説明

アルコキシ置換フタロシアニンの製造方法

本発明は、下記式(I):


(式中、
Rは、置換又は非置換アルキル又はシクロアルキルであり、
Mは、2価の金属原子、金属酸化物(metaloxy)、又は、3価若しくは4価の置換金属原子である。)のアルコキシ置換された金属含有フタロシアニンを調製する方法であって、
下記式(II):


のフタロニトリルを水混和性溶媒中において金属塩および塩基の存在下で反応させることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシ置換された金属含有フタロシアニンを調製する方法、および本方法で得ることができるフタロシアニンに関する。
【背景技術】
【0002】
アルコキシ置換フタロシアニンは、光データキャリアの情報層に使用される重要な吸光性化合物である。アルコキシ置換フタロシアニンの調製は、例えば、欧州特許出願公開第703 280号明細書に記載されており、その明細書中では、その調製は、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、又はニトロキシレン中において、金属塩、ルイス酸および尿素の存在下でアルコキシ置換ジニトリルを反応させることによって行われる。しかし、この調製方法には、溶液を蒸発させることによって単離を行わなければならず、残存する残留物の取り扱いが困難であるという欠点がある。
【特許文献1】欧州特許出願公開第703 280号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上記のフタロシアニンを調製するための改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明は、下記式(I):
【0005】
【化1】

(式中、
Rは、置換又は非置換アルキル又はシクロアルキルであり、
Mは、2価の金属原子、金属酸化物(metaloxy)、又は、3価若しくは4価の置換金属原子である。)
の金属含有フタロシアニンを調製する方法であって、下記式(II):
【0006】
【化2】

のフタロニトリルを水混和性溶媒中において金属塩および塩基の存在下で反応させることを特徴とする方法を提供する。
【0007】
本発明の方法の好ましい実施形態では、上記アルキル基又はシクロアルキル基は、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ニトロ、シアノ、CO−NH、アルコキシ、アルコキシカルボニル、モルホリノ、ピペリジノ、ピロリジノ、ピロリドノ、トリアルキルシリル、トリアルキルシロキシ、又は、置換若しくは非置換フェニルなどの基をさらに有してもよい。また、上記アルキル基は、シクロアルキル基で置換されていてもよく、上記シクロアルキル基はアルキル基で置換されていてもよい。アルキル基又はシクロアルキル基は、飽和、不飽和、直鎖又は分岐鎖であってよく、部分的にハロゲン化若しくは過ハロゲン化されたものとすることができるか、又は、エトキシル化、プロポキシル化、若しくはシリル化されたものとすることができる。
【0008】
「アルキル」置換基は、好ましくは、C〜C16アルキル、特に、C〜C12アルキル、特に好ましくはC〜Cアルキルであり、これらはそれぞれ、塩素、臭素、又はフッ素などのハロゲン、ヒドロキシ、シアノ、および/又は、C〜Cアルコキシで置換されていてもよい。
【0009】
「シクロアルキル」置換基は、好ましくは、C〜C12シクロアルキル、特に、C〜Cシクロアルキルであり、これらはそれぞれ、塩素、臭素、又はフッ素などのハロゲン、ヒドロキシ、シアノ、および/又は、C〜Cアルコキシで置換されていてもよい。
【0010】
特に好ましい実施形態では、
R基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、3−(2,4−ジメチル)ペンチル、tert−アミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、エチルヘキシル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、エトキシエチル、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピル、メトキシエトキシプロピル、メトキシエトキシエチル、3−ジメチルアミノプロピル、3−ジエチルアミノプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニルシクロヘキシル、又はシクロオクチル、特に、3−(2,4−ジメチル)ペンチルである。
【0011】
Mは、Cu、Zn、Fe、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Mn、Mg、Be、Ca、Ba、Cd、Hg、Sn、Co、Pb、VO、MnO、TiO、FeCl、AlCl、GaCl、InCl、AlBr、GaBr、InBr、AlI、GaI、InI、AlF、GaF、InF、SiCl、GeCl、又はSnCl、特に、Coであることが好ましい。
【0012】
下記式(IIa)のフタロニトリルを使用することが特に好ましい。
【0013】
【化3】

