説明

アロエエモジンの製造方法

酸の存在下、酸素含有ガスでの処理によりアロインを酸化することによってアロインからアロエエモジンを製造する方法。アロエエモジンは、クロムフリー酸化媒体の処理によりアロエエモジンを酸化して、レインを得、得られたレインを精製することによるレインおよびジアセレインの製造に使用することができる。レインをアセチル化して、ジアセレインを得てもよい。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、アロイン(aloin)からアロエエモジン(aloe-emodin)を製造する方法に関する。さらにアロインからレイン(rhein)およびジアセレイン(diacerein)を製造する方法が提供される。
【0002】
背景技術
ジアセレインは、結合組織の異常な変性に関連した疾患の治療において、さらに詳しくは、関節および結合組織の炎症状態(関節リウマチ、変形性関節症、および骨粗鬆症など)、成人における急性呼吸器症候群、または肺気腫の治療において、有用であることが知られている。
【0003】
アロインからのジアセレインの製造で公知の方法は、アロインのアセチル化と、それに続いてそのアセチル化生成物をクロム酸酸化しジアセレインを得ることを含む。
【0004】
例えば、WO−A−98/56750(Synteco)には、アロインをアセチル化して、アセチルバルバロイン(acetylbarbaloin)を得、アセチルバルバロインを無水クロム酸からなる酸化剤を用いて、酢酸溶液中にて酸化して、粗ジアセレインを得、次いで粗ジアセレインを精製することを含む、アロインからジアセレインを製造する方法が開示されている。
【0005】
このような方法では、出発原料として用いるアロインが高純度である場合にのみ、クロム酸酸化が起こる。
【0006】
さらに、無水クロム酸(CrO)などの六価クロム化合物の使用は、それらの極めて高い毒性および発癌性を考慮し、さらに環境へのそれらの有害な影響に対して、現在のところ厳重な規制下に置かれており、将来的には当局により当業界での六価クロム化合物の使用が制限される可能性がある。
【0007】
さらに、医薬品グレードの純度を得るには、アセチルバルバロインのクロム酸酸化により得られる粗ジアセレインを、続いて、不純物を実質的に含まない、さらに詳しくは、アロエエモジンを含まず、微量のクロムもいっさい含まないジアセレインを得るための精製方法に供する必要がある。
【0008】
しかしながら、アロエエモジンを含まず、クロム残渣も含まないジアセレインを得るための粗ジアセレインの精製は極めて重要であることが分かっている。
【0009】
このため、アセチルバルバロインのクロム酸酸化により得られる粗ジアセレインを精製するための多くの方法が文献により提案されている(例えば、EP−A−0636602(Laboratoire Medidom)、WO−A−00/68179(Synteco)、WO−A−98/56750(Synteco)、WO−A−01/96276(Synteco)、WO−A−2004/050601(Synteco)参照)。
【0010】
しかしながら、アセチルバルバロインのクロム酸酸化により得られる粗ジアセレインを精製する公知の方法には、それらが複雑な多段階方法であり、かつ/または有毒な溶媒もしくは試薬を使用し、かつ/または粗ジアセレインに対して、純粋ジアセレインの収率を著しく低下させるといういくつかの欠点がある。
【0011】
アロインからの、アセチルバルバロインを得るためのアロインのアセチル化を経てのジアセレインの製造に代わるものとして、アロエエモジンから出発するジアセレインの製造方法が文献により提案されている。例えば、アロエエモジンの六価クロムでの酸化によるジアセレインの製造が記載されている("Sostanze farmaceutiche"、R. Longoによるイタリア語翻訳および総説、OEMF, Milan, 1988, "Pharmazeutische Wirkstoffe, Synthesen, Patente, Anwedungen"のp.596, George Thieme Verlag, Stuttgart-New York, 1982-1987)。
【0012】
文献では、半合成的調製方法によるアロエエモジンの製造方法が記載されている。Chen When-Ho et al. (Journal of Nanjing College of Pharmacy, 1986, 17(1), 1-4; Chemical Abstract, Vol. 105, 1986, 105:226138z)、およびVittori et al.の米国特許第5,652,265号では、アロインをFeClで処理することによるアロエエモジンの製造について記載されている。
