説明

アルツハイマー病およびニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の病気を治療および予防するための中鎖トリグリセリドの使用

【課題】アルツハイマー型の老人性痴呆の発症、または、ニューロンの代謝の減少により生じ、認識機能の減少をもたらす他の症状の発症を、治療または予防するための方法および組成物の提供。
【解決手段】中鎖トリグリセリド、中鎖トリグリセリドから誘導された遊離の脂肪酸、または中鎖トリグリセリドプロドラッグが約0.5g/kg/日〜約10g/kg/日の用量を与えるような量で含み、L−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体が約0.5mg/kg/日〜約10mg/kg/日の用量を与えるような量で含まれ、乳化された医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、アルツハイマー病およびニューロンの代謝の減少に関連する他の病気を治療するための治療剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アルツハイマー病(AD)は、進行性の神経変性疾患であり、主として年配層に影響を及ぼす。ADには、早期発症と晩期発症の2種の型がある。早期発症のADはまれであり、感受性の強い個体は30歳代もの早期に罹患し、しばしば遺伝子のわずかな部分における突然変異に関連する。晩期発症のADが一般的であり、70歳代または80歳代で罹患し、多くの遺伝的な危険因子を有する多因子性の病気である。晩期発症のADは、65歳を超える人における痴呆の主要原因である。65歳を超えるアメリカ人の人口の推定7〜10%、80歳を超えるアメリカ人の人口の40%までが、ADに悩まされている(McKhann et al., 1984; Evans et al. 1989)。病気の初期において、患者は記憶を失ったり定位力の損失を経験する。病気が進行するにつれて、さらに認識機能が失われ、患者は完全に無能化する。ADを発症する事象の連鎖を説明する多くの学説が提唱されてきたが、本出願の時点では、その原因は未知のままである。現在、ADの効果的な予防または治療はない。今日市場に出ているADを治療する唯一の薬剤、Aricept:登録商標およびCognex:登録商標は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤である。これらの薬剤は、ADの根本的な病理に向けられたものではない。それらは単に、まだ機能することのできる神経細胞の有効性を増強させるだけである。病気は続くため、この治療の利益はわずかである。
【0003】
ADの早期発症はまれであり(〜5%)、60歳前に発症し、しばしば3種の遺伝子、すなわちプレセニリン1(PS1)、プレセニリン2(PS2)およびアミロイド前駆体タンパク質(APP)における突然変異に関連する(報告として、Selkoe, 1999を参照)。これら早期発症ADの症例は、晩期発症ADで見出されるのと類似した認識機能低下や神経病理学的な障害を示す。ADは、老人斑(SP)や大脳血管における、神経原線維変化(NFT)の蓄積やβ−アミロイドの沈着を特徴とする。老人斑の主要構成はβ−アミロイドペプチド(Aβ)であり、これはAPPタンパク質からタンパク質分解によるプロセシングにより誘導される。プレセニリンタンパク質は、APPの開裂を容易にすることができる。Aβペプチドは、アミロイドジェニック(amyloidagenic)であり、ある種の条件下で不溶性の原線維を形成し得る。しかしながら、Aβペプチドおよび原線維の毒性が論議の的になっている。いくつかの場合において、Aβが神経毒性であることが示され、一方で、他者はAβが神経栄養性であることを見出している(報告として、Selkoe, 1999を参照)。早期発症ADの原因は、感受性の強いニューロンにおいて凝集タンパク質が蓄積することであると仮定される。APPにおける突然変異は原線維Aβの直接的な蓄積を引き起こすと仮定され、その一方で、PS1またはPS2における突然変異はAβの間接的な蓄積を引き起こすとの仮説が提唱されている。PS1およびPS2における様々な突然変異がどのようにAβの蓄積の増加を引き起こすは解明されていない。凝集タンパク質の蓄積は、アミロイド側索硬化症(Amyloid Lateral Sclerosis)(ALS)やハンチントン病を含む多くの進行性神経変性疾患に共通する(報告として、Koo et al., 1999を参照)。証拠によれば、凝集タンパク質の蓄積は、細胞の代謝とATP生産を阻害することが示唆される。この報告に一致して、クレアチンでニューロンのエネルギー容量を緩衝することにより、トランスジェニックマウスモデルにおいてALSの発症を遅らせ得ることが見出された(Klivenyi et al., 1999)。多くのADに関する先行技術は、Aβペプチドの生産または凝集を阻害することに焦点が当てられており、例えば、米国特許第5,817,626号、米国特許第5,854,204号および米国特許第5,854,215号である。ADを治療する他の先行技術としては、米国特許第5,385,915号の「Treatment of amyloidosis associated with Alzheimer disease using modulators of protein phosphorylation」、米国特許第5,538,983号の「Method of treating amyloidosis by modulation of calcium」の特許がある。神経成長因子を用いてニューロンの残存を増加させる試みは、細胞全体、遺伝子またはタンパク質の運搬のいずれかを扱っており、例えば、米国特許第5,650,148号の、「Method of grafting genetically modified cells to treat defects, disease or damage of the central nervous system」、および米国特許第5,936,078号の「DNA and protein for the diagnosis and treatment of Alzheimer’s disease」に記載されている。
【0004】
AD症例のほとんど大多数(〜95%)が晩期発症であり、70歳代、80歳代で発症する。晩期発症ADは、APP、PS1またはPS2の突然変異に関連しないが、早期発症ADで見出されるのと類似した神経病理学的な障害や徴候を示す。晩期発症ADが最も一般的な形態であるため、本明細書中では晩期発症ADをADと称するが、早期発症ADもそのように称する。早期発症ADと晩期発症ADの類似した神経病理学および外面的な徴候により、「ADのアミロイドカスケード仮説」が導かれた(Selkoe, 1994)。このモデルは、早期および晩期発症ADのいずれも、毒性アミロイド沈着の蓄積に起因するということを支持する。このモデルによれば、早期発症の症例においてアミロイドは急速に蓄積し、一方で、晩期発症の症例においてアミロイドはゆっくり蓄積することが推測される。ADの予防および治療に関する多くの研究は、アミロイド蓄積の抑制に焦点が当てられている。しかしながら、アミロイドカスケード仮説が議論の的になっている。アミロイド蓄積は、この病気に関するマーカーであり得るが、原因ではない。ADの神経病理学に関するアルツハイマー博士の初期の著作の翻訳によれば、老人斑が原因であるという見解に不賛成であることが書かれている。彼は、「これらの変化は、基底核、骨髄、小脳および脊髄で見出されるが、これらの部位やそれらを単に分離したものに斑は全く存在しない。従って我々は、斑は、老人性痴呆の原因ではなく、単に中枢神経系の老人性退化の特徴に伴うものである、と結論付けなければならない。」と記述されている。下線は彼自身による(Davis and Chisholm, 1999)。長年の研究によってもこの問題は解決されていない(アミロイド仮説の報告として、Selkoe, 1999を参照、反対の説の報告として、Neve et al., 1998を参照)。本発明は、ADに関連するニューロンの代謝の減少を扱っており、アミロイドカスケード仮説の妥当性を頼るものではない。