【0014】
下記式(Ia)に対応する式(I)のフタロシアニンを調製することも同様に好ましい。
【0015】
【化4】

(式中、
Mは、Coであり、且つ
Rは、上記の定義通りであり、特に、2−エチルヘキシル、又は2,4−ジメチル−3−ペンチルである。)
【0016】
好適な溶媒は、例えば、DMF、NMP、DMSO、ε−カプロラクタム、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、又はこれらの混合物である。
【0017】
塩基としては、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン(DBN)、1,5−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、アンモニア、モルホリン、ピペリジン、ピリジン、ピコリン、又は、C〜C12アルコキシド、およびこれらの混合物、を使用することが好ましい。
【0018】
好ましい金属塩は、ハロゲン化物(例えば、塩化物又は臭化物など)、および、オキシハライド、酢酸塩、アセチルアセトナート、酸化物、硫酸塩、炭酸塩、および水酸化物、および、これらの混合物である。
【0019】
難溶性の金属塩又は金属酸化物を、例えば、氷酢酸によって可溶性の酢酸塩にすることができる。
【0020】
所望する場合は、モリブデン酸アンモニウム又はモリブデン酸アンモニウム四水和物を一緒に使用することができる。
【0021】
反応は、好ましくは、120℃〜250℃、特に130℃〜190℃の温度で行われる。
【0022】
反応は、好ましくは、不活性ガス雰囲気(例えば、N又はアルゴン)中で行われる。
【0023】
それに続くIの単離は、特に、水を加え、その結果、濾取できる染料を沈殿させることによって行われる。
【0024】
フタロシアニンは、好ましくは、式(I)の異性体混合物として得られる。異性体は、好ましくは、下記式(Iw)、(Ix)、(Iy)、および(Iz)のものに対応する。
【0025】
【化5】

(式中、RおよびMは、上記の定義通りである。)
【0026】
本発明の方法は、特に好ましくは、式(Iy)と(Iz)の異性体を合わせた割合が、式(I)の異性体の合計の20重量%以上である異性体混合物の製造に使用される。
【0027】
本発明は、更に、式(I)の異性体の合計を基準にして、式(Iy)および(Iz)の2つの異性体を少なくとも20重量%含む異性体混合物を提供し、式中、MおよびRは上記の定義通りであり、MおよびRは、好ましくは式(Ia)に関して記載されている意味を有する。
【0028】
本発明の異性体混合物を光データキャリアの情報層中の吸光性化合物として使用することができる。その使用、および、またかかる光データキャリア自体も本発明の主題である。
【0029】
本発明の異性体混合物は、好ましくは、特に、IRレーザで情報を読み書きできる光データキャリアの製造に好適である。
【0030】
従って、本発明は、また、好ましくは透明であり、所望する場合は1つ以上の反射層が予めコーティングされている基板を含む光データキャリアにおいて、基板の表面には光書き込み可能な情報層、所望する場合は1つ以上の反射層、および、所望する場合は保護層又は別の基板又は被覆層が設けられており、赤外線、好ましくはレーザ光、特に好ましくは、750〜800nm、特に770〜790nmの範囲の波長を有する光で読み書きすることができ、情報層が、吸光性化合物と、所望する場合はバインダとを含む光データキャリアであって、本発明による少なくとも1のフタロシアニン異性体混合物を吸光性化合物として使用することを特徴とする光データキャリアも提供する。
【0031】
本発明は、更に、光データ記録装置の光書き込み可能な情報層中の吸光性化合物として、本発明によるフタロシアニンを使用することに関する。
【0032】
しかし、本発明の異性体混合物は、他のフタロシアニン、例えば、中心金属に配位した他の配位子を有するものなどの調製にも使用できる。
【0033】
[実施例]
実施例1
3−(2−エチルヘキシルオキシ)フタロニトリル187g、および、水酸化コバルト(II)29.8gを、室温(RT)で、NMP1lに加える。次いで、氷酢酸38gを加え、混合物を60℃で10分間攪拌する。次いで、DBN130mlを加え、混合物を迅速に180℃に加熱し、180℃で3時間攪拌する。120℃にゆっくり冷却した後、水110mlを加え、混合物を100℃で30分間攪拌する。次いで、これを70℃に冷却し、メタノール720mlを加える。これを一晩、室温までゆっくり冷却し、水260mlを120分間にわたって一滴ずつゆっくり加える。pHは11.5であり、HCl水溶液でpH7.5にする。更に10分間攪拌した後、混合物を吸引濾過し、約100mlずつ、合計500mlのメタノールでペーストを洗浄し、減圧下、30℃で乾燥させる。
【0034】
収量は、123.4g(理論収量の約62%);次式のフタロシアニン(複数異性体)のλmaxは、702nm(NMP)である。
【0035】
【化6A】

