説明

イオン液体含有ゲル状組成物、ゲル状薄膜、及びその製造方法

【課題】イオン液体を含有する高強度の新規なゲル状組成物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ポリエチレングリコール骨格を有するポリマー、及びイオン液体を含むゲル状組成物であって、当該ポリマーが前記ポリエチレングリコール骨格の架橋により網目構造を有する、ゲル状組成物。該ポリマーがハイドロゲルを形成し得るポリマーであり、末端アミノ基を有するポリマー(1)と末端スクシンイミドを有するポリマー(2)を含み、互いの末端がアミド結合で架橋することにより網目構造を有するゲル状組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を含有するゲル状組成物、及び当該ゲル状組成物よりなる薄膜、さらには、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、網状構造の親水性ポリマーを含むゲル状の材料であるハイドロゲルが注目されている。ハイドロゲルは、優れた保水能力及び生体適合性等の特性を有することから、シーリング、癒着防止、ドラッグデリバリー、コンタクトレンズなどの医療目的だけでなく、センサーや表面コーティングなどの多様な用途への応用が期待されている材料である(例えば、特許文献1及び2)。しかしながら、優れた特性の一方で、多用途への実用性においては、十分な強度が得られないこと、或いは、ゲル中に含まれる水分が経時的に蒸発し失われるため開放系で長期間使用することができないという問題があった。
【0003】
一方、不揮発性や高いイオン伝導性という特性を有するイオン液体について、反応溶媒、潤滑剤、リチウム二次電池等の種々の電気化学デバイスの電解液などの分野への応用について研究開発が行われている(例えば、特許文献3)。イオン液体は、常温溶融塩とも呼ばれ、イオンのみから構成され、常温を含む広い温度範囲において液体であるにもかかわらず不揮発性、不燃性であり、さらに優れたイオン伝導性や二酸化炭素の吸収能力を有するという特徴も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−189626号公報
【0005】
【特許文献2】特開2005−60570号公報
【0006】
【特許文献3】特開2005−179551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記ハイドロゲルにおける強度や持続使用性の問題点を解消できるととともに、優れた電気伝導度や二酸化炭素吸収能というイオン液体の特性をも併せ持つ新規なゲル状組成物を提供することを課題とする。さらに、そのようなゲル状組成物を得るために適した製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討の結果、ハイドロゲルを形成し得るポリエチレングリコール骨格を有するポリマーにイオン液体を含有させることによって、上記優れた特性を有する新規なゲル状組成物が得られることを見出した。また、網目構造を有するハイドロゲルを一旦形成させ、これを乾燥させた後に、イオン液体を含む混合溶液に浸漬させ再度ゲル化させることで、前記ゲル状組成物を製造できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、一態様において、ポリエチレングリコール骨格を有するポリマー、及びイオン液体を含むゲル状組成物であって、当該ポリマーが前記ポリエチレングリコール骨格の架橋により網目構造を有する、ゲル状組成物に関する。
【0010】
本発明のゲル状組成物の好ましい態様では、前記ポリマーが、ハイドロゲルを形成し得るポリマーである。
【0011】
本発明のゲル状組成物のさらに好ましい態様では、前記ポリマーが、下記式(I)及び下記式(II)で表される化合物を含み、当該化合物の互いの末端がアミド結合で架橋することにより網目構造を有する。
【化1】

(ここで、式(I)中、n11〜n14は、それぞれ同一又は異なり、25〜250の整数を示すものであり、
前記式(I)中、R11〜R14は、それぞれ同一又は異なり、C−Cアルキレン基、C−Cアルケニレン基、−NH−R15−、−CO−R15−、−R16−O−R17−、−R16−NH−R17−、−R16−CO−R17−、−R16−CO−NH−R17−、−R16−CO−R17−、又は−R16−CO−NH−R17−を示し、ここで、R15はC−Cアルキレン基を示し、R16はC−Cアルキレン基を示し、R17はC−Cアルキレン基を示す。)
【化2】

(ここで、式(II)中、n21〜n24は、それぞれ同一又は異なり、20〜250の整数を示すものであり、
前記式(II)中、R21〜R24は、それぞれ同一又は異なり、C−Cアルキレン基、C−Cアルケニレン基、−NH−R25−、−CO−R25−、−R26−O−R27−、−R26−NH−R27−、−R26−CO−R27−、−R26−CO−NH−R17−、−R26−CO−R27−、又は−R26−CO−NH−R27−を示し、ここで、R25はC−Cアルキレン基を示し、R26はC−Cアルキレン基を示し、R27はC−Cアルキレン基を示す。)
【0012】
本発明のゲル状組成物の好ましい態様では、前記イオン液体が、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、及びジエチルメチルアンモニウム トリフオロメタンスルホネートよりなる群から選択される。
【0013】
また、本発明のゲル状組成物の更なる態様では、当該ゲル組成物は、10MPa以上の圧縮破断強度を有する。
【0014】
