説明

イヌにおける肝臓の銅蓄積についての遺伝子検査およびペット用低銅食餌

本発明は、イヌを検査してイヌが肝臓の銅蓄積から保護される可能性を決定する方法であって、試料中のイヌのゲノムにおける、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および(b)(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型から選択される1つまたは複数の多型の有無を検出することを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌが肝臓の銅蓄積および銅関連肝疾患から保護されている可能性を決定する方法に関する。本発明は、イヌにおける肝臓の銅蓄積および銅関連肝疾患の予防に使用するためのイヌ用の食材、ならびに該食材を作製する方法にも関する。
【0002】
肝疾患はイヌには普通見られないが、その最も普通の形態の1つは慢性肝炎(CH)である。CHは組織学的診断により、線維症、炎症、ならびに肝細胞アポトーシスおよび壊死の存在を特徴とする。肝硬変は、疾患の最終段階として生じ得る。CHの原因の1つは、肝臓の銅蓄積である。肝臓の銅蓄積は、銅取込みの増大、肝臓の銅代謝における原発性の代謝欠陥、または銅の胆汁排泄の変化の結果として生じ得る。後者の場合、これがどの程度までイヌで生じるか明らかではないが、銅毒性は肝臓の炎症、線維症および胆汁鬱滞に続発する。続発性の銅蓄積症において、銅蓄積は主として門脈周囲の実質に限定され、肝銅濃度は家族性の蓄積症における蓄積よりも低い。誘発因子(単数または複数)および感作抗原の性質は知られていないが、原発性の胆汁性肝硬変において観察される免疫学的異常および形態学的特徴は、免疫介在性の機序と同時に発生する。
【0003】
小腸は、哺乳類における食餌性の銅吸収の主要部位として認識されている。腸管腔から腸管粘膜への輸送は、飽和輸送成分に関与する担体介在性の過程である。粘膜細胞に入れば、新たに吸収された銅の約80%はサイトゾルに存在し、主としてメタロチオネイン(MT)と結合する。これは、金属のホメオスタシス、貯蔵、輸送および解毒等、多くの機能を備える低分子量の誘導タンパク質である。腸細胞を通過した後、銅は門脈循環へと進み、そこで担体タンパク質、ペプチドおよびアミノ酸と結合して肝臓へと輸送され、より少量が腎臓へと進む。多くの哺乳類において銅は容易に排泄され、銅排泄の主要経路は胆汁である。
【0004】
肝臓の銅蓄積の遺伝的な根拠は未知である。これは、銅は多くの異なった生物学的経路に関与しており、その各々には非常に複雑で多数の遺伝子が関与しているという事実により難しくなっている。過剰な肝臓の銅蓄積を有するイヌは、強力な銅キレート化剤であるD−ペニシラミンを用いて通常は治療される。しかし最終的には、CHのイヌに適用できる最も有効な治療法は肝移植である。
【0005】
国際公開第2009/044152(A2)号パンフレットは、肝臓の銅蓄積に対するイヌの感受性を決定する方法であって、(a)銅蓄積に対する感受性を示すイヌのGOLGA5、ATP7aまたはUBL5遺伝子における多型、および/または(b)前記多型(a)と連鎖不平衡にある多型の有無を検出することと、これにより肝臓の銅蓄積に対するイヌの感受性を決定することとを含む方法を開示する。国際出願第PCT/GB09/02355号明細書(未発行)は、肝臓の銅蓄積に対するイヌの感受性を決定する方法に用いるためのさらに別の多型を開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、イヌにおける低レベルの肝臓銅と関連し、したがって肝臓の銅蓄積からの保護を示す、イヌのATP7A遺伝子におけるコード領域突然変異を見出した。この突然変異は、タンパク質のアミノ酸に変化をもたらす一塩基多型(SNP)である。本明細書に記載されている研究において、この多型が細胞における銅輸送に機能的影響を与えることが示された。ATP7A遺伝子におけるこの多型の発見は、この多型および/またはこの多型と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型をスクリーニングすることによる、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されているかを予見する検査のための基盤を提供する。
【0007】
本発明者らは、近年、イヌにおける高レベルの肝臓銅と関連し、したがって肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す、イヌのGOLGA5、ATP7AおよびUBL5遺伝子におけるまたはそれらの領域における多型も見出した(国際公開第2009/044152(A2)号パンフレットおよび未発行の国際出願第PCT/GB09/02355号明細書)。したがって、肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型の検出結果と、イヌにおける肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数の多型の検出結果を組み合わせた遺伝子検査は、イヌが肝臓の銅蓄積の危険性を有する可能性に関して特に情報価値があるであろう。
【0008】
イヌの肝臓における銅の蓄積は、高い肝臓銅に起因し得る肝臓の1つまたは複数の疾患または状態に至り得る。例えば、高い肝臓銅は、慢性肝炎、肝硬変および最終的には肝不全に至り得る。したがって、本発明により、高銅と関連するこのような肝疾患または状態の発症から保護されていないまたはその危険性があるイヌを同定することができる。イヌが肝臓の銅蓄積からの保護を示す突然変異を持たないことが確認されると、本発明の食材を投与すること等によって、低レベルまたは正常レベルの肝臓銅レベルを維持するための、このイヌに適した予防措置を同定することができる。さらに、肝臓の銅蓄積からの保護と関連する変異を有すると確認されたイヌは、肝疾患または他の高銅と関連する状態を罹患する可能性が低いイヌを作出する目的を有する繁殖プログラムに使用するのに理想的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、イヌを検査してイヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定する方法であって、試料中のイヌのゲノムにおける、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および(b)(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型から選択される1つまたは複数の多型の有無を検出することを含む方法を提供する。
【0010】
本発明は、
・ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および/またはそれと連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型、ならびにそれらと肝臓の銅蓄積からのイヌの保護との関連に関する情報を含むデータベースと、
・イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定する方法であって、
(a)イヌのゲノムにおける本明細書に定義されている多型の有無に関するデータをコンピュータシステムに入力することと、
(b)該データを、前記多型および前記多型と肝臓の銅蓄積からのイヌの保護またはそれに対するイヌの感受性との関連に関する情報を含むコンピュータデータベースと比較することと、
(c)比較に基づいて、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定することと
を含む方法と、
・コンピュータシステムにおいて実行される際に、コンピュータシステムに本発明の方法を実施するよう指示するプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムと、
・本発明のコンピュータプログラムおよび本発明のデータベースを含むコンピュータ記憶媒体と、
・本発明の方法を実施するように構成されているコンピュータシステムであって、
(a)イヌのゲノムにおける本明細書に定義されている多型の有無に関するデータを受け取るための手段と、
(b)前記多型および/またはそれと連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型、ならびにそれら多型と肝臓の銅蓄積からのイヌの保護またはそれに対するイヌの感受性との関連に関する情報を含むデータベースと、
(c)データをデータベースと比較するためのモジュールと、前記比較に基づいてイヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定するための手段と
を含むコンピュータシステムと、
・イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定する方法であって、イヌのゲノムにおける、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および(b)(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型から選択される1つまたは複数の多型の有無を検出することを含む方法と、
・肝臓の銅蓄積からのイヌの保護を決定するための、本明細書に定義されている多型の使用と、
・肝臓の銅蓄積から保護される可能性のある子孫を作出するためのイヌを選択する方法であって、
・第一のイヌ候補のゲノムが、本発明に係る肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むか決定し、これによって第一のイヌ候補が、肝臓の銅蓄積から保護される可能性のある子孫の作出に適しているか決定することと、
・場合により、第一のイヌとは異なる性別の第二のイヌのゲノムが、本発明に係る肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むか決定することと、
