説明

アンカ部材

【課題】従来のアンカ部材のかしめ軸部に比較してかしめ軸部の耐久性が高いアンカ部材を提供することにある。
【解決手段】アンカ部材10のかしめ軸部10dは、テーパー形状の貫通穴56bの内周面によって基端部10aから離間するに従ってそのかしめ軸部10dの径が大きくなるテーパー形状に塑性変形されたものであり、ブレーキシュー22および24からアンカ部材10のトルク軸受部10dの外周面に力F,F1が入力されると、かしめ軸部10dの力F,F1が入力される側におけるテーパー部10eが貫通穴56bの内周面を押圧する押圧方向E,E1は、かしめ軸部10dの軸心C1に直角な方向に近づくように傾斜しようとする。この押圧方向E,E1におけるかしめ軸部10dの応力が集中する部位の厚みT1,T2は、従来のアンカ部材100のかしめ軸部100dの厚みTより大幅に厚くされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外力が作用する部材を受け止めるアンカ部材おいて、そのアンカ部材の耐久性を向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンカ部材100は、図8の従来ものに示すように、(a) 平板部材110に形成された円柱形状の貫通穴110aの開口縁に着座させられたその貫通穴110aより大径の基端部100aと、その基端部100aからその平板部材110から離間する方向に立設されたトルク受軸部100bと、その基端部100aの着座面100cから貫通穴110aを通して突き出され先端部がその貫通穴110aより大径に塑性変形させられることによりその基端部100aを平板部材110に固定するかしめ軸部100dとを有し、外力が作用する部材をトルク受軸部100bの外周面に当接させてその部材を受け止めるものである。
【0003】
また、上記のようなアンカ部材100は、たとえば特許文献1に示すように、ドラムブレーキのバッキングプレート上に拡開可能に設けられた円弧状の一対のブレーキシューの一端部間に配設され、そのバッキングプレートとキャリパサポートブラケットとが重ねられた平板部材110に固定される車両用ドラムブレーキのアンカ部材として使用されることがある。このような場合、車両用ドラムブレーキのアンカ部材は、ドラムブレーキの制動時おいて車両の車輪と回転する回転ドラムの内周面に摺接するその一対のブレーキシューの一方のブレーキシューの一端をトルク受軸部100bの外周面に当接させてその一方のブレーキシューを受け止める。
【0004】
図8に示すように、アンカー部材100のかしめ軸部100dには、平板部材110の貫通穴110aと略同形状にその貫通穴110aを通して突き出された円柱形状の軸部100eと、その軸部100eの先端部が平板部材110の貫通穴110aの基端部100a側とは反対側の周縁部110bと密接するように貫通穴110aより大径に略円板形状に塑性変形させられた大径部100fとが一体に備えられる。
【0005】
また、図8に示すように、外力が作用する部材例えばブレーキシュー等からトルク軸受部100bの外周面に力Fが入力されると、アンカ部材100において、そのアンカ部材100のその力Fが入力される側とは反対側におけるそのかしめ軸部100dと基端部100aとの段部すなわち図8で示すA点まわりにアンカ部材100を倒す方向のモーメントF×Lが作用する。しかしながら、アンカ部材100はかしめ軸部100dによって平板部材110に固定されており、図9に示すようにそのA点まわりのアンカ部材100を倒す方向のモーメントF×Lは、かしめ軸部100dの前記力Fが入力される側の大径部110bが貫通穴110aの周縁部110bを押圧することにより発生する反力によって相殺される。また、図8および図9において、上記のようにモーメントF×Lの回動中心をA点に位置させたが、アンカ部材100の基端部100aの着座面100cと平板部材110の基端部100a側の面110cとが密接している場合、そのモーメントF×Lの回動中心は基端部100aの前記力Fが入力される側とは反対側における外周縁に位置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平05−66344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のようなアンカ部材100において、図9に示すように外力が作用する部材からトルク軸受部100bの外周面に力Fが入力され、かしめ軸部100dの上記力Fが入力される側の大径部100fが貫通穴110aの周縁部110bを押圧すると、その押圧する方向Bにおけるかしめ軸部100dの厚みが円板形状の大径部100fの厚みTに示すように比較的薄いものであることから、その押圧による押圧力によってかしめ軸部100dの前記力Fが入力される側の大径部100fが比較的容易に曲げられて、かしめ軸部100dの上記力Fが入力される側における軸部100eと大径部100fとの段部すなわち図9に一点鎖線で円状に示されるC部に応力が集中する。このため、繰り返しアンカ部材100に上記力Fが入力されると、そのアンカ部材100のかしめ軸部100dの段部に応力が集中し充分な強度或いは耐久性が得られない場合がある。
【0008】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、従来のアンカ部材のかしめ軸部に比較してかしめ軸部の耐久性が高いアンカ部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a) 平板部材に形成された貫通穴の開口縁に着座させられたその貫通穴より大径の基端部と、その基端部からその平板部材から離間する方向に立設されたトルク受軸部と、その基端部の着座面から前記貫通穴を通して突き出され先端部がその貫通穴より大径に塑性変形させられることによりその基端部を前記平板部材に固定するかしめ軸部とを有し、外力が作用する部材を前記トルク受軸部の外周面に当接させてその部材を受け止めるアンカ部材であって、(b) 前記平板部材の貫通穴は、その平板部材の厚み方向において前記アンカー部材の基端部から離間するに従ってその貫通穴の径が大きくなるテーパー形状であり、(c) 前記かしめ軸部は、前記貫通穴の内周面全周に密接するように塑性変形させられたものである。
