説明

アロプリノール含有医薬組成物

【課題】 使用法及び製造法が簡便で、かつ薬効持続性の優れたアロプリノール含有医薬組成物の提供。
【解決手段】 アロプリノール、リドカイン及びカラギーナンを含有し、マイクロスフェアー化されたアロプリノール含有医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口内炎の予防又は治療に有用なアロプリノール含有医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗癌剤を投与する化学療法、放射線療法等による癌治療の副作用として、しばしば口内炎が生じることがある。口内炎は、口中内に生じた潰傷に伴い強い疼痛を引き起こし、ひどい場合には食事の摂取が困難となる場合もある。口内炎の治療には、組織障害性を有するラジカルを抑制するアロプリノール、更に痛みの抑制を目的として局所麻酔剤が配合された含嗽液が院内製剤として主に用いられている。この含嗽液は、1日数回、1回に約50mLを2〜4週間にわたり投与する必要があるため、その調製には医療現場で多大な労力と時間を要している。また、嗽のたびに患者が洗面所に足を運ばなければならず、重病者の場合には介護人による補助の必要があり、コンプライアンスが悪いことから改善が求められている。また、嗽では多くの薬物が利用されずに吐き棄てられるため、薬物の効率が悪く経済的にも問題がある。更に、アロプリノールは水に難溶性であって、水溶液での長期間の保存は結晶析出が生じるため、用時に調製しなければならない。
【0003】
このような問題を解決するため、簡便に使えるアロプリノール含有医薬組成物の開発が行われている。例えば、増粘剤、分散剤等を配合したアロプリノール含有スプレー剤(特許文献1)が知られているが、患部以外の不必要な部分にも付着するおそれがあり、水溶液であるので患部から脱離し易く持続性に問題がある。また、アロプリノールにポリ乳酸等を混ぜてマイクロスフェアー化し、更にキトサン等で被覆化した製剤(特許文献2)が知られているが、ポリ乳酸等を有機溶媒に溶解させて製造するので、製造法が煩雑で、かつ、製剤中に有機溶媒が残留するおそれがある。
【特許文献1】特開2002−255852号公報
【特許文献2】特開平7−258087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、使用法及び製造法が簡便で、かつ薬効持続性の優れたアロプリノール含有医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者等は、使用法及び製造法が簡便で、かつ薬効持続性の優れたアロプリノール含有医薬組成物を見出すべく種々検討した結果、アロプリノールにリドカイン及びカラギーナンを配合し、マイクロスフェアー化すると、それを投与したときの口腔内粘膜表面における成膜性、特に均一な膜形成性に極めて優れ、口内炎治療、予防効果、痛み抑制の局所麻酔効果等の薬効持続性に優れたアロプリノール含有医薬組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明はアロプリノール、リドカイン及びカラギーナンを含有し、マイクロスフェアー化されたアロプリノール含有医薬組成物及びその製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のアロプリノール含有医薬組成物は、口腔内粘膜の表面における成膜性、特に均一な成膜性に極めて優れているので、アロプリノール及びリドカインの薬効の持続性に優れ、利便性が高く、更に水への拡散性においても優れ、使用法、製造法が簡便である。
本発明のアロプリノール含有医薬組成物は、口内炎の治療及び予防に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で使用するアロプリノール(化学名:1,5−dihydro−4H−pyrazolo[3,4−d]pyrimidin−4−one)の含有量は、アロプリノール含有医薬組成物中に0.01〜20質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%であり、特に好ましくは1〜10質量%である。
【0008】
本発明で使用するリドカインには、リドカインの他に、その塩が包含される。ここで、リドカインの塩としては、塩酸リドカイン等が挙げられ、リドカインとしては、特に塩酸リドカインが好ましい。
【0009】
リドカインの含有量は、アロプリノール含有医薬組成物中に0.01〜20質量%であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜15質量%であり、特に好ましくは1〜10質量%である。
【0010】
本発明で使用するカラギーナンは、紅藻類に含まれるアンヒドロガラクトース及びガラクトースの硫酸エステルで構成される多糖類であって、カッパ型カラギーナン、イオタ型カラギーナン、ラムダ型カラギーナン等が挙げられる。