【0013】
しかしながら、公知のアロエエモジンの製造方法には、その公知の合成方法が金属試薬、または他の有害もしくは有毒物質の使用を必要とし、その金属試薬あるいは有害な試薬の残渣を取り除くために複雑な精製方法を必要とするといういくつかの欠点がある。
【発明の概要】
【0014】
よって、有毒または有害物質の使用を必要とせず、複雑な精製方法を必要とせず、高い収率および純度でアロエエモジンを与える、アロインからアロエエモジンを製造する方法が必要である。
【0015】
また、クロム酸酸化を含まず、複雑な精製方法を必要としない、アロインからジアセレインを製造する方法も必要である。
【0016】
本発明者らは、広範囲にわたる研究の後に、粗アロインから、クロム化合物または他の有毒もしくは有害物質を必要とせずに、工業用に容易にスケールアップすることができる方法を用いて、容易かつ有利にアロエエモジンを製造可能なことを見出した。
【0017】
本発明は、これらの結果に基づいてなされたものである。
【0018】
本明細書において、酸の存在下、酸素含有ガスを用いてアロインを処理することを含む、アロインからアロエエモジンを製造する方法が開示される。アロインの酸化に使用する酸は、好ましくは、硝酸または硫酸である。
【0019】
アロインは、酸素含有ガスでの処理の前に、多価アルコール、好ましくは、エチレングリコールまたはプロピレングリコールに溶解することが有利である。好ましくは、濃度70%w/vまでの多価アルコールにアロインを溶解する。
【0020】
本発明の好ましい態様において、使用するアロインは、アロエベラ(Aloe-Vera)から抽出された、少なくとも1%純粋アロイン、好ましくは、30〜50%純粋アロインを含む粗アロインである。
【0021】
好ましくは、アロインの酸化は、酸素飽和雰囲気下、100〜120℃の間の温度で行われる。
【0022】
本発明の好ましい態様において、酸素含有ガスは、酸素ガスおよび空気を含む群から選択されることが好ましい。
【0023】
アロエエモジンは、例えば、アロエベラから抽出されるような、粗アロインから製造することが有利である。
【0024】
有利には、アロエエモジンは、アロインから、金属試薬を必要とせず、残留金属イオンを取り除くための複雑な精製方法の必要性を回避した本方法によって得られる。
【0025】
このようにして得られたアロエエモジンからレインまたはジアセレインを製造する方法であって、クロムフリー酸化媒体で処理することによりアロエエモジンを酸化して、レインを得る工程、およびレインを精製する工程を含む方法がさらに開示される。
【0026】
クロムフリー酸化媒体としては、亜硝酸塩、有利には、亜硝酸ナトリウムを含んでよい。クロムフリー酸化媒体として、有利には、硫酸に溶解したホウ酸をさらに含んでよく、その場合の酸化は、好ましくは、110〜130℃の間の温度で行われる。
【0027】
レインの精製は、有利には、水不混和性の非極性非プロトン性有機溶媒と、9〜9.5の範囲のpHを有する水相での液液分配により実施し得る。
【0028】
好ましくは、レインの精製工程において、水不混和性の非極性非プロトン性有機溶媒はトルエンおよびジクロロメタンから選択される。本発明の好ましい態様において、液液分配による精製は連続液液抽出によって行われる。
【0029】
得られたレインは、アセチル化剤、好ましくは無水酢酸、を用いて処置することによりアセチル化しジアセレインを得てもよい。
【0030】
よって、有利には、レインおよびジアセレインは、アロインから、クロム酸化を行わずに、アロエエモジンへの酸化を経て得ることができる。
【0031】
本発明の他の目的および有利な特徴については、特許請求の範囲、ならびに次の詳細な説明および実施例から明らかであろう。
【発明の具体的な説明】
【0032】
本発明の方法は、下式(I):
【化1】

により表されるアロインを酸化して、下式(II):
【化2】

により表されるアロエエモジンを得ることを含んでなる。
【0033】
酸の存在下、反応媒体中で酸素含有ガスで処理することにより、アロインを酸化する。
【0034】
本発明によれば、出発原料としてのアロインの純度は重要ではない。
【0035】
このため、本願において、「アロイン」とは、特に断りのない限り、いずれの純度のアロインも意味するものと理解すべきである。
