説明

アントラセンジオン化合物

本発明は、下記の式(I)の化合物を含有する組成物に関する:


、R、R、R、R、R、R、およびRのそれぞれについては明細書中で定義されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、その内容が参照により本明細書に引用される、2006年4月7日に出願された米国仮出願第60/790,340号の優先権を主張する。
【0002】
背景
一般的かつ不快な症状である便秘には、欧米の人口の約20%が罹患している。便秘の最もよくある原因は、低繊維食、運動の欠如、不十分な水分摂取、またはトイレ行きの遅れである。ストレスおよび旅行もまた、便秘の原因となる。他の原因としては、腸疾患(例えば、炎症性腸疾患および過敏性腸症候群)、嚢胞性線維症、妊娠、メンタルヘルスの問題、または薬剤が挙げられる。
【0003】
バランスの取れた食事、規則的な運動、およびストレスの低減は、便秘を回避する助けとなりうる。また、多くの下剤が便秘からの回復に有効なことが臨床的に証明されている。しかしながら、新たな治療法により示されているように、これらの治療は満足のいくものではない。よって、便秘の代替的な治療法が求められている。
【発明の開示】
【0004】
要約
本発明は、便秘を治療するための組成物および方法に関する。
【0005】
一形態において、本発明は、製薬上許容されうる腸溶性担体と式(I)のアントラセンジオン化合物とを含有する、乾燥形態または溶液形態のいずれかである、薬剤組成物に関する:
【0006】
【化1】

【0007】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはC(O)Rであり、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはORであり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、OR、COOR、OC(O)OR、SR、NHR、または、C−C20シクロアルキル、C−C20ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、OR、COOR、OC(O)OR、SRもしくはNHRで置換されていてもよいC−Cアルキルであり、ここで、RおよびRは、それぞれC−C10アルキルであり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはC−C10アルキルである。
【0008】
上述の化合物は、その製薬上許容されうる塩やその金属錯体を含む。当該塩は、例えば化合物中の負に荷電した酸素と正に荷電した無機または有機イオンとの間で形成されうる。当該金属錯体は、例えば化合物上の酸素原子が1以上の金属イオンに配位することにより形成されうる。
【0009】
式(I)を参照すると、上述したアントラセンジオン化合物のサブセットは、RおよびRがそれぞれ独立して水素原子、C−Cアルキル(例えば、CH)、またはOR(例えば、OCH)であるものである。これらの化合物において、R、R、R、R、R、およびRは水素原子でありうる。アントラセンジオン化合物の例としては、クリソファノールおよびフィスシオン(physcion)が挙げられる。
【0010】
【化2】

