説明

イオン注入装置

【課題】 イオンビームの空間電荷効果等によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高めることができ、しかもエネルギーコンタミネーションの発生を抑制することができるイオン注入装置を提供する。
【解決手段】 このイオン注入装置は、ターゲットよりも上流側に設けられていて、イオンビーム4の経路を挟んでY方向において相対向するように配置された第1および第2の永久磁石列40、42を備えている。永久磁石列40は、X方向に一対の磁極をそれぞれ有する複数の永久磁石44を、各永久磁石44のN極を同一方向に向けて所定の間隔でX方向に配列したものである。永久磁石列42は、X方向に一対の磁極をそれぞれ有する複数の永久磁石46を、各永久磁石46のN極を永久磁石列40とは反対の同一方向に向けて所定の間隔でX方向に配列したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X方向の走査を経て、またはX方向の走査を経ることなく、X方向の寸法が当該X方向と実質的に直交するY方向の寸法よりも大きいリボン状(これはシート状または帯状とも呼ばれる)の形をしているイオンビームをターゲットに照射してイオン注入を行う構成のイオン注入装置に関し、より具体的には、イオンビームをY方向において絞る手段の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のイオン注入装置の従来例を図6に示す。これと同様のイオン注入装置が、例えば特許文献1に記載されている。なお、この明細書および図面において、イオンビーム4を構成するイオンは正イオンの場合を例に説明している。
【0003】
このイオン注入装置は、イオン源2から発生させた、リボン状のイオンビームの元になる小さな断面形状(例えば丸または四角いスポット状)をしているイオンビーム4を、質量分離器6を通して質量分離し、加減速器8を通して加速または減速し、エネルギー分離器10を通してエネルギー分離し、走査器12を通してX方向(例えば水平方向)に走査し、ビーム平行化器14を通して平行ビーム化した後に、ホルダ26に保持されたターゲット(例えば半導体基板)24に照射して、ターゲット24にイオン注入を行うよう構成されている。イオン源2からターゲット24までのイオンビーム4の経路は真空雰囲気に保たれる。
【0004】
ターゲット24は、ホルダ26と共に、ビーム平行化器14からのイオンビーム4の照射領域内で、ターゲット駆動装置28によって、Y方向(例えば垂直方向)に沿う方向に機械的に走査(往復駆動)される。
【0005】
なお、この明細書および図面においては、イオンビームの進行方向をZ方向とし、Z方向と実質的に直交する面内において互いに実質的に直交する2方向をX方向およびY方向としている。
【0006】
ビーム平行化器14は、磁界または電界(この例では磁界)によってイオンビーム4を走査する走査器12と協働して、X方向に走査されたイオンビーム4を、磁界または電界(この例では磁界)によって基準軸16に対して実質的に平行になるように曲げ戻して平行ビーム化して、X方向の寸法がY方向の寸法よりも大きいリボン状の形をしているイオンビーム4(図7も参照)を導出する。リボン状と言っても、Y方向の寸法が紙や布のように薄いという意味ではない。例えば、イオンビーム4のX方向の寸法は35cm〜50cm程度であり、Y方向の寸法は5cm〜10cm程度である。ビーム平行化器14は、この例のように磁界を使用する場合は、ビーム平行化マグネットと呼ばれる。
【0007】
上記イオン注入装置は、X方向の走査を経てリボン状の形をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合の例であるが、イオン源2からリボン状のイオンビーム4を発生させて、X方向の走査を経ることなくリボン状の形をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合もある。
【0008】
上記イオンビーム4の輸送経路は、図示しない真空容器内にあり、真空雰囲気に保たれるけれども、残留ガスやアウトガス等のガスが僅かではあるが必ず存在する。このガス分子にイオンビーム4が衝突して中性粒子が発生してそれがターゲット24に入射すると、注入量分布の均一性を悪化させたり、注入量誤差を生じさせたりする等の悪影響が生じる。
【0009】
これを防止するためには、ターゲット24に照射するエネルギー状態(換言すれば、加減速器8を通した後の最終エネルギー状態)のイオンビーム4を、ターゲット24の近くに設けたイオンビーム偏向器によって磁界または電界の作用で偏向させて、偏向したイオンビーム4と偏向せずに直進する中性粒子18とを互いに分離して、中性粒子18がターゲット24に入射するのを防止するのが好ましく、上記ビーム平行化器14はこのイオンビーム偏向器を兼ねている。