・場合により、第一のイヌと第二のイヌとを交配して、肝臓の銅蓄積から保護される可能性のある子孫を作出することと
を含む方法
も提供する。
【0011】
さらに、また驚くべきことに、本発明者らは、ラブラドールレトリーバーにおける肝銅濃度を低下させるペニシラミン薬の使用よりもさらに有効な食材を見出した。したがってこの食材は、ラブラドールレトリーバーの血統のイヌにおける肝臓の銅蓄積を予防するのに有用であり、慢性肝炎、肝硬変および肝不全等、高い肝臓銅と関連する疾患または状態の予防に用いることができる。
【0012】
したがって、本発明は、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承するイヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患を予防する方法に用いるための、4.5〜12mg/kg(乾物)の濃度の銅を含む食材であって、好ましくは、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性が本発明の方法によって決定されている、食材も提供する。
【0013】
本発明は、
・ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承するイヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患を予防する方法であって、好ましくは、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性が本発明の方法によって決定されており、イヌに本発明の食材を給餌することを含む方法と、
・ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承するイヌのための食材の製造における銅の使用であって、好ましくは、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性が本発明の方法によって決定されており、食材が、4.5〜12mg/kg(乾物)の濃度の銅を含み、イヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患の予防に用いるためのものである、使用と、
・ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承するイヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患の予防において同時に、別個にまたは連続的に用いるための、4.5〜12mg/kg(乾物)の濃度の銅と、少なくとも120mg/kg(乾物)の濃度を提供するための亜鉛サプリメントとを含む食材を含むパックであって、好ましくは、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性が本発明の方法によって決定されている、パックと、
・本発明のラベルを付けた食材または本発明のラベルを付けたパックと
をさらに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】無治療における肝臓の銅蓄積の進行を例示する図である。図は、任意の治療に先立つ8.7カ月(範囲6〜15カ月)隔てた2回の検査における11頭のラブラドールレトリーバーの肝銅濃度(mg/kg(乾燥重量))を示す。この期間中、すべての動物はそれらの通常の維持食事を給餌され、それは、製造業者により、乾物を基準にして12〜25mg/kgの間の食餌銅濃度および乾物を基準にして80〜270mg/kgの間の亜鉛濃度を含んだ。菱形印は外れ値を表す。
【図2】試験開始時の24頭のラブラドールレトリーバーおよび食事管理中の2頭の対照検査における肝銅濃度(mg/kg(乾燥重量))を例示する図である。イヌは以下のように2群に分けた:第1群=食餌+グルコン酸亜鉛錠剤、第2群=食餌+プラセボ。x軸の数字に対するキーは以下の通りである:1+2=治療前、3+4=再チェック1(8カ月(範囲5〜13カ月)後の最初の対照検査)、5+6=再チェック2(16カ月(範囲12〜25カ月)後の2度目の対照検査)。検査したイヌの数は以下の通りである:1:N=第1群中の12頭のイヌ、2:N=第2群中の12頭のイヌ、3:N=第1群中の9頭のイヌ、4:N=第2群中の12頭のイヌ、5:N=第1群中の6頭のイヌ、6:N=第2群中の10頭のイヌ。菱形印は外れ値を表す。点線は成犬に対する肝銅の正常レベルを表す。
【図3】本発明の食餌の18頭のラブラドールレトリーバーにおける肝銅濃度(mg/kg(乾燥重量))に対する有効性を、ペニシラミン単独の効果と比較して例示する図である。x軸の数字に対するキーは以下の通りである:1=ペニシラミン前、2=ペニシラミン後/食物前、3=食物後。x軸に沿って1から2へ進むとペニシラミン効果が示され、一方2から3へと進むと食物効果が示される。点線は、成犬に対する肝銅の正常レベルを表す。
【図4】本発明を実施するように調整された機能要素を図式的に例示する図である。
【図5】性別およびATP7A遺伝子型によるラブラドールレトリーバーにおける平均銅レベル(表VIIのデータ)を図示する図である。y軸は乾燥重量による肝臓銅(mg/kg)である。x軸はATP7A遺伝子型である:左から右へ、最初の3つは試験した雌イヌについてであり、最後の2つは試験した雄イヌについてである。誤差バーは標準誤差である。
【図6】ラブラドールレトリーバーにおける性別およびATP7A遺伝子型による組織学的銅スコア(表VIIのデータ)のボックスプロットを示す図である。y軸は銅組織学的スコアの値である。x軸はATP7A遺伝子型であり:左から右へ、最初の3つは試験した雌イヌについてであり、最後の2つは試験した雄イヌについてである。クラスカル・ワリスp−値は0.000396である。
【図7A】イヌ初代線維芽細胞における銅アイソトープの測定値を示す図である。(A)10μM、50μMおよび100μMの64Cuと24時間または48時間インキュベーションした後のATP7AC/C、ATP7AC/TおよびATP7AT/T各細胞における銅アイソトープ(64Cu)の測定値である。タンパク質アッセイおよびMTSアッセイにより、細胞培養条件に対してガンマカウントを補正した。24時間インキュベーションのデータポイントは、2回繰り返し行った独立した2実験から得られた平均+/−SEMを表し、全細胞タンパク質のカウント毎分(cpm)として表す。他のデータポイントは、2回繰り返した1実験から得られた平均+/−SEMを表す。
【図7B】イヌ初代線維芽細胞における銅アイソトープの測定値を示す図である。(B)24時間インキュベーションし、続いて十分に洗浄して銅アイソトープを含まない培地で2時間インキュベーションした後のATP7AC/C、ATP7AC/TおよびATP7AT/T各細胞における銅アイソトープ(64Cu)の測定値である。タンパク質アッセイおよびMTSアッセイにより、細胞培養条件に対してガンマカウントを補正した。24時間インキュベーションのデータポイントは、2回繰り返し行った独立した2実験から得られた平均+/−SEMを表し、全細胞タンパク質のカウント毎分(cpm)として表す。他のデータポイントは、2回繰り返した1実験から得られた平均+/−SEMを表す。
【図7C】ヒト初代線維芽細胞における銅アイソトープの測定値を示す図である。(C)10μM、50μMおよび100μMの64Cuと24時間または48時間インキュベーションした後の、メンケス病患者または非メンケス病患者(対照)由来の初代線維芽細胞における銅アイソトープ(64Cu)の測定値である。タンパク質アッセイにより、細胞培養条件に対してガンマカウントを補正した。データポイントは(A)および(B)と同様に表す。
【図7D】ヒト初代線維芽細胞における銅アイソトープの測定値を示す図である。(D)24時間インキュベーションし、続いて十分に洗浄して銅アイソトープを含まない培地で2時間インキュベーションした後の、メンケス病患者または非メンケス病患者(対照)由来の初代線維芽細胞における銅アイソトープ(64Cu)の測定値である。タンパク質アッセイにより、細胞培養条件に対してガンマカウントを補正した。データポイントは(A)および(B)と同様に表す。
【図8】イヌ初代線維芽細胞におけるATP7Aの遺伝子発現レベルを示す図である。(A)3’(ATP7Aiii)領域、5’(ATP7Aii)領域または突然変異と重複する領域(ATP7Ai)をqPCR解析する前に、ATP7AC/C、ATP7AC/TおよびATP7AT/T各細胞を無処理(上グラフ)または100μMの銅の存在下で24時間インキュベート(下グラフ)した。データは、3回複製したウェルにおいて行われた独立した2実験から得られた平均+/−SDを図示する。(B)ATP7A発現のウエスタンブロット解析。細胞を無処理のまま(−)、あるいは100μMのBCSまたは100μMの銅と24時間インキュベートした。試料を溶解し、その後タンパク質を12%SDS−PAGEゲルで分離し、ニワトリ抗ATP7A(1:2000希釈)を用いて1時間イムノブロットした。次にメンブレンをHRP結合ヤギ抗ニワトリIg抗体(1:10,000希釈)とさらに1時間インキュベートし、その後ECL(商標)ウエスタンブロッティング検出試薬を用いて現像した。メンブレンをストリップし、β−チューブリン(1:20,000希釈)でリプローブして、ローディング量が等しいことを確認した。矢印は、予想される全長タンパク質を示す。
【図9】イヌ初代線維芽細胞におけるメタロチオネインの遺伝子発現レベルを提供する図である。ATP7AC/C、ATP7AC/TおよびATP7AT/T各細胞を1、10または100μMの銅の存在下、あるいは無処理(UT)のまま24時間インキュベートし、メタロチオネイン遺伝子のqPCR解析に付した。図9(A)は95%信頼区間(CI)でUT ATP7AC/Cと比較した倍数変化を図示し、(B)は95%CIでUT ATP7A遺伝子型発現と比較した倍数変化を図示し、(C)は95%信頼区間(CI)のlog10発現レベルを図示する。(C)において、グラフ内の上の線はATP7AT/T、中央の線はATP7AC/T、下の線はATP7AC/Cの遺伝子型のものである。
