説明

イオンガン及びそれを用いた圧電素子の周波数調整装置

【課題】 イオンビーム照射による圧電素子の周波数調整装置において、遮蔽マスク等の消耗を抑制する。
【解決手段】 内部に放電部を有するプラズマ生成手段、及びプラズマ生成手段で生成されたプラズマからイオンを引き出してイオンビームを出射するグリッドからなるイオンガンにおいて、イオンビームの断面における電流密度分布を制御する制御手段を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンガンおよびイオンビームの照射方法に関し、特にイオンビームを出射するイオンガンを用いた圧電素子の周波数調整装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な圧電素子である水晶振動子の共振周波数は、素板となる水晶片の厚みとその表面に形成された金属電極の膜厚によって決定される。所望の周波数の水晶振動子を得るためには、先ず水晶片を規定の厚みで切り出した後、表面を研磨し、その表面にスパッタ蒸着等によってベースとなる金属膜電極を形成する。この水晶片をしかるべき容器に搭載した後、1個づつ水晶振動子の周波数を測定しながら、水晶片上の金属電極膜の厚みを変化させる事によって水晶振動子の周披数を変化させ、この周波数が所定値になった時に停止し、所望の周披数を得ている。水晶片上の金属電極膜の厚みを変化させるには、以前は真空蒸着による方法がとられていたが、現在ではイオンビームエッチングによってベース電極膜をエッチングする方法が一般的である。
【0003】
このようなイオンビームエッチングによる周波数調整方法では、真空蒸着による周波数調整方法と比べ、ベース電極膜上に新たな膜を形成する必要が無い事と、水晶振動子が小型化してもマスクずれの影響が少ない事により、CI値の増大、新たなスプリアスの発生、既存のスプリアスレベルの増大、およびエージング特性の悪化等が生じず、高品位な水晶振動子が得られる。これはプラズマやイオンを利用したプラズマエッチングでも同様である。
【0004】
前記のようなイオンビームエッチングによる周波数調整は、例えば特許文献1や特許文献3に開示される。特許文献1は、一定の電流密度のイオンビームを照射して圧電素子の周波数調整精度を向上させることを目的に、イオンガン内の放電電流をモニタ制御して一定に保つことを特徴とするものであり、特許文献3は、高精度で効率の良い圧電共振子の周波数調整を行うために、マトリクス状配列された圧電共振子を行方向に搬送させ、列単位で予備的周波数調整を行った後、列単位で目標周波数への調整を行うことを特徴とするものである。
【0005】
以下、少なくともプラズマ生成手段とプラズマ中イオンの引き出し加速手段を有する機構をイオンガンと称し、イオンの引き出し加速部をグリッドと称す。グリッドは、多数の引き出し孔が穿設された電極で構成されることが一般的であり、グリッドに印加する電圧により電位差を与えてイオンビームを出射することを特徴とする。少なくとも放電ガス導入口、熱陰極、陽極、遮蔽グリッド、加速グリッド、磁石を有するイオンガンを用いた場合、例えば放電用ガスとしてArガスを導入し、熱陰極を通電加熱し、熱陰極と陽極の間の直流放電によってArプラズマを生成し高圧電源によってグリッドに高電圧を印可する事によって、Arの正イオンを引き出しイオンビームとして出射する。前記イオンガンは、2枚のグリッドを備えるものとするが、ビームの発散やエロージョンを押えるために3枚目のグリッドを用いても良い。プラズマ生成部に面する遮蔽グリッドには正の電圧が与えられ、遮蔽グリッドを挟んでプラズマ生成部の反対面に配される加速グリッドには負の電圧が与えられるため、この 2 枚のグリッドによりイオンを加速する向きに電位勾配が作られる。
【0006】
イオンビームエッチングによる周波数調整方法でも、真空蒸着による周波数調整方法と同様、高生産性と高調整精度を得るため、複数の調整源を配置し、素調用として高調整レートのもの、微調用として低調整レートのもの、あるいはこの中間のもの等を組合せて、多段階処理とし、更に並列処理することによって生産性を向上させる方法がとられることが一般的である。また、近年では生産性の向上と装置を小型化させるため、1つの源で複数個処理する方法がとられるようになった。例えば特許文献2には、複数の圧電素子を同時に処理するための大口径イオン源が開示される。特許文献2に記載のイオン源は、均一かつ高電流密度なイオンビームの有効径を拡大することを目的に、温度上昇および熱による歪を抑制するシールド板、および冷却ジャケットを具備したことを特徴とする。
