イオン注入装置及びビーム電流密度分布調整方法
【課題】m(mは2以上の整数)本のリボン状イオンビームによるガラス基板上での照射領域を少なくとも部分的に重ね合わせて、ガラス基板上に所定の注入量分布を実現するイオン注入装置において、各リボン状イオンビームのビームの電流密度分布を効率的に調整する。
【解決手段】各リボン状イオンビームに対してビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を設定し、予め決められた順番従って、1本目からm−1本目までのリボン状イオンビームに対して、ビーム電流密度分布が目標分布に対して第1の許容範囲内に入るように調整する。その後、各リボン状イオンビームに対する調整結果を合算した分布とm本のイオンビームに対して設定された目標分布を合算した分布との差に応じて、m本目のビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、この新たな目標分布に対して第2の許容範囲内に入るように、m本目のビーム電流密度分布を調整する。
【解決手段】各リボン状イオンビームに対してビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を設定し、予め決められた順番従って、1本目からm−1本目までのリボン状イオンビームに対して、ビーム電流密度分布が目標分布に対して第1の許容範囲内に入るように調整する。その後、各リボン状イオンビームに対する調整結果を合算した分布とm本のイオンビームに対して設定された目標分布を合算した分布との差に応じて、m本目のビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、この新たな目標分布に対して第2の許容範囲内に入るように、m本目のビーム電流密度分布を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のリボン状イオンビームによる照射領域を重ね合わせて、ガラス基板上に所定の注入量分布を形成させるイオン注入装置および当該イオン注入装置で用いられるビーム電流密度分布の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビに代表される液晶製品の大型化が著しい。半導体製造工程においては、1つの処理工程でより多くの液晶パネルを処理する為に、ガラス基板の寸法を大きくし、大型のガラス基板から液晶パネルを多面取りしようという試みがなされている。半導体製造装置の一つであるイオン注入装置についても、このような大型のガラス基板への対応が求められている。
【0003】
このような要望に対応すべく、これまでに特許文献1に記載のイオン注入装置が開発されてきた。
【0004】
特許文献1には、ガラス基板の寸法よりも小さい2本のイオンビームを用いて、ガラス基板の全面にイオン注入処理を施す技術が開示されている。より具体的には、特許文献1では、一例として、互いに直交する3方向(X、Y、Z方向)のそれぞれを、イオンビームの短辺方向、イオンビームの長辺方向、イオンビームの進行方向として定義されている。2本のイオンビームは、X方向において互いに離間した位置に、Y方向においてガラス基板上での各イオンビームによる照射領域が部分的に重なるように互いの中心位置をずらして、ガラス基板へのイオン注入処理が施される処理室内に照射されている。そして、このようなイオンビームを横切るように、X方向に沿ってガラス基板を搬送させることで、ガラス基板全面に渡ってのイオン注入処理を実現させている。
【0005】
特許文献1に記載の技術は、ガラス基板の搬送速度が一定である。そして、ガラス基板の全面に渡って均一な注入量分布を実現することから、ガラス基板上に照射されるイオンビームのビーム電流密度分布は、特許文献1の図6に示されているように2本のイオンビームが重ね合わせされる領域を含めて、Y方向に沿って、全体が略均一なビーム電流密度分布となるように調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−152002号公報(図1、図3、図6、段落0077〜0088)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、イオンビームが重ね合わせされる領域でのビーム電流密度分布の調整は、1本のイオンビームのビーム電流密度分布を調整する場合と比較して、調整対象とされるパラメータの数が多く、複雑である。調整が複雑である場合、調整を闇雲にしていたのであれば、調整が終了するまでにかなりの時間を要してしまう。また、ビーム電流密度分布の調整に時間がかかってしまうと、イオン注入装置のスループット(処理能力)の低下を招いてしまうといった問題も起こり得る。
【0008】
しかしながら、特許文献1において、イオンビームが重ね合わせされる領域でのビーム電流密度分布の調整については、他の領域(重ね合わせされない領域)でのビーム電流密度分布とほぼ等しくなるように調整するといった程度の記載しかなされておらず、具体的にどのように調整を行えば効率の良い調整となるのかについて明らかにされていなかった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、複数のイオンビームが重ね合わせされる領域において、各イオンビームのビーム電流密度分布を効率的に調整する為の制御装置を備えたイオン注入装置と当該イオン注入装置で用いられるビーム電流密度分布調整方法を提供することを主たる所期課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明に係るイオン注入装置は、m(mは2以上の整数)本のリボン状イオンビームを供給するm個のイオンビーム供給装置と、処理室内に配置され、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を個別に測定するビームプロファイラーと、前記イオンビーム供給装置毎に個別に設けられ、前記ビームプロファイラーで測定された前記ビーム電流密度分布を調整するためのビーム電流密度分布調整部材と、前記処理室内で、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向と交差させるようにガラス基板を搬送させるガラス基板搬送機構と、前記ビーム電流密度分布調整部材を制御し、前記ガラス基板搬送機構によって搬送される前記ガラス基板上に、前記m本のリボン状イオンビームによる照射領域を少なくとも部分的に重ね合わせて、予め決められた所定の注入量分布を実現する制御装置と、を備えたイオン注入装置であって、前記制御装置は、前記m本のリボン状イオンビームに対して前記ビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を個別に設定する機能と、予め決められた順番従って、個々のリボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布に対して第1の許容範囲内に入るようにm−1本目までの前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を制御する機能と、m−1本目までの前記リボン状イオンビームの調整済みビーム電流密度分布を合算したビーム電流密度分布とm本目までの前記リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差に応じて、m本目の前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、新たな目標分布に対して、前記第1の許容範囲よりも小さい第2の許容範囲内に入るように、前記m本目のビーム電流密度分布を制御する機能と、を備えた装置である、ことを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係るビーム電流密度分布調整方法は、m(mは2以上の整数)本のリボン状イオンビームを供給するm個のイオンビーム供給装置と、処理室内に配置され、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を個別に測定するビームプロファイラーと、前記イオンビーム供給装置毎に個別に設けられ、前記ビームプロファイラーで測定された前記ビーム電流密度分布を調整するためのビーム電流密度分布調整部材と、前記処理室内で、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向と交差させるようにガラス基板を搬送させるガラス基板搬送機構と、を備えたイオン注入装置において、前記ビーム電流密度分布調整部材を用いて、前記ガラス基板搬送機構によって搬送される前記ガラス基板上に、前記m本のリボン状イオンビームによる照射領域を少なくとも部分的に重ね合わせて、予め決められた所定の注入量分布を実現するために、各イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する方法であって、前記m本のリボン状イオンビームに対して前記ビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を個別に設定する工程と、予め決められた順番従って、個々のリボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布に対して第1の許容範囲内に入るようにm−1本目までの前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する工程と、m−1本目までの前記リボン状イオンビームの調整済みビーム電流密度分布を合算したビーム電流密度分布とm本目までの前記リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差に応じて、m本目の前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、新たな目標分布に対して、前記第1の許容範囲よりも小さい第2の許容範囲内に入るように、前記m本目のビーム電流密度分布を調整する工程と、を有していることを特徴としている。
【0012】
このようなものであれば、複数のイオンビームが重ね合わせされる領域において、各イオンビームのビーム電流密度分布を効率的に調整することが出来る。
【0013】
例えば、前記イオン注入装置において、前記制御装置は、n(nは整数、2≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各ビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、前記第1の許容範囲よりも広い第3の許容範囲内であるかどうかを判定する機能と、前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する機能と、を更に備えた装置であっても良い。
【0014】
一方、前記イオン注入装置において、前記制御装置は、n(nは整数、1≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各リボン状イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、第3の許容範囲内であるかどうかを判定する機能と、前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する機能と、を更に備えた装置であっても良い。
【0015】
また、前記ビーム電流密度分布調整方法は、n(nは整数、2≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各ビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、前記第1の許容範囲よりも広い第3の許容範囲内であるかどうかを判定する工程と、前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する工程と、を更に有していても良い。
【0016】
一方、前記ビーム電流密度分布調整方法は、n(nは整数、1≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各リボン状イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、第3の許容範囲内であるかどうかを判定する工程と、前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する工程と、を更に有していても良い。
【0017】
上記した構成を有するイオン注入装置やビーム電流密度分布調整方法であれば、たとえイオンビームの本数が増加したとしても、m本目のイオンビームのビーム電流密度分布の調整時に、1本目からm−1本目までのイオンビームに対して行われたビーム電流密度分布の調整時に生じた目標分布とのズレ量を問題なく補償することが出来る。
【発明の効果】
【0018】
このようなものであれば、複数のイオンビームが重ね合わせされる領域において、各イオンビームのビーム電流密度分布を効率的に調整することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例に係るイオン注入装置を示す平面図である。
【図2】図1の処理室内部をZ方向から見た時の平面図である。
【図3】本発明の一実施例に係るビーム電流密度分布の粗調整についての説明図である。
【図4】本発明の一実施例に係るビーム電流密度分布の微調整についての説明図である。
【図5】本発明の一実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートである。
【図6】図1に記載の第1〜第3のイオンビームにおけるビーム電流密度分布の一例である。
【図7】図6に記載の第1〜第3のイオンビームのビーム電流密度分布を足し合わせた様子を示す。
【図8】図1に記載の第4のイオンビームにおけるビーム電流密度分布の一例を示す。
【図9】本発明の他の実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートで、図10のフローチャートに記載のAに続く。
【図10】本発明の他の実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートで、図9のフローチャートに記載のAからの続きである。
【図11】本発明のさらなる実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートで、図12のフローチャートに記載のAに続く。
【図12】本発明のさらなる実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートで、図11のフローチャートに記載のAからの続きである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明に係るイオン注入装置1の一実施例を示す平面図であり、図2は図1の処理室内部をZ方向から見た時の平面図である。これらの図面を基に本発明の一実施例に係るイオン注入装置の全体の構成を説明する。
【0021】
この発明において、X方向を基板の搬送方向、Y方向をイオンビームの長辺方向、Z方向を処理室内でガラス基板に照射されるイオンビームの進行方向とし、これらの方向は互いに直交している。また、この発明において、リボン状イオンビームとは、イオンビームの進行方向に直交する平面でイオンビームを切った場合に、その断面が略長方形状であるイオンビームのことを指している。
【0022】
図1に記載のイオン注入装置1は、主に処理室11と一点鎖線によって囲まれた第1のイオンビーム供給装置2、第2のイオンビーム供給装置12、第3のイオンビーム供給装置32および第4のイオンビーム供給装置42から構成されている。第1〜第4のイオンビーム供給装置は、それぞれ第1のイオンビーム6、第2のイオンビーム16、第3のイオンビーム36および第4のイオンビーム46を処理室11内に供給する為の装置である。
【0023】
イオンビーム供給装置について簡単に説明する。第1〜第4のイオンビーム供給装置を構成するイオン源(3、13、33、43)、質量分析マグネット(4、14、34、44)および分析スリット(5、15、35、45)は、それぞれ同じ性能の供給装置であっても構わないし、異なる性能の供給装置であっても良い。ここでは、第1のイオンビーム供給装置2の構成を代表として説明し、他の供給装置についての説明は、重複する為、これを省略する。
