説明

アンモニア分解用触媒及び該触媒の製造方法、並びに該触媒を用いた水素製造方法

【課題】本発明は、アンモニア分解反応に対して高活性を示し、効率良くアンモニアを水素と窒素に分解することができる触媒を提供するものである。
【解決手段】本発明アンモニア分解用触媒は、長周期型周期律表6〜10族の少なくとも1種の元素(A成分)と、長周期型周期律表2〜5族及び12〜15族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物及び/又は複合酸化物(B成分)とを含む触媒であって、この触媒をフィルム状に加圧成形し、1μmのビーム径を有するエレクトロン・プローブ・マイクロアナライザー(EPMA)を用いて、前記フィルム状触媒表面における任意直線上のA成分の特性X線強度を測定したとき、得られた測定結果から算出される特性X線強度の平均値(S)と特性X線強度の標準偏差(σ)が、0≦σ/S<0.15を満足することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解用触媒及びその製造方法、並びに、当該触媒を用いた水素製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
アンモニア分解による水素製造技術は古くから提案されているが、本格的に実用されることは少ないのが現状である。例えば、コークス炉から生じるアンモニアを分解し、水素を得る技術が提案されている(特許文献1)。当該触媒は白金族を必須とするものであり、コストが高くなることが実用上の問題点である。一方、白金族を必須成分とする貴金属系触媒の問題点を克服するために、非貴金属系触媒が提案されている。非貴金属系の触媒として、銅族元素、クロム族元素及び鉄族元素の中から選ばれる少なくとも1種の金属又は化合物とニッケルを触媒成分として用いる触媒が提案されている(特許文献2)。当該触媒は、ニッケルにコバルト、銅、クロム等各成分を組み合わせることにより、ニッケル単独成分からなる触媒に比べて、触媒性能を向上させたものである。また、希土類とニッケルを組み合わせた触媒も提案されている(特許文献3)。
【0003】
これらの触媒は比表面積の高い担体に各触媒成分の溶液を含浸して調製したものであり、比表面積の高い酸化物表面を利用して当該表面に触媒成分を分散して担持することで触媒活性点を物理的に増加させて触媒全体として活性を向上させようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−329372号公報
【特許文献2】特開平02−198638号公報
【特許文献3】特開平02−198639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
比表面積の高い担体に触媒成分を担持させた従来の触媒では、触媒成分担持量が5質量%未満のように少量であれば、担体表面上に均一、かつ、高分散状態で担持することが可能である。しかし、触媒活性を向上させるために多量の触媒成分を担持しようとすると、担体表面上において触媒成分が凝集して不均一なものとなり高分散状態で担持することができなかった。そのため、触媒成分の含有量を増加させても触媒活性が向上せず、コスト面で実用性の高い非貴金属元素を用いた高活性なアンモニア分解触媒を製造することが困難となっていた。このような従来触媒にみられる問題点を克服し、かつ、コスト面でも実用性に優れる高活性な非貴金属系触媒を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決することができた本発明のアンモニア分解用触媒は、長周期型周期律表6〜10族の少なくとも1種の元素(A成分)と、長周期型周期律表2〜5族及び12〜15族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物及び/又は複合酸化物(B成分)とを含む触媒であって、この触媒をフィルム状に加圧成形し、1μmのビーム径を有するエレクトロン・プローブ・マイクロアナライザー(EPMA)を用いて、前記フィルム状触媒表面における任意直線上のA成分の特性X線強度を測定したとき、得られた測定結果から算出される特性X線強度の平均値(S)と特性X線強度の標準偏差(σ)が、0≦σ/S<0.15を満足することを特徴とする。上記触媒は、前記A成分を、触媒全量に対して50〜97質量%含有することが好ましい。