本発明のゲル状組成物の好ましい態様では、当該ゲル組成物は、0.001〜0.007S/cmである電気伝導度を有する。さらに好ましい態様では、ゲル状組成物に含有されるイオン液が固有に示す電気伝導度の40%〜80%の電気伝導度を有する。
【0015】
また、本発明のゲル状組成物の好ましい態様では、当該ゲル組成物は、二酸化炭素(CO)吸収特性を有する。
【0016】
別の態様において、本発明は、上記ゲル状組成物よりなる薄膜に関する。
【0017】
更なる態様において、本発明は、イオン液体を含むゲル状組成物の製造方法であって、(a)親水性ポリマーを含むハイドロゲルを乾燥させて脱水する工程、(b)前記工程(a)により得られた脱水物を前記イオン液体と有機溶媒との混合溶液に浸漬させゲル化させる工程、及び、(c)前記工程(b)により得られた組成物を乾燥させ、前記有機溶媒を除去する工程を含む、製造方法に関する。
【0018】
本発明の製造方法の好ましい態様では、前記親水性ポリマーがポリエチレングリコール骨格を有し、前記ポリエチレングリコール骨格が架橋することにより網目構造を有する。
【0019】
本発明の製造方法のさらに好ましい態様では、前記親水性ポリマーが、上記式(I)及び上記式(II)で表される化合物を含み、当該化合物の互いの末端がアミド結合で架橋することにより網目構造を有する。
【0020】
本発明の製造方法の好ましい態様では、前記イオン液体が、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、及びジエチルメチルアンモニウム トリフオロメタンスルホネートよりなる群から選択される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のゲル状組成物によれば、従来のハイドロゲルにおけるの問題点を解消しつつ、イオン液体の特性をも併せ持つ新規なゲル状組成物を提供することができる。具体的には、網目構造を有する親水性ポリマーとイオン液体を組み合わせて用いることによって、多様な用途においても十分な強度が得られ、溶媒として水に代えて不揮発性のイオン液体を用いるため、ゲルの形態を喪失することなく長期間開放系で用いることができる。また、ハイドロゲルを形成し得るような網目構造を有する親水性ポリマーを用いることによってゲル状組成物中にイオン液体を多く保持することができるため、イオン液体の有する優れた電気伝導性、CO吸収性、或いは難燃性という特性をゲル状組成物に付加することが可能となる。
【0022】
また、本発明のゲル状薄膜によれば、上記ゲル状組成物の特性を有する薄膜材料を提供することができる。これによって、従来のハイドロゲルの用途だけでなく、リチウムイオン二次電池などの電気化学デバイス、COの回収や貯蔵などの分野にも応用が可能となる。
【0023】
さらに、本発明のゲル状組成物の製造方法によれば、従来のモノマー段階で混合した後にポリマー合成を行う手法等とは異なり、乾燥したポリマー材料に他の有機溶媒と共にイオン液体に浸漬させるという手法を用いるによって、上述の本発明のゲル組成物を簡易なプロセスで提供することができる。また、浸漬させる工程における有機溶媒とイオン液体の比率を適宜変更することによって、所望する最終的なゲル組成物の特性に応じた、当該ゲル組成物中のイオン液体の含有率を調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、エタノール:[Cmim][NTf]系共溶媒を用いた場合の本発明のゲル組成物(乾燥重量37mg)の平衡膨潤重量(○)とエタノール成分のみを蒸発させた場合の重量(□)を示すグラフである。
【図2】図2は、エタノール:[Cmim][NTf]系共溶媒を用いた本発明のゲル組成物において、エタノール成分のみを蒸発させた場合のゲルのポリマー分率を示すグラフである。
【図3】図3は、エタノール:[Cmim][NTf]系共溶媒を用いた本発明のゲル組成物のポリマー分率を変化させた場合のゲルの弾性率の測定結果を示すグラフである。
【図4】図4は、エタノール:[Cmim][NTf]系共溶媒を用いた本発明のゲル組成物のポリマー分率を変化させた場合のゲルの変形率の測定結果を示すグラフである。
【図5】図5は、エタノール:[Cmim][NTf]系共溶媒を用いた本発明のゲル組成物のポリマー分率を変化させた場合のゲルの応力歪み曲線の測定結果を示すグラフである(左より、それぞれ共溶媒中のイオン液体分率:25%、50%、75%、100%)。
【図6】図7は、エタノール:[Cmim][NTf]系共溶媒を用いた本発明のゲル組成物のポリマー分率を変化させた場合のゲルの電気伝導度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0026】
本発明のゲル状組成物において用いられるポリマーは、ポリエチレングリコール骨格を有し、当該ポリエチレングリコール骨格の架橋により、イオン液体を含有するための網目構造を有するものである。好ましくは、水を含むことによって、ハイドロゲルを形成し得る親水性ポリマーである。ここで、「ハイドロゲル」とは、多量の水を含んだ親水性の高分子を含むゲル状の物質であり、「ゲル」とは、一般に、高粘度で流動性を失った分散系をいう。
【0027】
そのようなハイドロゲルを形成し得るポリマーとして、4つのポリエチレングリコール分岐を有するポリマー種が、互いに架橋して均一な網目構造ネットワークを形成するものが挙げられる。そして、かかる網目構造ネットワークを形成するために、末端に求核性の官能基を有するポリマーと、末端に求電子性の官能基を有するポリマーの2種類のポリマー種を反応させて架橋させる手段が好適である。
【0028】
末端に求核性の官能基を有するポリマー種として好ましい非限定的な具体例には、例えば、末端にアミノ基を有する下記式(I)で表される化合物が挙げられる。
【化3】

【0029】
