説明

イオン伝導スペーサー及びその製造方法並びに電気式脱塩装置又は電気透析装置

【課題】電気式脱塩装置に充填するイオン伝導スペーサーとして、脱塩運転中の寸法収縮を抑制し、良好で安定な脱塩性能を与えることのできるイオン伝導スペーサーを提供する。
【解決手段】本発明は、陽極と陰極の間に陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜が少なくとも一部交互に配列されている電気式脱塩装置又は電気透析装置において隣接するイオン交換膜によって形成されている室内に充填するイオン伝導スペーサーであって、有機高分子斜交網基材に、イオン交換基が、中性塩分解容量が0.5〜1.5meq/gとなるように導入されていることを特徴とするイオン伝導スペーサーに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気を用いて溶液中のイオンを移動させることによって、液の脱塩・濃縮を行う電気式脱塩装置や電気透析装置に使用されるスペーサーに関するものであり、特にイオン交換基が導入されたイオン伝導スペーサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気式脱塩装置或いは電気透析装置とは、正負の電極間に陽イオン(カチオン)交換膜及び陰イオン(アニオン)交換膜を配列して濃縮室及び脱塩室を交互に形成し、電位勾配を駆動源として、脱塩室内において被処理液体中のイオンをイオン交換膜を通して濃縮室へと移動・分離させることによって、液体中のイオン成分を除去したり、濃縮したりするものである。
【0003】
一般に、ある程度精製処理が行われた水、例えば逆浸透膜処理を行った水(RO処理水)を被処理水として用いて極めて高純度の超純水を得る場合などに用いるものを電気式脱塩装置と呼び、一方、これほどは高純度の水質を必要としない用途において用いるものを電気透析装置と呼ぶ。しかし、これらの原理は、上記のように、いずれも脱塩室内において被処理液体中のイオンをイオン交換膜を通して濃縮室へと移動・分離させることによって液体中のイオン成分を除去したり濃縮したりするというもので、実質的に同じであり、また近年では電気式脱塩装置と電気透析装置との境界が曖昧になってきている。以下の説明においては、特に示さない限り電気式脱塩装置を例にとって説明する。しかしながら、以下に説明する事項は電気透析装置にも適用することができ、本発明に係るイオン伝導スペーサーを電気透析装置に適用する場合も本発明の範囲に含まれる。また、本明細書で「電気式脱塩装置」とは、いわゆる電気透析装置も包含するものである。
【0004】
電気式脱塩装置においては、脱塩室や濃縮室内にイオン交換体を配置して室内でのイオンの流れを促進させたり、スペーサーと呼ばれる流路形成材を配置して、室内での流体の流路形成と同時に両イオン交換膜の接触を防ぎ、膜間距離を一定に維持させることが行われている。また、最近、このスペーサーとしてイオン交換基を導入したものを脱塩室や濃縮室、或いは極室に配置することによって、脱塩効率の向上、スケール生成の解消などを図ることが行われている。
【0005】
スペーサー基材にイオン交換基を導入する方法としては、放射線グラフト重合法が好ましく用いられている。放射線グラフト重合法は、高分子基材に放射線を照射してラジカルを形成させ、これにモノマーを反応させることによってモノマーを基材中に導入するという技法であり、既存の高分子成形体基材にイオン交換基を内部まで導入することができるので、上述のような電気式脱塩装置に用いるイオン伝導スペーサーの製造において、スペーサー基材にイオン交換基を導入するのに好適である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スペーサー基材にイオン交換基を導入すると、導入するイオン交換基の量やイオン型等の割合によって、電気式脱塩装置の運転中にイオン伝導スペーサーの寸法変化が起こるため、充填室内で被処理水の適当な流れが形成できずに処理水質の低下やスケールの形成、しいては膜同士の短絡を引き起こす場合がある。例えば、スルホン酸基を導入したイオン伝導スペーサーを電気透析装置の脱塩室にNa型で充填して脱塩運転を行うと、脱塩の進行に伴って徐々にH型が増加してスペーサーの寸法が大きくなる。脱塩装置においては、脱塩室の大きさは室枠によって固定されているために、このスペーサーの寸法増加を吸収することができず、イオン伝導スペーサー上にしわや波打ちなどが発生するようになる。スペーサーにしわや波打ちが発生すると、流体は凹部のみを通過するようになり、安定した脱塩が困難になる。