説明

イグニッションスイッチ装置

【課題】ロータを所定方向及びその逆方向に回転させた場合であっても、シートロック解除を行わせることができ、オフ位置、オン位置及びステアリングロック位置のそれぞれからシートロック解除を行わせ得るよう設定できるイグニッションスイッチ装置を提供する。
【解決手段】シートロック解除位置が設定されるとともに、シートロックを解除可能なシートロック用作動子8と、シートロック用作動子8を押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得る所定方向用凸部(6a、6b)が突出形成された第2カム部材6と、一端を中心として揺動可能に配設されるとともに、他端がシートロック用作動子8に係止された作動アーム7と、ロータ2が所定方向とは逆方向に回転した際、作動アーム7を揺動させてシートロック用作動子8を非作動位置から作動位置に動作させ得る反所定方向用凸部6cとを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車等の車両に配設されて、エンジンの始動及びステアリングのロックを可能とするイグニッションスイッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二輪車等の車両に配設されたイグニッションスイッチ装置は、通常、イグニッションキーを挿通した状態にて、オフ位置と、該オフ位置から一方の回転方向に設定されて車両のエンジンを始動させ得るオン位置と、オフ位置から他方の回転方向に設定されて車両のステアリングをロックするステアリングロック位置との間を回転操作可能とされ、オフ位置から他方の回転方向に押圧しつつ回転させてステアリングロック位置に至るよう構成されていた。
【0003】
然るに、イグニッションスイッチ装置において、従来より、例えば車両のシートロックを解除してシートを開放可能とするシートロック解除位置をロータの回転位置の一つに設定するとともに、シートロックとワイヤを介して連結され、非作動位置から作動位置に動作することにより当該シートロックを解除可能なスライダと、ロータの回転と連動し得るとともに、当該ロータの所定方向の回転によりスライドを押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得る突出部が形成されたカム部材とを具備したものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−266663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のイグニッションスイッチ装置においては、ロータを所定方向に回転させることによりスライダを非作動位置から作動位置まで動作させてシートロックを解除させ得るものの、当該ロータを所定方向とは逆方向に回転させた際にも同様にスライダを非作動位置から作動位置まで動作させることが困難とされていた。即ち、ロータを所定方向に回転させた場合と、その逆方向に回転させた場合とでは、突出部のスライドに対する押圧方向が逆となってしまうことから、所定方向に回転させた場合及び逆方向に回転させた場合の両方でスライドを非作動位置から作動位置に動作させることができないのである。
【0006】
従って、従来のイグニッションスイッチ装置においては、ロータの複数の回転位置でシートロックの解除操作を行わせる際、ロータの操作方向を同一としなければならないという不具合があった。特に、オフ位置、オン位置及びステアリングロック位置のそれぞれからシートロック解除を行わせ得るものとした場合、ロータの各回転操作方向を同一に設定するのは極めて困難となっていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ロータを所定方向及びその逆方向に回転させた場合であっても、シートロック解除を行わせることができ、オフ位置、オン位置及びステアリングロック位置のそれぞれからシートロック解除を行わせ得るよう設定できるイグニッションスイッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、イグニッションキーを挿通した状態にて、オフ位置と、該オフ位置から一方の回転方向に設定されて車両のエンジンを始動させ得るオン位置と、前記オフ位置から他方の回転方向に設定されて車両のステアリングをロックするステアリングロック位置との間を回転操作可能とされ、前記オフ位置から他方の回転方向に押圧しつつ回転させて前記ステアリングロック位置に至るよう構成されたロータを具備したイグニッションスイッチ装置において、前記オフ位置から他方の回転方向、前記ステアリングロック位置から他方の回転方向、及び前記オン位置から一方の回転方向のそれぞれの位置であって、車両のシートロックを解除してシートを開放可能とするシートロック解除位置が設定されるとともに、前記シートロックとワイヤを介して連結され、非作動位置から作動位置に動作することにより当該シートロックを解除可能なシートロック用作動子と、前記ロータの回転と連動し得るとともに、当該ロータの所定方向の回転により前記シートロック用作動子を押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得るカム部材と、該カム部材の径方向に跨って一端を中心として揺動可能に配設されるとともに、他端が前記シートロック用作動子に係止され、前記ロータが前記所定方向とは逆方向に回転した際に揺動し、前記シートロック用作動子を非作動位置から作動位置に動作させ得る作動アームとを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のイグニッションスイッチ装置において、前記シートロック用作動子には、当該シートロック用作動子を非作動位置側に常時付勢する付勢手段が設けられたことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のイグニッションスイッチ装置において、前記カム部材は、回転中心を成す軸部が一体形成されるとともに、前記作動アームは当該軸部との干渉を避けるべく屈曲部が形成されつつ当該カム部材の直径方向に亘って延設されて成ることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載のイグニッションスイッチ装置において、前記オフ位置から一方の回転方向に押圧しつつ回転させた位置に車両の燃料タンクのキャップをオープンさせる燃料タンクオープン位置が設定されるとともに、前記燃料タンクをオープンさせる燃料タンクオープン機構とワイヤを介して連結され、非作動位置から作動位置に動作することにより当該燃料タンクをオープン可能な燃料タンクオープン用作動子と、前記カム部材に突出形成され、前記ロータが押圧されつつオフ位置から燃料タンクオープン位置に回転した際、前記燃料タンクオープン用作動子を押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得る燃料タンクオープン用凸部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、ロータが所定方向に回転した際、カム部材によりシートロック用作動子を非作動位置から作動位置まで動作させてシートロックを解除させ得るとともに、ロータが所定方向とは逆方向に回転した際、作動アームを介してシートロック用作動子を非作動位置から作動位置まで動作させてシートロックを解除させることができる。従って、ロータを所定方向及びその逆方向に回転させた場合であっても、シートロック解除を行わせることができ、オフ位置、オン位置及びステアリングロック位置のそれぞれからシートロック解除を行わせ得るよう設定できる。
【0013】
請求項2の発明によれば、シートロック用作動子には、当該シートロック用作動子を非作動位置側に常時付勢する付勢手段が設けられたので、シートロックが解除された後、シートロック用作動子を作動位置から非作動位置まで確実に戻すことができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、カム部材は、回転中心を成す軸部が一体形成されるとともに、作動アームは当該軸部との干渉を避けるべく屈曲部が形成されつつ当該カム部材の直径方向に亘って延設されて成るので、作動アームの揺動中心とシートロック用作動子に対する係止部位との間の寸法を長く設定することができ、シートロック用作動子を確実且つ良好に動作させることができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、オフ位置から一方の回転方向に押圧しつつ回転させた位置に車両の燃料タンクのキャップをオープンさせる燃料タンクオープン位置が設定されるとともに、燃料タンクをオープンさせる燃料タンクオープン機構とワイヤを介して連結され、非作動位置から作動位置に動作することにより当該燃料タンクをオープン可能な燃料タンクオープン用作動子と、カム部材に突出形成され、ロータが押圧されつつオフ位置から燃料タンクオープン位置に回転した際、燃料タンクオープン用作動子を押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得る燃料タンクオープン用凸部とを備えたので、シートロック用作動子を動作させるカム部材と燃料タンクオープン用作動子を動作させるカム部材とを共用させることができ、部品点数を増大させることなく、シートロック解除と燃料タンクオープンとを行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明の実施形態に係るイグニッションスイッチ装置を示す平面図
