説明

イオン伝導性高分子電解質膜およびその製造方法

【課題】優れた耐久性を発揮し、さらに厚さ方向のイオン伝導性が高く固体高分子形燃料電池に適したイオン伝導性高分子電解質膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】イオン伝導性高分子電解質膜は、イオン性解離基を含有する第1の高分子と、第1の高分子とは異なる第2の高分子とを含むイオン伝導性組成物から形成される。第2の高分子の固有粘度は2〜15dL/gに設定される。各高分子の分子鎖が一定方向に配向され、X線回折測定から下記式(1)により求められる各高分子の分子鎖の一定方向に沿った配向度αが0.3以上1未満に設定される。電解質膜の厚さ方向のイオン導電率が同膜の表面と平行な方向のイオン導電率よりも高く設定される。
配向度α=(180−Δβ)/180…(1)
(但し、Δβは、X線回折測定によるピーク散乱角を固定して方位角方向の0〜360度までのX線回折強度分布を測定したときの半値幅を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば固体高分子形燃料電池に使用され、燃料極側で発生した水素イオンを空気極側へ透過させるイオン伝導性高分子電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の発達に伴い、電力の出力密度が高く小型の移動用電源が要望されており、さらに環境問題の解決のために低公害かつ高効率である電源が要望されている。これらの要望を満たすものとして燃料電池が注目されている。燃料電池は従来の発電システムと異なり、例えば水素またはメタノールを燃料として、該燃料を空気に含まれる酸素と電気化学的に反応させることにより電気エネルギーを得る。燃料電池は、その電解質の違いにより、固体高分子形、固体酸化物形、溶融炭酸塩形、リン酸形などに分類される。これらの中でも、固体高分子形燃料電池は、常温(100℃以下)で作動し、且つ起動時間も短くて小型化が容易なことから、移動用電源として盛んに研究されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は燃料極と空気極とを備え、それらの間にイオン伝導性高分子電解質膜などの高分子電解質膜が設けられている。高分子電解質膜の周縁部は各電極から露出しており、複数のガスケットを介して一対のセパレータによって挟持されている。この固体高分子形燃料電池では、例えば燃料極側から供給された燃料としての水素又はメタノールが、触媒により水素イオンと電子とに解離する。そして、水素イオンは高分子電解質膜を透過して空気極に達し、触媒により空気中の酸素と反応して水を生成する。このとき、これら一連の反応により、電気エネルギーが得られる。
【0004】
高分子電解質膜には高いイオン伝導性が要求されており、現在、様々な高分子電解質膜が提案されている。例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸などの酸性基が導入されたフッ素系の高分子電解質膜が広く使用されている。しかしながら、フッ素系の高分子電解質膜には、ガラス転移温度が低いことから固体高分子形燃料電池の作動温度の上限である100℃付近で水分を保持することが困難であり、十分なイオン伝導性が発揮されないという問題があった。更に、フッ素系の高分子電解質膜には、メタノールの透過率が高いという問題があった。
【0005】
フッ素系の高分子電解質膜が有する前記問題を克服するために、強酸基が導入された非フッ素含有脂肪族系の高分子電解質膜(以下、炭化水素系高分子電解質膜という。)が提案されている。具体的には、耐薬品性および耐熱性を有するポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリベンズイミダゾール等の芳香族高分子に強酸基であるスルホン酸基が導入された高分子電解質膜が報告されている。
【0006】
しかしながら、炭化水素系高分子電解質膜は、前記フッ素系の高分子電解質膜に比べて容易に水和および膨潤することから、膨張と収縮とを繰り返しながら時間の経過とともに収縮する傾向がある。そのため、炭化水素系高分子電解質膜においてガスケットによって挟持されている箇所の収縮により、炭化水素系高分子電解質膜とガスケットとの間に隙間が生じて燃料などが漏洩するおそれがある。
【0007】
そのため、炭化水素系高分子電解質膜が有する前記問題を克服するために、特許文献1には、酸性基を有するポリベンズオキサゾール又はポリベンズチアゾールと、スルホン酸基などを有する塩基性ポリマーとの混合物からなるブレンドポリマー電解質膜が開示されている。特許文献2には、酸性基を有するポリマーと、塩基性無機化合物との混合物からなるブレンドポリマー電解質膜が開示されている。これらのブレンドポリマー電解質膜は、塩基性ポリマー又は塩基性無機化合物によって耐久性を向上させている。また、特許文献3には、電場の印加によってイオン性解離基を有する高分子の分子鎖が一定方向に配向されている高分子電解質膜が開示されている。この高分子電解質膜は、高分子の分子鎖の配向によってイオン伝導性を高めている。
【特許文献1】特開2003−22709号公報
【特許文献2】特開2003−22708号公報
【特許文献3】特開2003−234015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1及び特許文献2に記載のブレンドポリマー電解質膜には、イオン伝導性が低いという問題があった。特許文献3には、高分子電解質膜が高分子の分子鎖の配向方向に沿って割れやすいことから耐久性が低いという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、優れた耐久性を発揮し、さらに厚さ方向のイオン伝導性が高く固体高分子形燃料電池に適したイオン伝導性高分子電解質膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、イオン性解離基を含有する第1の高分子と、該第1の高分子とは異なる第2の高分子とを含むイオン伝導性組成物から形成されるイオン伝導性高分子電解質膜であって、前記第2の高分子の固有粘度が2〜15dL/gに設定され、前記第1及び第2の高分子の分子鎖が一定方向に配向され、X線回折測定から下記式(1)により求められる前記第1及び第2の高分子の分子鎖の前記一定方向に沿った配向度αが0.3以上1未満に設定され、前記膜の厚さ方向のイオン導電率が膜の表面と平行な方向のイオン導電率よりも高く設定されているイオン伝導性高分子電解質膜を提供する。
【0011】
配向度α=(180−Δβ)/180 …(1)
(但し、Δβは、X線回折測定によるピーク散乱角を固定して方位角方向の0〜360度までのX線回折強度分布を測定したときの半値幅を表す。)
請求項2に記載の発明は、前記第2の高分子が塩基性高分子である請求項1に記載のイオン伝導性高分子電解質膜を提供する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記塩基性高分子が、該高分子の構成単位中に1級もしくは2級のアミノ基を有する高分子、又はアゾール系高分子である請求項2に記載のイオン伝導性高分子電解質膜を提供する。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記塩基性高分子がポリベンズイミダゾールである請求項2又は請求項3に記載のイオン伝導性高分子電解質膜を提供する。
請求項5に記載の発明は、イオン性解離基を含有する第1の高分子と、該第1の高分子とは異なる第2の高分子とを含むイオン伝導性組成物から形成され、前記第2の高分子の固有粘度が2〜15dL/gに設定され、前記第1及び第2の高分子の分子鎖が一定方向に配向され、X線回折測定から下記式(1)により求められる前記第1及び第2の高分子の分子鎖の前記一定方向に沿った配向度αが0.3以上1未満に設定され、前記膜の厚さ方向のイオン導電率が膜の表面と平行な方向のイオン導電率よりも高く設定されているイオン伝導性高分子電解質膜の製造方法であって、前記イオン伝導性組成物を調製する調製工程と、イオン伝導性組成物中の第1及び第2の高分子の分子鎖を一定方向に配向させる配向工程と、第1及び第2の高分子の分子鎖の配向を維持した状態でイオン伝導性組成物を固化させる固化工程とを備えているイオン伝導性高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【0014】
