説明

アルコールの製造方法及びアルコール二量化反応用触媒

【課題】塩基量が少なくても高収率・高選択的に基質アルコールを二量化してアルコールを得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のアルコールの製造方法は、銅化合物及び基質アルコールに対して0.5〜40mol%のNaOHの存在下、第1級アルコール及び第2級アルコールから選択される基質アルコールを二量化するアルコールの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの製造方法及び該方法に用いる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
基質アルコールを二量化することにより、アルコールを製造する方法が知られている(ゲルベ(Guerbet)反応。以下、本明細書で「二量化反応」の語は、この方法を意味する。)。この方法は通常、高温高圧の反応条件(例えば、10〜30MPa、350〜500℃)で行われる(非特許文献1及び2)。この方法の副生成物は、反応剤及び触媒の残渣を除けば水のみである。よって、この方法は、比較的容易に生成物を分離精製することができる点及び廃棄物の量を低減できる点で魅力的である。
【0003】
高収率及び高選択性の観点から、二量化反応の再検討が広く行われている。例えば、特許文献1には、水素分圧が0.1MPa以上の条件で、炭素数4以下のアルコールを二量化するアルコールの製造方法が記載されている。
【0004】
遷移金属及び塩基の存在下で加熱する二量化反応が検討されている。例えば、特許文献2及び3には、遷移金属を含む錯体及び塩基の存在下、C4以下のアルコールを二量化する方法が記載されている。特許文献4には、周期表8〜10族元素(Ir、Ru等)化合物及び塩基の存在下、第1級アルコールを二量化する方法が記載されている。特許文献5には、周期表8〜10族元素化合物、ホスフィン化合物由来の配位子及び塩基の存在下、第1級アルコールを二量化する方法が記載されている。非特許文献7には、Cu/Cr/Mn又はCu−Raney等の金属固体触媒及び塩基を用いる方法が記載されている。
【0005】
2種のアルコールの二量化反応が検討されている。例えば、非特許文献3〜6には、基質アルコールとして第1級アルコール及び第2級アルコールを用い、表1記載の遷移金属触媒及び塩基の存在下で加熱するアルコールの製造方法が記載されている。
【0006】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−167183号公報
【特許文献2】特開2008−266267号公報
【特許文献3】特開2008−303160号公報
【特許文献4】特開2007−223947号公報
【特許文献5】特開2009−167129号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bull. Chem. Soc. Jpn., 1964, 39, 236
【非特許文献2】Ind. Eng. Res., 1996, 35, 1534
【非特許文献3】Tetrahedron 2006, 62, 8982
【非特許文献4】Organometallics 2003, 22, 3608
【非特許文献5】Org. Lett., 2005, 7, 4017-4019
【非特許文献6】Organometalllics, 2008, 27, 1305
【非特許文献7】J. Mol. Cat. A: Chemical, 2002, 184, 273-280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の方法では、基質アルコールに対して等モル量又は過剰量の塩基を用いる必要がある(表1参照)。従来の方法では、反応後、塩基を塩酸等で中和し、生成した塩を大量に廃棄する必要がある。また、従来の方法では、遷移金属としてIr等の特殊な金属を必須の触媒として用いている(特許文献2〜5参照)。そのため、より一般的な金属を用いた二量化反応の開発が望まれている。
【0010】
更に、種々のアルコールを製造するために、種々のアルコールを基質アルコールとして用いることができる二量化反応の開発が望まれている。しかし、二量化反応において、基質アルコールの一般性は殆ど調べられていないのが現状である。従来、二量化反応について、第1級アルコールでは比較的円滑に進むが、第2級アルコールでは副反応により収率が低くなると認識されていた。また、かさ高いアルコールを基質アルコールとして用いる二量化反応では、反応が進行しないと認識されていた。よって、従来の二量化反応では、製造できるアルコールが限定されていた。
【0011】