【0011】
「アルキル」との語は、−CH、−CH−CH=CH、または分枝状の−Cといった、飽和または不飽和の、直鎖状または分枝状の炭化水素部位を意味する。「シクロアルキル」との語は、シクロヘキシルまたはシクロヘキセン−3−イルといった、飽和または不飽和の、非芳香族の環状炭化水素部位を意味する。「ヘテロシクロアルキル」との語は、4−テトラヒドロピラニルまたは4−ピラニルといった、飽和または不飽和の、少なくとも1つの環ヘテロ原子(例えば、N、OまたはS)を有する非芳香族の環状部位を意味する。「アリール」との語は、1以上の芳香環を有する炭化水素部位を意味する。アリール部位の例としては、フェニル、フェニレン、ナフチル、ナフチレン、ピレニル、アンスリルおよびフェナントリルが挙げられる。「ヘテロアリール」との語は、少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、N、OまたはS)を含有する1以上の芳香環を有する部位を意味する。ヘテロアリール部位の例としては、フリル、フリレン、フルオレニル、ピロリル、チエニル、オキサゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピリミジニル、キナゾリニル、キノリル、イソキノリルおよびインドリルが挙げられる。
【0012】
本明細書に記載のアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリールは、そうでないと特記しない限り、置換および非置換の部位を含む。シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリール上の可能な置換基としては、これらに限定されないが、C−C10アルキル、C−C10アルケニル、C−C10アルキニル、C−Cシクロアルキル、C−Cシクロアルケニル、C−C20シクロアルキル、C−C20ヘテロシクロアルキル、C−C10アルコキシ、アリール、アリールオキシ、ヘテロアリール、ヘテロアリールオキシ、アミノ、C−C10アルキルアミノ、C−C20ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヒドロキシル、ハロゲン、チオ、C−C10アルキルチオ、アリールチオ、C−C10アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アシルアミノ、アミノアシル、アミノチオアシル、アミジノ、グアニジン、ウレイド、シアノ、ニトロ、アシル、チオアシル、アシルオキシ、カルボキシル、およびカルボン酸エステルが挙げられる。一方、アルキル上の可能な置換基としては、C−C10アルキル、C−C10アルケニル、およびC−C10アルキニルを除く全ての上述した置換基が挙げられる。シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリールはまた、互いに融合されうる。
【0013】
上述したアントラセンジオン化合物は、便秘を治療する、すなわち腸の正常機能を維持しつつ腸運動を改善するのに用いられうる。腸運動が向上すると、腸内での食品の滞留時間が短縮する。その結果、炭水化物、脂肪、コレステロール、低密度リポタンパク質、トリグリセリドを含むことが多い食品の腸での吸収が低下する。よって、上記アントラセンジオン化合物により、被験体の体からのこれらの栄養素の摂取が減少し、これにより(i)コレステロールレベルもしくはトリグリセリドレベルが低下し、または(ii)体重が減少するか維持される。このように、本発明はまた、腸運動を改善して腸の正常機能を維持し、コレステロールレベル、低密度リポタンパク質レベルまたはトリグリセリドレベルを低下させ、体重を減少させるか維持するための、これらの組成物の使用方法にも関する。
【0014】
さらに他の形態において、本発明は、上述したアントラセンジオン化合物を用いた炎症性腸疾患または過敏性腸症候群の治療方法に関する。
【0015】
(1)便秘、炎症性腸疾患もしくは過敏性腸症候群の治療、腸運動の改善および腸の正常機能の維持、コレステロールレベル、低密度リポタンパク質レベルもしくはトリグリセリドレベルの低下、または体重の減少もしくは維持における上述したアントラセンジオン化合物の使用、および(2)上述した用途のための薬剤または補助食品の製造のための当該化合物の使用もまた、本発明の範囲に包含される。
【0016】
本発明の1以上の実施形態の詳細を以下に説明する。本発明の他の特徴、目的、および利点は、これらの説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【0017】
詳細な説明
本発明は、少なくとも部分的には、中国の生薬であるリューム パルマツム リンネ(Rheum palmatum Linne)に見出された2つのアントラセンジオン化合物(クリソファノールおよびフィスシオン)がそれぞれ便秘の治療に有効であるとの予期せぬ発見に基づいている。これらの化合物は、リューム パルマツム リンネから調製される生薬エキスによく見られる副作用(例えば、筋痙攣、腫脹、おなら、および下痢)を示さない。さらに、それぞれの化合物は腸吸収率が極めて小さく、よって生体に対する副作用全般が最小限である。
【0018】
よって、腸溶性担体と上記「要約」の欄に記載の1以上のアントラセンジオン化合物とを含有する組成物は本発明の範囲に包含される。腸溶性担体は、経口投与時に薬剤が腸に到達するまでの薬剤の急速な放出が最小限となるように設計される。例えば、米国特許第5188836号明細書および米国特許第6306434号明細書を参照のこと。
【0019】
当該組成物は、製薬上許容されうる担体を含有する薬剤組成物、または適当な食用担体を含有する食品組成物でありうる。アントラセンジオン化合物は、好ましくは、純粋な形態または実質的に純粋な形態で組成物に添加される。本発明に用いられるアントラセンジオン化合物は、化学的に合成されるか、生薬から精製されうる。例えば、フィスシオンおよびクリソファノールはそれぞれ、下記の表Aおよび表Bに列挙する植物から単離されうる。
【0020】
【表1−1】

