説明

アンテナ装置

【課題】回路規模が増大することなく3周波数に対応でき、しかも障害物によるアンテナ効率劣化の少ないアンテナ装置を提供する。
【解決手段】第1のアンテナ素子15を第1,第2の分岐素子15A,15Bの分岐構造とし、第2のアンテナ素子16を第3,第4の分岐素子16A,16Bの分岐構造とし、第1,2のアンテナ素子15,16の間に周波数の増加に対してサセプタンスが増加する低結合回路17を設ける。また、第1,2のアンテナ素子15,16は、第1,2の周波数間と、第2,3の周波数間にアドミタンス行列のY12成分の共振を有し、第1,3の分岐素子15A,16Aは、第1,2の周波数間のアドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1であり、第2,4の分岐素子15B,16Bは、第2,3の周波数間のアドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチバンド対応の携帯端末に用いて好適なアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯端末では、大容量のデータ伝送方式に対応するため、複数のアンテナ素子の使用が検討されている。現セルラ方式のみでも、800MHz、1.5GHz、1.7GHz、2.0GHzが使用されていることもあって、マルチバンドに対応できるアンテナの開発が望まれている。小型の携帯端末に複数のアンテナ素子を搭載する場合、アンテナ素子間の結合劣化が生じないように、アンテナ素子間で高いアイソレーションを確保する必要がある。特に、アンテナ素子間の結合劣化が生じないような対策を施しても、携帯端末を手で保持したときに(すなわち手保持状態にあるときに)アンテナ効率が劣化するようでは意味を成さないため、そのような場合でもアンテナ効率の劣化が少ない低結合方式が求められる。
【0003】
特許文献1には、2つのアンテナ素子の間にフィルタ等の接合素子を介挿して低結合化する技術が開示されている。また、非特許文献1には、1つの共振周波数を持つ2素子モノポールアンテナに2個の集中定数を設けて、最大2周波数で低結合化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0265146号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】信学技報,vol.110, no.347, AP2010-118, pp.1-5 「近接配置した2素子低結合アンテナのアンテナ効率改善」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1で開示された技術では、1周波数でしか低結合化することができず、多周波数に対応させるようにすると、(1)スイッチやフィルタの追加による回路規模の増大、(2)切替方式の場合、多周波数の同時使用ができない、という課題があり、さらに、手保持状態など、低結合化時にアンテナの周辺に障害物があった場合のアンテナ効率への影響が考慮されていない。
【0007】
また、上述した非特許文献1で開示された技術では、2周波数で低結合化ができるものの、3周波数に対応させる場合、スイッチ等の切替手段で低結合化回路を切替える必要があり、回路規模が増大するという課題がある。
【0008】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、回路規模が増大することなく3周波数に対応でき、しかも障害物によるアンテナ効率劣化の少ないアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアンテナ装置は、グランドパターンを有する回路基板と、導電性金属で構成され、第1の分岐素子と、前記第1の分岐素子より電気長の短い第2の分岐素子を有する第1のアンテナ素子と、導電性金属で構成され、第3の分岐素子と、前記第3の分岐素子より電気長の短い第4の分岐素子を有する第2のアンテナ素子と、を備え、前記第1のアンテナ素子及び前記第2のアンテナ素子は、前記回路基板のグランドパターンと所定の間隔を隔てて互いに近接して配置されるとともに、前記回路基板に配置される第1の給電部及び第2の給電部に第1の整合部及び第2の整合部を介してそれぞれ電気的に接続され、前記第1のアンテナ素子の一部と前記第2のアンテナ素子の一部、又は前記第1の整合部と前記第2の整合部、又は前記第1の給電部と前記第2の給電部を電気的に接続する複数の所望周波数に対応した低結合回路を有し、前記複数の所望周波数を低周波から