説明

イオン性化合物および電解質材料

【課題】優れたイオン伝導度を有する、新規なイオン性化合物、および、該イオン性化合物を含む電解質材料を提供する。
【解決手段】本発明のイオン性化合物は、式(1)で表されるアニオンを含む。
【化1】


(式(1)中のXは、単結合、または、炭素数1〜12の有機結合基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性化合物および電解質材料に関する。詳細には、優れたイオン伝導度を有するイオン性化合物、および、該イオン性化合物を含む電解質材料に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン性化合物は、カチオンとアニオンにより構成される化合物よりなるイオン性物質を必須とするものであり、様々な用途に広く用いられている。このようなイオン性化合物の中でも、イオン伝導性を有するものは、イオン伝導体の構成材料に好適に用いられている。例えば、イオン伝導体を構成する電解液において電解質材料として機能することができるものや、固体の電解質材料として機能することができるものが挙げられる。それらの用途としては、例えば、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電及び放電機構を有する電池の他、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスが挙げられる(特許文献1〜3)。
【0003】
例えば、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン等の有機溶媒に、過塩素酸リチウム、LiPF6、LiBF4、ホウフッ化テトラエチルアンモニウム、フタル酸テトラメチルアンモニウム等のイオン性化合物を電解質材料として溶解した電解液は、該イオン性化合物がカチオンとアニオンとに解離して、電解液中でイオン伝導を行う。また、固体状態でイオン伝導することができるイオン性化合物も電解質材料として用いられる。
【特許文献1】特開2004−99452号公報
【特許文献2】特開2004−161615号公報
【特許文献3】特開2005−200359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、優れたイオン伝導度を有する、新規なイオン性化合物、および、該イオン性化合物を含む電解質材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のイオン性化合物は、式(1)で表されるアニオンを含む。
【化1】

(式(1)中のXは、単結合、または、炭素数1〜12の有機結合基である。)
【0006】
好ましい実施形態においては、上記アニオンの対カチオンがオニウムカチオンである。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記オニウムカチオンが、有機アンモニウムカチオン、有機イミダゾリウムカチオンから選ばれる少なくとも1種である。
【0008】
本発明の別の局面によれば、電解質材料が提供される。この電解質材料は、本発明のイオン性化合物を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水に強く、優れたイオン伝導度を有する、新規なイオン性化合物、および、該イオン性化合物を含む電解質材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
A.イオン性化合物
本発明のイオン性化合物は、式(1)で表されるアニオンを含む。
【化2】

