説明

アルコール感増強剤

【課題】アルコールと有機酸を含む果汁および/または炭水化物を含む飲食品のアルコール感を増強させる。
【解決手段】アルコールと有機酸を含む果汁および/または炭水化物を含む飲食品に対し、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール感増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の背景などから、アルコール分を10%程度以下に低減した低アルコール飲料の市場が伸びている。また、飲酒運転禁止の社会的背景から、ノンアルコール飲料とされるアルコール分が1%未満の飲料の市場も伸びている。これらは、健康志向の面から糖質などを低減した低アルコール飲料などが、女性をターゲットとした商品では果汁を多く含んだ低アルコール飲料などが発売されている。これらの低アルコール飲料は、嗜好品としてアルコールを楽しむには、アルコール感が低いことが課題である。
【0003】
ポリグルタミン酸をアルコール飲料に用いる技術が報告されている(特許文献1参照)。その中にはポリグルタミン酸を飲料用剤として飲料に0.001%〜5%添加すると、従来の飲料にはない、粘性、口当たりの良さが得られることや、飲料の酸味が抑えられ、味がまろやかになることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平02−249474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述した特許文献1の発明は様々な飲料に対して、飲料の高粘性を付与することも目的であったため飲料に対して多くのポリグルタミン酸を添加する必要があった。その為、得られる効果についてもポリグルタミン酸を多く入れた時に発現するものしか記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成した。本発明は以下の各発明を包含する。
(1)0.01重量%以上10重量%以下のアルコールと、有機酸を含む果汁および/または炭水化物とを含む飲食品に対するアルコール感増強剤であり、前記アルコール感増強剤がポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を前記飲食品中に0.001重量%以上0.3重量%以下となるように添加するアルコール感増強剤。
(2)前記有機酸を含む果汁が10重量%以上85重量%以下含まれる飲食品に対する、上記発明(1)に記載のアルコール感増強剤。
(3)0.01重量%以上10重量%以下のアルコールと、炭水化物0.5重量%以上5重量%以下を含む飲食品に対するアルコール感増強剤であり、前記アルコール感増強剤がポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を前記飲食品中に0.005重量%以上0.015重量%未満となるように添加するアルコール感増強剤。
(4)0.01重量%以上10重量%以下のアルコールと、有機酸を含む果汁および/または炭水化物と、0.001重量%以上0.3重量%以下のポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含む、飲食品。
(5)ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩の重量平均分子量が1万以上100万以下であることを特徴とする、上記発明(4)に記載の飲食品。
(6)0.01重量%以上10重量%以下のアルコールと、有機酸を含む果汁および/または炭水化物と、0.001重量%以上0.3重量%以下のポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含む、低アルコール飲料。
(7)ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩の重量平均分子量が1万以上100万以下であることを特徴とする、上記発明(6)に記載の低アルコール飲料。
【0007】
本発明において、ポリ−γ−グルタミン酸(以下、γ−PGAとも呼ぶ。)とは、構成アミノ酸がグルタミン酸であり、γ位のカルボキシル基でペプチド結合している高分子化合物を指す。
【0008】
なお本発明は、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で置きかえたものも含む。
【0009】