配向度α=(180−Δβ)/180 …(1)
(但し、Δβは、X線回折測定によるピーク散乱角を固定して方位角方向の0〜360度までのX線回折強度分布を測定したときの半値幅を表す。)
請求項6に記載の発明は、前記第1及び第2の高分子が液晶性高分子であり、前記製造方法は、前記調製工程後、且つ配向工程前に、イオン伝導性組成物中の第1及び第2の高分子の液晶性を発現させる発現工程を更に備える請求項5に記載のイオン伝導性高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記配向工程が、イオン伝導性組成物に対して磁場を印加することにより第1及び第2の高分子の分子鎖を一定方向に配向させる工程である請求項5又は請求項6に記載のイオン伝導性高分子電解質膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた耐久性を発揮し、さらに厚さ方向のイオン伝導性が高く固体高分子形燃料電池に適したイオン伝導性高分子電解質膜を提供することができる。また本発明によれば、そうしたイオン伝導性高分子電解質膜の製造方法も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化したイオン伝導性高分子電解質膜(以下、単に電解質膜という。)を詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態の電解質膜11は、イオン伝導性組成物(以下、単に組成物という。)からシート状に形成されている。この電解質膜11は、固体高分子形燃料電池の燃料極と空気極との間に介在され、燃料極側で発生した水素イオンを空気極側へ透過させる。
【0018】
電解質膜11には、耐久性およびイオン伝導性が具備されている。電解質膜11の耐久性は、電解質膜11の割れ、欠け、孔等の物理的な欠陥と、電解質膜11の膨潤率とに起因している。電解質膜11に物理的な欠陥が発生した場合、電解質膜11の耐久性が低下するだけでなく、燃料電池の発電効率も低下する。電解質膜11の膨張率が高い場合、電解質膜11の耐久性が低下するだけでなく、燃料電池から出力される電力も低下する。
【0019】
一方、イオン伝導性は水素イオンの透過のし易さを表す指標であり、電解質膜11のイオン導電率に起因している。電解質膜11は、イオン伝導率が高いほど水素イオンを容易に透過させることができ、イオン伝導性が高くなる。水素イオンは通常、電解質膜11の厚さ方向(図1のZ軸方向)に透過する。このため、電解質膜11は、該膜の厚さ方向のイオン伝導性を特に高めて、同膜の表面と平行なX軸方向またはY軸方向のイオン伝導性よりも高くなっている。X軸方向などの膜の表面と平行な方向は、前記膜の厚さ方向に直交している。
【0020】
組成物は、イオン性解離基を含有する第1の高分子と、第2の高分子とを含んでいる。第1の高分子は、イオン性解離基に起因して電解質膜11のイオン導電率を高めることにより、電解質膜11のイオン伝導性を高める。イオン性解離基は、極性溶媒中でイオン性解離基に水素イオンが結合したり、イオン性解離基に結合した水素イオンが解離したりする特性を有している。イオン性解離基は、第1の高分子の主鎖または側鎖と共有結合により結合している。第1の高分子において、イオン性解離基との結合部位は特に限定されない。
【0021】
イオン性解離基としては例えばプロトン酸基および塩基性基が挙げられるが、電解質膜11のイオン導電率を高める作用が優れていることから、プロトン酸基が好ましい。プロトン酸基としては、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基およびこれらのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などの塩が挙げられる。これらは単独で第1の高分子の主鎖または側鎖に結合してもよいし、二種以上が主鎖または側鎖にそれぞれ結合してもよい。これらの中でも、電解質膜11のイオン導電率を高める作用がより優れていることから、スルホン酸基およびホスホン酸基が好ましく、スルホン酸基がより好ましい。塩基性基としては、1級もしくは2級のアミノ基などの極性基、又はこのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩などの塩が挙げられる。
【0022】
イオン性解離基は、例えばイオン性解離基としてスルホン酸基を含んだ液晶性モノマーを合成した後に該液晶性モノマー同士を重合させることにより、第1の高分子の主鎖または側鎖に結合する。また、イオン性解離基は、第1の高分子を強酸であるプロトン酸液中に浸漬させることにより、同第1の高分子の主鎖または側鎖に結合する。第1の高分子のプロトン酸液への浸漬は、例えばイオン性解離基を含有しない第1の高分子を含む組成物により電解質膜11を形成した後に該電解質膜11をプロトン酸液中に浸漬させることにより行われる。イオン性解離基の第1の高分子への結合は、プロトン酸液中に第1の高分子を分散させることにより行われてもよい。さらにイオン性解離基は、リンカーを介して第1の高分子の主鎖または側鎖に結合してもよい。リンカーとしては、例えばアルキレン、アルキレンエーテル、アルキレンエーテルケトン、アリーレン、アリーレンエーテル、及びアリーレンエーテルケトンが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わせされて用いられてもよい。さらに、リンカーはフッ素化されてもよい。
【0023】
リンカーを介してイオン性解離基を第1の高分子の主鎖または側鎖へ結合させる方法としては、電子線などの照射により発生したフェノール性水酸基または化学反応により発生したフェノール性水酸基のナトリウム塩もしくはカリウム塩を形成した後、サルトンによりアルキレンエーテル化する方法が挙げられる。また、前記ナトリウム塩にハロゲン化アルケニルを例えばWilliamson反応により反応させた後、スルホン化する方法が挙げられる。例えば、第1の高分子の主鎖がイミダゾールのときには、水素化リチウムなどの還元剤を用いて脱水素化させた後にサルトンと反応させることにより、第1の高分子の主鎖をスルホン化することができる。
【0024】
イオン性解離基を含有する第1の高分子の構成単位(繰返し単位)におけるイオン性解離基の個数は、0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましい。イオン性解離基の個数が0.1未満では、電解質膜11はイオン導電率が低く十分なイオン伝導性を発揮することができない。
【0025】
第1の高分子としてはイオン性解離基を含有するものであれば特に限定されないが、第1の高分子の分子鎖の配向制御が容易であることから液晶性を発現するものが好ましい。以下の説明において、液晶性を発現する高分子を液晶性高分子という。イオン性解離基を含有し、且つ液晶性を発現する第1の高分子は、イオン性解離基と、液晶性高分子とから構成されている。
【0026】
液晶性高分子とは、液晶状態において分子鎖が規則的に配列することにより光学的異方性を示す高分子のことである。液晶性高分子の分子鎖とは、液晶性発現部位を有する主鎖または側鎖のことである。液晶性高分子は、その主鎖のみ又は側鎖のみに液晶性発現部位を有してもよいし、主鎖および側鎖の両方に液晶性発現部位を有してもよい。液晶性高分子の光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光顕微鏡を用いて観察した際に、液晶に固有の強い複屈折性が発現することにより確認される。液晶性高分子としては、熱液晶性高分子(サーモトロピック液晶性高分子)及びリオトロピック液晶性高分子が挙げられる。
【0027】
