説明

アンダカバー構造

【課題】低速走行時の最低地上高を下げることなく、高速走行時の好適な走行安定性を得ることができる、車両のアンダカバー構造を提供することを課題とする。
【解決手段】車両1の低速走行時にアンダカバー3は、アンダパネル2aに近接した状態にあり、最低地上高を高くできる。車両1の高速走行時には、アンダフロアを流れる空気流で発生する負圧によって、アンダパネル2aから離反する方向にアンダカバー3が吸引され、車両1の最低地上高が低くなる。そして、アンダカバー3と路面Gの間の空気流速Vが大きくなって、車両1のアンダフロアに発生する負圧が大きくなり、好適な走行安定性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のアンダカバー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては走行安定性の向上が要求され、特に、スポーツタイプの車両においては、高速道路などを高速で走行する場合の走行安定性の更なる向上が要求される。このため、車体形状を流線型にして空気抵抗を低減するとともに、フロントスポイラやリアスポイラなどのエアロパーツを装着して走行時に発生する揚力を低下させ、走行安定性を向上している。
【0003】
さらに、例えば、特許文献1には、車室の床面を形成するアンダパネル(上部パネル)の下面をアンダカバー(下部パネル)で覆うとともに、走行時、コーナリング時、急発進時、及びブレーキング時などの走行状態に応じて駆動する可動式のアンダスポイラ(フロントスポイラ)を装着し、走行状態に応じた空気抵抗係数、及び揚力係数を得る技術が開示されている。
【特許文献1】実開平03−060182号公報(図1、図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば特許文献1に開示される技術では、上部パネルと、下部パネルの間に空気通過路が必要となることから、車両の最低地上高が低くなり、路面上の障害物と接触しやすくなるという問題がある。
さらに、アンダスポイラの駆動機構や制御手段が必要となり、構造が複雑になるという問題もある。
そこで、本発明は、低速走行時の最低地上高を下げることなく、高速走行時の好適な走行安定性を得ることができる、車両のアンダカバー構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、車体の下面を覆うアンダカバー構造において、前記アンダカバーは、前記車体の下面に配設される部品の下方に、前記車体の下面の略全面に亘って備えられ、前記車体の下面に対して近接・離反する方向に移動可能であることを特徴とした。
【0006】
請求項1に係る発明によると、車体の下面を略全面に亘って覆うアンダカバーを、車体の下面に配設される部品の下方で、車体の下面に対して近接・離反する方向に移動可能に設けることができる。したがって、車体の下面に対して近接したときは、最低地上高を高くすることができ、車体の下面から離反したときは、最低地上高を低くすることができる。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、前記アンダカバーは、板状の部材からなって前記車体の下面と対向するように備えられ、前記車体の下面と対向した状態のまま、前記車体の下面に対して近接・離反する方向に移動可能であることを特徴とした。
【0008】
請求項2に係る発明によると、アンダカバーは板状の部材で、車体の下面に対向するように備えられ、車体の下面に対向した状態のまま、車体の下面に対して近接・離反する方向に移動可能に設けることができる。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、前記アンダカバーは、前記車体を含む車両の低速走行時には、前記車体の下面に近接した状態になり、前記車両の高速走行時には、前記車体の下面から離反した状態になることを特徴とした。
【0010】