【図2】図1におけるII−II線断面図
【図3】同イグニッションスイッチ装置を示す分解斜視図
【図4】同イグニッションスイッチ装置における第1カム部材を示す側面図及び正面図
【図5】同第1カム部材を示す平面図
【図6】図5におけるVI−VI線断面図
【図7】同イグニッションスイッチ装置におけるスライド部材を示す側面図及び平面図
【図8】同スライド部材を示す裏面図
【図9】図7におけるIX−IX線断面図
【図10】図7におけるX−X線断面図
【図11】同イグニッションスイッチ装置における第2カム部材を示す側面図
【図12】同イグニッションスイッチ装置における作動アームを示す平面図及び側面図
【図13】同イグニッションスイッチ装置における第2カム部材に作動アームを組み付けた状態を示す斜視図
【図14】同イグニッションスイッチ装置におけるシートロック用作動子の動作(ロータがオフ位置からシートロック解除位置に至る際の動作)を示す模式図であって、(a)シートロック用作動子が非作動位置にある状態を示す図、(b)シートロック用作動子が作動位置にある状態を示す図
【図15】図14におけるXV−XV線断面図
【図16】同イグニッションスイッチ装置におけるシートロック用作動子の動作(ロータがステアリングロック位置からシートロック解除位置に至る際の動作)を示す模式図であって、(a)シートロック用作動子が非作動位置にある状態を示す図、(b)シートロック用作動子が作動位置にある状態を示す図
【図17】図16におけるXVII−XVII線断面図
【図18】同イグニッションスイッチ装置におけるシートロック用作動子の動作(ロータがオン位置からシートロック解除位置に至る際の動作)を示す模式図であって、(a)シートロック用作動子が非作動位置にある状態を示す図、(b)シートロック用作動子が作動位置にある状態を示す図
【図19】図18におけるXIX−XIX線断面図
【図20】同イグニッションスイッチ装置における燃料タンクオープン用作動子の動作(ロータがオフ位置から燃料タンクオープン位置に至る際の動作)を示す模式図であって、(a)燃料タンクオープン用作動子が非作動位置にある状態を示す図、(b)燃料タンクオープン用作動子が作動位置にある状態を示す図
【図21】図20におけるXXI−XXI線断面図
【図22】同イグニッションスイッチ装置における可動端子及び端子台を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係るイグニッションスイッチ装置は、二輪車等の車両に配設されて、エンジンの始動及びステアリングのロックを可能とするものであり、図1〜13に示すように、シリンダボディ1と、ロータ2と、第1カム部材3と、スライド部材4と、ロックバー5と、第2カム部材6と、作動アーム7と、シートロック用作動子8と、コイルバネ9(付勢手段)と、燃料タンクオープン用作動子10と、コイルバネ11と、可動端子12と、端子台14とから主に構成されている。
【0018】
尚、図3中符号aはロータ2を回転可能に支持する支持部材、符号bはスライド部材4を摺動可能に支持する支持板、符号cは仕切板、符号dはシリンダボディ1の下部開口を覆って塞ぐカバー部材を示している。仕切板cには、貫通孔c1が形成されており、かかる貫通孔c1を介して第1カム部材3の下端部と第2カム部材6の上端部とが係止されて組付けされるようになっている。また、符号Sは、ロータ2、第1カム部材3及び第2カム部材を上方に付勢するコイルバネを示しており、これによりロータ2の押圧操作が可能とされるとともに、押圧操作後には付勢力にて初期位置まで戻るようになっている。
【0019】
シリンダボディ1は、少なくとも上方及び下方に開口したダイカスト成型品等から成るもので、本イグニッションスイッチ装置の筐体を成すものである。かかるシリンダボディ1の上部には、略円筒状のロータ2がその軸回りに回転可能に配設されている。このロータ2は、イグニッションキーIK(図2参照)を挿通可能なキー孔2a(図1参照)が形成されるとともに、内部に複数のタンブラ2bが形成されている。
【0020】
そして、イグニッションキーIKがキー孔2aに挿通されない状態では、各タンブラ2bがシリンダボディ1側に係止してロータ2の回転が規制されているとともに、イグニッションキーIKがキー孔2aに挿通されると、各タンブラ2bによる係止が解除され、ロータ2の回転が許容されるようになっている。尚、本実施形態に係るロータ2は、その下端部に第1カム部材3との係止が可能な係止穴2cが形成されている。
【0021】
