説明

アルミニウム電線

【課題】PVC電線との共存下での使用に際して柔軟性などの機械的特性や耐熱性の低下を抑制でき、しかも絶縁被覆における難燃剤の添加量を少なくすることを可能とするアルミニウム電線を提供する。
【解決手段】(A)ポリエチレン樹脂と、(B)エチレン共重合体樹脂と、でなるベース樹脂100重量部に対して、難燃性を有する金属水和物が40〜120重量部添加され、(D)酸化防止剤および(E)重金属不活性化剤が合わせて1.0〜3重量部、添加され、且つ架橋されている絶縁体組成物を、アルミニウム導体に被覆してなるアルミニウム電線あり、ポリエチレン樹脂は、一部酸変性された樹脂が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PVC電線との共存下での使用に適したアルミニウム電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車用耐熱電線の絶縁体材料としては、オレフィン系樹脂(特にポリエチレン樹脂)に難燃剤として臭素系難燃剤を添加した樹脂組成物がある。近年は、人体に対する影響や機器の腐食の原因となるハロゲン系ガスを発生させないことが要求されている。このため、臭素系難燃剤に代えて無機系フィラー(水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム)を難燃剤として添加した組成物(ノンハロゲン組成物)が主流となっている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−40947号公報
【特許文献2】特開2008−169273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在でも自動車用のワイヤーハーネスとしては、耐熱性の高いポリ塩化ビニル(PVC)で絶縁されたPVC電線が使用される場合が多い。上述の無機系フィラーを難燃剤として添加した組成物(ノンハロゲン組成物)を絶縁被覆材料とする電線がPVC電線と混在されて、エンジンルームなどの高温下に配索されると、絶縁被覆が著しく短期間に熱劣化してしまうことが危惧されている。特に、水酸化マグネシウムを難燃剤としたノンハロゲン系の絶縁体は、PVC電線からの可塑剤の移行により劣化を促進させてしまう傾向が確認されている。また、無機系フィラーを難燃剤として添加したノンハロゲン系の絶縁体では、難燃性を確保するために水酸化マグネシウムなどの難燃剤の添加量が多いため、伸び、柔軟性、耐摩耗性などの各種機械的特性が、本来樹脂が持つ特性よりも大幅に低下するという問題があった。このように、PVC電線との共存下では、特に高耐熱部位では水酸化マグネシウムが使用できない状況となっている。
【0005】
そこで、本発明の目的は、PVC電線との共存下での使用に際して柔軟性などの機械的特性や耐熱性の低下を抑制でき、しかも絶縁被覆において難燃剤の添加量を少なくすることを可能とするアルミニウム電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の特徴に係る発明は、アルミニウム電線であって、(A)ポリエチレン樹脂と、(B)エチレン共重合体樹脂とでなるベース樹脂100重量部に対して、難燃性を有する(C)金属水和物が40〜120重量部、(D)酸化防止剤および(E)重金属不活性化剤が合わせて1.0〜3.0重量部以上、添加され、且つ架橋されている絶縁体組成物で、アルミニウム導体を被覆してなることを要旨とする。
【0007】
なお、(A)ポリエチレン樹脂と(B)エチレン共重合体樹脂のいずれかは、一部酸変性処理された樹脂が含まれることが好ましい。
【0008】
本発明に係るアルミニウム電線は、一部酸変性された樹脂がベース樹脂に含まれるため、金属水和物を樹脂に相溶させて樹脂自体の機械特性の低下を抑制する作用と、難燃性を向上させる作用とを有する。
【0009】
本発明に係るアルミニウム電線では、従来の銅導体に比べて導体(アルミニウム)からの劣化の影響が少ないため、絶縁体組成物に添加する酸化防止剤および重金属不活性化剤の量を少なくしても、耐熱性ならびに難燃性を向上させることができる。
【0010】
金属水和物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、この他にハイドロタルサイト、タルク、クレー等の金属水酸化物を含有して難燃性を示すものを用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PVC電線との共存下での使用に際して柔軟性などの機械的特性や耐熱性の低下を抑制でき、しかも絶縁体組成物における難燃剤の添加量を少なくすることを可能とするアルミニウム電線を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るアルミニウム電線を示す断面図である。
【図2】実施例1〜12の配合割合と難燃性、摩耗性、PVC移行性、絶縁体組成物伸び率の試験結果を示す図である。
【図3】実施例13〜19の配合割合と難燃性、摩耗性、PVC移行性、絶縁体組成物伸び率の試験結果を示す図である。