【0010】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、(a) 前記貫通穴の断面形状は、楕円であり、(b) 前記貫通穴内で塑性変形後の前記アンカ部材のかしめ軸部の軸直角断面形状は、楕円形状である。
【0011】
また、第3発明の要旨とするところは、第2発明において、前記かしめ軸部の軸直角断面における前記楕円形状の長軸は、前記外力が作用する部材から前記アンカ部材に入力される力の方向と同方向である。
【0012】
また、第4発明の要旨とするところは、第1発明乃至第3発明のいずれか1において、(a) 前記貫通穴内で塑性変形前において前記アンカ部材のかしめ軸部は、前記平板部材の貫通穴を通して突き出されたものであり、(b) 前記アンカ部材のかしめ軸部は、前記アンカ部材のトルク受軸部および基端部を支持する第1金型と、前記平板部材の貫通穴の前記アンカ部材の基端部側とは反対側の開口を塞ぐ平面部とその平面部から前記貫通穴側に突き出る突部とを有する第2金型とにより、前記第2金型の平面部によって前記平面部材の貫通穴を密閉して前記突部によってそのかしめ軸部の先端部が塑性変形させられるコイニングによって成形されたものである。
【0013】
また、第5発明の要旨とするところは、第4発明において、前記第2金型の突部の断面形状は、前記貫通穴の前記基端部側とは反対側の楕円形状の開口の径より小径で且つその楕円形状の開口における楕円の長軸と同方向の長軸を有する楕円形状である。
【0014】
また、第6発明の要旨とするところは、第1発明乃至第5発明のいずれか1において、(a) 前記アンカ部材は、ドラムブレーキのバッキングプレート上に拡開可能に設けられた円弧状の一対のブレーキシューの一端部間に配設された車両用ドラムブレーキのアンカ部材であり、(b) 前記貫通穴が形成された前記平板部材は、前記バッキングプレートとキャリパサポートブラケットとが重ねられたものであって、(c) 前記アンカ部材は、前記ドラムブレーキの制動時おいて前記車両の車輪と回転する回転ドラムの内周面に摺接する前記一対のブレーキシューの一方のブレーキシューの一端が前記トルク受軸部の外周面に当接させてその一方のブレーキシューを受け止めるものである。
【0015】
また、第7発明の要旨とするところは、第6発明において、(a) 前記キャリパサポートブラケットの貫通穴は、前記回転ドラムの周方向に長軸を有する楕円形状であり、(b) 前記貫通穴内で塑性変形後の前記アンカ部材のかしめ軸部の軸直角断面は、前記回転ドラムの周方向に長軸を有する楕円形状である。
【発明の効果】
【0016】
第1発明のアンカ部材によれば、(b) 前記平板部材の貫通穴は、その平板部材の厚み方向において前記アンカー部材の基端部から離間するに従ってその貫通穴の径が大きくなるテーパー形状であり、(c) 前記かしめ軸部は、前記貫通穴の内周面全周に密接するように塑性変形させられたものである。このため、前記アンカ部材のかしめ軸部は、前記テーパー形状の前記貫通穴の内周面によって前記基端部から離間するに従ってそのかしめ軸部の径が大きくなるテーパー形状に塑性変形されたものであり、前記外力が作用する部材から前記アンカ部材のトルク受軸部の外周面に力が入力されると、その力を受け止めるために前記かしめ軸部の前記力が入力される側におけるそのテーパー形状の部分が前記貫通穴の内周面を押圧する。これにより、前記かしめ軸部の前記力が入力される側における前記テーパー形状の部分の小径の部分に応力が集中するが、前記かしめ軸部をテーパー形状に塑性変形させたことにより、前記かしめ軸部の前記力が入力される側におけるそのテーパー形状の部分が前記貫通穴の内周面を押圧する押圧方向は、前記かしめ軸部の軸心に直角な方向に近づくように傾斜しようとする。この押圧方向における前記かしめ軸部の前記応力が集中する部位の厚みは、従来のアンカ部材のかしめ軸部の応力が集中する部位の厚みより大幅に厚くされていて、前記アンカ部材のかしめ軸部の耐久性が従来のアンカ部材のかしめ軸部に比較して高くされている。
【0017】
第2発明のアンカ部材によれば、(a) 前記貫通穴の断面形状は、楕円であり、(b) 前記貫通穴内で塑性変形後の前記アンカ部材のかしめ軸部の軸直角断面形状は、楕円形状であるため、例えば前記外力が作用する部材の力によって前記アンカ部材が変形して前記基端部と前記かしめ軸部とにより前記平板部材を挟むことができなくなったとしても、前記かしめ軸部はそのかしめ軸部と前記平板部材の貫通穴の内周面とが前記かしめ軸部の軸心まわり相対回転不能に係合しており、前記アンカ部材における前記かしめ軸部の軸心まわりの回転が好適に防止される。
【0018】
第3発明のアンカ部材によれば、前記かしめ軸部の軸直角断面における前記楕円形状の長軸は、前記外力が作用する部材から前記アンカ部材に入力される力の方向と同方向であるため、前記外力が作用する部材から前記アンカ部材に力が入力されることによって発生するモーメントの回転中心から前記かしめ軸部の前記力が入力される側のテーパー形状の部分までの距離が好適に長くなる。このため、前記モーメントを相殺するために前記かしめ軸部の前記力が入力される側におけるテーパー形状の部分が前記貫通穴の内周面を押圧する押圧力は、好適に小さくなり、前記アンカ部材のかしめ軸部の耐久性が好適に向上する。
【0019】
第4発明のアンカ部材によれば、(a) 前記貫通穴内で塑性変形前において前記アンカ部材のかしめ軸部は、前記平板部材の貫通穴を通して突き出されたものであり、(b) 前記アンカ部材のかしめ軸部は、前記アンカ部材のトルク受軸部および基端部を支持する第1金型と、前記平板部材の貫通穴の前記アンカ部材の基端部側とは反対側の開口を塞ぐ平面部とその平面部から前記貫通穴側に突き出る突部とを有する第2金型とにより、前記第2金型の平面部によって前記平面部材の貫通穴を密閉して前記突部によってそのかしめ軸部の先端部が塑性変形させられるコイニングによって成形されたものである。このため、前記コイニングによる比較的高い加工圧力によって、前記第2金型の平面部により前記平面部材の貫通穴を密閉した状態で前記突部によってそのかしめ軸部の先端部が押圧されてそのかしめ軸部の先端部の材料が前記貫通穴の内周面全周側に逃げるので、前記かしめ軸部の塑性変形後におけるそのかしめ軸部と前記平板部材の貫通穴の内周面との密着性が好適に向上する。
