説明

イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物によるベンゼンのアルキル化方法

本発明は、アルキル化剤としてのイソプロパノール(IPA)またはイソプロパノールとプロピレンの混合物によるベンゼンのアルキル化方法に関し、この方法は、上記反応を、完全に気相において且つMTW群に属するゼオライトを含有する触媒系の存在下に生じさせることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキル化剤としてのイソプロパノール(IPA)またはイソプロパノールとプロピレンの混合物によるベンゼンのアルキル化方法に関し、この方法は、上記反応を、完全に気相において且つMTW群に属するゼオライトを含有する触媒系の存在下に生じさせることを特徴とする。
上記方法は、望ましくない反応に由来する副生成物に加えての触媒の性能および寿命に対する反応混合物中の大量の水の存在による負の効果がないことに特徴を有し、さらにまた、上記方法は、同じ方法において使用される従来技術の触媒によってもたらされる生産性と比較してはるかに高い生産性を提供する。
【0002】
上記の負の効果がないことは、使用する上記特定の触媒系に起因しており、当該触媒系は、上記アルキル化剤のイソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物による上記の選定した反応条件下でのベンゼンのアルキル化において特に適していることが判明している。
また、本発明は、クメン製造のための第1工程を上記で明記している事項に従うベンゼンのアルキル化によって実施するフェノールの製造方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
クメンは、ナイロンを製造するカプロラクタム製造用の中間体としても有用なフェノールの製造のための重要なプレカーサーである。
全体的なフェノールの製造方法は、ベンゼンのクメンへのアルキル化、クメンの相応するヒドロペルオキシドへの酸化、このヒドロペルオキシドの酸処理によるフェノールとアセトンの調製を含む。
最初のアルキル化工程に関する限りは、ゼオライト触媒以外に、固定床反応器用のリン酸と珪藻土をベースとする触媒またはスラリー中のAlCl3が、石油化学工業において依然として1部で使用されている。全ての場合において、プロピレンによるベンゼンのアルキル化反応は、試薬混合物の完全液相に相応する反応条件下に実施されている。
しかしながら、環境影響および安全性に関する問題が、リン酸およびAlCl3をベースとする触媒の使用に基く方法においては存在する:これらの触媒の使用は、実際に、腐蝕、毒性有機生成物の副生成および使用済み触媒の処分のために特に複雑である。
【0004】
1965年に、クメンの製造は、初めて、触媒としてゼオライトXまたはゼオライトYを使用して説明された(Fnachev, Kr. M., et al, Nefiekhimiya 5 (1965) 676)。
その後、フォージャサイト構造を有するゼオライトの、プロピレンのような軽オレフィンによるベンゼンのアルキル化における使用が、Venuto等によって説明された(J.Catal.5, (1966) 81)。
クメンの合成においては、最適の結果が、工業的応用に関して、EP 432814号に記載されているようなベータ構造を有するゼオライトを使用して、特に、EP 687500号に記載されている事項に従うベータゼオライトを含む触媒を使用して得られている。
【0005】
得られた時点で、クメンは、クメンヒドロペルオキシドへの酸化工程、およびその後の酸処理工程(フェノールとアセトンの生成を伴うペルオキシド結合の破壊を起させる)によってフェノールに転換される。
一方で、1つの生産装置においてフェノールとアセトンの同時生産が工業的見地からプラス面を確かに示しているとしても、他方では、上記2つの生成物に対する不均衡な商業的需要は、フェノール生産用の工業的プラントの管理において問題を示し得る。
事実、プロピレンによる伝統的な方法に従ってクメンから製造したフェノールのkg毎に、0.61kgのアセトンも生成することを思い起すべきである。
アセトンの主要用途の1つが市場での需要が減少しているメチルメタクリレート(MMA)であり、一方、ビスフェノールA (BPA)、フェノール樹脂およびカプロラクタム、即ち、フェノールの主要下流用途に対する需要が増大していることを考慮すれば、クメンによるフェノールの生産におけるアセトンの同時生産によって生じる潜在的問題は、容易に理解し得ることである。
