説明

イオンモニタリング期間の動的調整方法およびシステム

【課題】 イオンモニタリング期間を動的に制御する制御方法を提供する。
【解決手段】上述した課題は、走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法であって、単一のm/zのイオンの検出中に前記質量分析計の検出器からの出力信号を統計的に監視するステップと、統計的に有効な累積統計値の計算、又は予め決められた統計閾値に照らして前記期間では満足のいく統計値を達成することが不可能であることを示す計算が得られると前記イオン検出の前記期間を終了するステップとを含む、走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法等により解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンモニタリング期間の動的調整に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析の基本原理は、イオンを生成し、これらのイオンをその質量電荷比(m/z)により分離し、それらをそれぞれのm/z比により定量的に検出することである。走査型質量分析計は、(分解能が許せば)いつでも(公称)単一のm/zのイオンのみを検出するように構成される。しかし経時的に、連続する様々なm/zのイオンを走査するように、分離の制御パラメータは変えることができる。走査は、予め決められたm/zから始まり、予め決められた最後のm/zに達するまで予め決められた速度(走査速度)で増分(又は減分)される。結果として得られる検出器出力信号は、m/zの各増分(減分)後の走査滞留時間中に監視された後に記録される。これにより、イオン強度対m/z(及び時間)の記録が生成される。その場合、走査は通常、所定の予め指定された期間にわたって繰り返される。最初のm/z、最後のm/z、走査滞留及び結果として得られる走査サイクル時間は、走査及びデータの取得を行う前に予め設定され固定されている。
【0003】
代替的に、走査機器の別の動作モードでは、制御パラメータは決まった期間にわたって特定のm/zに固定されることができる。この単一のm/zの分析は選択イオンモニタリング又は略してSIMと呼ばれる。通常、所定のm/z群が共に連続してSIMされる(SIM群と呼ばれる)。SIM群の測定サイクルは、群の中の最初のm/zを選択することから始まる。動作制御パラメータを安定化させ、選択されたm/zイオンがイオン検出器の中へ移動する時間を取る。結果として得られる検出器出力信号は次に、所定期間(SIM滞留と呼ばれる)にわたって監視されて記録される。次に、制御パラメータが、測定サイクルにおける次のm/zを選択するために必要な値に切り換えられる。このプロセスは、群の中の全てのm/zが監視され記録されてしまうまで繰り返される。次に、SIMサイクルが所定期間にわたって連続して繰り返される。各m/zのSIM滞留及び結果として得られるSIMサイクル時間もまた、SIM及びデータの取得を行う前に予め設定され固定されている。
【0004】
歴史的及び技術的理由から、上述したようなSIM滞留時間及び走査滞留時間は動作前及び動作中に固定されている。結果として、走査サイクル時間及びSIMサイクル時間もまた予め決まっており不変である。この決定論的な手法がイベントの順序付けを簡単な命題で、且つ比較的実施し易いものにしている。データ分析も単純化される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオンモニタリング期間を動的に制御して、滞留時間の最適化を図る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
SIM又は走査中に質量分析計のイオン検出器によるイオン検出の期間を動的に制御するための方法、システム及びコンピュータ読み取り可能媒体が提供される。検出器の出力信号は、検出器による単一のm/zのイオン検出中に統計的に監視することができる。イオン検出器によるイオン検出の期間は、統計的に有効な累積統計値の計算、又は予め決められた統計閾値に照らしてその期間では満足のいく統計値を達成することが不可能であることを示す計算が得られると期間を終了してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のシステム及び方法を説明する前に、実施形態は様々な形態が考えられるため、本発明は、説明される特定の実施形態に限定されないことを理解されたい。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定され、本明細書中で使用される用語は特定の実施形態を説明することだけを目的としており、限定を意図するものではないことも理解されたい。
【0008】
実施形態は方法、システム又はデバイスとして実施され得る。したがって、実施形態は、ハードウェア実装、完全なソフトウェア実装、又はソフトウェアの側面とハードウェアの側面とを組み合わせた実装の形態を取ってもよい。したがって、以下の詳細な説明は限定的な意味で解釈されるべきではない。
【0009】
様々な実施形態の論理操作は、(1)計算システム上で動作する、コンピュータにより実施される一連のステップとして、及び/又は(2)計算システム内の相互接続機械モジュールとして実施される。実施態様は、実施形態を実施する計算システムの性能要件に応じた選択の問題である。したがって、本明細書中に記載する実施形態を構成する論理操作は代替的に動作、ステップ又はモジュールと呼ばれる。
【0010】
値の範囲が与えられる場合、文脈が別途はっきりと示す場合を除き、下限の単位の10分の1までの、その範囲の上限と下限との間の各値もまた具体的に開示されることが理解される。記載範囲の任意の記載値又はその間の値と、その記載範囲の任意の他の記載値又はその間の任意の他の値との間のより小さな各範囲は、本発明に含まれる。これらのより小さな範囲の上限及び下限は、範囲に個別に含まれるか、又は範囲から除外されてもよく、このより小さな範囲にいずれかの限界値が含まれているか、両方の限界値が含まれていないか又は含まれている各範囲もまた、その記載範囲における任意の具体的な除外される限界値に従って本発明に包含される。記載範囲が限界値のいずれか又は両方を含む場合、これらの含まれる限界値のいずれか又は両方を除く範囲もまた本発明に含まれる。
【0011】
