説明

アンテナ素子間位相補正方式電波発射源可視化装置

【課題】アレーアンテナの各アンテナ素子の振幅位相特性を補正データテーブルとしたデータを加味して電波到来方向の推定を行うことにより、電波到来方向の推定精度を向上させることが可能な電波発射源可視化装置を提供すること。
【解決手段】到来電波を受信するアレーアンテナ11の出力は周波数変部12に接続され、周波数変換部12の出力はA/D変換部13に接続されている。A/D変換部13の出力は電波発射源可視化処理演算部14に接続される。電波発射源可視化処理演算部14には、あらかじめアレーアンテナ11の各アンテナ素子の位相振幅特性のデータが補正データテーブル16として保存蓄積されており、到来周波数における補正データで電波到来方向を補正した後、表示装置15に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、到来電波の到来方向推定技術、電波発射源の可視化技術およびアンテナ技術によって、電波を発射する物体の位置を高精度に特定できる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムや無線LANシステムの普及により、電波干渉等で電波障害が発生する問題や、不法電波局を探知する必要が生じている。このような問題解決のために電波発射源を特定し可視化する装置が必要となる。
【0003】
電波発射源可視化装置とは複数のアンテナ素子を平面上に配列したアレーアンテナで電波を受信し、その受信した電波を用いて電波を可視化する処理を行うことにより、電波到来方向を推定するシステムである。電波を可視化する方法として参考文献1に示すような電波ホログラフィ法等が知られている。処理においては各アンテナ素子で受信した信号および信号位相情報を使用する。その結果、電波到来方向の推定結果は画面上に推定値(仰角、方位角)として表示される。
【0004】
アレーアンテナで受信した振幅及び位相情報に外乱が無い場合、正確に電波到来方向を推定することが可能となるが、複数のアンテナが近接している場合、アンテナ素子間で相互インピーダンスが発生し、アンテナの位相、振幅特性が変化する。これはアンテナ素子間結合と呼ばれている。
【0005】
アレーアンテナは、アンテナ素子が近接して複数個配列されたものであり、隣接したアンテナ素子間でアンテナ素子間結合を起こし、振幅、位相誤差を生じる。従来技術では、アレーアンテナのアンテナ素子間結合が無いものとして電波発射源の推定を行っており、振幅、位相誤差が電波到来方向の推定精度への誤差要因となっていた。特に中心方向(アレーアンテナ中心方向)にオフセット誤差が生じ、電波到来方向の推定精度への大きな誤差要因となっていた。
【特許文献1】特開平11−326480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明は上記に鑑みてなされたものでその目的とするところは、アレーアンテナの各アンテナ素子の振幅、位相情報を補正データテーブルとして保存しておく。電波到来方向を求める電波ホログラフィ処理を行う際に、この補正データテーブルから測定周波数での補正データを参照して電波到来方向の推定を行うことにより、電波ホログラフィを用いた電波到来方向の推定精度を向上させることが可能な電波発射源可視化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、アンテナ素子間位相補正方式電波発射源可視化装置において、到来電波を受信するアレーアンテナと、
前記アンテナで受信した電波周波数をある決められた周波数に変換する周波数変換部と、
前記周波数変換部で変換されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部によってA/D変換された信号から電波発射源の位置を算出する電波発射源可視化処理演算部と、
前記電波発射源可視処理演算部の出力を表示する表示装置と
前記電波発射源可視処理演算部内に、該アンテナ面に対し垂直方向から到来する電波の周波数を変えて、前記アレーアンテナの各アンテナ素子の振幅位相特性を事前に測定した補正データテーブルを備え、
電波到来の方向の推定を行う際に前記アレーアンテナで受信した電波のキャリア中心周波数の補正データを前記補正データテーブルから抽出し、該補正データを補正なしのデータに掛け合わせて電波到来方向の推定をすることを特徴とするものである。
【0008】
また上記本発明のアンテナ素子間位相補正方式電波発射源可視化装置においては、上記電波発射源可視処理演算部内に電波到来方向の推定結果を補正する補正データテーブルを作成し、蓄積保存および読出しが可能であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アレーアンテナの各アンテナ素子の振幅、位相情報をあらかじめ周波数を変えて測定しておき、補正データテーブルとして保存しておく。電波ホログラフィ等での電波到来方向の推定処理を行う際に、該補正データテーブルから測定周波数での補正データを参照して補正を行うことにより、電波到来方向の推定精度を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明の実施形態につき詳細に説明する。図1は、本発明に関わる実施形態の電波発射源可視化装置の構成を示すブロック図で、11はアレーアンテナ、12は周波数変換部、13はA/D変換部、14は電波発射源可視化処理演算部、15は表示装置、16は補正データテーブルを示している。
【0011】
到来電波を受信するアレーアンテナ11の出力は周波数変部12に接続され、周波数変換部12の出力はA/D変換部13に接続されている。A/D変換部13の出力は電波発射源可視化処理演算部14に接続される。電波発射源可視化処理演算部14には、あらかじめアレーアンテナ11の各アンテナ素子の位相振幅特性のデータが補正データテーブル16として保存蓄積されており、到来周波数における補正データを参照して電波到来方向の補正した後、表示装置15に表示する構成になっている。以下上記構成に基づいた動作を説明する。
【0012】
アレーアンテナ11は、例えばT型の半波長ダイポールアンテナが縦と横に同一平面上にN個(N×N Nは正の整数)並んでおり、中心部に基準アンテナが設定されている。この基準アンテナと周囲のアンテナとの出力とを振幅および位相差を比較し、最も電波の強め合う方向を求めることで電波到来方向を算定できる。この方法を電波ホログラフィという。
【0013】
アレーアンテナ11で受信した電波は後段にて接続される電波発射源可視化処理演算部14での処理方式に合わせるために周波数変部12で、ある周波数(例えば21.4MHz)にダウンコンバートされる。周波数変換後の出力を用いてA/D変換部13ではアナログ信号をデジタルに変換する。電波発射源可視化処理演算部14には、あらかじめアレーアンテナ11の各アンテナ素子の位相振幅特性のデータが補正データテーブル16として保存蓄積されており、到来電波の周波数における補正データを読み出すことによってデータを補正処理し電波到来方向を表示装置15に表示する。
【0014】
本発明の補正データテーブル16について説明する。アンテナ平面の中心に垂直な方向から電波を周波数を変えながら放射させ、各アンテナ素子の振幅位相情報を事前に取得する。図2に示す補正データテーブル16は、縦に電波の周波数、横にアレーアンテナ11内のアンテナ素子番号を示している。そして測定された電波の補正すべき振幅位相特性データcal k(N)(kとNは正の整数)が記憶されている。
【0015】
この補正データの作成アルゴリズムの例を示す。N個のアンテナ素子を配置したアレーアンテナを用いて中心周波数fkのA/D変換データを取得し、このA/D変換データ取得をM回繰り返す場合を考える。
【0016】
n番目のアンテナ素子のA/D変換のデータ(サンプル数は任意)をad(n)とする。ad(n)にフーリエ変換を行い、周波数成分に変換する。変換した結果をc(n)とする。
【数1】

