説明

アンテナ装置

【課題】アンテナ自身を傾けることなく、ビーム指向方向を広帯域かつ非対称にすることが可能なアンテナ装置を得る。
【解決手段】誘電体基板1と、誘電体基板1にテーパスロット線路4を構成するために、誘電体基板1の中央線6に対して対称な関係を保つように、対向して誘電体基板1上に設けられた第1および第2の導体2,3と、第1の導体2と第2の導体3とで挟まれた領域として誘電体基板1上に構成され、線路幅が誘電体基板1の中央線6に対して対称な関係を保って漸次広がり、その先端が開放端であるテーパスロット線路4と、テーパスロット線路4の他端に設けられた給電点5に対して設けられ、給電点5に給電する給電手段とを備えたアンテナ装置であって、テーパスロット線路4を構成する第1および第2の導体2,3のどちらか一方に対して切り込み7を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアンテナ装置に関し、特に、テーパスロット線路を有するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーダやセンサ用アンテナとしては、探知、識別性能の向上を図るために広帯域性を有するものが選定されている。その一つに、テーパスロットアンテナが挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図6に特許文献1を参考とした一般的なテーパスロットアンテナの構造を示す。図において、41は誘電体基板、42は誘電体基板41の一方の面上にパターニングされた第1の導体、43は同じく誘電体基板41の一方の面上にパターニングされた第2の導体、44は第1の導体42と第2の導体43との間に構成され、テーパ状に端部が広がったテーパスロット線路、45はマイクロストリップ線路、46はマイクロストリップ線路45の端部に設けられ第1の導体42に導通しているスルーホールである。
【0004】
次に動作に関して説明する。入力信号はマイクロストリップ線路45を介してテーパスロット線路44に電磁結合される。この際、マイクロストリップ線路45はテーパスロット線路44と交差した直後で誘電体基板41中に設けたスルーホール46にて第1の導体42と導通される。このため、入力信号は広帯域に亘って効率的にテーパスロット線路44に電磁結合される。テーパスロット線路44に伝わった信号はテーパスロット線路44の開口端に向かって伝搬し、所望の位置から放射する。なお、低周波数域では開口端に近い側から放射し、高周波数域では逆に給電側から放射する。すなわち、このアンテナはスロット線路幅を開口端に向かうにつれて漸次広げた構造をしているので、空間との整合を広帯域に亘って実現できる特徴がある。なお、本説明ではマイクロストリップ線路45による給電方式を示したが、テーパスロット線路44への給電方式は別形式でも良い。例えば、同軸線路を用いた方式もある。
【0005】
さて、レーダやセンサでは、その使用状況によって周囲環境からの反射の影響を受けることが考えられる。例えば、地上用レーダでは地面、艦船搭載用レーダでは海面からの影響を出来るだけ軽減したい要求がある。このため、地面、海面方向への放射を減らし、覆域方向にのみ放射するアレーアンテナ素子が有効と考えられる。加えて、一般的に、垂直偏波は地面、海面からの影響を受けにくいといわれており、従来から各種レーダ等に用いられている。
【0006】
上述のテーパスロットアンテナの場合、通常、図6にも示すように理想的な放射方向はアンテナ正面となる。このため、地面や海面方向へも放射量が多く、影響を受けやすいこととなる。なお、アンテナを最初から覆域方向に傾けて配置する方法が考えられるが、この場合、構造上複雑となることが予想される。
【0007】
【特許文献1】特開平11−163626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の従来技術の説明にて示したように、一般的なテーパスロットアンテナでの放射方向はアンテナ正面となり、且つ、放射パターン形状もほぼ対称となる。しかしながら、レーダやセンサでは、使用環境によっては地面や海面方向への放射を避け、非対称の覆域が求められるが、上述したような従来技術では対応できないという問題点があった。
【0009】