熱液晶性高分子とは、所定の温度範囲で光学的異方性溶融相を示す液晶性高分子のことである。この熱液晶性高分子は主鎖型、側鎖型、及び複合型に分類される。主鎖型の熱液晶性高分子とは、液晶性発現のもととなる剛直な分子構造を有するメソゲン基が主鎖中に含まれている熱液晶性高分子のことである。一方、側鎖型の熱液晶性高分子とは、前記メソゲン基が側鎖中に含まれている熱液晶性高分子のことであり、例えば炭化水素系またはシロキサン系の主鎖にメソゲン基が側鎖として連なった構造を繰返し単位として含んでいる。複合型の熱液晶性高分子とは、前記主鎖型と側鎖型とが複合された熱液晶性高分子のことである。
【0028】
一方、リオトロピック液晶性高分子とは、溶媒に溶解することにより、光学的異方性相を示して液晶状態となる液晶性高分子のことである。液晶性高分子は、前記第2の高分子と容易に混合されることにより組成物を容易に調製することができることから、リオトロピック液晶性高分子が好ましい。リオトロピック液晶性高分子は、優れた耐熱性および耐薬品性を発揮する。ここで、耐熱性に優れているとは、燃料電池が使用される温度範囲においてリオトロピック液晶性高分子の構造が変化しないことをいう。一方、耐薬品性に優れているとは、電解質膜11が薬品に接触したときにリオトロピック液晶性高分子の構造が変化しないことをいう。耐薬品性としては、例えば耐酸性および耐アルカリ性が挙げられるが、電解質膜11が酸性雰囲気下で用いられることが多いことから、リオトロピック液晶性高分子は優れた耐酸性を発揮することが好ましい。
【0029】
溶媒は、前記リオトロピック液晶性高分子が溶解されたときに液晶状態をなすものであれば特に限定されず、具体例としてN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、キノリン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチルホスホンアミド等の非プロトン系溶媒、及びトリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ポリリン酸、硫酸などのプロトン系溶媒が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。二種以上が組み合わされて用いられるときには、溶媒同士の反応を抑制するために、酸性溶媒と塩基性溶媒とが組み合わされないことが好ましい。さらに溶媒には、リオトロピック液晶性高分子の溶解性を高めるために例えばルイス酸触媒が添加されてもよい。
【0030】
リオトロピック液晶性高分子としては、ポリベンズアゾール、ポリイミド、ポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリメタフェニレンイソフタラミド又はこれらの共重合体、メソゲン基を含むポリアリーレン系重合体などの主鎖型、末端に親水基が結合したメソゲン基もしくは親水基が親油基(疎水基)である高分子鎖に結合した側鎖型が挙げられる。これらの中でも、ポリベンズアゾール及びポリイミドが、耐熱性に加えて優れた耐薬品性を発揮することから好ましい。さらに、リオトロピック液晶性高分子はフッ素化されてもよい。リオトロピック液晶性高分子のフッ素化とは、リオトロピック液晶性高分子の主鎖または側鎖がフッ素原子を含むことをいう。
【0031】
ポリベンズアゾールは、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズイミダゾール及びポリベンズチアゾールから選ばれる少なくとも一種からなる高分子である。ポリベンズイミダゾールは、芳香族基に結合した少なくとも1つのイミダゾール環を有する繰返し単位からなる高分子であり、具体例としてポリ(フェニレンベンゾビスイミダゾール)が挙げられる。ポリベンズオキサゾールは、芳香族基に結合した少なくとも1つのオキサゾール環を有する繰返し単位からなる高分子であり、具体例としてポリ(フェニレンベンゾビスオキサゾール)が挙げられる。ポリベンズチアゾールは、芳香族基に結合した少なくとも1つのチアゾール環を有する繰返し単位からなる高分子であり、具体例としてポリ(フェニレンベンゾビスチアゾール)が挙げられる。
【0032】
イオン性解離基を含有するポリベンズアゾールの繰返し単位としては、下記一般式(2)〜(7)に示されるものが挙げられる。下記一般式(2)〜(7)において、Ar〜Arは芳香族炭化水素基を示し、X1及びXはイオウ原子、酸素原子、イミノ基または−N(RSOH)−(但し、Rはアルキレン、アルキレンエーテル、アルキレンエーテルケトン、アリーレン、アリーレンエーテル又はアリーレンエーテルケトンを示す。)を示し、Zはイオン性解離基またはその塩を示し、kは1〜10の整数を示す。ポリベンズアゾールは、下記一般式(2)、(3)及び(4)から選ばれる少なくとも一つで示される繰返し単位のみにより構成されてもよいが、一般式(2)、(3)及び(4)から選ばれる少なくとも一つで示される繰返し単位と、一般式(5)、(6)及び(7)から選ばれる少なくとも一つで示される繰返し単位との組み合わせにより構成されてもよい。下記一般式(2)〜(7)で示される繰返し単位は、ランダム重合によりポリベンズアゾールを構成してもよいし、ブロック重合によりポリベンズアゾールを構成してもよい。下記一般式(2)、(3)又は(4)で示される繰返し単位の重合度(以下、重合度mという。)と、一般式(5)、(6)又は(7)で示される繰返し単位の重合度(以下、重合度nという。)とは、それぞれ1〜600が好ましい。
【0033】
【化1】

【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

ここで、Ar〜Arで示される芳香族炭化水素基は、1個の芳香族環または芳香族複素環により構成されてもよいし、複数の芳香族環または芳香族複素環が互いに直接結合することにより、若しくはイオウ原子、酸素原子、窒素原子などのヘテロ原子を有する官能基を介して結合することにより構成されてもよい。さらに芳香族炭化水素基を構成するベンゼン環の各炭素原子と結合している水素原子が、例えばメチル基、エチル基、t−ブチル基などのブチル基からなる炭素数1〜10のアルキル基、又はフェニル基などの芳香族炭化水素基に置換されてもよい。加えて、前記芳香族炭化水素基が複数の芳香族環または芳香族複素環により構成されているときには、各芳香族炭化水素基および芳香族複素環の結合部位としては、ポリベンズアゾールの主鎖が直線状をなしてその配向制御が容易になるためにパラ位が好ましい。Ar1又はArで示される芳香族炭化水素基の具体例を下記表1に示し、Ar2又はArで示される芳香族炭化水素基の具体例を下記表2に示し、Ar又はArで示される芳香族炭化水素基の具体例を下記表3に示す。表2の各芳香族炭化水素基がAr2の具体例を示すとき、及び表3の各芳香族炭化水素基がArの具体例を示すときには、ベンゼン環の少なくとも1つの炭素原子と結合している水素原子がイオン性解離基に置換されている。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

ポリベンズアゾールが前記一般式(2)、(3)及び(4)から選ばれる少なくとも一つで示される繰返し単位と、前記一般式(5)、(6)及び(7)から選ばれる少なくとも一つで示される繰返し単位との組み合わせにより構成されるときには、重合度mは重合度nよりも大きい値であることが好ましい。さらに、重合度mと重合度nとの合計は、好ましくは10以上600未満の範囲である。重合度mと重合度nとの合計が10未満では、電解質膜11中における液晶性高分子の各分子同士の絡み具合が弱くなり、電解質膜11の強度が低下するおそれがある。重合度mと重合度nとの合計が600以上の場合、液晶性高分子の分子鎖の配向制御が困難になる。
【0042】
イオン性解離基を含有する第1の高分子の固有粘度は、0.5〜25dL/gが好ましく、1〜20dL/gがより好ましく、1〜15dL/gがさらに好ましい。第1の高分子の固有粘度の値は、溶媒としてメタンスルホン酸を用いるとともにオストワルド粘度計を用い、米国材料試験協会規格 ASTM D2857−95に準拠して測定された25℃における値である。第1の高分子の固有粘度が0.5dL/g未満では、第1の高分子の分子量が小さいことから、製造された電解質膜11の強度が低下して脆くなるおそれがある。第1の高分子の固有粘度が25dL/gを超えると、組成物の粘度が高くなって電解質膜11の製造の際に第1の高分子の分子鎖の配向が困難になる。