たとえば、本発明によれば、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有するアルコール感増強剤を添加する工程を含む、飲食品の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を飲食品に含有させる、飲食品のアルコール感増強方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、アルコールと、有機酸を含む果汁および/または炭水化物とを特定量含む飲食品に対して、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を特定量添加することにより、該飲食品のアルコール感を増強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明におけるアルコール感とは、嚥下時以降に感じる、エタノールの味とそこから発する清涼感および/または重量感を意味する。のどごしが良いなどと表現されることもある。飲食の前や飲食中に鼻で感じるアルコール風味とは異なる。
アルコール感増強とは、アルコール濃度が増加したように、アルコール感が増加する状態を指しており、本発明のアルコール感増強剤は、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含有する。アルコール感増強剤の形態には特に制限はなく、粉末、顆粒、錠剤、液体、ゲル状等が例示され、作業性の点から粉末状または顆粒状が好ましい。飲食品に対するアルコール感増強剤の添加時期に特に限定はない。
【0012】
本発明に用いられるγ−PGAとして、たとえば納豆の粘質物中のγ−PGAを抽出して用いてもよく、納豆菌等のバチリス属の菌体外に分泌するγ−PGAを用いてもよい。また、納豆粘質物中の、あるいは納豆菌が同時に分泌するレバンを含んでいても何ら支障がない。また、所定の分子量のγ−PGAを得るには、当該分子量より大きいγ−PGAを酸あるいはγ結合を分解する腸内には存在しない特殊な酵素により低分子化する方法と、納豆菌等の培養により当該分子量のγ−PGAを分泌させる方法があるが、そのどちらのγ−PGAを用いてもよい。
【0013】
γ−PGAは一般にナトリウム塩として得られるが、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩等の他の金属塩あるいはフリーのポリグルタミン酸であってもよい。
【0014】
本発明において、γ−PGAの重量平均分子量は、アルコール感増強の観点では、例えば3000以上とすることが好ましく、5000以上とすることがさらに好ましく、1万以上とすることがより一層好ましい。
また、γ−PGAの重量平均分子量は、製造工程中の溶解性の点では、例えば300万以下とすることが好ましく、100万以下とすることがさらに好ましく、10万以下とすることがより一層好ましい。
なお、分子量が低いと溶液保存中に分解されやすく、また分子量が高すぎると水溶液の粘度が高すぎて取り扱いが困難となる。従って、医薬組成物や飲食品組成物としての取り扱いの観点から1万〜100万のγ−PGAを用いるのが好ましい。
なお、γ−PGAの重量平均分子量は、例えば、光散乱法により測定される。このとき、例えば測定波長633nm、上記波長におけるdn/dc(屈折率の濃度増分、溶媒100mMトリス塩酸(pH8.6)及び0.3MのNaCl)は、0.191である。
【0015】
本発明において、飲食品に含まれるアルコールは飲食品に用いられるものであれば特に限定はないが、特に断りのない限りエタノールを意味する。
本発明における飲食品全体に対するアルコールの割合は、アルコール感を増強させるという観点から0.01重量%以上であり、好ましくは0.3重量%以上である。アルコールの割合が0.01重量%未満であるとγ−PGAを添加してもアルコール感が増強しない。本発明の検討で、アルコールを含まない飲料にγ−PGAを添加してもアルコール感が増強しないことが判明したため、γ−PGA自体にアルコール感が存在するものではなく、アルコールと作用することによりアルコール感が増強することが判明した。
また飲食品全体に対するアルコールの割合は10重量%以下であり、好ましくは8重量%以下である。アルコールの割合がこれ以上であると、元々のアルコール感があることからアルコール感増強効果が識別できない。その為、本発明においては特にアルコール含量の低い飲食品、特に低アルコール飲料において有用である。本発明では、低アルコール飲料とはアルコール含量が0.01重量%以上10重量%以下のアルコール飲料を意味する。
【0016】
本発明において、飲食品に含まれる有機酸を含む果汁とは、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、グルコン酸などの有機酸を含む果実類の汁を指す。例えば、レモン、グレープフルーツ、オレンジなどの準仁果類、トマト、イチゴなどの果菜類、りんご、なし、びわなどの仁果類、ぶどう、パイナップルなどの漿果類、もも、うめ、あんず、さくらんぼなどの核果類の果実の絞り汁が挙げられる。
