説明

アントシアニンを安定化する組成物

【課題】
アントシアニン、特に非アシル化アントシアニンを安定化する組成物を提供すること、及びかかる安定化組成物を加えることによりアントシアニンを安定化する方法、さらにかかる安定化組成物を含有することによりアントシアニンが有意に安定化された飲食品を提供することを課題とする。
【解決手段】
アシル化アントシアニンを産生する植物体を含有することを特徴とする組成物を、アントシアニン、特に非アシル化アントシアニンを安定化する組成物とし、それをアントシアニン含有飲食品に適用することによって、アントシアニンが安定化された製品が調製できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアントシアニン、特に非アシル化アントシアニンを安定化する組成物に関する。更に本発明は、当該安定化する組成物を添加することによるアントシアニンを安定化する方法、および当該安定化する組成物を含有することによりアントシアニンを安定化させた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アントシアニン類などの天然色素は、安全性が高いことから飲食品の着色に多く用いられている。また、以前から欧州では、主にブルーベリーのアントシアニンが医薬品として用いられている。昨今国内でもアントシアニンの機能性に注目が集まってきた。例えば、色素以外の利用法として、アントシアニンが抗酸化、視覚改善などの効果を有することが報告されている。
【0003】
しかしながら、アントシアニン色素は、他のカロチノイド系色素やフラボノイド系色素と比較して熱や光に不安定であることが知られており、光分解や空気酸化によるアントシアニンの分解・変色・褪色が問題となっていた。また、アントシアニン色素の中でも、その安定性に違いがある。例えば、紫サツマイモ、赤キャベツ、ナス、紫ジャガイモ、シソ、ブドウなどに多く含まれるアシル化アントシアニンは比較的安定であるが、カシス、ブルーベリーなどに含まれるアシル化されていないアントシアニン(非アシル化アントシアニン)は不安定であることが明らかになっている。
【0004】
この様な背景の中、アントシアニン色素の変色や褪色に対する対処方法が以前から検討されてきている。対処方法として、従来から、主に安定化組成物を加える方法、例えば、植物抽出物を添加する方法、糖類を加える方法、フラボノイド類を加える方法、有機酸類を加える方法、ビタミン類などを加える方法などが検討されている。糖類を加える方法としては、ニゲロオリゴ糖、マルトオリゴ糖及びパノースに、アントシアニン色素など天然色素の退色防止効果についての報告がある(特許文献1参照)。
【0005】
しかし、本出願人がこれまで検討した結果、フィチン酸以外には、カシスなどの非アシル化アントシアニンを十分に安定化する安定化剤は見出せなかった(特許文献2参照)。またフィチン酸においては、ミネラルの吸収を妨げる作用があり、栄養面から見ると、安定化剤として必ずしも好ましいものとは言えない。よって、栄養吸収を妨げるような作用が無く、かつアントシアニン、特に非アシル化アントシアニンを安定化する組成物の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2000-336354号公報
【特許文献2】WO01/48091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アントシアニン、特に非アシル化アントシアニンを安定化する組成物を提供することを課題とする。また本発明は、アントシアニンを安定化する組成物を添加することによりアントシアニンを安定化する方法、および、アントシアニンを安定化する組成物を含有することによりアントシアニンが安定化された飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アシル化アントシアニンを産生する植物体の破砕物、乾燥物、濃縮物またはこれらからの抽出物が、アントシアニン、特に非アシル化アントシアニンを安定化する効果を有することを見出し、それをアントシアニン含有飲食品に添加することによって、アントシアニンが安定化された製品が調製できることを確認した。本発明のアントシアニンを安定化する組成物は、広範囲のpHにおいてその効果を発現するため、アントシアニンが不安定化する弱酸性から弱アルカリ領域においてもその効果を発現することが特徴である。
【0008】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