本発明の目的は、塩基量が少なくても高収率・高選択的にアルコールを得ることができる方法を提供することである。本発明の目的は、Ir等の特殊な金属に代えて、他の金属を用いて高収率・高選択的にアルコールを得ることができる方法を提供することである。本発明の目的は、種々のアルコールを基質アルコールとして用いることができる、基質アルコールの汎用性が高い方法を提供することである。本発明の目的は、この方法に用いることができるアルコールの二量化反応用触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、銅化合物及び基質アルコールに対して0.5〜40mol%のNaOHの存在下、第1級アルコール及び第2級アルコールから選択される基質アルコールを二量化するアルコールの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の方法と比べて、塩基量が少なくても高収率・高選択的に基質アルコールを二量化してアルコールを得ることができる。その結果、塩基の中和工程を容易にすると共に、生成した塩の廃棄を抑えることができる。また、本発明では、Ir等の特殊な金属に代わり、より一般的な金属である銅を用いることができる。本発明では、基質アルコールの汎用性が高く、種々のアルコールを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)NaOH
本発明では、塩基としてNaOHを用いる。従来、二量化反応では、塩基としてNaOMeが用いられ、NaOHを用いることは好ましくないと言われていた(例えば、非特許文献7では、NaOMeを多量に用いる理由として、反応中に生じる水とNaOMeが反応してNaOHが生成してしまうためであることが指摘されている。)。しかし、意外なことに、本発明では、塩基としてNaOHを用いることにより、高収率・高選択的に二量化反応によりアルコールを得ることができる。KOH等の他のアルカリ金属の塩基では、高収率・高選択的にアルコールを得ることができないので好ましくない。尚、本発明では、塩基としてNaOHのみを用いてもよく、他の塩基を併用してもよい。また、塩基としてNaHを用いた場合、上記NaOHと同等の結果を与える。
【0015】
上記NaOHの量は、基質アルコールに対して0.5〜40mol%、好ましくは0.8〜40mol%、更に好ましくは1.0〜30mol%、より好ましくは1.5〜25mol%である。上記NaOHの量の上限値は、20mol%、10mol%又は5mol%とすることができる。上記のように、従来の方法では、基質アルコールに対して等モル量(100mol%)又は過剰量の塩基を用いる必要があった。しかし、本発明では、上記NaOHの量が上記範囲でも、高収率・高選択的にアルコールが得られる。また、上記NaOHの量が上記範囲であると、中和後のアルカリ金属塩の廃棄量を低減することができるので好ましい。尚、後述のように、本発明では、基質アルコールとして、2種のアルコールを用いることができる。この場合、上記NaOHの量は、いずれか一方の基質アルコールに対して上記範囲であればよい。
【0016】
(2)銅化合物
上記銅化合物の種類に特に限定はない。上記銅化合物は1価銅の化合物でもよく、2価銅の化合物もよい。上記銅化合物は無機銅化合物及び有機銅化合物のいずれでもよい。通常、上記銅化合物は無機銅(1価又は2価)化合物である。上記無機銅化合物として具体的には、例えば、銅のハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、オキソ酸塩及び無機錯塩が挙げられる。上記有機銅化合物として具体的には、例えば、シアン化物、有機酸塩(酢酸塩等)及び有機錯塩が挙げられる。後述のように、本発明は、配位子を含めなくても反応が進行する。よって、上記銅化合物として、錯塩(無機錯塩、有機錯塩)以外の銅化合物を用いることができる。上記銅化合物は1種単独でよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記銅化合物として好ましくはハロゲン化銅(CuX、CuX)が挙げられる。本発明では、上記銅化合物として、ハロゲン化銅の1種又は2種以上を含む銅化合物を用いることができる。Xはハロゲン原子である。該ハロゲン原子として具体的には、例えば、Cl、Br及びIが挙げられる。上記ハロゲン原子として好ましくはCl又はBrである。上記銅化合物としてより好ましくはCuCl及びCuBrである。
【0018】
上記銅化合物の量には特に限定はない。上記銅化合物の量は、通常、基質アルコールに対して0.01〜5mol%、好ましくは0.01〜3mol%、更に好ましくは0.02〜1mol%、より好ましくは0.02〜0.5mol%である。上記銅化合物の量が上記範囲であると、触媒量で高収率・高選択的にアルコールを得ることができるので好ましい。後述のように、本発明では、基質アルコールとして、2種のアルコールを用いることができる。この場合、上記銅化合物の量は、いずれか一方の基質アルコールに対して上記範囲であればよい。
【0019】
