説明

アルミナ質焼結体とその製造方法及びこれを用いた点火プラグ

【課題】耐電圧特性に優れ、高強度で高耐熱性の新規なアルミナ質焼結体とその製造方法、及び、該アルミナ質焼結体を用いた点火プラグを提供する。
【解決手段】アルミナ質焼結体は、平均粒径が2μm以下のアルミナ結晶を主相とし、該アルミナ結晶の粒界に結晶質のYSiと非晶質のSiOとで構成される高融点相を有し、上記アルミナ質焼結体を100重量%としたとき、上記高融点相が0.1〜15重量%であり、該アルミナ質焼結体の製造方法において、少なくとも平均粒径60〜100nmのイットリア粉末と平均粒径0.5μmのシリカ粉末とを混合する第1の混合工程P1と得られたイットリア/シリカ混合スラリーと平均粒径0.5〜1.0μmのアルミナ粉末と混合分散する第2の混合工程P2とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナを主成分とするアルミナ質焼結体とその製造方法及びこのアルミナ質焼結体を絶縁碍子として用いた点火プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ(Al)は、化学的、物理的に安定した性質を有する材料であり、アルミナを主成分とするアルミナ質焼結体は、高い絶縁性、耐電圧性を有し、自動車の燃焼機関用の点火プラグ、エンジン部品、IC基板における絶縁材料等に広く用いられている。
従来、1650℃以下の比較的低い温度で高純度なアルミナを主成分として緻密な焼結体を得ることは困難であることが知られており、アルミナとの共晶反応により低融点の液相を形成し得るシリカ(SiO)、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)等の焼結助剤を添加して、上記のような比較的低い温度での焼成により緻密化できるようにしている(例えば、特許文献1、特許文献2等参照)。このようなアルミナ質焼結体は、熱的及び化学的に極めて安定で、機械的強度が高く、電気絶縁性に優れているため、燃焼機関用の点火プラグ等の電気絶縁材料として広く実用化されている。
【0003】
一方、自動車等に使用される燃焼機関においては、高出力化、小型化が進み、燃焼室内におけるバルブ占有面積の増大に伴い、点火プラグのさらなる小型化への要求が高まっている。それに伴って、点火プラグにおいて中心電極と接地電極を構成する取付け金具との間に介在する絶縁碍子の厚みが薄くなる傾向にある。また、ターボチャージャ等の過給装置により高過給化が図られ、燃焼室内の温度が上昇する傾向にある。このため、点火プラグの絶縁材料として用いられるアルミナ質焼結体に対しては、さらなる高耐電圧化、高耐熱化並びに高強度化が要求されている。
【0004】
ところが、特許文献1に従来技術として示されたようなSiO−MgO−CaO系焼結助剤を含む従来のアルミナ質焼結体では、焼成後に該焼結助剤が低融点非晶質相としてアルミナの結晶粒界中に存在する。このような低融点非晶質相はバンドギャップが低くアルミナ質焼結体の高耐電圧化に限界があった。また、このような低融点非晶質相は、機械的強度も低く、高強度化にも限界があった。さらに、アルミナは高融点(約2050℃)であり、アルミナ質焼結体中のアルミナ含有率を増やせば、高耐電圧化、高耐熱化が期待できるが、アルミナの含有率が高くなると焼結性が低下し、実用的な1400℃から1600℃程度の焼成温度における焼結体の緻密化が困難となり、かえって高強度化、高耐電圧化が阻害される。
【0005】
そこで、特許文献1では、平均粒径1μm以下のアルミナと、従来のSiO−MgO−CaO系焼結助剤に代えて、新規な焼結助剤として、イットリア、マグネシア、ジルコニア及び酸化ランタンの少なくとも1つを用いて、アルミナ結晶粒界に高融点粒界相を形成してアルミナの異常粒成長を抑制することによって、空孔率が6%以下で、30〜35kV/mmの耐電圧有するアルミナ磁器及びこれを絶縁体として用いた点火プラグを実現している。
【0006】
また、特許文献2では、アルミナを重量比で95重量%を超え99.7重量%までの範囲で含み、焼結助剤を0.3から5重量%含有し、焼結助剤としてB換算で0.01〜0.25重量%とすることにより粒径20μm以上のアルミナ系主相粒子が断面積の50%以上とし、10μm以上の空孔の数を1mm当たり100個以下とすることによって高い耐電圧を有するアルミナ系絶縁体を実現している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献2に示された実施例では、所定の大きさに形成したテストピースの油中貫通絶縁破壊電圧が38kVと比較的高い値であり、所定の割合でホウ素を含む焼結助剤とアルミナとを用いて点火プラグを形成しているにも関わらず、実機による耐電圧テストでは、放電電圧35kVの連続運転により、40〜50時間で火花貫通が発生している。
これは、特許文献2にあるような焼成時にアルミナ粒子が20μm以上の大きな粒子に粒成長することを特徴とする焼結体では、形状が単純なテストピースの場合には、比較的成形が容易であるので成形密度が高く、高い焼結密度となり高い耐電圧が得られるが、実際の点火プラグのように形状がやや複雑になった場合には、成形体内の存在する気孔が焼結の進行とともに排出されることなく、大きく粒成長したアルミナ粒子内に多くの空孔が取り残され耐電圧が低下するためであると推察される。
実際、特許文献2では、このような実機試験の耐電圧が低くなる実施例では、点火プラグの絶縁体内の空孔については定かではないが、少なくともテストピースには単位面積当たりに10μm以上の極めて大きな空孔が91個又は92個観察されている。
