説明

アンダーカット処理機構

【課題】成形品Pのアンダーカット部P1が型抜き方向と交差する両側に凹凸する形状であっても、限られた設置スペース内でより大きな移動ストロークを実現して容易に型抜きすることができるアンダーカット処理機構を提供する。
【解決手段】可動型13に内設されたホルダー30内で、アンダーカット部P1を成形する一対の成形コア51,52は型抜き方向に移動する保持駒40に連結支持され、型抜き時に各成形コア51,52は、互いに対接する成形位置から離隔する離型位置に向ってガイド手段33,34に案内され、それぞれ保持駒40の一端側から他端側へと互いに逆向きに前後ですれ違うように移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンダーカット部のある成形品を固定型と可動型により成形する金型で、前記アンダーカット部を型抜き可能な状態とするアンダーカット処理機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の成形用金型装置としては、例えば、特許文献1に記載されたルーズコアエジェクター装置が知られている。すなわち、成形品の内面を形成する金型のコアと、このコアを貫通してコア表面に対して傾斜配置された移動可能なルーズコア支持ロッドと、可動側型板と台座プレートとに係止されたガイド手段ロッドと、このガイド手段ロッドに対して相対的に摺動可能にエジェクタープレートの摺動路に配置されたスライドベースとを備え、ルーズコア支持ロッドがスライドベースの移動に連動するものである。
【0003】
このようなルーズコアエジェクター装置において、ガイド手段ロッドの一端は、可動側型板の下面に形成された凹部に緊密に嵌め込まれたホルダーに係止されており、また、ルーズコア支持ロッドは、コアにガイド手段ロッドとほぼ同じ傾斜角度で形成された挿通孔を摺動可能に挿通して、この挿通孔がルーズコア支持ロッドの傾斜角度を設定する唯一の構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−326233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述したような従来の技術では、ルーズコア支持ロッドのみならず、ガイド手段ロッドも傾斜配置されており、しかも、各ロッドを同じ傾斜角度で移動させるための機構が、エジェクタープレートと可動側型板とに分散するように構成されている。従って、成形品のアンダーカット部の型抜きのために必要なアンダーカット部分形状を施した駒の移動量に比べて大きな設置スペースを要し、全体的に構造も複雑となり組み立てに手間と時間がかかり、コストダウンが難しいという問題点があった。
【0006】
また、アンダーカット部が、成形品の外側ないし内側の一方向にある場合にしか対応することができず、例えば、成形品の下面内側に突出したアンダーカット部が型抜き方向と交差する両側に凹凸するような形状であるような場合には、このような成形品を型抜きすることは不可能であった。そのため、成形可能な成形品におけるアンダーカット部の形状の他、その位置や数が非常に狭い範囲に限定されるという問題点があった。
【0007】
特に、アンダーカット部の形状が複雑になるほど、その型抜きのために必要なアンダーカット部分形状を施した駒の移動ストロークは大きくなる。かかる問題に対処すべく、限られた設置スペース内において、いかに大きな移動ストロークを実現するかの工夫が切望されていた。
【0008】
本発明は、前述したような従来の技術が有する問題点に着目してなされたもので、コンパクトに構成することが可能となり省スペース化の要請に応じることができ、金型への加工および組み込みが容易となり、コストダウンを実現することができ、特に、成形品のアンダーカット部が型抜き方向と交差する両側に凹凸する形状である場合でも、限られた設置スペース内でより大きな移動ストロークを実現して容易に型抜きすることができるアンダーカット処理機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
[1]アンダーカット部(P1)のある成形品(P)を固定型(12)と可動型(13)により成形する金型(11)で、前記アンダーカット部(P1)を型抜き可能な状態とするアンダーカット処理機構において、
前記固定型(12)または前記可動型(13)に内設されるホルダー(30)と、
前記ホルダー(30)内に収納され、前記アンダーカット部(P1)を型抜き方向と交差する両側から囲む状態で成形する一対の成形コア(51,52)と、