式(I)中、R11〜R14は、それぞれ同一又は異なり、C−Cアルキレン基、C−Cアルケニレン基、−NH−R15−、−CO−R15−、−R16−O−R17−、−R16−NH−R17−、−R16−CO−R17−、−R16−CO−NH−R17−、−R16−CO−R17−、又は−R16−CO−NH−R17−を示し、ここで、R15はC−Cアルキレン基を示し、R16はC−Cアルキレン基を示し、R17はC−Cアルキレン基を示す。)
【0030】
11〜n14は、それぞれ同一でも又は異なってもよい。n11〜n14の値が近いほど、均一な立体構造をとることができ、高強度となる。このため、高強度のゲルを得るためには、同一であることが好ましい。n11〜n14の値が高すぎるとゲルの強度が弱くなり、n11〜n14の値が低すぎると化合物の立体障害によりゲルが形成されにくい。そのため、n11〜n14は、25〜250の整数値があげられ、35〜180が好ましく、50〜115がさらに好ましく、50〜60が特に好ましい。そして、その分子量としては、5×10〜5×10Daがあげられ、7.5×10〜3×10Daが好ましく、1×10〜2×10Daがより好ましい。
【0031】
上記式(I)中、R11〜R14は、官能基とコア部分をつなぐリンカー部位である。R11〜R14は、それぞれ同一でも異なってもよいが、均一な立体構造を有する高強度なゲルを製造するためには同一であることが好ましい。R11〜R14は、C−Cアルキレン基、C−Cアルケニレン基、−NH−R15−、−CO−R15−、−R16−O−R17−、−R16−NH−R17−、−R16−CO−R17−、−R16−CO−NH−R17−、−R16−CO−R17−、又は−R16−CO−NH−R17−を示す。ここで、R15はC−Cアルキレン基を示す。R16はC−Cアルキレン基を示す。R17はC−Cアルキレン基を示す。
【0032】
ここで、C−Cアルキレン基とは、分岐を有してもよい炭素数が1以上7以下のアルキレン基を意味し、直鎖C−Cアルキレン基又は1つ又は2つ以上の分岐を有するC−Cアルキレン基(分岐を含めた炭素数が2以上7以下)を意味する。C−Cアルキレン基の例は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基である。C−Cアルキレン基の例は、−CH2−、−(CH2)2−、−(CH2)3−、−CH(CH3)−、−(CH2)3−、−(CH(CH3))2−、−(CH2)2−CH(CH3)−、−(CH2)3−CH(CH3)−、−(CH2)2−CH(C25)−、−(CH2)6−、−(CH2)2−C(C25)2−、及び−(CH2)3C(CH3)2CH2−などが挙げられる。
【0033】
「C−Cアルケニレン基」とは、鎖中に1個若しくは2個以上の二重結合を有する状又は分枝鎖状の炭素原子数2〜7個のアルケニレン基であり、例えば、前記アルキレン基から隣り合った炭素原子の水素原子の2〜5個を除いてできる二重結合を有する2価基が挙げられる。
【0034】
なお、上記式(I)で示したように、末端の官能基はアミノ基が好ましい。しかし、高強度な立体構造になる架橋を得られれば、当該官能基は、アミノ基以外の求核性官能基を用いることもできる。このような求核性官能基として、−SH、又は−COPhNO(Phは、o−、m−、又はp−フェニレン基を示す)などがあげられ、当業者であれば公知の求核性官能基を適宜用いることができる。
【0035】
末端に求電子性の官能基を有するポリマー種として好ましい非限定的な具体例には、例えば、末端にN−ヒドロキシ−スクシンイミジル(NHS)基を有する下記式(II)で表される化合物が挙げられる。
【化4】

【0036】
上記式(II)中、n21〜n24は、それぞれ同一でも又は異なってもよい。n21〜n24の値は近いほど、ハイドロゲルは均一な立体構造をとることができ、高強度となるので好ましく、同一である方が好ましい。n21〜n24の値が高すぎるとゲルの強度が弱くなり、n21〜n24の値が低すぎると化合物の立体障害によりゲルが形成されにくい。そのため、n21〜n24は、5〜300の整数値があげられ、20〜250が好ましく、30〜180がより好ましく、45〜115がさらに好ましく、45〜55であればさらに好ましい。本発明の第2の四分岐化合物の分子量としては、5×10〜5×10Daがあげられ、7.5×10〜3×10Daが好ましく、1×10〜2×10Daがより好ましい。
【0037】
上記式(II)中、R21〜R24は、官能基とコア部分をつなぐリンカー部位である。R21〜R24は、それぞれ同一でも異なってもよいが、均一な立体構造を有する高強度なゲルを製造するためには同一であることが好ましい。式(II)中、R21〜R24は、それぞれ同一又は異なり、C−Cアルキレン基、C−Cアルケニレン基、−NH−R25−、−CO−R25−、−R26−O−R27−、−R26−NH−R27−、−R26−CO−R27−、−R26−CO−NH−R17−、−R26−CO−R27−、又は−R26−CO−NH−R27−を示す。ここで、R25はC−Cアルキレン基を示す。R26はC−Cアルキレン基を示す。R27はC−Cアルキレン基を示す。
【0038】
なお、上記式(II)で示したように、末端の官能基はN−ヒドロキシ−スクシンイミジル(NHS)基が好ましい。しかし、求電子性を有する他の活性エステル基を用いてもよい。このような活性エステル基としては、スルホスクシンイミジル基、マレイミジル基、フタルイミジル基、イミダゾーイル基、又はニトロフェニル基などがあげられ、当業者であれば公知の活性エステル基を適宜用いることができる。当該官能基は、それぞれ同一であっても、異なってもよいが、同一である方が好ましい。官能基が同一であることによって、式(I)の官能基との反応性が均一になり、均一な立体構造を有する高強度のゲルを得やすくなる。
【0039】
