説明

イオン母集団内複数親イオン種についてのタンデム質量分析データ取得

本発明に係るタンデム質量分析法においては、リニアイオントラップ及び飛行時間型質量検出器を用いて質量スペクトラム群を収集することによりMS/MS法を実行する。従来から認められている標準的な構成では、前駆イオン群をイオントラップ内に収蔵し質量分析した上で、そのイオン群を衝突セルへと軸方向放出してフラグメント化し、飛行時間型検出器内でそのフラグメント群の質量分析を行っていた。本発明においては、狭めm/z値域内イオン群を直交方向に放出し、そのイオン群によるリボン状ビームを衝突セル内に注入する。このようなビーム形状を有する高エネルギイオン群を受け入れられるよう、衝突セルは平板状とする。ある狭めm/z値域が放出されたら次の狭めm/z値域を放出するというようにイオントラップ内にイオン群を保持しつつ放出を行うことによって、注目している前駆イオン群全体をカバーする。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンデム質量分析法に関する。本発明は、特に、これ以外を除外するものではないが、イオントラップを用いて前駆イオン群を分析及び選別し飛行時間(TOF)型質量分析部を用いてフラグメントイオン群を分析するタンデム質量分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン化した分子の構造的解明にはしばしばタンデム質量分析計が用いられる。タンデム質量分析計においては、その第1分析段即ち第1質量分析部(MS−1)にて特定の前駆イオンが選別され、選別された前駆イオン群が例えば衝突セル内でフラグメント化(フラグメンテーション)され、その結果得られたフラグメントイオン即ち生成イオンが分析のためその第2分析段即ち第2質量分析部(MS−2)に移送される。この分析法はフラグメント化されたイオン群からフラグメントを選別して更にフラグメント化等し、生成されたフラグメント群をその世代毎に分析する分析法に、拡張できる。このように拡張された分析法は、通常、MSn質量分析法と呼ばれている。この式中、指数nは質量分析段数即ちイオン世代数を表しており、従って、MS2法(MS/MS法)といえば、2世代のイオン(即ち前駆イオン及び生成イオン)を分析する2段質量分析法を指すこととなる。
【0003】
タンデム質量分析計については、次のようにシーケンシャル型と非シーケンシャル型とに分類し、更にシーケンシャル型を空間シーケンシャル型、時間シーケンシャル型及び時空間シーケンシャル型に分類するのが妥当であろう。
【0004】
1.空間シーケンシャル型には、(a)扇形磁場ハイブリッド型、(b)QqQ型、(c)Q−TOF型、(d)TOF−TOF型等がある。これらのうち扇形磁場ハイブリッド型には4セクタ型、磁場トラップ型、磁場TOF型等があり(非特許文献1等参照)、QqQ型とは三連四重極を構成する四重極Qのうち2番目の四重極をRF特化型衝突セル即ちqとしたものであり(非特許文献2等参照)、Q−TOF型とは四重極型質量分析部の後段にTOF型質量分析部を設けたものであり(非特許文献3、特許文献1(I. Chernushevich and B. Thomson)等参照)、TOF−TOF型とは衝突セルを挟み2個のTOF型質量分析部をシーケンシャルに配置したものである(特許文献2(T. J. Cornish and R. J. Cotter)等参照)。
【0005】
2.時間シーケンシャル型には、イオントラップ型例えばポールトラップ型(Paul trap:非特許文献4等参照)、FT−ICR(フーリエ変換型イオンサイクロトロン共鳴)型(非特許文献5等参照)、半径方向放出LTMS(リニアトラップ型質量分析計)型(特許文献3(M. E. Bier and J. E. Syka)等参照)、軸方向放出LTMS型(特許文献4(J. Hager)等参照)等がある。
【0006】
3.時空間シーケンシャル型には、(a)3D−TOF型(非特許文献6、特許文献5(E. Kawato)等参照)、(b)LT/FT−ICR型(非特許文献7、非特許文献8等参照)、(c)LT/TOF型(例えば分析的LT/TOF型のものについては特許文献6(C. M. Whitehouse, T. Dresch and B. Andrien)を、四重極トラップ/TOF型のものについては特許文献7(J. W. Hager)を参照)がある。
【0007】
タンデム質量分析法に適する非シーケンシャル型質量分析計も数多く文献に現れている(非特許文献9、特許文献8(R. Reinhold and A. V. Verentchikov)等参照)。
【0008】
以上のうち特許文献7により開示されているタンデム質量分析計は、リニアイオントラップ型質量分析計と、このリニアイオントラップ型質量分析計の軸方向上に配置されたイオンフラグメント化用のトラッピング型衝突セルと、その後段に設けられたTOF型質量分析部とを備えている。
【0009】
特許文献9に開示されている質量分析計は、2個以上のイオントラップを同じ軸上に並べ、必要であれば同じ軸上に更にTOF型質量分析部を並べたものである。各イオントラップがそれぞれ衝突セルとして機能するため、この質量分析計を用いてMS/MS法やMSn法を実行することができる。
【0010】
特許文献7及び9記載の質量分析計は、イオントラップから衝突セルへ更にTOF型質量分析部へと軸方向に沿いイオン群を放出する、という仕組みに依っている点で、何れも標準的なものである。しかしながら、それによってまた、両者とも、分析速度(即ち1sec当たりMS/MS法実行回数)向上に空間電荷効果が邪魔になるという問題にさらされている。即ち、TOF型質量分析部にて安定した実行結果データを得るにはそのTOF型質量分析部によって十分多くのフラグメントイオン群を検出できねばならないが、それを確実にするには、その規模がどんどん増していくイオン群を上流部(特に少なくとも1種類の前駆イオンがフラグメント化及び分析される場所)に収蔵できねばならない。初段分析部内の上流部に大規模なイオン群が存在している場合、そのイオン群の規模が大きくなるに連れ、空間電荷効果によってその分析部の分解能及び精度が低下していくこととなる。しかしながら、プロテオミクス(プロテオーム解析・全タンパク質解析)等のように高スループットが要求される用途にて使用できるようにする上で重要なことは、これまでは到底達成し得なかった分析速度を達成すること、特にMS/MS法による1sec当たりスペクトラム本数をこれまでの限界5〜15本/secから数百本/secまで高めることであり、これを達成するには、注入されるイオン群全体を空間電荷の存否や規模に関わらず効率的に利用することだけでなく、msecオーダといった高速で各前駆イオン種の質量電荷比(以下「m/z値」)を分析することも求められる。TOF型質量分析部それ自体はそういった高速分析も可能なものであるから、この未達成水準を達成するには、そのTOF型質量分析部が組み込まれるシステム内でそのTOF型質量分析部よりも前段に位置している部分全て、即ちイオントラップ及び衝突セルを、この未達成水準に適うものにしなければならない。
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/30159号明細書
【特許文献2】米国特許第5464985号明細書
【特許文献3】米国特許第5420425号明細書
【特許文献4】米国特許第6177688号明細書
【特許文献5】国際公開第99/39368号パンフレット
【特許文献6】米国特許第6011259号明細書
【特許文献7】米国特許第6504148号明細書
【特許文献8】米国特許第6483109号明細書
【特許文献9】国際公開第01/15201号パンフレット
【特許文献10】米国特許第5572022号明細書
【特許文献11】米国特許第5763878号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2002/92980号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第1267387号明細書
【特許文献14】米国特許第5847386号明細書
【特許文献15】米国特許第6111250号明細書
【特許文献16】米国特許第6316768号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第2002/63209号明細書
【特許文献18】国際公開第01/11660号パンフレット
【特許文献19】国際公開第02/78046号パンフレット
【特許文献20】国際公開第98/56029号パンフレット
【特許文献21】国際公開第00/70335号パンフレット
【非特許文献1】F. W. McLafferty Ed., "Tandem mass spectrometry", Wiley-Interscience, New York, 1983
【非特許文献2】Hunt DF, Buko AM, Ballard JM, Shabanowitz J and Giordani AB, "Biomedical Mass Spectrometry", 8 (9) (1981), pp.397-408
【非特許文献3】H. R. Morris, T. Paxton, A. Dell, J. Langhorne, M. Berg, R.S. Bordoli, J. Hoyes and R. H. Bateman, Rapid Comm. in Mass Spectrom., 10 (1996), pp.889-896
【非特許文献4】R. E. March and R. J. Hughes, "Quadrupole Storage Mass Spectrometry", John Wiley, Chichester, 1989
【非特許文献5】A. G. Marshall and F. R. Verdum, "Fourier transforms in NMR, Optical and Mass Spectrometry", Elsevier, Amsterdam, 1990
【非特許文献6】S. M. Michael, M. Chen and D. M. Lubman, Rev. Sci. Instrum., 63(10) (1992), pp.4277-4284
【非特許文献7】M. E. Belov, E. N. Nikolaev, A. G. Anderson et al., Anal. Chem., 73 (2001), pp.253
【非特許文献8】J. E. P. Syka, D. L. Bai et al., Proc. 49th ASMS Conf. Mass Spectrom., Chicago, IL, 2001
【非特許文献9】J. T. Stults, C. G. Enke and J. F. Holland, Anal. Chem., 55 (1983), pp.1323-1330
【非特許文献10】D. Gerlich, "State-Selected and State-to-State Ion-Molecule Reaction Dynamics, Part 1: Experiment", Ed. C. Ng, M. Baer, Adv. Chem. Phys. Series, Vol.82, John Wiley, Chichester, 1992, pp.1-176
【非特許文献11】Hoaglund-Hyzer, J. Li and D. E. Clemmer, Anal. Chem., 72 (2000), pp.2737-2740
【非特許文献12】A. A. Makarov, D. R. Bandura, Int. J. Mass Spectrom. Ion Proc., v.127 (1993), pp.45-55
【発明の開示】
【0012】
こういった従来技術における問題点に対策するため、本発明の第1実施形態に係る方法は、イオン源、複数個の伸長電極を有するイオントラップ、衝突セル及びTOF型質量分析部を備える質量分析計を使用しタンデム質量分析を行う方法において、イオン源から入ってくるイオン群をトラッピングし、更にその伸長電極の長手方向に対し略直交する方向へと放出され衝突セルに向け移動していくようこのトラッピングしたイオン群を励起するステップと、イオントラップから入ってくるイオン群を衝突セル内でフラグメント化するステップと、得られたフラグメントイオン群をTOF型質量分析部に向け移動していくよう衝突セルから放出するステップと、その内部にいるイオン群の質量スペクトラムが得られるようTOF型質量分析部を動作させるステップと、を有するものである。
【0013】