(3)基質アルコール
本発明では、上記基質アルコールとして、第1級アルコール及び第2級アルコールから選択されるアルコールを用いる。上記基質アルコールの構造を式(1)に示す。式中、R及びRは水素原子又は一価の炭化水素基(以下、「一価の基」という。)である。
【0020】
【化1】

【0021】
本発明は、従来の方法と比べて種々のアルコールを基質アルコールとして用いることができる。上記基質アルコールの種類及び構造は、二量化反応を行うことができる限り特に限定はない。上記基質アルコールは脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコール、及び複素環式アルコールのいずれでもよい。但し、上記のように、本発明は二量化反応である。そのため、上記基質アルコールとして、少なくともヒドロキシル基のβ位炭素に水素を有するアルコールは必要である。従って、例えば、上記基質アルコールとして、メタノールのみ又はベンジルアルコールのみを用いることはできない。
【0022】
及びRは共に一価の基又は水素原子でもよく、いずれか一方が水素原子で他方が一価の基でもよい。R及びRが共に一価の基の場合、該基は同じ基でもよく、異なる基でもよい。R及びRは互いに結合して環を形成してもよい(但し、芳香環は除く。)。該環の構造には特に限定はない。例えば、環員数には特に限定はない。該環の環員数は、4〜10員環、好ましくは5〜8員環とすることができる。上記環は、その構造中にヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子等)を含んでいてもよい。上記環は、他の置換基を有していてもよい。上記環は、その構造中に不飽和結合を有していてもよい。
【0023】
上記一価の基の構造に限定はない。上記一価の基は鎖状構造でもよく、環状構造でもよい。上記一価の基は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。上記一価の基は、飽和結合のみで構成されていてもよく、不飽和結合を含んでいてもよい。上記一価の基は、構造中に他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記一価の基は、構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を有していてもよい。上記一価の基は、構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子及び窒素原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0024】
上記一価の基として具体的には、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基が挙げられる。
【0025】
上記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基の炭素数には特に限定はない。上記アルキル基の炭素数は、通常1〜15、好ましくは2〜15、更に好ましくは3〜15、より好ましくは3〜12である。また、上記アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は、通常2〜15、好ましくは3〜15、更に好ましくは3〜12である。上記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基が環状構造の場合(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基)、その炭素数は、通常4〜10、更に好ましくは5〜8、より好ましくは6〜8である。
【0026】
上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデカニル基、及びドデカニル基が挙げられる。上記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘプチル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、及びイソプロペニル基が挙げられる。上記シクロアルケニル基として具体的には、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0027】
上記アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基(以下、「アリール基等」と総称する。)の炭素数には特に限定はない。この炭素数は通常6〜15、好ましくは6〜12、更に好ましくは6〜10である。
【0028】