式(1)中のXは、単結合、または、炭素数1〜12の有機結合基である。
【0011】
上記「単結合」とは、式(1)中のカルボアニオン(C)とカルボニル炭素とを直結させる結合をいう。上記「有機結合基」とは、式(1)中のカルボアニオン(C)とカルボニル炭素とを結合させるための2価の有機基をいう。
【0012】
上記有機結合基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられる。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、iso−プロピレン基、n−ブチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基が挙げられる。アリーレン基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基や、ピリジン構造、ピピリジン構造、フェナントロリン構造、キノリン構造、オキシン構造、チオフェン構造を由来とするアリーレン基が挙げられる。アルケニレン基としては、エチレニレン基、n−プロピニレン基、iso−プロピニレン基、n−ブチレニレン基、1,2−ジメチルエチレニレン基が挙げられる。アルキニレン基としては、アセチレン構造由来のアルキニレン基が挙げられる。
【0013】
式(1)中のXは、好ましくは、単結合、炭素数6〜12の芳香族系の有機結合基であり、より好ましくは、単結合、1,4位に結合手を有するフェニル基、1,4位に結合手を有する置換フェニル基であり、さらに好ましくは、単結合、1,4位に結合手を有するフェニル基である。
【0014】
本発明のイオン性化合物は、特に、「NC−C―CN」なるジシアノカルボアニオン構造と「C(CN)=O」なるシアノカルボニル構造とを有することにより、優れたイオン伝導度を有する。また、本発明のイオン性化合物は、上記構造を有することにより、従来のイオン性化合物に比べて、水に対して安定である。
【0015】
「NC−C―CN」なるジシアノカルボアニオン構造と「C(CN)=O」なるシアノカルボニル構造とを有するイオン性化合物は、従来、安定に単離することができなかった。例えば、式(1)中のXが単結合の場合のアニオンには、式(2)に表されるように、互いに異性体の関係にある(A)構造と(B)構造とが存在し、従来は、(B)構造を有するアニオンまたはその塩のみが安定に単離されていた。また、式(1)中のXが1,4位に結合手を有するフェニル基の場合のアニオンには、式(3)に表されるように、互いに異性体の関係にある(C)構造と(D)構造とが存在し、従来は、(D)構造を有するアニオンまたはその塩のみが安定に単離されていた。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
本発明においては、上記のように従来は安定に単離することができなかったイオン性化合物を高収率で安定に単離することができ、得られる新規なイオン性化合物は、優れたイオン伝導度を有し、水に対して安定であることが判った。このため、本発明のイオン性化合物は、特に、電解質材料として有用である。
【0019】
本発明のイオン性化合物は、上記アニオンの対カチオンがオニウムカチオンであることが好ましい。オニウムカチオンを対カチオンとすることによって、従来は安定に単離することができなかった「NC−C―CN」なるジシアノカルボアニオン構造と「C(CN)=O」なるシアノカルボニル構造とを有するイオン性化合物を、容易に、高収率で安定に単離することができるからである。
【0020】
上記オニウムカチオンとしては、任意の適切なオニウムカチオンを採用し得る。例えば、式(4)で表されるオニウムカチオン、式(5)で表されるオニウムカチオンが挙げられる。
【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
上記式(4)中のRは、水素原子または炭素数1〜12の有機基である。上記式(4)中のR〜Rは、炭素数1〜12の有機基である。R〜Rは、一部または全部が結合して環を形成していてもよい。
【0024】
本明細書において「有機基」とは、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。すなわち、本明細書における「有機基」は、炭素原子を少なくとも1個有してさえいれば、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル結合を有する基、チオエーテル結合を有する基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルフィド基等の官能基や、ハロゲン原子等の他の基や原子を有するものも含む。
【0025】
上記式(4)中のRがR〜Rと環を形成していない場合、Rとしては、直鎖脂肪族炭化水素基、分岐脂肪族炭化水素基、環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。直鎖脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−デシル基、n−オクタデセニル基、n−エイコシル基、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。分岐脂肪族炭化水素基としては、iso−プロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、2−エチルプロピル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、3−エチルブチル基、4−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチル−n−オクチル基、2−エチル−n−ヘキサデセニル基、2−エチル−n−オクタデセニル基、2−ヒドロキシ−iso−プロピル基、1−ヒドロキシ−2−メチルプロピル基等が挙げられる。環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、1−ヒドロキシヘキシル基、2−ヒドロキシヘキシル基、3−ヒドロキシヘキシル基、4−ヒドロキシヘキシル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トルイル基、ベンジル基等が挙げられる。Rは、好ましくは水素原子、直鎖脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基であり、さらに好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、n−ブチル基、フェニル基、ベンジル基であり、特に好ましくは水素原子、メチル基である。
【0026】
上記式(4)中のR〜Rは、環を形成していない場合、直鎖脂肪族炭化水素基、分岐脂肪族炭化水素基、環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。直鎖脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−デシル基、アミノメチル基、アミノエチル基、ニトロメチル基、ニトロエチル基、シアノメチル基、シアノエチル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、ホルミルメチル基、ホルミルエチル基等が挙げられる。分岐脂肪族炭化水素基としては、iso−プロピル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、2−エチルプロピル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、3−エチルブチル基、4−エチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチル−n−オクチル基、2−アミノ−iso−プロピル基、1−アミノ−2−メチルプロピル基、2−ニトロ−iso−プロピル基、1−ニトロ−2−メチルプロピル基、2−シアノ−iso−プロピル基、1−シアノ−2−メチルプロピル基、2−カルボキシ−iso−プロピル基、1−カルボキシ−2−メチルプロピル基、2−メトキシ−iso−プロピル基、1−メトキシ−2−メチルプロピル基、2−ホルミル−iso−プロピル基、1−ホルミル−2−メチルプロピル基等が挙げられる。環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基、1−メチル−ヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、1−アミノヘキシル基、2−アミノヘキシル基、3−アミノヘキシル基、4−アミノヘキシル基、1−シアノヘキシル基、2−シアノヘキシル基、3−シアノヘキシル基、4−シアノヘキシル基、1−カルボキシヘキシル基、2−カルボキシヘキシル基、3−カルボキシヘキシル基、4−カルボキシヘキシル基、1−メトキシヘキシル基、2−メトキシヘキシル基、3−メトキシヘキシル基、4−メトキシヘキシル基、1−ホルミルヘキシル基、2−ホルミルヘキシル基、3−ホルミルヘキシル基、4−ホルミルヘキシル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トルイル基、ベンジル基等が挙げられる。これらの中でも、直鎖脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくはメチル基、メトキシエチル基、エチル基、特に好ましくはメチル基、エチル基である。
