説明

イオン注入方法

【課題】1回のみの質量分析を行なうイオン注入装置を用いたイオン注入方法において、エネルギーコンタミネーションを低減する。
【解決手段】イオン源1で引出電圧をかけて引き出したイオンのうち目的とするイオンのみを選別する質量分析を質量分析器2で1回のみ行ない、ビームライン3にてイオンビームの整形及び走査をし、加速管4にて加速電圧をかけてエンドステーション5にて被処理体にイオン注入する。2価イオンを用い、その2価イオンを注入する際の2価用引出電圧及び2価用加速電圧の合計値を、その2価イオンと同一イオン種の1価イオンを注入する際の1価用引出電圧及び1価用加速電圧の合計値の半分の値に設定し、かつ、2価用加速電圧を1価用加速電圧よりも小さく設定して被処理体へのイオン注入を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入方法に関し、特に、イオン源で引出電圧をかけて引き出したイオンのうち目的とするイオンのみを選別する質量分析を1回のみ行ない、ビームラインにてイオンビームの整形及び走査をし、加速管にて加速電圧をかけてエンドステーションにて被処理体にイオン注入するイオン注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体に不純物イオンを導入する方法として、イオン注入装置を用いたイオン注入がある。イオン注入に用いられるイオン注入装置は、イオン源で引出電圧をかけて引き出したイオンのうち目的とするイオンのみを選別する質量分析を行ない、ビームラインにてイオンビームの整形及び走査をし、加速管にて加速電圧をかけてエンドステーションにて被処理体にイオン注入を行なう。
【0003】
イオン注入処理において、ビーム電流を多くとれて処理時間を短くできる1価イオンを用いて注入を行なうのが一般的である。2価イオンや3価イオンを用いてイオン注入を行なう場合、1価イオンでの注入と同じ深さにイオンを注入するために、2価イオンを用いる場合は1価イオンの2分の1の電圧(引出電圧+加速電圧)、3価イオンを用いる場合は3分の1の電圧(引出電圧+加速電圧)で注入できることが知られている。イオン注入装置において、引出電圧及び加速電圧には性能上の上限があるので、イオンをより深く注入する場合には、2価イオンや3価イオンが用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
質量分析を1回のみ行なうイオン注入装置では、質量分析後のビームライン真空度が低いとイオンが中性化されて加速電圧で十分に加速されずに低エネルギーで注入され、一部のイオンが浅く注入されてしまう不具合が発生することがある。この不具合はエネルギーコンタミネーションと呼ばれる。
【0005】
例えば、MOSトランジスタのしきい値電圧を調整するためにゲート絶縁膜を介して半導体層にイオンを注入する際にエネルギーコンタミネーションが発生すると、低エネルギーで注入されたイオンがゲート絶縁膜に留まり、MOSトランジスタの使用時においてゲート絶縁膜に注入されたイオンに起因してゲート絶縁膜破壊が発生することがある。
【0006】
エネルギーコンタミネーションを防止するための対策として、加速電圧で加速後に2回目の質量分析を行ない、引出電圧で引出した後に中性化された低エネルギー成分を除去してエネルギーコンタミネーションを抑制する方法がある(例えば特許文献1,2を参照。)。
【0007】
他の方法として、多価イオン注入を行なう際に、分析マグネットの下流側に偏向マグネットを追加して荷電変換イオンを除去し、エネルギーコンタミネーションを抑制する方法がある(例えば特許文献3を参照。)。
【0008】
また、エネルギーコンタミネーションを除去するためにイオンビームの経路上に低エネルギーのコンタミネーション除去用の薄膜フィルムを設けて薄膜フィルムによってイオンビームに含まれる低エネルギーのコンタミネーションが阻止された状態でイオン注入を行なう方法もある(例えば特許文献4を参照。)。
【0009】
しかし、従来の方法では、2回の質量分析を行なうために2個の質量分析器が必要であったり、偏向マグネットや薄膜フィルムを追加したりするなど、イオン注入装置の構造が複雑になるという問題があった。
【0010】