また、ロータ2は、イグニッションキーIKを挿通した状態にて、図1に示すように、オフ位置Aと、該オフ位置Aから一方の回転方向(時計周り)に設定されて車両のエンジンを始動させ得るオン位置Bと、オフ位置Aから他方の回転方向(反時計周り)に設定されて車両のステアリングをロックするステアリングロック位置Cとの間を回転操作可能とされ、オフ位置Aから他方の回転方向に押圧しつつ回転させてステアリングロック位置Cに至るよう構成されている。
【0022】
具体的には、ロータ2をオフ位置Aからオン位置Bまで回転操作すると、車両のバッテリ回路が接続されるので、その状態にて別個のスタータボタン(不図示)等を押圧操作することによりエンジンが始動し得るようになっているとともに、ロータ2をオフ位置Aから押圧しつつステアリングロック位置Cまで回転操作すると、ロックバー5をシリンダボディ1から突出する方向に摺動させ、その先端を車両のステアリング(不図示)に形成された穴内に嵌入させることによりステアリングロックが可能となっている。
【0023】
ここで、本実施形態においては、オフ位置Aから他方の回転方向(反時計周り)、ステアリングロック位置Cから他方の回転方向(反時計周り)、及びオン位置Bから一方の回転方向(時計周り)のそれぞれの位置であって、車両のシートロックを解除してシートを開放可能とするシートロック解除位置(D、E、F)が設定されている。即ち、オフ位置Aから反時計周りの位置のシートロック解除位置D、ステアリングロック位置Cから反時計周りの位置のシートロック解除位置E、及びオン位置Bから時計周りの位置のシートロック解除位置Fがそれぞれ設定されているのである。
【0024】
更に、本実施形態においては、ロータ2のオフ位置Aから一方の回転方向(時計周り)に押圧しつつ回転させた位置(本実施形態においては、オン位置B及びシートロック解除位置Dよりも更に時計回りの位置)に車両の燃料タンクのキャップをオープンさせる燃料タンクオープン位置Gが設定されている。而して、本イグニッションスイッチ装置においては、エンジンの始動及びステアリングのロックの如き汎用的機能に加え、シートロックの解除機能及び燃料タンクのキャップのオープン機能を有しているもの(所謂、多機能イグニッションスイッチ装置)とされている。
【0025】
第1カム部材3は、図4〜6に示すように、全体的に略軸状に形成された部材から成り、上端部の係止部3aと、側方に延設されたアーム部3bと、下端部の大径部3cと、該大径部3c内に形成された係合穴3caとを有している。係止部3aは、ロータ2の下端部に形成された係止穴2cに挿通されて係止される部位であり、これによりロータ2と第1カム部材3とが連結され、当該ロータ2と共に第1カム部材3が回転し得るよう構成されている。
【0026】
アーム部3bは、側方に延設しつつその先端側で下方に屈曲した部位から成る先端部3baを有して成り、ロータ2の回転操作によって第1カム部材3が回転するのに伴って同方向に回動し得るものとされている。大径部3cは、他の軸部より径が大きく設定された円形状部位から成り、その内部に第2カム部材6の上端部(係合部6ea)と係合し得る係合穴3caが形成されている。これにより、ロータ2及び第1カム部材3が回転するのに伴い、第2カム部材6を連動させて同方向に回転させ得るようになっている。
【0027】
スライド部材4は、図7〜10に示すように、全体として矩形状(ブロック状)に成形された部品から成り、当該スライド部材4の摺動方向に延びた長孔4aと、当該長孔4aから連続して左右に延びた溝4bと、ロックバー5の基端と係止可能な係止溝4cと、スライド部材4の裏面側における長孔4aに対応した位置に形成された一対の穴部r1、r2とから主に構成されている。
【0028】
長孔4aは、その幅寸法が第1カム部材3を挿通させ得る寸法に設定されており、かかる第1カム部材3を長孔4aに挿通させた状態でスライド部材4のスライド(ロックバー5の移動方向の摺動)を許容させ得るものである。また、係止溝4cは、ロックバー5の基端部と略等しい形状の凹部から成り、当該ロックバー5を係止してスライド部材4に組付け得るものとされている。
【0029】
溝4bは、第1カム部材3のアーム部3bにおける先端部3baを嵌入させ得る幅寸法に設定された有底凹部から成り、長孔4aの基端側から一方に弧状に延びた弧状部4baと、当該長孔4aの基端側から他方に短く延びた短延部4bbとから構成されている。而して、第1カム部材3が回転するのに伴い、アーム部3bが弧状部4ba側に回動すると、当該アーム部3bの先端部3baが弧状部4baに沿って移動し得るとともに、アーム部3bが短延部4bb側に回動すると、当該アーム部3bの先端部3baが短延部4bbに沿って移動する。
【0030】
このとき、弧状部4ba側に沿って先端部3baが移動する場合、当該先端部3baは弧状部4baの内壁面と干渉せず、単に先端部3baのみが移動するようになっている一方、短延部4bb側に沿って先端部3baが移動する場合、当該先端部3baは、短延部4bbにおける先端の内壁面に当接することとなり、そこから更にアーム部3bが回動することにより、スライド部材4全体を長孔4aの延設方向にスライドさせ得るようになっている。