また、スルホン酸基を導入したイオン伝導スペーサーをH型で電気式脱塩装置の脱塩室内に充填して脱塩運転を行なうと、被処理水の流入側で塩型が生成するためにスペーサーの寸法収縮が起こり、室枠とイオン伝導スペーサーとの間に隙間が生じるようになる。流体はこの隙間に集中して流れるため、安定した処理が達成できなくなる。電気式脱塩装置の脱塩室にイオン伝導スペーサーを充填する場合には、通常、イオン交換基を酸又はアルカリによってH型又はOH型に再生して充填し、運転中に塩型となったイオン交換基を、水解によってH型又はOH型に再生することで、長期間安定した脱塩処理を可能にしている。この水解によるイオン交換体の再生に関して詳しく説明すると、電気式脱塩装置の脱塩室内のカチオン交換基とアニオン交換基とが接触する部位においては、電位勾配下で水の解離(HO→H+OH)が起こり、この水の解離(水解)によって生成するHイオン及びOHイオンによって脱塩室内のイオン交換体が連続的に効率よく再生される。しかしながら、上述のように、例えば脱塩室の被処理水流入側では被処理水中のイオン濃度が高いために、イオン交換基の一部が塩型となった状態で平衡となる。したがって、特に脱塩室の被処理水流入側において脱塩運転中のイオン交換スペーサーの寸法収縮が大きく、被処理水の偏流やショートカット(バイパスフロー)の問題が顕著であった。濃縮室や極室に充填するイオン伝導スペーサーに関しても、同様の問題が起こる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ね、スペーサー基材にイオン交換基を導入してイオン伝導スペーサーを製造する際に、脱塩運転中のイオン伝導スペーサーの寸法変化などによる不具合を抑制するための最適値を見出した。
【0008】
即ち、本発明は、陽極と陰極の間に陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜が少なくとも一部交互に配列されている電気式脱塩装置又は電気透析装置において隣接するイオン交換膜によって形成されている室内に充填するイオン伝導スペーサーであって、有機高分子斜交網基材に、イオン交換基が、中性塩分解容量が0.5〜1.5meq/gとなるように導入されていることを特徴とするイオン伝導スペーサーに関する。
【0009】
一般に、イオン伝導スペーサーは脱塩室などにおけるイオンの移動を促進することによって脱塩効率を高めるために用いられるので、スペーサー基材に導入するイオン交換基は、イオン交換基の導入工程の際のスペーサー基材の寸法変化や劣化が実用に耐えないほど大きくならない限りにおいて、可能な限り多い量を導入することが望ましいと考えられており、脱塩運転中のイオン伝導スペーサーの寸法変化を考慮してイオン交換基の導入量を定めるという技術思想は、本発明者らが知る限りにおいてこれまでにおいて存在しない。
【0010】
以下、本発明の具体的な態様について説明するが、以下の説明は本発明の一具体例を説明したものであり、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。
本発明において、「イオン伝導スペーサー」とは、電気式脱塩装置の脱塩室及び/又は濃縮室、或いは極室内や、電気透析装置の各室内に充填され、室内の流体の流路形成を図ると共に、当該装置内に配置されているイオン交換膜同士の接触を防ぐ役割を果たすスペーサーに、イオン交換基を導入して、室内でのイオンの流れを更に促進させる役割を果たす部材を指す。
【0011】
このようなイオン伝導スペーサーの基材として用いられる材料としては、従来電気透析装置や電気式脱塩装置などにおいて流路形成材として広く用いられているポリオレフィン製の斜交網形状の基材を挙げることができる。本発明においてイオン伝導スペーサーを製造するための斜交網基材としては、単位面積あたりの重量10〜300g/m2、厚さ0.2〜1.5mm、目開き1〜10mmのものを好ましく用いることができる。
【0012】
本発明にかかるイオン伝導スペーサとしては、上述のようなポリオレフィン製の斜交網を基材として、これに、放射線グラフト法を用いてイオン交換機能を付与したものが、イオン伝導性に優れ、被処理水の分散性に優れているので、好ましい。なお、放射線グラフト重合法とは、高分子基材に放射線を照射してラジカルを形成させ、これにモノマーを反応させることによってモノマーを基材中に導入する技法である。
【0013】