別途定義されない限り、本明細書中で用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるのと同様又は均等な任意の方法及び材料を本発明の実施又は試験において用いることができるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。本明細書中で言及される全ての刊行物は、関連して引用される方法及び/又は材料を開示及び説明するために参照により本明細書中に援用される。
【0012】
本明細書中で考察される刊行物は、本願の出願日より前の開示内容についてのみ提示される。本明細書中のいかなる内容も、本発明が先行発明に関してそれらの刊行物に先行する権利を持たないことを認めるものと解釈されるべきでない。さらに、提示される刊行日は実際の刊行日とは異なる場合があり、個別に確認する必要がある可能性がある。
【0013】
図1は、一つの例示的な実施形態による走査型質量分析システム100を示すブロック図である。分析すべき材料の試料が、試料入口102を介して供給源106へ輸送される。一つの実施形態において、試料入口は、空気及び単純ガスを試料採取する際に用いられる膜又は制限デバイスである。別の実施形態において、試料入口は例えばガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ、又は固相試料採取器等のより高度なデバイスである。供給源106は、試料入口102にある材料からイオンを生成する。供給源106は、様々な実施形態において、電子イオン源、化学イオン源、電子スプレー圧力源、大気圧源、又は試料入口102にある試料を1つ又は複数の荷電イオンに変換する任意の他の適切な供給源のうちの1つ又は複数である。供給源106は、接続部148を介してイオンを走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110へ輸送する。
【0014】
走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110は、選択された質量電荷比(m/z)のイオンがマスフィルタの出力ポートへ進むことを可能にする。適切な制御パラメータを用いて、走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110は、供給源106により生成される複数のイオンの中から特定のm/zのイオンを選択する。選択されたイオンは次に、接続部152を介して検出器108へ進む。走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110は、或るm/z範囲を走査してそのm/z範囲内の特定のイオンを見つけるために用いられるか、又は選択イオンモニタリングすなわち「SIM」と呼ばれるものにおいて単一のm/zのイオンを選択するために用いられる。走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110は、一つの実施形態においてシングル四重極型マスフィルタ等の任意数の分離技法を用いることができる。別の実施形態において、走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110は、トリプル四重極型マスフィルタ及び四重極飛行時間(略してq−TOF)機器において用いられるような衝突セルを有する複数の四重極型マスフィルタを含む。代替的な実施形態はマスセクター型質量分析計及びイオントラップ型質量分析計を含む。
【0015】
検出器108は、走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110からイオンを収集し、それらを電子(又は別の適切な電子信号)に変換して、イオンの信号強度を測定する。様々な実施形態において、検出器108は、連続変換ダイノード、離散変換ダイノード、又は光電子増倍管変換器のうちの1つ又は複数を含んでもよい。検出器108からの出力信号は接続部128により検出器制御電子回路114へ供給される。
【0016】
高真空及び低真空の両方を提供する真空源104は、接続部122を介して供給源106を、接続部124を介して走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110を、また接続部126を介して検出器108を真空にして、特定の要素に必要な適切な真空を生成する。一つの実施形態における真空源104内の真空ポンプ(図示せず)は、低真空のために回転羽根又は乾燥ポンプを、また高真空を提供するためにターボ分子ポンプ又は拡散ポンプを含んでもよい。
【0017】
供給源制御部112が、供給源106の動作のために必要な動作パラメータを提供する。これらのパラメータは、実施形態によっては、静的及び動的なDC電圧及びRF電圧、ヒータ制御、フロー制御及びフィラメント制御を含んでもよいが、それらに限定されない。
【0018】
制御パラメータ160は、走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110に必要な動作パラメータを提供する。実施形態によっては、制御パラメータ160はまた、前置又は後置イオンガイド又はレンズ(lensing)を含んで、走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110への又は走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110からの伝達を補助してもよい。
【0019】
本実施形態における検出器制御部114は、検出器108に対し必要な電圧を生成する。一つの実施形態において、検出器制御部114は、検出器108からの信号の信号強度を測定するためにイオン信号を変換又は昇圧する電子増幅器を含む。実施形態によっては、増幅器は、様々なダイナミックレンジを有するアナログ要素であってもよく、他の実施形態において、増幅器は、イオンを「計数」するパルスカウンタであってもよい。
【0020】
本実施形態におけるコントローラ116は、走査型質量検出システム100内の全ての要素を制御する。実施形態によっては、コントローラ116は単純な制御回路である。他の実施形態において、コントローラ116は、内蔵オペレーティングシステムを有する完全な埋込式コンピュータプロセッサであってもよい。
【0021】