【0036】
例として、出発原料としてのアロインは、純粋アロイン、市販のアロインまたは粗アロイン、好ましくは、異なる植物種由来の抽出物形態の、少なくとも1%の純粋アロインを含む粗アロイン、より好ましくは、アロエ(Aloe)種から抽出された、少なくとも30%の純粋アロイン、例えば、30〜50%の純粋アロインを含む粗アロインであってよい。
【0037】
製造コストの観点からすれば、アロエから抽出された、30〜50%の純粋アロインを含む粗アロインを使用することが特に有利である。
【0038】
酸化反応では、いずれの好適な反応媒体も使用してもよい。好適な反応媒体としては、アロインを溶解して安定した溶液にし、酸化反応に必要な温度を維持することが可能であるいずれの溶媒も含まれる。有利には、反応媒体は有機溶媒である。
【0039】
本発明の好ましい態様によれば、反応媒体は多価アルコールである。反応媒体として使用される多価アルコールは、アロインを溶解するいずれの多価アルコールでもあってよい。好ましくは、アロインを溶解するのに使用される多価アルコールは、二価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタン−ジオール、1,5−ペンタン−ジオールなど)および三価アルコール(グリセロール、マニトール、ソルビトールなど)であるが、これらに限定されない。
【0040】
アロインは多価アルコールに容易に溶け、酸素は酸化反応が行われる温度で多価アルコールに易溶性であり、アロエエモジンは多価アルコールに難溶性であることから、多価アルコールが反応媒体として特に好適である。さらに、多価アルコールは、酸化反応が行われる温度を維持することが可能であり、その酸化反応に対して不活性である。
【0041】
本発明の好ましい態様において、アロインを溶解するのに使用される多価アルコールは、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセロールから選択される。低毒性、相対的高引火点111℃、および低工業コストから、エチレングリコールが好ましい。
【0042】
好ましくは、粗アロインを70%w/vまでの濃度の多価アルコールに溶解する。
【0043】
酸の存在下でアロインの酸化を進めるために、酸化を行う前に、好ましくは、不活性雰囲気、例えば、窒素またはアルゴン雰囲気下で、アロイン含有溶液にゆっくりと酸を加える。
【0044】
本発明の好ましい態様において、アロイン含有溶液は80〜160℃の範囲の温度、より好ましくは、100〜120℃の範囲の温度で加熱してよい。
【0045】
好ましくは、酸は強無機酸であり、例えば、硝酸、硫酸、トリクロロ酢酸または過塩素酸であってよい。好ましい態様において、酸は硝酸および硫酸から選択される。酸は、好ましくは、純粋アロイン含量に対して0.1〜5モル当量の範囲の量で加える。
【0046】
多価アルコールに溶解したアロインの、酸の存在下での酸素含有ガスによる酸化は、例えば、加熱した溶液に酸素含有ガスを連続的に導入することにより、または加熱した溶液を酸素含有ガス超過圧力下に置くことにより行ってよい。好ましくは、その酸化反応は酸素含有ガス超過圧力下で行う。酸素含有ガスは、好ましくは、酸素ガスまたは空気である。
【0047】
アロインの酸化を、加熱したアロイン溶液を酸素のガス超過圧力にかけることにより行う場合には、反応チャンバー内のガス圧力は、適切には、0.1〜6バール絶対圧力、好ましくは、1.2〜2バール、例えば、1.5バールであってよい。酸化を、加熱したアロイン溶液を空気のガス超過圧力にかけることにより行う場合には、その反応は、好ましくは、1.2〜10バール絶対圧力、好ましくは、2〜2.5バールのガス圧力下で行う。
【0048】
反応時間は、その反応条件によって決まる。酸素含有ガス超過圧力下でのアロインの酸化は、一般的には、3〜12時間、好ましくは、4〜6時間かけて行ってよい。
【0049】
アロインの酸化を、加熱した溶液に空気を連続的に導入することにより行う場合には、空気を、好ましくは、流速5〜50L/分で加熱した溶液に導入する。
【0050】
アロインの酸化を、加熱した溶液に酸素ガスを連続的に導入することにより行う場合には、酸素ガスを、好ましくは、流速1〜10L/分で加熱した溶液に導入する。
【0051】
酸化の反応時間はその反応条件によって決まる。反応時間およびアロインのアロエエモジンへの変換の程度は、従来の分析技術、例えばHPLC、により決定してよい。
【0052】