ここに、リニアイオントラップ等のイオントラップから略直交方向へとイオン群を放出させることができれば、それは、標準的構成として広く受け入れられている軸方向放出型タンデム質量分析計に対して、明確な特徴となる。しかしながら、長らく、直交方向放出というやり方では軸方向放出に比べ質的に非常に劣ったものしか得られない、と暗黙のうちに考えられてきた。それは、イオン群のビーム寸法を比べると軸方向放出時より直交方向放出時の方が大きくなるであろうと考えられたためであり、またイオン群を捕捉及びフラグメント化しTOF型質量分析部へと送給するための装置を革新しない限りこの問題を解決できないと考えられたためであった。また、得られるイオンビームが高エネルギ域に広がることも問題であった。
【0014】
これに対して、本願出願人は、直交方向放出によって非常に高い性能を実現できること、並びにこれが大ビーム寸法及び高エネルギ放出という短所を補ってあまりある長所であるということを、実証することができた。特に、直交放出においては、典型的なことに、非常に高い放出効率、非常に高い走査速度、イオン母集団に対するより好適な制御、非常に大きな空間電荷容量等を実現できる。更に、放出したイオン群をガス充填済の衝突セルへと送り込むようにすれば、衝突セルにてイオン群が衝突によりエネルギを失いフラグメント化を引き起こすこととなるため、高エネルギ放出に潜在する問題を軽減することができる。
【0015】
ここでいう衝突セルとはイオン群のフラグメント化に使用できるあらゆる空間を指している。イオン群をフラグメント化するには例えばガス、電子又は光子を衝突セル内に入れればよい。
【0016】
望ましくは、トラッピングされているイオン群をリボン状ビームにしてリニアイオントラップから衝突セル内へと放出する。そのようにすれば、その性能、速度乃至放出効率を損なうことなしに、イオントラップの空間電荷容量が増大する。また、このリボン状ビームを受け入れられるよう衝突セルを平板状にするのが望ましい。例えば、基本的に平板状で注入されたイオン群を好ましくはより小さな開口内へと合焦していく導路場が衝突セルにて発生するよう、衝突セルを構成すればよい。
【0017】
実施に当たっては、衝突セルを複数本の長尺ロッド状電極を有する構成とし、またこの電極を少なくとも2個の構成部分を有する複合的電極とし、各長尺ロッド状電極の各構成部分に対しRF電位を印加するステップ及び各長尺ロッド状電極の各構成部分に対し相異なる直流電位を印加するステップを実行するようにするのが、望ましい。
【0018】
注記すべきことに、複数本の長尺ロッド状電極を全て衝突セル内に配置する必要はない。更に、各長尺ロッド状電極の各構成部分に対し印加するRF電位は互いに同じであってもよいし互いに異なっていてもよいし、各長尺ロッド状電極の各構成部分に対し印加する直流電位は互いに同じであってもよいし互いに異なっていてもよい。更に、複合的電極たる長尺ロッド状電極を挟む位置に一対の電極を設け、これに直流電位を印加するステップを実行することとしてもよい。
【0019】
また、実施に当たり、衝突セルに一組の電極を設けそれらには直流電圧のみを印加することとし、それにより、イオン群を衝突セルから出口開口に向け収束させる引出用の場を発生させるようにしてもよい。
【0020】
好ましくは、イオントラップ内又はイオントラップの隣に配置されているイオン検出器をイオントラップ内イオン群の質量スペクトラムが得られるよう動作させるステップを実行する。その際、イオントラップ(そのトラッピング領域)内にトラッピングされている前駆イオン群の質量スペクトラムが得られるようイオン検出器を動作させるステップと、フラグメントイオン群の質量スペクトラムが得られるようTOF型質量分析部を動作させるステップと、を実行し、これら走査によってMS/MS法を実行することもできる。
【0021】
イオン検出器は、また、イオントラップから略直交方向に放出されたイオン群の一部を遮るようイオントラップの隣に配置してもよい。イオン検出器及び衝突セルは、イオントラップを相対向する側から挟み込む位置に配置するのが好都合である。好ましくは、イオン源にて発生した広めm/z値域(relatively broad range of m/z values)内イオン群をイオントラップ内に入れるステップと、イオン源から入ってきたイオン群を広めm/z値域の略全体に亘りトラッピングし狭めm/z値域(relatively narrow range of m/z values)内イオン群を略直交方向へと放出するステップと、を実行する(mはイオンの質量、zはそのイオンにより搬送されている電荷を単位電荷eにより除して得られる電荷数)。
【0022】
現時点において実施に好ましいと認められるのは、広めm/z値域を200〜2000Thのオーダの広さとすることであり、これは400〜4000Thのオーダとすることもできる(Thは「トンプソン」と読み、1Thは1amu(atomic mass unit:原子質量単位)を単位電荷で除した値に等しい)。
【0023】
また、狭めm/z値域内イオン群をイオントラップ(第2トラッピング領域)から略直交方向に放出する一方で後に分析、フラグメント化又はその双方に供すべく残りのイオン群はイオントラップ(第2トラッピング領域)内に保持するステップを、実行するようにしてもよい。
【0024】
ある狭めm/z値域について放出を行うときに他のm/z値域内のイオン群をイオントラップ内に保持するというやり方は、イオントラップ(第2トラッピング領域)を再充填することなしに、イオントラップ(第2トラッピング領域)から別の狭めm/z値域内のイオン群を放出しフラグメント化し分析することができるという点で、好都合である。
【0025】
これは、複数前駆イオン種から生成されるフラグメントイオン群の質量スペクトラム群を迅速に収集できるという点で、有用である。即ち、それぞれ異なる狭めm/z値域内の前駆イオン群から生成されたフラグメントイオン群をTOF型質量分析部内にシーケンシャルに入れていくステップと、前駆イオン群の各狭めm/z値域に係るフラグメントイオン群についてそれぞれその質量スペクトラムが得られるようTOF型質量分析部を動作させるステップと、を実行することもできる。引き続きフラグメント化レイヤ及び分析レイヤを実行すれば、好適にも、例えば、全前駆イオンピークについて質量スペクトラム群を得ることができる。
【0026】
イオン群の一部を放出させるときに残りのイオン群を保持するという手法により得られる利点は、複合的イオントラップの第1トラッピング領域に関しても享受できる。即ち、中間m/z値域(intermediate range of m/z values)内イオン群を放出しているときに残りの中間m/z値域外イオン群を第1トラッピング領域内に保持するステップを、実行することもできる。その際、中間m/z値域外イオン群を略全て保持するのが望ましい。
【0027】
第1実施形態の他の特徴事項については別紙特許請求の範囲に記載されている。
【0028】
本発明の第2実施形態に係る方法は、イオン源、イオントラップ、衝突セル及びTOF型質量分析部を備える質量分析計を使用しタンデム質量分析を行う方法において、広めm/z地域内イオン群が発生するようイオン源を動作させるステップと、イオン源にて発生したイオン群をイオントラップ内に入れるステップと、イオン源から入ってきたイオン群をトラッピングしそのうち狭めm/z地域内イオン群を放出して衝突セル内に入れ残りのイオン群を後の分析、フラグメント化又はその双方のためイオントラップ内に保持するようイオントラップを動作させるステップと、イオントラップから入ってきたイオン群をフラグメント化するよう衝突セルを動作させるステップと、得られたフラグメントイオン群を衝突セルからTOF型質量分析部内に入れるステップと、フラグメントイオン群の質量スペクトラムが得られるようTOF型質量分析部を動作させるステップと、を有するものである。
【0029】
本発明の第3実施形態に係る方法は、イオン源、第1トラッピング領域、複数個の伸長電極を有する第2トラッピング領域、衝突セル、イオン検出器及びTOF型質量分析部を備える質量分析計を用いてタンデム質量分析を行う方法において、充填ステップ並びに第1及び第2選別/分析ステップを有するものである。この充填ステップは、イオン群が発生するようイオン源を動作させるサブステップと、イオン源にて発生したイオン群を第1トラッピング領域内に入れるサブステップと、イオン源から入ってくるイオン群のうち広めm/z値域内前駆イオン一次群をトラッピングするよう第1トラッピング領域を動作させるサブステップと、を有する。
【0030】
第1選別/分析ステップは、前駆イオン一次群のうち中間m/z値域内第1二次副群を放出して第2トラッピング領域へと移動させ且つ前駆イオン一次群の残りを第1トラッピング領域内に保持するよう第1トラッピング領域を動作させるサブステップと、第1トラッピング領域から入ってくる前駆イオン第1二次副群からイオン群をトラッピングするよう第2トラッピング領域を動作させるサブステップと、前駆イオン第1二次副群からトラッピングしたイオン群の質量スペクトラムが得られるようイオン検出器を動作させるサブステップと、前駆イオン第1二次副群からトラッピングしたイオン群についてフラグメント化/分析動作を複数回実行するサブステップと、を有する。
【0031】
第2選別/分析ステップは、前駆イオン一次群のうち別の中間m/z値域内の第2二次副群を放出し第2トラッピング領域へと移動させるよう第1トラッピング領域を動作させるサブステップと、第1トラッピング領域から入ってくる前駆イオン第2二次副群からイオン群をトラッピングするよう第2トラッピング領域を動作させるサブステップと、前駆イオン第2二次副群からトラッピングしたイオン群の質量スペクトラムが得られるようTOF型質量分析部を動作させるサブステップと、前駆イオン第2二次副群からトラッピングしたイオン群についてフラグメント化/分析動作を複数回実行するサブステップと、を有する。
【0032】
第1及び第2選別/分析ステップそれぞれにて複数回実行されるフラグメント化/分析動作は、それぞれ、トラッピングしたイオン群のうち狭めm/z値域内前駆イオン三次副群を伸長電極の長手方向に対し略直交する方向に放出し衝突セル内に入れるよう第2トラッピング領域を動作させるサブステップと、第2トラッピング領域から放出された前駆イオン三次副群に属するイオン群をフラグメント化するよう衝突セルを動作させるサブステップと、得られたフラグメントイオン群を衝突セルからTOF型質量分析部内へと入れるサブステップと、このフラグメントイオン群の質量スペクトラムが得られるようTOF型質量分析部を動作させるサブステップと、を含む動作である。二次副群各々における前駆イオン三次副群は、互いに異なる狭めm/z値域に属するイオン群であるものとする。
【0033】
明白なことではあるが、ここで用いている「一次」、「二次」及び「三次」という用語は前駆イオンの階層的構造を表している。即ち、一次群が属する広めm/z値域よりも二次副群が属する中間m/z値域の方が狭く、三次副群が属する狭めm/z値域は更に狭いことを表しているのであって、フラグメント化段の順番を表しているのではない。実際、フラグメント化が実行されるのは前駆イオン三次副群についてのみである。
【0034】
この構成の利点は、イオン源からのイオン群による充填を1回行うのみでよいためMS/MS法を迅速に実行できることである。更に、前駆イオン群をそのm/z値域が狭まっていくよう段々と細分しているため、トラッピング領域及び衝突セルのイオン容量をその空間電荷限界内においてより適切なものとすることができる。
【0035】
なお、第3、第4等々の選別/分析ステップを実行するようにしてもよい。また、全ての選別/分析ステップにおいてフラグメント化/分析動作を複数回実行する必要はないし、フラグメント化/分析動作を全く行う必要がないこともある。例えば、特定の前駆イオン二次副群から得られた質量スペクトラム中に注目すべきピークが全く或いは1個しか現れていない場合、フラグメント化が望まれることもなかろう。
【0036】
前駆イオン三次副群は、その時間幅が10msec以下のパルスとして第2トラッピング領域から放出することができる。このパルスの時間幅は5msec以下とするのが望ましく、2msec以下とするのがより望ましく、1msec以下とするのが更に望ましく、最も望ましいのは0.5msec以下とすることである。更に、フラグメントイオン群も、その時間幅が10msec以下のパルスとして放出することができる。このパルスの時間幅も5msec以下とするのが望ましく、2msec以下とするのがより望ましく、1msec以下とするのが更に望ましく、最も望ましいのは0.5msec以下とすることである。これらのパルスを用いれば、フラグメントイオンを直に押し、衝突セルの出口セグメントからTOF型質量分析部内に押し入れまたTOF型質量分析部内に押しとどめることができる。なお、本段落に記載の事項は、トラッピング領域を複数個有するイオントラップではなく1個しか有していないイオントラップを用いた質量分析法にも適用できる。
