説明

イオン化ポテンシャル測定装置

【課題】 構成の簡単なイオン化ポテンシャル測定装置を提供する。
【解決手段】 光源が、測定用の光を出射する。分光器が、光源から出射した光を、仮想面上において波長成分ごとに空間的に分離する。この仮想面上に、導電部材で形成された遮光部の一部に光透過領域が設けられた波長選択部材が配置されている。波長選択部材は、分光器で分光された光の一部の波長成分のみを透過させる。ステージが、波長選択部材を透過した光が入射する位置に、測定対象物を保持する。検出回路が、ステージに保持された測定対象物から放出された光電子が波長選択部材に到達する向きの電界を生じさせると共に、波長選択部材に到達した光電子の量に対応する物理量を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化ポテンシャル測定装置に関し、特に測定対象物に分光された光を照射し、測定対象物から放出される光電子を検出することにより、イオン化ポテンシャルを測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1に記載されたイオン化ポテンシャル測定装置について説明する。重水素ランプから放射された紫外線がレンズでコリメートされ、分光器に入射する。分光された光が他のレンズで集束されて、測定対象物に照射される。測定対象物から放出された光電子が、電子増倍管によって増幅され、パルスカウンティングユニットで計数される。分光器による波長のデータと、パルスカウンティングユニットで計数された光電子の収量から、測定対象物のイオン化ポテンシャルが算出される。
【0003】
【特許文献1】特許第3525674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、構成の簡単なイオン化ポテンシャル測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によれば、
測定用の光を出射する光源と、
前記光源から出射した光を、仮想面上において波長成分ごとに空間的に分離する分光器と、
前記仮想面上に配置され、導電部材で形成された遮光部の一部に、光透過領域が設けられ、前記分光器で分光された光の一部の波長成分のみを透過させる波長選択部材と、
前記波長選択部材を透過した光が入射する位置に、測定対象物を保持するステージと、
前記ステージに保持された測定対象物から放出された光電子が前記波長選択部材に到達する向きの電界を生じさせると共に、該波長選択部材に到達した光電子の量に対応する物理量を測定する検出回路と
を有するイオン化ポテンシャル測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0006】
波長選択部材が、分光された光から一部の波長成分のみを透過させる機能を持つと共に、光電子を捕獲する電極としても機能する。このため、部品点数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1に、実施例によるイオン化ポテンシャル測定装置の概略図を示す。第1の容器1の上方に開口部が設けられ、この開口部に第2の容器10が連結されている。第1の容器1の側面に、搬出入口2が設けられている。搬出入口2を閉じると、第1の容器1内の気密性が保たれる。第2の容器10は、第1の容器1の開口部の上方から斜め下方に延在している。真空ポンプ35が、第1の容器1及び第2の容器10内を真空排気する。
【0008】
第2の容器10の先端に、測定用の光を放射する光源20、例えば重水素ランプが取り付けられている。光源20から放射された光は、凸レンズ21により集光される。集光位置に入射側のスリット22が配置されている。スリット22を透過した光が、発散光線束となり、凹面回折格子23に入射する。凹面回折格子23で回折された回折光が、第1の容器1と第2の容器10との結合部分を通って、第1の容器1内に入射する。
【0009】
姿勢調整機構28が、凹面回折格子23に入射する測定用の光の入射角が変化するように、凹面回折格子23の姿勢を変化させる。これにより、回折光の進行方向が変化する。
【0010】
第1の容器1内に、中間支持部材5が、1段目移動機構4により支持されている。1段目移動機構4は、中間支持部材5を、搬出入口2までの距離が変動する方向に移動させる。ステージ8が、2段目移動機構7により、中間部材5に支持されている。ステージ8は、その上に測定対象物40を保持する。2段目移動機構7は、ステージ8を、搬出入口2までの距離が変動する方向に移動させる。
