イオンミリング装置
【課題】熱による厚み方向への変形を防止する引き出し電極を備えたイオンミリング装置を提供する。
【解決手段】加速電極20aに形成され加速電極20aの取り付け位置を位置決めする基準穴25aと、加速電極20aに形成され加速電極20aの取り付け位置を案内する案内穴26aと、電極取り付け板に立設された基準穴25aと係合する加速電極保持軸40と、電極取り付け板に立設された案内穴26aと係合する加速電極案内軸41と、基準穴25aおよび案内穴26aの周囲を加速電極20aの厚み方向に押圧する圧縮コイルバネと、を有し、案内穴26aは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線上に設けられ、直線に沿って長穴形状に形成されている。
【解決手段】加速電極20aに形成され加速電極20aの取り付け位置を位置決めする基準穴25aと、加速電極20aに形成され加速電極20aの取り付け位置を案内する案内穴26aと、電極取り付け板に立設された基準穴25aと係合する加速電極保持軸40と、電極取り付け板に立設された案内穴26aと係合する加速電極案内軸41と、基準穴25aおよび案内穴26aの周囲を加速電極20aの厚み方向に押圧する圧縮コイルバネと、を有し、案内穴26aは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線上に設けられ、直線に沿って長穴形状に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物にイオンビームを照射して被加工物をミリング加工するイオンミリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ生成室でプラズマを生成させ、プラズマ生成室からイオンビームを引き出す引き出し電極を有する構造のイオンミリング装置が知られている。
プラズマの生成には高周波やフィラメントによる熱電子が利用され、プラズマに晒される引き出し電極には熱がかかり、引き出し電極が熱膨張する。このため、引き出し電極の変形や引き出し電極の保持部材の変形が生ずる。
このため、特許文献1では、電極板(引き出し電極)の周辺部にスリットを設け、このスリットに嵌合する突起を有する電極支持ブロック上で、この電極板を載置する電極板取り付け構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−329249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構造において、電極板(引き出し電極)は電極支持ブロック上に載置されているだけであり、例えば引き出し電極を縦置きにした場合には押さえが必要となり、電極板の取り付け姿勢に制限がある。また、各電極板は精度よく位置決めされていないため、イオンビームが引き出される引き出し穴の位置ずれが生ずることがある。このため、イオンビーム密度にばらつきが生じている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかるイオンミリング装置は、プラズマを生成するプラズマ生成手段を有するプラズマ生成室と、前記プラズマ生成室に連通する処理室と、前記プラズマ生成室と前記処理室の間に設けられ、前記プラズマ生成室から前記処理室へイオンビームを引き出す引き出し電極と、前記引き出し電極が取り付けられる電極取り付け板と、を備えたイオンミリング装置であって、前記引き出し電極に設けられ、前記引き出し電極の取り付け位置を位置決めする基準穴と、前記引き出し電極に設けられ、前記引き出し電極の取り付け位置を案内する案内穴と、前記電極取り付け板に立設され、前記基準穴と係合する電極保持軸と、前記電極取り付け板に立設され、前記案内穴と係合する電極案内軸と、前記基準穴および前記案内穴の周りを前記引き出し電極の厚み方向に押圧する弾性部材と、を有し、前記案内穴は前記基準穴の中心と前記引き出し電極の中心を結ぶ直線上に設けられ、前記直線に沿って長穴形状に形成されていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、イオンビームを引き出す引き出し電極に基準穴と案内穴を有し、案内穴は基準穴の中心と引き出し電極の中心を結ぶ直線上に設けられ、直線に沿って長穴形状に形成されている。基準穴および案内穴には、電極取り付け板に立設した電極保持軸と電極案内軸が係合し、引き出し電極が保持される。そして、引き出し電極は引き出し電極の厚み方向に弾性部材により押圧されて電極取り付け板に引き出し電極が取り付けられる。
この構造では、引き出し電極は基準穴で固定され、案内穴で熱膨張などの変形(伸びおよび縮み)が生じた場合の逃げる方向が規制されている。そして、引き出し電極は厚み方向に押圧されているため、案内穴では、基準穴の中心と引き出し電極の中心を結ぶ直線方向(面方向)に変形が可能である。
例えば、引き出し電極がプラズマに晒されて温度が上昇した場合、引き出し電極は基準穴を中心に面方向の膨張が生ずる。案内穴では基準穴の中心と引き出し電極の中心を結ぶ直線方向に長穴が形成され、膨張も長穴の方向に伸びるため、膨張による歪が生ずることがない。また、温度が低下して引き出し電極が収縮した場合も上記と逆の変形をする。
このようにして、1点を固定して、1点を変形方向の規制する案内としても、引き出し電極の面方向に変形し、引き出し電極に歪が生ずることなく、引き出し電極の厚み方向への変形を防止することができる。
このことから、イオンビームの引き出し穴の位置ずれ、および電極板間の距離がばらつくことがなくなりイオンビームの均一性および安定性が向上し、加工精度の高いイオンミリング装置を提供できる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記引き出し電極は、前記プラズマ生成室に近い順に加速電極、減速電極を有し、前記加速電極と前記減速電極とが一定の間隔を保って配置され、前記加速電極と前記電極取り付け板との間に、前記加速電極と前記電極取り付け板の厚み方向の平面視において重なる面積よりも小さな面積で接触するスペーサー部材を有し、前記加速電極の厚み方向において、前記加速電極と前記電極取り付け板との間に隙間が形成されていることが望ましい。
【0009】
この構成によれば、加速電極と電極取り付け板との間に接触面積の小さなスペーサー部材を有し、加速電極の厚み方向において、加速電極と電極取り付け板との間に隙間が形成されている。
加速電極はプラズマに晒されて高温となるため、本適用例では、加速電極と電極取り付け板との間に接触面積が小さくなるスペーサー部材を配置することで、加速電極から電極取り付け板へ伝達される熱を減少させている。このことから、加速電極がプラズマに晒されることで加速電極が昇温する時間を短縮させ、また加速電極を一定の温度に維持することができる。
これらのことから、加速電極の温度変化による変動(膨張および収縮)を抑制でき、また、加速電極と減速電極とのイオンビームが通過する引き出し穴の位置ずれおよび、電極間の距離のばらつきを少なくでき、安定したイオンビームを引き出すことができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記スペーサー部材は、リング状に形成され前記電極保持軸および前記電極案内軸に間挿されて配置されていることが望ましい。
【0011】
この構成によれば、スペーサー部材は、リング状に形成され電極保持軸および電極案内軸に間挿されている。
このため、加速電極と電極取り付け板との間に、スペーサー部材の取り付けが容易である。また、引き出し電極の基準穴および案内穴の周囲は弾性部材により押圧されるが、この押圧される部分の下側にはリング状のスペーサー部材が配置されるため、この押圧による引き出し電極の変形を防ぐことができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記電極取り付け板の外周部に前記加速電極の厚み方向に立ち上がる立ち上がり部を有し、前記立ち上がり部は前記加速電極と前記電極取り付け板との間の前記隙間を、前記加速電極の外周方向から覆うように形成されていることが望ましい。
【0013】
この構成によれば、電極取り付け板の外周部に加速電極の厚み方向に立ち上がる立ち上がり部を有し、加速電極と電極取り付け板との間の隙間を、加速電極の外周方向から覆うように形成している。
加速電極と電極取り付け板との間に隙間が形成されているため、この隙間からプラズマ生成室からのイオンが漏れるおそれがあるが、立ち上がり部を設けることでイオンの漏れを抑制することができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記プラズマ生成手段は高周波放電を利用した高周波イオン源を有することが望ましい。
【0015】
この構成によれば、プラズマ生成手段が高周波放電を利用した高周波イオン源である。
このため、大きな直径のプラズマを得ることができ、口径の大きいイオンガンを利用することができる。また、安定したプラズマを生成させることができ、加工精度の高いイオンミリング装置を提供できる。
【0016】
[適用例6]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記プラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源を有することが望ましい。
【0017】
この構成によれば、プラズマ生成手段がフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源である。
このため、容易にプラズマを生成させることができ、また装置の構成を簡略化でき、低コストのイオンミリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のイオンミリング装置の構成を示す模式図。
【図2】第1実施形態における永久磁石の配置状態を示す断面図。
【図3】第1実施形態における加速電極の構成を示す平面図。
【図4】第1実施形態における減速電極の構成を示す平面図。
【図5】第1実施形態における接地電極の構成を示す平面図。
【図6】第1実施形態における加速電極の基準穴側の取り付け状態を説明する断面図。
【図7】第1実施形態における加速電極の案内穴側の取り付け状態を説明する断面図。
【図8】第1実施形態における減速電極の取り付け状態を説明する部分断面斜視図。
【図9】第1実施形態における接地電極の取り付け状態を説明する部分断面斜視図。
【図10】第2実施形態におけるイオンミリング装置の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の寸法の割合を適宜変更している。
(第1の実施形態)
【0020】
<イオンミリング装置の構成>
図1は本実施形態のイオンミリング装置の構成を示す模式図である。図2は図1のA−A断線に沿う断面図であり、永久磁石の配置状態を示す。
イオンミリング装置1は、プラズマを生成するプラズマ生成手段を有するプラズマ生成室10と、プラズマ生成室10からイオンビームを引き出す引き出し電極20と、引き出されたイオンビームが導入される処理室50と、を備えている。
プラズマ生成室10は、高周波プラズマ室11と、これに連結するプラズマ拡張室14とから構成されている。
