説明

アルツハイマー病の発症の危険性を治療、検出、及び減少させるための方法及び物質

【課題】アルツハイマー病発症の危険性を治療、検出、減少するための新規な方法と物質を提供すること。
【解決手段】被験体におけるアルツハイマー病の治療法、及び、被験体におけるアルツハイマー病の発生を阻止又は阻害する方法を開示する。本方法には、インシュリン抵抗性を減少させる物質を被験体に投与する工程が含まれる。また、インシュリン抵抗性を減少させる物質と抗うつ薬/抗不安薬を含む組成物も開示する。また、容器;容器内に配置されたインシュリン抵抗性を減少させる物質;容器に添付されるラベル及び/又は容器内に配置された挿入物を含む製品が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、脳の疾病及び状態を検出、治療、及び/又は予防するための方法を対象とするものであり、より具体的には、アルツハイマー病、及び/又はアルツハイマー病の一つ又は複数の臨床的特徴を検出、治療、及び/又は予防するための方法を対象とするものである。
【0002】
本出願は、2003年5月22日に出願された米国仮出願番号第60/472,558号、及び2004年2月13日に出願された米国仮出願番号第60/544,638号の利点を請求するものであり、これらの仮出願は参照により本明細書にインコーポレートされる。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、世界中の高齢者の痴呆の主な原因である。65歳から始めて、この疾病の発症率は確実に上昇し、85歳までには控えめに見積もってその人口の約30%に達する。一般的には、その症状はADの初期兆候である軽度の認知変化として現れる数年前に始まると考えられている。従って、潜在的な危険性のある人口は60歳以上であると考えられている。
【0004】
この疾病の結果は、患者と、患者の家族及び介護者の両者にとって痛烈である。この疾病は、通常は認知機能の容赦ない衰退と短期記憶機能の障害をもたらす。これらは、興奮性、重度の不穏状態や活動過剰状態、及び質の悪い睡眠パターンなど、うつや不安に一致する行動上の問題を伴うことが多い。その結果として、この疾患は一般社会で自分の身の回りの世話ができなくなることにつながり、介護者、及び家庭看護や療養施設の提供者に掛かる負担を重くする。
【特許文献1】記載なし
【非特許文献1】記載なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ADの高い罹患率は、人口の高齢者層の増加率と合わさって、この疾病を最も重要な現代の公衆衛生問題の一つとしている。少なくともこの理由のためにADの治療法が引き続き必要となり、本発明は、部分的には、この必要性に応えることを意図するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、被験体におけるアルツハイマー病を治療する方法に関するものである。この方法には、被験体にインシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程が含まれる。
【0007】
本発明はまた、被験体におけるアルツハイマー病の発生を防止又は阻止する方法にも関する。この方法には、被験体に、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程が含まれる。
【0008】
本発明はまた、インシュリン抵抗性を減少させる物質と抗うつ薬/抗不安薬を含む組成物にも関する。
【0009】
本発明はまた製品にも関する。製品には、容器;容器内に配置されたインシュリン抵抗性を減少させる物質;容器に添付されるラベル及び/又は容器内に配置された挿入物が含まれ、このラベル及び/又は挿入物には、その物質がアルツハイマー病及び/又はアルツハイマー病の一つ又は複数の臨床的特徴の治療、それらの発生の危険性の減少、及び/又はそれらの発生の阻止に用いることができる物質であることが表示及び/又は示唆される。
【0010】
本発明はまた、試験化合物の、インシュリン抵抗性を減少させる能力を評価するための方法にも関する。この方法には、試験化合物をTg2576マウスに投与し、そのTg2576マウスがインシュリン抵抗性の減少を示すかどうかを評価する工程が含まれる。
【0011】
本発明はまた、被験体におけるアルツハイマー病を検出するための、又は被験体のアルツハイマー病の発生の危険性を検出するための方法にも関する。この方法には、被験体におけるインシュリン抵抗性を評価する工程が含まれる。なお、高レベルのインシュリン抵抗性は、アルツハイマー病が存在すること、又はアルツハイマー病の発生の危険性が増加していることを示す。
【0012】
本発明はまた、被験体の記憶障害及び/又は異常なストレス応答の発生の危険性を評価するための方法にも関する。この方法には、被験体におけるインシュリン抵抗性を評価する工程が含まれる。なお高レベルのインシュリン抵抗性は、記憶障害及び/又は異常なストレス応答の発生の危険性が増加していることを示す。
【0013】
本発明はまた、被験体における空間学習を改善するための、又は空間学習障害を阻止するための方法にも関する。この方法には、被験体に、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程が含まれる。
【0014】
本発明はまた、被験体における記憶障害の発生を減少又は阻止するための、又は記憶を改善するための方法にも関する。この方法には、被験体に、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、その一つの側面では、被験体におけるアルツハイマー病を治療するための方法に関する。この方法には、被験体に、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程が含まれる。
【0016】
本発明は、そのもう一つの側面では、被験体におけるアルツハイマー病の発生を予防又は阻止するための方法に関する。この方法には、被験体に、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程が含まれる。
【0017】
本明細書で用いるとき、「被験体」は、ヒト、その他の霊長類、イヌ、ラット、及びマウスなどの哺乳動物を包含することが意図されている。実例としては、被験体はHPA軸機能障害を患うヒト若しくはその他の被験体であっても良く、あるいは被験体はHPA軸機能障害を患わないヒト若しくはその他の被験体であっても良く;被験体は空間学習障害を患うヒト若しくはその他の被験体であっても良く、あるいは被験体は空間学習障害を患わないヒト若しくはその他の被験体であっても良く;被験体はアミロイドβ−ペプチドレベルの増加が見られるヒト若しくはその他の被験体であっても良く、あるいは被験体はアミロイドβ−ペプチドレベルの増加が見られないヒト若しくはその他の被験体であっても良く;被験体はII型糖尿病を患うヒト若しくはその他の被験体であっても良く、あるいは被験体はII型糖尿病を患わないヒト若しくはその他の被験体であっても良く;被験体は高脂血症を患うヒト若しくはその他の被験体であっても良く、あるいは被験体は高脂血症を患わないヒト若しくはその他の被験体であっても良く;被験体は高血圧症を患うヒト若しくはその他の被験体であっても良く、あるいは被験体は高血圧症を患わないヒト若しくはその他の被験体であっても良く;被験体は心血管疾患を患うヒト若しくはその他の被験体であっても良く、あるいは被験体は心血管疾患を患わないヒト若しくはその他の被験体であっても良く、及び/又は、被験体は摂食障害(拒食症、肥満、及び拒食過食症など)を患うヒト若しくはその他の被験体であっても良く、あるいは被験体は摂食障害(拒食症、肥満、及び拒食過食症など)を患わないヒト若しくはその他の被験体であっても良い。
【0018】
本明細書で用いるとき、「インシュリン抵抗性を減少させる物質」は、(i)インシュリン抵抗性を減少させることを示したことがある又は示すことができる何らかの物質、及び/又は、(ii)被験体におけるインシュリン抵抗性を減少させる何らかの物質を指す。当業者が認めるように、インシュリン抵抗性は、グルコース負荷試験などの様々な方法で評価することができ、インシュリン抵抗性を減少させるために様々な物質を用いることができる。実例としては、インシュリン抵抗性を減少させる物質には、周辺組織のインシュリン感受性を向上させることによりインシュリン抵抗性を減少させるものなど、身体のインシュリンに対する感受性及び反応を上昇させる物質(いわゆる「インシュリン増感剤」)が含まれる。
【0019】