【特許文献1】特開2000-323442号公報
【特許文献2】特開2002-075232号公報
【特許文献3】特開2003-298374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水晶振動子のパッケージは、現在ではほとんどが表面実装型(SMD)であり、そのサイズは7×5、6×3.5、5×3.2、3.2×2.5、2.5×2.0、等様々であるが、年々小型化が進み、装置で使用する搬送トレーやキャリアに搭載される水晶振動子の数は増加の傾向にある。そこで1つの源で複数個処理する方法として、特許文献2又は特許文献3に開示されるような大きな照射面積で均一な分布を持ったイオンガンを用い、1つの搬送トレー、またはキャリアに搭載された複数の水晶振動子の周波数を同時、または切り替えて測定しながら、遮蔽マスクとシャッターによって個々の周波数調整を行う方法がとられる。しかしながらこの場合、照射されるイオンビームによって水晶振動子の電極のみがエッチングされるのではなく、遮蔽マスク、シャッター、搬送トレーやキャリアの一部等にも同等のイオンビームが照射されるため同等にエッチングされ、特に遮蔽マスク、シャッターの消耗が激しくなるという問題がある。
【0008】
水晶振動子の電極に使用される電極としては、Au、Ag等が一般的であり、遮蔽マスク、シャッター、搬送トレー、およびキャリア等はコスト面からSUS製とするのが一般的であるが、粗調整時のエッチングレートはAuで最大30nm/sec以上になり、同条件でのSUSのエッチングレートは10nm/sec以上になる。これは、厚さ0.5tのSUSに連続してイオンビームを照射し続けた場合、およそ15時間で穴が空くことを意味する。このため、1sec程度要する素子の搬送中にはイオンビームを電気的にOFFする方法がとられる。例えば1基のイオンガンでA、B、2素子を同時に処理する場合でA素子のエッチング時間が1.3sec、B素子のエッチング時間が1.5secであれば、A素子側のシャッターには0.2secイオンビームが照射されるが、B素子側のシャッターにはイオンビームが照射されなくなり、シャッターの消耗は大幅に減少する。しかしながら、遮蔽マスクにはイオンビームがONの間は常にイオンビームが照射されるため、その消耗はシャッターに比べはなはだ大きくなる。遮蔽マスク、シャッター等の寿命は、イオンガンのフィラメント等よりも短いため、これらによってメンテナンスサイクルが決定されることになる。
【0009】
また、前記したような大きな照射面積で均一な分布を持ったイオンガンでは、水晶振動子の電極面積に比べてはるかに大きな面積にイオンビームを照射することになるため、イオンガンを汚染してしまうという問題もある。これは、処理数の増加によって遮蔽マスク、シャッター等のスパッタ物が増大するためであり、これによって、グリッドの短絡、アノードの短絡等の動作不良頻度が高まり、さらにメンテナンスサイクルが短縮されてしまう。また、照射面積を大きくするために必要なビーム電流の増加は処理個数の増加以上に大きくなるため電源容量が大きくなり、コスト、および、占有体積の増大をも招いている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面は、内部に放電部を有するプラズマ生成手段、及びプラズマ生成手段で生成されたプラズマからイオンを引き出してイオンビームを出射するグリッドからなるイオンガンであって、イオンビームの断面における電流密度分布を制御する制御手段を備えたイオンガンである。ここで、電流密度分布が、電流密度が極大となる部分を複数有するようにした。また、制御手段が、グリッドに穿設された複数の引き出し孔を備える構成とした。さらに、複数の引き出し孔がグリッド上で複数の群を形成する構成とした。またさらに、複数の群の中心間距離を可変とした。さらに、制御手段が、引き出し孔の配置と電流密度分布との相関関係を記憶する記憶手段、及び記憶手段の記憶内容に基づいて所望の電流密度分布に対する引き出し孔の配置を決定する配置決定手段を備える構成とした。
【0011】
上記第1の側面において、制御手段が、さらに、放電部の放電電流をモニタし所望の値に制御する放電電流モニタ制御機構からなる構成とした。また、放電電流モニタ制御機構が、放電電流に対する電流密度分布の依存特性に基づいて所望の電流密度分布に対する放電電流の理論値を算出する算出手段、及び放電電流を理論値に維持する電流制御手段を備える構成とした。
