説明

アルミ電線用圧着端子

【課題】アルミ電線の導体部と端子との接触抵抗の低減と、端子の圧着強度の確保と、を容易に且つ確実に両立させることができるアルミ電線用圧着端子を提供する。
【解決手段】端子10は、アルミ電線1の導体部2が載置される底板部20と、底板部20に連設され、且つ底板部20上の導体部2を挟むように導体部2に加締められる一対の加締片21と、を備え、導体部2と接触する底板部20および一対の加締片21の接触面に、少なくとも1つの溝24が形成されていると共に、導体部2の軸方向と直交する方向に延びる少なくとも1つの凸部25が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の複数の素線が撚り合わされた導体部を有するアルミ電線に圧着されるアルミ電線用圧着端子に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に配索されるワイヤハーネスには銅電線が一般に使用されている。そして、ワイヤハーネス同士、あるいはワイヤハーネスと車載機器との接続にあたり、ワイヤハーネスの銅電線には端子が取り付けられ、この種の端子は、一般に圧着によって銅電線に取り付けられている。
【0003】
銅電線に圧着される端子は、例えば銅合金等の導電性の板材を所定の形状に打ち出し、これを折り曲げ加工して形成されており、典型的には、銅製の複数の素線を撚り合わせてなる銅電線の導体部が載置される底板部と、底板部に載置された導体部を挟むために底板部に連設された一対の加締片とを備えている。そして、各加締片は、その先端部を導体部に差し込んで、導体部の一部の素線を抱き込んだ状態となるように導体部に加締められる。それにより、端子は銅電線の導体部に圧着される。
【0004】
ところで近年、銅資源の不足に加え、車両の軽量化やリサイクルの容易性を考慮して、アルミ電線が注目されている。しかしながら、アルミニウムは銅に比べて表面に形成される酸化皮膜が厚く、アルミ電線では、導体部と端子との間の接触抵抗が比較的高くなる傾向にある。この接触抵抗を低減することについて、端子の各加締片を導体部に強く加締め、導体部の圧縮率を高くする方法が知られている。これによれば、導体部を構成する各素線の酸化皮膜が破壊され、導体部と端子との間の接触抵抗が低減される。尚、本明細書において、導体部の圧縮率とは、圧着前の導体部の断面積に対する圧着後の導体部の断面積の比として規定される。
【0005】
しかしながら、導体部の圧縮率を高くすることに伴い、導体部に作用する応力も高くなる。そして、アルミニウムは銅に比べて機械的強度に劣る。そのため、アルミ電線では、導体部に過度の応力が作用すると端子の圧着強度が著しく低下してしまう。そこで、アルミ電線への端子の圧着において、導体部と端子との接触抵抗の低減と、端子の圧着強度の確保と、を両立させることを目的としたアルミ電線用圧着端子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に開示されたアルミ電線用圧着端子は、図5に示すように、導体部102と接触する底板部104および加締片105の接触面に複数の溝106が設けられており、これらの溝の深さはアルミ電線101の導体部102を構成する各素線103の径に応じて規定されている。加締片105がアルミ電線101の導体部102に加締められると、導体部102を構成する各素線103が溝106に食い込み、各素線103の表面の酸化皮膜が破壊され、また、導体部102の抜けが防止される。それにより、導体部102と端子との接触抵抗を低減し、端子の圧着強度を確保するようにしている。
【特許文献1】特開2007−173215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
端子の加締片が底板部に載置された導体部に加締められる際に、底板部および加締片にも負荷が作用する。端子は、上記のとおり展延性に富む銅合金等の板材で形成されており、底板部および加締片は、負荷が作用することにより、導体部の軸方向に伸ばされる。上記特許文献1に開示されたアルミ電線用圧着端子では、底板部104および加締片105の肉厚が導体部102の軸方向に一定となっており、負荷が作用した底板部104および加締片105は導体部102の軸方向に伸ばされて肉厚が減少する。特に、軸方向の底板部104および加締片105の中央部は著しく肉厚が減少する。それにより、端子の強度低下、それに伴う端子の圧着強度の低下が懸念される。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、アルミ電線の導体部と端子との接触抵抗の低減と、端子の圧着強度の確保と、を容易に且つ確実に両立させることができるアルミ電線用圧着端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記(1)〜(2)に記載のアルミ電線圧着端子により達成される。
(1)アルミニウム製またはアルミニウム合金製の複数の素線が撚り合わされた導体部を有するアルミ電線に圧着されるアルミ電線用圧着端子であって、前記導体部が載置される底板部と、前記底板部に連設され、且つ該底板部上の前記導体部を挟むように該導体部に加締められる一対の加締片と、を備え、前記導体部と接触する前記底板部および前記一対の加締片の接触面に、少なくとも1つの溝が形成されていると共に、該導体部の軸方向と直交する方向に延びる少なくとも1つの凸部が形成されていることを特徴とするアルミ電線用圧着端子。
