説明

イカ墨色素粒子の製造方法及び有機顔料又は染料並びにこれらを用いた複写機用トナー、水性インク、油性インク又は頭髪用染料

【課題】複写機用トナー、水性インク、油性インク又は頭髪用染料用原料として有用な、黒色又はは黒褐色のメラニン色素を含む微細なイカ墨色素粒子を提供する。
【解決手段】イカの墨汁嚢を乾燥・粉砕及び洗浄後、イカ墨を蛋白質分解酵素を用いて、酵素濃度をイカ墨の乾燥重量に対して0.1〜1%の範囲、pH7〜10の範囲で第1回目の酵素反応を行った後1000kDaの限外ろ過膜により不純物を除去して精製し、この精製したイカ墨を、第1回目の酵素反応よりも、濃度及びpHを上げた、酵素濃度をイカ墨の乾燥重量に対して5〜20%の範囲、pH9〜11の範囲で第2回目の酵素反応を行い、さらにこれを1000kDaの限外ろ過膜によりろ過して、145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子を製造することを特徴とするイカ墨色素粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イカの墨汁嚢から得た有機顔料又は染料及びその製造方法並びにこれらを用いた複写機用トナー、水性インク、油性インク又は頭髪用染料に関する。
【背景技術】
【0002】
イカの墨汁嚢は、一般に「イカごろ」と呼ばれているイカの肝臓に付着している小さな袋状物を形成しており、イカごろ全体の約2.5%程度のわずかな量である。イカの墨をその中に有している。
イカごろを塩辛などの食品として使用する場合には、通常このイカの墨汁嚢を取外して使用されている。しかし、このイカごろ自体も食品として使用されるのは、イカの漁獲量のごく一部にすぎない。
一方、イカの墨汁嚢の利用例はさらに少なく、例外的にこのイカ墨を塩辛の中に入れる「くろづくり」と言われている塩辛があり、また、イタリア料理等の調味料として「イカ墨」使用する場合がある程度である。
このように、イカの墨汁嚢は、特殊な食品に使用されるものを除き、イカごろと同様に、殆ど廃棄されているのが現状である。
【0003】
イカの墨汁嚢の内容物は、水分を除くと約90%の色素粒子であり、残部が脂質と蛋白質である。また、極微量の多糖類も含有されている。
イカの墨汁嚢はメラニン色素を含み、鮮やかな黒色又は黒褐色を呈している。このイカの墨汁嚢内の黒色又は黒褐色のメラニン色素粒子は、脂質及び蛋白質などによって1個の粒子を補助する形で、数百個以上の強固な固まりの二次粒子となって凝集している。
【0004】
このような黒色又は黒褐色のメラニン色素粒子を含むイカの墨汁嚢の内容物を洗浄・抽出して、上記のように特殊な食品添加物の色素などに利用している場合もあるが、それは固まりとなって凝集した数十μmの凝集体をそのまま利用する程度のことであり、広範囲な利用は望めなかった。以上の従来技術については、本出願人が先に提出した出願に述べているものである(特許文献1参照)。イカ墨を原料とした有機顔料又は染料の開発は殆んどないことから、改めて従来技術を述べた。
また、上記の点に鑑みて、本発明者らは、粒径が1μm以下の粒子からなるイカの墨汁嚢から得た粉末の有機顔料又は染料及びイカの墨汁嚢を乾燥・粉砕及び洗浄後、イカ墨を蛋白質分解酵素を用いて酵素反応させる有機顔料又は染料の製造方法を提案した(同特許文献1参照)。
【0005】
これまでの技術においては、本発明者らが提案した上記特許文献1に記載する技術は画期的なものであった。しかし、昨今さらに改良が求められ、色素粒子径が100nm以下のオーダーにまで要求があり、また色素粒子径の多様性が求められている。
顔料系インクと染料系インクでは、それぞれ特質(長所と短所)があるが、それらの特質を利用した中間系が求められこともある。このようなことから、さらに粒子径を微細化するとともに、各粒子系の選択できるようにすることも必要である。
【特許文献1】特開2005−97600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、イカの墨汁嚢を利用し、これを廃棄することなく、黒色又は黒褐色のメラニン色素を含む微細な粒子を抽出して有機顔料又は染料を得、それらを使用して複写機用トナー、水性インク、油性インク又は頭髪用染料用原料を提供することである。特に、粒子の100nm以下にまで微細化を図ると共に、顔料系及び染料系として、選択が可能となるイカ墨色素粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、黒色又は黒褐色のメラニン色素粒子を含むイカの墨汁嚢の内容物は、脂質及び蛋白質などによって1個の粒子が数百個以上の二次粒子となって強固に凝集していることを見出し、この脂質及び蛋白質などを除去・分離させることによって、メラニン色素粒子を含む微細かつ均一な一次粒子が得られるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。さらに、製造工程を多段工程として粒子の微細化を図ると共に、各段階において、特定の粒子系を持つイカ墨色素粒子を得るようにしたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