上記アリール基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アリール基等に含まれる芳香環は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アリール基は、無置換のアリール基だけでなく、置換アリール基でもよい。芳香環に位置する置換基の位置は、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記置換基として具体的には、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br及びI等)、アルキル基、アルコキシ基及びチオアルキル基の1種又は2種以上が挙げられる。
【0029】
上記アリール基等に含まれる芳香環は、ヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子)の1種又は2種以上を有していてもよい。上記アリール基等に含まれる芳香環は、芳香族複素環(フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、インドール、チオフェン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、イソキサゾール、オキサゾール、イソチアゾール、チアゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、及びピリミジン等)でもよい。
【0030】
上記アリール基として具体的には、例えば、フェニル基、トリル基、ハロゲン化フェニル基(o−、m−、及びp−)、メトキシフェニル基(o−、m−、及びp−)、チオメトキシフェニル基(o−、m−、及びp−)、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フラン、並びにチオフェンが挙げられる。上記アリールアルキル基として具体的には、ベンジル基及びメトキシベンジル基(o−、m−、及びp−)が挙げられる。
【0031】
上記基質アルコールとして第1級アルコールを用いると、高収率・高選択的にアルコールを得ることができるので好ましい。後述のように、上記基質アルコールは、2種以上のアルコールでもよい。この場合、全てのアルコールが第1級アルコールでもよく、一部のアルコールが第1級アルコールでもよい。
【0032】
上記基質アルコールとして芳香族アルコールを用いると、高収率・高選択的にアルコールを得ることができるので好ましい。上記基質アルコールは、2種以上のアルコールでもよい。この場合、全てのアルコールが芳香族アルコールでもよく、一部のアルコールが芳香族アルコールでもよい。
【0033】
本発明では、上記基質アルコールとして、ヒドロキシル基のβ位炭素に置換基を有するアルコールを用いることができる(式(1−1)参照。式中、Yは任意の置換基である。)。従来の二量化反応では、基質アルコールとして、ヒドロキシル基のβ位炭素に置換基を有しないアルコールを用いた例がほとんどであり、ヒドロキシル基のβ位炭素に置換基を有するかさ高いアルコールを用いた例について検討されていない。むしろ、上記のように、かさ高いアルコールを基質アルコールとして用いる二量化反応では、反応が進行しないと認識されていた。一方、本発明では、上記アルコールを基質アルコールとして用いても、高収率・高選択的に二量化反応を行うことができるので好ましい。上記置換基の種類及び構造は、本発明の方法を阻害しない限り特に限定はない。上記置換基として上記一価の基が挙げられる。該一価の基の種類及び構造には特に限定はない。該一価の基の内容は、R及びRの説明が妥当する。
【0034】
【化2】

【0035】
本発明では、上記基質アルコールとして、ハロゲン置換アリール基を有するアルコールを用いることができる。該アルコールは、遷移金属触媒反応に不安定な性質を有する。そのため、従来の遷移金属触媒(Ir等)を用いた二量化反応は良好に進行しないと考えられる。一方、本発明では、上記アルコールを用いても、高収率・高選択的に二量化反応を行うことができるので好ましい。上記ハロゲン置換アリール基に含まれるハロゲン原子としては、F、Cl、Br及びI等が挙げられる。上記ハロゲン原子の数及び芳香環上の位置には特に限定はない。芳香環上の位置はo−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記ハロゲン置換アリール基を有するアルコールとしては、例えば、ハロゲン置換ベンジルアルコール(o−、m−、又はp−モノハロゲン化ベンジルアルコール)が挙げられる。
【0036】
上記基質アルコールとしてより具体的には、例えば、式(1−2)〜(1−7)で表されるアルコールが挙げられる。尚、式(1−4)、(1−6)及び〜(1−7)で表されるアルコールはヒドロキシル基のβ位炭素に水素を有しない。よって、後述のように、これらのアルコールを基質アルコールとして用いる場合、他にヒドロキシル基のβ位炭素に水素を有するアルコールを併用する。
【0037】
【化3】