実例としては、この物質は、ヒンドリーの米国特許番号第5,002,953号(参照により本明細書にインコーポレートされる)の1列目の35行目から4列目の33行目までに記述及び記載されている式を有する化合物など、及び/又はヒンドリーの米国特許番号第5,002,953号(参照により本明細書にインコーポレートされる)の請求項12に挙げられている化合物の一つなど、ヒンドリーの米国特許番号第5,002,953号 (参照により本明細書にインコーポレートされる)に記載されている化合物であっても良い。
【0020】
さらに例としては、この物質は、イケダらの米国特許第5,965,584号(参照により本明細書にインコーポレートされる)の2列目の15〜36行、2列目の50行目から3列目の4行目まで、及び/又は3列目の15行目に記述及び/又は記載の、及び/又は3列目の45行目から10列目の54行目までにさらに記載されている式I、II、及び/又はIIIを有する化合物など、イケダらの米国特許第5,965,584号(参照により本明細書にインコーポレートされる)に記載の化合物であっても良い。
【0021】
さらに例としては、この物質は、メグロらの米国特許番号第4,687,777号(参照により本明細書にインコーポレートされる)の1列目の41〜51行及び/又は2列目の1〜23行に記述及び/又は記載されている式Iを有する化合物など、メグロらの米国特許番号第4,687,777号(参照により本明細書にインコーポレートされる)に記載の化合物であっても良い。
【0022】
さらに例としては、この物質は、ヨシオカらの米国特許番号第4,572,912号(参照により本明細書にインコーポレートされる)の2列目の56行目から15列目の3行目に記述及び/又は記載されている式Ia、Ib、及び/又はIcを有する化合物など、ヨシオカらの米国特許番号第4,572,912号(参照により本明細書にインコーポレートされる)に記載の化合物であっても良い。
【0023】
一つの例示的な実施態様では、本発明は、インシュリン抵抗性を減少させるペルオキシソーム増殖因子−活性化受容体−γ(”PPARγ”)のアゴニストを用いて実施しても良い。
【0024】
また別の一つの例示的な実施態様では、本発明は、インシュリン抵抗性を減少させるチアゾリジンジオン物質がグリタゾンであるか、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体である場合などに、インシュリン抵抗性を減少させるチアゾリジンジオン物質を用いて実施しても良い。グリタゾン類、又はそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体の例には、次のものが含まれる。ロシグリタゾン類、又はそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体で、その一例はマレイン酸ロシグリタゾンである;ピオグリタゾン類、又はそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体で、その例には塩酸ピオグリタゾンやマレイン酸ピオグリタゾンが含まれる;トログリタゾン類、又はそれらの薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体;エングリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体;シグリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体;及び、ダルグリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体。これらの化合物には市販されているものもあり、ヒンドリーの米国特許番号第5,002,953号、メグロらの米国特許番号第4,687,777号、イケダらの米国特許番号第5,965,584号、ヨシオカらの米国特許番号第4,572,912号(これらはそれぞれ、参照により本明細書にインコーポレートされる)に記載されている方法など、既知の方法を用いて調製することができるものもある。本発明の実施に使用できる他の適切な物質には、プールらの米国特許番号第5,741,803号、イケダらの米国特許第6,166,042号、及び/又はヒンドリーらの米国特許番号第6,288,095号(これらの特許はそれぞれ、参照により本明細書にインコーポレートされる)に記載のものが含まれる。
【0025】
インシュリン抵抗性を減少させ、それ故に本発明の方法の実施に使用できる他の物質は、例えば、何らかの適切なスクリーニング法を用いることにより、同定及び/又は評価することができる。例えば、一つのこのような方法では、本発明はまた別の側面ではこの方法にも関するものであるが、試験化合物のインシュリン抵抗性を減少させる能力は、Tg2576マウスに試験化合物を投与し、例えば血糖濃度のモニタリングによりそのTg2576マウスがインシュリン抵抗性の減少を示しているか否かを評価することによって判断する。このTg2576マウスは市販されているし、例えばシャオの米国特許番号第5,877,399号(参照により本明細書にインコーポレートされる)に記載のように調製することができる。試験化合物のTg2576マウスへの投与は、以下に記載する経路及び剤形など、何らかの適切な経路又は剤形を用いて実施することができる。このスクリーニング法は、ストレス状態の、又は非ストレス状態のTg2567マウスで実施することができ、又はこのスクリーニング方法はその一部がストレス状態で残りが非ストレス状態にある、複数のマウスで実施することができる。このスクリーニング法は、他の追加のステップを含んでいてもよい。例えば、このスクリーニング法は、試験化合物のアルツハイマー病の一つ又は複数の症候に対する、又はアルツハイマー病自体に対する効果を評価する工程をさらに含んでも良い。さらに、又は代わりに、本スクリーニング法は、記憶障害などアルツハイマー病の臨床症状を治療する能力を評価することなどにより、例えば該化合物のインシュリン抵抗性を減少させる能力をさらに評価するため、及び/又は該化合物のアルツハイマー病の治療能力を評価するために、試験化合物をヒトに投与する工程などの工程を、さらに含むこともできる。
【0026】
上で議論したように、前述した物質は、ヒト、その他の霊長類、イヌ、ラット、マウス、及びその他の哺乳動物などである被験体において、例えば、治療上又は予防上効果的な量でアルツハイマー病の発生を治療及び/又は阻止するのに有用である。本明細書で用いるとき、「アルツハイマー病の治療」は、次の症状、即ち、記憶障害、空間学習障害、うつ病、異常な不安レベル、及び異常なストレス応答のいずれか一つ又は複数における、定性的又は定量的に観察可能若しくは測定可能な何らかの阻止、阻害、又は反転など、アルツハイマー病、若しくはこの病気の一つ又は複数の臨床症状の進行の、定性的又は定量的に観察可能若しくは測定可能な何らかの阻止、阻害、又は反転(reversal)を含むことを意図する。本明細書で用いるとき、「アルツハイマー病の発症の阻止又は阻害」は、次の症状、即ち、記憶障害、空間学習障害、うつ病、異常な不安レベル、及び異常なストレス応答のいずれか一つ又は複数における、定性的又は定量的に観察可能若しくは測定可能な何らかの阻止、阻害、又は反転など、アルツハイマー病、若しくはこの病気の一つ又は複数の臨床症状の発症における定性的又は定量的に観察可能若しくは測定可能な何らかの阻止又は遅延を含むことを意味する。本明細書で用いるとき、用語「予防上効果的な量」は、アルツハイマー病に罹患しやすい(年齢、遺伝子配列、家族暦などの理由による)哺乳動物若しくは他の被験体において、アルツハイマー病の発症を阻止又は遅延するのに必要な、インシュリン抵抗性を減少させるグリタゾン若しくは他の物質の量であり、本明細書で用いるとき、用語「治療上効果的な量」は、既にアルツハイマー病を患っている哺乳動物若しくは他の被験体において、アルツハイマー病の進行を阻止、遅延、又は反転させるのに十分なだけ、インシュリン抵抗性を減少させるグリタゾンや他の物質の量である。
【0027】
