説明

アルコール性水酸基を有する新規のポリイミドシリコーンおよびその製造方法

【課題】一級のアルコール性水酸基を有する新規のポリイミドシリコーンおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される、一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドシリコーン。[式(1)中、k及びmは正の整数であり、0.01≦k/(k+m)<1を満たす]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性や耐薬品性、絶縁性および可とう性から、半導体素子用保護絶縁膜、多層プリント基板用絶縁膜、半田保護膜、カバーレイフィルム等に好適な一級の水酸基を有する新規なポリイミドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェノール性水酸基を有するポリイミドは種々検討、提案されている(特許文献1,2,3,4)。またエポキシ基または不飽和炭化水素基と二級のアルコール性の水酸基を有するポリイミドも提案されている(特許文献5)。さらに反応性に富んだ一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドが提案されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6―200216号公報
【特許文献2】特許第3329677号公報
【特許文献3】特開2004−51794号公報
【特許文献4】特開2007−217490号公報
【特許文献5】特開2001―335619号公報
【特許文献6】特開2006−131892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら酸無水物変性シリコーンを用いて反応性に富んだ一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドシリコーンはいまだ開発されていない。
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、酸無水物変性シリコーンを用いた一級のアルコール性水酸基を有する新規のポリイミドシリコーンおよびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は下記のポリイミドシリコーンおよびその製造方法に関する。
<1> 下記一般式(1)で表される、一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドシリコーン。
【0006】
【化1】

【0007】
[上記式(1)中、
k及びmは正の整数であり、0.01≦k/(k+m)<1を満たす。
Xは下記一般式(2)で表される四価の有機基である。
【0008】
【化2】

【0009】
(式(2)中、Rは、互いに独立に、炭素数1から8の一価炭化水素基であり、Rは、互いに独立に、三価の有機基であり、nはその平均が1から120の数である。)
Yは二価の有機基であり、その少なくとも一部は一般式(3)で表される。
【0010】
【化3】

【0011】
(式(3)中、Aは、
【0012】
【化4】

【0013】
のいずれかより選ばれる二価の有機基であり相互に同一又は異なっていてもよく、B、Cは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基または水素原子であり、相互に同一又は異なっていてもよく、aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜10の整数である。また、式(3)中Rは、フェノール性水酸基又はアルコール性水酸基含有有機基から選択される一価の基であり、Rの少なくとも1個は一級のアルコール性水酸基含有有機基である。)
Wは前記X以外の四価の有機基である。]
<2> 前記一般式(1)で表されるポリイミドシリコーンが、下記一般式(1−1)で表されるポリイミドシリコーンである、<1>に記載のポリイミドシリコーン。
【0014】
【化5】

【0015】
[式(1−1)中、X、Wは前出のとおりである。
は前記一般式(3)で表される二価の有機基であり、Yは前記一般式(3)で表される以外の二価の有機基である。
p及びrは正の整数であり、q及びsは0または正の整数であり、p+q=k、r+s=mを満たす数である(k及びmは前出のとおりである)。]
<3> 前記一般式(3)において、Rの少なくとも1個が−OH、−OCHCH(OH)CHOH、及び−OCH(CHOH)CHOH、から選択される一価の基であることを特徴とする<1>または<2>に記載のポリイミドシリコーン。
<4> 前記一般式(1)において、Wが下記式で表される四価の有機基の少なくとも1種である<1>〜<3>のいずれかに記載のポリイミドシリコーン。
【0016】
【化6】

【0017】
<5> OH価が20〜200KOHmg/gである、<1>〜<4>のいずれかに記載のポリイミドシリコーン。
<6> 前記Yが、下記一般式(4)で表される二価の有機基および下記一般式(5)で表される二価の有機基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、<2>〜<5>のいずれかに記載のポリイミドシリコーン。
【0018】
【化7】

