説明

アンテナ

【課題】広帯域でサイズを縮小できるウェアラブルアンテナを提供することである。
【解決手段】導電性シートに基線スリット及び傾斜スリットを備えると共に、付加スリットを設けることにより、サイズを縮小できるウェアラブルアンテナが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みの薄い柔軟性のある導電性材料により形成され衣類への装着を適切に行うことができるアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信機能を有する携帯型電子装置では、装置本体にアンテナを取り付けることが多い。しかし、携帯しやすくするために装置の小型化が要求されるが、装置の小型化に伴ってアンテナの小形化も必要となる。この結果、アンテナの小形化によるアンテナ感度の劣化は避けられない状況にある。
【0003】
最近、アンテナの小形化によるアンテナ感度の劣化を防止する1つの手段として、携帯型電子装置とは別にアンテナを構成しておき、当該アンテナを身につける構造のものが開発されてきている(特許文献1、2)。これらのアンテナは、通常、ウェアラブルアンテナと呼ばれている。
【0004】
この種のウェアラブルアンテナは、定性的には、アンテナが大きいほど高い感度が得られる傾向になるため、装置本体に取り付けなければならないアンテナと比較して、高感度化に適していると考えられる。
【0005】
更に、ウェアラブルアンテナは身につける構造であり、携帯型電子装置の小形化によって影響を受けないため、携帯型装置本体にアンテナを取り付ける場合に比較して、アンテナの大きさや形状の自由度が大きいと云う利点がある。例えば、ウェアラブルアンテナは、衣服などの身につけるものに容易に取り付けられる構造が採用されることが多く、且つ、ユーザにとって違和感なく装着できるように構成が考慮されている。また、ウェアラブルアンテナの寸法が大きい場合にも、持ち運ぶことに困難さを感じないような構成が指向されている。
【0006】
非特許文献1は、室内に設置して地上デジタルテレビを受像する広帯域アンテナを開示している。開示された広帯域アンテナは、平面状導体プレートに所定方向に主スリットを設けた板状アンテナによって構成されている。更に、非特許文献1は、主スリットと、当該主スリットと直角に交叉する補助スロットによりT字型スリットを形成した板状アンテナを開示している。このように、T字型スリットを形成した板状アンテナは補助スロットの長さ及び幅を調整することによって周波数−VSWR特性を変化させることができる。
【0007】
非特許文献2は、上記したT字型スリットをウェアラブルアンテナに適用した場合、不要な放射が多くなり、広帯域で小形のアンテナを構成することは難しいことを指摘している。これを改善するために、非特許文献2は、柔軟性を有する導電性シートに傘型或いは矢印型のスリットを設けたウェアラブルアンテナを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2003−516011号公報
【特許文献2】特表2004−518322号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌B Vol.J90−B No.7,pp.679−688「地上デジタルテレビ用小形広帯域アンテナの開発」(2007年)
【非特許文献2】平、岩崎ほか「ウエアラブルスロットアンテナの検討」電子情報通信学会 2008 年総合大会3 月 B-1-128
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1及び2は、厚さ方向に間隔を置いて配置された2つの層及びこれらを電気的に短絡するブリッジ部を備えたプレーナ逆F型パッチアンテナを開示しており、当該プレーナ逆F型パッチアンテナによってウェアラブルアンテナを構成している。しかしながら、特許文献1及び2に示されたプレーナ逆F型パッチアンテナを衣類等に装着するには、当該アンテナの厚みのため装着する箇所が或る程度決まってしまうと言う欠点がある。更に、特許文献2に示されたアンテナの場合、人体上半身の背面や前面のような広い箇所で使用するのに適した大きな寸法となっている。このように、アンテナの寸法が大きいことは、使用するアンテナの周波数が低いことに起因する。しかし、衣服にはジャケットや Y シャツのような前開きタイプの衣服もあり、アンテナ配置箇所は背面のみに限られてしまう。アンテナの配置箇所としては、衣服の型によって配置箇所が制限されてしまうのは好ましくない。そこで、人体に装着できるだけの寸法に小形化する必要がある。さらに、小形化すると一般的に形状が複雑になることから、導電性の布を加工する際にエッジ部にほころびが生じやすくなるという問題もある。