(1) アシル化アントシアニンを産生する植物体の破砕物、乾燥物、濃縮物または抽出物を含有することを特徴とする、アントシアニンを安定化する組成物、
(2)アシル化アントシアニンを産生する植物体が、紫サツマイモ、赤キャベツ、ブドウまたはナスである(1)に記載のアントシアニンを安定化する組成物、
(3)(1)に記載の抽出物が、水または熱水抽出物である、(1)または(2)に記載のアントシアニンを安定化する組成物、
(4)(1)に記載の抽出物に、エタノールを添加し得られる沈殿物を含有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1に記載のアントシアニンを安定化する組成物、
(5)(1)に記載の抽出物が、10kDa〜100kDaに分画されたものである、(1)〜(4)のいずれか1に記載のアントシアニンを安定化する組成物、
(6)(1)〜(5)のいずれか1に記載のアントシアニンを安定化する組成物を添加することを特徴とする、アントシアニンを安定化する方法、
(7)(1)〜(5)のいずれか1に記載のアントシアニンを安定化する組成物を含有することを特徴とする、アントシアニン含有飲食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、アントシアニンを安定化する組成物を提供することができる。また、本発明のアントシアニンを安定化する組成物により、pHが強酸性域のみならず、比較的pHが高い弱アルカリ性領域であってもアントシアニンの安定性を増すことができ、色素及び機能性素材としてのアントシアニン、特に非アシル化アントシアニンの使用の可能性を増加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のアントシアニンを安定化する組成物は、アシル化アントシアニンを産生する植物体の破砕物、乾燥物、濃縮物または抽出物を含有することを特徴とする。具体的には、アシル化アントシアニンを産生する植物体としては、紫サツマイモ、赤キャベツ、ナス、紫ジャガイモ、シソ、ブドウなどが挙げられ、特に紫サツマイモ、赤キャベツ、ブドウまたはナスが好ましい。また、アシル化アントシアニンを産生する植物体は、アシル化アントシアニンを産生する植物体全てまたはその一部、特にアシル化アントシアニンを多く含む部位の破砕物あるいは乾燥物を利用することができ、該破砕物の乾燥物もしくは濃縮物も利用することができる。
【0011】
また、本発明のアントシアニンを安定化する組成物は、アシル化アントシアニンを産生する植物体の水または熱水による抽出物も用いることができる。抽出は、常法に従って、上記植物体全てまたはその一部をそのままもしくは破砕して水もしくは熱水で抽出する方法、または、植物体全てまたはその一部を乾燥後、必要に応じて粉砕し、水もしくは熱水で抽出する方法などを挙げることができる。
【0012】
アシル化アントシアニンを産生する植物体から得られた破砕物、ジュース、濃縮物および抽出物は、必要に応じて濾過または遠心分離による固形物の除去や乾燥などの処理を行うことができる。さらに必要に応じて精製処理や脱臭処理などを行うことにより、着色度の低減や脱臭、濃縮を図ることができる。
【0013】
また、上記抽出物にエタノールを添加して得られた沈殿物も、本発明のアントシアニンを安定化する組成物とすることができる。さらに、上記抽出物中に含まれる、10kDa〜100kDaの画分も本発明のアントシアニンを安定化する組成物とすることができる。後述する試験例で示した通り、アントシアニン安定化作用物質は、エタノールの添加で沈殿することから、アントシアニンを安定化する組成物の有効成分は、アシル化アントシアニンを産生する植物体に含まれるアントシアニンそのもの(エタノール可溶である)ではなく、多糖類などアントシアニン以外の成分であると考えられる。
【0014】
また、本発明のアントシアニンを安定化する組成物には、希釈剤、担体またはその他の添加剤を含有していてもよく、本発明のアントシアニンを安定化する組成物の効果を妨げないものであれば特に制限されない。さらに、本発明のアントシアニンを安定化する組成物には、アントシアニンを安定化する作用を補助または増強するように働く成分を配合することができ、かかる成分としては糖類、フラボノイド類、有機酸類、ビタミン類などを好適に挙げることができる。
【0015】
本発明のアントシアニンを安定化する作用を補助または増強するように働く成分の割合は、紫サツマイモ、赤キャベツ、ブドウまたはナスなどのアシル化アントシアニンを産生する植物体が有する安定化作用を補助または増強する割合であれば特に制限されず、種類に応じて適宜選択調整することができる。
