説明

アンギュラコンタクト玉軸受用保持器

本発明は、保持器(1)の回転軸線(2)の周りに周方向に互いに隣接する玉ポケット(3)、及び側壁(5)にあって弾性的に撓む保持突起(10)を有するアンギュラコンタクト玉軸受(9)用保持器(1)に関し、保持突起(10)の側面(14)が互いに傾斜して延びている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器の回転軸線の周りに周方向に互いに隣接する玉ポケットを有し、玉ポケットが周方向に橋絡片により区画されているアンギュラコンタクト玉軸受用保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
このような保持器はドイツ連邦共和国特許出願公開第3706013号明細書に記載されている。このような保持器の製造のために利用される材料の典型的な例は、ガラス又は炭素繊維で強化されたポリアミド(例えばPA66/GF)である。保持器は、橋絡片により互いに結合される2つの側環を持っている。1つの側環は、ピッチ円より上で保持器の一方の側に設けられ、他の側環はピッチ円より下で保持器の他方の側に設けられている。この種の保持器にある側環は、側縁としても知られている。保持器の側縁は、端面から始まって環状溝を備えている。
【0003】
保持器が付加的な保持突起を持っていると、このような保持器は形成するのに特に困難である。これらの保持突起は一般に側縁の1つに形成され、アンギュラコンタクト玉軸受の一方のレースの適当な周囲溝にはまっている。保持突起を介して保持器が、玉及び適当なレースと共に、自己保持する構造単位となるように予め組立てられ、アンギュラコンタクト玉軸受の他方のレースへ取付ける間に、玉がこの構造単位から脱落することがない。このような保持突起は、軸受内における保持器の軸線方向変位制限も行う。
【0004】
レース上に保持器を取付ける際、保持突起がレースの適当な溝へはまり込むまで、保持突起が弾性的に広がるか又は収縮する。従って保持突起から保持器への移行範囲における壁厚は、レース上又はレース内に保持器を取付ける際永久塑性変形しないようにするため、充分安定であるような寸法にせねばならない。他方軸受への保持器の取付を困難にせず、保持器又は保持突起の損傷を回避するため、保持突起は充分弾性的でなければならない。従って縁が比較的大きい断面を持つ保持器は、保持器の安定性のために有利である。しかし例えば内レース上へはめるための取付け力及び保持突起のはね戻りが、比較的大きい。更に大きい取付け力のため、保持突起は損傷し易い。
【0005】
縁の壁厚をできるだけ薄く形成し、側縁のすべての範囲で均一な壁厚を得るため、環状溝は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第3706013号明細書に従って側縁に設けられている。プラスチック部品の射出成形の際、厚い断面から薄い断面への移行部において射出成形工具のキャビティにおける保持器材料の材料流及び気泡の中断を回避するため、均一な壁厚及び壁厚移行部が望まれる。更に均一な壁厚により、工作物のすべての範囲において同じ冷却速度が得られる。薄い壁範囲における望ましくない弱体部による欠陥は、比較的小さい射出断面を持つキャビティにおけるできるだけ短い流れ距離によっても回避される。
【0006】
保持器の高い構造強度に対する要求により、壁厚の薄さに限界がある。このような保持器の断面が小さすぎると、保持器の最初に述べた保持突起が、軸受への取付けの際破壊するか、又は永久変形するおそれがある。更に薄肉のプラスチック部品は、工具からの取出し後極めて不安定であり、その後に続く冷却の際及び保管中にその規定通りの形状又は寸法をしばしば失う。
【発明の開示】

【課題が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の課題は、製造可能性、安価な製造及び機能に対して一部は相反する前記の要求を最適に考慮する保持器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は請求項1の対象によって解決される。この保持器の玉ポケットは、保持器の周方向に対して少なくとも直角に向く橋絡片により周方向に区画され、保持器の少なくとも一方の軸線方向に、ほぼ均一な壁厚を持つ側壁によってそれぞれ区画されている。各側壁は互いに対向する2つの橋絡片を周方向に互いに結合している。