【0012】
本発明の第2の側面は、内部に放電部を有するプラズマ生成手段、及びプラズマ生成手段で生成されたプラズマからイオンを引き出してイオンビームを出射するグリッドからなるイオンガンにおけるイオン照射方法であって、イオンビームの断面における電流密度分布を制御するイオン照射方法である。ここで、前記電流密度分布の制御において、該電流密度が複数の極大部分を有するようにした。
【0013】
本発明の第3の側面は、内部に複数の圧電素子を保持する真空室、イオンビームを出射して複数の圧電素子上の電極をイオンビームエッチングするイオンガン、及び圧電素子の共振周波数をモニタするモニタ手段からなる圧電素子の周波数調整装置であって、イオンガンが、イオンビームの断面における複数の電流密度の極大部分の分布が圧電素子のピッチに等しくなるようイオンビームの出射を制御する制御手段を備えた圧電素子の周波数調整装置である。
【0014】
本発明の第4の側面は、内部に複数の圧電素子を保持する真空室、イオンビームを出射して複数の圧電素子上の電極をイオンビームエッチングする請求項1から請求項9いずれか一項に記載のイオンガン、及び圧電素子の共振周波数をモニタするモニタ手段からなる圧電素子の周波数調整装置である。
【0015】
本発明の第5の側面は、真空室内部に保持された複数の圧電素子上の電極をイオンビームエッチングするイオンガン、及び圧電素子の共振周波数をモニタするモニタ手段からなる圧電素子の周波数調整装置におけるイオンビーム制御方法であって、イオンビームの断面における電流密度分布に複数の極大部分を持たせ、極大部分の分布が圧電素子のピッチに等しくなるようにイオンガンを制御するイオンビーム制御方法である。また、電流密度分布の制御がグリッドに穿設された複数の引き出し孔の配置を決定することを含むようにした。さらに、電流密度分布の制御が前記放電部の放電電流を制御することを含むようにした。
【0016】
本発明の第6の側面は、イオンビームエッチング用のイオンガンにおいて使用されるイオンビームを出射するためのグリッドであって、穿設された複数の引き出し孔を有し、複数の引き出し孔がグリッド上で複数の群を形成するグリッドである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によりイオンビーム出射孔の形状および配設位置を選択する手段、およびイオンガンの放電電流を制御する手段を設けることにより、イオンビームの電流密度分布を制御することが可能となった。よって、周波数調整を行う圧電素子のピッチと照射するイオンビーム電流密度分布のピーク位置を等しくし、遮蔽マスク等の消耗を減少させることが可能となった。これにより圧電素子の周波数調整装置の連続運転を可能とし、ランニングコストを抑え、且つ、電源容量を小さく出来ることから、装置の低価格化および小型化にも貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施例を示すイオンガンの概略斜視図を表す。図は、説明のためイオンガンの一部を切り剥がした図面とする。イオンガン1は、放電ガス導入口6、円筒形状の陽極4、熱陰極5、遮蔽グリッド2、加速グリッド3、放電電源12、放電電流モニタ制御機構13により構成される。同図では、イオンガン1から出射されたイオンビーム14を圧電素子9に照射するものとするが対象はこれに限られるものではない。イオンビーム14の照射経路内にはニュートラライザ15が配置され、電子を放出してイオンビーム14を中和する。
【0019】
図2は、図1に示すイオンガンの遮蔽グリッド2および加速グリッド3の概略平面図を表す。図2に示す遮蔽グリッド2および加速グリッド3は、図中破線で示す2ヶ所のイオンビーム引き出し領域21を備えたことを特徴とする。イオンビーム引き出し領域21内には、複数の引き出し孔20が近接位置に密集して穿設され、この引き出し孔20を出射孔としてイオンビーム14を出射する構造は従来と同様である。近接する引き出し孔20間距離は常に一定であるものとし、任意の引き出し孔20に近接する引き出し孔20は、引き出し孔20を中心とする円周上に60°間隔で配列されるものとする。イオンビーム引き出し領域21は、グリッド上に間隔をおいて配置されることにより、照射位置におけるイオンビーム電流密度分布には2ヶ所のピーク位置が設けられる。2ヶ所のピーク間距離は、イオンビーム引き出し領域21の中心間距離を可変とすることにより制御する。本実施例のイオンガン1は、均一なイオンビーム電流密度分布ではなく、複数のピークを有するイオンビーム電流密度分布を形成することを特徴とする。