【図10】イヌの腸および肝臓組織におけるメタロチオネインの遺伝子発現レベルを例示する図である。ATP7AC/C、ATP7AC/TまたはATP7AT/TであるATP7Aを発現するイヌから(A)肝臓および(B)小腸組織を摘出し、メタロチオネイン遺伝子のqPCR解析に付した。データは、独立した5実験から得られたlog10発現レベルの平均および95%CI(右パネル)、ならびに95%CIでATP7AC/Cと比較した倍数変化を図示する。
【図11】ATP7Aタンパク質の銅介在性輸送の特性を示す図である。ATP7AC/C(左パネル)およびATP7AT/T(右パネル)各細胞を、100μM BCSの存在下スライドガラス上で18時間培養し、その後洗浄し、培地中で100μMの銅と1、2または3時間インキュベーションした。細胞を固定し、抗ATP7A(各パネルの一番目の列)および抗58K(各パネルの二番目の列)の各抗体で染色し、3重標識間接顕微鏡観察用に処理し、その後落射蛍光顕微鏡を用いて可視化した。ATP7Aおよび58Kの像を重ね合わせて、重複領域の範囲を図示する(各パネルの三番目の列)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
配列の簡単な説明
配列番号1〜142は本発明のSNPを含むポリヌクレオチド配列を示す。
【0016】
配列番号144〜159はプライマー配列である。
【0017】
肝臓の銅蓄積からの保護またはそれに対する感受性の確認
肝臓における銅の蓄積は、ラブラドールレトリーバー、ドーベルマン・ピンシェル、ジャーマンシェパード、キースハウンド、コッカースパニエル、ウェストハイランド・ホワイトテリア、ベッドリントンテリア、およびスカイテリアを含む多数のイヌの血統における肝疾患をもたらす。任意の血統の正常イヌの肝臓における平均銅濃度は、乾燥重量を基準にして200〜400mg/kgであるが、新生児のイヌは一般にそれより高い肝臓銅濃度を有する。イヌの肝臓における銅の量は、生検によって測定することができる。
【0018】
肝臓の銅蓄積から保護されるイヌは、肝臓銅を蓄積する危険性または可能性が低く、その結果その肝臓銅濃度が乾燥重量を基準にして400mg/kgを超えるに至る可能性は低い。肝臓の銅蓄積から保護されるイヌの肝臓銅濃度は、600mg/kg未満、例えば500mg/kg未満、400mg/kg未満、または300mg/kg未満であろう。イヌが肝臓の銅蓄積から保護される可能性を本発明により決定することは、イヌが肝臓銅を600mg/kg未満、例えば500mg/kg未満、400mg/kg未満、または300mg/kg未満のレベルにまで蓄積する可能性を決定することを含む。
【0019】
肝臓の銅蓄積に対して感受性であるイヌは、銅を蓄積する傾向を有し、その結果その肝臓銅濃度は、乾燥重量を基準にして400mg/kgを超えるレベルに達する。イヌが肝臓の銅蓄積に対して感受性である危険性または可能性を決定することは、イヌが400mg/kg、例えば600mg/kgを超え、800mg/kgを超え、1000mg/kgを超え、1500mg/kgを超え、2000mg/kgを超え、5000mg/kgを超え、または10000mg/kgを超えるレベルにまで肝臓銅を蓄積する危険性または可能性を決定することを含む。
【0020】
肝臓銅の蓄積は、組織化学によって評価することができる。例えば、肝銅濃度は、以前に記載された通り、銅の分布を評価するためのルベアン酸染色技法を用いた組織化学によって半定量的に評価することができる(Van den Inghら、(1988)Vet Q10:84〜89)。濃度は、次の通り0から5のスケールに段階付けすることができる。0=銅の存在なし、1=いくつかの銅陽性顆粒を含む孤立性肝細胞および/または細網組織球(reticulohistiocytic)(RHS)細胞、2=少数〜中程度の数の銅陽性顆粒を含む小集団の肝細胞および/またはRHS細胞、3=中程度の数の銅陽性顆粒を含む大集団または広範囲の肝細胞および/またはRHS細胞、4=多数の銅陽性顆粒を有する広範囲の肝細胞および/またはRHS細胞、ならびに5=多数の銅陽性顆粒を有する肝細胞および/またはRHS細胞が分散して存在する。この段階付けシステムによると、2を超える銅スコアは異常である。
【0021】
したがって、本発明によりイヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定することは、Van den Inghらに記載されている段階付けシステムを用いて、イヌが3未満またはそれに等しい、例えば2.5、2、1.5未満またはそれに等しい、あるいは1未満またはそれに等しいスコアを付与される可能性の決定に関与し得る。イヌが肝臓の銅蓄積に対して感受性である危険性または可能性を決定することは、Van den Inghらに記載されている段階付けシステムを用いて、イヌが2を超えるまたはそれに等しい、例えば2.5、3、3.5を超えるまたはそれに等しい、あるいは4を超えるまたはそれに等しいスコアを付与される危険性または可能性の決定に関与し得る。
【0022】
保護の可能性または感受性の危険性は、例えば危険性因子、パーセンテージまたは確率として表すことができる。イヌが銅を上述のレベルまで蓄積するであろうか否か決定することもできる。例えば、肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定する方法は、イヌが銅を400mg/kgを超えるレベルまで蓄積するであろうか否か決定することを含むことができる。
【0023】
肝臓銅の400mg/kgを超えるレベルまでの蓄積は、肝疾患を伴い、最終的に肝不全に至り得る。したがって、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかを決定することは、イヌが慢性肝炎、肝硬変および肝不全等、肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患または状態を発症する可能性が低いことを示す。反対に、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかを決定することは、このような疾患または状態に対するイヌの感受性を示す。したがって、本発明は、慢性肝炎、肝硬変および肝不全などの肝臓の銅蓄積と関連する疾患に対するイヌの感受性またはそれからの保護の可能性を検査する方法を提供する。
【0024】
銅蓄積に対する感受性またはそれからの保護の多型および徴候
驚くべきことに、本発明者らは、肝臓の銅蓄積に対して感受性を示すこととは対照的に肝臓の銅蓄積からの保護を示すATP7Aのタンパク質配列に影響を与える多型を発見した(実施例2〜5)。この多型は、ATP7A遺伝子のタンパク質配列のアミノ酸328をトレオニンからイソロイシンへと変化させる。in vitro実験により、突然変異がタンパク質に重大な機能的効果を有することが決定された(実施例5)。この実験は、タンパク質の変異型を発現する細胞における銅の蓄積速度がより速いことを明らかにした。蓄積は銅曝露中により多く、放出は銅曝露後により遅くなる。さらに、銅曝露に応答した細胞内のATP7A移動は、突然変異を有する細胞において変化する。突然変異を有する細胞において、銅輸送タンパク質の発現も増加する。ATP7Aの発現レベルは、2種類の型を有する細胞の間で変化しない。したがって、ATP7Aコード領域突然変異は、タンパク質の機能に重要な効果がある。
【0025】
したがって、本発明は、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかを決定する方法に関する。特に、本発明は、イヌが肝臓の銅蓄積から保護される可能性を決定する方法であって、イヌのゲノムにおける、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142の位置102)から選択される1つまたは複数の多型および(b)(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型の有無を検出することを含む方法を提供する。
【0026】
「多型の有無を検出すること」という語句は、典型的には、多型がイヌのゲノム中に存在するかどうかを決定することを意味する。多型は、一塩基多型(SNP)、マイクロサテライト多型、挿入多型および欠失多型を含む。好ましくは、多型はSNPである。SNPの有無を検出することは、SNPの遺伝子型を同定することまたはイヌのゲノムに存在するヌクレオチド(単数または複数)をSNPについてタイピングすることを意味する。典型的には、両方の相同性の染色体上の同じ位置に存在するヌクレオチドが決定されるであろう。イヌは、したがって、SNPの第1の対立遺伝子に対してホモ接合性、第2の対立遺伝子に対してヘテロ接合性またはホモ接合性であると決定され得る。
【0027】
疾患または病態に対する個体の感受性またはそれからの個体の保護などの個体の表現型を決定することは、疾患または病態の原因となる多型の検出に限定されない。遺伝子マッピングの試験においては、個体の試料中の一連のマーカー遺伝子座における遺伝子変化が、所与の表現型との関連について検査される。そのような関連が特定のマーカー遺伝子座と表現型との間で見出されれば、それは、そのマーカー遺伝子座における変化が関心のある表現型に影響するか、またはそのマーカー遺伝子座における変化は遺伝子型が決定されていない、真の表現型に関係した遺伝子座と連鎖不平衡にあるかのいずれかであることを示唆する。互いに連鎖不平衡にある多型の群の場合には、特定の個体におけるすべてのそのような多型の存在の知識は一般的には余剰な情報を提供する。したがって、イヌのゲノムが、肝臓の銅蓄積または銅関連肝疾患に対する感受性またはそれからの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定するとき、多型のそのような群のただ1つの多型だけを検出することが必要である。
【0028】
連鎖不平衡の結果として、機能的感受性/保護的多型ではないが、機能的多型と連鎖不平衡にある多型は、機能的多型の存在を示すマーカーとして作用し得る。本発明の多型と連鎖不平衡にある多型は、肝臓の銅蓄積に対する感受性またはそれからの保護を示す。