請求項3に係る発明によると、当該車体を含む車両の低速走行時には、アンダカバーが、車体の下面に近接した状態になり、車両の高速走行時には、車体の下面から離反した状態になる。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、前記アンダカバーは、付勢手段の付勢力で、前記車体の下面に近接する方向に付勢されるとともに、前記車両が走行する路面と前記アンダカバーの間を、前記車両に対して流れる空気流によって発生する負圧が前記アンダカバーを吸引する負圧力を含んだ吸引力で、当該アンダカバーが前記車体の下面から離反する方向に吸引され、前記付勢力は、前記車両の低速走行時に前記アンダカバーを吸引する前記吸引力より大きく、前記車両の高速走行時に前記アンダカバーを吸引する前記吸引力より小さいことを特徴とした。
【0012】
請求項4に係る発明によると、アンダカバーは、付勢手段の付勢力で車体の下面に近接する方向に付勢されるとともに、車両が走行する路面とアンダカバーの間を、車両に対して流れる空気流によって発生する負圧がアンダカバーを吸引する負圧力を含んだ吸引力で吸引される。そして、車両の低速走行時には、付勢力が吸引力より大きく、アンダカバーを車体の下面に近接する方向に移動でき、車両の高速走行時には、付勢力が吸引力より小さく、アンダカバーを車体の下面から離反する方向に移動することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低速走行時の最低地上高を下げることなく、高速走行時の好適な走行安定性を得られる、車両のアンダカバー構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
図1の(a)は、本実施形態に係る車両を側面から見た図、(b)は、アンダフロアの側から見た図である。
図1の(a)、(b)に示すように、本実施形態に係る車両1のアンダフロアは、外装の車体2のアンダパネル(車両の下面)2aの略全面を、路面Gの側からアンダカバー3で覆って構成される。すなわち、アンダカバー3は、例えば図示しないサスペンションアームの可動部分が配置される場所などの一部を除いて、車体2のアンダパネル2aの略全面に亘って、車両1に備わる。
アンダパネル2aは、車体2によって形成される車室の路面G側の面を形成し、路面Gに対向する面として構成される。
また、アンダカバー3は、平面な板状の部材であって、例えば、FRP(Fiber Reinforced Plastics)などの合成樹脂を素材として成形される。そして、アンダカバー3は、アンダパネル2aと対向するように、車両1に備わる。さらに、アンダカバー3は、車両1のフロント側で車体2の側に曲げ起こされてなる。
【0015】
アンダパネル2aには、図示しないオイルパン、サスペンションアーム、排気管などの部品が配設されるため、アンダパネル2aを平面に形成することが困難である。
アンダカバー3は、これらの部品、すなわち、アンダパネル2aに配設される部品と路面Gとの間に、アンダパネル2aを覆うように備わり、車両1のアンダフロアを平面に形成する。
車両1のアンダフロアが平面に形成されると、車両1が走行するときに、車両1のアンダフロアに発生する空気流、すなわち、本実施形態に係るアンダカバー3と路面Gの間に発生する空気流の乱れを軽減することができ、車両1の走行に対する空気抵抗を低減できる。
【0016】
また、車両1が走行するときに発生する、車両1のアンダフロアの空気流の流速が、アンダフロアが平面でない場合に比べて速くなることから、車両1のアンダフロアに効果的に負圧を発生することができ、その負圧が車両1にダウンフォースとして作用して、走行中の車両1に発生する揚力を効果的に低下できる。
【0017】
そして、本実施形態に係る車両1のアンダカバー3は、アンダパネル2aに対して近接・離反する方向に移動可能に車両1に取り付けられ、車両1の最低地上高が可変であることを特徴とする。
図2の(a)は、アンダカバーの取り付け構造の一例を示す図、(b)は、取り付け構造の変形例を示す図、(c)は、ストッパの一例を示す図である。また、図3の(a)は、低速走行時の車両の状態を示す図、(b)は、高速走行時の車両の状態を示す図である。
【0018】
図2の(a)に示すように、例えばアンダパネル2aには、棒状部材であるリンク30の一端が回転自在に取り付けられ、リンク30は、アンダパネル2aに対する垂直面内で揺動可能に、アンダパネル2aに支持される。