一方、テストピースによる油中貫通化開電圧テストでは40kV以上の耐電圧を示し、実機による耐電圧テストでも火花貫通を起こさなかった実施例においても単位面積当たり10μm以上の空孔が50個以上観察されている。このような絶縁体内部に存在する空孔は、高電圧が印加されたときに絶縁破壊の起点となり得る。
したがって、特許文献2にあるような従来の方法では焼結体内の空孔を完全に取り除くことは困難であると推察される。単純形状のテストピースによる耐電圧が高くても、このような空孔の除去が困難な材料を用いて実際の製品とした場合には、製品形状の如何によって焼結体内に残留する空孔量が左右されて耐電圧にバラツキが生まれる虞があり、点火プラグとしての信頼性を損なう虞がある。
【0008】
また、アルミナ質焼結体の焼成過程において、特許文献1にあるように粒成長を抑制しながら焼結が進行する場合には、アルミナ粒子間に存在する開空孔(オープンポア)は焼結に進行により粒界とともに移動し、やがて消失するが、焼結助剤の種類や添加量、添加方法によっては、粒成長速度の抑制が不十分で空孔の移動速度よりも粒成長速度が早い場合には、成長したアルミナ粒子内部に空孔が残留する虞がある。一旦、アルミナ粒子内部に取り込まれた閉空孔(クローズドポア)は、その後どれだけ加熱しても消失することなく焼結体内部の欠陥として残留してしまう。
また、焼結助剤を過剰に添加した場合や、配合方法により添加した焼結助剤が局所的に偏在した場合には、焼結が不十分となり、空孔が残留する虞もある。したがって、特許文献1にあるようなアルミナの粒成長を抑制する焼結助剤を添加したアルミナ質焼結体においても、アルミナの粒成長を抑制しつつ空孔の排出を促進して焼結体の緻密化を向上すべく、使用する焼結助剤の種類、混合割合、混合方法を最適化することにより焼結密度を向上させ欠陥を少なくして、さらなる高耐電圧化及び高強度化を実現する余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、耐電圧特性に優れ、高強度で高耐熱性の新規なアルミナ質焼結体とその製造方法、及び、該アルミナ質焼結体を用いた点火プラグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、アルミナ質焼結体において主成分であるアルミナ及び焼結助剤として添加する材料の種類、混合比、混合方法について鋭意試験を行い、以下の知見を得た。
【0011】
第1の発明は、アルミナ結晶を主相とし、該アルミナ結晶の結晶粒界に少なくともイットリウム成分を含む結晶粒界相を有するアルミナ質焼結体であって、
上記アルミナ結晶の平均結晶粒径は2μm以下で、上記結晶粒界相は少なくとも上記イットリウム成分としてYSiとSiOとで構成する高融点相を有し、アルミナ質焼結体を100重量%としたとき、上記高融点相が0.1重量%以上15重量%以下の範囲で含有することを特徴とする(請求項1)。
本発明者等の鋭意試験により、本発明のアルミナ質焼結体は、結晶粒界に存在する高融点相が従来のSiO−CaO−MgO三成分系の焼結助剤を用いた低融点非晶質相に比べて高いバンドギャップを持ち絶縁破壊され難く、アルミナ質焼結体としての耐電圧が高いことが判明した。結晶粒界相は、焼成時において焼結体中のアルミナ結晶粒子の異常粒成長を抑制するとともに空孔の排出を促進し、緻密で高い強度を持つアルミナ質焼結体であることが確認された。本発明のアルミナ質焼結体は、耐電圧が35kV/mm以上であり、JIS R1601の試験方法により測定した室温及び高温(900℃)での4点曲げ強度が430MPa以上の優れたアルミナ質焼結体であることが確認された。
【0012】
第2の発明は、上記結晶粒界は、AlSi13(ムライト)相を含むことを特徴とする(請求項2)。
本発明者等の鋭意試験により、本発明によれば、より少ないY含有量で第1の発明と同様の効果が発揮されることが判明した。
【0013】
第3の発明は、上記結晶粒界相中に存在するYのY換算含有量は、上記結晶粒界相中に存在するSiのSiO換算含有量を1.0重量%としたとき0.02重量%以上0.08重量%以下の範囲であることを特徴とする(請求項3)。
本発明者等の鋭意試験により、本発明の範囲で上記結晶粒界中にYとSiとが存在することにより本発明の効果が発揮されることが判明した。また、結晶粒界相としてイットリウムを含有する従来のアルミナ質焼結体に比べてイットリアの添加量を少なくできることが判明した。
【0014】
第4の発明は、アルミナ結晶を主相とし、該アルミナ結晶の結晶粒界に少なくともYを含む結晶粒界相を有するアルミナ質焼結体の製造方法において、少なくとも平均粒径50nm以上100nm以下のイットリア粉末と平均粒径0.5μm以上1.0μm以下のシリカ粉末とを用い、重量比でシリカ粉末1.0に対してイットリア粉末を0.02から0.08の範囲で配合し、混合分散手段を用いて分散媒に分散してイットリア/シリカ混合スラリーとする第1の混合工程と、該第1の混合工程で得られたイットリア/シリカ混合スラリーと平均粒径0.4μm以上1.0μm以下のアルミナ粉末とをイットリア/シリカ混合スラリー中に含まれるイットリア粉末とシリカ粉末との合計重量を0.1重量部以上15重量部以下とし、残余をアルミナ粉末としてイットリア粉末とシリカ粉末とアルミナ粉末との合計が100重量部となるように配合し、混合分散手段を用いて分散媒に分散してイットリア/シリカ/アルミナ混合スラリーとする第2の混合工程と、該第2の混合工程で得られたイットリア/シリカ/アルミナ混合スラリーを噴霧乾燥してイットリア/シリカ/アルミナ混合造粒粉末を得る造粒工程と、該造粒工程で得られたイットリア/シリカ/アルミナ混合造粒粉末を成形してイットリア/シリカ/アルミナ混合成形体を得る成形工程と、該成形工程で得られたイットリア/シリカ/アルミナ混合成形体を焼成温度1300℃から1600℃、焼成時間1時間から3時間で焼成してアルミナ質焼結体を得る焼成工程とを具備する(請求項4)。
