説明

アルブミン−金属ポルフィリン複合体および光増感剤

【課題】水に難溶な天然の金属ポルフィリンや疎水性の合成金属ポルフィリン化合物を用いながら、水系媒体中における光増感剤として有効に作用し得る物質を提供すること。
【解決手段】中心金属イオンとして亜鉛、マグネシウム、カドミウム、パラジウムまたはクロムを有する金属ポルフィリン化合物と、前記金属ポルフィリンを包接するアルブミンを含むアルブミン−金属ポルフィリン複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルブミンに金属ポルフィリン化合物を包接させたアルブミン−金属ポルフィリン複合体およびそれからなる光増感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
分子状水素は、二酸化炭素排出のないクリーンなエネルギー源として古くから注目を集めている。特に、可視光の照射により水を還元し、水素を産生する反応系の開拓については、20年以上にわたり多くの研究がなされてきた。この反応では、光増感剤がきわめて重要な役割をはたす。そのような光増感剤として、これまで様々な有機色素が合成・評価されてきている。その代表例は、ルテニウム(トリスビピリジン)錯体や亜鉛ポルフィリン等である。ルテニウム(トリスビピリジン)錯体を用いた水の還元反応についての報告は非常に多い(非特許文献1等)。また、ポルフィリン誘導体は、光合成活性中心の人工的構築とも関連し、関心が高い。
【0003】
古典的ではあるが、メチルビオロゲン、白金コロイドおよび還元剤(犠牲試薬)の水溶液に光増感剤として水溶性のテトラキス(1−メチルピリジニウム−4−イル)ポルフィリン亜鉛(ZnTMPyP4+)錯体を溶かし、これに可視光を照射して、水素を産生する方法が知られている(非特許文献2、3)。この先駆的な発見に続き、いくつかのポルフィリン誘導体を用いた類似の研究が追随したものの、光増感剤として作用するためにはポルフィリン誘導体は水溶性でなければならず、水溶性ポルフィリンは合成が困難であるため、いまだにZnTMPyP4+錯体が広く使用されている。
【0004】
水溶性の合成ポルフィリンの代わりに、天然のポルフィリン(一般に、プロトポルフィリンやその誘導体は、中性域の水には難溶)や、疎水性の合成ポルフィリンが光増感剤として使用することができれば、所望の波長域の選択、酸化還元電位の調節、安価なポルフィリンの利用等が可能となり、エネルギー変換の科学と技術に新しい突破口を開くことができると期待される。
【非特許文献1】K. Kalyanasundaram, Coord. Chem. Rev. 46, 159 (1982)
【非特許文献2】K. Kalyanasundaram, M. Gratzel, Helv. Chim. Acta 63, 478 (1980)
【非特許文献3】A. Hariman, et al., J. Chem. Soc. Faraday Trans. 2 77, 833 (1981)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、水に難溶な天然の金属ポルフィリンや疎水性の合成金属ポルフィリン化合物を用いながら、水系媒体中における光増感剤として有効に作用し得る物質を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、疎水性の金属ポルフィリン化合物を用いて水中に溶解させる方法論の探索と、得られる金属ポルフィリン化合物水溶液の機能発現について鋭意研究を重ねた結果、特定金属を中心金属として有する金属ポルフィリン化合物をアルブミンの中に包接させて得たアルブミン−金属ポルフィリン複合体は、疎水性の金属ポルフィリンがアルブミン−金属ポルフィリン複合体として水中に濃度高く溶解できるばかりでなく、ポルフィリンがアルブミン内の疎水的ドメインの中に1分子ずつ固定されるため、光励起状態が安定に存在し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1の側面によれば、中心金属イオンとして亜鉛、マグネシウム、カドミウム、パラジウムまたはクロムを有する金属ポルフィリン化合物と、前記金属ポルフィリン化合物を包接するアルブミンを含むアルブミン−金属ポルフィリン複合体が提供される。
【0008】