アンダパネル2aがリンク30を支持する構造は限定するものではないが、例えば、アンダパネル2aに対して略垂直に起立して形成されるヒンジ部2a1に、回転軸2a2を介して、リンク30を取り付ける構造が考えられる。
【0019】
リンク30の他端は、回転軸2a2と略平行な回転軸3bを介して、アンダカバー3の平面に対する垂直面内で揺動可能に、アンダカバー3に支持される。その構造は限定するものではないが、例えば、アンダカバー3からアンダパネル2aの側に向かって、略垂直に起立して形成されるヒンジ部3aに、回転軸3bを介して取り付ける構造が考えられる。
【0020】
そして、アンダカバー3とアンダパネル2aを連結するように、例えば、引張りばねからなるコイルばね3cを付勢手段として備え、アンダカバー3をアンダパネル2aの側に引き寄せるように付勢する構造とする。すなわち、アンダカバー3は、コイルばね3cによって、アンダパネル2aに近接する方向に付勢される。
【0021】
なお、図2の(b)に示すように、アンダパネル2aとリンク30を、引張りばねからなるコイルばね3cで連結し、回転軸2a2を中心に、リンク30がアンダパネル2aの側に回転するように付勢して、アンダカバー3をアンダパネル2aに近接する方向に付勢する構成としてもよい。
また、図示はしないが、例えば、ねじりばねで、回転軸2a2を中心に回転するようにリンク30を付勢して、アンダカバー3をアンダパネル2aに近接する方向に付勢する構成としてもよい。
【0022】
そして、図2の(c)に示すように、例えばヒンジ部2a1に、リンク30に当接するように備わるピン状のストッパを備えることで、リンク30の、ヒンジ部2a1に対する回転の範囲を設定することができる。
ストッパは、例えばアンダパネル2a(図2の(a)参照)の側に回転するリンク30を係止する上限ストッパ2a3と、アンダパネル2aから離反する方向に回転するリンク30を係止する下限ストッパ2a4とで構成される。
【0023】
このように、上限ストッパ2a3と下限ストッパ2a4を備え、リンク30の、ヒンジ部2a1に対する回転の範囲を制限することで、アンダカバー3の、アンダパネル2aに対する移動量を設定することができる。
【0024】
すなわち、リンク30が上限ストッパ2a3に係止される位置は、アンダカバー3がアンダパネル2aに最も近接した状態である。また、リンク30が下限ストッパ2a4に係止される位置は、アンダカバー3がアンダパネル2aから最も離反した状態である。
そして、アンダカバー3がアンダパネル2aに最も近接した状態にあるとき、アンダカバー3は上限の位置にあり、アンダカバー3がアンダパネル2aから最も離反した状態にあるとき、アンダカバー3は下限の位置にある。
【0025】
なお、図2の(c)に示す、上限ストッパ2a3、及び下限ストッパ2a4の構造は限定されるものではなく、例えば、ピン以外の構成で、リンク30に当接する突起を形成してもよい。また、上限ストッパ2a3、及び下限ストッパ2a4を、アンダカバー3のヒンジ部3aに形成してもよい。
【0026】
さらに、アンダカバー3の上限の位置と下限の位置を設定できる構造であれば、リンク30の回転の範囲を制限する構造に限定するものではない。
【0027】
そして、リンク30とコイルばね3cを含んでなる取り付け構造を、例えば、車両1(図1の(a)参照)の前後左右の4箇所に備え、アンダカバー3を4つのリンク30で支持し、4つのコイルばね3cで付勢する構成とする。
なお、アンダカバー3を支持するリンク30、及び、アンダカバー3を付勢するコイルばね3cの数は限定するものではなく、4つより多くてもよいし、4つより少なくてもよい。
このような構成で、リンク30は、揺動可能にアンダカバー3に支持されるとともに、揺動可能にアンダパネル2aに支持される。そして、アンダカバー3は、リンク30を介し、アンダパネル2aに対して近接・離反する方向に移動可能に車両1に備わって、アンダフロアを形成する。
【0028】
また、アンダカバー3(図1の(a)参照)は、アンダパネル2a(図1の(a)参照)の下面を路面G(図1の(a)参照)の側から覆うように備わることから、車両1(図1の(a)参照)の最下部に備わる部材となり、アンダカバー3と路面Gとの距離の最短部が最低地上高になる。
