶離剤は蒸留水中で0.08モル/lのトリス緩衝液(pH=7.0)+NaClおよびHClからの0.15モル/lの塩化物イオンである。分離を分離カラムの組み合わせ内で行った。使用されたカラムは、GMPWXL分離材料を有するTosoHAAS製のカラム789および790(それぞれ8×30mm)である。カラム温度23℃での流量は0.8ml/分であった。
【0095】
194〜1700000[モル/g]の分子量Mを有する、その会社のPPSからのポリエチレンオキシド標準を使用してキャリブレーションを行う。
【0096】
d) NMR分析(転化率の測定)
ポリアルキレングリコールの転化率を測定するために、反応混合物の試料を種々の時間で採取し、そしてわずかなトリフルオロ酢酸と混合した。該試料を1H NMR分光法によって20℃で分析し、使用された参照信号はポリアルキレングリコールの末端基の信号であり(ポリアルキレングリコールメチルエーテルの場合は3.4ppmでの信号)、それは作用物質および生成品に一致する。転化率測定のために、反応生成物に特徴的な信号、一般にエステル基の酸素上のメチレンプロトンの信号(一般に約4.3ppm)の積分を測定し、且つ末端基の積分に関して設定した。
【0097】
製造実施例
比較例
アンカー攪拌機、温度計、ガス導入ライン、還流凝縮器、および滴下漏斗を有する1lのガラス製反応器に、450gのメチルポリエチレングリコール(M=5000g/mol)、90mgの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、9mgの4−ヒドロキシ−N,N−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、および1.59gの炭酸ナトリウム(無水)を充填した。該混合物を、空気を導入して90℃に加熱した。その後、17.36gのメタクリル酸無水物を添加し、そして該反応混合物を90℃で2時間反応させた。次に、1H NMR分光法によって転化率を検査し(100%)、そして該バッチを256gの水で希釈し、そして室温に冷却した。重合をエステル化の直後に実施した。
【0098】
重合
アンカー攪拌機、温度計、窒素導入ライン、還流凝縮器、および複数の供給管を有する1lのガラス製反応器に、290gの水を充填し、そしてこの初充填物を60℃に加熱した。その後、窒素を導入して攪拌しながら、60℃の内部温度で、供給流1を4時間にわたって、且つ供給流2を4.5時間にわたって、同時に開始して連続的に添加した。供給終了後、反応器の内容物を1時間、重合させ続けることによって共重合を完了し、その後、それらを冷却し且つ25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液で中和した。
【0099】
供給流1: 250gのエステル溶液と4.57gのメタクリル酸および0.41gのメルカプトエタノールとの混合物。
【0100】
供給流2: 1.08gのペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液(7質量%)、14mgの水。
【0101】
得られる溶液は29.6質量%の固体含有率およびpH6.6を有していた。該ポリマーのK値は94.8であり、数平均分子量Mnは19700であり、且つ質量平均分子量Mwは760000ダルトンであった(均一性の測定としてのMw/Mnの比:38.6)。
【0102】
本発明の実施例
アンカー攪拌機、温度計、ガス導入ライン、還流凝縮器、および滴下漏斗を有する1lのガラス製反応器に、565gのメチルポリエチレングリコール(M=5000g/mol)、110mgの2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、11mgの4−ヒドロキシ−N,N−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、および1.99gの炭酸ナトリウム(無水)を充填した。該混合物を、空気を導入して90℃に加熱した。その後、17.36gのメタクリル酸無水物を添加し、そして該反応混合物を90℃で2時間反応させた。次に、1H NMR分光法によって転化率を検査し(100%)、そして該バッチを還元剤としての2.26gの次亜リン酸と共に256gの水で希釈し、そして室温に冷却した。重合をエステル化の直後に実施した。
【0103】
重合
アンカー攪拌機、温度計、窒素導入ライン、還流凝縮器、および複数の供給管を有する1lのガラス製反応器に、280gの水を充填し、そしてこの初充填物を60℃に加熱した。その後、窒素を導入して攪拌しながら、60℃の内部温度で、供給流1を4時間にわたって、且つ供給流2を4.5時間にわたって、同時に開始して連続的に添加した。供給終了後、反応器の内容物を1時間、重合させ続けることによって共重合を完了し、その後、それらを冷却し且つ25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液で中和した。
【0104】
供給流1: 241gのエステル溶液と4.44gのメタクリル酸および0.49gのメルカプトエタノールとの混合物。
【0105】
供給流2: 1.05gのペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液(7質量%)、14mgの水。
【0106】
得られる溶液は29.4質量%の固体含有率およびpH6.7を有していた。該ポリマーのK値は52.4であり、数平均分子量Mnは17300であり、且つ質量平均分子量Mwは164000ダルトンであった(均一性の測定としてのMw/Mnの比:9.5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和カルボン酸、カルボン酸無水物あるいはカルボニルハライド(一括してカルボン酸成分として示す)と、少なくとも60質量%のC2〜C4−アルコキシ基から構成されるヒドロキシル化合物(且つ一言でポリアルコキシ化合物として示す)とを反応させることによるラジカル重合可能なカルボン酸エステルの製造方法において、該反応を
・ 重合禁止剤および
・ 還元剤
の存在下で行うことを含む方法。
【請求項2】
カルボン酸成分がマレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸あるいはそれらの無水物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリアルコキシ化合物が少なくとも80質量%のエトキシ基、プロポキシ基あるいはそれらの組み合わせから構成され、且つ1つあるいは2つのヒドロキシル基(好ましくは1つのヒドロキシル基)を有することを特徴とする、請求項1あるいは2に記載の方法。
【請求項4】
ポリアルコキシ化合物が数平均分子量400〜10000を有するポリエチレングリコールモノ(C1〜C10アルキル)エーテルであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
重合禁止剤が、それらの活性のために、即ち遊離基を形成するために酸素を必要とする重合禁止剤から選択されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
還元剤がリンあるいは硫黄化合物、特に次亜リン酸あるいはその塩であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応を1容積%〜15容積%の酸素濃度を有するガス混合物の存在下で行うことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
反応を塩基の存在下で行うことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
反応混合物が5質量%未満の水を含むことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
反応を本体で、即ち5質量%未満の水および/または有機溶剤の存在下で行うことを特徴とする、請求項1から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか一項に記載のラジカル重合可能なカルボン酸エステルをモノマーとして使用することを含む、ホモポリマーあるいはコポリマーの製造方法。
【請求項12】
請求項1から10までのいずれか一項に記載のラジカル重合可能なカルボン酸エステルを、エステル化生成混合物から予め単離せずに使用することを含み、コポリマーの場合に使用されるモノマーを前記の反応混合物に添加することを含む、ホモポリマーあるいはコポリマーの製造方法。
【請求項13】
コポリマーを
・ 10質量%〜99.9質量%の請求項1から9までのいずれか一項に記載のラジカル重合可能なカルボン酸エステル、
・ 0.1質量%〜50質量%のアクリル酸あるいはメタクリル酸、および
・ 0質量%〜30質量%のさらなるモノマー
から合成して製造することを特徴とする、請求項11あるいは12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
請求項11から13までのいずれか一項に記載の方法によって得られるコポリマー。
【請求項15】
請求項14に記載のコポリマーをセメント性配合物における可塑化添加剤として用いる使用。

【公表番号】特表2010−511760(P2010−511760A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539718(P2009−539718)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063127
【国際公開番号】WO2008/068213
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】