説明

アンジオテンシンI変換酵素阻害剤

【課題】より安全で効果の高いアンジオテンシンI変換酵素阻害作用を示す医薬品、機能性食品等の開発が望まれている。
【解決手段】システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンおよびヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩を有効成分として含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジペプチドまたはその塩を有効成分として含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシンI変換酵素(ACE)は、主として肺や血管内皮細胞、腎近位尿細管に存在する。ACEは、デカペプチドであるアンジオテンシンIに作用し、オクタペプチドであるアンジオテンシンIIを生成させる酵素である。このアンジオテンシンIIは、強力な血管収縮作用を有し、血圧を上昇させる。一方でACEは、血管拡張による降圧作用を示すブラジキニンを分解し、不活化する。従って、ACE活性を抑制することにより、血圧の上昇を抑制する、あるいは血圧を下げることが可能となる。
【0003】
ACE阻害作用を示すプロリン誘導体であるカプトプリル(D−3−mercapto−2−methylpropanoyl−L−proline)を始めとする多くの合成化合物が、高血圧治療薬として医薬品に応用されている。近年、食品由来の蛋白分解物からも多数のACE阻害ペプチドが見出されており、発酵乳(特許文献1)、鰹節(特許文献2、3)、鰯(特許文献4、非特許文献1)由来のペプチドを添加した食品がそれぞれ特定保健用食品として実用化されている(非特許文献2)。
【0004】
また、ACE阻害作用を示すジペプチドとして例えば、バリルチロシン(Val−Tyr)、バリルトリプトファン(Val−Trp)、イソロイシルチロシン(Ile−Tyr)、イソロイシルトリプトファン(Ile−Trp)、アラニルトリプトファン(Ala−Trp)、フェニルアラニルチロシン(Phe−Tyr)、グリシルトリプトファン(Gly−Trp)、アラニルチロシン(Ala−Tyr)、メチオニルトリプトファン(Met−Trp)、イソロイシルアラニン(Ile−Ala)、アラニルアルギニン(Ala−Arg)、バリルアラニン(Val−Ala)等が報告されている(特許文献5−8、非特許文献1、3)。
【0005】
しかしながら、システイニルグリシン(Cys−Gly)、チロシニルイソロイシン(Tyr−Ile)、フェニルアラニルメチオニン(Phe−Met)、2−アミノ酪酸−フェニルアラニン(Abu−Phe)、ヒスチジルトリプトファン(His−Trp)のACE阻害作用については知られていない。
【特許文献1】特許番号第2782142号
【特許文献2】特許番号第3592593号
【特許文献3】特開平04−69397号
【特許文献4】特開平03−11097号
【特許文献5】特開2002−88098号
【特許文献6】特許番号第3592593号
【特許文献7】特開平04−69397号
【特許文献8】特開平03−11097号
【非特許文献1】「日本農芸化学会誌」、1995年、第69巻、第8号、p.1013−1020
【非特許文献2】「フーズ・アンド・フード・イングレディエンツ・ジャーナル・オブ・ジャパン(Foods and Food Ingredients Journal of Japan)」、2004年、第209巻、第8号、p.661−670
【非特許文献3】「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、1980年、第255巻、第2号、p.401−407
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
より安全で効果の高いアンジオテンシンI変換酵素阻害作用を示す医薬品、機能性食品等の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の(1)に関する。
(1)システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンおよびヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩を有効成分として含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンおよびヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩を有効成分として含有する、安全で効果の高いアンジオテンシンI変換酵素阻害剤を提供することができる。本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害剤を投与または摂取することにより、血圧の上昇を抑制する、血圧を下げる等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用されるシステイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンまたはヒスチジルトリプトファンにおいて、その構成アミノ酸であるシステイン、チロシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン、2−アミノ酪酸、ヒスチジンまたはトリプトファンは、それぞれL体、D体のいずれであってもよいが、L体が好ましい。
【0010】
システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンまたはヒスチジルトリプトファンの塩としては、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等があげられる。
酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α−ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩があげられる。
【0011】