高周波へ、第1の周波数、第2の周波数、第3の周波数とした場合、前記第1のアンテナ素子及び第2のアンテナ素子は、前記第1の周波数と前記第2の周波数間と、前記第2の周波数と前記第3の周波数間に、アドミタンス行列のY12成分の共振を有し、前記第1の分岐素子と前記第3の分岐素子は、前記第1の周波数と前記第2の周波数間の前記アドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1であり、前記第2の分岐素子と前記第4の分岐素子は、前記第2の周波数と前記第3の周波数間の前記アドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1である。
【0010】
上記構成によれば、第1,第2のアンテナ素子のそれぞれを分岐形状とするとともに、第1,第2のアンテナ素子を近接配置して、これらのアンテナ素子間又は給電点間に、周波数の増加に対してサセプタンスが増加する構成の低結合回路を設けたので、少ない部品数で低結合周波数を3周波数に拡張させることができる。従来の分岐のない1共振アンテナ素子では、1個の集中定数で2周波数が限界であったが、本発明では3周波数に対応させることができる。
【0011】
また、上記構成によれば、スイッチ等で回路定数を切替えることがないので、全周波数の同時使用が可能である。
また、上記構成によれば、第1,第2の給電部における電流ピークが低結合回路部分に分散するので、ピークSAR(Specific Absorption Rate、比吸収率)を低減できる。
また、上記構成によれば、低結合回路をアンテナ系中心に配置することで、周囲の影響を受け難くできる。
【0012】
上記構成において、前記第1の周波数、前記第2の周波数、前記第3の周波数で、前記アドミタンス行列のY12成分の実部が−30mS以上、+30mS以下の範囲にあり、かつ、前記アドミタンス行列のY12成分の虚部が、前記第1の周波数、前記第2の周波数、前記第3の周波数の順に増加する。
【0013】
上記構成によれば、3周波数で低結合化することができる。
【0014】
上記構成において、前記低結合回路は、前記第1の周波数、前記第2の周波数、前記第3の周波数で、前記アドミタンス行列のY12成分の虚部と同値となるサセプタンス値を有し、前記第1の給電部と前記第2の給電部間での電磁的結合を低減する機能を有する。
【0015】
上記構成によれば、3周波数で低結合化することができる。
【0016】
上記構成において、前記第1のアンテナ素子及び前記第2のアンテナ素子において、誘電体又は磁性体を装荷すること、素子端部又は内部にインダクタを挿入すること、メアンダ形状にすることのうち少なくともいずれか一手法を用いる。
【0017】
上記構成によれば、第1,第2のアンテナ素子の小型化を図ることができる。
【0018】
上記構成において、前記低結合回路は、インダクタ単体、キャパシタ単体、インダクタとキャパシタの並列回路、インダクタとキャパシタの並列回路と直列のインダクタ、インダクタとキャパシタの並列回路と直列のキャパシタ、インダクタとキャパシタの並列回路2つの直列接続のうちいずれか一回路構成により実現する。
【0019】
上記構成によれば、周波数に対してサセプタンスを増加させることができる。また、低結合回路は最低1個の部品で構成できるので、低結合回路を設けることによるコスト上昇を最小限に抑えることができる。
【0020】
本発明の携帯無線機は、前記アンテナ装置を搭載した。
【0021】
上記構成によれば、3周波数に対応できる携帯無線機を実現できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、回路規模が増大することなく3周波数に対応でき、しかも障害物によるアンテナ効率劣化を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係るアンテナ装置を示す概略構成図
【図2】図1のアンテナ装置に用いられるインダクタ単体とした低結合化回路のサセプタンスの周波数特性を示す図
【図3】図1のアンテナ装置に用いられるキャパシタ単体とした低結合化回路のサセプタンスの周波数特性を示す図
【図4】図1のアンテナ装置に用いられるインダクタとキャパシタの並列回路とした低結合化回路のサセプタンスの周波数特性を示す図
【図5】図1のアンテナ装置に用いられるインダクタとキャパシタの並列回路と直列のインダクタとした低結合化回路のサセプタンスの周波数特性を示す図
【図6】図1のアンテナ装置に用いられるインダクタとキャパシタの並列回路と直列のキャパシタとした低結合化回路のサセプタンスの周波数特性を示す図