接続部128上の検出器108の出力は、イオン強度の測定値であり、コントローラ116により、対象試料を最後の測定値と相関させるために用いられる。接続部146上のコントローラ116の出力は、質量分析計100の下流に位置する要素が試料入口からの試料を解釈するか又は最後の測定値と相関させるために直接的又は間接的に用いるデータを含む。通常、結果は、試料イオンに関するマススペクトル又は何らかの形態の質量情報である。
【0022】
可能であれば、全体的なSIMサイクル時間を削減することは望ましくより効率的であろう。例えば、図2Aは、時間に対してガスクロマトグラフから溶出させた試料測定(sample run)の成分を表す一群のピーク402、404、406のプロット400を概略的に示す。ピーク402、404、406により表される成分の構成をより正確に分析するために、試料は、ピーク402、404、及び406により表される成分をさらに断片化しフラグメントを識別する質量分析計によりさらに処理してもよい。
【0023】
図2Aの時間−ピークデータに対応する試料の走査毎に、質量分析計は、その時刻に識別されたフラグメントの各々のピーク値を出力する。例えば、図2Aに示す時刻tにおいて、質量分析計出力420は図2Bに示すようなものである可能性があり、5つの異なるイオン(I、I、I、I、I)がその対応するイオン強度と共に表示される。したがって、各走査(図2B)は、図2Aにプロットされる強度対時間データの「スライス」のさらに詳細な分析(イオン強度対m/z)を提供する。図2Bのイオン強度の合計は、時刻tが交差するピーク402における点の強度に等しくなければならない。420においてプロットされるイオンの強度及び質量電荷比から得られるパターンは、時刻tにおいて分析された化合物に特有のフィンガープリントを形成する。
【0024】
選択イオンモニタリング(SIM)を行うとき、質量分析による化合物の分析(上記例におけるピーク402のさらなる分析等)は、固有の及び/又は比較的強い(好ましくはその両方である)イオン等の代表的イオンを選択することによって実行してもよく、次にそれらのイオンは、さらなる分析対象のピークの持続時間にわたって分析のために繰り返し走査される。したがって、全てのピークを繰り返し走査しようと、さらなる分析のためにSIMを行おうと、全走査サイクル又はSIMサイクルを分析する合計時間を削減することができれば、分析対象のピークが起こる固定された時間スパンに対してより多くの数の全サイクルを行うことができる。より多くのデータを提供し、データ全体の統計的不確実性を低減するため、サイクル数を最大化することが望ましい。
【0025】
上記のように、可能な場合にSIM滞留時間又は走査滞留時間を削減して全サイクル時間を削減することが望ましい場合がある。特定の事例において、有用な情報を失うことなく時間を劇的に削減することが可能である。イオン信号が強く変動性が低い場合、そのイオンの存在量を正確に求めるには滞留時間の数分の1しか必要なく、これがSIM時間又は走査時間を削減するための基礎となる。一方、存在量の少ない背景イオン又は微量イオンの場合に通常そうであるように、信号の変動性が高い場合、このイオンの存在量を正確に定量するには全滞留時間でも十分でない場合があるため、全滞留時間にわたって測定が行われた場合、この状況からは正確な情報が得られないため、結果として全滞留期間が無駄となる。したがって、最良の存在量推定を達成するために、完全な固定又は予め指定されたSIM時間は、低すぎず高すぎない中間の変動性を有するイオンのみに必要となる。中間の変動性を有するイオンの場合、全滞留時間を使用してそのイオンの最良の存在量推定を達成することができ、依然として必要な試料採取速度を達成することができる。
【0026】
したがって、取得時のイオンからの信号の検討及び取得時の信号を特徴付ける統計値に基づいて各滞留時間を滞留(SIM滞留時間又は走査滞留時間)毎にリアルタイムで動的に変化させる能力を提供することが望ましい。図3は、SIMサイクル時間又は走査サイクル時間の効率を高めるために滞留時間の動的制御を用いる質量分析計の動作フロー600を示す。この動作フロー600は任意の好適な計算環境で行うことができる。例えば、コントローラ116により実装される計算環境がこの動作フロー600を実行してもよい。
【0027】
イベント601において、SIMサイクル又は走査サイクルを開始する。イベント602において、走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計110を、処理すべき最初のm/zに設定する。イベント603において、いくつかの統計パラメータを初期化する。これらは以下の、読み取り値カウント(現在のm/zの読み取り値の数)、累積(すなわち読み取り値の累積又は積分)、各読み取り値の二乗値の累積、最小読み取り値、最大読み取り値、読み取り値の標準偏差、読み取り値の平均、読み取り値の相対標準偏差、及び全ての読み取り値の動的なリストを含み得るが、これらに限定されない。一つの実施形態において、上記コントローラは、滞留時間、読み取り値カウント、累積及び他の統計パラメータの値をゼロ等の適切な初期値に設定することによって、これらのパラメータを初期化するように構成される。
【0028】
イベント604において、イオン検出器からの読み取り値を受け取る。一つの実施形態において、この読み取り値は、従来の質量分析計と同様に取得される。例えば、一つの実施態様において、読み取り値は、例えばコントローラ116等のコントローラにより取得される、例えば検出器108等のイオン検出器から生成される出力信号のサンプルである。
【0029】
イベント606において、イベント604からの読み取り値を用いて統計情報を更新する。これは以下の、読み取り値カウント(すなわち読み取り値の数)をインクリメント、累積を読み取り値だけインクリメント(すなわち読み取り値の累積又は積分)、各読み取り値の二乗値の累積、最小読み取り値、最大読み取り値、全ての読み取り値の標準偏差、平均、相対標準偏差及び/又は動的リストを含み得るが、これらに限定されない。これらのパラメータは、選択されたm/zの読み取り統計値を反映するように更新される。
【0030】
一つの実施形態において、読み取り値は、従来の質量分析計と同様に累積に加算されてもよい。また、平均、分散、信号最小値、信号最大値、イオンパルスカウント累積、イオンパルスカウント統計値及び読み取り値の総数を含む信号統計値の現行計算記録(running tally)が生成され読み取り毎に更新されてもよい。
【0031】