例として、加熱したアロイン含有溶液に連続導入される酸素ガスの量の影響についての検討を行っている。
【0053】
この検討で使用する加熱アロイン含有溶液は、39%の純粋アロインを含む粗アロイン72gをエチレングリコール250mlに溶解し、その溶液を1リットル反応器に注いで、これを窒素雰囲気中で120℃まで温め、エチレングリコール50mlで希釈したHNO 7.58gを20分かけて加えることにより調製した。
【0054】
前記加熱アロイン含有溶液に、酸素ガスをさまざまな流速で導入し、1時間ごとに、反応混合物からサンプルを取り出し、HPLCにより分析した。
結果を、以下の表1にまとめる。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から、上記の特定条件では、酸素を2〜4[L/分]の間の流速で導入する場合には、5〜6時間後にアロインのアロエエモジンへの最大酸化収量が得られることが分かる。
【0057】
酸化反応に続いて、通常、反応混合物に従来の処理を行って、アロエエモジンを単離する。これには、例えば、反応混合物を水に注ぎ、有機溶媒、例えば、トルエンまたはジクロロメタンを用いてアロエエモジンを抽出し、アロエエモジンをアルコール、例えばエタノールを用いて沈殿させて、アロエエモジンを濾過し、アロエエモジンを乾燥させることを含んでよい。
【0058】
反応混合物からのアロエエモジンの単離は、有利には、抽出および液液分配による精製を含んでよく、その後にアロエエモジンの純粋形態での結晶化を行ってよい。
【0059】
抽出および精製では、酸化した反応混合物を、好ましくは、まず濾過し、洗浄してよい。洗浄は、有利には、過剰の反応媒体、例えば多価アルコールを用いて洗浄して、これに溶解する残留化合物を除去し、水で洗浄して、総ての残留反応媒体、例えば多価アルコールを除去することを含んでよい。さらに、その濾液を、pH9〜11に調整したpHを有する水溶液で洗浄して、塩基性pHにおいて水に溶ける残留化合物を除去してもよい。
【0060】
アロエエモジンは、次いで、アロエエモジンが溶解する任意の好適な有機溶媒、例えば、塩化メチレンまたはトルエンを用いた溶媒抽出により抽出してよい。アロエエモジンを含む溶媒溶液は、水性緩衝液、pH9〜11、好ましくは、pH10に調整したpHでの液液分配に供する。pHが11より高いとアロエエモジンが水溶液に溶け、失われると思われるため、そのようなpHは適当ではない。9〜11の範囲のpKを有するいずれのバッファーも使用することができる。例えば、グリシンバッファー、KCI−ホウ酸−NaOHバッファー、炭酸バッファー、CHES(2−(N−シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸)バッファー、CAPSO(3−(シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸)バッファー、AMP(2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール)バッファー、CAPS(3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸)バッファーである。アロエエモジンを含む溶媒溶液を、さらに、アルカリ性水溶液での第2の液液分配工程に供する。その水溶液のpHは、有機塩基でpH11より高いpHに調整する。有機塩基は、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物であってよい。
【0061】
液液抽出は、例えば、バッチ液液抽出または連続液液抽出であってよい。前記液液抽出がバッチ液液抽出である場合には、必要な純度のアロエエモジンが得られるまでそれを繰り返すことが好ましい。液液抽出が連続液液抽出である場合には、必要な純度のアロエエモジンが得られるまでそれを続けることが好ましい。本発明の好ましい態様においては、液液抽出は連続液液抽出である。
【0062】
抽出溶媒は、回収することができ、抽出方法においてさらに使用するために再生することができることが有利である。
【0063】
液液抽出に続いて、水相に従来の処理を行って、純粋アロエエモジンを単離してよい。これには、例えば、アロエエモジンを含む塩基性水相を塩酸などの無機酸で酸性化して、アロエエモジンを沈殿させること、濾過、精製水で洗浄すること、およびアロエエモジンを乾燥させることを含んでよい。
【0064】