高周波プラズマ室11は石英円筒管12に高周波コイル13が巻かれて形成され、ガス導入口17から外部よりArなどの放電ガスが供給できる構成となっている。
高周波コイル13には高周波電源16が接続され、高周波コイル13に高周波電力が供給される。
【0021】
そして、高周波プラズマ室11に連結されたプラズマ拡張室14は、高周波プラズマ室11よりも大きな径を持って形成され、外周に多極の永久磁石15a,15bが配置されている。
永久磁石15aは、図2に示すように、プラズマ拡張室14の外周に配置され、隣り合う永久磁石は反対の極となるように配置されている。永久磁石15bも同様に、隣り合う永久磁石は反対の極となるように配置されている(図示せず)。
この永久磁石15a,15bは、磁力線によりプラズマをプラズマ拡張室14に閉じ込めるとともに、放電領域に磁界をかけてイオンの飛程距離を長くしてイオン化率を増大させる機能を有する。
このように、本実施形態におけるイオンミリング装置1のプラズマ生成手段は高周波放電を利用した高周波イオン源が用いられている。
【0022】
プラズマ拡張室14の処理室50との間には引き出し電極20が配置されている。
引き出し電極20は、加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cの3枚の電極から構成され、電極取り付け板30に取り付けられている。これらの引き出し電極20は、プラズマの生成源に近い方から加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cの順に配置されている。各電極は円板状に形成され、モリブデンなどの高融点材料が用いられている。そして、各電極の円板内にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28a,28b,28cがそれぞれ設けられている。
【0023】
加速電極20aには加速電源21が接続され、減速電極20bには減速電源22が接続されている。加速電源21からは500Vから2000Vの間の電圧が加速電極20aに印加され、減速電源22からは−100Vから−500Vの間の電圧が減速電極20bに印加される。また、接地電極20cは接地、または接地に対して−100V未満の電圧が印加されている。
これらの加速電極20aおよび減速電極20bに印加する電圧を調整することによって、引き出し電極20から引き出されるイオンビームのエネルギーを調整することができる。
なお、引き出し電極20として、接地電極20cを設けなくても、イオンビームの引き出しは可能である。
【0024】
そして、処理室50にはマイクロ波プラズマニュートライザー51が配置されている。
マイクロ波プラズマニュートライザー51は、引き出し電極20の下流にマイクロ波放電によるプラズマを生成する。この、マイクロ波放電によるプラズマは、基板などの被加工物の表面にイオンビームが照射されて帯電するのを防止するための電子供給源として用いられる。
【0025】
処理室50には、排気装置(図示せず)が接続され、処理室50およびそれに連結されるプラズマ拡張室14、高周波プラズマ室11を減圧状態に保つことが可能である。
そして、処理室50には基板などの被加工物を保持する基板ホルダー53が設置されている。基板ホルダー53は円板状に形成され、基板ホルダー53の中心部に軸が設けられて軸を中心に回転可能に形成されている。また、基板ホルダー53は、被加工物の材質により所望の加工速度(ミリングレート)に合わせて、イオンビームに対して傾いて配置されている。
【0026】
さらに、引き出し電極20と基板ホルダー53との間に、シャッター52を設けても良い。
シャッター52はシャッター駆動装置52aにより開閉し、基板ホルダー53に保持された被加工物に対してイオンビームを照射するときにはシャッター52を開き、イオンビームを照射しないときにはシャッター52を閉じてイオンビームの照射を制御することができる。
なお、処理室50はイオンビームの導入の安定性を確保するために電気的に接地された状態となっている。
【0027】
<イオンミリング装置の動作>
次に、上記のイオンミリング装置1の動作について説明する。
排気装置により、処理室50、プラズマ生成室10、が排気され、その後、一定流量の放電ガスが各イオンガンの高周波プラズマ室11に供給される。そして、高周波コイル13に高周波電力を印加すると、放電ガスが放電しプラズマが高周波プラズマ室11に生成する。生成されたプラズマはプラズマ拡張室14に拡張する。プラズマ拡張室14からイオンが引き出し電極20を用いてイオンビームとして処理室50に引き出される。
処理室50に導入されたイオンビームは、シャッター52を開いて回転する基板ホルダー53に保持された被加工物に照射してイオンミリング加工が行われる。
このとき、引き出し電極20はプラズマの熱で高温となる。特に、直接プラズマに晒される加速電極20aは、200℃〜500℃の温度に達することがある。
【0028】
<引き出し電極の構成>
次に、本実施形態における引き出し電極の構成について説明する。
図3は加速電極の構成を示す平面図である。図4は減速電極の構成を示す平面図である。図5は接地電極の構成を示す平面図である。
【0029】
図3に示すように、加速電極20aは円板状に形成され、中央部にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28aが形成されている。
そして、加速電極20aの外周部に基準穴25a、案内穴26a、合わせ穴27aが設けられている。
基準穴25aは1つ設けられ、後述する基準穴25aと係合する加速電極保持軸40が隙間なく挿入される寸法に形成されている。
【0030】
案内穴26aは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線上に1つ設けられている。そして、案内穴26aは基準穴と加速電極20aの中心を挟んで反対側の外周部に形成されている。さらに、案内穴26aは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線に沿って長い、長穴形状に形成されている。
また、案内穴26aは、後述する案内穴26aと係合する加速電極案内軸41が挿入されて長穴に沿って移動できる寸法に形成されている。
そして、加速電極20aの外周部には合わせ軸36と係合する複数の合わせ穴27aが設けられている。この合わせ穴27aは引き出し電極20の組み立ての際に各電極を容易に合わせられるように形成され、合わせ軸36の径よりも大きな寸法で形成されている。
【0031】
図4に示すように、減速電極20bは加速電極20aと同じ大きさの円板状に形成され、中央部にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28bが形成されている。この引き出し穴28bの形成位置は加速電極20aの引き出し穴28aと重なるように同じ位置に形成される。
そして、減速電極20bの外周部に基準穴25b、案内穴26b、合わせ穴27bが設けられている。なお、合わせ穴27bは加速電極20aの合わせ穴27aと同じ位置に形成されている。
基準穴25bは1つ設けられ、加速電極20aの複数の合わせ穴27aと減速電極20bの合わせ穴27bとを合わせたときに、加速電極20aの基準穴25aと重ならない場所で、かつ近傍に設置することで各電極板の熱による面膨張方向の穴ずれを抑える。そして、基準穴25bは、後述する基準穴25bと係合する減速電極保持軸45が隙間なく挿入される寸法に形成されている。
【0032】
案内穴26bは基準穴25bの中心と減速電極20bの中心を結ぶ直線上に1つ設けられている。そして、案内穴26bは基準穴25bと減速電極20bの中心を挟んで反対側の外周部に形成されている。さらに、案内穴26bは基準穴25bの中心と減速電極20bの中心を結ぶ直線に沿って長い、長穴形状に形成されている。
また、案内穴26bは、案内穴26bと係合する減速電極案内軸45Gが挿入されて長穴に沿って移動できる寸法に形成されている。
そして、減速電極20bの外周部には合わせ軸36と係合する複数の合わせ穴27bが設けられている。この合わせ穴27bは引き出し電極20の組み立ての際に各電極を容易に合わせられるように形成され、合わせ軸36の径よりも大きな寸法で形成されている。
【0033】
図5に示すように、接地電極20cは加速電極20aと同じ大きさの円板状に形成され、中央部にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28cが形成されている。この引き出し穴28cの形成位置は加速電極20aの引き出し穴28aと重なるように同じ位置に形成される。
そして、接地電極20cの外周部に基準穴25c、案内穴26c、合わせ穴27cが設けられている。なお、合わせ穴27cは加速電極20aの合わせ穴27aと同じ位置に形成されている。
基準穴25cは1つ設けられ、加速電極20aの複数の合わせ穴27aと減速電極20bの合わせ穴27bと、接地電極20cの合わせ穴27cとを合わせたときに、それぞれの基準穴と重ならない場所に形成されている。そして、基準穴25cは、後述する基準穴25cと係合する接地電極保持軸47が隙間なく挿入される寸法に形成されている。
【0034】
案内穴26cは基準穴25cの中心と接地電極20cの中心を結ぶ直線上に1つ設けられている。そして、案内穴26cは基準穴25cと接地電極20cの中心を挟んで反対側の外周部に形成されている。さらに、案内穴26cは基準穴25cの中心と接地電極20cの中心を結ぶ直線に沿って長い、長穴形状に形成されている。
また、案内穴26cは、案内穴26cと係合する接地電極案内軸47Gが挿入されて長穴に沿って移動できる寸法に形成されている。
そして、接地電極20cの外周部には合わせ軸36と係合する複数の合わせ穴27cが設けられている。この合わせ穴27cは引き出し電極20の組み立ての際に各電極を容易に合わせられるように形成され、合わせ軸36の径よりも大きな寸法で形成されている。
【0035】
なお、図3、図4、図5では、各電極を保持する電極保持軸や電極案内軸との重なりを、孔や切り欠きで避ける逃げ部は省略して図示していない。
また、本実施形態では引き出し電極を円板状としたが、矩形状の電極であっても良い。そのときは、対角を結ぶ線の交点を電極の中心とする。
【0036】
<引き出し電極の取り付け状態>
次に、上記で説明した引き出し電極の取り付け状態について詳細に説明する。
図6は本実施形態における加速電極の基準穴側の取り付け状態を説明する断面図である。図7は本実施形態における加速電極の案内穴側の取り付け状態を説明する断面図である。
【0037】
[加速電極の取り付け状態]
引き出し電極20は電極取り付け板30に取り付けられる。
まず、図6において加速電極の基準穴側の取り付け状態を説明する。
図6に示すように、電極取り付け板30には加速電極保持軸40が立設されている。加速電極保持軸40は両端にネジ40a,40bが切られ、その一方のネジ40aが電極取り付け板30のネジ穴31にネジ止めされる。そして、加速電極保持軸40に加速電極20aの基準穴25aが挿入され、加速電極保持軸40と基準穴25aとの間には隙間がなく係合される。
【0038】
また、加速電極保持軸40における基準穴25aと係合した部分とネジ40bとの間の外周に、弾性部材としての圧縮コイルバネ42と、その圧縮コイルバネ42を保持するバネ押さえ43とが設けられる。