イベント608において、満足のいく統計値が達成されたかどうかを判定する。統計値が十分に良い場合、プロセスはイベント614を実行して、現在選択されているイオンの現在の累積及び読み取り値カウントに基づいてイオン強度を計算する。「十分に良い」又は「満足のいく」統計値であると判定されるものは、用途又は行われている実験の要件、及び統計基準の選択に応じて異なり得る。いずれにせよ、滞留時間は、選択/設定された統計データに基づいて動的に変えることができる。「十分に良い」基準の一例は、特定の値xよりも小さく、統計的有意さが特定の値xよりも大きいRSTD(相対標準偏差)を計算することを含む。対応する「十分に悪い」基準は、特定の値xよりも大きく、統計的有意さが特定の値xよりも大きいRSTDを計算することであろう。他のより単純な「十分に良い」基準は、予め選択された測定回数yにわたる値yよりも大きい存在量カウントを含む。対応する「十分に悪い」基準は、予め選択された測定回数yにわたる値yよりも小さい存在量カウントを含み得る。上記基準の全ての要素及び/又は他の統計因子を含む他の代替的基準も確立され得る。ここでも重要な因子は、統計基準に基づいて滞留時間を動的に変えることができることである。
【0032】
イベント616において、イオン強度及び時間情報(滞留時間及び/又は絶対時間)を報告する。一つの実施形態において、コントローラは、イオン強度及びタイミング情報をメモリに記憶し、質量分析計の下流に位置する他の要素が試料入口からの試料を解釈するか又は最後の測定値と相関させるために使用するようにする。通常、結果は、試料イオンに関するマススペクトル又は何らかの形態の質量情報である。
【0033】
イベント618に進んで、サイクルが完了したかどうかを判定する。一つの実施形態において、コントローラは、このサイクルにおいて全てのイオンが選択されたかどうかを判定するように構成される。選択すべき1つ又は複数のイオンがまだあると判定された場合、動作フロー600は直ちにイベント620へ進む。
【0034】
イベント620において、サイクルの次のm/zを選択する。一つの実施形態において、コントローラは、従来の質量分析計のようにSIMサイクル又は走査サイクルの次のm/zを選択するように構成される。動作フロー600はその後、上述したイベント602へ戻る。m/z毎に全滞留時間の経過を待つのではなく、次に選択されたm/zの読み取りを直ちに開始することによって、全サイクル時間が最適化され、可能な場合に全ての選択されたイオンについて満足のいく存在量カウントを提供するために可能な限り最短の全サイクル時間が得られる。
【0035】
再びイベント618を参照すると、サイクルのイオンが全て選択されたと判定された場合、動作フローはイベント622へ進む。イベント622では、次のサイクルを直ちに開始することができるか、処理すべきサイクルがもうない場合は処理を終了することができる。例えば動作フロー600は次のSIMサイクル又は走査サイクルのためにイベント601に戻ることができる。
【0036】
イベント608において、満足のいく信号統計値がまだ達成されていない場合、動作フローはイベント610へ進み、満足のいく信号統計値を達成することが可能かどうかをチェックする。強度の非常に低い信号(低濃度のイオンが測定されている)、例えば、システムのノイズ範囲の方の信号の場合、カウントをノイズと区別することは不可能であるため及び/又は読み取り値の変動性が大きすぎて信頼できるものと見なせないため、全滞留時間にわたって読み取りを行っても満足のいく存在量カウントを達成することは不可能である場合がある。その場合、フローはイベント614へ進む。そうでない場合、動作フローはイベント612へ進む。上記のように、満足のいく存在量カウントを達成することが不可能であろうとき(すなわち統計値が「十分に悪い」とき)を判定するための1つの統計値は、存在量カウントが予め決められた測定回数にわたって予め決められた値(予め決められた存在量カウント)よりも小さいときを評価する基準を含む。したがって、イベント610において、この基準を用いて、現在のイオンについて予め設定された回数の信号読み取りが行われていない場合、フローは「NO」の経路を通ってイベント612へ進む。このNOの経路は、予め設定された読み取り回数に等しい読み取りの間に、存在量カウントが予め決められた値以上である場合にも通る。
【0037】
上述のいずれかの方法で全滞留時間に対して処理の非常に早い段階において、選択されたイオンについて満足のいく存在量カウントを達成することが可能かどうかを予測することによって、本システムは、他の方法では選択されたm/zのカウント読み取りサイクルにおいてそのイオンが存在しないか、又は有意な読み取り値を提供するのに十分な濃度で存在しない場合に浪費されてしまう時間を最短化する。
【0038】
本明細書中でいう「中強度」信号を生成する濃度の選択されたイオンの場合、すなわち、存在量が滞留時間スパンの早期に満足のいく信号統計値を達成するほど多くなく、統計値が滞留時間スパンの早期に不満足な統計値を予測するほど悪くない場合、カウント読み取りの反復は、全滞留時間が経過するまで続行されてもよい。イベント612において、滞留時間が経過したと判定されると、動作フローはイベント614へ進む。説明する技法によれば、選択された各m/zは、満足のいく存在量カウントを達成することができる場合に、それを達成することができる間だけ、又は最長滞留時間が経過するまで読み取られるため、中間濃度のイオン(「中強度」の読み取り値を生じる)でさえ全滞留時間未満で処理することができ、サイクル時間がさらに最短化され、固定された期間でより多くの数のサイクルを行うことができる。検出器(及び/又は電位計及び/又はA/D変換器)からの出力をリアルタイムで調査することによって、本システムは、滞留時間をインテリジェント且つ動的に調整してSIMサイクル時間又は走査サイクル時間を最適化することができる。
【0039】