【0024】
第1のイオンビーム供給装置2は、イオン源3を備えており、このイオン源3より第1のイオンビーム6が引出される。イオン源3より引出された第1のイオンビーム6には様々なイオンが混在している。この内、所望のイオンのみをガラス基板10へ照射させる為に、質量分析マグネット4と分析スリット5とを協働させ、所望のイオンとその他のイオンとの分離を行う。この分離は、イオン毎の質量数の違いを利用して、分析スリット5を所望のイオンのみが通過できるように質量分析マグネット4での第1のイオンビームの偏向量を調整することで行われる。
【0025】
第1のイオンビーム供給装置2から供給される第1のイオンビーム6は、処理室11内に設けられたビームプロファイラー7によって、長辺方向(Y方向)におけるビーム電流密度分布が測定される。このビームプロファイラーの例としては、公知のファラデーカップをY方向に沿って複数個配列した多点ファラデーやY方向に沿って移動可能な単一のファラデーカップを用いることが考えられる。
【0026】
なお、上記説明ではイオンビーム供給装置として、質量分析マグネットや分析スリットを備える構成の供給装置について説明したが、これらを備えないタイプのイオンビーム供給装置でも良い。
【0027】
一例として、ガラス基板の搬送については次に示すように行われる。
【0028】
第1の真空予備室22の大気側に位置するゲートバルブ20が開けられる。その後、ガラス基板10は大気側に設けられた図示されない搬送ロボットによって第1の真空予備室22内へ搬入される。この際、第1の真空予備室22と処理室11との間に位置するゲートバルブ18は、処理室11側が大気に開放されないように閉められている。
【0029】
ガラス基板10が第1の真空予備室22内に搬入された後、ゲートバルブ20が閉められて、図示されない真空ポンプにより、第1の真空予備室22内が処理室11と同程度の真空度(圧力)となるまで真空排気される。
【0030】
第1の真空予備室22内の真空度が処理室11と同程度となった後、ゲートバルブ18が開けられる。そして、ガラス基板10は、処理室11内へ搬入され、矢印Aとして記載される方向に第1のイオンビーム6、第2のイオンビーム16を横切るように処理室内を搬送される。これによってガラス基板10へのイオン注入処理が達成される。
【0031】
その後、ガラス基板10は、ゲートバルブ19を通過し、第2の真空予備室23内に搬入される。ここで、ゲートバルブ19は、処理室11内でのガラス基板10へのイオン注入処理中、もしくは、イオン注入処理後の適当なタイミングで開放されるものとする。
【0032】
第2の真空予備室23内へのガラス基板10の搬入が完了した後、ゲートバルブ19が閉められる。この際、第2の真空予備室23の大気側に位置するゲートバルブ21は閉められている。そして、第2の真空予備室23を密閉した上で、室内の雰囲気が大気圧と同程度となるまで、図示されない真空ポンプにより第2の真空予備室23の圧力調整がなされる。
【0033】
第2の真空予備室23の室内が大気圧となった後、ゲートバルブ21が開けられて、大気側に設けられた図示されない搬送ロボットによって、ガラス基板10の大気側への搬出が行われる。
【0034】
図2は図1の処理室11内部をZ方向から見た時の平面図である。
【0035】
ガラス基板10の搬送機構の一例としては、図2に示されるようにガラス基板10を保持するホルダー24の下面に車輪を設けておき、この車輪が第1、第2の真空予備室22、23、処理室11内に配置された図示されないレール上を転がることでX方向に沿ってホルダー24を移動させることが可能となる。この場合、モーター等のホルダー24を移動させる為の動力源を、別途、用意しておく。ガラス基板10の往復搬送を考えた場合、動力源がモーターであれば正逆の回転が可能な構成にしておくことが望ましい。
【0036】
Y方向において、第1〜第4のイオンビームはガラス基板10よりも長い寸法を有している。その為、ガラス基板10が図2に示される矢印Aの方向に、第1の真空予備室22から第2の真空予備室23へ搬送された場合、ガラス基板の全面において、各イオンビームによる照射領域は重ね合わせされる。なお、図2中に記載の第1〜第4のイオンビームのそれぞれを取り囲んでいる破線は、各イオンビーム供給装置から処理室11内へイオンビームを供給する為の供給経路(ビームライン)の外形を表している。
【0037】
イオン注入処理において、ガラス基板10上に形成されるイオン注入量の分布とイオンビームの電流密度分布とガラス基板の搬送速度とは、それぞれが密接に関連している。一般的に言えば、イオン注入量(ドーズ量とも言う)は、イオンビームの電流密度(電流量で表すこともある)に比例し、被照射対象物(ここではガラス基板)がイオンビームを横切る際の速度に反比例する。
【0038】
例えば、ガラス基板10の全面に渡って形成されるイオン注入量の分布を略均一な分布とすることを目標とする。ガラス基板10の搬送速度が一定である場合、搬送方向と直交する方向におけるイオンビームのビーム電流密度分布を略均一にすれば、ガラス基板全面に渡ってのイオン注入量の分布も略均一となる。
【0039】
より具体的に説明すると、ガラス基板全面に渡ってイオン注入量の分布を略均一にするには、図2でガラス基板10がイオンビームの短辺方向に沿って一定速度で移動する場合、イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を略均一にしておけば良い。この場合、イオンビームの短辺方向におけるビーム電流密度分布は均一でなくても良い。ガラス基板10の搬送方向と略一致しているイオンビームの短辺方向におけるビーム電流密度分布のムラ(不均一性)は、ガラス基板の搬送に伴って、積分されることになる。その為、たとえムラがあったとしても、イオンビームの短辺方向において、最終的にはある一定量の注入がなされることになるから、イオンビームの短辺方向におけるビーム電流密度の均一性は考慮する必要はない。
【0040】
また、ガラス基板10を搬送させた際に、ガラス基板上に照射されないイオンビームの両端部におけるビーム電流密度分布は、ガラス基板上での注入量分布に無関係である為、どのような分布であっても構わない。
【0041】
なお、図2の例では、イオンビームの長辺方向と直交するようにガラス基板を搬送させているが、ガラス基板を搬送する方向は必ずしも直交に限られない。例えば、略直交する方向にガラス基板を搬送させた場合であっても、ガラス基板上に形成される所定の注入量分布に対して設定された許容範囲内でのイオン注入処理が実現出来るからである。ガラス基板上に形成される注入量分布の許容範囲との兼ね合いで、イオンビームの長辺方向に対してどの程度傾けた搬送が許容されるのかが決定されることになる。このことを考慮し、本発明では、ガラス基板の搬送方向をイオンビームの長辺方向と交差する方向としている。
【0042】
次に、上述したビーム電流密度の調整方法について説明する。
【0043】
各イオンビーム供給装置におけるビーム電流密度分布の調整は、例えば、公知技術として知られているようなマルチフィラメントを有するイオン源を用いて、フィラメントに流す電流量を増減させる。
【0044】
具体的には、図1に示されるイオンビーム供給装置のイオン源をY方向に沿って複数のフィラメントが配列されたマルチフィラメントタイプのイオン源にしておく。その上で、ビームプロファイラーによるY方向におけるイオンビームの測定領域と、各イオン源に設けられたフィラメントとを対応させておく。
【0045】
ここでの対応とは、例えば、ビームプロファイラーが16個のファラデーカップで構成されているとした場合、ビームプロファイラーをファラデーカップ4個で構成される4つの領域に分けるとともに、各領域に対してフィラメント1本(各イオン源において、フィラメントは全部でY方向に沿って4本ある。)を対応させておくといったことを意味する。
【0046】
図3、4には、上記対応関係のフィラメントとファラデーカップが示されている。図の縦軸はビーム電流密度を表し、横軸はY方向であって、O1とO2との間の寸法はガラス基板の寸法と一致しており、原点OはY方向におけるイオンビームの一端部と一致している。縦軸、横軸についての設定は、後述する図6〜8においても同様である。そして、このような構成において、ビーム電流密度分布の調整は粗調整と微調整といったように2段階に分けて行われている。
【0047】
ビーム電流密度分布の調整を行うに当たっては、調整目標とする分布(均一な分布の場合は、値)とその分布を中心にして所定の許容範囲(2ε)が設けられているので、その許容範囲内に収まるように各領域に対応するフィラメントに流す電流量を増減させる。
【0048】
例えば、各フィラメントに流す電流量を一律に増やした場合、図3中のビーム電流密度分布Dはビーム電流密度が増す方向に平行移動する。反対に、各フィラメントに流す電流量を一律に減らした場合、図3中のビーム電流密度分布Dはビーム電流密度が減る方向に平行移動する。
【0049】
図3に示される目標分布は、均一な分布である。例えば、現在のビーム電流密度分布(D)をY方向において平均化しておき、平均化したビーム電流密度分布を目標分布とおおよそで一致させるように、各フィラメントに流す電流量を一律に増やす操作を行う。その結果、D1で示されるような分布になったとする。その場合、D1は目標分布に対しての許容範囲内にあるので、これでビーム電流密度分布の調整が終了する。
【0050】
上記したように各フィラメントに流す電流量を一律に増減させて、ビーム電流密度分布を上げ下げする操作のことを、粗調整と呼んでいる。
【0051】
一方、上記した粗調整を行ったとしても、依然として目標分布に対して設定されている許容範囲内にビーム電流密度分布が収まっていない場合がある。この場合は、許容範囲内に収める為に、粗調整に引き続いて微調整が行われることになる。図4には、その様子が描かれている。
【0052】
図4に示されるビーム電流密度分布は、領域1において許容範囲を上回っており、領域3において許容範囲を下回っている。その為、領域1に対応するフィラメントに流す電流量を減らし、領域3に対応するフィラメントに流す電流量を増やしてやる。この際、フィラメントに流す電流を小さな刻みで変化させたり、連続的に変化させたりしている。こうすることで、全体のビーム電流密度分布を少しずつ目標値に近づける操作を行う。このようにして、各領域でフィラメントに流す電流量を調整するような操作が微調整に相当する。
【0053】
上記したような粗調整、微調整による調整方法以外に次のような調整方法を用いてビーム電流密度分布を調整するようにしても良い。
【0054】
ビーム電流密度分布を調整する際、ビームプロファイラーでビーム電流密度分布をモニターしながらフィラメントに流す電流量を調整する。目標とする分布と実測された分布とのズレ量が大きい場合、フィラメントに流す電流量を小刻みに変化させたり、連続的に変化させたりするのでは調整に時間がかかってしまう。その為、このような場合には、ある程度の大きな刻みで変化させるようにする。このようにして、目標とする分布と実測された分布とのズレ量に応じて、フィラメントに流す電流量の刻みを変化させて、調整の程度(細かい調整とするか、粗い調整とするか)を使い分けることが考えられる。
【0055】
目標とする分布に対して設定されている許容範囲が広い時は、ビーム電流密度分布全体を上下させる粗調整やフィラメントに流す電流量を大きな刻みで切り換えていくような粗い調整方法のみでビーム電流密度分布の調整を終了させることが出来る。反対に、許容範囲が狭い時は、粗調整に引き続いて微調整を行ったり、小刻みにフィラメントに流す電流量を調整したりする等して、更なる調整が必要となる。このような追加の調整を伴う場合、ビーム電流密度分布の調整に時間を要することになる。そこで、本発明では、複数本のイオンビームに対してビーム電流密度分布の調整を行う際に、出来るだけ調整に時間を要する微調整を用いないで済むような構成としている。
【0056】
以下、本発明におけるビーム電流密度分布調整方法の一実施例について詳述する。
【0057】
図5は本発明の一実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法を示すフローチャートであって、このフローチャートに示す処理は図1に記載の制御装置25によって行われている。また、この実施例において、イオン注入装置で取り扱われるイオンビームの本数をm本(mは2以上の整数)としている。
【0058】
まず、ステップ50で、m本のイオンビームに対して個別に目標とするビーム電流密度分布(I1、I2・・・Im)の設定がなされる。より具体的には、図1に示すユーザーインターフェース26を介して、イオン注入装置1のオペレーターがイオン注入条件の設定を行う。この際、設定されたイオン注入条件は制御装置25へ送信される。注入条件としては、イオンビームのエネルギー、注入量分布、ガラス基板へのイオンビームの注入角度、ガラス基板の搬送速度といった様々な条件の設定がなされるが、このうち、本発明では注入量分布とガラス基板の搬送速度に着目している。
【0059】
制御装置25では、ガラス基板10の搬送速度と基板への注入量分布から、各イオンビーム供給装置から供給されるイオンビームに対するビーム電流密度分布の目標分布の設定がなされる。
【0060】
例えば、ガラス基板10の全面に渡って均一なイオン注入処理がなされるとともに、各イオンビームを横切る際のガラス基板の搬送速度が一定であるとする。そうすると、全てのイオンビームを重ね合わせた際のビーム電流密度分布の合計分布は、最終目標とする注入量分布を搬送速度で割ってやることで導き出すことが出来る。そして、イオンビーム供給装置の台数が4台であれば、全体のビーム電流密度分布を各装置で4分の1ずつに分けて分担させるといった具合に、各イオンビームに対するビーム電流密度分布の目標分布を設定しても良い。また、イオンビーム供給装置の性能に違いがある場合には、その性能差に応じて各装置で分担する比率を変更させるといったようにしても良い。このようにして、各イオンビーム供給装置から供給されるイオンビームに対して目標とするビーム電流密度分布の設定がなされる。
【0061】
次にステップ51にて、nの初期値を1に設定する。この実施例において、nは1≦n≦m−1で表される整数で、m本のイオンビームのビーム電流密度分布を順番に調整する際、現在、何番目のイオンビームに対しての電流密度分布の調整を行っているのかを示している。
【0062】
電流密度分布が調整される順番に関しては、その調整前に、例えば、注入装置のオペレーターが選択できるようにしておいてもいい。図1では、第1、第2、第3、第4のイオンビームの順番で、ビーム電流密度分布の調整が行われる。
【0063】
ステップ52では、現在の調整対象とされるn本目のイオンビームのビーム電流密度分布が測定されている。ただし、この測定に先立ってイオン源の運転が開始され何らかのイオンビームが処理室11内に照射されているものとする。
【0064】
イオン源の運転の開始にあたっては、各フィラメントに流す電流量を予め適切な値に設定しておく。イオン源がマルチフィラメントタイプのイオン源であれば、先に設定されたビーム電流密度分布の目標分布に応じて、各フィラメントに流す電流を予め適切な値に設定しておく。その場合、処理室内におけるイオンビームのビーム電流密度分布と各フィラメントに流す電流量との相関を示すデータを制御装置25内に予め蓄積しておく。このデータは、例えば、各フィラメントの電流量を特定の値に設定すると、処理室内に照射されるイオンビームのビーム電流密度分布がある特定の分布となるといったもののことを言う。そして、イオン源の運転にあたって、目標とするビーム電流密度分布の値を基にして、制御装置25に蓄積されたデータから各フィラメントに設定されるべき電流量の値を読み出すようにしておいても良い。このようにしておくと、ビーム電流密度分布の調整がほとんど不要となる。その為、ビーム電流密度分布の調整を手早くに終えることが可能となる。
【0065】
一方で、イオン源の運転開始時に、各フィラメントに対する電流量を同一の値に設定しておくことが考えられる。このような構成にした場合、先の構成と比較して、制御装置25内に蓄積しておくデータ量を減らすことが出来るので、その分だけ、制御装置25のデータ蓄積用のメモリー容量を減らすことが出来る。
【0066】