【0009】
本発明は、弾性的に撓むように形成される保持突起を持つアンギュラコンタクト玉軸受用の保持器を意図している。保持突起は、内レース又は外レースの環状溝内に保持器を軸線方向に確保するために設けられている。各保持突起は側壁から突出し、周方向において別の保持突起に隣接している。保持突起は、なるべくまず側壁から半径方向に出て、回転軸線の方へ斜めに向いている。
【0010】
各保持突起は、周方向に別の保持突起から周方向隙間により分離されている。周方向隙間の所で互いに対向する保持突起の側面は、互いに傾斜して延びている。保持突起の断面は全体として減少し、従って保持突起はそれ自体弾性的である。組立ては簡単である。側壁、橋絡片等は、材料節約の観点から薄肉に形成することができる。
【0011】
本発明の構成によれば、周方向に互いに向き合う側面がまっすぐ延び、回転軸線と同じに向けられる仮想面に対して傾斜している。側面は選択的に周方向隙間の方へ向く平らな面又は直線であり、これらの面が、回転軸線と同じに向けられる面に対して、30°の角だけ傾斜している。互いに隣接する保持突起の周方向隙間において互いに向き合う側面の周方向間隔が、回転軸線の方へ増大するように、これらの側面が互いに傾斜しているのがよい。
【0012】
本発明の別の構成によれば、保持突起から側壁への移行部が弾性的に形成されている。そのため側壁から保持突起への移行部において、保持器の材料に溝が形成されている。溝は周方向に又は回転軸線に対して接線方向に向けられている。側壁の壁厚は、軸線方向に開く溝により減少されている。溝の断面は、保持器の回転軸線に沿う縦断面において、半径により描かれている。溝により側壁と保持突起との間に弾性的な所定撓み個所が形成されて、組立てを容易にし、保持器を損傷から保護する。
【0013】
本発明による保持突起及び側壁へのその移行部の構成により、保持器をその製造の際材料消費に関して最適化することができる。側壁が、なるべく橋絡片から少なくとも軸線方向へ突出するように湾曲され、従って橋絡片から軸線方向に突出している。周方向に順次に続くポケットの側壁の外側輪郭は、軸線方向に増大する橋絡片との間隔と共に、周方向に次第に互いに大きく離れているので、保持器は端面に隙間を持ち、この隙間が部分的にポケットの間で橋絡片の方へ延びている。湾曲部の軸線方向に突出する反転点は、保持器から軸線方向に最も大きく突出している。
【0014】
それぞれ1つのひれが軸線方向にそれぞれ1つの橋絡片から出て、周方向に順次に続くポケットのそれぞれ2つの側壁を互いに結合している。各ひれは、最大でも、側壁が橋絡片から軸線方向に最も大きく突出する程度に、各ひれが橋絡片から軸線方向に突出しているが、それ以上は突出していない。
【0015】
最初にあげた種類の保持器の両側に通常形成される比較的厚壁の少なくとも1つの側縁は、本発明により保持器にない。その代わりに保持器は、少なくとも一方の端面において、ポケットの外方へ突出するように湾曲する側面の間に、順次に続く個々のポケットの間で周方向又は接線方向に向くひれを備えている。保持器の製造のため僅かな材料が使用され、機能により規定される強度がひれと側壁との結合部にわたって保証されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
側壁の間で周方向に向くひれは、回転軸線の方へ向くひれ面のすべての任意の点が、保持器の回転軸線から半径方向に同じ大きさで離れているように、湾曲しているのがよい。軸線方向外方へ湾曲する側壁により、ひれ面は、周方向に、それぞれの橋絡片との軸線方向間隔の増大と共に幅広くなる。各隙間は、なるべく回転軸線の方へ半径方向に、1つのひれにより区画されている。ひれと回転軸線との間の最大半径方向間隔が最大でも各橋絡片と回転軸線との間の最小半径方向間隔とちょうど同じ大きさであるように、ひれが軸線方向に橋絡片へ移行している。
【0017】