【化6B】

ここで、上記異性体は、次の重量分布を有する。すなわち、生成するフタロシアニンの総量を基準にして、y+z=25重量%、w+x=75重量%である。
【0036】
実施例2
3−(2,4−ジメチル−3−ペントキシ)フタロニトリル176.8g、および、水酸化コバルト(II)29.8gを、60℃でε−カプロラクタム1120gと一緒に溶融させる。溶融物が均質になったら、氷酢酸38gを加え、混合物を60℃で更に10分間攪拌する。次いで、DBU149.3mlを加え、混合物を迅速に180℃に加熱し、180℃で4時間攪拌する。130℃までゆっくり冷却した後、水110mlを加え、混合物を100℃で30分間攪拌する。次いで、これを70℃に冷却し、メタノール720mlを加える。これを一晩、室温までゆっくり冷却し、水260mlを120分間にわたって一滴ずつゆっくり加える。pHは11.5であり、HCl水溶液でpH7.5にする。更に10分間攪拌した後、混合物を吸引濾過し、約100mlずつ、合計500mlのメタノールでペーストを洗浄し、減圧下、30℃で乾燥させる。
【0037】
収量は、116.3g(理論収量の約61%);次式のフタロシアニン(複数異性体)のλmaxは、703nm(NMP)である。
【0038】
【化7】

ここで、上記異性体は、次の重量分布を有する。すなわち、それぞれの場合、生成するフタロシアニンの総量を基準にして、y+z=22重量%、w+x=78重量%である。
【0039】
比較例(欧州特許出願公開第703 280号明細書の実施例1)
3−(2,4−ジメチル−3−ペンチルオキシ)フタロニトリル50g、無水塩化パラジウム(anhydrous palladium chloride)9.1g、尿素24.8g、およびモリブデン酸アンモニウム1gを、ニトロベンゼン200mlに加え、混合物をアルゴン雰囲気中で攪拌しながら160℃に加熱する。続いて、混合物をこの温度で4時間攪拌した後、室温まで冷却し、トルエンで希釈し、濾過助剤を通して濾過する。濾液を100℃/10−1mbarで完全に蒸発させる。残留物をトルエン400mlに溶解し、トルエンを溶離液として使用し、シリカゲル500gを通して濾過する。トルエン相を蒸発により濃縮し、続いて、メタノール1.5lに一滴ずつ加える。沈殿物を濾取し、100mlのメタノールで2回洗浄する。次いで、これを60℃/165mbarで12時間乾燥させる。このようにして、γmaxが702nm(NMP)の青緑色染料32.5g(=理論収量の59%)が得られる。本発明の方法は、同じ出発材料を使用して、実施例1と類似の方式でパラジウムフタロシアニンを調製することが可能であり、技術的な煩雑さがかなり少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、Rは、置換又は非置換アルキル又はシクロアルキルであり、
Mは、2価の金属原子、金属酸化物(metaloxy)、又は、3価若しくは4価の置換金属原子である。)
のアルコキシ置換された金属含有フタロシアニンの製造方法であって、
下記式(II):
【化2】

のフタロニトリルを水混和性溶媒中において金属塩および塩基の存在下で反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
使用する前記溶媒がDMF、NMP、DMSO、カプロラクタム、又はこれら混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Rが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、3−(2,4−ジメチル)ペンチル、tert−アミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、エチルヘキシル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、エトキシエチル、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピル、メトキシエトキシプロピル、メトキシエトキシエチル、3−ジメチルアミノプロピル、3−ジエチルアミノプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニルシクロヘキシル、又はシクロオクチル、特に、3−(2,4−ジメチル)ペンチルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Mが、Cu、Zn、Fe、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Mn、Mg、Be、Ca、Ba、Cd、Hg、Sn、Co、Pb、VO、MnO、TiO、FeCl、AlCl、GaCl、InCl、AlBr、GaBr、InBr、AlI、GaI、InI、AlF、GaF、InF、SiCl、GeCl、又はSnClであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応が、130℃〜190℃の温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
使用する前記塩基が、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,5−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、アンモニア、モルホリン、ピペリジン、ピリジン、ピコリン、C〜C12アルコキシド、又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記式(I)の異性体の合計を基準にして、下記異性体(Iy)および(Iz):
【化3】

(式中、MおよびRは、請求項1の定義通りである。)
を少なくとも20重量%含む異性体混合物。
【請求項8】
所望する場合は1つ以上の反射層が予めコーティングされている、好ましくは透明な基板を含む光データキャリアにおいて、前記基板の表面には光書き込み可能な情報層、所望する場合は1つ以上の反射層、および、所望する場合は保護層又は別の基板又は被覆層が設けられており、赤外線、好ましくはレーザ光、特に好ましくは、750〜800nm、特に、770〜790nmの範囲の波長を有する光によって読み書きすることができ、前記情報層が吸光性化合物と、所望する場合はバインダとを含む光データキャリアであって、請求項7に記載の少なくとも1のフタロシアニン異性体混合物を吸光性化合物として使用することを特徴とする光データキャリア。
【請求項9】
光データ記録装置の光書き込み可能な情報層中の吸光性化合物としての、請求項7に記載のフタロシアニン異性体混合物の使用。

【公表番号】特表2007−526881(P2007−526881A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518022(P2006−518022)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/006727
【国際公開番号】WO2005/003133
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】