【0043】
第2の高分子は、その物性に起因して電解質膜11を補強することにより、電解質膜11の耐久性を高める。第2の高分子は前記第1の高分子とは異なる。ここで、“第2の高分子が第1の高分子とは異なる”は、下記(a)〜(c)の概念を含む。即ち、第1及び第2の高分子は、前記イオン性解離基の有無、又は高分子の種類によって区別される。
【0044】
(a)第1及び第2の高分子が異なる種類の高分子であり、且つ第1の高分子のみが前記イオン性解離基を含有する。
(b)第1及び第2の高分子が異なる種類の高分子であり、且つ第1及び第2の高分子が前記イオン性解離基を含有する。
【0045】
(c)第1及び第2の高分子が同じ種類の高分子であり、且つ第1の高分子のみが前記イオン性解離基を含有する。
第2の高分子としては前記作用を発揮するものであれば特に限定されないが、前記作用に加えて電解質膜11の膨潤を抑制することができることから塩基性高分子が好ましい。塩基性高分子は、ポリベンズアゾールなどのアゾール系高分子を含む。更に、塩基性高分子の中でも、該高分子の繰返し単位中に1級もしくは2級のアミノ基を有する高分子、又はアゾール系高分子が好ましく、ポリベンズイミダゾールがより好ましい。構成単位中に1級もしくは2級のアミノ基を有する塩基性高分子は、電解質膜11の膨潤を効果的に抑制することができ、アゾール系高分子は優れた耐酸性を発揮する。ポリベンズイミダゾールは、優れた耐酸性を発揮するとともに電解質膜11の膨潤を効果的に抑制することができる。
【0046】
第2の高分子として用いられるポリベンズアゾールは、例えば前記一般式(5)、(6)又は(7)で示される繰り返し単位により構成されており、重合度nは、好ましくは50以上600未満である。重合度nが50未満では、電解質膜11中における第2の高分子の各分子同士の絡み具合が弱くなり、第2の高分子による電解質膜11の補強効果が低下して電解質膜11の強度が低下するおそれがある。重合度nが600以上の場合、第2の高分子の分子鎖の配向制御が困難になる。
【0047】
構成単位中に1級もしくは2級のアミノ基を有する高分子としては、ポリイミダゾール、ポリビニルイミダゾール、ポリベンズビスイミダゾール、ポリキノキサリン、ポリキノリン、ポリビニルアミン、及びポリ(4−ビニルピリジン)の他に、ポリベンズアゾールの概念にも含まれるポリベンズイミダゾールが挙げられる。
【0048】
第2の高分子は、上述のように前記イオン性解離基を含有してもよい。この場合、第2の高分子は、電解質膜11の補強作用に加えてイオン伝導性を発揮する。更に、第2の高分子は、第1の高分子と同様に液晶性を発現してもよい。即ち、第2の高分子は、第1の高分子と同様に前記液晶性高分子から構成されてもよい。この場合、第2の高分子の分子鎖は容易に配向制御される。
【0049】
例えば、第2の高分子としてイオン性解離基を含有するポリベンズイミダゾールが用いられる場合、このポリベンズイミダゾールは、前記一般式(2)、(3)及び(4)から選ばれる少なくとも一つで示される繰返し単位と、前記一般式(5)、(6)及び(7)から選ばれる少なくとも一つで示される繰返し単位との組み合わせにより構成されている。このとき、X及びXはイミノ基を示す。重合度mは重合度nよりも大きい値であることが好ましい。さらに、重合度mと重合度nとの合計は、好ましくは10以上600未満の範囲である。重合度mと重合度nとの合計が10未満では、電解質膜11中における第2の高分子の各分子同士の絡み具合が弱くなり、電解質膜11の強度が低下するおそれがある。重合度mと重合度nとの合計が600以上の場合、第2の高分子の分子鎖の配向制御が困難になる。
【0050】
第2の高分子は、イオン性解離基を含有しないときには第1の高分子と同じ種類の高分子、又は第1の高分子の構造と近い構造を有する高分子であることが好ましく、イオン性解離基を含有するときには第1の高分子の構造と近い構造を有する高分子であることが好ましい。この場合、第2の高分子の分子鎖が第1の高分子の分子鎖と同じように配向することから、同一の条件によって第1及び第2の高分子の分子鎖が配向される。そのため、第1及び第2の高分子を容易に配向させることができる。
【0051】
さらに、第2の高分子の各分子鎖は、互いに架橋されてもよいし、放射線または電子線の照射によるラジカル種の発生に起因するグラフト重合によって互いに結合されてもよい。加えて、第1及び第2の高分子の主鎖に水酸基、カルボキシル基、1級または2級のアミノ基などの極性基が含有されているときには、それらと活性化されたアルキレン又はアリーレン末端のカルボカチオンとの反応により、第1の高分子の分子鎖と第2の高分子の分子鎖とが架橋されてもよい。この場合、第1の高分子と容易に架橋されることから、第2の高分子は塩基性高分子が好ましい。第2の高分子の分子鎖同士の架橋、又は第1の高分子の分子鎖と第2の高分子の分子鎖との架橋により、電解質膜11の膨潤を効果的に抑制することができる。
【0052】
第2の高分子の固有粘度は2〜15dL/gであり、7.5〜13dL/gが好ましい。第2の高分子の固有粘度は、前記第1の高分子の固有粘度と同様にして測定される。第2の高分子の固有粘度が2dL/g未満では、第2の高分子の分子量が小さいことから、製造された電解質膜11の強度が低下して脆くなる。第2の高分子の固有粘度が15dL/gを超えると、組成物の粘度が高くなって電解質膜11の製造の際に第2の高分子の分子鎖の配向が困難になる。
【0053】
組成物は塩基性の無機化合物を含有してもよい。塩基性の無機化合物として公知のものが用いられ、具体例としてハイドロタルサイト、水酸化アルミニウムゲル、酸化マグネシウム、アルカリ性珪酸塩、及び酸化亜鉛が挙げられる。無機化合物には、組成物中での分散性を高めるために表面処理が施されてもよい。
【0054】
電解質膜11は、前記組成物により形成されていることから、第1及び第2の高分子を含有している。さらに電解質膜11は、第1及び第2の高分子の分子鎖が一定方向に配向されることにより、同電解質膜11の厚さ方向のイオン伝導性が高められている。ここで、イオン伝導性の向上は、イオン性解離基が電解質膜11の厚さ方向に配列されることから、イオンチャンネルが厚さ方向に延びるように形成されて同方向のイオン導電率が高まるためと推察される。そのため、イオン性解離基を含有する高分子の分子鎖の配向方向は、イオン性解離基が厚さ方向に配列される方向が好ましい。例えば、イオン性解離基が第1の高分子の主鎖に結合しているときには、イオン伝導性高分子の主鎖が電解質膜11の厚さ方向に延びるように規則的に配向されることが好ましい。
【0055】
電解質膜11のX線回折測定から下記式(1)により求められる前記第1及び第2の高分子の分子鎖の前記一定方向に沿った配向度αは、0.3以上1未満である。配向度αが0.3未満では、電解質膜11の前記一定方向のイオン導電率が低下することから同方向のイオン伝導性が低下する。一方、配向度αは、半値幅Δβが常に正の値を示すことから、下記式(1)から1以上の値はとり得ない。
【0056】
配向度α=(180−Δβ)/180 …(1)
(但し、Δβは、X線回折測定によるピーク散乱角を固定して方位角方向の0〜360度までのX線回折強度分布を測定したときの半値幅を表す。)
ここで、第1及び第2の高分子の配向度αの求め方について、具体的に説明する。
【0057】
第1及び第2の高分子の配向度αを求めるためには、電解質膜11について広角X線回折測定(透過)を行う。X線回折装置において、試料にX線を照射すると、該試料中に含まれる粒子(分子鎖)に配向がある場合には、同心弧状の回折パターン(デバイ環)が得られる。従って、第1及び第2の高分子が前記一定方向として電解質膜11の厚さ方向に配向されている場合、前記配向度αを求めるために、まず複数の電解質膜11を積層した後、電解質膜11の積層物をその厚さ方向に切断して厚さ方向に延びる切断面を形成する。次いで、前記切断面にX線を照射してデバイ環を得る。ここで、X線の照射方向は、前記切断面に対する垂直方向である。次に、このデバイ環の中心から半径方向におけるX線回折強度分布を示す回折パターンを得る。
【0058】