【0021】
【表1−2】

【0022】
本発明の組成物の例としては、これらに限定されないが、食品、食品添加物、栄養補助食品、および薬剤が挙げられる。当該組成物は、錠剤、懸濁剤、インプラント、溶液、乳剤、カプセル、粉末、シロップ、液体組成物、軟膏、ローション、クリーム、ペースト、ゲルなどの形態でありうる。
【0023】
本発明の食品組成物は、乾燥形態または溶液形態であり、1以上の上記アントラセンジオン化合物および食用の担体を含有する。ミネラルまたはアミノ酸といった追加の栄養素も含まれうる。食品組成物はまた、飲料または食品製品であってもよい。飲料製品の例としては、これらに限定されないが、茶ベースの飲料、ジュース、コーヒーおよびミルクが挙げられる。食品製品の例としては、ゼリー、クッキー、シリアル、チョコレート、スナックバー、生薬エキス、乳製品(例えば、アイスクリームおよびヨーグルト)、大豆製品(例えば、豆腐)、並びに米製品が挙げられる。
【0024】
経口投与用の薬剤組成物は、カプセル、錠剤、乳剤および水性懸濁剤、分散剤並びに溶液などの任意の経口的に許容されうる製剤形態でありうる。錠剤の場合、一般的に用いられる担体としては、乳糖およびコーンスターチが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤も添加されるのが一般的である。カプセル形態での経口投与に有用な希釈剤としては、乳糖および乾燥コーンスターチが挙げられる。水性懸濁剤または乳剤を経口投与する場合、活性成分は乳化剤または懸濁化剤と組み合わせた油相中に懸濁または溶解されうる。必要であれば、特定の甘味料、香料、または着色料が添加されうる。
【0025】
本発明の組成物は、担体を含有する。組成物の種類に応じて、担体は適当な食用担体または製薬上許容されうる担体でありうる。製薬上許容されうる担体の例としては、これらに限定されないが、製剤形態として使用可能な組成物を達成できる生体適合性のベヒクル、アジュバント、添加剤および希釈剤が挙げられる。
【0026】
「製薬上許容されうる担体」とは、被験体に投与された後にも望ましくない生理的な影響を引き起こさない担体を意味する。薬剤組成物中の担体は、当該担体が活性成分と適合し、好ましくは活性成分を安定化しうるという意味でも「許容されうる」ものでなくてはならない。1以上の可溶化剤が、活性アントラセンジオン化合物を送達するための薬剤担体として用いられうる。他の担体の例としては、コロイド状酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、およびディーアンドシー(D&C)イエロー♯10が挙げられる。
【0027】
上述した任意の形態の上記組成物は、便秘を治療するために用いられうる。実際に、後述する実施例で示されるように、当該組成物は下痢などの副作用を引き起こすことなく、被験体における便の生成および便の水分含量を増加させた。また、当該組成物は被験体の体重を減少させ、または維持するのに有効であった。
【0028】
「治療する」との語は、障害(例えば、便秘、炎症性腸疾患もしくは過敏性腸症候群)または当該障害の兆候または当該障害に罹患する素質を治癒し、癒し、軽減し、変化させ、改善し、改良し、向上させ、またはこれに作用することを目的として、アントラセンジオン化合物の有効量を、当該障害、当該障害の兆候または当該障害に罹患する素質を有する被験体に投与することを意味する。「投与する」との語は、本発明の組成物を、任意の適当な形態(例えば、食品、飲料、錠剤、カプセル、懸濁剤、および溶液)で、被験体に経口で送達させることを包含する。「有効量」とは、物理的な利点(例えば、便の生成を増加させ、体重を減少させる)または治療上の利点(例えば、コレステロールレベルを低下させる)をもたらすのに十分な当該組成物の用量を意味する。最適な投与経路および投与量を決定するのに、インビボおよびインビトロの双方の研究が行なわれうる。便の生成を増加させるとは、後述する実施例3に記載の方法または類似の任意の方法により決定されるように、被験体が活性組成物を摂取した1日後に被験体により生成される便の湿潤重量が15%以上増加することを意味する。
【0029】
本発明の組成物は、単独でまたは生物学的に活性な他の成分と組み合わせて用いられうる。当該組成物は、単回の用量またはある期間に亘る複数回の用量で、一般的には経口投与で、被験体に投与されうる。種々の投与パターンが当業者には明らかであろう。当該組成物の投与のための用量範囲は、所望の効果を発揮させる程度に大きいものである。当該用量は、好ましくない交差反応などの副作用を引き起こすほど大きいものであってはならない。通常、用量は被験体の年齢、体重、性別、症状、および症状の程度、並びに意図される目的に応じて変動しうる。当該用量は、過度の実験なしに当業者により決定されうる。当該用量は、任意の禁忌症、耐性、または類似の条件の場合には調節されうる。当業者であれば、かような因子を容易に評価でき、この情報に基づき、意図される目的のために用いられるべき本発明の組成物の特定の有効濃度を決定できる。