バネ押さえ43は、袋状に圧縮コイルバネ42を外周から覆い、圧縮コイルバネ42の一方の端部と接触して圧縮コイルバネ42の姿勢を保持できる構造となっている。そして、バネ押さえ43は貫通穴43aを通して加速電極保持軸40に挿入されている。
さらに、加速電極保持軸40の他方のネジ40bに止めナット44が止められている。止めナット44はバネ押さえ43に接触し、バネ押さえ43に内包した圧縮コイルバネ42を押圧する。
【0039】
上記の構造から、圧縮コイルバネ42のばね力が加速電極20aの基準穴25aの周りを押圧して加速電極20aが電極取り付け板30に取り付けられる。
本実施形態では、圧縮コイルバネ42と加速電極20aの間にワッシャー35が設けられ圧縮コイルバネ42のばね力が基準穴25aの周りに均等にかかるように構成している。
【0040】
さらに、本実施形態では、加速電極20aと電極取り付け板30との間にスペーサー部材34が設けられている。スペーサー部材34は電極取り付け板30のネジ穴31の周りに凹部を形成したスペーサー取り付け部32に配置されている。スペーサー部材34はリング状の平板からなり、加速電極20aと電極取り付け板30との間に隙間dが0.1mmから0.3mmに形成される厚みに設定されている。なお、この隙間dはイオンビームの漏れを防止するために0.3mm以下に設定することが好ましい。
なお、スペーサー部材34は加速電極保持軸40の外周に設けたが、加速電極20aと電極取り付け板30との間であれば、他の部分に設けても実施が可能である。
【0041】
また、電極取り付け板30の外周部に加速電極20aの厚み方向に立ち上がる立ち上がり部33が形成されている。この立ち上がり部33は、加速電極20aと電極取り付け板30との間の隙間dを加速電極20aの外周方向から覆うように形成されている。
【0042】
なお、加速電極20aの厚み方向には減速電極20b、接地電極20cが設けられ、これらの電極には加速電極保持軸40、バネ押さえ43を逃げる逃げ部29b,29cが設けられる。
【0043】
次に、図7において加速電極の案内穴側の取り付け状態を説明する。
加速電極20aの案内穴26a側の取り付けは、基準穴25a側の取り付けと同様である。
図7に示すように、電極取り付け板30には加速電極案内軸41が立設されている。加速電極案内軸41は両端にネジ41a,41bが切られ、その一方のネジ41aが電極取り付け板30のネジ穴31にネジ止めされる。そして、加速電極案内軸41に加速電極20aの案内穴26aが挿入され、加速電極案内軸41が案内穴26aの長穴に沿って移動できる寸法に形成されている。
【0044】
また、加速電極案内軸41における案内穴26aと係合した部分とネジ41bとの間の外周に、弾性部材としての圧縮コイルバネ42と、その圧縮コイルバネ42を保持するバネ押さえ43とが設けられる。
バネ押さえ43は、袋状に圧縮コイルバネ42を外周から覆い、圧縮コイルバネ42の一方の端部と接触して圧縮コイルバネ42の姿勢を保持できる構造となっている。そして、バネ押さえ43は貫通穴43aを通して加速電極案内軸41に挿入されている。
さらに、加速電極案内軸41の他方のネジ41bに止めナット44が止められている。止めナット44はバネ押さえ43に接触し、バネ押さえ43に内包した圧縮コイルバネ42を押圧する。
【0045】
上記の構造から、圧縮コイルバネ42のばね力が加速電極20aの案内穴26aの周りを押圧して加速電極20aが電極取り付け板30に取り付けられる。
本実施形態では、圧縮コイルバネ42と加速電極20aの間にワッシャー35が設けられ圧縮コイルバネ42のばね力が案内穴26aの周りに均等にかかるように構成している。
【0046】
さらに、本実施形態では、加速電極20aと電極取り付け板30との間にスペーサー部材34が設けられている。スペーサー部材34は電極取り付け板30のネジ穴31の周りに凹部を形成したスペーサー取り付け部32に配置されている。スペーサー部材34はリング状の平板からなり、加速電極20aと電極取り付け板30との間に隙間dが0.1mmから0.3mmに形成される厚みに設定されている。なお、この隙間dはイオンビームの漏れを防止するために0.3mm以下に設定することが好ましい。そして、この隙間dは前述した基準穴25aの箇所の隙間dと同じ寸法に設定されている。
なお、スペーサー部材34は加速電極案内軸41の外周に設けたが、加速電極20aと電極取り付け板30との間であれば、他の部分に設けても実施が可能である。
【0047】
また、前述したが電極取り付け板30の外周部に加速電極20aの厚み方向に立ち上がる立ち上がり部33が形成されている。この立ち上がり部33は、加速電極20aと電極取り付け板30との間の隙間dを加速電極20aの外周方向から覆うように形成されている。
【0048】
なお、加速電極20aの厚み方向には減速電極20b、接地電極20cが設けられ、これらの電極には加速電極案内軸41、バネ押さえ43を逃げる逃げ部29b,29cが設けられる。
【0049】
このように、加速電極20aの電極取り付け板30への取り付けは、加速電極20aと電極取り付け板30との間に接触面積の小さなスペーサー部材34を有し、加速電極20aの厚み方向において、加速電極20aと電極取り付け板30との間に隙間dが形成されている。
加速電極20aはプラズマに晒されて高温となり、加速電極20aと電極取り付け板30との間に接触面積が小さくなるスペーサー部材34を配置することで、加速電極20aから電極取り付け板30へ伝達される熱を減少させることができる。このことから、加速電極20aがプラズマに晒されることで加速電極20aが昇温する時間を短縮させ、加速電極20aを一定の温度に維持することができる。
【0050】
また、スペーサー部材34は、リング状に形成され加速電極保持軸40および加速電極案内軸41に間挿されているため、加速電極20aと電極取り付け板30との間に、スペーサー部材34の取り付けが容易である。さらに、加速電極20aの基準穴25aおよび案内穴26aの周囲は圧縮コイルバネ42により押圧されるが、この押圧される部分の下側にはリング状のスペーサー部材34が配置されるため、この押圧による加速電極20aの変形を防ぐことができる。
【0051】
さらに、電極取り付け板30の外周部に加速電極20aの厚み方向に立ち上がる立ち上がり部33を有し、加速電極20aと電極取り付け板30との間の隙間dを、加速電極20aの外周方向から覆うように形成している。
加速電極20aと電極取り付け板30との間に隙間dが形成されているため、この隙間dからプラズマ生成室10からのイオンが漏れるおそれがあるが、立ち上がり部33を設けることでイオンが漏れるのを抑制することができる。
【0052】
[減速電極の取り付け状態]
図8は本実施形態における減速電極の基準穴側の取り付け状態を説明する部分断面斜視図である。
図8に示すように、電極取り付け板30には中心軸46が立設されている。中心軸46は両端にネジ46a,46bが切られ、その一方のネジ46aが電極取り付け板30のネジ穴31にネジ止めされる。中心軸46は金属で形成され、中心軸46の外側には中空軸状のセラミックスなどの絶縁材料で形成された減速電極保持軸45が設けられている。この減速電極保持軸45は減速電極20bと電極取り付け板30との電気的導通を防止するために絶縁材料で構成されている。このため、中心軸46と減速電極保持軸45とを絶縁材料で形成してもよいし、両者を一体にして絶縁材料で形成してもよい。
【0053】
減速電極保持軸45には軸の径寸法が大きく形成されて段付部を有し、この段付部のつばの部分が電極受け部45aを形成している。減速電極保持軸45に減速電極20bの基準穴25bが挿入され、電極受け部45aにて係止され、減速電極20bが保持される。この電極受け部45aにより、減速電極20bが保持される電極取り付け板30からの寸法が決まる。そして、減速電極保持軸45は基準穴25bとの間に隙間なく係合される。
【0054】
また、減速電極保持軸45の外周に、弾性部材としての圧縮コイルバネ42と、その圧縮コイルバネ42を保持するバネ押さえ49とが設けられている。
バネ押さえ49は、袋状に圧縮コイルバネ42を外周から覆い、圧縮コイルバネ42の一方の端部と接触して圧縮コイルバネ42の姿勢を保持できる構造となっている。そして、バネ押さえ49は貫通穴49aを通して中心軸46に挿入されている。
さらに、中心軸46の他方のネジ46bに止めナット44が止められている。止めナット44はバネ押さえ49に接触し、バネ押さえ49に内包した圧縮コイルバネ42を押圧する。
【0055】
上記の構造から、圧縮コイルバネ42のばね力が減速電極20bの基準穴25bの周りを押圧して減速電極20bが電極取り付け板30に取り付けられる。
本実施形態では、圧縮コイルバネ42と減速電極20bの間にワッシャー35が設けられ圧縮コイルバネ42のばね力が基準穴25bの周りに均等にかかるように構成している。
なお、減速電極20bの厚み方向には加速電極20a、接地電極20cが設けられ、これらの電極には、減速電極保持軸45、バネ押さえ49を逃げる逃げ部29a,29cが設けられる。
【0056】
減速電極20bの案内穴26b側の取り付け状態は、上記の基準穴側の取り付け状態と同様のため説明を省略する。
【0057】
[接地電極の取り付け状態]
図9は本実施形態における接地電極の取り付け状態を説明する部分断面斜視図である。
図9に示すように、電極取り付け板30には中心軸48が立設されている。中心軸48は両端にネジ48a,48bが切られ、その一方のネジ48aが電極取り付け板30のネジ穴31にネジ止めされる。中心軸48は金属で形成され、中心軸48の外側には中空軸状のセラミックスなどの絶縁材料で形成された接地電極保持軸47が設けられている。この接地電極保持軸47は接地電極20cと電極取り付け板30との電気的導通を防止するために絶縁材料で構成されている。このため、中心軸48と接地電極保持軸47とを絶縁材料で形成してもよいし、両者を一体にして絶縁材料で形成してもよい。
【0058】
接地電極保持軸47には軸の径寸法が大きく形成されて段付部を有し、この段付部のつばの部分が電極受け部47aを形成している。接地電極保持軸47に接地電極20cの基準穴25cが挿入され、電極受け部47aにて係止され、接地電極20cが保持される。この電極受け部47aにより、接地電極20cが保持される電極取り付け板30からの寸法が決まる。そして、接地電極保持軸47は基準穴25cとの間に隙間なく係合される。
【0059】
また、接地電極保持軸47の外周に、弾性部材としての圧縮コイルバネ42と、その圧縮コイルバネ42を保持するバネ押さえ49とが設けられている。
バネ押さえ49は、袋状に圧縮コイルバネ42を外周から覆い、圧縮コイルバネ42の一方の端部と接触して圧縮コイルバネ42の姿勢を保持できる構造となっている。そして、バネ押さえ49は貫通穴49aを通して中心軸48に挿入されている。
さらに、中心軸48の他方のネジ48bに止めナット44が止められている。止めナット44はバネ押さえ49に接触し、バネ押さえ49に内包した圧縮コイルバネ42を押圧する。
【0060】
上記の構造から、圧縮コイルバネ42のばね力が接地電極20cの基準穴25cの周りを押圧して接地電極20cが電極取り付け板30に取り付けられる。
本実施形態では、圧縮コイルバネ42と接地電極20cの間にワッシャー35が設けられ圧縮コイルバネ42のばね力が基準穴25cの周りに均等にかかるように構成している。