【0016】
本発明のアントシアニンを安定化する組成物の形態は特に制限されず、例えば粉末状、顆粒状、錠剤状、液状、乳液状、ペースト状などの任意の形態として調製することができる。
【0017】
本発明のアントシアニンを安定化する組成物が対象とするアントシアニン色素には、その由来および構造の別を問わず、広範囲のアントシアニン色素が含まれるが、特に非アシル化アントシアニンが好ましい対象となる。具体的には、カシス、ブルーベリーなどのアントシアニン色素である。
【0018】
本発明のアントシアニンを安定化する組成物は、各種のアントシアニンを含有するものに広く適用することができる。かかるものとしては、飲食品、化粧品、医薬品、医薬部外品、飼料などを挙げることができる。好ましくは飲食品であり、例えばアントシアニンを含むチューインガム、錠菓、キャンディー、グミなどの菓子類、ヨーグルト、フルーツソース、シラップ、水羊羹などのデザート類、アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓類、各種食品類、タブレット、カプセル状などの健康食品類、カシス、ブルーベリーなどの果汁及び果汁飲料、飲用ゼリーなどを挙げることができる。これらは形態が固体であっても液体であっても、いずれにおいても本発明のアントシアニンを安定化する作用を奏するものである。
【0019】
本発明の飲食品は、製造の任意の工程で本発明のアントシアニンを安定化する組成物を配合することを除けば、常法に従って製造することができる。本発明のアントシアニンを安定化する組成物の配合工程およびその順番などに特に制限はないが、本発明の安定化する組成物を配合した後、その存在下でアントシアニンを配合し、次いで加熱処理などの各種の処理を施すことが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例及び試験例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0021】
カシス抽出物の調製
市販のカシス濃縮果汁を水で希釈し、Bx.10になるように調製した。この希釈果汁を濾紙で濾過して固形物を除去した後、荷電型逆浸透膜(日東電工社製:商品名NTR−7410)により膜分離を行った。濃縮液が循環しなくなるまで分離を実施し、再度水を添加して希釈した後、再度分離を継続し、濃縮液が循環しなくなった段階で分離を終了した。濃縮液をスプレードライして粉末状のカシス抽出物(アントシアニン含量22.3重量%)を得た。得られたカシス抽出物を下記の試験例において、アントシアニンとして使用し、本発明の組成物のアントシアニン安定化作用の指標として、アントシアニンの残存量の評価を行い、アントシアニン残存率を算出した。
【0022】
試験例1
<紫サツマイモ粉末のアントシアニン安定化作用>
市販の紫サツマイモ乾燥粉末を用いて、アントシアニンの安定化作用を調べた。カシス抽出物と紫サツマイモ粉末(うまいもんやライラック社製)を準備し、紫サツマイモ乾燥粉末濃度を各0.4重量%、1.0重量%、2.5重量%とした、1.0重量%カシス抽出物入り100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。また対照区として、無添加及びニゲロオリゴ糖(日本食品化工(株)社製、商品名:日食テイストオリゴ)の濃度を各0.4重量%、1.0重量%、2.5重量%とした、1.0重量%カシス抽出物入り100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。これらのサンプルを褐色瓶中で37℃、3日間保存した。アントシアニンの相対残存量を評価するために、保存前及び保存後のサンプルに100倍体積量の0.1N塩酸を加え、520nmでの吸光度を測定した。また、同時に各サンプルからカシス抽出物のみを抜いたブランクを作成し、100倍体積量の0.1N塩酸を加え、520nmでの吸光度を測定した。カシス抽出物入り緩衝液の吸光度から、カシス抽出物を抜いたブランクの吸光度を減じた値よりカシス由来のアントシアニン量を算出し、保存前のサンプルに対する保存後のサンプルのカシス由来のアントシアニン量の比率をアントシアニンの残存率として表1に示した。その結果、紫サツマイモ粉末は、ニゲロオリゴ糖に比較して高いアントシアニン残存率を示し、紫サツマイモ粉末にアントシアニン安定化作用を見出した。なお以降の試験におけるアントシアニン残存率は、上記のように測定したカシス由来のアントシアニンの残存率を示す。
【0023】
【表1】