そして、本実施形態に係るアンダカバー3は、路面Gに対向するアンダパネル2aの下面に対して近接・離反する方向に移動可能に車両1に備わって、アンダフロアを形成することから、路面Gとアンダカバー3との距離が変更できる。すなわち、車両1は最低地上高が可変になる。
【0029】
このような構造のアンダカバー3(図3の(a)参照)を備える車両1(図3の(a)参照)が停止しているとき、もしくは低速走行時、図3の(a)に示すように、アンダカバー3は、コイルばね3c(図2の(a)参照)の付勢力によって、アンダパネル2aの側に引き寄せられ、アンダパネル2aに近接した状態になる。すなわち、アンダカバー3は上限の位置にあり、車両1の最低地上高は高くなる。
【0030】
図3の(b)に示すように、車両1の高速走行時、車両1のアンダフロア、すなわち、アンダカバー3と路面Gの間に発生する空気流の流速(空気流速)Vが速くなって、アンダカバー3と路面Gの間に発生する負圧が大きくなる。そして、車両1のアンダフロアに発生する負圧がアンダカバー3を吸引する負圧力を含む吸引力が、コイルばね3c(図2の(a)参照)の付勢力より大きくなると、アンダカバー3は、吸引力によって路面Gの側に吸引されてアンダパネル2aから離反する方向に移動し、アンダパネル2aから離反した状態になる。すなわち、車両1の最低地上高が低くなる。
【0031】
アンダカバー3がアンダパネル2aから離反する方向に移動して、車両1の最低地上高が低くなると、車両1のアンダフロアの空気流路が狭められることになり、車両1のアンダフロアの空気流速Vはさらに速くなる。その結果、車両1のアンダフロアの負圧がさらに大きくなる。そして、アンダカバー3が下限の位置まで下がった状態になると、車両1のアンダフロアに発生する負圧による負圧力を含んだ吸引力は、車両1を路面Gの側に吸引することになる。したがって、車両1のアンダフロアに発生する負圧は、車両1にダウンフォースとして作用し、車両1に発生する揚力を低下させる。
【0032】
アンダカバー3の移動量は、車両1の形状によって決定される値であって、例えば、車両1が停止しているとき、又は低速走行時の最低地上高をH1(図3の(a)参照)に設定し、高速走行時の最低地上高をH2(図3の(b)参照)に設定した場合、アンダカバー3の移動量は、H1とH2の差(H1−H2)になる。この場合、車両1の最低地上高がH1となる状態がアンダカバー3の上限の位置であり、最低地上高がH2となる状態がアンダカバー3の下限の位置である。
車両1の最低地上高H1、及びH2は限定される値ではなく、法令や車両1に要求される走行特性などに基づいて、適宜設定すればよい。
【0033】
そして、本実施形態においては、図2の(c)に示す、上限ストッパ2a3、及び下限ストッパ2a4を配置する位置によって、アンダカバー3の移動量を設定することができ、車両1の最低地上高H1、及びH2を設定できる。
【0034】
図4は、アンダカバーに作用する力を図示する概略図であって、(a)は、車両が停止している状態を示す図、(b)は、車両が走行している状態を示す図、(c)は、アンダカバーが下限の位置にある状態を示す図である。
図4の(a)に示すように、車両1(図3の(a)参照)が停止し、車両1のアンダフロアの空気流速Vが0のとき、アンダカバー3には上下方向から大気圧が作用して、大気圧による圧力Fが上下方向から作用する。
【0035】
このとき、アンダカバー3は、コイルばね3cによってアンダパネル2aに近接する方向に付勢され、リンク30は、上限ストッパ2a3に当接している。すなわち、アンダカバー3は上限の位置にある。また、コイルばね3cは、自然長をL、ばね定数をKとし、自然長LからΔlだけ伸長した状態で、アンダカバー3を付勢しているとする。
アンダカバー3が、4つのリンク30で支持され、4つのコイルばね3cで付勢される場合、アンダカバー3は、4・FS1で示される付勢力で、アンダパネル2aに近接する方向に付勢されている。なお、FS1は、1つのコイルばね3cがアンダカバー3を付勢する力で、Δlだけ伸長している場合、FS1=K・Δlで示される。
【0036】