前記ホルダー(30)内に収納され、型抜き方向に移動可能な保持駒(40)と、を有し、
前記各成形コア(51,52)は、それぞれ基端側が前記保持駒(40)に対して、前記型抜き方向と交差して前記アンダーカット部(P1)から逃げる両側方向に摺動可能に連結され、前記ホルダー(30)内で前記アンダーカット部(P1)を両側から囲むように互いに対接する成形位置と、前記ホルダー(30)外に突出して前記アンダーカット部(P1)から互いに離隔する離型位置とに、それぞれ移動可能であり、
前記ホルダー(30)内に、前記保持駒(40)の移動に伴い前記各成形コア(51,52)を成形位置から離型位置に向けて、それぞれ型抜き方向および両側方向に同時に移動する傾斜方向に沿って案内する互いに対称に延びる一対のガイド手段(33,34)を設け、
前記各成形コア(51,52)は、それぞれ少なくとも基端側が前記保持駒(40)を間にして前後に重なり合う形状に設けられ、成形位置から離型位置に移動する際に、それぞれ基端側は前記保持駒(40)の一端側から他端側へと互いに逆向きに前後ですれ違うことを特徴とするアンダーカット処理機構。
【0010】
[2]前記各成形コア(51,52)のうち一の成形コア(51)の外壁、および該一の成形コア(51)の外壁が摺接する前記ホルダー(30)の内壁の何れか一方に、該一の成形コア(51)が移動する前記傾斜方向に延びる第1斜溝(33)を設け、何れか他方に、同じく前記傾斜方向に延びて前記第1斜溝(33)に摺動可能に嵌合する第1斜条(57)を設け、前記ホルダー(30)内にある第1斜溝(33)または第1斜条(57)を前記各ガイド手段(33,34)のうちの一方とし、
前記各成形コア(51,52)のうち他の成形コア(52)の外壁、および該他の成形コア(52)の外壁が摺接する前記ホルダー(30)の内壁の何れか一方に、該他の成形コア(52)が移動する前記傾斜方向に延びる第2斜溝(34)を設け、何れか他方に、同じく前記傾斜方向に延びて前記第2斜溝(34)に摺動可能に嵌合する第2斜条(58)を設け、前記ホルダー(30)内にある第2斜溝(34)または第2斜条(58)を前記各ガイド手段(33,34)のうちの他方としたことを特徴とする[1]に記載のアンダーカット処理機構。
【0011】
[3]前記型抜き方向に駆動されて突き出し動作するエジェクタピン(20)を有し、
前記エジェクタピン(20)は、その先端側が前記ホルダー(30)内を臨む位置に配されて、該先端側を前記保持駒(40)に一体に連結したことを特徴とする[1]または[2]に記載のアンダーカット処理機構。
【0012】
[4]前記各成形コア(51,52)のうち前記アンダーカット部(P1)を成形する先端側を、別体として着脱可能に組み付けたことを特徴とする[1],[2]または[3]に記載のアンダーカット処理機構。
【0013】
[5]前記各成形コア(51,52)を前記成形品(P)の型抜きのストロークに応じた長さに設定することを特徴とする[1],[2],[3]または[4]に記載のアンダーカット処理機構。
【0014】
[6]前記ホルダー(30)を、該ホルダー(30)を設ける前記可動型(13)または前記固定型(12)に設けた中空部(13a)を囲む型自体の一部として構成したことを特徴とする[1],[2],[3],[4]または[5]に記載のアンダーカット処理機構。
【0015】
前記本発明は次のように作用する。
前記[1]に記載のアンダーカット処理機構によれば、固定型(12)または可動型(13)に内設するホルダー(30)内に、アンダーカット部(P1)を成形する一対の成形コア(51,52)と、各成形コア(51,52)を駆動するための保持駒(40)が収納されている。ここで、ホルダー(30)、保持駒(40)、各成形コア(51,52)は、一ユニットとして構成することができる。
【0016】
このように各成形コア(51,52)を、エジェクタ台板(15)や可動型(13)に分散させることなく、ホルダー(30)を介して固定型(12)または可動型(13)の何れか一方にのみに集中して配設することができる。従って、コンパクトに構成することが可能となり、省スペース化の要請に応じることができ、金型(11)への加工および組み込みも容易となる。さらに、全体的な構造の簡易化が可能となり、製造コストを大幅に低減することができる。
【0017】