【0027】
上記式(4)中のR、R、R、RおよびRの一部または全部が結合して環等を形成している場合、当該構造としては、アルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基等が挙げられる。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、iso−プロピレン基、n−ブチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基等が挙げられる。アリーレン基としては、フェニレン基等が挙げられる。アルケニレン基としては、エチレニレン基、n−プロピニレン基、iso−プロピニレン基、n−ブチレニレン基、1,2−ジメチルエチレニレン基等が挙げられる。これらの中でも、アルキレン基、アルケニレン基が好ましく、さらに好ましくはエチレン基、iso−プロピレン基、1,2−ジメチルエチレン基、エチレニレン基、iso−プロピニレン基、1,2−ジメチルエチレニレン基である。
【0028】
好ましくは、R、R、R、RおよびRの一部または全部が結合して環を形成している。当該環構造しては、イミダゾリン環、イミダゾール環、テトラヒドロピリミジン環等が挙げられる。これらの中でも、イミダゾリン環、イミダゾール環が好ましく、さらに好ましくはイミダゾール環である。
【0029】
上記式(4)中のカチオン具体例としては、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウムカチオン、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウムカチオン、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウムカチオン、1,3−ジメチル−2,4−ジエチルイミダゾリニウムカチオン、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリニウムカチオン、1−メチル−2,3,4−トリエチルイミダゾリニウムカチオン、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリニウムカチオン、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリニウムカチオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウムカチオン、1,2,3−トリエチルイミダゾリニウムカチオン、1,1−ジメチル−2−ヘプチルイミダゾリニウムカチオン、1,1−ジメチル−2−(−2’ヘプチル)イミダゾリニウムカチオン、1,1−ジメチル−2−(−3’ヘプチル)イミダゾリニウムカチオン、1,1−ジメチル−2−(−4’ヘプチル)イミダゾリニウムカチオン、1,1−ジメチル−2−ドデシルイミダゾリニウムカチオン、1,1−ジメチルイミダゾリニウムカチオン、1,1,2−トリメチルイミダゾリニウムカチオン、1,1,2,4−テトラメチルイミダゾリニウムカチオン、1,1,2,5−テトラメチルイミダゾリニウムカチオン、1,1,2,4,5−ペンタメチルイミダゾリニウムカチオン等の有機イミダゾリニウムカチオン;1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジエチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウムカチオン、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジメチル−2,4−ジエチルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3,4−ジエチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−2,3,4−トリエチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3,4−テトラエチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジメチル−2−エチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3−トリエチルイミダゾリウムカチオン、1,1−ジメチル−2−ヘプチルイミダゾリウムカチオン、1,1−ジメチル−2−(−2’ヘプチル)イミダゾリウムカチオン、1,1−ジメチル−2−(−3’ヘプチル)イミダゾリウムカチオン、1,1−ジメチル−2−(−4’ヘプチル)イミダゾリウムカチオン、1,1−ジメチル−2−ドデシルイミダゾリウムカチオン、1,1−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,1,2−トリメチルイミダゾリウムカチオン、1,1,2,4−テトラメチルイミダゾリウムカチオン、1,1,2,5−テトラメチルイミダゾリウムカチオン、1,1,2,4,5−ペンタメチルイミダゾリウムカチオン等の有機イミダゾリウムカチオン;1,3−ジメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジニウムカチオン、1,2,3−トリメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジニウムカチオン、1,2,3,4−テトラメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジニウムカチオン、1,2,3,5−テトラメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジニウムカチオン、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムカチオン、5−メチル−1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムカチオン、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセニウムカチオン、5−エチル−1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネニウムカチオン等の有機テトラヒドロピリミジニウムカチオン;等が挙げられる。
【0030】
上記の中でも、有機イミダゾリウムカチオンおよび有機イミダゾリニウムカチオンが好ましく、さらに好ましくは、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,3−ジエチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリニウムカチオン、1,3−ジメチルイミダゾリニウムカチオン、1,3−ジエチルイミダゾリニウムカチオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウムカチオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウムカチオン、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウムカチオンであり、特に好ましくは、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリニウムカチオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウムカチオン、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウムカチオンであり、最も好ましくは1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリニウムカチオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウムカチオンである。
【0031】
上記式(5)中のXは、C,Si,N,P,SまたはOを表す。好ましくは、XはNである。上記式(5)中のRは、水素原子、ハロゲン原子、官能基または有機基を表す。
当該Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい。当該Rは、互いに結合していてもよい。sは2,3または4である。なお、sは、上記Xの価数によって決まる値である。
【0032】
上記式(5)で表されるカチオンの具体例としては、
(I)下記一般式
【化7】