【実施例】
【0030】
下記の具体的な実施例は単に例示のためのものであって、開示の残部をいかようにも制限するものではないと解釈されるべきである。当業者であれば、本明細書の記載に基づき、さらなる労力を必要とすることなく本発明を全ての範囲に亘って実施可能と考えられる。本明細書で引用した全ての文献は、その全体が参照により本明細書中に引用される。
【0031】
実施例1:
リューム パルマツム リンネのエキスであるSTD−05から、アロエ−エモジン、レイン、エモジン、クリソファノールおよびフィスシオンを単離した。STD05を調製するには、3.2kgのリューム パルマツムを12Lの酢酸エチルを用いて18時間、2回抽出した。得られた溶液を200メッシュフィルタで濾過した。濾液を減圧下で濃縮し、2Lの95%エタノールに溶解させ、6Lの水を用いて沈殿させた。次いで沈殿物を95%エタノールに溶解させ、水を用いて再度沈殿させて、「Fr−1」沈殿物を生成させた。ダイアイオン(Diaion)HP−20カラムで上清を分画し、30%エタノール、95%エタノールおよび酢酸エチルを用いて順に溶出した。95%エタノールで分画された溶出液(Fr−D)および酢酸エチルで分画された溶出液(Fr−E)をFr−1と合わせてSTD05とした。20gのSTD05を酢酸エチルに溶解させ、少量のシリカゲルと混合した。次いで酢酸エチルを減圧下で除去して、混合物を得た。シリカゲルカラムで0%〜5%酢酸エチルを含むヘキサンを用いて溶出することにより混合物を精製した。こうして得られた画分をHPLCにより分析した。5つの化合物がHPLCにより検出された。各化合物の画分をそれぞれ合わせた。合わせたそれぞれの溶液の溶媒を減圧下で除去して、5つの固体生成物を得た。この固体生成物をアセトンから再結晶して、220mgのアロエエモジン、290mgのレイン、1270mgのエモジン、2220mgのクリソファノール、および790mgのフィスシオンを得た。この結果を下記の表1に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
単離された化合物のそれぞれを結晶化させ、顕微鏡下で観察した。
【0034】
実施例2:
リューム パルマツム リンネのエキスの緩下作用を調べた。サンテン フィトテック カンパニー リミテッド(ジョンゲ市、台湾)から、リューム パルマツム リンネの粗エキスおよびSTD05を入手した。市販の緩下剤である、スルー(Through(登録商標))(チュン メイ ファーマシューティカル カンパニー,リミテッド、活性成分:センノシド類20mg(センノシドA+Bとして12mg)、ロット009A051)、およびダルコラックス(Dulcolax(登録商標))(ベーリンガー インゲルハイム,タイワン,リミテッド、活性成分:ビサコジル、ロット4804942)を薬局から入手した。
【0035】
42匹の健常オスSDラット(8週齢、ナショナル ラボラトリー アニマル センター、台湾)を7つの群に分け(各6匹)、リューム パルマツム リンネのエキスによる緩下作用を調べた。1つの群のラットにはいかなるエキスも薬剤も与えず、ネガティブコントロールとして用いた。第2および第3の群のラットには、それぞれセンノシド類(3.55mg/kg)およびビサコジル(1.75mg/kg)を与え、ポジティブコントロールとして用いた。他の4つの群のラットには、それぞれリューム パルマツム リンネの粗エキス(500mg/kg)、STD03の濾過した粗エキス(180mg/kg)、並びにSTD05(STD05−1:12mg/kg、およびSTD05−2:24mg/kg)を与えた。全ての物質を、3週間に亘って毎日経口で投与した。
【0036】
この実験は、温度、湿度および照明が全て制御された条件下で行なわれた。各ラットには、12時間明暗サイクルを与えるおりの中で、標準的なラットフードおよび水を随時与えた。このラットを体重に応じて7つの群に分けたのである。
【0037】
この実験の第1部では、糞の生成に対する上述したエキスの影響を調べた。3週間の期間中、死にそうになったラットは安楽死させ、解剖し、病気や損傷がないかを調べた。死因を決定し、以降の実験での用量の再考を可能とするため、いかなる合併症や病気もH&E染色により分析した。
【0038】
この期間中、毎日ラットの体重を測定し、記録した。異常観測がないか、各ラットの糞を3回調べた。具体的には、糞の量を11日目、15日目、18日目および21日目に測定した。観察中は、各ラットを代謝ケージ内に入れておいた。糞については、24時間ごとに回収した。回収した糞の数を計数し、ペレットの形状および色を評価した。湿った糞を秤量した後、これを100℃のオーブン中で24時間乾燥させた。下記式に従って、糞の水分含量を算出した:
【0039】
【数1】