車両1が走行し、路面Gとアンダカバー3の間、すなわち、車両1のアンダフロアに、車両1に対して空気流速Vで流れる空気流が発生する場合、図4の(b)に示すように、車両1のアンダフロアには、空気流速Vの増大に伴って増大する負圧が発生し、この負圧による負圧力を含んだ吸引力Fが、アンダカバー3を路面Gの側に吸引する。
【0037】
車両1(図3の(a)参照)の速度が上昇すると、車両1のアンダフロアの空気流速Vが大きくなり、吸引力Fは空気流速Vの増大に伴って大きくなる。そして、吸引力Fが4つのコイルばね3cによる付勢力4・FS1より大きくなると、アンダカバー3は、吸引力Fによって吸引され、アンダパネル2aから離反する方向に移動する。さらに、空気流速Vが大きくなると、図4の(c)に示すように、吸引力Fで吸引されるアンダカバー3によって、リンク30が下限ストッパ2a4と当接するまで回転する。そして、アンダカバー3は下限の位置まで下がる。
【0038】
リンク30が下限ストッパ2a4と当接し、アンダカバー3が下限の位置まで下がった状態のとき、コイルばね3cは自然長LからΔlだけ伸長した状態になり、アンダカバー3には、4つのコイルばね3cによる付勢力4・FS2=4・K・Δlが作用する。すなわち、4つのコイルばね3cによる付勢力4・FS2が、アンダカバー3をアンダパネル2aの側に引き寄せる方向に作用し、吸引力Fが、アンダカバー3を路面Gの側に吸引する方向に作用する。
【0039】
アンダカバー3がアンダパネル2aから離反する方向に移動すると、例えば図3の(b)に示すように、アンダパネル2aとアンダカバー3との間に空間が形成される。しかしながら、アンダカバー3は、車両1のフロント側で車体2の側に曲げ起こされていることから、アンダパネル2aとアンダカバー3の間の空間には、車両1のフロント側から空気は流入せず、エンジン室13を経由した空気が流入する。そして、空気がエンジン室13を経由することが空気流に対する抵抗となる。さらに、前記したようにアンダパネル2aの下面には、図示しないオイルパン、サスペンションアーム、排気管などの部品によって凹凸が形成され、この凹凸が空気流に対する抵抗となる。したがって、アンダカバー3とアンダパネル2aの間を流れる空気流の空気流速は、アンダカバー3と路面Gの間の空気流の空気流速Vより小さくなる。その結果、アンダカバー3と路面Gの間に発生する負圧は、アンダパネル2aとアンダカバー3の間に発生する負圧より大きくなり、アンダカバー3は、図4の(b)に示す吸引力Fによって路面Gの側に吸引されてアンダパネル2aから離反する方向に移動する。
【0040】
さらに車速が上昇し吸引力Fが大きくなっても、リンク30が下限ストッパ2a4で係止されることからリンク30は回転せず、アンダカバー3はアンダパネル2aから離反する方向に移動しない。したがって、吸引力Fは、リンク30を介して、車両1を路面Gの側に吸引する(より詳しくは、吸引力Fと付勢力4・FS2の差(Fー4・FS2)が、車両1を路面Gの側に吸引する)。そして、車両1が路面Gの側に吸引されると、車両1にはダウンフォースが作用することになり、走行中に車両1に発生する揚力を低下できる。
【0041】
このように、本実施形態に係るアンダカバー3は、車両1(図3の(a)参照)が停止しているとき、もしくは車両1の低速走行時に、4つのコイルばね3cの付勢力4・FS1によって、アンダパネル2aに近接した状態になる。すなわち、路面Gとアンダカバー3との距離を大きくして、車両1の最低地上高を高くできる。
そして、車両1の高速走行時には、アンダカバー3は、吸引力Fによって路面Gの側に移動され、路面Gとアンダカバー3との距離が小さくなる。すなわち、アンダカバー3は、アンダパネル2aから離反した状態になり、車両1の最低地上高を低くできる。
【0042】
本実施形態においては、一例として、車両1(図3の(a)参照)の車速が約80km/h以上のときに、アンダカバー3(図3の(a)参照)が、アンダパネル2aから離反した状態になるように設定する。すなわち、車両1が約80km/h未満の車速で走行しているときを低速走行時とし、車両1が約80km/h以上の車速で走行しているときを高速走行時とする。