本発明の第2の側面によれば、本発明のアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む光増感剤が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルブミン−金属ポルフィリン複合体は、アルブミンの内部に金属ポルフィリン化合物を包接(または配位結合)しているため、水に難溶な金属ポルフィリン化合物はもちろん、水に不溶な金属ポルフィリン化合物でも、水中へ高濃度に溶解させることができる。さらに、アルブミン内部に包接されている金属ポルフィリン化合物は、外水相から隔離されているので、その金属ポルフィリン化合物が有機溶媒中にある場合に比べ、光励起寿命が長い等の特徴を持つ。つまり、本発明のアルブミン−金属ポルフィリン複合体は、各種光誘起反応の増感剤として機能し、特に水の可視光照射による還元反応の光増感剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
中心金属イオンとして亜鉛、マグネシウム、カドミウム、パラジウムまたはクロムを有する金属ポルフィリン(疎水性(水難溶性ないし水不溶性)金属ポルフィリン)をアルブミンの疎水ドメインへ包接させることにより、本発明のアルブミン−金属ポルフィリン複合体が得られる。アルブミンに包接される金属ポルフィリンは、金属プロトポルフィリン、金属デューテロポルフィリン、金属メソポルフィリン、金属ジアセチルデューテロポルフィリン、金属ジホルミルデューテロポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属オクタエチルポルフィリンのほか、下記式[I]または[II]で示されるものが好ましい。
【0011】
式[I]:
【化3】

【0012】
式[II]:
【化4】

【0013】
式[I]において、Mは、中心金属イオンである。
【0014】
式[I]において、R1は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、Mは中心金属イオンである。R1は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0015】
式[I]の金属ポルフィリン化合物のポルフィリン部分(Mのないポルフィリン化合物)は、J.P. Collmanら、J. Am. Chem. Soc., 97, 1427 (1975)、特開2003−40893号公報等に開示された方法により製造することができる。
【0016】
式[II]において、Mは、中心金属イオンである。
【0017】
式[II]において、R2は置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基である。R2は1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基が好ましい。そのような直鎖または脂環式炭化水素基の例を挙げると、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基(R’CONH−)、アルキルエステル基(R’OOC−)またはアルキルエーテル基(R’O−))、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基等である。ここで、R’で表されるアルキル基としてはC1〜C6アルキル基が好ましい。
【0018】
式[II]において、R3はアルキレン基であり、好ましくはC1〜C10アルキレン基である。
【0019】
式[II]において、R4はイミダゾリル基の中心遷移金属イオンMへの配位を許容する基である。かかるR4の例を挙げると、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である。
【0020】
式[II]の金属ポルフィリン化合物のポルフィリン部分(Mのないポルフィリン化合物)は、例えば、特開2003−40893号公報に開示された方法により得ることができる。
【0021】
本発明のアルブミン−金属ポルフィリン複合体において、アルブミンはヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、アルブミン多量体、ポリ(エチレングリコール)(表面)修飾アルブミンが好ましい。ポリ(エチレングリコール)表面修飾アルブミンにおいて、アルブミン1分子当りのポリ(エチレングリコール)の平均結合本数は、1〜15が好ましく、ポリ(エチレングリコール)の数平均分子量は500〜50,000が好ましい。ポリ(エチレングリコール)(表面)修飾アルブミンは、特開2006−45173号公報に開示された手法により製造することができる。
【0022】
