説明

イオン性芳香族モノマーから成るブロックコポリマーを含んでなる安定な顔料分散系

顔料及びイオン性芳香族モノマーより成るブロックコポリマーを含んでなる顔料分散系。顔料分散系をインキジェットインキの製造のため、及び着色層のコーティングのために用いることができる。顔料分散系の調製方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術的分野
本発明は安定な顔料分散系(pigment dispersion)ならびに着色層、インキジェットインキ及び印刷インキにおけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景の技術
顔料分散系は分散剤を用いて調製される。分散剤は、分散媒中における顔料粒子の分散系の形成及び安定化を促進するための物質である。分散剤は一般にアニオン性、カチオン性又は非−イオン性構造を有する界面活性材料である。分散剤の存在は、必要な分散エネルギーを実質的に低下させる。分散された顔料粒子は、互いの引力の故に、分散操作後に再−凝集する傾向を有し得る。分散剤の使用は、顔料粒子の再−凝集の傾向に対抗もする。
【0003】
分散剤は、顔料の分散のために用いられる場合、特に高い必要条件を満たさねばならない。不十分な分散は、液体系における粘度の向上、さえの喪失及び色相の移動として現れる。インキジェットプリンターにおける使用のためのインキの場合、通常直径がわずか数マイクロメーターであるプリントヘッドのノズルを介する顔料粒子の妨害されない通過を保証するために、顔料粒子の特に優れた分散が必要である。さらに、プリンターのスタンバイ期間中、顔料粒子凝集及びそれに伴うプリンターノズルの閉塞は避けられなければならない。
【0004】
ポリマー性分散剤は、分子の一部中にいわゆるアンカー基を含有し、それは分散されるべき顔料上に吸着する。ポリマー性分散剤は、分子の空間的に離れた部分にポリマー鎖を有し、それは突き出てそれにより顔料粒子が分散媒と適合性にされる、すなわち安定化される。
【0005】
ポリマー性分散剤の性質は、モノマーの性質及びポリマー中におけるそれらの分布の両方に依存する。モノマーを無作為に重合させることにより(例えばモノマーA及びBをABBAABABに重合させる)、あるいは交代のモノマーを重合させることにより(例えばモノマーA及びBをABABABABに重合させる)得られるポリマー性分散剤は、一般に劣った分散安定性を生ずる。グラフトコポリマー及びブロックコポリマー分散剤を用いて、分散安定性における向上が得られた。
【0006】
グラフトコポリマー分散剤は、主鎖に結合した側鎖を有するポリマー主鎖から成る。特許文献1(DU PONT)は、疎水性ポリマー主鎖及び親水性側鎖を有するグラフトコポリマー分散剤の使用により調製される顔料分散系を開示している。他のグラフトコポリマー分散剤は特許文献2(LEXMARK)、特許文献3(DU PONT)及び特許文献4(LEXMARK)に開示されている。
【0007】
疎水性及び親水性ブロックを有するブロックコポリマー分散剤も開示されている。特許文献5(DU PONT)は、芳香族もしくは脂肪族カルボン酸と反応した重合したグリシジル(メタ)アクリレートモノマーのポリマー性Aセグメント及び重合したアルキル(メタ)アクリレートモノマー又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーのポリマー性Bメグメントを有するABブロックコポリマー分散剤を開示している。特許文献6(DU PONT)は、重合したアルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート又はシクロアルキル(メタ)アクリレートのポリマー性Aセグメント、第4級化アルキル基を有する重合したアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートモノマーのポリマー性Bセグメント及び重合したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーのポリマー性Cセグメントを有するABCブロックコポリマー分散剤を開示している。
【0008】
特許文献7(DU PONT)は、分散された顔料、担体液及びAB−ブロックポリマー分散剤(結合剤)を含有するコーティング組成物の調製に有用な顔料分散系を開示している;ABブロックポリマーは約5,000〜20,000の数平均分子量を有し、20〜80重量%のポリマー性Aセグメント及び対応して80〜20重量%のポリマー性Bセグメントを含有し;ここでブロックポリマーのポリマー性Aセグメントは、芳香族カルボン酸又は脂肪族カルボン酸の群からの酸と反応した重合したグリシジル(メタ)アクリレートモノマーのものであり;そしてBセグメントは、アルキル基中に1〜12個の炭素原子を有する重合したアルキル(メタ)アクリレートモノマー、アルキル基中に約1〜4個の炭素原子を有する重合したヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートモノマーのものであり;且つここで分散系中の顔料対結合剤の重量比は約1/100〜200/100である。
【0009】
ABブロックコポリマーの合成に用いられる基移動重合(GTP)の方法は、非特許文献1に開示されている。他の方法は原子移動ラジカル重合(ATRP)、RAFT(可逆的付加−フラグメント化連鎖移動重合)、MADIX(移動活性キサンテートを用いる可逆的付加−フラグメント化連鎖移動法)、接触連鎖移動(例えばコバルト錯体を用いる)又はニトロキシド(例えばTEMPO)媒介重合を含む。
【0010】
インキ−ジェットインキのためのポリマー性分散剤の設計は非特許文献2で議論されている。
【0011】
多様なポリマー性分散剤が提案されたが、特にインキジェットにおける顔料の分散安定性はまださらなる改良を必要とする。
【特許文献1】カナダ特許第2157361号明細書
【特許文献2】米国特許第6652634号明細書
【特許文献3】欧州特許第1182218A号明細書
【特許文献4】米国特許第2004102541号明細書
【特許文献5】欧州特許第996689A号明細書
【特許文献6】米国特許第6413306号明細書
【特許文献7】米国特許第5859113号明細書
【非特許文献1】SPINELLI,Harry J.著,“GTP and its use in water based pigment dispersants and emulsion stabilizers.”Proc.of 20th Int.Conf.Org.Coat.Sci.Technol.,New Platz,N.Y.:State Univ.N.Y.,Inst.Mater.Sci.p.511−518
【非特許文献2】SPINELLI,Harry J.著,“Polymeric Dispersants in Ink Jet Technology.”Advanced Materials,vol.10,no.15,1998年,p.1215−1218
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明の目的