【0011】
他方、非特許文献1は、地上デジタルテレビを受像する室内設置型アンテナであって、ウェアラブルアンテナについては何等考慮していない。このため、非特許文献1に示されたT字型スリットを備えた板状アンテナ、即ち、プレーナアンテナは、人体に装着した場合における問題点等について示唆されていない。
【0012】
更に、非特許文献2に示された傘型スリットを備えたウェアラブルアンテナは、不要な放射を軽減できる。しかしながら、非特許文献2では、当該ウェアラブルアンテナの小形化及び更なる広帯域化について考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、小形で、複雑な形状でも適用可能な構造を有し、スペースの小さい部位、或いは、複雑な形状の部位にも装着可能なアンテナを提供する。
【0014】
本発明によれば、柔軟性を有する平面状導電性シートと、前記導電性シートに形成されたスリットとを備え、前記スリットは、前記導電性シート内部に所定方向に延びる基線スリットと、当該基線スリットの一端において前記導電性シート内で連結されると共に、前記基線スリットに対して傾斜した傾斜スリットと、前記所定方向に前記基線スリットと平行に延び、且つ、前記基線スリットよりも短い付加スリットを含んでいることを特徴とするアンテナが得られる。
【0015】
更に、本発明によれば、柔軟性を有する平面状導電性シートと、前記導電性シートに形成されたスリットとを備え、前記スリットは、前記導電性シート内部に所定方向に延びる基線スリットと、当該基線スリットの一端において前記導電性シート内で連結されると共に、前記基線スリットに対して傾斜した傾斜スリットと、前記導電性シートの外部から内側に向かって形成された付加スリットを含んでいることを特徴とするアンテナが得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、小形(スペースの小さい部位も装着可能)で、複雑な形状でも適用可能な構造を有することができる。導電性シートの上辺及び/又は下辺にスリットを設けているため、電流分布の強くなる上辺及び/又は下辺部分にスリットを設けることで、電気的な長さをそのスリット部でかせぎ、全体的な寸法では小さくすることが可能となる。また、スリット部による共振と導電性材料パターンの上辺及び下辺を流れる電流による共振が合成されるため、広帯域なウェアラブルアンテナ、またはデュアルバンド対応のウェアラブルアンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るアンテナを装着した状態を示す図である。
【図2】(A)及び(B)は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係るアンテナの平面図及び側面図である。
【図3】(A)及び(B)は、それぞれ、図2に示されたアンテナを520MHz及び770MHzで給電した場合における電流分布を示す図であり、図2に示されたアンテナの動作原理を模式的に説明するための図である。
【図4】図2に示されたアンテナにおけるVSWR−周波数特性を示す図である。
【図5】図2に示されたアンテナにおいて、下部付加スリットの幅を変えた場合におけるVSWR−周波数特性を示す図である。
【図6】(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の第2の実施形態に係るアンテナの平面図及び側面図である。
【図7】本発明の第1の変形例に係るアンテナを示す平面図である。
【図8】本発明の第2の変形例に係るアンテナを示す平面図である。
【図9】本発明の第3の変形例に係るアンテナを示す平面図である。
【図10】本発明の第4の変形例に係るアンテナを示す平面図である。
【図11】本発明の第5の変形例に係るアンテナを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係るアンテナの使用状態を説明する。図1に示すように、当該アンテナは衣服に装着して使用されるウェアラブルアンテナ10である。図1に示された本発明に係るウェアラブルアンテナ10は、衣服(ここでは、前開きのシャツ12)に装着されている。この例では、ウェアラブルアンテナ10を前開きのシャツ12の片側腹部付近の表面に装着しているが、裏面腹部でもよいし、腕でもよいし、背中でもよい。また、図1では、ウェアラブルアンテナ10をシャツ12の上に装着した例であるが、シャツ12の生地にウェアラブルアンテナ10を縫い付けても良いし、或いは、シャツ12の一部をウェアラブルアンテナ10とすることもできる。更に、ズボン、スカート、また、衣服以外の帽子などにも装着でき、またはそれらの一部とすることもできる。