なお、接地電極20cの厚み方向には加速電極20a、減速電極20bが設けられ、これらの電極には、接地電極保持軸47、バネ押さえ49を逃げる逃げ部29a,29bが設けられる。
【0061】
接地電極20cの案内穴26c側の取り付け状態は、上記の基準穴25c側の取り付け状態と同様のため説明を省略する。
【0062】
以上、本実施形態のイオンミリング装置1は、イオンビームを引き出す引き出し電極20として加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cを備えている。
加速電極20aは基準穴25aと案内穴26aを有し、案内穴26aは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線上に設けられ、直線に沿って長穴形状に形成されている。基準穴25aおよび案内穴26aには、電極取り付け板30に立設した加速電極保持軸40と加速電極案内軸41が係合し、加速電極20aが保持される。そして、加速電極20aは、加速電極20aの厚み方向に圧縮コイルバネ42により押圧されて電極取り付け板30に取り付けられる。
この構造では、加速電極20aは基準穴25aで固定され、案内穴26aで熱膨張などの変形(伸びおよび縮み)が生じた場合の逃げる方向が規制されている。そして、加速電極20aの厚み方向に押圧されているため、案内穴26aでは、基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線方向(面方向)に変形が可能である。
例えば、加速電極20aがプラズマに晒されて温度が上昇した場合、加速電極20aは基準穴25aを中心に面方向の膨張が生ずる。案内穴26aでは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線方向に長穴が形成され、膨張も長穴の方向に伸びるため、膨張による歪が生ずることがない。また、温度が低下して加速電極20aが収縮した場合も上記と逆の変形をする。
このようにして、1点を固定して、1点を変形方向の規制する案内としても、加速電極20aの面方向に変形し、加速電極20aに歪が生ずることなく、加速電極20aの厚み方向への変形を防止することができる。
このことは、減速電極20b、接地電極20cについても同様であり、温度の変動によって各電極に歪が生ずることがなく、電極の厚み方向への変形を防止することができる。
このことから、各電極のイオンビームの引き出し穴28a,28b,28cの位置ずれ、および電極板間の距離がばらつくことがなくなりイオンビームの均一性および安定性が向上し、加工精度の高いイオンミリング装置1を提供できる。
(第2の実施形態)
【0063】
次にイオンミリング装置の他の実施形態について説明する。
図10は第2実施形態のイオンミリング装置の構成を示す模式図である。
本実施形態はプラズマの生成手段のみが異なる。このため、第1実施形態と同様な構成については同符号を付し詳細な説明を省略する。
【0064】
イオンミリング装置2は、プラズマを生成するプラズマ生成室としてのアークチャンバー60と、アークチャンバー60からイオンビームを引き出す引き出し電極20と、引き出されたイオンビームが導入される処理室50と、を備えている。
アークチャンバー60は、処理室50と連通している。アークチャンバー60の内部には、イオン源としてフィラメント61が設けられている。フィラメント61は、例えばタングステンなどからなり、アークチャンバー60内に熱電子を放出する。
そして、アークチャンバー60の外周に多極の永久磁石62a,62bが配置されている。この永久磁石62a,62bは、磁力線によりプラズマをアークチャンバー60に閉じ込めるとともに、放電領域に磁界をかけてイオンの飛程距離を長くしてイオン化率を増大させる機能を有する。
【0065】
フィラメント61はフィラメント電源66aに接続され、このフィラメント電源66aから所定の電圧が印加される。またアークチャンバー60にはアーク電源66bの正極側が接続され、負極側はフィラメント電源66aの正極側に接続されて、アーク電圧が印加される。
また、アークチャンバー60は、外部よりArなどの放電ガスが供給できる構成となっている。
このことから、フィラメント61のマイナス端子とアークチャンバー60のアノードとなる内壁との間の放電によって、供給されたArなどの放電ガスがイオン化されるように構成されている。
このように、本実施形態のプラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源である。
【0066】
アークチャンバー60の処理室50との間には引き出し電極20が配置されている。
引き出し電極20は、加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cの3枚の電極から構成されている。プラズマの生成源に近い方から加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cの順に配置されている。各電極は円板状に形成され、モリブデンなどの高融点材料が用いられている。そして、各電極の円板内にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28a,28b,28cが設けられている。
この引き出し電極20は、第1実施形態と同様に電極取り付け板30に取り付けられ、同じ構造を有している。
【0067】
加速電極20aには加速電源65aの正極が接続されて正電圧が印加される。また、加速電源65aの正極側は抵抗67を介してアーク電源66bの正極側に接続されており、負極側は接地されている。
減速電極20bには減速電源65bの負極が接続されて負電圧が印加され、減速電源65bの正極側は接地されている。
接地電極20cは接地、または接地に対して−100V未満の電圧が印加されている。
これらの加速電極20aおよび減速電極20bに印加する電圧を調整することによって、引き出し電極20から照射されるイオンビームのエネルギーを調整することができる。
【0068】
上記のフィラメント電源66a、アーク電源66b、加速電源65a、減速電源65bは、駆動電源64を構成している。
【0069】
このように、プラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
そして、本実施形態のイオンビーム源のプラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源であるため、容易にプラズマを生成させることができ、また装置の構成を簡略化でき、低コストのイオンミリング装置2を提供することができる。
【0070】
なお、第1、第2実施形態ではイオンミリング加工を行う実施形態を説明したが、このイオンミリング装置1,2を用いて基板表面の親水処理や撥水処理などの表面処理を行うことも可能である。
このように、第1、第2実施形態で説明したイオンミリング装置1,2は、具体的には基板をミリングして基板を平坦化する装置、表面処理装置、圧電素子の周波数調整装置などとして利用することができる。
【0071】
本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更することができる。そして、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有するものにより可能である。
【符号の説明】
【0072】
1,2…イオンミリング装置、10…プラズマ生成室、11…高周波プラズマ室、12…石英円筒管、13…高周波コイル、14…プラズマ拡張室、15a,15b…永久磁石、16…高周波電源、17…ガス導入口、20…引き出し電極、20a…加速電極、20b…減速電極、20c…接地電極、21…加速電源、22…減速電源、25a,25b,25c…基準穴、26a,26b,26c…案内穴、27a,27b,27c…合わせ穴、28a,28b,28c…引き出し穴、29a,29b,29c…逃げ部、30…電極取り付け板、31…ネジ穴、32…スペーサー取り付け部、33…立ち上がり部、34…スペーサー部材、35…ワッシャー、36…合わせ軸、40…加速電極保持軸、40a,40b…ネジ、41…加速電極案内軸、41a,41b…ネジ、42…弾性部材としての圧縮コイルバネ、43…バネ押さえ、43a…貫通穴、44…止めナット、45…減速電極保持軸、45a…電極受け部、46…中心軸、46a,46b…ネジ、47…接地電極保持軸、47a…電極受け部、48…中心軸、48a,48b…ネジ、49…バネ押さえ、49a…貫通穴、50…処理室、51…マイクロ波プラズマニュートライザー、52…シャッター、52a…シャッター駆動装置、53…基板ホルダー、60…プラズマ生成室としてのアークチャンバー、61…フィラメント、62a,62b…永久磁石、64…駆動電源、65a…加速電源、65b…減速電源、66a…フィラメント電源、66b…アーク電源、67…抵抗、d…隙間。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物にイオンビームを照射して被加工物をミリング加工するイオンミリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ生成室でプラズマを生成させ、プラズマ生成室からイオンビームを引き出す引き出し電極を有する構造のイオンミリング装置が知られている。
プラズマの生成には高周波やフィラメントによる熱電子が利用され、プラズマに晒される引き出し電極には熱がかかり、引き出し電極が熱膨張する。このため、引き出し電極の変形や引き出し電極の保持部材の変形が生ずる。
このため、特許文献1では、電極板(引き出し電極)の周辺部にスリットを設け、このスリットに嵌合する突起を有する電極支持ブロック上で、この電極板を載置する電極板取り付け構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−329249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構造において、電極板(引き出し電極)は電極支持ブロック上に載置されているだけであり、例えば引き出し電極を縦置きにした場合には押さえが必要となり、電極板の取り付け姿勢に制限がある。また、各電極板は精度よく位置決めされていないため、イオンビームが引き出される引き出し穴の位置ずれが生ずることがある。このため、イオンビーム密度にばらつきが生じている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかるイオンミリング装置は、プラズマを生成するプラズマ生成手段を有するプラズマ生成室と、前記プラズマ生成室に連通する処理室と、前記プラズマ生成室と前記処理室の間に設けられ、前記プラズマ生成室から前記処理室へイオンビームを引き出す引き出し電極と、前記引き出し電極が取り付けられる電極取り付け板と、を備えたイオンミリング装置であって、前記引き出し電極に設けられ、前記引き出し電極の取り付け位置を位置決めする基準穴と、前記引き出し電極に設けられ、前記引き出し電極の取り付け位置を案内する案内穴と、前記電極取り付け板に立設され、前記基準穴と係合する電極保持軸と、前記電極取り付け板に立設され、前記案内穴と係合する電極案内軸と、前記基準穴および前記案内穴の周りを前記引き出し電極の厚み方向に押圧する弾性部材と、を有し、前記案内穴は前記基準穴の中心と前記引き出し電極の中心を結ぶ直線上に設けられ、前記直線に沿って長穴形状に形成されていることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、イオンビームを引き出す引き出し電極に基準穴と案内穴を有し、案内穴は基準穴の中心と引き出し電極の中心を結ぶ直線上に設けられ、直線に沿って長穴形状に形成されている。基準穴および案内穴には、電極取り付け板に立設した電極保持軸と電極案内軸が係合し、引き出し電極が保持される。そして、引き出し電極は引き出し電極の厚み方向に弾性部材により押圧されて電極取り付け板に引き出し電極が取り付けられる。