ステップ53では、ステップ52でのビーム電流密度分布の測定結果を受けて、測定分布(InM)と制御装置25によって設定された目標分布(In)との差を計算し、この差が第1の許容範囲(-ε1〜+ε1)内かどうかの判定がなされる。ここで、第1の許容範囲の上限と下限の値が同一のものとなっているが、必ずしも同じである必要はない。負側と正側とで異なる値であっても良い。また、この第1の許容範囲は、十分に広い範囲であって、例えば、各イオンビームの電流密度分布を調整する際の目標分布に対して±10〜15%となるような範囲にしておくことが考えられる。もちろん、各イオンビームでのビーム電流密度分布の調整において、各イオンビームの目標分布とは無関係に設定される許容範囲を、イオンビーム毎に個別に設定しておいても良いし、共通して設定しておいても良い。
【0067】
第1の許容範囲内である場合、ステップ55に進み、nの値が1つ増やされる。反対に、測定分布と目標分布との差が第1の許容範囲を超える場合には、ステップ54にて、第1の許容範囲に入るように測定されたビーム電流密度分布(InM)の調整が行われる。調整の結果、適切なビーム電流密度分布の値(InA)に変更されると、ステップ55にて、nの値が1つ増やされる。
【0068】
ステップ56では、次に調整対象とされるイオンビームが最後に調整されるイオンビームかどうかの確認がなされる。次に調整対象とされるイオンビームが最後に調整されるイオンビームでない場合、ステップ52に戻り、次に調整対象とされるイオンビームのビーム電流密度分布の測定が行われる。
【0069】
一方、次に調整対象とされるイオンビームが最後に調整されるイオンビームであった場合、ステップ57に進み、それまでにビーム電流密度分布の調整がなされたイオンビームについての各種データの合計値が算出される。
【0070】
算出される合計値の種類としては、3種類ある。1つは1本目からm−1本目までのイオンビームの内、ステップ53を満たすイオンビームについて、ビーム電流密度分布の測定結果を足し合わせたもの(Isum_m-1M)であって、もう一つは1本目からm−1本目までのイオンビームの内、ステップ54で処理されるイオンビームについて、ビーム電流密度分布の調整結果を足し合わせたもの(Isum_m-1A)である。そして、残りの1つは、1本目からm本目までのイオンビーム(全てのイオンビーム)に対して個々に設定されているビーム電流密度分布の目標分布を足し合わせたもの(Isum_m)である。なお、Isum_mについては、ステップ50で各イオンビームに対しての目標分布を設定する際に、前もって算出されている値であることから、ここで改めて各イオンビームに対する目標分布を足し合わせる操作をする必要はない。例えば、Isum_mの値が既に制御装置25にメモリーされているのであれば、その値を読み出せば良い。
【0071】
図6には、図1に記載の第1〜第3のイオンビームに対するビーム電流密度分布の一例が示されている。例えば、ここで第1のイオンビームはステップ53を経てビーム電流密度分布の調整がなされたものとし、第2、第3のイオンビームはステップ54を経てビーム電流密度分布の調整がなされたものとする。また、図1に記載の第1〜4のイオンビームの各々の目標分布を共にαとし、最終的に、ガラス基板の全面に渡って、4αの均一な注入分布が形成されるものとする。
【0072】
このような場合、先に挙げたIsum_m-1Mは第1のイオンビームの電流密度分布となり、Isum_m-1Aは第2と第3のイオンビームの電流密度分布を足し合わせたものとなる。そして、Isum_mは4αとなる。
【0073】
ステップ58にて、m本目(最後)のイオンビームに対して、調整目標とするビーム電流密度分布(Im)を再設定する。具体例として、図6に示される第1〜第3のイオンビームのビーム電流密度分布を基にして、第4のイオンビーム46に対する目標分布を再設定する手法を説明する。
【0074】
図6に記載の第1〜第3のイオンビームに対するビーム電流密度分布をそれぞれ(A)〜(C)とする。図7には、この(A)〜(C)が足し合わされたビーム電流密度分布の様子が示されている。図7中、4α−((A)+(B)+(C))の領域はハッチングされており、この領域は4本目(最後)のイオンビームの電流密度分布を足し合わせることによって埋められるべき領域を表している。
【0075】
図8には、図7のハッチング領域を満たす為のビーム電流密度分布(D)が一点鎖線で示されている。参考までに(A)+(B)+(C)−3αの電流密度分布を実線で示しておく。この実線で示された(A)+(B)+(C)−3αと(D)とを足し合わせたビーム電流密度分布がαとなる。このようにして、最終目標とするビーム電流密度分布(ここでは、4α)と最後のイオンビームを除く1本目からm−1本目までのイオンビームの電流密度分布の総和(ここでは、(A)+(B)+(C))との差に基づいて、第4のイオンビーム46の新たな目標分布である(D)の算出が行われる。なお、O1とO2との間からはみ出している領域(ガラス基板に照射されない領域)において、新たな目標分布(D)は必ずしも図8に示すような分布である必要はない。
【0076】
最後に、ステップ59で、最後のイオンビームに対するビーム電流密度分布の調整が行われる。ここでの調整は、最後のイオンビームに対するビーム電流密度分布の値をImAとした時、ImA+Isum_m-1M +Isum_m-1A−Isum_mが第2の許容範囲(-ε2〜+ε2)内に収まるように調整される。なお、Isum_m-1M +Isum_m-1A−Isum_mは、m本目のイオンビームに対して設定される新たな目標分布を負にした値となるので、結局は、最後に調整されるイオンビームのビーム電流密度分布(ImA)が新たな目標分布に対して第2の許容範囲(-ε2〜+ε2)内に収まるように調整されていれば良い。
【0077】
ここで、第2の許容範囲(-ε2〜+ε2)は、ガラス基板の全面に渡って注入される所定のイオン注入量の分布に対して設定されている許容範囲とガラス基板の搬送速度に基づいて決定されるようにしても良い。このようにして第2の許容範囲を決定すると、所定の注入量分布の許容範囲内での注入が可能となる。一方で、これとは別に第2の許容範囲として予め適当な値を設けておいても良い。例えば、±1%〜3%とする。そして、最後のイオンビームのビーム電流密度分布を重ね合わせた際、全体のビーム電流密度分布が目標分布に対して、±1%〜3%の範囲内に収まるように、最後のイオンビームのビーム電流密度分布を調整するように構成しても良い。また、第1の許容範囲と同様に、第2の許容範囲の上限と下限を同一の値にする必要はない。負側と正側とで異なる値であっても良い。
【0078】
上記したように、ステップ58の時点で、最後のイオンビームを調整する際の目標とするビーム電流密度分布は、ステップ50で設定されたものから、新たな目標分布に変更される。本発明では、新たな目標分布を用いて、最後のイオンビームのビーム電流密度分布を調整する構成としているので、最終的に、それまでのイオンビームのビーム電流密度分布の調整時に生じた調整結果と目標分布とのズレ量を補償することが出来る。それによって、ガラス基板上に所定の注入量分布を達成することが出来る。
【0079】
さらに、上記したように、先のイオンビームのビーム電流密度分布の調整時に生じた調整結果と目標分布とのズレ量を、最終のイオンビームでのビーム電流密度分布の調整時に補償する構成としている為に、途中のイオンビーム(1本目からm−1本目)におけるビーム電流密度分布の調整を粗く済ませることが出来る。例えば、途中のイオンビーム(1本目からm−1本目)におけるビーム電流密度分布の調整を行うに当たっての第1の許容範囲を、先に述べた粗調整のみで行える程度、広い範囲に設定しておく。このように構成しておくと、各イオンビームに対して粗調整と微調整の両方をやる場合に比べて、全てのイオンビームのビーム電流密度分布を調整するのに要する全体の調整時間を短縮させることが出来る。
【0080】
本発明に係る一実施例では、上記説明したような手法を用いることで、各イオンビームにおけるビーム電流密度分布を効率的に調整することを可能にしている。
【0081】
図9および図10には、本発明の他の実施例にかかるフローチャートが示されている。このフローチャートには、図5に示されているフローチャートと比較して、一部のフローが追加されている。図5で説明したものと同じ処理が施される場合、そのステップの番号を同一のものとしている。以下、図9および図10で追加されたフローについての説明を行い、図5のフローチャートと説明が重複する処理については、その説明を割愛する。
【0082】
図9に示される処理の開始からステップ54までは、図5と同じフローとなる。ステップ53あるいはステップ54を経た後、図9のフローチャートでは、ステップ60にて、調整対象とするイオンビームが2本目以降のイオンビームであるかどうかの判定がなされる。仮に、現在調整中のイオンビームが1本目のイオンビームであれば、ステップ55にてnの値が1つ増やされ、その後、ステップ52の処理が行われる。
【0083】
2本目以降のイオンビームであった場合、図5のフローチャートでステップ57として示される処理と同様の処理がなされる。異なる点としては、図5のステップ57では、m本あるイオンビームのうち、m−1本目までのビーム電流密度分布の調整がなされたイオンビームを対象に3種類の合計値についての算出がなされたのに対して、ステップ61では、n本目(ここでのnは、2≦n≦m−1)までのイオンビームを対象として3種類の合計値についての算出がなされている。
【0084】
つまり、ステップ61では、2本目以降のイオンビームに対して、順次、イオンビームの調整を行いながら、その結果を足し合わせるといった処理を行うことになる。この点が先の実施例と大きく異なっている。
【0085】
先の実施例では、m本目(最後)のイオンビームの電流密度分布を調整して、m−1本目までのイオンビームの電流密度分布の調整時に生じた目標分布とのズレ量を補償するというものであったが、調整対象とするイオンビームの本数が多い場合、このような処理ではうまくいかない場合がある。
【0086】
m本目(最後)のイオンビームを除いては、それぞれの目標分布に対して第1の許容範囲(-ε1〜+ε1)内に入るようにビーム電流密度分布の調整がなされる。この第1の許容範囲は、各イオンビームでのビーム電流密度分布の調整を手早く終わらせる為に、広めに設定されている。例えば、先に述べたように各イオンビームの電流密度分布を調整する際の目標分布に対して±10〜15%となるような範囲に設定されている。その為、この許容範囲を満たすようにビーム電流密度分布の調整がなされた場合、広めに設定されている分、目標分布から少しずれた分布となっている可能性が高い。
【0087】
例えば、個々のイオンビームでのビーム電流密度分布が、いずれも個々に設定された目標分布を上回るような分布である場合、調整対象とするイオンビームの本数が増えるほど、個々のイオンビームによる目標分布からのズレ量を足し合わせた値は大きくなる。この様な場合、足し合わされたズレ量によって、最後のイオンビームでのビーム電流密度分布を調整する前に、全てのイオンビームを重ね合わせることによって達成されるビーム電流密度分布の最終目標を上回ってしまうことが考えられる。そうなると、最後のイオンビームで、それまでのイオンビームの電流密度分布を調整する際に生じた目標分布とのズレ量を補償するといった操作が出来なくなる。
【0088】
反対に、個々のイオンビームでのビーム電流密度分布が、いずれも個々に設定された目標分布を下回るような分布である場合には、最後のイオンビームのビーム電流密度分布が可能な限り大きなものとなるように調整されたとしても、全てのイオンビームのビーム電流密度分布を足し合わせた結果が目標とする分布には届かない場合が考えられる。そうなると、ガラス基板上に所定のイオン注入量の分布を達成させることが出来なくなる。
【0089】
上記した問題点を考慮して、図10のステップ62にて、第3の許容範囲(-ε3〜+ε3)を用いた判定がなされている。この実施例において、第3の許容範囲(-ε3〜+ε3)は、第1の許容範囲(-ε1〜+ε1)よりも大きい範囲である。例えば、第1の許容範囲の50%増しとなる範囲を第3の許容範囲としても良い。また、第1、第2の許容範囲と同じく第3の許容範囲の上限と下限の値が同一のものとなっているが、必ずしも同じである必要はない。負側と正側とで異なる値であっても良い。このような範囲設定を設けることで、目標分布からのズレ量の足し合わせに制限を加えることが出来るので、調整対象とされるイオンビームの本数が増えたとしても、最終的に、ガラス基板上に所定の注入量分布を達成することが可能となる。
【0090】
なお、第3の許容範囲の上限、下限については、例えば、次のように設定しておいても良い。n(nは整数で、2≦n≦m−1)本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を調整している場合、上限をn+1本目のイオンビームに対する目標分布(In+1)にしておく。このようにして上限側を決めておけば、複数本のイオンビームの電流密度分布を順番に調整していく際、目標分布とのズレ量が足し合わされたとしても、その足し合わされた量が、次に調整対象とするイオンビームの目標分布を超えることがなくなる。その為、最後のイオンビームでのビーム電流密度分布を調整する前に、全てのイオンビームを重ね合わせることによって達成されるビーム電流密度分布の最終目標を上回ってしまうことを防止することが出来る。
【0091】
一方、下限については、n+1本目のイオンビームを供給するイオンビーム供給装置に設けられたビーム電流密度分布調整部材による調整可能な範囲の最大値をAx、n+1本目のイオンビームに対する目標分布をIn+1とした時、-Ax+In+1を下回らないようにしておく。このようにして下限側を決めておけば、次に調整対象とするイオンビームのビーム電流密度分布を調整する際に、問題なく目標とするビーム電流密度分布を達成させることが出来る。その為、最後のイオンビームのビーム電流密度分布が可能な限り大きなものとなるように調整されたとしても、全てのイオンビームの電流密度分布を足し合わせた結果が目標とする分布に届かないといった問題が発生することがなくなる。
【0092】
ステップ62に示す等式を満たす場合、図5のフローチャートと同様に、ステップ55、56、64、58の処理が順になされて、全てのイオンビームについてのビーム電流密度分布の調整が終了する。なお、図5のフローチャートに記載のステップ57が、図10ではステップ64に置き換わっているのは、図9のステップ60にて既にIsum_m-1M + Isum_m-1A - Isum_m-1が算出されているからである。なお、図5でも説明したが、Isum_mについては、ステップ50で各イオンビームに対しての目標分布を設定する際に、前もって算出されている値であることから、ここで改めて各イオンビームに対する目標分布を足し合わせる操作をする必要はない。例えば、Isum_mの値が既に制御装置25にメモリーされているのであれば、その値を読み出せば良い。
【0093】
ステップ62に示す等式を満たさない場合、ステップ63にて、ステップ62の等式を満たすように、現在調整対象としているイオンビームのビーム電流密度分布が再調整される。なお、ここで再調整と述べているのは、現在調整対象としているイオンビームは、先のステップ53あるいはステップ54を経る際に、既に一度調整されているからである。また、ステップ53ではステップ52の測定結果が第1の許容範囲(-ε1〜+ε1)内にあるかどうかを見ているだけであるから、当該ステップを経てもビーム電流密度分布の調整はなされていないと言われるかもしれないが、実はそうではない。この点、誤解のないよう、ここで説明しておく。ステップ52での測定に先立ち、イオン源を運転させてイオンビームを処理室内に供給する際、先に述べたとおり、所定の電流量の電流をフィラメントに流している。この操作によって得られたビーム電流密度分布は所定の値に調整されていることになるので、ステップ54を経ずともステップ53(正確には、ステップ52の前に行われるイオン源の運転)を経た時点で、ビーム電流密度分布は一度調整されているものとしている。この調整に関する考え方は、図5に示すフローチャートで説明した実施例や後述するさらなる実施例においても同様に適用される。
【0094】
ステップ63で現在調整対象とするイオンビームの電流密度分布を再調整した後は、ステップ55、56、64、58、59の処理が順になされて、ビーム電流密度分布の調整が終了する。
【0095】