本発明の金属ポルフィリンを包接したアルブミンは、金属ポルフィリンの結合をもたらすアミノ酸を遺伝子組換え技術により少なくとも一つ導入した組換えヒトアルブミンに、金属ポルフィリンを軸配位結合させて得た組換えアルブミン−金属ポルフィリン錯体であってもよい。導入されるアミノ酸はヒスチジンが好ましく、導入位置はサブドメインIBが好ましい。アミノ酸を遺伝子組換え技術により少なくとも一つ導入した組換えヒトアルブミンは、例えば、特開2006−45172号公報やT. Komatsu, et al., J. Am. Chem. Soc. 127, 15933 (2005)に開示された方法により製造することができる。この場合、金属ポルフィリンは、軸塩基配位子を分子内に持っていない金属プロトポルフィリン、金属デューテロポルフィリン、金属メソポルフィリン、金属ジアセチルデューテロポルフィリン、金属ジホルミルデューテロポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属オクタエチルポルフィリン、または式[I]で示される金属ポルフィリンが好ましい。
【0023】
このようなアルブミン−金属ポルフィリン複合体は、水に難溶な金属ポルフィリンや不溶な金属ポルフィリンを分子内に包接しているので、結果としてこれら金属ポルフィリンを水中に高濃度に溶解させることができる。また、アルブミン内部に包接されている金属ポルフィリンは、外水相から隔離されているので、有機溶媒中に比べ光励起寿命が長い等の特徴を持つ。つまり、本発明のアルブミン−金属ポルフィリン複合体は、各種光誘起反応の増感剤として機能し、特に中心金属が亜鉛、カドミウム等の場合、水の可視光照射による還元反応の光増感剤として有用である。
【0024】
本発明のアルブミン−金属ポルフィリン複合体の製造方法に特に制限はないが、例えば次の方法により製造することができる。
【0025】
すなわち、金属ポルフィリン化合物の有機溶媒(DMSO等)溶液(0.02〜2mM、好ましくは0.1〜1mM)をアルブミンのリン酸緩衝水溶液(pH7.0、0.01〜1mM、好ましくは0.05〜0.3mM)にゆっくりと滴下し(金属ポルフィリン/アルブミン=1/0.2〜10(モル)、好ましくは1:1〜8)、遮光下、室温で1〜24時間、好ましくは6〜16時間ゆっくりと回転させながら混合する。この溶液にリン酸緩衝液(pH7.0)を加えて希釈し、遠心濾過チューブ(MWCO:5〜10kDa)に入れ、遠心分離機を用いて濃縮する。この希釈/濃縮操作をDMSO濃度が0.1重量%以下になるまで繰り返す。こうして、アルブミン−金属ポルフィリン複合体の水溶液が得られる。このアルブミン−金属ポルフィリン複合体の水溶液は、金属ポルフィリン濃度3.75mMまで濃縮することができ、1年後まで沈殿・凝集は認められない。
【0026】
このアルブミン−金属ポルフィリン複合体水溶液の可視吸収スペクトル測定から、軸配位構造を解析することができる。また、アルブミン−金属ポルフィリン複合体水溶液にレーザーフラッシュ(λ=532nm)を照射し、励起三重項寿命を観測し、その半減期を決定することができる。
【0027】
アルブミン−金属ポルフィリン複合体の水溶液に電子伝達体(メチルビオロゲン、ベンジルビオロゲン等)を添加すると、励起三重項寿命は減少し、亜鉛ポルフィリンの励起三重項から電子伝達体へ電子移動が生起していることがわかる。
【0028】
本発明のアルブミン−金属ポルフィリン複合体は、各種光誘起反応における光増感剤として機能する。すなわち、例えば、本発明のアルブミン−金属ポルフィリン複合体は、光照射下に水を分子状水素に還元する反応系、特に光照射下で水を還元する、電子供与体、電子輸送体および触媒を含む反応系において光増感作用を示す。後者の系の場合、例えば、アルブミン−金属ポルフィリン複合体のリン酸緩衝水溶液(pH5〜8、好ましくは5.2〜7.0、[ポルフィリン]=1〜100μM、好ましくは2〜30μM)に電子伝達体(メチルビオロゲン(0.1〜20mM、好ましくは1〜5mM))、触媒(白金コロイド、ヒドロゲナーゼ(1〜200μM、好ましくは5〜100μM))、還元剤(トリエタノールアミンまたはEDTA(0.01〜1M、好ましくは0.05〜0.3M)を添加し、密栓後、充分に脱気する。キセノンランプを光源とし、紫外光をカットした光(好ましくは熱の発生を抑えるために赤外光をもカットした光)を照射する。この光照射により、水が分解され水素ガスを発生する。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、本発明が実施例のものに限定されないことは、言うまでもないことである。
【0030】
例1