本発明における飲食品全体に対する有機酸を含む果汁の割合は、特に限定はないが、γ−PGAが果汁感も相乗的に向上させることが判明したため、2重量%以上が好ましく、10重量%以上がさらに好ましい。
また飲食品全体に対する有機酸を含む果汁の割合の上限に特に限定はないが、本願発明の飲食品ではアルコールと炭水化物とγ−PGAも構成成分になりえるため、それらを含有させるために85重量%以下とすると製品設計上好ましい。
【0017】
本発明において、飲食品に含まれる炭水化物とは、具体的には食物繊維や糖質などを意味し、糖質には単糖類や二糖類の糖分や糖アルコールやサイクロデキストリンなどの難消化性糖質やオリゴ糖が含まれる。炭水化物の中でも特に糖質は味を調整できる点で好ましい。
本発明における飲食品全体に対する炭水化物の割合は、特に限定はないが、γ−PGAと炭水化物との間の作用で飲食品のまろやかさ、コクを付与する効果が判明し、また炭水化物が含まれるとアルコール感が向上することが判明したため、0.5重量%以上であることが好ましい。
また飲食品全体に対する炭水化物の割合の上限に特に限定はないが、炭水化物の割合が5重量%以下に調製した飲食品は甘み、まろやかさを控えその他の味を際立たせるようバランスがとられていることから、γ−PGAを添加しすぎるとバランスが崩れ、同時にアルコール感の増強作用に影響を及ぼすと考えられる。従って、炭水化物の割合が5重量%以下の場合はγ−PGAの飲食品全体に占める割合は0.005重量%以上0.015重量%未満とすることで、より好ましいアルコール感の増強作用が見られた。
【0018】
炭水化物の量が0.5重量%以上5重量%以下のアルコール飲食物には、ビールのように果汁を含まないものもあるが、果汁を含むチュウハイのような飲食物もある。炭水化物の量が0.5重量%以上5重量%以下のアルコール飲食物に果汁を含む場合、飲食品全体に対する果汁量は0.1重量%以上5.5重量%以下が好ましい。果汁には炭水化物が含まれていることから、おのずと量が限定されるだけでなく、飲食品の甘みやまろやかさを整える上、味のバランスが得られアルコール感の増強作用が見られる。
【0019】
本発明において、飲食品とはアルコールと有機酸を含む果汁および/または炭水化物を所定量含むものであれば特に限定はないが、のどごしが良いなどと表現されるアルコール感増強の点から飲料が好ましい。
飲料の具体例として、アルコール濃度が10重量%以下の低アルコール飲料が挙げられる。さらに具体的には、アルコール分を0.01重量%以上含むノンアルコールビール、ビールや発泡酒などのビール系アルコール飲料、チューハイ系アルコール飲料、カクテル系アルコール飲料などが一例としてあげられる。また本願発明の低アルコール飲料は、炭酸の有無には関わらない。
また食品の例としては、アイスクリーム、シャーベット、ゼリー、ムース、チョコレート、ケーキ類等が挙げられる。さらに具体的には、アルコール感増強による爽快感の点で冷製の食品であるアイスクリーム、シャーベット、ゼリーなどが好ましい例としてあげられる。
【0020】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、これらはあくまで例示であり、種々の変形例も本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0021】
以下の実施例においては、γ−PGAとして、味の素株式会社製カルテイク(登録商標)を用いた。用いたγ−PGAの分子量は、3万程度であった。
【0022】
(実施例1)
[カクテル(グレープフルーツ)での評価]飲料の調製:醸造用アルコール(95%)0.84g、グレープフルーツ果汁(100%)15.2g、液糖0.45g、無水クエン酸0.22g、クエン酸ナトリウム0.055g、アセスルファムK0.05g、スクラロース0.002g、香料(グレープフルーツ)0.1g、水83gを混合したカクテルに対し、γ−PGAを0.005%、0.01%、0.03%配合して調製した。
【0023】
(実施例2)
[チューハイ(グレープフルーツ)での評価]飲料の調製:醸造用アルコール(95%)4.42g、グレープフルーツ果汁(100%)5.2g、液糖0.45g、無水クエン酸0.22g、クエン酸ナトリウム0.055g、アセスルファムK0.05g、スクラロース0.002g、香料(グレープフルーツ)0.1g、水32.1g、炭酸水60gを混合したカクテルに対し、γ−PGAを0.005%、0.01%、0.03%配合して調製した。
【0024】
(実施例3)
[カクテル(りんご)での評価]飲料の調製:醸造用アルコール(95%)0.84g、りんご果汁(100%)17.6g、液糖0.45g、無水クエン酸0.22g、クエン酸ナトリウム0.055g、アセスルファムK0.05g、スクラロース0.002g、香料(アップル)0.1g、水80.7gを混合したカクテルに対し、γ−PGAを0.005%、0.01%、0.015%、0.03%、0.05%配合して調製した。