【0006】
従って、市場条件がその直接の販売を妨げるようである場合、アセトンの好都合な活用を可能にする可能性のある代替用途を見出す必要性を強く感じている。
US 5,017,729号は、アセトン(フェノールと共生成した)の水素による還元およびその後のイソプロピルアルコールの脱水から部分的にまたは全体的に得られるプロピレンのクメン製造工程における使用に特徴を有する、クメンヒドロペルオキシドによるフェノールの製造方法を記載している。
この方法においては、フェノールと共生成したアセトンから出発する純粋プロピレン(アルキル化工程において使用する)の再取得に専ら限られた各種工程の高コストは自明である。
【0007】
特に、アセトンから出発するプロピレンの製造のためにMitsuiによって提案された方法(PEP Review 95‐1‐1 1)においては、実際に、高めの投資コストは、イソプロピルアルコール(関連の水素による還元部においてアセトンから得られた)のプロピレンへの脱水部に起因し得る。
一方で、IPAのプロピレンへの脱水工程は、通常タイプの酸触媒を使用するときはアルキル化剤としてのイソプロピルアルコールによる直接のベンゼンアルキル化を生じさせるのが、特に触媒自体の持続性は別にして選択性の点で触媒の性能に対して負の効果を生じる反応中にIPAが放出する水の結果として極めて困難であるために、明確な工業的応用目的においては必要である。
ゼオライトタイプおよび非ゼオライトタイプ双方の酸触媒は、事実、イソプロピルアルコールをベンゼンのアルキル化剤として使用してクメンを得る場合に形成される水の存在によって負の影響を受ける。
【0008】
例えばシリカ上に支持され、クメンの工業的合成において広く使用されているリン酸のような通常タイプの触媒の場合には、反応混合物中の数百ppmよりも多い水分量によって、触媒の有意の化学的および機械的分解が、クメンへの収率に関しての触媒性能の著しい低下を伴って生じる。
ゼオライト系触媒の場合には、多かれ少なかれ触媒自体の急速な不活性化を伴ってのクメンへの全体的収率の低下によって示される水の存在による負の効果が知られている。
【0009】
しかしながら、これらの負の効果は、全て既知であり、さらにまた、明確に工業的に応用可能な方法でクメンを得るために、イソプロピルアルコールをベンゼンのアルキル化剤として使用して得られる水含有量に関して、極めて低含有量の水(反応中に存在する)によって検証されている。
イソプロパノールによるベンゼンのアルキル化方法の工業的適用性は、実際には、例えば、反応部への供給物中のベンゼン/IPAモル比のようなある種のパラメーターを無視することはできない;ベンゼン/IPAモル比は、一般に、4〜8の範囲であり、イソプロピルアルコールの完全変換を想定すれば約48,000〜26,000ppmに等しい相応する反応中水分濃度を伴う。
【0010】
イソプロピルアルコールとプロピレンの混合物からなるアルキル化剤によるベンゼンのアルキル化を同等に生じさせるには、いずれの場合も、触媒系が許容し得る水分含有量を担保するために、使用するイソプロピルアルコールの量を著しく低くすることを必要とし、従って、同方法の実際の可能性は制約されている。
プロピレンによるベンゼンのアルキル化において使用する触媒は、これらの触媒が水に対して一般に極めて感受性であり、結果として、イソプロパノールの脱水によって形成された水の存在におけるこれら触媒の寿命が極端に短縮されるので、アルキル化剤としてのイソプロピルアルコールまたはイソプロピルアルコールとプロピレンの混合物によるベンゼンのアルキル化反応に常に容易に適応化し得るものではない。
【0011】
また、触媒としてベータゼオライトを気相中で、好ましくは大気圧において使用して、ベンゼンをイソプロピルアルコールによってアルキル化する可能性も開示されている(K.S.N.Reddy et al., Applied Catalysis A: General, 95 (1993) 53-63)。また、この場合、高ベンゼン/イソプロパノール比によって観察された触媒の劣化も明白である。
上記で引用した文献に記載された実験的試験においては、実験的試験の進行によって触媒の持続性の問題を明らかにしている。
【0012】