【0020】
第5発明のアンカ部材によれば、前記第2金型の突部の断面形状は、前記貫通穴の前記基端部側とは反対側の楕円形状の開口の径より小径で且つその楕円形状の開口における楕円の長軸と同方向の長軸を有する楕円形状であるため、その断面形状が楕円形状である第2金型の突部によって塑性変形前の前記かしめ軸部の先端部を押圧することによって好適にそのかしめ軸部の先端部の材料を前記貫通穴の内周面全周側に逃がすことができる。
【0021】
第6発明のアンカ部材によれば、(a) 前記アンカ部材は、ドラムブレーキのバッキングプレート上に拡開可能に設けられた円弧状の一対のブレーキシューの一端部間に配設された車両用ドラムブレーキのアンカ部材であり、(b) 前記貫通穴が形成された前記平板部材は、前記バッキングプレートとキャリパサポートブラケットとが重ねられたものであって、(c) 前記アンカ部材は、前記ドラムブレーキの制動時おいて前記車両の車輪と回転する回転ドラムの内周面に摺接する前記一対のブレーキシューの一方のブレーキシューの一端が前記トルク受軸部の外周面に当接させてその一方のブレーキシューを受け止めるものである。このため、前記アンカ部材を車両用ドラムブレーキのアンカ部材に適用することができ、その車両用ドラムブレーキのアンカ部材のかしめ軸部の耐久性を好適に向上させられる。
【0022】
第7発明のアンカ部材によれば、(a) 前記キャリパサポートブラケットの貫通穴は、前記回転ドラムの周方向に長軸を有する楕円形状であり、(b) 前記貫通穴内で塑性変形後の前記アンカ部材のかしめ軸部の軸直角断面は、前記回転ドラムの周方向に長軸を有する楕円形状であるため、前記一対のブレーキシューの一方或いは他方から前記アンカ部材に力が入力されることによって発生するモーメントの回転中心から前記かしめ軸部の前記力が入力される側のテーパー形状の部分までの距離が好適に長くなる。このため、前記モーメントを相殺するために前記かしめ軸部の前記力が入力される側におけるテーパー形状の部分が前記貫通穴の内周面を押圧する押圧力は、好適に小さくなり、前記車両用ドラムブレーキのアンカ部材のかしめ軸部の耐久性が好適に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用されたデュオサーボ型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】ドラムブレーキの制動時において一対のブレーキシューの一方或いは他方のブレーキシューの一端がアンカ部材のトルク受軸部の外周面に当接された状態を説明する、図1のII-II視断面図である。
【図3】図2におけるアンカ部材のかしめ軸部を拡大する拡大図である。
【図4】図2のIV-IV視面図である。
【図5】アンカ部材がバッキングプレートおよびキャリパサポートブラケットに固定される固定方法を説明する図である。
【図6】アンカ部材がバッキングプレートおよびキャリパサポートブラケットに固定される固定方法を説明する図である。
【図7】アンカ部材がバッキングプレートおよびキャリパサポートブラケットに固定される固定方法を説明する図である。
【図8】外力が作用する部材すなわちブレーキシュー等が従来のアンカ部材のトルク受軸部の外周面に当接された状態を説明する図である。
【図9】図8における従来のアンカ部材のかしめ軸部を拡大する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の一実施例のアンカ部材10を備えるドラムブレーキ12が中央部に備えられたデュオサーボ型のドラムインディスクブレーキ14のハット型ディスクおよびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型ディスクは、図に示されていない円板状外周部と有底円筒状中央部とによって構成され、その円板状外周部はディスクブレーキの摩擦板として機能し、有底円筒状中央部はブレーキドラム(回転ドラム)として機能している。また、図1の1点鎖線で示す円は、上記ブレーキドラムの内周面16を示している。
【0026】
ドラムブレーキ12には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート(平板部材)18が備えられている。このバッキングプレート18の外周部には、前記ハット型ディスクの円板状外周部を保護するためのディスクカバー20が固定されている。
【0027】
また、ドラムブレーキ12には、バッキングプレート18の左右の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー22および24と、その一対のブレーキシュー22および24の一端部すなわち図1の上端部の間において位置固定に設けられたアンカ部材10と、そのアンカ部材10と一対のブレーキシュー22および24との間に張設され一対のブレーキシュー22および24の一端部を互いに接近する方向に常時付勢する一対のリターンスプリング26および28と、一対のブレーキシュー22および24の一端部間に架け渡された長手板状のストラット30と、一対のブレーキシュー22および24の他端部すなわち図1の下端部の間に介在させられてアジャストホイール32aの回転に伴って全長が変化させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置32と、一対のブレーキシュー22および24の下端部間に張設されてそれら下端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置32を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリング34とが備えられている。
【0028】