上記式(I)及び式(II)のポリマー種の場合には、アミド結合によって架橋して、均一な網目構造ネットワークを形成することができる。
【0040】
また、本発明のゲル状組成物中に含まれるイオン液体の種類に限定はなく、公知のものを用いることができる。
【0041】
カチオン種としては、例えば、第一級(RNH)、第二級(RNH)、第三級(RNH)、第四級(R)鎖状アンモニウムカチオン(式中、R、R、R、Rは各々独立に炭素数1〜15個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基、あるいは1個以上のヒドロキシル基を側鎖に持つ炭素数1〜15個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基、あるいはフェニル基である。)および環状アンモニウムカチオンが使用できる。環状アンモニウムカチオンとしては、オキサゾリウム、チアゾリウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、ピロリニウム、フラザニウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、イミダゾリジニウム、ピラゾリジニウム、ピロリニウム、イミダゾリニウム、ピラゾリニウム、ピラジニウム、ピリミジニウム、ピリダジニウム、ピペリジニウム、ピペラジニウム、モルホリニウム、インドリウムおよびカルバゾリウムが挙げられる。さらに別のカチオンとしては、鎖状ホスホニウムカチオン(RおよびR)、鎖状スルホニウムカチオン(R1011)(式中、R、R、R、R、R、R10、R11は各々独立に炭素数1〜12個の直鎖あるいは枝分かれのアルキル基又はフェニル基である。)および環状スルホニウムカチオンが挙げられる。環状スルホニウムカチオンには、チオフェニウム、チアゾリニウムおよびチオピラニウムが例示できる。
【0042】
アニオン種としては、リン酸、硫酸、カルボン酸等の無機酸系イオン、フッ素系イオン等が使用できる。カチオンとアニオンの組み合わせについては様々な組み合わせが可能である。
【0043】
ここで、フッ素系アニオンとしては、テトラフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロボレート(BF)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF)、トリフルオロメタンスルホネート(CF
SO)、ビス(フルオロスルホニル)イミド((FSO))、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド((CFSO))、ビス(トリフルオロエタンスルホニル)イミド((CFCFSO))、トリス(トリフルオロメタンスルホニルメチド)((CFSO))を挙げることができる。
【0044】
本発明において用いられるイオン液体は、好ましくは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([Cmim][NTf])、1-ブチル3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート([C4mim][PF])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート([Cmim][BF])、及びジエチルメチルアンモニウム トリフオロメタンスルホネート([DEMA][TfO])である。
【0045】
本発明の製造方法において用いられるハイドロゲルは、上述のポリマーを用いて、当該技術分野において公知の方法により作製することができる。しかしながら、上記式(I)及び(II)のポリマー種を混合することによって得られるハイドロゲルが好ましい。
【0046】
上記式(I)及び(II)のポリマー種からハイドロゲルを得る方法としては、式(I)のポリマー種と適切な緩衝液(「第1の緩衝液」)を含む溶液(「第1の溶液」)と、式(II)のポリマー種と適切な緩衝液(「第2の緩衝液」)を含む溶液(「第2の溶液」)とを混合する方法が好ましい。この場合、第1の緩衝液のpHが5〜9、及び濃度が20〜200mMであり、第2の緩衝液のpHが5〜9、及び第2の緩衝液の濃度が20〜200mMである。また第1の溶液のpHは、第2の溶液pHよりも高くする必要がある。これにより、式(I)及び(II)のポリマー種の間でアミド結合の形成反応が起こり、均一な網目構造を有するハイドロゲルを製造することができる。
【0047】
酸性溶液中では、式(I)のポリマー種のアミノ基がカチオンの状態となりやすく、互いに反発しやすくなり、そして、カチオン状態のアミノ基は、式(II)のポリマー種の官能基(N−ヒドロキシ−スクシンイミジル(NHS))との反応性が低下する。一方、第1の溶液のpHが高くなる(アルカリ性側に傾く)と、式(I)のポリマー種のアミノ基が−NH3+から−NHへと移りやすくなるので、式(II)のポリマー種との反応性が高くなる。しかし、式(II)のポリマー種は、溶液のpHが7以上になると、エステル結合が分解されやすくなり、式(I)のポリマー種との反応性が低下してくる。そのため、ゲル強度が弱くなってしまう。従って、第1及び第2の緩衝液のpHを調節する必要がある。
【0048】
混合前の第2の溶液のpHは5〜6.5であることが好ましい。また、混合後の溶液においては、不均一な混合を防ぐために、式(I)のポリマー種の95〜99%は式(II)のポリマー種との結合能を有する非カチオン性のアミノ基の状態で存在することが好ましい。このような工程を経るためには、混合直後の溶液のpHは6〜8であることが望ましい。このため、第1の溶液のpHは、第2の溶液のpHよりも高い方が好ましい。溶液のpHは、市販のpHメーターを用いるなど公知の方法で測定することができる。このように、混合後のpHを6〜8に保ち、NHSと反応可能な非カチオン性のアミノ基を5%以下に保つことにより、均一で強固なハイドロゲルを製造することが可能になる。