US 5,015,786号は、クメンの1部が、プロピレンによるベンゼンのアルキル化から得られるクメンと一緒に、これもフェノールと共生成したアセトンの還元によって得られたイソプロピルアルコールによって実施したベンゼンのアルキル化から得られるクメンによるフェノールの製造方法を記載している。
IPAによるベンゼンの上記アルキル化工程は、種々の材料から選択された酸性質の触媒の存在下に実施している:ゼオライトを好ましい触媒として示唆している。しかしながら、上記の文献においては、触媒の寿命についての、一般的には性能の恒常性についての情報がないことは、最長の試験は200時間持続しており(実施例5、第15欄)、この時間長は、与えられた条件下では、約100Kgクメン/触媒Kgよりも高くはない生産性に相当することを考慮すれば、注目する興味がある。
【0013】
上記の問題を克服するために、著しい疎水特性を有する特定のゼオライト、例えば、高シリカ/アルミナ比を有するZSM‐5ゼオライトまたはH‐モルデナイトおよび脱アルミニウムYゼオライトの使用が提案されている。
例えば、US 5,160 497号においては、8〜70範囲のSi02/A1203モル比を有する脱アルミニウムYゼオライトを、プロピレンとイソプロパノールによるベンゼンのアルキル化において使用している。
【0014】
EP 1069100号は、必要に応じてプロピレンとの混合物中のイソプロパノールによるベンゼンのアルキル化方法を記載しており、この方法は、上記反応を、混合気‐液相条件下または完全液相条件下に、液体反応相中の水分濃度を、反応混合物中に存在する総水分含有量にかかわらず、8,000ppm(質量/質量)よりも高くないような温度および圧力において生じさせることからなる。触媒は、ゼオライトタイプであり、好ましくは、ベータゼオライト、Yゼオライト、ZSM‐12およびモルデナイトから選択されている。
EP 1069099号は、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物による、反応部内に存在する混合物の完全気相に相応する温度および圧力条件下で且つベータゼオライトと無機リガンドを含む触媒の存在下でのベンゼンのアルキル化方法を記載している。
【発明の概要】
【0015】
本出願人等は、今回、アルキル化剤としてのイソプロパノール(IPA)またはイソプロパノールとプロピレンの混合物によるベンゼンのアルキル化によってクメンを得るのが、触媒の性能、持続性、ひいては生産性の点でより良好な結果を著しい量の水の存在においてさえももたらし、適切な反応条件下で操作し且つMTWタイプの触媒を含む触媒を使用する方法によって可能であることを見出した。
従って、本発明の目的は、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物によるベンゼンのアルキル化方法に関し、この方法は、上記反応を完全に気相中で且つMTW群に属するゼオライトを含有する触媒系の存在下に生じさせることを特徴とする:この方法によれば、反応条件は、各試薬の完全気相に相応する、即ち、上記方法は、気相中に専ら存在する試薬を含むべきであるような圧力および温度条件下に実施する。
【0016】
本発明の1つの局面によれば、反応部中に存在する混合物全体(従って、この場合、気相中の試薬のみならず生成物も)の完全気相に相応する圧力および温度条件を選択することが可能である。
本発明のもう1つの局面によれば、反応生成物の少なくとも部分的液相に相応する圧力および温度条件を選択することが可能であり、従って、この場合、試薬は気相中に存在し、一方、生成物は、少なくとも部分的に液体にある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】Kgクメン/Kg ZSM‐12ゼオライトで表す触媒の生産性に関連してのモル選択性[Ar]/[IPA] (変換させるIPAの総量に対してのクメン+ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン)の傾向性、並びにKgクメン/Kg ZSM‐12ゼオライトでの触媒の生産性に関連してのモル選択性[Cum]/[IPA] (変換させるIPAの総量に対してのクメン)の傾向性を示すグラフである