上述のような方法での検出器出力(及び/又は電位計及び/又はA/D変換器)のインテリジェントな調査は、滞留時間ひいてはサイクル時間を最適化するためだけでなく、ユーザの統計要件を満たす存在量カウントを達成するための滞留時間を最適化するためにも有用であり得る。このような統計要件はユーザ定義であってもよく、システムが統計要件を達成するための滞留時間を適宜調整してもよい。例えば、SIM又は走査毎に、ユーザは、統計的に許容可能な存在量カウントと見なされるものの不確実性又は変動性限界を予め設定してもよい。各走査又はSIMについて、システムはその後、現在の読み取りからの信号出力を監視し、読み取りカウントを全読み取り回数で割ったものの変動性を、その走査又はSIMの予め設定された変動性閾値に照らしてチェックする度に、上述のように読み取りカウントを反復することができる。反復は、累積を読み取り回数で割ったものの変動性が予め設定された変動性閾値を下回るまで続行されてもよい。このようにして、本システムは、選択された各イオン/イオン群がユーザの需要を統計的に満たす存在量カウントを達成するのに必要なだけの時間を費やす。また、標的化合物基準は、複数のフラグメントイオンの有効な統計値を必要とする場合がある。どれか1つのイオンが無効な統計値を有する場合、標的化合物に関連する残りのフラグメントイオンの統計値を評価しない(すなわちその走査を取り消す)ことによってSIMサイクル時間を削減することが最適である場合がある。実質的に、統計値の計算は、他のイオンの統計値に基づく動的なイオン排除リストを含む場合がある。したがって、1つのイオンの滞留時間はまた、群の他のイオンの統計値も考慮に入れることによって最適化され得る。
【0040】
図4は、本発明の一実施形態による典型的なコンピュータシステムを示す。コンピュータシステム700は、一次記憶装置706(通常はランダムアクセスメモリすなわちRAM)、一次記憶装置704(通常は読み出し専用メモリすなわちROM)を含む記憶装置に結合される任意数のプロセッサ702(中央処理装置又はCPUとも呼ばれる)を含み得る。当該技術分野においてよく知られているように、一次記憶装置704は、データ及び命令をCPUへ一方向に転送するように働き、一次記憶装置706は通常、データ及び命令を双方向に転送するように用いられる。これらの一次記憶装置はともに、上述したような任意の適切なコンピュータ読み取り可能媒体を含み得る。大容量記憶装置708もまたCPU702へ双方向に結合され、付加的なデータ記憶容量を提供し、上述のコンピュータ読み取り可能媒体のいずれかを含み得る。大容量記憶装置708は、プログラム、データ等を記憶するために用いられることができ、通常は、一次記憶装置よりも遅いハードディスク等の二次記憶媒体である。大容量記憶装置708内に保持される情報は、適切な場合において、一次記憶装置706の一部に仮想メモリとして標準的な方法で組み込まれてもよいことが理解されるであろう。CD−ROM又はDVD−ROM714等の特定の大容量記憶装置もまたCPUへ一方向にデータを送ることができる。
【0041】
CPU702はまた、ビデオモニタ、トラックボール、マウス、キーボード、マイク、タッチセンシティブディスプレイ、トランスデューサカードリーダ、磁気テープ又は紙テープリーダ、タブレット、スタイラス、音声又は手書き文字認識装置、又は当然ながら他のコンピュータ等の他のよく知られた入力装置等の1つ又は複数の入出力装置を含むインタフェース710に結合される。最後に、CPU702は任意で、全体を712で示すようなネットワーク接続を用いてコンピュータ又は電気通信ネットワークに結合されてもよい。このようなネットワーク接続により、CPUが上述の方法ステップを実行する過程でネットワークから情報を受信するか、又はネットワークへ情報を出力してもよいことが意図される。上述の装置及び材料は、コンピュータのハードウェア及びソフトウェア分野における当業者には馴染みあるものであろう。
【0042】
上述のハードウェア要素は、本発明の動作を行うための複数のソフトウェアモジュールの命令を実装してもよい。例えば、コントローラ116は1つ又は複数のプロセッサ702を含んでもよく、滞留時間を動的且つ統計的に監視する命令が大容量記憶装置708又は714に記憶されてもよい。コントローラからの出力は取得方法のパラメータデータを含み得るが、これらに限定されない。これらは、イオン強度、イオン統計値及び時間情報(滞留時間及び/又は絶対時間)の未処理又は処理済の記録を含む。付加的に又は代替的に、コンピュータシステム700は結果146を、インタフェース710を介して走査型質量分析システム100から(例えばコントローラ116からの出力)、又は出力が記憶されている他の記憶媒体(例えばCD−ROM、DVD−ROM等)から受け取ってもよい。このコンピュータシステムはまた、質量分析計の下流で様々なデータ後処理(データの取り出し、記憶及び送信を含む)を行い、試料入口からの試料を解釈して最後の測定値と相関させることができる。通常、結果は、試料イオンに関するマススペクトル又は何らかの形態の質量情報である。コンピュータシステムはまた、当該技術分野で既知であるような質量の精度、存在量の精度、イオン統計値、デコンボリューション、ライブラリ検索、報告及び量子化といったデータの品質及び有用性に改良を施すことができる。
【0043】
また、本発明の実施形態はさらに、様々なコンピュータにより実施される動作を行うためのプログラム命令及び/又はデータ(データ構造を含む)を含むコンピュータ読み取り可能媒体又はコンピュータプログラム製品に関する。これらの媒体及びプログラム命令は、本発明のために特別に設計及び構築されたものであっても、又は、コンピュータソフトウェア分野の当業者によく知られ且つ利用可能である種類のものであってもよい。コンピュータ読み取り可能媒体の例としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、及び磁気テープ等の磁気媒体、CD−ROMディスク、CD−RWディスク、DVD−ROMディスク、又はDVD−RWディスク等の光学媒体、フロプティカルディスク等の光磁気媒体、並びにプログラム命令を記憶し実行するように特別に構成された、読み出し専用記憶装置(ROM)及びランダムアクセスメモリ(RAM)等のハードウェア装置があるが、これらに限定されない。プログラム命令の例としては、コンパイラにより生成されるような機械コードと、インタプリタを用いてコンピュータにより実行され得るより高レベルのコードを含むファイルとの両方がある。
【0044】
本明細書を通して、特定の説明される特徴、構造、又は特性が少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味する「一つの実施形態」、「一実施形態」、又は「例示的な一実施形態」に言及してきた。したがって、そのような語句の使用が指す実施形態は単に1つだけでない場合がある。さらに、説明される特徴、構造、又は特性は、1つ又は複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わされてもよい。
【0045】
しかし、関連分野の当業者は、具体的な細部のうちの1つ又は複数を用いずに、又は他の方法、資源、材料等を用いて実施形態を実施できることを認識するかもしれない。他の場合には、よく知られた構造、資源、又は動作が、単に実施形態の態様を曖昧にすることを防ぐために詳細に図示又は説明されていない。
