説明

アンモニウム陽イオンを表面に有するロッド状ポリシロキサンからなる高次構造積層体とその製造方法およびその用途

【課題】 本発明は、陰イオン交換性を示すロッド状ポリシロキサンの高次構造積層体であり、新規なポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体を提供しようというものである。また、そのために実用性に富んだ極めて簡便な合成法を提供しようというものである。
【解決手段】 繰り返し単位が、一般式;Z22-・NH3+(CH22NH2+(CH23
iO1.5(式中、Zは、塩化物イオンなどのハロゲン元素陰イオン、硝酸イオンなど陰イ
オンを表す)で表される組成を有し、陰イオンZ-と繰り返し単位NH3+(CH22NH2+(CH23SiO1.5で構成されるポリシロキサンはイオン対をもってロッド状を形成し、このロッド状ポリマーが密に配列、積層して高次構造を形成した、陰イオン交換性を有してなるロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にアンモニウム陽イオンを持つロッド状ポリシロキサンとその対イオンからなる高次構造積層体、およびそのロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩に有機陰イオンをイオン交換法によって導入することによって得られて成るポリアミノアルキルシロキサン・有機酸複合体と、それらの製造方法、および用途発明に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダーの高次構造(化学結合によって形成された分子が、分子内あるいは分子間の物理的な結合によって得られる規則的な配列構造)が制御された新材料の創製は、ナノテクノロジーの中核技術の一つに位置づけられ、学術的関心のみならず新しい高機能性材料の創製と及びこの材料創成に立脚した広範な新規産業創成へと発展する影響力を秘めている見地からも重要である。これまで、分子の自己組織化を利用することで、多くの高次構造制御型材料が創製されてきた。なかでも、シロキサン結合骨格材料(シリカやポリシロキサン)の合成は、吸着剤・触媒・ホスト材料など様々な分野で展開されている。
【0003】
本発明者ら研究グループにおいても先にポリシロキサンを使用した高次構造を有する材料を開発するのに成功し、これに基づき特許出願した(特許文献1)。
これらナノ高次構造をもつシロキサン結合骨格材料は、従来、界面活性剤をテンプレートとした合成法に頼ってきた(非特許文献1、2参照)。また、高次構造を持つ化合物についても、イオン交換能を有する官能基を含むものは、本発明者らの開発した上記特許出願されたものを除きこれまで合成されたとの報告はなかった。骨格を作製後に表面修飾して官能基を形成する間接合成の例はあり(非特許文献3、4参照)、イオン交換性の官能基を有する高次構造材料を合成できる可能性を示唆しているが、この手法では、骨格作製後に表面修飾するすくなくとも二段階行程を要することから、合成行程が複雑であり、また、均一に官能基を含む材料とすることは困難であった。また最近、界面活性剤を用いて、イオン交換能を有するシラン化合物とイオン交換能をもたないシラン化合物との共重合による、一段階での合成例も報告されているが、これではイオン交換能を示す置換基が表面に対して十分覆われてなく、イオン交換性の材料としては問題が残る(非特許文献5、6)。
【0004】
このように、十分なイオン交換性と高次構造を併せ持つポリシロキサン化合物は、本発明者らによって提供された前記特許文献1に記載されたものを除き従来存在していなかった。その結果、新規な機能性材料を合成する手法であるイオン交換法によって、イオン性を持つ機能性有機物を導入し、新規機能性複合体を合成する試みもなされていなかった。
【0005】
自然界では、イオン交換性の高次構造化合物として、粘土鉱物や層状複水酸化物などが知られており、これに機能性の有機分子を導入することによって層状の有機−無機複合体を合成する試みがなされている(非特許文献7参照)。しかしながら、それら天然の高次構造化合物は、その組成や、構造、種類などに自ずと限界があり、これを超えて任意に材料調製、材料設計することは困難であり、また、合成法による粘土鉱物や層状複水酸化物についても、組成や構造を自由に制御することには制限があり、この方法によっても、設計しうる材料の自由度は大きくはなく、自ずと限界があった。本発明のロッド状ポリシロキサンも積層し高次構造を形成する。これは、通常の線状高分子と異なり剛直性且つ異方性を有しているためこれらから成るものは規則的な高次構造をとりやすく、しかも溶媒に対する親和性は粘土鉱物等より優れている。合成は簡単な重合反応(ゾル−ゲル反応)に
よって行われるため、組成や構造の制御も比較的容易であり、材料として利用する際の自由度は大きいものとなる。
【特許文献1】金子芳郎 ほか4名、「陰イオン交換性を有する層状ポリアミノアルキルシロキサン複合体とその製造方法およびその用途」、特許願2003-128862
【非特許文献1】Peter T.Tanev ほか1名,“A neutral templating route to mesoporous molecular sieves”,Science,VoL:267,ページ:865−867,(1995・2・10)
