説明

アンテナ遅延測定方法

【課題】 アンテナ遅延を簡単に測定すること。
【解決手段】 送信ケーブル4、送信アンテナ2、経路A、受信アンテナ3、受信ケーブル5を経由する外経路11の遅延T11を測定し、送信ケーブル3、経路B、受信ケーブル5を経由する内経路12の遅延T12を測定し、経路Aの遅延をTA、経路Bの遅延をTBとするとき、[(T11−T12)−(TA−TB)]/2により、送信アンテナおよび受信アンテナの遅延を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置におけるアンテナ遅延を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置を使用した測距システムでは、目標物までの距離測定精度が重要であるところから、測定値を校正することが行われている。このために、ダブルエコー方式、校正用モジュールをアンテナに装備させる方式、特別な校正装置を設ける方式等が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】実開平5−43089号公報
【特許文献2】特開2000−98025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、これらは比較的長距離の測定値を校正するためのものであり、数cm〜数mのような短距離を測定するレーダ装置には適用できなかった。
【0004】
このような短距離測距では、送受信器からアンテナまでの信号伝搬用のケーブルの長さ、アンテナの電気長(信号遅延を基にして表した数値)等のようにハードウエア上発生してしまうオフセット誤差が大きく影響するので、その測定値からこのオフセット誤差を差し引くことが必要である。ケーブル長については、その物理長から算出可能な電気長(ケーブル電気長)を差し引くことで校正が可能であるが、アンテナの電気長に関しては、アンテナ方式によって電気長が異なり、物理長をそのまま使用することはできない。したがって、アンテナ電気長の特定が必要となる。
【0005】
そこで、従来では、アンテナ電気長の測定をその都度行って、測定値からケーブル電気長とともに差し引く作業を行っていたが、手間ががかかっていた。本発明の目的は、アンテナ電気長を算出するためのアンテナ遅延を簡単に測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1にかかる発明は、送信部から送信ケーブルを介して送信されたレーダ波を送信アンテナから目標物に発射し、該目標物で反射したレーダ波を前記送信アンテナと同じ特性の受信アンテナで受信し受信ケーブルを介して受信部に取り込み前記目標物までの距離を測定するレーダ装置におけるアンテナ遅延測定方法であって、前記送信ケーブル、前記送信アンテナ、前記送信アンテナから前記受信アンテナの間の経路A、前記受信アンテナ、および前記受信ケーブルを経由する外経路の遅延T11を測定し、前記送信アンテナの入力側と前記受信アンテナの出力側を試験ケーブル等の経路Bで接続してレーダ波を該経路Bでバイパスさせたときの前記送信ケーブル、前記経路B、および前記受信ケーブルを経由する内経路の遅延T12を測定し、時間差ΔTを
ΔT=T11−T12 (1)
により得て、前記経路Aの遅延をTA、前記経路Bの遅延をTBとするとき、前記送信アンテナおよび前記受信アンテナのそれぞれの遅延を、
[ΔT−(TA−TB)]/2 (2)
により測定することを特徴とする。
【0007】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載のアンテナ遅延測定方法において、前記レーダ波としてFMCW波を使用したFMCWレーダ方式により、前記式(1)の時間差ΔTとして周波数特性をもつ群遅延信号X1(f)を得て、該群遅延信号X1(f)を時間領域の信号Y1(t)に変換し、該信号Y1(t)に窓関数を適用することでマルチパスや多重反射等の成分を除去した信号Y2(t)を得て、該信号Y2(t)を周波数領域の群遅延信号X2(f)に変換し、該群遅延信号X2(f)を前記式(2)の時間差ΔTとして、アンテナ遅延を測定するすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアンテナ遅延測定方法によれば、外径路と内径路の経路差に相当する遅延ΔTを測定することにより、簡単にアンテナ遅延を測定することができるので、これを利用してアンテナ電気長を求め、さらにケーブル長を考慮して、レーダ測定距離を校正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0010】
