説明

アンチモンとビスマスの分離回収法

【課題】銅電解液中のアンチモンとビスマスの分離回収を効率的に行う。
【解決手段】 キレート樹脂に銅電解液を接触させてアンチモン及びビスマスをキレート樹脂に吸着させた後、該キレート樹脂に溶離液を接触させアンチモンとビスマスをキレート樹脂から溶離しアンチモンとビスマスを溶離液に流出させ、アンチモンとビスマスを含む該溶離液にアルカリを加えて中和処理し、中和処理のpHを1.5〜3.0の範囲内で行い、アンチモンのみを除去しビスマスを含む溶離液と分離する。
そして、MRT樹脂にビスマスを含む溶離液を接触させてビスマスをMRT樹脂に吸着させた後、該MRT樹脂に溶離液を接触させビスマスを溶離回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅電解精錬で使用される銅電解液に不純物として含まれるアンチモン及びビスマスをキレート樹脂及びMRT樹脂を用いてそれぞれ選択的に回収する方法に関する。
MRT樹脂とは、特許第2984683号(登録日;平成11年10月1日)に開示されている樹脂であって、よりビスマスの選択性の高い米国IBC社の製品である。
MRTとは、Molecular
Recognition Technology、分子認識技術の略号である。その構造の例を以下に示す。特徴は、下式における下線部がクラウンエーテルとなり、このクラウンエーテルとカチオンが配位結合する。このクラウンエーテルの大きさ、即ち輪の大きさによりカチオンの選択性が可能となる。
マトリックス-O-SiYZ-(CH2)a(OCH2R1CHCH2b(BCHR2CH2)c
(DCHR3CH2)dE
B及びD:例えばO、OCH2、S等から選択
E:例えば低級アルキル、SH、OH等から選択
R1:例えばH、SH、OH等から選択
R2:例えばH及び低級アルキル等から選択
R3:例えばH、低級アルキル、アリール等より選択
Y及びZ:Cl、OCH3、OC2H5等から選択
a:2ないし10
b:0または1
c:1ないし2000
d:0ないし2000
マトリックス:砂、シリカゲル、ガラス、アルミナ等から選択
【背景技術】
【0002】
銅電解精錬で使用される銅電解液には、アンチモンやビスマスが不純物として含まれており、これら成分が前記液中に一定値濃度を超えると製品である電気銅の品質に悪影響を及ぼす。
このため、種々の方法で銅電解液の浄液が行われている。例えば、銅電解液からアンチモン及びビスマスを回収する手段として、キレート樹脂に銅電解液を接触させて、前記樹脂にアンチモンとビスマスを吸着し、該樹脂に溶離液を接触させてアンチモンとビスマスを溶離液中に回収し、該溶離液をアルカリで中和処理してアンチモンとビスマスを水酸化物の中和滓として回収する方法(特許文献1:特許2938285、特許文献2:特許3431456等)がある。
【0003】
また一方で、銅電解液からビスマスを回収する手段として、ビスマスを吸着し得るMRT樹脂に銅電解液を接触させてビスマスを樹脂に吸着し、該樹脂に溶離液を接触させてビスマスを溶離液に流出し、該溶離液からビスマスの化合物を析出させ回収する方法(特許文献3:特開2003−213350)等もある。
【0004】
ところで、上述したキレート樹脂の中和滓は主にアンチモン製品の二次原料として使用されているため、さらなるアンチモン製品の品質向上を期待し、ビスマスを含まないアンチモン中和滓が望まれている。
【0005】
また、MRT樹脂によりビスマスを回収する方法に関しては、銅電解液中のビスマス濃度が0.1〜0.3g/Lと希薄なためMRT樹脂量に対する銅電解液の処理量が多くなり、樹脂塔及び樹脂量、貯液槽等の設備の縮小化が難しいという問題もある。
【特許文献1】特許2938285「銅電解液のキレート樹脂浄液法」
【特許文献2】特許3431456「キレート樹脂に吸着したSbの溶離・回収方法」
【特許文献3】特開2003−213350「ビスマスの回収方法及び硫酸ビスマスの回収方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、銅電解液中のアンチモンとビスマスを選択性よく分離回収でき、且つ、設備規模の縮小化が可能な処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以上の課題を解決するため、
