説明

イグニッションスイッチ

【課題】ロータが互いに隣接する一対のスイッチング位置間で中間停止することを効果的に防止する。
【解決手段】イグニッションスイッチ30では、ロータ40の始端位置からの回転量が装置外部からの操作トルクと、コイルスプリング54、56からの第2の付勢力に対応する作動トルクとが実質的に等しくなる遷移角度を超えると、ボール50、52が第2の付勢力に抗して内周側へ移動して1個のラッチ部70、72、74内から離脱し、ロータ40のスライダ部材64との連結状態とが解除されるので、ロータ40のみが終端位置側へ回転して隣接するスイッチング位置まで回転すると共に、スライダ部材64がコイルスプリング92、94からの第1の付勢力により単独で始端位置に復帰する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から伝達される操作トルクによりロータを回転させ、このロータの位相変化に応じた接点信号を発生する回転式のイグニッションスイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車用イグニッションスイッチとしては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。このイグニッションスイッチ20の構造について、図5及び図6を参照して説明する。
【0003】
イグニッションスイッチ20は、複数個の第1固定接点2a及び第2固定接点2bとが固定された絶縁性の固定接点基板1を備えている。固定接点基板1に設けた第1の透孔群3a及び第2の透孔群3bに圧入される固定接点2a,2bは、その固定接点基板1の裏側に位置されるターミナル4と一体に接続固定され、更にそのターミナル4には、リード線5が半田接続されている。
【0004】
また前記固定接点基板1の表面には、可動接点8,9と固定接点2a,2bとの接触を規制する複数の突条6が一体に形成されている。これらの突条6は複数の扇型突条からなり、この突状6の一部は固定接点2a,2bの高さ(固定接点基板1の表面1aからの高さ)より若干高く、また残りの突条は、固定接点2a,2bの高さより若干低く設定されている。
【0005】
イグニッションスイッチ20は、固定接点基板1に対して可動可能に支持されているロータ7を備えており、ロータ7は固定接点基板1とハウジング15とにより回転可能となるように軸支されている。 ロータ7には、イグニッションキーが挿入可能とされたキー孔7aが設けられている。
【0006】
ロータ7の固定接点基板1に対する回転軸となるボス部7bには、小径である環状の第1可動接点8と、大径である環状の第2可動接点9が同軸的に配設され、これらの第1,第2可動接点8,9には、固定接点基板1の方向に押出プレス成形された接点部8a,9aが形成されている。第1可動接点8は、この第1固定接点8とロータ7との間に配置されるスプリング10により第1固定接点2aに弾性的に接触し、第2可動接点9は、この第2可動接点9とロータ7との間に配置されている3個のスプリング11により第2固定接点2bに弾性的に接触している。
【0007】
ロータ7の外周面の径方向2箇所には、このロータ7の回転時においてハウジング15の内周壁に形成された複数の突起15aと協動してクリック感を生じせしめるためのボール12が、ボール配設用有底穴7e内にスプリング13によって弾圧的に配置されている。
【0008】
イグニッションスイッチ20は、ロータ7をSTART位置からON位置まで復元せしめるためのリターンスプリング14と、可動接点8,9及びロータ7を覆うようにして、固定接点基板1に被着されるハウジング15と、ストッパ16とを備えている。ストッパ16は、ロータ7に嵌合されていて、ロータ7の環状穴7cに挿入されるスプリング14の抜け止めを構成すると共に、このロータ7のハウジング15に対するスラスト軸受を構成している。
【0009】
このように構成された従来のイグニッションスイッチ20では、イグニッションキーがキー穴7aに挿入されて、回動されることにより、LOCK位置、ACC位置、ON位置、及びSTART位置の各々において、第1可動接点8の複数個の接点8aがそれぞれ第1固定接点2a又は突状6に当接すると共に、第2可動接点9の複数個の接点9aがそれぞれ第1固定接点2b又は突状6に対して各々当接することにより、第1固定接点2aと第2固定接点2bとの導通状態が変化し、LOCK位置、ACC位置、ON位置、及びSTART位置にそれぞれ対応する接点信号が出力されるように構成されている。
【0010】
また、節度部材である一対のボール12は、それぞれハウジング15の内周壁に形成された複数の突起15aを乗り越えたときにクリック感を生じ、LOCK位置、ACC位置、ON位置、及びSTART位置を操作者が感知できるように構成されている。