【0025】
(実施例4)
[チューハイ(グレープフルーツ)での評価]飲料の調製:商品名「本搾りチューハイ グレープフルーツ」(メルシャン株式会社製)(果汁28%、アルコール6%、糖質2.5%)を用い、これにγ−PGAを0.005%、0.015%、0.03%添加配合した。
【0026】
(実施例5)
[カクテル(トマト)での評価]飲料の調製:商品名「トマーテ」(アサヒビール株式界社製)(トマト果汁45%、レモン果汁5%、アルコール5%、糖質4.1%)を用い、これにγ−PGAを0.005%、0.01%、0.015%、0.03%、0.05%配合して調製した。
【0027】
(実施例6)
[カクテル(野菜)での評価]飲料の調製:商品名「ベジーテ」(アサヒビール株式会社製)(野菜汁20%、果汁20%、アルコール4%、糖質8.1%)を用い、これにγ−PGAを0.005%、0.01%、0.015%、0.03%、0.05%配合して調製した。
【0028】
(実施例7)
[アルコール1%未満ビールでの評価]飲料の調製:商品名「ファインブリュー」(サントリー株式会社製)(糖質3.8%、アルコール分0.5%)を用い、これにγ−PGAを0.005%、0.01%、0.015%、0.03%、0.05%配合して調製した。
【0029】
(比較例1)
「糖質ゼロビールでの評価」飲料の調製:商品名「アサヒスタイルフリー」(アサヒビール株式会社製)(糖質0.5%未満、アルコール分4%)を用い、これにγ−PGAを0.005%、0.01%、0.015%、0.03%、0.05%配合して調製した。
【0030】
実施例1ないし7、比較例1について官能評価を行い、結果を表1にまとめた。官能評価は専門のパネル3名により各々無添加品と比べての差の大きさを−3(弱い)〜+3(強い)で評価した(評点は0.1刻み)。評点の平均が+0.1以上の評点の時“+”、+0.5以上の時“++”、−0.1以下の時“−”、−0.1から+0.1の時“±”と記述し、実験を行っていない部分は斜線とした。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれは、アルコールと有機酸を含む果汁および/または炭水化物とを特定量含む飲食品に対して、ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を特定量添加することにより、該飲食品のアルコール感を増強することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01重量%以上10重量%以下のアルコールと、有機酸を含む果汁および/または炭水化物とを含む飲食品に対するアルコール感増強剤であり、前記アルコール感増強剤がポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を前記飲食品中に0.001重量%以上0.3重量%以下となるように添加するアルコール感増強剤。
【請求項2】
前記有機酸を含む果汁が10重量%以上85重量%以下含まれる飲食品に対する、請求項1に記載のアルコール感増強剤。
【請求項3】
0.01重量%以上10重量%以下のアルコールと、炭水化物0.5重量%以上5重量%以下を含む飲食品に対するアルコール感増強剤であり、前記アルコール感増強剤がポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を前記飲食品中に0.005重量%以上0.015重量%未満となるように添加するアルコール感増強剤。
【請求項4】
0.01重量%以上10重量%以下のアルコールと、有機酸を含む果汁および/または炭水化物と、0.001重量%以上0.3重量%以下のポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含む、飲食品。
【請求項5】
ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩の重量平均分子量が1万以上100万以下であることを特徴とする、請求項4に記載の飲食品。
【請求項6】
0.01重量%以上10重量%以下のアルコールと、有機酸を含む果汁および/または炭水化物と、0.001重量%以上0.3重量%以下のポリ−γ−グルタミン酸またはその塩を含む、低アルコール飲料。
【請求項7】
ポリ−γ−グルタミン酸またはその塩の重量平均分子量が1万以上100万以下であることを特徴とする、請求項6に記載の低アルコール飲料。

【公開番号】特開2009−268400(P2009−268400A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121175(P2008−121175)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】