本発明の方法は、一つ又は複数の抗うつ薬/抗不安薬を投与する工程をさらに含んでも良い。本明細書で用いるとき、「抗うつ薬/抗不安薬」は、うつ病及び/又は不安レベル又は他のストレスへの応答を減少又は阻害する薬物を指す。このような製剤に用いられる適切な抗うつ薬/抗不安薬には、シタロプラム(例えば、Celexa(登録商標))、エスシタロプラム(例えば、Lexapro(登録商標))、セルトラリン(例えば、Zoloft(登録商標))、パロキセチン(例えば、Paxil(登録商標))、及びフルオキセチン(例えば、Prozac(登録商標))などの、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が含まれる。このような製剤に使用できる他の適切な抗うつ薬/抗不安薬には、ベンラファクシン(例えば、Effexor(登録商標))、ミルタザピン(例えば、Remeron(登録商標))及びブプロピオン(例えば、Wellbutrin(登録商標))など、セロトニン以外の脳内化学物質の再取り込みを阻害するものが含まれる。このような剤形に使用できるさらに別の適切な抗うつ薬/抗不安薬には、ノルトリプチリン(例えば、Pamelor(登録商標))及びデシプラミン(例えば、Norpramine(登録商標))などの、三環系抗うつ薬が含まれる。このような剤形に使用できるさらに別の適切な抗うつ薬/抗不安薬には、ブスピロン(例えば、Buspa(登録商標))及びクロナゼパム(例えば、Klonopin(登録商標))などの抗不安薬が含まれる。インシュリン抵抗性を減少させるグリタゾン又は他の物質、及び該抗うつ薬/抗不安薬は、同時に又は非同時に投与しても良い。同時投与は、インシュリン抵抗性を減少させる物質、及び抗うつ薬/抗不安薬を、単一の組成物の成分として投与するような場合、並びに、インシュリン抵抗性を減少させる物質、及び抗うつ薬/抗不安薬を、別々の組成物で投与するが同時に投与するような場合(例えば、二つの錠剤を同時に飲み下したり、二つの溶液を同時に注射したりする場合)のような、同時投与を含むことを意図する。非同時投与は、逐次投与(例えば、インシュリン抵抗性を減少させる物質を抗うつ薬/抗不安薬の前に投与する場合や、抗うつ薬/抗不安薬をインシュリン抵抗性を減少させる物質の前に投与する場合)を含むことを意図する。逐次投与を用いる場合、2番目に投与される薬物若しくは物質は、例えば、2番目に投与される薬物若しくは物質を、最初に投与する薬物若しくは物質が投与された時点の3X、2X、及び/又は1X(Xは最初に投与される薬物若しくは物質の代謝半減期)内に投与することにより、最初に投与される薬物若しくは物質が被験体の中にかなりの量存在する間に投与するのが好ましい。例えば、インシュリン抵抗性を減少させる物質の前に抗うつ薬/抗不安薬を投与する場合、このインシュリン抵抗性を減少させる物質は、抗うつ薬/抗不安薬を投与してから4時間、3時間、2時間、1時間、30分、10分、及び/又は5分以内に被験体に投与すれば良い。抗うつ薬/抗不安薬の前にインシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する場合、抗うつ薬/抗不安薬は、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与してから4時間、3時間、2時間、1時間、30分、10分、及び/又は5分以内に被験体に投与すれば良い。
【0028】
前述のインシュリン抵抗性を減少させる物質は、単独で投与しても、適切な薬学的担体、希釈剤、若しくは他の物質と組み合わせて製剤の形状で投与しても良い。製剤の形状で投与する際には、インシュリン抵抗性を減少させるグリタゾン又は他の物質(上に記載)は、製剤の約0.1から約99.9重量パーセントの濃度で用いて良い。
【0029】
医薬製剤は、投与単位の剤形であって良い。投与単位剤形は、カプセルや錠剤自体、又は、これらのいずれかの適正な数であって良い。組成物の投与単位中のインシュリン抵抗性を減少させるグリタゾン又は他の物質(活性化合物)の量は、関与する特定の治療に応じて、約0.1から約1000mg以上で変化又は調整しても良い。
【0030】
内部投与に適した組成物(投与剤形)は、通常は、単位当たり約1から約100mgの活性化合物、及び/又は単位当たり約2から約8mgの活性化合物など、単位当たり約0.1から約1000mgの活性化合物を含む。これらの医薬組成物では、活性化合物は、通常は組成物の総重量に基づき、約0.5〜95重量%の量で存在するであろう。
【0031】
本発明の方法で用いられる活性化合物は、アルツハイマー病の発生を治療及び/又は阻止するために、活性化合物を人体内の作用部位に接触させる何らかの手段により、投与することができる。上で議論したように、活性化合物は単独で投与することができるが、一般的には選択された投与経路及び標準的な薬学実務に基づいて選択される薬学的担体とともに投与される。活性化合物は、例えば、経口、非経口、又は局所的投与など、所望の用途に適した何らかの適切な剤形に作り上げることができる。非経口投与の例は、脳室内投与、脳内投与、筋肉内投与、静脈内投与、腹腔内投与、直腸投与、及び皮下投与である。
【0032】
適切な製剤には、薬学的に許容できる希釈剤又は担体とともに治療上効果的な量の活性化合物を含む製剤であって、その組成物が選択された特定の投与経路に適したものである製剤が含まれる。「薬学的に許容できる」とは、担体、希釈剤、又は賦形剤が製剤内で活性化合物と適合し、治療対象の被験体に有害でないことを意味する。
【0033】
医薬製剤には、当分野で周知の任意の適切な担体を使用することができる。このような製剤では、担体は固体、液体、又は固体と液体の混合物であっても良い。固体担体は、香料添加剤、潤滑剤、可溶化剤、懸濁剤、結合剤、錠剤崩壊剤、及びカプセル化物質としても作用することがある一つ又は複数の物質であって良い。
【0034】
経口投与に向けた錠剤は、トウモロコシ、デンプン、又はアルギン酸などの崩壊剤、及び/又は、例えばゼラチンやアカシアなどの結合剤、及び/又はステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸や、タルクなどの潤滑剤と共に、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、及びリン酸カルシウムなどの適切な賦形剤を含んでいても良い。錠剤では、活性化合物は適切な比率で必要な結合特性を有する担体と混合され、所望の形状と大きさに成型されている。
【0035】
滅菌液体剤形の製剤には、懸濁液、乳濁液、シロップ、及びエリキシル剤が含まれる。活性化合物は、滅菌水、生理食塩水、ブドウ糖溶液、滅菌有機溶媒、又はそれらの混合物など、薬学的に許容される担体に溶解又は懸濁していて良い。
【0036】
活性化合物は、カプセル、錠剤、及び粉末などの固体の投与剤形で、又はエリキシル剤、シロップ、及び懸濁液などの液体の投与剤形で、経口投与することができる。活性化合物はまた、滅菌した液体投与剤形で非経口的に投与することもできる。活性化合物はまた、点鼻薬や肺吸入器の剤形で、吸入により投与することもできる。活性化合物はまた、軟膏、クリーム、ゲル、ペースト、ローション、溶液、スプレー、エアロゾル、リポソーム、又はパッチとして、局所的に投与することもできる。活性化合物の投与に用いられる投与剤形は、通常は、当分野の標準参考書であるレミントンの薬学、マック・パブリッシング・カンパニーに記載されているように、適切な担体、希釈剤、保存剤、又は他の賦形剤を含む。
【0037】
ゼラチンカプセルは、活性化合物、及びラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸など、粉末化した担体を含めて調製することができる。圧縮錠剤、及び粉末剤を作るために、同様の希釈剤を用いることができる。錠剤及びカプセルは両方とも、数時間にわたって薬物の持続的な放出をもたらすための徐放性製剤として製造することができる。圧縮錠剤は、何らかの不快な味を覆い隠し、大気から錠剤を保護するため、糖衣コーティングやフィルムコーティングされていて良い。加えて、又はその代わりとして、錠剤は、胃腸管内における選択的な崩壊のために、腸溶性コーティングされていても良い。
【0038】
経口投与に向けた液体の投与剤形は、患者の受け入れやすさが増すように、着色料や香料を含んでいても良い。
【0039】
非経口液には、水、適切な油、生理食塩水、ブドウ糖水溶液(グルコース)、及び関連糖液、及び、プロピレングリコールやポリエチレングリコールなどのグリコールが、適切な担体である。非経口投与用の溶液は、活性化合物、適切な安定剤、及び、必要であれば、緩衝物質を含む。亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウムや、アスコルビン酸などの抗酸化物質は、単独でも組み合わせても、適切な安定剤である。クエン酸、及び、その塩及びEDTAナトリウムを使用することもできる。加えて、非経口液は、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベン若しくはプロピルパラベン、及びクロロブタノールなどの保存剤を含んでも良い。
【0040】
局所用の軟膏、クリーム、ゲル、及びペーストは、活性化合物、及びワックス、パラフィン、デンプン、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイト、ケイ酸、動物性及び植物性脂肪、タルク、及び酸化亜鉛などの希釈剤、又はこれらの若しくは他の希釈剤の混合物を含む。
【0041】