【0049】
また、緩衝液濃度が低すぎると、溶液中のpH緩衝能が低下し、高強度のハイドロゲルを製造することができず、逆に、緩衝液濃度が高すぎても、式(I)のポリマー種と式(II)のポリマー種の混合を阻害するために、高強度のハイドロゲルを製造することができない。よって、上記のように、緩衝液の濃度を20mM〜200mMとすることで、均一構造を有する高強度なハイドロゲルを製造することができる。
【0050】
用いられる緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸・リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、又はクエン酸・リン酸緩衝生理食塩水があげられる。第1の緩衝液と第2の緩衝液は、同じでも異なってもよい。また、第1の緩衝液及び第2の緩衝液は、それぞれ2種以上の緩衝液を混合して用いてもよい。
【0051】
式(I)及び式(II)のポリマー種の溶液中濃度は、10mg/mL〜500mg/mLがあげられる。四分岐化合物濃度が、低すぎるとゲルの強度が弱くなり、四分岐化合物濃度が高すぎるとハイドロゲルの構造が不均一になりゲルの強度が弱くなる。そのため、20〜400mg/mLが好ましく、50mg/mL〜300mg/mLがより好ましく、100〜200mg/mLがさらに好ましい。
【0052】
式(I)及び式(II)のポリマー種は、モル比0.5:1〜1.5:1で混合すればよい。当該ポリマー種の官能基はそれぞれ1:1で反応しうるので、混合モル比は1:1に近いほど好ましいが、高い強度のハイドロゲルを得るためには0.8:1〜1.2:1が特に好ましい。
【0053】
上記の混合工程としては、第1の溶液に第2の溶液を添加して混合する工程、第2の溶液に第1の溶液を添加して混合する工程、第1の溶液と第2の溶液とを等量ずつ混合する工程があげられる。第1の溶液又は第2の溶液の添加速度、混合速度は特に限定されず、当業者であれば適宜調整することができる。
【0054】
本発明の混合工程は、たとえば国際公開WO2007/083522号パンフレットに開示されたような二液混合シリンジを用いて行うことができる。混合時の二液の温度は、特に限定されず、ポリマー種がそれぞれ溶解され、それぞれの液が流動性を有する状態の温度であればよい。温度が低すぎると化合物が溶解されにくく、または溶液の流動性が低くなり、均一に混ざり難くなる。一方、温度が高すぎると第1の四分岐化合物と第2の四分岐化合物の反応性を制御し難くなる。そのため、混合するときの溶液の温度としては、1℃〜100℃が挙げられ、5℃〜50℃が好ましく、10℃〜30℃がより好ましい。二液の温度は異なってもよいが、温度が同じである方が、二液が混合されやすいので好ましい。
【0055】
当該混合工程によって得られる混合溶液は、塩濃度が0〜1×10mMであることが好ましく、1×10−1〜1×10であってもよい。そのため、混合溶液の塩濃度は、100mM以下であることが好ましく、50mM以下であることがさらに好ましい。
【0056】
次に、本発明の製造方法の工程(a)において、ハイドロゲルを乾燥させて脱水するための手段としては、ハイドロゲルを純水中で一定期間膨潤した後、大気圧下で乾燥することによって脱ゾル及び脱塩し、その後、トルエン等の有機溶媒中で一定期間膨潤し減圧下で乾燥し共沸による脱水を行うことが好ましい。しかしながら、当該技術分野において公知の乾燥・脱水手段を用いることができる。
【0057】
本発明の製造方法の工程(b)では、前記工程(a)で脱水されたポリマー(すなわち、ハイドロゲルに含まれていたポリマー成分)を有機溶媒とイオン液体の混合溶液に浸漬させる。ここで用いられる有機溶媒は、イオン液体と相溶性があり、かつ、ある程度高い揮発性を有するものであれば、任意の有機溶媒を用いることができる。そのような溶媒としては、例えば、アルコール類であり、好ましくは、エタノールである。
【0058】
また、有機溶媒とイオン液体との混合比を変化させることによって、最終的なゲル状組成物におけるポリマー成分とイオン液体成分の構成比をさせることができる。例えば、イオン液体の含有率が高いほどゲル組成物の電気伝導度は向上するが、一方で、ポリマーの比率が低くなると力学的強度は損なわれる。従って、実施例において後述するとおり、本発明の製造方法では、所望のゲル状組成物の構成を得るためには、有機溶媒とイオン液体との混合比を調整すればよいという特徴を有する。かかる簡易な手法によって、所望のゲル状組成物の特性を適宜調整することが達成できる。
【0059】
本発明の製造方法の工程(c)において、上記有機溶媒を除去する手段としては、当該技術分野において公知の乾燥・脱水手段を用いることができるが、減圧乾燥を用いることが好ましい。
【0060】
本発明のゲル状組成物は、10〜100MPa、好ましくは、10MPa以上の圧縮破断強度を有することが好ましい。圧縮破断強度は、公知の測定機器を用いて、公知の方法で調べることができる。圧縮破断強度測定機器としては、たとえば、SunScientific社製の圧縮試験機(Rheo
Meter: CR−500DX−SII)があげられる。圧縮破断強度とは、ゲル試料に圧縮荷重を加えた時に、ゲル試料が破断する最大応力のことをさす。圧縮破断強度は、円柱状のゲル試料に対して、1軸荷重をかけた時の圧縮力をその軸に垂直な断面積で割った値で表わすことができる。
【0061】