【0007】
本発明のアンモニア分解用触媒の製造方法は、前記A成分の水溶液を超音波処理しながら十分に攪拌した状態とし、これにB成分の前駆体を含む水性液を添加して得られる沈殿物を熱処理することを特徴とする。本発明には、上記触媒を用いて、アンモニアを分解し水素を得る水素製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアンモニア分解触媒は、活性成分(例えば、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン)の含有量を高めた場合であっても、触媒活性成分が凝集せず組成均一性が高く、触媒中に高分散状態で含有されている。そのため、コスト面で実用上の問題を抱える貴金属系触媒を用いることなく、アンモニア分解反応に対して高活性を示し、効率良くアンモニアを水素と窒素に分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例における触媒の評価を示すものであり、縦軸はアンモニアの分解率、横軸は温度を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のアンモニア分解用触媒は、長周期型周期律表6〜10族の少なくとも1種の元素(A成分)と、長周期型周期律表2〜5族及び12〜15族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物及び/又は複合酸化物(B成分)とを含む触媒である。
【0011】
本発明のアンモニア分解用触媒は、A成分が触媒内において均一、かつ、高分散状態で含有されている。具体的には、触媒をプレスしてフィルム状に加圧成形し、1μmのビーム径を有するエレクトロン・プローブ・マイクロアナライザー(EPMA)を用いて、前記フィルム状触媒表面における任意直線上のA成分の特性X線強度を測定したとき、得られた測定結果から算出される特性X線強度の平均値(S)と特性X線強度の標準偏差(σ)が、0≦σ/S<0.15を満足する。
【0012】
より具体的には、A成分の均一性は以下の条件により測定できる。測定に使用する装置は市販のエレクトロン・プローブ・マイクロアナライザー(EPMA)を用いる。プローブである電子線のビーム径は1μmであり、当該プローブにより触媒試料表面について、1μm毎にA成分特性X線量を測定する。当該プローブを触媒表面のX軸、Y軸に対して各々900μmの広さでA成分の特性X線量を測定する。得られた測定結果におけるY軸方向の任意の点を選択し、Y軸位置を固定してX軸方向に2μm間隔で合計450ポイントのA成分特性X線測定値をピックアップし、これら測定値の平均値(S)とその標準偏差(σ)を求める。平均値(S)と標準偏差(σ)から比(σ/S)の値を算出し、当該算出値より触媒におけるA成分の均一性を評価する。比(σ/S)の値が、小さいほど、触媒におけるA成分の均一性が高いことを示しており、本願発明による触媒では、その値が0.15未満、好ましくは0.12未満である。
【0013】
前記A成分は、長周期型周期律表6〜10族の少なくとも1種の元素を用いるものであり、好ましくは鉄、コバルト、ニッケル及びモリブデンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは鉄、コバルト及びニッケルからなる群から選ばれる少なくとも1種、さらに好ましくはコバルト又はニッケルである。A成分の状態は、金属、酸化物、それらの混合物の何れであってもよく、好ましくは金属状態である。
【0014】
触媒中のA成分の含有率は、当該触媒に対して50〜97質量%が好ましく、より好ましくは55〜95質量%、さらに好ましくは60〜90質量%である。A成分含有率が50質量%未満では十分なアンモニア分解活性が得られないことがあり、97質量%を超えるとA成分に対してB成分が不足し、反応条件下でA成分の凝集が進み耐熱性が低下する恐れがある。
【0015】