【0020】
図3は、図1に示すイオンガン1に図2に示すグリッドを搭載した際のイオンビーム電流密度分布の実測値を示す。横軸はグリッドの中心からの距離を、縦軸はイオンビーム電流強度を表す。同様に、複数種のグリッドパターンについて実測を行い、条件によりグリッドのみを交換することで所望のイオンビーム電流密度分布を得ることが可能となる。図に示すように、グリッドの形状に応じて電流密度のピーク(極大部分)が存在する。なお、図3では横軸をグリッドの中心からの距離としたが、ビームの断面においても、即ちビームの被照射物においてもほぼ同様の分布を持つ。
【0021】
次に、図4を参照に、イオンビーム電流密度の放電電流依存性を説明する。イオンビーム電圧が一定である場合、イオンビーム電流密度はイオンガンの放電電流に依存して変化する。図4はイオンビーム電圧一定で放電電流を変化させた際のイオンビーム電流密度の実測値を示す。実測は、図1に示すイオンガン1に図2に示すグリッドを搭載して行った。イオンビーム電流密度は放電電流に対して最大値をもつ特性があり、最大値となる放電電流よりも大きな放電電流ではイオンビーム電流密度は低下している。これはイオンビームの発散角が放電電流とともに変化するためであり、放電電流が大きくなりすぎると発散角が大きくなりイオンビーム電流密度が低下するためである。したがってイオンガンの中心付近と周辺付近とでプラズマ密度に差がある場合、中心からの位置によってイオンビーム電流密度が最大値となる放電電流が異なるため、放電電流を変化させることによりイオンビームのピーク位置を変化させることが可能になる。ピーク位置は、放電電流を大きくすることによりイオンガンの中心側から外側に移行する。
【0022】
この依存特性を用いれば、所望のピーク位置を得るための放電電流を予め求めることが可能となる。例えば、図1に示すイオンガン1であれば、図4の依存特性を理論値として、放電電流モニタ制御機構13により放電電流を制御すればよい。本実施例で、グリッドパターンによる制御要素に加えて放電電流による制御要素を設けて電流密度分布を制御する制御手段を構成したことにより、グリッドパターン数が少なくてもイオンビーム電流密度分布のパターン数を大幅に増やすことが可能となる。なお、上記の放電電流の理論値を算出する手段や最適形状のグリッドを割り出す手段はメモリ等を用いて上記の制御手段等に設ければよい。
【0023】
図3及び図4では、説明のため、図2に示す配列のグリッドを図1に示すイオンガンに搭載したが、グリッドはこれに限られるものではない。図2に示すグリッドではピーク位置を2ヶ所設けるものとしたが、ピーク位置の数およびイオンビーム電流密度分布の形状は適宜選択すればよい。また、ピーク位置を設けないものも含めて、所望のイオンビーム電流密度分布を得るために最適な引き出し孔の形状および配置を適宜選択すればよい。
【0024】
図5は、本発明による圧電素子の周波数調整装置の一実施例を表す。
同図に示す周波数調整装置は、エッチング室30、仕込室31、取出室32、仕切弁33、圧電素子9、圧電素子9を複数搭載するキャリア35、キャリア35を搬送する搬送レール36、遮蔽マスク34、シャッター8、圧電素子9の発振回路であるπ回路10、π回路に接続し圧電素子9の周波数を計測するネットワークアナライザ11、イオンガン1、および制御部37を備え、イオンガン1によるスパッタエッチングによって圧電素子9の周波数調整を行うことを特徴とする。イオンガン1は図1および図2に示すものを用いている。実施例は周波数調整を1つのイオンガンにて行っているが、キャリアの搬送経路にレートの異なる複数のイオンガンを配置し、粗調整と微調整を段階的に行ってもよい。粗調整を終えた圧電素子の微調整と同時に、新たな圧電素子の粗調整を行うことができるため、タクトタイムを短縮することが可能となる。
【0025】
図6は圧電素子9、キャリア35、遮蔽マスク34の概略斜視図を表し、圧電素子9が一定ピッチでマトリクス状に配列される様子を表す。説明を簡略化するため、キャリア35に搭載される圧電素子9は2行4列のマトリクス配列であるものとするが、素子の配列は自由に選択可能である。図中aは同時に周波数調整処理を行う圧電素子9のピッチを示す。遮蔽マスク34は開口部40を設けることにより圧電素子の露出部分を決定し、イオンガン1に対して遮蔽マスク34から露出する部分のみがエッチングされて周波数調整が行われる。
【0026】