【0005】
晩期発症ADの感受性に寄与する数種の遺伝的危険因子が提唱されている。しかしながら、晩期発症ADに関する遺伝的危険因子として再現性良く定義されたのは、脂質輸送分子であるアポリポタンパク質E(apoE)における対立遺伝子変異のみである。受容体が仲介する脂質豊富なリポタンパク質の内在化プロセスにおいて、apoEはリガンドとして機能する。これらリポタンパク質複合体は、リン脂質、トリグリセリド、コレステロールおよびリポタンパク質を含む。数種のよく特徴付けられた対立遺伝子変異は、apoE遺伝子座に存在し、apoE2、E3およびE4と称される。apoE4は、ADの危険増大に関連するが、apoE2およびE3は関連しない。E4対立遺伝子の供与量を増やすことで、ADの危険度が増え、発症の年齢が低下する。しかしながら、apoE4は、ADの不変的な原因ではない。E4対立遺伝子に関してホモ接合である個体のうちいくらかは、90歳代に入ってもADの徴候を示さない(Beffert et al., 1998)。
【0006】
apoE4がADに関連するという報告により、高いE4対立遺伝子罹患率を示す集団が高いAD発病率を有し得ることも予測される。しかし、その反対が正しいようである。地理学的に異なる集団は、apoE対立遺伝子の頻度が異なる。例えば、E4変異体は、英国よりアフリカにおいてかなり一般的である。南アフリカ人の黒色人種とイギリス国ケンブリッジ出身の白色人種の研究において、apoE4対立遺伝子が、白色人種が20.8%であったのに比べ、南アフリカ人の黒色人種では48%に存在した(Loktionov et al, 1999)。実際、E4対立遺伝子は、アフリカに広く分布する(Zekraoui et al, 1997)。発展途上国ではADに関して研究することは難しいが、行われた研究によれば、アフリカの地域社会におけるADの発病率は、米国の6%に対して1%と非常に低いことが示される(Hall et al, 1998)。さらにより印象的なのは、通常は強固なADとapoE4との関連が、アフリカ人の症例では見出されないことである(Osuntokun et al, 1995)。これは、その土地で生まれたアフリカ人と、大多数がヨーロッパ系である米国民とではなにかが異なることを示す。おそらく、アフリカ人集団は、彼らをADから保護するなんらかの他の遺伝的因子を有するのかもしれない。これはありそうもなく、なぜなら、米国、インディアナ州、インディアナポリス出身のアフリカ系アメリカ人の集団におけるAD発病率(6.24%)が、ナイジェリア国、イバダンにおける民族学的に類似した集団のAD発病率(1.4%)より、かなり高いことが見出されているためである(Hall et al, 1998)。これは、apoE4とADとの関連がなんらかの強力な環境的要素を含むことを示す。
【0007】
apoE4は、祖先伝来の対立遺伝子であり、チンパンジーや他の霊長類で見出されたapoE4に非常に類似しているが、一方で、E2およびE3対立遺伝子は、もっぱらヒト系統のみに生じる(Hanlon and Rubinsztein, 1995)。おそらく、apoEにおける変化は、ヒト先祖における食物の変化によってもたらされた可能性がある。E2およびE3対立遺伝子は、農業へ順応したような集団において発生し得る(Corbo and Scacchi, 1999)。
【0008】
ヒト循環系におけるapoE4の代謝は、ADに関連しないapoE3対立遺伝子と異なる(Gregg et al., 1986)。E4対立遺伝子は、循環性リポタンパク質のうち並外れて高レベルのものに関連する(Gregg et al., 1986)。特に、E4対立遺伝子は、VLDLクリアランスの速度を減少させ、それにより、血中VLDLおよびLDL粒子レベルをより高くする(Knouff, et al. 1999)。VLDLおよびLDL粒子は、HDL粒子より高いレベルのトリグリセリドを含む。apoE4を有する個体における循環性VLDLレベルの増加は、カイロミクロンおよびVLDL粒子に対するapoE4の優先的な結合によって引き起こされる脂肪酸の利用が減少することによる。先行技術は、非効率的なリン脂質のニューロンへの運搬によってapoE4がADに寄与することを示唆してきた(報告として、Beffert et al., 1998を参照)。しかしながら、apoE4は、トリグリセリド使用の減少にも寄与する。
【0009】
中枢神経系(CNS)において、apoEは、コレステロールおよび脂質の輸送および再分配において中心的な役割を行う。脳におけるapoEの重要性は、脳におけるapoAlやapoBのような他の重要な血漿アポリポタンパク質の不在によって強調される(Roheirm et al., 1979)。apoEのmRNAは、主としてCNSにおける星状細胞で見出される。星状細胞は、ニューロンの支持細胞として機能し、エネルギーのため脂肪酸を効率的に利用することができる。脳は他のアポリポタンパク質を欠いているため、トリグリセリドを含む脂質輸送に関してもっぱらapoEに依存する。ADにおけるapoEの役割に関する先行技術はリン脂質輸送に焦点を当てているが、apoEはまた、遊離の脂肪酸をトリグリセリドの形態で星状細胞に運搬する。リポタンパク質によって運搬された脂肪酸は、グルコースの代替エネルギー源として使用されるために、星状細胞によってケトン体に変換することができる。ニューロンのリモデリング仮説(neuronal remodeling hypothesis)の代替説は、apoE4とVLDL粒子との優先的な結合が、星状細胞のトリグリセリドへの有効な接近を防ぐという説である。トリグリセリドへの接近を減少させることによって、脂肪酸の利用可能性を減少させ、ケトン体の生産を減少させ、それにより大脳のニューロンのための代替エネルギー源を減少させる。このエネルギー供給における減少は、グルコース代謝が低下する場合に、決定的になり得る。
【0010】