【0011】
光強度測定器9が、中間支持部材5に取り付けられている。図1は、中間支持部材5が搬出入口2から最も遠ざかり、かつステージ8も搬出入口2から遠ざかった状態を示す。このとき、ステージ8の上に保持された測定対象物40が、凹面回折格子23による回折光の光路内(測定位置)に配置される。ステージ8の上方に、波長選択部材25が配置されている。さらにその上方に、ローパスフィルタ24が配置されている。
【0012】
凹面回折格子23で回折された回折光は、波長選択部材25が配置された仮想面上において、波長成分ごとに空間的に分離される。波長選択部材25は、導電部材で形成された遮光部の一部に、光透過領域(スリット)が設けられた板状の部材であり、スリットの縁はナイフエッジ形状とされている。スリットの長さ及び幅は、例えば10mm及び0.5mmである。凹面回折格子23で回折された光のうち、スリットの位置に入射する波長成分のみが、波長選択部材25のスリットを透過し、他の波長成分は遮光される。
【0013】
波長選択部材25のスリットの位置には、所望の波長の1次回折光のみならず、それよりも短い波長成分の高次回折光も入射する。ローパスフィルタ24は、この高次回折光を遮光し、所望の波長域の光のみを波長選択部材25まで到達させる。
【0014】
ステージ8が測定位置に配置されているとき、波長選択部材25のスリットを透過した光が、測定対象物40に入射する。測定対象物40と波長選択部材25との間隔は、例えば5mm〜7mmである。
【0015】
1段目移動機構5を駆動することにより、光強度測定器9を、測定位置に配置することができる。この状態で、測定用の光の、特定の波長成分の光強度を測定することができる。
【0016】
配線32、電源30及び電流計31が、光電子による電流の検出回路を構成する。配線32は、波長選択部材25に接地電位に接続する。電源30は、ステージ8に負電位を印加する。電流計31は、接地電位とステージ8との間を流れる電流を測定する。波長選択部材25に接地電位が印加され、ステージ8に負電位が印加されているため、波長選択部材25とステージ8との間の空間に、波長選択部材25からステージ8に向かう電界が発生する。
【0017】
波長選択部材25のスリットを透過して測定対象物40にイオン化ポテンシャル以上のエネルギを持つ測定用の光が入射すると、測定対象物40から光電子が放出される。波長選択部材25とステージ8との間に発生している電界によって、放出された光電子が波長選択部材25に向かって移動し、波長選択部材25に捕獲される。この光電子による電流が、電流計31で検出される。すなわち、波長を選択するための波長選択部材25が、光電子を捕獲するための電極としても働く。
【0018】
姿勢調整機構28で凹面回折格子23の姿勢を調節することにより、測定対象物40に入射する光の波長を変化させることができる。測定対象物40に入射する光の波長と、光電子による電流との関係を測定することにより、測定対象物40のイオン化ポテンシャルを算出することができる。なお、電流の測定に代えて、放出された光電子の量に対応するその他の物理量を測定してもよい。例えば、抵抗による電圧降下を測定してもよい。
【0019】
上記実施例によるイオン化ポテンシャル測定装置においては、スリットが設けられた波長選択部材25が、光電子を捕獲する電極を兼ねているため、部品点数の削減を図ることができる。また、凹面回折格子23を用いているため、平面回折格子を用いる場合のように、回折格子に入射する光線束を平行光線束にする必要がない。このため、平行光線束にするためのレンズまたは凹面鏡等を配置する必要がない。さらに、回折光が収束光線束になっているため、回折光を収束させるためのレンズや凹面鏡を配置する必要がない。その結果、これらの光学部品に起因する光強度の低下を防止することができる。
【0020】
また、上記実施例では、光源20から測定対象物40までの光の経路が真空排気されている。このため、経路内のガスによる光の吸収を防止し、光強度の減衰を防止することができる。
【0021】