放射線グラフト重合法に用いることができる放射線としては、α線、β線、ガンマ線、電子線、紫外線等を挙げることができるが、本発明においてはガンマ線や電子線を好ましく用いる。放射線グラフト重合法には、グラフト基材に予め放射線を照射した後、グラフトモノマーと接触させて反応させる前照射グラフト重合法と、基材とモノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、本発明においては、いずれの方法も用いることができる。また、モノマーと基材との接触方法により、モノマー溶液に基材を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、モノマーの蒸気に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材をモノマー溶液に浸漬した後モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法などを挙げることができるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。
【0014】
スペーサ基材に導入するイオン交換基としては、特に限定されることなく種々のカチオン交換基又はアニオン交換基を用いることができる。例えば、カチオン交換基としては、スルホン酸基などの強酸性カチオン交換基、リン酸基などの中酸性カチオン交換基、カルボキシル基などの弱酸性カチオン交換基、アニオン交換基としては、第1級〜第3級アミノ基などの弱塩基性アニオン交換基、第4級アンモニウム基などの強塩基性アニオン交換基を用いることができ、あるいは上記カチオン交換基及びアニオン交換基の両方を組み合わせてスペーサー基材に導入することもできる。
【0015】
これらの各種イオン交換基は、これらのイオン交換基を有するモノマーを用いてグラフト重合、好ましくは放射線グラフト重合を行うか、又はこれらのイオン交換基に転換可能な基を有する重合性モノマーを用いてグラフト重合を行った後に当該基をイオン交換基に転換することによって、スペーサ基材に導入することができる。この目的で用いることのできるイオン交換基を有するモノマーとしては、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)、メタクリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド(VBTAC)、ジエチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)などを挙げることができる。例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムをモノマーとして用いて放射線グラフト重合を行うことにより、基材に直接、強酸性カチオン交換基であるスルホン酸基を導入することができ、また、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドをモノマーとして用いて放射線グラフト重合を行うことにより、基材に直接、強塩基性アニオン交換基である第4級アンモニウム基を導入することができる。また、イオン交換基に転換可能な基を有するモノマーとしては、アクリロニトリル、アクロレイン、ビニルピリジン、スチレン、クロロメチルスチレン、メタクリル酸グリシジル(GMA)などが挙げられる。例えば、メタクリル酸グリシジルを放射線グラフト重合によって基材に導入し、次に亜硫酸ナトリウムなどのスルホン化剤を反応させることによって強酸性カチオン交換基であるスルホン酸基を導入したり、又はクロロメチルスチレンをグラフト重合した後に、基材をトリメチルアミン水溶液に浸漬して4級アンモニウム化を行うことによって、強塩基性アニオン交換基である第4級アンモニウム基を基材に導入することができる。
【0016】
本発明に係るイオン伝導スペーサーとしては、上述のような手法によって、中性塩分解容量が0.5〜1.5meq/gとなるようにイオン交換基が導入されているものを用いることを特徴とする。本発明の更に好ましい態様においては、イオン交換基の導入量は、中性塩分解容量が0.6〜1.4meq/gとなるような量が導入されていることが好ましい。
【0017】
本発明者らの研究によって、スペーサー基材へのイオン交換基の導入量がこの範囲内であると、十分な脱塩性能を引き出すことができると共に、運転中の寸法変化が小さく被処理液の安定な処理が可能であることが分かった。スペーサー基材へのイオン交換基の導入量が上記の範囲より小さいと、電気式脱塩装置の運転において、被処理水中のイオンの移動促進が十分でなく、運転電圧の上昇や処理水の純度低下という問題が起こる。一方、スペーサー基材へのイオン交換基の導入量が上記の範囲より大きいと、脱塩運転中におけるスペーサー基材の寸法変化が大きくなって、被処理水流の短絡などが起こるために、処理水質の低下、電気特性の不安定化などの問題が発生する。