本発明の目的は、高い分散安定性及び高い光学濃度を有する顔料分散系を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、高い分散安定性を有し、高い光学濃度を有する高い画質の画像を与えるインキジェットインキを提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、低コストで顔料を用いて、すなわち少量の顔料を用いて高い光学濃度で製造することができる着色層を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、後記の記述から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の概略
驚くべきことに、2つの異なるイオン性芳香族モノマーから重合したブロックを有する特別製のブロックコポリマーを用い、1個もしくはそれより多いカルボン酸基を含んでなる顔料に関して高い安定性及び高い光学濃度を有する顔料分散系が得られることが見出された。
【0017】
本発明の目的は、顔料及びイオン性芳香族モノマーより成るブロックコポリマーを含んでなる顔料分散系を用いて実現された。
【0018】
本発明のさらなる利点及び態様は、以下の記述から明らかになるであろう。
【0019】
工業的適用性
画質を向上させるために、本発明に従う顔料分散系をインキジェット印刷用途のためのインキにおいて用いることができるが、画像形成材料、例えば写真及びフォトサーモグラフィ材料において用いることもできる。画像分散系を画像形成層に、又は別の着色層、例えばハレーション防止層中に加えることにより、これらの材料を用いて作製される画像の鮮鋭度を向上させることができる。ハレーション防止層の光学濃度は、好ましくは少なくとも0.5であり、それは、0.5より高い光学濃度においてハレーション防止鮮鋭度がもう多くは向上しないからである。
【0020】
発明の詳細な記述
定義
本発明の開示において用いられる「染料」という用語は、それが適用される媒体中で、且つ関連する周囲条件下で、10mg/Lかもしくはそれより高い溶解度を有する着色剤を意味する。
【0021】
「顔料」という用語はDIN 55943において、関連する周囲条件下において適用媒体中で実質的に不溶性であり、従ってその中で10mg/Lより低い溶解度を有する無機もしくは有機、有彩もしくは無彩着色剤として定義されている。
【0022】
本発明の開示において用いられる「分散系」という用語は、少なくとも2つの物質の緊
密な混合物であって、分散相又はコロイドと呼ばれるその1つが分散媒と呼ばれる第2の物質全体に微粉砕された状態で均一に分布する混合物を意味する。
【0023】
本発明の開示において用いられる「分散剤」という用語は、分散媒中における1つの物質の分散系の形成及び安定化を促進するための物質を意味する。
【0024】
本発明の開示において用いられる「コポリマー」という用語は、2種もしくはそれより多いモノマーの種がポリマー鎖中に導入されている高分子を意味する。
【0025】
本発明の開示において用いられる「ブロックコポリマー」という用語は、モノマーが鎖中に比較的長い交互の配列で存在するコポリマーを意味する。
【0026】
本発明の開示において用いられる「開始ラジカル」という用語は、開始剤に由来するフリーラジカルを意味する。
【0027】
本発明の開示において用いられる「成長ラジカル」という用語は、1個もしくはそれより多いモノマーを加えてきており、且つさらなるモノマーを加えることができるラジカルを意味する。
【0028】
本発明の開示において用いられる「スペクトル分離係数」という用語は、最大吸光度Amax(波長λmaxにおいて測定される)対波長λmax+200nmで決定される吸光度の比率を計算することにより得られる値を意味する。
【0029】
「SSF」という略語は、本発明の開示においてスペクトル分離係数に関して用いられる。
【0030】
「SSA」という略語は、本発明の開示において4−スチレンスルホン酸に関して用いられる。
【0031】
「SSA−Na」という略語は、本発明の開示において4−スチレンスルホン酸ナトリウムに関して用いられる。
【0032】
「VBA」という略語は、本発明の開示において4−ビニル安息香酸に関して用いられる。
【0033】
「VBA−Na」という略語は、本発明の開示において4−ビニル安息香酸ナトリウムに関して用いられる。
【0034】
「アルキル」という用語は、アルキル基中の炭素原子の各数に関して可能なすべての変形、すなわち3個の炭素原子に関して:n−プロピル及びイソプロピル;4個の炭素原子に関して:n−ブチル、イソブチル及び第3級−ブチル;5個の炭素原子に関して:n−ペンチル、1,1−ジメチル−プロピル、2,2−ジメチルプロピル及び2−メチル−ブチルなどを意味する。
【0035】
「アシル基」という用語は−(C=O)−アリール及び−(C=O)−アルキル基を意味する。
【0036】
「脂肪族基」という用語は飽和直鎖状、分枝鎖状及び脂環式炭化水素基を意味する。
【0037】
「不飽和脂肪族基」という用語は、少なくとも1個の二重又は三重結合を含有する直鎖
状、分枝鎖状及び脂環式炭化水素基を意味する。
【0038】
本発明の開示において用いられる「芳香族基」という用語は、大きな共鳴エネルギーを特徴とする環状共役炭素原子の集合、例えばベンゼン、ナフタレン及びアントラセンを意味する。
【0039】
「脂環式炭化水素基」という用語は、芳香族基を形成しない環状炭素原子の集合、例えばシクロヘキサンを意味する。
【0040】
本発明の開示において用いられる「置換された」という用語は、脂肪族基、芳香族基又は脂環式炭化水素基中の1個もしくはそれより多い炭素原子及び/又は1個もしくはそれより多い炭素原子の水素原子が酸素原子、窒素原子、ハロゲン原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、セレン原子又はテルル原子により置き換えられていることを意味する。そのような置換基にはヒドロキシル基、エーテル基、カルボン酸基、エステル基、アミド基及びアミン基が含まれる。
【0041】
「ヘテロ芳香族基」という用語は、環状共役炭素原子の少なくとも1個が非−炭素原子、例えば窒素原子、硫黄原子、酸素原子又はリン原子により置き換えられている芳香族基を意味する。
【0042】
「ヘテロ環式基」という用語は、環状共役炭素原子の少なくとも1個が非−炭素原子、例えば酸素原子、窒素原子、リン原子、ケイ素原子、硫黄原子、セレン原子又はテルル原子により置き換えられている脂環式炭化水素基を意味する。
【0043】
顔料分散系
本発明に従う顔料分散系は、少なくとも3つの成分:(i)顔料、(ii)分散剤及び(iii)分散媒を含有する。
【0044】
本発明に従う顔料分散系はさらに、少なくとも1種の界面活性剤を含有することができる。
【0045】
本発明に従う顔料分散系はさらに、少なくとも1種の殺生物剤を含有することができる。
【0046】
本発明に従う顔料分散系はさらに、少なくとも1種のpH調整剤を含有することができる。
【0047】
顔料
本発明に従う顔料分散系中で用いられる顔料は、好ましくは少なくとも1個のカルボン酸基もしくはその塩を有する顔料又は染料でなければならない。
【0048】