前記B成分は、長周期型周期律表2〜5及び12〜15族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物及び/又は複合酸化物であり、好ましくはアルミナ、シリカ、チタニア、ハフニア、ジルコニア、アルカリ土類金属酸化物及びランタノイド系金属酸化物からなる群から少なくとも1種の酸化物及び/又は複合酸化物、より好ましくはアルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシア、セリア及び酸化ランタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物及び/又は複合酸化物である。当該複合酸化物とは、個々の金属酸化物の単純な物理混合物でなく、セリア・ジルコニア固溶体、シリカ・アルミナ等に例示されるように各構成金属元素が原子レベルで複合化し、個々の金属酸化物の単純物理混合物と比較して構造及び物性面で異なる特性を示す状態にあるものを指す。
【0016】
本発明のアンモニア分解用触媒の比表面積(S1)は、10〜500m2/gが好ましく、より好ましくは20〜450m2/g、さらに好ましくは、25〜400m2/g、さらに好ましくは、30〜350m2/gである。触媒の比表面積(S1)が10m2/g以上であれば、触媒性能がより向上し、500m2/g以下であれば、触媒の強度が良好となる。アンモニア分解用触媒の比表面積は、窒素ガスを用いたBET法により測定する。
【0017】
本発明のアンモニア分解用触媒の形状は、粉体、球状、ペレット、サドル型、円筒型、板状、ハニカム状等、種々の形状のものを用いることができる。
【0018】
本発明にかかる触媒の調製方法の一例について以下に述べるが、本発明の効果を奏する限り以下の調製方法に限定されるものではない。ただし、A成分を均一に触媒に分散することを要するので、A成分及びB成分の原料が固体であれば当該成分の微粒子状分散液、液体であれば溶媒に均一分散されたものが好ましく、原料としては溶液に不溶性・難溶性のものを用いるよりも可溶性のものを用いることが好ましい。
【0019】
製造方法としては、例えば、(1)A成分の水溶性塩(例えば、A成分の硝酸塩)を水に溶解した水溶液1をガラスビーカーに入れる。このガラスビーカーを、超音波発生装置に収納して超音波を照射しつつ、さらに撹拌羽の付いた撹拌棒をスリーワンモーターにより回転させて水溶液1を完全混合状態とする。当該完全混合状態(すなわち、超音波を照射しつつ、撹拌羽の付いた撹拌棒で攪拌した状態)の水溶液1に、B成分の微粒子分散ゾルとアルカリ性水溶液との混合液を滴下して、A成分及びB成分からなる組成の均一な触媒前駆体微粒子を完全混合状態の水溶液中で生成させる。その後、当該触媒前駆体微粒子をろ過、水洗、乾燥後、所定の熱処理(還元処理)を行って触媒を得る方法;(2)B成分が複数元素B1及びB2からなるものである場合、A成分の水溶性塩(例えば、A成分の硝酸塩)とB1成分前駆体の水溶性塩(例えば、成分B1成分となる硝酸塩)とを水に溶解した水溶液2を、ガラスビーカーに入れる。このガラスビーカーを超音波発生装置に収納して超音波を照射しつつ、さらに撹拌羽の付いた撹拌棒をスリーワンモーターにより回転させて水溶液2を完全混合状態とする。当該完全混合状態(すなわち、超音波を照射しつつ、撹拌羽の付いた撹拌棒で攪拌した状態)の水溶液2に、成分B2の微粒子分散ゾルとアルカリ性水溶液との混合液を滴下して、A成分、成分B1及び成分B2からなる組成の均一な触媒前駆体微粒子を完全混合状態の水溶液中で生成させる。その後、当該触媒前駆体微粒子をろ過、水洗、乾燥後、所定の熱処理(還元処理)を行って触媒を得る方法;(3)A成分の水溶性塩(例えば、A成分の硝酸塩)とB成分前駆体の水溶性塩(例えば、B成分となる硝酸塩)とを水に溶解した水溶液3を、ガラスビーカーに入れる。このガラスビーカーを超音波発生装置に収納して超音波を照射しつつ、さらに撹拌羽の付いた撹拌棒をスリーワンモーターにより回転させて水溶液3を完全混合状態とする。完全混合状態(すなわち、超音波を照射しつつ、撹拌羽の付いた撹拌棒で攪拌した状態)としたA・B分散液に、アルカリ性化合物等を加えpH調整することでA・B成分を含有する微粒子(例えば、A・B成分の水酸化物微粒子)を沈殿させる。当該沈殿物をろ過、乾燥後、所定の熱処理(還元処理)を行って触媒を得る方法;等が挙げられる。
【0020】