このようにして、1本目からm−1本目までのイオンビームのビーム電流密度分布の調整結果と目標分布とのズレ量に制限を加えるような第3の許容範囲を用いて、順次、イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を判定しているので、調整対象とするイオンビームの本数が多くなったとしても、先の実施例同様に各イオンビームに対して効率の良いビーム電流密度分布の調整が出来るとともに、問題なくガラス基板上に所定の注入量分布を実現することが出来る。
【0096】
図11および図12には、本発明のさらなる実施例に係るフローチャートが示されている。このフローチャートは、図9と図10に示されているフローチャートと比較して、ステップ60の分岐処理とそれに続くステップ55の処理が削除されている。その為、1本目のイオンビームから図11に示すステップ61の処理が順次なされることになる。また、先の実施例では、ステップ62でのnは2以上としていたが、この実施例においてはnは1以上となる。その他のステップにおいては、図9、図10に示すフローチャートと同じ処理となるので、個々の処理についての説明は割愛する。
【0097】
この実施例においては、第1の許容範囲と第3の許容範囲との大小関係は、いずれが大きくても構わない。先の例では、第3の許容範囲の方が第1の許容範囲よりも大きいとしたが、この例においては、その逆であっても良いし、第1の許容範囲と第3の許容範囲とを同一にしても良い。もちろん、先の例と同じく、第3の許容範囲の方が第1の許容範囲よりも大きい範囲に設定しておいても良い。
【0098】
ただし、全体の処理時間という点では、第3の許容範囲の方が第1の許容範囲よりも大きい範囲に設定しておくことが望ましい。これは、ステップ53やステップ54の処理で第1の許容範囲内を満たすようにイオンビームのビーム電流密度分布を調整したとしても、第1の許容範囲が第3の許容範囲よりも大きいと、後に続くステップ62に示される等式を満たさなくなる可能性がある。そうなった場合、ステップ63にて、第3の許容範囲内に入るように、ビーム電流密度分布の再度の調整が必要となる可能性が高くなってしまい、その結果、調整対象とするイオンビームの本数が増えるほど、全体の調整に要する処理時間がかかってしまう可能性が生じる為である。
【0099】
しかしながら、処理時間が多少かかってしまう可能性はあるものの、図11、図12に記載のフローチャートで示される実施例の手法を用いても、図9、図10のフローチャートで示される実施例と同様に、調整対象とするイオンビームの本数が増えた場合における各イオンビームに対するビーム電流密度分布の調整を問題なく行うことが出来る。
【0100】
<その他の変形例>
図1において、ガラス基板10の処理室内での搬送方向を矢印Aとして描いたが、これに限定される必要はない。例えば、より多くのイオンをガラス基板10へ注入させる為に、ガラス基板10を処理室11内で何度も往復搬送させるようにしても良い。この場合、ガラス基板10は矢印Aとその反対方向に搬送されることになる。
【0101】
また、第1、第2の真空予備室22、23をそれぞれ複数に増やしても良い。この場合、ゲートバルブ18と19もそれぞれの真空予備室に対応させる為に複数設けておく。このようにすると、複数の第1の真空予備室内や複数の第2の真空予備室内での圧力調整を別々に行うことが出来るようになる為、一方の真空予備室内の圧力調整している間に、圧力調整済みの別の真空予備室を利用してガラス基板の搬入、搬出を行うことが出来る。このような構成を利用すれば、ガラス基板の処理枚数を増加させることが出来る。
【0102】
さらに、第1の真空予備室22と第2の真空予備室23とを、基板の搬送方向において対にしておいて、それらをZ方向に沿って複数組設けておく。また、各真空予備室組をガラス基板10が個別に搬送されるように、ガラス基板の搬送機構をZ方向に沿って複数用意しておく。その上で、それぞれの搬送機構を同期させ、Z方向に離間してX方向に沿って搬送される複数のガラス基板が各イオンビームを途切れなく横切るように搬送させることも考えられる。このようにすると、複数のガラス基板を連続処理出来るようになるので、ガラス基板の処理枚数を更に増加させることが出来る。なお、この場合、ガラス基板10の搬入出を行う真空予備室を、第1の真空予備室22とするか第2の真空予備室23とするかは、真空予備室の組毎に個別に設定すれば良い。
【0103】
その上、図1には処理室11が単一の部屋として描かれているが、この処理室を各イオンビーム供給装置に対応させて、複数に分割して設けておいても良い。また、この場合、各処理室の間に、処理室間を区切る為のゲートバルブを設けておいても良い。そして、ゲートバルブは、ガラス基板11の搬送に応じて、開閉されるものとする。
【0104】
上記した実施例では、Y方向においてガラス基板10よりも長い寸法を有する4本のイオンビームを用いたイオン注入処理を例に挙げて説明しているが、イオンビームの本数はこれに限られない。イオンビームの本数としては2本以上であれば良い。さらに、本発明の従来技術として挙げた特許文献1の図3に記載されているように、各イオンビームの長辺方向の位置を互いにずらして配置するようにしても良い。このようなものであっても、ガラス基板10上での各イオンビームによる照射領域を重ね合わせてイオン注入を行うものであれば、本発明は当然ながら適用されることは言うまでもない。
【0105】
また、上記した実施例において、ビーム電流密度分布調整部材として、マルチフィラメントを有するイオン源について述べたが、これに代えて、別のものを使用しても良い。
【0106】
具体的には、マルチフィラメントタイプのイオン源の代わりに、イオンビームを供給する為の供給経路(ビームライン)に、Y方向に沿って異なる電位分布や磁場分布を形成させる電界レンズや磁界レンズを配置しておく。なお、この場合、イオン源はマルチフィラメントタイプのものでなくても良い。
【0107】
電界レンズについてはイオンビームをその短辺方向から挟むようにして一組の電極を設けておき、それがY方向に沿って複数組あるような構成のものが考えられる。そして、ビームプロファイラーでのビーム電流密度分布の測定結果に応じて、各組へ印加する電圧を異ならせ、電極組間に電位差を発生させる。そうすると、Y方向に配置された各電極組間を通過するイオンビームは電極組間の電位差に応じてY方向に沿って局所的に移動させられるようになるので、Y方向におけるイオンビームの電流密度分布を所定の目標分布に近づけるように調整することが出来る。
【0108】
また、磁界レンズはイオンビームをその短辺方向から挟むようにして一組の磁極を設けておき、それがY方向に沿って複数組あるような構成のものが考えられる。そして、各磁極組に対して巻回されたコイルに流す電流量およびその向きは、磁極組毎に独立して調整可能にしておく。その上で、ビームプロファイラーでの測定結果に応じて、各磁極組に巻回されたコイルに流す電流を独立に調整する。そうすると、各磁極組を構成する一組の磁極の間を通過するイオンビームは各磁極組で発生される磁界の大きさおよび向きに応じて、Y方向に沿って局所的に移動させられるようになるので、Y方向におけるイオンビームのビーム電流密度分布を所定の目標分布に近づけように調整することが出来る。
【0109】
なお、上記した電界レンズ、磁界レンズを用いた場合、ビームプロファイラーでの測定結果に応じて、局所的に電界、磁界を調整することになるが、考え方としてはマルチフィラメントタイプのイオン源を用いた電流密度分布の調整手法として説明したものと同じように考えることが出来る。つまり、ビームプロファイラーの所定領域(ビームプロファイラーとして複数のファラデーカップを用いる場合には、ファラデーカップの数で所定領域を特定しても良い)と、所定数の電極組もしくは磁極組とを対応させておけば良い。このような電界レンズ、磁界レンズにおける調整粗さを切り替える手法(例えば、目標分布からのズレ量に応じて、電極組に印加する電圧やコイルに流す電流量の調整刻みを粗いものから細かいものに切り替えるといった手法)を用いることで、先に説明したマルチフィラメントを有するイオン源のようにビーム電流密度分布の粗い調整、細かい調整の2種類の調整を行うことが出来る。また、イオン源の運転の開始にあたっての処理も、各電極組間での電位差を所定のものに設定したり、各コイルに流す電流量や向きを所定のものに設定したりして、マルチフィラメントのイオン源の場合と同様にすればよい。
【0110】
また、これまでの実施例では、ガラス基板の全面に渡って均一なイオン注入量分布を実現する例について述べてきたが、例えば公知技術である特開2005−235682号公報の図9に記載のごとく、ガラス基板の搬送方向に沿って注入量の分布を異ならせておいても良い。そのような注入量分布であったとしても、イオンビームの重ね合わせによって所定の注入量分布を実現する場合には、本発明が適用できる。
【0111】
その上、本発明の実施例では、ガラス基板の搬送速度を一定として説明してきたが、この搬送速度は可変にしても良い。例えば、イオンビーム毎にガラス基板の搬送速度を変更しても良いし、イオンビームをガラス基板が横断中にその搬送速度を特定の関数に従って可変にしても良い。また、公知の技術として知られているようにマルチフィラメントに流す電流を調整したり、電界レンズに電極に印加する電圧を調整したり、磁界レンズのコイルに流す電流を調整したりして、イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布が、任意の不均一な分布となるように調整されていても構わない。イオンビームのガラス基板上での照射領域を重ね合わせて、ガラス基板上に所定の注入量分布を実現させる際のビーム電流密度分布の調整に係る本発明の要旨を逸脱しない範囲において、ガラス基板の搬送速度や電流密度分布がどのようなものであっても良いのはもちろんである。
【0112】
そして、前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0113】
1.イオン注入装置
2.第1のイオンビーム供給装置
6.第1のイオンビーム
10.ガラス基板
12.第2のイオンビーム供給装置
16.第2のイオンビーム
25.制御装置
32.第3のイオンビーム供給装置
36.第3のイオンビーム
42.第4のイオンビーム供給装置
46.第4のイオンビーム
7、17、37、47.ビームプロファイラー
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のリボン状イオンビームによる照射領域を重ね合わせて、ガラス基板上に所定の注入量分布を形成させるイオン注入装置および当該イオン注入装置で用いられるビーム電流密度分布の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビに代表される液晶製品の大型化が著しい。半導体製造工程においては、1つの処理工程でより多くの液晶パネルを処理する為に、ガラス基板の寸法を大きくし、大型のガラス基板から液晶パネルを多面取りしようという試みがなされている。半導体製造装置の一つであるイオン注入装置についても、このような大型のガラス基板への対応が求められている。
【0003】
このような要望に対応すべく、これまでに特許文献1に記載のイオン注入装置が開発されてきた。
【0004】
特許文献1には、ガラス基板の寸法よりも小さい2本のイオンビームを用いて、ガラス基板の全面にイオン注入処理を施す技術が開示されている。より具体的には、特許文献1では、一例として、互いに直交する3方向(X、Y、Z方向)のそれぞれを、イオンビームの短辺方向、イオンビームの長辺方向、イオンビームの進行方向として定義されている。2本のイオンビームは、X方向において互いに離間した位置に、Y方向においてガラス基板上での各イオンビームによる照射領域が部分的に重なるように互いの中心位置をずらして、ガラス基板へのイオン注入処理が施される処理室内に照射されている。そして、このようなイオンビームを横切るように、X方向に沿ってガラス基板を搬送させることで、ガラス基板全面に渡ってのイオン注入処理を実現させている。
【0005】
特許文献1に記載の技術は、ガラス基板の搬送速度が一定である。そして、ガラス基板の全面に渡って均一な注入量分布を実現することから、ガラス基板上に照射されるイオンビームのビーム電流密度分布は、特許文献1の図6に示されているように2本のイオンビームが重ね合わせされる領域を含めて、Y方向に沿って、全体が略均一なビーム電流密度分布となるように調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−152002号公報(図1、図3、図6、段落0077〜0088)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、イオンビームが重ね合わせされる領域でのビーム電流密度分布の調整は、1本のイオンビームのビーム電流密度分布を調整する場合と比較して、調整対象とされるパラメータの数が多く、複雑である。調整が複雑である場合、調整を闇雲にしていたのであれば、調整が終了するまでにかなりの時間を要してしまう。また、ビーム電流密度分布の調整に時間がかかってしまうと、イオン注入装置のスループット(処理能力)の低下を招いてしまうといった問題も起こり得る。
【0008】
しかしながら、特許文献1において、イオンビームが重ね合わせされる領域でのビーム電流密度分布の調整については、他の領域(重ね合わせされない領域)でのビーム電流密度分布とほぼ等しくなるように調整するといった程度の記載しかなされておらず、具体的にどのように調整を行えば効率の良い調整となるのかについて明らかにされていなかった。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、複数のイオンビームが重ね合わせされる領域において、各イオンビームのビーム電流密度分布を効率的に調整する為の制御装置を備えたイオン注入装置と当該イオン注入装置で用いられるビーム電流密度分布調整方法を提供することを主たる所期課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明に係るイオン注入装置は、m(mは2以上の整数)本のリボン状イオンビームを供給するm個のイオンビーム供給装置と、処理室内に配置され、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を個別に測定するビームプロファイラーと、前記イオンビーム供給装置毎に個別に設けられ、前記ビームプロファイラーで測定された前記ビーム電流密度分布を調整するためのビーム電流密度分布調整部材と、前記処理室内で、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向と交差させるようにガラス基板を搬送させるガラス基板搬送機構と、前記ビーム電流密度分布調整部材を制御し、前記ガラス基板搬送機構によって搬送される前記ガラス基板上に、前記m本のリボン状イオンビームによる照射領域を少なくとも部分的に重ね合わせて、予め決められた所定の注入量分布を実現する制御装置と、を備えたイオン注入装置であって、前記制御装置は、前記m本のリボン状イオンビームに対して前記ビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を個別に設定する機能と、予め決められた順番従って、個々のリボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布に対して第1の許容範囲内に入るようにm−1本目までの前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を制御する機能と、m−1本目までの前記リボン状イオンビームの調整済みビーム電流密度分布を合算したビーム電流密度分布とm本目までの前記リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差に応じて、m本目の前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、新たな目標分布に対して、前記第1の許容範囲よりも小さい第2の許容範囲内に入るように、前記m本目のビーム電流密度分布を制御する機能と、を備えた装置である、ことを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係るビーム電流密度分布調整方法は、m(mは2以上の整数)本のリボン状イオンビームを供給するm個のイオンビーム供給装置と、処理室内に配置され、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を個別に測定するビームプロファイラーと、前記イオンビーム供給装置毎に個別に設けられ、前記ビームプロファイラーで測定された前記ビーム電流密度分布を調整するためのビーム電流密度分布調整部材と、前記処理室内で、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向と交差させるようにガラス基板を搬送させるガラス基板搬送機構と、を備えたイオン注入装置において、前記ビーム電流密度分布調整部材を用いて、前記ガラス基板搬送機構によって搬送される前記ガラス基板上に、前記m本のリボン状イオンビームによる照射領域を少なくとも部分的に重ね合わせて、予め決められた所定の注入量分布を実現するために、各イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する方法であって、前記m本のリボン状イオンビームに対して前記ビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を個別に設定する工程と、予め決められた順番従って、個々のリボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布に対して第1の許容範囲内に入るようにm−1本目までの前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する工程と、m−1本目までの前記リボン状イオンビームの調整済みビーム電流密度分布を合算したビーム電流密度分布とm本目までの前記リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差に応じて、m本目の前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、新たな目標分布に対して、前記第1の許容範囲よりも小さい第2の許容範囲内に入るように、前記m本目のビーム電流密度分布を調整する工程と、を有していることを特徴としている。