【特許文献1】特開平9−209888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなイグニッションスイッチでは、ハウジング内周面に形成された突起上にボールが乗り上げた状態でロータへの操作トルクの伝達を中断してロータの回転を停止させると、LOCK位置とACC位置との中間位置、ACC位置とON位置との中間位置、すなわち互いに隣接するスイッチング位置間にロータが停止したままになるおそれがある。このようにロータがスイッチング位置間に停止した状態になると、第1固定接点又は第2固定接点と第1可動接点又は第2可動接点との隙間(クリアランス)が微小なものになり、間欠的に固定接点と可動接点との間にアークが発生したり、振動等の影響により第1固定接点又は第2固定接点と第1可動接点又は第2可動接点とが間欠的に接触し、接点信号が間欠的に出力される現象が発生することがある。このような現象は、イグニッションスイッチの寿命を低下させたり、イグニッションスイッチからの接点信号を受ける車両側の制御部に異常を発生させる原因にもなる。
【0012】
本発明の目的は、上記事実を考慮して、ロータが互いに隣接する一対のスイッチング位置間で中間停止することを効果的に防止できるイグニッションスイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1に係るイグニッションスイッチは、厚さ方向に沿った一方の面が実装面とされ、該実装面に複数の固定接点が配置された固定接点基板と、前記実装面に対向するように配置され、外部から操作トルクが伝達可能とされたロータと、前記ロータを回転可能に収容すると共に、前記固定接点基板により前記厚さ方向に沿った他端側が閉止された略円筒状のハウジングと、前記実装面と前記ロータとの間に設けられ、前記ロータの位相に応じて複数の前記固定接点間における導通状態を変化させる接点切替手段と、前記ハウジング内周面と前記ロータ外周面との間に配置されると共に、前記ロータを中心とする回転方向に沿って所定の始端位置と終端位置との間で相対的に回転可能とされ、内周面に始端位置と終端位置との角度間隔よりも小さい角度間隔で凹状のラッチ部が複数形成されたスライダ部材と、前記スライダ部材を回転方向に沿って所定の第1の付勢力で前記始端位置側へ付勢し、前記スライダ部材の前記始端位置から前記終端位置側への回転に従って前記第1の付勢力を増大させる第1の付勢部材と、前記ロータ外周面に配置されると共に、該ロータにより径方向に沿って移動可能に支持された、前記スライダ部材が前記始端位置にあると、外周側端部が任意の一個の前記ラッチ部内に保持される節度部材と、前記節度部材を予め設定された第2の付勢力で径方向外側へ付勢し、前記ロータに前記第2の付勢力に対応する所定の作動トルクよりも小さい操作トルクが伝達されている状態では、前記ラッチ部内に保持された前記節度部材を介して前記ロータを前記節度部材と一体となって前記終端位置側へ回転するように連結し、前記ロータに伝達される操作トルクが前記作動トルクを超えると、前記節度部材を前記ラッチ部内から離脱させて、前記ロータの前記スライダ部材との連結状態を解除する第2の付勢部材と、を有することを特徴とする。
【0014】
上記請求項1に係るイグニッションスイッチでは、ロータ外周面に配置された節度部材が径方向に沿って移動可能に支持され、スライダ部材が始端位置にあると、その外周側端部が任意の1個のラッチ部内に保持され、第2の付勢部材が節度部材を予め設定された第2の付勢力で径方向外側へ付勢し、ロータに第2の付勢力に対応する所定の作動トルクよりも小さい操作トルクが伝達されている状態では、1個のラッチ部内に保持された節度部材を介してロータをスライダ部材と一体となって終端位置側へ回転するように連結する。
【0015】
これにより、ロータが装置(イグニッションスイッチ)外部から伝達される操作トルクにより始端位置から終端位置側へ回転する際に、第1の付勢部材からの第2の付勢力(回転抵抗)を受けるロータに伝達される操作トルクが所定の作動トルクよりも小さい状態では、ロータが節度部材を介してスライダ部材と連結されて一体となって終端位置側へ回転する。
【0016】
すなわち、第1の付勢部材がスライダ部材の始端位置から終端位置側への回転(回転量の増加)に従って第1の付勢力を増大させることから、ロータ及びスライダ部材の回転量が増加するに従ってロータに伝達される操作トルクも徐々に増大するが、ロータの始端位置から回転量が所定の角度(遷移角度)以下で、ロータに伝達される操作トルクが第2の付勢力に対応する作動トルク以下である状態では、ロータがスライダ部材と一体となって終端位置側へ回転する。このとき、ロータへの操作トルクの伝達を中断すると、ロータがスライダ部材に連結されたままなので、第1の付勢力によりロータがスライダ部材と一体となって始端位置へ復帰することになる。
【0017】