【0010】
ところで、イオンビーム4は、その輸送途中において、空間電荷効果によって発散する。装置のスループットを高めると共に、ターゲット24上に形成する半導体デバイスの微細化のためにイオン注入深さを浅くする等の観点から、ターゲット24に照射するイオンビーム4は低エネルギーかつ大電流のものが望まれているが、イオンビーム4が低エネルギーかつ大電流になるほど、空間電荷効果によるイオンビーム4の発散は大きくなる。
【0011】
このイオンビーム4の発散は、X、Y両方向において生じるけれども、元々、イオンビーム4のX方向の寸法は上記のようにY方向に比べてかなり大きいので、Y方向の発散による悪影響の方が大きい。そこで以下においてはこのY方向の発散に着目する。
【0012】
イオンビーム4がY方向に発散すると、Y方向におけるイオンビーム4の一部が、イオンビーム4の経路を囲む真空容器や、イオンビーム4を整形するマスク等によってカットされて、イオンビーム4のターゲット24への輸送効率が低下する。
【0013】
例えば、ビーム平行化器14とターゲット24との間には、図6、図7に示すように、また例えば特許第3567749号公報にも記載されているように、イオンビーム4を通過させる開口22を有していてイオンビーム4を整形するマスク20が設けられていることが多い。このマスク20によって、イオンビーム4のY方向の不要な裾の部分をカットして、イオンビーム4からターゲット24を逃がす距離L2 を小さくすることができるからである。
【0014】
イオンビーム4が空間電荷効果によってY方向に発散すると、例えばこのマスク20によってカットされる割合が大きくなるので、マスク20を通過することができるイオンビーム4の量が減り、イオンビーム4の輸送効率が低下する。
【0015】
上記課題は、イオン源2からリボン状のイオンビーム4を発生させて、X方向の走査を経ることなくリボン状の形をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合にも同様に存在する。
【0016】
イオンビーム4の空間電荷効果によるY方向の発散を補償する手段として、イオンビーム4の経路に、例えばビーム平行化器14の下流側近傍または上流側近傍に、例えば非特許文献1に記載されているような電界レンズ(これは静電レンズとも呼ばれる)を設けることが考えられる。
【0017】
その電界レンズの一例を図8に示す。この電界レンズ30は、イオンビーム4の進行方向Zに互いに間をあけて並べられた入口電極32、中間電極34および出口電極36を備えている。入口電極32および出口電極36は、互いに同電位(図示例では接地電位)に保たれる。中間電極34には、直流電源38から、正(図示例の場合)または負の直流電圧V1 が印加されて、入口電極32および出口電極36とは異なる電位に保たれる。各電極32、34および36は、それぞれ、イオンビーム4の形状に応じた形状をしており、例えば、筒状電極の場合もあるし、平行平板電極の場合もある。
【0018】
この電界レンズ30は、アインツェルレンズ(これはユニポテンシャルレンズとも呼ばれる)の働きをし、中間電極34に正、負いずれの直流電圧V1 を印加しても、イオンビーム4のエネルギーを変えることなくイオンビーム4をY方向において絞る働きをする。なお、図8では、図示の簡略化のためにイオンビーム4は絞られていない状態を図示しているが、実際は絞られる。
【0019】
【特許文献1】特開平8−115701号公報(段落0003、図1)
【非特許文献1】執筆委員 高木俊宜、電気学会大学講座、「電子・イオンビーム工学」、初版、社団法人電気学会、1995年3月1日、頁105−108
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記のような電界レンズ30を用いてイオンビーム4を絞る技術では、イオンビーム4の空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、イオンビーム4の輸送効率を高めることができるけれども、エネルギーコンタミネーション(即ち不所望エネルギー粒子の混入)が発生するという課題がある。
【0021】
即ち、電界レンズ30の中間電極34に負の直流電圧V1 を印加する場合、イオンビーム4は、入口電極32と中間電極34間の領域で一旦加速された後に、中間電極34と出口電極36間の領域で減速されて元のエネルギーになる。この加速領域において、イオンビーム4が残留ガスと衝突して荷電変換によって中性粒子が発生すると、入射イオンビーム4のエネルギーよりも高いエネルギーの中性粒子が発生し、それが下流側へ進行することになり、高エネルギー成分のエネルギーコンタミネーションの原因となる。