顔料はブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、オレンジ、バイオレット、ブルー、グリーン、ブラウン、それらの混合物などであることができる。
【0049】
本発明に従うインキ−ジェットインキセットのカラーインキのための適した顔料には:C.I.Pigment Yellow 17,C.I.Pigment Blue 27,C.I.Pigment Red 49:2,C.I.Pigment Red 81:1,C.I.Pigment Red 81:3,C.I.Pigment Red 81:x,C.I.Pigment Yellow 83,C.I.Pigment Red 57:1,C.I.Pigment Red 49:1,C.I.Pigment Violet 23,C.I.Pigment Green 7,C.I.Pigment Blue 61,C.I.Pigment Red 48:1,C.I.Pigment Red 52:1,C.I.Pigment Violet 1,C.I.Pigment White 6,C.I.Pigment Blue 15,C.I.Pigment Yellow 12,C.I.Pigment Blue 56,C.I.Pigment Orange 5,C.I.Pigment Yellow 14,C.I.Pigment Red 48:2,C.I.Pigment Blue 15:3,C.I.Pigment Yellow 1,C.I.Pigment Yellow 3,C.I.Pigment Yellow 13,C.I.Pigment Orange 16,C.I.Pigment Yellow 55,C.I.Pigment Red 41,C.I.Pigment Orange 34,C.I.Pigment Blue 62,C.I.Pigment Red 22,C.I.Pigment Red 170,C.I.Pigment Red 88,C.I.Pigment Yellow 151,C.I.Pigment Red 184,C.I.Pigment Blue 1:2,C.I.Pigment Red 3,C.I.Pigment Blue 15:1,C.I.Pigment Blue 15:3,C.I.Pigment Blue 15:4,C.I.Pigment Red 23,C.I.Pigment Red 112,C.I.Pigment Yellow 126,C.I.Pigment Red 169,C.I.Pigment Orange 13,C.I.Pigment Red 1−10,12,C.I.Pigment Blue 1:X,C.I.Pigment Yellow 42,C.I.Pigment Red 101,C.I.Pigment Brown 6,C.I.Pigment Brown 7,C.I.Pigment Brown 7:X,C.I.Pigment Metal 1,C.I.Pigment Metal 2,C.I.Pigment Yellow 128,C.I.Pigment Yellow 93,C.I.Pigment Yellow 74,C.I.Pigment Yellow 138,C.I.Pigment Yellow 139,C.I.Pigment Yellow 154,C.I.Pigment Yellow 185,C.I.Pigment Yellow 180,C.I.Pigment Red 122,C.I.Pigment Red 184,架橋アルミニウムフタロシアニン顔料及び顔料の固溶体が含まれる。
【0050】
ブラックインキのために、適した顔料材料にはカーボンブラック、例えばCabot Co.からのRegal 400R,Mogul L,Elftex 320又はDEGUSSA Co.からのCarbon Black FW18,Special Black 250,Special Black 350,Special Black 550,Printex 25,Printex 35,Printex 55,Printex 150TならびにC.I.Pigment Black 7及びC.I.Pigment Black 11が含まれる。適した顔料の追加の例は米国特許第5389133号明細書(XEROX)に開示されている。
【0051】
さらにHERBST,W,et al.著,Industrial Organic Pigments,Production,Properties,Applications.2nd edition.vch,1997年により開示されているものから顔料を選ぶことができる。
【0052】
特に好ましい顔料は、C.I.Pigment Yellow 1,3,10,12,13,14,17,65,73,74,75,83,93,109,120,128,138,139,150,151,154,155,180,185;C.I.Pigment Red 17,22,23,57:1,122,144,146,170,176,184,185,188,202,206,207,210;C.I.Pigment Violet 19及びC.I.Pigment Violet 19;C.I.Pigment Blue 15:1,C.I.Pigment Blue 15:2,C.I.Pigment Blue 15:3,C.I.Pigment Blue 15:4及びC.I.Pigment Blue 16である。
【0053】
好ましい態様において、本発明に従うインキ−ジェットインキセットのカラーインキは、顔料C.I.Pigment Yellow 74、C.I.Pigment Red 122及びβ−Cuフタロシアニン顔料を用いて調製される。
【0054】
顔料分散系中の顔料粒子は、例えばそのような顔料粒子を含有するインキ−ジェットインキのインキ−ジェット印刷装置を介する、特に噴射ノズルにおける自由な流れを許すのに十分に小さくなければならない。最大色濃度のためにも小さい粒子を用いるのが望ましい。
【0055】
顔料分散系中の顔料の平均粒度は0.005μm〜15μmでなければならない。好ましくは、平均顔料粒度は0.005〜5μm、より好ましくは0.005〜1μm、そして特に好ましくは0.005〜0.3μmである。本発明の目的が達成される限り、もっと大きな顔料粒度を用いることができる。
【0056】
顔料は顔料分散系中で、顔料分散系の合計重量に基づいて0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の量で用いられる。
【0057】
分散剤
本発明に従う顔料分散系中で用いられる分散剤は、イオン性芳香族モノマーより成るブロックコポリマーである。ブロックコポリマーは、好ましくは少なくとも25個のモノマーを含有する。
【0058】
顔料分散系の優れた安定化のために、顔料粒子上に吸着するブロックの長さは顔料粒子の寸法に適合するのが好ましい。
【0059】
ブロックコポリマーは、AB、ABA、ABAB、ABABA、ABC、ABCBA...−型のブロックコポリマーのいずれであることもでき、ここでA、B及びCは同じ種のモノマーのブロックを示す。好ましいブロックコポリマーは、AB−型ブロックコポリマーである。
【0060】
分散剤は顔料分散系中で、顔料の重量に基づいて5〜200重量%、好ましくは10〜100重量%の量で用いられる。
【0061】
イオン性芳香族モノマー
イオン性芳香族モノマーを式(I):
【0062】
【化1】