本発明者等の鋭意試験から、本発明によれば、第1の混合工程において、イットリア粉末とシリカ粉末とが均一に分散した状態となり、第2の混合工程において、アルミナ粉末に対してイットリア粉末が偏在することなくイットリア粉末とシリカ粉末とアルミナ粉末とが均一に分散し、極めて安定した状態となるので、これを造粒、成形、焼成したときに、アルミナ結晶に対してYが偏在することなくアルミナ結晶粒界に結晶質のYSiと非晶質のSiOとして均一に分布し、アルミナ結晶の平均粒径が2μm以下で、空孔が少なく緻密で、耐電圧が35kV/mm以上で、JIS−R1601に従って測定した900℃における4点曲げ強度が400PMa以上のアルミナ質焼結体が得られることが判明した。
【0015】
第5の発明は、上記第1の混合工程において、平均粒径0.5μm以上1.0μm以下のムライト粉末を上記シリカ粉末に対して同量添加することを特徴とする(請求項5)。
本発明者等の鋭意試験から、本発明によれば、より少ないイットリア添加量においても第4の発明と同様の効果が得られることが判明した。また、従来のSiO−MgO−CaO等の焼結助剤を用いても、焼結体を構成する結晶粒子中にAl成分とSi成分とが存在すれば、固相反応によりムライト相が形成される可能性があるが、本発明のようにムライト粉末として添加することにより、予め添加されたムライト粉末が核となるので、固相反応の活性化エネルギが低くなりAlSi13相がアルミナ結晶粒界に形成され易くなり、より緻密化が促進されるものと推察される。
【0016】
第6の発明は、燃焼機関に装着され、該燃焼機関の点火を行う点火プラグであって、外周にネジ部が設けられた取付金具と、該取付金具内に固定された絶縁碍子と、先端部が上記絶縁碍子から突出するように上記絶縁碍子内に固定された中心電極と、上記取付金具に固定されて上記中心電極の上記先端部との間に火花放電ギャップを介して対向する接地電極とを備え、上記絶縁碍子として請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアルミナ質焼結体を用いたことを特徴とする(請求項6)。
本発明によれば、過給器混合燃焼機関や、バルブ面積が大きく点火プラグを搭載するスペースの小さ燃焼機関の点火プラグとして要求される上記ネジ部が呼び径10mm以下の細径であっても、高い耐電圧と、高い強度とを備えた信頼性の高い点火プラグが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるアルミナ質焼結体の製造工程概要を示すフローチャート。
【図2】本発明のアルミナ質焼結体に用いられる粉末材料のゼータ電位と分散媒のpHとの関係を示す特性図。
【図3】本発明のアルミナ質焼結体に用いられる焼結助剤原料の第1の混合工程の説明図であって(a)は、イットリア粉末の概要を示し、(b)は、シリカ粉末の概要を示し、(c)は、ヘテロ凝集領域におけるイットリア/シリカ凝集体の概要を示す模式図。
【図4】本発明のアルミナ質焼結体の焼結状態を示し、(a)は、微構造を示す模式図、(b)は、結晶粒界の詳細を示す模式図。
【図5】本発明のアルミナ質焼結体の結晶構造を示す図面代用電子顕微鏡写真。
【図6】本発明のアルミナ質焼結体の結晶構造を示す図面代用透過型電子顕微鏡写真。
【図7】比較例として示す従来のアルミナ質焼結体の結晶構造の図面代用電子顕微鏡写真。
【図8】比較例として示す従来のアルミナ質焼結体の結晶構造の図面代用透過型電子顕微鏡写真。
【図9】本発明の第2の実施形態におけるアルミナ質焼結体の製造工程概要を示すフローチャート。
【図10】本発明の第1の実施形態におけるアルミナ質焼結体の耐電圧を示し、(a)は、焼結助剤濃度を変化させたときの耐電圧を示す特性図、(b)は、焼結助剤中のY成分のY換算重量%を変化させたときの耐電圧を示す特性図。
【図11】本発明の第2の実施形態におけるアルミナ質焼結体の耐電圧を示し、(a)は、焼結助剤濃度を変化させたときの耐電圧を示す特性図、(b)は、焼結助剤中のY成分のY換算重量%を変化させたときの耐電圧を示す特性図。
【図12】本発明の第1の実施形態におけるアルミナ質焼結体中のY成分のY換算重量%を変化させたときの4点曲げ強度を示す特性図。
【図13】本発明のアルミナ質焼結体を絶縁体として用いる点火プラグの全体構造を示す半断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態におけるアルミナ質焼結体は、平均結晶粒径2μm以下のアルミナ結晶を主相とし、アルミナ質焼結体を100重量%としたときに、アルミナ結晶の粒界に結晶質のYSiと非晶質のSiOとからなる高融点相が0.1重量%から15重量%の範囲で形成されている。
【実施例】
【0019】
図1を参照して、本発明の第1の実施形態におけるアルミナ質焼結体の製造工程の概要について説明する。
第1の混合工程P1では、シリカ粉末とイットリア粉末とを所定量の割合で水に分散したイットリア/シリカ混合スラリーを形成する。
具体的には、SiO純度99.9%以上、平均粒径0.5μmのシリカ粉末と、Y純度99.9%以上、平均粒径60〜100nmのイットリア粉末とを用いた。イットリア粉末とシリカ粉末とは、重量比でシリカ粉末1.0に対してイットリア粉末を0.02から0.08の割合で配合する。純水100重量部に対して、イットリア粉末とシリカ粉末とを混合した粉末20重量部を添加し、撹拌翼を設けたタンク内に投入し、撹拌混合する。このとき、分散剤を適宜添加しても良い。