1)イカの墨汁嚢を乾燥・粉砕及び洗浄後、イカ墨を蛋白質分解酵素を用いて、酵素濃度をイカ墨の乾燥重量に対して0.1〜1%の範囲、pH7〜10の範囲で第1回目の酵素反応を行った後1000kDaの限外ろ過膜により不純物を除去して精製し、この精製したイカ墨を、第1回目の酵素反応よりも、濃度及びpHを上げた、酵素濃度をイカ墨の乾燥重量に対して5〜20%の範囲、pH9〜11の範囲で第2回目の酵素反応を行い、さらにこれを1000kDaの限外ろ過膜によりろ過して、145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子を製造することを特徴とするイカ墨色素粒子の製造方法
2)上記1)における第2回目の酵素反応を行った後の、1000kDaの限外ろ過膜を透過した透過液を、さらに100kDaの限外ろ過膜によりろ過し、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子を製造することを特徴とするイカ墨色素粒子の製造方法
3)上記2)における100kDaの限外ろ過膜を透過した透過液を、さらに30kDaの限外ろ過膜によりろ過し、3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子を製造することを特徴とするイカ墨色素粒子の製造方法
4)前記1)から3)の各工程により得た145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子及び3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子の、いずれか1種以上を混合することを特徴とするイカ墨色素粒子の製造方法
5)イカ墨色素粒子からなり、145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子又は3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子のいずれか一種の単分散粒子又はこれらの混合物のイカ墨色素粒子からなる有機顔料又は染料
6)上記5)の有機顔料又は染料を用いた複写機用トナー、水性インク、油性インク又は頭髪用染料、を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
従来、殆ど廃棄されてきたイカの墨汁嚢を、単なる食品添加剤又はたれとして使用するだけでなく、そこから抽出できる黒又は黒褐色の粒子を得ることにより、顔料として又は染料として有効利用できるという優れた効果を有する。
また、このようにして得られた多様な粒度分布を持つ単分散粒子のメラニン色素を備えた均一な粒子は、天然の有機性の顔料又は染料であり、使用後において、環境を汚染することもない材料である。上記のように、本発明の顔料又は染料は、地域によっては産業廃棄物として取り扱われてきたイカの墨汁嚢を有効利用することができるという極めて優れた効果を有する。
さらに、製造工程を多段工程として100nm以下の粒子径にまで、粒子の微細化を図ると共に、各段階において、特定の粒子系を持つイカ墨色素粒子を得ることができる。特に、顔料系インクと染料系インクの特質(長所と短所)を生かして、各粒子系を選択できるという著しい効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本願発明は、上記の通り、イカ墨色素粒子をnmオーダーから100nmオーダーの各範囲で、粒子径を制御する技術及びそれによって得られたイカ墨色素粒子に関する。色素の粒子径を制御できることは、製品の応用を飛躍的に広げる、すなわち市場性を飛躍的に増大させる技術である。
本願発明の優れた有用性を理解し易くするために、顔料と染料について、以下に簡単に説明する。色素には、大きく分けて染料と顔料がある。両者の分類は業界により多少の違いはあるが、基本的には、その色素が溶媒に溶解する染料か、固体として分散状態にある顔料か、によって区別される。
【0011】