金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられる。
アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩があげられる。
有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の塩があげられる。
【0012】
アミノ酸付加塩としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の塩があげられる。
システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンまたはヒスチジルトリプトファンは、蛋白質加水分解法、化学合成法、酵素法または発酵法など、いずれの製造方法で製造されたものでもよい。また、システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンまたはヒスチジルトリプトファンは市販品(国産化学株式会社、Bachem社等)を用いてもよい。
【0013】
本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害剤としては、システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンおよびヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩をそのまま投与することも可能であるが、通常各種の製剤として提供するのが望ましい。
製剤は、有効成分としてシステイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンまたはヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩を含有するが、更に任意の有効成分を含有していてもよい。また、それら製剤は、有効成分を薬理学的に許容される一種またはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0014】
製剤の投与形態は、アンジオテンシンI変換酵素の阻害に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与または、例えば脳内、静脈内、腹膜内もしくは皮下投与等の非経口投与をあげることができるが、経口投与が好ましい。
投与する剤形としては、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・煎剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤等の経口剤、注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等の非経口剤のいずれでもよいが、経口剤として好適に用いられる。
【0015】
経口投与に適当な、例えばシロップ剤のような液体調製物は、水、蔗糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、パラオキシ安息香酸メチル等のパラオキシ安息香酸誘導体、安息香酸ナトリウム等の保存剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類などを添加して製剤化することができる。
【0016】
また、経口投与に適当な、例えば錠剤、散剤および顆粒剤等は、乳糖、白糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類、バレイショ、コムギ、トウモロコシ等の澱粉、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機物、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末等の植物末等の賦形剤、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール、シリコーン油等の滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロース、ゼラチン、澱粉のり液等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤などを添加して製剤化することができる。
【0017】
また、経口投与に適当な製剤には、一般に飲食品に用いられる添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等が添加されてもよい。
経口投与に適当な製剤は、そのまま、または例えば粉末食品、シート状食品、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルト食品、カプセル食品、タブレット状食品、流動食品、ドリンク剤等の形態として、アンジオテンシンI変換酵素阻害用、血圧上昇抑制用または血圧降下用の健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品等の飲食品として用いてもよい。
【0018】
非経口投与に適当な、例えば注射剤は、好ましくは受容者の血液と等張であるシステイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンおよびヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩溶液とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。
【0019】
また、これら非経口剤においても、経口剤で例示した防腐剤、保存剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤などから選択される1種またはそれ以上の補助成分を添加することができる。