【非特許文献2】Shinji Inagaki ほか3名,“An ordered mesoporous organosilica hybrid material with a crystal−like wall strycture”,Nature,VoL:416,ページ:304−307,(2002・3・21)
【非特許文献3】K.C.Vrancken ほか3名,“Surface and structural properties of silica gel in the modification with γ−aminopropyltriethoxysilane”、Journal of Colloid and Interface Science,VoL:174,ページ:86−91,(1995・9)
【非特許文献4】S.Zheng ほか2名,“Synthesis of characterization of 3−aminopropyl modified mesoporous silica MCM−41 at room temperature”,Journal of Inorganic Materials,VoL:15,ページ:844−848(2000・10)
【非特許文献5】S.Che ほか6名、“A novel anionic surfactant templating route for synthesizing mesoporous silica with unique structure”,Nature Materials,VoL:2,ページ:801−805,(2003年11月)
【非特許文献6】N.Liu ほか3名,“Synthesis and characterization of highly ordered functional mesoporous silica thin films with positively chargeable -NH2 groups”,Chemical Communications,ページ:1146−1147,(2003年5月)
【非特許文献7】M.Ogawa ほか1名,“Photofunctions of Intercalation Compounds”,Chemical Reviews,VoL:95,ページ:399−438,(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、陰イオン交換性を示すロッド状ポリシロキサンの高次構造積層体であり、新規なポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体を提供しようというものである。また、そのために実用性に富んだ極めて簡便な合成法を提供しようというものである。その合成されたポリシロキサンは、アミノアルキル基を含むトリアルコキシシラン化合物の重合によって生成するため、その重合に際し無機酸を用いた場合には、無機の陰イオンと、アミノ基より生じたアンモニウム陽イオンとでイオン錯体を形成し、高次の積層構造体となっている。この積層構造を示す化合物は、陰イオン交換性を備えているためイオン交換反応によって容易に、有機酸などの陰イオンと交換することが可能となるものである。
【0007】
前記ロッド状ポリシロキサン積層体を陰イオン交換剤として利用することは勿論、そのイオン交換性を生かすことによって、陰イオンを有する機能性有機物を含む溶液とロッド状ポリシロキサンとを接触することによって、簡単に機能性分子を導入することができ、
これまでに存在しなかった新規な機能性高次構造化合物を提供することも可能となるものであり、その利用可能性は、新規化合物を提供する意味でも極めて優れ実用性に富んでおり、高いといえる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これまで、ナノメートルオーダーでの高次構造をもつ物質を合成するためには、界面活性剤のような長鎖アルキル基のもつ疎水性相互作用によるミセル形成を利用してこれをテンプレートとし、アルコキシシランの重合等を行い、高次構造を形成する方法が取られていた。この場合、このアルキル鎖が十分に長くないと、通常高次構造を得ることはできない。もちろん、これらの生成物は特別な表面修飾反応を行わない限り中性の物質であり、イオン性を有していない。イオン性を持つ官能基が、原料であるアルコキシシラン内に存在するならば、界面活性剤を利用しなくても、陰イオンと陽イオンからなるイオン錯体が組織化し、その状態で重合が進行することで規則的な高次構造をもつポリマーを形成することが可能であると考えた。さらに、イオン性官能基の導入も同時に行うことが可能である。これらのことから、原料となる有機アルコキシシラン化合物にイオン性を持たせることにより、ヘキサゴナル積層構造のような高次構造を形成することができるとの考えに至った。
【0009】
本発明者らは、以上の考えに立脚し、具体的には、アンモニウム陽イオンとなるアミノ基を有する有機アルコキシシラン原料と、塩酸などの無機酸とでイオン錯体を形成して、その組織化を利用しロッド状ミセルを構築し、同時に重合を進行させてロッド状ポリマーを合成することができれば、界面活性剤などでミセルを形成する反応系を使わなくとも、高次構造を有するポリシロキサンが合成可能ではないかとの考えに至った。