【0012】
このようなものであれば、複数のイオンビームが重ね合わせされる領域において、各イオンビームのビーム電流密度分布を効率的に調整することが出来る。
【0013】
例えば、前記イオン注入装置において、前記制御装置は、n(nは整数、2≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各ビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、前記第1の許容範囲よりも広い第3の許容範囲内であるかどうかを判定する機能と、前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する機能と、を更に備えた装置であっても良い。
【0014】
一方、前記イオン注入装置において、前記制御装置は、n(nは整数、1≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各リボン状イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、第3の許容範囲内であるかどうかを判定する機能と、前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する機能と、を更に備えた装置であっても良い。
【0015】
また、前記ビーム電流密度分布調整方法は、n(nは整数、2≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各ビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、前記第1の許容範囲よりも広い第3の許容範囲内であるかどうかを判定する工程と、前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する工程と、を更に有していても良い。
【0016】
一方、前記ビーム電流密度分布調整方法は、n(nは整数、1≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各リボン状イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、第3の許容範囲内であるかどうかを判定する工程と、前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する工程と、を更に有していても良い。
【0017】
上記した構成を有するイオン注入装置やビーム電流密度分布調整方法であれば、たとえイオンビームの本数が増加したとしても、m本目のイオンビームのビーム電流密度分布の調整時に、1本目からm−1本目までのイオンビームに対して行われたビーム電流密度分布の調整時に生じた目標分布とのズレ量を問題なく補償することが出来る。
【発明の効果】
【0018】
このようなものであれば、複数のイオンビームが重ね合わせされる領域において、各イオンビームのビーム電流密度分布を効率的に調整することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例に係るイオン注入装置を示す平面図である。
【図2】図1の処理室内部をZ方向から見た時の平面図である。
【図3】本発明の一実施例に係るビーム電流密度分布の粗調整についての説明図である。
【図4】本発明の一実施例に係るビーム電流密度分布の微調整についての説明図である。
【図5】本発明の一実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートである。
【図6】図1に記載の第1〜第3のイオンビームにおけるビーム電流密度分布の一例である。
【図7】図6に記載の第1〜第3のイオンビームのビーム電流密度分布を足し合わせた様子を示す。
【図8】図1に記載の第4のイオンビームにおけるビーム電流密度分布の一例を示す。
【図9】本発明の他の実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートで、図10のフローチャートに記載のAに続く。
【図10】本発明の他の実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートで、図9のフローチャートに記載のAからの続きである。
【図11】本発明のさらなる実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートで、図12のフローチャートに記載のAに続く。
【図12】本発明のさらなる実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法に関するフローチャートで、図11のフローチャートに記載のAからの続きである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明に係るイオン注入装置1の一実施例を示す平面図であり、図2は図1の処理室内部をZ方向から見た時の平面図である。これらの図面を基に本発明の一実施例に係るイオン注入装置の全体の構成を説明する。
【0021】
この発明において、X方向を基板の搬送方向、Y方向をイオンビームの長辺方向、Z方向を処理室内でガラス基板に照射されるイオンビームの進行方向とし、これらの方向は互いに直交している。また、この発明において、リボン状イオンビームとは、イオンビームの進行方向に直交する平面でイオンビームを切った場合に、その断面が略長方形状であるイオンビームのことを指している。
【0022】
図1に記載のイオン注入装置1は、主に処理室11と一点鎖線によって囲まれた第1のイオンビーム供給装置2、第2のイオンビーム供給装置12、第3のイオンビーム供給装置32および第4のイオンビーム供給装置42から構成されている。第1〜第4のイオンビーム供給装置は、それぞれ第1のイオンビーム6、第2のイオンビーム16、第3のイオンビーム36および第4のイオンビーム46を処理室11内に供給する為の装置である。
【0023】
イオンビーム供給装置について簡単に説明する。第1〜第4のイオンビーム供給装置を構成するイオン源(3、13、33、43)、質量分析マグネット(4、14、34、44)および分析スリット(5、15、35、45)は、それぞれ同じ性能の供給装置であっても構わないし、異なる性能の供給装置であっても良い。ここでは、第1のイオンビーム供給装置2の構成を代表として説明し、他の供給装置についての説明は、重複する為、これを省略する。
【0024】
第1のイオンビーム供給装置2は、イオン源3を備えており、このイオン源3より第1のイオンビーム6が引出される。イオン源3より引出された第1のイオンビーム6には様々なイオンが混在している。この内、所望のイオンのみをガラス基板10へ照射させる為に、質量分析マグネット4と分析スリット5とを協働させ、所望のイオンとその他のイオンとの分離を行う。この分離は、イオン毎の質量数の違いを利用して、分析スリット5を所望のイオンのみが通過できるように質量分析マグネット4での第1のイオンビームの偏向量を調整することで行われる。
【0025】
第1のイオンビーム供給装置2から供給される第1のイオンビーム6は、処理室11内に設けられたビームプロファイラー7によって、長辺方向(Y方向)におけるビーム電流密度分布が測定される。このビームプロファイラーの例としては、公知のファラデーカップをY方向に沿って複数個配列した多点ファラデーやY方向に沿って移動可能な単一のファラデーカップを用いることが考えられる。
【0026】
なお、上記説明ではイオンビーム供給装置として、質量分析マグネットや分析スリットを備える構成の供給装置について説明したが、これらを備えないタイプのイオンビーム供給装置でも良い。
【0027】
一例として、ガラス基板の搬送については次に示すように行われる。
【0028】
第1の真空予備室22の大気側に位置するゲートバルブ20が開けられる。その後、ガラス基板10は大気側に設けられた図示されない搬送ロボットによって第1の真空予備室22内へ搬入される。この際、第1の真空予備室22と処理室11との間に位置するゲートバルブ18は、処理室11側が大気に開放されないように閉められている。
【0029】
ガラス基板10が第1の真空予備室22内に搬入された後、ゲートバルブ20が閉められて、図示されない真空ポンプにより、第1の真空予備室22内が処理室11と同程度の真空度(圧力)となるまで真空排気される。
【0030】
第1の真空予備室22内の真空度が処理室11と同程度となった後、ゲートバルブ18が開けられる。そして、ガラス基板10は、処理室11内へ搬入され、矢印Aとして記載される方向に第1のイオンビーム6、第2のイオンビーム16を横切るように処理室内を搬送される。これによってガラス基板10へのイオン注入処理が達成される。
【0031】
その後、ガラス基板10は、ゲートバルブ19を通過し、第2の真空予備室23内に搬入される。ここで、ゲートバルブ19は、処理室11内でのガラス基板10へのイオン注入処理中、もしくは、イオン注入処理後の適当なタイミングで開放されるものとする。
【0032】
第2の真空予備室23内へのガラス基板10の搬入が完了した後、ゲートバルブ19が閉められる。この際、第2の真空予備室23の大気側に位置するゲートバルブ21は閉められている。そして、第2の真空予備室23を密閉した上で、室内の雰囲気が大気圧と同程度となるまで、図示されない真空ポンプにより第2の真空予備室23の圧力調整がなされる。
【0033】
第2の真空予備室23の室内が大気圧となった後、ゲートバルブ21が開けられて、大気側に設けられた図示されない搬送ロボットによって、ガラス基板10の大気側への搬出が行われる。
【0034】
図2は図1の処理室11内部をZ方向から見た時の平面図である。
【0035】
ガラス基板10の搬送機構の一例としては、図2に示されるようにガラス基板10を保持するホルダー24の下面に車輪を設けておき、この車輪が第1、第2の真空予備室22、23、処理室11内に配置された図示されないレール上を転がることでX方向に沿ってホルダー24を移動させることが可能となる。この場合、モーター等のホルダー24を移動させる為の動力源を、別途、用意しておく。ガラス基板10の往復搬送を考えた場合、動力源がモーターであれば正逆の回転が可能な構成にしておくことが望ましい。
【0036】
Y方向において、第1〜第4のイオンビームはガラス基板10よりも長い寸法を有している。その為、ガラス基板10が図2に示される矢印Aの方向に、第1の真空予備室22から第2の真空予備室23へ搬送された場合、ガラス基板の全面において、各イオンビームによる照射領域は重ね合わせされる。なお、図2中に記載の第1〜第4のイオンビームのそれぞれを取り囲んでいる破線は、各イオンビーム供給装置から処理室11内へイオンビームを供給する為の供給経路(ビームライン)の外形を表している。
【0037】
イオン注入処理において、ガラス基板10上に形成されるイオン注入量の分布とイオンビームの電流密度分布とガラス基板の搬送速度とは、それぞれが密接に関連している。一般的に言えば、イオン注入量(ドーズ量とも言う)は、イオンビームの電流密度(電流量で表すこともある)に比例し、被照射対象物(ここではガラス基板)がイオンビームを横切る際の速度に反比例する。
【0038】
例えば、ガラス基板10の全面に渡って形成されるイオン注入量の分布を略均一な分布とすることを目標とする。ガラス基板10の搬送速度が一定である場合、搬送方向と直交する方向におけるイオンビームのビーム電流密度分布を略均一にすれば、ガラス基板全面に渡ってのイオン注入量の分布も略均一となる。
【0039】
より具体的に説明すると、ガラス基板全面に渡ってイオン注入量の分布を略均一にするには、図2でガラス基板10がイオンビームの短辺方向に沿って一定速度で移動する場合、イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を略均一にしておけば良い。この場合、イオンビームの短辺方向におけるビーム電流密度分布は均一でなくても良い。ガラス基板10の搬送方向と略一致しているイオンビームの短辺方向におけるビーム電流密度分布のムラ(不均一性)は、ガラス基板の搬送に伴って、積分されることになる。その為、たとえムラがあったとしても、イオンビームの短辺方向において、最終的にはある一定量の注入がなされることになるから、イオンビームの短辺方向におけるビーム電流密度の均一性は考慮する必要はない。
【0040】
また、ガラス基板10を搬送させた際に、ガラス基板上に照射されないイオンビームの両端部におけるビーム電流密度分布は、ガラス基板上での注入量分布に無関係である為、どのような分布であっても構わない。
【0041】
なお、図2の例では、イオンビームの長辺方向と直交するようにガラス基板を搬送させているが、ガラス基板を搬送する方向は必ずしも直交に限られない。例えば、略直交する方向にガラス基板を搬送させた場合であっても、ガラス基板上に形成される所定の注入量分布に対して設定された許容範囲内でのイオン注入処理が実現出来るからである。ガラス基板上に形成される注入量分布の許容範囲との兼ね合いで、イオンビームの長辺方向に対してどの程度傾けた搬送が許容されるのかが決定されることになる。このことを考慮し、本発明では、ガラス基板の搬送方向をイオンビームの長辺方向と交差する方向としている。
【0042】
次に、上述したビーム電流密度の調整方法について説明する。
【0043】
各イオンビーム供給装置におけるビーム電流密度分布の調整は、例えば、公知技術として知られているようなマルチフィラメントを有するイオン源を用いて、フィラメントに流す電流量を増減させる。
【0044】
具体的には、図1に示されるイオンビーム供給装置のイオン源をY方向に沿って複数のフィラメントが配列されたマルチフィラメントタイプのイオン源にしておく。その上で、ビームプロファイラーによるY方向におけるイオンビームの測定領域と、各イオン源に設けられたフィラメントとを対応させておく。
【0045】
ここでの対応とは、例えば、ビームプロファイラーが16個のファラデーカップで構成されているとした場合、ビームプロファイラーをファラデーカップ4個で構成される4つの領域に分けるとともに、各領域に対してフィラメント1本(各イオン源において、フィラメントは全部でY方向に沿って4本ある。)を対応させておくといったことを意味する。
【0046】
図3、4には、上記対応関係のフィラメントとファラデーカップが示されている。図の縦軸はビーム電流密度を表し、横軸はY方向であって、O1とO2との間の寸法はガラス基板の寸法と一致しており、原点OはY方向におけるイオンビームの一端部と一致している。縦軸、横軸についての設定は、後述する図6〜8においても同様である。そして、このような構成において、ビーム電流密度分布の調整は粗調整と微調整といったように2段階に分けて行われている。