(2)前記凸部が、前記導体部の軸方向にみて前記接触面の中央部に形成されていることを特徴とする(1)に記載のアルミ電線用圧着端子。
【0010】
上記(1)の構成のアルミ電線用圧着端子によれば、アルミ電線の導体部と接触する子の底板部および一対の加締片の接触面に溝が形成されている。加締片がアルミ電線の導体部に加締められることにより、導体部を構成する各素線が溝に食い込み、各素線の表面の酸化皮膜が破壊され、また、導体部の抜けが防止される。それにより、導体部と端子との接触抵抗を低減し、また、端子の圧着強度を確保することができる。さらに、端子の底板部および一対の加締片の接触面には、導体部の軸方向と直交する方向に延びる凸部が形成されている。加締片がアルミ電線の導体部に加締められる際に、底板部および加締片にも負荷が作用するが、この負荷は、凸部を押し潰すように作用する。そして、底板部および加締片に作用する負荷は、凸部が潰れることによって吸収される。それにより、底板部および加締片の肉厚を保つことができ、端子の強度低下を回避して、端子の圧着強度を確保することができる。さらに、凸部が潰される際に、凸部と導体部の各素線との間に摩擦が生じ、各素線の表面の酸化皮膜が破壊される。それにより、導体部と端子との接触抵抗を低減することができる。
好ましくは、上記の凸部は、軸方向の伸びによる肉厚の減少が著しい底板部および加締片の接触面の中央部に設けられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアルミ電線用圧着端子によれば、アルミ電線の導体部と端子との接触抵抗の低減と、端子の圧着強度の確保と、を容易に且つ確実に両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のアルミ電線用圧着端子の好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明のアルミ電線用圧着端子の一実施形態の斜視図、図2は図1の端子の展開図、図3は図2におけるIII-III線断面図、図4はアルミ電線に圧着された端子を図3と同一の切断面で示す断面図。
【0014】
図1に示すように、アルミ電線1は、アルミニウム製またはアルミニウム合金製の複数の素線3が撚り合わされた導体部2を有し、導体部2の外周を絶縁材料で形成されたシース4で被覆されている。アルミ電線1は、その端末部において、所定の長さでシース4が除去されて導体部2が露出している。このアルミ電線1に圧着される端子10は、アルミ電線1の上記端末部に圧着される。尚、アルミニウム合金の好ましい具体例としては、アルミニウムと鉄との合金を挙げることができる。この合金を採用した場合、アルミニウム製の導体に比べて、延び易く、強度(特に引っ張り強度)を増すことができる。
【0015】
端子10は、その先端部に相手側端子(図示せず)との接続部11が設けられ、その基端部にアルミ電線1を保持する保持部12が設けられている。さらに保持部12は、その先端側にアルミ電線1の導体部2を保持する導体保持部13が設けられ、その基端側にアルミ電線1のシース4を保持するシース保持部14が設けられている。
【0016】
導体保持部13は、アルミ電線1の端末部に露出した導体部2が載置される底板部20と、底板部20に載置された導体部2を挟むために底板部20に連設された一対の導体加締片21と、を備えており、底板部20に載置された導体部2の軸方向に対して垂直な断面において略U字状に成形されている。
【0017】
シース保持部14は、アルミ電線1の端末部のシース4が載置される底板部22と、底板部22に載置されたシース4を挟むために底板部22に連設された一対のシース加締片23と、を備えており、導体保持部13と同様に断面略U字状に成形されている。尚、シース保持部14の底板部22は、導体保持部13の底板部20の基端に連設されている。
【0018】
さらに図2および図3を参照して、導体保持部13の底板部20および一対の導体加締片21の内表面、即ち、導体部2と接触する底板部20および一対の導体加締片21の接触面には、導体部2の軸方向に直交する方向に並行して延びる2本の溝24が形成されている。尚、溝24の数は2本に限られず、1本、もしくは3本以上の複数本であってもよい。また、溝24は、軸方向に直交する方向に延びるものに限られず、軸方向と平行に延びるものであってもよい。
【0019】
そして、底板部20および一対の導体加締片21の内表面には、導体部2の軸方向に直交する方向に延びる凸部25が形成されている。この凸部25は、2本の溝24の間にあって、導体部2の軸方向にみて底板部20および一対の導体加締片21の接触面の略中央部、即ち、底板部20および一対の導体加締片21の軸方向の長さ寸法Lの略中央に設けられている。尚、凸部25は複数あってもよく、例えば3つの凸部25を軸方向に間隔をおいて形成し、隣り合う凸部25、25の間に溝24を形成するようにしてもよい。凸部25を複数形成する場合にも、好ましくは、少なくとも1つの凸部25が導体部2の軸方向にみて底板部20および一対の導体加締片21の接触面の略中央部に設けられる。