上記製造方法において、熱処理は、空気雰囲気下での焼成;窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下での熱処理;水素等の還元性ガスを含む還元性ガス雰囲気下での還元を含む。また、触媒は使用に際して還元処理をすることが好ましい。還元方法としては、水素ガス等の還元性ガスと接触させる通常の方法を採用することができる。水素ガスを用いた還元処理を行う場合、還元条件は300〜750℃、好ましくは400〜650℃で、30分〜2時間処理するものである。なお、水素製造時、原料ガスが酸素ガスを含む場合、アンモニア分解反応とともにアンモニア燃焼反応が進行するが、このアンモニア燃焼反応によって触媒温度が直ちに上昇し、アンモニア分解により生成した水素によって触媒が還元される。そのため、原料ガスが酸素ガスを含む場合には、アンモニア分解用触媒について、使用前の還元処理を施さなくとも使用できる場合がある。
【0021】
前記A成分の原料は、熱処理(好ましくは、還元処理)等により、金属、酸化物それらの混合物を生成するものであれば何れの化合物でも使用することが可能であるが、好ましくは水溶性の化合物である硝酸塩、酢酸塩、塩化物である。前記A成分の水溶性塩としては、例えば、硝酸コバルト六水和物等のコバルトの水溶性塩;硝酸ニッケル六水和物等のニッケルの水溶性塩;等が挙げられる。
【0022】
B成分の原料は最終的に熱処理により酸化物及び/又は複合酸化物を生成するものであれば何れの化合物でも使用することが可能であり、例えば、各種金属の水酸化物、硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、炭酸塩、塩化物、硫酸塩を使用することができる。これらの中でも、水溶性の化合物が好ましく、例えば、硝酸アルミニウム九水和物等のアルミニウムの水溶性塩;硝酸マグネシウム六水和物等のマグネシウムの水溶性塩;硝酸セリウム六水和物等のセリウムの水溶性塩;オキシ硝酸ジルコニウム等のジルコニウムの水溶性塩;等が挙げられる。また、前記B成分の微粒子としては、アルミナゾル;シリカゾル;等が挙げられる。
【0023】
前記アルカリ性水溶液としては、例えば、アンモニア、炭酸アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等のアンモニア系化合物;水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;等の水溶液が挙げられる。
【0024】
前記超音波発生装置により照射する超音波の振動数は、20kHz〜100kHzが好ましい。超音波の振動数が上記範囲内であれば、A成分の分散性をより高めることができる。
【0025】
前記水洗後の乾燥温度は50〜200℃が好ましく、熱処理は300〜750℃、好ましくは400〜650℃である。上記熱処理は、空気雰囲気下での焼成、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下での熱処理、水素等の還元性ガスを含む還元性ガス雰囲気下での還元を含む。また、当該触媒は使用に際して還元処理をすることが好ましい、還元方法としては、水素ガス等の還元性ガスと接触させる通常の方法を採用することができる。水素ガスを用いた還元処理を行う場合、還元条件は300〜750℃、好ましくは400〜650℃で、30分〜2時間処理するものである。
【0026】
本発明にかかるアンモニア分解用触媒を用いた水素製造方法は、当該触媒を用いてアンモニアガスを分解し水素を製造するものである。原料ガスは、アンモニアガスであるが、本発明の効果を阻害しないものであれば、他のガスを加えることができ、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、一酸化炭素、酸素である。特に、原料ガスが酸素を含む場合、アンモニアガスやアンモニア分解反応で生成した水素の一部を燃焼し、その燃焼熱をアンモニア分解反応の反応熱として使用するオートサーマルリフォーマーによるアンモニア分解を行うことができる。この場合、アンモニアに対する酸素のモル比(酸素/アンモニア)は、0.75未満とする必要がある。また、アンモニア分解により得られる水素量と、燃焼反応による燃焼熱とを両立させる観点から、モル比(酸素/アンモニア)は0.05以上が好ましく、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.12以上であり、0.5以下が好ましく、より好ましくは0.3以下である。
【0027】