【0019】
図示された本発明に係るウェアラブルアンテナ10は、図2に示されているように、受給電のための給電点14を備え、当該給電点14は図示されないRF回路と伝送線路で接続され、更に、RF回路は携帯電話等に接続されている。このため、図示されたウェアラブルアンテナ10はRF回路、伝送線路等と共に、携帯端末機器に接続された格好となる。
【0020】
図2(A)及び(B)を参照すると、本発明の第1の実施形態に係るウェアラブルアンテナ10の平面図及び側面図が示されている。図2(B)に示されているように、ウェアラブルアンテナ10は、粘着性材料層22及び当該粘着性材料層22上に取り付けられた導電性シート20によって形成されており、ここでは、粘着性材料層22によりシャツ12に接着されている。なお、上記記載の導電性シート20は、フレキシブルプリント基板(FPC)や一般に用いられるプリント基板でも代用可能である。特に、一般に用いられる基板ではガラスエポキシ基板(FR-4)やテフロン(登録商標)基板等が使用可能である。これらの基板は、厚さ0.2mm前後とすることで、十分な柔軟性を有し、折り曲げ等可能な材料として使用できる。なお、用途により、柔軟性を必要としない場合は、厚さの厚い、例えば、1mm前後のプリント基板を用いて構成し、使用することもある。
【0021】
粘着性材料層22は少なくとも一方の面が粘着性を有していれば良く、通常、導電性シート20を加工する前に貼り付けられる。粘着性材料層20は熱圧着シート、或いは、面ファスナによって形成されても良いし、或いは、化学的に粘着性のある材料によって形成されても良い。尚、シャツ12等の衣服に、ウェアラブルアンテナ10を縫い付ける場合には、粘着性材料層22は不要である。
【0022】
図2(A)に示された本発明の第1の実施形態に係るウェアラブルアンテナ10は、底辺(下辺)、当該底辺に対向する上辺、及び、底辺と上辺とを結ぶ互いに対向する2つの側辺とからなる矩形形状の導電性シート20を有し、底辺及び上辺の長さは、ウェアラブルアンテナ10の幅を規定し、側辺の長さはウェアラブルアンテナ10の高さを規定している。導電性シート20の材料としては、例えば、綿、羊毛、絹等の天然繊維、または、ポリエステル、アクリル等の化学合成繊維に導電性材料を付着させた材料層、または、導電性の糸状材料を布状に縫製したものを使用でき。また、図示された例では、底辺及び上辺によって規定される幅方向の長さは180mmであり、他方、側辺の長さによって規定される高さは160mmである。
【0023】
図示されたウェアラブルアンテナ10は、導電性シート20にスリットを設けた構成を有し、当該ウェアラブルアンテナ10はスリットの構成に特徴を有している。即ち、図示されたスリットは、導電性シート20の幅方向の実質的に中央に設けられ、底辺から上辺方向、即ち、高さ方向に延びる基線スリット24と、当該基線スリット24に連結され、基線スリット24に対して傾斜した2本の傾斜スリット26、28とを有している。図示された基線スリット24は底辺側において開放された開放端を形成し、開放端の反対側において短絡された頂部(先端部)を有している。
【0024】
一方、傾斜スリット26、28は、基線スリット24に対して鋭角に底辺方向に傾斜しており、ここでは、実質上、基線スリット24に対して45°の角度で底辺方向に傾斜した傘型部を構成している。したがって、図示されたスリットは基線スリット24及び傾斜スリット26、28によって矢印型或いは傘型スリットを形成している。尚、2本の傾斜スリット26、28は傘型部と呼ばれても良い。
【0025】
図示された基線スリット24は135mmの高さ方向の長さ、5mmのスリット幅を有し、他方、傾斜スリット26、28は70mmの長さ及び5mmのスリット幅を有している。この結果、基線スリット24の頂部と導電性シート20の上辺との間の間隔(即ち、短絡幅)は25mmである。
【0026】
図2(A)に示されたスリットは、更に、基線スリット24の底辺側開放端の両側に、長さ50mm、幅10mmの下部付加スリット(切り込み)30が設けられており、各下部付加スリット30は、導電性シート20の底辺側に開放されている。下部付加スリット30は、導電性シート20の幅の1/9〜1/3程度の幅を有していれば良い。
【0027】