【0019】
(式(4)中、Dは、互いに独立に、下記の二価の有機基のいずれかであり、
【0020】
【化8】

【0021】
e、fは互いに独立に、0又は1であり、gは0又は1である。)
【0022】
【化9】

【0023】
(式(5)中、Rは、互いに独立に、炭素数1から8の一価炭化水素基であり、hは1から80までの整数である。)
<7> 末端に、フェノール基、チオール基またはカルボキシル基を有する<1>〜<6>のいずれかに記載のポリイミドシリコーン。
<8> フェノール性水酸基を有するジアミン、酸無水物変性シリコーン、酸二無水物、ならびに必要に応じてフェノール性水酸基及びカルボキシル基を有しないジアミンを反応させ、ポリアミック酸を得た後、該ポリアミック酸の脱水閉環反応により一般式(6)で表されるフェノール性水酸基を有するポリイミドを得、その後該ポリイミドとグリシドールを反応させ、更には必要に応じて酸無水物を反応させることにより、一般式(1)で表される、一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドシリコーンを製造する方法。
【0024】
【化10】

【0025】
[上記式(6)中、
k及びmは正の整数であり、0.01≦k/(k+m)<1を満たす。
Xは一般式(2)で表される四価の有機基である。
【0026】
【化11】

【0027】
(式(2)中、Rは、互いに独立に、炭素数1から8の一価炭化水素基であり、Rは、互いに独立に、三価の有機基であり、nはその平均が1から120の数である。)
Y’の少なくとも一部は下記一般式(7)で表される二価の有機基である。
【0028】
【化12】



【0029】
(式(7)中、Aは、
【0030】
【化13】

【0031】
のいずれかより選ばれる二価の有機基であり相互に同一又は異なっていてもよく、B、Cは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基または水素原子であり、相互に同一又は異なっていてもよく、aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜10の整数である。)
Wは前記X以外の四価の有機基である。]
【0032】
【化14】

【0033】
[上記式(1)中、X、W、k、mは前出のとおりであり、
Yは二価の有機基であり、その少なくとも一部は一般式(3)で表される。
【0034】
【化15】

【0035】
(式(3)中、Aは、
【0036】
【化16】

【0037】
のいずれかより選ばれる二価の有機基であり相互に同一又は異なっていてもよく、B、Cは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基または水素原子であり、相互に同一又は異なっていてもよく、aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜10の整数である。また、式(3)中Rは、フェノール性水酸基又はアルコール性水酸基含有有機基から選択される一価の基であり、Rの少なくとも1個は一級のアルコール性水酸基含有有機基である。)]
【発明の効果】
【0038】
本発明のポリイミドシリコーンは、反応性に優れ、基材との密着性、耐薬品性に優れると共に、可撓性で低応力性の硬化物を与え、電気、電子部品、半導体素子等の保護膜として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は実施例1の1H−NMRチャートである。
【図2】図2は実施例2の1H−NMRチャートである。
【図3】図3は実施例3の1H−NMRチャートである。
【図4】図4は実施例4の1H−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明のポリイミドシリコーンは、下記一般式(1)で表される。
【0041】
【化17】

【0042】
本発明のポリイミドシリコーンは、Xが下記式(2)で示される構造を有することを特徴とする。該単位を含むことによって、本発明のポリイミドシリコーンは可撓性の樹脂となる。
【0043】
【化18】

【0044】
式(2)中、Rは、互いに独立に、炭素数1から8の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基を挙げることができる。原料の入手の容易さの観点からメチル基、エチル基、フェニル基、ビニル基が好ましい。
【0045】
式(2)中、Rは、互いに独立に、三価の有機基であり、好ましくは炭素数が2から10である。Rとしては、例えば、プロピルコハク酸無水物等のアルキルコハク酸無水物、ノルボルネンジカルボン酸無水物、プロピルナジック酸無水物、及びフタル酸無水物などから、カルボキシル基またはカルボン酸無水物基を取り除いた残基、が挙げられる。好ましくは、ノルボルネンジカルボン酸無水物、またはプロピルコハク酸無水物の残基である。また式(2)中、nは、1〜120、好ましくは3〜80、さらに好ましくは5〜50の整数である。
Xとしては、下記の構造を挙げる事ができる。
【0046】
【化19】