インク業界では、およそ色素が数十nm〜数百nmのインクを顔料系インクと呼んでいる。染料は溶媒に対して溶解するという表現をしているが、溶解という意味を考えると、分子レベルで均一に分散している状態を意味し、有機染料等はその単分子の分子量から推定して、分散している粒子の粒子径は、数nm以下と考えられる。
イカ墨の色素は、メラニン色素であるため不溶であるが、数nm以下で分散させた場合には、染料と同等に扱うことが可能となる。この意味では、イカ墨は、粒子径を制御することにより、染料と顔料との二つの顔(機能)を持つと言える。また換言すれば、その中間の機能又は双方の機能を同時に持つことも可能となるものである。
【0012】
染料と顔料の両方を使用する代表的なインクとして、インクジェットプリンターのインクがある。この特性の違いを端的に述べると、「発色が良く画質に優れた染料系」と「にじます、耐水性及び耐光性に優れた顔料系」になる。色素が溶媒に溶けている染料系インク(粒子が分子レベルの大きさ)は、用紙に染み込んで発色する。
インクを重ね合わせて細かな色合いを表現できるため、写真などを高画質で印刷する場合に利用される。しかし、色素分子に水や紫外線等が直接作用すると、耐水性や耐光性が弱く、普通紙の印刷ではにじみ易いという欠点を持つ。
【0013】
一方、色素が溶媒に分散している顔料系インクでは、にじみにくく、耐水性や耐光性にも優れている。しかし、染料系インクに較べて、細かな色表現には向かないという欠点がある。このため、顔料系及び染料系の双方の特性が活かせる色素粒子が求められている。そもそも顔料系色素粒子と染料系色素粒子では、材料が異なるため、単純な混合では、双方の特性を合わせ持たせるということは、本質的に非常に難しいという問題がある。仮に、同質材料で、顔料と染料の性質を備えることができれば、大きな可能性を有していると言える。
本願発明のイカ墨色素粒子は、粒子径を変えることにより、この顔料と染料の性質を持たせることが可能な、数少ない材料の一つと言える。
【0014】
本発明の、イカの墨汁嚢から粒径が1μm以下の粒子からなる有機顔料又は染料となる粉末を抽出するに際しては、まずイカの墨汁嚢を必要に応じて、乾燥・粉砕を行う。
一方、工業用アルカリ性プロテアーゼなどの蛋白質分解酵素を、pH7〜10の緩衝液に溶解し、酵素溶液を準備する。酵素の添加量は、イカ墨の乾燥重量に対して0.1〜1%の範囲とする。添加量の下限値0.1%は、実効性のある酵素反応を行うために必要な量であり、1%を超える添加を行っても効果が飽和するだけなので、上限値を1%とした。この場合、イカ墨の容量に対して1〜3倍の酵素溶液を使用することになる。
【0015】
次に、この酵素溶液にイカの墨汁嚢から取り出した内蔵物を酵素溶液に入れ、酵素反応させる。イカの墨汁嚢の量は酵素溶液と通常同量で良いが、その比率を変えても特に問題はない。適宜生産効率を考慮して変えることができる。
酵素反応は35〜50°C程度で行うが、この温度も特に制限されるものではなく、生産効率を考慮して適宜変えることができる。
イカの墨汁嚢内に存在する粒子の電子顕微鏡写真を図1に示す。この図1に示すように、粒子径が数十μmの凝集体を形成している。これは、蛋白質及び脂質によって、一次粒子が強固に凝集したものである。
【0016】
酵素反応させるに際しては、攪拌するのが望ましい。特に回転数50〜200rpmで回転振動させるのが良い。攪拌を増加させるにしたがって収率が向上する傾向にある。通常、酵素反応は30分から30時間程度行う。
これは、反応の収率と生産効率の問題であり、特にこの時間に制限されるものではなく、適宜変更することができる。蛋白質及び脂質により強く凝集していた数十ミクロン凝集体は、酵素反応により解体・分離され、一次粒子の分散体となる。
【0017】
酵素反応を終了させた後、5〜30°C、150〜300Gで、5〜60分間遠心分離を行う。得られた液の上澄みをろ過器によりろ過し、黒色又は黒褐色の色素粒子が得られる。上澄み液の採取によっては、0.1μmのフィルターの上に残ったものを収集する場合、また1μmのフィルターを通過した粒子を収集する場合があり、いずれか又は双方を使用して、粒径が1μm以下の粒子の粉末を得る。
【0018】
限外ろ過膜を用いることにより、酵素反応処理後の遠心分離を省略することができる。すなわち、この限外ろ過方法を採用した場合は、分離・濃縮・精製(不純物除去)を同時に行うことができる。これは限外ろ過法の特徴である。
例えば、酵素反応処理を終了させたイカ墨混合液を、分画分子量1000kDaの限外ろ過膜を用い、循環型のろ過装置を使用して濃縮し、1/5以下に減容した濃縮イカ墨色素粒子懸濁液を得る。上記限外ろ過膜の使用条件は、必要に応じて変更可能である。