【0010】
以上の基本方針に基づき鋭意研究した結果、本発明の骨格部分として、重合によりロッド構造を保持できる程度の構造形成能があるものとの条件、さらに、重合反応速度などの点で適当であるものとの条件等から、具体的には、アミノアルキルトリアルコキシシランを利用するのが最適であることを見出すに至った。
【0011】
また、対イオンとなる試薬としては、アミノ基をイオン化し、高次構造を形成する際の重合触媒としても機能しうるものとの条件から、塩酸および硝酸を重合触媒として使用することが好ましいことを見いだした。
【0012】
以上から、本発明者らにおいては、酸を触媒としアミノ基を含むアルコキシシランで、イオン交換性を有してなるロッド状ポリシロキサン積層体を開発できるのではとの考えに基づき、鋭意検討した結果、陰イオン交換性ロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体を実現することに成功したものである。
【0013】
すなわち、本発明は、以下(1)から(6)に記載する解決手段を講ずることによって達成されたものである。
【0014】
(1)まず第1には、この出願の発明は、繰り返し単位が、一般式;Z22-・NH3+(C
22NH2+(CH23SiO1.5(式中、Zは、塩化物イオンなどのハロゲン元素陰イ
オン、硝酸イオンなど陰イオンを表す)で表される組成を有し、陰イオンZ-と繰り返し
単位NH3+(CH22NH2+(CH23SiO1.5で構成されるポリシロキサンはイオン
対をもってロッド状を形成し、このロッド状ポリマーが密に配列、積層して高次構造を形成した、陰イオン交換性を有してなるロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体を提供するものである。この化合物を化学構造式で示すと(化1)で例示され、シロキサン結合部位が中心となるロッド状高分子がヘキサゴナル相を有して積層したものである。
ただし、(化1)は、前記一般式;Z22-・NH3+(CH22NH2+(CH23SiO1.5中のZが塩化物イオンの場合について例示したものである。mは、重合度を表す。
【化1】

【0015】
(2)第2には、この出願の発明は、上記(1)記載のロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体を製造する方法であって、一般式;NH2(CH22NH(CH23Si(OL)3(式中、Lは水溶液中や懸濁液中で容易にOL基がOH基に変化しうる基を示す。)で表されるアミノアルキルトリアルコキシシラン化合物と水とを溶媒中または分散媒中で酸性触媒の存在下で重合反応させることを特徴とする、(1)に記載のロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体の製造方法を提供するものである。
【0016】
(3)また、第3には、重合反応に際して、酸を使用することにより、酸が重合触媒として機能すると同時にイオン錯体形成のための陰イオン源としても機能し、これによって、反応操作として一段操作を可能とする、前記(1)に記載のロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体の製造方法を提供するものである。
【0017】
(4)第4には、重合反応が無機酸を触媒とし、室温〜100℃で反応させることにより重合を起こし、無機陰イオンとイオン性の錯体を形成しているアンモニウム官能基を含む(1)に記載のロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体の製造方法を提供する。
【0018】
(5)さらに第5には、前記(1)に記載されたロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体をアルキルカルボン酸とイオン交換することによって得られてなる、繰り返し単位が、一般式;T22-・NH3+(CH22NH2+(CH23SiO1.5(式中、Tは、アルキルカルボン酸のイオン化体を示す。)で表される組成を有し、(化2)で例示される構造を有するロッド状ポリアミノアルキルシロキサン・有機酸複合体を提供する。この複合体を化学構造式で示すと(化2)で例示される積層構造を有して成るものである。
ただし、(化2)は、前記一般式;T22-・NH3+(CH22NH2+(CH23SiO1.5中のTがオクタン酸のイオン化体の場合について示したものであり、mは重合度を示す。
【化2】

【0019】
重合度mについては、現段階ではその値を完全に特定しているところまでには至っておらず、今後の研究・同定に委ねられてはいるが、この点は、後述する実施例に示したように各種同定手段による分析結果を総合的に判断した結果、反応生成物は、出発物質の重合が生じ、シロキサン結合によって高分子化し、重合体を形成していることが分かった。
【0020】
(6)また、第6には、前記(1)に記載のロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体を陰イオン交換体として使用する用途発明を提案するもので、これにより(1)に記載のロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩積層体からなる陰イオン交換体を提供するものである。