【0038】
上記各式中、Y〜Yは水素原子又は任意の置換基である。式(1−2)中、Y及びYは互いに結合して環(例えば5員環又は6員環)を形成していてもよい。式(1−7)中、ZはO又はSである。Yとして具体的には、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br及びI等)、アルキル基、アルコキシ基及びチオアルキル基が挙げられる。Y及びYは通常、両方が水素原子であるか、一方が水素原子であり、他方が上記一価の基である。該一価の基の種類及び構造には特に限定はない。該一価の基の内容は、R及びRの説明が妥当する。
【0039】
上記基質アルコールは1種単独でもよく、2種以上のアルコール(通常は2種)でもよい。上記基質アルコールとして、例えば、〔1〕1種の第1級アルコール、〔2〕1種の第2級アルコール、〔3〕2種以上(通常は2種)の第1級アルコール、〔4〕2種以上(通常は2種)の第2級アルコール、又は〔5〕1種以上(通常は1種)の第1級アルコールと1種以上(通常は1種)の第2級アルコールを用いることができる。通常、2種以上のアルコールを用いると、異種のアルコール同士が反応するだけでなく、同種のアルコール同士も反応し、目的とするアルコールの収率が低下するおそれがある。しかし、本発明では、上記基質アルコールとして2種以上のアルコールを用いても、高収率・高選択的にアルコールを得ることができるので好ましい。
【0040】
上記基質アルコールとして、2種以上のアルコールを用いる場合、例えば、その組み合わせには特に限定はない。2種のアルコールの組み合わせとしては、例えば、〔1〕芳香族アルコール同士、〔2〕芳香族アルコールと脂肪族アルコール又は脂環式アルコールの組み合わせ、及び〔3〕脂肪族アルコール及び脂環式アルコールの組み合わせが挙げられる。上記基質アルコールとして、〔1〕芳香族アルコール同士、〔2〕芳香族アルコールと脂肪族アルコール又は脂環式アルコールの組み合わせを用いることができる。上記基質アルコールがこの組み合わせであると、高収率・高選択的にアルコールを得ることができるので好ましい。
【0041】
上記基質アルコールとして、より具体的には、〔A〕芳香族第1級アルコール及び芳香族第2級アルコールの組み合わせ、〔B〕芳香族第2級アルコールと脂肪族第1級アルコール又は脂環式第1級アルコールとの組み合わせ、〔C〕芳香族第1級アルコールと脂肪族第2級アルコール又は脂環式第2級アルコールとの組み合わせとすることができる。上記基質アルコールがこの組み合わせであると、高収率・高選択的にアルコールを得ることができるので好ましい。
【0042】
上記基質アルコールとして、異なる2種以上のアルコールを用いる場合、ヒドロキシル基のβ位炭素に水素を有するアルコール(例えば、式(1−2)又は(1−3)で表されるアルコール)と、該水素を有しないアルコール(例えば、式(1−4)、(1−6)及び(1−7)で表されるアルコール)とを併用することができる。ヒドロキシル基のβ位炭素に水素を有しないアルコールを併用することにより、ヒドロキシル基のβ位炭素に水素を有するアルコール同士の二量化反応を抑制できるので好ましい。上記アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール(PhCHOH)等のアリールメタノールが挙げられる。該アリールメタノールのアリール基は、無置換のアリール基だけでなく、置換アリール基でもよい。該置換アリール基の内容は、R及びRの説明が妥当する。
【0043】
上記基質アルコールとして、異なる2種のアルコールを用いる場合、該アルコールの割合には特に限定はない。該割合は通常、1:(0.5〜2)、好ましくは1:(0.7〜1.8)、更に好ましくは1:(0.7〜1.5)、より好ましくは1:(0.7〜1.3)である。
【0044】
(5)方法
本発明では、上記銅化合物及びNaOHの存在下、基質アルコールを二量化する。「存在下」とは、上記銅化合物及びNaOH(更には必要に応じて上記配位子)が反応過程の少なくとも一部の段階で存在していればよく、反応過程の全ての段階で常に存在している必要はない。即ち、本発明では、上記銅化合物及びNaOHを反応系に加えれば、「存在下」の要件を満たす。例えば、本発明では、上記銅化合物及びNaOHを反応系に加えた後、反応過程でこれらに何らかの変化(例えば、上記銅化合物から生じた銅イオンと後述する配位子との間での錯体形成)が生じたとしても、「存在下」の要件を満たす。
【0045】
上記銅化合物及びNaOHの添加方法には特に限定はない。上記銅化合物及びNaOHをそれぞれ単独で反応系に添加してもよい。上記銅化合物はそのまま用いてもよく、担体に担持させた状態で用いてもよい。また、本発明の触媒、即ち、銅化合物及び基質アルコールに対して0.5〜40mol%のNaOHを含有する二量化反応用触媒を予め調整し、これを反応系に加えてもよい。
【0046】