また請求項1に係るイグニッションスイッチでは、ロータの始端位置からの回転量が操作トルクと作動トルクとが等しくなる遷移角度を超えると、節度部材が第2の付勢力に抗して内周側へ移動して1個のラッチ部内から離脱し、ロータのスライダ部材との連結状態とが解除されるので、ロータのみが終端位置側へ回転しつつ、スライダ部材が第1の付勢力により単独で始端位置に復帰する。
【0018】
この後、スライダ部材との連結状態が解除されロータが隣接する他のラッチ部に対応する位置(スイッチング位置)まで回転すると、第2の付勢力を受けている節度部材が他のラッチ部内へ保持され、この節度部材を介してロータが再びスライダ部材と連結される。
【0019】
従って、請求項1に係るイグニッションスイッチによれば、スライダ部材が始端位置から終端位置側へ回転しており、かつロータが互いに隣接する一対のスイッチング位置(LOCK位置、ACC位置、ON位置、及びSTART位置)の中間にある状態で、装置外部からのロータへの操作トルクの伝達を中断すると、この状態では節度部材を介してロータがスライダ部材に連結されたままなので、第1の付勢力によりロータがスライダ部材と一体となって始端位置へ復帰することになり、またロータを遷移角度を超えるまで回転させると、ロータとの連結状態が解除されたスライダ部材が単独で始端位置に復帰すると共に、ロータが隣接するスイッチング位置まで確実に移動するので、ロータが互いに隣接する一対のスイッチング位置間で中間停止することを効果的に防止できる。
【0020】
また本発明の請求項2に係るイグニッションスイッチは、請求項1記載のイグニッションスイッチにおいて、前記スライダ部材を円環状に形成し、前記スライダ部材内周面における径方向一端部に複数の前記ラッチ部が配置された第1の摺動領域を設けると共に、前記スライダ部材内周面における径方向他端部に複数の前記ラッチ部が配置された第2の摺動領域を設け、前記第1の摺動領域に前記ロータ外周面における径方向一端部に配置された1個の前記節度部材を前記第2の付勢力により圧接させると共に、前記第2の摺動領域に前記ロータ外周面における径方向他端部に配置された1個の前記節度部材を前記第2の付勢力により圧接させたことを特徴とする。
【0021】
上記請求項2に係るイグニッションスイッチでは、スライダ部材内周面における径方向一端部に設けられた第1の摺動領域にロータ外周面における径方向一端部に配置された1個の節度部材を第2の付勢力により圧接させると共に、スライダ部材内周面における径方向他端部に設けられた第2の摺動領域にロータ外周面における径方向他端部に配置された1個の節度部材を第2の付勢力により圧接させたことにより、一対の節度部材をそれぞれ外周側へ付勢する一対の節度部材の付勢力(第2の付勢力)からの反力をロータが受けるので、この反力によりロータをスライダ部材の中心位置に自動的に位置決め(セルフアライニング)でき、外部からの操作トルクを受けたロータを偏心させることなく円滑に回転させることができる。
【0022】
また本発明の請求項3に係るイグニッションスイッチは、請求項1又は2記載のイグニッションスイッチにおいて、前記ラッチ部を前記スライダ部材の内周面に軸方向へ延在するように形成された溝部により形成すると共に、前記節度部材を球体状のボールにより形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明に係るイグニッションスイッチによれば、ロータが互いに隣接する一対のスイッチング位置間で中間停止することを効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るイグニッションスイッチについて図面を参照して説明する。
【0025】
(実施形態の構成)
図1〜図4には本発明の実施形態に係るイグニッションスイッチが示されている。このイグニッションスイッチ30は、自動車におけるキーシリンダ装置に適用されるものであり、イグニッションキーがキーシリンダ装置に差し込まれ、イグニッションキーによりキーシリンダ装置が開錠状態とされた後に、イグニッションキーからの操作トルクが伝達され、LOCK位置からACC位置、ON位置、及びSTART位置の何れかへ回転操作されることにより、その位置(スイッチング位置)に対応する接点信号を車両側の制御部等へ出力する。なお、図中、符号Sはイグニッションスイッチ30(装置)の軸心Sを示しており、この軸心Sに沿った方向を装置の軸方向、軸心Sに対して直交する方向を装置の径方向として以下の説明を行う。
【0026】
図1に示されるように、イグニッションスイッチ30には、軸方向に沿った一端側に固定接点基板32が設けられている。固定接点基板32は絶縁性材料により略円板状に形成されており、その軸方向外側にコネクタボックス34が一体的に形成されている。コネクタボックス34内には、固定接点基板32の軸方向内側の面である実装面に配置された複数個の固定接点(図示省略)にそれぞれ電気的に接続されたターミナル(図示省略)が配置されている。このコネクタボックス34に車両側の制御部に配線されたプラグを挿入することにより、複数個の固定接点がターミナル及びプラグを介して制御部と接続される。