局所用の溶液及び乳濁液は、例えば、活性化合物に加えて、溶媒、可溶化剤、及び乳化剤など通常の希釈剤を含んでも良い。これらの具体例には、水、エタノール、2−プロパノール、炭酸エチル、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、油、グリセロール、及びソルビトールの脂肪酸エステル、又は、それらの混合物が含まれる。局所的投与に向けた組成物は、保存剤又は抗酸化物質を含んでも良い。分子量が200を下回る溶媒は、界面活性剤の存在下で使用することができる。
【0042】
粉末剤及び噴霧剤は、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウム、及び粉末ポリアミド、又はこれらの物質の混合物などといった通常の希釈剤を、活性化合物と共に含むことができる。エアロゾルスプレーは、通常の噴霧剤を含むことができる。リポソームは、例えば、リピド二層を形成する動物性若しくは植物性脂肪から製造することができ、活性化合物はこのようなリポソームに組み込むことができる。
【0043】
活性化合物を含んでいる製剤は、経皮パッチなどの器具によって皮膚を通して投与することができる。パッチはポリアクリルアミドなどの媒体、及び、物質が皮膚に送達される速度を制御するのに適したポリマーでできた半透膜から製造することができる。他の適切な経皮パッチの処方と構成は、例えば、ピーターセンらの米国特許番号第5,296,222号、及びクリアリーらの米国特許番号第5,271,940号(これらは参照により本明細書にインコーポレートされる)に記載されている。
【0044】
適切な製剤には、他の活性物質をさらに(即ち、グリタゾンやインシュリン抵抗性を減少させる他の物質に加えて、及び希釈剤や他の一般的な非活性成分に加えて)含むものも含まれる。適切な他の活性物質には、アルツハイマー病の治療又は予防に向けた、治療上又は予防上効果的な補助薬剤(co-agent);II型糖尿病の治療に有益な物質;高脂血症の治療に有益な物質、高血圧症の治療に有益な物質、心血管疾患の治療に有益な物質;及び、摂食障害の治療に有益な物質も含まれる。
【0045】
適切な製剤には、他のどんな活性物質も含まないものも含まれる。
【0046】
適切な製剤には、インシュリン抵抗性を減少させるグリタゾン又は他の物質を含むが、実質的には以下の一つ、二つ以上、又は全てを含まない製剤も含まれる。(i)II型糖尿病の治療に有益な他の物質、(ii)高脂血症の治療に有益な他の物質、(iii)高血圧症の治療に有益な他の物質、(iv)心血管疾患の治療に有益な他の物質、及び、(v)摂食障害の治療に有益な他の物質。
【0047】
本発明の方法に用いるのに適した製剤には、一つ又は複数の抗うつ薬/抗不安薬をさらに(即ち、インシュリン抵抗性を減少させるグリタゾン又は他の物質に加えて)含むものも含まれ、本発明はまたこれらの製剤にも関する。このような製剤に用いるのに適した抗うつ薬/抗不安薬には、シタロプラム(例えば、Celexa(登録商標))、エスシタロプラム(例えば、Lexapro(登録商標))、セルトラリン(例えば、Zoloft(登録商標))、パロキセチン(例えば、Paxil(登録商標))、及びフルオキセチン(例えば、Prozac(登録商標))などの、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が含まれる。このような製剤に使用できる他の適切な抗うつ薬/抗不安薬には、ベンラファクシン(例えば、Effexor(登録商標))、ミルタザピン(例えば、Remeron(登録商標))及びブプロピオン(例えば、Wellbutrin(登録商標))など、セロトニン以外の脳内化学物質の再取り込みを阻害するものが含まれる。このような剤形に使用できるさらに別の適切な抗うつ薬/抗不安薬には、ノルトリプチリン(例えば、Pamelor(登録商標))及びデシプラミン(例えば、Norpramine(登録商標))などの、三環系抗うつ薬が含まれる。このような剤形に使用できるさらに別の適切な抗うつ薬/抗不安薬には、ブスピロン(例えば、Buspa(登録商標))及びクロナゼパム(例えば、Klonopin(登録商標))などの抗不安薬が含まれる。
【0048】
ヒトのアルツハイマー病は、現存する状態を治療するためにインシュリン抵抗性を減少させるグリタゾン又は他の物質を投与することにより治療することができる。インシュリン抵抗性を減少させるグリタゾン又は他の物質は、アルツハイマー病を予測して、例えば、被験体の年齢、生活習慣、遺伝子配列、家族暦がこの病気を予測させる被験体に投与することもできる。
【0049】
投与される活性化合物の投与量は、当然、特定の活性化合物の薬力学的特長、及び、その投与の様式及び経路;被験体の年齢、健康、及び体重;症候の性質と程度;併用治療の種類;治療の頻度;及び、所望の効果など、既知の要因に応じて変化する。
【0050】
一般的に、活性化合物は、効果的な量が受容できるように、ヒトに投与されることになる。効果的な量は、従来のように、活性化合物の投与量を増やしながら投与し、その患者に対する効果、例えば、記憶や認知能力の維持などを観察することにより、個々の患者に対して決定しても良い。
【0051】
一般的に、該化合物は、ヒトのII型糖尿病の治療に適した活性化合物の血中濃度の約0.1から約10倍、及び/又は約0.5から約2倍など、約0.01から約100倍までの活性化合物の血中濃度をヒトで達成する様式及び投与量で通常は投与されるであろう。
【0052】
アルツハイマー病を患う多くの患者に対する治療計画は、患者の残存寿命のために何年にも渡って伸びることがある。経口服用が患者の簡便性と耐性のために好まれるかもしれない。経口服用では、それぞれが、体重の約5μg〜約2mg/Kg、及び/又は体重の約5μg〜約0.1mg/Kgなど、体重の約0.5μg〜約20mg/Kgの活性化合物を含む、日に1〜4回の経口服用で適切な投薬が達成できる。
【0053】
アルツハイマー病の適切な診断基準には、標準的な医学参考書(例えば、ハリソンの内科の原理、13版、マクグローヒル,Inc.、ISBN:0-07-032370-4、p.p. 2270-2272, 1994。これは参照により本明細書にインコーポレートされる)に見られるものが含まれる。これらの基準は、いつ本発明の方法の使用を開始すべきか、及び治療の頻度と程度を決定するのに用いることができる。
【0054】
アルツハイマー病の適切な検定プロトコルは、ニクソンの米国特許番号第5,686,269号に(これは、参照により本明細書にインコーポレートされる)見られ、この検定は本発明の方法による治療の開始、期間、及び終了を決定する際に採用することができる。
【0055】
アルツハイマー病の可能性の臨床診断のための基準には、臨床検査によって立証された、及び、ミニメンタルステート検査、ブレスド痴呆検査(Blessed Dementia Scale)、又は、いくつかの類似の検査によって文書化され、及び神経心理学的試験によって確認された痴呆が含まれる。実例としては、このような基準には、認知の二つ以上の領域の欠損;記憶及び他の認知機能の低下の進行;意識障害でない;40歳〜90歳の間に発症;及び/又は、記憶及び認知の欠損の進行を説明できそうな全身性障害又は他の脳疾患がない、などが含まれて良い。アルツハイマー病の可能性の診断は、言語(失語症)、運動技能(失行症)および知覚(失認症)などといった特定の認識機能の低下の進行;日常生活の行動障害、及び行動パターンの変化;特に神経病理学的に確認される場合は、類似障害の家族歴;及び/又は、例えば標準技術により評価される通常の腰椎穿刺、EEGにおける正常パターンや特異的でない変化(徐波活動の増加など)、及び連続観察により文書化されたCT上での進行性の脳萎縮症の証拠などの検査結果により、裏付けることができる。アルツハイマー病の可能性の診断と合致する他の臨床的特長には、アルツハイマー病以外の痴呆の原因を排除した後では、以下のもの:疾病の進行の過程におけるプラトー;うつ病、不眠症、失調症、妄想、錯覚、幻覚、性的障害、体重減少、及び破局的な言葉や感情的や物理的な爆発の関連症状;一部の患者における、特により進行した疾病を伴い、筋緊張、筋クローヌスや、歩行障害などの運動上の兆候を含む他の神経障害;進行した疾患における発作;及び/又は、年齢に対して正常なCTを、含むことができる。アルツハイマー病の可能性の診断を不確定に若しくは有りそうにないものにする特性には、以下のもの:突然の、卒中の発症;片側不全麻痺、感覚消失、視野欠損、及び疾患の経過の初期の協調運動障害などの、局所的な神経病学的所見;及び/又は、疾病の発症若しくは経過の極めて初期での発作又は歩行運動障害が、含まれて良い。アルツハイマー病の可能性の臨床診断は、痴呆を引き起こすのに十分な、他の神経障害、精神障害、又は全身性障害がない場合、及び、発症、症状の提示(presentation)、又は臨床経過の変更がある場合に、痴呆症候群に基づいて行うことができる。アルツハイマー病の可能性の臨床診断は、家族集積性;65歳前の発症;21トリソミーの存在;及び/又は、パーキンソン病など他の関連状態の共存など、痴呆をもたらすのに十分な第二の全身性障害若しくは脳障害がある場合に行っても良い。