(R〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、官能基、炭化水素基または置換炭化水素基を表す。R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい。R〜Rは、互いに結合していてもよい。)
で表される複素環オニウムカチオン;
(II)下記一般式
【化8】

(R〜Rは、水素原子、ハロゲン原子、官能基、炭化水素基または置換炭化水素基を表す。R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよい。R〜Rは、互いに結合していてもよい。)
で表される不飽和オニウムカチオン;
(III)下記一般式
【化9】

(R〜R12は、水素原子、ハロゲン原子、官能基、炭化水素基または置換炭化水素基を表す。R〜R12は、互いに同一であっても異なっていてもよい。R〜R12は、互いに結合していてもよい。)
で表される飽和環オニウムカチオン;
(IV)下記一般式
【化10】

(Rは、水素原子またはC〜Cのアルキル基を表す。)
で表される鎖状オニウムカチオンが挙げられる。
【0033】
上記(I)〜(III)におけるR〜R12としては、好ましくは、水素原子、フッ素原子、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基や、直鎖、分岐鎖又は環状で、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含み得る炭素数1〜18の炭化水素基、炭化フッ素基等である。これらの中でも、水素原子、フッ素原子、シアノ基、スルホン基、炭素数1〜8の炭化水素基、炭化フッ素基がさらに好ましい。
【0034】
上記式(5)中のカチオンは、好ましくは、下記式(6)で表されるカチオンである。
【化11】