一方、図示された例では、導電性シート20の上辺側にも、基線スリット24と各傾斜スリット26、28との間の導電性シート20の領域を制限するように、長さ30mm、幅5mmの2つの上部付加スリット32が設けられ、両上部付加スリット32共、導電性シート20の上辺側に開放している。尚、この実施形態では、下部付加スリット30及び上部付加スリット32は基線スリット24と実質上平行に直線状に形成されているが、本発明はこれに限定されることなく、折れ線状或いは曲線状に設けられても良い。また、下部付加スリット30及び上部付加スリット32の先端部は、角形に限らず、円形形状、三角形形状等、任意の形状を取ることができる。
【0028】
更に、基線スリット24の高さ方向の中間部には、給電部14が基線スリット24を挟む両側の導電性シート20に接続されている。具体的には、給電部14には、例えば、同軸ケーブルの中心導体が基線スリット24を挟む片側の導電性シート20に接続され、同軸ケーブルの外部導体が基線スリット24の他方側の導電性シート20に接続される。また、給電部14の接続位置は、基線スリット24の開放端側から、基線スリット24の長さの3/4の位置、或いは、その近傍の位置で、最も良好な特性が得られた。尚、給電部14に接続された同軸ケーブルの他端には、携帯端末装置のRF回路が接続されている。
【0029】
このように、傘型スリット(24、26、28)を挟むように、下部及び上部付加スリット30、32を設けた本発明の第1の実施形態に係るウェアラブルアンテナ10は、傘型スリットだけを設け、付加スリットを備えないウェアラブルアンテナに比較して小形化できることが実験的に確かめられた。
【0030】
実際に、図2(A)に示された180mm×160mmの寸法を有するウェアラブルアンテナ10は、240mm×130mmの導電性シートを用いた傘型スリット(矢印型スリット)だけを設けたウェアラブルアンテナと同等かそれ以上の特性を得ることができた。
【0031】
このように、本発明の第1の実施形態に係るアンテナは、小形化できるため、小さいスペースにも装着可能であり、且つ、複雑な形状を有する部分にも装着できると言う利点がある。尚、図示しないが、図2に示された導電性シート20の4隅の角部を丸く加工することによっても同様な特性が得られた。したがって、図2に示された導電性シート20は実質的に矩形形状或いは矩形に類似した形状であれば良い。
【0032】
次に、図2(A)を参照して、本発明の第1の実施形態にかかるウェアラブルアンテナの動作原理を説明する。
【0033】
本アンテナは矢印型スリットにより左右に分割された導電性シート20で形成された半波長ダイポールアンテナと、矢印型スリット24,26,28で形成されたノッチアンテナの2つのアンテナで構成された複合アンテナであり、導電性シート20の幅方向の長さを1/2波長とした共振と、導電性シートの中央下部に設けられた基線スリット14による共振との2共振化を図ることでアンテナの広帯域化を図った構成である。図示されたウェアラブルアンテナ10に給電部14から給電された場合、基線スリット24をはさんだ導電性シート20の左側部と右側部が平面半波長ダイポールアンテナとして動作し、また、基線スリット24の長さおよび整合素子に応じた共振が発生する。ここで、傘型スリット26、28は、給電部のインピーダンスを調整する整合素子として作用する。
【0034】
更に、図2(A)に示された例では、上記した傘型スリットに加えて、上下付加スリット30及び32が設けられている。このように、上下付加スリット30及び32を設けることにより、導電体シート20に流れる電流の電気長を長くすることができ、この結果、幅方向の寸法を小さくしても、所望の共振周波数を有する電磁波を放射することができる。したがって、傘型スリットだけを形成したアンテナに比較して、図2(A)に示されたウェアラブルアンテナ10は、幅方向の寸法を240mmから180mmまで小さくできる。
【0035】
上記したことからも明らかな通り、図2(A)に示すウェアラブルアンテナ10は導電性シート20の幅と付加スリット30、32によって定まる共振周波数を有している。このように、図示されたウェアラブルアンテナ10は2つの共振周波数を有しており、両共振周波数を異ならせることにより、広帯域のアンテナを構成できる。
【0036】
図3(A)及び(B)を参照して、本発明の第1の実施形態に係るアンテナの動作について説明する。図3(A)及び図3(B)は、図2に示されたウェアラブルアンテナ10を520MHz及び770MHzで駆動した場合に、導電性シート20に流れる電流分布を示すシミュレーション結果である。
【0037】