【0022】
中間電極34に図8に示すように正の直流電圧V1 を印加する場合、イオンビーム4は、入口電極32と中間電極34間の領域で一旦減速された後に、中間電極34と出口電極36間の領域で加速されて元のエネルギーになる。この減速領域において、イオンビーム4が残留ガスと衝突して荷電変換によって中性粒子が発生すると、入射イオンビーム4のエネルギーよりも低いエネルギーの中性粒子が発生し、それが下流側へ進行することになり、低エネルギー成分のエネルギーコンタミネーションの原因となる。
【0023】
このように、中間電極34に正、負いずれの直流電圧V1 を印加しても、エネルギーコンタミネーションが発生する。
【0024】
また、中間電極34に正の直流電圧V1 を印加すると、図8に示すように、電場のないドリフト空間(即ち中間電極34付近よりも上流側および下流側における電場のない空間)中の電子39が中間電極34に引き込まれて消滅するので、ドリフト空間での電子量が減少してイオンビーム4の空間電荷効果による発散が強くなり、イオンビーム4の輸送効率の低下が大きくなる。
【0025】
そこでこの発明は、イオンビームの空間電荷効果等によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高めることができ、しかもエネルギーコンタミネーションの発生を抑制することができるイオン注入装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
この発明に係るイオン注入装置は、前記ターゲットよりも上流側に設けられていて、前記リボン状のイオンビームの経路を挟んでY方向において相対向するように配置された第1の永久磁石列および第2の永久磁石列を備えており、前記第1の永久磁石列は、X方向に一対の磁極をそれぞれ有する複数の永久磁石を、各永久磁石のN極を同一方向に向けて所定の間隔でX方向に配列したものであり、前記第2の永久磁石列は、X方向に一対の磁極をそれぞれ有する複数の永久磁石を、各永久磁石のN極を第1の永久磁石列とは反対の同一方向に向けて所定の間隔でX方向に配列したものである、ことを特徴としている。
【0027】
このイオン注入装置によれば、第1および第2の永久磁石列によって、それぞれ、X方向に沿う方向の磁界を発生させることができ(但し、両永久磁石列が発生させる磁界は互いに逆向き)、この磁界によって、イオンビームはY方向における内向きのローレンツ力を受けることになる。これによって、イオンビームをY方向において絞ることができる。
【0028】
前記第1の永久磁石列を構成する各永久磁石と前記第2の永久磁石列を構成する各永久磁石とは、それぞれ、極性が互いに逆であることを除いて、前記イオンビームの経路のY方向における中心を通りかつX方向およびY方向に実質的に直交する対称面に関して実質的に面対称に配置しておくのが好ましい。
【0029】
前記ターゲットに照射するエネルギー状態の前記イオンビームを磁界または電界によって偏向させて当該イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器を更に備えている場合は、前記第1の永久磁石列および第2の永久磁石列は、前記イオンビーム偏向器の下流側近傍および上流側近傍の少なくとも一方に設けておいても良い。
【発明の効果】
【0030】
請求項1〜3に記載の発明によれば、第1および第2の永久磁石列が発生させる磁界によって、イオンビームをY方向において絞ることができるので、イオンビームの空間電荷効果等によるY方向の発散を補償して、イオンビームの輸送効率を高めることができる。
【0031】
しかも、電界レンズを用いる場合と違って、イオンビームを加減速することなく絞ることができるので、エネルギーコンタミネーションの発生を抑制することができる。
【0032】
請求項2に記載の発明によれば、第1および第2の永久磁石列によって、対称面に関して対称性の良い磁界を発生させることができるので、イオンビームを対称性良く絞ることができる、という更なる効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1は、この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を部分的に示す平面図である。図2は、第1および第2の永久磁石列ならびにイオンビームを、イオンビームの進行方向から見て部分的に示す正面図である。図6に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0034】