【0037】
また、二次副群1個について多数の三次副群を設定することもでき、それら三次副群に係る狭めm/z値域は、それら複数通りの狭めm/z値域を寄せ合わせ継ぎ合わせると対応する二次副群に係る中間m/z値域がカバーされることとなるよう、設定することができる。例えば、その中間m/z値域内がそれら複数通りの狭めm/z値域によってステップ的に区切られるよう、中間m/z値域内に相連続する複数個の狭めm/z値域を設定してもよい。各狭めm/z値域端を規定する質量スペクトラムは、所属先中間m/z値域内にどのような質量スペクトラム群が存在するかとは無関係に決定及び格納してもよいが、事前走査によって得られる基準を利用すれば各狭めm/z値域の幅を好適に決定することができる。事前走査においては、イオン検出器又はTOF型質量分析部により質量スペクトラム(群)が事前取得されるから、そのうち注目しているピークを基準として使用すれば各狭めm/z値域の幅を好適に決定できる。例えば、これら注目しているピークのうち1個又は複数個が含まれる幅となるよう、事前収集した質量スペクトラム群に基づき各狭めm/z値域の幅を設定すればよい。また、質量分析計の動作内容は、各前駆イオン三次副群及び対応するフラグメントイオン群に適合するよう設定するのが望ましい。即ち、第2トラッピング領域、衝突セル及びTOF型質量分析部の動作内容を、現在扱っている狭めm/z値域に応じて変更していくのが望ましい。本段落に記載の事項もまた、トラッピング領域を複数個有するイオントラップではなく1個しか有していないイオントラップを用いた質量分析法にも適用できる。
【0038】
本発明の第4実施形態に係るタンデム質量分析計は、イオン源、イオントラップ、衝突セル及びTOF型質量分析部を備え、イオントラップが、動作時にトラッピング場を発生させる複数個の伸長電極を有し、このトラッピング場が、イオン源から入ってくるイオン群をトラッピング及び励起してイオントラップから伸長電極の長手方向に対し略直交する方向へと放出させる場であり、衝突セルが、イオントラップから略直交方向に放出されたイオン群を受け入れてフラグメント化するよう動作し、TOF型質量分析部が、このフラグメントイオン群の質量スペクトラムを取得するよう動作するタンデム質量分析計である。
【0039】
更に、イオントラップの隣にイオン検出器を配置し、イオントラップから略直交方向に放出されたイオン群を検出するとよい。イオン検出器及びTOF型質量分析部は、イオントラップを相対向する側から挟む位置に配置するとよい。
【0040】
好ましくは、衝突セルを平板状とする。
【0041】
本発明の第5実施形態に係る複合的イオントラップは、第1イオン収蔵空間を通って第2イオン収蔵空間内に至るイオン経路がその共通軸により画定されるよう略同軸に配置された第1及び第2イオン収蔵空間を有し、第1イオン収蔵空間が、それぞれ第1イオン収蔵空間の別の端側にあり第1イオン収蔵空間を画定する入口電極及び共有電極であってイオン群を第1イオン収蔵空間内にトラッピングするトラッピング場を発生させるよう動作する入口電極及び共有電極と、トラッピングしたイオン群のうち第1m/z値域内イオン群を励起しイオン経路に沿い第2イオン収蔵空間内へと軸方向に放出するよう動作する1個又は複数個の電極と、を有し、第2イオン収蔵空間が、それぞれ第2イオン収蔵空間の別の端側にあり第2イオン収蔵空間を画定する上記共有電極及び追加電極であってイオン群を第2イオン収蔵空間内にトラッピングするトラッピング場を発生させるよう動作する上記共有電極及び追加電極と、トラッピングしたイオン群のうち第2m/z値域内イオン群を励起し第2イオン収蔵空間から出口開口を介して伸長電極の長手方向に対し略直交する方向へと放出するよう動作する複数個の伸長電極と、を有する複合的イオントラップである。
【0042】
好ましくは、出口開口の長手方向と伸長電極の長手方向とを同方向にする。
【0043】
本件技術分野における習熟者(以下「当業者」)であれば、本発明の第1及び第2実施形態に関して説明した多くの利点が、これらタンデム質量分析法、質量分析計及び複合的イオントラップにおいても同様に成立することを、理解できよう。
【0044】
本発明によれば、多数種類の親イオン群について1回の走査でタンデム質量分析データを取得する技術を実施に移せる方法及び装置を、得ることができる。実施に当たっては、本発明は、例えば、リニアトラップ型質量分析計とTOF型質量分析計とを複合させたハイブリッド型質量分析計という形態を採り得、また当該ハイブリッド型質量分析計を使用する方法という形態を採り得る。このハイブリッド型質量分析計は、例えば、リニアトラップと、リニアトラップから半径方向に放出されたイオンを受け入れるよう配置された衝突セル/イオン導路と、TOF型質量分析部とを備える。このハイブリッド型質量分析計を動作させると、例えば、イオン群がイオントラップ内に蓄積され、蓄積されたイオン群のうち少なくとも一部が衝突セル内に入るようイオン群が直交方向に放出/引出され、そのイオン群が衝突セル内で1種類又は複数種類の標的ガスと衝突し、その結果生じたイオン群が衝突セルを出て分析のためTOF型質量分析部に送り込まれる。このハイブリッド型質量分析計は、リニアトラップの全質量範囲に亘り走査を行う場合でも各前駆イオン種毎に全フラグメントスペクトラムを取得できるよう、構成することができる。これは、TOF型分析のタイムスケールとLTMS型分析のタイムスケールとを適切に整合させることと、リニアトラップからの直交方向イオン群放出との組合せにより、実現できる。
【0045】
実施に当たっては、TOF型質量分析部を、複数個のチャネルを有益に使用する利点を有しまた十分なダイナミックレンジ及び取得速度を呈する構成とすることができる。このようにすることは、クロマトグラフィ特に液相クロマトグラフィに適したタイムスケールにて質量分析を実行する上で、非常に望ましいことである。このことが意味しているのは、各MS/MS法スペクトラムを1〜2msecの時間枠内で取得しつつも、広いMS/MS法データ空間に亘るデータを1sec未満〜2secオーダのタイムスケールで取得できることである。
【0046】
以上説明した本発明の何個かの実施形態について、以下、添付図面を参照しながらより詳細に説明する。特に断り書きのない限り、本願においては、あらゆる技術用語及び科学用語を、本発明が属する分野に係る当業者の常識に従い使用している。また、本願中で言及している刊行物、特許出願、特許その他の参照文献は何れもその参照を以てその全体が本願中に繰り入れられるものとし、繰り入れられる文献間に不一致点がある場合は定義を与える記載を含め本願明細書における記載が優先されるものとする。本願における説明及び図示により、本発明の他の特徴的構成、目的及び利点がより明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
図1に、本発明の一実施形態に係るLTMS/TOFハイブリッド型質量分析計の構成を示す。この質量分析計は、イオン源10、リニアトラップ型質量分析計(LTMS)30、オプションの電子増倍管型イオン検出器40、衝突セル50、複数個のイオンビーム整形レンズ60、飛行時間(TOF)型質量分析部70及びデータ取得システム110を備えている。イオン源10は、ここではESI(エレクトロスプレーイオン化)型イオン源を示してあるが、どのような種類のものであってもよい。イオン源10は移送光学系20を有しており、この移送光学系20には、図示しないが、任意段数の選別移送段及び差圧ポンピング段を設けることができる。LTMS30は、その電極として、y軸方向ロッド31並びにスロット付x軸方向ロッド32及び33を有している。電子増倍管型イオン検出器40はロッド32に形成されているスロットと対向しており、従って、リニアトラップ30から半径方向に放出されるイオン群をこのロッド32のスロットを介して受け入れることができる。衝突セル50はロッド33に形成されているスロットと対向しておりまた検出器40と相対向している。検出器40に対向しているスロットと衝突セル50に対向しているスロットは相応した寸法及び形状とすればよい。衝突セル50は、外装体51、ガスライン52及びRFロッド状電極53に加え、好ましくは直流場形成補助電極(素子)群54を有している。LTMS30対衝突セル50間隙は、少なくとも1段の(好ましくは2段の)差圧ポンピング段(簡略化のため図示せず)によりポンピングしておく必要がある。衝突セル50内に充填するガスはLTMS30内に充填するガスとは違うものにすることができる。例えば、窒素、二酸化炭素、アルゴンその他、あらゆるガスを使用できる。イオンビーム整形レンズ60は衝突セル60の出口側に配置されており、この衝突セルから出てTOF型質量分析部70に行く途上にあるイオン群に作用する。TOF型質量分析部70は直交型とするのが望ましく、プッシャ75、飛行管80、この飛行管80にオプションで付加されているイオン鏡90、並びにイオン検出器100を有している。従って、レンズ60からTOF型質量分析部70に入ったイオン群はプッシャ75によってその向きを90°変え、鏡90に向かって動いていく。鏡90はイオン移動方向を反転させ検出器100に向かわせる。そして、データ取得システム110は検出器40及び100からデータを取得する。
【0048】
この分析計は真空室120内に収容されており、この真空室120は真空ポンプ121及び122によって減圧乃至真空化される。
【0049】
次に、図1に示したハイブリッド型質量分析計を用い複数種類の親イオン群から1回の走査でタンデム質量分析データを取得する方法の一例を説明する。この方法においては次のような手順に従いこのハイブリッド型質量分析計を動作させる。
【0050】
1.まず、MALDI(マトリックス支援レーザ脱離イオン化)、ESI、FI(電場イオン化)、EI(電子イオン化)、CI(化学イオン化)等様々な既知方式によるイオン源10にてイオンを発生させ、移送光学系/装置20を介してLTMS30へと送り込む。
【0051】
2.次に、LTMS30内にイオン群を蓄積及びトラッピングする。これを実行するには次の2手法(a)及び(b)のうち何れかを採ればよい。これらのうちより好ましいのは手法(a)、即ち特許文献10(J. Schwartz, X. Zhou and M. Bier)に記載されているAGC(自動利得制御)法である。この手法においては、増倍管型イオン検出器40をイオン蓄積個数計測手段として用い、イオン注入時間が与えられている予備実行時にイオン蓄積個数を計測する。この計測を通じ、リニアトラップ30内イオン蓄積速度、ひいては本実行時におけるイオン注入時間最適値を推定できる。また、イオン群は、ある既知の時間に亘りリニアトラップ内に蓄積された後このイオントラップ30から放出され、そのうち幾分かが検出器40に入射する。こういった構成の放射方向放出LTMS30は特許文献3に記載の従来型放射方向放出LTMSに相応するものであるが、本実施形態においてはイオン放出をm/z値順に行うことができ、イオン放出順がm/z値の順になっていれば、指定m/z値域内の所望個数のイオンでそのリニアトラップ30内を満たすのに必要なイオン注入時間を推定する際、検出器40の利得のm/z依存性を補正できる。或いは、検出器40をリニアトラップ30の終端部に実装してイオン群を軸方向に沿いひとまとめに検出器40へと放出させるようにし、リニアトラップ30内にトラッピングしてあるイオンの個数を検出器40にて検出、推定及び制御するようにすることもできる。また、手法(b)は、先の実行時に検出したイオン電流合計値に基づき後の実行時についての蓄積時間最適値を推定する、という手法である。
【0052】
3.リニアトラップ30内へのイオン注入中は、補助電圧(広帯域波形)をロッド状電極31〜33に印加することによって、リニアトラップ30内に初期収蔵される前駆イオン群のm/z値域を制御する。その際LTMS30に適用される手法は、従来型LTMSを作動させる場合と同様の手法である。
【0053】
4.補助電圧はイオン注入後にも引き続いて印加することができる。そのようにすれば、(a)m/z値域(群)による分析対象前駆イオン群の選別をより好適に行うことができる。(b)前駆イオン群の中からある狭いm/z値域内の前駆イオン群を選別することができるため、単一の又は数種のイオン種を選り出して励起し又はフラグメント化し若しくは反応させ、フラグメントイオン又は生成イオンを生成することができる。この励起、フラグメント化又は反応手順をn−2回繰り返せば、MSn法を実行できる(MSnがMSn-2とMS/MSの組合せであるため)。その際に実行するn−2段に亘る分離及びフラグメント化(MSn-2)は、従来型LTMSによるMSn法実行時に初段(MSn-1)実行に使用していた手法と、実質的に同様の手法でよい。(c)どのようなかたちであれリニアトラップ30内イオン群を操り又は引き出すことができる。
【0054】