代謝とアルツハイマー病 本出願の時点では、ADの原因は未知のままであるが、アルツハイマー病はニューロンの代謝の減少と関連することが証拠の大部分により明白に示される。1984年に、BlassとZemcovは、ADは、コリン作動性ニューロンの部分母集団における代謝速度の低下に起因することを提唱した。しかしながら、ADは、コリン作動系に限定されず、多くのタイプの伝達系および数種の個別の脳領域と関係することが明らかになった。陽電子放射断層撮影により、AD患者の脳における低いグルコース利用が明らかになり、この障害のある代謝は、痴呆の臨床徴候が現れる前によく検出され得る(Reiman et al., 1996; Messier および Gagnon, 1996; Hoyer, 1998)。加えて、ADの脳では、皮質のソマトスタチン細胞のようなある種の細胞集団がより小さく、ゴルジ体が減少し、いずれも代謝活性の低下を示す(報告として、Swaab et al. 1998を参照)。AD患者と健康体とにおいて皮質の代謝率を測定したところ、AD患者のグルコース代謝において20〜40%の減少が示された(Hoyer, 1992)。グルコース代謝の減少により、AD患者のATPレベルが決定的に低くなる。また、代謝減少の深刻度が、老人斑密度と互いに関連することが見出された(Meier-Ruge, et al. 1994)。
【0011】
加えて、AD患者において、インスリンシグナル伝達およびグルコース利用に関する分子成分が損なわれる。グルコースは、血液脳関門を渡って輸送され、成人の脳において主要な燃料源として用いられる。大量のグルコース利用と一致して、哺乳動物の脳、特に学習と記憶に関して重要な皮質と海馬の領域は、インスリンおよびIGFに関する受容体を十分に備えている(Frolich et al., 1998)。ADと診断された患者において、インスリン受容体密度の増加が多くの脳領域で観察されたが、それにもかかわらず、通常インスリン受容体に関連するチロシンキナーゼ活性のレベルは低くなり、いずれも年齢に適合した制御に関連する(Frolich et al., 1998)。受容体密度の増加は、受容体活性の減少を補填するために受容体レベルを増加させる(up-regulation)ことを意味する。インスリン受容体の活性化は、ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K)を刺激することが知られている。PI3K活性は、AD患者において減少する(Jolles et al., 1992; Zubenko et al., 1999)。その上、脳の主要なグルコース輸送体であるGLUT1およびGLUT3の密度は、年齢に適合した制御の50%であることが見出された(Simpson and Davies 1994)。ADにおける障害のあるグルコース代謝により、ADは、脳に関して、II型糖尿病と類似したインスリン耐性型であり得る、という示唆が導き出される(Hoyer, 1998)。インスリン受容体活性の阻害は、ラット脳において、インスリン受容体の既知阻害剤であるストレプトゾトシンの脳室内注入により外因的に誘導することができる。これらの動物は、学習と記憶に関する進行性の異常を起こす(Lannert および Hoyer, 1998)。AD患者の脳においてグルコース利用が損なわれる一方で、ケトン体、β−ヒドロキシブチレートおよびアセトアセテート(acteoacetate)の使用は影響を受けない(Ogawa et al. 1996)。
【0012】
ADにおけるニューロンの代謝の減少の原因は、未知のままである。しかしながら、加齢により、ADにおけるグルコース代謝の減少を悪化させ得る。グルコース摂取によるインスリン刺激は高齢者で損なわれ、インスリン作用の減少やインスリン耐性の増加をもたらす(報告として、Finch および Cohen, 1997を参照)。例えば、グルコースを与えた後、平均血漿グルコース値は、65歳超の被験者において、より若い被験者より10〜30%高くなる。従って、ADに関する遺伝的な危険因子によりもたらされる脳において僅かに低下したニューロンの代謝の低下をもたらし得る。これらの欠陥は、グルコース代謝が損なわれる晩年にのみはっきりと現れ、それによりAD発症に寄与する。グルコース利用における欠陥がADの脳に限られるため、肝臓は脳の状態に「気付かず」、脂肪酸を結集させない(以下の脳の代謝の節を参照)。ケトン体をエネルギー源に用いることなく、AD患者の脳のニューロンは、ゆっくりと、確実に餓死する。
【0013】
AD患者における皮質の代謝率減少を補填する試みのいくつかは成功を収めている。グルコースとインスリンの大量投与によるAD患者の治療は、認識スコア(cognitive scores)を増す(Craft et al., 1996)。しかしながら、インスリンはポリペプチドであり、血液脳関門を渡って輸送されなければならないため、脳への運搬は複雑である。従って、インスリンは全身投与される。血流中へのインスリン大量投与は、インスリン過剰血症を起こす可能性があり、これは、他の組織に不具合を起こし得る。これら双方の欠陥は、このタイプの治療を困難にし、複雑さを蔓延させる。従って、皮質の代謝率を増し、続いてアルツハイマー病に罹った患者の認識力を増すことのできる薬剤の必要性が依然としてある。
【0014】
脳の代謝 脳は、非常に高い代謝率を示す。例えば、脳は、休息状態で消費される総酸素量の20%を使用する。脳のニューロンは、全般の細胞機能、電位の維持、神経伝達物質の合成、シナプスのリモデリングのために大量のATPを必要とする。現在のモデルにおいて、正常な生理学的条件下では、成人の脳のニューロンはエネルギーに関してグルコースのみに依存することが提唱される。ニューロンはグリコーゲンを貯蔵しないため、脳は、適切な機能のために、血液からのグルコースの連続提供に依存している。ニューロンは、高度に特化しており、グルコースやケトン体のような数種のサブストレートしか効果的に代謝できない。この限定された代謝能力のために、脳のニューロンは、エネルギーサブストレートの変化に対して極めて弱い。従って、脳へのグルコース運搬が突然中断されると、ニューロンの損傷が引き起こされる。しかしながら、絶食時のように、グルコース量が徐々に低下し、ニューロンがグルコースの代わりにケトン体を代謝し始め、ニューロンの損傷は起こらない。
【0015】
ニューロンの支持細胞、すなわちグリア細胞は、代謝に関してはるかに多様であり、多くのサブストレートを代謝することができ、特に、グリア細胞は、細胞呼吸のために脂肪酸を利用できる。脳のニューロンは、脂肪酸を効率的に酸化できず、そのために他の細胞、例えば肝細胞や星状細胞により脂肪酸を酸化させ、ケトン体を生産させる。ケトン体は、脂肪酸の不完全な酸化により生産され、グルコース量が低い場合に体を介してエネルギーを供給するのに用いられる。炭水化物豊富な通常の西洋式食餌において、インスリンレベルは高く、脂肪酸は燃料としては利用されず、そのため血液中のケトン体レベルは非常に低く、脂肪は貯蔵され、用いられない。このような筋書きは、肥満の蔓延を説明している。
【0016】
現在のモデルは、新生児の発育時や飢餓のような特別な状態においてのみ、脳がケトン体を燃料として利用し得ることを提唱する。脂肪酸の部分的酸化により、D−β−ヒドロキシブチレート(D−3−ヒドロキシブチレート)とアセトアセテートが生成するが、これらは、アセトンも含め、ケトン体と総称される。哺乳動物の新生児は乳により成長する。乳の主要な炭素源は脂肪である(炭水化物は乳のカロリー内容の12%未満を構成する)。乳の脂肪酸は、酸化されてケトン体を生成し、次にケトン体は血中に拡散し、成長のためのエネルギー源を提供する。成長中の哺乳動物の新生児の脳における好ましい呼吸サブストレートはケトン体であることが、多数の研究により示されている。この観察に一致して、星状細胞、乏突起神経膠細胞およびニューロンは全て、有効なケトン体代謝能力を有することが生化学的に見出された(報告として、Edmond, 1992を参照)。しかしながら、脂肪酸を有効に酸化できるのは星状細胞のみである。