【図2】触媒の生産性に関連してのモル選択性[Ar]/[IPA]およびモル選択性[Cum]/[IPA]の傾向性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に従う方法は、これまた従来技術において使用される比よりもはるかに低いベンゼンとイソプロピルアルコール間のモル比を、明確な工業的適用性の範囲内で、従って、反応中に形成される総水分量にかかわらず、反応部への供給物中で採択することを可能にする。
【0019】
本発明において使用することのできるMTW構造タイプのゼオライトは、例えば、ZSM‐12、CZH‐5、Nu‐13、シータ‐3およびTPZ‐12である。CZH‐5ゼオライトは、GB 2079735A号に記載されており;Nu‐13は、EP59059号に記載されており;シータ‐3はEP 162719号に、TPZ‐12はUS 4,557,919号に記載されている。好ましくは使用するMTW構造タイプのゼオライトは、20以上のSiO2/Al2O3モル比を有するシリコ‐アルミネートである。このゼオライトは、A Katovic and G.Giordano, Chem. Ind. (Dekker) (Synthesis of Porous Materials) 1997 69, 127‐137に記載されている。そのアルミニウムは、B、Ga、Feまたはこれらの混合物によって、Chon et al., Progress in Zeolites and Microporous Material, SSSC, vol.105, 1997においてToktarevおよびIoneにより説明されているようにして、全体的にまたは部分的に置換し得る。本特許出願の好ましい局面によれば、ZSM‐12ゼオライトを使用する;このゼオライトは、その焼成および無水形において、下記の式に相応する酸化物モル組成を有する多孔質の結晶性材料である:
1.0 ± 0.4 M2/n O . W2 O3 . 20−500 YO2 . zH2O
式中、Mは、H+および/または原子価 nを有するアルカリまたはアルカリ土類金属のカチオンであり;Wは、アルミニウム、ガリウムまたはこれらの混合物から選ばれ;Yは、ケイ素およびゲルマニウムから選ばれ;zは、0〜60の範囲である。Mは、好ましくは、ナトリウム、カリウム、水素またはこれらの混合物から選ばれる。Wは、好ましくはアルミニウムであり;Yは、好ましくはケイ素である。Wは、ホウ素、鉄またはこれらの混合物によって少なくとも部分的に置換し得る。ZSM‐12ゼオライトは、US 3,832,449号、Ernst et al., Zeolites, 1987, Vol.7, September、およびToktarev & Ione, Chon et al., Progress in Zeolites and Microporous Material, SSSC, Vol.105,1997に記載されている。
【0020】
MTWゼオライト、特に、ZSM‐12ゼオライトは、その構造中に存在するカチオン部位を水素イオンが少なくとも50%占める形において好ましく使用する。少なくとも90%のカチオン部位を水素イオンが占めるのが特に好ましい。
【0021】
本発明の1つの局面によれば、リンをMTWゼオライトに添加し得る。添加は、上記ゼオライトを、好ましくはアンモニア形で、リン化合物により、機械的撹拌、含浸または気相内蒸着のような任意の既知の方法を使用して処理することによって実施し得る。リン化合物は、相応する塩、酸、および、例えばアルコキシドのような有機化合物から選択し得る。好ましくは、含浸法を使用する、即ち、上記ゼオライトは、好ましくは、アンモニア形で、Pの化合物の水溶液で処理する。得られる懸濁液を、撹拌下に保った後、溶媒を除去するに十分な温度で真空下に乾燥させる。含浸を実施する方式および条件は、当該分野の熟練者にとっては既知である。その後、乾燥から得られた固形物を400〜600℃の範囲の温度で1〜10時間焼成する。Pは、好ましくは、触媒組成物の総質量に対して3%よりも少ない量で存在し、好ましくは、触媒組成物の総質量に対して0.05質量%以上で且つ2質量%以下の量で存在する。
【0022】