【0031】
一対の穴部r1、r2は、それぞれ長孔4aの延設方向に並設され、長孔4aと連通した凹部から成るとともに、それぞれが第1カム部材3の大径部3cを嵌入させ得る寸法及び形状とされている。そして、ロックバー5が突出せずロータ2が押圧されない状態では、第1カム部材3の大径部3cが穴部r2に嵌入された状態となり、ロックバー5が突出してロータ2が押圧されない状態では、第1カム部材3の大径部3cが穴部r1に嵌入された状態となるよう組み付けられている。
【0032】
而して、ロータ2が押圧されない状態では、第1カム部材3の大径部3cが穴部r1又はr2の何れかに嵌入した状態となっており、スライド部材4のスライド(摺動)が規制されるとともに、ロータ2が押圧されると、第1カム部材3の大径部3cが下方に移動し、穴部r1又はr2から離脱して係合が解かれることとなり、スライド部材4のスライドが許容されるよう構成されている。
【0033】
即ち、オフ位置Aにあるロータ2を押圧することにより、大径部3cの穴部r2に対する係合を解き、その押圧状態を維持しつつ当該ロータ2を他方の回転方向(反時計回り)に回転させると、アーム部3bの先端部3baが短延部4bb側に沿って回動するので、スライド部材4がスライドしてロックバー5を突出させ、ステアリングロックがなされるのである。尚、オフ位置Aにあるロータ2を押圧しつつ一方の回転方向(時計周り)に回転させた場合は、アーム部3bの先端部3baが弧状部4ba側に沿って回動するので、スライド部材4はスライドせず、ステアリングロックはなされない。
【0034】
ここで、シリンダボディ1の下部側には、図2、3に示すように、シートロック解除のための機構、燃料タンクオープンのための機構を収容したユニットYが配設されるとともに、それより更に下部にはロータ2の回転操作に応じて所定の電気回路を形成するためのスイッチ機構(可動端子12や端子台14等から成る)が配設されている。ユニットYにおけるシートロック解錠のための機構は、シートロック用作動子8を有して成り、燃料タンクオープンのための機構は、燃料タンクオープン用作動子10を有して成るものとされるとともに、これらシートロック用作動子8及び燃料タンクオープン用作動子10を選択的に作動させる第2カム部材6が当該ユニットY内に配設されている。
【0035】
シートロック用作動子8は、車両のシートロック(不図示)とワイヤ(不図示)を介して連結され、非作動位置から作動位置に動作(摺動)することによりシートロック機構のロック部を引っ張り操作して当該シートロックを解除可能なものであり、図3に示すように、側面に凸部8aが一体形成されている。かかるシートロック用作動子8には、当該シートロック用作動子8を非作動位置側に常時付勢するコイルスプリング9(付勢手段)が設けられており、当該コイルスプリング9の付勢力に抗して非作動位置から作動位置に作動可能とされている。
【0036】
燃料タンクオープン用作動子10は、燃料タンクをオープンさせる燃料タンクオープン機構(不図示)とワイヤ(不図示)を介して連結され、非作動位置から作動位置に動作(摺動)することにより燃料タンクオープン機構を引っ張り操作して当該燃料タンクをオープンし得るものであり、図3に示すように、側面に凸部10aが一体形成されている。かかる燃料タンクオープン用作動子10には、シートロック用作動子8と同様、当該燃料タンクオープン用作動子10を非作動位置側に常時付勢するコイルスプリング11が設けられており、当該コイルスプリング11の付勢力に抗して非作動位置から作動位置に作動可能とされている。
【0037】
第2カム部材6(カム部材)は、図11、13に示すように、略円板状のカム形成部6fと、第2カム部材6の回転中心を成す軸部6eとが一体的に形成されて成り、当該軸部6eの上端部には、第1カム部材3の係合穴3caと嵌合し得る嵌合部6eaが形成されているとともに、下端部には、横方向に突出したカギ状の係合部6ebが形成されている。かかる嵌合穴3caと嵌合部6eaとは、略同一形状及び寸法とされており、これらを嵌合させることにより、第1カム部材3及び第2カム部材6が連結され、ロータ2の回転操作に応じてこれらが一体的に回転し得るよう構成されているのである。
【0038】
即ち、本実施形態に係るイグニッションスイッチ装置は、ステアリングロックのためのスライド部材4及びロックバー5を動作させる第1カム部材3と、シートロック解除及び燃料タンクオープンのためのシートロック用作動子8や燃料タンクオープン用作動子10を動作させる第2カム部材6とが別体構成とされており、これらを装置の組付け時にシリンダボディ1内で係止して組み合わせることにより一体化させているのである。
【0039】