なお、特許文献1において、そのような場合への対応策として、非対称パターン形状を有するテーパスロットアンテナを説明しているが、当該文献においては、非対称なパターンを得る手法として、アンテナ両側部の誘電体基板にコルゲート構造を設け、その寸法が両者で異なるようにしているため、製造工程が難しく、また、ビーム指向方向に可変にすることができないという問題点があった。
【0010】
この発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、アンテナ自身を傾けることなく、ビーム指向方向を広帯域かつ非対称にすることが可能なアンテナ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、誘電体基板と、前記誘電体基板にテーパスロット線路を構成するために、前記誘電体基板の中央線に対して対称な関係を保つように、対向して前記誘電体基板上に設けられた第1および第2の導体と、前記第1の導体と前記第2の導体とで挟まれた領域として前記誘電体基板上に構成され、線路幅が前記誘電体基板の中央線に対して対称な関係を保って漸次広がり、その先端が開放端であるテーパスロット線路と、前記テーパスロット線路の他端に設けられた給電点に対して設けられ、前記給電点に給電する給電手段とを備えたアンテナ装置であって、前記テーパスロット線路を構成する前記第1および第2の導体のどちらか一方に対して切り込みを設けたことを特徴とするアンテナ装置である。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、誘電体基板と、前記誘電体基板にテーパスロット線路を構成するために、前記誘電体基板の中央線に対して対称な関係を保つように、対向して前記誘電体基板上に設けられた第1および第2の導体と、前記第1の導体と前記第2の導体とで挟まれた領域として前記誘電体基板上に構成され、線路幅が前記誘電体基板の中央線に対して対称な関係を保って漸次広がり、その先端が開放端であるテーパスロット線路と、前記テーパスロット線路の他端に設けられた給電点に対して設けられ、前記給電点に給電する給電手段とを備えたアンテナ装置であって、前記テーパスロット線路を構成する前記第1および第2の導体のどちらか一方に対して切り込みを設けたことを特徴とするアンテナ装置であるので、アンテナ自身を傾けることなく、ビーム指向方向を広帯域かつ非対称にすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態に係るアンテナ装置について説明する。以下に説明する実施の形態では、送信にも受信にも対応できるアンテナ構造を例に挙げて説明する。
【0014】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1を示すアンテナ装置の基本構成を示すものである。図において、1は略々矩形の板状形状を有する誘電体基板、2は誘電体基板1のどちらか一方の面(主面)に形成された第1の導体、3は第1の導体2と同一面内に形成された第2の導体、4は第1の導体2と第2の導体3とで挟まれた領域として構成されるテーパスロット線路、5は給電点であり便宜上基準点とする。6は基準点5を通るテーパスロット線路の中央線、7はテーパスロット線路途中の導体部分に設けられた切り欠きである。第1の導体2および第2の導体3は、それぞれ、楕円形を長軸と短軸に沿って切ったときの1/4の形状に似た形を有している。そのため、それらの間に形成されたテーパスロット線路4は、基準点5に近い部分では直線を描き、開口端に向かって、曲線を描きながら徐々にテーパ状に開いた形状となっている。従って、直線部と曲線部とに分かれている。
【0015】
次に、動作について送信系を想定して説明する。基準(給電)点5にてスロット線路に入力された信号はテーパ状スロット線路4を伝搬し、周波数帯によって異なるがテーパスロット線路4の所望の位置から放射される。なお、低周波数域では開口端に近い側から放射し、高周波数域では逆に給電側から放射する。テーパスロット線路4への給電方法は特に問わないので、用途、あるいは後段に接続されるモジュール等への接続の容易なものを選択できる。
【0016】
ここで、切り欠き7が設けられていない場合を想定すると、テーパスロット線路4を構成する第1の導体2と第2の導体3それぞれの曲線部が中央線6に対して対称な構造をしていることになる。そのとき、テーパスロット線路4の端部、すなわち、第1の導体2および第2の導体3の曲線部近傍であって、基準点5から等距離の位置に、等振幅で逆相の電流が流れる。この電流に起因して発生する電界も中央線6近傍ではそれに直交したベクトル方向を維持しつつテーパスロット線路4内を伝搬し、アンテナ正面方向、すなわち、中央線6に平行な水平方向に直交した偏波方向をもって放射される。