本発明のゲル状組成物は、0.001S/cm以上、例えば、0.001〜0.007S/cm、好ましくは、0.005〜0.007S/cmの電気伝導度を有する。当該電気伝導度は、用いるイオン液体が有する電気伝導度、及び、ゲル状組成物中のイオン液体のポリマー成分に対する比率によって変化する。従って、ゲル状組成物に含有されるイオン液が固有に示す電気伝導度の40%以上、好ましくは、60%〜80%、より好ましくは、75%〜80%の電気伝導度を有する。電気伝導度は、交流インピーダンス法などの当該技術分野における公知の手法によって測定することができる。
【0062】
本発明では、乾燥前のハイドロゲルの形状を変えることによって、所望の形状のゲル状組成物を得ることができる。種々の分野への応用可能性に鑑みれば、薄膜の形状であることが好ましい。従って、本発明のゲル状薄膜を得るための方法としては、ハイドロゲルを作製する段階で、例えば、ガラス等の平面基板上に塗布して、予め薄い形状のハイドロゲルを作製し、その後、上記の製造方法によってイオン液体に浸漬させることで、イオン液体を含有する薄膜を得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
ハイドロゲルの作製:
TAPEG(テトラアミン−ポリエチレングリコール)とTNPEG(N−ヒドロキシ−スクシンイミジル−ポリエチレングリコール(NHS−PEG))を、末端にヒドロキシル基を有するTHPEG(テトラヒドロキシル−ポリエチレングリコール)をそれぞれアミノ化、スクシンイミジル化することによって得た。
【0065】
THPEGの作製:
開始剤のペンタエリスリトール(0.4572mmol、62.3mg)をDMSO/THF(v/v=3:2)50mLの混合溶媒に溶解させ、メタル化剤にカリウムナフレン(0.4157mmol、1.24mg)を用い、エチレンオキシド(200mmol、10.0mL)を加え、約2日間、Ar存在下、60℃で加熱攪拌した。反応終了後、ジエチルエーテルに再沈殿させ、濾過により沈殿物を取り出した。さらに、ジエチルエーテルで3回洗浄し、得られた白色固体を減圧乾燥することにより、20kのTHPEGを得た。
【0066】
TAPEGの作製:
THPEG(0.1935mmol、3.87g、1.0equiv)をベンゼンに溶解させ、凍結乾燥した後、THF62mLに溶解させ、トリエチルアミン(TEA)(0.1935mmol、3.87g、1.0equiv)を加えた。別のナスフラスコにTHF31mLとメタンスルホニルクロライド(MsCl)(0.1935mmol、3.87g、1.0equiv)を加え、氷浴につけた。THPEG、TEAのTHF溶液にMsClのTHF溶液を約1分間かけて滴下し、30分間氷浴中で攪拌した後、室温で1時間半攪拌した。反応終了後、ジエチルエーテルに再沈殿させ、濾過により沈殿物を取り出した。さらに、ジエチルエーテルで3回洗浄し、得られた白色固体をナスフラスコに移し、25%アンモニア水250mLを加え、4日間攪拌した。反応終了後、エバポレーターにより溶媒を減圧留去し、水を外液に2、3回透析を行い、凍結乾燥することにより、白色固体のTAPEGを得た。作製したTAPEGの化学式は式(Ia)に示した。式(Ia)中、n11〜n14は、TAPEGの分子量が約10、000(10kDa)のとき50〜60であり、分子量が約20、000(20kDa)のとき100〜115であった。
【化5】

【0067】
TNPEGの作製:
THPEG(0.2395mmol、4.79g、1.0equiv)をTHFに溶解させ、0.7mol/lグルタル酸/THF溶液(4.790mmol、6.85mL、20equiv)を加え、Ar存在下、6時間攪拌した。反応終了後、2−プロパノールに滴下し、遠心分離機に3回かけた。得られた白色固体は300mLナスフラスコに移し、エバポレーターにより溶媒を減圧留去した。残渣をベンゼンに溶解させ、不溶物を濾過によって取り除いた。得られた濾液を凍結乾燥により溶媒を除去することで、末端がカルボキシル基で修飾された白色固体のTetra−PEG−COOHを得た。このTetra−PEG−COOH(0.2165mmol、4.33g、1.0equiv)をTHFに溶解させ、N−ハイドロスクシンイミド(2.589mmol、0.299g、12equiv)、N、N’−ジイソプロピルスクシンイミド(1.732mmol、0.269mL、8.0equiv)を加え、3時間、40℃で加熱攪拌した。反応終了後、エバポレーターにより溶媒を減圧留去した。クロロホルムに溶解させ、飽和食塩水で3回抽出し、クロロホルム層を取り出した。さらに、硫酸マグネシウムで脱水、濾過を行った後、エバポレーターにより溶媒を減圧留去した。得られた残渣のベンゼン凍結乾燥を行い、白色固体のTNPEGを得た。作製したTNPEGの化学式は式(IIa)に示した。式(IIa)中、n21〜n24は、TNPEGの分子量が約10、000(10k)のとき45〜55であり、分子量が約20、000(20k)のとき90〜115であった。
【化6】

【0068】
上記により得た、分子量20、000のTAPEG(Ia)とTNPEG(IIa)を160mg/mLの濃度で100mMのリン酸緩衝溶液(pH7.4)、クエン酸・リン酸緩衝溶液(pH5.8)に溶解させた。得られた溶液を二液混合シリンジにロードし、ガラスプレート平面上に展開することによって、種々の形状のハイドロゲルを作製した。
【実施例2】
【0069】
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([Cmim][NTf])を含むゲル状組成物の作製:
実施例1で得られたハイドロゲルを1日静置した。その後、純水中、37℃で1日膨潤させた後、大気圧下で1日乾燥させた(脱ゾル・脱塩)。次に、トルエン中、50℃で1日膨潤させた後、減圧下で1日乾燥させた(共沸による脱水)。乾燥させたゲルを、エタノールとイオン液体を任意の比率で混合させた溶液に浸漬し、50℃以下で5日間膨潤させた。平衡膨潤に達したゲルを、減圧下で2日間乾燥させエタノールのみを揮発させ除去することによって、目的のゲル状組成物を得た。