本発明は、通常、溶媒中で行う。該溶媒の種類は、本発明の反応を阻害しない限り特に限定はない。上記溶媒として好ましくは非極性溶媒である。該非極性溶媒として具体的には、例えば、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン及びキシレン等)並びに脂肪族炭化水素類(n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン及びn−ドデカン等の直鎖脂肪族炭化水素類等)が挙げられる。上記溶媒は1種単独でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。一方、アセトニトリル等のニトリル類、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、DMF、及び低沸点溶媒(例えば、THF等の沸点が80℃以下の溶媒)は、上記溶媒として好ましくない。よって、本発明では、これらの溶媒以外の溶媒を用いることが好ましい。
【0047】
反応条件には特に限定はない。本発明は、従来の方法と比べて穏和な条件で反応を進めることができる。例えば、反応時間は1〜72時間、好ましくは8〜48時間とすることができる。反応温度は150℃以下、好ましくは100〜150℃とすることができる。また、本発明は常圧で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。反応圧力は0.5気圧以上(例えば、1気圧以上、より詳細には1〜3気圧)とすることができる。
【0048】
反応雰囲気には特に限定はない。該反応雰囲気は空気等の酸素含有雰囲気下でもよく、酸素非含有雰囲気下でもよい。該反応雰囲気として具体的には、例えば、水素ガス雰囲気及び不活性ガス雰囲気(窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等)が挙げられる。上記水素ガス含有雰囲気下で反応を行うと、アルコールの収率及び選択性を向上させることができるので好ましい。また、上記水素ガス含有雰囲気下で反応を行うと、後述する配位子の不存在下でもアルコールの収率及び選択性を向上させることができるので好ましい。これは、本発明により副生するケトンが水素ガスにより還元されるためと考えられる(本説明は、発明者の推測である。従って、本説明は、本発明を何ら限定する趣旨の説明ではなく、また、本発明を定義する趣旨の説明でもない。)。
【0049】
上記反応雰囲気は、2種以上のガスを含む混合ガス雰囲気でもよい。該混合ガス雰囲気として具体的には、例えば、酸素含有雰囲気下(空気等)及び水素ガス含有雰囲気が挙げられる。該混合ガス雰囲気としてより具体的には、例えば、不活性ガス(窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等)及び水素ガスを含有する水素ガス含有雰囲気が挙げられる。
【0050】
本発明では、反応系に他の物質を添加してもよい。例えば、本発明では、銅と配位することができる配位子を添加してもよい。該配位子を存在させることにより、収率を高めることができるので好ましい。勿論、本発明は、上記配位子の不存在下で行うこともできる。上記配位子は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
上記配位子は単座配位子でもよく、二座配位子でもよく、多座配位子でもよい。上記配位子としては、例えば、リン原子又は窒素原子を配位原子とする配位子が挙げられる。
【0052】
上記リン原子を配位原子とする配位子としては、例えば、ホスフィン配位子が挙げられる。該ホスフィン配位子として具体的には、例えば、トリシクロアルキルホスフィン(トリシクロヘキシルホスフィン等)、トリアルキルホスフィン(トリメチルホスフィンやトリブチルホスフィン等)、トリアリールホスフィン(トリフェニルホスフィン等)、及びビス(ジアリールホスフィノ)アルカン(例えば、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン)が挙げられる。上記ホスフィン配位子として好ましくはdpppである。
【0053】
上記窒素原子を配位原子とする配位子としては、例えば、アミン化合物及びピリジン化合物が挙げられる。上記アミン化合物として具体的には、例えば、第1級アミン(n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−オクチルアミン、アニリン、1,4−ジアミノブタン及び1,6−ジアミノヘキサン等)、第2級アミン(ジ−n−ブチルアミン、ジ−n−オクチルアミン、モルホリン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン及びピペラジン等)、並びに第3級アミン(トリエチルアミン及びトリ−n−ブチルアミン等)が挙げられる。上記ピリジン化合物として具体的には、例えば、ピリジン、2−メチルピリジン、2,2’−ビピリジル、キノリン及びイソキノリンが挙げられる。