さらに、高速ロータミキサ等の混合分散手段を用いて、イットリア粉末とシリカ粉末とが均一に分散したイットリア/シリカ混合スラリーを作成する。高速ロータミキサは混合室と、この混合室内に周速20m/秒以上で高速旋回する複数のロータとを備える。
【0020】
イットリア/シリカ混合スラリーを各ロータが高速回転する混合室に導入すると、イットリア/シリカ混合スラリー内に高速旋回流が形成される。そして、各ロータに形成された1mm程度の間隙をイットリア/シリカ混合スラリーが通過する際に衝撃波が発生し、この衝撃波により、シリカ粉末及びイットリア粉末の凝集が解砕される。均一に分散する。その結果、イットリア粉末とシリカ粉末とが均一に分散されたイットリア/シリカ混合スラリーが得られる。高速ロータミキサを複数回通過させることによってより均一なスラリーを得ることができる。
本実施形態においては、高速ロータミキサでの操作は3パスで行った。1パスとは原料混合物スラリーの全量が高速ロータミキサの混合室を1回通過することであり、3パスとは3回通過させることである。
【0021】
第2の混合工程P2では、第1の混合工程で得られたイットリア/シリカ混合スラリーと、アルミナ粉末とを所定の割合で混合し、さらに混合撹拌し、造粒助剤を適宜添加し、イットリア/シリカ/アルミナ混合スラリーを形成する。Al純度99.9%以上、平均粒径0.4〜1.0μmのアルミナ粉末を用いた。
イットリア/シリカ混合スラリーとアルミナ粉末との混合比は、粉末の状態における重量比でイットリア/シリカ混合焼結助剤分が0.1重量%〜15重量%、残余がアルミナ分となる範囲で混合する。
造粒助剤(バインダー)として、例えば、ポリビニルアルコール、アクリル等の水溶性樹脂材料を用いることができる。
【0022】
造粒工程P3では、第2の混合工程P2で得られたイットリア/シリカ/アルミナ混合スラリーを、噴霧乾燥装置等の公知の造粒方法によって造粒、乾燥しイットリア/シリカ/アルミナ造粒粉末を得る。
【0023】
成形工程P4では、造粒工程P3で得られたイットリア/シリカ/アルミナ造粒粉末を用いて、冷間静水圧プレス(CIP)、一軸加圧プレス、多軸加圧プレス等の公知の成形方法により、所定の形状のイットリア/シリカ/アルミナ成形体を得る。
【0024】
焼成工程P5では、成形工程P4で得られたイットリア/シリカ/アルミナ成形体を1400℃〜1600℃の範囲の温度で、大気雰囲気の下、公知の焼成炉を用いて1〜3時間焼成し、本発明のアルミナ質焼結体を得る。なお、本工程において、成形体中の造粒助剤分は焼成過程又は脱脂炉を用いた脱バインダ処理等によって適宜除去される。
本発明のアルミナ質焼結体は、平均粒径2μm以下のAl結晶を主結晶相とし、0.1重量%から15重量%の結晶質のYSiと非晶質のSiOとからなる高融点相が粒界相として存在する。Yの存在により、Alの異常粒成長が抑制され、空孔の少ない緻密な焼結体するとともに、結晶粒界に存在するYSiとSiOとからなる高融点相は、バンドギャップが広く高い耐電圧が期待できる。また、得られた本発明のアルミナ質焼結体は、密度3.95g/cm(相対密度98.5%)であった。さらに、X線回折により、本発明のアルミナ質焼結体に含まれるAl、Si、Yの量は、出発原料として使用したAl、SiO、Yの配合比率にほぼ等しいことが確認された。
【0025】
ここで、図2、図3を参照して、第1の混合工程におけるシリカ粉末とイットリア粉末との分散メカニズムについて詳述する。
図2に示すように、シリカ粉末、イットリア粉末、アルミナ粉末等のセラミック粉末を水等の極性分散媒に分散させると、分散媒のpHによってゼータ電位が変化する。pH1〜3の範囲に等電点(iep)があるシリカ粉末とpH9〜14の範囲に等電点があるイットリア粉末とでは、分散媒のpHが3〜9の広い範囲で互いに反対の表面電荷を帯びた状態となる。
【0026】
本発明に用いられるイットリア粉末及びシリカ粉末は極めて細かい粉末であるので、図3(a)、(b)に示すように、単体では、複数の粒子が凝集した凝集体を形成している。このように凝集性の強いイットリア粉末を焼結助剤として少量を直接アルミナ粉末に混合しても凝集粒子を解砕できず、不均一な分布状態となる虞がある。
ところが、本発明のように、予めイットリア粉末とシリカ粉末とを第1の混合工程で分散させると、図3(c)に示すように、負の電荷を帯びたシリカ粒子の表面に正の電荷を帯びたイットリア粒子が付着してヘテロ凝集粒子を形成すると考えられる。また、同一の電荷を帯びたイットリア粒子同士、シリカ粒子同士は静電斥力によって反発しあうため、イットリア/シリカ混合スラリーとしては安定した分散状態となると考えられる。
【0027】
また、本発明においては、重量比で平均粒径0.5μmのSiO2粉末1.0に対して平均粒径60〜100nmのY粉末とを重量比で0.02から0.08の範囲で混合しているが、これは、シリカ粒子1個の表面に数個から数十個程度のイットリア粒子が付着してヘテロ凝集粒子を形成する範囲であると考えられる。
第2の混合工程では、イットリア粒子はシリカ粒子表面に静電引力によって吸着した状態でシリカ粒子と一体的に移動するため、シリカ粒子と粒径の近いアルミナ粒子と混合したときに、イットリア粒子のみが偏在することなくアルミナ粒子に対して均一に分散すると考えられる。さらに、イットリア粒子がシリカ粒子表面に付着することにより、ヘテロ凝集粒子の表面電荷が中和され、アルミナ粒子の表面電荷に近づく。したがって、シリカ粒子を単独でアルミナ粒子と混合した場合に比べ、シリカ/アルミナ間でのヘテロ凝集を起こし難くなっているので、より安定した分散状態を維持したスラリーが形成されるものと推察される。