成形品(P)の成形時には、ホルダー(30)内にて各成形コア(51,52)は、成形品(P)のアンダーカット部(P1)を両側から囲むように互いに対接した成形位置に保持駒(40)によって支持される。そして、成形後の型抜き時には、保持駒(40)の型抜き方向への移動に伴って、該保持駒(40)に連結されている各成形コア(51,52)は、ホルダー(30)外に突出してアンダーカット部(P1)から互いに離隔する離型位置に移動する。
【0018】
このとき、各成形コア(51,52)は、ホルダー(30)内にあるガイド手段(33,34)によって、それぞれ型抜き方向および両側方向へ同時に移動する傾斜方向に案内されつつ離型位置まで移動する。ここで各成形コア(51,52)に対応するガイド手段(33,34)は、各成形コア(51,52)をそれぞれ両側方向に離隔すべく、互いに対称となる傾斜方向へ別々に延びている。
【0019】
また、各成形コア(51,52)は、それぞれ少なくとも基端側が保持駒(40)を間にして前後に重なり合う形状に設けられ、これら基端側は保持駒(40)に対して両側方向に摺動可能に連結されている。そして、各成形コア(51,52)は、成形位置から離型位置に移動する際、それぞれの基端側が保持駒(40)の一端側から他端側へと互いに逆向きに前後ですれ違うように移動する。
【0020】
これにより、各成形コア(51,52)は、それぞれ余り側方に広がらない状態でホルダー(30)内にコンパクトに収納することができるにも拘わらず、型抜き時にはより大きな移動ストロークを確保することができる。従って、成形品(P)の下面内側に突出したアンダーカット部(P1)が型抜き方向と交差する両側に大きく凹凸するような形状であっても、アンダーカット部(P1)を難なく取り外し可能な状態となり、成形品(P)全体を容易に型抜きすることができる。
【0021】
前記[2]に記載のアンダーカット処理機構によれば、一の成形コア(51)の外壁およびホルダー(30)の内壁の何れか一方に、一の成形コア(51)が移動する傾斜方向に延びる第1斜溝(33)を設け、何れか他方に、同じく傾斜方向に延びて前記第1斜溝(33)に摺動可能に嵌合する第1斜条(57)を設けて、ホルダー(30)内にある第1斜溝(33)または第1斜条(57)を前記ガイド手段(33,34)のうちの一方とする。
【0022】
また、他の成形コア(52)の外壁およびホルダー(30)の内壁の何れか一方に、他の成形コア(52)が移動する傾斜方向に延びる第2斜溝(34)を設け、何れか他方に、同じく傾斜方向に延びて前記第2斜溝(34)に摺動可能に嵌合する第2斜条(58)を設けて、ホルダー(30)内にある第2斜溝(34)または第2斜条(58)を前記ガイド手段(33,34)のうちの他方とする。
【0023】
これにより、各成形コア(51,52)の移動は、これら自体とホルダー(30)とに設けられた溝および条の嵌合関係によって確実かつ円滑に案内されると共に、型抜き時における負荷も一箇所に集中することがなく分散されるので、耐久性が高められる。また、設計時における高い精度出しも緩和されるため、さらなるコストダウンが可能となる。
【0024】
前記[3]に記載のアンダーカット処理機構によれば、型抜き方向に駆動されて突き出し動作するエジェクタピン(20)を有している。このエジェクタピン(20)の先端側は、前記ホルダー(30)内を臨むように配され、該先端側に前記保持駒(40)が一体に連結されている。よって、ホルダー(30)内の保持駒(40)を、エジェクタピン(20)の突き出し動作に応じて確実に型抜き方向に移動させることができる。
【0025】
前記[4]に記載のアンダーカット処理機構によれば、各成形コア(51,52)のうちアンダーカット部(P1)を成形する先端側を、別体として着脱可能に組み付けている。これにより、アンダーカット部(P1)を成形する部位を、後から別のタイプに付け替えることが可能となり汎用性が広がる。
【0026】
前記[5]に記載のアンダーカット処理機構によれば、各成形コア(51,52)を成形品(P)の型抜きのストロークに応じた長さに設定する。これにより、成形品(P)の型抜きにおける大きなストロークから小さなストロークまで適宜対応することができる。
【0027】
前記[6]に記載のアンダーカット処理機構によれば、ホルダー(30)自体を、該ホルダー(30)を設ける可動型(13)または固定型(12)として構成する。すなわち、金型(11)に直接ホルダー(30)の内部空間の代わりとなる中空部(13a)を形成し、この中空部(13a)内に保持駒(40)や各成形コア(51,52)をそれぞれ移動可能に収納すれば良い。これにより、ホルダー(30)自体の部品が不要となり部品点数が削減され、装置全体の構成をより簡易化することができ、いっそうコストを低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るアンダーカット処理機構によれば、成形品のアンダーカット部が型抜き方向と交差する両側に凹凸する形状である場合でも、限られた設置スペース内でより大きな移動ストロークを実現して容易に型抜きすることができる。