【0035】
上記式(6)中のR〜Rは、水素原子または炭素数が1〜8の炭化水素基である。RおよびRがいずれも炭化水素基である場合、互いに直接結合していてもよいし、O,SおよびNの中から選ばれる少なくとも1種類以上の元素を介して結合していてもよい。
【0036】
上記式(6)で表されるカチオンの中でも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、エチルメチルアミン、ブチルメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、メチルピロリジン、メチルモルホリン、メチルピペリジン等、脂肪族アミン化合物の、アンモニウムカチオン;アニリン、ジメチルアニリン、ニトロアニリン、ジメチルトルイジン、ナフチルアミン、ピリジン、メチルピリジン、キノリン、メチルピロール等、芳香族アミン化合物の、アンモニウムカチオン;テトラメチルエチレンジアミン、ジアザビシクロオクタン、ジエチレントリアミン、メチルイミダゾール、ピリミジン等の、分子内に2個以上の窒素元素を有するアミン化合物の、アンモニウムカチオン;グアニジンおよびそのアルキル置換体化合物のアンモニウムカチオン;が好ましい。
【0037】
本発明のイオン性化合物のイオン伝導度は、好ましくは10mS/cm以上、より好ましくは15mS/cm以上、さらに好ましくは20mS/cm以上である。なお、本明細書において「イオン伝導度」とは、25℃にて測定した値をいう。
【0038】
本発明のイオン性化合物は、任意の適切な方法で製造し得る。
【0039】
B.電解質材料
本発明の電解質材料は、本発明のイオン性化合物を含む。本発明の電解液材料は、本発明のイオン性化合物を含むことにより、優れたイオン伝導度を達成できる。
【0040】
本発明の電解質材料は、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明のイオン性化合物以外のイオン性化合物を含んでいても良い。
【0041】
本発明の電解質材料は、発明の効果を損なわない範囲で、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を含んでいても良い。このような金属塩を含むことにより、特に、電池用電解液として好適となり得る。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適である。アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。後述するリチウム二次電池に使用する場合等においては、リチウム塩が特に好ましく用いられる。
【0042】
上記アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩のアニオンとしては、任意の適切なアニオンを採用し得る。好ましくは、解離定数が大きい金属塩を形成し得るアニオンが好ましい。具体的には、LiCFSO、NaCFSO、KCFSO等のトリフルオロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiN(CFSO、LiN(CFCFSO等のパーフルオロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiPF、NaPF、KPF等のヘキサフルオロリン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiClO、NaClO等の過塩素酸アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiBF、NaBF等のテトラフルオロ硼酸塩;LiAsF、LiI、NaI、NaAsF、KI等のアルカリ金属塩;等が好適である。これらの中でも、溶解性やイオン伝導度の点から、LiPF、LiBF、LiAsF、パーフルオロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0043】
上記電解質材料は、その他の電解質塩を含有し得る。具体例としては、過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の過塩素酸の四級アンモニウム塩;(CNBF等のテトラフルオロ硼酸の四級アンモニウム塩;(CNPF等の四級アンモニウム塩;(CHP・BF、(CP・BF等の四級ホスホニウム塩;等が好適であり、溶解性やイオン伝導度の点から、四級アンモニウム塩が好適である。
【0044】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は重量基準である。また、使用した水は、全て、オルガノ社製超純水製造装置「ピュアライト」で精製した、抵抗値0.1μS・cmの超純水である。
【0045】
〈イオン伝導度〉
調製した電解液のイオン伝導度を、25℃で、SUS電極を用いて複素インピーダンス法にて測定した。測定装置は、インピーダンスアナライザーSI1260(ソーラトロン社製)を用いた。
【0046】
〔実施例1〕:トリエチルアンモニウムジシアノシアノカルボニルメチドの合成
撹拌装置、滴下漏斗を備えたフラスコに、硝酸銀37.1g(218mmol)、水200mlを室温で加えて撹拌し、ここに室温で、トリシアノビニルアルコキシド・テトラエチルアンモニウム塩35g(182mmol)の200ml水溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌した後、生じた沈殿を濾別した。この濾別した固体に対し、さらに洗浄工程として200mlの水を添加、撹拌、濾別する工程を3回繰り返すことで、黄色固体28.8g(トリシアノジシアノカルボニトリルメチド銀塩、118mmol)を得た。収率は65%であった。