【0021】
上記の解決手段を講ずることによって、本出願の発明では陰イオン交換性を付与したロッド状ポリシロキサン積層体を、一段の反応で合成することに成功したものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、従来知られていなかった新規な陰イオン交換性のロッド状ポリシロキサン積層体を提供するものであることから、産業上の有用性を備えており、その意義は大きい。加えて、陰イオン交換性を始めとして、異方性、水溶性等の特異な性質を有し、あるいは発現することから、今後各種分野に大いに利用されることが期待される。この材料は、有機酸イオンと結びつくと水に不溶となることから、水中に有機酸が存在すると結合して凝集沈殿を生じ、選択的分離剤としての機能しうるものである。さらに、このような陰イオン交換剤としての用途の他にも、陰イオン性の機能性有機分子をイオン交換プロセスといった極めて簡単な操作によるいわゆるソフトケミカル的な反応によって導入することができるため、新規な機能を有してなる新規物質開発・促進につながるものと期待される。また、ロッド状高分子のような異方性を有するものは、チクソトロピー性が現れる。このような性質は、これをセメント、インク、化粧品等の各種粘弾性材料に添加することによって、これら材料の流れ特性、粘弾性・チクソトロピーを改質するのに利用することができる。また、一般的な層状化合物である粘土層間に、本発明のロッド状ポリシロキサンを分散・挿入することで、制御された多孔体の創製も期待でき、触媒設計や吸着剤、あるいは徐放性が要求される医薬用担持材料等として適正な多孔体を設計し、供することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の解決手段は、前述した通りであるが、以下、実施例に基づいて具体的に説明する。但しこれら実施例は、本発明を容易に理解するための一助として示したものであり、決して本発明を限定する趣旨ではない。
【実施例1】
【0024】
(3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル)トリメトキシシラン4.45gに濃度1Nの塩酸溶液60mlを加えて反応液を調製した。この反応液を室温で2時間撹拌して加水分解反応を起こさせた後、開放系で60〜70℃の温度で、重合を促進しつつ水分を蒸発させ、ロッド状ポリアミノアルキルシロキサン・塩酸塩を得た。100℃で一晩放置した後、300mlの水に溶解し凍結乾燥することで、白色粉末生成物を得た。キャラクタリゼーションを赤外(IR)スペクトル、X線回折(XRD)、透過型電子顕微鏡(TEM)により行った。生成物のIRスペクトルより、1151cm-1にシロキサン結合(Si−0)の吸収、さらに、アンモニウムイオンを表す、2979cm-1(N−H伸縮振動)、1618と1465cm-1(N−H変角振動)の吸収が観察され、アンモニウム陽イオンを含むポリシロキサン(高分子)の形成が確認できた(図1)。また、生成物をガラス基板上に塗布した薄膜のXRD測定では、d値の比が下記(数式1)で表される割合を有する3本の回折ピークが観察され(図2a)、湿度の変化によりこの比を保ったままd値が増減した。
これはロッド状高分子がヘキサゴナル相を有して積層したことを表している。
【0025】
【数1】

【0026】
また、2θが最も低角な回折ピークのd値が約1.8nmであることが分かった(図2a)。この値から導き出されるロッドの直径は約2.1nmであると考えられる。TEMにより縞模様が観察されたことより、ロッド状ポリアミノアルキルシロキサンが平行に積層した構造であることを確認した(図3)。ちなみに本発明のロッド状ポリアミノアルキルシロキサンから対イオンを除去すると規則的な積層構造は見られない(図2b)。このことからポリシロキサン表面のアンモニウム陽イオンと対陰イオンからなるイオン錯体の形成は、本発明において重要な因子となっていることがわかる。
【実施例2】
【0027】
実施例1で合成したロッド状ポリアミノアルキルシロキサン・塩酸塩226mgを20mlの蒸留水に溶解させ、それを濃度0.05mol/Lのオクタン酸ナトリウム水溶液60mlに添加し、室温で撹拌した。これにより、オクタン酸イオンを含むポリアミノアルキルシロキサン複合体が沈降した。これをろ別して収集し、減圧下で乾燥させると白色粉末が得られた。この粉末は、水に不溶であったが、エタノールやメタノールなどのアルコール系溶媒には溶解した。生成物の重メタノール中での1H−NMR測定より、オクタ
ン酸イオンを含むポリシロキサンの生成が確認され、また、ポリシロキサンの1繰り返し単位あたり2つのオクタン酸イオンが含まれることがわかった(図4)。一方、X線回折(XRD)より、2θが最も低角な回折ピークのd値が約2.9nmであることが分かった(図5)。対イオンである塩化物イオンが嵩高いオクタン酸イオンに変換されたことでポリシロキサン同士の間隔が広がったと考えられる。
【0028】