保持器が選択的に側縁を持ち、この側縁が、ひれが形成されている端面とは逆向きにポケットを区画するか、又は本発明により両端面に形成されている。最初にあげた種類のアンギュラコンタクト玉軸受用保持器では、通常側縁の1つが半径方向において玉のピッチ円により下に延び、側縁の1つが上に延びているので、本発明による保持器の側縁と回転軸線との間の最小半径方向間隔が、側壁と回転軸線との間の最大半径方向間隔より大きい。
【0018】
本発明のそれ以外の構成は、図面の一部詳細な説明に記載されている。
【0019】
本発明が実施例により以下に詳細に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜3は、本発明による保持器1の実施例を示している。保持器は、その回転軸線2の周りに周方向に、均一なピッチで互いに隣接する玉ポケット3を持っている。各玉ポケット3内には玉8が案内されている。アンギュラコンタクト玉軸受9の切欠かれた図5の部分図には、半径方向に内レース11と外レース12との間に設けられて玉8を持つ保持器1が示されている。玉ポケット3は、周方向に対して直角に延びる橋絡片4により区画されている。一方の端面で保持器1は、ほぼ同じ壁厚を持つ側壁5により区画されている。
【0021】
側壁5は、橋絡片4から軸線方向に突出するように湾曲しているので、保持器1の端面に軸線方向隙間6が形成されている。隙間6は、回転軸線2の半径方向に、それぞれひれ7により区画されている。ひれ7は周方向に湾曲して延びている(図2及び6)。ひれ7の湾曲は、回転軸線2から出る半径Rにより描かれている。回転軸線2の方へ向くひれ面7aのすべての任意の点は、回転軸線2から半径Rだけ離れており、橋絡片4から軸線方向へ広がっている。図3からわかるように、各ひれ7は、それぞれの橋絡片4から軸線方向へ、側壁5が橋絡片4から軸線方向へ保持器1から突出するほど、突出していない。
【0022】
保持器1は弾性的に撓む保持突起10を持っている。保持突起10は、半径方向に内レース11の環状溝13にはまっている。保持突起10により、保持器1は、軸線方向に遊びをもって内レース11に確保されている。周方向に向く保持突起10の側面14は、互いに傾斜している(図2及び6)。この場合周方向隙間16により互いに離れている保持突起10の間隔が回転軸線2の方へ増大するように、側面14が互いに傾斜している。側面14、なるべく平らな面又はまっすぐな縁は、回転軸線2と同じ向きの仮想面15に対して角αだけ傾斜している。αはなるべく30°の大きさを持っている。
【0023】
側壁5の厚さは、各側壁5と保持突起10との間で、溝18により減少している。溝18は、図5による縦断面において、半径rにより描かれている。各溝18は、半径方向外方へ、側壁5の1つにより、また周方向に側壁5により互いに分離される2つのひれ7により区画されている(図6)。周方向に互いに隣接する溝18は、2つずつ半径方向外方に対して、少なくとも1つのひれ7により一緒に区画されている。保持突起10は、側壁5が橋絡片4から軸線方向に突出して湾曲する程度に、軸線方向に突出していない。
【0024】
玉ポケット3は、側壁5とは逆の方向に、側縁17により区画されている。軸線方向における側縁17の断面は、側壁5の厚さにほぼ合わされている(図5)。図4からわかるように、橋絡片4は、側縁17からまず回転軸線2の方向に傾斜して延び、それから軸線方向に延びている。橋絡片4の端面4aは、隙間6においてかつひれ7の上で、半径rにより描かれている。側縁17と回転軸線との間の半径rにより描かれる最小間隔は、側壁5と回転軸線との間の半径rにより描かれる最大間隔より大きい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】 本発明による保持器の実施例の全体図を示す。
【図2】 図1の保持器を矢印方向に見た正面図を示す。
【図3】 保持器の側面図を示す。
【図4】 図2のIV−IV線に沿う保持器の縦断面図を示す。
【図5】 図1による保持器を持つアンギュラコンタクト玉軸受の一部を立て断面図で示す。
【図6】 図2の細部Zを拡大して示す。
【符号の説明】
【0026】
1 保持器
2 回転軸線
3 玉ポケット
4 橋絡片
4a 端面
5 側壁
6 隙間
7 ひれ
7a ひれ面
8 玉
9 アンギュラコンタクト玉軸受
10 保持突起
11 内レース
12 外レース
13 環状溝
14 側面
15 面
16 周方向隙間