【0020】
以上の構成を備えた端子10は、例えば銅合金等の導電性材料からなる一枚の板材を所定の形状に打ち抜き、これを折り曲げ加工して形成されている。
【0021】
端子10は、導体保持部13の一対の導体加締片21を、この導体保持部13の底板部20に載置されたアルミ電線1の導体部2に加締められ、また、シース保持部14の一対のシース加締片23を、このシース保持部14の底板部22に載置されたアルミ電線1のシース4に加締められて、アルミ電線1に圧着される。
【0022】
図4に示すように、端子10の導体加締片21がアルミ電線1の導体部2に加締められた状態で、導体部2を構成する各素線3は、底板部20および導体加締片21の内表面に形成された溝24に食い込んでいる。それにより、各素線3の表面の酸化皮膜が破壊され、また、導体部2が導体保持部13から抜けることが防止される。
【0023】
そして、端子10の導体加締片21がアルミ電線1の導体部2に加締められる際に、底板部20および導体加締片21にも負荷が作用する。この負荷は、底板部20および導体加締片21の内表面に形成された凸部25を押し潰すように作用する。そして、底板部20および導体加締片21に作用する負荷は、凸部25が潰れることによって吸収され、それにより、底板部20および一対の導体加締片21は、その肉厚を保たれている。
【0024】
底板部20および導体加締片21の内表面に形成された凸部25が潰される過程で、導体部2を構成する各素線3と凸部25との間で摩擦が生じ、各素線3の表面の酸化皮膜が破壊され、各素線3は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の素地を露出させる。それにより、導体部2と端子10との間に良好な導通が確保される。
【0025】
本実施形態のアルミ電線用圧着端子10によれば、導体加締片21がアルミ電線1の導体部2に加締められることにより、導体部2を構成する各素線3が溝24に食い込み、各素線3の表面の酸化皮膜が破壊され、また、導体部2の抜けが防止される。それにより、導体部2と端子10との接触抵抗を低減し、また、端子10の圧着強度を確保することができる。
【0026】
さらに、本実施形態のアルミ電線用圧着端子10によれば、導体加締片21がアルミ電線1の導体部2に加締められる際に底板部20および導体加締片21にも負荷が作用するが、この負荷は、凸部25を押し潰すように作用し、そして凸部25が潰れることによって吸収される。それにより、底板部20および導体加締片21の肉厚を保つことができ、端子10の強度低下を回避して、端子10の圧着強度を確保することができる。
【0027】
そして、本実施形態のアルミ電線用圧着端子10によれば、凸部25が潰される際に、凸部25と導体部2の各素線3との間に摩擦が生じ、各素線3の表面の酸化皮膜が破壊される。それにより、導体部2と端子10との接触抵抗を低減することができる。
【0028】
さらに、本実施形態のアルミ電線用圧着端子10によれば、凸部25が、軸方向の伸びによる肉厚の減少が著しい底板部20および導体加締片21の接触面の中央部に設けられており、底板部20および導体加締片21の肉厚を確実に維持することができる。それにより、端子10の強度低下を回避して、端子10の圧着強度を確保することができる。
【0029】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のアルミ電線用圧着端子の一実施形態の斜視図。
【図2】図1の端子の展開図である。
【図3】図2におけるIII-III線断面図である。
【図4】アルミ電線に圧着された図1の端子を図3と同一の切断面で示す断面図。
【図5】従来のアルミ電線用圧着端子の斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1 アルミ電線
2 導体部
3 素線
10 端子
20 底板部
21 導体加締片(加締片)
24 溝
25 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製またはアルミニウム合金製の複数の素線が撚り合わされた導体部を有するアルミ電線に圧着されるアルミ電線用圧着端子であって、
前記導体部が載置される底板部と、
前記底板部に連設され、且つ該底板部上の前記導体部を挟むように該導体部に加締められる一対の加締片と、
を備え、
前記導体部と接触する前記底板部および前記一対の加締片の接触面に、少なくとも1つの溝が形成されていると共に、該導体部の軸方向と直交する方向に延びる少なくとも1つの凸部が形成されていることを特徴とするアルミ電線用圧着端子。
【請求項2】
前記凸部が、前記導体部の軸方向にみて前記接触面の中央部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルミ電線用圧着端子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−123624(P2009−123624A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298441(P2007−298441)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】