しかも、コンパクトに構成することが可能となり、省スペース化の要請に応じることができ、金型への加工および組み込みが容易で、また、構成が簡単であり組み立てに手間と時間がかからず、コストダウンを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る成形用金型装置の金型およびアンダーカット処理機構の成形時における状態を示す縦断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る成形用金型装置の金型およびアンダーカット処理機構の型抜き時における状態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る成形用金型装置の金型およびアンダーカット処理機構の成形時における状態を別方向から示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るアンダーカット処理機構のホルダーを示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るアンダーカット処理機構のホルダーを構成する2つの分割部品の内側を示す正面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るアンダーカット処理機構の型抜き時におけるホルダー内の様子を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るアンダーカット処理機構の保持駒に一の成形コアを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るアンダーカット処理機構の成形時における保持駒と一対の成形コアの位置関係を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施の形態に係るアンダーカット処理機構の型抜き時における保持駒と一対の成形コアの位置関係を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態に係るアンダーカット処理機構の成形時と型抜き時における一対の成形コアの移動ストロークを示す説明図である。
【図11】従来のアンダーカット処理機構の成形時と型抜き時における一対の成形コアの移動ストロークを示す説明図である。
【図12】本発明の実施の形態に係るアンダーカット処理機構により成形する成形品の要部を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に基づき、本発明を代表する実施の形態を説明する。
図1〜図3は、本実施の形態に係る成形用金型装置10を構成する金型11およびアンダーカット処理機構の動作を説明するための縦断面図である。図1は、成形品Pの成形時の状態を示しており、図2は、成形品Pの型抜き時の状態を示している。また、図3は、成形品Pの成形時の状態を示す図1とは紙面に対して直角となる別方向から見た縦断面図である。
【0031】
成形用金型装置10は、成形品Pを金型11によって成形する装置である。本実施の形態に係る成形品Pは、図12、図1〜図3に示すように、全体的には長手方向に延びるバンパー形状であり、その下面内側には所定間隔おきにクリップ状のアンダーカット部P1が設けられている。アンダーカット部P1は、成形品Pの下面内側より垂下するように突出し、両側に出っ張る凹凸形状を備えている。なお、成形品Pの材料としては、プラスチック等の合成樹脂に限らず、鉄や銅、アルミニウム等の金属でも良い。
【0032】
図1、図2に示すように、成形用金型装置10の金型11は、成形品Pの外面側を成形する固定型12と、成形品Pのアンダーカット部P1を含む内面側を成形する可動型13とから成る。また、可動型13の下方には可動取付板14が設置されており、可動型13と可動取付板14との間に、2枚重ねの板材から成るエジェクタ台板15が上下方向に駆動可能に配設されている。
【0033】