図3(A)のように、UHF帯域の低い周波数520MHzで給電すると、ウェアラブルアンテナ10を形成する導電性シート20の上辺には、当該上辺に形成された2つの上部付加スリット32を迂回する形で図の左から右方向に、電流C1が流れる。他方、導電性シート20の底辺にも、2つの下部付加スリット30を迂回する形で図の左から右へ電流C2が流れており、上下に流れる電流C1とC2とは互いに同一位相である。この結果として、電磁波の放射が行われる。電流C1、C2がそれぞれスリット30、32に迂回するために、電気長は確保されており、導電シート20の幅寸法に対して低い共振周波数を有すことができる。
【0038】
他方、図3(B)のように、UHF帯の高い周波数770MHzで給電が行われた場合、基線スリット14に沿うように電流C5が流れることでアンテナとして動作するとともに、傾斜スロット26、28に沿って電流C6が流れることによって、インピーダンスを調整している。
【0039】
図4を参照すると、図2に示されたウェアラブルアンテナ10のVSWR−周波数(MHz)特性が曲線Caで示されている。ここで、VSWRが2以下であれば、アンテナとして良好な特性であるから、520MHz及び770MHz付近に共振周波数を有するウェアラブルアンテナ10は、UHF帯で良好な特性であることが分る。
【0040】
図5を参照すると、図2に示されたウェアラブルアンテナ10に設けられた各下部付加スリット30の長さを変えた場合におけるVSWR−周波数特性が示されている。ここでは、導電性シート20の長さを180mmに保った状態で、各下部付加スリット30の長さを30、40、50、及び60mmに変化させた場合(即ち、1/6から1/3まで変化させた場合)が示されている。
【0041】
図5に示された曲線Ca1,Ca2,Ca3,及びCa4はそれぞれ下部付加スリット30の長さが30mm、40mm、50mm、及び60mmである時のVSWR−周波数特性を示しており、下部付加スリット30の長さが長くなるにしたがって、低周波側に共振周波数が移行する傾向にあることが分る。
【0042】
図6(A)及び(B)を参照して、本発明の第2の実施形態に係るアンテナを説明する。図示されたアンテナは図2と同様にウェアラブルアンテナ10aであり、図6(A)に示されているように、導電性シート20aが楕円形形状を有している点で、図2(A)に示されたウェアラブルアンテナ10と相違している。言い換えれば、図6(A)に示されたウェアラブルアンテナ10aは、基線スリット24、傾斜スリット26、28、下部付加スリット30、及び上部付加スリット32を備えている点では、図2(A)のウェアラブルアンテナ10と同様である。
【0043】
また、図6(B)に示すように、第2の実施形態に係るウェアラブルアンテナ10aは、楕円形形状の導電性シート20aと、楕円形形状の粘着性材料層22aとを備えている。この例では、粘着性材料層22aに薄い布(布帛)221が貼り付けられており、更に、布帛221の粘着性材料層22aとは反対側の面に、複数のマジックテープ(登録商標)222が取り付けられている。これによって、ウェアラブルアンテナ10aの装着を容易にしている。
【0044】
この場合、布帛221部分を導電性シート20a及び粘着性材料層22aよりも広い面積にすることも可能である。更に、布帛部分を腕等に巻きつけ、マジックテープ(登録商標)222で固定する構成も可能である。
【0045】
本実施形態においても、第1の実施形態と動作原理は同じである。導電性シート20aは導電性シート20aの周縁形状が曲線を描くので、上辺および下辺の電流に起因する指向性を調整することができる。また、見た目のデザイン性についての自由度を高めることができる。
【0046】
次に、本発明の変形例について説明する。
【0047】
図7を参照すると、本発明の第1の変形例に係るアンテナを構成するウェアラブルアンテナ10bが示されている。図示されたウェアラブルアンテナ10bは、基線スリット24及び傾斜スリット26、28を図2(A)と同様に有すると共に、上部付加スリット32だけを備えている。このように、下部付加スリットを備えていない点で図2(A)に示されたアンテナとは異なっている。
【0048】
この構成を有するウェアラブルアンテナ10bによっても、導電性シート20の幅を縮小することができる。
【0049】
図8を参照すると、本発明の第2の変形例に係るアンテナを構成するウェアラブルアンテナ10cが示されており、図示されたウェアラブルアンテナ10cは下部付加スリット30だけを有し、上部付加スリットを備えていない。この構成によっても、図7と同様な動作特性が得られ、且つ、幅方向のサイズを縮小できる。
【0050】