【0018】
本発明においてスペーサー基材として用いられる斜交網のような基材は、液を保持する能力が劣っているので、グラフト重合を行う場合に含浸重合法を採用することができない。そのため、均一なグラフト重合を行うためには、液相グラフト重合法を採用することが好ましい。
【0019】
また、放射線グラフト重合をスペーサー基材に対して行う際の放射線照射量は、50〜500kGyとすることが好ましい。照射量がこの範囲を下回ると十分なグラフト重合が行われない。また照射量がこの範囲を上回ると、ラジカル量がそれに比例して増加する訳ではなく、また架橋や分子切断に起因する基材の物理的強度の劣化などの問題が生じる。
【0020】
本発明に係るイオン伝導スペーサーは、電気式脱塩装置又は電気透析装置の脱塩室、濃縮室、極室などに単独で充填することができる。被処理水中から除去すべきイオン成分がアニオン、カチオンの両方を含んでいる場合には、脱塩室にカチオン伝導スペーサー及びアニオン伝導スペーサーの両者を充填することが好ましい。また、被処理水中の主たるイオン成分がカチオンである場合や、被処理水中から除去すべきイオン成分がカチオンのみの場合には、脱塩室にカチオン伝導スペーサーのみを充填してもよいし、また、被処理水中の主たるイオン成分がアニオンである場合や、被処理水中から除去すべきイオン成分がアニオンのみの場合には、脱塩室にアニオン伝導スペーサのみを充填してもよい。更に、上述のイオン伝導スペーサーを、不織布などの繊維基材にイオン交換基を導入したイオン交換繊維材料と組みあわせて電気式脱塩装置又は電気透析装置の脱塩室、濃縮室、極室などに充填することもできる。例えば、脱塩室や濃縮室内において、アニオン交換膜に接してアニオン交換繊維材料を、カチオン交換膜に接してカチオン交換繊維材料を配置し、両イオン交換繊維材料の間にイオン伝導スペーサーを充填すれば、イオン伝導スペーサーからイオン交換膜へのイオンの移動が容易になり、脱塩率の向上や運転電圧の低減が可能になる。いずれの使用形態においても、本発明に係るイオン伝導スペーサーを用いれば、脱塩運転中のイオン伝導スペーサーの寸法収縮が小さいので、脱塩室等における空隙の生成に起因する被処理水の偏流やショートカット(バイパスフロー)に伴う脱塩性能の低下及び不安定化や処理水水質の悪化などの問題を抑制することができる。
【0021】
また、本発明は、上記に説明したイオン伝導スペーサーを室内に充填した電気式脱塩装置又は電気透析装置にも関する。
本発明の各種形態は以下の通りである。
【0022】
1.陽極と陰極の間に陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜が少なくとも一部交互に配列されている電気式脱塩装置又は電気透析装置において隣接するイオン交換膜によって形成されている室内に充填するイオン伝導スペーサーであって、有機高分子斜交網基材に、イオン交換基が、中性塩分解容量が0.5〜1.5meq/gとなるように導入されていることを特徴とするイオン伝導スペーサー。
2.有機高分子斜交網基材がポリオレフィン性の斜交網である上記第1項に記載のイオン伝導スペーサー。
【0023】
3.有機高分子斜交網基材の主鎖上に、放射線グラフト重合法を利用して、イオン交換基を有するグラフト重合体側鎖を導入することによって、イオン交換基が有機高分子斜交網基材に導入されている上記第1項又は第2項に記載のイオン伝導スペーサー。
4.イオン交換基が、スルホン酸基又は第4級アンモニウム基である上記第1項〜第3項のいずれかに記載のイオン伝導スペーサー。
【0024】
5.有機高分子斜交網基材の主鎖上に、放射線グラフト重合法を利用して、イオン交換基を有するグラフト重合体側鎖を、斜交網基材の中性塩分解容量が0.5〜1.5meq/gとなるように導入することを特徴とするイオン伝導スペーサーの製造方法。
6.陽極と陰極の間に陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜が少なくとも一部交互に配列されている電気式脱塩装置又は電気透析装置であって、隣接するイオン交換膜によって形成されている室内に、有機高分子斜交網基材に、イオン交換基が、中性塩分解容量が0.5〜1.5meq/gとなるように導入されているイオン伝導スペーサーが充填されていることを特徴とする電気式脱塩装置又は電気透析装置。
