説明

アントラセン−9,10−ジエーテル化合物、その製造法及びその重合物

【課題】アントラセン骨格を有し、かつラジカル重合性を有する高屈折率アクリレート化合物及びその重合物を提供すること。
【解決手段】アントラセン−9,10ービス(3−メタクロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルに代表される特定構造を有するアントラセン−9,10−ジエーテル化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率材料として有用なアントラセン−9,10−ジエーテル化合物、その製造法及びその重合物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光学レンズの分野などにおいてガラス代替材料としてプラスチックが盛んに用いられている。たとえば、ポリカーボネートやポリメチルメタクリレートなどがよく知られている。これらプラスチック材料は、軽量性、安全性、意匠性を有している反面、屈折率の面では無機ガラスより低く、分厚くなりやすいという欠点がある。そこで、近年、高屈折率プラスチック材料に対する要望が高くなってきている。特に、高屈折率プラスチック材料の光学用物品への進出は著しく、液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、 TFT用のプリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、ホログラム、光ファイバー、光道波路等への応用検討が盛んに行われている。
【0003】
有機化合物の屈折率を高くする方法としては、分子構造中にハロゲン原子(フッ素を除く。)や硫黄原子を導入することが有用であることは既に良く知られている。たとえば、ハロゲン原子の有する高い固有屈折率を利用し、ビフェニル骨格にハロゲン原子を導入した高屈折率重合体が報告されている(特許文献1)。しかし、ハロゲン化によって、耐光性が著しく劣化し、また、高比重であるという欠点があった。
又、ハロゲン以外に高い固有屈折率を示す硫黄原子を有する単量体組成物も報告されている(特許文献2)。しかし、これらは高い屈折率、優れた耐衝撃性を有するものの、得られたポリマーの耐光性が著しく劣り、また硫黄特有の不快臭が問題となる欠点があった。
【0004】
一方、芳香族骨格を有するアクリレート化合物の重合物は脂環式アクリレートの重合物に比較し、屈折率が高いことが知られており、高屈折率の重合物を得るための原料として、例えばフェニル基を有するフェノキシエチルアクリレート化合物について報告例がある(特許文献3)。これら芳香族骨格を有するアクリレート化合物は、軽くて透明性に優れ、バランスの良い高屈折率材料となる(特許文献4など)。導入する芳香族環としては、ベンゼン環より、ビフェニル環がより高屈折率となる。そして、ナフタレン骨格を有するアクリレートについても高屈折率化合物としていくつか報告例がある(特許文献5、6)。また、さらに縮合度の高い環あるいはさらに多環式の環を導入することにより、さらに、高屈折率の材となることが知られており、フルオレン骨格等の導入(特許文献7)やアントラセン骨格の導入(特許文献8)が検討されている。
【0005】
しかしながら、さらに高屈折率が期待されるアントラセン骨格を有する重合性化合物およびその重合物については報告例が少ない。たとえば、ラジカル重合性基を持つアントラセン化合物はとして、9−ビニルアントラセンが提案されているが、この化合物は一般的なラジカル重合法では重合あるいは共重合がまったく進行しないか、あるいはきわめて重合速度が小さい。そのため、有機アルミニウムハイドライドなどの特殊な金属塩触媒を用いて重合する例が報告されている(特許文献9)。
【0006】
一方、アントラセン骨格を有するアクリレート化合物を光重合用増感剤として用いる例が近年報告されている(特許文献10,11)が、当該文献では、光重合用増感剤としての効果は記載されているが高屈折率を有する重合体合成原料として用いることに関しては記載されていない。また、アントラセン骨格にエチレンオキサイド結合を介してアクリレート基を結合させた化合物が開示されており、その重合体が高屈折率を有することが示されている(特許文献12)が、さらに高屈折率で、生成する重合体の塗膜性能が優れた重合体原料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−170702号公報
【特許文献2】特開2002−20433号公報
【特許文献3】特表2003−144538号公報
【特許文献4】特開2003−064296号公報
【特許文献5】特開2001−276587号公報
【特許文献6】特開2008−81682号公報
【特許文献7】特開2004−083855号公報
【特許文献8】特開2006−312709号公報
【特許文献9】特許02507889号公報
【特許文献10】特開2007−99637号公報
【特許文献11】特開2007−204438号公報
【特許文献12】特開2009−40811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の解決しようとする課題は、アントラセン骨格を有し、かつラジカル重合性を有する高屈折率アクリレート化合物及びその重合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため、アクリル基を有するアントラセン化合物の構造と重合性について鋭意検討した結果、下記一般式(1)に示されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物が重合開始剤存在下に容易にラジカル重合すること、そして生成した重合物が高い屈折率を示すことを見いだし、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、以下に記載の骨子を要旨とするものである。
【0011】
本発明の第一の要旨は、下記一般式(1)で示される新規なアントラセン−9,10−ジエーテル化合物に存する。
【0012】
【化1】

【0013】
一般式(1)において、Z及びZのいずれか一方は水素原子を示し他方は(メタ)アクリロイル基を示し、Z及びZのいずれか一方は水素原子を示し他方は(メタ)アクリロイル基を示し、Rは水素原子またはメチル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す
【0014】
本発明の第2の要旨は、アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物を(メタ)アクリル酸と反応させることよりなる上記一般式(1)で示されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の製造方法に存する。
【0015】
本発明の第3の要旨は、アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物を(メタ)アクリル酸と反応させる際、4級オニウム塩を触媒として用いることよりなる上記一般式(1)で示されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の製造方法に存する。
【0016】
本発明の第4の要旨は、一般式(1)で示されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物及びラジカル重合開始剤を含有するラジカル重合性組成物に存する。
【0017】
本発明の第5の要旨は、一般式(1)で示されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物をラジカル重合開始剤の存在下に重合して得られる重合物に存する。
【0018】
本発明の第6の要旨は、アントラセン−9,10−ジエーテル化合物とアントラセン−9,10−ジエーテル化合物以外のラジカル重合性モノマーとをラジカル重合開始剤の存在下に共重合して得られる重合物に存する。
【0019】
本発明の第7の要旨は、上記のラジカル重合開始剤が、熱ラジカル重合開始剤であることを特徴とする上記の重合物に存する。
【0020】
本発明の第8の要旨は、上記のラジカル重合開始剤が、光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする上記の重合物に存する。
【0021】
本発明の第9の要旨は、第5の要旨乃至第8の要旨に記載の重合物を含む高屈折率材料に存する。
【0022】
本発明の記述において、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルを表し、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを表す。
【発明の効果】
【0023】
本発明のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物は新規な化合物であり、ラジカル重合開始剤の存在下に容易に重合し、かつ、重合して得られる重合物は高い屈折率をしめす工業的に有用な化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物は、下記一般式(1)に記載の構造を有する新規な化合物で、一般式(1)において、Z及びZのいずれか一方は水素原子を示し他方は(メタ)アクリロイル基を示し、Z及びZのいずれか一方は水素原子を示し他方は(メタ)アクリロイル基を示し、Rは水素原子またはメチル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。
【0025】
【化2】

【0026】
一般式(1)に示すアントラセン−9,10−ジエーテル化合物は、下記の異性体が存在する。すなわち、Z及びZが(メタ)アクリロイル基であり、かつ、Z及びZが水素原子である場合が下記一般式(2)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物である。