【0056】
アルツハイマー病に向けた他の適切な検定プロトコルには、メイの米国特許第5,686,476号(これは、参照により本明細書にインコーポレートされる)に見られるものが含まれる。この検定は、本発明の方法による治療の開始、期間、及び終了を決定するのに用いることができる。
【0057】
上で議論したように、本発明のある側面は、アルツハイマー病を治療する方法、及び、インシュリン抵抗性を減少させる物質を被験体に投与することにより被験体におけるアルツハイマー病の発生を阻止又は阻害するための方法に関する。
【0058】
インシュリン抵抗性を減少させる物質によりアルツハイマー病を治療する、又は被験体におけるアルツハイマー病の発生を阻止又は阻害する機構は、本発明の実施には特に重要ではない。例えば、この機構は、被験体におけるHPA軸機能を向上する工程、又はHPA軸機能障害を阻害する工程を含むことができる。加えて、又はその代わりとして、この機構は、被験体におけるアミロイドβ- ペプチドのレベルの増加の阻害、又はβ- ペプチドのレベルを減少させる工程を含むことができる。さらに加えて、又はその代わりとして、このメカニズムは、被験体における空間学習の向上の工程、又は空間学習障害の阻害の工程を含むことができる。さらに加えて、又はその代わりとして、この機構は、被験体における異常な不安レベル、及び、異常なストレス応答の他の形態の発生を減少又は阻害する工程を含むことができる。さらに加えて、又はその代わりとして、この機構は、被験体における記憶障害の発生を減少若しくは阻害する工程を含むことができる。
【0059】
当業者が高く評価するように、インシュリン抵抗性を減少させる物質は、被験体がアルツハイマー病と正式に診断されていない場合であっても、例えば、このような被験体におけるHPA軸機能を向上するため、又はHPA軸機能障害を阻害するため;このような被験体における空間学習を向上させるため、又は空間学習障害を阻害するため;このような被験体における異常な不安レベル及び異常なストレス応答の他の形態の発生を減少又は阻害するため;及び/又は、このような被験体における記憶障害の発生を減少又は阻止するため、又は記憶を向上させるために、被験体に投与することができる。このような被験体には、例えば、アルツハイマー病の発生の素因がある被験体、並びにアルツハイマー病の発生の素因がない被験体;HPA軸機能障害を患う被験体、並びにHPA軸機能障害を患わない被験体;空間学習障害を患う被験体、並びに空間学習障害を患わない被験体;II型糖尿病を患う被験体、並びにII型糖尿病を患わない被験体;高脂血症を患う被験体、並びに高脂血症を患わない被験体;高血圧症を患う被験体、並びに高血圧症を患わない被験体;心血管障害を患う被験体、並びに心血管障害を患わない被験体;及び/又は、摂食障害(拒食症、肥満、及び、拒食過食症など)を患う被験体、並びに摂食障害を患わない被験体が含まれて良い。
【0060】
上述の治療法及び予防法に加えて、本出願人による被験体のインシュリン抵抗性とアルツハイマー病との関連性の発見は、被験体におけるアルツハイマー病の存在、又は被験体のアルツハイマー病の発生の危険性を検出するのに用いることができる。例えば、本発明のまた別の側面では、本発明は、被験体におけるインシュリン抵抗性を評価することにより、その被験体におけるアルツハイマー病を検出する方法に関する。即ち、高レベルのインシュリン抵抗性はアルツハイマー病が存在することを示す。本発明の別の側面では、本発明は、被験体におけるインシュリン抵抗性を評価することにより、その被験体のアルツハイマー病の発生の危険性を評価する方法に関する。即ち、高レベルのインシュリン抵抗性は、アルツハイマー病の発生の危険性が増加していることを示す。本発明のまた別の側面では、本発明は、被験体におけるインシュリン抵抗性を評価することにより、その被験体におけるアルツハイマー病に関連する記憶障害などの記憶障害の発生の危険性を評価する方法に関する。即ち、高レベルのインシュリン抵抗性は、記憶障害の発生の危険性が増加していることを示す。本発明のまた別の側面では、本発明は、被験体におけるインシュリン抵抗性を評価することにより、アルツハイマー病に関連する異常な不安レベル及び/又は異常なストレス応答に特徴付けられる異常なストレス応答など、その被験体における異常なストレス応答の発生の危険性を評価する方法に関する。即ち、高レベルのインシュリン抵抗性は、異常なストレス応答の発生の危険性が増加していることを示す。
【0061】
本発明はまた、製品にも関する。その製品には、容器;容器内に配置されたインシュリン抵抗性を減少させる物質;容器に添付されるラベル及び/又は容器内に配置された挿入物が含まれ、このラベル及び/又は挿入物には、その物質がアルツハイマー病発症の危険性を治療、減少させ、及び/又は、アルツハイマー病発症及び/又は記憶障害、異常なストレス応答などのアルツハイマー病の一つ又は複数の臨床的特徴の発症の阻止に用いることができる物質であることが表示及び/又は示唆される。
【0062】
例えば、この容器はプラスチックかガラス瓶、広口瓶、又はバイアルであって良く、又は段ボール箱などの箱であっても良い。一つの実施態様では、このラベルは、例えば接着剤、テープ、収縮フィルム樹脂などを用いて容器に添付された、紙又はプラスチックシートであって良い。その代わりとして、又は加えて、このラベルは、容器を作る材料に直接ラベルを印刷することにより、容器に添付しても良い。
【0063】
ラベルの使用に加えて、又はその代わりとして、この製品は、容器内に配置される、通常は折り畳んである印刷された紙などの挿入物を含んでいても良い。実例としては、この容器は、該挿入物、及びインシュリン抵抗性を減少させる物質を含む箱であって良い。インシュリン抵抗性を減少させる物質は、該挿入物を含む容器内に直接入っていても良く、順に容器に配置される、瓶などの小容器に入っていても良い。例えば、容器は挿入物とプラスチック瓶若しくはバイアルを含む箱であっても良く、インシュリン抵抗性を減少させる物質はそのプラスチック瓶若しくはバイアルに入っていても良い。
【0064】
以下の実施例により、本発明をさらに例証する。
【実施例1】
【0065】
材料と方法
雄のTg2576マウス、及び同腹非トランスジェニックマウスは、タコニック・ファームズ(ニューヨーク州、ジャーマンタウン)から購入した。このTg2576マウスは、大きなスウェーデン家系(家族性AD)で最初に同定された二重突然変異を含むヒトアミロイド前駆体タンパク質の695−イソ型を過剰発現する。この二重突然変異は、成熟したアミロイド班の形成に先立って、空間学習障害及び記憶障害が月齢9〜11ヶ月で明白となる。(カワラバヤシら,「アルツハイマー病のTg2576トランスジェニックマウスモデルにおける、脳、CSF、及びプラズマアミロイドβタンパク質における、年齢依存性変化」,J. Neurosci., 21: 372-381 (2001)、及び、ウェスターマンら,「アルツハイマー病のTg2576マウスモデルにおけるAβと記憶の関係」,J. Neurosci., 22:1858-1867 (2002).これらは参照により本明細書にインコーポレートされる)。マウスは、強制換気マイクロアイソレータケージに個別に収容した。
【0066】
以下の手順を用いて、インシュリンを投与しブドウ糖を測定した。貯蔵ヒトインシュリン(組換え型、28.7U.S.P.単位/mg;シグマ)は、1%の氷酢酸を含む1mlのdH2Oに粉末1mgを溶解して調製した。dH2Oに1:150希釈したものを貯蔵注射剤として用いた。マウスには、腹腔内注射によりインシュリン溶液を投与した。Acc.−ChE.Active(登録商標)メーター(Roche Diagnostics Corporation)でブドウ糖レベルを測定するため、又は製造元の使用説明書に従ってMetrika AlcNow(登録商標)試験キットを用いてグリコシル化血色素のパーセントを測定するために、希釈していない全血(尾部から採取)を直ちに使用した。
【0067】