【0017】
体は、通常、少量のケトン体しか生産しない。しかしながら、ケトン体は迅速に利用されるため、ケトン体の血中濃度は非常に低い。血中ケトン体濃度は、低炭水化物食餌により、絶食中、または糖尿病において上昇する。低炭水化物食餌中の血中グルコースレベルは低く、膵臓のインスリン分泌は刺激されない。このため、グルコースが制限される場合の燃料源として使用するために脂肪酸の酸化が引き起こされる。同様に、絶食中または飢餓中において、肝臓の貯蔵グルコースが急速に枯渇し、脂肪が代謝され、ケトン体の形態になる。低炭水化物食餌および絶食の双方における血中グルコースレベルは急速に低下しないため、体は血中ケトン体レベルを増やす時間を持つ。血中ケトン体の上昇は、脳に代替燃料源を提供し、細胞の損傷は起こらない。脳がこのような高いエネルギー要求を有するため、肝臓は、体がケトン体でまったく満たされるまで大量の脂肪酸を酸化する。従って、不充分なケトン体源に貧弱なグルコース利用が加わった場合、深刻なニューロン損傷が引き起こされる。グリア細胞はかなり多様なサブストレートを利用できるため、ニューロンに比べてグルコース代謝における障害の影響を受けにくい。これは、グリア細胞がADにおいて変質、死滅しないという研究結果に一致する(Mattson, 1998)。
【0018】
代謝とアルツハイマー病の項で説明したように、ADにおいて、脳のニューロンはグルコースを利用することができず、餓死に至る。この欠陥は脳に限定され、周辺のグルコース代謝は正常であるため、体は、ケトン体生産を増加させず、それゆえに脳のニューロンはゆっくりと餓死に至る。従って、AD患者において低下したグルコース代謝を示す、脳細胞のためのエネルギー源が依然として求められる。低下したグルコース代謝は、ADの特徴である。それゆえに、このような薬剤の投与は、ADに罹ったものに対する有益性を示す。
【0019】
中鎖トリグリセリド(MCT) MCTの代謝は、MCTの物理的特性やそれらに対応する中鎖脂肪酸(MCFA)により、より一般的な長鎖トリグリセリド(LCT)とは異なる。MCFAの鎖長さが短いために、それらはより低い融解温度を有し、例えば、LCFA(C16:0)の融点が61.1℃であるのに対し、MCFA(C8:0)の融点は16.7℃である。そのため、MCTとMCFAは、室温で液体である。MCTは生理学的なpHにおいて高度にイオン化されており、そのため水溶液中でLCTに比べてかなり高い溶解性を有する。また、MCTの増強された溶解性およびサイズの小ささにより、微細なエマルション粒子が形成される速度が高められる。これら微細なエマルション粒子は、胃腸のリパーゼが作用するための表面積の増加をもたらす。加えて、中鎖2−モノグリセリドは、長鎖のものよりも迅速に異化され、より迅速に加水分解される。十二指腸前(pre- duodenum)におけるいくつかのリパーゼは、優先的にMCTをMCFAに加水分解し、次に直接胃粘膜によって一部吸収される(Hamosh, 1990)。胃で吸収されないMCFAは、直接門脈に吸収され、リポタンパク質中にパッケージされない。LCFAは、キロミクロンにパッケージされ、リンパ系を経由して輸送され、一方、MCFAは血液を介して輸送される。血液はリンパ系よりかなり迅速に輸送するため、肝臓は迅速にMCFAを潅流する。
【0020】
MCFAの肝臓における主要な代謝の結末は酸化である。LCFAの肝臓における結末は、生物の代謝状態に依存する。LCFAは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIを用いた酸化のためにミトコンドリアに輸送される。状況が脂肪貯蔵に偏っている場合、脂質生成における中間体としてマロニル−CoAが生産される。マロニル−CoAは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIをアロステリック阻害し、それによってLCFAのミトコンドリアへの輸送を阻害する。このフィードバックメカニズムは、脂質分解および脂質生成の無益回路を妨ぐ。MCFAは、大部分、LCFAの酸化を制御する調節を受けない。MCFAの大部分は、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIを用いることなくミトコンドリアに入るため、MCFAはこの調節段階をバイパスし、生物の代謝状態に関わらず酸化される。重要なことには、MCFAは肝臓に速やかに入り、迅速に酸化されるので、大量のケトン体がMCFAから速やかに生産される。
【0021】
多数の特許はMCTの使用に関する。これらの特許のいずれも、アルツハイマー病の治療および予防に関するMCTの特定の使用には関していない。米国特許第4,528,197号の「Controlled triglyceride nutrition for hypercatabolic mammals」、および、米国特許第4,847,296号の「Triglyceride preparations for the prevention of catabolism」のような特許は、やけどや他の深刻な外傷で起こる全身の物質分解代謝を防ぐMCTの使用に関する。本明細書中に記載された各特許は、その全体を引用することによって本明細書に含まれる。
【発明の概要】
【0022】
発明の要約
本発明は、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法を提供し、当該方法は、有効量の中鎖トリグリセリドを、前記治療または予防を必要とする患者へ投与することを含む。投与は、経口的または静脈内的であり得る。当該中鎖トリグリセリドは、乳化することができ、L−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体と併用投与することができる。
【0023】
また本発明は、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法を提供し、当該方法は、中鎖トリグリセリドから誘導された遊離の脂肪酸の有効量を前記治療または予防を必要とする患者に投与することを含む。
【0024】
本発明はまた、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法を提供し、当該方法は、有効量の中鎖トリグリセリドプロドラッグを前記治療または予防を必要とする患者に投与することを含む。
【0025】
本発明はまた、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法を提供し、当該方法は、脂肪酸の利用およびケトーシスの発達を誘導する治療剤の有効量を前記治療または予防を必要とする患者に投与することを含む。
【0026】
本発明はさらに、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防のための治療剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な記述