本発明の方法に従って得られるアロエエモジンの純度は、95%以上、一般的には、約98.0〜99.5%である。
【0065】
本発明の一つの態様によれば、アロインの上記酸化により生成するアロエエモジンを酸化して、下式(III)で表わされるレインを得ることができる:
【化3】

【0066】
アロエエモジンは、有利には、クロムフリー酸化媒体中で酸化する。クロムフリー酸化媒体中でのアロエエモジンのレインへの酸化工程は、公知の方法により、例えば、EP0928781A1, Laboratoire Medidom S.Aに記載されているように、実施し得る。クロムフリー酸化媒体は、亜硝酸塩、特に無機塩(アルカリまたはアルカリ土類金属塩(例えば、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、または亜硝酸カルシウム)など)を含んでよい。好ましくは、亜硝酸ナトリウムを使用する。
【0067】
反応媒体は、好ましくは、酸、例えば、無機酸、特に強無機酸(硫酸またはホウ酸など)、あるいは、場合によってはハロゲン化されているカルボン酸(酢酸、トリクロロ酢酸など)、またはスルホン酸(メタンスルホン酸など)を含む。クロムフリー酸化媒体は、好ましくは、所望によりホウ酸も添加した硫酸に溶解した亜硝酸ナトリウムを含む。
【0068】
酸化は、例えば、アロエエモジンを、クロムフリー酸化媒体(例えば、硫酸に溶解した亜硝酸ナトリウム、または硫酸とホウ酸に溶解した亜硝酸ナトリウム)にゆっくりと加えることにより行って、粗レインを得てよい。
【0069】
好ましい態様においては、アロエエモジンを加える前に、硫酸に溶解した亜硝酸ナトリウムと、所望により、ホウ酸を含んでなるクロムフリー酸化媒体を80〜160℃の範囲、より好ましくは、110〜130℃の範囲の温度で加熱する。
【0070】
反応時間はその反応条件によって決まり、通常2〜4時間の範囲にあるであろう。
【0071】
酸化反応に続いて、反応混合物に従来の処理を行って、粗レインを単離してよい。これには、例えば、反応混合物を2℃の蒸留水に注ぎ、レインを沈殿させ、レインを濾過し、レインを2℃の蒸留水で洗浄して、レインを乾燥させることを含んでよい。
【0072】
アロエエモジンのクロムフリー酸化により得られるレインの純度は、出発アロエエモジンの純度に従う。本発明の方法に従ってアロインの酸化により調製されたアロエエモジンから、本発明の上述のクロムフリー酸化方法により得られたレインは、およそ90%〜95%の純度を有する。
【0073】
総てのアロエエモジン残渣および他の混入物質を除去するため、上述の酸化方法により得られたレインを精製工程に供する。
【0074】
精製工程は、有利には、水不混和性の非プロトン性非極性有機溶媒と、pH7.5〜11の水相との間での液液分配によりレインを精製することを含む。本発明の好ましい態様において、このpHは9〜9.5の範囲である。
【0075】
精製工程において、アロエエモジンの酸化により得られたレインは、好ましくは、まず水に入れて、レインを含有する水溶液を得る。好ましくは、この水溶液は水1ml当たりレイン10mgを含有する。
【0076】
レインを水に溶解した後、レインを含有する水溶液のpHを、無機塩基を用いて9〜9.5の間のpH値に調整する。無機塩基は、例えば、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなど)であってよい。本発明の特に好ましい態様において、前記無機塩基は水酸化ナトリウム、より好ましくは、水酸化ナトリウム5Mである。
【0077】
レインを含有し、pHが9〜9.5の範囲の水溶液を、水不混和性の非プロトン性非極性有機溶媒での液液抽出に供する。水不混和性の非プロトン性非極性有機溶媒は、例えば、トルエン、ジクロロメタン、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、エーテル、テトラヒドロフラン(THF)であってよい。特に好ましい態様においては、前記の、水不混和性の非プロトン性非極性有機溶媒はトルエンまたはジクロロメタンである。
【0078】
液液抽出は、例えば、バッチ液液抽出または連続液液抽出であってよい。液液抽出がバッチ液液抽出である場合には、必要な純度のレインが得られるまでそれを繰り返すことが好ましい。液液抽出が連続液液抽出である場合には、必要な純度のレインが得られるまでそれを続けることが好ましい。レインについての必要な純度は、レインのその後の使用によって決まる。
【0079】