5.イオン蓄積/操作ステップを実行した後は前駆イオン群が直交方向に送出される。その際、イオン群のうち少なくとも半分が衝突セル/平板状イオン導路50に向かって出ていくようにするのがよかろう。この放出は次のように様々な手法で実行し得る。(a)トラッピングされているイオン群を一グループとして引き出してもよい。(b)イオン群をm/z選択的に、m/z値の順に又はその双方の組合せで引き出してもよい。(c)イオン群をm/z選択的に又はm/z値の順に引き出すことは、リニアトラップ30から衝突セルとは逆の側へと出てくるイオンを検出するイオン検出器40にとって、特に好都合である。実際、検出器40においてはトラッピングされているイオン群のうち残りの半分を計測対象とすることができ、イオン検出器40によって記録される信号を用い前駆イオン質量スペクトラムを得ることもできる。
【0055】
6.ある既知のトラップ/TOF型質量分析装置(例えば特許文献11(J. Franzen)、特許文献12(M. Park)参照)とは対照的なことに、このリニアトラップ30から引き出されたイオン群は衝突セル/平板状イオン導路50内に向かい、衝突セル/平板状イオン導路50内でその衝突セル内に導入されている標的ガス(例えば窒素、アルゴン、キセノン、その任意の組合せ等)分子と衝突し、一般にそれにより直ちに衝突誘起解離(CID)を引き起こす。このとき、衝突セル/平板状イオン導路50内に入っていくイオン群の運動エネルギが非常に低くなるよう、格別な注意を払う必要はない。入っていくイオン群の運動エネルギを低くすることはTOF型質量分析部内で前駆イオン質量スペクトラムを得るのに有用であるとされており、またそれは通常はマシュー方程式中のパラメータqをq<0.05〜0.1とし低いRF電圧を用いることによって実現できるものであるが、ここではイオン群にCIDを引き起こすためq>0.2〜0.5とするのが望ましい。
【0056】
7.前駆イオン群と標的ガスとの衝突により運動エネルギを失うため、衝突セル50にて生成されるフラグメントイオン群の運動エネルギは低くなる。そのため、衝突セル50内RF場によってフラグメントイオン挙動をそのセル50の中心面上で強力に合焦させることができ、またこのRF場に重畳されている直流(DC)場によりフラグメントイオン群をそのセル50の中心面沿いに衝突セル50から引っ張り出し又は引きずり出すことができる。このようにして衝突セル50を出るイオン群は合焦により平行化されたビームを形成している。これと同様の動作は直流特化型の構成でも実現できその構成における衝突セルはイオン移動度ドリフト管(特許文献20及び21(何れもD. Clemmer and J. Reilly)参照)と似た外観になるが、本実施形態ではこれらとは違い生成されたフラグメント群をそのイオン移動度により分離することは求められもせずまた強制されもしない。むしろ、その主たる目的は、イオン群を0.5〜3msecオーダのできるだけ高い速度で通過させること、それも、生じ得る内部エネルギ及び運動エネルギを抑えつつドリフト時間の広がりを抑えてそれを達成することである。
【0057】
8.衝突セル50からのイオン群の出方には2種類のモード(a)及び(b)があり得る。まず、モード(a)においては、イオン群が衝突セル50から去るとき、強度及びm/z値分布に従い変調された連続ビームの形態にする。このような変調がかかるのは、リニアトラップ30から放出される前駆イオン群のm/z値及び種類が走査されまた区切り毎に切り替わっていくためである。このモードでは、ひとまとまりの前駆イオン群が衝突セル50内に入ってからその前駆イオン群からフラグメント群が生成され生成されたフラグメント群が衝突セル50を出るまでの時間が、100〜3000μsec以内になることを期待できよう。また、モード(b)においては、場例えば直流場を大きく変化させることによってフラグメントイオン群を10msec以下の短時間だけ蓄積及びトラッピングし、それによって濃度が高まったイオン群を100μsec以下という比較的短時間幅のイオンパルスとして引き出し解き放つ。
【0058】
9.衝突セル/平板状イオン導路50から放出されたイオンはレンズ60を横切りTOF型質量分析部70のプッシャ75に達する。
【0059】
10.好ましくは直交型であるTOF型質量分析部70は、このようにして得られたフラグメント群をそのm/z値(質量電荷比)に従い分離し、その飛行時間を判別し、その飛来時刻及び強度を記録する。これはアナログディジタル変換器を用いて行う。この処理の繰り返し実行速度を十分に高くすれば、衝突セル/平板状イオン導路50から入ってくるフラグメント群のm/z値分布及び強度並びにその変化を正確に知ることができる。また、その実施の際には、例えば、この処理即ちTOF型質量分析時走査とこれに続く同様の処理との時間間隔を50〜1000μsecの範囲内とすべきであろう。また、衝突セル50からのイオン解放が前述のパルスモードで行われているのなら、解放されたフラグメント群がTOFプッシャ75内に現れるタイミングに相応するタイミングで、TOF型質量分析時走査を開始させればよい。
【0060】
11.その結果として得られるデータはデータ取得システム110によって処理される。データ取得システム110は、時間軸に沿った生の強度データを質量スペクトラムデータ(質量強度データ)に変換する。そして、こうして得られたデータは図示しないデータ格納分析用のコンピュータに送られる。このコンピュータにおいては、例えば各種の質量スペクトラムデータ分析ツール及びサーチツールを適用して、そのデータが分析される。
【0061】
図1に示したLTMS/TOFハイブリッド型質量分析計は、次の各モード(1)〜(4)で動作させることができる。
【0062】
まず、モード(1)にて動作させれば全質量MS/MS法を実行できる。このモードにおいては、LTMS30におけるRF場を連続的に走査することによって、ひとつながりの前駆イオンm/z値ウィンドウからTOF型質量分析部70によりフラグメントイオンスペクトラム群を発生させる。
【0063】
また、モード(2)にて動作させても全質量MS/MS法を実行できる。このモードにおいては、前駆イオンm/z値域を適当な狭さに設定されている複数個のm/z値ウィンドウに分け、LTMS30におけるRF場をこの狭めm/z値ウィンドウ毎に即ち区切り毎に走査する。各区切りにおいては、その区切りに対応する狭めm/z値ウィンドウ内の前駆イオン群例えば同位体クラスタをリニアトラップ30から放出し、平板状イオン導路/衝突セル50内でフラグメント化する。これは、RF勾配を最小にして周期を保持する、共鳴放出電圧の周波数掃引幅を最小にする、共鳴放出波形パルスを狭帯域にする等、いろいろなやり方で実行できる。何れにしろ、前駆イオンが平板状イオン導路/衝突セル50に入りフラグメント化されると、その結果生じたフラグメント群は例えば衝突セル50の後端近傍にて蓄積及びトラッピングされ、そしてTOF型質量分析部70のプッシャ75に向けパルスとして放出されて、TOF型質量分析部70により1回のTOF型質量分析実行期間中にそのm/z値が分析される。このとき、TOF型質量分析部70のパワー分解能が適切であれば、質量スペクトラム内の全ピークによる同位体パターンを分解識別することができ、電荷状態を判別乃至同定することができる。
【0064】
モード(3)で動作させればトップダウンシーケンシング又は全質量MSn/MS法を実行できる。このモードにおいては、LTMS30を用い通常通りのやり方でMSn法を実行し、そして衝突セル50内で生成されたフラグメントイオン群を上述の如く分析することができる。
【0065】
そして、モード(4)で動作させれば単一MS法による検出又は高精度質量計測を実行できる。このモードにおいては、必要最小限強度のRF場を用い全m/z値域に亘りLTMS30内にイオン群を収蔵し、そしてそれらのイオン群を弱い広帯域双極励振により放出する。そのとき、放出されるイオン群の運動エネルギが十分低くなるようにすれば、衝突セル/平板状イオン導路内でのフラグメント化を避けることができる。このようにリニアトラップ30から低運動エネルギでイオン群を放出させるアプローチに代わるアプローチとしては、x軸方向を向いた弱い直流双極場を重畳させ、その上で、ロッド状電極31〜33に印加されているRFトラッピング電位を非常に急峻にターンオフさせる、というアプローチがある。x軸方向を向いた弱い直流双極場を重畳させる際、m/z値が大きなイオン群がy軸方向に沿い安定的に残るよう低RF電圧にて弱い直流四重極場を重畳させてもよい。
【0066】
また、他のモードも実行可能である。詰まるところ、上述の装置は古典的なイオントラップ型MSn法の実行にも使用できる。
【0067】
次に、図2、図3、図4a及び図4bを参照して衝突セル/平板状イオン導路50の実施形態につき説明する。まず、電極33に形成されているスロット、即ちリニアトラップ30から放出されるイオン群が衝突セル50へと通り抜けられるようにしているスロットは、z軸方向に沿い長く開口している。そのため、衝突セル50を各図に示す格別な構成とし、リニアトラップ30から発せられるリボン状イオンビームを受け止めTOF型質量分析向けの細いイオン束に合焦させられるようにする必要がある。こういった手法を実現する試みは特許文献13乃至17等にて行われている試みよりも強く望まれていたものであり、本実施形態においては、この試みを達成するための衝突セル50として、基本的に平板的基本構造を有するRF導路場を提供する平板状RFイオン導路を使用している。即ち、図1及び図2に示した衝突セル50は何対かのロッド53a及び53bを備えており、ロッド53aに加えるRFの位相とこれに交互配置されているロッド53bに加えるRFの位相は異なる位相にされている。RF平板状イオン導路は様々な形態で以て実現できるが、例えば図示されている形態においては、ロッド状電極53とこれに対向するロッド状電極53とに同相RF電圧が印加されている。但し、ロッド状電極53aとこれに隣り合うロッド状電極53bとに加えるRF電圧の位相を引き続き互いに異なる位相にしつつ、ロッド状電極53とこれに対向するロッド状電極53とに互いに異なる位相のRF電圧を印加するようにした場合にも、略等価なイオン導路50が得られるであろう。何れにせよ、イオン導路50内におけるRFポテンシャルが不均等乃至不均一であるため、そのイオン導路50の中心面近辺におけるイオン群の運動が当該RFポテンシャルによって縛られることとなる。また、このRFポテンシャルに直流ポテンシャルを重畳することによって、そのイオン導路50内のイオン群を合焦させて引き出すこと、特に出ていくイオンビームの断面積を顕著に狭めることができる。衝突セル50内イオントラッピングはその衝突セル50の端部に直流ポテンシャル障壁を設けることで行える。実際には衝突セル50にてイオンをトラッピングする必要はないが、その衝突セル50を通り抜けていくイオン群のフラグメント化には使用できる。そして、直流ポテンシャル(勾配)を操作できる平板状RFイオン導路50は、以下の手法(1)〜(6)を含め、多くのやり方により実現することができる。
【0068】
手法(1)においては、ロッド状電極53の軸に直交する方向(図2ではz軸方向)にて機能する二次元ポテンシャル井戸が形成されるよう、ロッド53aとロッド53bとの間の直流オフセットをそれらロッド53a及び53bの対毎に設定する。ロッド状電極に沿ってイオンを引き出すためのオプション的な直流場は、場形成素子54a及び54bを用い直流場サグ(撓み)をRF場上に重畳することにより、生成できる。なお、軸方向についてであれば、特許文献14及び15(何れもB. A. Thompson and C. L. Joliffe)に記載がある。この引出用の場の強度は、素子54a及び54bに加える電圧、素子54a及び54bの形状及び位置、並びにRFロッド53の形状寸法に依存している。
【0069】
手法(2)においては、z軸方向ポテンシャル井戸及びx軸方向場が共にイオン導路50内の対応する直流場サグによって形成されるよう、場形成素子54a及び54bを図示しない二次元的な形状とする。この手法を実施するには、場形成素子54a及び54bに対してやや高めの電圧を印加する必要がある。
【0070】
手法(3)は図2に示したアプローチに代わるアプローチである。この手法においては、ロッド状電極53を、図3に示すように、イオン導路50からイオン群が引き出される方向に直交する方向であるz軸方向に向け、また、合焦惹起用直流ポテンシャル井戸を図3中の場形成素子54a及び54bから与えられる場サグにより生成する。この手法における引出用の場は、隣り合うロッド状電極53それぞれに印加する直流オフセットを変えること、それも徐々に増大していくように変えることによって、生成することができる。
【0071】