亜鉛プロトポルフィリンのDMSO溶液(0.625mM、0.8mL)をヒト血清アルブミンの50mMリン酸緩衝水溶液(pH7.0、0.1mM、5mL)にゆっくりと滴下し(亜鉛ポルフィリン/アルブミン=1/1(モル))、遮光下、室温で12時間ゆっくりと回転させながら混合した。この溶液を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈し、遠心濾過チューブ(Vivaspin 20、MWCO:10kDa)に入れ、遠心分離機(Beckman Coulter Allegra X-15R)を用いて濃縮、この希釈/濃縮操作をDMSO濃度が0.1重量%以下になるまで繰り返した。得られたアルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体水溶液は、亜鉛ポルフィリン濃度3.75mMまで濃縮することができ、1年後まで沈殿・凝集は認められなかった。
【0031】
アルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体の10mMリン酸緩衝水溶液(10μM、3.5mL)を調製し、セル長10mmの角型石英製分光用セルに入れ、セプタムラバーで密栓後、セル内をアルゴンで充分に置換した。
【0032】
このアルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体水溶液の可視吸収スペクトル(λmax:420、547、585nm)は、亜鉛プロトポルフィリンの二つのカルボキシル基をメチルエステルに変換した亜鉛プロトポルフィリンジメチルエステルのトルエン溶液(5体積%エタノール添加)中のスペクトル(λmax:420、547、584nm)と一致した。このことは、亜鉛プロトポルフィリンがアルブミンの中に包接され、中心亜鉛にチロシンのフェノール酸素が軸配位していることを示している。
【0033】
このアルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体水溶液にレーザーフラッシュ(λ=532nm)を照射し、励起三重項寿命を観測したところ、その半減期は11msであった。これは、同条件におけるZnTMPyP4+錯体の値(0.81ms)に比べて格段に長い。
【0034】
このアルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体水溶液に電子受容体としてメチルビオロゲンを添加すると、励起三重項寿命は減少し、レーザーフラッシュ照射後の過渡吸収スペクトルには、新しいピーク(605、665nm)が出現した。これらは、それぞれ、メチルビオロゲンが一電子還元されたメチルビオロゲンのカチオンラジカル、亜鉛ポルフィリンが一電子酸化した亜鉛ポルフィリンのカチオンラジカルの吸収に帰属された。メチルビオロゲンの濃度変化から算出した本反応のスターン−ボルマー定数は、1.5×105(M-1)、また、消光速度定数(kq)は、1.4×107(M-1-1)、逆電子移動速度定数(kb)は、4.7×108(M-1-1)であった。
【0035】
上記アルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体の50mMリン酸緩衝液水溶液(pH5.4、[ポルフィリン]=10μM、3.5mM)にメチルビオロゲン(2mM)、白金コロイド(20μM)、トリエタノールアミン(0.19M)を添加し、密栓後、充分に脱気した。450Wキセノンランプを光源とし、熱吸収フィルター(ホーヤ カンデオ オプトロニクス(株)製HA30)を通過させた光を照射しながら、セル内液上空間の気体をガスクロマトグラムにより分析し、また発生した水素を経時的に定量した。発生水素量は6時間で約1.8μmolであった。これは、同条件でZnTMPyP4+錯体を用いた場合(約1.3μL)に比べて高かった。
【0036】
例2
例1で使用したヒト血清アルブミンの代わりに、遺伝子組換え技術を用いてヒト血清アルブミンの142位置イソロイシンをヒスチジンに、161位置チロシンをロイシンに変換した組換えヒト血清アルブミン(I142H/Y161L)を用いた以外は、例1と全く同様な手法により、アルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体の10mMリン酸緩衝水溶液(10μM、3.5mL)を調製した。得られたアルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体水溶液は、亜鉛ポルフィリン濃度3.75mMまで濃縮することができ、1年後まで沈殿・凝集は認められなかった。アルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体水溶液(10μM、3.5mL、pH7.0)をセル長10mmの角型石英製分光用セルに入れ、セプタムラバーで密栓後、セル内をアルゴンで充分に脱気した。
【0037】
このアルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体水溶液の可視吸収スペクトル(λmax:426、552、589nm)は、亜鉛プロトポルフィリンジメチルエステルのトルエン溶液(1−メチルイミダゾール(1mM)添加)中のスペクトル(λmax:427、554、591nm)と一致した。亜鉛プロトポルフィリンがアルブミンの中に包接され、中心亜鉛に142位置ヒスチジンの窒素が軸配位していることを示している。
【0038】
このアルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体水溶液にレーザーフラッシュ(λ=532nm)を照射し、励起三重項寿命を観測したところ、その半減期は2.5msであった。これは、同条件におけるZnTMPyP4+錯体の値(0.81ms)に比べて格段に長い。
【0039】
このアルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体水溶液に電子受容体としてメチルビオロゲンを添加すると、励起三重項寿命は減少し、レーザーフラッシュ照射後の過渡吸収スペクトルには、新しいピーク(605、665nm)が出現した。これらはそれぞれ、メチルビオロゲンが一電子還元されたメチルビオロゲンのカチオンラジカル、亜鉛ポルフィリンが一電子酸化した亜鉛ポルフィリンのカチオンラジカルの吸収と帰属された。メチルビオロゲンの濃度変化から算出した本反応の消光速度定数(kq)は、1.1×107(M-1-1)、逆電子移動速度定数(kb)は、6.8×108(M-1-1)であった。
【0040】
本アルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体の50mMリン酸緩衝液水溶液(pH5.4、[ポルフィリン]=10μM、3.5mM)にメチルビオロゲン(2mM)、白金コロイド(20μM)、トリエタノールアミン(0.19M)を添加し、密栓後、充分に脱気した。450Wキセノンランプを光源とし、熱吸収フィルター(ホーヤ カンデオ オプトロニクス(株)製HA30)を通過させた光を照射しながら、セル内液上空間の気体をガスクロマトグラムにより分析し、また発生した水素を経時的に定量した。発生水素量は6時間で約1.8μmolであった。
【0041】
例3
例1で使用した亜鉛プロトポルフィリンの代わりに、J. P. Collmanらの方法(J. Am. Chem. Soc. 97, 1427 (1975))により合成した5,10,15,20−テトラキス((α,α,α,α−o−ピバルアミド)フェニル)ポルフィリンに一般法(例えば、The Porphyrin,D. Dolphin (1975)に記載の方法)に従い、塩化亜鉛を用いて、亜鉛を挿入して得た5,10,15,20−テトラキス((α,α,α,α−o−ピバルアミド)フェニル)ポルフィリン亜鉛錯体を用いた以外は例1と全く同様な手法により、アルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体水溶液を調製した。得られた水溶液をセル長10mmの角型石英製分光用セルに入れ、セプタムラバーで密栓後、セル内をアルゴンで充分に脱気した。
【0042】
本アルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体の50mMリン酸緩衝液水溶液(pH5.4、[ポルフィリン]=10μM、3.5mM)にメチルビオロゲン(2mM)、白金コロイド(20μM)、トリエタノールアミン(0.19M)を添加し、密栓後、充分に脱気した。450Wキセノンランプを光源とし、熱吸収フィルター(ホーヤ カンデオ オプトロニクス(株)製HA30)を通過させた光を照射しながら、セル内液上空間の気体をガスクロマトグラムにより分析し、また発生した水素を経時的に定量した。発生水素量は6時間で約1.6μmolであった。
【0043】
例4
例1で使用した亜鉛プロトポルフィリンの代わりに、特開平8−301873号公報に記載の方法により合成した2−(N−(8−イミダゾリルオクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバルアミド)フェニル)ポルフィリンに一般法(例えば、The Porphyrin,D. Dolphin (1975)に記載の方法)に従い、塩化亜鉛を用いて、亜鉛を挿入して得た2−(N−(8−イミダゾリルオクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(ピバルアミド)フェニル)ポルフィリン亜鉛錯体を用いた以外は例1と全く同様な手法により、アルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体水溶液を調製した。得られた水溶液をセル長10mmの角型石英製分光用セルに入れ、セプタムラバーで密栓後、セル内をアルゴンで充分に脱気した。