【0027】
固定接点基板32の実装面上には、導電性材料により薄肉円板状に形成された第1コンタクトプレート36が回転可能に配置されると共に、導電性材料により第1コンタクトプレート36よりも大径の薄肉円板状に形成された第2コンタクトプレート38が回転可能に、かつ第1コンタクトプレート36と同軸的に配置されている。イグニッションスイッチ30では、第1コンタクトプレート36及び第2コンタクトプレート38が後述するロータ40の位相に応じて固定接点基板32に配置された複数個の固定接点間における導通状態を変化させる接点切替手段を構成している。
【0028】
イグニッションスイッチ30には、軸方向に沿って固定接点基板32の実装面に対向するように略円柱状のロータ40が配置されている。ロータ40には、固定接点基板32側の一端面の中央部に丸棒状の第1ボス部(図示省略)が形成されており、この第1ボス部は、第1コンタクトプレート36の中央部に穿設された中心孔37に挿入され、ロータ40を第1コンタクトプレート36と一体となって回転するように連結すると共に、固定接点基板32の実装面中央部に設けられた軸受部(図示省略)に連結され、この軸受部により回転可能に支持されている。
【0029】
またイグニッションスイッチ30には、ロータ40と第1コンタクトプレート36との間に第1コンタクトスプリング(図示省略)が圧縮状態で介装されると共に、ロータ40と第2コンタクトプレート38との間に第2コンタクトスプリング(図示省略)が圧縮状態で介装されている。これらの第1コンタクトスプリング及び第2コンタクトスプリングは、コンタクトプレート36,38を固定接点基板32に配置された固定接点へ圧接させると共に、軸方向に沿ってロータ40を後述するハウジング58側へ付勢している。
【0030】
ロータ40には、その軸方向他端部に一端側に対して小径とされた第2ボス部42が形成されており、この第2ボス部42の先端面中央部には、イグニッションキーの先端部が挿入可能とされたスリット状のキー挿入孔44が形成されている。このキー挿入孔44には、キーシリンダ装置を貫通したイグニッションキーの先端部が挿入される。これにより、イグニッションによりキーシリンダ装置が開錠状態になると、このイグニッションキーを介して操作者からの操作力(操作トルク)がロータ40に伝達可能になる。
【0031】
ロータ40には、その外周面における径方向一端部に断面円形の第1ホルダ孔46が形成されると共に、径方向他端部が第2ホルダ孔48(図3参照)が形成されている。図3に示されるように、第1ホルダ孔46と第2ホルダ孔48とは、軸心Sを挟んで互いに180°反対側に配置されており、ロータ40の外周面から軸心S側へ向って直線的に延出している。一対のホルダ孔46、48内には、それぞれ球状のボール50、52が配置されると共に、このボール50、52とホルダ孔46、48の底面部との間にコイルスプリング54、56が圧縮状態とされて介装されている。これにより、コイルスプリング54、56は、それぞれボール50、52を常に外周側へ付勢する。
【0032】
ここで、一方のコイルスプリング54と他方のコイルスプリング56とは、互いに等しい大きさの付勢力(第2の付勢力)をそれぞれボール50、52に作用させる。
【0033】
イグニッションスイッチ30には、ロータ40の外周側に円筒状のハウジング58が配置されている。ハウジング58には、図1に示されるように、軸方向一端部を閉止するように頂板部60が一体的に形成されていこの頂板部60の中央部には円形の開口部62が形成されており、この開口部62には、ハウジング58の内周側にロータ40が収容された状態で、ロータ40の第2ボス部42が回転可能に挿入される。これにより、ハウジング58内に収容されたロータ40は、ハウジング58及び固定接点基板32により回転可能に支持される。
【0034】
図3に示されるように、イグニッションスイッチ30には、ハウジング58の内周面とロータ40の外周面との間に円筒状のスライダ部材64が配置されている。スライダ部材64は、その外周面及び内周面がハウジング58の内周面及びロータ40の外周面にそれぞれ摺動可能とされており、軸方向への移動が固定接点基板32の実装面及びハウジング58の内周面に形成された段差部59(図2参照)により制限されている。これにより、スライダ部材64は、軸心Sを中心としてハウジング58及びロータ40に対してそれぞれ相対的に回転可能とされる。
【0035】