一方、第2カム部材6は、ロータ2の回転と連動し得るとともに、図11、13に示すように、所定方向用凸部(第1所定方向用凸部6a及び第2所定方向用凸部6b)と、反所定方向用凸部6cと、燃料タンクオープン用凸部6dとがそれぞれカム形成部6fに一体形成されている。尚、同図に示すように、所定方向用凸部(第1所定方向用凸部6a及び第2所定方向用凸部6b)及び反所定方向用凸部6cはカム形成部6fの上面、燃料タンクオープン用凸部6dはカム形成部6fの裏面にそれぞれ突出形成されている。
【0040】
所定方向用凸部(第1所定方向用凸部6a及び第2所定方向用凸部6b)は、ロータ2の所定方向(反時計回り:他方の回転方向)の回転により、第2カム部材6が同方向に回転すると、シートロック用作動子8の凸部8aを押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得るものである。即ち、ロータ2をオフ位置Aから他方の回転方向(反時計周り)に回転(このとき押圧はされない)して、シートロック解除位置Dに至らせると、図14、15に示すように、第1所定方向用凸部6aが凸部8aを押圧し、シートロック用作動子8をコイルバネ9の付勢力に抗して非作動位置(図14(a)参照)から作動位置(同図(b)参照)に摺動させるとともに、ロータ2をステアリングロック位置Cから他方の回転方向(反時計周り)に回転(このとき押圧はされない)して、シートロック解除位置Eに至らせると、図16、17に示すように、第2所定方向用凸部6bが凸部8aを押圧し、シートロック用作動子8をコイルバネ9の付勢力に抗して非作動位置(同図(a)参照)から作動位置(同図(b)参照)に摺動させるのである。
【0041】
反所定方向用凸部6cは、ロータ2が所定方向とは逆方向(反時計周り:一方の回転方向)に回転した際、作動アーム7を揺動させてシートロック用作動子8を非作動位置から作動位置に動作させ得るものである。かかる作動アーム7は、第2カム部材6の径方向に跨って一端を中心として揺動可能に配設されるとともに、他端がシートロック用作動子8に係止されたもので、図12に示すように、一端に形成された揺動軸Lと、他端に形成されてシートロック用作動子8と係止される係止凸部7aと、略中央に形成された屈曲部7bとを有した板状部材から成る。また、本実施形態に係る作動アーム7は、屈曲部7bにて第2カム部材6の軸部6eとの干渉が避けられているとともに、当該第2カム部材6の直径方向に亘って延設(即ち、第2カム部材6の回転中心を通る方向)されている。
【0042】
而して、ロータ2をオン位置Bから一方の回転方向(時計周り)に回転(このとき押圧はされない)して、シートロック解除位置Fに至らせると、図18、19に示すように、反所定方向用凸部6cが作動アーム7を押圧して揺動軸Lを中心に揺動させ、係止凸部7aに係止されたシートロック用作動子8をコイルバネ9の付勢力に抗して非作動位置(図18(a)参照)から作動位置(同図(b)参照)に摺動させる。即ち、ロータ2が一方の回転方向(所定方向とは逆方向)に回転した際、作動アーム7を介して作動力を伝達させることにより、作動方向を変換し、シートロック用作動子8に対してロータ2が他方の回転方向(所定方向)に回転した際と同様の動作を行わせ得るのである。
【0043】
燃料タンクオープン用凸部6dは、ロータ2がオフ位置Aから燃料タンクオープン位置Gに回転した際、燃料タンクオープン用作動子10の凸部10aを押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得るものである。即ち、ロータ2をオフ位置Aから一方の回転方向(時計周り)に押圧しつつ回転させて燃料タンクオープン位置Gに至らせると、図20、21に示すように、燃料タンクオープン用凸部6dが凸部10aを押圧し、燃料タンクオープン用作動子10をコイルバネ11の付勢力に抗して非作動位置(図20(a)参照)から作動位置(同図(b)参照)に摺動させるのである。
【0044】
可動端子12は、図22に示すように、上端側に十字の溝12aが形成されるとともに、下端側に可動接点13が形成されたものであり、十字の溝12aに第2カム部材6の係合部6ebが挿通して係合可能とされている。即ち、ロータ2が押圧されていない状態においては、第2カム部材6の係合部6ebは、十字の溝12aに係合しており、当該ロータ2の回転に伴って、第1カム部材3及び第2カム部材6が回転すると、可動端子12も連動して回転するとともに、ロータ2が押圧されると、第2カム部材6が下降して、その係合部6ebと十字の溝12aとの係合が解かれ、当該ロータ2を回転しても可動端子21は追従せず停止状態が維持されることとなる。尚、可動端子12は、コイルバネe(図3参照)にて、常時端子台14側に付勢されている。
【0045】