カラギーナンとしては、例えばゲニューゲルWG−108、ゲニューゲルWG−115、ゲニューゲルSWG−J、ゲニューゲルCJ、ゲニューゲルCHP−40i―J、ゲニューゲルCHP−200−J、ゲニューゲルLC−1−J、ゲニューゲルJ−J、ゲニューゲルJ−F、ゲニューゲルPJ、ゲニューゲルCSW−2、ゲニューゲルCSM−2、ゲニューゲルMP−11、ゲニューゲルP−100−J、ゲニューゲルL−100−J、ゲニューゲルLRA−50、ゲニューゲルLP−74、ゲニューゲルK−100−J(三晶株式会社製)等が市販されている。
【0011】
カラギーナンの含有量は、アロプリノール含有医薬組成物中に1〜99質量%であるのが好ましく、より好ましくは20〜99質量%であり、特に好ましくは30〜98質量%である。
【0012】
本発明のアロプリノール含有医薬組成物中の、アロプリノール、リドカイン及びカラギーナンの含有量は前記のとおりであるが、口腔内粘膜表面での均一な膜形成の点でアロプリノール:リドカイン:カラギーナンの相対的な含有質量比が、0.01〜20:0.01〜20:1〜99であるのが好ましく、更に0.1〜15:0.1〜15:20〜99であるのが好ましく、1〜10:1〜10:30〜98が特に好ましい。
【0013】
本発明のアロプリノール含有医薬組成物は、アロプリノール、リドカイン及びカラギーナンを含有する混合物をマイクロスフェアー化して製造される。ここで、マイクロスフェアーは、マイクロ単位の球状の複合粒子である。該複合粒子としては、ほぼ均一な形状及び大きさの造粒物が好ましく、特に噴霧乾燥して得られる微粒子が好ましい。
マイクロスフェアーの平均粒子径は、1〜500μm、より好ましくは1〜100μm、特に好ましくは1〜20μmである。この範囲にあると口腔内粘膜表面での拡散性、成膜性の点でより優れ好ましい。ここで、マイクロスフェアーの平均粒子径は、レーザー回折法で測定した値を使用する。
【0014】
アロプリノール、リドカイン及びカラギーナンのマイクロスフェアー化は、これらを水等の溶媒に溶解、分散した後、噴霧乾燥等の方法で溶媒を除去して微粒子化することによって行われる。溶媒としては、水や、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、エーテル等の有機溶媒及びこれらの混合溶媒が挙げられ、水が特に好ましい。
マイクロスフェアー化は、例えば、アロプリノールとカラギーナンとリドカインとを水等の溶媒、特に好ましくは水で溶解した溶液を乾燥雰囲気下に噴射し、乾燥させて粒子状とするスプレードライ法;アロプリノールとリドカインを内水相、カラギーナンを油相に溶解したW/O/W型エマルションを調製後、油相の有機溶媒を水中乾燥し、さらに凍結乾燥させて粒子状とする液中乾燥法;アロプリノールとリドカインを水相、カラギーナンを油相に溶解したW/O型エマルションに、カラギーナンに対する貧溶媒を添加、あるいはW/O型エマルションの温度を下げ、その後溶媒を除去し粒子状とするコアセルベーション法等の方法で行われる。油相としては、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系有機溶媒、流動パラフィン、シリコーン、動物油及び植物油等挙げられる。
マイクロスフェアー化法としては、アロプリノール、リドカイン及びカラギーナンの水溶液を乾燥雰囲気下で噴霧乾燥して微粒子状とするスプレードライ法が好ましい。
【0015】
本発明のアロプリノール含有医薬組成物のpHは、その1質量部を水99質量部と混合したとき5〜8であるのが好ましく、より好ましくは6〜7である。
【0016】
本発明で使用する組成物中には、アロプリノールとリドカイン以外の薬物やカラギーナン以外の基剤を含有していてもよく、薬物としては、例えば、消化性潰瘍治療剤、蛋白分解酵素阻害剤、消炎鎮痛剤、繊維素溶解酵素剤、粘膜修復剤等が、基剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤等が挙げられる。
【0017】
具体的には、薬物としては、レバミピド、エンプロスチル等の消化性潰瘍治療剤;メシル酸カモスタット、メシル酸ガベキサート等の蛋白分解酵素阻害剤;アスピリン、サリチル酸、メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、イブプロフェン等の非ステロイド系抗炎症剤等の消炎鎮痛剤;フィブリノリジン・デオキシリボヌクレアーゼ、ストレプトキナーゼ、ストレプトドルナーゼ等の線維素溶解酵素剤;アズレンスルホン酸ナトリウム等の粘膜修復剤等が挙げられる。これらの薬物は、単独で使用することもできるし、2種以上を混合しても使用できる。
【0018】
基剤としては、デンプン類、結晶セルロース、マンニトール、軽質無水ケイ酸、硬化油等の賦形剤;カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、トウモロコシ澱粉、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ゼラチン、アルファー化デンプン、プルラン等の結合剤等が挙げられる。これらの基剤は、適宜単独又は2種以上を混合して使用される。
【0019】
本発明のアロプリノール含有医薬組成物の投与形態としては、散剤、顆粒剤、スプレー剤、フイルム剤、パッチ剤等の剤型が挙げられる。投与形態としては、拡散性に優れているので、散剤、顆粒剤であるのが特に好ましい。
【0020】