【0027】
【化3】

【0028】
一般式(2)において、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、X及びYで表す置換基の種類は一般式(1)の場合と同じである。
【0029】
さらに、Z及びZが(メタ)アクリロイル基であり、Z及びZが水素原子である場合は下記一般式(3)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物である。
【0030】
【化4】

【0031】
一般式(3)において、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、X及びYで表す置換基の種類は一般式(1)の場合と同じである。
【0032】
またさらに、Z及びZが水素原子であり、かつ、Z及びZが(メタ)アクリロイル基である場合は下記一般式(4)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物である。
【0033】
【化5】

【0034】
一般式(4)において、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、X及びYで表す置換基の種類は一般式(1)の場合と同じである。
【0035】
一般式(1)乃至一般式(4)に於いて、XまたはYで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル碁、n−ブチル基、i−ブチル碁、アミル基、2-エチルヘキシル基、4−メチルペンチル、4−メチル−3−ペンテニル基等が挙げられ、XまたはYで表されるハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、XまたはYで表されるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基,n―プロポキシ基,n−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、XまたはYで表されるアリールオキシ基としては、フェノキシ基、p−トリルオキシ基、o−トリルオキシ基、ナフチルオキシ等が挙げられ、XまたはYで表されるアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基,ブチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、XまたはYで表されるアリールチオ基としては、フェニルチオ基、o―トリルチオ基、m−トリルチオ碁、p−トリルチオ基、p−ヒドロキシフェニルチオ基等が挙げられる。
【0036】
一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物としては、例えば、次のものが挙げられる。すなわち、一般式(2)で表されるアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、一般式(3)で表されるアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、アントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、一般式(4)で表されるアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、アントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル等である。
【0037】
更に、上記アントラセン−9,10−ジエーテル化合物のアントラセン骨格に、アルキル基が置換した化合物としては、2−メチルアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−メチルアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−メチルアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−メチルアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−メチルアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−メチルアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エチルアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−エチルアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−エチルアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エチルアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エチルアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エチルアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−(t−ブチル)アントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−(t−ブチル)アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−(t−ブチル)アントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−(t−ブチル)アントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−(t−ブチル)アントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−(t−ブチル)アントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジメチルアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2,6−ジメチルアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2,6−ジメチルアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジメチルアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジメチルアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジメチルアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル等が挙げられる。
【0038】
更に、上記アントラセン−9,10−ジエーテル化合物のアントラセン骨格に、ハロゲン原子が置換した化合物としては、2−クロロアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−クロロアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−クロロアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−クロロアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−クロロアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−クロロアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フルオロアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−フルオロアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−フルオロアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フルオロアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フルオロアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フルオロアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−ブロモアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−ブロモアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−ブロモアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−ブロモアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−ブロモアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−ブロモアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジクロロアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2,6−ジクロロアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2,6−ジクロロアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジクロロアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジクロロアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジクロロアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル等が挙げられる。