端子台14は、可動端子12と対向して固定されるとともに、所定位置に固定接点15が形成されている。そして、例えばロータ2がオフ位置Aからオン位置Bに至ると、可動接点13と固定接点15とが接触して所定の電気的回路を形成し、エンジンを始動させ得る状態とするとともに、ロータ2がオン位置Bからオフ位置に至ると、可動接点13が固定接点15と離間して、当該所定の電気的回路が遮断されるようになっている。このように、可動接点12及び端子台14は、本イグニッションスイッチ装置のスイッチ機構を構成しているのである。
【0046】
而して、ロータ2がオフ位置Aから燃料タンクオープン位置Gに回転する際、当該ロータ2に対する押圧操作がなされるので、第2カム部材6の係合部6ebが十字の溝12aから離間して係合状態が解かれることとなり、可動端子12はロータ2の回転に追従しない。従って、ロータ2を押圧しつつ一方の回転方向に回転させる過程で、エンジン始動可能状態となってしまうのを回避でき、専ら燃料タンクオープンを行わせることができる。
【0047】
上記実施形態によれば、ロータ2が所定方向(他方の回転方向)に回転した際、第2カム部材6(カム部材)の所定方向用凸部(第1所定方向用凸部6a及び第2所定方向用凸部6b)によりシートロック用作動子8を非作動位置から作動位置まで動作させてシートロックを解除させ得るとともに、ロータ2が所定方向とは逆方向(一方の方向)に回転した際、第2カム部材6(カム部材)の反所定方向用凸部6cにより作動アーム7を介してシートロック用作動子8を非作動位置から作動位置まで動作させてシートロックを解除させることができる。従って、ロータ2を所定方向(他方の回転方向)及びその逆方向(一方の回転方向)に回転させた場合であっても、シートロック解除を行わせることができ、オフ位置A、オン位置B及びステアリングロック位置Cのそれぞれからシートロック解除を行わせ得るよう設定できる。
【0048】
また、シートロック用作動子8には、当該シートロック用作動子8を非作動位置側に常時付勢するコイルバネ9(付勢手段)が設けられたので、シートロックが解除された後、シートロック用作動子8を作動位置から非作動位置まで確実に戻すことができる。特に、本実施形態においては、シートロック用作動子8が作動アーム7と係止されているが、かかる状態においても、当該シートロック用作動子8を非作動位置から作動位置までスムーズ且つ確実に戻らせることができる。尚、コイルバネ9に代えて他の汎用的な付勢手段としてもよい。
【0049】
更に、第2カム部材6(カム部材)は、回転中心を成す軸部6eが一体形成されるとともに、作動アーム7は当該軸部6eとの干渉を避けるべく屈曲部7bが形成されつつ当該第2カム部材6の直径方向に亘って延設されて成るので、作動アーム7の揺動中心(揺動軸L)とシートロック用作動子8に対する係止部位(係止凸部7a)との間の寸法を長く設定することができ、シートロック用作動子8を確実且つ良好に動作させることができる。
【0050】
また更に、オフ位置Aから一方の回転方向に押圧しつつ回転させた位置に車両の燃料タンクのキャップをオープンさせる燃料タンクオープン位置Gが設定されるとともに、燃料タンクをオープンさせる燃料タンクオープン機構とワイヤを介して連結され、非作動位置から作動位置に動作することにより当該燃料タンクをオープン可能な燃料タンクオープン用作動子10と、第2カム部材6(カム部材)に突出形成され、ロータ2が押圧されつつオフ位置Aから燃料タンクオープン位置Gに回転した際、燃料タンクオープン用作動子10を押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得る燃料タンクオープン用凸部6dとを備えたので、シートロック用作動子8を動作させるカム部材と燃料タンクオープン用作動子10を動作させるカム部材とを共用させる(即ち、第2カム部材6にて共用させる)ことができ、部品点数を増大させることなく、シートロック解除と燃料タンクオープンとを行わせることができる。
【0051】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばシートロックを解除させる機能を有していれば足り、燃料タンクのキャップをオープンさせる機構を具備しないもの(燃料タンクオープン位置G、燃料タンクオープン用作動子10、燃料タンクオープン用凸部6d等を具備しないもの)としてもよい。また、本実施形態においては、第1カム部材3と第2カム部材6とが別体構成とされているが、これらを一体構成のものとしてもよい。尚、本発明は、二輪車の他、種々車両におけるイグニッションスイッチ装置に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