フライスルー型の構成においては、ガス充填済直流特化型衝突セルを使用できる。そこで、手法(4)においては、妨害力の作用によってイオン群が衝突セル中心軸方向に向かうこととなるよう、入口電極56及び場形成電極57に加える直流電圧を設定する。この種の妨害力は、その軸に直交する方向に沿い正曲率を有する場によって発生し、また、静電場に関するラプラスの方程式によれば、その軸に沿い負曲率を有する場によっても発生する。次の式
U(x、y、z)=k・{−x2・(1/Y2+1/Z2)+y2/Y2+z2/Z2
は、その種の場を発生させるポテンシャル分布の例を示すものである。この式中、kは正イオンについてk>0となる。また、図4aに示すように、xはLTMS30からのイオン放出方向、zは電極33に設けられている放出スロットの長手方向、yはこのスロットと交差する方向であり、また、2Yは衝突セル電極57のy軸方向内法寸法、2Zは同じくz軸方向内法寸法である。この構成において、ビーム形状を注入時のリボン状からより望ましい円形状に変換して放出するには、入口電極56におけるZ≫Yから始まり衝突セル50の出口におけるZ≒Yまで、Y値及びZ値をx軸方向に沿い徐変させればよい。放出されるイオンが高エネルギを有しており且つ移動度によるイオン分離が不要であるため、衝突セル50内へのイオン注入方向は、図4aにおけるそれと直交する方向(図4bと同じ向き)にすることもできる。注入方向をそのようにしたセル内におけるポテンシャル分布は、先に示したものと似た次の式
U(x、y、z)=k・{−y2・(1/X2+1/Z2)+x2/X2+z2/Z2
によって近似できる。この式中、特徴寸法2Xは衝突セルのx軸方向高さと等しい。なお、理解されるであろうが、これら以外にも、単一の上位概念に包含される多様な実施形態を示すことができる。例えば、ある電極(例えば図4b中の57a)を整形電極とする一方、他の電極(同57b)に印加する電圧を調整可能としておき、更に他の電極(同57c、57d等々)の寸法を徐変させていくようにしてもよい。
【0072】
基本的にRF場を使用する実施形態にて場形成素子54を使用する場合、高めの直流電圧をその場形成素子54に印加する必要がある。手法(5)においては、図5a及び図5bに示すようにスプリットの入った複合的ロッドを用いることにより、この必要をなくしている。ここでは、各ロッド53はテーパ付サブロッド58とテーパ付サブロッド59とに分割(スプリット)されており、これらテーパ付サブロッド58及び59に対しては、互いにわずかに異なる直流電圧及び全く同じRF電圧が印加される。そのようにすると、イオン導路50の中心面周辺にて適当な方向に沿い、滑らかな直流勾配が形成される。なお、この手法は特許文献16(A. L. Rockwood, L. J. Davis, J. L. Jones and E. D. Lee)に例示されているが、この文献におけるこの手法の使用目的はRF四重極イオン導路内に軸方向直流勾配を発生させることにある。また、ロッド53へのスプリットの入れ方は発生させたい場の方向に応じて決めればよい。例えば、近似的に線形に変化する(双極)直流ポテンシャル乃至場(図5a及び図6a参照)又は直流ポテンシャル井戸(図5b及び図6b参照)が、イオン導路50中心面に沿って形成されるよう入れればよく、その際装置内RF場を変化させる必要はない。更に、このように電極53を分割することによって電極53近傍の直流ポテンシャルがかなり鋭く変化し比較的大きなポテンシャル段差が生まれることとなるが、電極の構成部分58と他の構成部分59との間の電位差の絶対値はむしろ小さくなる(直流電圧値で概ね10V未満になる)から、このように直流ポテンシャル勾配に滑らかさが欠けているにしてもそれは問題たり得ない。それは特に、ロッド状電極53に印加されるRF電圧に係るポテンシャル実効値の勾配が、ロッド状電極53近傍にて相対的にかなり大きくなるであろうからである。また、図中に示したのは個々のロッドアセンブリ53であるが、この複合的ロッド53は、1枚のセラミック回路基板に適当な切れ目を入れ、高電圧絶縁破壊防止用に貫通メッキするか誘電体を詰めることによって、何組でもまとめて製造できるため、このイオン導路50の製造工程は単純なものとなる。
【0073】
そして、手法(6)においては、図7に示すように、LTMS30から衝突セル50内へのイオン放出・注入の方向に直交する方向に沿って、RF衝突セル/平板状イオン導路50からイオン群を引き出すこととし、また、イオン群がx軸方向に追いやられるよう衝突セル内直流ポテンシャル井戸の向きを設定する。このとき衝突セル50内でイオン群を確実に捕捉できるようにするやり方には、次に示す捕捉法(a)及び(b)を含め多くのやり方がある。まず、捕捉法(a)においてはポテンシャル井戸を非対称にする。即ち、イオン群が場内に入る場所のポテンシャルがより奥のロッドにおけるポテンシャルよりも低くなるようにする。そのようにすれば、イオン運動エネルギの初期値がこのポテンシャル差(電圧)とイオン電荷との積より小さい限りにおいて、衝突の有無に関わりなくx軸方向にてイオン反射を引き起こせる。更に、この捕捉法においては、z軸方向に沿い直流場を印加することによってイオンをTOF型質量分析部70へと引き出す。また、捕捉法(b)においては、イオン導路50の端部のうちイオン群がその衝突セル/平板状イオン導路50内に入る側の端部とは逆の端部に平板状電極を配置する。この平板状電極と最後段のロッド状電極との隙間がロッド同士の間隔の1/2となるよう当該平板状電極を配置すれば、平板状電極はRF場に係る等ポテンシャル面上に位置することとなり、従って平板状電極があるにもかかわらずイオン導路50のその端部に至るまでRF場の無欠性が損なわれないこととなる。またこのイオン導路50を適切な直流電圧でバイアスしてやれば、イオン群はそれによって反射されて、自分がイオン導路50に入った場所に向かって戻っていくことになる。
【0074】
平板状衝突セルをどのような向き又は形態で実施するにせよ、衝突性ダンピングによって緩和されたイオンはその装置の中心面へと向かい、操作用直流ポテンシャルに従いその装置の出口に向かってドリフトしていくこととなる。なお、平板状衝突セル内ガス圧は、三連四重極型及びQ−TOF型を構成する衝突セルにおけるそれと似たやり方で設定される。例えば、圧力と移動距離との積が0.1〜1torr・mmを上回るように設定される。
【0075】
注記すべきことに、イオン導路50内RF場又は直流場によって形成されるm/z値依存性の実効ポテンシャル井戸は、その底部がやや平らになり得る。その場合、衝突セル/平板状導路50の出口におけるイオンビーム直径は、同様のガス圧下で同様に動作させたRF四重極から出てくるであろうイオンビームの直径に比べて、かなり大きくなるであろう。図8に示すように、衝突セル50にRF多重極(例えば四重極)イオン導路部分55を追加すれば、TOF型質量分析部70内へと引き出される前にイオンビームを半径方向により良好に合焦させることができるであろう。更に、このように変形された衝突セル50においてはイオンを十分蓄積することができるため、イオンをパルス化してTOF型質量分析部70のプッシャ75へと引き出す上で好都合である。また、先に、ロッド状電極53をセグメント化することによって衝突セル50内平板状部分に直流場を重畳させまたこれを操るという手法を述べたが、このセグメント化と類似した手法によるセグメント化によって、この装置の多重極部分内に存するイオン群を引き出し又はトラッピングすることができる。或いは、イオン導路55を短めにし、その内接円の半径に対する長さの比が8を超えないようにしてもよい。イオン導路55のエンドキャップ間に電圧を印加すれば、これらエンドキャップからの電圧サグにより発生する軸方向場によって、イオンを高速で通過させることができる。また、望ましいのは、衝突セル/イオン導路50の多重極(四重極)部分を別のコンパートメントエリア51a内に収容すること、また可能ならそれ専用のガスライン52aを設けることである。これによって、衝突セル50のうちのこの部分における圧力を独立して制御することが可能になり、TOF型質量分析部70へとより高速でイオンを引き出すことや、付随してトラッピングを好適に行うことが可能になる。
【0076】
また、衝突セル/イオン導路50内にいる前駆イオン群が衝突時に有しているエネルギは、LTMS30を出たときその前駆イオン群が有していた運動エネルギと、LTMS30と衝突セル/イオン導路50との間に加わっている電圧Vaccとによって、決定づけられている。LTMS30の動作パラメータがどのようになっているかにもよるが、電圧Vaccが0であってさえも、前駆イオンエネルギを単位電荷当たり数百eV程度のエネルギにすることは容易である。しかしながら、前駆イオン群をより好適に受け入れられるようにするには、LTMS30におけるオフセット電圧を、そのLTMS30内にイオンを捕捉した後に(正イオンであれば負方向に)引き上げる(リフトする)のが望ましい。実施に当たっては、このエネルギリフトの振幅を例えば数百〜数千Vとする。リニアトラップ30からのqejectが高ければ、放出されるイオン群の単位電荷当たり運動エネルギはm/z値に比例しているから、LTMS30におけるm/z値走査中に変化していくようVaccをプログラミングし、それにより、前駆イオンm/z値の走査乃至ステッピングに倣って衝突エネルギを制御すればよい。
【0077】
平板状イオン導路を衝突セル50として用いることによりもたらされる特徴的な効果としては、イオン群がそのイオン導路のどちらの側からやってきてもそのイオン群をそのイオン導路内に受け入れられる、という点を挙げられよう。即ち、この衝突セル50はビームマージャ機能も発揮できる。更に、既知の通り、二次元四重極リニアイオントラップは三次元四重極イオントラップに比べて大きなイオン収蔵容量を有するものである。また、ロッド53にスロットを設けることによってイオン群を半径方向に且つ質量選択的に放出させ検出に供することができるとはいえ、このスロットの長さは既存の検出器の物理的性質による制約を受けることとなりかねない。これに対し、本願にて述べている平板状イオン導路50によれば、より長尺の二次元四重極リニアイオントラップ、特に従来のスロットより長いスロットを有するものを採用できる。これは、そのスロットの長手方向に沿いあらゆる部分から半径方向に放出されるイオンを合焦して検出器上に集められるようにしていることによる。二次元四重極リニアイオントラップ30が長くなれば終局的にはイオン収蔵能力が更に高まることとなる。
【0078】
実施に当たっては、第2のイオン源として、そのm/z値が既知のイオン群(基準イオン群)を平板状イオン導路に対し安定的に供給する基準イオン源を設けてもよい。その運動エネルギを十分低くして衝突セル50内に入れれば、この基準イオン群はフラグメント化せず、リニアトラップ30から発したイオン群及びそのフラグメント化生成物によるビームの中に混ざり込むこととなるため、この基準イオン群を内在標識として用いることによって、各回のTOF型質量分析毎にまたそれにより得られるスペクトラム毎にm/z値を校正することができる。また、このとき、基準イオン群はLTMS30の空間電荷収蔵能力を部分的にであれ必要としない。このようにすれば、精密にわかっているm/z値による何個かのm/z値ピークが各スペクトラム内に入り込むこととなるため、TOF型質量分析により生成されたスペクトラム群に対しより正確にm/z値を割り当てることが可能になる。図7にそのための基準イオン源15を示す。この基準イオン源15は衝突セル/平板状イオン導路50につながっている。イオン源15としては、例えば、基準サンプルを連続的に送り出す比較的単純な電子衝撃イオン化源等、比較的安定な出力を呈する単純なイオン化源を好適に用いることができる。また、基準イオン源を用いる構成は、強調すべきことに、本願記載の装置以外にも適用又は応用できる。例えば、TOF型又はFT−ICR型の装置におけるm/z値割当をより正確なものにする上で、内部的に基準源を設けることは有益である。また例えば、2個の質量分析段の間で複数個のイオン源からのイオンビームをマージ(統合)又はスイッチ(切替)できるようにすることは、ある種の用途においてはこれまで行われていなかったことであるし、また非常に望ましいことでもある。
【0079】
平板状イオン導路50をRF特化型に構成した場合、その移送特性は、非特許文献10にて概論されているRFファイル不均等型装置向け一般理論に基づき、記述することができる。ある特定の装置をモデルにしていうと、ポテンシャル井戸深さ実効値はm/z値=200〜1000において5Vを上回る。この電位実効値には、ロッド状電極53の軸方向に直交する方向に沿い、コルゲーション即ち正弦波状リプルが現れる。コルゲーションの規模は、m/z値=1000においては約0.065Vであるが、m/z値=200においては約0.35Vまで増す。これは、同方向における直流場勾配が0.5V/a(aは隣接ロッド中心間距離)のオーダとなるよう直流場(電場サグ)を重畳しなければならないこと、そうしなければポテンシャル井戸実効値に現れているコルゲーションの局所的最低点にてイオン群がトラッピングされるであろうことを、意味している。