【0028】
上述した本発明の第1の実施形態に示したアルミナ質焼結体の製造方法によって得られた本発明のアルミナ質焼結体の結晶構造について図4、図5、図6を参照して説明する。
図4(a)は、低倍率で観察したアルミナ質焼結体の結晶構造を示す模式図で(b)は高倍率で観察したルミナ質焼結体の結晶構造を示す模式図であり、図5は本発明のアルミナ質焼結体の自由表面を観察した実際のSEM写真(5000倍)であり、図6は、TEM写真である。図7は、比較例として示す従来のアルミナ質焼結体の自由表面を観察したSEM写真であり、図8は、従来のアルミナ質焼結体の結晶構造を示すTEM写真である。図4(a)に示すように、本発明のアルミナ質焼結体では、主結晶相であるアルミナ結晶の平均粒径は2μm以下で、図5に示すように観察可能な空孔はほとんど見られない。また、図4(b)及び図6に示すように、アルミナ粒子1の周囲を覆うように、結晶粒界中に結晶質のYSi及び非晶質のSiOとからなる結晶粒界相2が存在していることが確認された。
【0029】
図7及び図8に示すように、従来のアルミナ質焼結体は、アルミナ結晶1zの平均結晶粒径が6μmと大きく粒成長しているのが判る。また、結晶粒界にSiO−CaO−MgO三成分系の低融点非晶質相が存在しており、このような低融点非晶質相はバンドギャップが低くアルミナ質焼結体の高耐電圧化に限界があった。また、このような低融点非晶質相は、機械的強度も低く、高強度化にも限界がある。
【実施例1】
【0030】
本発明の第2の実施形態におけるアルミナ質焼結体は、平均結晶粒径2μm以下のアルミナ結晶を主相とし、アルミナ質焼結体を100重量%としたときに、アルミナ結晶の粒界に結晶質のYSiと非晶質のSiOと結晶質のAlSi13からなる高融点相が0.1重量%から15重量%の範囲で形成されている。
【0031】
図9を参照して、本発明の第2の実施形態におけるアルミナ質焼結体の製造方法について説明する。
本実施形態においては、第1の混合工程P1aにおいて、シリカ粉末とイットリア粉末とを所定量の割合で水に分散したイットリア/シリカ混合スラリーを形成する。
具体的には、シリカ粉末として、純度99.9%以上、平均粒径0.5μmのSiO粉末と、イットリア粉末として純度99.9%以上、平均粒径60〜100nmのY粉末と、ムライト粉末として純度99.9%以上、平均粒径0.8μmのAlSi13粉末とを用いた点が上記実施形態と相異するが、その他の点は同様である。イットリア粉末とシリカ粉末とは、重量比でシリカ粉末1.0に対してイットリア粉末を0.02から0.08の割合で配合し、ムライト粉末はシリカ粉末と同量配合する。
第2の混合工程P2a、造粒工程P3a、成形工程P4a、焼成工程P5aを経て、本発明の第2の実施形態におけるアルミナ質焼結体が得られる。本実施形態におけるアルミナ質焼結体の結晶構造は、平均結晶粒径が2μm以下のアルミナ結晶を主晶とし、アルミナ結晶の粒界に結晶質のYSiと非晶質のSiOと結晶質のAlSi13からなる高融点相が形成されていることが確認された。
【実施例2】
【0032】
以下に、本発明者等が行った試験について説明する。
アルミナ純度99.9%以上、平均粒径0.4〜1.0μmのアルミナ粉末、SiO2純度99.9%以上、平均粒径0.5μmのシリカ粉末、Y純度99.9%以上、平均粒径60〜100nmのイットリア粉末を準備した。なお、イットリア粉末の平均粒径は、透過型電子顕微鏡TEM(Transmission Electron Microscopy)で観察した100個の粒子について算術平均した平均粒子径であり、この微粒子の最大径は、1μm未満であった。
【0033】
試料No.1〜11では、イットリア粉末とシリカ粉末との混合比をシリカ粉末1に対してイットリア粉末0.02の割合で配合したイットリア/シリカ混合スラリーを第1の混合工程により準備し、アルミナ粉末と焼結助剤粉末との配合比を表1に示す配合比率で混合し、第2の混合工程P2により、イットリア/シリカ/アルミナ混合スラリーを作成し、上述の造粒工程P3、成形工程P4、焼成工程P5を経て、実際の点火プラグ用の絶縁碍子を作成し、耐電圧測定用サンプルとしてφ15mm×1.0mmの試料を切り出して、JIS−C2141に準じた方法で耐電圧を測定し、その結果を表1に示す。具体的には、アルミナ質焼結体をダイヤモンド砥粒研磨盤を用いて厚さ1.0±0.05mmに研磨加工し、専用耐電圧測定装置にて実測する。すなわち、アルミナ質焼結体の上下面にニードル状に尖らせたプローブを当て、この状態で上下のプローブ間に、定電圧電源から発振器とコイルとにより発生させた高電圧を、オシロスコープでモニターしながら、20kVから10秒間に1kVの割合でステップ的に印加電圧を上昇させる。そして、試料が絶縁破壊したときの電圧をそのアルミナ質焼結体の耐電圧とした。35kV/mm以上の耐電圧が得られたものを本発明の実施例1〜6とし、35kV/mmより低い耐電圧しか得られなかったものを本発明の範囲から除く比較例X1〜X5とした。
また、各試験の評価として、40kV/mm以上の耐電圧を示す効果に優れたものを◎印、35kV/mm以上の耐電圧を示す効果の優れたものを○印、耐電圧の改善はあるものの効果の低いものを△印、従来の三成分系焼結助剤を用いた場合と同様の結果であってものを×印で示した。
【0034】