続いて、前記回折パターンから、2θ=15〜30度の範囲において最も強度が高くなる2θ(以下、ピーク散乱角という。)を求める。ピーク散乱角は、例えば26度に表れる。次いで、このピーク散乱角を固定して、方位角方向(デバイ環の周方向)に0〜360度までのX線回折強度分布を測定することにより、図2に示すような方位角方向のX線回折強度分布が得られる。次に、前記方位角方向のX線回折強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅Δβ)を求め、この半値幅Δβを前記式(1)に代入することにより配向度αを求める。図2に示す方位角方向のX線回折強度分布の場合、配向度αは0.57である。
【0059】
電解質膜11は、該膜の厚さ方向のイオン導電率が同膜の表面と平行な方向のイオン導電率よりも高い。ここで、イオン導電率は例えば交流インピーダンス法により求められる。具体的には、2つの電極間の距離(電極間距離)を変化させて抵抗値を測定し、電極間距離と抵抗測定値とをプロットして得られるグラフの勾配の値から接触抵抗の影響を除くことによりイオン導電率が求められる。さらに電解質膜11は、下記式(8)により求められるイオン導電率比γが1を超える範囲が好ましく、2以上60未満がより好ましく、6以上30未満がさらに好ましい。イオン導電率比γが1以下では、電解質膜11の厚さ方向のイオン伝導性を十分に高めることができない。イオン導電率比γが60以上では、電解質膜11の製造が困難となる。
【0060】
イオン導電率比γ=電解質膜11の厚さ方向のイオン導電率/電解質膜11の表面と平行な方向のイオン導電率 …(8)
次に、電解質膜11の製造方法として、第1及び第2の高分子が液晶性高分子である電解質膜11の製造方法について説明する。この製造方法は、調製工程、発現工程、配向工程、及び固化工程を備えている。調製工程は、第1及び第2の高分子などの前記各成分を配合して組成物を調製する工程である。この調製工程では、各成分の配合順序は特に限定されない。
【0061】
発現工程は、組成物中の第1及び第2の高分子の液晶性を発現させる工程である。この発現工程では、第1及び第2の高分子が熱液晶性高分子のときには、組成物を加熱溶融させることにより液晶性を発現させる。一方、第1及び第2の高分子がリオトロピック液晶性高分子のときには、組成物に前記溶媒を加えて溶媒含有組成物を調製する。このとき、リオトロピック液晶性高分子は、溶媒に溶解するとともに前記溶媒含有組成物が加熱されることにより液晶性を発現する。
【0062】
溶媒含有組成物中のリオトロピック液晶性高分子の濃度は2〜60質量%が好ましい。リオトロピック液晶性高分子の濃度が2質量%未満では、リオトロピック液晶性高分子はその濃度が低いために液晶性を発現することが困難になる。一方、リオトロピック液晶性高分子の濃度が60質量%を超えると、溶媒含有組成物の粘度が高くなり、配向工程においてリオトロピック液晶性高分子の分子鎖の配向が困難になる。溶媒含有組成物中のリオトロピック液晶性高分子の濃度は、第1の高分子を構成するリオトロピック液晶性高分子の濃度と、第2の高分子を構成するリオトロピック液晶性高分子の濃度との合計である。
【0063】
溶媒含有組成物の温度は40〜250℃が好ましく、40〜200℃がより好ましく、60〜150℃がさらに好ましい。溶媒含有組成物の温度が40℃未満または250℃を超えると、リオトロピック液晶性高分子が液晶性を十分に発現することができない。溶媒含有組成物の加熱手段は特に限定されず、例えば電気ヒータ、赤外線ランプ等の輻射熱を利用する方法および誘電加熱法が挙げられる。溶媒含有組成物は、不活性ガス雰囲気下で加熱されることが好ましい。さらに溶媒含有組成物は、液晶性を発現しない温度範囲にまで一旦加熱されることにより、リオトロピック液晶性高分子を均一な等方相に転移させた後、液晶性を発現する温度範囲にまで冷却されてもよい。この場合、溶媒含有組成物が液晶性を発現する温度範囲にまで加熱されるのみの場合に比べて、リオトロピック液晶性高分子の液晶相を成長させることができる。
【0064】
配向工程は、液晶性を発現した第1及び第2の高分子の分子鎖を一定方向に配向させる工程である。第1及び第2の高分子の分子鎖を一定方向に配向させる方法としては、組成物を溶融した状態または溶媒により液状にした状態で第1及び第2の高分子の自己配向により配向させる方法、流動場、せん断場、磁場及び電場から選ばれる少なくとも一種の場により配向させる方法が挙げられる。これらの配向方法の中でも、流動場、せん断場、磁場及び電場から選ばれる少なくとも一種の場により配向させる方法が好ましく、磁場により配向させる方法がより好ましい。
【0065】
例えば磁場により配向させる方法では、磁場発生装置を用いて組成物に磁場を印加する。このとき、第1及び第2の高分子の分子鎖は、磁力線と平行に延びる方向に配向される。磁場発生装置としては、例えば永久磁石、電磁石、超電導磁石、及びコイルが挙げられる。これらの中でも、超電導磁石が高い磁束密度を有する磁場を容易に発生させることができるために好ましい。
【0066】
組成物に印加される磁場の磁束密度は、1〜30テスラ(T)が好ましく、2〜25Tがより好ましく、3〜20Tがさらに好ましい。磁束密度が1T未満では第1及び第2の高分子の分子鎖を十分に配向させることができず、逆に30Tを超えると実用的でない。第1及び第2の高分子がリオトロピック液晶性高分子のときには、溶媒含有組成物に磁場が印加される。
【0067】
固化工程は、第1及び第2の高分子の分子鎖の配向を維持した状態で組成物を固化させる工程である。この固化工程では、第1及び第2の高分子が熱液晶性高分子のときには、組成物を冷却固化させる。一方、第1及び第2の高分子がリオトロピック液晶性高分子のときには、前記溶媒含有組成物を加熱して溶媒を除去させることにより組成物を固化(凝固)させてもよいが、凝固液を用いて組成物を固化させることが好ましい。凝固液は、前記溶媒との相溶性を有し、かつリオトロピック液晶性高分子が難溶性を示すものが好ましく、具体例として水、リン酸水溶液、硫酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、メタノール、エタノール、アセトン、及びエチレングリコールが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0068】
溶媒含有組成物を固化させるときには、凝固液を溶媒含有組成物に接触させる。このとき、溶媒のみが凝固液に溶解して溶媒含有組成物中から凝固液中に移動する。その結果、リオトロピック液晶性高分子が析出して組成物が固化する。このため、凝固液の前記具体例の中でも、溶媒の移動が穏やかに行われることにより、製造された電解質膜11の表面の平面性を高めることができることから、10〜70質量%のリン酸水溶液、及びメタノール、エタノール等の低級アルコールが好ましい。
【0069】
凝固液の温度は−60〜60℃が好ましく、−30〜30℃がより好ましく、−20〜0℃がさらに好ましい。凝固液の温度が−60℃未満では、溶媒含有組成物の固化が遅くて電解質膜11の製造効率が低下するおそれがある。一方、凝固液の温度が60℃を超えると、電解質膜11の表面の平面性が低下したり電解質膜11中のリオトロピック液晶性高分子の密度に偏りが発生したりするおそれがある。固化工程では、第1及び第2の高分子の分子鎖の配向を積極的に維持するために、組成物または溶媒含有組成物に前記磁場を印加することが好ましい。
【0070】
固化工程後、固化した組成物を洗浄及び乾燥させる。固化した組成物の洗浄は、該組成物を洗浄液中に浸漬させたり、同組成物に洗浄液を噴霧したりすることにより行われる。洗浄液としては水等の極性溶媒が挙げられる。固化した組成物の乾燥は、空気、窒素、アルゴン等の加熱気体を用いる方法、電気ヒータ、赤外線ランプ等の輻射熱を利用する方法、又は誘電加熱法により行われる。このとき、固化した組成物の外縁部を拘束してその収縮を制限してもよい。乾燥温度は100〜500℃が好ましく、100〜400℃がより好ましく、100〜200℃がさらに好ましい。乾燥温度が100℃未満では組成物の乾燥が不十分となり、逆に500℃を超えると液晶性高分子が分解するおそれがある。前記各工程は、例えば調製工程と発現工程とを同時に行うように、各工程を連続的に行ってもよい。