【0063】
[式中、
m=0又は1であり;
nは1又は1より大きい整数値であり;
Rは水素又はメチルを示し;
LはC、O及びSより成る群から選ばれる少なくとも1個の原子を含有する連結基を示し;
Arは芳香族基又はヘテロ芳香族基を示し;
XはCOOH、COO、SOH及びSOより成る群から選ばれ;そしてMはカチオンを示す]
により示すことができる。
【0064】
好ましくは、連結基Lは−(C=O)−O−により示される。
【0065】
好ましくは、MはNa、Li、K、NH及び第4級アミンより成る群から選ばれる。
【0066】
少なくとも1個のカルボン酸基もしくはその塩を有する式(I)に従う適したイオン性芳香族モノマーには:
【0067】
【化2】

【0068】
が含まれ、ここでMはNa、Li、K、NH、第4級アミン又は他の電荷補償化合物を示す。COOH及びCOO基の数は少なくとも1であるが、2、3又はそれより多くであることができる。
【0069】
好ましいイオン性芳香族モノマーは、4−ビニル安息香酸、アクリロイルオキシ安息香酸(AOBA)及びメタクリロイルオキシ安息香酸(MAOBA)である。少なくとも1個のカルボキシレート基を有する好ましいイオン性芳香族モノマーは、4−ビニル安息香酸ナトリウム、アクリロイルオキシ安息香酸ナトリウム及びメタクリロイルオキシ安息香酸ナトリウムである。
【0070】
少なくとも1個のスルホン酸基もしくはその塩を有する式(I)に従う適したイオン性芳香族モノマーには:
【0071】
【化3】

【0072】
が含まれ、ここでMはNa、Li、K、NH、第4級アミン及び他の電荷補償化合物を示す。SOH及びSO基の数は少なくとも1であるが、2、3又はそれより多くであることができる。
【0073】
少なくとも1個のスルホン酸基を有する好ましいイオン性芳香族モノマーは4−スチレンスルホン酸である。少なくとも1個のスルホネート基を有する好ましいイオン性芳香族モノマーは、4−スチレンスルホン酸ナトリウムである。
【0074】
分散剤の合成
イオン性モノマーをブロックコポリマーに重合させるためのいずれの適した方法を用いても、本発明に従う顔料分散系中で用いられるブロックコポリマーを製造することができる。
【0075】
好ましい態様において、本発明に従う顔料分散系中で用いられるブロックコポリマーは
、可逆的付加フラグメント化連鎖移動重合(RAFT)により製造される。RAFT重合は特許、国際公開第9801478号パンフレット(DU PONT)、米国特許第2004024132号明細書(DU PONT)、国際公開第0177198号パンフレット(DU PONT)及び米国特許第6642318号明細書(DU PONT)において詳細に開示されている。
【0076】
RAFTによる制御された重合は、成長しているポリマーラジカルと休止中のポリマー鎖の間の迅速な連鎖移動を介して起こる。開始後、制御剤(control agent)CTAは休止中のポリマー鎖の一部になる。制御された分子量及び低い多分散性のポリマーの製造のための成功裏のRAFT重合のために重要なことは、RAFT剤とも呼ばれる高度に有効なジチオエステル連鎖移動剤(CTA)の存在である。RAFT剤は開始ラジカル(開始剤に由来する)又は成長ラジカルと反応し、新しいCTAを形成し、且つラジカルRを脱離させ、それは重合を再開させる。理論的に、モノマーが残っていなくなり、停止段階が起こるまで成長は続くであろう。第1の重合が完了した後、第2のモノマーを系に加え、ブロックコポリマーを形成することができる。
【0077】
開始ラジカルの源は、特許、国際公開第9801478号パンフレット(DU PONT)、米国特許第2004024132号明細書(DU PONT)、国際公開第0177198号パンフレット(DU PONT)及び米国特許第6642318号明細書(DU PONT)中に開示されているもののような、フリーラジカルを発生させるいずれの適した方法であることもできる。
【0078】
RAFT剤は、特許、国際公開第9801478号パンフレット(DU PONT)、米国特許第2004024132号明細書(DU PONT)、国際公開第0177198号パンフレット(DU PONT)及び米国特許第6642318号明細書(DU PONT)中に開示されているいずれのジチオエステル連鎖移動剤であることもできる。
【0079】
分散剤の製造のための好ましい態様において、RAFT重合は水溶性RAFT剤を有する水性媒体中で行なわれる。
【0080】
好ましい水溶性RAFT剤は4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートである。
【0081】
4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートの合成は、ジチオ安息香酸(DTBA)の合成を含む多段階法であり、それは続いて4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートを与える最終的な4,4’−アゾビス(4−シアノ−ペンタン酸)との反応の前に、ジ(チオベンゾイル)ジスルフィドに酸化される。
【0082】
【化4】