【0017】
この発明の本実施の形態1に係るアンテナ装置では、図1のように、第1の導体2の曲線部の所望の位置にて導体に切り欠き7を設けている。これにより、切り欠き7部分にて電流経路が迂回していることとなり、そこで位相が遅れる。この結果、切り欠き7以降で、かつ、基準点5からの等距離にある第1の導体2および第2の導体3の曲線部の位置の電流は逆相の関係ではなくなっている。故に、テーパスロット線路4内を伝搬する電界は、中央線6とは直交でない傾きを持って伝搬し、所望の位置で放射される。結果として、図1に示すようにある傾きをもった方向に放射がなされ、ビーム指向方向がアンテナ正面からチルト(非対称パターン形状のこと)する。このように、本実施の形態1においては、アンテナ装置自体を傾けずにビーム指向方向をチルトできるので、機構的負担が小さい利点がある。
【0018】
また、切り欠き7を設ける位置を基準点5側に近づけることで、広帯域に亘ってビーム指向方向がチルト可能である。
【0019】
さらに、図1では、切り欠き7を中央線6に対して直交する方向に設けているが、この方向は任意でもよく、その形状も矩形に限ったものではない。
【0020】
加えて、切り欠き7を設ける導体は第1の導体2でなく第2の導体3でもかまわない。その場合は、ビーム指向方向が中央線6を対称軸とした反対側にチルトする。
【0021】
以上のように、本実施の形態1においては、誘電体基板1の中央線に対して対称な関係を保って漸次広がるように形成された第1の導体2および第2の導体3と、それらに挟まれた領域として構成されて、先端が開放端であるテーパスロット線路4と、テーパスロット線路4の他端に設けられ、テーパスロット線路に給電するための基準(給電)点5とを備えたテーパスロットアンテナであって、テーパスロット線路4を形成する第1の導体2および第2の導体3のどちらか一方の導体において、基準(給電)点5から開放端までの間に切り込み7を設けるようにしたので、アンテナ装置自体を傾けずにビーム指向方向をチルトできるので、製造工程が容易であるとともに、機構的負担が小さい。また、広帯域のチルトも可能である。
【0022】
実施の形態2.
上述の実施の形態1では、誘電体基板1の一方の面にテーパスロット線路4の片側端部曲線内に切り欠き7が構成されたアンテナ装置に関して説明したが、本実施の形態2においては、誘電体基板1の表裏面にパターニングされた導体を一対とみなして、テーパスロット線路の片側端部曲線内に切り欠きが構成されるアンテナ装置に関して説明する。
【0023】
図2は、この発明の実施の形態2に係るアンテナ装置の構成を示すものである。図において、11は誘電体基板、12は誘電体基板11の表面に構成された第1の導体、13は誘電体基板11の裏面に構成された第2の導体、14は第1の導体12及び第2の導体13の一部を一対とみなして構成された平行2線、15は第1の導体12及び第2の導体13の対向する曲線部にて構成されるテーパスロット線路、16は第1の導体12の一部で構成されるストリップ線路と第2の導体13の一部で構成される地導体とを組み合わせて構成されたマイクロストリップ線路、17は平行2線14とマイクロストリップ線路16とを繋ぐ平衡−不平衡変換部(テーパバラン)、18はテーパスロット線路15途中に設けられた切り欠きである。
【0024】
すなわち、本実施の形態2においては、図2に示すように、誘電体基板の表面および裏面に、幅が等しく、かつ、お互いが重なるように導体線を配置して平行2線14を構成し、この平行2線14の先端(開放端)は、互いに逆の方向に向かうように曲線上に曲がって延びており、その延長部分が、第1の導体12および第2の導体13となっている。第1の導体12は、図中左上方向に向かって曲がっており、第2の導体13は図中左下方向に向かって曲がっている。また、第1の導体12および第2の導体13は、それぞれ、その延長方向に対して漸次広がるように、第1の導体12および第2の導体13部分の幅を漸次変化させながら延長させた構造としてパターニングした放射部となっている。このように、第1の導体12および第2の導体13が誘電基板11上に設けられているので、これらの導体に囲まれた部分は、テーパスロット線路15が形成される。また、テーパスロット線路15を構成する第1の導体12および第2の導体13のどちらか一方の導体線内側における平行2線14の給電点から開放端までの間の所望位置にて、所望の長さを持つ切込み18を設けられている。図2の例では、第2の導体13内に、切込み18が形成されている。また、図示は省略しているが、マイクロストリップ線路16の他方の先端(給電点)には、マイクロストリップ線路16への給電手段(給電点)が設けられている。