【0017】
その後、電波到来方向を推定する際の周波数帯域(中心周波数fk、帯域幅:任意(fh−fl)、ナイキスト周波数以下)に合わせて帯域分c(n)を足し合わせる。足し合わせた結果をe(n)とする。
【数2】

【0018】
これを全てのアンテナ素子(ad_1〜ad_N)で行い、独立のデータ領域で保存する。次に、補正データの信頼性を高めるため、複数回データ取得(M回)を行い足し合わせる。その結果をE(n)とする。
【数3】

【0019】
そしてデータ取得回数分の平均を取り、その結果を補正データ(ca1(n))とする。
【数4】

【0020】
このca1(n)を様々な中心周波数で求め、補正データテーブルとして蓄積しておく。
【0021】
第2図に、本発明の処理フローチャートによって詳細に動作シーケンスを説明する。
【0022】
アレーアンテナ11によって測定したい電波を受信する。(S301)
周波数変部12で、ある周波数にダウンコンバートされる。(S302)
A/D変換部13ではアナログ信号をデジタルに変換する。(S303)
(S302)および(S303)は、後段にて接続される電波発射源可視化処理演算部14での処理方式に合わせるために行われる。
【0023】
A/D変換された信号をFFT(Fast Fourier Transform)することによって到来電波のキャリアの中心周波数を決定する。(S304)
そのキャリア中心周波数の補正データを補正データテーブルから参照する。(S305)
ここで取得したA/D変換データを上述した(式1)と(式2)を用いて同様にデータ加工したものをe'(n)とする。
【0024】
そして、e'(n)にテーブルから参照した補正データを掛け合わせる。その結果をcor(n)とする。
【数5】

【0025】
測定した全てのアンテナに(式5)の演算を行い、cor(n)を用いて電波ホログラフィによる電波到来方向の推定を行う。(S306)
上記のアルゴリズムを行うことによりオフセット誤差を低減することができる。(S307)
このように構成された本発明の実施形態にかかるアンテナ素子間位相補正方式電波発射源可視化装置によれば、電波ホログラフィ等での電波到来方向の推定処理を行う際に、アンテナ素子の振幅位相情報をあらかじめ周波数を変えて測定しておいた補正データテーブルを用いて演算処理を行うことにより、電波到来方向の推定精度を向上させることが可能である。
【0026】
本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で具体化できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例におけるアンテナ素子間位相補正方式電波発射源可視化装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施例におけるアンテナ素子間位相補正方式電波発射源可視化装置の補正データテーブルの例である。
【図3】本発明の一実施例におけるアンテナ素子間位相補正方式電波発射源可視化装置の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0028】
11…アレーアンテナ
12…周波数変換部
13…A/D変換部
14…電波発射源可視化処理演算部
15…表示装置
16…補正データテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
到来電波を受信するアレーアンテナと、
前記アンテナで受信した電波周波数をある決められた周波数に変換する周波数変換部と、
前記周波数変換部で変換されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部によってA/D変換された信号から電波発射源の位置を算出する電波発射源可視化処理演算部と、
前記電波発射源可視処理演算部の出力を表示する表示装置と、
前記電波発射源可視処理演算部内に、該アンテナ面に対し垂直方向から到来する電波の周波数を変えて、前記アレーアンテナの各アンテナ素子の振幅位相特性を事前に測定した補正データテーブルを備え、
電波到来の方向の推定を行う際に前記アレーアンテナで受信した電波のキャリア中心周波数の補正データを前記補正データテーブルから抽出し、該補正データを補正なしのデータに掛け合わせて電波到来方向の推定をすることを特徴とするアンテナ素子間位相補正方式電波発射源可視化装置。
【請求項2】
上記電波発射源可視処理演算部内に電波到来方向の推定結果を補正する補正データテーブルを作成し、蓄積保存および読出しが可能であることを特徴とする請求項1記載のアンテナ素子間位相補正方式電波発射源可視化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−17271(P2007−17271A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198883(P2005−198883)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】