本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害剤中のシステイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンおよびヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩の濃度は、製剤の種類、当該製剤の投与または摂取により期待する効果等に応じて適宜選択されるが、システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンおよびヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩として、通常は0.1〜100重量%、好ましくは0.5〜80重量%、特に好ましくは1〜70重量%である。
【0020】
本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害剤を投与または摂取する場合の投与量および投与回数は、投与形態、被投与者の年齢、体重等により異なるが、通常、成人一日当り、システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンおよびヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩として通常は50mg〜30g、好ましくは100mg〜10g、特に好ましくは200mg〜3gとなるように一日一回ないし数回投与する。
【0021】
投与期間は、特に限定されないが、通常は1日間〜1年間、好ましくは1週間〜3ヶ月間である。
本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害剤を投与または摂取することにより、血圧の上昇を抑制する、血圧を下げる等の効果を得ることができる。
以下に、本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害剤の効果を調べた試験例を示す。
試験例1 アンジオテンシンI変換酵素阻害活性の測定(1)
アンジオテンシンI変換酵素(ACEと略す)阻害活性の測定は、Cushmanらの方法(「バイオケミカル・ファーマコロジー(Biochemical Pharmacology)」、1971年、第20巻、p.1637−1648)に準じ、江藤らの方法(「日本栄養・食糧学会誌」、1998年、第51巻、第6号、p.355−359)を一部改変し、以下の方法により行なった。
【0022】
まず、ウサギ肺由来ACE(シグマ社)を0.5mol/L塩化ナトリウム含有0.2mol/Lホウ酸緩衝液(pH8.3)に溶解し、80mU/mLの酵素溶液を調製した。また、Hip−His−Leu(Hippuryl−L−histidyl−L−leucine;ペプチド研究所社)を前記ホウ酸緩衝液に溶解し、20mmol/Lの基質溶液を調製した。His−Trp(国産化学社)はジメチルスルホキシド(DMSOと略す、キシダ化学社)に溶解後、カルシウム・マグネシウムフリーPBS(PBSと略す、Dulbeco‘s Phosphate−Buffered Saline、ギブコ社)で所定の濃度に希釈して試料溶液とした。また、Cys−Gly(Bachem社)、Abu−Phe(Bachem社)およびACE阻害活性が既に知られているVal−Tyr(国産化学社)は、PBSに溶解し、PBSで所定の濃度に希釈して試料溶液とした。
【0023】
10mL容量のガラス試験管に、試料溶液を0.1mLおよび酵素溶液を0.1mL添加し、混合した。さらに基質溶液0.05mLを添加して混合後、37℃で30分間反応させた。その後1M塩酸溶液0.25mLを添加して、反応を停止させた後、酢酸エチル1.5mLを添加して15秒間攪拌した。毎分2500回転で5℃、10分間遠心した後、酢酸エチル層から0.5mLを2mL容量のプラスチックチューブに分取した。遠心エバポレーターを用いて溶媒を除去後、1mol/LのNaCl溶液1.5mLに溶解し、吸光度計(U−2000、HITACHI社)で酵素反応により遊離した馬尿酸の228nmの吸光度を測定した。
【0024】
本発明のジペプチドのACE阻害率を次の式より算出した。
阻害率(%)=[(C−S)/(C−B)]×100
C:阻害剤なしの場合の228nmの吸光度
S:試料(本発明のジペプチド)を添加した場合の228nmの吸光度
B:ブランクの228nmの吸光度
なお、「阻害剤なし」は、試料溶液の代わりにPBSを用い、その他は上記と同様の操作を繰り返した。また、「ブランク」は試料溶液の代わりにPBSを用い、基質溶液を反応停止後に添加した。その他は上記と同様の操作を繰り返した。
【0025】
上記の阻害率より、阻害率50%を示す阻害剤濃度(IC50)を算出した。
結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

表1より、Cys−Gly、His−TrpおよびAbu−Pheが、ACE阻害活性を有することが明らかとなった。
試験例2 アンジオテンシンI変換酵素阻害活性の測定(2)
試験例1と同様の方法でTyr−IleおよびPhe−MetのACE阻害率(%)を算出した。Tyr−Ile(国産化学社)およびPhe−Met(国産化学社)は、PBSに溶解し、PBSで所定の濃度に希釈して試料溶液とした。それぞれのジペプチドは、終濃度100μmol/Lになるように添加した。値は平均値±標準誤差(n=3)で示した。
【0027】
結果を表2に示す。
【0028】
【表2】


表2より、Tyr−IleおよびPhe−MetがACE活性を阻害することが明らかとなった。
試験例3 ラット摘出大動脈に対する収縮抑制作用
Cys−Gly、Tyr−Ile、Phe−Met、Abu−PheおよびHis−Trpのラット摘出大動脈標本における収縮抑制作用を、以下の方法により検討した。
【0029】
Wistarラット(日本エスエルシー社、オス、12週齢以降、体重252 g〜323 g)から胸部大動脈を摘出し、幅2〜4mm、長さ8〜13mmのらせん状標本を作製した。胸部大動脈標本は、37℃に保温および95% O、5% COの混合ガスを通気した栄養液(118.3mmol/L NaCl、4.7mmol/L KCl、2.0mmol/L CaCl、1.2mmol/L MgSO・HO、25.0mmol/L NaHCO、1.2mmol/L KHPO、0.026mmol/L calcium EDTA、および11.1mmol/L glucose、pH7.4)10mLが満たされたオルガンバス内に0.5gの負荷をかけて懸垂し、約1時間安定化するまで放置した。収縮力はFDピックアップ(TB−611T、日本光電工業社)およびひずみ圧力用アンプ(AP−621G、日本光電工業社)を介してポリグラフ(RM−6000、日本光電工業社)上に等尺性に記録した。