(1)キレート樹脂に銅電解液を接触させてアンチモン及びビスマスをキレート樹脂に吸着し、該キレート樹脂に塩酸系の溶離液を接触させてアンチモン及びビスマスを溶離して得られるアンチモン及びビスマスを含む溶離液において、
該溶離液にアルカリを加えて中和処理し、ビスマスを溶離液に残したままアンチモンのみを除去するアンチモンとビスマスの分離方法。
【0008】
(2)上記(1)記載の溶離液の中和処理をpH1.5〜3.0の範囲内で行うアンチモンとビスマスの分離方法。
(3)上記(1)記載のアンチモン及びビスマスを含む塩酸系溶離液を中和処理し、アンチモンのみを分離した該溶離液とMRT樹脂を接触させ、ビスマスを選択的にMRT樹脂に吸着するアンチモンとビスマスの分離回収方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明を実施することにより以下の効果を得ることができる。
(1)キレート樹脂とMRT樹脂を使った一連の処理フローにより、銅電解液中のアンチモンとビスマスを効率よく分離し回収することができる。
(2)アンチモン、ビスマスをそれぞれ選択的に高純度で、回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の処理フローを図1により説明する。
キレート樹脂に銅電解液を接触させ、アンチモン及びビスマスをキレート樹脂に吸着させる(吸着(1))。
このキレート樹脂としては、エポラスMX-2(ミヨシ油脂社製)、Purolite
S950(PUROLITE社製)等が用いられる。
【0011】
アンチモン及びビスマスを吸着したキレート樹脂に塩酸系の溶離液を接触させ、アンチモンとビスマスをキレート樹脂から溶離し溶離液に流出させる(溶離(1))。この時、4〜6Nに濃度調製した塩酸を溶離液として使用する。
【0012】
アンチモンとビスマスを含む溶離液にアルカリを加えてpH調整し、アンチモンのみを水酸化物としアンチモンを高濃度に含む殿物(アンチモン中和滓)を得る(中和)。この時加えるアルカリは、前記殿物の減容を図る目的から苛性ソーダを使用することが好ましい。
また、中和処理のpHを図2に示す如く1.5〜3.0の範囲内で行うことによりビスマスを溶離液に残したままアンチモンのみを除去して分離することができる。
【0013】
pH=1.5より低い場合は、アンチモンが殿物中に回収されず好ましくなく、pH=3.0より高いとビスマスも殿物中に回収されてしまうからである。
上記中和処理により生じた水酸化アンチモンを高濃度に含む殿物は、濾過等の固液分離を施し固形物として回収する。
このときの水酸化アンチモンの不純物品位は、砒素≒6mass%、ビスマス≒4.5mass%、銅≒0.1mass%である。
【0014】
ビスマスを吸着し得るMRT樹脂にビスマスを残した溶離液を接触させ、ビスマスをMRT樹脂に吸着させる(吸着(2))。このMRT樹脂としては、SuperLig 83(IBC社製)等が用いられる。
ビスマスを吸着したMRT樹脂に溶離液を接触させ、ビスマスをMRT樹脂から溶離し溶離液に流出させる(溶離(2))。
【0015】
この時、8〜9mol/Lに濃度調製した硫酸を60〜65℃に加温し溶離液として使用する。ビスマスを含む溶離液は65℃から常温付近まで冷却し硫酸ビスマスの粗結晶を析出させる(析出)。析出した粗結晶は濾過等の固液分離を施し固形物として回収する。
硫酸ビスマスの純度は約98mass%である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の効果を検証するため、銅電解液キレート浄液設備より採取した溶離液を処理した時の結果を示す。 銅電解液キレート浄液設備は、キレート樹脂(銘柄;Purolite S950)を充填したカラムに銅電解液を通液してアンチモン及びビスマスをキレート樹脂に吸着させ(吸着(1))、水でキレート樹脂を予洗浄した後、6N濃度の塩酸を用いてアンチモンとビスマスをキレート樹脂から溶離している(溶離(1))。この時の溶離液はアンチモンを3.0g/L、ビスマスを1.2g/L含んでいた。
【0017】