本発明の新しい見識は、AD患者の治療および予防手段として、中鎖トリグリセリド(MCT)およびそれに関連する脂肪酸が有用であることにある。MCTは、炭素鎖長5〜12の脂肪酸で構成される。MCT豊富な食餌は、高い血中ケトンレベルをもたらす。高い血中ケトンレベルにより、グルコース代謝が低下した脳細胞に、MCFAのケトン体への迅速な酸化によってエネルギー源が供給される。
【0028】
本発明は、この発見の背景により以下のように裏付けられる。(1)脳のニューロンは、呼吸のためにグルコースとケトン体双方を使用できる。(2)アルツハイマー病患者のニューロンは、グルコース代謝における欠陥を有し、これは文献でかなり証明されている。(3)アルツハイマー病に関する既知の遺伝的な危険因子は、脂質およびコレステロールの輸送に関連し、トリグリセリド使用における欠陥がアルツハイマー病の感受性の基礎となり得ることを示す。(4)MCT豊富な食餌は、血中ケトン体量の増加をもたらし、それによって飢餓状態の脳ニューロンにエネルギーを供給する。従って、アルツハイマー病患者にMCTを補うことによって、ニューロンの代謝を取り戻すことができる。
【0029】
本発明は、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法を提供し、当該方法は、有効量の中鎖トリグリセリドを前記治療または予防を必要とする患者に投与することを含む。一般的に、有効量とは、(1)治療が求められる病気の症状を減少させること、または(2)治療が求められる病気の治療に関連して薬理学的な変化を誘導すること、のいずれかに対して有効な量である。アルツハイマー病に関して、有効量は、認識スコアを増すこと、痴呆の進行を遅くすること、または、罹患した患者の余命を長くすること、に対して有効な量を含む。本明細書で用いられるように、本発明の中鎖トリグリセリドは、以下の式で示される。
【0030】
【化1】

【0031】
式中、Rl、R2およびR3は、炭素主鎖において炭素鎖長5〜12である脂肪酸である。本発明で構築された脂質は、当業界で既知の方法のいずれか、例えば、直接のエステル化、転位、分画法、エステル交換反応などによって調製することができる。例えば、上記脂質は、ココナッツ油のような植物油の転位によって調製することができる。
【0032】
好ましい実施形態において、上記方法はMCTの使用を含み、ここでRl、R2、およびR3は、6個の炭素からなる主鎖を含む脂肪酸(トリ−C6:0)である。トリ−C6:0MCTは、多数のモデル系において消化管で非常に迅速に吸収される(Odle 1997)。高速の吸収により、肝臓での迅速な潅流、有効なケトン生成応答がもたらされる。加えて、トリ−C6:0MCTの利用は、乳化によって増強することができる。脂質の乳化により、リパーゼが作用するための表面積が増加し、より迅速な加水分解をもたらす。これらトリグリセリドの乳化方法は、当業者にとって周知である。
【0033】
他の好ましい実施形態において、本発明は、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法を提供し、当該方法は、中鎖トリグリセリドから誘導され得る遊離の脂肪酸の有効量を前記治療または予防を必要とする患者に投与することを含む。このような脂肪酸は、本明細書において、遊離の中鎖脂肪酸または遊離の脂肪酸と称される。MCTが代謝されて中鎖脂肪酸が生成し、それらは酸化されるので、遊離の脂肪酸および/またはケトン体の投与は、MCTそれ自身を投与するのと同じ効果を有する。
【0034】
他の好ましい実施形態において、本発明は、乳化したトリ−C6:0MCTと、L−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体とを併用投与することを含む。MCTがL−カルニチンと組み合わされた場合、MCFAの酸化がわずかに増加することがわかっている(Odle, 1997)。従って、本発明において、乳化したトリ−C6:0MCTは、前記MCTの利用を増すのに必要な投与量でL−カルニチンと組み合わされる。L−カルニチンとMCTの投与量は、ホストの状態、運搬方法、または当業者にとって既知の他の要素に従って、変えることができ、アルツハイマー病を治療および予防するのに必要な程度、血中ケトン量を高めるのに十分な量であり得る。本発明で用いることのできるL−カルニチン誘導体は、これらに限定されないが、デカノイルカルニチン、ヘキサノイルカルニチン、カプロイルカルニチン、ラウロイルカルニチン、オクタノイルカルニチン、ステアロイルカルニチン、ミリストイルカルニチン、アセチル−L−カルニチン、O−アセチル−L−カルニチン、およびパルミトイル−L−カルニチン等がある。
【0035】
上記治療剤の治療上の有効量は、望ましい抗痴呆効果をもたらすのに十分な量または投与量のいずれでもよく、ある程度、症状の重篤度や段階、患者の大きさや症状、同様に当業者にとって既知の他の要素に依存する。供与量は、1回の投与で与えても数回の投与で与えてもよく、例えば、数週間にわたって分割しても良い。
【0036】
1つの実施形態において、MCT(MCT’s)または脂肪酸は、経口で投与される。他の実施形態において、MCT(MCT’s)は、静脈内に投与される。MCT(MCT’s)の経口投与および静脈内のMCT溶液の調製は、当業者にとって周知である。
【0037】
MCTまたは脂肪酸の経口および静脈内投与は、高ケトン血症状(hyperketonernia)を引き起こす。高ケトン血症状により、グルコース存在下でさえ、ケトン体が脳中でエネルギーとして利用される。加えて、高ケトン血症状は、皮質の血流量の実質的な増加(39%)をもたらす(Hasselbalch et al. 1996)。高ケトン血症は、正常なヒトにおける全身性の低血糖症に関連する認識機能不全を減少させることが報告されている(Veneman et al. 1994)。全身性の低血糖症が、ADで起こる局所的なグルコース代謝異常とは区別されることに留意されたい。他の実施形態において、本発明は、1以上のプロドラッグの形態の目的化合物を提供し、当該化合物は、レシピエントホストによって代謝的に目的化合物に変換され得る。本明細書で用いられるように、プロドラッグは、体内で化学的変化を経た後に薬理活性を示す化合物である。前記プロドラッグは、血中ケトン体を、アルツハイマー病発症を治療および予防するのに必要なレベルまで血中ケトン体を増すのに必要な供与量で投与され得る。広範な種類のプロドラッグ製剤が当業界で既知である。例えば、プロドラッグの結合は、例えばエステルまたは無水物のように加水分解可能であり、または、例えばアミドのように酵素的に生分解可能である。
【0038】