遮蔽マスク34の余分なスパッタエッチングによる消耗、電源容量の増大を抑えるには、圧電素子9のピッチに合わせて設けられた遮蔽マスク開口部40を狙ってイオンビーム14を照射するように、圧電素子9のピッチと同ピッチでピークを持つようなイオンビーム14を照射すればよい。しかしながら、圧電素子9のパッケージサイズは様々であるため1枚のキャリアに搭載される素子数はパッケージサイズによって異なる場合が多く、また、ユーザーの生産ラインによっても異なるため、圧電素子9のピッチは一律ではない。イオンビーム14のピーク位置と圧電素子9の位置にズレが生じると、圧電素子9が均一にエッチングされないため、CI値の増大、新たなスプリアスの発生、既存のスプリアスレベルの増大、エージング特性の悪化等を生じ、圧電素子が小型化してもマスクズレの影響が少ないため高品位な圧電素子が得られるというイオンガンの特徴を発揮することが出来なくなる。そこで、ピーク位置を変化させることができるイオンガンが要求されるが、本発明のイオンガンを用いれば、イオンビーム14のピーク位置を変化させ、イオンビーム14のピーク位置を圧電素子9のピッチと合わせることができので、かかる要求に応えるものとなる。
【0027】
本発明により、圧電素子の周波数調整装置にピーク位置を制御可能なイオンガンを搭載することで種々の圧電素子に対応することが可能となる。図6に示す圧電素子9であれば、イオンビームのピーク間距離がaに一致するように制御すればよい。
【0028】
従来は、均一なイオンビーム電流密度を得ることを目的に、グリッドの領域全面に引き出し孔を穿設するもの、或はグリッドの中心領域に引き出し孔を穿設するもの等が用いられてきたため、遮蔽マスク34等までが消耗されてしまうという問題があったが、本実施例により遮蔽マスク34等に照射されるイオンビーム14の密度を減少させたため、遮蔽マスク34等の消耗を押えることが可能となった。
【0029】
また、予め複数種のグリッドを用意しておき、グリッドおよび放電電流を適宜選択することにより、イオンビームのピーク位置を制御することが可能となった。イオンビームのピーク位置と素子位置とを相対させることにより、マスクから露出する素子のみを高レートでエッチングすることが可能となる。なお、従来のイオンガンにおいてグリッドだけを本発明のものに取り替えた場合、放電電流の制御はできないものの、本発明と同様の効果はある程度は期待できる。
【0030】
本発明のイオンガンを設置可能な装置は図5に示す周波数調整装置に限られるものではなく、また周波数調整装置に具備可能なイオンガンは図1および図2に示すイオンガン1に限られるものではない。例えばピーク位置の数は同時処理を行う圧電素子の数にあわせればよく、また、ピーク間距離は圧電素子のピッチにあわせて適宜調整すればよい。本実施例では、2個処理用のグリッドを用いているが、イオンビーム引き出し領域を追加することにより3個処理、4個処理としてもよい。イオンビーム引き出し領域内の引き出し孔配列についても、60°配置に限られるものではない。また、ピークのない平坦な分布のイオンビームに谷となる分布を形成しても効果は同等である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明イオンガン概略斜視図
【図2】本発明グリッド概略平面図
【図3】図2に示すグリッドを用いた場合のイオンビーム電流密度分布を示す図
【図4】イオンビーム電流密度と放電電流相関図
【図5】本発明圧電素子の周波数調整装置の概略図
【図6】圧電素子・遮蔽マスク概略斜視図
【符号の説明】
【0032】
1 イオンガン
2 遮蔽グリッド
3 加速グリッド
4 陽極
5 熱陰極
6 放電ガス導入口
7 磁石
8 シャッター
9 圧電素子
10 π回路
11 ネットワークアナライザ
12 放電電源
13 放電電流モニタ制御機構
14 イオンビーム
15 ニュートラライザ
20 引き出し孔
21 イオンビーム引き出し領域
30 エッチング室
31 仕込室
32 取出室
33 仕切弁
34 遮蔽マスク
35 キャリア
36 搬送レール
37 制御部
40 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電部を有するプラズマ生成手段、及び該プラズマ生成手段で生成されたプラズマからイオンを引き出してイオンビームを出射するグリッドからなるイオンガンであって、
該イオンビームの断面における電流密度分布を制御する制御手段を備えたことを特徴とするイオンガン。
【請求項2】