【0029】
したがって、本明細書において定義した多型の位置の任意の1つは、直接的に、換言すれば、その位置に存在するヌクレオチドを決定することにより、または間接的に、例えば前記多型の位置と連鎖不平衡にある他の多型の位置に存在するヌクレオチドを決定することにより、タイピングすることができる。
【0030】
連鎖不平衡は、集団中の異なった遺伝子座における対立遺伝子の非ランダムの配偶子関連性である。ランダムな組合せにより独立に遺伝されるのではなく一緒に遺伝される傾向を有する多型は、連鎖不平衡にある。2つの多型が一緒の頻度が、2つの多型の個々の頻度の積であれば、多型は互いにランダムに組み合わされまたは独立に遺伝される。例えば、異なった多型部位における2つの多型が集団中の染色体の50%に存在する場合に、2つの対立遺伝子が集団中の染色体の25%に一緒に存在すれば、そのとき、それらはランダムに組み合わされていると言われる。より高いパーセンテージは2つの対立遺伝子が連関していることを意味するであろう。2つの多型の頻度が、集団中で個々に、同時に2つの多型の頻度の積より大きければ、第1の多型は第2の多型と連鎖不平衡にあることになる。集団中において、2つの多型が一緒の頻度が、10%を超え、例えば30%を超え、50%を超え、または70%を超え、2つの多型の個々の頻度の積を超えるならば、第1の多型は第2の多型と連鎖不平衡にあることになる。
【0031】
研究は、連鎖不平衡がイヌには大量にあることを示した(Extensive and breed−specific linkage disequilibrium in Canis familiaris、 Sutterら、Genome Research 14:2388〜2396)。連鎖不平衡にある多型は、物理的に近接していることが多く、それは、それらが共遺伝されるからである。本明細書において言及した多型と連鎖不平衡にある多型は、同じ染色体上に位置する。イヌで連鎖不平衡にある多型は、典型的には5mb以内、好ましくは2mb以内、1mb以内、700kb以内、600kb以内、500kb以内、400kb以内、200kb以内、100kb以内、50kb以内、10kb以内、5kb以内、1kb以内、500bp以内、100bp以内、50bp以内または10bp以内の多型である。
【0032】
本明細書において定義した多型の位置のいずれか1つと連鎖不平衡にある多型を、日常的技法を使用して同定することは、当業者の能力の内であろう。可能性のある多型が選択されれば、当業者は、この多型とどの多型の型または対立遺伝子とが、本明細書において定義した多型のどれと有意に相関しているかを、容易に決定することができる。
【0033】
より詳細には、多型が本明細書において定義した多型のどの1つと連鎖不平衡にあるかどうかを決定するために、当業者は、イヌのパネルで、候補の多型および1つまたは複数の本明細書において定義した多型の遺伝子型を決定すべきである。パネルのサイズは、統計的に有意な結果を達成するのに十分であるべきである。典型的には、少なくとも100、好ましくは少なくとも150、または少なくとも200頭の、異なったイヌからの試料が遺伝子型を決定されるべきである。パネル中のイヌは任意の血統であってよいが、典型的には同じかまたは類似の遺伝的血統背景を有するであろう。イヌのパネルで多型が遺伝子型を決定されれば、多型の1つまたは複数の対の間の連鎖不平衡は、多数の容易に入手できる統計用パッケージのいずれか1つを使用して測定することができる。フリーソフトウェアパッケージの例は、Haploview(Haploview:analysis and visualisation of LD and haplotype maps、Barrettら、2005、Bioinformatics、21(2):263〜265)であり、http://www.broadinstitute.org/haploview/haploviewでダウンロードできる。
【0034】
連鎖不平衡の尺度はD’である。D’の0.5〜1の範囲は、多型の対が連鎖不平衡にあることを示し、1は最も有意の連鎖不平衡を示す。したがって、候補の多型と特定の本明細書において定義した多型とについて、D’が、0.5〜1、好ましくは0.6〜1、0.7〜1、0.8〜1、0.85〜1、0.9〜1、0.95〜1または最も好ましくは1であることがわかれば、候補の多型は、本明細書において定義した多型を予測するということができ、それ故、肝臓の銅蓄積に対する感受性またはそれからの保護を示すであろう。本発明の好ましい方法において、本明細書において定義した多型と連鎖不平衡にあるにある多型は、680kb以内でありかつ本明細書において定義した多型と同じ染色体上にあり、多型の対間の連鎖不平衡の計算された尺度D’は、0.9以上である。
【0035】
連鎖不平衡の他の尺度はRの2乗であり、ここで、Rは補正係数である。「決定係数」としても知られるRの2乗は、第1の多型の遺伝子型における分散の第2の多型の遺伝子型に占める分率である。したがって、候補の多型と特定の本明細書において定義した多型とに対して0.5というRの2乗は、候補の多型が特異的多型における分散の50%を占めることを意味するであろう。Rの2乗はHaploviewなどの標準的統計用パッケージから出せる。典型的には、0.25以上のRの2乗(R>0.5または<−0.5)は大きい相関と見なされる。したがって候補の多型と特定の本明細書において定義した多型とについて、Rの2乗が0.5以上、好ましくは0.75以上、0.8以上、0.85以上、0.9以上または0.95以上であると見出されれば、候補の多型は本明細書において定義した多型を予測するということができ、肝臓の銅蓄積に対する感受性またはそれからの保護を示すであろう。本発明の好ましい方法において、本明細書において定義した多型と連鎖不平衡にあるにある多型は、680kb以内でかつ本明細書において定義した多型と同じ染色体上にあり、多型の対の間の連鎖不平衡の計算された尺度、Rの2乗は0.85以上である。
【0036】
多型が本明細書において定義した多型と連鎖不平衡にあり、したがって相関していると確認されれば、当業者は、どの型の多型、すなわちどの対立遺伝子が、肝臓の銅蓄積に対する感受性またはそれからの保護と関連するかを容易に決定することができる。これは、イヌのパネルを肝臓の銅蓄積について表現型解析し、イヌを肝臓の銅蓄積のレベルに関して分類することにより達成することができる。次に、イヌのパネルは、関心のある多型について遺伝子型を決定される。次に、遺伝子型は、遺伝子型と肝臓の銅レベルとの関連を決定し、それによりどの対立遺伝子が肝臓の銅蓄積に対する感受性またはそれからの保護と関連するかどうかを決定するために、肝臓銅のレベルと相関づけされる。
【0037】
肝臓の銅蓄積からの保護を示す本発明の多型は、表VIに同定されているSNP(ATP7a_Reg3_F_6(配列番号142の位置102))および該SNPと連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型である。したがって、本発明の方法は、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および(b)(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型から選択される1つまたは複数の多型の有無を検出することを含む。好ましくは、この方法は、表VIで同定されているSNP(ATP7a_Reg3_F_6(配列番号142))、すなわち多型(a)の有無を決定することを含む。
【0038】
本発明を実施するために、任意の数および任意の組合せの多型を検出することができる。少なくとも2つの多型が検出されることが好ましい。2〜5、3〜8または5〜10個の多型が検出されることが好ましい。
【0039】
イヌのDNAは、
(i)多型(a);
(ii)1つまたは複数の多型(b);または
(iii)多型(a)および1つまたは複数の多型(b)
のそれぞれの位置でタイピングすることができる。
【0040】
好ましい方法は、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および前記多型(a)と連鎖不平衡にある少なくとも1つの多型(b)の有無を検出することを含む。
【0041】
本発明の好ましい方法において、前記多型(a)と連鎖不平衡にある多型はSNPである。好ましくは、多型は、肝臓の銅蓄積からの保護を示すイヌのATP7A遺伝子におけるまたはその領域における任意の多型である。多型(a)と連鎖不平衡にあるSNPの一例として、ATP7a_Reg16_F_42のSNP(配列番号143の位置68)が挙げられる。このSNPは、ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)と連鎖不平衡にあり、肝臓の銅蓄積からの保護を示すことが判明した(実施例4)。したがって、このSNPは、単独で用いて、あるいは多型(a)と組み合わせて、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定することができる。したがって、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定する方法は、イヌのゲノムにおける、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)、(b)ATP7a_Reg16_F_42のSNP(配列番号143)ならびに(a)および/または(b)と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型から選択される1つまたは複数の多型の有無を検出することを含むことができる。好ましい方法は、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および(b)ATP7a_Reg16_F_42のSNP(配列番号143)の有無を検出することを含む。
【0042】