本発明のアロプリノール含有医薬組成物の投与量は、口内炎患者、その症状等により変化するが、一般には一日3〜5回、1回当りアロプリノール0.01〜60mg、特に0.1〜30mgを含有するアロプリノール含有医薬組成物を投与するのが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
アロプリノール0.2g、塩酸リドカイン0.2g、カラギーナン4g(κ-カラジーナン:和光純薬工業株式会社)を精製水400mLに溶解し、その溶液をマイクロミストドライヤー(藤崎電機製、条件:流入量10mL/min、入口温度120℃、排気温度75℃、缶体内圧0.5〜1kPa、風量40L/min)にて噴霧乾燥し、マイクロスフェアーを調製した。得られたアロプリノール含有医薬組成物の平均粒子径は8μm、1質量%のpHは6.6であった。
【0023】
実施例2〜3
塩酸リドカインの量を変えた以外は、実施例1と同様にマイクロスフェアー化して調製した。なお、平均粒子径は、実施例2は9μm、実施例3は10μmであった。pHは、実施例2は6.5、実施例3は6.3であった。
【0024】
比較例1
アロプリノール0.2g、塩酸リドカイン0.2g、カラギーナン4gを乳鉢で均一に混合し、平均粒子径20μmの微粒子混合物を調製した。
【0025】
比較例2〜3
塩酸リドカインを塩酸テトラカイン又は塩酸プロカインに変えた以外は、実施例1と同様にマイクロスフェアー化して調製した。
【0026】
比較例4
カラギーナンをヒドロキシプロピルセルロース(ヒドロキシプロピルセルロース150〜400:和光純薬工業株式会社)に変えた以外は、実施例1と同様にマイクロスフェアー化して調製した。
【0027】
実施例4
実施例1〜3、比較例1〜4で得られた医薬組成物の拡散性、成膜性、膜の均一性を評価した。
拡散性、成膜性、均一性の評価は、シャーレ(直径90mm)に水20mLを入れ、さらに各医薬組成物10mgをシャーレ中の水に落し、10秒後の状態を目視にて測定した。測定結果を表1に示す。
【0028】
拡散性
○:すぐに拡散が認められ、拡散性は良好である。
△:非常にゆっくりと拡散が認められ、拡散性はやや良好である。
×:拡散が認められず、拡散性は不良である。
成膜性
○:すぐに成膜が認められ、成膜性は良好である。
△:非常にゆっくりと成膜が認められ、成膜性はやや良好である。
×:成膜が認められず、成膜性は不良である。
均一性
○:膜の全体が均一に成膜され、均一性は良好である。
△:膜の一部分が均一に成膜され、均一性はやや良好である。
×:膜の全体が均一に成膜されておらず、均一性は不良である。
【0029】
【表1】

【0030】
アロプリノール、リドカイン及びカラギーナンをマイクロスフェアー化した本発明のアロプリノール含有医薬組成物(実施例1〜3)は、いずれも拡散性、成膜性、膜の均一性に優れていた。一方、アロプリノール、リドカイン、カラギーナンを配合し、マイクロスフェアー化しないで物理的に混合した医薬組成物(比較例1)、アロプリノール、カラギーナンとリドカイン以外の局所麻酔剤(塩酸テトラカイン又は塩酸プロカイン)を配合し、マイクロスフェアー化した医薬組成物(比較例2〜3)、アロプリノール、リドカインと、カラギーナンに変えてヒドロキシプロピルセルロースを配合し、マイクロスフェアー化した医薬組成物(比較例4)は、いずれも拡散性、成膜性、膜の均一性について満足なものではなく、特に成膜性及び均一性はいずれも不良であった。
【0031】
実施例5
実施例1で製造したアロプリノール含有医薬組成物のアロプリノールの放出性を測定した。
放出量の測定は、アロプリノール含有医薬組成物50mgをフローセルに入れて、フローセルの流入口からポンプ(Micro Tube Pump(MP−3)EYELA)を用いて一定速度(1mL/min)で蒸留水(37℃)を送り込み、フローセルの流出口から溶出してくる溶液を1時間毎にフラクションコレクターを用いて回収し、HPLC法によりアロプリノール含量を測定し、累積放出率(%)を求めた。
測定の結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
アロプリノールは、8時間後までアロプリノール含有医薬組成物から放出し続けることを認め、放出持続性があることが確認された。
また、実際に口腔内に使用しても、アロプリノールやリドカインの苦味を感じず、また、成膜した実感も得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アロプリノール、リドカイン及びカラギーナンを含有し、マイクロスフェアー化されたアロプリノール含有医薬組成物。
【請求項2】
口内炎治療薬である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
アロプリノール、リドカイン及びカラギーナンを溶解した水溶液を噴霧乾燥してマイクロスフェアー化する請求項1記載の医薬組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−36700(P2006−36700A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219817(P2004−219817)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】