【0040】
この結果を下記の表2に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
上述した糞の試験の後、腸運動の試験を行なった。実験前には、ラットを少なくとも16時間絶食させた。次いでラットに上述の薬剤またはエキスを与えた。3時間後、各ラットに3mL/kgの0.5%メチルセルロース溶液−0.5%エバンスブルー色素を与えた。30分後に各ラットを屠殺し、腹腔を切開した。小腸の全体を取り出し、注意して真っ直ぐにした。幽門と盲腸との間の全長を、小腸の長さとして測定した。エバンスブルー色素が小腸に沿って移動した距離についても測定した。解剖中は、いかなる異常観測も記録し、写真を撮影した。下記式に従って、腸運動機能を算出した:
【0043】
【数2】

【0044】
この結果を下記の表3に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
腸運動のデータは、平均±SDとして示した。データは一方向ANOVA法を用いて分析した。群内での比較のために、事後比較を行なった。糞生成の分析と腸運動の分析の双方において、p<0.05は有意差を示す。糞生成の試験について、各群および各時点のデータは、群内の6匹のラットの合計湿潤重量またはペレット数を示す。
【0047】
実施例3:
上述したSTD05および化合物について、緩下作用を調べた。この試験では、健康なオスのSDラット(バイオラスコ タイワン カンパニー リミテッド)を3つの群(すなわち、群1〜3)に分けた。
【0048】
群Iでは、6匹のラット(ネガティブコントロール)には何ら処理を行なわず、6匹のラット(ポジティブコントロール)には3.35mg/kg/日のセンノシド類(スルー(Through(登録商標))、チュン メイ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド、活性成分:センノシド類20mg(センノシドA+Bとして12mg)、ロット012F006)を与え、6匹のラットをSTD05(8mg/kg/日)で処理し、6匹のラットをアロエエモジン、レインおよびエモジン(ARE、8mg/kg/日)を含有するエキス画分で処理し、6匹のラットをアロエエモジン(4mg/kg/日)で処理し、6匹のラットをレイン(4mg/kg/日)で処理した。
【0049】
群IIでは、6匹のラット(ネガティブコントロール)には何ら処理を行なわず、6匹のラット(ポジティブコントロール)には3.35mg/kg/日のセンノシド類を与え、6匹のラットをSTD05(24mg/kg/日)で処理し、6匹のラットをARE(24mg/kg/日)を含有するエキス画分で処理し、6匹のラットをクリソファノール(4mg/kg/日)で処理し、6匹のラットをエモジン(4mg/kg/日)で処理した。
【0050】
群IIIでは、6匹のラット(ネガティブコントロール)には何ら処理を行なわず、6匹のラットをフィスシオン(4mg/kg/日)で処理し、6匹のラットをクリソファノールとフィスシオンとの混合物(8mg/kg/日、CP)で処理した。
【0051】
この実験は、温度、湿度、および照明が制御されたもとで行なわれた。各ラットには、12時間明暗サイクルを与えるおりの中で、標準的なラットフードおよび水を随時与えた。統計比較のため、全てのラットを体重に応じて6つのセットに分けた。
【0052】
本実験の第1部では、試験物質の糞生成に対する影響を調べた。10日間、ラットの体重を毎日測定し、記録した。ラットの糞についても、異常観測がないか、上述の方法で10日間、3回調べた。10日間、死にそうになったラットは安楽死させ、解剖し、病気や損傷がないかを調べた。死因を決定し、以降の実験での用量の再考を可能とするため、いかなる合併症や病気もH&E染色により分析した。ラットの体重に対する上述した化合物、混合物、またはエキスの影響を、下記の表4に示す。
【0053】
【表5−1】

