説明

アルミニウム合金の拡散接合法

【課題】アルミニウム合金の拡散接合は真空炉を用いて行っており、接合に工数がかかるためコストアップになるという課題を有していた。
【解決手段】窒素置換かつ酸素残存量を70ppm以下の雰囲気で加熱、加圧することにより、残存酸素による接合面の酸化速度よりもアルミニウム合金に含まれるマグネシウムによる還元速度の方が速いため、接合面の酸化膜が破壊され、安価に拡散接合が行えるとともに、常圧以上で拡散接合できるため、マグネシウム等の含有物が蒸散しにくくなり、接合物の物性を安定させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム合金同士を加熱、加圧により拡散接合する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のアルミニウム合金の拡散接合は、その表面に強固な酸化膜があるため、マグネシウムを含む合金を用いて、真空雰囲気内で合金に含まれるマグネシウムにより表面の酸化膜を還元し、酸化膜を破壊することにより、アルミニウム合金同士を直接接触させて拡散接合を行っていた(例えば、特許文献1参照)。この際、マグネシウムの拡散温度で加熱加圧を行っていた。
【特許文献1】特公平5−62034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の方法では、真空雰囲気を作り出すために真空加熱炉内で接合するため、接合工程がバッチ処理となり、接合に工数がかかるためコストアップになるという課題を有していた。
【0004】
また、真空中で拡散接合をおこなうため、マグネシウム等の含有物が蒸散してしまい、接合物の物性が安定しないという課題も有していた。
【0005】
さらに、真空中で拡散接合をおこなうため、マグネシウム等の含有物が蒸散してしまい、表面の酸化膜が還元されにくくなり、接合強度が低下するという課題も有していた。
【0006】
さらに、マグネシウム等の含有物の拡散温度で加熱加圧を行っているため、基材のアルミニウム合金の拡散が進行しにくく、接合強度が弱いという課題も有していた。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、連続的に安価に接合できるとともに、接合物の物性を安定させ、かつ、接合強度が強いアルミニウム合金の拡散接合法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来の課題を解決するために、本発明のアルミニウム合金の拡散接合法は、窒素雰囲気中で加熱、加圧するものである。
【0009】
これにより、安価で管理が行いやすい窒素置換雰囲気での接合であるため連続炉で接合が可能となり、安価に拡散接合が行えるとともに、常圧以上で拡散接合できるため、マグネシウム等の含有物が蒸散しにくくなり、接合物の物性を安定させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミニウム合金の拡散接合法は、真空中でない雰囲気で拡散接合できるため、安価な接合を提供することができるとともに、接合物の物性を安定させ、かつ接合強度を強固にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
請求項1に記載の発明は、アルミニウム合金を拡散接合するに際し、窒素雰囲気中で加熱、加圧するものであり、安価で管理が行いやすい窒素置換雰囲気での接合であるため連続炉で接合が可能となり、安価に拡散接合が行えるとともに、常圧以上で拡散接合できるため、マグネシウム等の含有物が蒸散しにくくなり、接合物の物性を安定させることができ、接合強度を強くすることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、2重量%以上マグネシウムを含む合金をインサート材として用いるか、2重量%以上マグネシウムを含む合金を用いたものであり、マグネシウムが蒸散しにくく、表面の酸化膜が還元され易くなり、接合強度が強くなる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、酸素残存量を70ppm以下の雰囲気で、加熱、加圧するものであり、残存酸素による接合面の酸化速度よりもアルミニウム合金に含まれるマグネシウムによる還元速度の方が速いため、接合面の酸化膜が破壊され接合強度が強くできるとともに、残存酸素量が70ppm以下で良く、残存酸素の管理も容易に行えるため、さらに、安価に拡散接合が行える。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、加熱温度は、前記アルミニウム合金の固相線温度から45℃低い温度から固相線温度の間であるものであり、基材のアルミニウムの拡散がより進行し易くなり、強固に短時間で接合できるため、より安価に拡散接合が行える。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、加圧力は、3MPa以上5MPaであることにより、加圧による変形を抑制しながら、圧力が大きくなり密着性が良化することとなり、より拡散が進行し易くなり、強固に短時間で接合できるため、より安価に拡散接合が行える。
【0016】
以下、本発明に至った実験結果を示し、詳細に説明を行う。
【0017】
(実施の形態1)
接合材料としてA5052を使用し、拡散接合を行った。A5052はマグネシウム系アルミニウム合金であり、マグネシウム含有量は2.2から2.8重量%であり、固相線温度は約607℃である。
【0018】
実験に使用した材料は、市販の板厚18mmのアルミニウム合金板(ブロック材)と板厚3mmのアルミニウム合金板(板材)である。試料サイズはそれぞれブロック材が横20mm×縦40mm、板材が横25mm×縦50mmである。
【0019】
実験方法は、接合材料を有機溶媒で洗浄後、ブロック材、板材、ブロック材の順に重ね合わせる。これを炉に入れ、炉内を残酸素量が70ppmとなるように排気した後、窒素を充填し、加熱する。加熱条件は、固相線温度よりも45℃低い562℃と、固相線温度よりも30℃低い577℃と、の2条件である。所定の温度まで加熱した後、5〜10分程度放置し、加圧を開始した。加圧力は、3MPaと、4MPaと、の2条件である。60〜90分加圧した後、徐加し、炉冷によって室温付近になった後で試料を炉内から取り出した。