表VIで同定されているATP7AのSNP(ATP7a_Reg3_F_6(配列番号142))のT対立遺伝子は、本発明者らにより、銅蓄積からの保護を示すことが決定された。このSNPはX染色体上に位置する。T対立遺伝子がホモ接合型(雌イヌの場合)またはヘミ接合型(雄イヌの場合)であるイヌは、銅蓄積から保護されている。C対立遺伝子を有するイヌは、銅蓄積から保護されていないと考えられる。したがって、本発明の好ましい方法は、表VIで同定されているSNP(ATP7a_Reg3_F_6(配列番号142))のT対立遺伝子の有無を決定することを含む。したがって、本発明の好ましい方法は、ATP7a_Reg3_F_6(SNP142)におけるTTまたはTC遺伝子型の有無を検出し、これによりイヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す多型を含むかを決定することを含む。
【0043】
表VIで同定されているATP7AのSNPがX染色体上に位置し、保護効果が劣性であるという事実を考慮すると、雄イヌは保護の表現型を有する可能性がより高い。したがって、本発明の方法は、イヌの性別を決定することを含むことができる。一般に雄イヌが雌イヌと比べて銅の蓄積に対する感受性がより低いことを考慮すると、ATP7AのSNP((ATP7a_Reg3_F_6(配列番号142))は特に、血統不明または混血(雑種)のイヌ等、あらゆる血統のイヌに対して有用である。実施例3もまた、本発明の方法があらゆる血統のあらゆる地理的位置のイヌに適用できるという証拠を提供する。したがって本発明の方法は、混血もしくは交雑イヌまたは雑種もしくは非近交系のイヌのゲノムが、肝臓の銅蓄積からの保護を示すATP7A遺伝子における1つまたは複数の多型、あるいはそれと連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型を含むかを決定することを含むことができる。
【0044】
ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)と連鎖不平衡にあることが判明したATP7a_Reg16_F_42のSNP(配列番号143)は、本発明者らによってT対立遺伝子が銅蓄積からの保護を示すことが決定された。上に説明されている通り、ATP7A遺伝子、したがってこのSNPはX染色体上に位置する。T対立遺伝子がホモ接合型(雌イヌの場合)またはヘミ接合型(雄イヌの場合)であるイヌは、銅蓄積から保護されている。C対立遺伝子を有するイヌは、銅蓄積から保護されていないと考えられる。したがって、本発明の好ましい方法は、表Xで同定されているSNP(ATP7a_Reg16_F_42(配列番号143)のT対立遺伝子の有無を決定することを含む。したがって、本発明の好ましい方法は、(ATP7a_Reg16_F_42(配列番号143)におけるTTまたはTC遺伝子型の有無を検出し、これによってイヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す多型を含むかを決定することを含む。
【0045】
本発明者らは、以前、イヌのGOLGA5、ATP7AおよびUBL5各遺伝子におけるまたはその領域おける多型が、イヌにおける肝臓の銅蓄積に対する感受性を示すことを発見した(実施例1〜2)。したがって、これらの多型は、本発明の多型と組み合わせて用いてイヌが肝臓の銅蓄積に対して感受性であるまたはそれから保護されている危険性または可能性を決定するための、改良された遺伝子検査を提供することができる。したがって、本発明の方法は、肝臓の銅蓄積に対する感受性およびそれからの保護を示すSNPの組合せの有無を決定することを含むことができる。イヌから得られたDNAは、肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数のSNPにおいてタイピングし、肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数のSNPにおいてタイピングすることができる。1つまたは複数の「保護」SNPの不在と組み合わせた1つまたは複数の「感受性」SNPの存在は、イヌが肝臓の銅蓄積に対して感受性であることを示す。1つまたは複数の「感受性」SNPの不在と組み合わせた1つまたは複数の「保護」SNPの存在は、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されていることを示す。
【0046】
肝臓の銅蓄積に対して感受性を示す本発明の多型は、GOLGA5、ATP7AまたはUBL5各遺伝子のいずれか1遺伝子に存在してもよく、あるいはこれらの遺伝子のいずれの内にも存在しなくてもよいが、これらの遺伝子の内いずれか1遺伝子における多型と連鎖不平衡にある。したがって本発明は、(c)肝臓の銅蓄積に対して感受性を示すイヌのGOLGA5、ATP7AまたはUBL5の遺伝子における多型および/または(d)前記多型(c)と連鎖不平衡にある多型の有無を検出することをさらに含むことができる。本発明の実施のために、いかなる個数およびいかなる組合せの多型が検出されてもよい。好ましくは、少なくとも2個の多型が検出される。好ましくは、2〜5個、3〜8個または5〜10個の多型が検出される。
【0047】
したがって、イヌのDNAは、(i)多型(a)および/または(ii)1つまたは複数の多型(b)のそれぞれの位置においてタイピングすることができる。さらに、イヌのDNAは、
(iii)2個以上の多型(c)、
(iv)2個以上の多型(d)または
(v)1つまたは複数の多型(c)および1つまたは複数の多型(d)
のそれぞれの位置においてタイピングすることができる。
【0048】
2つの多型(c)があるとき、各多型は、GOLGA5、ATP7AおよびUBL5遺伝子の別々の1つでもあってよく、またはこれらの遺伝子のただ1つだけであってもよい。3つ以上の多型(c)、例えば3〜10個のそのような多型があるとき、多型は、同じ遺伝子中に、2つの遺伝子中にまたは3つのすべての遺伝子中にあってもよい。
【0049】
同様に、2つの多型(d)があるとき、各多型は、GOLGA5、ATP7AおよびUBL5遺伝子の別々の1つの中に、またはこれらの遺伝子のただ1つだけの中にある多型と連鎖不平衡にあってよい。3つ以上の、例えば3〜10個のそのような多型(d)があるとき、多型は、同じ遺伝子中の、2つの遺伝子中にまたは3つのすべての遺伝子中にある多型と連鎖不平衡にあってよい。
【0050】
好ましい方法は、肝臓の銅蓄積に対するイヌの感受性を示す、GOLGA5、ATP7AまたはUBL5遺伝子中の少なくとも1つの多型(c)および前記多型(c)と連鎖不平衡にある少なくとも1つの多型(d)の有無を検出することを含む。
【0051】
本発明の好ましい方法において、感受性を示す多型はSNPである。SNPは、肝臓の銅蓄積に対するイヌの感受性を示す、GOLGA5、ATP7aもしくはUBL5遺伝子中のまたはその領域中の任意のSNPおよび/またはそれらと連鎖不平衡にあるSNPであってよい。
【0052】
前記方法が、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定することを含む場合、好ましくは、SNPは表III、表IVおよび表Vにおいて特定されたSNPから選択される。表IIIおよびIVにおいて、各SNPは、配列中の位置61に位置する。第1のおよび第2の対立遺伝子は、各SNPに対してその遺伝子座([第1の/第2の])で提供される。表Vには、各SNPに対する第1のおよび第2の対立遺伝子も示されている。任意の数のSNPが、表III、IVおよびVから任意の組合せで使用することができる。SNPは異なったタイプの多型と組み合わせることもできる。
【0053】
好ましくは、方法は、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定することを含む場合、表IIIおよび表V中のSNPから選択される1つまたは複数のSNP、および/またはそれらと連鎖不平衡にある1つまたは複数のSNPの有無を検出することを含む。したがって、1つまたは複数のSNPが、BICF2P506595(配列番号1の位置61)、BICF2P772765(配列番号2の位置61)、BICF2S2333187(配列番号3の位置61)、BICF2P1324008(配列番号4の位置61)、BICF2P591872(配列番号5の位置61)、ATP7a_Reg4_F_9(配列番号131の位置164)、UBL5_Reg1F_16(配列番号132の位置97)、golga5_Reg1_24(配列番号133の位置70)、golga5_26(配列番号134の位置88)、golga5_27(配列番号135の位置104)、golga5_28(配列番号136の位置139)、golga5_29(配列番号137の位置128)、golga5_30(配列番号138の位置95)、golga5_31(配列番号139の位置106)、atp7areg17_32(配列番号140の位置95)、atp7areg17_33(配列番号141の位置90)およびそれらと連鎖不平衡にある1つまたは複数のSNPから選択されることが好ましい。したがって、これらの16個のSNPのいずれかまたはこれらの16個のSNPのいずれかと連鎖不平衡にある任意のSNPはタイピングすることができる。これら16個のSNPの少なくとも2つまたは連鎖不平衡にあるSNPがタイピングされることが好ましい。
【0054】
より好ましくは、方法は、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定することを含む場合、表III中のSNPから選択される1つまたは複数のSNPの有無を検出することを含む。したがって、これらの5個のSNPのいずれかまたはこれらの5個のSNPのいずれかと連鎖不平衡にある任意のSNPをタイピングすることができる。好ましくは、これらの5個のSNPの少なくとも2個または連鎖不平衡にあるSNPがタイピングされる。より好ましくは、すべての5個の位置がタイピングされる。したがって、タイピングされるヌクレオチド(単数または複数)は、
・配列番号1(BICF2P506595、SNP1)の位置61;
・配列番号2(BICF2P772765、SNP2)の位置61;