本発明の根幹を成すアンダーカット処理機構は、成形品Pの型抜き時にアンダーカット部P1を離型可能にするものである。かかるアンダーカット処理機構は、型抜き方向へ駆動されて突き出し動作するエジェクタピン20と、可動型13に内設されるホルダー30と、該ホルダー30内に収納され、前記アンダーカット部P1を型抜き方向と交差する両側から囲む状態で成形する一対の成形コア51,52と、同じくホルダー30内に収納され、型抜き方向に移動可能な保持駒40等を有して成る。
【0034】
図1、図2に示すように、エジェクタピン20は丸棒部材から成り、前記エジェクタ台板15上に垂直な状態で立設されている。エジェクタピン20の基端部22は、ノックピン23を介してエジェクタ台板15に一体に固定されている。エジェクタピン20は、エジェクタ台板15の上方への移動に伴い、型抜き方向へ駆動されて突き出し動作する。エジェクタピン20は、その先端部21がホルダー30内を臨む位置に配され、先端部21はホルダー30内に挿通している。
【0035】
ホルダー30は、可動型13に一体に内設されている。ここで可動型13には、ホルダー30を内設するための中空部13aが予め形成されており、該中空部13aにホルダー30は埋め込まれた状態で別体の下板13bで閉じられている。下板13bには、前記エジェクタピン20が貫通する縦孔13cが穿設されている。なお、ホルダー30の下端側には、中空部13aから抜け出るのを防止するブロック13dが取り付けられている。
【0036】
図4、図5に示すように、ホルダー30は、2つの同一形状の片割部品30aを組み合わせて成り、上端面および下端面がそれぞれ開口した内部空間31を備える箱形筒状に形成されている。ホルダー30の上端開口の両側内壁には、後述する一対の成形コア51,52をそれぞれ斜め上方に滑らすためのテーパー32が設けられている。また、各片割部品30aの内壁には、各成形コア51,52がそれぞれ移動可能に案内されるガイド手段が設けられているが、これについては後述する。
【0037】
図1、図2に示すように、ホルダー30の内部空間31の下部には、前記エジェクタピン20の先端部21が移動可能に挿入しており、該先端部21には保持駒40が一体に連結されている。ここで保持駒40は、エジェクタピン20の上下動に伴って型抜き方向へ駆動され、図1に示す成形位置と、図2に示す離型位置とに、摺動可能な状態でホルダー30の内部空間31に収納されている。
【0038】
図6〜図9に示すように、保持駒40は、図示した直方体形状の部材から成り、その下端側に前記エジェクタピン20の先端部21がそのままネジ止め(図1参照)されている。保持駒40の上端面には、前記エジェクタピン20の軸方向である型抜き方向と直角に交差して、前記アンダーカット部P1から逃げる両側方向に延びる突条41が設けられている。この突条41には、次述する各成形コア51,52が両側方向に沿って移動可能に連結されている。
【0039】
図6〜図9に示すように、各成形コア51,52は、それぞれ図示した同一形状の部材から成り、前記保持駒40上で互いに対称に向き合う状態で連結されている。詳しく言えば成形コア51は、上下方向に延びた基幹部53を備え、この基幹部53の上端側に、前記アンダーカット部P1の外形に合致した凹部54を備えたアンダーカット成形部55が一体に成形されている。もう一方の成形コア52についても同様である。
【0040】
各成形コア51,52のうち、アンダーカット成形部55を除いた基端側、すなわち基幹部53は、前記保持駒40を間にして前後に重なり合う形状となっており、互いに内側の片面同士が摺動可能に面接触している。この基幹部53のさらに基端(下端)には、前記保持駒40にある突条41に対して摺動可能に嵌合する凹溝56が設けられている。ここで凹溝56は、各成形コア51,52が2つ合わさることで蟻溝を形成する。
【0041】
このような各成形コア51,52の凹溝56と、保持駒40の突条41との嵌合関係により、各成形コア51,52の基端側は保持駒40に対して型抜き方向と直交する両側方向に摺動可能に連結される。ここで各成形コア51,52は、前記ホルダー30内で前記アンダーカット部P1を両側から囲むように互いに対接する成形位置(図1参照)と、前記ホルダー30外に突出して前記アンダーカット部P1から互いに離隔する離型位置(図2参照)とに、それぞれ移動可能となっている。
【0042】