【0047】
上記構造中、n及びnは、0または1以上の整数であり、n+n=nを満たす。
また、n及びnは、0または1以上の整数であり、n+n=nを満たす。
また、n及びnは、0または1以上の整数であり、n+n=nを満たす。
【0048】
Xとしては、より具体的には、下記の構造を挙げることができる。
【化20】

【0049】
上記Xは、不飽和基を有する上記の酸無水物、例えばコハク酸無水物、ノルボルネンジカルボン酸無水物、プロピルナジック酸無水物、又はフタル酸無水物などと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを反応させることによって得られる変性シリコーンから誘導することができる。該オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のシロキサン単位数の分布に応じて、得られる酸無水物変性ポリシロキサンのシロキサン単位数も分布する。従って、式(2)のnはその平均値を表す。
【0050】
一般式(1)中のYは、その少なくとも一部は、下記一般式(3)で示される、一級のアルコール性水酸基を有する二価の有機基である。
【0051】
【化21】

【0052】
式(3)中Aは、互いに独立に、下記の二価の有機基のいずれかから選択される。
【0053】
【化22】

【0054】
式(3)中aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜10の整数であり、cは好ましくは1〜10の整数である。
式(3)中B、Cは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基または水素原子であり、相互に同一又は異なっていてもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基及び水素原子があげられ、中でもメチル基、水素原子が原料の入手の容易な点から好ましい。
上式(3)中Rは、フェノール性水酸基又はアルコール性水酸基含有有機基から選択される一価の基であり、Rの少なくとも1個は一級のアルコール性水酸基含有有機基である。具体的には−OH、−OCHCH(OH)CHOH、−OCH(CHOH)CHOHが挙げられる。
式(3)で表される基として、下記の基を挙げることができる。
【0055】
【化23】

【0056】
Yの他の一部は、一般式(3)で表される以外の二価の有機基であってもよい。すなわち、本発明は一般式(1−1)で表されるポリイミドシリコーンであることが好ましい。
【0057】
【化24】

【0058】
式(1−1)中、X、Wは前出のとおりである。
は前記一般式(3)で表される二価の有機基であり、Yは前記一般式(3)で表される以外の二価の有機基である。
p及びrは正の整数であり、q及びsは0または正の整数であり、p+q=k、r+s=mを満たす数である(k及びmは前出のとおりである)。
【0059】
は、一般式(3)で表される以外の二価の有機基、すなわち一級のアルコール性水酸基を有しない二価の有機基である。具体的には、下記式(4)で表される二価の有機基および式(5)で表される二価の有機基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0060】
【化25】

【0061】
上記式中、Dは互いに独立に、上記Aと同様の二価の有機基である。e、fは互いに独立に、0又は1であり、gは0又は1である。
式(4)としては、下記の基を挙げることができる。
【0062】
【化26】

【0063】
【化27】

【0064】
【化28】

【0065】
【化29】

【0066】
式(5)中、Rは、互いに独立に、炭素数1から8の一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、等を挙げることができる。中でも、原料入手の観点から、メチル基、フェニル基が特に好ましい。
式(5)中、hは1〜80、好ましくは1〜20の整数である。
【0067】
式(1)中、Wは、上記X以外の四価の有機基であれば公知の種々の基であってよく、下記の基が例示される。
【0068】
【化30】