コルチコステロンとインシュリンは、以下の手順を用いて測定した。血清調製のため、尾部採血(tail bleeding )を加熱灯の下で行い、血液をMICROTAINER(登録商標)ブランド採血管(Becton Dickinson、ニュージャージー州、フランクリン・レインズ)に採取した。血液を30〜40分間凝固させた後に、試料を6000gで90秒間遠心分離し、使用するまで−80℃で貯蔵した。血清コルチコステロン値は、検定緩衝液で1:100で希釈した各試料の1μl部分について酵素免疫検定キット(Assay Designs,Inc.、ミシガン州、アナーバー)を用いて測定した。この検定の感度は、26.99pg/mlであった。血清インシュリンレベルは、5μlの希釈していない試料、及びマウスインシュリン標準を用いて、超高感度ラットインシュリンELISAキット(Crystal Chem,Inc.、イリノイ州、ダウナーズグローブ)を用いて定量した。この検定の感度は、これらの条件下では100pg/mlであった。すべての試料は、両方の検定で、二連で測定した。プレートは、Bio−Tek ELx800UV ユニバーサルマイクロリーダーを用いて読み込んだ。
【0068】
以下の補充食餌を使用した。マレイン酸ロシグリタゾンの錠剤(Avandia(登録商標)、GlaxoSmithKline)は、クレイトンユニバーシティー・ダイアベティスセンターから提供を受けた。この錠剤は、微粉砕化し、30mg/飼料kgの最終投与量でAIN−93G精製げっし類食餌と混合した(Dyets,Inc.)。この投与量は、ロシグリタゾンを補充した食餌を用いたラットにおける研究結果に基づいて選択された(ディープら、「アンジオテンシンII注入ラットの血管における構造、内皮機能、細胞成長、及び炎症:ペルオキシソーム増殖因子−活性化受容体−γの役割」、Circulation, 105: 2296-2302 (2002)、これは参照により本明細書にインコーポレートされる)。改変していないAIN−93Gペレットを、対照食餌として購入した(Dyets,Inc.)。このマウスは、9月齢で上記の食餌を与えた。
【実施例2】
【0069】
Tg2576マウスにおけるインシュリン異常
雄のTg2576マウスが異常なストレス応答を示したこと、及び血糖値の制御能力の異常が、事前に実証されていた(ペダーセンら,「アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルにおける重度な低血糖症に関連する異常なストレス応答」,J. Mol. Neurosci., 13: 159-165 (1999) (”ペダーセン”)、これは参照により本明細書にインコーポレートされる)。さらに、糖負荷試験の後に野生型マウスと比べて高い血糖値ピークを示し、そのマウスが耐糖能異常であることを示していた(マットソンら,「アルツハイマー病及びパーキンソン病におけるエネルギー代謝の混乱と神経変性の根底にある細胞及び分子の機構」,Ann. NY Acad. Sci., 893: 154-175 (1999) 、これは参照により本明細書にインコーポレートされる)。Tg2576マウスにおけるインシュリン抵抗性の証拠を提示するため、及びどの年齢でこれが発生するのかを測定するために、この実施例2に記載の実験を行った。
【0070】
絶食していないTg2576マウスと野生型マウスに、インシュリンを0.75U/Kgで投与し、血糖レベルをモニターした。5月齢で、インシュリン投与後の血糖レベルの低下の大きさは、検査の全時点で、Tg1576マウスと野生型マウスは類似していた。これを図1Aに示す。しかしながら、図1Bに示すように、8月齢では、Tg2576マウスはインシュリン誘発性の血糖レベルの低下における遅延を示した。一晩絶食したTg2576マウスは、インシュリンに対する応答性に変化がなかった(データは示さない)。
【0071】
図2に示すように、Tg2576マウスと野生型マウスの間には、血糖、又はグリコシル化血色素パーセント(長期間の血糖コントロールのマーカー)の基礎レベルでの差異はなかった。Tg2576マウスの基礎血清インシュリンレベルは5月齢では正常であったが、図3Aに示すように、インシュリン抵抗性の発生と同時に8月齢までに有意に減少した。一晩の絶食により、野生型マウスの血清インシュリンレベルの予測どおりの低下が生じたが、その効果はTg2576マウスではより明白で、そのレベルは、図3Bに示すように、5月齢と8月齢の両方で100pg/ml未満にまで低下した。この二つのグループのマウスの間には基礎血清コルチコステロンレベルの差異はなかったが、図3Cに示すように、一晩絶食した後では、Tg2576マウスの血清コルチコステロンレベルは、その異常なストレス応答に一致してより大きく増加した(ペダーセン、参照により本明細書にインコーポレートされる)。
【実施例3】
【0072】
ロシグリタゾンはTg2576マウスのストレス応答を正常化する
Tg2576マウスのインシュリン抵抗性と異常なストレス応答との関係性についての証拠を提示するため、インシュリン感受性を増加させる手段として動物にチアゾリジンジオン、ロシグリタゾンを含む食餌を与えた。チアゾリジンジオンは、グルコースおよび脂質代謝を調整するリガンド誘発性転写因子である、ペルオキシソーム増殖因子−活性化受容体−γ(”PPARγ”)のアゴニストとして作用する(デスバーンら,「ペルオキシソーム増殖因子−活性化受容体:代謝の核制御」,Endocr. Rev., 20: 649-688 (1999)、参照により本明細書にインコーポレートされる)。PPARγのアゴニストは、周辺インシュリン感度を向上させることによりインシュリン抵抗性を弱め、そしてこのようなアゴニストは、現在は2型糖尿病の管理に臨床的に用いられている(ワグスタッフら,「ロシグリタゾン:2型糖尿病の管理における使用のレビュー」、Drugs 62: 1805-1837 (2002)、参照により本明細書にインコーポレートされる)。ロシグリタゾンを含む食餌は、体重減少がなく、野生型マウス、補充していない食餌のトランスジェニックマウス、及びロシグリタゾンを補充した食餌のトランスジェニックマウスの間で同量の餌が消費されたので、それらのマウスに良好な耐容性を示した。より詳細には、次の表1に通常の食餌の野生型マウス(Wt;n=7)、マレイン酸ロシグリタゾンを補充した食餌のTg2576マウス(Tr,Av;n=7)、及び、通常の食餌のTg2576マウス(Tr,C;n=5)の体重と食餌消費をまとめた。データは平均値、及び表示週の間の標準偏差として報告する。
【0073】
【表1】

【0074】
特に、トランスジェニックマウスが消費したロシグリタゾン補充食餌の量は時間と共に減少した。これは薬物の主要な効果がインシュリン感受性と耐糖能を上昇させることであることを考えると、予測される結果であった。平均で、マウスは1日に約4mgの薬物を服用した。
【0075】
図4に示すように、Tg2576マウスのインシュリン応答性は、食餌を与えられてから4週後の野生型マウスのインシュリン応答性と類似していた。これが単なるエイジング効果であるという可能性を排除するため、補充していない食餌を与えたTg2576マウスでは補充した食餌を与えたTg2576マウスよりもインシュリン応答性がずっと低いことをさらに示した(図4)。この研究は、三つのグループそれぞれで7匹のマウスで開始した。Tg2576系統のマウスに固有なのは、約20%の死亡率であり、研究の途中で補充していない食餌を与えたトランスジェニックマウス7匹のうち2匹が死亡した。ロシグリタゾンを補充した食餌を与えたトランスジェニックマウス7匹はどれも死亡せず、ロシグリタゾンを補充した食餌を与えたトランスジェニックマウスは、より穏やかで扱いやすいことが観察された。一晩の絶食の後に野生型マウスとロシグリタゾン補充食餌を与えたTg2576マウスでは、血清コルチコステロンレベルが同様に上昇したという所見は、この観察と一致した。図5に示すように、これは通常の食餌のTg2576マウスで達したレベルを十分下回るものであった。Tg2576マウスの血清インシュリン濃度は、ロシグリタゾン投与後の野生型マウスにおけるそのレベルの約50%に留まった(データは示さない)。
【実施例4】
【0076】
Tg2576マウスの空間学習能力に対するマレイン酸ロシグリタゾン(Avandia(登録商標))投与の効果
三つのグループのマウス、通常の食餌を与えた野生型マウス、餌中に薬物Avandia(登録商標)を投与したトランスジェニック(Tg2576)マウス、及び通常の食餌を与えたトランスジェニック(Tg2576)マウスを、研究に含めた。約4mg/kg/日で薬物補充した食餌を与えて15週後に、Tg2576マウスは野生型マウス及び対照Tg2576マウスと共に、空間学習試験を受けた。
【0077】