【0019】
この濃縮液を純水などで希釈し再度濃縮を行うという、濃縮と希釈を繰り返すことで、イカ墨色素粒子懸濁液の純度を上げることができる。この繰返は3回程度で十分であるが、必要に応じてそれ以上実施しても良い。
粉末を得るに際しては、限外ろ過の後、フィルターによってろ過し粉末を得る工程、又は限外ろ過の後、乾燥して粉末を得る工程、のいずれを用いても良い。
上記によって得られた粉末の電子顕微鏡写真を図2に示す。いずれも、図2に示すように、粒子の粒径は1μm以下、特にサブミクロンの球体のメラニン色素を有するイカ墨色素粒子が得られる。透過液は不純物を含有するもので、廃棄する。
【0020】
このように、第1回目の酵素反応を行った後1000kDaの限外ろ過膜により不純物を除去して精製し、この精製したイカ墨を、第1回目の酵素反応よりも、酵素量とpHを高くし、すなわち酵素濃度をイカ墨の乾燥重量に対して5〜20%の範囲、pH9〜11の範囲にして、第2回目の酵素反応を行う。この場合、至適pH(最大活性が得られるpH値)である10.0又はその近傍を使用するのが蛋白質の分解に有効である。このpHにおいて、アルカリ性プロテアーゼが有効に作用することが確認できる。
反応温度は50°C〜65°Cとするのが好適であるが、特に温度については制限がない。前記効果的な酵素反応を行うためには、酵素量は少なくとも5%が必要であり、また上限の量はコスト面から考えて20%が適当である。通常、10%程度の酵素量を使用する。
反応時間は12時間以上となる。この反応時間は酵素濃度、反応温度、pHにより変化する。また、この酵素反応中に断続的に25kHz〜40kHzの超音波をかけると反応効率が上がる。次に得られた酵素反応後の液を、1000kDaの限外ろ過膜によりろ過して、145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散イカ墨色素粒子を含有する濃縮物を得る。透過液は微細粒子を含有する。
【0021】
次に、第2回目の酵素反応を行った後、1000kDaの限外ろ過膜を透過した透過液を、さらに100kDaの限外ろ過膜によりろ過することにより、濃縮物として、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子を製造することができる。透過液はさらに微細粒子を含有する。
次に、前記100kDaの限外ろ過膜を透過した透過液を、さらに30kDaの限外ろ過膜によりろ過し、濃縮物として、3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散イカ墨色素粒子を得ることが可能となる。
【0022】
上記の各工程により、145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子、3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子のイカ墨色素粒子を得ることができる。これらは、必要に応じて、単独でも使用できるし、またこれらのいずれか1種以上を混合して使用することもできる。また、他の色素と混合使用することもできる。
これらの単分散粒子のいずれか一種の単分散粒子又はこれらの混合物のイカ墨色素粒は有機顔料又は染料として使用でき、またこれら有機顔料又は染料を用いた複写機用トナー、水性インク、油性インク又は頭髪用染料として使用することもできる。本願発明はこられを全て含むものである。
【0023】
以上に説明したイカ墨色素粒のサイズ毎(nmオーダー)毎に、色素精製プロセスを説明する例を、図3に示す。この図3における反応条件A及び反応条件Bは、それぞれ既に説明したものであるが、ここでも改めて記述する。
[反応条件A]: 酵素の濃度は、イカ墨の乾燥重量に対して0.1〜1%の範囲とする。また、pH7〜10の範囲とし、酵素反応は、30分〜30時間程度行う。
[反応条件B]: 酵素濃度は、イカ墨の乾燥重量に対して5〜20%の範囲とする。また、pH9〜11の範囲とし、酵素反応は、12時間以上行う。
【実施例】
【0024】
次に、実施例について説明する。なお、この実施例は本発明の理解を容易にするためのものであり、この実施例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の基づく、他の態様若しくは変形又は実施条件若しくは実施例は全て本発明に含まれるものである。
【0025】
(実施例1)