【0069】
上記各構造を有する本発明のポリイミドシリコーン樹脂は、その分子量(数平均分子量)が、好ましくは5000〜200000、特に好ましくは8000〜100000である。分子量が小さすぎると、ポリイミドシリコーン樹脂から得られる被膜の強度が低くなることがあり、一方、分子量が大きすぎると、ポリイミドシリコーン樹脂は溶剤に対する相溶性が乏しく、取り扱いが低下することがある。
【0070】
さらに、Xを含む繰り返し単位数kは正の整数であり、好ましくは1〜500、よりこのましくは3〜300である。Wを含む繰り返し単位数mは正の整数であり、好ましくは1〜500、より好ましくは3〜300である。
【0071】
また、kの割合k/(k+m)が、0.01≦k/(k+m)<1を満たす。好ましくは0.1以上1未満、より好ましくは0.2以上0.95以下、特に好ましくは0.5以上0.9以下である。該割合が、0.01未満では、十分な可撓性を達成することが困難である。
【0072】
本発明のポリイミドシリコーンは、JISK0070に基づくOH価が20〜200KOHmg/g、特に30〜150KOHmg/gとすることが好ましい。OH価がこの範囲にあると、後述するような用途に応用した場合、特に優れた特性を有するものとなる。
【0073】
本発明のポリイミドシリコーンを製造するには、まず、フェノール性水酸基を有するジアミン、酸無水物変性シリコーン、酸二無水物、必要に応じてフェノール性水酸基及びカルボキシル基を有しないジアミンを反応させ、ポリアミック酸を得る。
【0074】
フェノール性水酸基を有するジアミンとしては、例えば、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2’―メチレンビス[6−(4−アミノ−3,5−ジメチルベンジル)―4−メチル]フェノール、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどのフェノール基を有するジアミンなどが挙げられる。
【0075】
酸無水物変性シリコーンとしては、例えば、下記化合物が挙げられる。
【0076】
【化31】

【0077】
nは、1〜120、好ましくは3〜80、さらに好ましくは5〜50の整数である。
及びnは、0または1以上の整数であり、n+n=nを満たす。
【0078】
ポリアミック酸の重合に用いられる酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物、2,2−ビス(p−トリメトキシフェニル)プロパン、1,3−テトラメチルジシロキサンビスフタル酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物が挙げられる。
【0079】
フェノール性水酸基及びカルボキシル基を有しないジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0080】
ポリアミック酸の合成において酸二無水物成分に対するジアミン成分の割合は、ポリイミドの分子量の調整等に応じて適宜決められ、通常モル比で0.95〜1.05、好ましくは0.98〜1.02の範囲である。なお、ポリイミドシリコーン末端に反応性官能基を導入するためにアミノアルコール、アミノチオール、無水トリメリット酸等の官能の酸無水物およびアミン化合物を添加できる。この場合の添加量は酸二無水物成分またはジアミン成分に対して20モル%以下が好ましい。
【0081】
ジアミンと酸二無水物の反応は通常、溶剤中で行われる。かかる溶剤としては、ポリイミドを溶解するものであればよい。溶剤の具体的な例としては、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル類;シクロヘキサノン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、アセトフェノン等のケトン類;酢酸ブチル、安息香酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のセロソルブ類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド類及びトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられ、好ましくはケトン類、エステル類及びセロソルブ類であり、特に好ましくはγ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N,N−ジメチルアセトアミド、n−メチル−2−ピロリドンである。これらの溶剤は、1種単独でも2種以上組み合わせて用いてもよい。通常、1バッチあたりの収量、溶解粘度等を考慮して、ポリイミドの濃度が10〜40質量%となる範囲で調整される。
【0082】
次に、上記得られたポリアミック酸の脱水閉環反応により一般式(6)で表されるフェノール性水酸基を有するポリイミドを得、その後グリシドールを反応させ、更には必要に応じて酸無水物を反応させることにより、本発明のポリイミドシリコーンを得る。
【0083】
【化32】

【0084】
式(6)中、X、W、k、mは前出のとおりである。
Y’はその少なくとも一部は下記一般式(7)で表される二価の有機基である。
【0085】
【化33】