【0039】
更に、上記アントラセン−9,10−ジエーテル化合物のアントラセン骨格に、アルコキシ基が置換した化合物としては、2−メトキシアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−メトキシアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−メトキシアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−メトキシアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−メトキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)アントラセン、2−メトキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エトキシアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−エトキシアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−エトキシアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エトキシアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エトキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エトキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−ブトキシアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−ブトキシアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−ブトキシアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−ブトキシアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−ブトキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−ブトキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジメトキシアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2,6−ジメトキシアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2,6−ジメトキシアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジメトキシアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジメトキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2,6−ジメトキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル等が挙げられる。
【0040】
更に、上記アントラセン−9,10−ジエーテル化合物のアントラセン骨格に、アリールオキシ基が置換した化合物としては、2−フェノキシアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−フェノキシアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−フェノキシアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フェノキシアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フェノキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フェノキシアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル等が挙げられる。
【0041】
更に、上記アントラセン−9,10−ジエーテル化合物のアントラセン骨格に、アルキルチオ基が置換した化合物としては、2−メチルチオアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−メチルチオアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−メチルチオアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−メチルチオアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−メチルチオアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−メチルチオアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エチルチオアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−エチルチオアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−エチルチオアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エチルチオアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エチルチオアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−エチルチオアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル等が挙げられる。
【0042】
更に、上記アントラセン−9,10−ジエーテル化合物のアントラセン骨格に、アリールチオ基が置換した化合物としては、2−フェニルチオアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−フェニルチオアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル、2−フェニルチオアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フェニルチオアントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フェニルチオアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−アクリロイルオキシプロピル)エーテル、2−フェニルチオアントラセン−9,10−ビス(3−ヒドロキシ−2−メタクリロイルオキシプロピル)エーテル等が挙げられる。
【0043】
上記例示したアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の中では、アントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル(下記構造式(5)の化合物)、アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル(下記構造式(6)の化合物)が、合成が容易な点から好ましい。
【0044】
【化6】

【0045】
【化7】

【0046】
[製造方法]
一般式(1)に示す、本発明のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物は、9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物を塩基性化合物の存在下、エピハロヒドリンと反応させてこうぞうしき一般式(7)で表されるアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物となす第一反応と、第一反応で得られたアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物をさらに、アクリル酸又はメタクリル酸と反応させる第二反応より得ることが出来る。
【0047】
【化7】

【0048】
第一反応において原料となる9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物としては、9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−メチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−(t−ブチル)−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−クロロ−9,10−ジメトキシアントラセン、2−フルオロ−9,10−ジメトキシアントラセン、2−ブロモ−9,10−ジメトキシアントラセン、2,6−ジクロロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−メトキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−エトキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−フェノキキシ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−メチルチオ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−エチルチオ−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−フェニルチオ−9,10−ジヒドロキシアントラセン等が挙げられる。