【0046】
本発明をその特定の実施形態に関して説明してきたが、当業者は、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を行っても、また均等物で置き換えてもよいことを理解すべきである。さらに、特定の状況、材料、合成物、プロセス、1つ又は複数のプロセスステップを本発明の目的、精神及び範囲に適合させるように多くの修正を行ってもよい。このような修正はすべて、本明細書に添付されている特許請求の範囲に入ることが意図される。
【0047】
最後に本発明の代表的な実施態様を以下に示す。
(実施態様1)
走査型(scanning)質量分析計(100)のイオン検出の期間を動的に制御する方法であって、
単一のm/zのイオンの検出中に前記質量分析計の検出器(108)からの出力信号を統計的に監視するステップ(604)と、
統計的に有効な累積統計値(608)の計算、又は予め決められた統計閾値に照らして前記期間では満足のいく統計値を達成することが不可能である(610)ことを示す計算が得られると前記イオン検出の前記期間を終了するステップと
を含む、走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0048】
(実施態様2)
前記期間はSIM滞留時間である、実施態様1に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0049】
(実施態様3)
前記期間は走査滞留時間である、実施態様1に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0050】
(実施態様4)
前記期間の前記終了直後にサイクルシーケンスにおける次のm/zイオンの監視を開始すること(620)をさらに含む、実施態様1〜3のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0051】
(実施態様5)
前記単一のm/zのイオンの検出は、複数のフラグメントイオンの有効な統計値を必要とする標的化合物のフラグメントイオンについて行われ、前記満足のいく統計値を達成することが不可能であることを示す計算が得られて期間が終了されると、前記方法は、前記標的化合物に関連する残りのフラグメントイオンの統計的監視を取り消すことをさらに含む、実施態様1〜4のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0052】
(実施態様6)
現在のサイクルシーケンスにおいて監視すべきm/zイオンがもうないとき、前記期間の前記終了直後に新たなサイクルシーケンスにおける最初のm/zイオンの監視を開始すること(622)をさらに含む、実施態様1〜3のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0053】
(実施態様7)
前記期間は滞留時間であり、前記終了するステップ及び前記開始するステップは、前記サイクルシーケンスのサイクル時間を動的に最適化する、実施態様1〜6のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0054】
(実施態様8)
前記終了時に前記期間に関するタイミング情報を報告すること(616)をさらに含む、実施態様1〜7のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0055】
(実施態様9)
前記タイミング情報は、滞留時間及び絶対サイクル時間のうちの少なくとも1つを含む、実施態様8に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0056】
(実施態様10)
走査型質量検出器(100)のイオン検出の期間を動的に制御する方法であって、
単一のm/zのイオンの検出中に前記質量検出器のイオン検出器(108)から読み取り値を受け取るステップ(604)と、
前記読み取り値を累積に加算するステップ(606)と、
前記累積を統計的に監視するステップ(606)と、
統計的に有効な累積統計値(608)の計算、又は予め決められた統計閾値に照らして前記期間では満足のいく統計値を達成することが不可能である(610)ことを示す計算が得られると前記イオン検出の前記期間を終了するステップと
を含む、走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0057】
(実施態様11)
前記終了が行われない場合、前記受け取ること(604)、前記加算すること及び前記統計的に監視すること(606)を繰り返すことをさらに含む、実施態様10に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0058】
(実施態様12)
前記終了が行われるまで、又は前記期間に割り当てられた予め決められた時間が経過する(612)まで、前記受け取ること(604)、前記加算すること及び前記統計的に監視すること(606)の反復を繰り返すことを含む、実施態様10又は11に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0059】
(実施態様13)
前記期間は滞留時間を含み、前記方法は、前記期間の前記終了又は該期間の経過のうちいずれか早いほうの直後にサイクルシーケンスにおける次のm/zイオンについて別の滞留時間を開始すること(620)をさらに含む、実施態様10〜12のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0060】
(実施態様14)
前記期間は滞留時間を含み、前記方法は、現在のサイクルにおいて監視すべきm/zイオンがもうないとき、前記期間の前記終了又は該期間の経過のうちいずれか早いほうの直後に新たなサイクルシーケンスにおける最初のm/zイオンの監視を開始すること(622)をさらに含む、実施態様10〜12のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0061】
(実施態様15)
前記期間の前記終了直後にサイクルシーケンスにおける次のm/zイオンについて別の期間を開始することをさらに含む、実施態様10〜14のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0062】