【実施例】
【0025】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に説明する。以下の記載は本発明の種々の具体例を例示するものであり、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。
【0026】
実施例1
強酸性カチオン伝導スペーサー1の製造
ポリエチレン製斜交網(厚さ:0.8mm、単位面積あたりの重量:170g/m2、網目の大きさ:縦3.5mm、横2mm)にガンマ線を160kGy照射した。この照射済み斜交網を、スチレンスルホン酸ナトリウム/アクリル酸/水の混合溶液(重量比=1/1/5)中に浸漬し、反応温度75℃で5時間反応させた。温水で十分に洗浄した後、乾燥して、重量増加によるグラフト率を測定したところ、140%であった。このグラフト斜交網は、中性塩分解容量1.14meq/g、弱酸基交換容量4.21meq/gであった。
【0027】
強塩基性アニオン伝導スペーサー2の製造
上記と同じポリエチレン製斜交網にガンマ線を同様に照射した後、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド/ジメチルアクリルアミド/水の混合溶液(重量比=1/1/2)中に浸漬し、50℃で10時間反応させた。温水で十分に洗浄した後、乾燥して、重量増加によるグラフト率を測定したところ、110%であった。このグラフト斜交網は、中性塩分解容量0.65meq/gであった。
【0028】
電気式脱塩装置の組立及び通水試験
図1に示す構成の電気式脱塩装置を組み立てた。陽極1及び陰極6の間に、陽極側からカチオン交換膜(C)2、アニオン交換膜(A)3、カチオン交換膜(C)4、アニオン交換膜(A)5の順に配列することにより、陽極側から、陽極室7、濃縮室8、脱塩室9、濃縮室10、陰極室11の順に配列された電気式脱塩装置を構成した。カチオン交換膜(C)としてはトクヤマ製のNEOSEPTA CMBを、アニオン交換膜(A)としてはトクヤマ製のNEOSEPTA AHAをそれぞれ用いた。脱塩室、濃縮室及び極室の厚さは3mm、電極の大きさは縦200mm、横150mmとした。脱塩室9には、カチオン交換膜4に沿って、上記により製造し塩酸により再生したカチオン伝導スペーサー1(縦200mm、横150mm)13を1枚、アニオン交換膜3に沿って、上記により製造しアルカリにより再生したアニオン伝導スペーサー2(縦200mm、横150mm)を1枚、それぞれ向かい合わせで充填した。また、濃縮室8,10へは、カチオン交換膜に沿って、上記により製造し塩酸により再生したカチオン伝導スペーサー1(縦200mm、横150mm)13を1枚、アニオン交換膜に沿って、上記により製造しアルカリにより再生したアニオン伝導スペーサー2(縦200mm、横150mm)12を1枚、それぞれ向かい合わせで充填し、陽極室7へは上記により製造し塩酸により再生したカチオン伝導スペーサー1(縦200mm、横150mm)13を1枚、陰極室11へは、上記により製造しアルカリにより再生したアニオン伝導スペーサー2(縦200mm、横150mm)12を1枚、それぞれ充填した。
【0029】
両電極間に1Aの直流電流を印加して、塩化ナトリウム濃度100mg/L(電気伝導率240μS/cm)となるように調整した合成原水を被処理水として流量5Lh-1で各室に通水した。処理水として電気伝導率5μS/cmの精製水が得られ、本発明に係るイオン伝導スペーサーを充填した電気式脱塩装置の高い脱塩効率が示された。
【0030】
比較例1
カチオン伝導スペーサー3の製造
実施例1のカチオン伝導スペーサー1の製造工程においてグラフト重合の反応時間を45分間とした他は実施例1と同様の工程でカチオン伝導スペーサー3を製造した。グラフト斜交網のグラフト率は31%、中性塩分解容量は0.23meq/g、弱酸基交換容量は0.96meq/gであった。
【0031】
アニオン伝導スペーサー4の製造
実施例1のアニオン伝導スペーサー2の製造工程においてグラフト重合の反応時間を40分間とした他は実施例1と同様の工程でアニオン伝導スペーサー4を製造した。グラフト斜交網のグラフト率は27%、中性塩分解容量は0.25meq/gであった。
【0032】
電気式脱塩装置の組立及び通水試験
カチオン伝導スペーサー1、アニオン伝導スペーサー2に代えて上記で製造したカチオン伝導スペーサー3及びアニオン伝導スペーサー4を用いた他は、実施例1と同様に電気式脱塩装置を構成して通水試験を行った。処理水の電気伝導率は31μS/cmであり、脱塩率が低かった。