【0020】
接合した試料を放電加工機によって、ブロック材を引張試験機のチャックに装着可能な形状に切断し、両端のブロック材を引張速度0.5mm/minで引っ張り、破断までの応力を測定した。
【0021】
その結果、加熱温度562℃、加圧4MPaで接合面の引っ張り強度は94MPaであった。このように窒素置換雰囲気での接合であるため連続炉で接合が可能となる。また、窒素は安価で、管理がし易いガスである。これらにより、安価に拡散接合が行えるとともに、常圧以上で拡散接合ができるため、マグネシウム等の含有物が蒸散しにくくなり、接合物の物性が安定する。また、マグネシウムが蒸散しにくいため、酸素残存量が70ppmであっても、残存酸素による酸化速度よりもマグネシウムによる酸化膜還元速度の方が速く、強固に拡散接合が可能となる。また、好ましい加熱温度としては、固相線温度を基準として、固相線温度よりも45℃低い温度で接合することにより、アルミニウム自体の拡散が促進されより強い接合が得られる。
【0022】
ただし、固相線温度に近づくほどアルミニウム合金は柔らかくなるため、加熱温度を上げすぎると接合強度は強くなるが、形状の変形が大きくなる。加熱温度が固相線温度よりも45℃低い562℃の場合、変形率(接合前後のブロックと板材の重ね合わせた高さ差/接合前の高さ)は約15%で、加熱温度が固相線温度よりも30℃低い577℃では、約40%と大きくなり、これ以上では変形量が大幅に増えるため、より好ましい加熱温度としては、固相線温度よりも45℃〜30℃低い温度で拡散接合するのが良い。すなわち、加熱温度がアルミニウム合金の固相線温度から30℃から45℃低い温度であることにより、拡散接合の強度が強くなるとともに、加熱加圧による変形を小さくおさえることができる。
【0023】
また、大気中で同様の拡散接合を試みたが接合はできなかった。
【0024】
また、マグネシウムの含有量が少ない、A6061(マグネシウム含有量は0.8から1.2重量%)、A1050(マグネシウム含有量0.05重量%以下)を用いて、同様の実験を行ったが、いずれも接合強度がきわめて小さかった。
【0025】
また、接合温度を固相線温度よりも60℃低い547℃で接合を試みたが、接合できなかった。
【0026】
このように、安価で管理がし易い窒素置換雰囲気中で接合できるため、連続炉の使用が可能となり、安価に接合することができる。さらに、酸素残存量も70ppm以下で残存酸素によるアルミニウム表面の酸化速度よりもマグネシウムによる還元作用の方が早くできるため強固な拡散接合ができるとともに、酸素残存量の管理も行いやすく、安価に接合することができ、工業的な汎用性が高く、連続生産に適するものである。
【0027】
また、窒素置換雰囲気中で接合を行うため、真空中のような負圧下ではなく常圧以上で接合を行うため、マグネシウムのような飛散しやすい含有物の飛散を抑制でき、安定した物性の接合物が得られるとともに、マグネシウムには酸化アルミニウムに対する還元剤としての機能があるため、拡散を進行し易くでき、短時間で強固な拡散接合が可能となる。
【0028】
また、加熱温度は、従来のようにマグネシウム等の含有物の拡散温度で管理するものではなく、アルミニウム合金の固相線温度で管理する、具体的には、アルミニウム合金の固相線温度から45℃低い温度から固相線温度までの間で拡散接合を行うことにより、従来のマグネシウムの拡散温度での接合とは異なり、基材のアルミニウム合金の拡散が進行し易くでき、より強固な接合が可能となる。特に、固相線温度よりも30℃〜45℃低い温度で拡散接合を行うと加熱加圧による変形も小さく抑えることができる。
【0029】
なお、本実施の形態では、アルミニウム合金同士を重ね合わせことを示したが、インサート材として2重量%以上マグネシウムを含む合金をアルミニウム合金の間に挟んで接合してもよい。
【0030】
なお、本実施の形態では、金属材料として、アルミニウム合金を用いて説明したが、純アルミニウムを用いても、同様の作用効果が得られるものである。
【0031】
本実施の形態で示したアルミニウム合金の拡散接合を用いて製作されるものとしては、積層タイプの熱交換器があげられる。積層タイプの熱交換器には、冷媒が流れる細かな流路などがあるため、ロウ付けではロウ材が流れ出し流路を塞ぐおそれがあるため、拡散接合で製作するのが望ましい。また、熱交換器であるため素材の熱伝導率は高い方がよく、安価で熱伝導率の高いアルミニウムやアルミニウム合金は最適な材料である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明にかかるアルミニウム合金の拡散接合法は、真空中でない雰囲気で拡散接合できるため、安価な接合を提供することができるとともに、接合物の物性を安定させ、かつ接合強度を強固にすることが可能となるので、冷蔵庫や自動販売機などの冷凍冷蔵機器、ルームエアコン、パーケージエアコンや自動車用などの空調機器、給湯器、自動車用のラジエータ、電子機器の冷却などに用いられる熱交換器や、廃熱回収機器等の用途に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金を拡散接合するに際し、窒素雰囲気中で加熱、加圧するアルミニウム合金の拡散接合法。
【請求項2】
2重量%以上マグネシウムを含む合金をインサート材として用いるか、2重量%以上マグネシウムを含むアルミニウム合金を用いた請求項1に記載のアルミニウム合金の拡散接合法。
【請求項3】
酸素残存量を70ppm以下の雰囲気で、加熱、加圧する請求項1または2に記載のアルミニウム合金の拡散接合法。
【請求項4】
加熱温度は、前記アルミニウム合金の固相線温度から45℃低い温度から固相線温度の間である請求項1から3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金の拡散接合法。
【請求項5】
加圧力は、3MPa以上5MPaである請求項1から4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金の拡散接合法。