説明

アーク溶接制御装置

【課題】主回路の全体に機器外部の空気を直接を当て冷却するため機器内部の導電部に粉塵や溶接ヒューム等が堆積また付着し機器のメンテナンスに時間を費やすという課題を有していた。
【解決手段】発熱性の電気素子により熱せられた空気を外部へ排出する放熱ユニットを筐体内に内蔵したアーク溶接制御装置であって、放熱ユニットは、空気を流通させる空洞部を形成する外周部を備えたトンネル型形状であり、機器内部の導電部に粉塵、溶接ヒューム等の堆積,付着を防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーク溶接制御装置の冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、産業用機器の稼働率は非常に高くなっている。このような状況下でアーク溶接装置のメンテナンスの容易性が重要視されている。
【0003】
図8は上記従来のアーク溶接装置の構造を外側の筐体部を透視した斜視図を示す。そして各図において、101はアーク溶接制御装置筐体、102は空気吸排口、103はファン、104はヒートシンク、105は主半導体を示す。なお実際にはアーク溶接を行なうための種々の構成物、配線等があるが、本発明の説明には直接関係しないので説明を省略する。またアーク溶接を行なわせるための回路構成についても同様の理由により説明を省略する。
【0004】
上記した構成の従来のアーク溶接制御装置においては、高熱を発する主半導体(例えばパワートランジスタ等のスイッチング素子)を冷却する際にそのヒートシンクを重点的に冷却して主回路全体に風を当て冷却する方法を用いており、装置内部の全体に機器外部の空気を排出または吸入させて冷却する構造であった。
【0005】
具体的には図8で示すように主半導体105にヒートシンク104を接触して一体化したものに、ファン103を動作させて外から空気を吸入して当て、空気吸排口102から熱せられた空気を排出することで排熱を行なっていた。
【0006】
なお、このような技術を示す実施例は、例えば特許文献1に記載されており、高熱を発するパワー半導体モジュールに放熱フィンを取り付け、空冷させるアーク溶接機等の電源装置が示されている。
【特許文献1】特開平8−214549号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のアーク溶接制御装置は、主回路の全体に機器外部の空気を当て冷却するため機器内部の導電部に粉塵や溶接ヒューム等が堆積また付着し機器のメンテナンスに時間を費やすという課題を有していた。
【0008】
本発明は、機器のメンテナンス性が飛躍的に向上し、機器の信頼性も確保するアーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアーク溶接装置は、上記課題を解決するために、発熱性の第1の電気素子により熱せられた空気を外部へ排出する放熱ユニットを筐体内に内蔵したアーク溶接制御装置であって、前記放熱ユニットは、空気を流通させる空洞部を形成する外周部を備えたトンネル型形状である。
また、本発明のアーク溶接装置に用いる放熱ユニットは、空洞部を形成する側面部および天面部を有する略直方体形状とし、空洞部の両側端部を空気が流通する開口部とした。さらに放熱ユニットは、両側端部の開口部を筐体の内側面に面するように配し、空洞部を形成する外周部の少なくとも一部に発熱性の第1の電気素子を用いた。
【0010】
また、本発明のアーク溶接装置に用いる発熱性の電気素子は、放熱フィンを有するヒートシンクを備え、前記放熱フィンを空気が流通する空洞部内に曝すように配し、放熱ユニット開口部の片側に空洞部内の空気を強制流通させるファンを設けた。また、放熱ユニットは、複数列の空洞部を有し、複数列の各空洞部ごとにファンを設けた。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明は冷却用の筐体を設けることにより機器内部の導電部に粉塵、溶接ヒューム等の堆積、付着を防止することが可能となり、機器のメンテナンス性が飛躍的に向上し、機器の信頼性も確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1から図7を用いて説明する。
【0013】
(実施の形態1)