【図7】図1のアンテナ装置に用いられるインダクタとキャパシタの並列回路2つの直列接続とした低結合化回路のサセプタンスの周波数特性を示す図
【図8】図1のアンテナ装置において、図4の低結合回路を用いた場合のアンテナ素子単体のアドミタンスと低結合回路のサセプタンスそれぞれの周波数特性を示す図
【図9】図8におけるアドミタンスをSパラメータで表した周波数特性を示す図
【図10】図1のアンテナ装置の第1,第2のアンテナ素子の等価回路及びインダクタとキャパシタの並列回路とした低結合回路の具体例を示す図
【図11】図10の具体例におけるSパラメータの周波数特性を示す図
【図12】図10の具体例におけるアンテナ効率の周波数特性を示す図
【図13】図1のアンテナ装置の電流分布を示す図
【図14】図1のアンテナ装置の第1,第2のアンテナ素子に誘電体(又は磁性体)を配置した例を示す図
【図15】図1のアンテナ装置の第1,第2のアンテナ素子の第1,第3の分岐素子のそれぞれの素子中にインダクタを介在させた例を示す図
【図16】図1のアンテナ装置の第1,第2のアンテナ素子の第1,第3の分岐素子のそれぞれをメアンダ形状にした例を示す図
【図17】図1のアンテナ装置の変形例(1)の概観を示す斜視図
【図18】図17の変形例(1)の第1,第2のアンテナ素子を示す展開図
【図19】図17の変形例(1)の第1,第2のアンテナ素子を示す斜視図
【図20】図17の変形例(1)におけるアンテナ素子単体のアドミタンスと低結合回路のサセプタンスそれぞれの周波数特性を示す図
【図21】図1のアンテナ装置の変形例(2)の概観を示す斜視図
【図22】図21の変形例(2)の第1,第2のアンテナ素子を示す展開図
【図23】図21の変形例(2)の第1,第2のアンテナ素子を示す斜視図
【図24】図21の変形例(2)におけるアンテナ素子単体のアドミタンスと低結合回路のサセプタンスそれぞれの周波数特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施の形態に係るアンテナ装置を示す概略構成図である。同図において、本実施の形態のアンテナ装置1は、グランドパターン(図示略)を有し、第1,第2の無線回路部11,12が設けられた回路基板10と、分岐構造の第1のアンテナ素子15と、分岐構造の第2のアンテナ素子16と、第1のアンテナ素子15と第2のアンテナ素子16との間に設けられた低結合回路17と、第1,第2の整合部18,19と、第1,2の給電部20,21とを備える。
【0026】
第1のアンテナ素子15は、導電性金属で構成され、第1の分岐素子15Aと第1の分岐素子15Aより電気長の短い第2の分岐素子15Bとを有する。第2のアンテナ素子16は、導電性金属で構成され、第3の分岐素子16Aと、第3の分岐素子16Aより電気長の短い第4の分岐素子16Bとを有する。第1のアンテナ素子15及び第2のアンテナ素子16は、回路基板10のグランドパターン(図示略)と所定の間隔を隔てて互いに近接して配置されるとともに、回路基板10に配置された第1の給電部20及び第2の給電部21に第1の整合部18及び第2の整合部19を介してそれぞれ電気的に接続される。低結合回路17は、複数の所望周波数に対応し、第1のアンテナ素子15の基端部(一部)と第2のアンテナ素子16の基端部(一部)を電気的に接続する。
【0027】
第1のアンテナ素子15及び第2のアンテナ素子16は、複数の所望周波数を低周波から高周波へ、第1の周波数、第2の周波数、第3の周波数とした場合に、第1の周波数と第2の周波数間と、第2の周波数と第3の周波数間に、アドミタンス行列のY12成分の共振を有する。第1の分岐素子15Aと第3の分岐素子16Aは、第1の周波数と第2の周波数間のアドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1となっており、第2の分岐素子15Bと第4の分岐素子16Bは、第2の周波数と第3の周波数間のアドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1となっている。
【0028】
低結合回路17は、周波数増加に対しサセプタンスが増加する回路である。低結合回路17は、例えば、インダクタ単体、キャパシタ単体、インダクタとキャパシタの並列回路、インダクタとキャパシタの並列回路と直列のインダクタ、インダクタとキャパシタの並列回路と直列のキャパシタ、インダクタとキャパシタの並列回路2つの直列接続のうちいずれか一回路構成により実現される。
【0029】