【0086】
式(7)中A、B、C、a、b、cは前出のとおりである。
【0087】
すなわち、ポリイミドの合成は、上記で得られたポリアミック酸溶液を、通常80〜200℃、好ましくは140〜180℃の温度範囲に昇温するか、またはポリアミック酸溶液に無水酢酸/ピリジン混合溶液を添加し、ついで得られた溶液を50℃前後に昇温することにより、ポリアミック酸の酸アミド部分に脱水閉環反応を進行させてポリイミドを得ることが出来る。
【0088】
このようにして得られた上記一般式(6)で示される分子中にフェノール性水酸基を有するポリイミドの有機溶剤溶液に、グリシドールを必要当量添加し、加熱することにより、目的とする上記一般式(1)で示されるアルコール性水酸基を有するポリイミドシリコーンを得ることができる。グリシドールの仕込量はアルコール性水酸基導入量に応じて適宜変える必要があるが、通常、フェノール性水酸基に対して0.3倍モルから3倍モルが好ましい。反応温度は40℃から180℃、好ましくは60℃から130℃である。反応時間は数分から12時間である。また反応を加速させる目的でトリエチルアミンなどの触媒を添加しても良い。
【0089】
また、グリシドール反応後に必要に応じて反応させる酸無水物としては、無水フタル酸、ノルボルネンジカルボン酸無水物、シクロヘキシルジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキシルジカルボン酸無水物、コハク酸無水物などが挙げられる。
【0090】
酸無水物の反応は必要当量添加し、加熱することにより目的とするカルボキシル基を有し、アルコール性水酸基も有するポリイミドシリコーンを得ることができる。
この際の反応温度は10〜120℃、好ましく20〜90℃であり反応時間は1h〜12hである。反応の加速を目的として触媒を添加させても良い。
【0091】
このようにして得られる本発明に係るポリイミドシリコーンは、反応性等の関係により主として一級のアルコール性水酸基を有する新規なポリイミドシリコーンである。かかる一級のアルコール性水酸基を有する新規なポリイミドシリコーンは、その水酸基の反応性を利用することにより、耐熱性や耐薬品性、絶縁性および可とう性の優れた、半導体素子用保護絶縁膜、多層プリント基板用絶縁膜、半田保護膜、カバーレイフィルム等に有用である。
【実施例】
【0092】
以下、合成例、実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0093】
[実施例1]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、4,4’−オキシジフタル酸二無水物31.0g(0.15モル)、平均構造が下記式(8)で示される酸無水物変性シロキサン155.1g(0.15モル)およびN−メチル−2−ピロリドン600gを仕込んだ。ついで、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン91.5g(0.25モル)を反応系の温度が50℃を越えないように調節しながら、上記フラスコ内に加えた。その後、さらに室温で10時間撹拌した。つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン100gを加え、170℃に昇温してその温度を6時間保持したところ、褐色の溶液が得られた。
【0094】
【化34】

【0095】
こうして得られた褐色の溶液を室温(25℃)まで冷却した後、フェノール性水酸基を有するポリイミド溶液を得た。ついでこのポリイミド溶液にグリシドール23gをフラスコに仕込み、120℃で3時間加熱した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液をメタノール中に投入後、析出した沈殿を濾過し、乾燥後、目的とする一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドを得た。このポリマーの1H―NMR(JEOL製ラムダ300)分析の結果、フェノール性水酸基に由来する10ppmのピークが減少し、4.6ppmと4.8ppmに一級および二級のアルコール性水酸基に由来するピークが観測されたことから下記式で示される繰り返し単位の構造を有するポリマーであることがわかった(図1参照)。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析の結果、このポリマーの数平均分子量は、39000であり、JIS K0070に基づくOH価は100KOHmg/gであった。
【0096】
【化35】

【0097】
[実施例2]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、4,4’−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物55.5g(0.125モル)、平均構造が下式(9)で示される酸無水物変性シロキサン137.0g(0.125モル)およびγ―ブチロラクトン800gを仕込んだ。ついで、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン91.5g(0.25モル)を反応系の温度が50℃を越えないように調節しながら、上記フラスコ内に加えた。その後、さらに室温で10時間撹拌した。つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン200gを加え、170℃に昇温してその温度を6時間保持したところ、褐色の溶液が得られた。
【0098】
【化36】

【0099】
こうして得られた褐色の溶液を室温(25℃)まで冷却した後、フェノール性水酸基を有するポリイミド溶液を得た。ついでこのポリイミド溶液にグリシドール18.3gをフラスコに仕込み、120℃で3時間加熱した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液をメタノール中に投入後、析出した沈殿を濾過し、乾燥後、目的とする一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドを得た。このポリマーの1H―NMR分析の結果、フェノール性水酸基に由来する10ppmのピークが減少し、4.6ppmと4.8ppmに一級および二級のアルコール性水酸基に由来するピークが観測されたことから下記式で示される繰り返し単位の構造を有するポリマーであることがわかった(図2参照)。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析の結果、このポリマーの数平均分子量は、32000であり、JIS K0070に基づくOH価は100KOHmg/gであった。
【0100】
【化37】