【0049】
エピハロヒドリン化合物としては、例えば、エピクロロヒドリン、2−メチルエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、2−メチルエピブロモヒドリン等が挙げられる。エピハロヒドリン化合物は9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物に対して、2モル倍から4モル倍添加する。より好ましくは2.0モル倍から2.4モル倍添加する。2モル倍未満では、未反応の9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物が残留し好ましくない。また、エピハロヒドリンの添加量が過剰な場合、例えば、4モル倍を越えて添加した場合は、生成物の純度が低下し、同様に好ましくない。
【0050】
塩基性化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基が挙げられる。塩基性化合物の添加量は9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物対して2倍モルから3倍モルが望ましい。反応は通常溶媒の存在下行われる。使用する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、エチレングリコール、ジメトキシエタノール、等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族系溶媒、ジクロルメタン、ジクロロエタン、ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒が用いられる。
【0051】
反応温度は、40℃以上、120℃以下が望ましい。40℃未満では反応が遅く、120℃を超える温度では副反応による副生物が増加するため好ましくない。反応時間は反応温度によるが、通常0.5時間から2時間である。
【0052】
このようにして、第一反応で得られたアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物をアクリル酸またはメタクリル酸と反応させる第二反応により、一般式(1)に示すアントラセン−9,10−ジエーテル化合物となす事が出来る。
【0053】
本発明の一般式(1)に示すアントラセン−9,10−ジエーテル合物は、アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物と(メタ)アクリル酸との付加反応によって得ることができる。
【0054】
一般的に、グリシジル化合物と(メタ)アクリル酸の付加反応においては、塩基性触媒が用いられる。用いられる触媒としては、例えば、トリエチルアミン、ジブチルアミンなどの有機塩基が知られている。また特開昭59−70642号公報にグリシジルフェノキシフェニルエーテルと(メタ)アクリル酸の付加反応において4級アンモニウム塩が触媒効果を持つことが示されている。
【0055】
本反応に用いられるアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物の(メタ)アクリル酸による付加反応におけるこれら触媒の効果について鋭意検討した結果、活性および選択性の両面から、4級アンモニウム塩及び4級ホスホニウム塩が本反応に適していることを見いだした。4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド等が挙げられ、4級ホスホニウム塩としては、トリブチルメチルホスホニウムアイオダイド、トリブチルオクチルホスホニウムブロマイド、トリブチルヘキサデイシルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
【0056】
用いられる4級アンモニウム塩及び/又は4級ホスオニウム塩の量は、アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物に対して0.5モル%以上、50モル%以下が好ましい。より好ましくは1モル%以上、20モル%以下である。0.5モル%未満であれば、反応速度が遅く反応時間がかかりすぎ、20モル%を超えると生成物の純度が低くなり、いずれも好ましくない。
【0057】
アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物に対する(メタ)アクリル酸の付加反応において用いられる溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等などのケトン系溶媒、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒など各種の溶媒が用いられる。
【0058】
アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物に対する(メタ)アクリル酸の添加量は2モル倍以上10モル倍以下が好ましい。より好ましくは2.1モル倍以上4モル倍以下である。2モル倍未満であれば、未反応のアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物が残り、また、4モル倍を超えると副生物が生成しやすくなり、いずれも好ましくない。
【0059】
反応温度は50℃から150℃の間で行うのが好ましい。より好ましくは70℃から120℃の範囲である。50℃未満では反応時間がかかりすぎ、また、150℃を超えると(メタ)アクリル酸の重合が進み、いずれも好ましくない。
【0060】
反応は、窒素雰囲気下で実施することが好ましい。空気雰囲気下では、反応液が着色しやすく、生成物の色調が悪化するので好ましくない。
【0061】
当該反応において、(メタ)アクリル酸又は生成物が重合することを防止するために重合禁止剤を存在させてもよい。重合禁止剤としては、4−メトキシフェノール、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)等が用いられる。重合禁止剤の添加量としては、(メタ)アクリル酸に対して0.05〜5重量%添加するのが好ましい。
【0062】
反応終了後、酢酸エチルなどの抽出溶媒を加えた後、飽和重炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄することで、過剰に用いた(メタ)アクリル酸を除去する。次いで水で洗浄後、溶媒を留去することで、一般式(2)乃至一般式(4)の3種の異性体混合物として高純度の目的物が得られる。
【0063】
得られた異性体混合物は、再結晶又はシリカゲルカラムクロマトグラフィ等による分離精製により、それぞれを単離することができる。これらの構造異性体は、分離精製した単独の化合物として後述する重合反応により重合物とすることができるが、混合物のままでも容易に重合反応を起こし、所望の高屈折率の重合物を得ることができる。
【0064】
得られた化合物の同定は、赤外スペクトル、マススペクトル、H−NMRスペクトルを用いて行い、これらの化合物が一般式(1)に示すアントラセン−9,10−ジエーテル化合物であることを確認した。
【0065】
[重合反応]
かくして得られた一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物は重合性基である二つのアクリレート基を持ち、熱分解型、レドックス分解型、光分解型等のラジカル重合開始剤の存在下或いは不存在下に、熱エネルギー又は紫外線、電子線、マイクロ波等の活性エネルギー線や機械的エネルギーを与えて重合させることができる。なお、ラジカル重合開始剤の存在下に重合させるのが速やかに重合するため好ましい。これら重合開始剤については文献等で公知である(たとえば、大津隆行著、「改訂高分子合成の化学」、株式会社化学同人,1979年)。
【0066】
本発明の重合において、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物を単独で重合させることもできるが、アントラセン−9,10−ジエーテル化合物以外の通常のラジカル重合性モノマーを加えて共重合性の光ラジカル重合性組成物とすることも出来る。このラジカル重合性モノマーとしては、例えば、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートポリエステルアクリレート、ポリブタジエンアクリレート、ポリオールアクリレート、ポリエーテルアクリレート、シリコーン樹脂アクリレート、イミドアクリレートさらには、スチレン、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等が挙げられる。これらの他のラジカル重合性モノマーを用いる場合、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物との相溶性にもよるが、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物10重量部に対し、他のラジカル重合性モノマーを0.1から90重量部の範囲で用いるのが好ましい。他のラジカル重合性モノマーを90重量部を越えて用いると重合物の耐熱性や屈折率などの性能が低くなるので好ましくない。
【0067】
本発明のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の重合に好適なラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤及び光ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0068】