そこで本発明は、1回のみの質量分析で、偏向マグネットや薄膜フィルムを追加しなくても、エネルギーコンタミネーションを低減できるイオン注入方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るイオン注入方法は、イオン源で引出電圧をかけて引き出したイオンのうち目的とするイオンのみを選別する質量分析を1回のみ行ない、ビームラインにてイオンビームの整形及び走査をし、加速管にて加速電圧をかけてエンドステーションにて被処理体にイオン注入するイオン注入方法であって、2価イオンを用い、その2価イオンを注入する際の2価用引出電圧及び2価用加速電圧の合計値を、その2価イオンと同一イオン種の1価イオンを注入する際の1価用引出電圧及び1価用加速電圧の合計値の半分の値に設定し、かつ、上記2価用加速電圧を上記1価用加速電圧よりも小さく設定して被処理体へのイオン注入を行なう。
【0012】
本発明のイオン注入方法で注入した2価イオンの注入深さは、その2価イオンと同一イオン種の1価イオンを上記1価用注入条件で注入した場合と同じになる。
本発明のイオン注入方法において、2価用加速電圧をより低く設定するために、2価用加速電圧を0KVに設定してもよい。
本発明のイオン注入方法において、イオン源で引き出したイオンのうち質量分析により目的とするイオンのみを引き出した後に行なう、イオンビームの整形、走査、加速の処理順序について特に制限はなく、どの順序に行なってもよい。好ましくは、整形、走査、加速の順序、又は加速、整形、走査の順序である。
【0013】
本発明のイオン注入方法において、上記2価用引出電圧の値は上記1価用引出電圧の値と同じである例を挙げることができる。ただし、本発明は、2価用引出電圧の値が1価用引出電圧の値と同じである条件に限定されるものではない。
【0014】
本発明のイオン注入方法の一例は、上記被処理体は半導体層表面にゲート絶縁膜が形成された半導体ウェハであり、イオン注入の対象処理は、その半導体ウェハに形成されるMOSトランジスタのしきい値電圧を調整するために上記ゲート絶縁膜を介して上記半導体層にイオンを注入するためのイオン注入である。ここで半導体層の語には、半導体基板、エピタキシャル成長層が含まれる。本発明のイオン注入方法が適用される対象処理はこれに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明のイオン注入方法では、2価イオンを用いるようにした。そして、その2価イオンを注入する際の2価用引出電圧及び2価用加速電圧の合計値を、その2価イオンと同一イオン種の1価イオンを注入する際の1価用引出電圧及び1価用加速電圧の合計値の半分の値に設定し、かつ、上記2価用加速電圧を上記1価用加速電圧よりも小さく設定するようにした。
【0016】
エネルギーコンタミネーションは質量分析後の加速電圧が高いほど影響が大きいため、2価イオンを用い、加速電圧を低く設定することにより、エネルギーコンタミネーションを低減できる。さらに、本発明のイオン注入方法は、イオン注入装置として2つの質量分析器を備えたものや、偏向マグネットや薄膜フィルムを追加したものを用いなくても、質量分析処理が1回のみのイオン注入装置を用いて実現できるので、イオン注入装置にかかるコストの上昇を招くことはない。
【0017】
本発明のイオン注入方法において、2価用引出電圧の値は1価用引出電圧の値と同じであるようにすれば、例えば1価用引出電圧がイオン注入装置の最大引出電圧である場合に、2価用引出電圧をそのイオン注入装置の最大引出電圧に設定して、2価用加速電圧をより低く設定できる。
【0018】
本発明のイオン注入方法の一例は、被処理体は半導体層表面にゲート絶縁膜が形成された半導体ウェハであり、イオン注入の対象処理は、その半導体ウェハに形成されるMOSトランジスタのしきい値電圧を調整するためにゲート絶縁膜を介して半導体層にイオンを注入するためのイオン注入である。本発明のイオン注入方法によれば、エネルギーコンタミネーションを低減できるので、エネルギーコンタミネーションに起因してイオンがゲート絶縁膜に留まるのを防止して、MOSトランジスタのゲート絶縁膜破壊を防止できる。さらに、イオン注入装置にかかるコストを上昇させることなくエネルギーコンタミネーションを低減できるので、半導体装置の製造コストの上昇を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のイオン注入方法の一実施例で用いるイオン注入装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】実施例1,2及び比較例1のゲート酸化膜耐圧評価結果を示す図である。