アンモニアの分解反応は、反応温度が300〜900℃、好ましくは400〜700℃であり、反応圧力は0.002〜2MPa、好ましくは0.004〜1MPaである。反応ガス(原料ガス)導入時の空間速度は1,000〜500,000hr-1、好ましくは1,000〜200,000hr-1である。
【0028】
また、触媒を使用するに際して、事前に前処理することもできる。適した処理条件で前処理することにより触媒の状態を反応中の状態に近いものとすることができ、本前処理を施すことにより当初から定常的な反応状態での運転が可能になる。前処理としては、例えば、窒素ガスを反応条件で一定時間触媒に流通させることである。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0030】
製造例1
43.7gの硝酸コバルト六水和物を830mL(ミリリットル:以下に同様に表示する)の純水に溶解した(水溶液A1)。別途、22.6mLの25質量%アンモニア水に純水を加えて565mLに希釈したアンモニア水に29.0gのスノーテックスN(日産化学工業株式会社製 シリカゾル:シリカ20.3質量%含有)を加えた水溶液B1を調製した。水溶液A1に25℃で超音波を照射しつつ、かつ、スリーワンモーターで激しく水溶液A1を撹拌した状態で、水溶液B1を超音波照射及びスリーワンモーター撹拌で激しく撹拌された水溶液A1に滴下し、微細な沈殿物を合成した。当該沈殿物をろ過により回収し、十分に水洗後、120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物をメノウ乳鉢で粉砕し、管状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元して触媒1を得た。得られた触媒1のコバルト含有率は、60質量%であった。
【0031】
製造例2
58.2gの硝酸コバルト六水和物を1106mLの純水に溶解した(水溶液A2)。別途、30.1mLの25質量%アンモニア水に純水を加えて722mLに希釈したアンモニア水に14.5gのスノーテックスN(日産化学工業株式会社製 シリカゾル:シリカ20.3質量%含有)を加えた水溶液B2を調製した。水溶液A2に25℃で超音波を照射しつつ、かつ、スリーワンモーターで激しく水溶液A2を撹拌した状態で、水溶液B2を超音波照射及びスリーワンモーター撹拌で激しく撹拌された水溶液A2に滴下し、微細な沈殿物を合成した。当該沈殿物をろ過により回収し、十分に水洗後、120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物をメノウ乳鉢で粉砕し、管状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元して触媒2を得た。得られた触媒2のコバルト含有率は、80質量%であった。
【0032】
製造例3
34.9gの硝酸コバルト六水和物と23.9gの硝酸アルミニウム九水和物を1326mLの純水に溶解した(水溶液A3)。別途、32.5mLの25質量%アンモニア水に純水を加えて780mLに希釈したアンモニア水に20.0gのスノーテックスN(日産化学工業株式会社製 シリカゾル:シリカ20.3質量%含有)を加えた水溶液B3を調製した。水溶液A3に25℃で超音波を照射しつつ、かつ、スリーワンモーターで激しく水溶液A3を撹拌した状態で、水溶液B3を超音波照射及びスリーワンモーター撹拌で激しく撹拌された水溶液A3に滴下し、微細な沈殿物を合成した。当該沈殿物をろ過により回収し、十分に水洗後、120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物をメノウ乳鉢で粉砕し、管状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元して触媒3を得た。得られた触媒3のコバルト含有率は、50質量%であった。
【0033】
製造例4