8方向放射状迷路を用いて、異なる系統のマウスの空間学習能力と記憶機能を試験した。具体的には、グラフィック・ステート・ノーテーション2ソフトウェアに支持される完全自動化ユニットである、Coulbourn Instruments(ペンシルバニア州、アレンタウン)のハビテストシステムを使用した。このソフトウェアは、光電センサによりギロチンドアの開閉を制御し、マウスが中央ハブからアームへ入れるようにする。摂食行動を記録するために、別の光電センサを各通路の末端にあるペレットトラフに設置した。試験のため、マウスを一晩絶食させ、水は自由に摂取できるようにした。全てのドアが閉まった状態で動物を中央ハブに入れ、全てのドアは、自動給餌機が4本のアームに給餌したときに自動的に同時に開く。8本のアームのうち4本は20mgのペレット飼料を常に給餌し(1、2、4、及び7)、残りの4本のアームは決して給餌しなかった。空間的手掛かりとして、白いテープの小片を給餌したアームの床のすぐ近くに貼った。この手順により、マウスはフードトラフにある4つの餌全部が食べ尽くされるまで、又は5分経過するまで、探索することができた。これが1工程の構成であった。マウスは、トレーニングと試験の両方について、毎日8:00amに開始し、工程の間隔は60〜90分空けて、日に4工程を受けた。トレーニングは2日にわたって行い、その直後に3日間にわたって試験を行った。参照記憶エラー数(給餌していないアームに入る)、及び作業記憶エラー数(飼料を含むアームであるが、既に入ったアームに入る)を記録した。
【0078】
図6に示すように、薬物を投与したTg2576マウス(Tr,A)は、野生型マウス(WT)と参照記憶エラーが同じぐらいであり、どちらの場合も、薬物を与えていないTg2576マウス(対照Tg2576;Tr,C)による参照記憶エラー数よりも少なかった。これらのデータは、反復計測を有する双方向分散分析を用いて、ボンフェローニ事後検定で分析した。WtとTr,C間、及び、Tr,AとTr,C間で得られたエラー数には、統計学的に有意な差異があった(p<0.0001)。WtとTr,A間のエラーの差異は、統計学的には有意ではなかった。また、どのグループについても、日による統計学的に有意なエラー数の差異はなかった。
【0079】
本明細書では、好ましい実施態様を詳細に描写及び記述したが、さまざまな変更、追加、置換などを、本発明の精神から逸脱することなく行うことができ、従ってこれらが以下の請求の範囲で定義される発明の範囲内であるとみなされることは、従来技術に熟練した人々には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、5月齢のTg2576マウスと野生型マウスの(図1A)、及び8月齢のTg2576マウスと野生型マウス(図1B)の、インシュリン誘発性の血糖レベルの低下を表すグラフである。絶食していないマウスにインシュリンを0.75U/kgで投与し、注射後0、10、30、及び60分後に血糖レベルを測定した。データは対照値(0時間での測定)のパーセントとして表す。値は、7匹のTg2576マウスと7匹の野生型マウスで行った測定の平均値及びSEMである(*p<0.04;対応のないt−検定)。
【図2】図2は、Tg2576マウスにおける正常な血糖コントロールを表す棒グラフである。血糖の基礎濃度(図2A)とグリコシル化血色素パーセント(%HbAlc)(図2B)を8月齢の絶食をしていないTg2576マウス及び野生型マウスで測定した。この二つのグループのマウスの間では、いずれの測定での差異も統計学的な差異ではなかった。値は、インシュリン反応研究(図1A及び1B)に用いた同じ動物で行った測定の平均値及びSEMである。
【図3】図3は、Tg2576マウスにおける、インシュリンレベル及びコルチコステロンレベルの調節差異を表す棒グラフである。図3Aは、絶食していない条件下で、5月齢(5m)の野生型(Wt)マウスとTg2576(Tr)マウスの間で血清インシュリンのレベルに差異はないが、8月齢(8m)ではTrマウスの方がレベルが低い(*p<0.04対Tr、5m、対応のあるt−検定による;**p<0.03対Wt、8m、対応のないt−検定による)ことを示す。図3Bは、絶食したTrマウスでは、全ての動物において、検討した両方の月齢で血清インシュリンレベルが検出されなかったが、5mの絶食したWtマウス2匹のみ、及び8mの絶食したWtマウス1匹のみが、血清インシュリンレベルを検出できなかったことを示す。図3Cは、8mでは、絶食していない(NF)TrマウスとWtマウス間の血清コルチコステロンレベルに統計学的に有意な差異はなかったが、一晩絶食させる(F)と、WtマウスよりもTrマウスの方がそのレベルが高かった(***p<0.02対Wt,F;対応のないt−検定)ことを示す。同様の結果が5mのマウスで得られた。値は、インシュリン反応研究(図1A及び1B)に用いた同じ動物で行った測定の平均値及びSEMである。
【図4】図4は、ロシグリタゾンがTg2576マウスのインシュリン応答性を正常化させることを表すグラフである。絶食していないマウスにインシュリンを0.75U/kgで投与し、注射後0、10、30、及び60分で血糖レベルを測定した。データは対照値(0時間での測定)のパーセントとして表す。図4Aは、通常の食餌を与えた10月齢の野生型マウス、及びロシグリタゾンを補充した食餌を4週間与えた10月齢のTg2576マウス(Tr,AV)についてのインシュリン誘発性の血糖レベルの低下を表す。値は、7匹の野生型マウスと、Tr,AVマウスで測定した値の平均値及びSEMである。図4Aは、通常の食餌を与えた10月齢のTg2576マウス(Tr,Cont)、及び、ロシグリタゾンを補充した食餌を4週間与えた10月齢のTg2576マウス(Tr,AV)についてのインシュリン誘発性の血糖レベルの低下を表す。値は、5匹のTr,Contマウスと7匹のTr,AVマウスで測定した値の平均値及びSEMである(*p<0.05対Tr,AV、10分時点;**p<0.03対Tr,AV、30分時点;対応のないt−検定)。
【図5】図5は、ロシグリタゾンがTg2576マウスのストレス応答性を正常化することを表す棒グラフである。マウスは一晩絶食させ、血清コルチコステロン濃度を測定した。そのレベルは、10月齢の野生型マウス(Wt)とロシグリタゾンを補充した食餌を4週間与えた10月齢のTg2576マウス(Tr,AV)とでは有意な差がなかったが、通常の食餌を与えた10月齢のTg2576マウス(Tr,Cont)と他の二つのグループではそのレベルの間に統計学的に有意な差異があった(*p<0.05対Wt又はTr,AV;一方向分散分析とチューキー事後検定)。値は、7匹のWtマウス、7匹のTr,AVマウス、及び5匹のTr,Contマウスで測定した値の平均値とSEMである。
【図6】図6は、アルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルにおけるインシュリン感受性の上昇が、動物の年齢依存性の記憶能力の低下を逆転させることを実証する棒グラフである。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図4A】

【図4B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体におけるアルツハイマー病を治療するための方法であって、該被験体に、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程を含む方法。
【請求項2】
上記物質が、インシュリン感受性を向上させることによりインシュリン抵抗性を減少させるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記物質が、周辺組織のインシュリン感受性を向上させることによりインシュリン抵抗性を減少させるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記物質が、PPARγアゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記物質が、チアゾリジンジオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記物質が、グリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記物質が、ロシグリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記物質が、マレイン酸ロシグリタゾンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記物質が、ピオグリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記物質が、塩酸ピオグリタゾンである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
抗うつ薬/抗不安薬を被験体に投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記被験体がマウス、ラット、イヌ、及びヒトから選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