この構造では、引き出し電極は基準穴で固定され、案内穴で熱膨張などの変形(伸びおよび縮み)が生じた場合の逃げる方向が規制されている。そして、引き出し電極は厚み方向に押圧されているため、案内穴では、基準穴の中心と引き出し電極の中心を結ぶ直線方向(面方向)に変形が可能である。
例えば、引き出し電極がプラズマに晒されて温度が上昇した場合、引き出し電極は基準穴を中心に面方向の膨張が生ずる。案内穴では基準穴の中心と引き出し電極の中心を結ぶ直線方向に長穴が形成され、膨張も長穴の方向に伸びるため、膨張による歪が生ずることがない。また、温度が低下して引き出し電極が収縮した場合も上記と逆の変形をする。
このようにして、1点を固定して、1点を変形方向の規制する案内としても、引き出し電極の面方向に変形し、引き出し電極に歪が生ずることなく、引き出し電極の厚み方向への変形を防止することができる。
このことから、イオンビームの引き出し穴の位置ずれ、および電極板間の距離がばらつくことがなくなりイオンビームの均一性および安定性が向上し、加工精度の高いイオンミリング装置を提供できる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記引き出し電極は、前記プラズマ生成室に近い順に加速電極、減速電極を有し、前記加速電極と前記減速電極とが一定の間隔を保って配置され、前記加速電極と前記電極取り付け板との間に、前記加速電極と前記電極取り付け板の厚み方向の平面視において重なる面積よりも小さな面積で接触するスペーサー部材を有し、前記加速電極の厚み方向において、前記加速電極と前記電極取り付け板との間に隙間が形成されていることが望ましい。
【0009】
この構成によれば、加速電極と電極取り付け板との間に接触面積の小さなスペーサー部材を有し、加速電極の厚み方向において、加速電極と電極取り付け板との間に隙間が形成されている。
加速電極はプラズマに晒されて高温となるため、本適用例では、加速電極と電極取り付け板との間に接触面積が小さくなるスペーサー部材を配置することで、加速電極から電極取り付け板へ伝達される熱を減少させている。このことから、加速電極がプラズマに晒されることで加速電極が昇温する時間を短縮させ、また加速電極を一定の温度に維持することができる。
これらのことから、加速電極の温度変化による変動(膨張および収縮)を抑制でき、また、加速電極と減速電極とのイオンビームが通過する引き出し穴の位置ずれおよび、電極間の距離のばらつきを少なくでき、安定したイオンビームを引き出すことができる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記スペーサー部材は、リング状に形成され前記電極保持軸および前記電極案内軸に間挿されて配置されていることが望ましい。
【0011】
この構成によれば、スペーサー部材は、リング状に形成され電極保持軸および電極案内軸に間挿されている。
このため、加速電極と電極取り付け板との間に、スペーサー部材の取り付けが容易である。また、引き出し電極の基準穴および案内穴の周囲は弾性部材により押圧されるが、この押圧される部分の下側にはリング状のスペーサー部材が配置されるため、この押圧による引き出し電極の変形を防ぐことができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記電極取り付け板の外周部に前記加速電極の厚み方向に立ち上がる立ち上がり部を有し、前記立ち上がり部は前記加速電極と前記電極取り付け板との間の前記隙間を、前記加速電極の外周方向から覆うように形成されていることが望ましい。
【0013】
この構成によれば、電極取り付け板の外周部に加速電極の厚み方向に立ち上がる立ち上がり部を有し、加速電極と電極取り付け板との間の隙間を、加速電極の外周方向から覆うように形成している。
加速電極と電極取り付け板との間に隙間が形成されているため、この隙間からプラズマ生成室からのイオンが漏れるおそれがあるが、立ち上がり部を設けることでイオンの漏れを抑制することができる。
【0014】
[適用例5]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記プラズマ生成手段は高周波放電を利用した高周波イオン源を有することが望ましい。
【0015】
この構成によれば、プラズマ生成手段が高周波放電を利用した高周波イオン源である。
このため、大きな直径のプラズマを得ることができ、口径の大きいイオンガンを利用することができる。また、安定したプラズマを生成させることができ、加工精度の高いイオンミリング装置を提供できる。
【0016】
[適用例6]上記適用例にかかるイオンミリング装置において、前記プラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源を有することが望ましい。
【0017】
この構成によれば、プラズマ生成手段がフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源である。
このため、容易にプラズマを生成させることができ、また装置の構成を簡略化でき、低コストのイオンミリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態のイオンミリング装置の構成を示す模式図。
【図2】第1実施形態における永久磁石の配置状態を示す断面図。
【図3】第1実施形態における加速電極の構成を示す平面図。
【図4】第1実施形態における減速電極の構成を示す平面図。
【図5】第1実施形態における接地電極の構成を示す平面図。
【図6】第1実施形態における加速電極の基準穴側の取り付け状態を説明する断面図。
【図7】第1実施形態における加速電極の案内穴側の取り付け状態を説明する断面図。
【図8】第1実施形態における減速電極の取り付け状態を説明する部分断面斜視図。
【図9】第1実施形態における接地電極の取り付け状態を説明する部分断面斜視図。
【図10】第2実施形態におけるイオンミリング装置の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の寸法の割合を適宜変更している。
(第1の実施形態)
【0020】
<イオンミリング装置の構成>
図1は本実施形態のイオンミリング装置の構成を示す模式図である。図2は図1のA−A断線に沿う断面図であり、永久磁石の配置状態を示す。
イオンミリング装置1は、プラズマを生成するプラズマ生成手段を有するプラズマ生成室10と、プラズマ生成室10からイオンビームを引き出す引き出し電極20と、引き出されたイオンビームが導入される処理室50と、を備えている。
プラズマ生成室10は、高周波プラズマ室11と、これに連結するプラズマ拡張室14とから構成されている。
高周波プラズマ室11は石英円筒管12に高周波コイル13が巻かれて形成され、ガス導入口17から外部よりArなどの放電ガスが供給できる構成となっている。
高周波コイル13には高周波電源16が接続され、高周波コイル13に高周波電力が供給される。
【0021】
そして、高周波プラズマ室11に連結されたプラズマ拡張室14は、高周波プラズマ室11よりも大きな径を持って形成され、外周に多極の永久磁石15a,15bが配置されている。
永久磁石15aは、図2に示すように、プラズマ拡張室14の外周に配置され、隣り合う永久磁石は反対の極となるように配置されている。永久磁石15bも同様に、隣り合う永久磁石は反対の極となるように配置されている(図示せず)。
この永久磁石15a,15bは、磁力線によりプラズマをプラズマ拡張室14に閉じ込めるとともに、放電領域に磁界をかけてイオンの飛程距離を長くしてイオン化率を増大させる機能を有する。
このように、本実施形態におけるイオンミリング装置1のプラズマ生成手段は高周波放電を利用した高周波イオン源が用いられている。
【0022】
プラズマ拡張室14の処理室50との間には引き出し電極20が配置されている。
引き出し電極20は、加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cの3枚の電極から構成され、電極取り付け板30に取り付けられている。これらの引き出し電極20は、プラズマの生成源に近い方から加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cの順に配置されている。各電極は円板状に形成され、モリブデンなどの高融点材料が用いられている。そして、各電極の円板内にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28a,28b,28cがそれぞれ設けられている。
【0023】
加速電極20aには加速電源21が接続され、減速電極20bには減速電源22が接続されている。加速電源21からは500Vから2000Vの間の電圧が加速電極20aに印加され、減速電源22からは−100Vから−500Vの間の電圧が減速電極20bに印加される。また、接地電極20cは接地、または接地に対して−100V未満の電圧が印加されている。
これらの加速電極20aおよび減速電極20bに印加する電圧を調整することによって、引き出し電極20から引き出されるイオンビームのエネルギーを調整することができる。
なお、引き出し電極20として、接地電極20cを設けなくても、イオンビームの引き出しは可能である。
【0024】
そして、処理室50にはマイクロ波プラズマニュートライザー51が配置されている。
マイクロ波プラズマニュートライザー51は、引き出し電極20の下流にマイクロ波放電によるプラズマを生成する。この、マイクロ波放電によるプラズマは、基板などの被加工物の表面にイオンビームが照射されて帯電するのを防止するための電子供給源として用いられる。
【0025】
処理室50には、排気装置(図示せず)が接続され、処理室50およびそれに連結されるプラズマ拡張室14、高周波プラズマ室11を減圧状態に保つことが可能である。
そして、処理室50には基板などの被加工物を保持する基板ホルダー53が設置されている。基板ホルダー53は円板状に形成され、基板ホルダー53の中心部に軸が設けられて軸を中心に回転可能に形成されている。また、基板ホルダー53は、被加工物の材質により所望の加工速度(ミリングレート)に合わせて、イオンビームに対して傾いて配置されている。
【0026】
さらに、引き出し電極20と基板ホルダー53との間に、シャッター52を設けても良い。
シャッター52はシャッター駆動装置52aにより開閉し、基板ホルダー53に保持された被加工物に対してイオンビームを照射するときにはシャッター52を開き、イオンビームを照射しないときにはシャッター52を閉じてイオンビームの照射を制御することができる。