本発明の方法においては、上記ゼオライトは、無機リガンドのようにまたは無機リガンドと結合させた形で使用する。上記ゼオライトは、例えば、押出加工によって得られるペレットの形、或いはスプレー乾燥によって得られたミクロスフィアの形で使用し得、これらの方法は、上記ゼオライトにも、適切な無機リガンドのようにまたは無機リガンドと混合して適用する。リガンドは、アルミナ、シリカ、シリコ‐アルミネート、チタニア、ジルコニアまたはクレーであり得る。リガンドは、好ましくは、アルミナである。結合触媒においては、ゼオライトとリガンドは、5/95〜95/5、好ましくは20/80〜80/20の範囲の質量比であり得る。また、好ましい実施態様においては、最終触媒は、ゼオライト外多孔性、即ち、最終触媒中に存在するゼオライトの品質および量に属し得ない触媒の多孔性画分の特定の特性に特徴を有する。特に、上記ゼオライト外有孔性は、100オングストロームよりも大きい直径を有する孔でもって上記ゼオライト外有孔性の少なくとも50%に等しい画分と結合した最終触媒のg当り0.4mlよりも低くない値を有する。上記ゼオライト外多孔性は、通常の製造方法によって得ることができ、例えば、Loweel, Seymour “Introduction to powder surface area“, Wiley Interscienceに記載されている既知の方法に従って正確に測定する。
【0023】
本発明の好ましい局面によれば、操作温度は150℃〜230℃の範囲であり、反応圧は、1〜20バールの範囲であり、いずれの場合も、完全気相中に存在する試薬を含むような条件下にあり、イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物をアルキル化剤として普通に使用する。
10バールよりも低い、好ましくは5〜9バールの圧力で操作するのが好ましい。
本出願において特許請求する方法においては、ベンゼンとイソプロパノールのモル比は、好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜4で変動する。
プロピレンもさらなるアルキル化剤としてイソプロパノールと一緒に使用する場合、ベンゼンとアルキル化剤(イソプロパノール+プロピレン)のモル比は、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜4の範囲である。イソプロパノールとプロピレンのモル比は、好ましくは10〜0.01、さらにより好ましくは5〜0.1で変動する。
【0024】
イソプロパノールによるベンゼンのアルキル化は、連続、半連続またはバッチ方式で実施し得る。
上記方法を連続で実施する場合、反応部を出る流出液の有機相を、冷却し、デミキシングし、そして、水性相を有機相から除去した後、同じ反応部に部分的にリサイクルすることを含む反応装置構造を使用して操作することも可能である。
アルキル化剤としてのIPAまたはIPAとプロピレンの混合物によるベンゼンのアルキル化反応は、いずれの場合も、IPAの存在にもかかわらず発熱状態にあり、温度を好ましい範囲内に維持し、ポリアルキル化芳香族化合物の副生成を減じるためには、触媒を、反応器内で、固定床反応器内の各種の層内に配置し得る。
【0025】
急冷は、1つの層と他の層間で、不活性溶媒とベンゼンの1部および/またはアルキル化剤、即ち、イソプロピルアルコールまたはイソプロピルアルコールとプロピレンの混合物の1部によって実施する。
そのように操作することによって、高ベンゼン/アルキル化剤比を、単一層上で、その全体的比率を上げることなく、クメンへの選択性、ひいては反応部下流の分離操作に関して明確な利点でもって得ることが可能である。
温度制御は、試薬および/または不活性生成物の急冷によるだけでなく層間の相互冷却によっても実施し得る。
上記アルキル化反応は、好都合に、直列の2基以上の反応器内で実施して、相互冷却して温度を制御し得る。必要に応じてプロピレンと混合したイソプロピルアルコールおよび/またはベンゼンの供給物は、各反応器および反応器の種々の層間で適切に分割し得る、即ち、アルキル化剤とベンゼンは、2以上の工程で添加する。
【0026】
また、本発明の目的は、下記の工程、
1) ベンゼンをイソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物によってアルキル化してクメンと水を得る工程であって、上記アルキル化反応を完全気相中で且つMTW群に属するゼオライトを含有する触媒系の存在下に生じさせることを含む工程、
2) そのようにして得られたクメンをクメンヒドロペルオキシドに酸化する工程、
3) 上記クメンヒドロペルオキシドを酸で処理してフェノールとアセトンの混合物を得る工程、
4) アセトンをイソプロパノールに水素化し、このイソプロパノールを工程(1)にリサイクルする工程、
を含むフェノールの製造方法、も含む。
【0027】