【図3】比較例2のゲート酸化膜耐圧評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明のイオン注入方法の一実施例で用いるイオン注入装置の一例を示す概略構成図である。
イオン注入装置は、イオン源1、質量分析器2、ビームライン3、加速管4及びエンドステーション5を備えている。イオン源1は、注入する元素をイオン化し、発生したイオンに引出電圧をかけてイオンビームとして引き出す。質量分析器2は、イオン源1から引き出されたイオンビームのうち目的とするイオンだけを選別する。ビームライン3は、質量分析器2からのイオンビームの整形及び走査を行なう。加速管4は、ビームラインに加速電圧をかけてビームラインを最終的な注入エネルギーまで加速する。エンドステーション5は、被処理体、例えば半導体ウェハを保持する。エンドステーション5で被処理体にイオンが注入される。イオン源1からエンドステーション5までのイオンビームの軌道はすべて真空状態にされる。このイオン注入装置では質量分析器2によりイオンビームに対して1回のみの質量分析を行なう。
【0021】
本発明のイオン注入方法の一実施例について説明する。
1価イオンを用い、例えば引出電圧(1価用引出電圧)と加速電圧(1価用加速電圧)の合計値を100KVに設定してイオン注入する注入条件に対して、この実施例では、その1価イオンと同一イオン種の2価イオンを用い、引出電圧(2価用引出電圧)と加速電圧(2価用加速電圧)の合計値を1価用電圧条件(1価用引出電圧+1価用加速電圧)の2分の1である50KVに設定してイオン注入を行なう。このとき、2価用加速電圧を、1価イオンを用いるときの加速電圧(1価用加速電圧)に比べて小さく設定する。2価イオンを1価用電圧条件の2分の1の2価用電圧条件(2価用引出電圧+2価用加速電圧)で注入することにより、同一イオン種の1価イオンを用いるときの注入深さと同じ深さにイオンを注入できる。
エネルギーコンタミネーションは質量分析後の加速電圧が高いほど影響が大きいので、2価用加速電圧を1価用加速電圧に比べて低く設定することにより、エネルギーコンタミネーションを低減できる。
【0022】
本発明のイオン注入方法を評価した結果を以下に説明する。
図1に示した質量分析を1回のみ行なうイオン注入装置を用いた。注入イオン種はヒ素を用いた。注入エネルギーは100KeVである。注入量は1.40×1012ions/cm2である。被処理体は半導体基板(半導体層)表面にシリコン酸化膜が形成された半導体ウェハである。
実施例及び比較例の注入条件を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例1,2及び比較例1のイオン注入は図1に示したイオン注入装置で行なった。比較例2のイオン注入は、質量分析を2回行なうイオン注入装置で行なった。実施例1及び比較例1,2で、引出電圧を、用いたイオン注入装置の最大引出電圧(40KV)に設定した。実施例1,2で、加速電圧を比較例1よりも低く設定した。
【0025】
図2は実施例1,2及び比較例1のゲート酸化膜耐圧評価結果を示す図である。図3は比較例2のゲート酸化膜耐圧評価結果を示す図である。ゲート酸化膜の耐圧の測定は、ゲート酸化膜を介して半導体基板にイオンを注入した後、ゲート酸化膜上にゲート電極を形成したものを用い、ゲート電極に印加するゲート電圧を振って、ゲート電極に流れる電流(ゲート電流)が1μA/cm2(マイクロアンペア/平方センチメートル)以上になったときのゲート電圧を耐圧値とした。図1及び図2において、横軸は耐圧値(V)、右縦軸は累積故障率F(%)、左縦軸はLN(−LN(1−F))の値(Fは累積故障率)を示す。
【0026】
評価の結果、質量分析を1回のみ行なうイオン注入装置を用いたとき(実施例1,2及び比較例1)のゲート酸化膜耐圧は、比較例1の1価イオン注入によるゲート酸化膜耐圧が最も悪く、実施例1,2の2価イオン注入によるゲート酸化膜耐圧、すなわちエネルギーコンタミネーションは改善されることが分かった。