スライダ部材64には、径方向一端部にロータ40における一方のボール50にそれぞれ対応する第1摺動領域66が設けられると共に、径方向他端部にロータ40における他方のボール52に対応する第2摺動領域66が設けられている。これらの摺動領域66、68では、他の領域と比較してスライダ部材64の内径が所定長拡大されており、ロータ40の外周面との間に周方向へ延在する隙間が全長に亘って形成される。一対の摺動領域66、68には、図3に示されるように、それぞれコイルスプリング54、56により外周側へ付勢されたボール50、52の外周側の端部がそれぞれ摺動及び回転可能に圧接する。
【0036】
図3(A)に示されるように、スライダ部材64の摺動領域66、68には、スイッチング位置であるLOCK位置、ACC位置及びON位置にそれぞれ対応する部位に凹状のラッチ部70、72、74が形成されている。これらのラッチ部70、72、74は、それぞれ軸方向へ直線的に延在する略V字状の溝部により形成されており、第1摺動領域66のラッチ部70、72、74と第2摺動領域68のラッチ部70、72、74とは、軸心Sを中心とする回転方向の位置(位相)が互いに180°異なっている。ここで、ラッチ部70、72、74の周方向に沿ったピッチPは略等しいものになっている。
【0037】
またスライダ部材64の摺動領域66、68には、それぞれラッチ部74に対して略ピッチPだけ離間した終端部に内周側へ屈曲又は湾曲したストッパ部76が形成されており、このストッパ部76には、ロータ40と共にSTART位置の直前まで移動したボール50、52がそれぞれ当接可能とされている。
【0038】
スライダ部材64には、その外周面における一対の摺動領域66、68の外側の領域にそれぞれ内周側へ凹んだ内周側ホルダ部80、82が形成されている。一方、ハウジング58の内周面には、内周側ホルダ部80、82にそれぞれ面するように凹状の外周側ホルダ部84、86が形成されている。ここで、内周側ホルダ部80、82と外周側ホルダ部84、86とは周長が互いに等しくなっており、図3(A)に示されるように、ロータ40に操作トルクが伝達されていない時には、軸心Sを中心とする周方向に沿った位置が互いに一致している。
【0039】
従って、内周側ホルダ部80、82と外周側ホルダ部84、86との間には、それぞれ周方向に沿って細長く延在する空間であるスプリング収納室88、90(図4参照)が形成される。これらのスプリング収納室88、90内には、それぞれ自由長及びばね定数が同一とされたコイルスプリング92、94が圧縮状態で収容される。
【0040】
コイルスプリング92は、一方の座面を内周側ホルダ部80及び外周側ホルダ部84の周方向一端側の内壁面へ圧接させると共に、他方の座面を内周側ホルダ部80及び外周側ホルダ部84の周方向他端側の内壁面へ圧接させる。またコイルスプリング94も、コイルスプリング92と同様に、一方の座面を内周側ホルダ部82及び外周側ホルダ部86の周方向一端側の内壁面へ圧接させると共に、他方の座面を内周側ホルダ部82及び外周側ホルダ部86の周方向他端側の内壁面へ圧接させる。
【0041】
これにより、スライダ部材64は、内周側ホルダ部80、82と外周側ホルダ部84、86とが周方向に沿って一致する始端位置(図3(A)参照)と、コイルスプリング92、94が内周側ホルダ部80、82の内壁面と外周側ホルダ部84、86の内壁面との間で限界長まで圧縮される終端位置(図4(B)参照)との範囲(ストローク)で回転可能となる。この始端位置から終端位置までの角度間隔は、LOCK位置、ACC位置及びON位置間のピッチPよりも若干大きくなっている。
【0042】
コイルスプリング92、94は、それぞれスライダ部材64を常に回転方向に沿って所定の付勢力(第1の付勢力)で始端位置側へ付勢しており、スライダ部材64の始端位置から終端位置側への回転量の増加に従って、圧縮量が増加することから前記第1の付勢力を徐々に増大させる。すなわち、コイルスプリング92、94は、スライダ部材64及び、スライダ部材64とボール50、52を介して連結されたロータ40の始端位置からの回転量の増加に従って、スライダ部材64及びロータ40に伝達される操作トルクを増大させることになる。
【0043】
またイグニッションスイッチ30では、スライダ部材64が始端位置にあるときには、ロータ40に配置された一対のボール50、52がそれぞれ摺動領域66、68における何れか1個のラッチ部70、72、74と一致し、コイルスプリング54、56の第2の付勢力により付勢されたボール50、52の外周側端部が1個のラッチ部70、72、74内へ挿入された状態になる。
【0044】
(実施形態の作用)
次に、本実施形態に係るイグニッションスイッチ10の作用について説明する。
【0045】
イグニッションスイッチ30では、図3(A)に示されるように、ロータ40がLOCK位置にあり、かつスライダ部材64が始端位置にある状態で、操作者がイグニッションキー(図示省略)をロータ40に操作トルクを伝達すると、ボール50、52を介して互いに連結されたスライダ部材64及びロータ40が一体となって操作方向(図3では、軸心Sを中心とする時計方向)へ回転開始する。