工程(1)は、本発明のアルキル化方法の上述した局面に従って実施する。工程(2)においては、工程(1)から得られたクメンを空気で酸化してクメンヒドロペルオキシドを得、引続き、このクメンヒドロペルオキシドを酸で処理してフェノールとアセトンの混合物を得、この混合物を分別してフェノールをアセトンから分離する。工程(3)においては、工程(2)において得られたアセトンを部分的にまたは全体的に水素化して、工程(1)にリサイクルするイソプロピルアルコールとする。
【0028】
好ましい局面によれば、第1工程の終了時に、所望生成物のクメンを分別により分離した後、クメンは次の酸化工程に通し、残存のポリイソプロピルベンゼン画分は、さらなるクメンを回収するためのベンゼンによるトランスアルキル化反応のために分離工程において使用する。
上記トランスアルキル化反応は、ベンゼンによるポリイソプロピルベンゼンのトランスアルキル化反応用の当該分野の熟練者にとって既知の任意の触媒を使用して実施し得る、特に、上記トランスアルキル化反応は、特にEP 687500号およびEP 847802号に記載されている事項に従って製造したベータゼオライトまたはベータゼオライト系の触媒の存在下に実施し得る。上記トランスアルキル化反応における温度条件は100℃〜350℃で選択し得、圧力は1.01〜5.07MPa (10〜50気圧)で選択し、WHSVは、0.1 hours-l〜200 hours-lの範囲である。これらの条件は、EP 687500号に記載されている事項に従っている。
【0029】
従って、工程(2)においては、工程(1)から、さらに、必要に応じてトランスアルキル化工程から得られたクメンをクメンヒドロペルオキシドに酸化する。その後、クメンヒドロペルオキシドをフェノールとアセトンに転換する。クメンのクメンヒドロペルオキシドへの酸化およびその後のフェノールへの転換は、例えば、US 5,017,729号に記載されているようにして実施し得る。最後の工程においては、工程(2)から副生成物として得られたアセトンの1部または全部をイソプロピルアルコールに水素化し、最初の工程に再供給する。
【0030】
アセトンのイソプロパノールへの水素化反応は、既に既知であり、ラネーニッケル、ニッケル‐銅、銅‐クロム、銅‐亜鉛をベースとする或いは白金族の金属、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムをベースとする触媒を使用して実施し得る。
好ましくは、ラネーニッケルまたは銅‐クロムをベースとする触媒を使用する。
アセトンの水素化反応が生じる条件は、特に、US 5,015,786号またはUS 5,017,729号に記載されている。
【0031】
本出願において特許請求している方法の、特に、気相中で且つMTWゼオライトを含有する触媒の存在下でのイソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物によるベンゼンのアルキル化工程の卓越した局面は、フェノールと共生成したアセトンを再使用し、そのアセトンから、イソプロピルアルコールを水素による還元によって取得するという顕著な柔軟性である。
この柔軟性は、事実上、本発明方法における、ベンゼンのアルキル化剤としてのイソプロピルアルコールの使用によって形成される水の存在故の固形酸触媒の典型的な性能の低下現象および急速な不活性化の無いことを担保するMTWゼオライトをベースとする触媒の使用によって可能になっている。
【0032】
以下の実施例は、本出願において特許請求する発明の単なる例示を目的とし、本発明の目的を如何なる形でも限定するものではない。
【実施例1】
【0033】
ベンゼンのアルキル化試験を、以下で説明する実験装置を使用し、イソプロピルアルコールによって実施する。
実験装置は、ベンゼンおよびイソプロピルアルコール試薬用のタンク、試薬の反応器への供給用ポンプ、試薬の予熱装置、電熱炉内に据付けたスチール反応器、反応器内の温度調整ループ、反応器内の圧力調整ループ、反応器流出液の冷却剤、並びに液体および気体生成物の収集装置からなっている。
特に、上記反応器は、機械的密閉装置および約2cmに等しい直径を有する円筒状スチール管からなっている。
反応器の大きい方の軸に沿って、反応器の大きい方の軸に沿って自由に摺動可能なサーモカップルを内部に収容している1mmに等しい直径を有する温度測定用空洞が存在する。
【0034】