図9を参照すると、本発明の第3の変形例に係るウェアラブルアンテナ10dが示されている。当該ウェアラブルアンテナ10dは、基線スリット24に1本の斜線スリット26だけが連結されている点で、図2(A)に示すウェアラブルアンテナ10と相違している。他方、下部及び上部付加スリット30及び32が設けられている点では、図2(A)と同様である。
【0051】
図10を参照すると、本発明の第4の変形例に係るウェアラブルアンテナ10eは、導電性シート20上に、下部及び上部付加スリット30及び32が設けられ、傘型部を形成する傾斜スリット26及び28を備えているが、基線スリット24aの底辺部分(下辺部分)が短絡されている点で、開放されている他の実施形態及び変形例と異なっている。
【0052】
図11を参照すると、本発明の第5の変形例に係るウェアラブルアンテナ10fは、傘型スリットの代わりに、Y字型スリットを形成している点で他の実施形態及び変形例と相違している。図示されているように、Y字型スリットは基線スリット24と当該基線スリット24に対して上方向に延びる2つの傾斜スリット26a及び28aとによって構成されている。換言すれば、図示された2つの傾斜スリット26aと28aは、基線スリット24に対して90°以上の鈍角を有している。なお、傾斜スリット26aと28aは、それぞれ、基線スリット24に対して、一方が90°以上の鈍角、他方が90°以下の鋭角を有していてもよい。
【0053】
以上説明したウェアラブルアンテナはいずれも、粘着性材料を加工前に導電性材料の下に重ねることで、重ねた状態で加工すると複雑な構造でもほつれなく形状を維持することができる。
【0054】
また、本発明によるアンテナはアンテナ単体で使用してもよいが、このアンテナは前記導電性シートの上に装着されるRF 回路または、RF 回路を含む電子装置と、該伝送線路のグランド部を前記導電性材料と導通させる接続手段とを有することが望ましい。例えば、グランド導通用導電性材料で伝送線路を覆うことにより、このグランド導通用導電性材料と前記導電性材料導体を、グラウンド導通用導電性接着材料により、前記導電性材料と導通させてもよい。これにより、前記伝送線路のシールド性能が高まり、到来電波が前記伝送線路に直接的に結合することを抑制することができる。
【0055】
上に述べた実施形態では、ウェアラブルアンテナを送信アンテナとして使用する場合について説明したが、受信アンテナとしても使用できることは言うまでも無い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明では、身体の肌着に装着することに適した柔軟性のある平面状の導電性材料に基線スリット、傾斜スリットと共に、付加スリットを設けることにより、広帯域で且つサイズを縮小できるウェアラブルアンテナを構成できる。
【0057】
以下、本発明の態様を列挙しておく。
【0058】
本発明の第1の態様によれば、柔軟性を有する平面状導電性シートと、前記導電性シートに形成されたスリットとを備え、前記スリットは、前記導電性シート内部に所定方向に延びる基線スリットと、当該基線スリットの一端において前記導電性シート内で連結されると共に、前記基線スリットに対して傾斜した傾斜スリットと、前記所定方向に前記基線スリットと平行に延び、且つ、前記基線スリットよりも短い付加スリットを含んでいることを特徴とするアンテナが得られる。
【0059】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様において、前記基線スリットは前記傾斜スリットと連結された一端の反対側に、前記導電性シート外部に開放された開放端を有し、前記付加スリットは前記基線スリットの前記開放端側の両側に設けられた一対の開放端側付加スリットを有していることを特徴とするアンテナが得られる。
【0060】
本発明の第3の態様によれば、第2の態様において、前記付加スリットは更に、前記傾斜スリット側に設けられた一対の傾斜スリット側付加スリットを有していることを特徴とするアンテナが得られる。
【0061】
本発明の第4の態様によれば、第1の態様において、前記基線スリットは前記傾斜スリットと連結された一端の反対側に、前記導電性シート外部に開放された開放端を有し、前記付加スリットは前記傾斜スリット側に設けられた一対の傾斜スリット側付加スリットを有していることを特徴とするアンテナが得られる。
【0062】
本発明の第5の態様によれば、第1〜4の態様いずれかにおいて、前記付加スリットは、開放端を形成していることを特徴とするアンテナが得られる。
【0063】
本発明の第6の態様によれば、第1〜5の態様いずれかにおいて、前記基線スリットの中間部に設けられた給電部を備えていることを特徴とするアンテナが得られる。
【0064】