【0101】
[実施例3]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、4,4’ーオキシジフタル酸二無水物31.0g(0.1モル)、平均構造が下式(10)で示される酸無水物変性シロキサン184.2g(0.1モル)およびγ―ブチロラクトン800gを仕込んだ。ついで、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン36.6g(0.1モル)および1,4−ジアミノフェノキシベンゼン23.4g(0.08モル)を反応系の温度が50℃を越えないように調節しながら、上記フラスコ内に加えた。その後、p−アミノフェノール4.4g(0.02モル)を加え、さらに室温で10時間撹拌した。つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン200gを加え、170℃に昇温してその温度を6時間保持したところ、褐色の溶液が得られた。
【0102】
【化38】

【0103】
こうして得られた褐色の溶液を室温(25℃)まで冷却した後、フェノール性水酸基を有するポリイミド溶液を得た。ついでこのポリイミド溶液にグリシドール16.5gをフラスコに仕込み、120℃で3時間加熱した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液をメタノール中に投入後、析出した沈殿を濾過し、乾燥後、目的とする一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドを得た。このポリマーの1H―NMR分析の結果、フェノール性水酸基に由来する10ppmのピークが減少し、4.6ppmと4.8ppmに一級および二級のアルコール性水酸基に由来するピークが観測されたことから下記式で示される繰り返し単位の構造を有するポリマーであることがわかった(図3参照)。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析の結果、このポリマーの数平均分子量は、19000であり、JIS K0070に基づくOH価は39KOHmg/gであった。
【0104】
【化39】

【0105】
[実施例4]
撹拌機、温度計及び窒素置換装置を備えたフラスコ内に、4,4’−オキシジフタル酸二無水物31.0g(0.1モル)、実施例2で用いたのと同様の、平均構造が式(9)で示される酸無水物変性シロキサン164.4g(0.15モル)およびγ―ブチロラクトン800gを仕込んだ。ついで、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン45.2g(0.175モル)および1,4−ジアミノフェノキシベンゼン14.6g(0.05モル)を反応系の温度が50℃を越えないように調節しながら、上記フラスコ内に加えた。その後、p−アミノフェノール5.5g(0.025モル)を加え、さらに室温で10時間撹拌した。つぎに、該フラスコに水分受容器付き還流冷却器を取り付けた後、キシレン200gを加え、170℃に昇温してその温度を6時間保持したところ、褐色の溶液が得られた。
こうして得られた褐色の溶液を室温(25℃)まで冷却した後、フェノール性水酸基を有するポリイミド溶液を得た。ついでこのポリイミド溶液にグリシドール10.9gをフラスコに仕込み、120℃で3時間加熱した。反応終了後、室温まで冷却し、反応溶液をメタノール中に投入後、析出した沈殿を濾過し、乾燥後、目的とする一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドを得た。このポリマーの1H―NMR分析の結果、フェノール性水酸基に由来する10ppmのピークが減少し、4.6ppmと4.8ppmに一級および二級のアルコール性水酸基に由来するピークが観測されたことから下記式で示される繰り返し単位の構造を有するポリマーであることがわかった(図4参照)。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析の結果、このポリマーの数平均分子量は、22000であり、JIS K0070に基づくOH価は51KOHmg/gであった。
【0106】
【化40】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドシリコーン。
【化1】


[式(1)中、
k及びmは正の整数であり、0.01≦k/(k+m)<1を満たす。
Xは下記一般式(2)で表される四価の有機基である。
【化2】


(式(2)中、Rは、互いに独立に、炭素数1から8の一価炭化水素基であり、Rは、互いに独立に、三価の有機基であり、nはその平均が1から120の数である。)
Yは二価の有機基であり、その少なくとも一部は一般式(3)で表される。
【化3】