【0080】
図2及び図3に示した回路においては、複数個のロッド状電極53に対しRF電圧が印加される一方で分圧抵抗網を介し相異なる値の直流電圧も印加されている。この直流電圧を印加する直流電圧源はRFチョークLを介して各抵抗ストリップの両端に接続されており、このRFチョークLは直流電圧源に加わらないようRF電圧を遮断している。図9〜図12に、これをより洗練されたかたちに改めRF電圧源のより詳細な構成と共に示す。図9に示されている回路は標準的なRF発生/制御回路であり、四重極/イオントラップ及び多重極イオン導路用に用いられている。また、マルチフィラ型RF回路チューニングトランスを用いた場合、RF高電圧を効率的に発生させられるだけでなく、図2及び図3ではRFチョークによって行われていたRF遮断をこのトランスのコイルによって効率的に実行することができる。
【0081】
そこで、図10に例示した回路においては、バイフィラ型トランスのコイル及び分圧抵抗ストリップを用い、図2及び図3に示した平板状イオン導路を構成するロッド状電極にて、RF電圧と直流電圧とを好適に重畳させている。RFバイパスキャパシタCは、抵抗ストリップの合計抵抗値が100〜1000Ωを上回っているときに必要になり、その場合はそのキャパシタンスを例えば0.01nFのオーダとする。こういったRCストリップは全体として真空内又は減圧環境内に配置することができ、またそれ全体を平板状イオン導路と一体にしてアセンブリ化することができる。例えば、セラミック回路基板にロッド状電極53を接続したかたちの平板状イオン導路アセンブリを構成してもよいし、セラミック回路基板の片面に複合的ロッドを組み込み他面にRCストリップを組み込んだかたちの平板状イオン導路アセンブリを構成してもよい。RF増幅器(約15W)及びマルチフィラ型トランスとしては、LCQ(Finnigan社の商品名)における多重極イオン導路駆動用のものと同様のものを用いることができ、そのようにすれば約2.5MHzで最大約500〜1000VのRF電圧を当該平板状イオン導路上に十分に供給できる。こういった平板状イオン導路に印加されるRF電圧は一般に0.5〜3MHzの周波数範囲及び300〜3000Vの振幅範囲内の電圧とすることができるが、ここで述べている回路方式によれば、この周波数範囲及び振幅範囲全体に亘り好適に、RF及び直流を発生させ重畳させることができる。
【0082】
図11に、図5aに示した複合的ロッドを用い引出用の場に勾配を与える回路の例を示す。この回路においては、トランスのコイルに更なるフィラ対が追加されており、また当該コイルの各側に更なるRC分圧ストリップが追加されている。
【0083】
図12に電圧発生回路の例を示す。この電圧発生回路は、トランスのコイルの4個のフィラに印加する電圧を発生させ合焦及び引出用直流場勾配を同時発生させるのに、用いることができる。この図に示した構成によれば、合焦及び引出用直流場勾配の強度並びにこの装置におけるあらゆるバイアス(電圧オフセットや出口直流ポテンシャル)を独立に制御することができる。
【0084】
クロマトグラフィ向けタイムスケールにおける全質量MS/MS法連続実行用の実施形態においては、全質量MS/MS法の実行とそれに続く全質量MS/MS法の実行との間の最大許容時間間隔を約1〜2secのオーダとすべきである。そのようにすれば、走査する必要がある前駆イオン質量範囲がどの程度広いか及びLTMS30内イオン蓄積に使用できる時間がどの程度あるかによるものの、前駆イオンm/z値の走査速度を0.5〜2Th/msecのオーダで最大値にすることができる(これは、この装置動作における前駆イオン走査モードが連続モードであるとの仮定に基づくものであるが、区切りモードである場合についても本質的に同様の議論が成り立つ)。また、TOF型質量分析にてイオン捕捉を1回実行するのに使用できる時間枠は、通常、100〜200msecである。これによって、1個の前駆イオンm/z値ピークに必要な時間幅の下限が、約300〜1500msecとなる。これは、衝突セル/イオン導路50の出口にて計測したら得られるであろう値である。衝突セル/イオン導路50の出口における前駆イオンm/z値ピーク時間幅は、LTMS30からの放出時における前駆イオンm/z値ピーク時間幅と、前駆イオン群及び対応するフラグメントイオン群が平板状イオン導路/衝突セル50を通り抜けていく時間の分布とのコンボリューションによって、決定されよう(注記すべきことに、前駆イオン走査モードが連続モードであるときは、前駆イオンm/z値校正時に何らかの補正を施し、衝突セル/イオン導路内を通るとき前駆イオン群及びこれに対応する生成イオン群に生じた飛行時間の平均値分を補正する必要が生じよう)。
【0085】
これらの時間的諸要素は以下の如き諸条件に応じ調整でき、その結果として設計上の柔軟性が高いものになる。
【0086】
第1の条件は、LTMS30における前駆イオン走査速度(単位:Th/sec)及び前駆イオンm/z値分解能(ピーク幅、単位:Th)であり、この条件については例えば次の事項(a)〜(g)が成り立つ。(a)LTMS30におけるパワー分解能を高くし空間電荷容量を大きくするにはqejectを例えば0.83程度の高い値にしてLTMS30を動作させるのが望ましい。(b)前駆イオンm/z値分解能を最適値に近づけるには共鳴放出電圧振幅を最小値に近くする。(c)前駆イオン選別における分解能を犠牲にしてよいのなら共鳴放出電圧を高くすることによって空間電荷容量を大きくすることができる。(d)走査速度を高く(また共鳴放出電圧を高く)することによりイオン収蔵容量が大きくなるがm/z値分解能は劣化する。(e)所与走査速度下で走査時間を短くするには、注目前駆イオン質量範囲全体を何個かの前駆イオンm/z値域即ちウィンドウに個別分割すればよい。その際、各m/z値域乃至ウィンドウの幅は、好ましくは、典型的な前駆イオン検体種のm/z値ピーク群からなる同位体クラスタ1個の幅におおよそ対応づける。そのようにして共鳴励振周波数乃至RFトラッピング電圧をジャンプさせれば、ある前駆イオンm/z値域から別の前駆イオンm/z値域へと次々と共鳴放出が起こっていく。それらの値域間にあるイオン群はもはや励起されることもない。また、このように質量範囲を複数個に分割するには、AGCによる予行的走査と同様にして且つかなり小規模なイオン群を対象としてLTMS30又はTOF70内で事前高速走査を行い、その結果に基づき各m/z値域の各端を決めればよい。これを前駆イオン毎の強度判別と共に行えば、前駆イオン毎に諸条件例えば走査速度、電圧等を最適条件に更に近づけられる。これを自動前駆イオン制御と呼ぶことができよう。予行によって得られるこのような情報を利用すれば、更に、LTMS30内にイオンを収蔵しているときの注入波形を最適なものに近づけることができる。(f)qejectを低くするとリニアトラップ30内イオン収蔵容量及びm/z値分解能が低下するが、リニアトラップ30から放出される時点におけるイオン群の運動エネルギ(KE)及びこのKEの広がりが小さくなる。これは、衝突セル/イオン導路50内ガス圧及び衝突セル/イオン導路50寸法をどう選ぶかに影響してくる。(g)RFの周波数を高くするとより良好な分解能を実現できるようになりまたイオン導路50の電荷容量が大きくなるがRF電圧はf2に従い高くなる。
【0087】
第2の条件は、リニアトラップ型衝突セルにおける圧力と長さの積(PD積)である。(a)PD積が大きいほどより高エネルギの前駆イオン群を制止及びフラグメント化できるが(b)PD積が大きいとイオン通過速度が低くなり且つイオン通過時間の分布幅が広くなる。
【0088】
実施に当たっては、衝突セル50内でイオンフラグメント化が効率的に行われるようにするため、標的ガス厚実効値即ちPD積(Pは衝突セル50内のガス圧、Dは衝突セル50の長さ)を0.1〜1Torr・mm超にすべきである。前駆イオン群及び対応するフラグメントイオン群が衝突セル/平板状イオン導路50内を通過するのに要する時間の分布幅を500〜2000μsec以下にするのが好ましいが、出ていくタイミングの差をこの分布幅内に抑えるにはDを30〜50mm未満とすることによればよい(非特許文献11等参照。この場合Pを20〜30mTorr超にする必要がある)。また、前駆イオン群及びこれに対応するフラグメント化生成イオン群をより好適に冷却及び捕捉できるようにするため、PD積を更に大きくすることが求められることもあろう。衝突セル/イオン導路50の内圧をこういった圧力とするには、衝突セル50とTOF型質量分析部70との間に差圧ポンピング段を追加する必要があるかもしれない。差圧ポンピング段をここに追加するには、例えば、LTMS30を減圧乃至真空化するのに用いるポンプと同一のポンプによってレンズ60を減圧乃至真空化することとし、衝突セル50のちょうど入口(外装体51と例えば電極53又は56との間)にポンプを追加すればよい。このようにすれば、衝突セル/イオン導路50から出てくるイオンビームをレンズ60によって非常に精密に変換し、その直交方向エネルギばらつきが数mVにとどまる平行ビームを得ることができる。このレンズ領域における圧力は10〜5mbarの範囲内又はこれより低く保つのが望ましく、特にスキャッタリング及びフラグメント化を避けまたTOF型質量分析部室80内に向かうガス流を最小限に抑えるにはそのようにすべきであろう。
【0089】
TOF型質量分析部70の感度を向上させそれによってMS/MS法スペクトラム群の品質を高めるには、その移送品質及びデューティサイクルをより良好にする必要があり、それは例えば次のやり方(a)〜(c)の何れによっても実現できる。やり方(a)はグリッドレス光学系及び特にグリッドレス直交加速器を用いるやり方であり、特許文献18(A. A. Makarov)に記載されているやり方に似ている。やり方(b)はフレネル型複数電極レンズ群を用いデューティサイクルをより良好にするやり方であり、非特許文献12に記載されているやり方に似ている。やり方(c)は、ガス充填済イオン導路50又は55から飛行管内へと直接にパルス化イオン群を送り込むことによってTOF型質量分析部を衝突セルとより密に統合するやり方であり、特許文献19(A. A. Makarov, M. E. Hardman, J. C. Schwartz and M. Senko)に記載されているイオンパルシングと似たやり方である。
【0090】
上述した実施形態は、LTMS30の空間電荷容量が決定的制約条件となり得るような状況に対処できるよう、更に改善することができる。即ち、この潜在的な問題を克服するには、リニアトラップ30より前段にイオン収蔵装置を追加すればよく、追加するイオン収蔵装置もリニアトラップとするのが望ましい。そのようにした特に好適な構成の例を図13に示す。
【0091】
この構成においては、リニアトラップ30が実質的に2個の部分に分割されている。第1の部分は収蔵部130であり、その後段にある第2の部分は分析部230である。これらの部分130及び230の間には電極150があり、この電極150上におけるポテンシャルは、リニアトラップ30をこれらの部分130及び230に分割するポテンシャル障壁が生成されるよう設定されている。このポテンシャル障壁は、これらの部分を分け隔てるため所定の位置エネルギ段差を設けるためだけのものであり、電場によって実現してもよいし磁場によって実現してもよいしその組合せによって実現してもよい。収蔵部130は、好ましくは連続的に入ってくるイオン群を捕捉し、同時にそのうちの中間質量範囲Δm/z(10〜200Th)内イオン群を励起し、収蔵部130を分析部230から隔てているポテンシャル障壁をそのイオン群により乗り越えさせる。分析部230はこのポテンシャル障壁を乗り越えてきた中間質量範囲内イオン群を対象に、単一MS法、MS/MS法又はMSn法による分析を行う。このとき、例えば200〜2000Thの広さを有する全質量範囲を複数個の中間質量範囲Δm/zに区切り、区切り毎にイオン群を励起するようにすれば、各区切りの中間質量範囲Δm/z毎に分析部230の全空間電荷容量を用いることができる。その際、LTMS30の感度、走査速度或いはパワー分解能が犠牲になることもない。
【0092】
収蔵部130内に収蔵されているイオン群はそのm/z値が非常に広いm/z値域内に分布しているイオン群であり、このイオン群では空間電荷効果が発生しているためそのイオン群からそのイオン群についての有用な情報を得ることはできないが、それら空間電荷のうち分析部230内高分解能リニアトラップ分析部内に入ることを許される空間電荷m/z値域即ちΔm/zは元々のm/z値域全体よりも狭くなっており、従ってその空間電荷からはそれを搬送するイオン群について有用な情報を得ることができよう。また、2個の部分130及び230は同期動作しており、分析部230内高分解能リニアトラップ分析部内に入ることを許された質量範囲Δm/z内を常に単一MS法により走査するようリニアトラップ30を常時動作させているため、分析時間が損なわれることはない。
