説明

イオンビーム発生方法とそれを実施する為のイオンビーム発生装置

【課題】ヘリウムイオンビームを用いて、表面・界面の原子配列を解析する装置に用いるイオンビーム発生装置に関し、簡便で汎用性のあるイオンビームの大電流化方法を提供する。
【解決手段】イオンビーム発生装置は、高周波放電によりヘリウムプラズマを発生させる高周波放電管1と、波長調整可能で光ポンピングが可能なレーザ発生装置13と、レーザ発生装置からのレーザ光を高周波放電管内に照射するレーザ照射装置と、レーザ光の波長を観察する観察装置とからなる。イオンビーム発生方法は、高周波放電によるヘリウムプラズマ中に波長1083nmのレーザ光を照射して光ポンピングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリウムイオンビームを用いて表面・界面の原子配列を解析する装置におけるイオンビーム発生方法とそれを実施する為のイオンビーム発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記のようにヘリウムイオンビームを使用する分野では、しばしば、いかにイオンビームを大電流化するかが課題となっていた。
例えば、非特許文献1から3に示すようにこのイオンビームの大電流化を達成するために、高周波放電イオン源では、放電電力や外部磁場印加など、従来から様々な工夫がなされてきた。
【非特許文献1】Nature, 158 (1946) 61, P.C.Thonmann
【非特許文献2】Review of Scientific Instruments, 25 (1954) 989, H.P.Eubank
【非特許文献3】応用物理、12 (1969) 1114、岡本幸雄
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来技術による大電流化は、イオンビームの利用分野に様々な制約を与える問題があった。例えば、放電電力の大電力化は、しばしば電気的ノイズの誘発や放電管温度の上昇、等の問題を引き起こす。したがって、大電力化と同時にこれらの問題への対策が必要であるが、この対策は必ずしも容易ではない。そこで、イオンビームの利用が、電気的ノイズや放電管温度上昇が問題とならない分野にしばしば限定される問題があった。また、外部磁場の印加は、イオンビームを利用した電子分光において、漏れ磁場がスペクトル強度の低下を招く問題があった。本発明は、簡便で汎用性のあるイオンビームの大電流化方法を提供することで、これらの問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、発明1のイオンビーム発生方法は、高周波放電によるヘリウムプラズマ中に波長1083nmのレーザ光を照射して光ポンピングすることを特徴とする。
【0005】
発明2は、発明1のイオンビーム発生方法を実施する為のイオンビーム発生装置であって、高周波放電によりヘリウムプラズマを発生させる高周波放電管と、波長調整可能なレーザ発生装置と、この発生装置からのレーザ光を前記高周波放電管内に照射するレーザ照射装置と、前記ヘリウムプラズマに照射されたレーザ光の波長を観察する観察装置とからなることを特徴とする。
【0006】
発明3は、発明2のイオンビーム発生装置において、前記レーザ照射装置には、前記レーザ光を円偏光とする波長板が設けてあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
発明1により、高周波電力等の放電条件の調整や外部磁場の印可などを行わずに、ヘリウムプラズマから大電力のヘリウムイオンビームを導き出すことができたので、イオンビームの大電流化により利用分野が制約される問題を解消することができた。
【0008】
発明2により、前記方法を実現することができ、大電力のヘリウムイオンビームを用いることができた。
【0009】
発明3によりイオンビームの大電流化に加えて、イオンビームをスピン偏極することが出来た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、発明の主旨に基づき、従来公知の各種技術を組み合わせ又は一部を置換することが可能である。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明によるイオンビーム発生装置を示し、以下の構成を有している。
なお、図1に示すのは、発生したイオンビームの内容を如何にして検査したかを示す検査装置を含み示してある。
【0012】
図1の高周波放電管(1)へヘリウムガスを導入し、高周波電極(2)、マッチングユニット(4)、および高周波電源(5)を用いて、高周波放電管(1)の中で、ヘリウムプラズマを発生させた。このヘリウムプラズマ中で発生したヘリウムイオンを、引き出し電極(3)とリペラー電極(6)に電圧を印加することでコンデンサーレンズ(7)へ導き出した。この引き出されたイオンビームを、コンデンサーレンズ(7)、フォーカシングレンズ(8)、ディフレクター(9)、アインツェルレンズ(10)、減速電極(11)、およびディフレクター(12)を使用してイオンビーム検出電極(28)まで輸送した。この際、電流計(29)の値が最大となるようにこれらの電極(7)〜(12)に印加される電圧を調整した。イオンビーム電流は、イオンビーム検出電極(28)に到達するイオンビームの強度を電流計(29)で測定することにより評価した。
【0013】
光ファイバーレーザー(13)の波長1083nm出力光を、光ファイバー経由で光ファイバー増幅器(14)に入力した。この入力光を、光ファイバー増幅器(2)で増強し、光ファイバーコネクタ(15)から空間に放出した。この放出光を、光ファイバーレーザー(13)内に設置された偏光器を用いて、直線偏光とした。光ファイバーコネクタ(15)から空間に放出された光を、1/2波長板(17)を用いて偏光方向を調整し、次いで1/4波長板(18)を用いて円偏光とした。この円偏光を、レンズ(16,19)を用いて整形した上で、放電管中に発生したヘリウムプラズマへ照射し、プラズマ中に存在する準安定ヘリウム原子を光ポンピングした。また、この円偏光の照射方向を、コイル(30)で作られる磁場と平行となるように調整した。磁場の大きさは、直流電源(31)を調整することで、放電管付近で1ガウス程度となるようにした。
【0014】
プローブ光レーザーダイオード(20)からの波長1083nmの光を1/2波長板(23)および1/4波長板(25)で円偏光とした。この円偏光をミラー(24)を用いて、コイル(30)で発生した磁場と平行の方向からプラズマへ照射した。このプローブ光の透過強度をパワーメータ(27)で観測した。この際、まず光ポンピングをしない状態の透過強度測定から、プローブ光の波長を、準安定ヘリウム原子の23S1から23P0への遷移(D0線)に対応する波長となるようにプローブ光レーザーダイオード(20)を微調整した。次に、光ポンピングをした状態で、プローブ光の透過強度観測を左回りと右回りの円偏光に対して行った。そして、この観測から求められる準安定ヘリウム原子の偏極率が極大となるように、光ファイバーレーザー(13)からの出力光の波長の調整を行い、その波長が準安定ヘリウム原子の23S1から23Pへの遷移(D0、D1、またはD2線)となるように微調整した。また、準安定ヘリウム原子の偏極率が極大となるように、波長板(17,18)の調整を行った。
【0015】
光ポンピングの照射光の波長は、光ポンピングの高効率化のために、準安定ヘリウム原子23S1の23Pへの遷移(D0、D1、D2線)に対応する波長に調整する。
【産業上の利用可能性】
【0016】
ヘリウムイオンビームは、表面・界面の組成や構造解析などの分析装置、イオン注入装置、イオンビーム加工装置、イオンビーム蒸着装置に利用されており、本技術はこれらの装置への応用が期待される。また、ヘリウムを他のガス種などと混合して放電を起こすことにより他のガス種イオンを発生するイオン源や、同様の原理を用いた分析装置においても本技術の応用が期待される。さらに、ヘリウムを含むプラズ利用分野においても、本技術の応用が期待される。