本発明はまた、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防のための、中鎖トリグリセリドを含む治療剤を提供する。好ましい実施形態において、当該治療剤は、様々な容器(containers)に組み入れられた単位投与形態を含む組成物の、管理上便利な製剤を提供する。MCTの供与量は、好ましくは、ADやニューロンの代謝の減少による他の症状に苦しむ患者の認識能力を増すのに十分な濃度のケトン体を生産するために有効な量で投与される。例えば、ケトン体であるD−β−ヒドロキシブチレートに関して、血中レベルは、約1〜10mMまで上昇し、または、排尿中の測定において約5mg/dL〜約160mg/dLの範囲で上昇するが、しかしながら、例えば製剤やホストに依存して必然的に変化することがある。他のMCTの有効な用量は、当業者において明白である。便利な単位投与形態の容器および/または製剤としては、なかでも、錠剤、カプセル、ロゼンジ、トローチ、ハードキャンディー、栄養バー、栄養ドリンク、定量噴霧(metered sprays)、クリーム、および坐剤がある。上記組成物は、ゼラチン、オイルのような薬学上許容できる賦形剤、および/または、他の薬学上活性な薬剤と組み合わせることができる。例えば、上記組成物は、目的化合物とは異なる他の治療剤または予防薬と有利に組み合わせることもでき、および/または、それらと組み合わせて使用してもよい。多くの例において、目的の組成物と併用投与することによって、これらの薬剤の効能を増強させる。例えば、上記化合物は、抗酸化剤、グルコース利用効率を高める化合物、およびそれらの混合物と共に有利に用いることができる(例えばGoodman et al. 1996を参照)。
【0039】
好ましい実施形態において、ヒト被験者は、アルツハイマー病の発症を治療および予防するのに必要な量まで、MCT、MCFA(中鎖脂肪酸)および/またはケトン体を静脈内に直接注入される。静脈注射用の脂質およびケトン体溶液の調製は、当業者に周知である。
【0040】
好ましい実施形態において、本発明は、血中ケトンレベルを高めるため、MCTおよびカルニチンの混合物を含む製剤を提供する。これら製剤の性質は、投与期間や投与経路に依存する。このような製剤において、MCTは、0.5g/kg/日〜10g/kg/日、および、カルニチンまたはその誘導体は、0.5mg/kg/日〜10mg/kg/日の範囲であり得る。例えば製剤および/またはホストに依存してこれらは必然的に変化することがある。
【0041】
特に好ましい製剤は、10〜2000mgのカルニチンと配合した、10〜500gの乳化MCTを含む。さらにより好ましい製剤は、500mgのL−カルニチンと配合された、50gのモノグリセリドおよびジグリセリドで乳化された50gのMCT(95%トリC8:0)を含む。このような製剤の忍容性は高く、健康なヒト被験者において3〜4時間で高ケトン血症状を引き起こす。
【0042】
他の実施形態において、本発明は、レシピエントによる内因性の脂肪酸代謝を増強する治療剤を、レシピエントに提供する。前記治療剤は、アルツハイマー病発症を治療および予防するのに必要なレベルまで血中ケトン体を高めるのに必要な供与量で投与することができる。
【0043】
ケトン体は、脂肪酸を酸化することのできる組織において脂肪酸を酸化することによって連続的に生産される。脂肪酸酸化に関する主要な臓器は肝臓である。正常な生理学的条件下で、ケトン体は迅速に利用され、血液中から除去される。飢餓や低炭水化物食餌のようなある条件下で、ケトン体は、過剰に生産され、血流中に蓄積される。脂肪酸の酸化を増す効果を模擬する化合物は、代謝が低下したニューロン細胞に代替エネルギー源を供給するレベルまでケトン体濃度を高めることができる。このような化合物の効能は、脂肪酸利用を高め、血中ケトン体濃度を高めるそれらの能力から得られるので、本発明の実施形態に依存する。
【0044】
以上の記載から、アルツハイマー病を治療および予防することに関する本発明の多数の利点は明白である。
(a)ADに関する先行技術は、主として、アミロイド堆積の予防および除去に焦点が当てられてきた。ADにおけるこれらアミロイド蓄積の役割が依然として論議の的になっているが、いくつか他の病理に関する単なるマーカーにすぎない可能性がある。本発明は、ADを治療および予防するための新規の経路を提供し、当該経路は、ADに関連するニューロンの代謝の減少を軽減することに基づくものであって、アミロイド蓄積の観点には属さない。
【0045】
(b)現在のADの治療は、単に緩和するだけであり、ADに関連するニューロンの代謝の減少は扱われない。栄養補給としての中鎖トリグリセリドの摂取は、グルコース代謝が低下したニューロン細胞に、代謝サブストレートとしてケトン体を提供する簡単な方法である。
【0046】
(c)血中ケトン体レベルの増加は、中鎖トリグリセリド豊富な食餌によって達成することができる。
(d)中鎖トリグリセリドは、患者に静脈中に注入することができる。
【0047】
(e)ケトン体レベルは、尿または血液で、商業的に利用可能な製品(すなわちKetostix:登録商標、Bayer, Inc.)によって簡単に測定できる。
従って、アルツハイマー病(AD)の治療および予防手段として中鎖トリグリセリド(MCT)または脂肪酸を用いることにより、ADに関連するニューロンの代謝の減少を軽減する新規の方法が提供されることを、読者は理解するだろう。本発明の新規かつ重要な見識は、AD、ALS、パーキンソン病およびハンチントン病のようなニューロンの代謝の減少に関連する病気のために、MCTを用いることによってニューロンの代謝を増加させ得ることにある。以上の解説は多くの特定を含むが、これらは本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではなく、本発明の目下の好ましい実施形態のいくつかを単に説明するだけであると解釈すべきである。例えば、MCTの補給は、硫酸バナジル、クロミウムピコリネートおよびビタミンEのようなインスリンの感受性を高める薬剤と組み合わせた場合、より効果的であることが証明される。このような薬剤は、低下したニューロンにおけるグルコース利用を高め、高ケトン血症状と相乗作用的に作用するように機能し得る。他の例において、MCTは、L−カルニチンおよびその誘導体のような、脂肪酸利用速度を高める化合物と組み合わせることができる。このような化合物の混合は、循環性ケトン体のレベルを相乗効果的に高めることができる。
【0048】
従って、本発明の範囲は、与えられた実施例よりむしろ、添付の特許請求の範囲およびそれらの法的に同等なものによって決定すべきである。
参考文献
本明細書中、多数の参考文献が引用されている。これら参考文献のそれぞれは、その全文を引用することによって本明細書に含まれる。参考文献の多くはここに要約される。
【0049】
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【実施例】
【0050】
実施例
以下の実施例は、限定のためではなく、説明のために提供される。
実施例1:栄養ドリンク
栄養ドリンクは、以下の原料、すなわち、100グラム/ドリンクの乳化MCT、1グラム/ドリンクのL−カルニチン、日常的なビタミンの推奨される1日量、および様々な着香剤を用いて調製される。
【0051】
実施例2:追加の製剤
追加の製剤は、RTD飲料(Ready to Drink Beverage)、粉末飲料、栄養ドリンク、フードバーなどの形態が可能である。これらの製剤は、当業者において明白である。
【0052】
A.RTD飲料 RTD飲料は、以下の原料、すなわち、5〜100g/ドリンクの乳化MCT、250〜1000mg/ドリンクのL−カルニチン、および様々な着香剤、ならびに美味性、安定性などを増すのに用いられる他の原料を用いて調製される。