【0071】
以下に、一例として、第1及び第2の高分子としての熱液晶性高分子を含有する組成物から電解質膜11を製造する方法について説明する。
ここで、電解質膜11を製造するための金型21について説明する。図3に示すように、金型21は、電解質膜11の形状に対応する形状を有するキャビティ22を備えている。さらに金型21は、図示しない加熱装置を備えている。
【0072】
電解質膜11を製造するときには、まず調製工程及び発現工程として、第1の高分子としてのイオン性解離基を含有する熱液晶性高分子と、第2の高分子としての熱液晶性高分子と、他の成分とを混合して組成物を調製した後、該組成物を加熱溶融させて液晶性を発現させる。次いで、金型21のキャビティ22に加熱溶融された組成物を充填して中間体13を形成する。組成物の充填は、射出成形装置、押出成形装置、プレス成形装置などの合成樹脂材料の加熱成形装置により行われる。中間体13は、金型21に備えられた加熱装置により、溶融状態に維持される。
【0073】
続いて、配向工程として、一対の永久磁石23a,23bを金型21の上下に配設する。このとき、上方に位置する永久磁石23aと下方に位置する永久磁石23bとの間には、直線状に延びる磁力線Mが発生する。その結果、中間体13に磁場が印加される。このとき、各熱液晶性高分子の分子鎖は、磁力線Mが中間体13の厚さ方向と平行に延びるために、該中間体13の厚さ方向(上下方向)に配向される。
【0074】
次に、固化工程として、前記各熱液晶性高分子の分子鎖の配向状態を維持した状態で、金型21を冷却することにより中間体13を固化させる。次いで、金型21から中間体13を取出した後、該中間体13を洗浄および乾燥させて電解質膜11を製造する。
【0075】
また、第1及び第2の高分子としてのリオトロピック液晶性高分子を含有する組成物から電解質膜11を製造する方法について説明する。
電解質膜11を製造するときには、まず調製工程及び発現工程として、第1の高分子としてのイオン性解離基を含有するリオトロピック液晶性高分子と、第2の高分子としてのリオトロピック液晶性高分子と、他の成分とを混合して組成物を調製した後、該組成物に溶媒を加えて溶媒含有組成物を調製する。次いで、図4に示すように、スリットダイ等を用いて溶媒含有組成物を基板24上に流延して中間体13を形成する。基板24としては、エンドレスベルト、エンドレスドラム、エンドレスフィルム、板状物が挙げられる。基板24の材質としては、例えばガラス、合成樹脂材料、及び金属材料が挙げられるが、ステンレス鋼、ハステロイ系合金、タンタル等の耐腐食性材料が好ましい。
【0076】
続いて、中間体13上に別の基板24を載置することにより、該中間体13を一対の基板24で挟持する。このとき、中間体13は、前記一対の基板24によって挟持されることにより、空気に含まれる水分との接触面積が低下して該空気による劣化を抑制することができる。
【0077】
続いて、配向工程として、一対の永久磁石23a,23bを各基板24の上下に配設する。このとき、上方に位置する永久磁石23aと下方に位置する永久磁石23bとの間には、直線状に延びる磁力線Mが発生する。その結果、中間体13に磁場が印加される。このとき、各リオトロピック液晶性高分子の分子鎖は、磁力線Mが中間体13の厚さ方向と平行に延びるために、該中間体13の厚さ方向(上下方向)に配向される。さらに、各基板24の周囲には図示しない加熱装置が配設されており、中間体13は液晶性を発現する温度にまで加熱されている。
【0078】
次に、固化工程として、前記各リオトロピック液晶性高分子の分子鎖の配向状態を維持した状態で各基板24から中間体13を剥離した後、溶媒含有組成物を加熱して溶媒を除去させることにより中間体13を固化させる。次いで、該中間体13を洗浄および乾燥させて電解質膜11を製造する。
【0079】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に説明する。
・ 本実施形態の電解質膜11は、イオン性解離基を含有する第1の高分子と、該第1の高分子とは異なる第2の高分子とを含む組成物から形成されている。第1及び第2の高分子の分子鎖が一定方向に配向され、その一定方向における配向度α及び第2の高分子の固有粘度が前記範囲に設定されている。加えて、電解質膜11の厚さ方向のイオン導電率が同膜の表面と平行な方向のイオン導電率よりも高く設定されている。
【0080】
このため、電解質膜11は、イオン性解離基によりイオン導電率を高めてイオン伝導性を高めることができるとともに、固有粘度が前記範囲に設定されている第2の高分子に起因して耐久性を高めることができる。さらに、電解質膜11は、配向度α及び厚さ方向のイオン導電率が前記範囲に設定されることにより、厚さ方向のイオン伝導性を特に高めることができる。
【0081】
・ 前記液晶性高分子は、ポリベンズアゾール、即ちポリベンズオキサゾール、ポリベンズイミダゾール及びポリベンズチアゾールから選ばれる少なくとも一種が好ましい。この場合、電解質膜11は、耐熱性および耐薬品性を高めることができ、例えば酸性雰囲気下で用いられてもイオン伝導性の低下が起きることを防止することができる。
【0082】
尚、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記第1及び第2の高分子を液晶性高分子以外の高分子から構成してもよい。この場合、電解質膜11の製造において前記発現工程が省略される。また、熱液晶性高分子を含む組成物から、前記基板24を用いて電解質膜11を製造してもよいし、リオトロピック液晶性高分子を含む組成物から、前記金型21を用いて電解質膜11を製造してもよい。更に、1枚の基板24のみを用いて電解質膜11を製造してもよい。この場合、空気に含まれる水分による劣化を防ぐために、中間体13を乾燥空気雰囲気下に置くことが好ましい。
【0083】
・ 流動場やせん断場により第1及び第2の高分子の分子鎖を配向させるときには、配向工程及び固化工程において、例えば射出成形装置、押出成形装置、プレス成形装置等の成形装置を用いることにより第1及び第2の高分子の分子鎖を任意の一方向に配向させたブロックを成形した後、該ブロックをスライスして電解質膜11を製造してもよい。このとき、前記ブロックは、イオン伝導性が最も高くなる方向が電解質膜11の厚さ方向になるようにスライスされる。ブロックをスライスする方法としては、ダイヤモンドカッター等の回転刃、かんな盤、ウォーターアブレーションカッター、ワイヤーカッター等を用いる方法が挙げられる。
【0084】
・ 前記中間体13を、例えば圧縮成形、押出成形、射出成形、注型成形、カレンダー成形、塗装、印刷、ディスペンサー、又はポッティングの方法により形成してもよい。
・ 前記電解質膜11を、リチウムイオン二次電池(ポリマー電池)等の固体高分子形燃料電池以外の電池、海水の電解、イオン導電アクチュエータ等のように、水素イオン等の陽イオンの伝導性を有する電解質膜が好適に使用される種々の用途に用いてもよい。
【実施例】
【0085】
次に、実施例および比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。実施例および比較例に用いられる各高分子の固有粘度は、溶媒としてメタンスルホン酸を用いるとともにオストワルド粘度計を用い、溶液中の高分子の濃度が0.05g/dLであるとともに25℃における値である。
(実施例1〜6及び比較例1〜9)
実施例1においては、調製工程および発現工程として、攪拌装置、窒素導入管、及び乾燥器を備えた反応容器に、ポリリン酸(Pの縮合率115%)39.06g、五酸化リン11.52g、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩6.39g(30.0mmol)、2−スルホテレフタル酸8.05g(30.0mmol)を充填して反応溶液を調製した後、該反応溶液を窒素雰囲気下70℃で0.5時間撹拌した。次いで、反応溶液を撹拌しながら、120℃で3時間、130℃で10時間、165℃で10時間、190℃で15時間の順に段階的に加熱することによって反応溶液中の各成分を反応させて粗製スルホン化ポリベンズオキサゾール溶液を得た。偏光顕微鏡を用いた観察により、粗製スルホン化ポリベンズオキサゾール溶液が液晶性を示すことを確認した。