【0024】
試験例2
<紫サツマイモ熱水抽出物のアントシアニン安定化作用>
細切りした紫サツマイモの根1重量部に対して、1重量部の水を加え、90℃で加熱しながら15分間抽出を行った。抽出液をガーゼにより濾過し、遠心分離(10,000rpm、20分間)することにより不溶物を除去し、紫サツマイモ熱水抽出物とした。得られた熱水抽出物を使用して、該熱水抽出物の濃度を各3.2容量%、8.0容量%、20容量%、50容量%とした、1.0重量%カシス抽出物入り100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。これらのサンプルを褐色瓶中で37℃、3日間保存し試験例1と同様にアントシアニン量を測定し、保存前に対する保存後のアントシアニンの残存率を表2に示した。その結果、紫サツマイモ熱水抽出物は高いアントシアニン残存率を示し、紫サツマイモ熱水抽出物にアントシアニン安定化作用を見出した。
【0025】
【表2】

【0026】
試験例3
<紫サツマイモ熱水抽出物中のアントシアニン安定化作用物質の精製>
試験例2で得られた紫サツマイモ熱水抽出物10mlにエタノールを90ml添加し、遠心分離(10,000rpm、20分間)することにより上清と沈殿物を分離した。これらの操作により紫サツマイモ熱水抽出物に含まれる赤色色素(アシル化アントシアニン)のほとんどが上清に移行した。沈殿物は薄い桃色であった。上清はエバポレートにより固形分を乾固させ、10mlの水に再溶解し上清溶液を得た。沈殿物は90容量%エタノールで洗浄した後、10mlの水に再溶解しエタノール沈殿物溶液を得た。該上清溶液及びエタノール沈殿物溶液を各20容量%とした1.0重量%カシス抽出物入り100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。これらのサンプルを褐色瓶中で37℃、3日間保存し、試験例1と同様にアントシアニン量を測定し、保存前に対する保存後のアントシアニンの残存率を表3に示した。その結果、紫サツマイモ由来のアントシアニン安定化作用物質はエタノール沈殿物中に見出され、紫サツマイモ由来のアントシアニンではないことを見出した。
【0027】
【表3】

【0028】
試験例4
<赤キャベツ熱水抽出物のアントシアニン安定化作用>
細切りした赤キャベツの葉1重量部に対して、1重量部の水を加え90℃で加熱しながら15分間抽出を行った。抽出液をガーゼにより濾過し、遠心分離(10,000rpm、20分間)することにより不溶物を除去した赤キャベツ熱水抽出物とした。得られた熱水抽出物を使用して、該熱水抽出物の濃度を50容量%とした、1.0重量%カシス抽出物入り100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。これらのサンプルを褐色瓶中で37℃、3日間保存し、試験例1と同様にアントシアニン量を測定し、保存前に対する保存後のアントシアニンの残存率を表4に示した。その結果、赤キャベツ熱水抽出物は高いアントシアニン残存率を示し、赤キャベツ熱水抽出物にアントシアニン安定化作用を見出した。
【0029】
【表4】

【0030】
試験例5
<赤キャベツ熱水抽出物中のアントシアニン安定化作用物質の精製>
紫サツマイモ熱水抽出物の代わりに赤キャベツ熱水抽出物を使用する以外は試験例3と同様に上清溶液とエタノール沈殿物溶液を調製した。これらの操作により赤キャベツ熱水抽出物に含まれる赤色色素(アシル化アントシアニン)のほとんどが上清に移行した。沈殿物は薄い桃色であった。該上清溶液及びエタノール沈殿物溶液を各50容量%とした1.0重量%カシス抽出物入り100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。これらのサンプルを褐色瓶中で37℃、3日間保存し、試験例1と同様にアントシアニン量を測定し、保存前に対する保存後のアントシアニンの残存率を表5に示した。その結果、赤キャベツ由来のアントシアニン安定化作用物質はエタノール沈殿物中に見出され、赤キャベツ由来のアントシアニンではないことを見出した。
【0031】
【表5】

【0032】
試験例6
<アントシアニン安定化作用物質の分画>
試験例4で得られた赤キャベツ熱水抽出物10mlを、分子量10kDaの物質が通過する濾過膜(ミリポア社製BI OMAX-10K NMWL MENBRANE 15ML VOL)及び分子量100kDaの物質が通過する濾過膜(ミリポア社製BIOMAX-100K NMWL MENBRANE 15ML VOL)を用いて濾過遠心を行い濃縮液と通過液に分離した。濾過遠心は、スイング式冷却遠心機(日立社製、05PR−22)を用いて4℃、2000rpmで濃縮液の体積が100μlになるまで行った。濃縮液に水を9.9ml添加し、再び濾過遠心を濃縮液の体積が100μlになるまで行った。得られた濃縮液及び通過液は水により10mlとした。赤キャベツ熱水抽出物及び得られた濃縮液と通過液を使用して、該熱水抽出物10kDa膜濃縮液、該熱水抽出物10kDa膜通過液、該熱水抽出物100kDa膜濃縮液、該熱水抽出物100kDa膜通過液を各50容量%とした1.0重量%カシス抽出物入り100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。これらのサンプルを褐色瓶中で37℃、3日間保存し、試験例1と同様にアントシアニン量を測定し、保存前に対する保存後のアントシアニンの残存率を表6に示した。その結果、赤キャベツ中のアントシアニン安定化作用物質は、10kDaの膜で濃縮され、100kDaの膜を通過するものであることが推定された。
【0033】
【表6】