【0053】
B.粉末飲料 MCTは乾燥状に調製することができ、フードバーや粉末飲料製剤に有用である。粉末飲料は、以下の成分、すなわち、10〜50gの乾燥した乳化MCT、250〜500mgのL−カルニチン、8〜15gのスクロース、1〜5gのマルトデキストリン、0〜1gの着香剤で形成され得る。
【0054】
C.フードバー フードバーは、10〜50gの乾燥した乳化MCT、250〜500mgのL−カルニチン、1〜5gのグリセリン、5〜25gの固形コーンシロップ、2〜7gのココア、15〜25gのコーティング物質からなる。
【0055】
D.ゼラチンカプセル ハードゼラチンカプセルは、以下の原料、すなわち、0.1〜1000mg/カプセルのMCT、250〜500mg/カプセルのL−カルニチン、0〜600mg/カプセルのスターチ(NF);0〜600mg/カプセルのスターチ(流動性粉末)、0〜20mg/カプセルのシリコーン油(350センチストークス)を用いて製造される。これら材料を混合し、ふるいにかけ、カプセルに充填する。
【0056】
E.錠剤 錠剤は、以下の材料、すなわち、0.1〜1000mg/錠剤のMCT、250〜500mg/錠剤のL−カルニチン、20〜300mg/錠剤の微結晶性セルロース、0〜50mg/錠剤のスターチ、0〜15mg/錠剤のステアリン酸マグネシウムまたはステアリン酸、0〜400mg/錠剤のヒュームド二酸化ケイ素;0〜1mg/錠剤のコロイド状二酸化ケイ素、および0〜100mg/錠剤のラクトースを用いて調製される。これら材料を混合し、圧縮打錠して錠剤を形成する。
【0057】
F.懸濁液 懸濁液は、以下の材料、すなわち、0.1〜1000mgのMCT、250〜500mgのL−カルニチン、50〜700mg/5mlのカルボキシメチルセルロースナトリウム、0〜10mg/5mlの安息香酸ナトリウム、5mlの精製水、および、必要に応じて、着香料および着色剤を用いて調製される。
【0058】
G.非経口投与用溶液 非経口投与用組成物は、10容量%のプロピレングリコールおよび水に、1.5重量%のMCTおよびL−カルニチンを攪拌することによって調製される。その溶液を塩化ナトリウムで等張にし、次いで、滅菌する。
【0059】
[請求項1] 有効量の中鎖トリグリセリドをアルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防を必要とする患者に投与することを含む、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法。
【0060】
[請求項2] 前記投与が経口的である、請求項1に記載の方法。
[請求項3] 前記投与が静脈内的である、請求項1に記載の方法。
[請求項4] 前記中鎖トリグリセリドが、約0.5g/kg/日〜約10g/kg/日の投与量で投与される、請求項1に記載の方法。
【0061】
[請求項5] L−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体を併用投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
[請求項6] 前記投与が経口であり、前記中鎖トリグリセリドが、約0.5g/kg/日〜約10g/kg/日の投与量で投与され、前記L−カルニチンまたは前記L−カルニチン誘導体が、約0.5mg/kg/日〜約10mg/kg/日の投与量で投与される、請求項5に記載の方法。
【0062】
[請求項7] 前記中鎖トリグリセリドが乳化されている、請求項1に記載の方法。
[請求項8] L−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体を併用投与することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【0063】
[請求項9] 前記乳化中鎖トリグリセリドおよびL−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体が、10〜500gの乳化中鎖トリグリセリドおよび10〜2000mgのL−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体を含む配合剤で投与される、請求項8に記載の方法。
【0064】
[請求項10] 有効量の遊離の中鎖脂肪酸を投与することを含む、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法。
【0065】
[請求項11] 有効量の中鎖トリグリセリドプロドラッグをアルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防を必要とする患者に投与することを含む、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法。
【0066】
[請求項12] 脂肪酸の利用およびケトーシスの発達を誘導する治療剤の有効量をアルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防を必要とする患者に投与することを含む、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法。
【0067】
[請求項13] 中鎖トリグリセリド、中鎖脂肪酸、およびケトン体、ならびにL−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体からなる群より選択される薬剤の有効量を、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防を必要とする患者に併用投与することを含む、アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防する方法。
【0068】
[請求項14] 前記併用投与が静脈内であり、中鎖トリグリセリド、中鎖脂肪酸、およびケトン体からなる群より選択される前記薬剤が、約0.5g/kg/日〜約10g/kg/日の投与量で投与され、前記L−カルニチンまたは前記L−カルニチン誘導体は、約0.5mg/kg/日〜約10mg/kg/日の投与量で投与される、請求項13に記載の方法。
【0069】
[請求項15] 中鎖トリグリセリド、中鎖脂肪酸、およびケトン体、ならびにL−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体からなる群より選択される前記薬剤が、10〜500gの前記薬剤、および、10〜2000mgのL−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体を含む配合で投与される、請求項13に記載の方法。
【0070】
[請求項16] アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防のための、中鎖トリグリセリドを含む治療剤。
【0071】
[請求項17] アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防のための、中鎖トリグリセリドから誘導された遊離の脂肪酸を含む治療剤。
【0072】