このイオン注入装置は、上記ターゲット24よりも上流側に設けられた、より具体的には、イオンビーム4と中性粒子18(図6参照)とを分離するイオンビーム偏向器を兼ねる上記ビーム平行化器14の下流側近傍に設けられた第1の永久磁石列40および第2の永久磁石列42を備えている。両永久磁石列40、42は、上記イオンビーム4の経路を挟んでY方向において相対向するように配置されている。
【0035】
第1の永久磁石列40は、X方向に一対の磁極(N極およびS極)をそれぞれ有する棒状または板状をした複数の永久磁石44を、各永久磁石44のN極を同一方向(図2では左方向)に向けて所定の間隔L3 でX方向に配列したものである。各永久磁石44は、それぞれ実質的に同じ形状、寸法、起磁力を有している。X方向に配列する永久磁石44の数や間隔L3 等は、イオンビーム4のX方向の寸法等に応じて決めれば良い。この永久磁石列40の隣り合う永久磁石44が、イオンビーム4の経路側に発生させる磁界を、図2中に磁力線48で模式的に示している。隣り合う永久磁石44間に、X方向に沿う磁界が発生することが分かる。
【0036】
第2の永久磁石列42は、X方向に一対の磁極(N極およびS極)をそれぞれ有する棒状または板状をした複数の永久磁石46を、各永久磁石46のN極を永久磁石列40とは反対の同一方向(図2では右方向)に向けて所定の間隔L4 でX方向に配列したものである。各永久磁石46は、それぞれ実質的に同じ形状、寸法、起磁力を有している。X方向に配列する永久磁石46の数や間隔L4 等は、イオンビーム4のX方向の寸法等に応じて決めれば良い。この永久磁石列42の隣り合う永久磁石46が、イオンビーム4の経路側に発生させる磁界を、図2中に磁力線50で模式的に示している。隣り合う永久磁石46間に、X方向に沿う磁界(但し永久磁石列40が発生させる磁界とは逆向きの磁界)が発生することが分かる。
【0037】
X方向の走査を経てリボン状のイオンビーム4を形成する場合は、例えば図2中に破線で示すように、小さな断面形状のイオンビーム4aがX方向に走査される。
【0038】
第1の永久磁石列40を構成する各永久磁石44は、イオンビーム4の進行方向Zに沿う方向に伸びた棒状をしていて、この実施形態では、図1に示すように、平面的に見てイオンビーム4の進行方向Zに対して実質的に平行に配置されている。同様に、第2の永久磁石列42を構成する各永久磁石46も、イオンビーム4の進行方向Zに沿う方向に伸びた棒状をしていて、この実施形態では、平面的に見てイオンビーム4の進行方向Zに対して実質的に平行に配置されている。
【0039】
更にこの実施形態では、第1の永久磁石列40を構成する各永久磁石44と、第2の永久磁石列42を構成する各永久磁石46とは、それぞれ、極性が互いに逆であることを除いて、イオンビーム4の経路のY方向における中心を通りかつX方向およびY方向に実質的に直交する対称面52に関して実質的に面対称に配置されている。より具体的には、永久磁石44と永久磁石46とを互いに実質的に同じ形状および寸法とし、上記間隔L3 と間隔L4 とを互いに実質的に等しくし、各永久磁石44と各永久磁石46とをそれぞれY方向において実質的に正対させて(換言すればX方向上の位置を実質的に同じにして)配置し、かつ対称面52から各永久磁石44までの距離と各永久磁石46までの距離とを実質的に等しくしている。従って、対称面52付近では、上下の磁界が互いに打ち消し合って磁界の強さは実質的に0になり、対称面52からY方向の上下に離れるに従って磁界の強さは大きくなる。
【0040】
このイオン注入装置によれば、第1および第2の永久磁石列40、42によって、それぞれ、X方向に沿う方向の磁界を発生させることができ(但し、両永久磁石列40、42が発生させる磁界は互いに逆向き)、この磁界によって、イオンビーム4はY方向における内向きのローレンツ力F(図2、図3参照)を受けることになる。これによって、イオンビーム4をY方向において絞ることができる。
【0041】
両永久磁石列40、42によってイオンビーム4がY方向において絞られた状態の一例を図3に示す。この例では、Y方向において発散するイオンビーム4を両永久磁石列40、42間に入射させており、両永久磁石列40、42がなければ符号4bで示すようにそのまま直進するはずのイオンビームを、符号4cで示すようにY方向において絞ることができている。
【0042】
イオンビーム4が絞られる程度は、磁界の磁束密度に比例し、イオンビーム4のエネルギーに反比例する。従って、磁束密度を一定とするならば、低エネルギーのイオンビーム4ほど強く絞ることができる。