(実施態様16)
現在のサイクルにおいて監視すべきm/zイオンがもうないとき、前記期間の前記終了直後に新たなサイクルシーケンスにおける最初のm/zイオンの監視を開始することをさらに含む、実施態様10〜14のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0063】
(実施態様17)
前記終了時に前記期間に関するタイミング情報を報告すること(616)をさらに含む、実施態様10〜16のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0064】
(実施態様18)
前記タイミング情報は滞留時間及び絶対サイクル時間のうちの1つを少なくとも含む、実施態様17に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0065】
(実施態様19)
前記終了時に、検出される前記イオン又はイオン群の前記タイミング情報及び前記累積に対応するイオン強度値を報告すること(616)をさらに含む、実施態様17に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【0066】
(実施態様20)
走査型質量分析計(100)において使用されるシステムであって、
イオン検出器(108)と、
選択された質量及び電荷のイオンを前記イオン検出器へ選択的に誘導する走査型又はシングルイオンモニタリング型(single ion monitoring)質量分析計(110)と、
前記選択された質量及び電荷のイオンを検出する際に前記イオン検出器(108)からの読み取り値を選択的に累積して統計的に監視すると共に、前記イオン検出器によるイオン検出の期間を、前記累積された読み取り値から計算された累積が統計的に有効であるか、又は予め決められた存在量カウント以上であるという計算、及び予め決められた統計閾値に照らして前記期間では満足のいく存在量カウントを達成することが不可能であることを示す計算のうちの1つが得られると終了させるコントローラ(114、116)と
を備える、走査型質量分析計において使用されるシステム。
【0067】
(実施態様21)
前記期間の前記終了が行われないとき、前記コントローラ(114、116)は、予め決められた期間後に前記イオン検出を終える、実施態様20に記載の走査型質量分析計において使用されるシステム。
【0068】
(実施態様22)
走査型質量分析計(100)によるイオン検出の期間を動的に制御するための1つ又は複数の命令シーケンスを保持するコンピュータ読み取り可能媒体であって、1つ又は複数のプロセッサによる1つ又は複数の命令シーケンスの実行により、該1つ又は複数のプロセッサは、
単一のm/zのイオンの検出中に前記質量検出器のイオン検出器から読み取り値を受け取るステップ(604)と、
前記読み取り値を累積に加算するステップと、
前記累積を統計的に監視するステップ(606)と、
前記累積が統計的に有効である(608)か又は予め決められた存在量カウント以上であるという計算、及び予め決められた統計閾値に照らして前記期間では満足のいく存在量カウントを達成することが不可能である(610)ことを示す計算のうちの1つが得られると前記イオン検出の前記期間を終了するステップと
を行う、コンピュータ読み取り可能媒体。
【0069】
(実施態様23)
前記期間の前記終了が行われないとき、前記イオン検出器によるイオン検出は、前記期間に割り当てられた予め決められた時間にわたって続行される(612)、実施態様22に記載のコンピュータ読み取り可能媒体。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】例示的な走査型質量分析システムを表すブロック図である。
【図2A】ガスクロマトグラフに通した試料の成分を表すピーク群のプロットの概略図である。
【図2B】図2Aの時刻tにおける試料の成分の質量分析走査からのピークデータのプロットの概略図である。
【図3】別の実施形態による、質量分析計を制御するための動作フローを表すフロー図である。
【図4】本発明の一実施形態において全部又は一部が使用され得る典型的なコンピュータシステムを示す図である。
【符号の説明】
【0071】
100 質量分析計
108 イオン検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法であって、
単一のm/zのイオンの検出中に前記質量分析計の検出器からの出力信号を統計的に監視するステップと、
統計的に有効な累積統計値の計算、又は予め決められた統計閾値に照らして前記期間では満足のいく統計値を達成することが不可能であることを示す計算が得られると前記イオン検出の前記期間を終了するステップと
を含む、走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項2】
前記期間はSIM滞留時間である、請求項1に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項3】
前記期間は走査滞留時間である、請求項1に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項4】
前記期間の前記終了直後にサイクルシーケンスにおける次のm/zイオンの監視を開始することをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項5】
前記単一のm/zのイオンの検出は、複数のフラグメントイオンの有効な統計値を必要とする標的化合物のフラグメントイオンについて行われ、前記満足のいく統計値を達成することが不可能であることを示す計算が得られて期間が終了されると、前記方法は、前記標的化合物に関連する残りのフラグメントイオンの統計的監視を取り消すことをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項6】
現在のサイクルシーケンスにおいて監視すべきm/zイオンがもうないとき、前記期間の前記終了直後に新たなサイクルシーケンスにおける最初のm/zイオンの監視を開始することをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項7】
前記期間は滞留時間であり、前記終了するステップ及び前記開始するステップは、前記サイクルシーケンスのサイクル時間を動的に最適化する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項8】