US 2003/0069459号の実施例2に記載されているようにして製造したZSM‐12ゼオライトを含有する触媒を反応器に装填する。
一定量の不活性物質を、触媒床の上下に装填して床を完成させる。
ベンゼンおよびイソプロパノール(IPA)試薬(適切なミキサー内で予熱し予備混合した)を、上向流によって反応器に供給する。
反応生成物を、ガスクロマトグラフィーによって分析する。試験を実施する反応条件は、下記のとおりである:
反応温度:190℃
反応圧:8バール
WHSV:4 hours-1
供給物中の[ベンゼン]/[IPA]:3,25モル/モル
これらの条件により、試薬が気相中にあり且つ生成物が部分的に液相中にあることを確保する。
【0035】
試薬混合物の物理的状態の特定は、該当する構成成分および混合物について現存する相図による双方の比較によって、さらにまた、RKS状態方程式を使用しての算出(Soave. G. Chem. Eng. Sci 27, 1197, (1972)) によって行う。この式における相互作用パラメーターは、炭化水素‐水混合物の気液平衡および相互溶解度(reciprocal solubility)に関する文献の実験データの回帰から取得する(C.C. Li, J.J.McKetta Jul. Chem. Eng. Data 8 271‐275 (1963) and C. Tsonopoulos, G.M. Wilson ALCHE Journel29,990‐999, (1983))。
上記式を適用する反応系を、組成に関して、下記の系に同化させる。
[ベンゼン]/[プロピレン] = 3,25;および、
[ベンゼン]/[水] = 3,25。
イソプロピルアルコール試薬の完全転換によって系中に存在する総水分濃度は、約5%に等しい。
【0036】
図1は、Kgクメン/Kg ZSM‐12ゼオライトで表す触媒の生産性に関連してのモル選択性[Ar]/[IPA] (変換させるIPAの総量に対してのクメン+ジイソプロピルベンゼン+トリイソプロピルベンゼン)の傾向性、並びにKgクメン/Kg ZSM‐12ゼオライトでの触媒の生産性に関連してのモル選択性[Cum]/[IPA] (変換させるIPAの総量に対してのクメン)の傾向性を示す。
試験の全期間(約620時間)において、例えば、アルコールの変換率の低下(図1には示していないが、試験の全期間において定量的であった)またはポリアルキル化画分の増大のような触媒の不活性化の兆候は観察されなかった。
試験全体における選択性は、実際に、選択性[Cum]/[IPA]において約82%に、また、選択性[Ar]/[IPA]において約98.8%に等しい値でもって変化しないままであった。
【実施例2】
【0037】
(比較例)
上記の実施例において得られた結果を、EP 847802号の実施例4に記載されているようにして製造したベータゼオライトを含有する触媒を使用して得られた結果と比較する。
実施例1と比較例2の両触媒は、約50%の活性相を含有する。
実施例1で説明した同じ試験装置を、試薬が気相中にあり且つ生成物が部分的に液相中にあることを確保する同じ操作条件下に使用する。
試薬混合物の物理的状態の特定は、実施例1で説明したようにして行う。
【0038】
図2は、触媒の生産性に関連してのモル選択性[Ar]/[IPA]およびモル選択性[Cum]/[IPA]の傾向性を示す。
約160時間の稼動後、アルコールの変換は、既に2.5%低下していた。この値は、同じ操作条件下では、気相中でのイソプロパノールによるベンゼンのアルキル化におけるZSM‐12含有触媒の高い経時的安定性を、従って、その高い生産性を明らかに実証している。
本発明の対象であるZSM‐12を含有する触媒は、有用な芳香族生成物全体に対してもより選択性であり(約0.5%以上)、また、図1と図2に示した傾向性による比較も、本発明の対象であるZSM‐12を含有する触媒がクメンに関してさらに一層選択性(約20%以上)であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプロパノールまたはイソプロパノールとプロピレンの混合物によるベンゼンのアルキル化方法であって、前記アルキル化反応を、前記試薬の完全気相に相応する温度および圧力条件下で且つMTW群に属するゼオライトを含有する触媒系の存在下に生じさせる工程を含むことを特徴とするアルキル化方法。
【請求項2】