・配列番号3(BICF2S2333187、SNP3)の位置61;
・配列番号4(BICF2P1324008、SNP4)の位置61;
・配列番号5(BICF2P591872、SNP5)の位置61;または
・これらの位置のいずれか1つと連鎖不平衡にある任意の位置と同等の位置から選択されることが好ましい。好ましくは、該方法は、BICF2P506595のSNP(配列番号1)、BICF2P772765(配列番号2)、BICF2S2333187(配列番号3)、BICF2P1324008(配列番号4)、およびBICF2P591872(配列番号5)の有無を検出することを含む。
【0055】
SNP1はGOLGA5遺伝子のイントロンの中に位置する。SNP2、3および4はUBL5遺伝子の領域中に位置する。SNP5は、ATP7A遺伝子の領域中に位置する。したがって本発明の検出方法は、1つまたは複数のこれらの遺伝子の内部にまたは領域中に(コード領域中にまたはそれ以外に)ある任意のSNP、または連鎖不平衡にある任意の他のSNPに関する。
【0056】
実施例1は、銅蓄積に対する感受性のBooleanモデルを確立するためのこれらのSNPの使用を示す。表Iは、3つのゲノムの遺伝子座における対立遺伝子の2元状態を示す。2元値は、イヌが銅蓄積に対する感受性を示す対立遺伝子(「悪い」対立遺伝子)を有することを示す。例えば、000は、3種の悪い対立遺伝子のいずれも有しないことを表す。111は、3種の悪い対立遺伝子をすべて有することを表す。Xはその遺伝子で使用されない対立遺伝子である。線1xxおよび0xxは、GOLGA5遺伝子中のSNPのみを使用する1回の遺伝子検査が有する検出力を示す。
【0057】
BICF2P506595のSNP(SNP1)に対するA対立遺伝子は、本発明者らにより、肝臓の銅蓄積に対する感受性を示すことが決定された。A対立遺伝子に対してホモ接合性のイヌは、肝臓の銅蓄積に対して感受性である。したがって、本発明の好ましい方法は、BICF2P506595のSNPに対するA対立遺伝子の有無を決定すること、およびそれにより、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す多型を含むかどうかを決定することを含む。より好ましい方法は、BICF2P506595のSNPに対するAA遺伝子型の有無を検出することを含む。
【0058】
BICF2P772765のSNP(SNP2)に対するG対立遺伝子は、本発明者らにより、肝臓の銅蓄積に対する感受性を示すことが決定された。G対立遺伝子に対してホモ接合性のイヌは、肝臓の銅蓄積に対して感受性である。したがって、本発明の好ましい方法は、BICF2P772765のSNPに対するG対立遺伝子の有無を決定すること、およびそれにより、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す多型を含むかどうかを決定することを含む。より好ましい方法は、BICF2P772765のSNPに対するGG遺伝子型の有無を検出することを含む。
【0059】
BICF2S2333187のSNP(SNP3)に対するC対立遺伝子は、本発明者らにより、肝臓の銅蓄積に対する感受性を示すことが決定された。C対立遺伝子に対してホモ接合性のイヌは肝臓の銅蓄積に対して感受性である。したがって、本発明の好ましい方法は、BICF2S2333187のSNPに対するC対立遺伝子の有無を決定すること、およびそれにより、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す多型を含むかどうかを決定することを含む。より好ましい方法は、BICF2S2333187のSNPに対するCC遺伝子型の有無を検出することを含む。
【0060】
BICF2P1324008のSNP(SNP4)に対するG対立遺伝子は、本発明者らにより、肝臓の銅蓄積に対する感受性を示すことが決定された。G対立遺伝子に対してホモ接合性のイヌは、肝臓の銅蓄積に対して感受性である。したがって、本発明の好ましい方法は、BICF2P1324008のSNPに対するG対立遺伝子の有無を決定し、それによりイヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す多型を含むかどうかを決定することを含む。より好ましい方法は、BICF2P1324008のSNPに対するGG遺伝子型の有無を検出することを含む。
【0061】
BICF2P591872のSNP(SNP5)に対するA対立遺伝子は、本発明者らにより、肝臓の銅蓄積に対する感受性を示すことが決定された。A対立遺伝子に対してホモ接合性またはヘテロ接合性のイヌは、肝臓の銅蓄積に対して感受性である。したがって、本発明の好ましい方法は、BICF2P591872のSNPに対するA対立遺伝子の有無を決定すること、およびそれにより、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す多型を含むかどうかを決定することを含む。より好ましい方法は、BICF2P591872のSNPに対するAAまたはAG遺伝子型の有無を検出することを含む。
【0062】
したがって、本発明のより好ましい方法は、(i)ATP7a_Reg3_F_6(SNP142)におけるTTもしくはTC遺伝子型および/または(ii)ATP7a_Reg16_F_42(SNP143)におけるTTもしくはTC遺伝子型の有無を検出することを含み、
(iii)BICF2P506595のSNP(SNP1)に対するAA遺伝子型;
(iv)BICF2P772765のSNP(SNP2)に対するGG遺伝子型;
(v)BICF2S2333187のSNP(SNP3)に対するCC遺伝子型;
(vi)BICF2P1324008のSNP(SNP4)に対するGG遺伝子型;および/または
(vii)BICF2P591872のSNP(SNP5)に対するAAまたはAG遺伝子型;
の有無を検出することと、
それによりイヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護および/またはそれに対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定することとをさらに含むことができる。より好ましい方法は、遺伝子型(iiii);遺伝子型(iv)、(v)および(vi);または遺伝子型(vii)の有無を検出することを含む。さらにより好ましい方法は、すべての5つの遺伝子型(iii)から(vii)のすべての有無を検出することを含む。
【0063】
イヌのDNAは、
(i)(a)表VIにおいて特定されたSNP(ATP7a_Reg3_F_6(SNP142))および(b)表Xにおいて特定されたSNP(ATP7a_Reg16_F_42(SNP143))などの前記SNP(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数のSNPから選択される1つまたは複数のSNP;ならびに
(ii)(a)表III、IVおよびVにおいて特定されたSNP、および(b)前記SNP(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数のSNPから選択される1つまたは複数のSNP
で、タイピングすることができる。
【0064】
イヌのゲノム中に存在するヌクレオチド(単数または複数)を、表III、IV、V、VIまたはXのいずれかで特定された位置でタイピングすることは、表III、IV、V、VIまたはXにおいて特定された配列と厳密に対応する配列中のこの位置に存在するヌクレオチドがタイピングされることを意味し得る。しかしながら、表IIIにおいて特定された配列番号1〜5、表IV中の配列番号6〜130、表V中の配列番号131〜141、表VI中の配列番号142および表X中の配列番号143において提示された厳密な配列は、検査されるイヌに必ず存在するわけではないことは理解されるであろう。したがって、存在するヌクレオチドのタイピングは、表III、IV、V、VIまたはXにおいて特定された位置において、または該配列中の同等のまたは対応する位置においてであり得る。したがって、ここで使用された同等という用語は、表III、IV、V、VIまたはXにおいて特定された位置においてまたは対応する位置においてを意味する。SNPの配列およびそれに伴って位置は、例えば、イヌのゲノム中におけるヌクレオチドの欠失または付加のために変化し得る。当業者は、配列番号1〜143の各々における関連ある位置に対応するまたは同等の位置を、例えばGAP、BESTFIT、COMPARE、ALIGN、PILEUPまたはBLASTなどのコンピュータプログラムを使用して、決定することができるであろう。UWGCG Packageは、相同性またはラインアップ配列を計算するために使用することができる(例えばそれらの初期設定で使用)GAP、BESTFIT、COMPARE、ALIGN、およびPILEUPを含むプログラムを提供する。BLASTアルゴリズムも、通常はその初期設定で、2つの配列を比較またはラインアップするために使用することができる。2つの配列のBLAST比較を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationから公的に入手できる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。このアルゴリズムは、下でさらに説明する。配列のアラインメントおよび比較のための同様に公的に入手できるツールは、European Bioinformatics Instituteのウェブサイト(http://www.ebi.ac.uk)で見出すことができ、例えばALIGNおよびCLUSTALWプログラムがある。
【0065】
多型が肝臓の銅蓄積に対する感受性または保護を示すかどうかを決定するために使用することができる種々の異なった方法がある。典型的には、候補の多型を多型のデータベースおよび肝臓の銅蓄積に対する感受性または保護とのそれらの関連と比較する。そのようなデータベースは、イヌのパネルを、肝臓の銅蓄積について、例えば肝生検材料により表現型解析することにより発生させて、イヌを銅蓄積のレベルに関して分類する。パネル中のイヌは、多型のパネルに対して遺伝子型も決定する。そのようにして、各遺伝子型と肝臓銅のレベルとの関連を決定することが可能である。したがって、多型が、肝臓銅に対する感受性またはそれからの保護のどちらを示すかを決定することは、データベース中における多型の位置を突き止めることにより達成される。