(式(3)中、Aは、
【化4】


のいずれかより選ばれる二価の有機基であり相互に同一又は異なっていてもよく、B、Cは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基または水素原子であり、相互に同一又は異なっていてもよく、aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜10の整数である。また、式(3)中Rは、フェノール性水酸基又はアルコール性水酸基含有有機基から選択される一価の基であり、Rの少なくとも1個は一級のアルコール性水酸基含有有機基である。)
Wは前記X以外の四価の有機基である。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるポリイミドシリコーンが、下記一般式(1−1)で表されるポリイミドシリコーンである、請求項1に記載のポリイミドシリコーン。
【化5】


[式(1−1)中、X、Wは前出のとおりである。
は前記一般式(3)で表される二価の有機基であり、Yは前記一般式(3)で表される以外の二価の有機基である。
p及びrは正の整数であり、q及びsは0または正の整数であり、p+q=k、r+s=mを満たす数である(k及びmは前出のとおりである)。]
【請求項3】
前記一般式(3)において、Rの少なくとも1個が−OH、−OCHCH(OH)CHOH、及び−OCH(CHOH)CHOH、から選択される一価の基であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミドシリコーン。
【請求項4】
前記一般式(1)において、Wが下記式で表される四価の有機基の少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドシリコーン。

【化6】

【請求項5】
OH価が20〜200KOHmg/gである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミドシリコーン。
【請求項6】
前記Yが、下記一般式(4)で表される二価の有機基および下記一般式(5)で表される二価の有機基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜5のいずれか1項に記載のポリイミドシリコーン。
【化7】


(式(4)中、Dは、互いに独立に、下記の二価の有機基のいずれかであり、
【化8】


e、fは互いに独立に、0又は1であり、gは0又は1である。)
【化9】


(式(5)中、Rは、互いに独立に、炭素数1から8の一価炭化水素基であり、hは1から80までの整数である。)
【請求項7】
末端に、フェノール基、チオール基またはカルボキシル基を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリイミドシリコーン。
【請求項8】
フェノール性水酸基を有するジアミン、酸無水物変性シリコーン、酸二無水物、ならびに必要に応じてフェノール性水酸基及びカルボキシル基を有しないジアミンを反応させ、ポリアミック酸を得た後、該ポリアミック酸の脱水閉環反応により一般式(6)で表されるフェノール性水酸基を有するポリイミドを得、その後該ポリイミドとグリシドールを反応させ、更には必要に応じて酸無水物を反応させることにより、一般式(1)で表される、一級のアルコール性水酸基を有するポリイミドシリコーンを製造する方法。
【化10】


[式(6)中、
k及びmは正の整数であり、0.01≦k/(k+m)<1を満たす。
Xは一般式(2)で表される四価の有機基である。
【化11】


(式(2)中、Rは、互いに独立に、炭素数1から8の一価炭化水素基であり、Rは、互いに独立に、三価の有機基であり、nはその平均が1から120の数である。)
Y’の少なくとも一部は下記一般式(7)で表される二価の有機基である。
【化12】



(式(7)中、Aは、
【化13】


のいずれかより選ばれる二価の有機基であり相互に同一又は異なっていてもよく、B、Cは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基または水素原子であり、相互に同一又は異なっていてもよく、aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜10の整数である。)
Wは前記X以外の四価の有機基である。]
【化14】


[式(1)中、X、W、k、mは前出のとおりであり、
Yは二価の有機基であり、その少なくとも一部は一般式(3)で表される。
【化15】


(式(3)中、Aは、
【化16】


のいずれかより選ばれる二価の有機基であり相互に同一又は異なっていてもよく、B、Cは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基または水素原子であり、相互に同一又は異なっていてもよく、aは0又は1であり、bは0又は1であり、cは0〜10の整数である。また、式(3)中Rは、フェノール性水酸基又はアルコール性水酸基含有有機基から選択される一価の基であり、Rの少なくとも1個は一級のアルコール性水酸基含有有機基である。)]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−94131(P2011−94131A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218836(P2010−218836)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】