イカの墨汁嚢を必要に応じて、乾燥・粉砕を行った。一方、蛋白質分解酵素である工業用アルカリ性プロテアーゼを、pH7.0の緩衝液に溶解し、酵素溶液を準備した。酵素の添加量はイカ墨の乾燥重量に対して0.25%に調製した。
次に、前記イカの墨汁嚢から取り出した内蔵物を、この酵素溶液に同量入れた。酵素反応は50°Cで、回転数130rpmにより攪拌しながら24時間反応させた。
酵素反応を終了させた後、1000kDaを用いて、限外ろ過を行った。精製物(濃縮物)として、黒色又は黒褐色の色素粒子を得た。平均粒子径は330nmであった。
【0026】
この工程(プロセスのフローチャート)を図4に示すが、図4における1段階目の工程である。透過液は不純物であり、廃棄する。なお、実施例4のSEM画像にnmオーダーの微細粒子が存在することを分かりやすくするために、図8に、SEMのステージ上に何も載せないで撮影したSEM画像を示す。
【0027】
(実施例2)
上記実施例1において、第1回目の酵素反応を行った後1000kDaの限外ろ過膜により不純物を除去して精製し、この精製したイカ墨を、第1回目の酵素反応よりも、濃度及びpHを高くし、すなわち酵素濃度をイカ墨の乾燥重量に対して10%の範囲、pH10の範囲にして、第2回目の酵素反応を行った。
反応温度は50 °Cとした。反応時間は24時間とした。この酵素反応中に断続的に30kHzの超音波をかけた。次に得られた酵素反応後の液を、1000kDaの限外ろ過膜によりろ過して、145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散イカ墨色素粒子を含有する濃縮物を得た。これによって得たイカ墨色素粒子のSEM画像と粒度分布を図5に示す。この範囲の粒子径では、顔料系の範囲にあると言える。
平均粒子径は316nmであった。透過液は、さらに微細粒子を含有する。図4のプロセスのフローチャートにおいて、実施例2の工程は、2段階目に相当する。
【0028】
(実施例3)
次に、第2回目の酵素反応を行った後、1000kDaの限外ろ過膜を透過した透過液を、さらに100kDaの限外ろ過膜により、ろ過した。これによって、濃縮物として、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子を得た。平均粒径は16nmであった。これによって得たイカ墨色素粒子のSEM画像と粒度分布を図6に示す。この範囲の粒子径では、顔料系と染料系の中間の範囲にあると言える。透過液は、さらに微細粒子を含有する。図4のプロセスのフローチャートにおいて、実施例3の工程は、3段階目に相当する。
【0029】
(実施例4)
次に、前記100kDaの限外ろ過膜を透過した透過液を、さらに30kDaの限外ろ過膜によりろ過し、濃縮物として、3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散イカ墨色素粒子を得た。平均粒径は4nmであった。これによって得たイカ墨色素粒子のSEM画像と粒度分布を図7に示す。この範囲の粒子径では、染料系の範囲にあると言える。透過液は不純物となるので、廃棄する。図4のプロセスのフローチャートにおいて、実施例2の工程は、4段階目に相当する。
【0030】
上記の各段階の工程により、145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子、3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子のイカ墨色素粒子を得ることができる。これらは、必要に応じて、単独でも使用できるし、またこれらのいずれか1種以上を混合して使用することもできる。また、他の色素と混合使用することもできる。
これらの単分散粒子のいずれか一種の単分散粒子又はこれらの混合物のイカ墨色素粒は有機顔料又は染料として使用でき、またこれら有機顔料又は染料を用いた複写機用トナー、水性インク、油性インク又は頭髪用染料として使用することもできる。本願発明はこられを全て含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
廃棄されてきたイカの墨汁嚢を、単なる食品添加剤又はたれとして使用するだけでなく、そこから抽出できる黒又は黒褐色の粒子を得ることにより、顔料として又は染料として有効利用できるという優れた効果を有する。さらに、製造工程を多段工程として100nm以下の粒子径にまで、粒子の微細化を図ると共に、各段階において、特定の粒子系を持つイカ墨色素粒子を得ることができる。特に、顔料系粒子と染料系粒子の特質(長所と短所)を生かして、各粒子系を選択できるという著しい効果を有する。