一対のブレーキシュー22および24は、何れも、バッキングプレート18の内周部に位置する平坦な平板部18aと略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ36および38と、それらの円弧形状を成すシューウェブ36および38の外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すようにそのシューウェブ36および38に一体的に固設された帯板状のシューリム40および42と、それらシューリム40および42の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング44および46とを備えてそれぞれ構成されている。
【0029】
また、一対のブレーキシュー22および24は、シューウェブ36およびシューウェブ38にそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置48および50によってバッキングプレート18側へ押圧されることによりそのバッキングプレート18に対して面方向の拡開移動可能に保持されている。
【0030】
図1に示すように、ブレーキシュー22には、略円柱形状の取付軸52を備えた平板状のブレーキレバー54が配設されており、ブレーキシュー22の一端部とブレーキレバー54の基端部54aとは、その取付軸52によって、その取付軸52まわりに相対回動可能に連結されている。そして、ブレーキレバー54の基端部54aであって取付軸52に近い部分は、ストラット30のブレーキシュー22側の端部に切り欠かれた切欠面30aにシューウェブ36と共に係合させられている。また、ブレーキレバー54の先端部54bには、パーキングブレーキペダル、パーキングブレーキレバー等の図示されていないブレーキ操作装置が操作されることによって発生する操作力をそのブレーキレバー54の先端部54bに伝達する図示されていないブレーキケーブルが連結されている。
【0031】
図1および図2に示すように、バッキングプレート18には、前記ハット型ディスクの円板状外周部の両側面に摩擦材を押し付けるキャリパが支持される支持部56aを有するバッキングプレート18の板厚より厚い平板状のキャリパサポートブラケット(平板部材)56が備えられている。また、バッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56は、ドラムブレーキ12に備えられた図示されていない4本のボルトによって、車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの非回転部材に一体的に固定されている。
【0032】
図2に示すように、アンカ部材10は、たとえば一般鋼製であって、バッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56の厚み方向に貫通された貫通穴18bおよび56bのブレーキシュー22および24側の開口縁に着座させられたバッキングプレート18の貫通穴18bより大径の基端部10aと、その基端部10aからバッキングプレート18から離間する方向に立設された円柱形状のトルク受軸部10bと、基端部10aの着座面10cから貫通穴18bおよび56bを通して突き出され先端部がバッキングプレート18の貫通穴18bより大径に塑性変形させられることにより基端部10aをバッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56に固定するかしめ軸部10dとを一体に有している。
【0033】
図2乃至図4に示すように、バッキングプレート18の貫通穴18bは、その貫通穴18bの基端部10a側の開口形状とその貫通穴18bの基端部10a側とは反対側の開口形状とが同形の円形状であり、そのバッキングプレート18の厚み方向に貫通したものである。また、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bは、その貫通穴56bの基端部10a側の開口形状がバッキングプレート18の貫通穴18bと同形の円形状であり、その貫通穴56bの基端部10a側とは反対側の開口形状がその貫通穴56bの基端部10a側の開口形状より大径の楕円形状である。図4に示すように、バッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56の厚み方向において、そのバッキングプレート18の円形状の貫通穴18bの中心C2と、キャリパサポートブラケット56の基端部10a側の円形状の貫通穴56bの中心C3と、そのキャリパサポートブラケット56の基端部10a側とは反対側の楕円形状の貫通穴56bの中心C4とは、アンカ部材10のかしめ軸部10dの軸心C1と一致するものである。
【0034】
また、図2乃至図4に示すように、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの断面形状は楕円形状であり、そのキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bは、そのキャリパサポートブラケット56の厚み方向においてアンカ部材10の基端部10aから離間するに従って径が大きくなるテーパー形状に貫通したものである。
【0035】
また、図2乃至図4に示すように、アンカ部材10のかしめ軸部10dは、キャリパサポートブラケット56のテーパー形状の貫通穴56bの内周面全周に密接するようにプレス加工例えばコイニング等によって塑性変形されたものであり、そのアンカ部材10のかしめ軸部10dは、キャリパサポートブラケット56のテーパー形状の貫通穴56bの内周面によって基端部10aから離間するに従ってかしめ軸部10dの径が連続的に大きくなるテーパー形状に塑性変形されたテーパー部10eを一体に備えたものである。図4に示すように、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの基端部10a側とは反対側の開口形状は、ドラムブレーキ12のブレーキドラムの周方向或いは接線方向に長軸Lを有する楕円形状であり、その貫通穴56b内で塑性変形後のテーパー部10eの軸直角断面は、そのドラムブレーキ12のブレーキドラムの周方向に長軸Lを有する楕円形状である。