[請求項18] アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防のための、中鎖トリグリセリドプロドラッグを含む治療剤。
【0073】
[請求項19] アルツハイマー型の痴呆またはニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失を治療または予防するための、脂肪酸の利用およびケトーシスの発達を前記治療または予防を必要とする患者に誘導させる薬剤を含む治療剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中鎖トリグリセリド、中鎖トリグリセリドから誘導された遊離の脂肪酸、または中鎖トリグリセリドプロドラッグを含む、ニューロンの代謝の減少によって引き起こされる、アルツハイマー型の痴呆または他の認識機能損失の治療または予防のための医薬組成物。
【請求項2】
脂肪酸の利用およびケトーシスの発達を、ニューロンの代謝の減少によって引き起こされるアルツハイマー型の痴呆または他の認識機能損失の治療または予防を必要とする患者に誘導させる薬剤を含む、ニューロンの代謝の減少によって引き起こされる、アルツハイマー型の痴呆または他の認識機能の損失を治療または予防するための医薬組成物。
【請求項3】
前記医薬組成物が、グルコースの存在下、脳中でエネルギーのために利用されるケトン体をもたらす患者において高ケトン症状を引き起こす、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
L−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体をさらに含有する請求項1〜3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
中鎖トリグリセリド、中鎖トリグリセリドから誘導された遊離の脂肪酸、又は中鎖トリグリセリドプロドラッグが約0.5g/kg/日〜約10g/kg/日の用量を与えるような量で含み、L−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体が約0.5mg/kg/日〜約10mg/kg/日の用量を与えるような量で含む請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記中鎖トリグリセリドが乳化されている、請求項1〜5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が経口剤または非経口剤である、請求項1〜6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
経口剤が、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、ハードキャンディー、栄養バー、栄養ドリンク、定量噴霧剤、またはクリームである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
非経口剤が、坐剤または静脈注射剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記中鎖トリグリセリドが、式:
【化1】

(式中、R1、R2およびR3が炭素主鎖において炭素鎖長5〜12である脂肪酸である)を有する請求項1〜9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項11】
R1、R2およびR3が6個の炭素主鎖を含む脂肪酸である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病またはアミロイド側索硬化症における、ニューロンの代謝の減少によって引き起こされる他の認識機能の損失の治療または予防のための医薬組成物の製造のための有効量の中鎖トリグリセリドの使用であって、前記治療または予防が、患者におけるD−β−ヒドロキシブチレート血中濃度が約1〜10mMに上昇するかまたはD−β−ヒドロキシブチレートの患者尿排泄が5mg/dL〜160mg/dLの範囲であり、グルコースの存在下、脳中でエネルギーのために利用されるケトン体をもたらす患者において高ケトン症状を引き起こす、前記使用。
【請求項13】
医薬組成物がL−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体をさらに含有する請求項12に記載の使用。
【請求項14】
医薬組成物が、約0.5g/kg/日〜約10g/kg/日の中鎖トリグリセリド用量および、約0.5mg/kg/日〜約10mg/kg/日のL−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体服用量を含む請求項12または13に記載の使用。
【請求項15】
医薬組成物が、10g〜500g量の乳化中鎖トリグリセリドおよび10mg〜2000mg量のL−カルニチンまたはL−カルニチン誘導体を含む請求項12〜14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
医薬組成物が経口投与用に製剤化されている請求項12〜15に記載の使用。
【請求項17】
医薬組成物が前記単位投与形態を含み、経口投与用に製剤化されている請求項12〜16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
医薬組成物が、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、ハードキャンディー、栄養バー、栄養ドリンク、定量噴霧剤、またはクリームとして製剤化されている請求項12〜17のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
医薬組成物が栄養ドリンクとして製剤化されている請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記中鎖トリグリセリドが、式:
【化2】

(式中、R1、R2およびR3が炭素主鎖において炭素鎖長5〜12である脂肪酸である)を有する請求項12〜19のいずれかに記載の使用。
【請求項21】
R1、R2およびR3が6個の炭素主鎖を含む脂肪酸である、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記治療または予防が単回の単位投与形態の投与である、請求項12〜21に記載の使用。
【請求項23】
前記単位投与形態が約0.5g/kg/日〜約10g/kg/日の中鎖トリグリセリドである請求項16〜22に記載の使用。

【公開番号】特開2012−188431(P2012−188431A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−105692(P2012−105692)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【分割の表示】特願2001−579803(P2001−579803)の分割
【原出願日】平成13年5月1日(2001.5.1)
【出願人】(502398171)アクセラ・インコーポレーテッド (8)
【Fターム(参考)】