熱ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物やアゾ系化合物等のどちらでも使用可能である。有機過酸化物としては、例えばt− ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t− ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチル パーオキシ−3.5.5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート類等のパーオキシ エステル類、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5− トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類、 ラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド 類等を挙げることができる。またアゾ系化合物の開始剤 としては、例えば2,2'−アゾビスイソブチロニトリルや、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビ (シクロヘキサン−1−カーボニトリル)等のアゾニトリル類を挙げることができる。
【0069】
熱ラジカル重合開始剤の添加濃度は、アントラセン−9,10−ジエーテル化合物および必要に応じて併用されるラジカル重合性モノマーの合計重量に対して 0.1〜10重量%の範囲から選ばれ、好ましくは 1〜3重量%である。0.1重量%より少ないと重合速度が遅く、10重量%より多いと重合物の物性が悪化するので好ましくない。
【0070】
熱ラジカル重合開始剤の存在下に行われる熱ラジカル重合は、通常溶媒の存在下で行われるが、溶融状態で重合させることも可能である。溶媒を用いる場合は、溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、t−ブチルベンゼン、クロロベンゼン、クロロナフタレン等の芳香族系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、シクロヘキサノン、メイルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒が用いられる。重合温度は、通常50℃から150℃の間で行われる。50℃未満では、重合が遅すぎて好ましくなく、また150℃を超える温度では重合物が着色して好ましくない。より好ましくは、80℃から120℃の範囲である。溶媒を用いた場合は、重合の進行に伴い、重合物が不溶性となり沈澱して来る。この沈殿物を、濾過・乾燥し、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物が重合した重合物を得ることが出来る。得られた重合物は、原料である一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の融点以上に加熱しても融解せず、また、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の良溶媒であるメタノール、アセトン、トルエン、テトラヒドロフラン等にも全く溶解しないことからも重合物となっていることが確認できる。
【0071】
また、溶融して重合させる場合は、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の融点以上に加熱して溶融させた後、所定量の熱ラジカル重合開始剤を添加し、窒素雰囲気下加熱を続ける。時間の進行に伴い、溶融物は重合してくる。加熱時間は通常数分から数十分である。
【0072】
また、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物は、活性エネルギー線を放射することにより重合させることも出来る。使用可能な活性エネルギー線としては可視光、UV光、電子線が挙げられる。まず、可視光、UV光による重合について説明する。
【0073】
一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物は、光ラジカル重合開始剤の存在下、光照射することにより重合させることが出来る。
【0074】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、2−イソプロピルチオキサントン、2−t−ブチルアントラキノン等が挙げられる。実際の工業製品としてはチバスペシャリティケミカルズ社製のイルガキュア651、イルガキュア184、ダロキュア1173、イルガキュア907、イルガキュア369、ダロキュアTPO、イルガキュア819、イルガキュア784等が挙げられる(イルガキュア、ダロキュアはチバスペシャリティケミカルズ社の登録商標)。
【0075】
光ラジカル重合において用いる、光ラジカル重合開始剤の添加濃度は、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物および必要に応じて併用されるラジカル重合性モノマーの合計重量に対して0.5〜10重量%の範囲から選ばれ、好ましくは1〜3重量%である。0.5重量%より少ないと重合速度が遅く、10重量%より多いと重合物の物性が悪化するので好ましくない。
【0076】
使用するランプとしては、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、フュージョン社製 Hランプ、Dランプ、VランプさらにはUV−LED、青色LED等の光源が挙げられる。太陽光の使用も可能である。
【0077】
光ラジカル重合の具体的な態様としては、溶媒を使用した溶液状態での重合、溶媒を使用しない塊状態での重合共に可能である。前者の溶媒を使用した溶液状態の重合で使用可能な溶媒としては、照射する光を吸収せず、重合禁止効果を持たないものであれば特に種類を選ばない。なかでも、トルエン、キシレン、t−ブチルベンゼン、クロロベンゼン、クロロナフタレン等の芳香族系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭素系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒が好適に用いられる。溶液状態での重合方法においては、光照射に伴い、重合物が不溶解性となり沈澱してくる。このものを濾別・乾燥し、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の重合物を得ることが出来る。このようにして得られる重合物は、原料モノマーの一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の融点以上に加熱しても融解せず、また、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の良溶媒であるメタノール、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン等にも全く溶解せず、このことからも重合物であることが確認できる。
【0078】
また、溶媒を使用しない光重合の場合は、目的とする形状に応じた塊のまま重合させる場合と、フィルム状にして重合させる場合とがある。塊のまま光ラジカル重合させる場合は、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の融点以上に加熱して溶融させるか、もしくは他のラジカル重合性モノマーを加えて得られる混合物を加熱共融させ、そこに所定の光ラジカル開始剤を添加・溶解させ、溶融状態のまま光照射する。
【0079】
また、本発明の一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物とラジカル重合開始剤を含有してなるラジカル重合性組成物とすることも有用である。予め調製した重合性組成物とすることにより、このラジカル重合性組成物を任意の形状に加工した後、熱エネルギーや活性エネルギー線の照射により、目的とする形状の重合物を得ることができる。特に、溶融状態でフィルム状等に加工して重合させるときは有用である。このラジカル重合性組成物を用いた重合は熱ラジカル重合も可能であるが、溶融状態とするときに加熱による予期せぬ重合を招かないように光ラジカル重合を用いるのが好ましい。
【0080】
光照射に使用する光源は、溶液状態で用いた光源と同じである。光照射するにつれ、溶融物が重合してくる。光照射時間は、通常数分から10分の間である。得られる重合物は原料モノマーの一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の融点以上に加熱しても融解せず、また、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の良溶媒であるメタノール、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン等にも全く溶解しないことからも重合物となっていることが確認できる。
【0081】
次に、溶媒を使用しない光重合において、フィルム状で重合させる場合は、例えば、次のように行う。フィルムの作成は,たとえば上記のように調製した一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物と光ラジカル開始剤を含むラジカル重合性組成物を、ポリエステルフィルム、アルミ箔、金属板等の基板上にバーコーターを用いて塗布し,膜厚10〜200ミクロン程度の塗膜を作ることにより行う。塗布物に上記記述したランプを用いて光照射することにより、重合したフィルムやシートを得ることが出来る。得られたフィルムやシートは、原料モノマーの一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の融点以上に加熱しても融解せず、また、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の良溶媒であるメタノール、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン等にも全く溶解しないことからも重合物となっていることが確認できる。また、屈折率を測定した結果、モノマーの屈折率より高い屈折率が得られており、この点においてもフィルムやシートが重合していることが示された。