【0093】
動作時には、連続的イオン流が収蔵部130に入り、収蔵部130と分析部230との間を隔てるポテンシャル障壁によって反射される。このポテンシャル障壁は直流場によって、或いは更にこれとRF場との組合せによって、形成されている。収蔵部130内イオン群は収蔵部130内をその長手方向に沿って進行するに連れガスとの衝突によりその運動エネルギを失い、次々と、ポテンシャル井戸の底近傍にある低い運動エネルギに落ち込んでいく。このときこのポテンシャル障壁に交流場が付加されていれば、特定のm/z値域Δm/z内のイオン群が励起されて軸方向共鳴発振が生じる。ポテンシャル障壁に交流場を付加するには、例えば、収蔵部130軸方向沿いに四重極直流ポテンシャル分布を形成すればよい。空間電荷効果が厳しくまた場の品質が低いため、この中間m/z値域Δm/zの広さは1Thより大分広く、好ましくは全質量範囲の5〜10%の広さとする。更に、この交流励振を適当な周波数範囲に広げれば、当該励振に及ぶ局所場の実歪みの影響を抑えることができる。
【0094】
この励振サイクルを数十回又は数百回繰り返すと、中間m/z値域Δm/z内イオン群の大部分が、未だ収蔵室130の入口開口から脱出することはできないがポテンシャル障壁を克服できる程には励起されるに至り、そのような励起状態になったイオン群は分析部230内に入っていく。分析部230に入ったイオン群は、そこに存する交流場によって共鳴から外れ、ガスとの衝突により更にエネルギを失ってポテンシャル井戸の底に落ち、分析部230の中央部内に収蔵される。分析部230においては、収蔵した所定質量範囲内のイオン群について単一MS法、MS/MS法又はMSn法による分析が実行される。その後は、次の所定m/z値域内のイオン群を収蔵部130から分析部230へと充填する動作等が、収蔵部130内イオン群の全質量範囲に対する全走査が完了するまで(全質量範囲がカバーされるまで)繰り返される。次回走査開始時までには、完全に且つ予め、収蔵部130内イオン母集団を新しいものにしておく。
【0095】
次に、図13に示した複合的リニアトラップ30を含む質量分析計の動作について例示説明する。
【0096】
まず、通常、リニアトラップが分解検出できる単位パワー当たりの空間電荷限界量は単位電荷の30000倍(以下30000「電荷」と称する)であり、イオン群は2000Thの動作質量範囲全体に亘り概ね均一に強度分布している。TOF型質量分析部はそのパワー分解能が良好な質量分析計であるため、例えば300000電荷という大きなイオン母集団を受け入れることができる。またその走査速度は10000Th/secであり、注入電流(イオン電流)はおよそ30000000電荷/secにもなる。イオン強度分布の推定にはAGCを用い、リニアトラップ30は単一MS法モードで動作させる。
【0097】
従来手法であれば、リニアトラップ30をその空間電荷許容限界量まで充填するには10msecが必要であり、LTMS30にて所要質量範囲をカバーするには200msecの走査時間が必要であった。セトリング時間及びAGC所要時間を考慮に入れると、この場合、分析速度はスペクトラムで約4本/sec、電荷量で1200000電荷/secとなり、その結果としてデューティサイクルは4%となる。
【0098】
これに対し、本願にて提案している手法においては、まず収蔵室130内に全イオンを収蔵した上で分析部230内で分析を行うこととしている。分析部230内への電荷注入は、それぞれ300000電荷が属している100Th幅のm/z値ウィンドウ毎に、数msecかけて行われる。その後、このm/z値ウィンドウ全体を走査するのには10msecしか要しない。全質量範囲をカバーするにはこのように300000電荷ずつに区切った動作を20回繰り返せばよく、それに要する時間は200msecをわずかに上回る程度となる。もし、収蔵部130内での収蔵を励振と同時に行った場合はこのプロセスをスペクトラム本数で約4本/secの速度で実行でき、収蔵及び励振を時間的にシーケンシャルに行った場合は約2.5本/secの速度で実行できる。前者即ち同時励振時には、24000000電荷/secの速度で分析を行い80%のデューティサイクルを得ることができ、後者即ちシーケンシャル励振時には、15000000電荷/secの速度で分析を行い50%のデューティサイクルを得ることができる。
【0099】
m/z値ウィンドウの幅Δmを更に狭くすることもできるが、他方でオーバヘッド的な時間消費もあることから、およそ50×106電荷/secのレベルがゲイン上の限界となろう。この値はもはや、昨今のエレクトロスプレーイオン源にとっても、事実上の限界に近い値である。
【0100】
以上、本発明についてその実施形態を多数に亘り説明した。しかしながら、本発明の神髄及び技術的範囲から逸脱することなくこれに様々な変形を施し得ることも、理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の一実施形態に係る質量分析計を示す上面図及び側面図である。
【図2】図1中の衝突セルの部分断面(x:衝突セルへのイオン注入方向)及びこの衝突セルに接続されている電気回路の一部を示す斜視図である。
【図3】衝突セルを別のものに置き換え図2と同様に示した図である。
【図4a】他の実施形態における衝突セルであって直流電圧のみが印加されるものを示す図である。
【図4b】他の実施形態における衝突セルであって直流電圧のみが印加されるものを示す図である。
【図5a】図2及び図3に示した衝突セル内で使用し得るロッド状電極を示す断面図である。
【図5b】図2及び図3に示した衝突セル内で使用し得る他種のロッド状電極を示す断面図である。
【図6a】図5aに示したものと同種の電極によるアレイ及びそれによって生じる電位を示す図である。
【図6b】図6aにイオンの注入点及び放出点を付記した図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る質量分析計を示す上面図及び側面図である。
【図8】本発明の更に他の実施形態に係る質量分析計を示す上面図及び側面図である。
【図9】イオントラップに係る回路を示す図である。
【図10】衝突セルに係る回路を示す図である。
【図11】図10に示した回路に代わる回路を示す図である。
【図12】衝突セル用直流電圧発生回路を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る複合的イオントラップ及びイオン源を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源、複数個の伸長電極を有するイオントラップ、衝突セル及び飛行時間型質量分析部を備える質量分析計を動作させる方法であって、
イオン源から入ってくるイオン群をトラッピングし、更にその伸長電極の長手方向に対し略直交する方向へと放出され衝突セルに向け移動していくようこのトラッピングしたイオン群を励起するステップと、
イオントラップから入ってくるイオン群を衝突セル内でフラグメント化するステップと、
得られたフラグメントイオン群を飛行時間型質量分析部に向け移動していくよう衝突セルから放出するステップと、
その内部にいるイオン群の質量スペクトラムが得られるよう飛行時間型質量分析部を動作させるステップと、
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、その複数個の伸長電極に交流電位を印加することによりイオントラップ内イオン群を励起する方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、衝突セルが平板状であり、イオントラップ内イオン群をリボン状ビームとして放出する方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の方法において、イオン群をトラッピングするよう衝突セルを動作させるステップを有する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、直流ポテンシャルを形成する場によりイオン群をトラッピングする方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の方法において、直流ポテンシャルのみを用いて衝突セルを動作させるステップを有する方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の方法において、その内部を通るイオン経路に沿い電場を発生させるよう且つその電場の勾配がイオン経路沿い単調増加勾配となるよう衝突セルを動作させるステップを有する方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のうち何れか1項に記載の方法において、イオン群が衝突セルから出ていく方向に対して直交する方向に沿いイオン群を衝突セル内に入れるステップを有する方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のうち何れか1項に記載の方法であって、衝突セルが複数本の長尺ロッド状電極を有し、この電極が少なくとも2個の構成部分を有する複合的電極である方法において、各長尺ロッド状電極の各構成部分に対しRF電位を印加するステップと、各長尺ロッド状電極の各構成部分に対し相異なる直流電位を印加するステップと、を有する方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、更に、複合的電極たる長尺ロッド状電極を挟む位置にある一対の電極に直流電位を印加するステップを有する方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のうち何れか1項に記載の方法において、イオントラップ内又はイオントラップの隣に配置されているイオン検出器をイオントラップ内イオン群の質量スペクトラムが得られるよう動作させるステップを有する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、イオントラップから略直交方向に放出されたイオン群の一部を遮るようイオン検出器をイオントラップの隣に配置する方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、イオントラップを相対向する側から挟む位置にイオン検出器及び衝突セルを配置する方法。
【請求項14】
請求項1乃至13のうち何れか1項に記載の方法において、イオントラップ内にトラッピングされている前駆イオン群の質量スペクトラムが得られるようイオン検出器を動作させるステップと、フラグメントイオン群の質量スペクトラムが得られるよう飛行時間型質量分析部を動作させるステップと、を有し、これら走査によってMS/MS法を実行する方法。
【請求項15】
請求項1乃至14のうち何れか1項に記載の方法において、イオン源にて発生した広めm/z値域内イオン群をイオントラップ内に入れるステップと、イオン源から入ってきたイオン群を広めm/z値域の略全体に亘りトラッピングしそのうち狭めm/z値域内イオン群をイオントラップから略直交方向へと放出するステップと、を有する方法。
【請求項16】
請求項1乃至15のうち何れか1項に記載の方法において、自動利得制御を用い決定したイオン量範囲内でイオントラップを充填するステップを有する方法。
【請求項17】
請求項1乃至16のうち何れか1項に記載の方法において、基準化合物のイオン群を衝突セル内に注入するステップを有する方法。
【請求項18】
請求項15乃至17のうち何れか1項に記載の方法であって、イオントラップが、第1トラッピング領域内を通り第2トラッピング領域内へと向かうイオン経路を画定する共通軸沿いに略同軸配置された第1及び第2トラッピング領域を有する複合的イオントラップである方法において、
イオン源にて発生した広めm/z値域内イオン群をイオン経路沿いに第1トラッピング領域内に入れるステップと、
イオン源から入ってきたイオン群を広めm/z値域の略全体に亘りトラッピングし更にそのうち中間m/z値域内イオン群を軸方向に放出してイオン経路沿いに第2トラッピング領域へと移動させるよう第1トラッピング領域を動作させるステップと、
第1トラッピング領域から入ってきたイオン群をトラッピングし更にそのうち狭めm/z値域内イオン群を放出するよう第2トラッピング領域を動作させるステップと、