得られた黄色固体28.8g(118mmol)と水50mlを、撹拌装置、滴下漏斗を備えたフラスコに加え、ここに室温で、トリエチルアンモニウム臭素酸塩17.8g(95mmmol)の200ml水溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌した後、得られた溶液を濾過、濃縮することにより、黄色結晶19.5g(トリエチルアンモニウムジシアノシアノカルボニルメチド、86mmol)を得た。収率は95%であった。窒素中での熱分解温度は200℃であった。
得られたトリエチルアンモニウムジシアノシアノカルボニルメチドのγ−ブチロラクトン(以下、GBLと略する)20重量%溶液の、25℃でのイオン伝導度は、1.5×10−2S/cmであった。
得られたトリエチルアンモニウムジシアノシアノカルボニルメチドのH−NMRおよび13C−NMRのデータを以下に示す。
H−NMR(溶媒:DMSO−d):δ8.8−9.0(m、1H)、δ3.0−3.2(m、6H)、δ1.17(t、J=8.6Hz、9H)
13C−NMR(溶媒:DMSO−d):δ158.2、δ117.8、δ115.9、δ114.6、δ45.8、δ8.6
【0047】
〔実施例2〕:1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノシアノカルボニルメチドの合成
トリエチルアンモニウム臭素酸の代わりに1−エチル−3−メチルイミダゾリウム臭化物17.4g(91mmol)を用いた以外は実施例1と同様に行い、黄色液体16.2g(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノシアノカルボニルメチド、86mmol)を得た。収率は95%であった。窒素中での熱分解温度は230℃であった。
得られた1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノシアノカルボニルメチドのGBL20重量%溶液の、25℃でのイオン伝導度は、1.5×10−2S/cmであった。
得られた1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアノシアノカルボニルメチドのH−NMRおよび13C−NMRのデータを以下に示す。
H−NMR(溶媒:DMSO−d):δ9.11(s、1H) 、δ7.77(d、J=1.6Hz、1H)、δ7.68(d、J=1.6Hz、1H)、δ4.19(q、J=7.2Hz、2H)、δ3.85(s、3H)、δ1.42(t、J=7.2Hz、3H)
13C−NMR(溶媒:DMSO−d):δ158.1、δ136.2、δ123.5、δ121.9、δ117.8、δ115.8、δ114.6、δ44.1、δ35.6、δ15.0
【0048】
〔実施例3〕:トリエチルアンモニウム α,α−ジシアノ−p−(シアノカルボニル)−α−トルエニドの合成
ビーカーに室温で、イオン交換樹脂(アンバーリスト15ドライ、オルガノ社製)0.5g、水10mlを加え、ここにテトラメチルアンモニウム α,α−ジシアノ−p−トルオイルシアニド20mg(0.10mmol)を加え、2時間撹拌した。得られた溶液を濾過し、そのまま次の工程に用いた。
上記で得られた濾液を、撹拌装置を備えたビーカーに加え、ここに室温でトリエチルアミン15.6mg(0.15mmol)を加え、30分間撹拌した。得られた溶液を濃縮、乾燥することにより、濃紫色固体27mg(トリエチルアンモニウム α,α−ジシアノ−p−(シアノカルボニル)−α−トルエニド、0.09mmol)を得た。収率は90%であった。
得られたトリエチルアンモニウム α,α−ジシアノ−p−(シアノカルボニル)−α−トルエニドのH−NMRのデータを以下に示す。
H−NMR(溶媒:DMSO−d):δ7.79(dd、J=4.0、14.0Hz、2H)、δ7.00(dd、J=4.0、14.0Hz、2H)、δ3.19(q、J=14.8Hz、6H)、δ1.44(t、J=14.8Hz、9H)
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のイオン性化合物は、優れたイオン伝導度を有し、水に対して安定であるため、特に、電解質材料として有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるアニオンを含む、イオン性化合物。
【化1】

(式(1)中のXは、単結合、または、炭素数1〜12の有機結合基である。)
【請求項2】
前記アニオンの対カチオンがオニウムカチオンである、請求項1に記載のイオン性化合物。
【請求項3】
前記オニウムカチオンが、有機アンモニウムカチオン、有機イミダゾリウムカチオンから選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載のイオン性化合物。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載のイオン性化合物を含む、電解質材料。

【公開番号】特開2008−285417(P2008−285417A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129134(P2007−129134)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】