前記終了時に前記期間に関するタイミング情報を報告することをさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項9】
前記タイミング情報は、滞留時間及び絶対サイクル時間のうちの少なくとも1つを含む、請求項8に記載の走査型質量分析計のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項10】
走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法であって、
単一のm/zのイオンの検出中に前記質量検出器のイオン検出器から読み取り値を受け取るステップと、
前記読み取り値を累積に加算するステップと、
前記累積を統計的に監視するステップと、
統計的に有効な累積統計値の計算、又は予め決められた統計閾値に照らして前記期間では満足のいく統計値を達成することが不可能であることを示す計算が得られると前記イオン検出の前記期間を終了するステップと
を含む、走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項11】
前記終了が行われない場合、前記受け取ること、前記加算すること及び前記統計的に監視することを繰り返すことをさらに含む、請求項10に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項12】
前記終了が行われるまで、又は前記期間に割り当てられた予め決められた時間が経過するまで、前記受け取ること、前記加算すること及び前記統計的に監視することの反復を繰り返すことを含む、請求項10又は11に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項13】
前記期間は滞留時間を含み、前記方法は、前記期間の前記終了又は該期間の経過のうちいずれか早いほうの直後にサイクルシーケンスにおける次のm/zイオンについて別の滞留時間を開始することをさらに含む、請求項10〜12のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項14】
前記期間は滞留時間を含み、前記方法は、現在のサイクルにおいて監視すべきm/zイオンがもうないとき、前記期間の前記終了又は該期間の経過のうちいずれか早いほうの直後に新たなサイクルシーケンスにおける最初のm/zイオンの監視を開始することをさらに含む、請求項10〜12のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項15】
前記期間の前記終了直後にサイクルシーケンスにおける次のm/zイオンについて別の期間を開始することをさらに含む、請求項10〜14のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項16】
現在のサイクルにおいて監視すべきm/zイオンがもうないとき、前記期間の前記終了直後に新たなサイクルシーケンスにおける最初のm/zイオンの監視を開始することをさらに含む、請求項10〜14のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項17】
前記終了時に前記期間に関するタイミング情報を報告することをさらに含む、請求項10〜16のいずれか一項に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項18】
前記タイミング情報は滞留時間及び絶対サイクル時間のうちの1つを少なくとも含む、請求項17に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項19】
前記終了時に、検出される前記イオン又はイオン群の前記タイミング情報及び前記累積に対応するイオン強度値を報告することをさらに含む、請求項17に記載の走査型質量検出器のイオン検出の期間を動的に制御する方法。
【請求項20】
走査型質量分析計において使用されるシステムであって、
イオン検出器と、
選択された質量及び電荷のイオンを前記イオン検出器へ選択的に誘導する走査型又はシングルイオンモニタリング型質量分析計と、
前記選択された質量及び電荷のイオンを検出する際に前記イオン検出器からの読み取り値を選択的に累積して統計的に監視すると共に、前記イオン検出器によるイオン検出の期間を、前記累積された読み取り値から計算された累積が統計的に有効であるか、又は予め決められた存在量カウント以上であるという計算、及び予め決められた統計閾値に照らして前記期間では満足のいく存在量カウントを達成することが不可能であることを示す計算のうちの1つが得られると終了させるコントローラと
を備える、走査型質量分析計において使用されるシステム。
【請求項21】
前記期間の前記終了が行われないとき、前記コントローラは、予め決められた期間後に前記イオン検出を終える、請求項20に記載の走査型質量分析計において使用されるシステム。
【請求項22】
走査型質量分析計によるイオン検出の期間を動的に制御するための1つ又は複数の命令シーケンスを保持するコンピュータ読み取り可能媒体であって、1つ又は複数のプロセッサによる1つ又は複数の命令シーケンスの実行により、該1つ又は複数のプロセッサは、
単一のm/zのイオンの検出中に前記質量検出器のイオン検出器から読み取り値を受け取るステップと、
前記読み取り値を累積に加算するステップと、
前記累積を統計的に監視するステップと、
前記累積が統計的に有効であるか又は予め決められた存在量カウント以上であるという計算、及び予め決められた統計閾値に照らして前記期間では満足のいく存在量カウントを達成することが不可能であることを示す計算のうちの1つが得られると前記イオン検出の前記期間を終了するステップと
を行う、コンピュータ読み取り可能媒体。
【請求項23】
前記期間の前記終了が行われないとき、前記イオン検出器によるイオン検出は、前記期間に割り当てられた予め決められた時間にわたって続行される、請求項22に記載のコンピュータ読み取り可能媒体。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−248467(P2007−248467A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−64293(P2007−64293)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】