【0047】
ビーム電流密度分布の調整を行うに当たっては、調整目標とする分布(均一な分布の場合は、値)とその分布を中心にして所定の許容範囲(2ε)が設けられているので、その許容範囲内に収まるように各領域に対応するフィラメントに流す電流量を増減させる。
【0048】
例えば、各フィラメントに流す電流量を一律に増やした場合、図3中のビーム電流密度分布Dはビーム電流密度が増す方向に平行移動する。反対に、各フィラメントに流す電流量を一律に減らした場合、図3中のビーム電流密度分布Dはビーム電流密度が減る方向に平行移動する。
【0049】
図3に示される目標分布は、均一な分布である。例えば、現在のビーム電流密度分布(D)をY方向において平均化しておき、平均化したビーム電流密度分布を目標分布とおおよそで一致させるように、各フィラメントに流す電流量を一律に増やす操作を行う。その結果、D1で示されるような分布になったとする。その場合、D1は目標分布に対しての許容範囲内にあるので、これでビーム電流密度分布の調整が終了する。
【0050】
上記したように各フィラメントに流す電流量を一律に増減させて、ビーム電流密度分布を上げ下げする操作のことを、粗調整と呼んでいる。
【0051】
一方、上記した粗調整を行ったとしても、依然として目標分布に対して設定されている許容範囲内にビーム電流密度分布が収まっていない場合がある。この場合は、許容範囲内に収める為に、粗調整に引き続いて微調整が行われることになる。図4には、その様子が描かれている。
【0052】
図4に示されるビーム電流密度分布は、領域1において許容範囲を上回っており、領域3において許容範囲を下回っている。その為、領域1に対応するフィラメントに流す電流量を減らし、領域3に対応するフィラメントに流す電流量を増やしてやる。この際、フィラメントに流す電流を小さな刻みで変化させたり、連続的に変化させたりしている。こうすることで、全体のビーム電流密度分布を少しずつ目標値に近づける操作を行う。このようにして、各領域でフィラメントに流す電流量を調整するような操作が微調整に相当する。
【0053】
上記したような粗調整、微調整による調整方法以外に次のような調整方法を用いてビーム電流密度分布を調整するようにしても良い。
【0054】
ビーム電流密度分布を調整する際、ビームプロファイラーでビーム電流密度分布をモニターしながらフィラメントに流す電流量を調整する。目標とする分布と実測された分布とのズレ量が大きい場合、フィラメントに流す電流量を小刻みに変化させたり、連続的に変化させたりするのでは調整に時間がかかってしまう。その為、このような場合には、ある程度の大きな刻みで変化させるようにする。このようにして、目標とする分布と実測された分布とのズレ量に応じて、フィラメントに流す電流量の刻みを変化させて、調整の程度(細かい調整とするか、粗い調整とするか)を使い分けることが考えられる。
【0055】
目標とする分布に対して設定されている許容範囲が広い時は、ビーム電流密度分布全体を上下させる粗調整やフィラメントに流す電流量を大きな刻みで切り換えていくような粗い調整方法のみでビーム電流密度分布の調整を終了させることが出来る。反対に、許容範囲が狭い時は、粗調整に引き続いて微調整を行ったり、小刻みにフィラメントに流す電流量を調整したりする等して、更なる調整が必要となる。このような追加の調整を伴う場合、ビーム電流密度分布の調整に時間を要することになる。そこで、本発明では、複数本のイオンビームに対してビーム電流密度分布の調整を行う際に、出来るだけ調整に時間を要する微調整を用いないで済むような構成としている。
【0056】
以下、本発明におけるビーム電流密度分布調整方法の一実施例について詳述する。
【0057】
図5は本発明の一実施例に係るビーム電流密度分布の調整方法を示すフローチャートであって、このフローチャートに示す処理は図1に記載の制御装置25によって行われている。また、この実施例において、イオン注入装置で取り扱われるイオンビームの本数をm本(mは2以上の整数)としている。
【0058】
まず、ステップ50で、m本のイオンビームに対して個別に目標とするビーム電流密度分布(I1、I2・・・Im)の設定がなされる。より具体的には、図1に示すユーザーインターフェース26を介して、イオン注入装置1のオペレーターがイオン注入条件の設定を行う。この際、設定されたイオン注入条件は制御装置25へ送信される。注入条件としては、イオンビームのエネルギー、注入量分布、ガラス基板へのイオンビームの注入角度、ガラス基板の搬送速度といった様々な条件の設定がなされるが、このうち、本発明では注入量分布とガラス基板の搬送速度に着目している。
【0059】
制御装置25では、ガラス基板10の搬送速度と基板への注入量分布から、各イオンビーム供給装置から供給されるイオンビームに対するビーム電流密度分布の目標分布の設定がなされる。
【0060】
例えば、ガラス基板10の全面に渡って均一なイオン注入処理がなされるとともに、各イオンビームを横切る際のガラス基板の搬送速度が一定であるとする。そうすると、全てのイオンビームを重ね合わせた際のビーム電流密度分布の合計分布は、最終目標とする注入量分布を搬送速度で割ってやることで導き出すことが出来る。そして、イオンビーム供給装置の台数が4台であれば、全体のビーム電流密度分布を各装置で4分の1ずつに分けて分担させるといった具合に、各イオンビームに対するビーム電流密度分布の目標分布を設定しても良い。また、イオンビーム供給装置の性能に違いがある場合には、その性能差に応じて各装置で分担する比率を変更させるといったようにしても良い。このようにして、各イオンビーム供給装置から供給されるイオンビームに対して目標とするビーム電流密度分布の設定がなされる。
【0061】
次にステップ51にて、nの初期値を1に設定する。この実施例において、nは1≦n≦m−1で表される整数で、m本のイオンビームのビーム電流密度分布を順番に調整する際、現在、何番目のイオンビームに対しての電流密度分布の調整を行っているのかを示している。
【0062】
電流密度分布が調整される順番に関しては、その調整前に、例えば、注入装置のオペレーターが選択できるようにしておいてもいい。図1では、第1、第2、第3、第4のイオンビームの順番で、ビーム電流密度分布の調整が行われる。
【0063】
ステップ52では、現在の調整対象とされるn本目のイオンビームのビーム電流密度分布が測定されている。ただし、この測定に先立ってイオン源の運転が開始され何らかのイオンビームが処理室11内に照射されているものとする。
【0064】
イオン源の運転の開始にあたっては、各フィラメントに流す電流量を予め適切な値に設定しておく。イオン源がマルチフィラメントタイプのイオン源であれば、先に設定されたビーム電流密度分布の目標分布に応じて、各フィラメントに流す電流を予め適切な値に設定しておく。その場合、処理室内におけるイオンビームのビーム電流密度分布と各フィラメントに流す電流量との相関を示すデータを制御装置25内に予め蓄積しておく。このデータは、例えば、各フィラメントの電流量を特定の値に設定すると、処理室内に照射されるイオンビームのビーム電流密度分布がある特定の分布となるといったもののことを言う。そして、イオン源の運転にあたって、目標とするビーム電流密度分布の値を基にして、制御装置25に蓄積されたデータから各フィラメントに設定されるべき電流量の値を読み出すようにしておいても良い。このようにしておくと、ビーム電流密度分布の調整がほとんど不要となる。その為、ビーム電流密度分布の調整を手早くに終えることが可能となる。
【0065】
一方で、イオン源の運転開始時に、各フィラメントに対する電流量を同一の値に設定しておくことが考えられる。このような構成にした場合、先の構成と比較して、制御装置25内に蓄積しておくデータ量を減らすことが出来るので、その分だけ、制御装置25のデータ蓄積用のメモリー容量を減らすことが出来る。
【0066】
ステップ53では、ステップ52でのビーム電流密度分布の測定結果を受けて、測定分布(InM)と制御装置25によって設定された目標分布(In)との差を計算し、この差が第1の許容範囲(-ε1〜+ε1)内かどうかの判定がなされる。ここで、第1の許容範囲の上限と下限の値が同一のものとなっているが、必ずしも同じである必要はない。負側と正側とで異なる値であっても良い。また、この第1の許容範囲は、十分に広い範囲であって、例えば、各イオンビームの電流密度分布を調整する際の目標分布に対して±10〜15%となるような範囲にしておくことが考えられる。もちろん、各イオンビームでのビーム電流密度分布の調整において、各イオンビームの目標分布とは無関係に設定される許容範囲を、イオンビーム毎に個別に設定しておいても良いし、共通して設定しておいても良い。
【0067】
第1の許容範囲内である場合、ステップ55に進み、nの値が1つ増やされる。反対に、測定分布と目標分布との差が第1の許容範囲を超える場合には、ステップ54にて、第1の許容範囲に入るように測定されたビーム電流密度分布(InM)の調整が行われる。調整の結果、適切なビーム電流密度分布の値(InA)に変更されると、ステップ55にて、nの値が1つ増やされる。
【0068】
ステップ56では、次に調整対象とされるイオンビームが最後に調整されるイオンビームかどうかの確認がなされる。次に調整対象とされるイオンビームが最後に調整されるイオンビームでない場合、ステップ52に戻り、次に調整対象とされるイオンビームのビーム電流密度分布の測定が行われる。
【0069】
一方、次に調整対象とされるイオンビームが最後に調整されるイオンビームであった場合、ステップ57に進み、それまでにビーム電流密度分布の調整がなされたイオンビームについての各種データの合計値が算出される。
【0070】
算出される合計値の種類としては、3種類ある。1つは1本目からm−1本目までのイオンビームの内、ステップ53を満たすイオンビームについて、ビーム電流密度分布の測定結果を足し合わせたもの(Isum_m-1M)であって、もう一つは1本目からm−1本目までのイオンビームの内、ステップ54で処理されるイオンビームについて、ビーム電流密度分布の調整結果を足し合わせたもの(Isum_m-1A)である。そして、残りの1つは、1本目からm本目までのイオンビーム(全てのイオンビーム)に対して個々に設定されているビーム電流密度分布の目標分布を足し合わせたもの(Isum_m)である。なお、Isum_mについては、ステップ50で各イオンビームに対しての目標分布を設定する際に、前もって算出されている値であることから、ここで改めて各イオンビームに対する目標分布を足し合わせる操作をする必要はない。例えば、Isum_mの値が既に制御装置25にメモリーされているのであれば、その値を読み出せば良い。
【0071】
図6には、図1に記載の第1〜第3のイオンビームに対するビーム電流密度分布の一例が示されている。例えば、ここで第1のイオンビームはステップ53を経てビーム電流密度分布の調整がなされたものとし、第2、第3のイオンビームはステップ54を経てビーム電流密度分布の調整がなされたものとする。また、図1に記載の第1〜4のイオンビームの各々の目標分布を共にαとし、最終的に、ガラス基板の全面に渡って、4αの均一な注入分布が形成されるものとする。
【0072】
このような場合、先に挙げたIsum_m-1Mは第1のイオンビームの電流密度分布となり、Isum_m-1Aは第2と第3のイオンビームの電流密度分布を足し合わせたものとなる。そして、Isum_mは4αとなる。
【0073】
ステップ58にて、m本目(最後)のイオンビームに対して、調整目標とするビーム電流密度分布(Im)を再設定する。具体例として、図6に示される第1〜第3のイオンビームのビーム電流密度分布を基にして、第4のイオンビーム46に対する目標分布を再設定する手法を説明する。
【0074】
図6に記載の第1〜第3のイオンビームに対するビーム電流密度分布をそれぞれ(A)〜(C)とする。図7には、この(A)〜(C)が足し合わされたビーム電流密度分布の様子が示されている。図7中、4α−((A)+(B)+(C))の領域はハッチングされており、この領域は4本目(最後)のイオンビームの電流密度分布を足し合わせることによって埋められるべき領域を表している。
【0075】
図8には、図7のハッチング領域を満たす為のビーム電流密度分布(D)が一点鎖線で示されている。参考までに(A)+(B)+(C)−3αの電流密度分布を実線で示しておく。この実線で示された(A)+(B)+(C)−3αと(D)とを足し合わせたビーム電流密度分布がαとなる。このようにして、最終目標とするビーム電流密度分布(ここでは、4α)と最後のイオンビームを除く1本目からm−1本目までのイオンビームの電流密度分布の総和(ここでは、(A)+(B)+(C))との差に基づいて、第4のイオンビーム46の新たな目標分布である(D)の算出が行われる。なお、O1とO2との間からはみ出している領域(ガラス基板に照射されない領域)において、新たな目標分布(D)は必ずしも図8に示すような分布である必要はない。
【0076】
最後に、ステップ59で、最後のイオンビームに対するビーム電流密度分布の調整が行われる。ここでの調整は、最後のイオンビームに対するビーム電流密度分布の値をImAとした時、ImA+Isum_m-1M +Isum_m-1A−Isum_mが第2の許容範囲(-ε2〜+ε2)内に収まるように調整される。なお、Isum_m-1M +Isum_m-1A−Isum_mは、m本目のイオンビームに対して設定される新たな目標分布を負にした値となるので、結局は、最後に調整されるイオンビームのビーム電流密度分布(ImA)が新たな目標分布に対して第2の許容範囲(-ε2〜+ε2)内に収まるように調整されていれば良い。
【0077】
ここで、第2の許容範囲(-ε2〜+ε2)は、ガラス基板の全面に渡って注入される所定のイオン注入量の分布に対して設定されている許容範囲とガラス基板の搬送速度に基づいて決定されるようにしても良い。このようにして第2の許容範囲を決定すると、所定の注入量分布の許容範囲内での注入が可能となる。一方で、これとは別に第2の許容範囲として予め適当な値を設けておいても良い。例えば、±1%〜3%とする。そして、最後のイオンビームのビーム電流密度分布を重ね合わせた際、全体のビーム電流密度分布が目標分布に対して、±1%〜3%の範囲内に収まるように、最後のイオンビームのビーム電流密度分布を調整するように構成しても良い。また、第1の許容範囲と同様に、第2の許容範囲の上限と下限を同一の値にする必要はない。負側と正側とで異なる値であっても良い。
【0078】
上記したように、ステップ58の時点で、最後のイオンビームを調整する際の目標とするビーム電流密度分布は、ステップ50で設定されたものから、新たな目標分布に変更される。本発明では、新たな目標分布を用いて、最後のイオンビームのビーム電流密度分布を調整する構成としているので、最終的に、それまでのイオンビームのビーム電流密度分布の調整時に生じた調整結果と目標分布とのズレ量を補償することが出来る。それによって、ガラス基板上に所定の注入量分布を達成することが出来る。
【0079】
さらに、上記したように、先のイオンビームのビーム電流密度分布の調整時に生じた調整結果と目標分布とのズレ量を、最終のイオンビームでのビーム電流密度分布の調整時に補償する構成としている為に、途中のイオンビーム(1本目からm−1本目)におけるビーム電流密度分布の調整を粗く済ませることが出来る。例えば、途中のイオンビーム(1本目からm−1本目)におけるビーム電流密度分布の調整を行うに当たっての第1の許容範囲を、先に述べた粗調整のみで行える程度、広い範囲に設定しておく。このように構成しておくと、各イオンビームに対して粗調整と微調整の両方をやる場合に比べて、全てのイオンビームのビーム電流密度分布を調整するのに要する全体の調整時間を短縮させることが出来る。
【0080】
本発明に係る一実施例では、上記説明したような手法を用いることで、各イオンビームにおけるビーム電流密度分布を効率的に調整することを可能にしている。
【0081】
図9および図10には、本発明の他の実施例にかかるフローチャートが示されている。このフローチャートには、図5に示されているフローチャートと比較して、一部のフローが追加されている。図5で説明したものと同じ処理が施される場合、そのステップの番号を同一のものとしている。以下、図9および図10で追加されたフローについての説明を行い、図5のフローチャートと説明が重複する処理については、その説明を割愛する。