【実施例3】
【0070】
1-ブチル3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート([C4mim][PF])を含むゲル状組成物の作製:
イオン液体として[C4mim][PF]を用いた以外は、実施例2と同様の工程により、ゲル状組成物を得た。
【実施例4】
【0071】
1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート([Cmim][BF])を含むゲル状組成物の作製:
イオン液体として[Cmim][BF]を用いた以外は、実施例2と同様の工程により、ゲル状組成物を得た。
【実施例5】
【0072】
ジエチルメチルアンモニウム トリフオロメタンスルホネート([DEMA][TfO])を含むゲル状組成物の作製:
イオン液体として[[DEMA][TfO]を用いた以外は、実施例2と同様の工程により、ゲル状組成物を得た。
【0073】
実施例2〜5において作製したゲル状組成物については、下記表1に示すとおり、いずれもイオン液体により再膨潤することが観察され、均一な薄膜が得られた。
【表1】

【0074】
エタノール:イオン液体(「IL」)の比率を変えて作製したゲル状組成物について、混合溶液への浸漬によって平衡膨潤に達した際のゲルの重量、及びエタノールを除去した後のゲルの重量の比較を図1に示す。これにより、混合溶媒中のイオン液体の比率高いほど、最終乾燥後のゲル重量は重くなり、すなわち、より多くのイオン液体がゲル状組成物中に取り込まれていることが分かる。従って、混合溶媒:イオン液体の比率を調整することにより、所望のイオン液体含有量を有するゲル状組成物が得られることを示された。
【0075】
図2は、図1の場合と同様にエタノール:イオン液体の比率を変えて作製したゲル状組成物中のポリマー分率の変化を示すものである。これにより、イオン液体の増加に伴って、ゲル状組成物中に含まれるポリマー分率が減少することが分かる。従って、イオン液体の分率を変えることによって、最終的なゲル状組成物の物性の制御が可能であることが示唆される。
【0076】
次に、ゲル状組成物の弾性率の測定を行った。ゲル状組成物を高さ 30 mm, 幅
5.0 mm, 厚さ 2.0 mm に整形し、引張試験機 (Rheo
Meter: CR−500DX−SII、 Sun Scientific社製) により引張試験を行った。この際のクロスヘッドスピードは 0.15 mm/secとした。得られた応力−歪み曲線の初期勾配から弾性率を算出した。結果を図3に示す。また、上記の引張試験より得られた応力−歪曲線から破断した際の歪みを算出した結果を図4に示す。図3及び図4の結果から、ゲル組成物中のイオン液体の減少、すなわち、ポリマー分率の増加に伴い、弾性率及び変形率ともに増加することが分かった。これは、ゲル組成物中のポリマー成分が多いほど、強度を有する材料が得られることを示すものである。
【0077】
更に、種々のイオン液体分率において求めたゲル状組成物の応力−歪み曲線を図5に示す。ゲル状組成物を高さ7.5mm, 直径15mmに整形し、圧縮試験機 (Rheo Meter: CR−500DX−SII、 Sun Scientific社製) により圧縮試験を行い、応力−曲線を測定した。この際のクロスヘッドスピードは0.10 mm/secとした。その結果、用いるイオン液体の分率によって相違はあるものの、ゲル状組成物は、いずれの場合にはおいても10MPa以上の破断強度を有することが分かった。このことから、イオン液体の含有量にかかわらず、本発明のゲル状組成物が優れた強度を有するということが示唆される。
【0078】
実施例2〜5において作製したゲル状組成物について、電気伝導度の測定を行った。当該電気伝導度は交流インピーダンス法により測定した。インピーダンスアナライザーには、4192A(Hewlett−Packard) を用い、周波数範囲は13MHzから5Hzまで、電圧振幅は10mVとした。測定セルには、対向したステンレス製円盤電極の間に内径2.0mm、厚さ2.15mmのテフロン(登録商標)スペーサーを挟んだ構造の2極式セルを使用し、スペーサーの大きさに合わせて整形したゲルをセル内に封入した。セル定数はセル寸法から求めた理論値を用いた。25℃の恒温槽に1時間静置した後、測定を行った。得られた結果を表2に示す。この結果、各ゲル状組成物が電気伝導度を有し、すなわち、イオン液体を含有することによってイオン液体の電気的特性を有するゲル状組成物が得られることが明らかとなった。
【表2】

【0079】
同様に、電気伝導度におけるゲル状組成物中のポリマー分率依存性について測定した結果を図6に示す。この結果から、ポリマー分率の増大、すなわち、イオン液体の含有量の減少に伴って、電気伝導度が減少することが分かった。従って、上記電気伝導度は、イオン液体の有する特性が反映されたものであることが示唆される。
【0080】
ゲル状組成物について、CO2吸収特性を測定した。容量200mlの圧力チャンバーに直径15mm、高さ7.5mmのイオン液体ゲルを封入した後、COを導入し、内圧を1MPaとした。30分静置した後の内圧を測定することによって行った。結果を表3に示す。この結果、本発明のゲル状組成物は、イオン液体と同程度のCO吸収特性を有することが明らかとなった。
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコール骨格を有するポリマー、及びイオン液体を含むゲル状組成物であって、当該ポリマーが前記ポリエチレングリコール骨格の架橋により網目構造を有する、ゲル状組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが、ハイドロゲルを形成し得るポリマーである、請求項1に記載のゲル状組成物。