【0066】
対象の多型の位置が、上記のようにしてデータベース中で突き止められなくても、それでもなお、多型が、肝臓の銅蓄積に対する感受性またはそれからの保護のどちらを示すかを決定することは可能である。これは、イヌのパネルを肝臓の銅蓄積について表現型解析して、イヌを肝臓の銅蓄積レベルに関して分類することにより達成することができる。次に、イヌのパネルは、関心のある多型について遺伝子型を決定する。次に、遺伝子型は、遺伝子型と肝臓の銅レベルとの関連を決定するために、肝臓銅のレベルと相関づけされる。
【0067】
本発明の1つまたは複数の多型の有無がイヌのゲノム中で検出されると、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されるかそれに対して感受性であるかがそれにより決定される。各多型は、単独でまたは他の多型との組合せで、イヌの肝臓の銅蓄積からの保護またはそれに対する感受性を示す。
【0068】
イヌが肝臓の銅蓄積から保護されるかどうかを決定するために、イヌからのDNA試料を使用して、表VIにおいて特定されたイヌのゲノム中のSNPの遺伝子型を決定することができる。この機能的変異はATP7A(X染色体上の)中に位置して、ホモ接合性(TT)であるとき、保護的であるように思われる。これで、雌の慢性肝炎のバイアスを説明することができる。なぜなら、雄のみが1コピーのX染色体を有し、そのためATP7A遺伝子座においてヘミ接合性であるからである。X連関劣性遺伝子効果は、雄のX染色体のヘミ接合性状態のために、雌より雄で見られる可能性が高い。この場合、保護効果は劣性であり、そのため雌集団において、より多くの症例が見られる(実施例2、表VIIおよび図5を参照されたい)。SNPの遺伝子型が決定されれば、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されるかどうかを決定することは可能である。別の対立遺伝子(T)の存在は肝臓の銅蓄積からの保護を示す。別の対立遺伝子(TT)に対してホモ接合性のイヌは、肝臓の銅蓄積から保護される可能性が最も高い。したがって、本発明の好ましい方法は、イヌのゲノム中におけるATP7A SNPのT対立遺伝子の有無を決定することを含む。該方法は、イヌがATP7A SNPのT対立遺伝子に対してホモ接合性(雌イヌの場合)であるかまたはヘミ接合性(雄イヌの場合)であるかを決定することを含むことができる。
【0069】
方法が、肝臓の銅蓄積に対する感受性を示すSNPの有無に関する検査をさらに含む場合、結果を組み合わせて、イヌが肝臓の銅蓄積に対して感受性であるまたはそれから保護される危険性または可能性の総合的な評価を提供するモデルを用いることができる。一例として、表Iは、GOLGA5、UBL5およびATP7A各遺伝子の領域における5個のSNPの組合せの異なる遺伝子型候補と、高銅(600mg/kgを超える肝臓レベル)を有しこれらの遺伝子型を有するイヌのパーセンテージを提示する。この例において、肝臓の銅蓄積に対するイヌの感受性を決定するために、イヌから得られたDNA試料を用いてイヌのゲノムにおける5個のSNPを遺伝子型同定することができる。SNPの遺伝子型が決定されると、これらは実施例1に提供されているキーに基づき、すなわち遺伝子型と高銅との関連の程度に基づき、2進値に変換することができる。次に、表Iを用いて、その遺伝子型パターンと高銅を有するイヌのパーセンテージに基づき、2進値を危険性因子へと変換する。したがって、これらの結果は、保護多型(単数または複数)の結果と組み合わせてもよい。
【0070】
イヌは、本発明の方法により、任意の年齢、例えば0〜12歳、0〜6歳、0〜5歳、0〜4歳、0〜3歳、0〜2歳または0〜1歳で検査することができる。好ましくは、イヌはできるだけ若い年齢で、例えば生後1年、生後6カ月または生後3カ月以内に検査される。イヌは、好ましくは、銅蓄積が起こる前に検査される。イヌの履歴はわかってもわからなくてもよい。例えば、イヌは、知られた両親の子であってもよく、および銅蓄積に関する両親の履歴が知られていてもよい。あるいは、イヌは、親子関係および履歴の知られていない迷子または救助されたイヌであってもよい。
【0071】
本発明の任意の方法により検査されるイヌは、いかなる血統のものでもよい。本発明は、混血または交雑種のイヌ、または雑種のまたは異系交配されたイヌのゲノムが、肝臓の銅蓄積からの保護またはそれに対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定する方法を提供する。
【0072】
イヌのゲノムが本発明の肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定する方法において、イヌは、肝臓の銅蓄積から保護されていると疑われるものであってよい。あるいは、イヌは肝臓の銅蓄積に対して感受性であることが疑われ得る。本発明の好ましい方法において、イヌは、ラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバーまたはトイプードルの遺伝的な血統を継承する。イヌは、混血のもしくは交雑種のイヌ、または雑種のもしくは異系交配されたイヌであってよい。イヌは、そのゲノムの少なくとも25%、少なくとも50%、または少なくとも100%が、いずれかの純粋な血統またはより好ましくは、ラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバーまたはトイプードルから選択される任意の血統から継承されていてよい。イヌは、純粋種であってよい。本発明の一実施形態において、検査されるイヌの一方または両方の親が純粋種のイヌでありまたはあった。他の実施形態において、1頭または複数の祖父母が純粋種のイヌでありまたはあった。検査されるイヌの祖父母の1、2、3または4頭全部が純粋種のイヌであってよく、またはあったとしてもよい。
【0073】
イヌはラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承していることが好ましい。イヌは、純粋種のラブラドールレトリーバーであってよい。あるいは、イヌは混血のもしくは交雑種のイヌ、または異系交配のイヌ(雑種)であってもよい。イヌの両親の一方または両方が純粋種のラブラドールレトリーバー犬であってよい。イヌの祖父母の1、2、3または4頭が純粋種のラブラドールレトリーバー犬であってよい。イヌは、その遺伝的背景においてラブラドールレトリーバーの血統の少なくとも50%または少なくとも75%を有していてよい。したがって、イヌのゲノムの少なくとも50%または少なくとも75%は、ラブラドールレトリーバーの血統に由来してよい。
【0074】
イヌの遺伝的血統背景は、遺伝的マーカーの、例えばSNPまたはマイクロサテライトの対立遺伝子の頻度を評価することにより決定することができる。イヌにおける異なったSNPまたはマイクロサテライトの対立遺伝子の頻度の組合せは、イヌの血統または混血血統のイヌを作り出す血統が決定されることを可能にする特色を提供する。そのような遺伝子検査は商業的に利用できる検査である。あるいは、イヌは、例えばイヌの飼い主または獣医によりそれが特定の血統を継承すると推定されるという理由で、特定の血統の遺伝的継承について検査する必要がないこともある。これは、例えば、イヌの祖先の知識のため、またはその外観のためであり得る。
【0075】
本発明の予測検査は、イヌの遺伝的血統の背景/継承または1種または複数種の他の疾患に対する感受性の決定などの1つまたは複数の他の予測または診断検査と併せて実施してもよい。
【0076】
多型の検出
本発明による多型の検出は、イヌからの試料中のポリヌクレオチドまたはタンパク質と多型に対して特異的な結合剤とを接触させて、該結合剤がポリヌクレオチドまたはタンパク質に結合するどうかを決定することを含むことができ、この場合、結合剤の結合は多型の存在を示し、結合剤の結合の欠如は、多型の存在しないことを示す。
【0077】
該方法は、試料がイヌのDNAを含有する場合に、イヌからの試料について、一般にインビトロで実施される。試料は、典型的には、イヌの体液および/または細胞を含み、例えば、口腔スワブなどのスワブを使用して得ることができる。試料は、血液、尿、唾液、皮膚、頬細胞または毛根試料であってよい。試料は、通常、方法が実施される前に処理され、例えばDNA抽出を実施することができる。試料中のポリヌクレオチドまたはタンパク質は、物理的または化学的のいずれかで、例えば適当な酵素を使用して、切断することができる。一実施形態においては、多型の検出に先立って、試料中のポリヌクレオチドの一部が、例えば、クローニングにより、またはPCRに基づく方法を使用して、コピーされまたは増幅される。
【0078】
本発明において、任意の1つまたは複数の方法は、イヌにおける1つまたは複数の多型の有無を決定することを含むことができる。多型は、典型的には、イヌのポリヌクレオチドまたはタンパク質中における多型の配列の存在を直接決定することにより検出される。そのようなポリヌクレオチドは、典型的には、ゲノムのDNA、mRNAまたはcDNAである。多型は、下記の方法など任意の適当な方法により検出することができる。
【0079】
特異的な結合剤は、優先的なまたは高い親和性をもって多型を有するタンパク質またはポリペプチドに結合するが、他のポリペプチドまたはタンパク質には結合しないかまたは低い親和性でのみ結合する作用剤である。特異的な結合剤は、プローブまたはプライマーであってよい。プローブは、タンパク質(抗体など)またはオリゴヌクレオチドであり得る。プローブは標識することができ、または間接的に標識することが可能であってもよい。プローブのポリヌクレオチドまたはタンパク質に対する結合は、プローブまたはポリヌクレオチドもしくはタンパク質のいずれかを不動化するために使用することができる。