【0086】
続いて、粗製スルホン化ポリベンズオキサゾール溶液をメタノール、アセトン、及び水を用いて順に洗浄することにより、イオン性解離基を含有する第1の高分子としての屑状のスルホン化ポリベンズオキサゾール(スルホン化PBO)を得た。粗製スルホン化ポリベンズオキサゾール溶液の洗浄後、pH試験を用いて粗製スルホン化ポリベンズオキサゾール溶液のpHが中性であることを確認した。スルホン化PBOの固有粘度は2.01dL/gであった。
【0087】
一方、攪拌装置、窒素導入管、及び乾燥器を備えた反応容器に、ポリリン酸(Pの縮合率115%)300g、4,6−ジアミノレゾルシノール二塩酸塩5g(23.4mmol)、テレフタル酸ジクロライド4.76g(23.4mmol)を充填して反応溶液を調製した後、該反応溶液を70℃で16時間撹拌した。次いで、反応溶液を撹拌しながら、90℃で5時間、130℃で3時間、150℃で16時間、170℃で3時間、185℃で3時間、200℃で48時間の順に段階的に加熱することによって反応液中の各成分を反応させて粗製ポリベンズオキサゾール溶液を得た。続いて、メタノール、アセトン、及び水を順に用いて粗製ポリベンズオキサゾール溶液を再沈殿することにより、第2の高分子としての屑状のポリベンズオキサゾール(PBO−I)を得た。PBO−Iの固有粘度は7.5dL/gであった。
【0088】
次に、スルホン化PBO及びPBO−Iを下記表4に示す割合で混合した後にポリリン酸を加え、溶媒含有組成物としての25質量%スルホン化PBO/PBO−I混合溶液を調製した。偏光顕微鏡を用いた観察により、前記混合溶液が液晶性を示すことを確認した。
【0089】
次いで、前記混合液を2枚の基板24の間に塗布して、膜状をなす中間体13を得た。続いて、配向工程として、磁力線Mが中間体13の厚さ方向と平行に延びるように、2枚の基板24を上下一対の永久磁石23a、23bの間に配置した。そして、中間体13に10Tの磁場を印加しながら、100℃で25分加熱した。
【0090】
次に、固化工程として、中間体13を静置しながら室温(25℃)まで自然冷却して固化させた。続いて、固化した中間体13を、基板24に挟持させた状態でメタノールと水との混合溶液中に浸漬した。そして、前記混合溶液中にて、基板24のうちの1枚を取り外し、中間体13をさらに固化させた。固化した中間体13をそのままた前記混合液中に1時間浸漬し、さらに水中で1時間浸漬した後、110℃で2時間乾燥し、電解質膜11としてのスルホン化PBO/PBO−Iフィルム(厚さ:150μm)を得た。前記配向工程における磁場の印加方向は、基板24上に広がるスルホン化PBO/PBO−Iフィルムに対して図1に示すZ軸方向に一致している。
【0091】
実施例2においては、第2の高分子として固有粘度が10dL/gであるポリベンズオキサゾール(PBO−II)を用い、スルホン化PBOとPBO−IIとを下記表4に示す割合で混合した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/PBO−IIフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0092】
実施例3においては、第2の高分子として固有粘度が13dL/gであるポリベンズオキサゾール(PBO−III)を用い、スルホン化PBOとPBO−IIIとを下記表4に示す割合で混合した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/PBO−IIIフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0093】
実施例4においては、イオン性解離基を含有する第2の高分子として固有粘度が2.2dL/gであるスルホン化ポリベンズイミダゾール(スルホン化PBI−I)を用いた。そして、スルホン化PBOとスルホン化PBI−Iとを下記表4に示す割合で混合した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/スルホン化PBI-Iフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0094】
実施例5においては、イオン性解離基を含有する第2の高分子として固有粘度が5.2dL/gであるスルホン化ポリベンズイミダゾール(スルホン化PBI−II)を用いた。そして、スルホン化PBOとスルホン化PBI−IIとを下記表4に示す割合で混合した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/スルホン化PBI−IIフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0095】
実施例6においては、第2の高分子として固有粘度が8.2dL/gであるポリベンズイミダゾール(PBI)を用い、スルホン化PBOとPBIとを下記表4に示す割合で混合した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/PBIフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0096】
比較例1においては、第2の高分子として固有粘度が27dL/gであるポリベンズオキサゾール(PBO−IV)を用い、スルホン化PBOとPBO−IVとを下記表4に示す割合で混合した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/PBO−IVフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0097】
比較例2においては、磁場の印加を省略するとともに前記配向工程における加熱時間を20分に変更した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/PBO−Iフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0098】
比較例3においては、磁場の印加を省略するとともに前記配向工程における加熱時間を20分に変更した以外は、実施例2と同様にしてスルホン化PBO/PBO−IIフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0099】
比較例4においては、磁場の印加を省略するとともに前記配向工程における加熱時間を20分に変更した以外は、実施例3と同様にしてスルホン化PBO/PBO−IIIフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0100】
比較例5においては、第2の高分子としてスルホン化PBI−IIを用いた。そして、スルホン化PBOとスルホン化PBI−IIとを下記表5に示す割合で混合し、更に磁場の印加を省略するとともに前記配向工程における加熱時間を20分に変更した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/スルホン化PBI−IIフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0101】
比較例6においては、第2の高分子としてPBIを用いた。そして、スルホン化PBOとPBIとを下記表5に示す割合で混合し、更に磁場の印加を省略するとともに前記配向工程における加熱時間を20分に変更した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/PBIフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0102】
比較例7においては、第2の高分子を省略した以外は実施例1と同様にしてスルホン化PBOフィルム(厚さ:150μm)を得た。
比較例8においては、イオン性解離基を含有する第2の高分子として固有粘度が1.5dL/gであるスルホン化ポリベンズイミダゾール(スルホン化PBI−III)を用いた。そして、スルホン化PBOとスルホン化PBI−IIIとを下記表5に示す割合で混合した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化PBO/スルホン化PBI-IIIフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0103】