【0025】
次に動作について説明する。上述したように、平行2線14のアンテナ開口側端部(開口端)は、第1の導体12と第2の導体13とがそれぞれ重ならない方向に曲線を描きつつ、且つ、導体幅を変化させてパターニングされている。これにより、図に示すように、第1の導体12と第2の導体13とを対にしてテーパスロット線路15が構成される。一方、平行2線14の給電側端部(給電点)は、第1の導体12および第2の導体13を一対とみなしてテーパバラン17、さらに、マイクロストリップ線路16へと繋がっている。この構造を取ることにより、マイクロストリップ線路16の給電側端部から入力された信号(図の紙面に垂直な方向の電界)は、マイクロストリップ線路16からテーパバラン17を介して効率的に平行2線14に伝搬する。続いて、平行2線14から第1の導体12及び第2の導体13が徐々に広がりをもってテーパスロット線路15を構成しているため、途中で電磁結合させることなくスムーズにテーパスロット線路15に給電が可能である。テーパスロット線路15内を伝搬するにつれて、電界は徐々に回転し、図の紙面にほぼ平行な方向となる。その後、さらにテーパスロット線路15内を伝搬し所望の位置から放射がなされ、図の紙面にほぼ平行な方向の直線偏波を発生するテーパスロットアンテナとして動作する。
【0026】
ここで、図2のように第2の導体13の曲線部の所望の位置にて導体に切り欠き18を設けているので、これにより、切り欠き18部分にて電流経路が迂回していることとなり、そこでテーパスロット端部を流れる位相が遅れる。この結果、切り欠き18以降で、かつ、平行2線14からの等距離にある第1の導体12および第2の導体13の曲線部の位置の電流は逆相の関係ではなくなる。故に、テーパスロット線路15内を伝搬する電界は、テーパスロット線路15の中央線とは直交でない傾きを持って伝搬し、所望の位置で放射される。結果として、図1と同様に、ある傾きをもった方向に放射がなされ、ビーム指向方向がアンテナ正面からチルトする。以上より、アンテナ自体を傾けずにビーム指向方向をチルトできるので、機構的負担が小さいという利点がある。
【0027】
また、切り欠き18を設ける位置を平行2線14側に近づけることで、広帯域に亘ってビーム指向方向がチルト可能である。
【0028】
さらに、切り欠き18を設ける方向、形状共に、図2に限定するものではない。加えて、切り欠き18を設ける導体は、第2の導体13でなく、第1の導体12でもかまわない。その場合は、ビーム指向方向がテーパスロット線路15の中央線を伸長した線分を軸として先ほどとは反対側にチルトする。
【0029】
マイクロストリップ線路16からテーパスロット線路15までを誘電体基板による導体のパターニングのみの構成で容易に製造できる利点もある。また、マイクロストリップ線路による給電であるので、アンテナ後段に接続されるモジュール等への接続が容易であり、アンテナ基板へのモジュール一体実装も可能である。
【0030】
以上のように、本実施の形態においては、誘電体基板11の表面および裏面に、幅が等しく、かつ、(上から見たときの)お互いの位置が重なるように導体線を配置して平行2線14を構成し、この平行2線14の先端部分であって、その延長方向に対して漸次幅が広がるように、表面および裏面内の導体部分をその幅を漸次変化させながら延長させて構成された第1および第2の導体12、13と、平行2線14、第1および第2の導体12、13とで挟まれた領域として構成され、線路幅が誘電体基板1の中央線に対して対称な関係を保って漸次広がり、その先端が放射部(開口端)であるテーパスロット線路15を設け、テーパスロット線路15への給電手段(給電点)を平行2線14の端部に備えたテーパスロットアンテナであって、テーパスロット線路15を構成する第1および第2の導体12および13のどちらか一方の導体線内側において、平行2線14の給電点から開放端までの間に切込み18を設けるようにしたので、アンテナ装置自体を傾けずにビーム指向方向をチルトできるので、製造工程が容易であるとともに、機構的負担が小さい。また、広帯域のチルトも可能である。
【0031】
実施の形態3.