前記反応を、反応混合物全体の完全気相に相応する温度および圧力条件下で生じさせる工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記反応を、前記試薬の完全気相および反応生成物の少なくとも部分的液相に相応する温度および圧力条件下で生じさせる工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ZSM‐12ゼオライトを、MTWゼオライトとして使用する、請求項1、2または3記載の方法。
【請求項5】
前記ゼオライトを、前記ゼオライト中に存在するカチオン部位が水素イオンによって少なくとも50%占められる形で使用する、請求項1、2、3または4記載の方法。
【請求項6】
前記ゼオライトを、リガンドと結合させた形で使用する、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記リガンドを、アルミナ、シリカ、シリコ‐アルミネート、チタニア、ジルコニアまたはクレーから選択する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記方法を、150℃〜230℃の範囲の温度および1〜20バールの範囲の圧力において実施する、請求項1〜7のいずれか1項記載のベンゼンのアルキル化方法。
【請求項9】
圧力が、10バールよりも低い、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ベンゼンとイソプロパノール間またはベンゼンとイソプロパノールとプロピレンの混合物間のモル比が、2〜10である、請求項1、2、3または4記載のベンゼンのアルキル化方法。
【請求項11】
前記反応を、2〜4の範囲であるベンゼンとイソプロパノール間またはベンゼンとイソプロパノールとプロピレンの混合物間のモル比でもって生じさせる、請求項10記載のベンゼンのアルキル化方法。
【請求項12】
アルキル化用混合物が、イソプロパノールとプロピレンからなる場合、前記反応を、10〜0.01の範囲にあるイソプロパノールとプロピレン間のモル比でもって生じさせる、請求項1、2、3または4記載の方法。
【請求項13】
前記反応を、好ましくは5〜0.1の範囲にあるイソプロパノールとプロピレン間のモル比でもって生じさせる、請求項12記載のベンゼンのアルキル化方法。
【請求項14】
前記触媒系が、リンを含有する、請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記触媒系が、リンを、触媒組成物の総質量に対して3質量%よりの少ない量で含有する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
フェノールの製造方法であって、下記の工程、
1) ベンゼンをイソプロパノールと必要に応じてのプロピレンとによってアルキル化してクメンと水を得る工程、
2) そのようにして得られたクメンをクメンヒドロペルオキシドに酸化する工程、
3) 前記クメンヒドロペルオキシドを酸で処理してフェノールとアセトンの混合物を得る工程、
4) アセトンをイソプロパノールに水素化する工程、
を含み、
工程(1)におけるベンゼンのアルキル化を、請求項1〜15のいずれか1項記載の方法によって生じさせることを特徴とする方法。
【請求項17】
反応流出液の有機相の1部を、冷却し、有機相を水性相からデミキシングしそして水性相を除去した後、同じ反応に再供給する、請求項1、2、3、4または16記載のベンゼンのアルキル化方法。
【請求項18】
前記アルキル化反応に由来する反応流出液中に存在するポリアルキル化生成物を、特定の精留部において分離し、ベンゼンによるトランスアルキル化部分に送る、請求項1、2、3、4または16記載のベンゼンのアルキル化方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−502088(P2012−502088A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526583(P2011−526583)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006782
【国際公開番号】WO2010/029405
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(508128303)ポリメーリ エウローパ ソシエタ ペル アチオニ (24)
【Fターム(参考)】