図2〜図7は、前記各回路構成における低結合回路17のサセプタンスの周波数特性を示す図である。すなわち、図2はインダクタ単体としたときのサセプタンスの周波数特性、図3はキャパシタ単体としたときのサセプタンスの周波数特性、図4はインダクタとキャパシタの並列回路としたときのサセプタンスの周波数特性、図5はインダクタとキャパシタの並列回路と直列のインダクタとしたときのサセプタンスの周波数特性、図6はインダクタとキャパシタの並列回路と直列のキャパシタとしたときのサセプタンスの周波数特性、図7はインダクタとキャパシタの並列回路2つの直列接続としたときのサセプタンスの周波数特性である。低結合回路17は、最低1個の部品(インダクタ単体又はキャパシタ単体)で構成できるので、これを設けることによるコスト上昇を最小限に抑えることができる。なお、低結合回路17は、第1の整合部18と第2の整合部19の間、又は、第1の給電部20と第2の給電部21の間を電気的に接続するようにしても構わない。
【0030】
図8は、図4に示す回路構成の低結合回路17を用いた場合のアンテナ素子単体のアドミタンスと低結合回路17のサセプタンスそれぞれの周波数特性を示す図である。同図において、アンテナ素子単体のアドミタンス行列のY12成分の実部(Re(Y12))の周波数特性を1点鎖線で示しており、アンテナ素子単体のアドミタンス行列のY12成分の虚部(Im(Y12))の周波数特性を2点鎖線で示している。また、低結合回路17のサセプタンスの周波数特性を実線で示している。この場合、前述した図4と同じ特性となる。所望の周波数において、アドミタンス行列のY12成分の実部Re(Y12)≒0、且つアドミタンス行列のY12成分の虚部Im(Y12)=低結合回路17のサセプタンス値と同じになる値を満たす条件のときに低結合化が可能となる。図8に示す例では、900MHz、1700MHz、2600MHzのときに前記条件を満たす。
【0031】
図9は、図8におけるアドミタンスをSパラメータで表した周波数特性を示す図である。同図において、整合を表すSパラメータ(S11)の周波数特性を1点鎖線で示しており、結合を表すSパラメータ(S12)の周波数特性を2点鎖線で示している。900MHz、1700MHz、2600MHzの3周波数のそれぞれに対して低結合がなされているのが分かる。
【0032】
アドミタンス行列のY12の2共振以上を発生させるためにはアンテナ素子単体では実現できないが、アンテナ素子を分岐構造とすることで、Y12の2共振以上を発生させることが可能となる。そのようなことから、本実施の形態のアンテナ装置1では、第1のアンテナ素子15及び第2のアンテナ素子16のそれぞれを分岐構造としている。本実施の形態のアンテナ装置1では、3周波数で低結合化するために以下のようにしている。
【0033】
(1)低周波数から、低結合化する所望の周波数を第1の周波数、第2の周波数、第3の周波数とし、アンテナ素子単体で、第1の周波数と第2の周波数間にY12の第1の共振を有し、また第2の周波数と第3の周波数間にY12の第2の共振を有する。
(2)(1)の2共振を得るため、第1のアンテナ素子15と第2のアンテナ素子16のそれぞれに2つの分岐素子を設け、第1の分岐素子15Aと第3の分岐素子16Aは低周波側の共振を得るため、共振の電気長の略1/4波長とし、第2の分岐素子15Bと第4の分岐素子16Bは高周波側の共振を得るため、共振の電気長の略1/4波長とする。
【0034】
(3)第1〜第3の周波数で、アンテナ素子単体のアドミタンス行列のY12成分の実部Re(Y12)が、−30mS<Re(Y12)<+30mSであること。
(4)第1〜第3の周波数の低周波から順に、アドミタンス行列のY12成分の虚部Im(Y12)が増加すること。
(5)インダクタ、キャパシタ、その組合せを用いた低結合回路17を、第1のアンテナ素子15と第2のアンテナ素子16の間に配置し、第1〜第3の周波数でアンテナ素子単体のアドミタンス行列のY12成分の虚部Im(Y12)と同値となる低結合回路のサセプタンス値を得る。
【0035】
図10は、第1,第2のアンテナ素子15,16の等価回路及びインダクタとキャパシタの並列回路とした低結合回路17の具体例を示す図である。同図に示すように、第1,第2のアンテナ素子15,16の各々は、2つのインダクタ(5.6nH,5.1nH)と1つのキャパシタ(2.4pF)が直列接続されるとともに、直列接続された2つのインダクタの共通接続部分とグランドとの間にキャパシタ(0.6pF)が接続され、さらに、直列接続されたインダクタとキャパシタの共通接続部分とグランドとの間にインダクタ(8.2nH)が接続された構成となっている。インダクタとキャパシタが並列接続された構成の低結合回路17のインダクタは22nH、キャパシタは0.5pFである。