上述の実施の形態2では、誘電体基板の表面および裏面にパターニングされた導体を一対とみなしてテーパスロット線路を構成し、その一方の導体途中に切り欠きを構成しているアンテナ装置に関して述べたが、本実施の形態3においては、テーパスロット線路を構成する両導体に切り欠きおよびこの切り欠きの短絡/開放を切り替えるスイッチを設けた構造のアンテナ装置について説明する。
【0032】
図3は、本実施の形態3を示すテーパスロットアンテナの構造を示すものである。図において、21は誘電体基板、22は誘電体基板21の裏面に構成された第1の導体、23は誘電体基板21の表面に構成された第2の導体、24はスロット線路途中の第1の導体22内に設けられた切り欠き、25は切り欠き24上に装荷されたスイッチ、26はスロット線路途中の第2の導体23内に設けられた切り欠き、27は切り欠き26上に装荷されたスイッチである。なお、第1の導体22および第2の導体23の形状は、基本的に、図2に示した第1の導体12および第2の導体13の形状と同じであるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0033】
次に、動作について説明する。マイクロストリップ線路により給電するタイプのテーパスロットアンテナとしての基本的な動作は実施の形態2にて説明しているので、ここでは省略する。ここで、図3のように、第1の導体22および第2の導体23の曲線部の所望の位置において、それぞれ切り欠き24および切り欠き26を設けている。これら切り欠きの効果は、上述の実施の形態2にて説明した通り、切り欠き部にて電流経路が迂回しており、テーパスロット端部を流れる位相が遅れる。この現象により、テーパスロット線路内を伝搬する電界に傾きが生じ、放射した際にビーム指向方向がチルトする。ところで、切り欠き24および切り欠き26には、それぞれ切り欠き部の短絡/開放を切り替えるためのスイッチ25およびスイッチ27が装荷されており、これらは交互にON/OFF状態を切り替える。この動作で、切り欠き24が開放のとき、切り欠き26は短絡、逆に、切り欠き24が短絡のとき、切り欠き26は開放となる。従って、スイッチを装荷したことで、第1の導体22と第2の導体23で切り欠きの効果を切り替えることが可能なため、ビーム指向方向を切り替えることが可能となる。アンテナ自体を傾けずに、かつ、素子単体にてビーム指向方向を切り替えられるので、機構的負担が小さく、省スペースで実現できるという効果も有する。
【0034】
また、スイッチとしては、半導体スイッチやMEMSスイッチの適用が考えられる。図3では各切り欠きにスイッチを2個ずつ設けているが、スイッチの個数に制限はなく、任意の個数を設けることが可能である。
【0035】
さらに、図3では、第1の導体22と第2の導体23の両方に、切り欠き24およびスイッチ25と、切り欠き26およびスイッチ27とを備えているが、例えば、第1の導体22にのみ切り欠き24とスイッチ25を設け、第2の導体23には設けない構造としても、スイッチ25のON/OFF状態切り替えにより放射パターンを対称形状と非対称形状としたものとに切り替えられる。また、第2の導体23側にのみ設けた場合は、チルトする方向が前記とは異なる放射パターンの切り替えが可能である。
【0036】
また、図4は、本実施の形態3の変形例を示したものであり、スイッチを装荷した切り欠き部を各導体内に複数設けたテーパスロットアンテナの構造を示すものである。図において、28は、開口端に近い位置に形成されて、低周波数帯で効果のある切り欠きおよびスイッチ、29は、28よりも給電点に近い位置に形成されて、高周波数帯で効果のある切り欠きおよびスイッチである。
【0037】
図4の動作について説明する。マイクロストリップ線路により給電し、ビーム指向方向の切り替えが可能なテーパスロットアンテナとしての基本的な動作は前記にて説明しているので、ここでは省略する。この変形例においては、図4に示すように、切り欠きおよびスイッチ28はアンテナ開口側に設けられているので、低周波数帯にて動作し、切り欠きおよびスイッチ29は逆に給電側に設けられているので、高周波数帯にて動作するものである。これにより、28または29のいずれかを用いるように切り替えることにより、広帯域に亘ってビーム指向方向を切り替えられる利点がある。なお、切り欠きおよびスイッチの個数に限りはなく、設けた数が多いほど広帯域性が増すことになる。
【0038】
なお、上述の説明においては、28か29のいずれかを用いるように切り替える例について説明したが、その場合に限らず、第1の導体側の切り込みを全てONにし、第2の導体側の切り込みを全てOFFにする(または、その逆)ように切り替えを行ってもよい。