【0054】
【表5−2】

【0055】
表4に示すように、STD05および上記化合物は、体重の維持に有効である。純粋な形態の各化合物も有効であるということは予期せぬことであった。
【0056】
期間中、ラットにより生成された糞を、上記と同様の方法で、1日目、5日目、および10日目に調べた。STD05は糞の生成を促進するということがわかった。10日間の間に、STD05を投与されたラットは、コントロール群のラットと比べて約32%多くの糞(湿潤重量)を生成した。また、STD05を投与されたラットのペレット数は、コントロールラットより約20%多かった。さらに、STD05は糞の水分含量を約18%増加させた。フィスシオン、アロエエモジン、クリソファノール、レイン、エモジン、CP、およびAREを投与されたラットについても同様の実験を行なった。この結果を下記の表5に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
表5に示すように、10日の間、AREを除く全ての化合物が、フィスシオン>CP>アロエエモジン>クリソファノール>レイン>エモジンの順(活性が大きいものから小さいもの)で糞の生成を促進した。例えば、フィスシオン、CP、アロエエモジン、クリソファノール、レインおよびエモジンは、糞の量(湿潤重量)を、1日目ではそれぞれ93%、57%、27%、19%、31%および−30%増加させ、5日目ではそれぞれ57%、39%、9%、16%、−9%および12%増加させ、10日目ではそれぞれ32%、18%、20%、14%、−1%および4%増加させた。これらの平均はそれぞれ61%、38%、19%、16%、7%および−5%であった。
【0059】
糞の試験終了後、上記と同様の方法で、腸運動の試験を行なった。解剖中、いかなる異常観測についても記録し、写真を撮影した。群内での比較のために、有意差を示すp<0.05で事後比較を行なった。STD05(フィスシオンおよびクリソファノールを含有)並びにセンノシド類を投与されたラット(69.3%および67.9%)はコントロールラット(61.1%)よりも盛んな腸運動を示すことがわかった。
【0060】
実施例4:
STD05について、10nm〜10μMの試験濃度で、MDS ファーマ サービスによるモルモット回腸の電気刺激増幅組織アッセイを行なった。このアッセイは、モリトキらによる「経壁刺激により誘発されるモルモット回腸の収縮に対するメチルキサンチン類およびイミダゾールの影響」Eur. J. Pharmacol. 35, 185−198に記載の方法に従って行なった。
【0061】
その結果、STD05は0.03μMおよび0.3μMの濃度で神経性痙攣を36%増加させ、10μMの濃度で処理後の基礎痙攣応答を−24%減少させたことが示される。
【0062】
実施例5:
STD05について、高コレステロール食を与えられたハムスターにおけるコレステロール低下作用の可能性を評価した。連続14日間、1日1回、30mg/kgおよび100mg/kgのSTD05を経口投与した。一晩絶食させたハムスターから、1日目(処理前)、8日目(投与7日後)、および15日目(投与14日後)に血液を抜き出し、血清総コレステロールレベル、高密度リポタンパク質レベル、低密度リポタンパク質レベル、およびトリグリセリドレベルを測定した。8日目および15日目の処理後の値については、試験組成物の脂質低下効果を評価するために、対応する前処理の値(日)に対する百分率で示した。ベヒクル群に対する総コレステロールもしくは低密度リポタンパク質の20%以上の低下、または高密度リポタンパク質の20%以上の増加およびトリグリセリドの40%以上の減少を、有意であるとした。ベヒクル群と処理群との統計比較のために、一方向ANOVAおよびこれに続くダネット検定も行なった。
【0063】
その結果、100mg/kgの濃度のSTD05が低密度リポタンパク質を低下させる有意な効果を有していたことが示される。この効果は、2週間の処理後に明らかとなった。
【0064】
他の実施形態
本明細書中に開示された全ての特徴は、任意の組み合わせで組み合わせられうる。本明細書に開示された各特徴は、同一の、均等の、または類似の目的を達成可能な他の特徴により置換されうる。よって、そうでないと明記しない限り、開示された各特徴は、包括的な一連の均等なまたは類似の特徴の単なる一例である。
【0065】
上記記載から、当業者は容易に本発明の本質的な特徴を理解可能であり、本発明の思想および範囲から逸脱することなく、本発明に種々の変更および修飾を加え、本発明を種々の用途および条件に適応させることが可能である。よって、他の実施形態もまた、本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製薬上許容されうる腸溶性担体と、式(I)の化合物とを含む、薬剤組成物:
【化1】