【図4】比較例1〜8の配合樹脂をアルミニウム電線に適用した場合の難燃性、摩耗性、PVC移行性、絶縁体組成物伸び率の試験結果を示す図である。
【図5】比較例1〜4、比較例7および比較例8の配合樹脂を銅電線に適用した場合の難燃性、摩耗性、PVC移行性、絶縁体組成物伸び率の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るアルミニウム電線用絶縁体組成物およびそれを用いたアルミニウム電線について詳細に説明する。
【0014】
[アルミニウム電線用絶縁体組成物]
本発明の実施の形態に係るアルミニウム電線に用いられる絶縁体組成物は、アルミニウム電線用絶縁体組成物であって、(A)ポリエチレン樹脂と、(B)エチレン共重合体樹脂とでなるベース樹脂100重量部に対して、難燃性を有する(C)金属水和物を40〜120重量部、(D)酸化防止剤および(E)重金属不活性化剤が合わせて1.0〜3.0重量部が添加され、且つ架橋されてなる。
【0015】
密度の異なる複数種のポリエチレン樹脂とは、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などを挙げることができる。
【0016】
ここで、(A)のポリエチレン樹脂は、例えば、マレイン酸などの不飽和カルボン酸を用いて、一部酸変性された樹脂が含まれることが好ましい。
【0017】
金属水和物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、この他にハイドロタルサイト、タルク、クレー等の金属水酸化物を含有して難燃性を示すものを用いることができる。
【0018】
本実施の形態に係るアルミニウム電線に用いられる絶縁体組成物では、ベース樹脂が一部酸変性された樹脂を含むため、金属水和物を樹脂に相溶させて樹脂自体の機械特性の低下を抑制する作用と、難燃性を向上させる作用とを有する。
【0019】
本実施の形態に係るアルミニウム電線では、従来の銅導体に比べて導体(アルミニウム)からの劣化の影響が少ないため、酸化防止剤および重金属不活性化剤は、従来の電線用絶縁体組成物に比べて少なくすることができる。具体的には、ベース樹脂100重量部に対して酸化防止剤および重金属不活性化剤を1.0〜3重量部の割合で添加すればよい。
【0020】
[アルミニウム電線]
図1は、本発明の実施の形態に係るアルミニウム電線1を示す断面図である。図1に示すように、このアルミニウム電線1は、複数本のアルミニウム導体2の束を、上記アルミニウム電線用絶縁体組成物からなる絶縁被覆3で被覆して構成される。なお、絶縁被覆3は、押出工程を経た後、電子線やその他の方法を使った架橋処理が施されている。このようなアルミニウム電線1は、難燃性が高く、かつ耐摩耗性などの機械的特性が高い難燃性樹脂組成物で被覆されているため、自動車用電線として用いた場合も信頼性が高い。
【0021】
本実施の形態に係るアルミニウム電線1では、PVC電線との共存下での使用に際して柔軟性などの機械的特性や耐熱性の低下を抑制でき、しかも難燃剤の添加量を少なくすることを可能とする。
【0022】
本発明に係るアルミニウム電線では、従来の銅導体に比べて導体(アルミニウム)からの劣化の影響が少ないため、絶縁体組成物に添加する酸化防止剤および重金属不活性化剤の量を少なくしても、耐熱性ならびに難燃性を向上させることができる。
【0023】
[実施例]
以下、本発明の実施例、比較例について図2〜図5を用いて具体的に説明する。
【0024】
[実施例、比較例で用いた配合樹脂および配合材料]
(A)ポリエチレン樹脂
ポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)と、低密度ポリエチレン(LDPE)とを用意した。また、一部酸変性された樹脂として、マレイン酸などで処理された変性HDPEを用いた。
【0025】
(B)エチレン共重合体樹脂としては、エチレン・エチルアクリレート・コポリマー(EEA)を用いた。このEEAの一部酸変性された樹脂として、マレイン酸などで処理された変性EEAを用いた。
【0026】
難燃性を有する金属水和物としては、水酸化マグネシウムを用いた。
【0027】
添加剤としては、酸化防止剤、重金属不活性化剤を用いた。
【0028】
(判定基準について)
○PVC移行性については、PVC電線と、各配合例の絶縁体を絶縁被覆とする電線をPVCテープにハーフラップ巻きし、130℃で700時間後に自己径巻き付けにて割れ・導体露出のないものを合格(○)、亀裂が生じるものを不合格(×)とした。
【0029】
○絶縁体伸び率については、JIS B 7721に準拠して行った。絶縁電線を150mmの長さに切り出し、導体を取り除いて被覆層のみの管状試験片とした後、その中央部に50mmの間隔で標線を記した。次いで、室温下にて試験片の両端を引張試験機のチャックに取り付けた後、引張速度25〜500mm/分で引っ張り、標線間の距離を測定した。伸びが150%以上のものを合格(○)とし、それより低いものを不合格(×)とした。
【0030】