図8、図9に示すように、各成形コア51,52が成形位置から離型位置に移動する際、それぞれの基端側は、前記保持駒40の突条41の一端側から他端側へと互いに逆向きに前後ですれ違うように設定されている。すなわち、一方の成形コア51は、その基端にある凹溝56が紙面において左端から右端に移動し、他方の成形コア52は、その基端にある凹溝56が紙面において逆に右端から左端に移動し、その間に両者は互いに交差することになる。
【0043】
図4、図5に示すように、ホルダー30の各片割部品30aの内壁には、成形品Pの型抜き時に前記各成形コア51,52を、図1に示す成形位置から図2に示す離型位置に向けて、それぞれ型抜き方向および両側方向に同時に移動する「傾斜方向」に沿って案内するガイド手段が設けられている。かかるガイド手段は、各片割部品30aの内壁にそれぞれ凹溝断面形に設けられた、互いに対称に延びる一対の第1斜溝33、第2斜溝34である。第1斜溝33と第2斜溝34は、ホルダー30の正面視において左右対称でX字形に交差している。
【0044】
一方、図6〜図9に示すように、各成形コア51,52のうち一の成形コア51の外壁には、前記ホルダー30の第1斜溝33と合致する傾斜方向に延び、該第1斜溝33に摺動可能に嵌合する第1斜条57が凸設されている。第1斜条57は、成形コア51のアンダーカット成形部55の上端から基幹部53の下端に亘り真っ直ぐに延びている。なお、第1斜条57は、成形コア51の外壁とホルダー30の内壁の何れに設けても良く、何れか他方に第1斜溝33を設けることになる。
【0045】
同様に、各成形コア51,52のうち他の成形コア52の外壁には、前記ホルダー30の第2斜溝34と合致する傾斜方向に延び、該第2斜溝34に摺動可能に嵌合する第2斜条58が凸設されている。第2斜条58は、成形コア52のアンダーカット成形部55の上端から基幹部53の下端に亘り真っ直ぐに延びている。なお、第2斜条58は、成形コア51の外壁とホルダー30の内壁の何れに設けても良く、何れか他方に第2斜溝34を設けることになる。
【0046】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
図1、図3に示すように、成形用金型装置10による成形品Pの成形時には、金型11の可動型13の上面に固定型12の下面が合わさるように配置される。このとき、可動型13に内設されたホルダー30内において、各成形コア51,52は、成形品Pのアンダーカット部P1を両側から囲むように互いに対接した成形位置に支持されている。このような状態で、金型11のキャビティに溶融材料を充填させた後に冷却固化させて、アンダーカット部P1を備えた成形品Pが成形される。
【0047】
成形品Pの成形が終了すると、固定型12を可動型13から離脱させた後、図2に示すように、エジェクタ台板15を上方に駆動する。すると、エジェクタ台板15上に立設されているエジェクタピン20が、可動型13側の縦孔13cを貫通した状態で、型抜き方向である上方に向って真っ直ぐに突き出し動作する。ホルダー30内では、エジェクタピン20の先端部21に支持されている保持駒40が、エジェクタピン20と一緒に型抜き方向へ移動する。
【0048】
保持駒40の型抜き方向への移動に伴って、該保持駒40の突条41にそれぞれ基端側が連結支持されている一対の成形コア51,52は、それぞれ図1に示す成形位置から図2に示す離型位置に向って、型抜き方向および両側方向へ同時に移動する傾斜方向へ移動する。すなわち、各成形コア51,52は、ホルダー30外に突出しつつ、アンダーカット部P1から互いに離隔する。
【0049】
すなわち、一の成形コア51は、その第1斜条57がホルダー30にある第1斜溝33内を摺動しつつ、左右対称な傾斜方向の一方に沿って案内される。同時に、他の成形コア52は、その第2斜条58がホルダー30にある第2斜溝34内を摺動しつつ、前記傾斜方向の他方に沿って案内される。第1斜溝33と第2斜溝34とは、左右対称な傾斜方向へ別々に延びている。
【0050】
このように、ホルダー30内における各成形コア51,52の移動は、それぞれの外壁にある斜条57,58と、ホルダー30の内壁にあるガイド手段としての斜溝33,34との嵌合関係によって、確実かつ円滑に傾斜方向に案内される。しかも、成形品Pの型抜き時における負荷も一箇所に集中することがなく分散されるので、耐久性が高められる。また、設計時における高い精度出しも緩和されるため、さらなるコストダウンが可能となる。
【0051】
また、各成形コア51,52は、図8、図9に示すように、それぞれの基幹部53が保持駒40を間にして前後に重なり合う形状に設けられており、これら基幹部53は保持駒40に対して両側方向に摺動可能に連結されている。そして、各成形コア51,52は、成形位置から離型位置に移動する際、それぞれの基幹部53の基端が保持駒40の一端側から他端側へと互いに逆向きに前後ですれ違うように移動する。