同様に、試料12〜22では、イットリア粉末とシリカ粉末との混合比をシリカ粉末1に対してイットリア粉末0.04の割合で配合したイットリア/シリカ混合スラリーを第1の混合工程により準備し、アルミナ粉末と焼結助剤粉末との配合比を表1に示す配合比率で混合し、第2の混合工程P2により、イットリア/シリカ/アルミナ混合スラリーを作成し、上述の造粒工程P3、成形工程P4、焼成工程P5を経て、実際の点火プラグ用の絶縁碍子を作成し、耐電圧測定用サンプルとしてφ15mm×1.0mmの試料を切り出して、JIS−C2141に準じた方法で耐電圧を測定し、その結果を表2に示す。35kV/mm以上の耐電圧が得られたものを本発明の実施例7〜12とし、35kV/mmより低い耐電圧しか得られなかったものを本発明の範囲から除く比較例X6〜X10とした。
【0035】
さらに、試料23〜33では、イットリア粉末とシリカ粉末との混合比をシリカ粉末1に対してイットリア粉末0.08の割合で配合したイットリア/シリカ混合スラリーを第1の混合工程により準備し、アルミナ粉末と焼結助剤粉末との配合比を表1に示す配合比率で混合し、第2の混合工程P2により、イットリア/シリカ/アルミナ混合スラリーを作成し、上述の造粒工程P3、成形工程P4、焼成工程P5を経て、実際の点火プラグ用の絶縁碍子を作成し、耐電圧測定用サンプルとしてφ15mm×1.0mmの試料を切り出して、JIS−Cに準じた方法で耐電圧を測定し、その結果を表3に示す。35kV/mm以上の耐電圧が得られたものを本発明の実施例13〜18とし、35kV/mmより低い耐電圧しか得られなかったものを本発明の範囲から除く比較例X11〜X15とした。
【0036】
以上の結果を図10にまとめた。図10(a)は、耐電圧に対する焼結助剤濃度(重量%)の効果を示し、図10(b)は、結晶粒界中のY成分の濃度をY2O3換算濃度(重量%)で示した耐電圧に対する効果を表す。
図10(a)から、イットリア粉末とシリカ粉末とからなる焼結助剤を、アルミナ質焼結体を100重量%とした、0.14重量%から12重量%の範囲で配合することにより、35kV/mm以上の高い耐電圧が実現できることが判明した。
また、イットリア粉末とシリカ粉末との混合比率をシリカ粉末1.0に対してイットリア粉末を0.02、0.04、0.08と変えた場合には、イットリア粉末を0.04の割合で配合したときに効果が高いことが判明した。
さらに、図10(b)に示すように、横軸をY換算濃度で表すと、同一のY換算濃度に対して配合するシリカの割合によって本発明の効果が異なることから、シリカ粉末とイットリア粉末との組み合わせが重要であることが判る。
【実施例3】
【0037】
次いで、試料1〜試料11について、JIS−R1601にて指定されている形状3mm×4mm×40mmまで研磨し抗折強度試験用試料を作製した。この試料についてJIS−R1601による試験要領に基づき大気中で、室温及び900℃での4点曲げ抗折強度試験を実施し、その結果を表4及び図11に示す。
【0038】
アルミナ純度99.9%以上、平均粒径0.4〜1.0μmのアルミナ粉末、SiO2純度99.9%以上、平均粒径0.5μmのシリカ粉末、Y純度99.9%以上、平均粒径60〜100nmのイットリア粉末、AlSi13純度99.9%以上、平均粒径0.8μmのムライト粉末を準備した。
上記試験と同様に、試料No.34〜44では、イットリア粉末とシリカ粉末とムライト粉末との混合比をシリカ粉末1.0に対してイットリア粉末0.02、ムライト粉末1.0の割合で配合したイットリア/シリカ/ムライト混合スラリーを第1の混合工程P1aにより準備し、順次各工程を進め実際のプラグ形状に形成したアルミナ質焼結体を得てこれを所定の大きさに切り出し、耐電圧を測定し、その結果を表5に示す。電圧が35kV/mm以上であったものを本発明の実施例19〜25とし、35kV/mm未満のものを比較例X16〜X19とした。
【0039】
同様に、試料No.45〜55では、イットリア粉末とシリカ粉末とムライト粉末との混合比をシリカ粉末1.0に対してイットリア粉末0.04、ムライト粉末1.0の割合で配合したイットリア/シリカ/ムライト混合スラリーを第1の混合工程P1aにより準備し、順次各工程を進め実際のプラグ形状に形成したアルミナ質焼結体を得てこれを所定の大きさに切り出し、耐電圧を測定し、その結果を表6に示す。耐電圧が35kV/mm以上であったものを本発明の実施例26〜32とし、35kV/mm未満のものを比較例X20〜X23とした。
【0040】
同様に、試料No.56〜66では、イットリア粉末とシリカ粉末とムライト粉末との混合比をシリカ粉末1.0に対してイットリア粉末0.04、ムライト粉末1.0の割合で配合したイットリア/シリカ/ムライト混合スラリーを第1の混合工程P1aにより準備し、順次各工程を進め実際のプラグ形状に形成したアルミナ質焼結体を得てこれを所定の大きさに切り出し、耐電圧を測定し、その結果を表6に示す。電圧が35kV/mm以上であったものを本発明の実施例33〜39とし、35kV/mm未満のものを比較例X24〜X27とした。
【0041】
図12に表5から表7の結果をまとめて示す。図12(a)は、耐電圧に対する第2の実施形態における助剤濃度の効果示し、(b)は、Y換算濃度の効果を示す。
本実施形態においても上記実施形態と同様に、イットリア/シリカ/ムライト混合助剤濃度を0.1重量%から15重量%の範囲で配合することにより、35kV/mm以上の高い耐電圧を有するアルミナ質焼結体が得られることが確認された。
また、イットリア粉末をシリカ粉末に対して0.04の割合で配合するのが望ましい点は第1の実施形態の場合と同様であった。
第1の実施形態におけるアルミナ質焼結体と第2の実施形態におけるアルミナ質焼結体とを比較すると、第2の実施形態におけるアルミナ質焼結体の方がより少ないイットリアの添加量で耐電圧が高くなっており、また、焼結助剤の濃度変化に対してより広い範囲で高い耐電圧を示すことが判明した。