以上の結果、本発明の重合体生成物であるロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体は、陰イオン(塩化物イオンや硝酸イオン)と陽イオン(アミノアルキル基がアンモニウムイオンに変換)が組織化し、重合(ゾル−ゲル反応)が進行して、ロッド状ポリマーを形成し、このロッド状ポリマーが互いに密に集合して積み重なり、図6に模式的に示した構造、すなわちロッド状高分子がヘキサゴナル相を有して積層した構造であることが分かった。
【0029】
次に前記実施例1で合成したロッド状ポリシロキサン積層体からイオン交換法によって
、新しい有機−無機複合体を合成し提供する場合について補足的に説明をする。
【0030】
イオン交換のプロセスは、次のようにして行なわれる。まず、実施例1で合成したロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩酸塩からなる積層体を蒸留水に溶かす。この水溶液を、オクタン酸ナトリウム水溶液に添加すると、オクタン酸イオンを含むポリシロキサン複合体が沈降する。沈殿物をろ別し、減圧下乾燥することによって得られた粉末は、分析の結果、ポリアミノアルキルシロキサン・オクタン酸複合体であることが分かった。また、X線回折(XRD)の結果からも規則的に積層した構造をもってオクタン酸イオンが組み込まれていることを示した(実施例2)。
【0031】
以上説明した、イオン交換プロセスについて、以下、現象的に説明する。
すなわち、本発明の合成方法によって得られてなるロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩酸塩からなる積層体は、固体状態では、陰イオンの塩化物イオンと、陽イオン性のポリアミノアルキルシロキサンが、ヘキサゴナル相を有して積み重なった構造となっている。この化合物は、水溶性であり、水中では、ポリアミノアルキルシロキサンが分散した状態になっている。これを、有機酸の陰イオンを含む水溶液に加えると、陽イオン性のロッド状ポリアミノアルキルシロキサンの周りに有機酸の陰イオンが接近して、次第に積層構造が形成され、この生成物は、その有機成分のため水溶性を失い、水溶液から分離・析出してくるものと考えられる。すなわち、単分子への分離と陰イオンを介した積層構造の再構築が起こり、結果として陰イオン交換が生じているものと考えられる。
【0032】
本発明の合成方法の中、とりわけ、塩酸のような酸性の試薬を重合触媒とする場合についてさらに説明を加えると、塩酸などの酸は、アミノ基を含むトリアルコキシシラン化合物に対し、重合触媒として機能すると同時に、アンモニウムイオンとその対イオン(塩化物イオン)からなるイオン錯体を形成し、これによって高次構造をもつ化合物が生成する反応が達成される。これが塩基性触媒である水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、当然アミノ基は、アンモニウムイオン化されていないためイオン錯体が生じないことから、3次元方向に無秩序に重合が進行し、高次構造を形成せず、非晶質のポリシロキサンが生じるのみである。すなわち、この発明の狙いを達成するためには、塩酸のような酸性の試薬を、原料である(3−(2−アミノエチルアミノ)プロピル)トリメトキシシランの2モル量以上(原料のアミノ基に対して等モル量以上)使用するのが、極めて重要な事項であると言える。
【0033】
以上、実施例に開示するように、本発明は、従来にはなかった新規な陰イオン性交換性ポリシロキサン高次構造体、すなわち、陰イオン交換性ロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体を提供するものである。なお、本発明者らにおいては、この出願に先立ち、アンモニウム基を有するロッド状ポリシロキサンからなる高次積層体を作製するのに成功し、先に特許出願(特許文献1)したことは前述したとおりであるところ、この先行技術に対して、今回発明したロッド状ポリシロキサンは、表面にポリマーの繰り返し単位あたり2つのアンモニウム基を有している点で1つのアンモニウム基を有するポリシロキサンを使用した先の出願にかかる発明とは基本的に構成を異にしているものである。この違いによって先の特許出願に係る発明に比し、イオン交換容量が増加した顕著な違いが認められる(本発明の積層体が、100グラムのポリシロキサンあたり970ミリ等量のイオン交換能力を有しているに対して、以前に開発したポリシロキサンは870ミリ等量であった)。