【0083】
他の好ましい態様において、本発明に従う顔料分散系中で用いられるブロックコポリマーは、移動活性キサンテート(MADIX)を用いる可逆的付加−フラグメント化連鎖移動法により製造される。キサンテートの交換を介する高分子設計のためのこの方法は、国際公開第9858974号パンフレット(RHODIA)にさらに詳細に記載されている。
【0084】
分散媒
本発明に従う顔料分散系中で用いられる分散媒は、液体である。分散媒は水及び/又は有機溶媒から成ることができる。好ましくは、分散媒は水である。
【0085】
顔料分散系を放射線硬化可能なインキジェットインキの製造のために使用する場合、水及び/又は有機溶媒を1種もしくはそれより多いモノマー及び/又はオリゴマーにより置き換えて液体分散媒を得る。いくつかの場合には、分散剤の溶解を促進するために、少量の有機溶媒を加えるのが有利であり得る。有機溶媒の含有率は、顔料分散系の合計重量に基づいて20重量%より低くなければならない。
【0086】
適した有機溶媒にはアルコール、芳香族炭化水素、ケトン、エステル、脂肪族炭化水素、高級脂肪酸、カルビトール、セロソルブ、高級脂肪酸エステルが含まれる。適したアルコールにはメタノール、エタノール、プロパノール及び1−ブタノール、1−ペンタノール、2−ブタノール、t.−ブタノールが含まれる。適した芳香族炭化水素にはトルエン及びキシレンが含まれる。適したケトンにはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2,4−ペンタンジオン及びヘキサフルオロアセトンが含まれる。グリコール、グリコールエーテル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドを用いることもできる。
【0087】
界面活性剤
本発明に従う顔料分散系は、少なくとも1種の界面活性剤を含有することができる。界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、非−イオン性又は双性−イオン性であることがで
き、通常顔料分散系の合計重量に基づいて20重量%より少ない合計量で、特に顔料分散系の合計重量に基づいて10重量%より少ない合計量で加えられる。
【0088】
本発明に従う顔料分散液のために適した界面活性剤には脂肪酸塩、高級アルコールのエステル塩、高級アルコールのアルキルベンゼンスルホネート塩、スルホスクシネートエステル塩及びホスフェートエステル塩(例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びジオクチルスルホコハク酸ナトリウム)、高級アルコールのエチレンオキシド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキシド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルのエチレンオキシド付加物ならびにアセチレングリコール及びそのエチレンオキシド付加物(例えばポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルならびにAIR PRODUCTS & CHEMICALS INC.から入手可能なSURFYNOLTM 104,104H,440,465及びTG)が含まれる。
【0089】
殺生物剤
本発明の顔料分散系のために適した殺生物剤にはデヒドロ酢酸ナトリウム、2−フェノキシエタノール、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチル及び1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩が含まれる。
【0090】
好ましい殺生物剤はHENKELから入手可能なBronidoxTMである。
【0091】
殺生物剤は、好ましくはそれぞれ顔料分散系の合計重量に基づいて0.001〜3重量%、より好ましくは0.01〜1.00重量%の量で加えられる。
【0092】
pH調整剤
本発明に従う顔料分散系は、少なくとも1種のpH調整剤を含有することができる。適したpH調整剤にはNaOH、KOH、NEt、NH、HCl、HNO及びHSOが含まれる。沈降分散系(precipitation dispersion)の調製において用いられる好ましいpH調整剤はNaOH及びHSOである。
【0093】
顔料分散系の調製
分散剤の存在下に、顔料を分散媒中で沈降させる(precipitating)か又は磨砕することにより、本発明に従う顔料分散系を調製することができる。
【0094】
混合装置には圧力混練機(pressure kneader)、開放混練機、遊星形ミキサー、溶解機及びDalton Universal Mixerが含まれ得る。適した磨砕及び分散装置はボールミル、パールミル、コロイドミル、高速分散機、ダブルローラー、ビーズミル、ペイントコンディショナー及びトリプルローラーである。超音波エネルギーを用いて分散系を調製することもできる。
【0095】
好ましい態様において、顔料分散系は沈降分散系であり、その場合最初にpHを9より高く上げることにより少なくとも1個のカルボン酸基を有する顔料を分散媒中に可溶化し、続いて可溶化された顔料を酸の添加により分散剤の存在下において沈降させる。
【0096】
顔料の非常に微細な分散系及びその調製方法は、例えば欧州特許第776952A号明細書(KODAK)、米国特許第5538548号明細書(BROTHER)、米国特許第5443628号明細書(VIDEOJET SYSTEMS)、欧州特許第259130A号明細書(OLIVETTI)、米国特許第5285064号明細書(EXTREL)、欧州特許第429828A号明細書(CANON)及び欧州特許第526198A号明細書(XEROX)に開示されている。
【0097】
スペクトル分離係数
スペクトル分離係数SSFは、インキ−ジェットインキを特性化するための優れた尺度であることが見出され、それは、それが光−吸収に関連する性質(例えば最大吸光度の波長λmax、吸収スペクトルの形及びλmaxにおける吸光度−値)ならびに分散の質及び安定性に関連する性質を考慮しているからである。
【0098】
比較的高い波長における吸光度の測定は、吸収スペクトルの形についての指標を与える。溶液中の固体粒子により誘導される光散乱の現象に基づいて、分散の質を評価することができる。顔料インキにおける光散乱を、実際の顔料の吸光度ピークより高い波長における吸光度の向上として検出することができる。例えば60℃における4時間の、又は80℃における1週間の熱処理の前後でSSFを比較することにより、分散安定性を評価することができる。
【0099】
インキのスペクトル分離係数SSFは、インキ溶液又は基質上に噴射された画像の記録されるスペクトルのデータを用い、且つ最大吸光度を参照波長における吸光度と比較することにより計算される。スペクトル分離係数は、最大吸光度Amax対参照波長における吸光度Arefの比率として計算される。
【0100】
【数1】

【0101】
SSFは、大きい色域を有するインキ−ジェットインキセットを設計するための優れた道具である。多くの場合、種々のインキが十分に互いに適合していないインキ−ジェットインキセットが現在商品化されている。例えばすべてのインキの合わされた吸収が可視スペクトル全体に及んで完全な吸収を与えず、例えば着色剤の吸収スペクトルの間に「間隙」が存在する。他の問題は、あるインキが他のインキの領域内で吸収しているかも知れないことである。これらのインキ−ジェットインキセットの得られる色域は低いかもしくは並である。
【実施例】
【0102】
材料
以下の実施例中で用いられるすべての材料は、他にことわらなければAldrich Chemical Co.(Belgium)及びAcros(Belgium)のような標準的な供給源から容易に入手可能であった。
【0103】
用いられた水は脱イオン水であった。
【0104】
AIBNはAcrosからの2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)である。
【0105】
AIBNCOOHはAldrichからのものである。
【0106】
ビニル安息香酸はUBICHEM Ltdからのものである。
【0107】
4−スチレンスルホン酸ナトリウムはAcrosからのものである。
【0108】
MarlonTM A365はHuels AGからのものである。
【0109】
ARLOは、Marlon A365の10%水溶液である。
【0110】
KPF16353は、KoepffからのCa−非含有中粘度ゼラチンである。
【0111】
透明な150μm下塗りPETは、AGFA−GEVAERTからP100C S/S
ASとして入手可能である。
【0112】
用いられた顔料はDYE−1及びDYE−2であった:
【0113】
【化5】