請求項1記載のイオンガンであって、前記電流密度分布が、電流密度が極大となる部分を複数有することを特徴とするイオンガン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2いずれか一項に記載のイオンガンであって、前記制御手段が、前記グリッドに穿設された複数の引き出し孔からなることを特徴とするイオンガン。
【請求項4】
請求項3記載のイオンガンであって、前記複数の引き出し孔が前記グリッド上で複数の群を形成することを特徴とするイオンガン。
【請求項5】
請求項4記載のイオンガンであって、前記複数の群の中心間距離を可変としたことを特徴とするイオンガン。
【請求項6】
請求項3から請求項5いずれか一項に記載のイオンガンであって、前記制御手段が、さらに、
前記引き出し孔の配置と電流密度分布との相関関係を記憶する記憶手段、及び
該記憶手段の記憶内容に基づいて所望の電流密度分布に対する該引き出し孔の配置を決定する配置決定手段
を備えることを特徴とするイオンガン。
【請求項7】
請求項3から請求項6いずれか一項に記載のイオンガンであって、前記制御手段が、さらに、
前記放電部の放電電流をモニタし所望の値に制御する放電電流モニタ制御機構からなることを特徴とするイオンガン。
【請求項8】
請求項7記載のイオンガンにおいて、前記放電電流モニタ制御機構が、
該放電電流に対する該電流密度分布の依存特性に基づいて所望の該電流密度分布に対する該放電電流の理論値を算出する算出手段、及び
前記放電電流を該理論値に維持する電流制御手段
を備えることを特徴とするイオンガン。
【請求項9】
内部に放電部を有するプラズマ生成手段、及び該プラズマ生成手段で生成されたプラズマからイオンを引き出してイオンビームを出射するグリッドからなるイオンガンにおけるイオン照射方法であって、
該イオンビームの断面における電流密度分布を制御することを特徴とするイオン照射方法。
【請求項10】
請求項9記載のイオン照射方法であって、前記電流密度分布の制御において、該電流密度が複数の極大部分を有することを特徴とするイオン照射方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10記載のイオン照射方法であって、前記電流密度分布の制御が前記グリッドに穿設された複数の引き出し孔の配置を決定することを含むことを特徴とするイオン照射方法。
【請求項12】
請求項11記載のイオン照射方法であって、前記電流密度分布の制御が、さらに、前記放電部の放電電流を制御することを含むことを特徴とするイオン照射方法。
【請求項13】
内部に複数の圧電素子を保持する真空室、イオンビームを出射して該複数の圧電素子上の電極をイオンビームエッチングするイオンガン、及び該圧電素子の共振周波数をモニタするモニタ手段からなる圧電素子の周波数調整装置であって、
該イオンガンが、該イオンビームの断面における複数の電流密度の極大部分の分布が該圧電素子のピッチに等しくなるよう該イオンビームの出射を制御する制御手段を備えたことを特徴とする圧電素子の周波数調整装置。
【請求項14】
内部に複数の圧電素子を保持する真空室、イオンビームを出射して該複数の圧電素子上の電極をイオンビームエッチングする請求項1から請求項9いずれか一項に記載のイオンガン、及び該圧電素子の共振周波数をモニタするモニタ手段からなることを特徴とする圧電素子の周波数調整装置。
【請求項15】
真空室内部に保持された該複数の圧電素子上の電極をイオンビームエッチングするイオンガン、及び該圧電素子の共振周波数をモニタするモニタ手段からなる圧電素子の周波数調整装置におけるイオンビーム制御方法であって、
該イオンビームの断面における電流密度分布に複数の極大部分を持たせ、該極大部分の分布が圧電素子のピッチに等しくなるように該イオンガンを制御することを特徴とするイオンビーム制御方法。
【請求項16】
イオンビームエッチング用のイオンガンにおいて使用されるイオンビームを出射するためのグリッドであって、
穿設された複数の引き出し孔を有し、前記複数の引き出し孔が前記グリッド上で複数の群を形成することを特徴とするグリッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−100205(P2006−100205A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287308(P2004−287308)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】