【0034】
試験例7
<赤キャベツ熱水抽出物のアントシアニン安定化作用へのpHの影響>
試験例4で得られた赤キャベツ熱水抽出物を使用し、pH調整剤として最終濃度を100mMにした酢酸緩衝液(pH4.0〜5.0)、リン酸緩衝液(pH6.0〜7.0)、トリス緩衝液(pH8.0〜9.0)により、pH4〜9に調整し、該熱水抽出物を10容量%とした、1.0重量%カシス抽出物入り溶液(pH4〜9)、及び該熱水抽出物無添加1.0重量%カシス抽出物入り溶液(pH4〜9)を調製した。これらのサンプルを褐色瓶中で37℃、3日間保存し、試験例1と同様にアントシアニン量を測定し、保存前に対する保存後のアントシアニンの残存率を表7に示した。その結果、本発明のアントシアニンを安定化する組成物が広いpH域においてアントシアニン安定化作用を示すことを見出した。
【0035】
【表7】

【0036】
試験例8
<ブドウのアントシアニン安定化作用>
6倍濃縮コンコード種ブドウ果汁(Bx.68)を20容量%とした、1.0重量%カシス抽出物入り100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。これらのサンプルを褐色瓶中で37℃、3日間保存し試験例1と同様にアントシアニン量を測定し、保存前に対する保存後のアントシアニンの残存率を表8に示した。その結果、ブドウ濃縮果汁は高いアントシアニン残存率を示し、ブドウ濃縮果汁にアントシアニン安定化作用を見出した。
【0037】
【表8】

【0038】
試験例9
<ナス熱水抽出物のアントシアニン安定化作用>
細切りしたナスの実1重量部に対して、1重量部の水を加え90℃で加熱しながら15分間抽出を行った。抽出液をガーゼにより濾過し、遠心分離することにより不溶物を除去したナス熱水抽出物とした。得られた熱水抽出物を使用して、該熱水抽出物の濃度を50容量%とした、1.0重量%カシス抽出物入り100mMクエン酸緩衝液(pH5.0)を調製した。これらのサンプルを褐色瓶中で37℃、3日間保存し試験例1と同様にアントシアニン量を測定し、保存前に対する保存後のアントシアニンの残存率を表8に示した。その結果、ナス熱水抽出物は高いアントシアニン残存率を示し、ナス熱水抽出物にアントシアニン安定化作用を見出した。
【0039】
【表9】

【0040】
試験例10
<赤キャベツ熱水抽出物を加えたカシスゼリーのカシスアントシアニンの安定性>
試験例4で得られた赤キャベツ熱水抽出物5.0重量部、無水クエン酸4.8重量部、クエン酸3ナトリウム7.6重量部、乳酸カルシウム1.0重量部、ゲルアップWA(三栄源FFI社製)1.0重量部、エコーガムF(大日本製薬社製)0.5重量部、伊那寒天T−1(伊那食品工業社製)0.75重量部を78 .1重量部の水に懸濁したのち加熱した。沸騰後、カシス抽出物1.25重量部を加え攪拌し、得られた溶液をアルミ蒸着袋に移した。アルミ蒸着袋をヒートシールし85℃、30分間加熱殺菌した後、冷却しカシスゼリーを調製した。また、赤キャベツ熱水抽出物の代わりに水を加えた以外は上記と同様にして、赤キャベツ熱水抽出物無添加のカシスゼリーを調製した。得られたゼリーを37℃で1週間保存し、試験例1と同様にアントシアニン量を測定し、保存前に対する保存後のアントシアニンの残存率を表9に示した。その結果、赤キャベツ熱水抽出物を加えたカシスゼリーは、無添加のゼリーと比較して高いアントシアニン残存率を示し、赤キャベツ熱水抽出物にアントシアニン安定化作用を見出した。
【0041】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のアントシアニンを安定化する組成物は、アントシアニンを含む飲食品、及びアントシアニンを添加した飲食品に利用することにより、当該飲食品に含まれているアントシアニンを安定化することができる。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシル化アントシアニンを産生する植物体の破砕物、乾燥物、濃縮物または抽出物を含有することを特徴とする、アントシアニンを安定化する組成物。
【請求項2】
アシル化アントシアニンを産生する植物体が、紫サツマイモ、赤キャベツ、ブドウまたはナスである請求項1に記載のアントシアニンを安定化する組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の抽出物が、水または熱水抽出物である、請求項1または2に記載のアントシアニンを安定化する組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の抽出物に、エタノールを添加し得られる沈殿物を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のアントシアニンを安定化する組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の抽出物が、10kDa〜100kDaに分画されたものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアントシアニンを安定化する組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のアントシアニンを安定化する組成物を添加することを特徴とする、アントシアニンを安定化する方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のアントシアニンを安定化する組成物を含有することを特徴とする、アントシアニン含有飲食品。


【公開番号】特開2006−306966(P2006−306966A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129755(P2005−129755)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】