【0036】
ここで、本実施例のアンカ部材10は、ドラムブレーキ12のバッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56にプレス加工例えばコイニングによって以下のようにして固定される。以下、図5乃至図7を参照してその固定方法を説明する。
【0037】
先ず、図5に示すように、バッキングプレート18の貫通穴18bの開口部とキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの小径側の開口部とが一致するようにバッキングプレート18とキャリパサポートブラケット56とが重ね合わせられ、そのバッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56の貫通穴18bおよび56b内に塑性変形前の円柱形状のかしめ軸部10dが嵌め入れられる。また、塑性変形される前のかしめ軸部10dすなわち塑性変形される前のアンカ部材10の形状は、従来の塑性変形される前のかしめ軸部100dすなわち塑性変形される前のアンカ部材100の形状と同じである。すなわち、塑性変形前のアンカ部材10と従来の塑性変形前のアンカ部材10とは同じ材質および質量である。
【0038】
図6は、図5においてバッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56の貫通穴18bおよび56bに塑性変形前のかしめ軸部10dが嵌め入れられたものを位置固定に支持し、その塑性変形前のかしめ軸部10dを熱かしめにより塑性変形させるプレス加工機58を説明する図である。そのプレス加工機58には、アンカ部材10の基端部10aおよびトルク受軸部10bを支持するように凹んだ凹部60aとバッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56を支持する支持面60bとを有する第1金型60と、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの基端部10a側とは反対側の開口を塞ぐ平面部62aとその平面部62aからキャリパサポートブラケット56の貫通穴56b内に突き出た突部62bとを有する第2金型62とが備えられている。
【0039】
図6に示すように、たとえば図示しない加熱炉内において再結晶温度以上に加熱され且つ取り出されたアンカ部材10、バッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56が、コイニング加工用の第1金型60により位置決めされた状態で支持される。次に、コイニング加工用の第2金型62の突部62bがアンカ部材10のかしめ軸部10dの先端部に接近する方向に移動させられる。
【0040】
そして、図7に示すように、コイニング加工による比較的高い加工圧力によって、第2金型62の平面部62aによりキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bを密閉した状態で第2金型62の突部62bによってかしめ軸部10dの先端部が押圧され、そのかしめ軸部10dの先端部の材料がキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bのテーパー形状の内周面全周側に逃げる。これにより、アンカ部材10のかしめ軸部10dがキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの内周面全周に密接するように塑性変形させられ、アンカ部材10がバッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56に固定される。この結果、図7に示すように、アンカー部材10のかしめ軸部10dには、バッキングプレート18の貫通穴18bと略同形状にその貫通穴18bを通して突き出された軸部10hと、その軸部10hの先端部が基端部10aから離間するに従ってかしめ軸部10dの径が連続的に大きくなるテーパー形状に塑性変形されたテーパー部10eとが一体に備えられる。
【0041】
また、図4および図7に示すように、かしめ軸部10dのテーパー部10eの底面10fには、第2金型62の突部62bによって楕円形状に凹まされた凹部10gが形成される。図4の凹部10gの形状から示すように、第2金型62の突部62bの断面形状は、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの基端部10a側とは反対側の楕円形状の開口の径より小径で且つその楕円形状の開口における楕円の長軸Lと同方向の長軸を有する楕円形状である。
【0042】
以上のよう構成されたドラムブレーキ12によれば、ブレーキ操作装置が操作されることによってブレーキケーブルに操作力が発生すると、そのブレーキケーブルによってブレーキレバー54の先端部54bがバッキングプレート18の中心側へ回動させられる。それにより、ブレーキシュー24がストラット30に押されると共にブレーキシュー22が取付軸52に押されて一対のブレーキシュー22および24のライニング44および46がブレーキドラムの内周面16に当接する。また、一対のブレーキシュー22および24がブレーキドラムの内周面16に当接された状態において、車両の車輪が回転しようと上記ブレーキドラムを回転させようとすると、そのブレーキドラムの内周面16に摺接する一対のブレーキシュー22および24の一方或いは他方のブレーキシューの一端がアンカ部材10のトルク受軸部10bの外周面に当接されて、その一方或いは他方のブレーキシューが受け止められると共にドラムブレーキ12に制動力が発生する。
【0043】
ここで、アンカ部材10は、ドラムブレーキ12の制動時において一対のブレーキシュー22および24の一方或いは他方のブレーキシューの一端をそのトルク受軸部10bの外周面に当接させることにより、その一方或いは他方のブレーキシューを受け止めるものである。以下において、その一方或いは他方のブレーキシューがアンカ部材10のトルク受軸部10bの外周面に受け止められる際に、そのアンカ部材10のかしめ軸部10dに作用する力を説明する。また、図2乃至図4は、ドラムブレーキ12の制動時において一対のブレーキシュー22および24の一方或いは他方のブレーキシューの一端がアンカ部材10のトルク受軸部10bの外周面に当接された状態を説明する図である。