【0044】
本アルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体の50mMリン酸緩衝液水溶液(pH5.4、[ポルフィリン]=10μM、3.5mM)にメチルビオロゲン(2mM)、白金コロイド(20μM)、トリエタノールアミン(0.19M)を添加し、密栓後、充分に脱気した。450Wキセノンランプを光源とし、熱吸収フィルター(ホーヤ カンデオ オプトロニクス(株)製HA30)を通過させた光を照射しながら、セル内液上空間の気体をガスクロマトグラムにより分析し、また発生した水素を経時的に定量した。発生水素量は6時間で約1.7μmolであった。
【0045】
例5
例1で使用した亜鉛プロトポルフィリンの代わりに、特開2003−40893号公報に記載の方法により合成した2−(N−(8-(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィリンに一般法(例えば、The Porphyrin,D. Dolphin (1975)に記載の方法)に従い、塩化亜鉛を用いて、亜鉛を挿入して得た2−(N−(8−(2−メチルイミダゾリル)オクタノイルオキシ))メチル−5,10,15,20−テトラキス(α,α,α,α−o−(1−メチルシクロヘキサンアミド)フェニル)ポルフィリン亜鉛錯体を用いた以外は例1と全く同様な手法により、アルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体水溶液を調製した。得られた水溶液をセル長10mmの角型石英製分光用セルに入れ、セプタムラバーで密栓後、セル内をアルゴンで充分に脱気した。
【0046】
本アルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体の50mMリン酸緩衝液水溶液(pH5.4、[ポルフィリン]=10μM、3.5mM)にメチルビオロゲン(2mM)、白金コロイド(20μM)、トリエタノールアミン(0.19M)を添加し、密栓後、充分に脱気した。450Wキセノンランプを光源とし、熱吸収フィルター(ホーヤ カンデオ オプトロニクス(株)製HA30)を通過させた光を照射しながら、セル内液上空間の気体をガスクロマトグラムにより分析し、また発生した水素を経時的に定量した。発生水素量は6時間で約1.8μmolであった。
【0047】
例5
例1で使用したヒト血清アルブミンの代わりにウシ血清アルブミンを用いた以外は例1と全く同様な手法により、アルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体水溶液を調製した。得られた水溶液をセル長10mmの角型石英製分光用セルに入れ、セプタムラバーで密栓後、セル内をアルゴンで充分に脱気した。
【0048】
本アルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体の50mMリン酸緩衝液水溶液(pH5.4、[ポルフィリン]=10μM、3.5mM)にメチルビオロゲン(2mM)、白金コロイド(20μM)、トリエタノールアミン(0.19M)を添加し、密栓後、充分に脱気した。450Wキセノンランプを光源とし、熱吸収フィルター(ホーヤ カンデオ オプトロニクス(株)製HA30)を通過させた光を照射しながら、セル内液上空間の気体をガスクロマトグラムにより分析し、また発生した水素を経時的に定量した。発生水素量は6時間で約1.5μmolであった。
【0049】
例6
例1で使用したヒト血清アルブミンの代わりに、特開2001−131200号公報に記載の方法に従った合成したヒト血清アルブミン二量体を、亜鉛プロトポルフィリンの代わりに亜鉛メソポルフィリンを用いた以外は例1と全く同様な手法により、アルブミン−亜鉛ポルフィリン複合体水溶液を調製した。得られた水溶液をセル長10mmの角型石英製分光用セルに入れ、セプタムラバーで密栓後、セル内をアルゴンで充分に脱気した。
【0050】
本アルブミン−亜鉛プロトポルフィリン複合体の50mMリン酸緩衝液水溶液(pH5.4、[ポルフィリン]=10μM、3.5mM)にメチルビオロゲン(2mM)、白金コロイド(20μM)、トリエタノールアミン(0.19M)を添加し、密栓後、充分に脱気した。450Wキセノンランプを光源とし、熱吸収フィルター(ホーヤ カンデオ オプトロニクス(株)製HA30)を通過させた光を照射しながら、セル内液上空間の気体をガスクロマトグラムにより分析し、また発生した水素を経時的に定量した。発生水素量は6時間で約1.5μmolであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心金属イオンとして亜鉛、マグネシウム、カドミウム、パラジウムまたはクロムを有する金属ポルフィリン化合物と、前記金属ポルフィリン化合物を包接するアルブミンを含むアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項2】