日本国内において、車両1が約80km/h以上の車速で走行するとき、車両1は高速道路を走行中であると想定できる。そして、高速道路の路面G(図3の(b)参照)は、凹凸などの障害物がほとんどなく、車両1の最低地上高が低くなっても路面Gの障害物と接触する可能性はきわめて低い。
このように、アンダカバー3は、車両1の車速が約80km/h以上の高速走行時にアンダパネル2aから離反した状態になるように設定することで、最低地上高が低くなった車両1と路面Gの障害物が接触する可能性を極めて低くできる。
【0043】
さらに、本実施形態において、アンダカバー3は、例えば約50mmの移動量を有するように設定する。すなわち、車両1の車速が約80km/h未満の低速走行時、アンダカバー3は上限の位置にあり、車両1の最低地上高は高い状態にある。車両1の車速が約80km/h以上の高速走行時、アンダカバー3は下限の位置にあり、車両1の最低地上高は、低速走行時に比べて、約50mm低い状態になる。
【0044】
この場合、車両1(図3の(a)参照)の車速が80km/hのときに車両1のアンダフロアに発生する空気流の空気流速V80を、あらかじめ実験測定等で測定し、この空気流速V80に基づいて、例えばコイルばね3c(図2の(a)参照)のばね定数Kなどを決定する。さらに、アンダカバー3が約50mm移動するように、上限ストッパ2a3、下限ストッパ2a4(図2の(c)参照)の配置、及び、リンク30(図2の(a)参照)の長さを決定する。
【0045】
すなわち、車両1(図3の(a)参照)の車速が80km/hのときの負圧力を含んだ吸引力FV80が、4つのコイルばね3c(図2の(a)参照)による付勢力4・FS1(=4・Δl・K)以上となったときに、アンダカバー3(図3の(a)参照)が移動するように、コイルばね3cのばね定数K、及び、アンダカバー3が上限に位置しているときのコイルばね3cの伸長量Δlを設定すればよい。
【0046】
なお、本実施形態においては、前記した理由によって車両1が約80km/h以上の車速で走行しているときを高速走行時、約80km/h未満の車速で走行してるときを低速走行時としたが、この閾値は限定される値ではない。また、アンダカバー3の移動量(約50mm)も限定する値ではない。
【0047】
また、本実施形態においては、図4の(a)に示すように、アンダパネル2aとアンダカバー3とをリンク30で連結し、アンダカバー3が、アンダパネル2aに対して近接・離反する方向に移動可能となる構造としたが、この構造は限定するものではない。
【0048】
図5の(a)は、アンダパネルが、アンダカバーを支持する構造の変形例を示す概略図、(b)は、アンダカバーがアンダパネルから離反した状態を示す図である。
図5の(a)に示すように、アンダカバー3には、アンダパネル2aの側に延びるようにロッド31を固定する。そして、ロッド31は、アンダパネル2aに対して垂直動可能に、アンダパネル2aに支持される。この構造によって、アンダカバー3は、アンダパネル2aに近接・離反する方向に移動可能に、アンダパネル2aに支持される。
【0049】
ロッド31の端部には、例えばフランジ31aが形成され、フランジ31aは、アンダパネル2aの上側になるように配置される。さらに、コイルばね32などの付勢手段で、フランジ31aを上側に向けて、すなわち、フランジ31aがアンダパネル2aから離反する方向に付勢する。コイルばね32は、例えば圧縮ばねからなり、アンダパネル2aとフランジ31aの間に備わって、ロッド31が中心を軸方向に貫通するように構成する。
【0050】
このような構成によって、ロッド31のフランジ31aは、コイルばね32の付勢力Fによって、アンダパネル2aから離反する方向に付勢され、アンダカバー3は、ロッド31を介して、アンダパネル2aに近接する方向に付勢される。
【0051】
そして、図5の(b)に示すように、車両1(図3の(b)参照)の高速走行時に、アンダカバー3を路面Gの側に吸引する吸引力Fが、コイルばね32の付勢力F以上になると、アンダカバー3は吸引力Fに吸引されて、アンダパネル2aから離反する方向に移動する。
【0052】