【0036】
図11は、図10の具体例におけるSパラメータの周波数特性を示す図である。同図において、整合を表すSパラメータ(S11)の周波数特性を1点鎖線で示しており、結合を表すSパラメータ(S12)の周波数特性を2点鎖線で示している。低結合回路17と第1,第2の整合部18,19の使用により、900MHz、1700MHz、2600MHzの3周波数でS11及びS12を−10dB以下にすることが可能となる。
【0037】
図12は、図10の具体例におけるアンテナ効率の周波数特性を示す図である。同図において、低結合回路17と第1,第2の整合部18,19を使用したときのアンテナ効率を実線で示しており、第1,第2の整合部18,19のみのときのアンテナ効率を点線で示している。低結合回路17を使用せず、第1,第2の整合部18,19のみを使用した場合と比較して、900MHz、1700MHz、2600MHzの3周波数においてアンテナ効率が向上しているのが分かる。すなわち、900MHzでは3.9dB、1700MHzでは0.7dB、2600MHzでは1.8dB向上している。
【0038】
図13は、本実施の形態のアンテナ装置1の電流分布を示す図である。同図の(a)は低結合回路17が有る場合の電流分布、同図の(b)は低結合回路17が無い場合の電流分布である。低結合回路17が有る場合、低結合回路17にも電流が流れる。低結合回路17が無い場合、第1,第2の給電部20,21に電流が集中するが、低結合回路17が有ると低結合回路17にも電流が流れる。すなわち、第1,第2の給電部20,21に集中していた電流が第1,第2の給電部20,21と低結合回路17に分散されるので、低結合回路17にも電流が流れる。低結合回路17にも電流が流れることでSARピーク値が低減し、アンテナ装置1を用いた携帯端末(図示略)を手で保持したときのアンテナ効率劣化を低く抑えることができるようになる。また、図13に示すように、第1,第2のアンテナ素子15,16の近傍に障害物30が近接しても、電流のピークが中央の低結合回路17にもあるため、低結合対策を行っていない場合より、整合のずれ、アンテナ効率劣化が少ない。
【0039】
図14〜図16は、本実施の形態のアンテナ装置1のアンテナ素子の小型化手法を示す図である。図14は、第1,第2のアンテナ素子15,16に誘電体(又は磁性体)40を配置した例を示す図である。誘電体(又は磁性体)40を配置することで、第1,第2のアンテナ素子15,16の物理長を短くできる。なお、電気長は変わらず略1/4λのままである。図15は、第1,第2のアンテナ素子15,16の第1,第3の分岐素子15A、16Aのそれぞれの素子中にインダクタ41を介在させた例を示す図である。図16は、第1,第2のアンテナ素子15,16の第1,第3の分岐素子15A、16Aのそれぞれをメアンダ形状にした例を示す図である。なお、図14〜図16に示す各手法を組み合わせることも勿論可能である。
【0040】
このように本実施の形態のアンテナ装置1によれば、第1,第2のアンテナ素子15,16のそれぞれを分岐構造とするとともに、第1,第2のアンテナ素子15,16を近接配置して、これらのアンテナ素子15,16間に、周波数の増加に対してサセプタンスが増加する構成の低結合回路17を設け、さらに、第1のアンテナ素子15及び第2のアンテナ素子16は、第1の周波数と第2の周波数間と、第2の周波数と第3の周波数間に、アドミタンス行列のY12成分の共振を有し、第1の分岐素子15Aと第3の分岐素子16Aは、第1の周波数と第2の周波数間のアドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1とし、第2の分岐素子15Bと第4の分岐素子16Bは、第2の周波数と第3の周波数間のアドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1としたので、少ない部品数で低結合周波数を3周波数に拡張させることができる。
【0041】
また、本実施の形態のアンテナ装置1によれば、スイッチ等で回路定数を切替えることがないので、全周波数の同時使用が可能である。また、第1,第2の給電部20,21における電流ピークを低結合回路17部分に分散させることができるので、ピークSARを低減できる。また、低結合回路17をアンテナ系中心に配置したので、周囲の影響を受け難くできる。
【0042】
次に、本実施の形態のアンテナ装置1の変形例を挙げる。