図1はレーダ装置の構成を示す図、図2はその動作の信号概念波形図、図3はアンテナ遅延測定処理のフローチャートである。図1において、1はレーダ波の送信部および受信部を備える送受信器、2は送信アンテナ、3は受信アンテナ、4は送信ケーブル、5は受信ケーブルである。本実施例では、このような一般的な構成において、送信アンテナ2の入力側と受信アンテナ3の出力側をテストケーブル6で一時的に接続して経路Bを作成し、また送信アンテナ2と受信アンテナ3の正面には反射物7を設置して経路Aを作成する。この経路A,Bは既知のものとする。
【0011】
まず、送受信器1の送信部から送信アンテナ2に向けてレーダ波としてパルスP1を出力し送信ケーブル4を経由させて送信アンテナ2から発射させる。そして、反射物7で反射したレーダ波を受信アンテナ3と受信ケーブル5を経由して送受信器1の受信部にパルスP2として取り込む。このときのレーダ波は外経路11を通ることとなる。次に、テストケーブル6を接続して、同様に送受信器1の送信部からパルスP1を出力し、送信ケーブル2、テストケーブル6、受信ケーブル5を経由して戻りパスルP3を送受信器1の受信部に取り込む。このときのレーダ波は内経路12を通ることとなる。
【0012】
ここで、ケーブル4〜6による信号遅延をT4,T5,TB、アンテナ2,3による遅延をT2,T3、送信アンテナ2から反射物7を経由して受信アンテナ3に至る経路Aの遅延をTAとすると、パルスP1,P2,P3は図2に示すような位相関係になる。
【0013】
外経路11での遅延T11、内経路12での遅延T12は、
T11=T4+T2+TA+T3+T5
T12=T4+TB+T5
となるので、外径路11と内径路12の経路差分の時間差ΔTは、
ΔT=T11−T12=T2+T3+(TA−TB) (1)
となる。アンテナの遅延T2、T3は同じであるので、
T2=T3=[ΔT−(TA−TB)]/2 (2)
となる。
【0014】
以上から、経路Aの遅延TAと経路Bの遅延TBを予め測定して得ておくことにより、アンテナ2,3の遅延T2,T3を得ることができ、これからアンテナの電気長を求めることができる。図3に以上の処理のフローチャートを示した。このような手法によってアンテナ遅延を求めることにより、どのような方式のアンテナであっても、簡単にそのアンテナ遅延からアンテナ電気長を求めることができる。
【0015】
したがって、レーダ装置の実際の使用時には、使用するケーブル4,5の電気長と、得られたアンテナ遅延から求めた両アンテナの電気長の合計値をオフセット値として測定値から差し引くことにより、アンテナ2,3から目標物7までの距離を正確に測定することができる。
【0016】
なお、送信アンテナ2と受信アンテナ3は、図1のような目標物7を配置することなく、両アンテナ2,3を電力反射のない方向に向けてアンテナ間の相互結合による経路Aを作成してもよい。このようにすると、アンテナ遅延測定のための治具が少なくて済む。この場合、相互結合が小さい場合は送信電力を大きくする。
【0017】
また、図4に示すように、アンテナを対向させて配置させると、その対向間が経路Aとなるので、その経路Aの遅延TAの測定が容易となる。この図4ではパッチアンテナ(マイクロストリップアンテナ)を使用した。送信アンテナ2は誘電体基板21の裏面に接地導体22が、表面にパッチ導体23が配置され、裏面からパッチ導体23に給電が行われている。また、受信アンテナ3は誘電体基板31の裏面に接地導体32が、表面にパッチ導体33が配置され、そのパッチ導体33に得られる受信電力が裏面から取り出されている。
【実施例2】
【0018】
ところで、送信アンテナ2から発射したレーダ波が受信アンテナ3に入射するとき、マルチパス成分や多重反射成分がその入射波に含まれることがある。特に、図4に示したパッチアンテナではその影響が大きい。
【0019】
そこで実施例2では、レーダ波としてFMCW(周波数変調連続波)を使用して、FMCWレーダ方式により群遅延を測定し、このマルチパス成分や多重反射成分等を除去してアンテナ遅延の測定精度を向上させる。
【0020】