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例で示すイオンビーム発生装置の構成を示す概略図
【図2】実施例で得られたヘリウムイオンビーム電流の変化を示すグラフ。
【図3】準安定ヘリウム原子23S1の光ポンピングに関与するエネルギー準位を説明する図
【図4】実施例で示すイオンビーム発生装置を用いたイオン散乱分光装置を示す概略図
【符号の説明】
【0018】
1.高周波放電管
2.高周波電極
3.引き出し電極
4.マッチングユニット
5.高周波電源
6.リペラー電極
7.コンデンサーレンズ
8.フォーカシングレンズ
9.ディフレクター
10.アインツェルレンズ
11.減速電極
12.ディフレクター
13.光ファイバーレーザー
14.光ファイバー増幅器
15.光ファイバーコネクタ
16.レンズ
17.1/2波長板
18.1/4波長板
19.レンズ
20.プローブ光レーザーダイオード
21.レンズ
22.フィルター
23.1/2波長板
24.ミラー
25.1/4波長板
26.ミラー
27.パワーメータ
28.イオンビーム検出電極
29.電流計
30.コイル
31.直流電源
32.本技術を利用した大電流イオン源
33.試料
34.エネルギー分析器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリウムイオンビームを用いて所望の作業を行わせる装置におけるイオンビーム発生方法であって、高周波放電によるヘリウムプラズマ中の準安定ヘリウム原子を光ポンピングすることを特徴とするイオンビーム発生方法。
【請求項2】
請求項1に記載のイオンビーム発生方法を実施する為のイオンビーム発生装置であって、高周波放電によりヘリウムプラズマを発生させる高周波放電管と、光ポンピングのための波長調整可能なレーザ発生装置と、この発生装置からのレーザ光を前記高周波放電管内に照射するレーザ照射装置と、前記ヘリウムプラズマに照射されたレーザ光の波長を観察する観察装置とからなることを特徴とするイオンビーム発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載のイオンビーム発生装置において、前記レーザ照射装置には、前記レーザ光を円偏光とする波長板が設けてあることを特徴とするイオンビーム発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−135309(P2008−135309A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321053(P2006−321053)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】