したがって、複写機用トナー、水性インク、油性インク、頭髪用染料、インクジェット用顔料、化学物質過敏症用色素、コスメチック用顔料、有害光線阻止剤、熱線吸収剤、光エネルギー伝達体、医療用剤等の様々な顔料又は染料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】イカの墨汁嚢内に存在する粒子の電子顕微鏡写真である。
【図2】本願実施例1である1段階目の粉末の電子顕微鏡写真
【図3】イカ墨色素粒子のサイズ(nmオーダー)毎に、色素精製プロセスを説明する図である。
【図4】本願発明の実施例の各工程を、簡潔に説明する図である(プロセスのフローチャート)。
【図5】実施例2の工程で得たイカ墨色素粒子のSEM画像と粒度分布を示す図である。
【図6】実施例3の工程で得たイカ墨色素粒子のSEM画像と粒度分布を示す図である。
【図7】実施例4の工程で得たイカ墨色素粒子のSEM画像と粒度分布を示す図である。
【図8】実施例4のSEM画像にnmオーダーの微細粒子が存在することを分かりやすくするために、SEMのステージ上に何も載せないで撮影したSEM画像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イカの墨汁嚢を乾燥・粉砕及び洗浄後、イカ墨を蛋白質分解酵素を用いて、酵素濃度をイカ墨の乾燥重量に対して0.1〜1.0%の範囲、pH7〜10の範囲で第1回目の酵素反応を行った後1000kDaの限外ろ過膜により不純物を除去して精製し、この精製したイカ墨を、第1回目の酵素反応よりも、濃度及びpHを上げた、酵素濃度をイカ墨の乾燥重量に対して5〜20%の範囲、pH9〜11の範囲で第2回目の酵素反応を行い、さらにこれを1000kDaの限外ろ過膜によりろ過して、145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子を製造することを特徴とするイカ墨色素粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1における第2回目の酵素反応を行った後の、1000kDaの限外ろ過膜を透過した透過液を、さらに100kDaの限外ろ過膜によりろ過し、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子を製造することを特徴とするイカ墨色素粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項2における100kDaの限外ろ過膜を透過した透過液を、さらに30kDaの限外ろ過膜によりろ過し、3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子を製造することを特徴とするイカ墨色素粒子の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3の各工程により得た145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子及び3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子の、いずれか1種以上を混合することを特徴とするイカ墨色素粒子の製造方法。
【請求項5】
イカ墨色素粒子からなり、145〜486nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子、10〜51nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子又は3〜9nmの範囲に中心を持つ正規分布の単分散粒子のいずれか一種の単分散粒子又はこれらの混合物のイカ墨色素粒子からなる有機顔料又は染料。
【請求項6】
請求項5の有機顔料又は染料を用いた複写機用トナー、水性インク、油性インク又は頭髪用染料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−46621(P2009−46621A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215490(P2007−215490)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:平成18年度函館工業高等専門学校物質工学科卒業研究発表会 主催者:函館工業高等専門学校 開催日:平成19年2月26日
【出願人】(000173511)財団法人函館地域産業振興財団 (32)
【出願人】(800000024)北海道ティー・エル・オー株式会社 (20)
【Fターム(参考)】