比較例9においては、第1の高分子としてスルホン化パーフルオロカーボン(デュポン社製のNafion112)を用いるとともに第2の高分子を省略した。そして、磁場の印加を省略するとともに前記配向工程における加熱時間を20分に変更した以外は、実施例1と同様にしてスルホン化パーフルオロカーボンフィルム(厚さ:150μm)を得た。
【0104】
そして、各例のフィルムについて、下記の各項目に関し測定または評価を行った。その結果を表4及び表5に示す。表4及び表5において、各化合物を示す欄における数値の単位は重量部である。“配向度α”欄の“−”は、各高分子の分子鎖が一定方向に配向していなかったことを示す。“配向度α”欄以外の各欄における“−”は、当該欄の項目の測定または算出を行うことができなかったことを示す。
【0105】
<配向度α>
X線回折装置(株式会社リガク製のRINT−RAPID)を用いて、図1のX軸方向からX線を照射して得られた2θ=15〜25度付近に表れる方位角方向のX線回折強度分布におけるピークの半値幅Δβに基づき、前記式(1)により配向度αを算出した。実施例1において、ピーク散乱角が26度における方位角方向のX線回折強度分布を図2に示す。
【0106】
<イオン導電率およびイオン導電率比>
各例のフィルムを一定の形状に切り出し、切出されたフィルムを板状の白金プローブ(10mm×10mm)で挟み込み、80℃90%RHの高温高湿雰囲気下に静置した後、インピーダンスアナライザーを用いて測定された交流インピーダンスを電解質膜の厚さ方向のイオン導電率とした。フィルムの表面と平行な方向のイオン導電率は、フィルムの表面に白金プローブを押し当てて白金プローブの距離を変化させる以外は、前記厚さ方向と同様にして求めた。そして、得られた厚さ方向と表面と平行な方向のイオン導電率から前記式(8)によりイオン導電率比を算出した。
【0107】
<膨潤率>
各例のフィルムを80℃の純水中に12時間浸漬した。そして、浸漬前後のフィルムの質量に基づいて下記式(9)により膨潤率を算出した。
【0108】
膨潤率(質量%)=(W−W)/W×100 …(9)
(但し、Wは浸漬後のフィルムの質量を示し、Wは浸漬前のフィルムの質量を示す。)
<フィルムの状態>
各例の乾燥後のフィルムの状態を目視にて評価した。表4及び表5の“フィルムの状態”欄において、“○”はフィルムに欠け等の物理的な欠陥が発生しておらず、フィルムの状態が良好であることを示し、“×”はフィルムが脆く、割れ等の物理的な欠陥が容易に発生することを示す。
【0109】
【表4】

【0110】
【表5】

表4に示すように、実施例1〜6においては各項目について優れた結果が得られた。そのため、各実施例のフィルムはイオン伝導性を高めることができ、特に厚さ方向のイオン伝導性を高めることができた。さらに、各実施例のフィルムは、フィルムの状態が良好であることから耐久性も高めることができた。従って、各実施例のフィルムは、固体高分子形燃料電池に好適に使用可能である。
【0111】
更に、実施例6では、第2の高分子としてPBIを用いることにより、フィルムの膨潤率を効果的に低下させて耐久性をより高めることができた。実施例4,5では、第2の高分子としてスルホン化PBIを用いることにより、フィルムの膨潤率を効果的に低下させて耐久性を高めるだけでなく、実施例6に比べて各方向のイオン導電率を高めてイオン伝導性を高めることができた。
【0112】
比較例1では、PBO−IVの固有粘度が15dL/gを超えることから、第1及び第2の高分子を配向させることができなかった。比較例2〜6及び9においては、配向工程において磁場が印加されていないことから各高分子の分子鎖が一定方向に配向されておらず、厚さ方向のイオン伝導性が各実施例に比べて低かった。比較例7においては、第2の高分子が含有されていないことから、フィルムに割れ等が容易に発生して各実施例に比べて耐久性が低かった。比較例8においては,第2の高分子の固有粘度が2dL/g未満であることから、フィルムに割れ等が容易に発生して各実施例に比べて耐久性が低かった。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】実施形態の電解質膜を示す要部斜視図。
【図2】方位角方向のX線回折強度分布を示すグラフ。
【図3】電解質膜の製造工程を示す概念図。
【図4】電解質膜の製造工程を示す概念図。
【符号の説明】
【0114】
Δβ…半値幅、11…イオン伝導性高分子電解質膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性解離基を含有する第1の高分子と、該第1の高分子とは異なる第2の高分子とを含むイオン伝導性組成物から形成されるイオン伝導性高分子電解質膜であって、
前記第2の高分子の固有粘度が2〜15dL/gに設定され、
前記第1及び第2の高分子の分子鎖が一定方向に配向され、
X線回折測定から下記式(1)により求められる前記第1及び第2の高分子の分子鎖の前記一定方向に沿った配向度αが0.3以上1未満に設定され、
前記膜の厚さ方向のイオン導電率が膜の表面と平行な方向のイオン導電率よりも高く設定されていることを特徴とするイオン伝導性高分子電解質膜。
配向度α=(180−Δβ)/180 …(1)
(但し、Δβは、X線回折測定によるピーク散乱角を固定して方位角方向の0〜360度までのX線回折強度分布を測定したときの半値幅を表す。)
【請求項2】
前記第2の高分子が塩基性高分子である請求項1に記載のイオン伝導性高分子電解質膜。
【請求項3】
前記塩基性高分子が、該高分子の構成単位中に1級もしくは2級のアミノ基を有する高分子、又はアゾール系高分子である請求項2に記載のイオン伝導性高分子電解質膜。
【請求項4】
前記塩基性高分子がポリベンズイミダゾールである請求項2又は請求項3に記載のイオン伝導性高分子電解質膜。
【請求項5】
イオン性解離基を含有する第1の高分子と、該第1の高分子とは異なる第2の高分子とを含むイオン伝導性組成物から形成され、前記第2の高分子の固有粘度が2〜15dL/gに設定され、前記第1及び第2の高分子の分子鎖が一定方向に配向され、X線回折測定から下記式(1)により求められる前記第1及び第2の高分子の分子鎖の前記一定方向に沿った配向度αが0.3以上1未満に設定され、前記膜の厚さ方向のイオン導電率が膜の表面と平行な方向のイオン導電率よりも高く設定されているイオン伝導性高分子電解質膜の製造方法であって、
前記イオン伝導性組成物を調製する調製工程と、
イオン伝導性組成物中の第1及び第2の高分子の分子鎖を一定方向に配向させる配向工程と、
第1及び第2の高分子の分子鎖の配向を維持した状態でイオン伝導性組成物を固化させる固化工程とを備えていることを特徴とするイオン伝導性高分子電解質膜の製造方法。
配向度α=(180−Δβ)/180 …(1)
(但し、Δβは、X線回折測定によるピーク散乱角を固定して方位角方向の0〜360度までのX線回折強度分布を測定したときの半値幅を表す。)
【請求項6】
前記第1及び第2の高分子が液晶性高分子であり、
前記製造方法は、前記調製工程後、且つ配向工程前に、イオン伝導性組成物中の第1及び第2の高分子の液晶性を発現させる発現工程を更に備える請求項5に記載のイオン伝導性高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
前記配向工程が、イオン伝導性組成物に対して磁場を印加することにより第1及び第2の高分子の分子鎖を一定方向に配向させる工程である請求項5又は請求項6に記載のイオン伝導性高分子電解質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−184116(P2007−184116A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90(P2006−90)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】