【0046】
このとき、ロータ40に配置された一対のコイルスプリング54、56は、それぞれ一対のボール50、52を予め設定された第2の付勢力で外周側へ付勢し、ロータ40に第2の付勢力に対応する作動トルクよりも小さい操作トルクが伝達されている状態では、摺動領域66、68におけるラッチ部70内に保持されたボール50、52を介してロータをスライダ部材64と一体となって始端位置から終端位置側へ回転するように連結し、ロータ40に伝達される操作トルクの大きさが前記作動トルクを超えると、ボール50、52をラッチ部70内から離脱させて、ロータ40のスライダ部材64との連結状態を解除する。
【0047】
従って、イグニッションスイッチ30では、スライダ部材64及びロータ40の始端位置からの回転量の増加に従って、これらを操作方向へ回転させるために必要となる操作者からの操作トルクが序々に増大するが、この操作トルクがコイルスプリング54、56の第2の付勢力に対応する作動トルク以下である場合には、ロータ40とスライダ部材64との連結状態が維持され、図3(B)に示されるように、ロータ40とスライダ部材64が一体となって終端位置(ACC位置)側へ回転する。
【0048】
イグニッションスイッチ30では、スライダ部材64及びロータ40の始端位置からの回転量が増加し、スライダ部材64及びロータ40が所定の遷移位置まで回転すると、ロータ40に伝達される操作トルクが第2の付勢力に対応する作動トルクと等しいものになる。ここで、遷移位置は、コイルスプリング92、94の自由長及びばね定数を適宜調整することにより、始端位置と終端位置との中間における任意の位置に設定可能になる。
【0049】
イグニッションスイッチ30では、操作者が遷移位置にあるロータ40に伝達する操作トルクを増大させてロータ40を更に回転させると、V字状の溝からなるラッチ部70の斜面に沿ってボール50、52が外周側へ移動し、ラッチ部70内から離脱する。これにより、ロータ40のスライダ部材64との連結状態が解除され、図3(C)に示されるように、ロータ40のみが操作トルクにより単独でACC位置まで回転すると共に、ボール50、52が摺動領域66、68のラッチ部72内へ保持され、一方、スライダ部材64はコイルスプリング92、94の第1の付勢力により遷移位置から始端位置に復帰する。
【0050】
このとき、ボール50、52が摺動領域66、68のラッチ部70内から離脱した後、ラッチ部70、72間の凸状部を乗り越え、摺動領域66、68のラッチ部72内へ外周端部が挿入されることにより、操作者には節度感がイグニッションキーを介して伝達されるので、イグニッションスイッチ30がLOCK位置からACC位置へ操作されたことを感知できる。
【0051】
イグニッションスイッチ30では、操作者によりACC位置からON位置へ操作される場合も、LOCK位置からACC位置へ操作される場合と同様な動作が行われ、ボール50、52が摺動領域66、68のラッチ部72内からラッチ部74内へ移動する。また操作者によりON位置からACC位置へ操作される場合、ACC位置からLOCK位置へ操作される場合も、ロータ40及びボール50、52の回転方向が逆になるだけで、LOCK位置からACC位置へ操作される場合と同様な動作が行われる
イグニッションスイッチ30では、操作者によりON位置からSTART位置へ操作される場合には、図4(A)に示されるように、摺動領域66、68のラッチ部74内から離脱したボール50、52がロータ40と共にSTART位置側へ回転し、ボール50、52がそれぞれ摺動領域66、68におけるストッパ部76へ突き当たり、ロータ40がスライダ部材64と一体となって回転するように連結される。このとき、スライダ部材64は遷移位置乃至遷移位置よりも僅かに終端位置側の位置に保持される。
【0052】
この状態から、操作者がロータ40を更に回転させると、図4(B)に示されるように、コイルスプリング92、94がそれぞれ限界圧縮長まで圧縮されると共に、作動トルクよりも大きい操作トルクによりスライダ部材64が遷移位置付近から終端位置まで回転する。これにより、コンタクトプレート36,38により固定接点基板32に配置された複数個の固定接点間の導通状態が変化し、START位置に対応する接点信号(スタータ信号)が車両側の制御部へ出力される。
【0053】
ここで、摺動領域66、68におけるストッパ部76からラッチ部74間の摺動面部78は、ストッパ部76からラッチ部74へ向って外周側へ僅かに傾斜している。これにより、ロータ40への操作トルクの伝達を中断すると、ボール50、52及び摺動面部78により生じる分力によりボール50、52及びロータ40が一体となってラッチ部74まで復帰すると共に、コイルスプリング92、94の第1の付勢力によりロータ40及びスライダ部材64が終端位置から始端位置まで復帰する。従って、イグニッションスイッチ30では、従来のイグニッションスイッチ(図5参照)と比較し、ロータ40をSTART位置からON位置まで復帰させるための捩りコイルスプリング等の付勢部材が不要になっている。