【0044】
図2乃至図4に示すように、例えば、ブレーキシュー24からアンカ部材10のトルク受軸部10bの外周面にブレーキドラムの周方向の力Fが入力されると、アンカ部材10において、そのアンカ部材10の力Fが入力される側とは反対側における基端部10aとかしめ軸部10dとの段部10iすなわち図2および図3で示すA点まわりにアンカ部材10を倒す方向のモーメントF×Lが作用する。しかしながら、アンカ部材10は、かしめ軸部10dによってバッキングプレート18およびキャリパサポートブラケット56に固定されており、上記アンカ部材10を倒す方向のモーメントF×Lは、かしめ軸部10dの力Fが入力される側のテーパー部10eがキャリパサポートブラケット56のテーパー形状の貫通穴56bの内周面を押圧することにより発生する反力によって相殺される。このとき、かしめ軸部10dの力Fが入力される側におけるテーパー部10eの小径の部分すなわち図3に一点鎖線で円状に示されるD部に応力が集中する。
【0045】
しかし、かしめ軸部10dをキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの内周面によってテーパー形状に塑性変形させたことにより、かしめ軸部10dの力Fが入力される側におけるそのテーパー部10eがキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの内周面を押圧する押圧方向Eは、図9に示す従来のアンカ部材100の大径部100fが貫通穴110aの周縁部110bを押圧する押圧方向Bに対してかしめ軸部24dの軸心C1に直角な方向に近づくように傾斜しようとする。このため、押圧方向Eにおけるかしめ軸部10dの応力が集中する部位の厚みT1が、従来のアンカ部材100のかしめ軸部100dの大径部100fの厚みTより厚くなる。また、図3に示す2点鎖線は、従来のかしめ軸部100dの大径部100fを示すものである。
【0046】
なお、上記の作用は、ブレーキシュー22からアンカ部材10のトルク受軸部10bの外周面にブレーキドラムの周方向の力F1が入力されたときも、同様である。そのため、図3に示すように、アンカ部材10に力F1が入力されると、かしめ軸部10dの力F1が入力される側におけるそのテーパー部10eがキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの内周面を押圧する押圧方向E1は、図9に示す従来のアンカ部材100の大径部100fが貫通穴110aの周縁部110bを押圧する押圧方向Bに対してかしめ軸部24dの軸心C1に直角な方向に近づくように傾斜しようとする。このため、押圧方向E1におけるかしめ軸部10dの応力が集中する部位の厚みT2が、従来のアンカ部材100のかしめ軸部100dの大径部100fの厚みTより厚くなる。
【0047】
本実施例のアンカ部材10によれば、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bは、そのキャリパサポートブラケット56の厚み方向においてアンカ部材10の基端部10aから離間するに従ってその貫通穴56bの径が大きくなるテーパー形状であり、かしめ軸部10dは、その貫通穴56bの内周面全周に密接するように塑性変形させられたものである。このため、アンカ部材10のかしめ軸部10dは、テーパー形状の貫通穴56bの内周面によって基端部10aから離間するに従ってそのかしめ軸部10dの径が大きくなるテーパー形状に塑性変形されたものであり、ブレーキシュー22および24からアンカ部材10のトルク軸受部10dの外周面に力F,F1が入力されると、その力F,F1を受け止めるためにかしめ軸部10dの力F,F1が入力される側におけるテーパー部10eが貫通穴56bの内周面を押圧する。これにより、かしめ軸部10dの力F,F1が入力される側におけるテーパー部10eの小径の部分に応力が集中するが、かしめ軸部10dをテーパー形状に塑性変形させたことにより、かしめ軸部10dの力F,F1が入力される側におけるテーパー部10eが貫通穴56bの内周面を押圧する押圧方向E,E1は、図9に示す従来のアンカ部材100の大径部100fが貫通穴110aの周縁部110bを押圧する押圧方向Bに対してかしめ軸部10dの軸心C1に直角な方向に近づくように傾斜しようとする。この押圧方向E,E1におけるかしめ軸部10dの応力が集中する部位の厚みT1,T2は、従来のアンカ部材100のかしめ軸部100dの厚みTより大幅に厚くされていて、アンカ部材10のかしめ軸部10dの耐久性が従来のアンカ部材100のかしめ軸部100dに比較して高くされている。
【0048】
また、本実施例のアンカ部材10によれば、かしめ軸部10d,100dの塑性変形前においてアンカ部材10と従来のアンカ部材100とは、同形状であり且つ同じ金属で成形されたものであるので、アンカ部材10の材質変更や質量増加をすることなく、従来より高い強度のアンカ部材10を提供できる。
【0049】
また、本実施例のアンカ部材10によれば、かしめ軸部10dの軸直角断面における楕円形状の長軸Lは、ブレーキシュー22および24からアンカ部材10に入力される力F,F1のブレーキドラムの周方向と略同方向であるため、ブレーキシュー22および24からアンカ部材10にブレーキドラムの周方向の力F,F1が入力されることによって発生するモーメントF×L,F1×Lの回転中心からかしめ軸部10dの力F,F1が入力される側のテーパー部10eまでの距離が好適に長くなる。このため、モーメントF×L,F1×Lを相殺するためにかしめ軸部10dの力F,F1が入力される側におけるテーパー部10eがキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの内周面を押圧する押圧力は、好適に小さくなり、アンカ部材10のかしめ軸部10dの耐久性が好適に向上する。
【0050】