図5はその処理のフローチャートである。まず、図2における時間差ΔTに相当する群遅延の信号X1(f)を得る。これは、実施例1と同様に、外径路11の群遅延から内径路12の群遅延を差し引いた値として得られる。このようにして、周波数領域にて送信アンテナ2の入力側から受信アンテナ3の出力側までの間の群遅延の信号を得る(S11)。図6(a)にこの群遅延の信号の周波数特性の一例を示した。
【0021】
次に、この周波数領域の群遅延の信号X1(f)を時間領域の信号Y1(t)に変換する(S12)。これは信号X1(f)を逆フーリエ変換することで実現できる。そして、得られた時間領域の信号Y1(t)について、所定の窓関数(ゲーティング用フィルタ)を使用して、サイドローブに含まれるマルチパス成分や多重反射成分を除去した信号Y2(t)を得る(S13)。図6(b)にマルチパス成分や多重反射成分を含む時間領域の信号波形を示した。
【0022】
次に、この時間領域の信号Y2(t)を周波数領域の群遅延の信号X2(f)に変換する(S14)。これは、時間領域の信号Y2(t)をフーリエ変換することで実現できる。これによって、マルチパス成分や多重反射成分が除去された群遅延の信号X2(f)を得ることができる。図6(c)にマルチパス成分や多重反射成分を除去した群遅延の周波数特性の一例を示した。
【0023】
以上から、送信アンテナ2および受信アンテナ3の遅延について、群遅延特性を得ることができ、しかもマルチパス成分や多重反射成分を除去することができる。後は、実施例1と同様にして、式(2)からアンテナ2,3の遅延を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1のアンテナ遅延測定用のレーダ装置の構成を示す図である。
【図2】実施例1のアンテナ遅延測定のための波形図である。
【図3】実施例1のアンテナ遅延測定処理のフローチャートである。
【図4】パッチアンテナを使用する場合の説明図である。
【図5】実施例2のマルチパスや多重反射の成分を除去する処理のフローチャートである。
【図6】実施例2のマルチパスや多重反射の成分を除去する処理の波形図である。
【符号の説明】
【0025】
1:送受信器
2:送信アンテナ
3:受信アンテナ
4:送信ケーブル
5:受信ケーブル
6:テストケーブル
7:目標物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信部から送信ケーブルを介して送信されたレーダ波を送信アンテナから目標物に発射し、該目標物で反射したレーダ波を前記送信アンテナと同じ特性の受信アンテナで受信し受信ケーブルを介して受信部に取り込み前記目標物までの距離を測定するレーダ装置におけるアンテナ遅延測定方法であって、
前記送信ケーブル、前記送信アンテナ、前記送信アンテナから前記受信アンテナの間の経路A、前記受信アンテナ、および前記受信ケーブルを経由する外経路の遅延T11を測定し、
前記送信アンテナの入力側と前記受信アンテナの出力側を試験ケーブル等の経路Bで接続してレーダ波を該経路Bでバイパスさせたときの前記送信ケーブル、前記経路B、および前記受信ケーブルを経由する内経路の遅延T12を測定し、
時間差ΔTを
ΔT=T11−T12 (1)
により得て、前記経路Aの遅延をTA、前記経路Bの遅延をTBとするとき、前記送信アンテナおよび前記受信アンテナのそれぞれの遅延を、
[ΔT−(TA−TB)]/2 (2)
により測定することを特徴とするアンテナ遅延測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ遅延測定方法において、
前記レーダ波としてFMCW波を使用したFMCWレーダ方式により、前記式(1)の時間差ΔTとして周波数特性をもつ群遅延信号X1(f)を得て、該群遅延信号X1(f)を時間領域の信号Y1(t)に変換し、該信号Y1(t)に窓関数を適用することでマルチパスや多重反射等の成分を除去した信号Y2(t)を得て、該信号Y2(t)を周波数領域の群遅延信号X2(f)に変換し、該群遅延信号X2(f)を前記式(2)の時間差ΔTとして、アンテナ遅延を測定するすることを特徴とするアンテナ遅延測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−33093(P2007−33093A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213590(P2005−213590)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】