本発明の第7の態様によれば、第1〜6の態様のいずれかにおいて、前記導電性シートは、矩形形状、楕円形状、及び、これに類似する形状のいずれかの形状を有していることを特徴とするアンテナが得られる。
【0065】
本発明の第8の態様によれば、第1〜6の態様のいずれかにおいて、前記傾斜スリットは、前記基線スリットの延びる所定方向に対して、鋭角に設けられた2本の傘型傾斜スリットであることを特徴とするアンテナが得られる。
【0066】
本発明の第9の態様によれば、第1〜6の態様のいずれかにおいて、前記傾斜スリットは、前記基線スリットの延びる所定方向に対して、鈍角に設けられた2本の鈍角傾斜スリットであることを特徴とするアンテナが得られる。
【0067】
本発明の第10の態様によれば、第1〜6の態様のいずれかにおいて、前記傾斜スリットは、前記基線スリットに対して片側に延びる直線状傾斜スリットであることを特徴とするアンテナが得られる。
【0068】
本発明の第11の態様によれば、第1の態様において、前記基線スリットは、前記傾斜スリット側と反対側の端部を短絡されていることを特徴とするアンテナが得られる。
【0069】
本発明の第12の態様によれば、柔軟性を有する平面状導電性シートと、前記導電性シートに形成されたスリットとを備え、前記スリットは、前記導電性シート内部に所定方向に延びる基線スリットと、当該基線スリットの一端において前記導電性シート内で連結されると共に、前記基線スリットに対して傾斜した傾斜スリットと、前記導電性シートの外部から内側に向かって形成された付加スリットを含んでいることを特徴とするアンテナが得られる。
【0070】
本発明の第13の態様によれば、第12の態様において、前記付加スリットは、半円形形状、角形形状、及び三角形形状のいずれかを有していることを特徴とするアンテナが得られる。
【0071】
本発明の第14の態様によれば、第1〜13の態様のいずれかにおいて、前記導電性シートの一方の表面に設けられた粘着性材料層を有していることを特徴とするアンテナが得られる。
【0072】
本発明の第15の態様によれば、第6の態様において、前記導電性シート上に装着される無線通信回路または無線通信回路を含む電子装置と、前記無線通信回路と前記給電部との間を接続する伝送線路と、該伝送線路のグラウンド部を前記導電性材料と導通させる接続手段を有することを特徴とするアンテナが得られる。
【0073】
本発明の第16の態様によれば、平面状の導電性シートと、前記導電性シート内に形成され、一端を開放された基線スリットと、基線スリットの他端に傘状に形成された傘状スリットとを備え、前記傘状スリットの外部に設けられ、前記基線スリットを短絡する短絡部を有し、更に、前記導電性シートには、切り込みが設けられていることを特徴とするアンテナが得られる。
【0074】
本発明の第17の態様によれば、第16の態様のアンテナにおいて、前記導電性材料は柔軟性を有することを特徴とするアンテナが得られる。
【0075】
本発明の第18の態様によれば、第16または17の態様のアンテナにおいて、前記短絡部は前記スリット幅と同程度かまたはそれ以下の幅を有することを特徴とするアンテナが得られる。
【0076】
本発明の第19の態様によれば、第1〜18の態様のいずれかに記載されたアンテナを含む携帯端末機器が得られる。
【符号の説明】
【0077】
10、10a〜10f ウェアラブルアンテナ
12 シャツ
14 給電点
20 導電性シート
24 基線スリット
26、28、26a、28a 傾斜スリット
30 下部付加スリット
32 上部付加スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有する平面状導電性シートと、前記導電性シートに形成されたスリットとを備え、前記スリットは、前記導電性シート内部に所定方向に延びる基線スリットと、当該基線スリットの一端において前記導電性シート内で連結されると共に、前記基線スリットに対して傾斜した傾斜スリットと、前記所定方向に前記基線スリットと平行に延び、且つ、前記基線スリットよりも短い付加スリットを含んでいることを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
請求項1において、前記基線スリットは前記傾斜スリットと連結された一端の反対側に、前記導電性シート外部に開放された開放端を有し、前記付加スリットは前記基線スリットの前記開放端側の両側に設けられた一対の開放端側付加スリットを有していることを特徴とするアンテナ。
【請求項3】
請求項2において、前記付加スリットは更に、前記傾斜スリット側に設けられた一対の傾斜スリット側付加スリットを有していることを特徴とするアンテナ。
【請求項4】