【0114】
表1中のブロックコポリマーは、実施例2、3及び4において用いられる分散剤の一般式を示す。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
測定法
1.SSF係数
スペクトル分離係数SSFは、顔料分散系による光の吸収を特性化する。それはコーティングされた層の吸収スペクトルの形及びλmaxにおける吸光度−値を考慮する。狭い吸収スペクトル及び高い最大吸光度を示す有効な顔料分散系は、顔料分散系のコーティングされた層に関して少なくとも30.0のSSFに関する値を有する。
【0118】
スペクトル分離係数SSFは、最大吸光度Amax(波長λmaxにおいて測定される
)対波長λmax+200nmにおいて決定される吸光度の比率として計算された。
【0119】
吸光度は、Hewlett Packard 8452A Diode Array分光光度計を用い、コーティングされた層上で透過率において決定された。
【0120】
2.分散安定性
60℃における4時間の熱処理の前後でSSFを比較することにより、分散安定性を評価した。優れた分散安定性を示す顔料分散系は、熱処理後でもまだ30.0より大きいSSF及び好ましくは30%より小さいSSFにおける%減少を有する。
【0121】
3.ポリマー分析
ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)及び核磁気共鳴分光分析(NMR)を用いてすべてのポリマーを特性化した。ランダムもしくはブロックコポリマーをジューテリウム化溶媒中に溶解することにより、NMRを用いてそれらを分析した。H−NMRのために、±20mgのポリマーを0.8mLのCDCl又はDMSO−d6又はアセトニトリル−d3又はDO(NaODを加えたかもしくは加えない)中に溶解した。ID−プローブが備えられたVarian Inova 400MHz測定器上でスペクトルを記録した。13C−NMRのために、±200mgのポリマーを0.8mLのCDCl又はDMSO−d6又はアセトニトリル−d3又はDO(NaODを加えたかもしくは加えない)中に溶解した。SW−プローブが備えられたVarian Gemini2000 300MHz上でスペクトルを記録した。
【0122】
ゲル透過クロマトグラフィーを用いてM、M、M及び多分散性(pd)の値を測定した。有機溶媒中に溶解可能なポリマーの場合、移動相としてTHF又はTHF+5%酢酸を用い、キャリブレーション標準として既知の分子量を有するポリスチレンを用いて、PL−混合Bカラム(Polymer Laboratories Ltd)を使用した。これらのポリマーを移動相中に1mg/mLの濃度で溶解した。水中に溶解可能なポリマーの場合、研究中のポリマーの分子量範囲に依存してPL Aquagel OH−60、OH−50、OH−40及び/又はOH−30(Polymer Laboratories Ltd)カラム組み合わせを用いた。移動相として、例えばリン酸水素二ナトリウムを用いてpH9.2に調整された水/メタノール混合物を、中性塩、例えば硝酸ナトリウムを添加してかもしくはせずに使用した。キャリブレーション標準として、既知の分子量を有するポリアクリル酸を用いた。水中又は水酸化アンモニウムを用いて塩基性にされた水中に、1mg/mLの濃度でポリマーを溶解した。屈折率検出を用いた。
【0123】
ここで(ブロック)コポリマーの組成の計算を例示するためのいくつかの例を示す:
【0124】
ランダム(random)(=ランダム(statistical))コポリマーP(MAA−c−EHA)の平均組成の決定:
GPCを用いるコポリマーのMnの決定 => Mn=5000
MNRによる各モノマー型のモルパーセンテージの決定 => 45モル% MAA
及び55モル% EHA
(0.45xMMAA)+(0.55xMEHA)=140.09
5000/140.09=平均ポリマー鎖中のモノマー単位の合計数=36
MAA単位の平均数=0.45x(5000/140.09)=16単位
EHA単位の平均数=0.55x(5000/140.09)=20単位
かくして平均組成はP(MAA16−c−EHA20)である。
【0125】
ABブロックコポリマーP(AA−b−BnA)の平均組成の決定:
ATRPを介してブロックコポリマーを製造した。最初にPtBA高分子−開始剤を製
造した:この高分子−開始剤のMn(NMRに基づく)は6600g/モルである。かくしてブロック長は6600/MtBA=51tBA単位である。続いてBnAを用いて第2のブロックを製造した。NMRを適用して、2つのモノマー型の間のモル比を決定することができる:65/35(tBA/BnA)。かくしてブロックコポリマーの平均組成はP(tBA51−b−BnA27)である。tBA単位の加水分解の後、完全に脱保護されたブロックコポリマーの最終的な組成はP(AA51−b−BnA27)である。
【0126】
4.粒度
顔料分散系中の顔料粒子の粒度を、顔料分散系の10倍に希釈された試料につき、光子相関分光法により632nmの波長において決定した。用いられた粒度分析器は、Brookhaven Instruments Corporationから入手可能なBrookhaven BI90plusであった。
【0127】
実施例1
この実施例は、重合した4−スチレンスルホン酸ナトリウム(SSA−Na)のポリマー性Aセグメント及び重合した4−ビニル安息香酸ナトリウム(VBA−Na)のポリマー性Bセグメントを有するABブロックコポリマーの合成を例示する。ブロックコポリマーは実施例2で分散剤DISP−12として用いられる。
【0128】
最初にRAFT−剤、4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートを図1における反応案に従って合成し、精製した。次いでABブロックコポリマーのポリマー性Aセグメント、すなわち重合した4−スチレンスルホン酸ナトリウムを合成し、続いて4−ビニル安息香酸ナトリウムとのブロック共重合のための出発ポリマーとして用いた。
【0129】
ジチオ安息香酸(DTBA)の合成
磁気攪拌棒、滴下ロート(250.0mL)、温度計及び液体の移動のためのゴム隔壁が備えられた十分に乾燥された1Lの3つ口丸底フラスコに、ナトリウムメトキシド(メタノール中の30%溶液,180.0g)を加えた。カヌーラを介して無水メタノール(250.0g)をフラスコに加え、続いて元素硫黄(32.0g)を迅速に加えた。次いで滴下ロートを介し、乾燥窒素雰囲気下で室温において1時間かけ、塩化ベンジル(63.0g)を滴下した。反応混合物を油浴中で67℃において10時間加熱した。この時間の後、氷浴を用いて反応混合物を7℃に冷却した。沈殿する塩を濾過により除去し、溶媒を真空中で除去した。残留物に脱イオン水(500.0mL)を加えた。溶液を2回目に濾過し、次いで2Lの分液ロートに移した。粗ジチオ安息香酸ナトリウム溶液をジエチルエーテル(200.0mL)で3回洗浄した。ジエチルエーテル(200.0mL)及び1.0N HCl(500.0mL)を加え、ジチオ安息香酸をエーテル層中に抽出した。脱イオン水(300.0mL)及び1.0N NaOH(600.0mL)を加え、ジチオ安息香酸ナトリウムを水層中に抽出した。この洗浄プロセスを繰り返し、最後にジチオ安息香酸ナトリウムの溶液を与えた。
【0130】
ジ(チオベンゾイル)ジスルフィドの合成
フェリシアン化カリウム(III)(32.93g)を脱イオン水(500.0mL)中に溶解した。磁気攪拌棒が備えられた1Lの三角フラスコにジチオ安息香酸ナトリウム溶液(350.0mL)を移した。激しい攪拌下に滴下ロートを介して1時間かけ、フェリシアン化カリウム溶液をジチオ安息香酸ナトリウムに滴下した。赤い沈殿を濾過し、洗浄液が無色になるまで脱イオン水で洗浄した。固体を室温における真空中で終夜乾燥した;生成物をエタノールから再結晶した。
【0131】
4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートの合成
250mLの丸底フラスコに蒸留された酢酸エチル(80.0mL)を加えた。フラス
コに乾燥4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)(5.84g)及びジ(チオベンゾイル)ジスルフィド(4.25g)を加えた。反応溶液を18時間加熱還流した。真空中で酢酸エチルを除去した。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル 60Å,70−230メッシュ)により、溶離剤として酢酸エチル−ヘキサン(2:3)を用いて単離した。赤い色の画分を合わせ、無水硫酸ナトリウム上で終夜乾燥した。真空中で溶媒混合物を除去し、赤い油性の残留物を−20℃におけるフリーザー中に置き、するとそれは結晶化した。4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートをベンゼンから再結晶した。
【0132】
4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートの精製
H−NMRを用いてRAFT剤4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートを分析し、種々の不純物(例えば塩化ベンジル)で汚染されていることが見出された。Kromasil Si 60Å 10 micが充填されたHPLCカラム,Prochrom LC80(長さ=25cm,直径=8cm)を用いて4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートの精製を行なった。酢酸エチル及びn−ヘキサン(1:2.33)の混合物中の4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートの溶液を調製した。クロマトグラムから、14〜17分後の主ピークのみが所望の生成物、4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートを示すことが明らかであり、従って残りの溶液から分離した。溶媒のほとんどの蒸発後、少量のヘキサンを加えた。冷蔵庫中で生成物を終夜結晶化させた。結晶を真空炉中で乾燥した。中にRAFT剤を有する容器を密閉し(densely closed)、加水分解を妨げるために冷蔵庫中で保存した。
【0133】
ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)高分子−開始剤の合成
磁気攪拌棒が備えられた100mLの丸底フラスコに、4−スチレンスルホン酸ナトリウム(6.0g)、4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエート(0.2ミリモル)、AIBNCOOH(0.04ミリモル)及び水(27g)を加えた。反応混合物を72℃において油浴中で2時間加熱した。急速な冷却により重合を停止させた。試料を採取し、分析した:Mnは7977、pd=2.1及びDP=39であった。
【0134】
ABブロックコポリマーの合成
磁気攪拌棒が備えられた100mLの丸底フラスコに、ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)高分子−開始剤(0.50g)、4−ビニル安息香酸(0.36g)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)(4mg)及び水(5g)を加えた。水酸化ナトリウム(6.0モル)を加えて4−ビニル安息香酸を可溶化した。20分間窒素でパージすることにより、混合物を脱酸素した。フラスコを水浴中で70℃において加熱した。重合を6時間進行させ、次いで水を用いて反応混合物を透析し、続いて凍結−乾燥した。
【0135】
得られたブロックコポリマーは、x及びyが39に等しい表1のBCP−8であった。
【0136】
実施例2
この実施例は、少なくとも1個のカルボン酸基を有する顔料の顔料分散系中で分散剤として用いられる本発明に従うブロックコポリマーの利点を例示する。
【0137】
x、y及びzが表1のブロックコポリマーBCP−1〜BCP−8中のモノマーの数を示す表2に従う分散剤DISP−1〜DISP−12を用い、顔料DYE−1及びDYE−2を分散させた。
【0138】
【表3】