【0039】
また、切り込みの長さは適宜変更可能であり、また、装荷する個数も、第1の導体側と第2導体側で異なっていてもよく、長さおよび装荷する個数の異なる切り込みおよびスイッチの任意の組み合わせを適用してもよい。
【0040】
以上のように、本実施の形態においては、実施の形態2と同様に、誘電体基板21の表面および裏面に、幅が等しく、かつ、お互いが重なるように導体線を配置して平行2線を構成し、この平行2線の先端は、その延長方向に対して漸次広がるように、表面および裏面内の第1の導体22および第2の導体23部分をその幅を漸次変化させながら延長させた構造としてパターニングした放射部(開口端)を有するとともに、他の先端に、テーパスロット線路への給電手段(給電点)を備えたテーパスロットアンテナであって、テーパスロット線路を構成する第1の導体22および第2の導体23の導体線それぞれの内側において、平行2線の給電点から開放端までの間に切込みを設け、両切り込み部分に短絡/開放状態の切り替え手段を備えるようにしたので、上述の実施の形態2と同様の効果が得られるとともに、さらに、本実施の形態においては、スイッチを装荷したことで、第1の導体22と第2の導体23で切り欠きの効果を切り替えることが可能なため、ビーム指向方向を切り替えることが可能となる。
【0041】
なお、本実施の形態3においては、実施の形態2と同様の構成に対してスイッチを設ける例について説明したが、その場合に限らず、図1に示した実施の形態1の構成に本実施の形態3で説明したスイッチを適用してもよい。
【0042】
実施の形態4.
上述の実施の形態3では、切り欠きおよびスイッチを設けたテーパスロットアンテナにより放射方向を切り替えることが可能な構造のアンテナ装置について述べたが、本実施の形態では、実施の形態3で述べた、ビームチルトを可能にするテーパスロットアンテナを素子とするアレーアンテナに関して説明する。
【0043】
図5は、本実施の形態4を示すものであり、テーパスロットアンテナを素子アンテナとするアレーアンテナの概念構造を示すものである。図において、31は反射板、32は素子アンテナ、33はアレーパターン指向方向である。図5に示すように、素子アンテナ32が、反射板31の片側の面に略々格子状に複数個配置されている。但し、縦1列おきに、その高さ位置がずれるように配置されているため、隣接する素子アンテナ同士は、高さ方向に部分的に重なるように配置されている。
【0044】
次に、動作について説明する。反射板31の後段にはアンプ、移相器等が組み込まれたモジュールや分配/合成回路等が配置され、アクティブフェーズドアレーアンテナを構成する。素子アンテナ32における給電からビームチルトする放射機構、およびビームチルト方向を可変する機構に関しては、前記の実施の形態にて説明しているので省略する。各素子アンテナはビーム指向方向が地面より斜め上方にチルトした放射を実現できるので、指向性合成によるアレーパターンも、その方向で従来に比べて利得の上昇が図れる。また、さらに上方にビーム走査を行っても従来に比べて利得低下を減らすことができる。さらに、地面への不要放射も低減でき、反射波等による性能劣化を防ぐことも可能である。
【0045】
図5では、反射板31のような平面上に素子アンテナ32を配置しているが、これに限ったものではなく、用途に寄っては、例えば曲面上や多面体上に3次元的に配置しても良い。また、簡易形として1次元に配列しても問題ない。
【0046】
また、図5において、平行2線に給電する機構は、反射板31の裏面側に構成されている。この場合、反射板には、平行2線と導通しないように適度な大きさの穴が設けられている。この穴形状は任意で良く、例えば素子アンテナ32を反射板31の全面から抜き差しできるようにスロット状に形成しても良い。
【0047】
さらに、水平偏波を放射するように素子アンテナ32を地面に対して水平に配置することで、ビームチルト方向を水平面内で切り替えることも可能となる。
【0048】
以上のように、本実施の形態においては、実施の形態3で示したテーパスロットアンテナを素子アンテナとして、それらを複数配置してアレーアンテナを構成するようにしたので、上記の実施の形態3と同様の効果が得られ、各素子アンテナはビーム指向方向が地面より斜め上方にチルトした放射を実現できるので、指向性合成によるアレーパターンも、同方向において、従来に比べ、利得の上昇が図れる。また、さらに上方にビーム走査を行っても、従来に比べ、利得低下を減らすことができる。さらに、地面への不要放射も低減でき、反射波等による性能劣化を防ぐことも可能である。
【0049】