【0052】
これにより、各成形コア51,52は、それぞれ余り側方に広がらない状態でホルダー30内にコンパクトに収納することができるにも拘わらず、型抜き時にはより大きな移動ストロークを確保することができる。従って、成形品Pの下面内側に突出したアンダーカット部P1が型抜き方向と交差する両側に大きく凹凸するような形状であっても、アンダーカット部P1を難なく取り外し可能な状態となり、成形品P全体を容易に型抜きすることができる。
【0053】
具体的には、図10に示すように、本実施の形態に係る成形用金型装置10では、各成形コア51,52が保持駒40の一端側から他端側へと互いに逆向きに前後ですれ違うように移動する。これにより、各成形コア51,52は、互いに大きな距離L1まで離隔することになる。一方、図11に示すように、各成形コア51,52が保持駒40の中央から両端まで互いに逆向きに移動する場合では、各成形コア51,52は互いに小さな距離L2しか離隔しない。
【0054】
さらに、本実施の形態に係るアンダーカット処理機構によれば、各成形コア51,52を、エジェクタ台板15や可動型13に分散させることなく、ホルダー30を介して可動型13のみに集中して配設することができる。これにより、成形用金型装置10を全体的にコンパクトに構成することが可能となり、省スペース化の要請にも応じることができ、金型11への加工および組み込みが容易となる。
【0055】
特に、アンダーカット処理機構は、図6に示すように、予めホルダー30内に、各成形コア51,52と保持駒40を組み込んだ形でユニットとして構成することができ、図1に示すように、ホルダー30を介して可動型13内に容易に後付けすることができる。かかる構成は、可動型13が小型である場合のように、可動型13自体にホルダー30を収納する空間を穿設するような加工が容易な場合に適している。
【0056】
図2において、成形品Pが抜き去られると、エジェクタピン20が成形時の位置に戻るに従い、エジェクタピン20に引かれて保持駒40と共に各成形コア51,52も初期位置に戻る。また、固定型12も成形位置に戻って、次の成形品Pが成形されることになる。ところで、各成形コア51,52は、アンダーカット部P1を含む成形品P全体の型抜き可能なストロークに応じた長さに設計する。これにより、成形品Pの型抜きにおける大きなストロークから小さなストロークまでに適宜対応することができる。
【0057】
なお、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成は前述した実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、成形品Pや各成形コア51,52の形状は、具体的に図示したものに限定されるわけではない。また、保持駒40をエジェクタピン20と別体として後から組み付けるのではなく、保持駒40をエジェクタピン20の先端側に予め一体に設けるように構成しても良い。
【0058】
また、前記実施の形態では、各成形コア51,52のうちのアンダーカット成形部55を、各成形コア51,52の先端側に一体的に設けているが、アンダーカット成形部55を、各成形コア51,52の先端側に別体として着脱可能に組み付けても良い。これにより、様々なアンダーカット部P1に対応すべく、後から別のタイプに付け替えることが可能となり汎用性が広がる。
【0059】
さらに、前記実施の形態では、ホルダー30を可動型13に一体に内設しているが、可動型13ではなく固定型12に一体に内設するように構成しても良い。さらに、ホルダー30自体を、可動型13(または固定型12)における中空部13aを囲む一部として構成しても良い。
【0060】
すなわち、金型11に直接ホルダー30の内部空間の代わりとなる中空部13aを形成して、この中空部13a内に各成形コア51,52等を収納すれば良い。これにより、ホルダー30に関する部品点数が削減され、成形用金型装置10全体の構成をよりいっそう簡易化することができ、コストを低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
コンパクトに構成することが可能となり、省スペース化の要請に応じることができるから、小型の金型への加工および組み込みに優れており、特に成形品の下面内側に突出したアンダーカット部が型抜き方向に対して交差する左右両側に凹凸するような形状である場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