なお、処理室50はイオンビームの導入の安定性を確保するために電気的に接地された状態となっている。
【0027】
<イオンミリング装置の動作>
次に、上記のイオンミリング装置1の動作について説明する。
排気装置により、処理室50、プラズマ生成室10、が排気され、その後、一定流量の放電ガスが各イオンガンの高周波プラズマ室11に供給される。そして、高周波コイル13に高周波電力を印加すると、放電ガスが放電しプラズマが高周波プラズマ室11に生成する。生成されたプラズマはプラズマ拡張室14に拡張する。プラズマ拡張室14からイオンが引き出し電極20を用いてイオンビームとして処理室50に引き出される。
処理室50に導入されたイオンビームは、シャッター52を開いて回転する基板ホルダー53に保持された被加工物に照射してイオンミリング加工が行われる。
このとき、引き出し電極20はプラズマの熱で高温となる。特に、直接プラズマに晒される加速電極20aは、200℃〜500℃の温度に達することがある。
【0028】
<引き出し電極の構成>
次に、本実施形態における引き出し電極の構成について説明する。
図3は加速電極の構成を示す平面図である。図4は減速電極の構成を示す平面図である。図5は接地電極の構成を示す平面図である。
【0029】
図3に示すように、加速電極20aは円板状に形成され、中央部にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28aが形成されている。
そして、加速電極20aの外周部に基準穴25a、案内穴26a、合わせ穴27aが設けられている。
基準穴25aは1つ設けられ、後述する基準穴25aと係合する加速電極保持軸40が隙間なく挿入される寸法に形成されている。
【0030】
案内穴26aは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線上に1つ設けられている。そして、案内穴26aは基準穴と加速電極20aの中心を挟んで反対側の外周部に形成されている。さらに、案内穴26aは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線に沿って長い、長穴形状に形成されている。
また、案内穴26aは、後述する案内穴26aと係合する加速電極案内軸41が挿入されて長穴に沿って移動できる寸法に形成されている。
そして、加速電極20aの外周部には合わせ軸36と係合する複数の合わせ穴27aが設けられている。この合わせ穴27aは引き出し電極20の組み立ての際に各電極を容易に合わせられるように形成され、合わせ軸36の径よりも大きな寸法で形成されている。
【0031】
図4に示すように、減速電極20bは加速電極20aと同じ大きさの円板状に形成され、中央部にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28bが形成されている。この引き出し穴28bの形成位置は加速電極20aの引き出し穴28aと重なるように同じ位置に形成される。
そして、減速電極20bの外周部に基準穴25b、案内穴26b、合わせ穴27bが設けられている。なお、合わせ穴27bは加速電極20aの合わせ穴27aと同じ位置に形成されている。
基準穴25bは1つ設けられ、加速電極20aの複数の合わせ穴27aと減速電極20bの合わせ穴27bとを合わせたときに、加速電極20aの基準穴25aと重ならない場所で、かつ近傍に設置することで各電極板の熱による面膨張方向の穴ずれを抑える。そして、基準穴25bは、後述する基準穴25bと係合する減速電極保持軸45が隙間なく挿入される寸法に形成されている。
【0032】
案内穴26bは基準穴25bの中心と減速電極20bの中心を結ぶ直線上に1つ設けられている。そして、案内穴26bは基準穴25bと減速電極20bの中心を挟んで反対側の外周部に形成されている。さらに、案内穴26bは基準穴25bの中心と減速電極20bの中心を結ぶ直線に沿って長い、長穴形状に形成されている。
また、案内穴26bは、案内穴26bと係合する減速電極案内軸45Gが挿入されて長穴に沿って移動できる寸法に形成されている。
そして、減速電極20bの外周部には合わせ軸36と係合する複数の合わせ穴27bが設けられている。この合わせ穴27bは引き出し電極20の組み立ての際に各電極を容易に合わせられるように形成され、合わせ軸36の径よりも大きな寸法で形成されている。
【0033】
図5に示すように、接地電極20cは加速電極20aと同じ大きさの円板状に形成され、中央部にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28cが形成されている。この引き出し穴28cの形成位置は加速電極20aの引き出し穴28aと重なるように同じ位置に形成される。
そして、接地電極20cの外周部に基準穴25c、案内穴26c、合わせ穴27cが設けられている。なお、合わせ穴27cは加速電極20aの合わせ穴27aと同じ位置に形成されている。
基準穴25cは1つ設けられ、加速電極20aの複数の合わせ穴27aと減速電極20bの合わせ穴27bと、接地電極20cの合わせ穴27cとを合わせたときに、それぞれの基準穴と重ならない場所に形成されている。そして、基準穴25cは、後述する基準穴25cと係合する接地電極保持軸47が隙間なく挿入される寸法に形成されている。
【0034】
案内穴26cは基準穴25cの中心と接地電極20cの中心を結ぶ直線上に1つ設けられている。そして、案内穴26cは基準穴25cと接地電極20cの中心を挟んで反対側の外周部に形成されている。さらに、案内穴26cは基準穴25cの中心と接地電極20cの中心を結ぶ直線に沿って長い、長穴形状に形成されている。
また、案内穴26cは、案内穴26cと係合する接地電極案内軸47Gが挿入されて長穴に沿って移動できる寸法に形成されている。
そして、接地電極20cの外周部には合わせ軸36と係合する複数の合わせ穴27cが設けられている。この合わせ穴27cは引き出し電極20の組み立ての際に各電極を容易に合わせられるように形成され、合わせ軸36の径よりも大きな寸法で形成されている。
【0035】
なお、図3、図4、図5では、各電極を保持する電極保持軸や電極案内軸との重なりを、孔や切り欠きで避ける逃げ部は省略して図示していない。
また、本実施形態では引き出し電極を円板状としたが、矩形状の電極であっても良い。そのときは、対角を結ぶ線の交点を電極の中心とする。
【0036】
<引き出し電極の取り付け状態>
次に、上記で説明した引き出し電極の取り付け状態について詳細に説明する。
図6は本実施形態における加速電極の基準穴側の取り付け状態を説明する断面図である。図7は本実施形態における加速電極の案内穴側の取り付け状態を説明する断面図である。
【0037】
[加速電極の取り付け状態]
引き出し電極20は電極取り付け板30に取り付けられる。
まず、図6において加速電極の基準穴側の取り付け状態を説明する。
図6に示すように、電極取り付け板30には加速電極保持軸40が立設されている。加速電極保持軸40は両端にネジ40a,40bが切られ、その一方のネジ40aが電極取り付け板30のネジ穴31にネジ止めされる。そして、加速電極保持軸40に加速電極20aの基準穴25aが挿入され、加速電極保持軸40と基準穴25aとの間には隙間がなく係合される。
【0038】
また、加速電極保持軸40における基準穴25aと係合した部分とネジ40bとの間の外周に、弾性部材としての圧縮コイルバネ42と、その圧縮コイルバネ42を保持するバネ押さえ43とが設けられる。
バネ押さえ43は、袋状に圧縮コイルバネ42を外周から覆い、圧縮コイルバネ42の一方の端部と接触して圧縮コイルバネ42の姿勢を保持できる構造となっている。そして、バネ押さえ43は貫通穴43aを通して加速電極保持軸40に挿入されている。
さらに、加速電極保持軸40の他方のネジ40bに止めナット44が止められている。止めナット44はバネ押さえ43に接触し、バネ押さえ43に内包した圧縮コイルバネ42を押圧する。
【0039】
上記の構造から、圧縮コイルバネ42のばね力が加速電極20aの基準穴25aの周りを押圧して加速電極20aが電極取り付け板30に取り付けられる。
本実施形態では、圧縮コイルバネ42と加速電極20aの間にワッシャー35が設けられ圧縮コイルバネ42のばね力が基準穴25aの周りに均等にかかるように構成している。
【0040】
さらに、本実施形態では、加速電極20aと電極取り付け板30との間にスペーサー部材34が設けられている。スペーサー部材34は電極取り付け板30のネジ穴31の周りに凹部を形成したスペーサー取り付け部32に配置されている。スペーサー部材34はリング状の平板からなり、加速電極20aと電極取り付け板30との間に隙間dが0.1mmから0.3mmに形成される厚みに設定されている。なお、この隙間dはイオンビームの漏れを防止するために0.3mm以下に設定することが好ましい。
なお、スペーサー部材34は加速電極保持軸40の外周に設けたが、加速電極20aと電極取り付け板30との間であれば、他の部分に設けても実施が可能である。
【0041】
また、電極取り付け板30の外周部に加速電極20aの厚み方向に立ち上がる立ち上がり部33が形成されている。この立ち上がり部33は、加速電極20aと電極取り付け板30との間の隙間dを加速電極20aの外周方向から覆うように形成されている。
【0042】
なお、加速電極20aの厚み方向には減速電極20b、接地電極20cが設けられ、これらの電極には加速電極保持軸40、バネ押さえ43を逃げる逃げ部29b,29cが設けられる。
【0043】
次に、図7において加速電極の案内穴側の取り付け状態を説明する。
加速電極20aの案内穴26a側の取り付けは、基準穴25a側の取り付けと同様である。
図7に示すように、電極取り付け板30には加速電極案内軸41が立設されている。加速電極案内軸41は両端にネジ41a,41bが切られ、その一方のネジ41aが電極取り付け板30のネジ穴31にネジ止めされる。そして、加速電極案内軸41に加速電極20aの案内穴26aが挿入され、加速電極案内軸41が案内穴26aの長穴に沿って移動できる寸法に形成されている。
【0044】
また、加速電極案内軸41における案内穴26aと係合した部分とネジ41bとの間の外周に、弾性部材としての圧縮コイルバネ42と、その圧縮コイルバネ42を保持するバネ押さえ43とが設けられる。
バネ押さえ43は、袋状に圧縮コイルバネ42を外周から覆い、圧縮コイルバネ42の一方の端部と接触して圧縮コイルバネ42の姿勢を保持できる構造となっている。そして、バネ押さえ43は貫通穴43aを通して加速電極案内軸41に挿入されている。
さらに、加速電極案内軸41の他方のネジ41bに止めナット44が止められている。止めナット44はバネ押さえ43に接触し、バネ押さえ43に内包した圧縮コイルバネ42を押圧する。
【0045】
上記の構造から、圧縮コイルバネ42のばね力が加速電極20aの案内穴26aの周りを押圧して加速電極20aが電極取り付け板30に取り付けられる。
本実施形態では、圧縮コイルバネ42と加速電極20aの間にワッシャー35が設けられ圧縮コイルバネ42のばね力が案内穴26aの周りに均等にかかるように構成している。
【0046】