また、本実施例のアンカ部材10によれば、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの断面形状は、楕円であり、その貫通穴56b内で塑性変形後のアンカ部材10のかしめ軸部10dの軸直角断面形状は、楕円形状であるため、例えばブレーキシュー22および24によってアンカ部材10が変形して基端部10aとかしめ軸部10dとによりキャリパサポートブラケット56を挟むことができなくなったとしても、かしめ部材10dはそのテーパー部10eとキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの内周面とがかしめ軸部10dの軸心C1まわり相対回転不能に係合しており、例えば塑性変形後のかしめ軸部10dの形状がそのかしめ軸部10dの軸心C1まわりに対称な形状に塑性変形されたものに比較してアンカ部材10におけるかしめ軸部10dの軸心C1まわりの回転が好適に防止される。
【0051】
また、本実施例のアンカ部材10によれば、貫通穴56b内で塑性変形前においてアンカ部材10のかしめ軸部10dは、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bを通して突き出されたものであり、アンカ部材10のかしめ軸部10dは、アンカ部材10のトルク受軸部10bおよび基端部10aを支持する第1金型60と、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bのアンカ部材10の基端部10a側とは反対側の開口を塞ぐ平面部62aとその平面部62aから貫通穴56b側に突き出る突部62bとを有する第2金型62とにより、第2金型62の平面部62aによってキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bを密閉して突部62bによってそのかしめ軸部10dの先端部が塑性変形させられるコイニング加工によって成形されたものである。このため、コイニング加工による比較的高い加工圧力によって、第2金型62の平面部62aによりキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bを密閉した状態で突部62bによってそのかしめ軸部10dの先端部が押圧されてそのかしめ軸部10dの先端部の材料が貫通穴56bの内周面全周側に逃げるので、かしめ軸部10dの塑性変形後におけるそのかしめ軸部10dとキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの内周面との密着性が好適に向上する。
【0052】
また、本実施例のアンカ部材10によれば、第2金型62の突部62bの断面形状は、貫通穴56bの基端部10a側とは反対側の楕円形状の開口の径より小径で且つその楕円形状の開口における楕円の長軸Lと同方向の長軸を有する楕円形状であるため、断面形状が楕円形状である第2金型62の突部62bによって塑性変形前のかしめ軸部10dの先端部を押圧することによって好適にそのかしめ軸部10dの先端部の材料を貫通穴56bの内周面全周側に逃がすことができる。
【0053】
また、本実施例のアンカ部材10によれば、アンカ部材10は、ドラムブレーキ12のバッキングプレート18上に拡開可能に設けられた円弧状の一対のブレーキシュー22および24の一端部間に配設された車両用ドラムブレーキ12のアンカ部材10であり、貫通穴が形成された平板部材は、バッキングプレート18とキャリパサポートブラケット56とが重ねられたものである。このため、アンカ部材10は、ドラムブレーキ10の制動時おいて車両の車輪と回転するブレーキドラム(回転ドラム)の内周面16に摺接する一対のブレーキシュー22および24の一方のブレーキシューの一端をトルク受軸部10bの外周面に当接させてその一方のブレーキシューを受け止めるものであるので、アンカ部材10を車両用ドラムブレーキ12のアンカ部材10に適用することができ、その車両用ドラムブレーキ12のアンカ部材10のかしめ軸部10dの耐久性を好適に向上させられる。
【0054】
また、本実施例のアンカ部材10によれば、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bは、ブレーキドラム(回転ドラム)の周方向に長軸を有する楕円形状であり、貫通穴56b内で塑性変形後のアンカ部材10のかしめ軸部10dの軸直角断面は、前記ブレーキドラムの周方向に長軸を有する楕円形状であるため、一対のブレーキシュー22および24の一方或いは他方からアンカ部材10に力F,F1が入力されることによって発生するモーメントF×L,F1×Lの回転中心A,A1からかしめ軸部10dの力F,F1が入力される側のテーパー部10eまでの距離が好適に長くなる。そのため、モーメントF×L,F1×Lを相殺するためにかしめ軸部10dの力F,F1が入力される側におけるテーパー部10eが貫通穴56bの内周面を押圧する押圧力は、好適に小さくなり、車両用ドラムブレーキ12のアンカ部材10のかしめ軸部10dの耐久性が好適に向上する。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0056】
本実施例のアンカ部材10において、アンカ部材10は車両用ドラムブレーキ12用のアンカ部材10として使用されたが、アンカ部材10は車両用ドラムブレーキ12以外のものに使用されても良い。
【0057】
本実施例のアンカ部材10において、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bは、その貫通穴56bの基端部10a側の開口形状がバッキングプレート18の貫通穴18bと同形の円形状であり、その貫通穴56bの基端部10a側とは反対側の開口形状がその貫通穴56bの基端部10a側の開口形状より大径の楕円形状であったが、例えば貫通穴56bの基端部10a側とは反対側の開口形状をその貫通穴56bの基端部10a側の開口形状より大径の円形状にしても良い。
【0058】