(変形例1)
図17は、図1のアンテナ装置1の変形例(1)のアンテナ装置2の概観を示す斜視図である。また、図18は、図17の変形例(1)のアンテナ装置2の第1,第2のアンテナ素子を示す展開図である。また、図19は、図17の変形例(1)のアンテナ装置2の第1,第2のアンテナ素子を示す斜視図である。なお、図17〜図19において、形状が異なるものの、図1のアンテナ装置1と共通する働きを持つ部分には同一の符号を付けている。
【0043】
変形例(1)のアンテナ装置2は、第1,第2のアンテナ素子15,16のそれぞれを断面略L字状の折返し構造としたしたものである。折返し構造の第1,第2のアンテナ素子15,16のそれぞれにスリット15C,16Cを形成して2分岐素子と等価にしている。また、2分岐素子と等価とした一方にスリット15C,16Cよりも短いスリット15D,16Dを形成して電気長を長くしている。すなわち、第1の分岐素子15Aに対応する部分に、スリット15Cよりも短いスリット15Dを形成して電気長を長くしている。同様に、第3の分岐素子16Aに対応する部分に、スリット16Cよりも短いスリット16Dを形成して電気長を長くしている。
【0044】
図20は、変形例(1)のアンテナ装置2におけるアンテナ素子単体のアドミタンスと低結合回路17のサセプタンスそれぞれの周波数特性を示す図である。同図において、低結合回路17には、図4に示すインダクタとキャパシタを並列接続した回路構成のものを用いている。図8と同様に、アンテナ素子単体のアドミタンス行列のY12成分の実部(Re(Y12))の周波数特性を1点鎖線で示しており、アンテナ素子単体のアドミタンス行列のY12成分の虚部(Im(Y12))の周波数特性を2点鎖線で示している。また、低結合回路17のサセプタンスの周波数特性を実線で示している。所望の周波数において、アドミタンス行列のY12成分の実部Re(Y12)≒0、且つアドミタンス行列のY12成分の虚部Im(Y12)=低結合回路17のサセプタンス値と同じになる値を満たす条件のときに低結合化が可能となる。変形例(1)のアンテナ装置2では、824MHz、1460MHz、2100MHzのときに前記条件を満たしている。
【0045】
(変形例2)
図21は、図1のアンテナ装置1の変形例(2)のアンテナ装置3の概観を示す斜視図である。また、図22は、図21の変形例(2)のアンテナ装置3の第1,第2のアンテナ素子を示す展開図である。また、図23は、図21の変形例(2)のアンテナ装置3の第1,第2のアンテナ素子を示す斜視図である。なお、図21〜図23において、形状が異なるものの、図1のアンテナ装置1と共通する働きを持つ部分には同一の符号を付けている。
【0046】
変形例(2)のアンテナ装置3は、第1,第2のアンテナ素子15,16のそれぞれを断面略コ字状の折返し構造とするとともに、第2,第4の分岐素子としてモノポール素子15B,16Bを追加することで、2分岐素子と等価にしている。第2,第4の分岐素子であるモノポール素子15B,16Bは、第1,第3の分岐素子15A,16Aから離間した位置に形成される。この場合の離間距離は、変形例(1)のアンテナ装置2におけるスリット15C,16Cと同程度である。第1,第3の分岐素子15A,16Aには、変形例(1)のアンテナ装置2と同程度のスリット15D,16Dが形成されており、電気長を長くしている。
【0047】
図24は、変形例(2)のアンテナ装置3におけるアンテナ素子単体のアドミタンスと低結合回路17のサセプタンスそれぞれの周波数特性を示す図である。同図において、低結合回路17には、図5に示すインダクタとキャパシタの並列回路にインダクタを直列接続した回路構成のものを用いている。図8と同様に、アンテナ素子単体のアドミタンス行列のY12成分の実部(Re(Y12))の周波数特性を1点鎖線で示しており、アンテナ素子単体のアドミタンス行列のY12成分の虚部(Im(Y12))の周波数特性を2点鎖線で示している。また、低結合回路17のサセプタンスの周波数特性を実線で示している。所望の周波数において、アドミタンス行列のY12成分の実部Re(Y12)≒0、且つアドミタンス行列のY12成分の虚部Im(Y12)=低結合回路17のサセプタンス値と同じになる値を満たす条件のときに低結合化が可能となる。変形例(2)のアンテナ装置3では、840MHz、1550MHz、2100MHzのときに前記条件を満たしている。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、回路規模が増大することなく3周波数に対応でき、しかも障害物によるアンテナ効率劣化が少ないといった効果を有し、携帯端末などへの適用が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1,2,3 アンテナ装置