さらに、本実施形態では、加速電極20aと電極取り付け板30との間にスペーサー部材34が設けられている。スペーサー部材34は電極取り付け板30のネジ穴31の周りに凹部を形成したスペーサー取り付け部32に配置されている。スペーサー部材34はリング状の平板からなり、加速電極20aと電極取り付け板30との間に隙間dが0.1mmから0.3mmに形成される厚みに設定されている。なお、この隙間dはイオンビームの漏れを防止するために0.3mm以下に設定することが好ましい。そして、この隙間dは前述した基準穴25aの箇所の隙間dと同じ寸法に設定されている。
なお、スペーサー部材34は加速電極案内軸41の外周に設けたが、加速電極20aと電極取り付け板30との間であれば、他の部分に設けても実施が可能である。
【0047】
また、前述したが電極取り付け板30の外周部に加速電極20aの厚み方向に立ち上がる立ち上がり部33が形成されている。この立ち上がり部33は、加速電極20aと電極取り付け板30との間の隙間dを加速電極20aの外周方向から覆うように形成されている。
【0048】
なお、加速電極20aの厚み方向には減速電極20b、接地電極20cが設けられ、これらの電極には加速電極案内軸41、バネ押さえ43を逃げる逃げ部29b,29cが設けられる。
【0049】
このように、加速電極20aの電極取り付け板30への取り付けは、加速電極20aと電極取り付け板30との間に接触面積の小さなスペーサー部材34を有し、加速電極20aの厚み方向において、加速電極20aと電極取り付け板30との間に隙間dが形成されている。
加速電極20aはプラズマに晒されて高温となり、加速電極20aと電極取り付け板30との間に接触面積が小さくなるスペーサー部材34を配置することで、加速電極20aから電極取り付け板30へ伝達される熱を減少させることができる。このことから、加速電極20aがプラズマに晒されることで加速電極20aが昇温する時間を短縮させ、加速電極20aを一定の温度に維持することができる。
【0050】
また、スペーサー部材34は、リング状に形成され加速電極保持軸40および加速電極案内軸41に間挿されているため、加速電極20aと電極取り付け板30との間に、スペーサー部材34の取り付けが容易である。さらに、加速電極20aの基準穴25aおよび案内穴26aの周囲は圧縮コイルバネ42により押圧されるが、この押圧される部分の下側にはリング状のスペーサー部材34が配置されるため、この押圧による加速電極20aの変形を防ぐことができる。
【0051】
さらに、電極取り付け板30の外周部に加速電極20aの厚み方向に立ち上がる立ち上がり部33を有し、加速電極20aと電極取り付け板30との間の隙間dを、加速電極20aの外周方向から覆うように形成している。
加速電極20aと電極取り付け板30との間に隙間dが形成されているため、この隙間dからプラズマ生成室10からのイオンが漏れるおそれがあるが、立ち上がり部33を設けることでイオンが漏れるのを抑制することができる。
【0052】
[減速電極の取り付け状態]
図8は本実施形態における減速電極の基準穴側の取り付け状態を説明する部分断面斜視図である。
図8に示すように、電極取り付け板30には中心軸46が立設されている。中心軸46は両端にネジ46a,46bが切られ、その一方のネジ46aが電極取り付け板30のネジ穴31にネジ止めされる。中心軸46は金属で形成され、中心軸46の外側には中空軸状のセラミックスなどの絶縁材料で形成された減速電極保持軸45が設けられている。この減速電極保持軸45は減速電極20bと電極取り付け板30との電気的導通を防止するために絶縁材料で構成されている。このため、中心軸46と減速電極保持軸45とを絶縁材料で形成してもよいし、両者を一体にして絶縁材料で形成してもよい。
【0053】
減速電極保持軸45には軸の径寸法が大きく形成されて段付部を有し、この段付部のつばの部分が電極受け部45aを形成している。減速電極保持軸45に減速電極20bの基準穴25bが挿入され、電極受け部45aにて係止され、減速電極20bが保持される。この電極受け部45aにより、減速電極20bが保持される電極取り付け板30からの寸法が決まる。そして、減速電極保持軸45は基準穴25bとの間に隙間なく係合される。
【0054】
また、減速電極保持軸45の外周に、弾性部材としての圧縮コイルバネ42と、その圧縮コイルバネ42を保持するバネ押さえ49とが設けられている。
バネ押さえ49は、袋状に圧縮コイルバネ42を外周から覆い、圧縮コイルバネ42の一方の端部と接触して圧縮コイルバネ42の姿勢を保持できる構造となっている。そして、バネ押さえ49は貫通穴49aを通して中心軸46に挿入されている。
さらに、中心軸46の他方のネジ46bに止めナット44が止められている。止めナット44はバネ押さえ49に接触し、バネ押さえ49に内包した圧縮コイルバネ42を押圧する。
【0055】
上記の構造から、圧縮コイルバネ42のばね力が減速電極20bの基準穴25bの周りを押圧して減速電極20bが電極取り付け板30に取り付けられる。
本実施形態では、圧縮コイルバネ42と減速電極20bの間にワッシャー35が設けられ圧縮コイルバネ42のばね力が基準穴25bの周りに均等にかかるように構成している。
なお、減速電極20bの厚み方向には加速電極20a、接地電極20cが設けられ、これらの電極には、減速電極保持軸45、バネ押さえ49を逃げる逃げ部29a,29cが設けられる。
【0056】
減速電極20bの案内穴26b側の取り付け状態は、上記の基準穴側の取り付け状態と同様のため説明を省略する。
【0057】
[接地電極の取り付け状態]
図9は本実施形態における接地電極の取り付け状態を説明する部分断面斜視図である。
図9に示すように、電極取り付け板30には中心軸48が立設されている。中心軸48は両端にネジ48a,48bが切られ、その一方のネジ48aが電極取り付け板30のネジ穴31にネジ止めされる。中心軸48は金属で形成され、中心軸48の外側には中空軸状のセラミックスなどの絶縁材料で形成された接地電極保持軸47が設けられている。この接地電極保持軸47は接地電極20cと電極取り付け板30との電気的導通を防止するために絶縁材料で構成されている。このため、中心軸48と接地電極保持軸47とを絶縁材料で形成してもよいし、両者を一体にして絶縁材料で形成してもよい。
【0058】
接地電極保持軸47には軸の径寸法が大きく形成されて段付部を有し、この段付部のつばの部分が電極受け部47aを形成している。接地電極保持軸47に接地電極20cの基準穴25cが挿入され、電極受け部47aにて係止され、接地電極20cが保持される。この電極受け部47aにより、接地電極20cが保持される電極取り付け板30からの寸法が決まる。そして、接地電極保持軸47は基準穴25cとの間に隙間なく係合される。
【0059】
また、接地電極保持軸47の外周に、弾性部材としての圧縮コイルバネ42と、その圧縮コイルバネ42を保持するバネ押さえ49とが設けられている。
バネ押さえ49は、袋状に圧縮コイルバネ42を外周から覆い、圧縮コイルバネ42の一方の端部と接触して圧縮コイルバネ42の姿勢を保持できる構造となっている。そして、バネ押さえ49は貫通穴49aを通して中心軸48に挿入されている。
さらに、中心軸48の他方のネジ48bに止めナット44が止められている。止めナット44はバネ押さえ49に接触し、バネ押さえ49に内包した圧縮コイルバネ42を押圧する。
【0060】
上記の構造から、圧縮コイルバネ42のばね力が接地電極20cの基準穴25cの周りを押圧して接地電極20cが電極取り付け板30に取り付けられる。
本実施形態では、圧縮コイルバネ42と接地電極20cの間にワッシャー35が設けられ圧縮コイルバネ42のばね力が基準穴25cの周りに均等にかかるように構成している。
なお、接地電極20cの厚み方向には加速電極20a、減速電極20bが設けられ、これらの電極には、接地電極保持軸47、バネ押さえ49を逃げる逃げ部29a,29bが設けられる。
【0061】
接地電極20cの案内穴26c側の取り付け状態は、上記の基準穴25c側の取り付け状態と同様のため説明を省略する。
【0062】
以上、本実施形態のイオンミリング装置1は、イオンビームを引き出す引き出し電極20として加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cを備えている。
加速電極20aは基準穴25aと案内穴26aを有し、案内穴26aは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線上に設けられ、直線に沿って長穴形状に形成されている。基準穴25aおよび案内穴26aには、電極取り付け板30に立設した加速電極保持軸40と加速電極案内軸41が係合し、加速電極20aが保持される。そして、加速電極20aは、加速電極20aの厚み方向に圧縮コイルバネ42により押圧されて電極取り付け板30に取り付けられる。
この構造では、加速電極20aは基準穴25aで固定され、案内穴26aで熱膨張などの変形(伸びおよび縮み)が生じた場合の逃げる方向が規制されている。そして、加速電極20aの厚み方向に押圧されているため、案内穴26aでは、基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線方向(面方向)に変形が可能である。
例えば、加速電極20aがプラズマに晒されて温度が上昇した場合、加速電極20aは基準穴25aを中心に面方向の膨張が生ずる。案内穴26aでは基準穴25aの中心と加速電極20aの中心を結ぶ直線方向に長穴が形成され、膨張も長穴の方向に伸びるため、膨張による歪が生ずることがない。また、温度が低下して加速電極20aが収縮した場合も上記と逆の変形をする。
このようにして、1点を固定して、1点を変形方向の規制する案内としても、加速電極20aの面方向に変形し、加速電極20aに歪が生ずることなく、加速電極20aの厚み方向への変形を防止することができる。
このことは、減速電極20b、接地電極20cについても同様であり、温度の変動によって各電極に歪が生ずることがなく、電極の厚み方向への変形を防止することができる。
このことから、各電極のイオンビームの引き出し穴28a,28b,28cの位置ずれ、および電極板間の距離がばらつくことがなくなりイオンビームの均一性および安定性が向上し、加工精度の高いイオンミリング装置1を提供できる。
(第2の実施形態)
【0063】
次にイオンミリング装置の他の実施形態について説明する。
図10は第2実施形態のイオンミリング装置の構成を示す模式図である。
本実施形態はプラズマの生成手段のみが異なる。このため、第1実施形態と同様な構成については同符号を付し詳細な説明を省略する。
【0064】
イオンミリング装置2は、プラズマを生成するプラズマ生成室としてのアークチャンバー60と、アークチャンバー60からイオンビームを引き出す引き出し電極20と、引き出されたイオンビームが導入される処理室50と、を備えている。
アークチャンバー60は、処理室50と連通している。アークチャンバー60の内部には、イオン源としてフィラメント61が設けられている。フィラメント61は、例えばタングステンなどからなり、アークチャンバー60内に熱電子を放出する。
そして、アークチャンバー60の外周に多極の永久磁石62a,62bが配置されている。この永久磁石62a,62bは、磁力線によりプラズマをアークチャンバー60に閉じ込めるとともに、放電領域に磁界をかけてイオンの飛程距離を長くしてイオン化率を増大させる機能を有する。