【請求項3】
前記ポリマーが、下記式(I)及び下記式(II)で表される化合物を含み、当該化合物の互いの末端がアミド結合で架橋することにより網目構造を有する、請求項1に記載のゲル状組成物。
【化1】


(ここで、式(I)中、n11〜n14は、それぞれ同一又は異なり、25〜250の整数を示すものであり、
前記式(I)中、R11〜R14は、それぞれ同一又は異なり、C−Cアルキレン基、C−Cアルケニレン基、−NH−R15−、−CO−R15−、−R16−O−R17−、−R16−NH−R17−、−R16−CO−R17−、−R16−CO−NH−R17−、−R16−CO−R17−、又は−R16−CO−NH−R17−を示し、ここで、R15はC−Cアルキレン基を示し、R16はC−Cアルキレン基を示し、R17はC−Cアルキレン基を示す。)
【化2】

(ここで、式(II)中、n21〜n24は、それぞれ同一又は異なり、20〜250の整数を示すものであり、
前記式(II)中、R21〜R24は、それぞれ同一又は異なり、C−Cアルキレン基、C−Cアルケニレン基、−NH−R25−、−CO−R25−、−R26−O−R27−、−R26−NH−R27−、−R26−CO−R27−、−R26−CO−NH−R17−、−R26−CO−R27−、又は−R26−CO−NH−R27−を示し、ここで、R25はC−Cアルキレン基を示し、R26はC−Cアルキレン基を示し、R27はC−Cアルキレン基を示す。)
【請求項4】
前記イオン液体が、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、及びジエチルメチルアンモニウム トリフオロメタンスルホネートよりなる群から選択される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項5】
10MPa以上の圧縮破断強度を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項6】
0.001〜0.007S/cmである電気伝導度を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項7】
ゲル状組成物に含有されるイオン液が固有に示す電気伝導度の40%〜80%の電気伝導度を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項8】
CO吸収特性を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のゲル状組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のゲル状組成物よりなる薄膜。
【請求項10】
イオン液体を含むゲル状組成物の製造方法であって、
(a)親水性ポリマーを含むハイドロゲルを乾燥させて脱水する工程、
(b)前記工程(a)により得られた脱水物を前記イオン液体と有機溶媒との混合溶液に浸漬させゲル化させる工程、及び、
(c)前記工程(b)により得られた組成物を乾燥させ、前記有機溶媒を除去する工程、
を含む、製造方法。
【請求項11】
前記親水性ポリマーがポリエチレングリコール骨格を有し、前記ポリエチレングリコール骨格が架橋することにより網目構造を有する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記親水性ポリマーが、下記式(I)及び下記式(II)で表される化合物を含み、当該化合物の互いの末端がアミド結合で架橋することにより網目構造を有する、請求項10に記載の製造方法。
【化3】

(ここで、式(I)中、n11〜n14は、それぞれ同一又は異なり、25〜250の整数を示すものであり、
前記式(I)中、R11〜R14は、それぞれ同一又は異なり、C−Cアルキレン基、C−Cアルケニレン基、−NH−R15−、−CO−R15−、−R16−O−R17−、−R16−NH−R17−、−R16−CO−R17−、−R16−CO−NH−R17−、−R16−CO−R17−、又は−R16−CO−NH−R17−を示し、ここで、R15はC−Cアルキレン基を示し、R16はC−Cアルキレン基を示し、R17はC−Cアルキレン基を示す。)
【化4】

(ここで、式(II)中、n21〜n24は、それぞれ同一又は異なり、20〜250の整数を示すものであり、
前記式(II)中、R21〜R24は、それぞれ同一又は異なり、C−Cアルキレン基、C−Cアルケニレン基、−NH−R25−、−CO−R25−、−R26−O−R27−、−R26−NH−R27−、−R26−CO−R27−、−R26−CO−NH−R17−、−R26−CO−R27−、又は−R26−CO−NH−R27−を示し、ここで、R25はC−Cアルキレン基を示し、R26はC−Cアルキレン基を示し、R27はC−Cアルキレン基を示す。)
【請求項13】
前記イオン液体が、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-ブチル3-メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、及びジエチルメチルアンモニウム トリフオロメタンスルホネートよりなる群から選択される、請求項10乃至12のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−60504(P2013−60504A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198851(P2011−198851)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】