【0054】
以上説明した本実施形態に係るイグニッションスイッチ30では、ロータ40の外周面に配置された一対のボール50、52が径方向に沿って移動可能に支持され、スライダ部材64が始端位置にあると、その外周側端部が摺動領域66、68における任意の1個のラッチ部70、72、74内に保持され、一対のコイルスプリング54、56がそれぞれボール50、52を予め設定された第2の付勢力で外周側へ付勢し、ロータ40に第2の付勢力に対応する所定の作動トルクよりも小さい操作トルクが伝達されている状態では、1個のラッチ部70、72、74内に保持されたボール50、52を介してロータ40をスライダ部材64と一体となって終端位置側へ回転するように連結する。
【0055】
これにより、ロータ40が操作者から伝達される操作トルクにより始端位置から終端位置側へ回転する際に、コイルスプリング92、94からの第2の付勢力(回転抵抗)を受けるロータ40に伝達される操作トルクが所定の作動トルクよりも小さい状態では、ロータ40が一対のボール50、52を介してスライダ部材64と連結され一体となって始端位置から終端位置側へ回転する。
【0056】
すなわち、コイルスプリング92、94がスライダ部材64の始端位置から終端位置側への回転(回転量の増加)に従って第1の付勢力を増大させることから、ロータ40及びスライダ部材64の回転量が増加するに従ってロータ40に伝達される操作トルクも徐々に増大するが、ロータ40の始端位置から回転量が所定の角度(遷移角度)以下で、ロータ40に伝達される操作トルクが第2の付勢力に対応する作動トルク以下である状態では、ロータ40がスライダ部材64と一体となって終端位置側へ回転する。このとき、ロータ40への操作トルクの伝達を中断すると、ロータ40がスライダ部材64に連結されたままなので、第1の付勢力によりロータ40がスライダ部材64と一体となって始端位置へ復帰することになる。
【0057】
またイグニッションスイッチ30では、ロータ40の始端位置からの回転量が操作トルクと作動トルクとが実質的に等しくなる遷移角度を超えると、ボール50、52が第2の付勢力に抗して内周側へ移動して1個のラッチ部70、72、74内から離脱し、ロータ40のスライダ部材64との連結状態とが解除されるので、ロータ40のみが終端位置側へ回転しつつ、スライダ部材64が第1の付勢力により単独で始端位置に復帰する。
【0058】
この後、スライダ部材64との連結状態が解除されロータ40が隣接する他のラッチ部70、72、74に対応する位置(スイッチング位置)まで回転すると、第2の付勢力を受けているボール50、52が他のラッチ部70、72、74内へ保持され、このボール50、52を介してロータ40が再びスライダ部材64と連結される。
【0059】
従って、イグニッションスイッチ30によれば、スライダ部材64が始端位置から終端位置側へ回転しており、かつロータ40が互いに隣接する一対のスイッチング位置(LOCK位置、ACC位置、ON位置、及びSTART位置)の中間にある状態で、操作者がロータ40への操作トルクの伝達を中断すると、この状態ではボール50、52を介してロータ40がスライダ部材64に連結されたままなので、コイルスプリング92、94の第1の付勢力によりロータ40がスライダ部材64と一体となって始端位置へ復帰することになり、またロータ40を遷移角度を超えるまで回転させると、ロータ40との連結状態が解除されたスライダ部材64が単独で始端位置に復帰すると共に、ロータ40が隣接するスイッチング位置まで確実に移動するので、ロータ40が互いに隣接する一対のスイッチング位置間で中間停止することを効果的に防止できる。
【0060】
また本実施形態に係るイグニッションスイッチ30では、スライダ部材64の内周面における径方向一端部に設けられた第1摺動領域66にロータ40の外周面における径方向一端部に配置された1個のボール50を第2の付勢力により圧接させると共に、スライダ部材64の内周面における径方向他端部に設けられた第2摺動領域68にロータ40の外周面における径方向他端部に配置された1個のボール52を第2の付勢力により圧接させたことにより、一対のボール50、52をそれぞれ外周側へ付勢する一対のコイルスプリング54、56の付勢力(第2の付勢力)からの反力をロータ40が受けるので、この反力によりロータ40をスライダ部材の中心位置に自動的に位置決め(セルフアライニング)でき、操作者からの操作トルクを受けたロータ40を偏心させることなく円滑に回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に係るイグニッションスイッチの構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示されるイグニッションスイッチにおけるハウジング及びスライダ部材の構成を示す分解斜視図である。