【0082】
図9に示される処理の開始からステップ54までは、図5と同じフローとなる。ステップ53あるいはステップ54を経た後、図9のフローチャートでは、ステップ60にて、調整対象とするイオンビームが2本目以降のイオンビームであるかどうかの判定がなされる。仮に、現在調整中のイオンビームが1本目のイオンビームであれば、ステップ55にてnの値が1つ増やされ、その後、ステップ52の処理が行われる。
【0083】
2本目以降のイオンビームであった場合、図5のフローチャートでステップ57として示される処理と同様の処理がなされる。異なる点としては、図5のステップ57では、m本あるイオンビームのうち、m−1本目までのビーム電流密度分布の調整がなされたイオンビームを対象に3種類の合計値についての算出がなされたのに対して、ステップ61では、n本目(ここでのnは、2≦n≦m−1)までのイオンビームを対象として3種類の合計値についての算出がなされている。
【0084】
つまり、ステップ61では、2本目以降のイオンビームに対して、順次、イオンビームの調整を行いながら、その結果を足し合わせるといった処理を行うことになる。この点が先の実施例と大きく異なっている。
【0085】
先の実施例では、m本目(最後)のイオンビームの電流密度分布を調整して、m−1本目までのイオンビームの電流密度分布の調整時に生じた目標分布とのズレ量を補償するというものであったが、調整対象とするイオンビームの本数が多い場合、このような処理ではうまくいかない場合がある。
【0086】
m本目(最後)のイオンビームを除いては、それぞれの目標分布に対して第1の許容範囲(-ε1〜+ε1)内に入るようにビーム電流密度分布の調整がなされる。この第1の許容範囲は、各イオンビームでのビーム電流密度分布の調整を手早く終わらせる為に、広めに設定されている。例えば、先に述べたように各イオンビームの電流密度分布を調整する際の目標分布に対して±10〜15%となるような範囲に設定されている。その為、この許容範囲を満たすようにビーム電流密度分布の調整がなされた場合、広めに設定されている分、目標分布から少しずれた分布となっている可能性が高い。
【0087】
例えば、個々のイオンビームでのビーム電流密度分布が、いずれも個々に設定された目標分布を上回るような分布である場合、調整対象とするイオンビームの本数が増えるほど、個々のイオンビームによる目標分布からのズレ量を足し合わせた値は大きくなる。この様な場合、足し合わされたズレ量によって、最後のイオンビームでのビーム電流密度分布を調整する前に、全てのイオンビームを重ね合わせることによって達成されるビーム電流密度分布の最終目標を上回ってしまうことが考えられる。そうなると、最後のイオンビームで、それまでのイオンビームの電流密度分布を調整する際に生じた目標分布とのズレ量を補償するといった操作が出来なくなる。
【0088】
反対に、個々のイオンビームでのビーム電流密度分布が、いずれも個々に設定された目標分布を下回るような分布である場合には、最後のイオンビームのビーム電流密度分布が可能な限り大きなものとなるように調整されたとしても、全てのイオンビームのビーム電流密度分布を足し合わせた結果が目標とする分布には届かない場合が考えられる。そうなると、ガラス基板上に所定のイオン注入量の分布を達成させることが出来なくなる。
【0089】
上記した問題点を考慮して、図10のステップ62にて、第3の許容範囲(-ε3〜+ε3)を用いた判定がなされている。この実施例において、第3の許容範囲(-ε3〜+ε3)は、第1の許容範囲(-ε1〜+ε1)よりも大きい範囲である。例えば、第1の許容範囲の50%増しとなる範囲を第3の許容範囲としても良い。また、第1、第2の許容範囲と同じく第3の許容範囲の上限と下限の値が同一のものとなっているが、必ずしも同じである必要はない。負側と正側とで異なる値であっても良い。このような範囲設定を設けることで、目標分布からのズレ量の足し合わせに制限を加えることが出来るので、調整対象とされるイオンビームの本数が増えたとしても、最終的に、ガラス基板上に所定の注入量分布を達成することが可能となる。
【0090】
なお、第3の許容範囲の上限、下限については、例えば、次のように設定しておいても良い。n(nは整数で、2≦n≦m−1)本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を調整している場合、上限をn+1本目のイオンビームに対する目標分布(In+1)にしておく。このようにして上限側を決めておけば、複数本のイオンビームの電流密度分布を順番に調整していく際、目標分布とのズレ量が足し合わされたとしても、その足し合わされた量が、次に調整対象とするイオンビームの目標分布を超えることがなくなる。その為、最後のイオンビームでのビーム電流密度分布を調整する前に、全てのイオンビームを重ね合わせることによって達成されるビーム電流密度分布の最終目標を上回ってしまうことを防止することが出来る。
【0091】
一方、下限については、n+1本目のイオンビームを供給するイオンビーム供給装置に設けられたビーム電流密度分布調整部材による調整可能な範囲の最大値をAx、n+1本目のイオンビームに対する目標分布をIn+1とした時、-Ax+In+1を下回らないようにしておく。このようにして下限側を決めておけば、次に調整対象とするイオンビームのビーム電流密度分布を調整する際に、問題なく目標とするビーム電流密度分布を達成させることが出来る。その為、最後のイオンビームのビーム電流密度分布が可能な限り大きなものとなるように調整されたとしても、全てのイオンビームの電流密度分布を足し合わせた結果が目標とする分布に届かないといった問題が発生することがなくなる。
【0092】
ステップ62に示す等式を満たす場合、図5のフローチャートと同様に、ステップ55、56、64、58の処理が順になされて、全てのイオンビームについてのビーム電流密度分布の調整が終了する。なお、図5のフローチャートに記載のステップ57が、図10ではステップ64に置き換わっているのは、図9のステップ60にて既にIsum_m-1M + Isum_m-1A - Isum_m-1が算出されているからである。なお、図5でも説明したが、Isum_mについては、ステップ50で各イオンビームに対しての目標分布を設定する際に、前もって算出されている値であることから、ここで改めて各イオンビームに対する目標分布を足し合わせる操作をする必要はない。例えば、Isum_mの値が既に制御装置25にメモリーされているのであれば、その値を読み出せば良い。
【0093】
ステップ62に示す等式を満たさない場合、ステップ63にて、ステップ62の等式を満たすように、現在調整対象としているイオンビームのビーム電流密度分布が再調整される。なお、ここで再調整と述べているのは、現在調整対象としているイオンビームは、先のステップ53あるいはステップ54を経る際に、既に一度調整されているからである。また、ステップ53ではステップ52の測定結果が第1の許容範囲(-ε1〜+ε1)内にあるかどうかを見ているだけであるから、当該ステップを経てもビーム電流密度分布の調整はなされていないと言われるかもしれないが、実はそうではない。この点、誤解のないよう、ここで説明しておく。ステップ52での測定に先立ち、イオン源を運転させてイオンビームを処理室内に供給する際、先に述べたとおり、所定の電流量の電流をフィラメントに流している。この操作によって得られたビーム電流密度分布は所定の値に調整されていることになるので、ステップ54を経ずともステップ53(正確には、ステップ52の前に行われるイオン源の運転)を経た時点で、ビーム電流密度分布は一度調整されているものとしている。この調整に関する考え方は、図5に示すフローチャートで説明した実施例や後述するさらなる実施例においても同様に適用される。
【0094】
ステップ63で現在調整対象とするイオンビームの電流密度分布を再調整した後は、ステップ55、56、64、58、59の処理が順になされて、ビーム電流密度分布の調整が終了する。
【0095】
このようにして、1本目からm−1本目までのイオンビームのビーム電流密度分布の調整結果と目標分布とのズレ量に制限を加えるような第3の許容範囲を用いて、順次、イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を判定しているので、調整対象とするイオンビームの本数が多くなったとしても、先の実施例同様に各イオンビームに対して効率の良いビーム電流密度分布の調整が出来るとともに、問題なくガラス基板上に所定の注入量分布を実現することが出来る。
【0096】
図11および図12には、本発明のさらなる実施例に係るフローチャートが示されている。このフローチャートは、図9と図10に示されているフローチャートと比較して、ステップ60の分岐処理とそれに続くステップ55の処理が削除されている。その為、1本目のイオンビームから図11に示すステップ61の処理が順次なされることになる。また、先の実施例では、ステップ62でのnは2以上としていたが、この実施例においてはnは1以上となる。その他のステップにおいては、図9、図10に示すフローチャートと同じ処理となるので、個々の処理についての説明は割愛する。
【0097】
この実施例においては、第1の許容範囲と第3の許容範囲との大小関係は、いずれが大きくても構わない。先の例では、第3の許容範囲の方が第1の許容範囲よりも大きいとしたが、この例においては、その逆であっても良いし、第1の許容範囲と第3の許容範囲とを同一にしても良い。もちろん、先の例と同じく、第3の許容範囲の方が第1の許容範囲よりも大きい範囲に設定しておいても良い。
【0098】
ただし、全体の処理時間という点では、第3の許容範囲の方が第1の許容範囲よりも大きい範囲に設定しておくことが望ましい。これは、ステップ53やステップ54の処理で第1の許容範囲内を満たすようにイオンビームのビーム電流密度分布を調整したとしても、第1の許容範囲が第3の許容範囲よりも大きいと、後に続くステップ62に示される等式を満たさなくなる可能性がある。そうなった場合、ステップ63にて、第3の許容範囲内に入るように、ビーム電流密度分布の再度の調整が必要となる可能性が高くなってしまい、その結果、調整対象とするイオンビームの本数が増えるほど、全体の調整に要する処理時間がかかってしまう可能性が生じる為である。
【0099】
しかしながら、処理時間が多少かかってしまう可能性はあるものの、図11、図12に記載のフローチャートで示される実施例の手法を用いても、図9、図10のフローチャートで示される実施例と同様に、調整対象とするイオンビームの本数が増えた場合における各イオンビームに対するビーム電流密度分布の調整を問題なく行うことが出来る。
【0100】
<その他の変形例>
図1において、ガラス基板10の処理室内での搬送方向を矢印Aとして描いたが、これに限定される必要はない。例えば、より多くのイオンをガラス基板10へ注入させる為に、ガラス基板10を処理室11内で何度も往復搬送させるようにしても良い。この場合、ガラス基板10は矢印Aとその反対方向に搬送されることになる。
【0101】
また、第1、第2の真空予備室22、23をそれぞれ複数に増やしても良い。この場合、ゲートバルブ18と19もそれぞれの真空予備室に対応させる為に複数設けておく。このようにすると、複数の第1の真空予備室内や複数の第2の真空予備室内での圧力調整を別々に行うことが出来るようになる為、一方の真空予備室内の圧力調整している間に、圧力調整済みの別の真空予備室を利用してガラス基板の搬入、搬出を行うことが出来る。このような構成を利用すれば、ガラス基板の処理枚数を増加させることが出来る。
【0102】
さらに、第1の真空予備室22と第2の真空予備室23とを、基板の搬送方向において対にしておいて、それらをZ方向に沿って複数組設けておく。また、各真空予備室組をガラス基板10が個別に搬送されるように、ガラス基板の搬送機構をZ方向に沿って複数用意しておく。その上で、それぞれの搬送機構を同期させ、Z方向に離間してX方向に沿って搬送される複数のガラス基板が各イオンビームを途切れなく横切るように搬送させることも考えられる。このようにすると、複数のガラス基板を連続処理出来るようになるので、ガラス基板の処理枚数を更に増加させることが出来る。なお、この場合、ガラス基板10の搬入出を行う真空予備室を、第1の真空予備室22とするか第2の真空予備室23とするかは、真空予備室の組毎に個別に設定すれば良い。
【0103】
その上、図1には処理室11が単一の部屋として描かれているが、この処理室を各イオンビーム供給装置に対応させて、複数に分割して設けておいても良い。また、この場合、各処理室の間に、処理室間を区切る為のゲートバルブを設けておいても良い。そして、ゲートバルブは、ガラス基板11の搬送に応じて、開閉されるものとする。
【0104】
上記した実施例では、Y方向においてガラス基板10よりも長い寸法を有する4本のイオンビームを用いたイオン注入処理を例に挙げて説明しているが、イオンビームの本数はこれに限られない。イオンビームの本数としては2本以上であれば良い。さらに、本発明の従来技術として挙げた特許文献1の図3に記載されているように、各イオンビームの長辺方向の位置を互いにずらして配置するようにしても良い。このようなものであっても、ガラス基板10上での各イオンビームによる照射領域を重ね合わせてイオン注入を行うものであれば、本発明は当然ながら適用されることは言うまでもない。
【0105】
また、上記した実施例において、ビーム電流密度分布調整部材として、マルチフィラメントを有するイオン源について述べたが、これに代えて、別のものを使用しても良い。
【0106】
具体的には、マルチフィラメントタイプのイオン源の代わりに、イオンビームを供給する為の供給経路(ビームライン)に、Y方向に沿って異なる電位分布や磁場分布を形成させる電界レンズや磁界レンズを配置しておく。なお、この場合、イオン源はマルチフィラメントタイプのものでなくても良い。
【0107】
電界レンズについてはイオンビームをその短辺方向から挟むようにして一組の電極を設けておき、それがY方向に沿って複数組あるような構成のものが考えられる。そして、ビームプロファイラーでのビーム電流密度分布の測定結果に応じて、各組へ印加する電圧を異ならせ、電極組間に電位差を発生させる。そうすると、Y方向に配置された各電極組間を通過するイオンビームは電極組間の電位差に応じてY方向に沿って局所的に移動させられるようになるので、Y方向におけるイオンビームの電流密度分布を所定の目標分布に近づけるように調整することが出来る。
【0108】
また、磁界レンズはイオンビームをその短辺方向から挟むようにして一組の磁極を設けておき、それがY方向に沿って複数組あるような構成のものが考えられる。そして、各磁極組に対して巻回されたコイルに流す電流量およびその向きは、磁極組毎に独立して調整可能にしておく。その上で、ビームプロファイラーでの測定結果に応じて、各磁極組に巻回されたコイルに流す電流を独立に調整する。そうすると、各磁極組を構成する一組の磁極の間を通過するイオンビームは各磁極組で発生される磁界の大きさおよび向きに応じて、Y方向に沿って局所的に移動させられるようになるので、Y方向におけるイオンビームのビーム電流密度分布を所定の目標分布に近づけように調整することが出来る。
【0109】
なお、上記した電界レンズ、磁界レンズを用いた場合、ビームプロファイラーでの測定結果に応じて、局所的に電界、磁界を調整することになるが、考え方としてはマルチフィラメントタイプのイオン源を用いた電流密度分布の調整手法として説明したものと同じように考えることが出来る。つまり、ビームプロファイラーの所定領域(ビームプロファイラーとして複数のファラデーカップを用いる場合には、ファラデーカップの数で所定領域を特定しても良い)と、所定数の電極組もしくは磁極組とを対応させておけば良い。このような電界レンズ、磁界レンズにおける調整粗さを切り替える手法(例えば、目標分布からのズレ量に応じて、電極組に印加する電圧やコイルに流す電流量の調整刻みを粗いものから細かいものに切り替えるといった手法)を用いることで、先に説明したマルチフィラメントを有するイオン源のようにビーム電流密度分布の粗い調整、細かい調整の2種類の調整を行うことが出来る。また、イオン源の運転の開始にあたっての処理も、各電極組間での電位差を所定のものに設定したり、各コイルに流す電流量や向きを所定のものに設定したりして、マルチフィラメントのイオン源の場合と同様にすればよい。
【0110】