式中、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはC(O)Rであり、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはORであり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、OR、COOR、OC(O)OR、SR、NHR、または、C−C20シクロアルキル、C−C20ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、OR、COOR、OC(O)OR、SRもしくはNHRで置換されていてもよいC−Cアルキルであり、
ここで、RおよびRは、それぞれC−C10アルキルであり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはC−C10アルキルである。
【請求項2】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはORである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、CH、またはOCHである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
、R、R、R、RおよびRが、それぞれ水素原子である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
乾燥形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはORである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、CH、またはOCHである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
、R、R、R、RおよびRが、それぞれ水素原子である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
食用の担体と、式(I)の化合物とを含む、食品組成物:
【化2】

式中、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはC(O)Rであり、
、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはORであり、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、OR、COOR、OC(O)OR、SR、NHR、または、C−C20シクロアルキル、C−C20ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、OR、COOR、OC(O)OR、SRもしくはNHRで置換されていてもよいC−Cアルキルであり、
ここで、RおよびRは、それぞれC−C10アルキルであり、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはC−C10アルキルである。
【請求項10】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはORである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、CH、またはOCHである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
、R、R、R、RおよびRが、それぞれ水素原子である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
乾燥形態である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
茶、ソフトドリンク、ジュース、ミルク、コーヒー、ゼリー、アイスクリーム、ヨーグルト、クッキー、シリアル、チョコレート、スナックバー、キャンディ、チューイングガム、シロップ、または食用カプセルである、請求項9に記載の組成物。
【請求項15】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、C−Cアルキル、またはORである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、CH、またはOCHである、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
、R、R、R、RおよびRが、それぞれ水素原子である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1に記載の組成物の有効量を、必要とする被験体に投与することを含む、被験体における腸運動を改善し、腸の正常機能を維持する方法。
【請求項19】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、CH、またはOCHであり、R、R、R、R、RおよびRが、それぞれ水素原子である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1に記載の組成物の有効量を、必要とする被験体に投与することを含む、被験体におけるコレステロールレベル、低密度リポタンパク質レベル、またはトリグリセリドレベルを低下させる方法。
【請求項21】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、CH、またはOCHであり、R、R、R、R、RおよびRが、それぞれ水素原子である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1に記載の組成物の有効量を、必要とする被験体に投与することを含む、被験体の体重を減少させる、または維持する方法。
【請求項23】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、CH、またはOCHであり、R、R、R、R、RおよびRが、それぞれ水素原子である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1に記載の組成物の有効量を、必要とする被験体に投与することを含む、被験体における炎症性腸疾患を治療する方法。
【請求項25】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、CH、またはOCHであり、R、R、R、R、RおよびRが、それぞれ水素原子である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1に記載の組成物の有効量を、必要とする被験体に投与することを含む、被験体における過敏性腸症候群を治療する方法。
【請求項27】
およびRが、それぞれ独立して、水素原子、CH、またはOCHであり、R、R、R、R、RおよびRが、それぞれ水素原子である、請求項26に記載の方法。

【公表番号】特表2009−522378(P2009−522378A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549695(P2008−549695)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/066224
【国際公開番号】WO2007/118226
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(507062163)サンテン フィトテック カンパニー,リミテッド (3)
【Fターム(参考)】