前述の溶離液をビーカーに採取し、攪拌しながらpHが1.53になるまで試薬苛性ソーダ(粒状)を加えてアンチモンを中和処理し、殿物とする(中和)。該殿物を含みスラリー状になったこの溶離液は、ヌッチェを用いて吸引濾過し、前記殿物と、ビスマスを含む溶離液とに分離した。この時の溶離液はアンチモンを0.05g/L、ビスマスを1.0g/L含んでいた。
【0018】
MRT樹脂(銘柄;SuperLig 83)90mlを充填したカラムに、前述の溶離液を通液しビスマスをMRT樹脂に吸着した(吸着(2))。通液条件は、通液温度60℃、通液速度SV7.3、通液量BV25とした。なおここで用いるSVとは空間速度(space velocity)のことで、単位時間当たりに使用樹脂量の何倍量を通液するかという処理流速(hr−1)の意味である。またBVとはベッドボリュームのことで、使用樹脂量の何倍量を通液するかという処理液量(L/L-樹脂)の意味である。
【0019】
この時のMRT樹脂のビスマス吸着量は18.6g/L-Rであった。該カラムに2mol/L濃度の硫酸を通液してMRT樹脂を予洗浄した後、溶離液として9mol/L濃度の硫酸をカラムに通液しビスマスをMRT樹脂から溶離した(溶離(2))。予洗浄の通液条件は、通液温度60℃、通液速度SV7.5、通液量BV2とし、溶離の通液条件は、通液温度60℃、通液速度SV7.1、通液量BV4とした。
【0020】
この予洗浄と溶離時のビスマスの流出量は17.1g/L-Rであった。前述のビスマスを含む溶離液はビーカーに回収し、室温(約20℃)まで冷却して硫酸ビスマスの粗結晶を析出させた後(析出)、ヌッチェを用いて吸引濾過しこの粗結晶を回収した。
上述の実施例において、MRT樹脂のカラムに吸着(2)、予洗浄、溶離(2)を施した時に得られたカラム流出液のアンチモンとビスマスの濃度推移をグラフに示す。通液量が3〜15L/L-Rの場合、ビスマスの吸着(2)が多いため、流出液中のビスマスが、0g/Lの値に近い値となっている。25L/L-Rに成るとビスマスの吸着(2)は、低下するため、流出液中のビスマスは、1.5g/Lと上昇した。
【0021】
この段階で、予洗浄に移り、次いで溶離(2)に移行した。溶離(2)の段階において、ビスマスが、流出液中に10 g/Lを超える値となり、溶離(2)が効率的に行われていることが把握される。アンチモンは、予洗浄及び溶離(2)の段階で、樹脂に幾分吸着していたものが、僅かながら流出液中に表れている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明における、アンチモンとビスマスを分離回収する処理フローを示す。
【図2】キレート樹脂のアンチモンとビスマスを含む溶離液にアルカリ(苛性ソーダ)を加え中和した時の中和pHと溶離液中のアンチモン及びビスマス濃度の関係をプロットしたグラフを示す。
【図3】MRT樹脂のカラムに吸着(2)、予洗浄、溶離(2)を施した時に得られたカラム流出液のアンチモンとビスマスの濃度推移をグラフに示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート樹脂に銅電解液を接触させてアンチモン及びビスマスをキレート樹脂に吸着し、該キレート樹脂に塩酸系の溶離液を接触させてアンチモン及びビスマスを溶離して得られるアンチモン及びビスマスを含む溶離液において、
該溶離液にアルカリを加えて中和処理し、ビスマスを溶離液に残したままアンチモンのみを除去することを特徴とするアンチモンとビスマスの分離方法。
【請求項2】
請求項1記載の溶離液の中和処理をpH1.5〜3.0の範囲内で行うことを特徴とするアンチモンとビスマスの分離方法。
【請求項3】
請求項1記載のアンチモン及びビスマスを含む塩酸系溶離液を中和処理し、アンチモンのみを分離した該溶離液とMRT樹脂を接触させ、ビスマスを選択的にMRT樹脂に吸着することを特徴とするアンチモンとビスマスの分離回収方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−57118(P2006−57118A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237357(P2004−237357)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(397027134)日鉱金属株式会社 (29)
【Fターム(参考)】