【0082】
これらの光重合において文献等公知の技術を用いることも可能である(たとえば、ラドテック研究会「UV・EB硬化技術の最新動向」(株式会社シーエムシー出版、2006))。
【0083】
活性エネルギー線のうち電子線の照射による重合も可能である。その場合、ラジカル重合開始剤を用いなくても重合させることができ、例えば、フィルム状態での電子線重合を行う場合は、加速電圧150kV,K値99で2分間の電子線照射で重合したフィルムを得ることが出来る。得られたフィルムは、原料モノマーの一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の融点以上に加熱しても融解せず、また、一般式(1)で表されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の良溶媒であるメタノール、トルエン、アセトン、テトラヒドロフラン等にも全く溶解せず、重合物であることが確認できる。また、屈折率を測定した結果、モノマーの屈折率より高い屈折率が得られており、フィルムが重合していることが示された。
【0084】
また、これらの重合操作の前にラジカル重合開始剤以外の添加剤を加えることも可能である。添加剤としては、重合物の変質、劣化等を防止するために、重合禁止剤、酸化防止剤、光(紫外線)吸収剤、光安定剤、老化防止剤、防火微剤等、美観、意匠を向上させるための顔料、染料、光沢材等、加工性を向上させるための可塑剤、スリップ剤、離型剤、ゲル化剤等、その他の機能を付与させるために難燃剤、帯電防止剤、抗菌剤、防臭剤、香料等挙げられる。
【0085】
本発明で生成した重合物は、高屈折率を示す以外に、その構造から紫外線吸収性、高硬度、高光沢率、高い疎水性等が期待できる。また、水酸基を持つことから、基材との密着性の改善も期待される。また、水酸基にアセチル基やトリメチルシリル基を付けたり、重合後に高分子反応により種々の置換基を重合体に導入することにより、さらなる物性の改善も可能である。
【0086】
本発明の重合物の用途としては、レンズ、回折格子、フィルター、反射材等の光機能材料、封止剤、レジスト、絶縁材料、コンデンサー材料等のエレクトロニクス材料、キャパシター、太陽電池等のエネルギー関連材料、イオン交換樹脂等の分離機能材料、歯科材料等のバイオ、医療機能材料、高強度材料、接着剤等の航空、自動車材料、その他、塗料、粘着剤挙げられ、文献等で広く紹介されている(たとえば、高分子材料・技術総覧編集委員会「高分子材料・技術総覧」(株式会社産業技術サービスセンター、2004)、光応用技術・材料事典編集委員会「光応用技術・材料事典」(株式会社産業技術サービスセンター、2006)。光学材料の分野において、レンズは高屈折率ほど薄くでき、レジスト材料は屈折率高いほど解像度が良いため、高屈折率が求められる傾向にある。ここで高屈折率とは常温でのD線の屈折率が1.55以上のものを示す。
【0087】
下記の実施例により本発明を例示するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。特記しない限り、すべての部および百分率は、重量基準である。
【0088】
生成物の確認は下記の機器による測定により行った。
(1)融点:ゲレンキャンプ社製の融点測定装置、型式MFB−595(JIS K0064に準拠)
(2)赤外線(IR)分光光度計:日本分光社製、型式IR−810
(3)核磁気共鳴装置(NMR):日本電子社製、型式GSX FT NMR Spectorometer
(4)Massスペクトル:島津製作所社製、質量分析計、型式GCMS−QP5000
【実施例1】
【0089】
<9,10−アントラセンジオールとエピクロロヒドリンとの反応によるアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテルの合成>
窒素雰囲気下、滴下ロート、冷却管、温度計を備えた2Lの反応器に、エピクロロヒドリン345g(3.73モル)とメタノール100mlを仕込み50℃に昇温した。これに、9,10−アントラセンジオール129g(0.61モル)を、苛性ソーダ50g(1.25モル)を溶解した水溶液614gに窒素雰囲気下で溶かした水溶液を3時間かけて加えた後、2時間反応を押込んだ。水相を分液後、反応液を濃縮し、エピクロロヒドリンを留去させる。閉環反応を行うための溶媒としてメチルイソブチルケトンを200g加え、水18gに苛性ソーダ6gを溶かした水溶液を加え、60℃で1時間加熱した。反応終了後、反応液を水洗し、冷却して析出した結晶をろ過・乾燥し、淡黄色の結晶 9,10−ジグリシジルオキシアントラセン128g(0.40モル)が得られた。原料9,10−アントラセンジオールに対する収率は66モル%である。
【0090】
・融点: 133℃
・IR(KBr、cm−1):3020,3000,2920,2860,1430,1380,1330,1156,982,908,860,768,674.
H−NMR(CDCl,270MHz):δ=2.81(dd、J=6Hz,J=4Hz,2H),2.95(dd,J=6Hz,J=2.5Hz,2H),3.50−3.62(m,2H),4.08(dd,J=8Hz,J=2Hz,2H),4.43(dd,J=7Hz,J=2Hz,2H),7.42−7.56(m,4H),8.24−8.38(m,4H).
【実施例2】
【0091】
<アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテルとメタクリル酸との反応>
窒素気流下、攪拌機、温度計付きの300ml三口フラスコに実施例1と同様にして得られたアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル10.0g(0.031モル)、メタクリル酸10.70g(0.124モル)、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド750mg、重合禁止剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(以下、TEMPOと略す)4mgに、溶媒としてメチルイソブチルケトン80mlを加えた。この原料組成物を反応温度110℃に保って3.5時間反応を行った。反応液の一部をサンプリングし、液体クロマトグラフィーで分析し、原料のアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテルが完全に消費されていることを確認し、反応を終了した。反応液を室温まで冷却し、抽出溶媒として酢酸エチルを30ml加え、この有機層を飽和重曹水で洗浄し、過剰のメタクリル酸を除く。次いで水で洗浄後、溶媒を減圧留去すると、黄色の固体15.2gが得られた。
【0092】
液体クロマトグラフィーで分析したところ、アントラセン−9,10−ジエーテル化合物の異性体と思われる3本のピーク、A1、B1、C1が検出された。この3本のピークを合わせた純度は94.1%であった。また異性体の組成は、A1が4.0%、B1が32.2%、C1が63.8%であった。
次に、得られた粗生成物15.2gをメタノール100ml、水15mlの混合溶媒から再結晶することにより淡黄色結晶3.1g(0.0063モル)が得られた。異性体の比はA1が0.1%、B1が4.9%、C1が95.0%であり、H−NMR分析によって、このC1成分は、アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルであることが分かった。単離物の原料アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテルに対する収率は20モル%であった。
【実施例3】
【0093】
異性体A1、B1、C1の分離精製と物性、スペクトルデータ
<異性体混合物の薄層クロマト板による分離>
上記異性体混合物約120mgをとり、少量のクロロホルムに溶かす。この溶液を、20cm四方のシリカゲルプレートの下部に引いた直線に沿って均一濃度になるように塗り付ける。酢酸エチル/n−ヘキサン(容積比:2/3)で展開することで、3つのUV発色帯に分離した。これらを夫々、後処理、液体クロマトグラフィーおよびH−NMRで分析したところ、原点から遠い発色帯は優位な異性体C1であるアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルであり、また真中の発色帯は、異性体B1で、アントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(2−メタクロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピル)エーテルであることが分かった。原点に最も近い発色帯は、量が少なくてスペクトルをとれなかったが劣位の異性体A1であり、アントラセン−9,10−ビス(2−メタクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピル)エーテルと推測した。
【0094】
<物理化学的性質>
アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル (異性体C1)
・淡黄色固体
・融点:93.1−94.8℃
・質量分析:(M)494
・IR(KBr、cm−1):3420、2960、2930、1725、1638、1620、1460、1380、1350、1295、1160、1100、1060、960、760.