また、これまでの実施例では、ガラス基板の全面に渡って均一なイオン注入量分布を実現する例について述べてきたが、例えば公知技術である特開2005−235682号公報の図9に記載のごとく、ガラス基板の搬送方向に沿って注入量の分布を異ならせておいても良い。そのような注入量分布であったとしても、イオンビームの重ね合わせによって所定の注入量分布を実現する場合には、本発明が適用できる。
【0111】
その上、本発明の実施例では、ガラス基板の搬送速度を一定として説明してきたが、この搬送速度は可変にしても良い。例えば、イオンビーム毎にガラス基板の搬送速度を変更しても良いし、イオンビームをガラス基板が横断中にその搬送速度を特定の関数に従って可変にしても良い。また、公知の技術として知られているようにマルチフィラメントに流す電流を調整したり、電界レンズに電極に印加する電圧を調整したり、磁界レンズのコイルに流す電流を調整したりして、イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布が、任意の不均一な分布となるように調整されていても構わない。イオンビームのガラス基板上での照射領域を重ね合わせて、ガラス基板上に所定の注入量分布を実現させる際のビーム電流密度分布の調整に係る本発明の要旨を逸脱しない範囲において、ガラス基板の搬送速度や電流密度分布がどのようなものであっても良いのはもちろんである。
【0112】
そして、前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0113】
1.イオン注入装置
2.第1のイオンビーム供給装置
6.第1のイオンビーム
10.ガラス基板
12.第2のイオンビーム供給装置
16.第2のイオンビーム
25.制御装置
32.第3のイオンビーム供給装置
36.第3のイオンビーム
42.第4のイオンビーム供給装置
46.第4のイオンビーム
7、17、37、47.ビームプロファイラー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
m(mは2以上の整数)本のリボン状イオンビームを供給するm個のイオンビーム供給装置と、
処理室内に配置され、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を個別に測定するビームプロファイラーと、
前記イオンビーム供給装置毎に個別に設けられ、前記ビームプロファイラーで測定された前記ビーム電流密度分布を調整するためのビーム電流密度分布調整部材と、
前記処理室内で、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向と交差させるようにガラス基板を搬送させるガラス基板搬送機構と、
前記ビーム電流密度分布調整部材を制御し、前記ガラス基板搬送機構によって搬送される前記ガラス基板上に、前記m本のリボン状イオンビームによる照射領域を少なくとも部分的に重ね合わせて、予め決められた所定の注入量分布を実現する制御装置と、を備えたイオン注入装置であって、
前記制御装置は、前記m本のリボン状イオンビームに対して前記ビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を個別に設定する機能と、
予め決められた順番従って、個々のリボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布に対して第1の許容範囲内に入るようにm−1本目までの前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を制御する機能と、
m−1本目までの前記リボン状イオンビームの調整済みビーム電流密度分布を合算したビーム電流密度分布とm本目までの前記リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差に応じて、m本目の前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、新たな目標分布に対して、前記第1の許容範囲よりも小さい第2の許容範囲内に入るように、前記m本目のビーム電流密度分布を制御する機能と、を備えた装置である、ことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
更に、前記制御装置は、n(nは整数、2≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各ビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、前記第1の許容範囲よりも広い第3の許容範囲内であるかどうかを判定する機能と、
前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する機能と、を備えた装置である、ことを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
更に、前記制御装置は、n(nは整数、1≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各リボン状イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、第3の許容範囲内であるかどうかを判定する機能と、
前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する機能と、を備えた装置である、ことを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項4】
m(mは2以上の整数)本のリボン状イオンビームを供給するm個のイオンビーム供給装置と、
処理室内に配置され、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を個別に測定するビームプロファイラーと、
前記イオンビーム供給装置毎に個別に設けられ、前記ビームプロファイラーで測定された前記ビーム電流密度分布を調整するためのビーム電流密度分布調整部材と、
前記処理室内で、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向と交差させるようにガラス基板を搬送させるガラス基板搬送機構と、を備えたイオン注入装置において、前記ビーム電流密度分布調整部材を用いて、前記ガラス基板搬送機構によって搬送される前記ガラス基板上に、前記m本のリボン状イオンビームによる照射領域を少なくとも部分的に重ね合わせて、予め決められた所定の注入量分布を実現するために、各イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する方法であって、
前記m本のリボン状イオンビームに対して前記ビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を個別に設定する工程と、
予め決められた順番従って、個々のリボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布に対して第1の許容範囲内に入るようにm−1本目までの前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する工程と、
m−1本目までの前記リボン状イオンビームの調整済みビーム電流密度分布を合算したビーム電流密度分布とm本目までの前記リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差に応じて、m本目の前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、新たな目標分布に対して、前記第1の許容範囲よりも小さい第2の許容範囲内に入るように、前記m本目のビーム電流密度分布を調整する工程と、を有していることを特徴とするビーム電流密度分布調整方法。
【請求項5】
n(nは整数、2≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各ビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、前記第1の許容範囲よりも広い第3の許容範囲内であるかどうかを判定する工程と、
前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する工程と、を更に有していることを特徴とする請求項4記載のビーム電流密度分布調整方法。
【請求項6】
n(nは整数、1≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各リボン状イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、第3の許容範囲内であるかどうかを判定する工程と、
前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する工程と、を更に有していることを特徴とする請求項4記載のビーム電流密度分布調整方法。
【請求項1】
m(mは2以上の整数)本のリボン状イオンビームを供給するm個のイオンビーム供給装置と、
処理室内に配置され、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を個別に測定するビームプロファイラーと、
前記イオンビーム供給装置毎に個別に設けられ、前記ビームプロファイラーで測定された前記ビーム電流密度分布を調整するためのビーム電流密度分布調整部材と、
前記処理室内で、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向と交差させるようにガラス基板を搬送させるガラス基板搬送機構と、
前記ビーム電流密度分布調整部材を制御し、前記ガラス基板搬送機構によって搬送される前記ガラス基板上に、前記m本のリボン状イオンビームによる照射領域を少なくとも部分的に重ね合わせて、予め決められた所定の注入量分布を実現する制御装置と、を備えたイオン注入装置であって、
前記制御装置は、前記m本のリボン状イオンビームに対して前記ビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を個別に設定する機能と、
予め決められた順番従って、個々のリボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布に対して第1の許容範囲内に入るようにm−1本目までの前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を制御する機能と、
m−1本目までの前記リボン状イオンビームの調整済みビーム電流密度分布を合算したビーム電流密度分布とm本目までの前記リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差に応じて、m本目の前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、新たな目標分布に対して、前記第1の許容範囲よりも小さい第2の許容範囲内に入るように、前記m本目のビーム電流密度分布を制御する機能と、を備えた装置である、ことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
更に、前記制御装置は、n(nは整数、2≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各ビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、前記第1の許容範囲よりも広い第3の許容範囲内であるかどうかを判定する機能と、
前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する機能と、を備えた装置である、ことを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
更に、前記制御装置は、n(nは整数、1≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各リボン状イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、第3の許容範囲内であるかどうかを判定する機能と、
前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する機能と、を備えた装置である、ことを特徴とする請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項4】
m(mは2以上の整数)本のリボン状イオンビームを供給するm個のイオンビーム供給装置と、
処理室内に配置され、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向におけるビーム電流密度分布を個別に測定するビームプロファイラーと、
前記イオンビーム供給装置毎に個別に設けられ、前記ビームプロファイラーで測定された前記ビーム電流密度分布を調整するためのビーム電流密度分布調整部材と、
前記処理室内で、前記m本のリボン状イオンビームの長辺方向と交差させるようにガラス基板を搬送させるガラス基板搬送機構と、を備えたイオン注入装置において、前記ビーム電流密度分布調整部材を用いて、前記ガラス基板搬送機構によって搬送される前記ガラス基板上に、前記m本のリボン状イオンビームによる照射領域を少なくとも部分的に重ね合わせて、予め決められた所定の注入量分布を実現するために、各イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する方法であって、
前記m本のリボン状イオンビームに対して前記ビーム電流密度分布の調整目標とする目標分布を個別に設定する工程と、
予め決められた順番従って、個々のリボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布に対して第1の許容範囲内に入るようにm−1本目までの前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する工程と、
m−1本目までの前記リボン状イオンビームの調整済みビーム電流密度分布を合算したビーム電流密度分布とm本目までの前記リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差に応じて、m本目の前記リボン状イオンビームの前記ビーム電流密度分布を調整する為の新たな目標分布を設定し、新たな目標分布に対して、前記第1の許容範囲よりも小さい第2の許容範囲内に入るように、前記m本目のビーム電流密度分布を調整する工程と、を有していることを特徴とするビーム電流密度分布調整方法。
【請求項5】
n(nは整数、2≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各ビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、前記第1の許容範囲よりも広い第3の許容範囲内であるかどうかを判定する工程と、
前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する工程と、を更に有していることを特徴とする請求項4記載のビーム電流密度分布調整方法。
【請求項6】
n(nは整数、1≦n≦m−1)本目の前記リボン状イオンビームのビーム電流密度分布を調整した後、n本目までの各リボン状イオンビームのビーム電流密度分布の調整結果を合算したビーム電流密度分布とn本目までの各リボン状イオンビームに対して設定された前記目標分布を合算したビーム電流密度分布との差が、第3の許容範囲内であるかどうかを判定する工程と、
前記第3の許容範囲内でない場合、当該範囲内となるようにn本目のイオンビームに対するビーム電流密度分布を再調整する工程と、を更に有していることを特徴とする請求項4記載のビーム電流密度分布調整方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−233386(P2011−233386A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103202(P2010−103202)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
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