まず図5を用いて、簡単に本実施の形態におけるアーク溶接制御装置の回路構成について説明する。図5は本実施の形態におけるアーク溶接制御装置の回路構成を示す回路ブロック図であり、20の1点鎖線で示した部分は一次側インバータ回路、28は一次側インバータ回路20中でインバータ(スイッチング手段)として用いるパワートランジスタ、21は主トランス、22の2点鎖線で示した部分は二次側主回路、23は直流リアクタ、24は制御回路を示す。
【0014】
このような回路構成により、簡単にその作用について説明すると、一次側インバータ回路20の一次側整流ダイオード26にて商用電源25で供給される電力を整流し、一次平滑コンデンサ27にて平滑化し直流化する。そしてパワートランジスタ28により電圧、電流のインバータ制御を行ない、所望の高周波の電圧、電流となるように制御される。さらに主トランス21により一次側から二次側へ昇圧し、二次側整流ダイオードにより再び直流化され、正負の電圧をそれぞれ出力し、ワイヤ30と母材29間でアーク放電させ、アーク溶接を行なう。なお、二次側回路中にある直流リアクタ23は高周波成分をカットし、アーク溶接の品質をよくする働きをする。また、24は制御回路であり、アーク溶接の品質を安定させるために一次側インバータ回路20や二次側回路での出力電圧、電流の制御を行なう。
【0015】
次に図1を用いて本実施の形態におけるアーク溶接制御装置に用いる放熱ユニットについて説明する。放熱ユニット1は、図5で説明した、一次側インバータ回路20、二次側主回路22などを搭載し、アーク溶接制御装置にユニットとして配置するもので、パワートランジスタ28等の高温を発するものを冷却するために、放熱機構を持たせている。
【0016】
図1は、本実施の形態におけるアーク溶接制御装置に用いる放熱ユニットの後方右方向から見た斜視図を示し、1は放熱ユニットを示す。また4aおよび4bは放熱ユニット1を形成する外周部であり、それぞれ側面部、天面部を示す。また28は図5の回路図で示した一次側インバータ回路中のパワートランジスタである。さらに10aは放熱ユニット1の端部に設けられた開口部、8は開口部10に備えられたファンを示す。なお、側面部4a、天面部4bは、板金等の平板で形成したものにパワートランジスタ28などを連結して各面を形成しており、形成された各面により放熱ユニットを空洞部を有するトンネル構造としている。すなわち、放熱ユニット1は、高熱を発する電気素子を外周部の一部として天面部や側面部を形成してトンネル構造としており、この外周部により空洞部3を形成し、空洞部と外部とを遮断するようにして排熱させている。
【0017】
なお、ここで放熱ユニット1は、図6に示すように、筐体2に内蔵して溶接装置とする
もので、本実施の形態では、放熱ユニット1は、ファン8のある部分を、溶接装置の後面部となるように配している。
【0018】
また図2は、図1と同じ本実施の形態におけるアーク溶接制御装置に用いる放熱ユニット1を前方左方向から見た斜視図を示す。図2において、10bは放熱ユニット1の両側端部のうちファン8と反対側に設けた開口部を示し、3は空洞部を示し、放熱ユニット1の側面部4a、天面部4bによって形成される。すなわち、放熱ユニット1は、側面部4a、天面部4bによって空洞部を形成したトンネル構造となっており、両端部に開口部を有し、片側の開口部にファンを備える構造としている。
【0019】
また図3は同様に、放熱ユニット1を前方右方向から見た斜視図を示す。図3において、40は図5の回路図には示していないが、2次側回路に用いる高熱を発生するスイッチング素子を示す。
【0020】
また図4は、同様に、放熱ユニット1を前方右方向から見た斜視図を示すもので、内部が分かりやすいように中間部を切断した状態を示している。図4において6はヒートシンク、7は放熱フィンを示す。このヒートシンク6は、パワートランジスタ28、二次側スイッチング素子40、二次側整流ダイオード22の各電気素子にそれぞれ備えられており、放熱フィン7のある部分をトンネル構造の放熱ユニット1の内側、すなわち空洞部3の空気が流通する部分に曝すようにしている。また、放熱ユニット1は上下2段構造に空洞部を有し、途中に仕切りが設けられた複数の列構造になっており、各空洞部3を空気が流通する部分としている。
【0021】
以上で示したように、本実施の形態における放熱ユニット1は、図1に示すとおり略直方体であって、前面に設けた開口部10aにファン8を設けて空気吸排口とし、反対側開口部10bより、空気を排出する。この時、放熱ユニット1に、本溶接装置で回路を構成する電気素子のうち特に高熱を発するものを取り付け、さらにヒートシンク6の放熱フィン7の部分を空気が流通する空洞部3に曝すようにすることで効率よく熱を装置外へ排出するようにしている。