【0043】
このようにこのイオン注入装置によれば、第1および第2の永久磁石列40、42が発生させる磁界によって、イオンビーム4をY方向において絞ることができるので、イオンビーム4の空間電荷効果等によるY方向の発散を補償して、イオンビーム4のターゲット24への輸送効率を高めることができる。
【0044】
イオンビーム4をY方向において絞ることができるので、イオンビーム4の空間電荷効果以外によるY方向の発散を抑制することもできる。また、Y方向においてイオンビーム4を絞る程度を調整することによって、Y方向において発散が実質的に0である平行なイオンビーム4を導出することも可能になる。
【0045】
より具体例を挙げると、図1に示す例のように両永久磁石列40、42の下流側に前述したマスク20が設けられている場合は、ビーム平行化器14とマスク20との間において、イオンビーム4の空間電荷効果によるY方向の発散を補償して、マスク20の開口22を通過するイオンビーム4の量を増やして、ターゲット24へのイオンビーム4の輸送効率を高めることができる。
【0046】
しかも、電界レンズを用いる場合と違って、イオンビーム4を加減速することなく絞ることができるので、エネルギーコンタミネーションの発生を抑制することができる。
【0047】
また、前述したようにこの実施形態では、第1の永久磁石列40を構成する各永久磁石44と第2の永久磁石列42を構成する各永久磁石46とを対称面52に関して実質的に面対称に配置していて、第1および第2の永久磁石列40、42によって、対称面52に関して対称性の良い磁界を発生させることができるので、イオンビーム4を対称性良く絞ることができる。
【0048】
ところで、第1および第2の永久磁石列40、42間を通過したイオンビーム4は、厳密に見れば、そのY方向における端部付近で幾分波打っている。その一例を、四角いスポット状のイオンビーム4aを例に図4に拡大して示す。これは、図2も参照すれば分かるように、イオンビーム4、4aの経路側に張り出す磁界は、隣り合う永久磁石44間および隣り合う永久磁石46間において強くなり、イオンビーム4、4aが受けるローレンツ力Fも強くなるからである。
【0049】
上記イオンビーム4の波打ちについては、例えば次のようにして対処することができる。
【0050】
(a)スポット状のイオンビーム4aをX方向に走査してリボン状のイオンビーム4を形成する場合は、このX方向の走査によって、波打ち部分のイオンビームの濃淡が平均化されるので、波打ちの影響は軽減される。また、必要に応じて、次の(b)と同様にカットすることを採用しても良い。
【0051】
(b)イオンビームをX方向に走査しない場合は、即ちX方向の走査を経ることなくイオンビーム4がリボン状をしている場合は、上記波打ちが不都合であれば、波打ち部分をマスク等でカットすれば良い。例えば、上記マスク20でカットすれば良い。このように波打ち部分をカットするとしても、永久磁石列40、42を設けずに全体的に発散しているイオンビーム4をマスク等によってカットするよりかは、イオンビーム4を多く通過させることができる。即ち、イオンビーム4の輸送効率を高めることができる。
【0052】
なお、隣り合う永久磁石44の間隔L3 および隣り合う永久磁石46の間隔L4 を大きくすると、イオンビーム4の経路側に張り出す磁界は強くなるのでイオンビーム4を強く絞ることができるけれども、イオンビーム4のY方向における端部付近での波打ちは大きくなる。従って、上記間隔L3 、L4 は、両者(絞りと波打ち)との兼ね合いで決めれば良い。
【0053】
第1の永久磁石列40を構成する各永久磁石44は、例えば図5に示す例のように、平面的に見てイオンビーム4の進行方向Zに対して、それぞれ実質的に同一の角度βで斜めに配置しても良い。同様に、第2の永久磁石列42を構成する各永久磁石46も、平面的に見てイオンビーム4の進行方向Zに対して、それぞれ同一角度で斜めに配置しても良い。このように配置しても、隣り合う永久磁石44間および隣り合う永久磁石46間に、X方向に沿う磁界が発生するので、上記とほぼ同様の作用によって、イオンビーム4をY方向において絞ることができる。
【0054】
上記第1および第2の永久磁石列40、42は、上記実施形態のようにビーム平行化器14の下流側近傍に設ける代わりに、ビーム平行化器14の上流側近傍に設けても良い。そのようにすれば、ビーム平行化器14に入射してそこを通過するイオンビーム4の量を増やすことができるので、イオンビーム4の輸送効率を高めることが容易になる。
【0055】