本発明の好ましい態様において、液液抽出は連続液液抽出であり、レインに含まれるアロエエモジンが2ppm未満(HPLC)となるまでそれを続ける。
【0080】
液液抽出に続いて、通常、水相に従来の処理を行って、純粋レインを単離する。これには、例えば、純粋レインを含む水相を無機酸、例えば塩酸でpH1まで酸性化して、レイン沈殿させ、レインを濾過し、2℃の蒸留水でレインを洗浄して、レインを乾燥させることを含んでよい。
【0081】
必要に応じて、このようにして生成されたレインを、任意のアセチル化工程によってさらにアセチル化して、下式(IV)で表されるジアセレインを得てよい:
【化4】

【0082】
レインのアセチル化は、当業者に公知のものから選択できるアセチル化試薬でレインを処理することにより行ってよい。しかしながら、好ましい態様において、アセチル化剤は無水酢酸である。
【0083】
アセチル化は、有機溶媒が不活性であるか、または氷酢酸のようにいずれの場合でも反応条件に適合する、さまざまな有機溶媒中で行うことができる。しかしながら、好ましい態様においては、無水酢酸を反応溶媒として使用する。
【0084】
無水酢酸でのレインのアセチル化は、好ましくは、触媒としての酸の存在下で行われる。好ましい態様においては、前記の、触媒として使用される酸は硫酸である。
【0085】
無水酢酸でのレインのアセチル化は、好ましくは、20〜50℃の間、より好ましくは、30〜40℃の間の温度で、3〜6時間、さらに好ましくは、4〜5時間行われる。
【0086】
アセチル化反応に続いて、通常、反応混合物に従来の処理を行って、ジアセレインを単離する。これには、例えば、反応混合物を4℃の蒸留水に注ぎ、ジアセレインを濾過し、蒸留水でジアセレインを洗浄して、ジアセレインを乾燥させることを含んでよい。必要に応じて、ジアセレインを、溶媒(エタノール、アセトンまたはイソプロパノール、あるいはその他の適当な溶媒など)で再結晶させることによりさらに精製してもよい。
【0087】
本発明の方法によれば、アロエエモジンは、アロインから、金属試薬、または他の有毒もしくは有害物質を必要とせず、かつ残留金属イオンを取り除くための複雑な精製方法を必要とせずに、製造することができる。本明細書に記載の方法によれば、アロエエモジンは、アロインから高い収率かつ純度で得ることができる。
【0088】
本発明の方法は、粗アロインを出発原料として使用することができ、また、その工程において安価な試薬および溶媒を使用することができることから経済的でもある。さらに、本発明の方法は、工業的規模であっても実施が容易である。
【0089】
本発明の一つの態様によれば、有利には、レインおよびジアセレインを、アロインから、クロム酸化を行わず、有毒もしくは有害な試薬または溶媒を使用することなく、得ることができる。
【実施例】
【0090】
下記の合成において使用する出発原料、試薬および溶媒は総て、以下に明記するように入手可能な製品である:
粗アロイン: Aloven (Braquismeto, Venezuela)提供品、分析評価30〜50%
エチレングリコール: Schweizerhall AG (Basel)提供品、分析評価99.90WT%
ジクロロメタン: Schweizerhall AG (Basel)提供品、分析評価98〜100%
エタノール: Schweizerhall AG (Basel)提供品、分析評価98%
トルエン: Schweizerhall AG (Basel)提供品、分析評価100%
65%硝酸: Fluka AG (Buchs)提供品
ホウ酸: Fluka AG (Buchs)提供品、分析評価99.5%
亜硝酸ナトリウム: Merck (Darmstadt Germany)提供品、分析評価99.0%
硫酸: Merck (Darmstadt Germany)提供品、分析評価95〜97%
水酸化ナトリウム: Fluka AG (Buchs)提供品、分析評価98%
無水酢酸: Fluka AG (Buchs)提供品、分析評価99.5%
【0091】
アロインからのアロエエモジンの製造
例1
粗アロイン(72g 39%純粋アロイン含有)をエチレングリコール(250ml)に溶解した。この溶液を1リットル反応器に注ぎ、窒素雰囲気下で120℃に温めた。温度が120℃に達したときに、エチレングリコール(50ml)で希釈したHNO(7.58g)を20分間加えた。このとき、反応器に、スパージャーにより酸素ガスを流速4L/分で導入した。1時間ごとに反応器からサンプルを取り出し、HPLCにより分析して、反応が完了したことを確認した。この反応は6時間後に完了した。これらの条件下では、アロインからのアロエエモジンへの変換率は61%であった。