【0054】
上記配位子の量には特に限定はない。上記配位子の量は通常、基質アルコールに対して0.01〜5mol%、好ましくは0.01〜3mol%、更に好ましくは0.02〜1mol%、より好ましくは0.02〜0.5mol%である。また、上記配位子の量は通常、上記銅化合物に対して10〜150mol%、好ましくは20〜120mol%、更に好ましくは50〜100mol%である。
【0055】
本発明では、従来の二量化方法で用いられていた遷移金属触媒を必ずしも用いる必要がない。例えば、本発明では、銅以外の遷移金属化合物(周期表8〜10族元素化合物等)を用いなくてもよい。
【0056】
本発明は、以下の反応機構で進むと考えられる(下記参照)。即ち、Cuが基質アルコールから水素原子を引き抜いて、カルボニル化合物を生成する(下記反応機構中、Lnは配位子を意味する。尚、上記のように、本発明は必ずしも配位子が必須ではない。)。次いで、上記カルボニル化合物がNaOHによりアルドール縮合し、β−ヒドロキシカルボニル化合物のナトリウムアルコキシドを経てα,β−不飽和カルボニル化合物が生成する。α,β−不飽和カルボニル化合物が水素原子を受け取り、二量化アルコールが生成すると共に、Cuが再生する。尚、本説明は、発明者の推測である。従って、本説明は、本発明を何ら限定する趣旨の説明ではなく、また、本発明を定義する趣旨の説明でもない。
【0057】
【化4】

【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限られない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0059】
(1)実験例1
以下の方法により、種々の基質アルコールを用いて、二量化アルコールを製造した。反応スキームを表2に併記する。反応スキーム中の「mol%」は、アルコール(1)及び(2)に対する割合である(実験例2及び3の「mol%」も同じ意味である。)。
【0060】
ヒートガンで加熱乾燥したシュレンク内の気体をアルゴンガスで置換した。次いで、室温でCuBr(0.02mmol,2.87mg)、dppp(0.02mmol,8.2mg)、及びNaOH(0.4mmol,16mg)を加えた。更にアルコール(1)及び(2)(いずれも10mmol)並びにp−キシレン(10ml)を加え、懸濁溶液を調製した。シュレンクを液体窒素で冷却して凍結脱気し、次いでアルゴンガスで満たした1リットルの集気袋を取り付け、シュレンク内をアルゴンガスで満たした。
【0061】
混合物を135℃で48時間攪拌して反応を行った。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却した。次いで、該反応混合物を直接シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/n−ヘキサン=1/100〜1/30)により精製し、目的生成物の二量化アルコール(a)及び副生成物のケトン(b)を得た(232mg)。二量化アルコール及びケトンの収率(%)は、生成物を単離後、生成物に0.1mmolの1,1,2,2−テトラクロロエタン(標準物質)を加え、CDClにこれらを溶解させ、H−NMRを測定し、そのスペクトルの積分値から換算して求めた単離収率である(実験例2及び3の収率も同じ方法で求めた。)。その結果を表2に示す(エントリー3)。
【0062】
配位子(dppp)を用いない他は、上記と同様の方法により、二量化アルコールを製造した(エントリー1)。dpppに代えて、dpp−エタン、dpp−ブタン又はdpp−ペンタンを用いる他は、上記と同じ方法により、二量化アルコールを製造した(エントリー2、4及び5)。NaOHに代えて、KOH、CsOH又はLiOHを用いる他は、上記と同じ方法により、二量化アルコールを製造した(エントリー6〜8)。以上の結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2より、エントリー1では、NaOHの量が従来の方法と比べて極めて少量(4mol%)であるにもかかわらず、収率が42%であった。また、エントリー1では、副生成物であるケトンよりも収率が高く、選択性に優れていることが分かる。配位子を用いた場合(エントリー2〜5)でも、収率及び選択性は良好であった。一方、NaOHに代えて、塩基としてKOH、CsOH又はLiOHを用いた(エントリー6〜8)ところ、収率及び選択性は極めて低かった。
【0065】
(2)実験例2