49.5gの硝酸コバルト六水和物と14.5gの硝酸アルミニウム九水和物を1881mLの純水に溶解した(水溶液A4)。別途、34.4mLの25質量%アンモニア水に純水を加えて826mLに希釈したアンモニア水に11.5gのスノーテックスN(日産化学工業株式会社製 シリカゾル:シリカ20.3質量%含有)を加えた水溶液B4を調製した。水溶液A4に25℃で超音波を照射しつつ、かつ、スリーワンモーターで激しく水溶液A4を撹拌した状態で、水溶液B4を超音波照射及びスリーワンモーター撹拌で激しく撹拌された水溶液A4に滴下し、微細な沈殿物を合成した。当該沈殿物をろ過により回収し、十分に水洗後、120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物をメノウ乳鉢で粉砕し、管状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元して触媒4を得た。得られた触媒4のコバルト含有率は、70質量%であった。
【0034】
製造例5
8.0gの硝酸ランタン六水和物と22.2gの硝酸コバルト六水和物を純水に溶解させ、その水溶液量を150mLとした。この水溶液にスノーテックスO(日産化学工業株式会社製 シリカゾル:シリカ20.5質量%含有)を追加し、スリーワンモーターで十分に撹拌した。次いで、混合水溶液を磁性皿に移し、撹拌しながら電熱器で加熱し、蒸発乾固した。乾固物を120℃で一晩乾燥させた後、メノウ乳鉢で粉砕し、焼成炉で空気雰囲気中500℃で2時間焼成した。その後、当該焼成物を管状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元して触媒5を得た。得られた触媒5のコバルト含有率は、30質量%、三酸化二ランタンの含有率は20質量%であった。
【0035】
製造例6
150℃で一晩乾燥させたγ−アルミナ(Strem Chemicals Inc.製)粉体を粉砕し、当該粉体20gに、24.8gの硝酸ニッケル六水和物を50mLの純水に溶解させた水溶液を加え、撹拌しながら加熱して水分を蒸発させて乾燥物を得た。得られた乾燥物を、さらに150℃で一晩乾燥後、粉砕して管状炉に充填し、10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で一時間還元して触媒6を得た。得られた触媒6のニッケル含有率は、20質量%であった。
【0036】
製造例7
58.2gの硝酸コバルト六水和物、10.8gの硝酸セリウム六水和物を500gの純水に溶解させ、次いで、10.3gの水分散ジルコニアゾル(日産化学株式会社製、「ナノユース(登録商標)ZR−30AL」、酸化ジルコニウムとして30質量%含有)を追加した(水溶液A5)。別途、74gの水酸化カリウムを1.5Lの純水に溶解させた水溶液B5を調製した。水溶液B5を、25℃で超音波を照射しつつ、且つ、スリーワンモーターで激しく攪拌した状態で、ここに水溶液A5を滴下し、微細な沈殿物を合成した。当該沈殿物をろ過により回収し、十分に水洗後、120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の沈殿物をメノウ乳鉢で粉砕し、環状炉に充填して10体積%水素ガス(窒素希釈)を用いて450℃で1時間還元して触媒7を得た。得られた触媒7のコバルト含有率は、61.5質量%であった。
【0037】
<触媒の比表面積測定法>
触媒の比表面積は、窒素ガスを用いたBET法により測定した。
【0038】
<均一性の評価>
(1)EPMAによる各成分分析
製造例1〜7で得られた触媒1〜7について、以下の方法でミクロンオーダーでの均一性評価を実施した。
分析機器 :島津製作所製「EPMA−1610」
分析条件
加速電圧:15kV
ビームサイズ:1μm
ビーム電流:0.1μA
データポイント:X方向 450 Y方向 450
ステップサイズ:X方向2μm,Y方向2μm
測定エリアサイズ:X方向900μm,Y方向900μm
分析サンプル調製:油圧式プレス機を使用し、10MPaの圧力で1分間プレスし、フィルム状としたサンプルをカットして試料台に貼りつけ、カーボン蒸着して各ポイントにおける各成分のX線カウントを測定した。
【0039】
(2)ミクロンオーダーでの均一性評価
得られたX方向900μm、Y方向900μmの測定結果から任意に選択したY位置についてX方向のA成分のX線カウント(450ポイント)の平均値(S)と標準偏差(σ)の比率(σ/S)を計算し、A成分の均一性の指標とした。ここで、平均値(S)と標準偏差(σ)は下記式により算出した。表1に触媒1〜7のA成分含有率、上記手法にて算出した平均値(S)と標準偏差(σ)の比率(σ/S)、及び、BET一点法にて測定した触媒比表面積を示した。
平均値(S)=(1/450)×(450ポイントのX線カウントの総和)