【0092】
次いで、反応混合物を水に連続的に注ぎ、トルエンまたはジクロロメタンを用いてアロエエモジンを抽出し、トルエンまたはジクロロメタンを蒸発させて、アロエエモジン(純度:50%)を乾燥させ、エタノールでアロエエモジンを沈殿させ、アロエエモジンを濾過し、アロエエモジンを乾燥させて、95〜98%純粋なアロエエモジンを得ることにより、アロエエモジンの単離を行った。収率は75%〜95%の範囲であった。
【0093】
例2
窒素雰囲気下で、粗アロイン(3.24Kg、36%純粋アロイン含有)をエチレングリコール(13.5l)に溶解した。連続攪拌下で(エチレングリコールに溶解した)硝酸170gを5分かけて加えた。この溶液を温度105℃まで温めた。このとき、酸素流を10分間導入することにより窒素を洗い流した。次いで、反応器を、酸素を導入することにより圧力1.5バールの絶対圧まで加圧した。酸素圧は1.5バールの絶対圧にて5時間維持した。その後、反応器を周囲圧力まで減圧し、室温まで冷却した。これらの条件下では、アロインからアロエエモジンへの変換率は80%であった。
【0094】
次いで、アロエエモジンの単離を行った。懸濁液中にアロエエモジンを含有する反応混合物を加圧下で(8バール絶対圧力 1時間)ステンレス製フィルタープレスに通した。その後、濾過ケークを加圧下で(8バール絶対圧力 7〜8時間)半容量(7l)のエチレングリコール、次ぎに精製水(8バール絶対圧力 2時間)、グリシンバッファー(0.1M、pH10)8バール絶対圧にて20分間、さらに精製水(8バール絶対圧力にて10分)で洗浄した。この濾過ケークをさらに、11バール絶対圧力での窒素の吹き込みにより部分的に乾燥させた。
【0095】
次いで、アロエエモジンを抽出するために、塩化メチレンを濾過ケークに連続的に通した。塩化メチレン溶液を、pH10のグリシン0.1Mで緩衝化した水溶液に加え、液液遠心機を使用してそれらの液体を分離した。バッファー溶液を飽和まで連続的に再循環させ、飽和したら新しいバッファーを常に加え、飽和バッファーを常に洗い出して、反応槽内では定常濃度を維持した。アロエエモジンをなお含有する塩化メチレン溶液を、さらに、NaOH 1Mを含有する水溶液に加え、液液遠心機を使用してそれらの液体を分離した。アロエエモジンを含有するNaOH溶液を飽和まで連続的に再循環させ、飽和したら新しいNaOH 1M溶液を常に加え、アロエエモジンで飽和したNaOH溶液を常に洗い出し、他の場所で回収して、反応槽内では定常濃度を維持した。
【0096】
次いで、アロエエモジンのNaOH溶液を塩酸を加えることにより沈殿させた。pHを1より低くすると、橙色微細針状結晶のアロエエモジンが沈殿した。その後、その沈殿物を濾過し、精製水で洗浄し、熱窒素で乾燥させた。得られたアロエエモジンの純度は99%であった。
【0097】
アロエエモジンのレインへの酸化
例3
亜硝酸ナトリウム(255g)を硫酸(1.2l)に溶解することにより酸化媒体を調製した。その酸化媒体を120℃まで加熱した後、これにアロエエモジン(100g)をゆっくりと加えた。酸化反応が完了した後(3時間)、反応混合物を2℃の蒸留水(7.2l)に注いで、レインを沈殿させ、レインを濾過し、乾燥させた。純度90〜95%のレインが85%を上回る収率で得られた。
【0098】
レインの精製
例4
例3で得られた粗レインを水に入れて、レイン濃度10mg/mlの溶液を得た。このpHを水酸化ナトリウム5Mを用いて9〜9.5に調整した。満足できる純度が得られるまで(<2ppm アロエエモジン、HPLC)、得られた塩基性水相をジクロロメタンを用いて連続的に抽出した。その後、レインを沈殿させるために、水相に塩酸を加えて、pHを1に調整した。沈殿したレインを濾過し、2℃の蒸留水で洗浄して、乾燥させた。99.5%純粋なレインが収率90〜95%で得られた。
【0099】
ジアセレインの製造
例5
例4で得られた精製レイン(90g)を無水酢酸(6.48l)に溶解し、この溶液を0℃に冷却した。次いで、これに硫酸(64.8ml)を加え、反応混合物を30℃に温めた。反応が完了した後(4〜5時間)、反応混合物を4℃の蒸留水に注ぎ、沈殿したジアセレインを濾過して、蒸留水で洗浄し、乾燥させた。ジアセレインが90%を上回る収率で得られた。このジアセレインをエタノールで再結晶させた。得られたジアセレインは98%を超える純度であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸の存在下、反応安定媒体中において酸素含有ガスを用いて処理することによってアロインを酸化することを含んでなる、アロインからアロエエモジンを製造する方法。