図2に、測定対象物40を容器1内に搬出入する際の、搬出入に関連する部分の概略図を示す。1段目移動機構4を駆動して、中間支持部材5が搬出入口2に最も近づいた状態にする。このとき、中間支持部材5は、容器1内に配置されたままである。なお、この状態で、光強度測定器9が測定位置に配置されるように、光強度測定器9の位置を設定しておいてもよい。さらに、2段目移動機構7を駆動し、ステージ8を容器1の搬出入口2から容器外に搬出する。すなわち、2段目移動機構7は、中間支持部材5が搬出入口2に最も接近した状態で、ステージ8を容器1の外まで搬出させるのに十分なストロークを持っている。
【0022】
ステージ8を容器1の外まで搬出することができるため、測定対象物40の装着を容易に行うことができる。ステージ8を、1段の直線駆動機構により、測定位置から容器1の外まで移動させるためには、そのストロークに対応した長さのレールが必要になる。駆動機構を2段構成にすることにより、1つの駆動機構あたりのレールの長さを短くすることができる。これにより、容器1の容積を小さくすることが可能になる。
【0023】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例によるイオン化ポテンシャル測定装置の概略図である。
【図2】実施例によるイオン化ポテンシャル測定装置のステージを容器の外まで搬出した状態の概略図である。
【符号の説明】
【0025】
1 第1の容器
2 搬出入口
4 1段目駆動機構
5 中間支持部材
7 2段目駆動機構
8 ステージ
9 光強度測定器
10 第2の容器
20 光源
21 レンズ
22 入射側スリット
23 凹面回折格子
24 ローパスフィルタ
25 波長選択部材
28 姿勢調節機構
30 電源
31 電流計
32 配線
35 真空ポンプ
40 測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定用の光を出射する光源と、
前記光源から出射した光を、仮想面上において波長成分ごとに空間的に分離する分光器と、
前記仮想面上に配置され、導電部材で形成された遮光部の一部に、光透過領域が設けられ、前記分光器で分光された光の一部の波長成分のみを透過させる波長選択部材と、
前記波長選択部材を透過した光が入射する位置に、測定対象物を保持するステージと、
前記ステージに保持された測定対象物から放出された光電子が前記波長選択部材に到達する向きの電界を生じさせると共に、該波長選択部材に到達した光電子の量に対応する物理量を測定する検出回路と
を有するイオン化ポテンシャル測定装置。
【請求項2】
前記分光器が、
前記光源から出射された光を、前記仮想面に向けて回折させる凹面回折格子を含む請求項1に記載のイオン化ポテンシャル測定装置。
【請求項3】
さらに、前記凹面回折格子へ入射する前記測定用の光の入射角が変化するように、該凹面回折格子の姿勢を変化させる姿勢調節機構を有する請求項2に記載のイオン化ポテンシャル測定装置。
【請求項4】
前記凹面回折格子と前記波長選択部材との間の光路内に配置され、高次回折光の波長成分を遮光するローパスフィルタを有する請求項2または3に記載のイオン化ポテンシャル測定装置。
【請求項5】
さらに、
前記ステージ及び前記波長選択部材を収容する密閉可能な容器と、
前記容器に設けられた搬出入口と、
前記容器内に配置された中間支持部材と、
前記容器に対して前記中間支持部材を、前記搬出入口との距離が変動する方向に移動可能に支持する第1の移動機構と、
前記ステージを、前記中間支持部材に対して、前記搬出入口との距離が変動する方向に移動可能に支持し、前記中間支持部材が前記容器内に配置され、かつ前記搬出入口に最も接近した状態で、前記ステージを前記搬出入口から前記容器の外まで搬出させるストロークを持った第2の移動機構と
を有する請求項1〜4のいずれかに記載のイオン化ポテンシャル測定装置。
【請求項6】
さらに、前記中間支持部材に取り付けられ、前記第1の移動機構を駆動することにより、前記波長選択部材を透過した光が入射する位置に配置される光強度測定器を有する請求項5に記載のイオン化ポテンシャル測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−303924(P2007−303924A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131553(P2006−131553)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(505414045)住友重機械アドバンストマシナリー株式会社 (8)
【Fターム(参考)】