【0139】
顔料分散系の調製
すべての顔料分散系を、ここで下記に記載すると同じ方法で調製した。
【0140】
磁気攪拌棒が備えられた100mLの丸底フラスコに顔料(1.0g)、ARLO(0.25g)、分散剤(0.5g)及び水(35.0g)を加えた。分散剤が溶解するまで混合物を攪拌した。pHが9.5に達するまで水酸化ナトリウム(3N)を加えた。混合物をさらに10分間攪拌した。pHが3.5に達するまで硫酸(6N)を迅速に加えた。水酸化ナトリウムを用いてpHを4.5に調整した。10分間攪拌した。水を加えて合計重量を50.0gとした。
【0141】
上記の方法を用い、表3に従って比較顔料分散系COMP−1〜COMP−22及び本発明の顔料分散系INV−1及びINV−2を調製した。
【0142】
【表4】

【0143】
着色層のコーティング
KPF16353ゼラチンを40℃で1時間混合することにより、ゼラチンの5%溶液を調製した。顔料分散系(4.00g)及びARLO(0.89g)をゼラチンの5%溶液(15.11g)に加えてコーティング溶液を完成させた。コーティング溶液を40℃で20分間攪拌し、次いでドクターブレードを用い、支持体として透明な150μm下塗りPETに適用し、50μmの湿潤層厚さを与えた。コーティングされた試料を20℃で2時間放置して乾燥した。
【0144】
上記のコーティング法を用い、比較顔料分散系COMP−1〜COMP−22及び本発明の顔料分散系INV−1及びINV−2を透明な150μm下塗りPET上にコーティングした。分散安定性の試験のために、比較顔料分散系COMP−1〜COMP−22及
び本発明の顔料分散系INV−1及びINV−2を熱処理(60℃において4時間)に供し、次いで上記の方法を用いてコーティングした。コーティングされた試料のそれぞれに関し、スペクトル分離係数を決定した。結果を表4に示す。
【0145】
【表5】