図5の(a)、(b)に示すような構造であっても、アンダパネル2aに対して近接・離反する方向に移動可能に、アンダカバー3を車両1(図1の(a)参照)に取り付けることができる。そして、アンダカバー3と路面Gの間に発生する吸引力Fで、アンダカバー3をアンダパネル2aから離反する方向に移動できる。
【0053】
このような構造を、例えば車両1(図3の(a)参照)の前後左右に形成してアンダカバー3を支持し、アンダフロアを構成すればよい。
【0054】
さらに図示はしないが、アクチュエータ等の駆動手段でアンダカバー3を駆動し、アンダパネル2aに対して近接・離反する方向に移動する構成であってもよい。この場合、駆動手段を制御する、図示しない制御手段は、例えば車両1(図3の(a)参照)の車速を検出し、検出した車速に対応して、アンダカバー3を移動させる構成とすればよい。
【0055】
図6は、アンダカバーがアンダパネルから離反した状態における空気流を示す模式図である。図6に示すように、アンダカバー3がアンダパネル2aから離反した方向に移動し、車両1の最低地上高が低い状態になると、アンダカバー3とアンダパネル2aの間に空間が形成される。この空間は、車両1のフロント側からリア側に貫通して形成されることから、空気が流れる空気通過路10を形成する。
【0056】
そして、本実施形態においては、アンダカバー3とアンダパネル2aの間に形成される空気通過路10に、車両1のエンジン11やラジエタ12を収納するエンジン室13から排出される空気が流入する。
さらに、エンジン室13から排出された空気は、アンダカバー3とアンダパネル2aの間に形成される空気通過路10を通流する空気流となって、車両1のリア側から排気される。
【0057】
エンジン室13には、ラジエタ12を冷却するための空気を取り込む、冷却ファン12aが備わって、空気を強制的にエンジン室13に取り込み、その空気が空気通過路10に排出される。そして、エンジン室13から空気通過路10に排出される空気は、冷却ファン12aで加圧され、大気圧に対して正圧となる。
仮に、このような正圧の空気が、車両1のアンダフロアの空気流に合流すると、アンダフロアの空気流が乱れ、効果的な負圧の発生を阻害する。
【0058】
本実施形態においては、エンジン室13から排出される正圧の空気は、アンダカバー3によって路面Gと遮断され、車両1のアンダフロアの空気流に合流することなく空気通過路10を通流し、車両1のリア側から排気される。したがって、車両1のアンダフロアにおける負圧の発生を阻害することがない。その結果、車両1のアンダフロアに、効果的に負圧を発生することができる。そして、車両1のアンダフロアに、効果的に負圧が発生すると、走行中の車両1に発生する揚力を効果的に低下できる。
【0059】
また、エンジン室13から排出される空気は、空気通過路10を通流し、車両1のリア側に排気される。
この、エンジン室13から空気通過路10を介して車両1のリア側に排気される空気で、車両1のリア側に発生する負圧を軽減できる。
【0060】
図7の(a)は、車両のリア側に発生する負圧を示す模式図、(b)は、空気が、空気通過路を介して車両のリア側に排気される状態を示す模式図である。
図7の(a)に示すように、車両1がフロント側に走行する場合、リア側には負圧が発生し、この負圧によって車両1がリア側に吸引される。そして、車両1のリア側に発生する負圧が、フロント側に走行する車両1をリア側に引き寄せることになり、結果として、車両1の走行に対する抵抗となる。
【0061】
そこで、本実施形態においては、図7の(b)に示すように、エンジン室13から排出される正圧の空気を、アンダカバー3とアンダパネル2aの間に形成される空気通過路10を介して車両1のリア側に排気し、リア側に発生する負圧を軽減する。このことによって、車両1の走行に対する抵抗を低減できるという優れた効果を奏する。
【0062】
以上のように、本実施形態に係る車両のアンダカバー構造は、車両が停止している場合、もしくは低速走行時、最低地上高を高くして、路面の障害物との接触を防止できる。
また、車両の高速走行時は、最低地上高を低くすることができる。最低地上高を低くすることで、車両のアンダフロアの空気流速が速くなり、車両を路面の側に吸引する負圧を効果的に発生できる。そして、車両を路面の側に吸引することで、走行中の車両に発生する揚力を効果的に低下できるという優れた効果を奏する。