上記第1および第2の永久磁石列40、42を、ビーム平行化器14の下流側近傍および上流側近傍の少なくとも一方に設けても良いし、両方に設けても良い。両方に設ければ、ビーム平行化器14を通過するイオンビーム4の量を増やすと共に、ビーム平行化器14を通過したイオンビームのY方向の発散を抑制することができるので、イオンビーム4のターゲット24への輸送効率をより高めることができる。
【0056】
但し、上記第1および第2の永久磁石列40、42を設ける場所は、上記場所に限られるものではなく、ターゲット24よりも上流側であれば、どこに設けても良い。それでも、イオンビーム4をY方向において絞ってイオンビーム4の空間電荷効果等による発散を補償して、イオンビーム4の輸送効率を高めることができる。もっとも、図6に示す例のようにX方向の走査を経てリボン状の形状をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合は、その走査を行う走査器12よりも下流側に設けることになる。イオン源2からリボン状のイオンビーム4を発生させて、X方向の走査を経ることなくリボン状をしているイオンビーム4をターゲット24に照射する場合は、走査器12は不要であるので上記なような制限はない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明に係るイオン注入装置の一実施形態を部分的に示す平面図である。
【図2】第1および第2の永久磁石列ならびにイオンビームを、イオンビームの進行方向から見て部分的に示す正面図である。
【図3】第1および第2の永久磁石列によってイオンビームがY方向において絞られた状態の一例を示す概略側面図であり、図1中の矢印P方向に見たものに相当する。
【図4】第1および第2の永久磁石列間を通過したスポット状のイオンビームの形状の一例を、イオンビームの進行方向から見て拡大して示す正面図である。
【図5】第1の永久磁石列を構成する各永久磁石を、平面的に見てイオンビームの進行方向に対して斜めに配置した例を示す平面図である。
【図6】従来のイオン注入装置の一例を示す平面図である。
【図7】図6中のマスクおよびターゲットをイオンビームの進行方向に見て拡大して示す正面図である。
【図8】電界レンズの一例を電源と共に示す側面図である。
【符号の説明】
【0058】
4 イオンビーム
14 ビーム平行化器(イオンビーム偏向器)
24 ターゲット
40 第1の永久磁石列
42 第2の永久磁石列
44、46 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X方向の走査を経て、またはX方向の走査を経ることなく、X方向の寸法が当該X方向と実質的に直交するY方向の寸法よりも大きいリボン状の形をしているイオンビームをターゲットに照射する構成のイオン注入装置において、
前記ターゲットよりも上流側に設けられていて、前記リボン状のイオンビームの経路を挟んでY方向において相対向するように配置された第1の永久磁石列および第2の永久磁石列を備えており、
前記第1の永久磁石列は、X方向に一対の磁極をそれぞれ有する複数の永久磁石を、各永久磁石のN極を同一方向に向けて所定の間隔でX方向に配列したものであり、
前記第2の永久磁石列は、X方向に一対の磁極をそれぞれ有する複数の永久磁石を、各永久磁石のN極を第1の永久磁石列とは反対の同一方向に向けて所定の間隔でX方向に配列したものである、ことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記第1の永久磁石列を構成する各永久磁石と前記第2の永久磁石列を構成する各永久磁石とは、それぞれ、極性が互いに逆であることを除いて、前記イオンビームの経路のY方向における中心を通りかつX方向およびY方向に実質的に直交する対称面に関して実質的に面対称に配置されている請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記ターゲットに照射するエネルギー状態の前記イオンビームを磁界または電界によって偏向させて当該イオンビームと中性粒子とを分離するイオンビーム偏向器を更に備えていて、前記第1の永久磁石列および第2の永久磁石列は、前記イオンビーム偏向器の下流側近傍および上流側近傍の少なくとも一方に設けられている請求項1または2記載のイオン注入装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−135208(P2008−135208A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318436(P2006−318436)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】