【0146】
表4から、本発明の試料のコーティング層INV−1及びINV−2のみが熱処理の前及び後の両方に高いSSFを示し、且つSSFにおける減少がないことが明らかである。
【0147】
実施例3
この実施例は、同じモノマーのホモポリマー及びランダムコポリマーと比較される本発明に従うブロックコポリマーの利点を例示する。
【0148】
平均して分散剤DISP−12と同じ数のモノマーを有する以下の分散剤を用いた:
・DISP−13はSSAのホモポリマーである。
・DISP−14はVBAのホモポリマーである。
・DISP−15はSSA及びVBAのランダムコポリマーである。
【0149】
実施例2に記載されたと正確に同じ方法で、しかし表5に従う染料及び分散剤を用いて、比較顔料分散系COMP−23〜COMP−30を調製した。比較顔料分散系COMP−25及びCOMP−29の場合、分散剤DISP−13及びDISP−14の混合物を用いた。
【0150】
【表6】

【0151】
比較顔料分散系COMP−23〜COMP−30を、実施例2における本発明の顔料分散系INV−1及びINV−2と同じ方法でコーティングした。分散安定性の試験のために、比較顔料分散系COMP−23〜COMP−30を本発明の顔料分散系INV−1及びINV−2と同じ熱処理(60℃において4時間)に供し、次いで同じ方法でコーティングした。コーティングされた試料のそれぞれに関し、スペクトル分離係数を決定した。結果を表6に示す。
【0152】
【表7】

【0153】
比較顔料分散系COMP−28に関する熱処理後のSSFは、低すぎて測定できなかった。表6から、本発明の試料INV−1及びINV−2中で用いられるブロックコポリマーと同じモノマーから成るホモポリマー、ホモポリマーの混合物又はランダムポリマーを有する比較顔料分散系COMP−23〜COMP−30は、熱処理の前及び後の両方に高いSSFを有する、及び/又はSSFにおける大きな%減少のないコーティング層を生じなかったことが明らかである。
【0154】
実施例4
この実施例において、ブロックコポリマーBCP−8に関するモノマーの数の影響を調べる。
【0155】
実施例2に記載されたと正確に同じ方法で、しかし染料DYE−1及び表7に従う分散剤を用いて、比較顔料分散系COMP−31及び本発明の顔料分散系INV−3〜INV−16を調製した。分散剤は、x及びyがそれぞれモノマーSSA−Na及びVBAの数を示すブロックコポリマーBCP−8に相応する。
【0156】
【表8】

【0157】
比較顔料分散系COMP−31及び本発明の顔料分散系INV−3〜INV−16を実施例2におけると同じ方法でコーティングした。分散安定性の試験のために、比較顔料分散系COMP−31及び本発明の顔料分散系INV−3〜INV−16を同じ熱処理(60℃において4時間)に供し、次いで同じ方法でコーティングした。コーティングされた試料のそれぞれに関し、スペクトル分離係数を決定した。結果を表8に示す。
【0158】
【表9】

【0159】
表8は、25個より少ないモノマーを有するブロックコポリマーを用いる比較顔料分散系COMP−31が染料DYE−1に関し、熱処理の前後に高いSSFを有するコーティング層を生じなかったことを示す。本発明の顔料分散系INV−5及びINV−7が30.0より高いSSFを有するコーティング層を得るために熱処理を必要とすることも注目された。
【0160】
複数の顔料分散系に関して粒度を決定した。表9は結果を示す。
【0161】
【表10】

【0162】
表9から、小さすぎるブロックコポリマー性分散剤は約300nmの比較的大きな粒度を生ずることが明らかである。非常に大きなブロックコポリマー性分散剤を用いる本発明の顔料分散系INV−3において類似の粒度が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料及びイオン性芳香族モノマーより成るブロックコポリマーを含んでなる顔料分散系。
【請求項2】
該ブロックコポリマーが少なくとも25個のイオン性芳香族モノマーを含有する請求項1に従う顔料分散系。
【請求項3】
該イオン性芳香族モノマーがpH>7を有する水中で25℃において10mg/Lもしくはそれより高い溶解度を有する請求項1に従う顔料分散系。
【請求項4】
該イオン性芳香族モノマーが式(I):
【化1】

[式中、
m=0又は1であり;
nは1又は1より大きい整数値であり;
Rは水素又はメチルを示し;
LはC、O及びSより成る群から選ばれる少なくとも1個の原子を含有する連結基を示し;
Arは芳香族基又はヘテロ芳香族基を示し;
XはCOOH、COO、SOH及びSOより成る群から選ばれ;
そして
はカチオンを示す]
により示される請求項1に従う顔料分散系。
【請求項5】
該連結基Lが−(C=O)−O−により示され、m=1である請求項4に従う顔料分散系。
【請求項6】
がNa、Li、K、NH及び第4級アミンより成る群から選ばれる請求項4に従う顔料分散系。
【請求項7】
該イオン性芳香族モノマーがビニル安息香酸基もしくはその塩である請求項4に従う顔料分散系。
【請求項8】
該イオン性芳香族モノマーがスチレンスルホン酸もしくはその塩である請求項4に従う顔料分散系。
【請求項9】
該スチレンスルホン酸もしくはその塩が4−スチレンスルホン酸、4−スチレンスルホン酸ナトリウム、4−スチレンスルホン酸カリウム及び4−スチレンスルホン酸アンモニウムより成る群から選ばれる請求項8に従う顔料分散系。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに従う顔料分散系を含有するコーティング溶液からコーティングされる着色層。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに従う顔料分散系を含んでなるインキジェットインキ。
【請求項12】
該インキジェットインキが放射線硬化可能なインキジェットインキである請求項11に従うインキジェットインキ。
【請求項13】
a)水溶性の可逆的付加フラグメント化連鎖移動重合剤を有する水性媒体中で行なわれる可逆的付加フラグメント化連鎖移動重合により、イオン性芳香族モノマーから成るブロックコポリマーを合成し;そして
b)該合成されたブロックコポリマーを用いて顔料分散系を調製する
段階を含んでなる顔料分散系の調製方法。
【請求項14】
該水溶性の可逆的付加フラグメント化連鎖移動重合剤が4−シアノペンタン酸ジチオベンゾエートである請求項14に従う顔料分散系の調製方法。
【請求項15】
顔料分散系を沈降(precipitation)により調製する請求項14又は15に従う顔料分散系の調製方法。

【公表番号】特表2008−528783(P2008−528783A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553590(P2007−553590)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2006/050455
【国際公開番号】WO2006/082159
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(507253473)アグフア・グラフイクス・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (21)
【Fターム(参考)】