【0022】
なおこの時、図4に示すように、ヒートシンク8は、複数の放熱フィン7が、空洞部3内で流通する空気の流れの方向と略平行になるように配して空気の流れが滞ることがないようにする。
【0023】
また本実施の形態においては、放熱ユニット1を上下2段構造とし、たとえば高熱を発する電気素子は専用の空洞部で冷却するようにして他の電気素子の冷却の促進を妨げないようにしている。
【0024】
このように、放熱ユニット1の外周面を形成する側面部4a、天面部4bを空気を遮蔽する平面とし、形成される空洞部3と外部との空気の流通を遮断し、さらに放熱ユニット1のトンネル構造の内部の導電部に粉塵、溶接ヒューム等が入り込まないようにしている。
【0025】
そして図6に示すように、この放熱ユニット1を筐体2に内蔵させ、アーク溶接制御装置とする。この時筐体2は、筐体2の向かい合う面に空気流通孔2aを設けておき、放熱ユニット1の開口部10a、10bがこの空気流通孔2aに重なるようにする。すなわち、放熱ユニット1は、両側端部の開口部10aおよび10bをそれぞれ筐体2の向かい合う面の内側面に面するように配する。そして、放熱ユニット1に備えたファン8は、アーク溶接装置後面の内側面に面し、外部より空気を吸引し、装置前面の空気流通孔2aから外部へ排熱する。そして、上記したように筐体2内部では、放熱ユニット1をトンネル構
造としていることで、内部の空洞部と外部との遮熱ができ、効率的に電気素子の冷却ができる。
【0026】
なお、本実施の形態においては、ファン8は、放熱ユニット1に取り付ける例を示したが、装置設計の都合上筐体1の空気流通孔2aに設けてもよいし、独立して筐体2内側面と放熱ユニット1の開口部10aとの間に設けても本実施の形態による効果を妨げるものではない。
【0027】
また、放熱ユニット1に設けた上下の2段構造は、2段に限定するものでなく、横方向、縦方向にも複数列の空洞部を設けることもでき、それにより一層効率的な排熱が期待できる。また、設計の都合上、空洞部ごとに、異なる電気素子を排熱させるようにしてもよいし、複数の電気素子の排熱を行なわせるようにしてもよい。
【0028】
また、放熱ユニット1の形状も略直方体形状に固執するものではなく、トンネル構造を形成できる形状であれば円筒状等でもよく、特定するものではない。
【0029】
以上のように、本実施の形態によればヒートシンク8と筐体9とが機器内部の空気と遮断されていることにより内部の導電部に粉塵、溶接ヒューム等の堆積,付着を防止することが可能となり、機器のメンテナンス性が飛躍的に向上し、機器の信頼性も確保することが可能となる。
【0030】
さらに本実施の形態を発展させた例として図7に示すように、トンネル構造にした放熱ユニット1の内部に、図5で示した直流リアクタ23を備えてもよい。このように、発熱源の一つである直流リアクタ23を2段構造の放熱ユニット1の下段の空洞部におき、上段と異なる列の空洞部に曝すことで、他の列の空洞部との遮断ができ、効率よく冷却することが可能となる。
【0031】
なおアーク溶接制御装置用の直流リアクタはニス含侵を施してあり粉塵等の堆積には問題はない。
【0032】
以上のように、本実施の形態によればヒートシンク6と放熱ユニット1とが溶接装置内部の空気と遮断されていることにより内部の導電部に粉塵、溶接ヒューム等の堆積,付着を防止することが可能となり、機器のメンテナンス性が飛躍的に向上し、機器の信頼性も確保することが可能となる。
【0033】
なお、図7で示す直流リアクタ23の代わりに、図5で示す主トランスと21してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のアーク溶接制御装置は、導電部に粉塵、溶接ヒューム等の堆積、付着を防止することが可能となり、機器のメンテナンス性が飛躍的に向上し、機器の信頼性も確保することができ、産業上有用である。また、本発明は、アーク溶接制御装置のみに有効であるばかりでなく、高熱を発生する電気素子を内蔵し、冷却を必要とする装置に広く有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接制御装置に用いる放熱ユニットを後方右方向から見た斜視図
【図2】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接制御装置に用いる放熱ユニットを前方左方向から見た斜視図
【図3】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接制御装置に用いる放熱ユニットを後方右向から見た斜視図