○摩耗性試験(荷重7N)については、スクレープ摩耗試験装置を用いて行った。すなわち、長さ約1mの絶縁電線をサンプルホルダーに載置し、クランプで固定する。そして、絶縁電線の先端に直径0.45mmのピアノ線を備えるプランジを、押圧を用いて総荷重7Nで絶縁電線に押し当てて往復させ(往復距離14mm)、絶縁電線の被覆層が摩耗してプランジのピアノ線が絶縁電線の導体に接するまでの往復回数を測定し、150回以上のものを合格(○)とし、150回未満のものを不合格(×)とした。
【0031】
○難燃性については、長さ600mm以上の絶縁電線サンプルを用意し、傾き45度傾斜に固定して上端から500mm±5mmの部分にプンゼンバーナーにて15秒間元炎を当てた後に消炎するまでの時間が70秒以内のものを合格(○)、それ以上を不合格(×)とした。
【0032】
以下、本発明の具体的な実施例を説明するともに、実施例と比較例とを比較する。実施例1〜19、比較例1〜8は、図2〜図5に示した配合で材料をブレンドした後、160℃の温度で溶融混練して押出成型機で押出成形を行って絶縁被覆を被覆し、電子線を用いた架橋処理を施した。図2〜図5には、上記PVC移行性、絶縁体伸び率、摩耗性試験、難燃性の試験結果も合わせて記載する。
【0033】
(実施例1〜19)
図2および図3に示すように、実施例1〜19は、複数種のポリエチレン樹脂とエチレン共重合体樹脂を100重量部、これに難燃性を有する金属水和物として水酸化マグネシウム40〜120重量部を配合し、酸化防止剤および重金属不活性化剤を合わせて1.0〜3.0重量部を配合し、押出工程後に架橋処理を施したアルミニウム電線とした。
【0034】
(比較例1〜8)
比較例1〜8は、複数種のポリエチレン樹脂とエチレン共重合体樹脂を100重量部、これに難燃性を有する金属水和物として水酸化マグネシウム35〜40重量部、120〜125重量部を配合し、酸化防止剤および重金属不活性化剤を合わせて0.9重量部、1.0重量部、3.5重量部、6.0重量部のものをそれぞれ配合し、押出工程後に架橋処理を施したアルミニウム電線(図4参照)と銅電線(図5参照)を作製した。
【0035】
図2〜図5に示した結果から、ベース樹脂100重量部に対して、金属水和物が40〜120重量部の範囲である実施例1〜12は、上記PVC移行性、絶縁体伸び率、摩耗性試験、難燃性の試験結果が良好であった。
【0036】
これに対して、比較例1〜8では、ベース樹脂100重量部に対して、金属水和物が35〜40重量部、120〜125重量部であるため、上記PVC移行性、絶縁体伸び率、摩耗性試験、難燃性の試験結果のいずれかが不合格(×)となった。
【0037】
また、ベース樹脂には、密度の異なる複数種のポリエチレン樹脂が含まれることが好ましく、一部酸変性された樹脂が含まれることがさらに好ましい。これは、一部酸変性された樹脂が金属水和物を相溶させて樹脂自体の機械特性を低下させないようにする作用を有し、難燃性を向上させる働きがあるからである。
【0038】
なお、本発明に係るアルミニウム電線は、絶縁被覆を架橋処理することにより耐熱性を向上させているため、樹脂分に架橋処理によって分解反応の方が多く発生する樹脂の割合が多くなることは好ましくない。
【0039】
また、上記結果から、添加剤である酸化防止剤、重金属不活性化剤は不可欠であり、合わせた配合量が1.0〜3.0重量部の範囲が望ましい。1.0重量部より少ないとこれらの効力がうまく発揮できず、3重量部より多いと大きな向上効果は確認できずにブリードやコストを高める原因となる。
【0040】
上述したように、銅導体よりもアルミニウム導体の方が、少ない添加剤添加量によって耐熱性や、PVC移行性といった従来の問題を解決することが可能となる。また、アルミニウム導体とすることにより、難燃性向上に寄与し、金属水和物(フィラー)添加による機械特性の低下を妨げる働きのある柔軟樹脂(エチレン共重合体樹脂)の添加によって、難燃剤の添加量を少なくすることが可能となり、上述の試験のように、各特性を向上させることが可能となった。
【符号の説明】
【0041】
1…アルミニウム電線
2…アルミニウム導体
3…絶縁被覆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレン樹脂と、(B)エチレン共重合体樹脂とでなるベース樹脂100重量部に対して、難燃性を有する(C)金属水和物が40〜120重量部、(D)酸化防止剤および(E)重金属不活性化剤が合わせて1.0〜3重量部が添加され、且つ架橋されている絶縁体組成物を、
アルミニウム導体に被覆してなることを特徴とするアルミニウム電線。
【請求項2】
前記(A)ポリエチレン樹脂と前記(B)エチレン共重合体樹脂のいずれかは、一部酸変性処理された樹脂が含まれることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−99412(P2012−99412A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247789(P2010−247789)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】