【0042】
次いで、実施例21、28、35及び比較例X24、X27について4点曲げ試験を行い、その結果を表8に示す。本発明の第2の実施形態におけるアルミナ質焼結体においても900℃の高温においても400MPa以上の高い4点曲げ強度を有することが判明した。
【実施例4】
【0043】
図13を参照して本発明のアルミナ質焼結体を絶縁体として用いた本発明の第3の実施形態における点火プラグ5の概要について説明する。点火プラグ5は、自動車用エンジン等の燃焼機関の点火に用いられるものであり、該燃焼機関の燃焼室を区画するエンジンヘッド(図示略)に設けられたねじ穴に挿入されて固定されるようになっている。本実施形態における点火プラグ5は、高耐電圧で高強度の本発明のアルミナ質焼結体を絶縁体として用いることにより、絶縁体の肉厚を薄くすることが可能となり、近年の自動車エンジン等に使用される燃焼機関の高出力化や吸気バルブ及び排気バルブの大型化に伴う点火プラグ搭載スペースの小型化に対応する細径の点火プラグとして好適なものである。なお、以下の説明において図の上方を基端側、図の下方を先端側又は燃焼室側と称す。
【0044】
点火プラグ5は、本発明のアルミナ質焼結体を用いて略筒状に形成した絶縁碍子50と絶縁体50の内側に保持される中心電極51と絶縁碍子50の外周を覆いつつ図略のエンジンヘッドに固定する取付け金具52と取付け金具52に沿設された接地電極53とによって構成されている。
取付け金具52は、例えば、導電性の低炭素鋼等の高耐熱性金属材料を用いて略筒状に形成されている。取付け金具52の外周面には、図略のエンジンヘッドに設けられたねじ穴に固定するためのネジ部522が設けられている。本実形態において、ネジ部522の呼び径は10mm以下であり、ネジ部522は、JIS(日本工業規格)でいうM10以下のものである。
【0045】
取付け金具52の中腹内周は先端側に向かって径小となる係止部523が形成され、内側に絶縁碍子50の大径部502が係止、固定されている。取付け金具52の基端側外周にはネジ部522を締めつけるためのナット部523が形成されている。取付け金具52の基端側には、加締め部524が形成され。封止部材525を介して絶縁碍子50の大径部502を加締め固定している。 ネジ部522は、図略のエンジンヘッドに設けられたネジ穴にガスケット55を介して螺結される。ネジ部522を形成した取付け金具52の内側は、中心電極51との間で電界を形成する側面電極520を構成している。
【0046】
絶縁碍子50は、本発明のアルミナ質焼結体を用いて略筒状に形成されている。絶縁碍子50の軸孔501には略長軸状に形成された中心電極51が挿入・固定されている。絶縁碍子50の中腹には径大となる大径部502が形成され、取付け金具52の内側に係止・固定されている。絶縁碍子50の先端部503は、取付け金具52の先端部521から燃焼室側に突出している。絶縁碍子の先端部503を取付け金具52の先端部521から突出させることにより、本実施形態のように細径のプラグにおいても中心電極先端部511と取付け金具先端部521との間の放電を抑制している。
絶縁碍子52の基端側は、取付け金具52の加締め部524から露出する碍子頭部504が設けられている。碍子頭部504は、コルゲート状に形成され中心電極端子部515と取付け金具52との表面距離を長くして沿面リークを防止している。
【0047】
中心電極51は、例えば内材としてCu等の熱伝導性に優れた金属材料が用いられ、外材としてNi基合金等の耐熱性及び耐食性に優れた金属材料が用いられて長軸状に形成されている。中心電極51は、その先端部511が絶縁碍子50の先端部503から燃焼室側に突出するように設けられている。中心電極51の先端部511には、耐熱性の高い中心電極放電チップ512が当該先端部511から燃焼室側に向かって突出して設けられている。中心電極51の基端側には、縁碍子50の軸孔501内部において、中心電極51と導電性のガラスシール513を介して電気的に接続された長軸状のステム514が設けられている。さらにその基端側には、碍子頭部504から露出し、外部の図略の点火装置に接続される中心電極端子部515が形成されている。
【0048】
取付け金具51の先端部511に沿設して、接地電極53が形成されている。接地電極53は、例えばNiを主成分とするNi基合金等を用いて略柱形状に形成されている。本実施形態においては、接地電極53は、断面が略角柱形状をなしており、基端側が取付け金具51の先端部511に溶接などにより固定され、中間部が略L字型に曲げられて、他端側の側面531において中心電極51の先端部511と対向いている。 接地電極53の側面531には、中心電極51の先端部511に設けられた中心電極放電チップ512と火花放電ギャップ54を介して対向して基端側に向かって突出する接地電極放電チップ532が設けられている。この火花放電ギャップ54の大きさは、例えば1mm程度にすることができる。
なお、中心電極放電チップ512及び接地電極放電チップ532は、例えば、Ir(イリジウム)合金やPt(白金)合金等からなり、それぞれ中心電極先端部511及び接地電極側面531にレーザ溶接や抵抗溶接等にて接合されている。
【0049】
ここで、上述したように、絶縁碍子50は、本発明のアルミナ質焼結体を用いており、このアルミナ質焼結体は、平均粒径2μm以下のアルミナ結晶を主相とし、結晶粒界中に結晶質のYSiと非晶質のSiOとからなる高融点相、又は、結晶質のYSiと非晶質のSiOとAlSi13とからなる高融点結晶相を0.1重量%から15重量%の範囲で含有するものである。