また、本実施例のアンカ部材10において、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの形状だけがテーパー形状であったが、例えば、バッキングプレート18の貫通穴18において、アンカ部材10の基端部10aから離間するにしたがってその貫通穴18の径が大きくなるようなテーパー形状にして、バッキングプレート18とキャリパサポートブラケット56とを重ね合わせた平板部材の貫通穴18bおよび56bの形状をテーパー形状にしても良い。
【0059】
また、本実施例のアンカ部材10において、キャリパサポートブラケット56の貫通穴56bは、その貫通穴56bの基端部10a側の開口からその貫通穴56bの基端部10a側とは反対側の開口まで連続的に径が大きくなっているが、例えば、貫通穴56bの基端部10a側の開口からキャリパサポートブラケット56の厚み方向における例えば中間位置までその貫通穴56bの基端部10a側の開口と同形すなわち円柱形状に貫通すると共に、その中間部から貫通穴56bの基端部10a側とは反対側の開口に向かって径が大きくなるようにテーパー形状に貫通しても良い。
【0060】
また、本実施例のアンカ部材10において、バッキングプレート18の貫通穴18bおよびキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの基端部10a側の開口形状は、円形状であったが、そのバッキングプレート18の貫通穴18bおよびキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの基端部10a側の開口形状を楕円形状にしても良い。さらに、それに対応して、塑性変形前のかしめ軸部10dは、円柱形状であったが、その塑性変形前のかしめ軸部10dの軸直角断面形状を上記バッキングプレート18の貫通穴18bおよびキャリパサポートブラケット56の貫通穴56bの基端部10a側の開口に嵌め入れられる楕円形状にしても良い。
【0061】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0062】
10:アンカ部材
10a:基端部
10b:トルク受軸部
10c:着座面
10d:かしめ軸部
12:ドラムブレーキ
16:ブレーキドラム(回転ドラム)の内周面
18:バッキングプレート(平板部材)
18b:貫通穴
22,24:一対のブレーキシュー
56:キャリパサポートブラケット(平板部材)
56b:貫通穴
60:第1金型
62:第2金型
62a:平面部
62b:突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板部材に形成された貫通穴の開口縁に着座させられた該貫通穴より大径の基端部と、該基端部から該平板部材から離間する方向に立設されたトルク受軸部と、該基端部の着座面から前記貫通穴を通して突き出され先端部が該貫通穴より大径に塑性変形させられることにより該基端部を前記平板部材に固定するかしめ軸部とを有し、外力が作用する部材を前記トルク受軸部の外周面に当接させて該部材を受け止めるアンカ部材であって、
前記平板部材の貫通穴は、該平板部材の厚み方向において前記アンカー部材の基端部から離間するに従ってその貫通穴の径が大きくなるテーパー形状であり、
前記かしめ軸部は、前記貫通穴の内周面全周に密接するように塑性変形させられたものであることを特徴とするアンカ部材。
【請求項2】
前記貫通穴の断面形状は、楕円であり、
前記貫通穴内で塑性変形後の前記アンカ部材のかしめ軸部の軸直角断面形状は、楕円形状であることを特徴とする請求項1のアンカ部材。
【請求項3】
前記かしめ軸部の軸直角断面における前記楕円形状の長軸は、前記外力が作用する部材から前記アンカ部材に入力される力の方向と同方向であることを特徴とする請求項2のアンカ部材。
【請求項4】
前記貫通穴内で塑性変形前において前記アンカ部材のかしめ軸部は、前記平板部材の貫通穴を通して突き出されたものであり、
前記アンカ部材のかしめ軸部は、前記アンカ部材のトルク受軸部および基端部を支持する第1金型と、前記平板部材の貫通穴の前記アンカ部材の基端部側とは反対側の開口を塞ぐ平面部と該平面部から前記貫通穴側に突き出る突部とを有する第2金型とにより、前記第2金型の平面部によって前記平面部材の貫通穴を密閉して前記突部によって該かしめ軸部の先端部が塑性変形させられるコイニングによって成形されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1のアンカ部材。
【請求項5】
前記第2金型の突部の断面形状は、前記貫通穴の前記基端部側とは反対側の楕円形状の開口の径より小径で且つその楕円形状の開口における楕円の長軸と同方向の長軸を有する楕円形状であることを特徴とする請求項4のアンカ部材。
【請求項6】
前記アンカ部材は、ドラムブレーキのバッキングプレート上に拡開可能に設けられた円弧状の一対のブレーキシューの一端部間に配設された車両用ドラムブレーキのアンカ部材であり、
前記貫通穴が形成された前記平板部材は、前記バッキングプレートとキャリパサポートブラケットとが重ねられたものであって、
前記アンカ部材は、前記ドラムブレーキの制動時おいて前記車両の車輪と回転する回転ドラムの内周面に摺接する前記一対のブレーキシューの一方のブレーキシューの一端が前記トルク受軸部の外周面に当接させてその一方のブレーキシューを受け止めるものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1のアンカ部材。
【請求項7】
前記キャリパサポートブラケットの貫通穴は、前記回転ドラムの周方向に長軸を有する楕円形状であり、
前記貫通穴内で塑性変形後の前記アンカ部材のかしめ軸部の軸直角断面は、前記回転ドラムの周方向に長軸を有する楕円形状であることを特徴とする請求項6のアンカ部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−219927(P2012−219927A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86834(P2011−86834)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】