上記被験体がHPA軸機能障害を患うものである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
上記被験体がHPA軸機能障害を患わないものである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
上記被験体が空間学習障害を患うものである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
上記被験体が空間学習障害を患わないものである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
上記被験体がアミロイドβ−ペプチドレベルの増加を示すものである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
上記被験体がアミロイドβ−ペプチドレベルの増加を示さないものである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
上記被験体がII型糖尿病を患うものである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
上記被験体がII型糖尿病を患わないものである、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
被験体におけるアルツハイマー病の発症を阻止又は阻害する方法であって、該被験体に、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程を含む方法。
【請求項22】
上記物質が、インシュリン感受性を向上させることによりインシュリン抵抗性を減少させるものである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
上記物質が、周辺組織のインシュリン感受性を向上させることによりインシュリン抵抗性を減少させるものである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
上記物質が、PPARγアゴニストである、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
上記物質が、チアゾリジンジオンである、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
上記物質が、グリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
上記物質が、ロシグリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
上記物質が、マレイン酸ロシグリタゾンである、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
上記物質が、ピオグリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体である、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
上記物質が、塩酸ピオグリタゾンである、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
抗うつ薬/抗不安薬を被験体に投与する工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
上記被験体がマウス、ラット、イヌ、及びヒトから選択されるものである、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
上記被験体がHPA軸機能障害を患うものである、請求項21に記載の方法。
【請求項34】
上記被験体がHPA軸機能障害を患わないものである、請求項21に記載の方法。
【請求項35】
上記被験体が空間学習障害を患うものである、請求項21に記載の方法。
【請求項36】
上記被験体が空間学習障害を患わないものである、請求項21に記載の方法。
【請求項37】
上記被験体がアミロイドβ−ペプチドレベルの増加を示すものである、請求項21に記載の方法。
【請求項38】
上記被験体がアミロイドβ−ペプチドレベルの増加を示さないものである、請求項21に記載の方法。
【請求項39】
上記被験体がII型糖尿病を患うものである、請求項21に記載の方法。
【請求項40】
上記被験体がII型糖尿病を患わないものである、請求項21に記載の方法。
【請求項41】
インシュリン抵抗性を減少させる物質、及び、
抗うつ薬/抗不安薬
を含む、組成物。
【請求項42】
インシュリン抵抗性を減少させる物質が、マレイン酸ロシグリタゾンである、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
インシュリン抵抗性を減少させる物質が、塩酸ピオグリタゾンである、請求項41に記載の組成物。
【請求項44】
容器、
容器内に配置されたインシュリン抵抗性を減少させる物質、及び、
容器に添付されるラベル及び/又は容器内に配置された挿入物を含む製品であって、
このラベル及び/又は挿入物には、その物質がアルツハイマー病及び/又はアルツハイマー病の一つ又は複数の臨床的特徴の発症の危険を治療、減少させ、及び/又はアルツハイマー病及び/又はアルツハイマー病の一つ又は複数の臨床的特徴の発症を阻害するのに用いることができる物質であることが表示及び/又は示唆されるものである、製品。
【請求項45】
上記物質が、チアゾリジンジオンを含むものである、請求項44に記載の製品。
【請求項46】
上記物質が、グリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体を含むものである、請求項44に記載の製品。
【請求項47】
上記物質が、ロシグリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体を含むものである、請求項44に記載の製品。
【請求項48】
上記物質が、マレイン酸ロシグリタゾンを含むものである、請求項44に記載の製品。
【請求項49】
上記物質が、ピオグリタゾン、又はその薬学的に許容される塩、溶媒和物、若しくは付加体を含むものである、請求項44に記載の製品。
【請求項50】
上記物質が、塩酸ピオグリタゾンを含むものである、請求項44に記載の製品。
【請求項51】
試験化合物のインシュリン抵抗性を減少させる能力を評価するための方法であって、
該試験化合物をTg2576マウスに投与する工程、及び、
該Tg2576マウスがインシュリン抵抗性の減少を示すかどうかを評価する工程、
を含む方法。
【請求項52】
被験体におけるアルツハイマー病を検出するための、又は被験体におけるアルツハイマー病の発症の危険性を評価するための方法であって、
該被験体におけるインシュリン抵抗性を評価する工程を含む方法であり、
高レベルのインシュリン抵抗性が、アルツハイマー病の存在、又はアルツハイマー病の発症の危険性の増加を示すものである方法。
【請求項53】
被験体の記憶障害及び/又は異常なストレス応答の発症の危険性を評価するための方法であって、
該被験体におけるインシュリン抵抗性を評価する工程を含む方法であり、
高レベルのインシュリン抵抗性が、記憶障害及び/又は異常なストレス応答の発症の危険性の増加を示すものである方法。
【請求項54】
被験体における空間学習を改善するための、又は空間学習障害を阻害するための方法であって、
該被験体に、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程を含む方法。
【請求項55】
被験体における記憶障害の発生を減少又は阻害するための、又は記憶を改善するための方法であって、
該被験体に、インシュリン抵抗性を減少させる物質を投与する工程を含む方法。

【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−500230(P2007−500230A)
【公表日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533365(P2006−533365)
【出願日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/016308
【国際公開番号】WO2004/105695
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(502381106)クレイトン ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】