なお、本実施の形態においては、実施の形態3で示したテーパスロットアンテナを素子アンテナとして、それらを複数配置してアレーアンテナを構成するようにした例について説明したが、実施の形態1および2のテーパスロットアンテナを素子アンテナとして、それらを複数配置してアレーアンテナを構成するようにしてもよく、その場合も同様の効果が得られることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の実施の形態1に係るアンテナ装置の構成を示した平面図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係るアンテナ装置の構成を示した平面図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係るアンテナ装置の構成を示した平面図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係るアンテナ装置の変形例の構成を示した平面図である。
【図5】この発明の実施の形態4に係るアンテナ装置の構成を示した平面図である。
【図6】従来の一般的なテーパスロットアンテナの構造を示した説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1,11,21,41 誘電体基板、2,12,22,42 第1の導体、3,13,23,43 第2の導体、4,15,44 テーパスロット線路、5 基準点(給電点)、6 中央線、7,18,24,26 切り欠き、14 平行2線、25,27 スイッチ、31 反射板、32 素子アンテナ、33 ビーム、45 マイクロストリップ線路、46 スルーホール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、
前記誘電体基板にテーパスロット線路を構成するために、前記誘電体基板の中央線に対して対称な関係を保つように、対向して前記誘電体基板上に設けられた第1および第2の導体と、
前記第1の導体と前記第2の導体とで挟まれた領域として前記誘電体基板上に構成され、線路幅が前記誘電体基板の中央線に対して対称な関係を保って漸次広がり、その先端が開放端であるテーパスロット線路と、
前記テーパスロット線路の他端に設けられた給電点に対して設けられ、前記給電点に給電する給電手段と
を備えたアンテナ装置であって、
前記テーパスロット線路を構成する前記第1および第2の導体のどちらか一方に対して切り込みを設けたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
誘電体基板と、
前記誘電体基板の第1の面および前記第1の面に対向する第2の面に、線路幅が等しく、かつ、お互いの位置が重なるように配置された導体線から構成された平行2線と、
前記平行2線の先端部分であって、前記誘電体基板の中央線に対して対称な関係を保ちながらその延長方向に対して漸次広がるように前記第1および第2の面の前記導体線の幅を漸次変化させながら延長させて構成された第1および第2の導体と、
前記平行2線、前記第1の導体、および、前記第2の導体とで挟まれた領域として前記誘電基板上に構成され、線路幅が前記誘電体基板の中央線に対して対称な関係を保って漸次広がり、その先端が開放端であるテーパスロット線路と、
前記テーパスロット線路の他端に設けられた給電点に対して設けられ、前記給電点に給電する給電手段と
を備えたアンテナ装置であって、
前記テーパスロット線路を構成する前記第1および第2の導体のどちらか一方に対して切り込みを設けたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項3】
前記切り込みに対して設けられ、前記切り込みの短絡/開放の状態の切り替えを行う切り替え手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記切り込みは複数個設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアンテナ装置を素子アンテナとして、それらを複数個配置したことを特徴とするアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−294732(P2008−294732A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137901(P2007−137901)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】