H−NMR(CDCl、270MHz):δ=8.22−8.31(m、4H)、7.42−7.52(m、4H)、6.19(d、2H)、5.62(d、2H)、4.48−4.61(m、6H)、4.27(d、4H)、2.90(d、2H)、1.99(s、6H).
【0095】
アントラセン−9−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(2−メタクロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピル)エーテル (異性体B1)
・淡黄色液体
・質量分析:(M)494
・IR(KBr、cm−1): 3480、3080、2950、2940、1720、1640、1590、1458、1355、1300、1165、1070、940、770.
H−NMR(CDCl、270MHz):δ=8.19−8.23(m、4H)、7.40−7.55(m、4H)、6.28(s、1H)、6.19(s、1H)、5.70(s、1H)、5.63(s、1H)、5.43−5.63(m、1H)、4.34−4.62(m、5H)、4.32(d、2H)、4.18(d、2H)、2.04(s、3H)、1.99(s、3H).
【0096】
異性体混合物:黄褐色固体
液体クロマトグラフィー質量分析:薄層クロマト板で分離、分取した上記2種の異性体(B1、C1)に相当する2本のピークはともにMとして494を示したが、少量の異性体(A1)のアントラセン−9−10−ビス(2−メタクロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピル)エーテルと推測していた残り1本のピークも同じMを示し、この推測が正しいことを確認した。混合物のH−NMRおよびIRスペクトルはこれら異性体の混合物として矛盾しない結果であった。
【実施例4】
【0097】
<アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテルとアクリル酸との反応>
窒素気流下、攪拌機、温度計付きの300ml三口フラスコに実施例1と同様にして得られたアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル4.0g(0.0124モル)、アクリル酸2.24g(0.031モル)、触媒としてテトラブチルアンモニウムブロマイド300mg、重合禁止剤としてTEMPO2mgに、溶媒としてメチルイソブチルケトン40mlを加える。この原料組成物を反応温度105℃に保って6時間反応を行った。反応液の一部をサンプリングし、液体クロマトグラフィーで分析し、原料のアントラセン−9,10−ジグリシジルエーテルが完全に消費されていること、およびアクリル酸の一分子付加体がほぼ消失していることを確認し、反応を終了した。反応液を室温まで冷却し、抽出溶媒として酢酸エチルを20ml加え、この有機層を飽和重曹水で洗浄し、過剰のアクリル酸を除く。次いで水で洗浄後、溶媒を減圧留去すると、淡黄色液体5.5gが得られた。
【0098】
次に、得られた粗生成物5.5gをメチルイソブチルケトン13mlから再結晶することにより淡黄色結晶0.88g(0.0018モル)が得られた。異性体の比はA2が0.3%、B2が8.1%、C2が91.6%であった。H−NMR分析によって、このものは、優位な異性体C2で、アントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルであることが分かった。単離物の原料アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテルに対する収率は15モル%であった。
【実施例5】
【0099】
異性体(A2、B2、C2)の分離精製と物性、スペクトルデータ
<異性体混合物の薄層クロマト板による分離>
上記再結晶後の母液を用いて、実施例3と同様にして薄層クロマト板による異性体分離を行った。分析の結果、原点から遠い発色帯はC2でアントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルであり、また原点から2番目に近い発色帯はB2で黄色粘調液体のアントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(2−アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピル)エーテルであることが分かった。原点に最も近い発色帯は、量が少なくてスペクトルをとれなかったが劣位の異性体A2であり、アントラセン−9,10−ビス(2−アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピル)エーテルと推測した。
【0100】
<物理化学的性質>
アントラセン−9,10−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル (異性体C2)
・白色結晶
・融点:109.8−111.5℃
・質量分析:(M)466
・IR(KBr、cm−1):3420、2940、2870、17221635、1620、1410、1395、1295、1270、1190、1170、1108、1065、805、760.
H−NMR(CDCl、270MHz):δ=8.20−8.32(m、4H)、7.43−7.55(m、4H)、6.50(d、2H)、6.22(dd、2H)、5.90(d、2H)、4.48−4.62(m、6H)、4.23(d、4H)、2.96(bs、1H).
【0101】
アントラセン−9−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−10−(2−アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピル)エーテル (異性体B2)
・黄色粘調液体
・質量分析:(M)466
・IR(neat、cm−1):3460、3080、2950、2890、1730、1640、1625、1415、1360、1300、1280、1200、1070、985、810、775.
H−NMRスペクトル(CDCl、270MHz):8.23−8.36(m、4H)、7.45−7.53(m、4H)、6.62−6.47(m、2H)、6.14−6.34(m、2H)、5.88−6.00(m、2H)、5.48−5.59(m、1H)4.50−4.62(m、3H)、4.36−4.50(m、2H)、4.16−4.28(m、4H)、2.90(d、1H).