【0033】
比較例2
カチオン伝導スペーサー5の製造
実施例1のカチオン伝導スペーサー1の製造工程においてグラフト重合の反応時間を10時間とした他は実施例1と同様の工程でカチオン伝導スペーサー5を製造した。グラフト斜交網のグラフト率は211%、中性塩分解容量は1.53meq/g、弱酸基交換容量は5.02meq/gであった。
【0034】
アニオン伝導スペーサー6の製造
実施例1のアニオン伝導スペーサー2の製造工程においてグラフト重合の反応時間を16時間とした他は実施例1と同様の工程でアニオン伝導スペーサー6を製造した。グラフト斜交網のグラフト率は165%、中性塩分解容量は1.22meq/gであった。
【0035】
電気式脱塩装置の組立及び通水試験
カチオン伝導スペーサー1、アニオン伝導スペーサー2に代えて上記で製造したカチオン伝導スペーサー5及びアニオン伝導スペーサー6を用いた他は、実施例1と同様に電気式脱塩装置を構成して通水試験を行った。処理水の電気伝導率は、通水初期には3μS/cmであり、脱塩率が高かったが、徐々に悪化して通水5時間後に電気伝導率68μS/cmとなった。脱塩装置を解体して内部を観察したところ、カチオン伝導スペーサーの寸法が、原水流入側で横140mm、処理水流出側で横147mmに収縮していた。脱塩性能の低下は、このカチオン伝導スペーサーの寸法収縮によって被処理水のショートカット(バイパスフロー)が起こったためであると考えられる。
【0036】
実施例2
強酸性カチオン伝導スペーサー3の製造
実施例1と同様の斜交網に、同様の放射線照射を行い、実施例1のカチオン伝導スペーサーの製造で用いたものと同様の反応液中に浸漬して、50℃で5時間反応させてグラフト率61%を得た。このグラフト斜交網の中性塩分解容量は0.63meq/g、弱酸基交換容量は2.6meq/gであった。
【0037】
強塩基性アニオン伝導スペーサー4の製造
実施例1と同様の斜交網に、同様の放射線照射を行い、実施例1のアニオン伝導スペーサーの製造で用いたものと同様の反応液中に浸漬して、50℃で7時間反応させてグラフト率83%を得た。このグラフト斜交網の中性塩分解容量は0.56meq/gであった。
【0038】
上記で得られた強酸性カチオン伝導スペーサー3及び強塩基性アニオン伝導スペーサー4を用いて、実施例1と同様に図1に示す構成の電気式脱塩装置の組立及び通水試験を行った。処理水の電気伝導率は8μs/cmと高い脱塩率が示された。
【0039】
実施例3
強酸性カチオン伝導スペーサー5の製造
ポリエチレン製斜交網(厚さ:0.7mm、単位面積当たりの重量:105g/m2、網目の大きさ:縦4mm、横3mm)に、実施例1の強酸性カチオン伝導スペーサーの製造と同様の放射線グラフト重合を行い、グラフト率102%を得た。このグラフト斜交網の中性塩分解容量は0.99meq/g、弱酸基交換容量は4.05meq/gであった。
【0040】
強塩基性アニオン伝導スペーサー6の製造
上記と同様の斜交網を用い、実施例1の強塩基性アニオン伝導スペーサーの製造と同様の放射線照射を行い、同様の反応液中に浸漬して50℃で10時間反応させてグラフト率91%を得た。このグラフト斜交網の中性塩分解容量は0.71meq/gであった。
【0041】
上記で得られた強酸性カチオン伝導スペーサー5及び強塩基性アニオン伝導スペーサー6を用い、実施例1と同様に図1に示す構成の電気式脱塩装置の組立及び通水試験を行った。処理水の電気伝導率は7.6μs/cmと高い脱塩率が示された。
【0042】
比較例3
強酸性カチオン伝導スペーサー7の製造
ポリエチレン製斜交網(厚さ:1.2mm、単位面積当たりの重量:180g/m2、網目の大きさ:縦7mm、横5mm)に、実施例1の強酸性カチオン伝導スペーサーの製造と同様の放射線グラフト重合を行なったが、実施例1のような高いグラフト率が得られず、グラフト率は76%であった。このグラフト斜交網の中性塩分解容量は0.36meq/g、弱酸基交換容量は2.6meq/gであった。
【0043】
強塩基性アニオン伝導スペーサー8の製造
上記と同様の斜交網を用い、実施例1の強塩基性アニオン伝導スペーサーの製造と同様の放射線照射を行い、同様の反応液中に浸漬して50℃で10時間反応させてグラフト率43%を得た。このグラフト斜交網の中性塩分解容量は0.33meq/gであった。
【0044】
上記で得られた強酸性カチオン伝導スペーサー7及び強塩基性アニオン伝導スペーサー8を用い、実施例1と同様に図1に示す構成の電気式脱塩装置の組立及び通水試験を行った。処理水の電気伝導率は41μs/cmであり脱塩率が低かった。