を有する方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、第1トラッピング領域と第2トラッピング領域とが第1ポテンシャル障壁によって隔てられている方法において、第1ポテンシャル障壁を克服して第2トラッピング領域へと移動するのに十分なエネルギまで中間m/z値域内イオン群を励起することにより第1トラッピング領域からイオン群を放出するステップを有する方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、第1トラッピング領域の第1端部にはイオン群が第1トラッピング領域内に入るための入口がまた第2端部にはイオン群が第1トラッピング領域を出ていくための出口があり、第1ポテンシャル障壁をこの出口に配置する方法において、第1トラッピング領域内に入ってきたイオン群を反射するよう第1ポテンシャル障壁を設定するステップと、これに引き続き第1ポテンシャル障壁より高い第2ポテンシャル障壁を第1トラッピング領域の入口に生成してイオン群を第1トラッピング領域内にトラッピングするステップと、第1ポテンシャル障壁を克服するには十分だが第2ポテンシャル障壁を克服するには不十分な程度に中間m/z値域内イオン群を励起するステップと、を有する方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、直流ポテンシャルを用いて第2ポテンシャル障壁を形成する方法。
【請求項22】
請求項18乃至21のうち何れか1項に記載の方法において、第1トラッピング領域内に入ってきたイオン群を反射するよう直流ポテンシャルを用いて第1ポテンシャル障壁を設定する方法。
【請求項23】
請求項18乃至22のうち何れか1項に記載の方法において、第1ポテンシャル障壁に交流ポテンシャルを付加することにより中間m/z値域内イオン群を励起する方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、第2トラッピング領域内にトラッピングされているイオン群を交流ポテンシャルを用いて励起する方法。
【請求項25】
請求項18乃至24のうち何れか1項に記載の方法において、イオン群を入れることによって第2トラッピング領域を空間電荷限界内所定イオン量まで充填するステップを有する方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、この所定イオン量を自動利得制御により決定するステップを有する方法。
【請求項27】
請求項1乃至26のうち何れか1項に記載の方法において、広めm/z値域内イオン群が発生するようイオン源を動作させるステップと、狭めm/z値域内イオン群をその略直交方向に放出するようイオントラップを動作させるステップと、を有する方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、狭めm/z値域内イオン群をイオントラップから略直交方向に放出する一方で後に分析、フラグメント化又はその双方に供すべく残りのイオン群はイオントラップ内に保持するステップを有する方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法において、更に、残りのイオン群のうち別の狭めm/z値域内の少なくとも一部のイオン群を放出し衝突セル内に入れるようイオントラップを動作させるステップと、イオントラップから入ってきたイオン群をフラグメント化するよう衝突セルを動作させるステップと、を含む2回目の分析ステップを有する方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法において、更に、2回目の分析ステップにてフラグメント化したイオン群を飛行時間型質量分析部内に入れるステップと、そのフラグメントイオン群の質量スペクトラムが得られるよう飛行時間型質量分析部を動作させるステップと、を有する方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、飛行時間型質量分析部を用いてフラグメント化したイオン群の質量スペクトラムを得る3回目以降の分析ステップを有する方法。
【請求項32】
請求項30又は31に記載の方法において、各回の分析ステップにて放出されるイオン群のm/z値が属している狭めm/z値域同士を組み合わせると中間m/z値域の略全体になる方法。
【請求項33】
請求項28乃至32のうち何れか1項に記載の方法において、狭めm/z値域内イオン群を放出しているときに略全ての狭めm/z値域外イオン群をイオントラップ内に保持するステップを有する方法。
【請求項34】
イオン源、第1トラッピング領域、複数個の伸長電極を有する第2トラッピング領域、衝突セル、イオン検出器及び飛行時間型質量分析部を備える質量分析計を用いてタンデム質量分析を行う方法であって、
イオン群が発生するようイオン源を動作させるサブステップ、イオン源にて発生したイオン群を第1トラッピング領域内に入れるサブステップ、並びに、イオン源から入ってくるイオン群のうち広めm/z値域内前駆イオン一次群をトラッピングするよう第1トラッピング領域を動作させるサブステップを含む充填ステップと、
前駆イオン一次群のうち中間m/z値域内第1二次副群を放出して第2トラッピング領域へと移動させ且つ前駆イオン一次群の残りを第1トラッピング領域内に保持するよう第1トラッピング領域を動作させるサブステップ、第1トラッピング領域から入ってくる前駆イオン第1二次副群からイオン群をトラッピングするよう第2トラッピング領域を動作させるサブステップ、前駆イオン第1二次副群からトラッピングしたイオン群の質量スペクトラムが得られるようイオン検出器を動作させるサブステップ、並びに、前駆イオン第1二次副群からトラッピングしたイオン群についてフラグメント化/分析動作を複数回実行するサブステップを含む第1選別/分析ステップと、
前駆イオン一次群のうち別の中間m/z値域内の第2二次副群を放出し第2トラッピング領域へと移動させるよう第1トラッピング領域を動作させるサブステップ、第1トラッピング領域から入ってくる前駆イオン第2二次副群からイオン群をトラッピングするよう第2トラッピング領域を動作させるサブステップ、前駆イオン第2二次副群からトラッピングしたイオン群の質量スペクトラムが得られるようイオン検出器を動作させるサブステップ、並びに、前駆イオン第2二次副群からトラッピングしたイオン群についてフラグメント化/分析動作を複数回実行するサブステップを含む第2選別/分析ステップと、
を有し、
第1及び第2選別/分析ステップそれぞれにて複数回実行されるフラグメント化/分析動作が、それぞれ、トラッピングしたイオン群のうち狭めm/z値域内前駆イオン三次副群を伸長電極の長手方向に対し略直交する方向に放出し衝突セル内に入れるよう第2トラッピング領域を動作させるサブステップ、第2トラッピング領域から放出された前駆イオン三次副群に属するイオン群をフラグメント化するよう衝突セルを動作させるサブステップ、得られたフラグメントイオン群を衝突セルから飛行時間型質量分析部内へと入れるサブステップ、並びに、このフラグメントイオン群の質量スペクトラムが得られるよう飛行時間型質量分析部を動作させるサブステップを含み、
二次副群各々について形成される前駆イオン三次副群が、互いに異なる狭めm/z値域に属するイオン群である方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法において、前駆イオン三次副群をその時間幅が10msec以下のパルスとして放出するステップを有する方法。
【請求項36】
請求項34又は35に記載の方法において、それらによって中間m/z値域が占められるよう複数通りの狭めm/z値域を設定する方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法において、予行時に取得した質量スペクトラムを基準として狭めm/z値域の幅を決定するステップを有する方法。
【請求項38】
請求項34乃至37のうち何れか1項に記載の方法において、第2トラッピング領域、衝突セル及び飛行時間型質量分析部の動作内容を各前駆イオン三次副群及び対応するフラグメントイオン群に適合するよう設定する方法。
【請求項39】
イオン源、イオントラップ、衝突セル及び飛行時間型質量分析部を備えるタンデム質量分析計であって、
イオントラップが、動作時にトラッピング場を発生させる複数個の伸長電極を有し、このトラッピング場が、イオン源から入ってくるイオン群をトラッピング及び励起してイオントラップから伸長電極の長手方向に対し略直交する方向へと放出させる場であり、
衝突セルが、イオントラップから略直交方向に放出されたイオン群を受け入れてフラグメント化するよう動作し、
飛行時間型質量分析部が、このフラグメントイオン群の質量スペクトラムを取得するよう動作するタンデム質量分析計。
【請求項40】
請求項39に記載のタンデム質量分析計において、更に、イオントラップの隣に配置されておりイオントラップから略直交方向に放出されたイオン群を検出するよう動作するイオン検出器を備えるタンデム質量分析計。
【請求項41】
請求項40に記載のタンデム質量分析計において、イオントラップを相対向する側から挟む位置にイオン検出器及び飛行時間型質量分析部が配置されたタンデム質量分析計。
【請求項42】
請求項39乃至41のうち何れか1項に記載のタンデム質量分析計において、衝突セルが平板状であるタンデム質量分析計。
【請求項43】
請求項39乃至42のうち何れか1項に記載のタンデム質量分析計において、飛行時間型質量分析部が直交加速型であるタンデム質量分析計。
【請求項44】
請求項43に記載のタンデム質量分析計において、飛行時間型質量分析部がグリッドレス型であるタンデム質量分析計。
【請求項45】
第1イオン収蔵空間を通って第2イオン収蔵空間内に至るイオン経路がその共通軸により画定されるよう略同軸に配置された第1及び第2イオン収蔵空間を有し、
第1イオン収蔵空間が、それぞれ第1イオン収蔵空間の別の端側にあり第1イオン収蔵空間を画定する入口電極及び共有電極であって第1広めm/z値域内イオン群を第1イオン収蔵空間内にトラッピングするトラッピング場を発生させるよう動作する入口電極及び共有電極と、トラッピングしたイオン群のうち中間m/z値域内イオン群を励起しイオン経路に沿い第2イオン収蔵空間内へと軸方向に放出するよう動作する1個又は複数個の電極と、を有し、
第2イオン収蔵空間が、それぞれ第2イオン収蔵空間の別の端側にあり第2イオン収蔵空間を画定する上記共有電極及び追加電極であってイオン群を第2イオン収蔵空間内にトラッピングするトラッピング場を発生させるよう動作する上記共有電極及び追加電極と、トラッピングしたイオン群のうち狭めm/z値域内イオン群を励起し第2イオン収蔵空間から出口開口を介して伸長電極の長手方向に対し略直交する方向へと放出するよう動作する複数個の伸長電極と、を有する複合的イオントラップ。
【請求項46】
請求項45に記載の複合的イオントラップにおいて、出口開口の長手方向と伸長電極の長手方向とが同方向である複合的イオントラップ。
【請求項47】
請求項45又は46に記載の複合的イオントラップと、第2イオン収蔵空間の隣に配置されており第2イオン収蔵空間から略直交方向に放出されたイオン群を検出するよう動作するイオン検出器と、を備える質量分析計。
【請求項48】
請求項47に記載の質量分析計と、第2イオン収蔵空間から略直交方向に放出されたイオン群を受け入れるよう配置された飛行時間型質量分析部と、を備えるタンデム質量分析計。
【請求項49】
請求項48に記載のタンデム質量分析計において、第2イオン収蔵空間を相対向する側から挟む位置にイオン検出器及び飛行時間型質量分析部が配置されたタンデム質量分析計。
【請求項50】
請求項48又は49に記載のタンデム質量分析計において、更に、第2イオン収蔵空間と飛行時間型質量分析部との間のイオン経路上に配置された衝突セルを備えるタンデム質量分析計。
【請求項51】
請求項50に記載のタンデム質量分析計において、衝突セルが平板状であるタンデム質量分析計。
【請求項52】
請求項51に記載のタンデム質量分析計において、衝突セルが複数本の長尺ロッド状電極を有し、この長尺ロッド状電極が少なくとも2個の構成部分を有する複合的電極であるタンデム質量分析計。
【請求項53】
請求項52に記載のタンデム質量分析計において、複合的電極の2個の構成部分が別々の電源に接続されたタンデム質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2007−527595(P2007−527595A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505986(P2006−505986)
【出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001174
【国際公開番号】WO2004/083805
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】