P…成形品
P1…アンダーカット部
10…成形用金型装置
11…金型
12…固定型
13…可動型
13a…中空部
13b…下板
13c…縦孔
13d…ブロック
14…可動取付板
15…エジェクタ台板
20…エジェクタピン
21…先端部
22…基端部
23…ノックピン
30…ホルダー
30a…片割部品
33…第1斜溝
34…第2斜溝
40…保持駒
41…突条
51…成形コア
52…成形コア
53…基幹部
54…凹部
55…アンダーカット成形部
56…凹溝
57…第1斜条
58…第2斜条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンダーカット部のある成形品を固定型と可動型により成形する金型で、前記アンダーカット部を型抜き可能な状態とするアンダーカット処理機構において、
前記固定型または前記可動型に内設されるホルダーと、
前記ホルダー内に収納され、前記アンダーカット部を型抜き方向と交差する両側から囲む状態で成形する一対の成形コアと、
前記ホルダー内に収納され、型抜き方向に移動可能な保持駒と、を有し、
前記各成形コアは、それぞれ基端側が前記保持駒に対して、前記型抜き方向と交差して前記アンダーカット部から逃げる両側方向に摺動可能に連結され、前記ホルダー内で前記アンダーカット部を両側から囲むように互いに対接する成形位置と、前記ホルダー外に突出して前記アンダーカット部から互いに離隔する離型位置とに、それぞれ移動可能であり、
前記ホルダー内に、前記保持駒の移動に伴い前記各成形コアを成形位置から離型位置に向けて、それぞれ型抜き方向および両側方向に同時に移動する傾斜方向に沿って案内する互いに対称に延びる一対のガイド手段を設け、
前記各成形コアは、それぞれ少なくとも基端側が前記保持駒を間にして前後に重なり合う形状に設けられ、成形位置から離型位置に移動する際に、それぞれ基端側は前記保持駒の一端側から他端側へと互いに逆向きに前後ですれ違うことを特徴とするアンダーカット処理機構。
【請求項2】
前記各成形コアのうち一の成形コアの外壁、および該一の成形コアの外壁が摺接する前記ホルダーの内壁の何れか一方に、該一の成形コアが移動する前記傾斜方向に延びる第1斜溝を設け、何れか他方に、同じく前記傾斜方向に延びて前記第1斜溝に摺動可能に嵌合する第1斜条を設け、前記ホルダー内にある第1斜溝または第1斜条を前記各ガイド手段のうちの一方とし、
前記各成形コアのうち他の成形コアの外壁、および該他の成形コアの外壁が摺接する前記ホルダーの内壁の何れか一方に、該他の成形コアが移動する前記傾斜方向に延びる第2斜溝を設け、何れか他方に、同じく前記傾斜方向に延びて前記第2斜溝に摺動可能に嵌合する第2斜条を設け、前記ホルダー内にある第2斜溝または第2斜条を前記各ガイド手段のうちの他方としたことを特徴とする請求項1に記載のアンダーカット処理機構。
【請求項3】
前記型抜き方向に駆動されて突き出し動作するエジェクタピンを有し、
前記エジェクタピンは、その先端側が前記ホルダー内を臨む位置に配されて、該先端側を前記保持駒に一体に連結したことを特徴とする請求項1または2に記載のアンダーカット処理機構。
【請求項4】
前記各成形コアのうち前記アンダーカット部を成形する先端側を、別体として着脱可能に組み付けたことを特徴とする請求項1,2または3に記載のアンダーカット処理機構。
【請求項5】
前記各成形コアを前記成形品の型抜きのストロークに応じた長さに設定することを特徴とする請求項1,2,3または4に記載のアンダーカット処理機構。
【請求項6】
前記ホルダーを、該ホルダーを設ける前記可動型または前記固定型に設けた中空部を囲む型自体の一部として構成したことを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載のアンダーカット処理機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−22865(P2013−22865A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160937(P2011−160937)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(302067947)株式会社テクノクラーツ (19)
【Fターム(参考)】