また、今回発明したロッド状ポリシロキサン水溶液(1重量%)の粘度は、最大で30mPa・sを超え、以前のポリシロキサン類似体に比べて粘土は飛躍的に増加した(図7)。水に溶解後4時間以降、粘度は徐々に減少した。これはお互い結合していたロッド同士が完全に水中で分離したためと考えられる。溶解後24時間経過した水溶液を再び乾燥した固体生成物は、もとのヘキサゴナル相を有するロッド状ポリシロキサンが生成し、可逆性を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、発明の効果の欄でも触れたように、その意義は格別のものがある。すなわち、本発明は、従来知られていなかった陰イオン交換性のロッド状ポリシロキサン積層体の合成に成功したものであり、それ自体産業上利用しうるもので、その意義は大きい。加えて、陰イオン交換性を始めとし、異方性、水溶性等の特異な性質を有し、あるいは発現することから、今後各種分野に大いに利用されることが期待される。例えば、有機酸イオンと結びつくと不溶性となることを利用して、水中に有機酸が存在すると結びついて凝集沈殿を生じ、選択的分離剤としての利用等が考えられる。さらに、このような陰イオン交換剤としての用途のほかにも、陰イオン性機能性有機分子をイオン交換プロセスといった極めて簡単な操作によるいわゆるソフトケミカル的な反応によって導入することができるため、新規な機能を有してなる新規物質開発・促進につながるものと期待される。また、ロッド状高分子のような異方性を有するものは、振動を加えると、粒子の位置が変って動きやすくなり、振動が止むと再び動き難くなる、すなわち、チクソトロピー性が現れる。この性質はセメント、インク、化粧品等各種技術分野に大いに利用される可能性がある。また、一般的な層状化合物である粘土層間に、本発明のロッド状ポリシロキサンを分散・挿入することで、多孔体の創製も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩酸塩の赤外吸収スペクトル。
【図2】ロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩酸塩積層体のX線回折プロファイル。図中、(a)は、ロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩酸塩積層体(ガラス基板に塗布して形成した薄膜)のX線回折プロファイル。(b)は、対イオンを除去したポリアミノアルキルシロキサン積層体(ガラス基板に塗布して形成した薄膜)のX線回折プロファイル。
【図3】ロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩酸塩積層体のTEM像。
【図4】オクタン酸イオンを含むポリアミノアルキルシロキサンの1H−NMRスペクトル。
【図5】オクタン酸イオンを含むポリアミノアルキルシロキサンのX線回折プロファイル。
【図6】ロッド状ポリシロキサンの形成プロセスと、ロッド状高分子がヘキサゴナル相を有して会合し積層構造を形成するプロセスを模式的に示す図。
【図7】表面アンモニウム基の数による、ロッド状ポリシロキサン水溶液(1重量%)粘度の比較と時間依存性とを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位が、一般式;Z22-・NH3+(CH22NH2+(CH23SiO1.5(式中、Zは、塩化物イオンなどのハロゲン元素陰イオン、硝酸イオンなど陰イオンを表す)で表される組成を有し、陰イオンZ-と繰り返し単位NH3+(CH22NH2+(CH23
iO1.5で構成されるポリシロキサンはイオン対をもってロッド状を形成し、このロッド
状ポリマーが密に配列、積層して高次構造を形成した、陰イオン交換性を有してなるロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体。
【請求項2】
一般式;H2N(CH22HN(CH23Si(OL)3(式中、Lは水溶液中や懸濁液中で容易にOL基がOH基に変化しうる基を示す。)で表されるアミノアルキルトリアルコキシシラン化合物と水とを溶媒中または分散媒中で酸性触媒の存在下で重合反応させることを特徴とする、請求項1に記載するロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体の製造方法。
【請求項3】
重合触媒およびイオン錯体形成陰イオン源として塩酸や硝酸のような無機酸を用い、これをアミノアルキルトリアルコキシシラン化合物に反応させて、一段階で反応させることを特徴とする請求項1に記載のロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体の製造方法。
【請求項4】
重合反応に際し、触媒として塩酸を選択し、室温〜100℃で重合させることを特徴とする、塩化物イオンとイオン性の錯体を形成しているアンモニウム官能基を含む請求項1に記載のロッド状ポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載されたポリアミノアルキルシロキサン塩からなる積層体をアルキルカルボン酸とイオン交換することによって得られてなる、繰り返し単位が、一般式;T22-
NH3+(CH22NH2+(CH23SiO1.5(式中、Tは、アルキルカルボン酸のイオ
ン化体を示す。)で表される組成を有するポリアミノアルキルシロキサン・アルキルカルボン酸複合体。
【請求項6】
請求項1に記載のポリアミノアルキルシロキサン塩積層体からなる陰イオン交換体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−45392(P2006−45392A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230030(P2004−230030)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】