【0027】
また、実施例1と実施例2を比較すると、加速電圧をより低く設定した実施例1のゲート酸化膜耐圧、すなわちエネルギーコンタミネーションが改善されることが分かった。これは加速電圧をより低く設定することによりエネルギーコンタミネーションを低減できることを意味する。実施例1は、質量分析を1回のみ行なうイオン注入装置を用いているにもかかわらず、質量分析を2回行なうイオン注入装置を用いた比較例2(図3参照)とほぼ同等のエネルギーコンタミネーションの低減を実現できることがわかった。
【0028】
以上の評価結果より、質量分析を1回のみ行なうイオン注入装置で通常1価イオンで注入できる注入エネルギー条件でのイオン注入に対して、2価イオンで加速電圧をより低く設定することにより、エネルギーコンタミネーションを低減できることがわかった。
【0029】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
例えば、上記実施例では、注入イオン種としてヒ素を用いているが、本発明で用いる2価イオンはこれに限定されるものではなく、例えばボロン、リンであってもよい。
【0030】
本発明のイオン注入方法において、エネルギーコンタミネーションをより低減するために、2価加速電圧をより低くすることが好ましい。2価加速電圧は0KVであってもよい。ただし、2価加速電圧を1価加速電圧よりも低く設定すれば、エネルギーコンタミネーションを低減する本発明の効果は得られる。
【0031】
上記実施例では、イオン注入装置として図1に示したものを用いたが、本発明を実現するためのイオン注入装置はこれに限定されるものではなく、質量分析を1回のみ行なうイオン注入装置であれば、本発明を適用できる。例えば、偏向マグネットを追加した特許文献3の装置や、エネルギーコンタミネーション除去用の薄膜フィルムを設けた特許文献4の装置を用いて本発明を実現することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、イオン注入装置を用いて半導体にイオンを注入するイオン注入方法であって、質量分析を1回のみ行なうイオン注入に適用できる。
【符号の説明】
【0033】
1 イオン源
2 質量分析器
3 ビームライン
4 加速管
5 エンドステーション
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特開平10−208687号公報
【特許文献2】特許第3941434号公報
【特許文献3】特開平9−45273号公報
【特許文献4】特開2002−134060号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源で引出電圧をかけて引き出したイオンのうち目的とするイオンのみを選別する質量分析を1回のみ行ない、ビームラインにてイオンビームの整形及び走査をし、加速管にて加速電圧をかけてエンドステーションにて被処理体にイオン注入するイオン注入方法において、
2価イオンを用い、その2価イオンを注入する際の2価用引出電圧及び2価用加速電圧の合計値を、その2価イオンと同一イオン種の1価イオンを注入する際の1価用引出電圧及び1価用加速電圧の合計値の半分の値に設定し、かつ、前記2価用加速電圧を前記1価用加速電圧よりも小さく設定して被処理体へのイオン注入を行なうことを特徴とするイオン注入方法。
【請求項2】
前記2価用引出電圧の値は前記1価用引出電圧の値と同じである請求項1に記載のイオン注入方法。
【請求項3】
前記被処理体は半導体層表面にゲート絶縁膜が形成された半導体ウェハであり、イオン注入の対象処理は、その半導体ウェハに形成されるMOSトランジスタのしきい値電圧を調整するために前記ゲート絶縁膜を介して前記半導体層にイオンを注入するためのイオン注入である請求項1又は2に記載のイオン注入方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−14333(P2011−14333A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156469(P2009−156469)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】