【0030】
生理食塩水に溶解した酒石酸水素L−(−)−ノルエピネフリン(NEと略す、Merck社、最終濃度0.1μmol/L)を3回添加して、収縮高が安定した標本を実験に使用した。PBSあるいはDMSOに溶解した各ジペプチド溶液(最終濃度10、または100μmol/L)をそれぞれ添加した。PBS溶液は100μL、DMSO溶液は10μLをオルガンバス内に添加した。10分間放置した後、生理食塩水に溶解したアンジオテンシンI(ATIと略す、human type、BachemAG社、最終濃度0.1μmol/L)を添加して収縮させ、10分間、各ジペプチドの拮抗作用を検討した。各標本の収縮高より、NEを添加した場合の収縮高を100%とした時の溶媒あるいはジペプチド添加による相対収縮高を算出した。ジペプチドの効果は、溶媒の収縮率を100%とした時の各ジペプチドの相対収縮率として表した。
【0031】
値は平均値±標準誤差(n=5)で表した。PBS添加群とCys−Gly、Tyr−Ile、Phe−Met、Abu−PheおよびVal−Tyr添加群の間、あるいは、DMSO添加群とHis−Trp添加群の間について、分散分析を行った後、Fisher’s PLSD法により多重比較検定を行い、統計学的な危険率(p値)を求めた。なお、p値が0.05未満で有意差ありと判断した。
【0032】
結果を図1および図2に示す。図1に示されるとおり、Cys−Gly、Tyr−Ile、Phe−MetおよびAbu−Pher添加群は、100 μmol/Lの濃度でPBS添加群に比べて有意な血管収縮抑制作用を示した。さらに、Phe−MetおよびAbu−Phe添加群は、10μmol/Lの濃度でも有意な血管収縮抑制作用を示した。また、図2に示されるとおり、His−Trp添加群は、100μmol/Lの濃度でDMSO添加群に比べて有意な血管収縮抑制作用を示した。
【0033】
以上の結果より、Cys−Gly、Tyr−Ile、Phe−Met、Abu−PheおよびHis−Trpが、血管収縮反応を抑制することが明らかとなった。
以下に、本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0034】
システイニルグリシンを含有する錠剤の製造
システイニルグリシン136.2kg、微結晶セルロース36.0kg、ショ糖脂肪酸エステル6.6kg、リン酸カルシウム1.2kgおよびβ-シクロデキストリン20.0kgを、コニカルブレンダーで混合する。得られる混合物をロータリー圧縮成形機で圧縮成形して錠剤を製造する。
【実施例2】
【0035】
システイニルグリシンを含有する腸溶錠剤の製造
実施例1で製造する錠剤の表面をシェラック溶液でコーティングして腸溶錠剤を製造する。
【実施例3】
【0036】
チロシニルイソロイシンを含有する腸溶カプセルの製造
チロシニルイソロイシン136.2kg、微結晶セルロース36.0kg、ショ糖脂肪酸エステル6.6kg、リン酸カルシウム1.2kgおよびβ-シクロデキストリン20.0kgを、コニカルブレンダーで混合する。得られる混合物20kgと0.2kgの二酸化ケイ素とを混合攪拌して得られた混合物をカプセル充填機に投入、ハードカプセルに充填してハードカプセルを得る。得られるハードカプセルの表面をツェイン溶液でコーティングして腸溶カプセルを製造する。
【実施例4】
【0037】
フェニルアラニルメチオニンを含有する腸溶カプセルの製造
フェニルアラニルメチオニン136.2kg、微結晶セルロース36.0kg、ショ糖脂肪酸エステル6.6kg、リン酸カルシウム1.2kgおよびβ-シクロデキストリン20.0kgを、コニカルブレンダーで混合する。得られる混合物20kgと0.2kgの二酸化ケイ素とを混合攪拌して得られた混合物をカプセル充填機に投入、ハードカプセルに充填してハードカプセルを得る。得られるハードカプセルの表面をツェイン溶液でコーティングして腸溶カプセルを製造する。
【実施例5】
【0038】
2−アミノ酪酸−フェニルアラニンを含有する飲料の製造
2−アミノ酪酸−フェニルアラニン1.28kg、エリスリトール3kg、クエン酸0.05kg、人工甘味料3g、香料0.06kgを液温70℃で水50Lに攪拌溶解し、クエン酸でpHを3.3に調整後、プレート殺菌を用いて滅菌して瓶に充填後、パストライザー殺菌し、飲料を製造する。
【実施例6】
【0039】
ヒスチジルトリプトファンを含有する飲料の製造
ヒスチジルトリプトファン1.28kg、エリスリトール3kg、クエン酸0.05kg、人工甘味料3g、香料0.06kgを液温70℃で水50Lに攪拌溶解し、クエン酸でpHを3.3に調整後、プレート殺菌を用いて滅菌して瓶に充填後、パストライザー殺菌し、飲料を製造する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、Cys−Gly、Tyr−Ile、Phe−MetおよびAbu−Pheのラット摘出大動脈における収縮抑制効果を示すグラフである。
【図2】図2は、His−Trpのラット摘出大動脈における収縮抑制効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システイニルグリシン、チロシニルイソロイシン、フェニルアラニルメチオニン、2−アミノ酪酸−フェニルアラニンおよびヒスチジルトリプトファンからなる群から選ばれる1以上のジペプチドまたはその塩を有効成分として含有するアンジオテンシンI変換酵素阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−297208(P2008−297208A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141441(P2007−141441)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000001029)協和発酵キリン株式会社 (276)
【Fターム(参考)】