前記金属ポルフィリン化合物が、金属プロトポルフィリン、金属メソポルフィリン、金属デューテロポルフィリン、金属ジアセチルデューテロポルフィリン、金属ジホルミルデューテロポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、または金属オクタエチルポルフィリンである請求項1に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項3】
前記金属ポルフィリン化合物が、一般式[I]:
【化1】

(ここで、Mは、前記中心金属イオン、R1は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基)で示される請求項1に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項4】
1が、1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基である請求項3に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項5】
1が、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基である請求項4に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項6】
前記金属ポルフィリン化合物が、一般式[II]:
【化2】

(ここで、Mは、前記中心金属イオン、R2は、置換基を有してもよい直鎖または脂環式炭化水素基、R3は、アルキレン基、R4は、イミダゾリル基の中心金属イオンMへの配位を許容する基)で示される請求項1に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項7】
2が、1位に置換基を有する直鎖または脂環式炭化水素基であり、R3がC1〜C10アルキレン基であり、R4が、水素原子またはメチル基、エチル基もしくはプロピル基である請求項6に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項8】
2が、1,1−二置換C1〜C10アルカン基、1−置換シクロプロピル基、1−置換シクロペンチル基、1−置換シクロヘキシル基、2−置換ノルボルニル基(これら基における置換基は、メチル基、アルキルアミド基、アルキルエステル基またはアルキルエーテル基)、1−メチル−2−シクロヘキセニル基、または1−アダマンチル基である請求項7に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項9】
前記アルブミンが、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、アルブミン多量体、ポリ(エチレングリコール)修飾ヒト血清アルブミンである請求項1〜8のいずれか1項に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項10】
前記アルブミンが、前記金属ポルフィリン化合物の結合をもたらすアミノ酸を遺伝子組み換え技術により少なくとも一つ導入された組換えヒト血清アルブミンであり、前記金属ポルフィリン化合物が該組換えヒト血清アルブミンに軸配位結合されている請求項2〜5のいずれか1項に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のアルブミン−金属ポルフィリン複合体を含む光増感剤。
【請求項12】
光照射下に水を分子状水素に還元する反応系において光増感作用を示す請求項11に記載の光増感剤。
【請求項13】
光照射下で水を還元する、電子供与体、電子輸送体および触媒を含む反応系において光増感作用を示す請求項11に記載の光増感剤。

【公開番号】特開2008−95050(P2008−95050A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281831(P2006−281831)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000218719)
【Fターム(参考)】