【0102】
異性体混合物:淡黄色液体
液体クロマトグラフィー質量分析:薄層クロマト板で分離、分取した上記2種の異性体に相当する2本のピークはともにMとして466を示したが、少量の異性体であるアントラセン−9,10−ビス(2―アクリロイルオキシプロポキシ−3−ヒドロキシ)エーテルと推測していた残り1本のピーク(A2)も同じMを示し、この推測が正しいことを確認した。混合物のH−NMRおよびIRスペクトルはこれら異性体の混合物として矛盾しない結果であった。
【実施例6】
【0103】
<アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルの熱重合>
実施例3と同様にして合成し、再結晶して得られたアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル1.0gを50mlのナスフラスコに仕込み、トルエン10g加え、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを120mg添加し、重合用溶液とした。反応液の温度を100℃に加熱したところ、3分後全体的に白濁した。さらに10分間加熱し、冷却して白色のゼリー状物を得た。反応混合物にメタノール30mlを仕込み、十分攪拌した後、反応液を吸引ろ過し、濾過残渣を乾燥して薄黄色の粉末0.85gを得た。収率は85%であった。
【0104】
この薄黄色の粉末を、アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルの融点である95℃以上に加熱したが全く融解せず、かつ、アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルの良溶媒である、トルエン、ジクロルメタン、ジメチルホルムアミドにも全く溶解しないため、薄黄色の粉末はアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルの重合物であることが確認された。
【実施例7】
【0105】
<アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルの光重合>
実施例3と同様にして合成し、再結晶して得られたアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル100重量部に、開始剤として、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(チバ・スペシャリティー社製、商品名:イルガキュア784)を1重量部加え、均一な光ラジカル重合性組成物とした。この光ラジカル重合性組成物を、バーコーターによってポリエステルフィルム(東レ社製、商品名:ルミラー、膜厚100ミクロン、ルミラーは東レ株式会社の登録商標)表面に、膜厚300ミクロンになるように塗布した。ついで、窒素雰囲気下、青色LED(ルミレッズ社製、中心波長460nm、3W)を用いて3cm上から照射した。10分光照射後、平滑なフィルムが得られた。
【0106】
このものを、ホットプレート上で、原料モノマーであるアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルの融点である95℃以上に加熱したが、全く融解しなかった。また、このフィルムの屈折率を測定したところ(測定機器:エルマーER−7MW−H)、1.633(n)と非常に高い屈折率を持つことが判明した。
【実施例8】
【0107】
<アントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルとトリメチロールプロパントリアクリレートの光共重合>
実施例3と同様にして合成し、再結晶して得られたアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテル30重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート70重量部に、開始剤として、ビス(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(チバ・スペシャリティー社製、商品名:イルガキュア784)を1重量部加え、均一な光ラジカル重合性組成物とした。この光ラジカル重合性組成物を、バーコーターによってポリエステルフィルム(東レ社製、商品名:ルミラー、膜厚100ミクロン)表面に、膜厚300ミクロンになるように塗布した。ついで、窒素雰囲気下、青色LED(ルミレッズ社製、中心波長460nm、3W)を用い、3cm上から照射した。10分光照射後、平滑なフィルムが得られた。
【0108】
このものを、ホットプレート上で、原料モノマーであるアントラセン−9,10−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)エーテルの融点である95℃以上に加熱したが、全く融解しなかった。また、このフィルムの屈折率を測定したところ(測定機器:エルマーER−7MW−H)、トリメチロールプロパントリアクリレート単独の光重合物の1.520より0.027高い1.547(n)であった。
【0109】
実施例6、実施例7より、本発明のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物が、容易にラジカル重合しすること及び実施例7より重合物が高屈折率であることが分かる。また、実施例8より、本発明のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物が、トリメチロールプロパントリアクリレートのような既存のラジカル重合性化合物と共重合性組成物を形成し、得られる重合物の屈折率を高める効果があることが分かる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるアントラセン−9,10−ジエーテル化合物。
【化1】

(一般式(1)において、Z及びZのいずれか一方は水素原子を示し他方は(メタ)アクリロイル基を示し、Z及びZのいずれか一方は水素原子を示し他方は(メタ)アクリロイル基を示し、R1は水素原子またはメチル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていても良く、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基のいずれかを示す。)
【請求項2】
アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物を(メタ)アクリル酸と反応させることよりなる請求項1に記載のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の製造方法。
【請求項3】
アントラセン−9,10−ジグリシジルエーテル化合物を(メタ)アクリル酸と反応させる際、4級オニウム塩を触媒として用いることよりなる請求項1に記載のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物及びラジカル重合開始剤を含有するラジカル重合性組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物をラジカル重合開始剤の存在下に重合して得られる重合物。
【請求項6】
請求項1に記載のアントラセン−9,10−ジエーテル化合物とアントラセン−9,10−ジエーテル化合物以外の他のラジカル重合性モノマーとをラジカル重合開始剤の存在下に共重合して得られる重合物。
【請求項7】
ラジカル重合開始剤が、熱ラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項5又は6に記載の重合物。
【請求項8】
ラジカル重合開始剤が、光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項5又は6に記載の重合物。
【請求項9】
請求項5乃至8に記載の重合物を含む高屈折率材料。



【公開番号】特開2010−254585(P2010−254585A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103600(P2009−103600)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】