17 側縁
18 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持器(1)の回転軸線(2)の周りに周方向に互いに隣接する玉ポケット(3)を有するアンギュラコンタクト玉軸受(9)用保持器(1)であって、
玉ポケット(3)が橋絡片(4)により周方向に区画され、
保持器(1)が、内レース(11)の環状溝(13)内に、保持器(1)を軸線方向に確保するため弾性的に撓む保持突起(10)を持ち、各保持突起(10)が側壁(5)から突出しており、
保持突起(10)にある両方の周方向側面(14)が互いに傾斜して延びている
ことを特徴とする、保持器。
【請求項2】
周方向に互いに向き合う側面(14)が、回転軸線(2)から出て回転軸線(2)と同じに向けられる仮想面(15)に対して傾斜している、請求項1に記載の保持器。
【請求項3】
側面(14)が周方向隙間(16)の方へ向く平らな面であり、これらの面が、回転軸線(2)から出て回転軸線(2)と同じに向けられる面(15)に対して、30°だけ傾斜している、請求項1に記載の保持器。
【請求項4】
互いに隣接する保持突起(10)の周方向隙間(16)において互いに向き合う面(14)の周方向間隔が、回転軸線(2)の方へ増大している、請求項1又は2又は3に記載の保持器。
【請求項5】
玉ポケット(3)が、保持器(1)の少なくとも一方の軸線方向において、ほぼ均一な壁厚を持つ側壁(5)によりそれぞれ区画されている、請求項1に記載の保持器。
【請求項6】
側壁(5)が、橋絡片(4)から少なくとも軸線方向へ突出するように湾曲され、従って橋絡片(4)から突出しかつ周方向に隣接する側壁(5)の間に隙間(6)が形成されている、請求項5に記載の保持器。
【請求項7】
側壁(5)が橋絡片(4)から軸線方向に最も大きく突出する程度に、保持突起(10)が最大で軸線方向に突出している、請求項6に記載の保持器。
【請求項8】
保持器(1)が溝(18)を持ち、側壁(5)の壁厚が溝(18)によりそれぞれ減少されており、各溝(18)が回転軸線(2)の方向に保持突起(10)により区画され、玉ポケット(3)の側で側壁(5)により区画されている、請求項6に記載の保持器。
【請求項9】
溝(18)が、保持器(1)の回転軸線に沿う縦断面で見て、半径により描かれている、請求項8に記載の保持器。
【請求項10】
保持器(1)が周方向において2つの側壁(5)の間にひれ(7)を持ち、各ひれ(7)が軸線方向にそれぞれ1つの橋絡片(4)から出て、周方向にそれぞれ2つの側壁(5)を互いに結合している、請求項6に記載の保持器。
【請求項11】
各溝(18)が、半径方向外方に対して、1つの側壁(5)と周方向に側壁(5)により互いに分離される2つのひれ(7)とにより区画されている、請求項10に記載の保持器。
【請求項12】
溝(18)が2つずつ、半径方向外方に対して、少なくとも1つのひれ(7)により一緒に部分的に区画されている、請求項10に記載の保持器。
【請求項13】
各周方向隙間(16)が、半径方向外方に対して、1つの橋絡片(4)及び1つのひれ(7)により部分的に区画されている、請求項10に記載の保持器。
【請求項14】
保持器(1)が周方向に取り巻く側縁(17)を持ち、この側縁が軸線方向とは逆に玉ポケット(3)を区画している、請求項1に記載の保持器。
【請求項15】
側縁(17)と保持器(1)の回転軸線(2)との間の最小半形方向間隔が、側壁(5)と回転軸線(2)との間の最大半径方向間隔より大きい、請求項14に記載の保持器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−529706(P2007−529706A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−507653(P2007−507653)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000516
【国際公開番号】WO2005/090810
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(506420843)シエフレル・コマンデイトゲゼルシヤフト (80)
【Fターム(参考)】