10 回路基板
11 第1無線回路部
12 第2無線回路部
15 第1のアンテナ素子
15A 第1の分岐素子
15B 第2の分岐素子(モノポール素子)
15C,15D スリット
16 第2のアンテナ素子
16A 第3の分岐素子
16B 第4の分岐素子(モノポール素子)
16C,16D スリット
17 低結合回路
18 第1の整合部
19 第2の整合部
20 第1の給電部
21 第2の給電部
30 障害物
40 誘電体
41 インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グランドパターンを有する回路基板と、
導電性金属で構成され、第1の分岐素子と、前記第1の分岐素子より電気長の短い第2の分岐素子を有する第1のアンテナ素子と、
導電性金属で構成され、第3の分岐素子と、前記第3の分岐素子より電気長の短い第4の分岐素子を有する第2のアンテナ素子と、を備え、
前記第1のアンテナ素子及び前記第2のアンテナ素子は、前記回路基板のグランドパターンと所定の間隔を隔てて互いに近接して配置されるとともに、前記回路基板に配置される第1の給電部及び第2の給電部に第1の整合部及び第2の整合部を介してそれぞれ電気的に接続され、
前記第1のアンテナ素子の一部と前記第2のアンテナ素子の一部、又は前記第1の整合部と前記第2の整合部、又は前記第1の給電部と前記第2の給電部を電気的に接続する複数の所望周波数に対応した低結合回路を有し、
前記複数の所望周波数を低周波から高周波へ、第1の周波数、第2の周波数、第3の周波数とした場合、
前記第1のアンテナ素子及び第2のアンテナ素子は、前記第1の周波数と前記第2の周波数間と、前記第2の周波数と前記第3の周波数間に、アドミタンス行列のY12成分の共振を有し、
前記第1の分岐素子と前記第3の分岐素子は、前記第1の周波数と前記第2の周波数間の前記アドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1であり、
前記第2の分岐素子と前記第4の分岐素子は、前記第2の周波数と前記第3の周波数間の前記アドミタンス行列のY12成分の共振電気長に対して略4分の1であることを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記第1の周波数、前記第2の周波数、前記第3の周波数で、前記アドミタンス行列のY12成分の実部が−30mS以上、+30mS以下の範囲にあり、
かつ、前記アドミタンス行列のY12成分の虚部が、前記第1の周波数、前記第2の周波数、前記第3の周波数の順に増加することを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記低結合回路は、前記第1の周波数、前記第2の周波数、前記第3の周波数で、前記アドミタンス行列のY12成分の虚部と同値となるサセプタンス値を有し、
前記第1の給電部と前記第2の給電部間での電磁的結合を低減する機能を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1のアンテナ素子及び前記第2のアンテナ素子において、誘電体又は磁性体を装荷すること、素子端部又は内部にインダクタを挿入すること、メアンダ形状にすることのうち少なくともいずれか一手法を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記低結合回路は、インダクタ単体、キャパシタ単体、インダクタとキャパシタの並列回路、インダクタとキャパシタの並列回路と直列のインダクタ、インダクタとキャパシタの並列回路と直列のキャパシタ、インダクタとキャパシタの並列回路2つの直列接続のうちいずれか一回路構成により実現することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のアンテナ装置を搭載した携帯無線機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−244390(P2012−244390A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−112274(P2011−112274)
【出願日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】