請求項1において、前記基線スリットは前記傾斜スリットと連結された一端の反対側に、前記導電性シート外部に開放された開放端を有し、前記付加スリットは前記傾斜スリット側に設けられた一対の傾斜スリット側付加スリットを有していることを特徴とするアンテナ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、前記付加スリットは、開放端を形成していることを特徴とするアンテナ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、前記基線スリットの中間部に設けられた給電部を備えていることを特徴とするアンテナ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記導電性シートは、矩形形状、楕円形状、及び、これに類似する形状のいずれかの形状を有していることを特徴とするアンテナ。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記傾斜スリットは、前記基線スリットの延びる所定方向に対して、鋭角に設けられた2本の傘型傾斜スリットであることを特徴とするアンテナ。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記傾斜スリットは、前記基線スリットの延びる所定方向に対して、鈍角に設けられた2本の鈍角傾斜スリットであることを特徴とするアンテナ。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記傾斜スリットは、前記基線スリットの延びる所定方向に対して、一方は鋭角、他方は鈍角で設けられた2本の鈍角傾斜スリットであることを特徴とするアンテナ。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記傾斜スリットは、前記基線スリットに対して片側に延びる一本の直線状傾斜スリットであることを特徴とするアンテナ。
【請求項12】
請求項1において、前記基線スリットは、前記傾斜スリット側と反対側の端部を短絡されていることを特徴とするアンテナ。
【請求項13】
柔軟性を有する平面状導電性シートと、前記導電性シートに形成されたスリットとを備え、前記スリットは、前記導電性シート内部に所定方向に延びる基線スリットと、当該基線スリットの一端において前記導電性シート内で連結されると共に、前記基線スリットに対して傾斜した傾斜スリットと、前記導電性シートの外部から内側に向かって形成された付加スリットを含んでいることを特徴とするアンテナ。
【請求項14】
請求項12において、前記付加スリットは、半円形形状、角形形状、及び三角形形状のいずれかを有していることを特徴とするアンテナ。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかにおいて、前記導電性シートの一方の表面に設けられた粘着性材料層を有していることを特徴とするアンテナ。
【請求項16】
請求項6において、前記導電性シート上に装着される無線通信回路または無線通信回路を含む電子装置と、前記無線通信回路と前記給電部との間を接続する伝送線路と、該伝送線路のグラウンド部を前記導電性材料と導通させる接続手段を有することを特徴とするアンテナ。
【請求項17】
平面状の導電性シートと、前記導電性シート内に形成され、一端を開放された基線スリットと、基線スリットの他端に傘状に形成された傘状スリットとを備え、前記傘状スリットの外部に設けられ、前記基線スリットを短絡する短絡部を有し、更に、前記導電性シートには、切り込みが設けられていることを特徴とするアンテナ。
【請求項18】
請求項17に記載のアンテナにおいて、前記導電性材料は柔軟性を有することを特徴とするアンテナ。
【請求項19】
請求項17または請求項18に記載のアンテナにおいて、前記短絡部は前記スリット幅と同程度かまたはそれ以下の幅を有することを特徴とするアンテナ。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれかに記載されたアンテナを含む携帯端末機器。
【請求項21】
請求項1〜19のアンテナで、プリント基板で構成されるアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−200200(P2010−200200A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45168(P2009−45168)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【Fターム(参考)】