【0045】
比較例4
強酸性カチオン伝導スペーサー9の製造
ポリエチレン製斜交網(厚さ:1.2mm、単位面積当たりの重量:180g/m2、網目の大きさ:縦7mm、横5mm)に、実施例1の強酸性カチオン伝導スペーサーの製造と同様の放射線照射を行い、同様の反応液中に浸漬して50℃で24時間反応させてグラフト率163%を得た。このグラフト斜交網の中性塩分解容量は1.66meq/g、弱酸基交換容量は5.4meq/gであった。
【0046】
強塩基性アニオン伝導スペーサー10の製造
比較例3で用いたものと同様の斜交網を用い、実施例1の強塩基性アニオン伝導スペーサーの製造と同様の放射線照射を行い、同様の反応液中に浸漬して50℃で24時間反応させてグラフト率181%を得た。このグラフト斜交網の中性塩分解容量は0.77meq/gであった。
【0047】
上記で得られた強酸性カチオン伝導スペーサー9及び強塩基性アニオン伝導スペーサー10を用い、実施例1と同様に図1に示す構成の電気式脱塩装置の組立及び通水試験を行った。処理水の電気伝導率は、通水初期には2.6μs/cmと高い脱塩率が示されたが、通水3時間後に10μs/cm、通水5時間後に48μs/cm、通水10時間後には69μs/cmとなった。実験用電気式脱塩装置を解体して内部のイオン伝導スペーサーを観察したところ、カチオン伝導スペーサーの横方向の寸法が原水入口側で137mm、処理水流出側で148mmに収縮していた。脱塩性能の低下は、カチオン伝導スペーサーの寸法収縮によって被処理水のショートカットが起こったためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、電気式脱塩装置の脱塩運転中の寸法収縮を抑えたイオン伝導スペーサーが提供され、これを用いて電気式脱塩装置を構成することにより、良好で安定な脱塩処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1で用いた電気式脱塩装置の構成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極の間に陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜が少なくとも一部交互に配列されている電気式脱塩装置又は電気透析装置において隣接するイオン交換膜によって形成されている室内に充填するイオン伝導スペーサーであって、有機高分子斜交網基材に、イオン交換基が、中性塩分解容量が0.5〜1.5meq/gとなるように導入されていることを特徴とするイオン伝導スペーサー。
【請求項2】
有機高分子斜交網基材がポリオレフィン性の斜交網である請求項1に記載のイオン伝導スペーサー。
【請求項3】
有機高分子斜交網基材の主鎖上に、放射線グラフト重合法を利用して、イオン交換基を有するグラフト重合体側鎖を導入することによって、イオン交換基が有機高分子斜交網基材に導入されている請求項1又は2に記載のイオン伝導スペーサー。
【請求項4】
イオン交換基が、スルホン酸基又は第4級アンモニウム基である請求項1〜3のいずれかに記載のイオン伝導スペーサー。
【請求項5】
有機高分子斜交網基材の主鎖上に、放射線グラフト重合法を利用して、イオン交換基を有するグラフト重合体側鎖を、斜交網基材の中性塩分解容量が0.5〜1.5meq/gとなるように導入することを特徴とするイオン伝導スペーサーの製造方法。
【請求項6】
陽極と陰極の間に陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜が少なくとも一部交互に配列されている電気式脱塩装置又は電気透析装置であって、隣接するイオン交換膜によって形成されている室内に、有機高分子斜交網基材に、イオン交換基が、中性塩分解容量が0.5〜1.5meq/gとなるように導入されているイオン伝導スペーサーが充填されていることを特徴とする電気式脱塩装置又は電気透析装置。
【請求項7】
イオン伝導スペーサーが脱塩室に充填されている請求項6に記載の電気式脱塩装置又は電気透析装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−175408(P2006−175408A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373825(P2004−373825)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】