【0040】
【数1】


式中、各測定位置におけるA成分のX線カウントをXiで表す。
【0041】
【表1】

【0042】
<アンモニア分解反応>
10mmφのSUS316製反応管を用い、製造例で調製した触媒1〜7を1.0mL充填してアンモニア分解反応を行った。常圧下、SV=18,000hr-1とし、電気炉で反応管を加熱し、各電気炉設定温度でのアンモニア分解率を測定した。アンモニア分解反応は、触媒に供給する入口ガス組成をアンモニア50.0体積%、水蒸気15.0体積%及び残部窒素として実施した。なお、触媒の前処理として窒素で希釈した10%水素を毎分100mlで流通しながら450℃で1時間還元を行ってからアンモニア分解反応を実施した。反応結果を図1、表2に示す。
アンモニア分解率は、入口に供給しているアンモニア流速V1、窒素流速V2及び触媒層出口ガス中に含まれる水蒸気及び未反応アンモニアをトラップした後のガス流速V3から下記式により算出した。
アンモニア分解率(%)=100×(V3−V2)×0.5/V1
【0043】
【表2】

【0044】
<酸素共存下でのアンモニア分解反応>
10mmφのSUS316製反応管を用い、製造例1、5、7で調製した触媒1、5、7を0.8mL充填して酸素共存下でのアンモニア分解反応を行った。常圧下、SV=18,000hr-1とし、電気炉で反応管を加熱し、電気炉設定温度400℃でのアンモニア分解率を測定した。アンモニア分解反応は、触媒に供給する入口ガス組成をアンモニア58.2体積%、酸素8.7体積%及び残部窒素として実施した。
アンモニア分解率は、入口に供給しているアンモニア流速F1、触媒出口ガス中の未反応アンモニアをホウ酸水溶液で一定時間捕集し、当該捕集液に含まれるアンモニア濃度を陽イオンクロマトグラフで定量分析して出口ガス中のアンモニア流速F2を求め、下記式により算出した。なお、触媒の前処理として窒素で希釈した10%水素を毎分100mlで流通しながら450℃で1時間還元を行ってから水蒸気共存下でのアンモニア分解反応を実施した。反応結果を表3に示す。
アンモニア分解率(%)=100−{100×(F2/F1)}
【0045】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、アンモニアの分解に関するものであり、本発明を用いることでアンモニアから水素を効率よく得ることができる。本発明は、水素製造技術に関して広く応用することができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長周期型周期律表6〜10族の少なくとも1種の元素(A成分)と、
長周期型周期律表2〜5族及び12〜15族からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物及び/又は複合酸化物(B成分)とを含む触媒であって、
この触媒をフィルム状に加圧成形し、1μmのビーム径を有するエレクトロン・プローブ・マイクロアナライザー(EPMA)を用いて、前記フィルム状触媒表面における任意直線上のA成分の特性X線強度を測定したとき、
得られた測定結果から算出される特性X線強度の平均値(S)と特性X線強度の標準偏差(σ)が、0≦σ/S<0.15を満足することを特徴とするアンモニア分解触媒。
【請求項2】
前記A成分を、触媒全量に対して50〜97質量%含有する請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒の製造方法であって、
前記A成分の水溶液を超音波処理しながら十分に攪拌した状態とし、これにB成分の前駆体を含む水性液を添加して得られる沈殿物を熱処理することを特徴とするアンモニア分解用触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の触媒を用いて、アンモニアを分解し水素を得ることを特徴とする水素製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−224556(P2011−224556A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73604(P2011−73604)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】