上記実施形態に示したように、本発明のアルミナ質焼結体は、実際に絶縁碍子50を形成した後、耐電圧測定用に切り出した試料においても焼結体中に空孔がほとんど観察されず、また、35kV/mm以上の高い耐電圧特性を有し、900℃の高温においても400MPa以上の高い抗折強度を有している。
また、点火プラグ5を実機のエンジンにて、放電電圧35kV、高負荷(スロットル全開、平均5500rpm)耐久試験を200時間運転したが、貫通放電現象は観測されなかった。
したがって、本実施形態における点火プラグ5は、緻密で欠陥が少なく、高い耐電圧特性と高い抗切強度とを兼ね備えており極めて信頼性が高い。
点火プラグ5の中心電極51と接地電極53との間に高電圧が印加されたときに、絶縁碍子の耐電圧が低いと中心電極51と側面電極520との間で貫通放電を起こす虞があるが、本発明のアルミナ質焼結体によって形成した絶縁碍子50は耐電圧特性に優れており、絶縁碍子の肉厚が薄くても貫通放電を起こす虞がない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のアルミナ質焼結体は、高い絶縁性、耐電圧性を有するものであり、自動車の燃焼機関用の点火プラグ、エンジン部品、IC基板における絶縁材料に用いて有効なものであり、特に近年の点火プラグ小型化の要求に対しても信頼性の向上に資するものである。
【符号の説明】
【0051】
P1 第1の混合工程
P2 第2の混合工程
【先行技術文献】
【特許文献】
【0052】
【特許文献1】特開昭63−190753号公報
【特許文献2】特開平11−317279号公報
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【0058】
【表6】

【0059】
【表7】

【0060】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ結晶を主相とし、該アルミナ結晶の結晶粒界に少なくともイットリウム成分を含む結晶粒界相を有するアルミナ質焼結体であって、
上記アルミナ結晶の平均結晶粒径は2μm以下で、上記結晶粒界相は少なくとも上記イットリウム成分としてYSiとSiOとで構成する高融点相を有し、アルミナ質焼結体を100重量%としたとき、上記高融点相が0.1重量%以上15重量%以下の範囲で含有することを特徴とするアルミナ質焼結体。
【請求項2】
上記結晶粒界は、AlSi13(ムライト)相を含むことを特徴とする請求項1に記載のアルミナ質焼結体。
【請求項3】
上記結晶粒界相中に存在するYのY換算含有量は、上記結晶粒界相中に存在するSiのSiO換算含有量を1.0重量%としたとき0.02重量%以上0.08重量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミナ質焼結体。
【請求項4】
アルミナ結晶を主相とし、該アルミナ結晶の結晶粒界に少なくともYを含む結晶粒界相を有するアルミナ質焼結体の製造方法において、
少なくとも平均粒径50nm以上100nm以下のイットリア粉末と平均粒径0.5μm以上1.0μm以下のシリカ粉末とを用い、重量比でシリカ粉末1.0に対してイットリア粉末を0.02から0.08の範囲で配合し、混合分散手段を用いて分散媒に分散してイットリア/シリカ混合スラリーとする第1の混合工程と、
該第1の混合工程で得られたイットリア/シリカ混合スラリーと平均粒径0.4μm以上1.0μm以下のアルミナ粉末とをイットリア/シリカ混合スラリー中に含まれるイットリア粉末とシリカ粉末との合計重量を0.1重量部以上15重量部以下とし、残余をアルミナ粉末としてイットリア粉末とシリカ粉末とアルミナ粉末との合計が100重量部となるように配合し、混合分散手段を用いて分散媒に分散してイットリア/シリカ/アルミナ混合スラリーとする第2の混合工程と、
該第2の混合工程で得られたイットリア/シリカ/アルミナ混合スラリーを噴霧乾燥してイットリア/シリカ/アルミナ混合造粒粉末を得る造粒工程と、
該造粒工程で得られたイットリア/シリカ/アルミナ混合造粒粉末を成形してイットリア/シリカ/アルミナ混合成形体を得る成形工程と、
該成形工程で得られたイットリア/シリカ/アルミナ混合成形体を焼成温度1300℃から1600℃、焼成時間1時間から3時間で焼成してアルミナ質焼結体を得る焼成工程とを具備することを特徴とするアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項5】
上記第1の混合工程において、平均粒径0.5μm以上1.0μm以下のムライト粉末を上記シリカ粉末に対して同量添加することを特徴とする請求項4に記載のアルミナ質焼結体の製造方法。
【請求項6】
燃焼機関に装着され、該燃焼機関の点火を行う点火プラグであって、外周にネジ部が設けられた取付金具と、該取付金具内に固定された絶縁碍子と、先端部が上記絶縁碍子から突出するように上記絶縁碍子内に固定された中心電極と、上記取付金具に固定されて上記中心電極の上記先端部との間に火花放電ギャップを介して対向する接地電極とを備え、上記絶縁碍子として請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアルミナ質焼結体を用いたことを特徴とする点火プラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−208901(P2010−208901A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57612(P2009−57612)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】