【図4】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接制御装置に用いる放熱ユニットを後方右向から見た斜視図
【図5】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接制御装置の回路構成を示す回路ブロック図
【図6】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接制御装置を後方右方向から見た斜視図
【図7】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接制御装置を前方右方向から見た斜視図
【図8】従来のアーク溶接制御装置の後面右方向から見た斜視図
【符号の説明】
【0036】
1 放熱ユニット
2 筐体
2a 空気流通孔
3 空洞部
4a 側面部
4b 天面部
6 ヒートシンク
7 放熱フィン
8 ファン
10a、10b 開口部
22 二次側整流ダイオード
28 パワートランジスタ
21 主トランス
22 2次側整流ダイオード
23 直流リアクタ
26 一次側整流ダイオード
27 一次平滑コンデンサ
28 パワートランジスタ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱性の第1の電気素子により熱せられた空気を外部へ排出する放熱ユニットを筐体内に内蔵したアーク溶接制御装置であって、前記放熱ユニットは、空気を流通させる空洞部を形成する外周部を備えたトンネル型形状であるアーク溶接制御装置。
【請求項2】
放熱ユニットは、空洞部を形成する側面部および天面部を有する略直方体形状である請求項1記載のアーク溶接制御装置。
【請求項3】
放熱ユニットは、空洞部の両側端部を空気が流通する開口部とした請求項1または2記載のアーク溶接制御装置。
【請求項4】
放熱ユニットは、両側端部の開口部を筐体の内側面に面するように配した請求項3記載のアーク溶接制御装置。
【請求項5】
放熱ユニットは、空洞部を形成する外周部の少なくとも一部に発熱性の第1の電気素子を用いた請求項1から4のいずれかに記載のアーク溶接制御装置。
【請求項6】
発熱性の第1の電気素子は、放熱フィンを有するヒートシンクを備え、前記放熱フィンを空気が流通する空洞部内に曝すように配した請求項5記載のアーク溶接制御装置。
【請求項7】
開口部の片側に空洞部内の空気を強制流通させるファンを設けた請求項3から6のいずれかに記載のアーク溶接制御装置。
【請求項8】
ファンは、放熱ユニットの開口部に取り付けられた請求項7記載のアーク溶接制御装置。
【請求項9】
ファンは、筐体に設けた空気流通用の空気流通孔部に取り付けられた請求項7記載のアーク溶接制御装置。
【請求項10】
放熱ユニットは、空洞部を形成する外周部に複数の第1の電気素子を備える請求項1から9のいずれかに記載のアーク溶接制御装置。
【請求項11】
放熱ユニットは、複数列の空洞部を有する請求項1から10のいずれかに記載のアーク溶接制御装置。
【請求項12】
放熱ユニットは、複数列の各空洞部ごとにファンを設けた請求項11記載のアーク溶接制御装置。
【請求項13】
放熱ユニットは、各空洞部ごとに異なる第1の電気素子の空気を流通させるる請求項11または12記載のアーク溶接制御装置。
【請求項14】
第1の電気素子はアーク溶接装置のインバータ回路に用いる電気素子を含む請求項1から13のいずれかに記載のアーク溶接制御装置。
【請求項15】
第1の電気素子は、パワートランジスタを含む請求項14記載のアーク溶接制御装置。
【請求項16】
第1の電気素子は整流ダイオードを含む請求項1から15のいずれかに記載のアーク溶接制御装置。
【請求項17】
空洞部内に発熱性の第2の電気素子を配した請求項1から16のいずれかに記載のアーク溶接制御装置。
【請求項18】
第2の電気素子はリアクタを含む請求項17記載のアーク溶接制御装置。
【請求項19】
第2の電気素子はトランスを含む請求項17または18に記載のアーク溶接制御装置。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−7255(P2006−7255A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186083(P2004−186083)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】