さらに、部品が取り付けられて凹凸が形成されるアンダパネルの下面を、平面のアンダカバーで覆うことで、車両のアンダフロアを平面に形成でき、車両のアンダフロアに発生する空気流の乱れを軽減できる。このことによって、車両のアンダフロアに効果的に負圧を発生でき、走行時に発生する揚力を効果的に低下できるという優れた効果を奏する。
【0063】
さらに、エンジン室で発生する正圧の空気を、車両のアンダフロアの空気流と合流することなく、車両のリア側に排気することで、車両のアンダフロアの空気流の乱れを軽減できるとともに、車両のリア側に発生する負圧を軽減できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a)は、本実施形態に係る車両を側面から見た図、(b)は、アンダフロアの側から見た図である。
【図2】(a)は、アンダカバーの取り付け構造の一例を示す図、(b)は、取り付け構造の変形例を示す図、(c)は、ストッパの一例を示す図である。
【図3】(a)は、低速走行時の車両の状態を示す図、(b)は、高速走行時の車両の状態を示す図である。
【図4】アンダカバーに作用する力を図示する概略図であって、(a)は、車両が停止している状態を示す図、(b)は、車両が走行している状態を示す図、(c)は、アンダカバーが下限の位置にある状態を示す図である。
【図5】(a)は、アンダパネルが、アンダカバーを支持する構造の変形例を示す概略図、(b)は、アンダカバーがアンダパネルから離反した状態を示す図である。
【図6】アンダカバーがアンダパネルから離反した状態における空気流を示す模式図である。
【図7】(a)は、車両のリア側に発生する負圧を示す模式図、(b)は、空気が、空気通過路を介して車両のリア側に排気される状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1 車両
2 車体
2a アンダフロア(車体の下面)
3 アンダカバー
3c、32 コイルばね(付勢手段)
S1、FS2 付勢力
吸引力
G 路面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の下面を覆うアンダカバー構造において、
前記アンダカバーは、前記車体の下面に配設される部品の下方に、前記車体の下面の略全面に亘って備えられ、
前記車体の下面に対して近接・離反する方向に移動可能であることを特徴とするアンダカバー構造。
【請求項2】
前記アンダカバーは、板状の部材からなって前記車体の下面と対向するように備えられ、
前記車体の下面と対向した状態のまま、前記車体の下面に対して近接・離反する方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載のアンダカバー構造。
【請求項3】
前記アンダカバーは、
前記車体を含む車両の低速走行時には、前記車体の下面に近接した状態になり、
前記車両の高速走行時には、前記車体の下面から離反した状態になることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアンダカバー構造。
【請求項4】
前記アンダカバーは、付勢手段の付勢力で、前記車体の下面に近接する方向に付勢されるとともに、
前記車両が走行する路面と前記アンダカバーの間を、前記車両に対して流れる空気流によって発生する負圧が前記アンダカバーを吸引する負圧力を含んだ吸引力で、当該アンダカバーが前記車体の下面から離反する方向に吸引され、
前記付勢力は、
前記車両の低速走行時に前記アンダカバーを吸引する前記吸引力より大きく、前記車両の高速走行時に前記アンダカバーを吸引する前記吸引力より小さいことを特徴とする請求項3に記載のアンダカバー構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−220689(P2009−220689A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66500(P2008−66500)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】