基質アルコール(1)及び(2)として、表3記載のアルコールを用いた。p−キシレンの量を20mlとし、反応温度及び反応時間を表3記載の内容とし、CuBr及びdpppの量を0.05mol%、NaOHの量を2mol%とする他は、実験例1と同様の方法により、二量化アルコールを製造した。二量化アルコール及びケトンの収率(%)、並びに触媒回転数(TON)を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3より、CuBr及びNaOHの量が少量であるにもかかわらず、収率が48%以上であった。また、副生成物であるケトンよりも収率が高く、選択性に優れていることが分かる。特に、芳香族アルコール同士の反応であるエントリー1及び2は、エントリー3と比べて高収率・高選択的であり、触媒回転数(TON)も高いことが分かる。
【0068】
(3)実験例3
銅化合物、配位子及び反応雰囲気を下記条件A〜Cとする他は、実験例1と同じ方法により、二量化アルコールを製造した。二量化アルコール及びケトンの収率(%)を表4及び表5に示す(表4及び表5中、括弧書きの数値は、副生したケトンの収率である。)。
【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
表4及び表5より、エントリー1〜16のいずれも、NaOHの量が従来の方法と比べて少量であるにもかかわらず、二量化アルコールを得ることができた。エントリー2より、反応雰囲気を水素雰囲気(条件B)とすることにより、収率を高めることができた。エントリー1〜10より、配位子(dppp)非存在下(条件C)でも高収率・高選択的に二量化アルコールを得ることができた。また、ヒドロキシル基のβ位炭素に置換基(メチル基及びフェニル基)を有するアルコールを用いた例(エントリー13及び14)でも、高収率・高選択的に二量化アルコールを得ることができた。アルコールとして、脂肪族アルコール及び脂環式アルコールを用いた例(エントリー11、15〜17)でも、高収率・高選択的に二量化アルコールを得ることができた。
【0072】
(4)実験例4
基質アルコールとして、下記のアルコール(A)及び(B)を用いた。上記NaOHに代えてNaH(0.4mmol,16mg(60%鉱油中に分散))を用いる他は、実験例3の条件Cと同じ条件で、実験例1と同じ方法により、二量化アルコールを製造した。反応スキームを下記に示す。この反応により、ほぼ目的生成物の二量化アルコール(C)のみを得た(97%収率、206mg)。
【0073】
【化5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物及び基質アルコールに対して0.5〜40mol%のNaOHの存在下、第1級アルコール及び第2級アルコールから選択される基質アルコールを二量化するアルコールの製造方法。
【請求項2】
上記基質アルコールが2種のアルコールである請求項1記載のアルコールの製造方法。
【請求項3】
上記基質アルコールは、第1級アルコール及び第2級アルコールである請求項2記載のアルコールの製造方法。
【請求項4】
上記基質アルコールは、少なくとも芳香族アルコールを含む請求項1乃至3のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項5】
上記銅化合物がハロゲン化銅の1種又は2種以上を含む請求項1乃至4のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項6】
反応雰囲気が水素ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気である請求項1乃至5のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項7】
反応雰囲気が水素ガス雰囲気であり、銅と配位可能な配位子の非存在下で反応を行う請求項1乃至5のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項8】
反応雰囲気が不活性ガス雰囲気であり、銅と配位可能な配位子の存在下で反応を行う請求項1乃至5のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項9】
非極性溶媒中で行う請求項1乃至8のいずれかに記載のアルコールの製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載のアルコールの製造方法に用いるアルコールの二量化反応用触媒であって、銅化合物及びNaOHを含有し、該NaOHの量が、基質アルコールに対して0.5〜40mol%であるアルコール二量化反応用触媒。
【請求項11】
更に銅と配位可能な配位子を含有する請求項10記載のアルコール二量化反応用触媒。

【公開番号】特開2011−136970(P2011−136970A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299231(P2009−299231)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】