【図3】図1に示されるイグニッションスイッチの軸直角方向に沿った断面図であり、(A)はロータがLOCK位置にある状態、(B)はロータがLOCK位置とACC位置との中間位置にある状態、(C)はロータがON位置にある状態を示している。
【図4】図1に示されるイグニッションスイッチの軸直角方向に沿った断面図であり、(A)はスライダ部材が遷移位置付近にあり、ロータがSTART位置の直前にある状態、(B)はスライダ部材が終端位置にあり、ロータがSTART位置にある状態を示している。
【図5】従来の自動車用イグニッションスイッチの構成を示す分解斜視図である。
【図6】図5に示されるイグニッションスイッチを軸方向に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0062】
30 イグニッションスイッチ
32 固定接点基板
36 コンタクトプレート(接点切替手段)
38 コンタクトプレート(接点切替手段)
40 ロータ
50、52 ボール(節度部材)
54、56 コイルスプリング(第2の付勢部材)
58 ハウジング
64 スライダ部材
66 第1摺動領域
68 第1摺動領域
70、72、74 ラッチ部
76 ストッパ部
92、94 コイルスプリング(第2の付勢部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に沿った一方の面が実装面とされ、該実装面に複数の固定接点が配置された固定接点基板と、
前記実装面に対向するように配置され、外部から操作トルクが伝達可能とされたロータと、
前記ロータを回転可能に収容すると共に、前記固定接点基板により前記厚さ方向に沿った他端側が閉止された略円筒状のハウジングと、
前記実装面と前記ロータとの間に設けられ、前記ロータの位相に応じて複数の前記固定接点間における導通状態を変化させる接点切替手段と、
前記ハウジング内周面と前記ロータ外周面との間に配置されると共に、前記ロータを中心とする回転方向に沿って所定の始端位置と終端位置との間で相対的に回転可能とされ、内周面に始端位置と終端位置との角度間隔よりも小さい角度間隔で凹状のラッチ部が複数形成されたスライダ部材と、
前記スライダ部材を回転方向に沿って所定の第1の付勢力で前記始端位置側へ付勢し、前記スライダ部材の前記始端位置から前記終端位置側への回転に従って前記第1の付勢力を増大させる第1の付勢部材と、
前記ロータ外周面に配置されると共に、該ロータにより径方向に沿って移動可能に支持された、前記スライダ部材が前記始端位置にあると、外周側端部が任意の1個の前記ラッチ部内に保持される節度部材と、
前記節度部材を予め設定された第2の付勢力で径方向外側へ付勢し、前記ロータに前記第2の付勢力に対応する所定の作動トルクよりも小さい操作トルクが伝達されている状態では、前記ラッチ部内に保持された前記節度部材を介して前記ロータを前記スライダ部材と一体となって前記終端位置側へ回転するように連結し、前記ロータに伝達される操作トルクが前記作動トルクを超えると、前記節度部材を前記ラッチ部内から離脱させて、前記ロータの前記スライダ部材との連結状態を解除する第2の付勢部材と、
を有することを特徴とするイグニッションスイッチ。
【請求項2】
前記スライダ部材を円環状に形成し、
前記スライダ部材内周面における径方向一端部に複数の前記ラッチ部が配置された第1の摺動領域を設けると共に、前記スライダ部材内周面における径方向他端部に複数の前記ラッチ部が配置された第2の摺動領域を設け、
前記第1の摺動領域に前記ロータ外周面における径方向一端部に配置された1個の前記節度部材を前記第2の付勢力により圧接させると共に、前記第2の摺動領域に前記ロータ外周面における径方向他端部に配置された1個の前記節度部材を前記第2の付勢力により圧接させたことを特徴とする請求項1記載のイグニッションスイッチ。
【請求項3】
前記ラッチ部を前記スライダ部材の内周面に軸方向へ延在するように形成された溝部により形成すると共に、前記節度部材を球体状のボールにより形成したことを特徴とする請求項1又は2記載のイグニッションスイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−101539(P2008−101539A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284759(P2006−284759)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】