【請求項2】
アロインが、多価アルコールに溶解されてなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多価アルコールが、エチレングリコールおよびプロピレングリコールから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アロインが、濃度70%w/vまでの多価アルコールに溶解されてなる、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アロインが、植物から抽出された、純度が1%より高い粗アロインである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
酸化が、酸化雰囲気中、100〜120℃の間の温度で行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
酸が、硝酸および硫酸から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
酸素含有ガスが酸素ガスまたは空気から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
アロエエモジンを精製し、単離することをさらに含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
アロインからレインまたはジアセレインを製造する方法であって、
a)酸の存在下で、酸素含有ガスを用いて処理することによりアロインを酸化して、アロエエモジンを得る工程、
b)クロムフリー酸化媒体を用いて処理することによりアロエエモジンを酸化して、レインを得る工程、
c)工程b)で得られたレインを精製する工程、
d)所望により、工程c)で得られたレインをアセチル化剤を用いてアセチル化して、ジアセレインを得る工程
を含んでなる、方法。
【請求項11】
工程c)におけるレインの精製が、水不混和性の非極性非プロトン性有機溶媒と水相との間での液液分配を実施することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
水相のpHが7.5〜11である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程b)において、クロムフリー酸化媒体が亜硝酸ナトリウムを含む、請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
酸化媒体が硫酸に溶解したホウ酸をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程b)において、酸化が110〜130℃の温度で行われる、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
水不混和性の非極性非プロトン性有機溶媒がトルエンおよびジクロロメタンから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
液液分配による精製が、連続液液抽出を行うことを含む、請求項11または16に記載の方法。
【請求項18】
工程d)において、アセチル化剤が無水酢酸である、請求項10〜17のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2008−519819(P2008−519819A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540745(P2007−540745)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【国際出願番号】PCT/IB2005/003375
【国際公開番号】WO2006/051400
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(501141275)
【氏名又は名称原語表記】LABORATOIRE MEDIDOM S.A.
【住所又は居所原語表記】24,avenue de Champel CH−1206 GENEVE/SWITZERLAND
【Fターム(参考)】