【0065】
フィラメント61はフィラメント電源66aに接続され、このフィラメント電源66aから所定の電圧が印加される。またアークチャンバー60にはアーク電源66bの正極側が接続され、負極側はフィラメント電源66aの正極側に接続されて、アーク電圧が印加される。
また、アークチャンバー60は、外部よりArなどの放電ガスが供給できる構成となっている。
このことから、フィラメント61のマイナス端子とアークチャンバー60のアノードとなる内壁との間の放電によって、供給されたArなどの放電ガスがイオン化されるように構成されている。
このように、本実施形態のプラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源である。
【0066】
アークチャンバー60の処理室50との間には引き出し電極20が配置されている。
引き出し電極20は、加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cの3枚の電極から構成されている。プラズマの生成源に近い方から加速電極20a、減速電極20b、接地電極20cの順に配置されている。各電極は円板状に形成され、モリブデンなどの高融点材料が用いられている。そして、各電極の円板内にイオンビームが通過する多数の引き出し穴28a,28b,28cが設けられている。
この引き出し電極20は、第1実施形態と同様に電極取り付け板30に取り付けられ、同じ構造を有している。
【0067】
加速電極20aには加速電源65aの正極が接続されて正電圧が印加される。また、加速電源65aの正極側は抵抗67を介してアーク電源66bの正極側に接続されており、負極側は接地されている。
減速電極20bには減速電源65bの負極が接続されて負電圧が印加され、減速電源65bの正極側は接地されている。
接地電極20cは接地、または接地に対して−100V未満の電圧が印加されている。
これらの加速電極20aおよび減速電極20bに印加する電圧を調整することによって、引き出し電極20から照射されるイオンビームのエネルギーを調整することができる。
【0068】
上記のフィラメント電源66a、アーク電源66b、加速電源65a、減速電源65bは、駆動電源64を構成している。
【0069】
このように、プラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源であっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
そして、本実施形態のイオンビーム源のプラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源であるため、容易にプラズマを生成させることができ、また装置の構成を簡略化でき、低コストのイオンミリング装置2を提供することができる。
【0070】
なお、第1、第2実施形態ではイオンミリング加工を行う実施形態を説明したが、このイオンミリング装置1,2を用いて基板表面の親水処理や撥水処理などの表面処理を行うことも可能である。
このように、第1、第2実施形態で説明したイオンミリング装置1,2は、具体的には基板をミリングして基板を平坦化する装置、表面処理装置、圧電素子の周波数調整装置などとして利用することができる。
【0071】
本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更することができる。そして、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有するものにより可能である。
【符号の説明】
【0072】
1,2…イオンミリング装置、10…プラズマ生成室、11…高周波プラズマ室、12…石英円筒管、13…高周波コイル、14…プラズマ拡張室、15a,15b…永久磁石、16…高周波電源、17…ガス導入口、20…引き出し電極、20a…加速電極、20b…減速電極、20c…接地電極、21…加速電源、22…減速電源、25a,25b,25c…基準穴、26a,26b,26c…案内穴、27a,27b,27c…合わせ穴、28a,28b,28c…引き出し穴、29a,29b,29c…逃げ部、30…電極取り付け板、31…ネジ穴、32…スペーサー取り付け部、33…立ち上がり部、34…スペーサー部材、35…ワッシャー、36…合わせ軸、40…加速電極保持軸、40a,40b…ネジ、41…加速電極案内軸、41a,41b…ネジ、42…弾性部材としての圧縮コイルバネ、43…バネ押さえ、43a…貫通穴、44…止めナット、45…減速電極保持軸、45a…電極受け部、46…中心軸、46a,46b…ネジ、47…接地電極保持軸、47a…電極受け部、48…中心軸、48a,48b…ネジ、49…バネ押さえ、49a…貫通穴、50…処理室、51…マイクロ波プラズマニュートライザー、52…シャッター、52a…シャッター駆動装置、53…基板ホルダー、60…プラズマ生成室としてのアークチャンバー、61…フィラメント、62a,62b…永久磁石、64…駆動電源、65a…加速電源、65b…減速電源、66a…フィラメント電源、66b…アーク電源、67…抵抗、d…隙間。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを生成するプラズマ生成手段を有するプラズマ生成室と、
前記プラズマ生成室に連通する処理室と、
前記プラズマ生成室と前記処理室の間に設けられ、前記プラズマ生成室から前記処理室へイオンビームを引き出す引き出し電極と、
前記引き出し電極が取り付けられる電極取り付け板と、を備えたイオンミリング装置であって、
前記引き出し電極に設けられ、前記引き出し電極の取り付け位置を位置決めする基準穴と、
前記引き出し電極に設けられ、前記引き出し電極の取り付け位置を案内する案内穴と、
前記電極取り付け板に立設され、前記基準穴と係合する電極保持軸と、
前記電極取り付け板に立設され、前記案内穴と係合する電極案内軸と、
前記基準穴および前記案内穴の周りを前記引き出し電極の厚み方向に押圧する弾性部材と、を有し、
前記案内穴は前記基準穴の中心と前記引き出し電極の中心を結ぶ直線上に設けられ、前記直線に沿って長穴形状に形成されている
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオンミリング装置において、
前記引き出し電極は、前記プラズマ生成室に近い順に加速電極、減速電極を有し、前記加速電極と前記減速電極とが一定の間隔を保って配置され、
前記加速電極と前記電極取り付け板との間に、前記加速電極と前記電極取り付け板の厚み方向の平面視において重なる面積よりも小さな面積で接触するスペーサー部材を有し、
前記加速電極の厚み方向において、前記加速電極と前記電極取り付け板との間に隙間が形成されている
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のイオンミリング装置において、
前記スペーサー部材は、リング状に形成され前記電極保持軸および前記電極案内軸に間挿されて配置されている
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のイオンミリング装置において、
前記電極取り付け板の外周部に前記加速電極の厚み方向に立ち上がる立ち上がり部を有し、
前記立ち上がり部は前記加速電極と前記電極取り付け板との間の前記隙間を、前記加速電極の外周方向から覆うように形成されている
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のイオンミリング装置において、
前記プラズマ生成手段は高周波放電を利用した高周波イオン源を有する
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のイオンミリング装置において、
前記プラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源を有する
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項1】
プラズマを生成するプラズマ生成手段を有するプラズマ生成室と、
前記プラズマ生成室に連通する処理室と、
前記プラズマ生成室と前記処理室の間に設けられ、前記プラズマ生成室から前記処理室へイオンビームを引き出す引き出し電極と、
前記引き出し電極が取り付けられる電極取り付け板と、を備えたイオンミリング装置であって、
前記引き出し電極に設けられ、前記引き出し電極の取り付け位置を位置決めする基準穴と、
前記引き出し電極に設けられ、前記引き出し電極の取り付け位置を案内する案内穴と、
前記電極取り付け板に立設され、前記基準穴と係合する電極保持軸と、
前記電極取り付け板に立設され、前記案内穴と係合する電極案内軸と、
前記基準穴および前記案内穴の周りを前記引き出し電極の厚み方向に押圧する弾性部材と、を有し、
前記案内穴は前記基準穴の中心と前記引き出し電極の中心を結ぶ直線上に設けられ、前記直線に沿って長穴形状に形成されている
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオンミリング装置において、
前記引き出し電極は、前記プラズマ生成室に近い順に加速電極、減速電極を有し、前記加速電極と前記減速電極とが一定の間隔を保って配置され、
前記加速電極と前記電極取り付け板との間に、前記加速電極と前記電極取り付け板の厚み方向の平面視において重なる面積よりも小さな面積で接触するスペーサー部材を有し、
前記加速電極の厚み方向において、前記加速電極と前記電極取り付け板との間に隙間が形成されている
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載のイオンミリング装置において、
前記スペーサー部材は、リング状に形成され前記電極保持軸および前記電極案内軸に間挿されて配置されている
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のイオンミリング装置において、
前記電極取り付け板の外周部に前記加速電極の厚み方向に立ち上がる立ち上がり部を有し、
前記立ち上がり部は前記加速電極と前記電極取り付け板との間の前記隙間を、前記加速電極の外周方向から覆うように形成されている
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のイオンミリング装置において、
前記プラズマ生成手段は高周波放電を利用した高周波イオン源を有する
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のイオンミリング装置において、
前記プラズマ生成手段はフィラメントを用い直流放電を利用したイオン源を有する
ことを特徴とするイオンミリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−114894(P2013−114894A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259911(P2011−259911)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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