オフ位置から他方の回転方向、ステアリングロック位置から他方の回転方向、及びオン位置から一方の回転方向のそれぞれの位置であって、車両のシートロックを解除してシートを開放可能とするシートロック解除位置が設定されるとともに、シートロックとワイヤを介して連結され、非作動位置から作動位置に動作することにより当該シートロックを解除可能なシートロック用作動子と、ロータの回転と連動し得るとともに、当該ロータの所定方向の回転によりシートロック用作動子を押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得る所定方向用凸部が突出形成されたカム部材と、該カム部材の径方向に跨って一端を中心として揺動可能に配設されるとともに、他端がシートロック用作動子に係止された作動アームと、カム部材に突出形成され、ロータが所定方向とは逆方向に回転した際、作動アームを揺動させてシートロック用作動子を非作動位置から作動位置に動作させ得る反所定方向用凸部とを備えたイグニッションスイッチ装置であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 シリンダボディ
2 ロータ
3 第1カム部材
4 スライド部材
5 ロックバー
6 第2カム部材(カム部材)
6a 第1所定方向用凸部
6b 第2所定方向用凸部
6c 反所定方向用凸部
6d 燃料タンクオープン用凸部
7 作動アーム
8 シートロック用作動子
9 コイルバネ(付勢手段)
10 燃料タンクオープン用作動子
11 コイルバネ
12 可動端子
13 可動接点
14 端子台
15 固定接点
A オフ位置
B オン位置
C ステアリングロック位置
D、E、F シートロック解除位置
G 燃料タンクオープン位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イグニッションキーを挿通した状態にて、オフ位置と、該オフ位置から一方の回転方向に設定されて車両のエンジンを始動させ得るオン位置と、前記オフ位置から他方の回転方向に設定されて車両のステアリングをロックするステアリングロック位置との間を回転操作可能とされ、前記オフ位置から他方の回転方向に押圧しつつ回転させて前記ステアリングロック位置に至るよう構成されたロータを具備したイグニッションスイッチ装置において、
前記オフ位置から他方の回転方向、前記ステアリングロック位置から他方の回転方向、及び前記オン位置から一方の回転方向のそれぞれの位置であって、車両のシートロックを解除してシートを開放可能とするシートロック解除位置が設定されるとともに、
前記シートロックとワイヤを介して連結され、非作動位置から作動位置に動作することにより当該シートロックを解除可能なシートロック用作動子と、
前記ロータの回転と連動し得るとともに、当該ロータの所定方向の回転により前記シートロック用作動子を押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得るカム部材と、
該カム部材の径方向に跨って一端を中心として揺動可能に配設されるとともに、他端が前記シートロック用作動子に係止され、前記ロータが前記所定方向とは逆方向に回転した際に揺動し、前記シートロック用作動子を非作動位置から作動位置に動作させ得る作動アームと、
を備えたことを特徴とするイグニッションスイッチ装置。
【請求項2】
前記シートロック用作動子には、当該シートロック用作動子を非作動位置側に常時付勢する付勢手段が設けられたことを特徴とする請求項1記載のイグニッションスイッチ装置。
【請求項3】
前記カム部材は、回転中心を成す軸部が一体形成されるとともに、前記作動アームは当該軸部との干渉を避けるべく屈曲部が形成されつつ当該カム部材の直径方向に亘って延設されて成ることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のイグニッションスイッチ装置。
【請求項4】
前記オフ位置から一方の回転方向に押圧しつつ回転させた位置に車両の燃料タンクのキャップをオープンさせる燃料タンクオープン位置が設定されるとともに、
前記燃料タンクをオープンさせる燃料タンクオープン機構とワイヤを介して連結され、非作動位置から作動位置に動作することにより当該燃料タンクをオープン可能な燃料タンクオープン用作動子と、
前記カム部材に突出形成され、前記ロータが押圧されつつオフ位置から燃料タンクオープン位置に回転した際、前記燃料タンクオープン用作動子を押圧して非作動位置から作動位置に動作させ得る燃料タンクオープン用凸部と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載のイグニッションスイッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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