【0080】
該方法においては一般に、多型は、イヌの多型のポリヌクレオチドまたはタンパク質に対する作用剤の結合を決定することにより検出することができる。しかしながら、一実施形態において、作用剤は、例えば、変異位置に隣接するヌクレオチドまたはアミノ酸に結合することにより、対応する野生型配列に結合することもできるとはいえ、野生型配列に対する結合様式は、多型を含むポリヌクレオチドまたはタンパク質の結合とは検出可能な程度に異なるであろう。
【0081】
該方法は、2つのオリゴヌクレオチドプローブが使用される、オリゴヌクレオチド連結アッセイに基づくことができる。これらのプローブは、多型を含むポリヌクレオチドの隣接する領域に結合し、結合後に適当なリガーゼ酵素により2つのプローブが連結されて一緒になることが可能になる。しかしながら、プローブの一方の中に単一のミスマッチが存在すると、結合および連結が妨げられ得る。したがって連結したプローブは、多型を含むポリヌクレオチドでのみ生じ、したがって連結された生成物の検出は、多型の存在を決定するために使用することができる。
【0082】
一実施形態において、プローブは、ヘテロ二重鎖分析に基づくシステムにおいて使用される。そのようなシステムでは、プローブが多型を含むポリヌクレオチド配列に結合したとき、それは多型が生じる部位でヘテロデュプレックスを形成し、それ故、二本鎖構造を形成しない。そのようなヘテロデュプレックス構造は、一本鎖または二本鎖特異的酵素の使用により検出することができる。典型的には、プローブはRNAプローブであり、ヘテロ二重鎖領域はリボヌクレアーゼHを使用して切断され、多型は切断生成物を検出することにより検出される。
【0083】
方法は、例えば、PCR Methods and Applications 3、268〜71(1994)およびProc.Natl.Acad.Sci.85、4397〜4401(1998)に記載されている蛍光性化学的切断ミスマッチ分析に基づくことができる。
【0084】
一実施形態においては、それが多型を含むポリヌクレオチドに結合する場合にのみ、PCR反応を開始させるPCRプライマー、例えば配列特異的PCRシステムが使用され、多型の存在はPCR生成物を検出することにより決定することができる。好ましくは、プライマーの多型に相補性の領域はプライマーの3’末端にまたはその付近にある。多型の存在は、Taqman PCR検出システムなどの、蛍光性染料および消光剤に基づくPCRアッセイを使用して決定することができる。
【0085】
特異的な結合剤は、多型の配列によりコードされたアミノ酸配列に特異的に結合することができる。例えば、作用剤は、抗体または抗体のフラグメントであってもよい。検出方法は、ELISAシステムに基づくことができる。方法は、RFLPに基づくシステムであってよい。これは、ポリヌクレオチド中における多型の存在が、制限酵素により認識される制限部位を作り出すかまたは破壊する場合に使用することができる。
【0086】
多型の存在は、多型の存在がゲル電気泳動中のポリヌクレオチドまたはタンパク質の移動度に生じさせる変化に基づいて決定することができる。ポリヌクレオチドの場合には、一本鎖配座の遺伝子座の多型(SSCP)または変性グラジエントゲル電気泳動(DDGE)分析を使用することができる。多型を検出する他の方法においては、多型領域を含むポリヌクレオチドを、多型を含む領域を通して配列を決定して多型の存在を決定する。
【0087】
多型の存在は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によって検出することもできる。特に、多型は、二重ハイブリッド形成プローブシステムによって検出することができる。この方法は、互いに近接に位置し、かつ関心のある標的ポリヌクレオチドの内部セグメントに相補性の2つのオリゴヌクレオチドプローブの使用を含み、この場合2つのプローブの各々は蛍光団で標識されている。任意の適当な蛍光性標識または染料を、蛍光団として使用することができ、その結果1つのプローブ(供与体)の蛍光団の発光波長が第2のプローブ(受容体)の蛍光団の励起波長と重なる。代表的供与体蛍光団はフルオレセイン(FAM)であり、および代表的受容体蛍光団は、テキサスレッド、ローダミン、LC−640、LC−705およびシアニン5(Cy5)を含む。
【0088】
蛍光共鳴エネルギー移動が起こるためには、2つの蛍光団は、両プローブの標的に対するハイブリッド形成時に、密接して近づくことが必要である。供与体蛍光団が適当な波長の光で励起されたとき、発光スペクトルのエネルギーが受容体プローブの蛍光団に移動してその蛍光を生じる。したがって、供与体蛍光団にとって適当な波長における励起中の、この波長の光の検出はハイブリッド形成、および2つのプローブの蛍光団の密接な関連を示す。各プローブは、蛍光団を用いて1つの末端で標識することができ、その結果上流(5’)に位置するプローブはその3’末端で標識され、下流(3’)に位置するプローブはその5’末端で標識される。標的配列に結合したときの2つのプローブの間の間隔は、1〜20ヌクレオチド、好ましくは1〜17ヌクレオチド、より好ましくは1〜10ヌクレオチド、例えば1、2、4、6、8または10ヌクレオチドの間隔であることができる。
【0089】
2つのプローブの第1のものは、多型に隣接する遺伝子の保存配列に結合するようにデザインすることができ、第2のプローブは、1つまたは複数の多型を含む領域に結合するようにデザインすることができる。第2のプローブにより標的とされる遺伝子の配列内の多型は、生じる塩基ミスマッチが原因の溶融温度変化を測定することにより検出することができる。溶融温度における変化の程度は、ヌクレオチド多型に関与する数および塩基のタイプに依存するであろう。
【0090】
多型タイピングも、プライマー伸張技法を使用して実施することができる。この技法では、多型の部位周囲の標的領域がコピーされ、または例えばPCRを使用して増幅される。次に単一塩基シークエンシング反応を、多型の部位から1塩基離れてアニールするプライマーを使用して実施する(対立遺伝子特異的ヌクレオチド組み込み)。次に、プライマー伸張生成物を検出して、多型の部位に存在するヌクレオチドを決定する。伸張生成物を検出することができる数通りの方法がある。1検出方法においては、例えば、蛍光標識されたジデオキシヌクレオチドターミネーターが、伸張反応を多型の部位で停止するために使用される。あるいは、質量改変されたジデオキシヌクレオチドターミネーターが使用されて、プライマー伸張生成物が質量分析法を使用して検出される。1種または複数種のターミネーターを特異的に標識することにより、伸張されたプライマーの配列を、およびそれ故に、多型の部位に存在するヌクレオチドを推測することができる。2種以上の反応生成物を反応ごとに分析することができて、その結果、2つ以上のターミネーターが特異的に標識されていれば、両方の相同性染色体に存在するヌクレオチドを決定することができる。
【0091】
本発明は、銅蓄積に対する感受性の予測に使用するための、本明細書において定義したSNPの任意のもの検出に使用できるプライマーまたはプローブをさらに提供する。本発明のポリヌクレオチドは、本明細書において定義したSNPを検出するためのプライマー伸張反応のためのプライマーとしても使用することができる。
【0092】
そのようなプライマー、プローブおよび他のポリヌクレオチドフラグメントの長さは、好ましくは、少なくとも10、好ましくは少なくとも15または少なくとも20、例えば少なくとも25、少なくとも30または少なくとも40ヌクレオチドであろう。それらの長さは、典型的には40、50、60、70、100または150ヌクレオチドまでであろう。プローブおよびフラグメントの長さは、本発明の全長のポリヌクレオチド配列を除いて、150ヌクレオチドを超えてもよく、例えば200、300、400、500、600、700ヌクレオチドまで、またはさらに5または10ヌクレオチドなど数ヌクレオチドまでであってよい。
【0093】
本発明のSNPの遺伝子型同定のためのプライマーおよびプローブは、表III、IV、V、VIまたはX中のSNP配列を使用し、当技術分野において知られる任意の適当なデザインソフトウェアを使用して、デザインすることができる。これらのポリヌクレオチド配列の相同体は、プライマーおよびプローブをデザインするのにも適しているであろう。そのような相同体は、典型的には、少なくとも70%の相同性、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、97%または99%の相同性を、例えば少なくとも15、20、30、100またはそれを超える隣接したヌクレオチドの領域にわたって有する。相同性は、ヌクレオチドの同一性(「硬い相同性」と称されることもある)に基づいて計算することができる。
【0094】
例えば、UWGCGパッケージは、相同性を計算するために使用することができるBESTFITプログラムを提供する(例えばその初期設定で使用)(Devereuxら、(1984) Nucleic Acids Research 12、p387〜395)。PILEUPおよびBLASTアルゴリズムは、例えば、Altschul S.F.(1993) J Mol Evol 36:290〜300;Altschul,S.F.ら(1990)J Mol Biol 215:403〜10に記載されたように、相同性またはラインアップ配列(相等のまたは対応する配列の同定など)を計算するのに使用することができる(典型的にはそれらの初期設定で)。
【0095】
BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から公的に入手できる。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードで整列化したとき、ある正の値の閾値スコアTとマッチするか、またはそれを充足するかのいずれかである、検索配列における長さWの短いワードを同定することにより、高スコアリング配列ペア(HSP)を最初に同定することを含む。Tは、近隣ワードスコア閾値(Altschulら、上記参照)と呼ばれる。これらの最初の近隣ワードのヒットが、それらを含有するより長いHSPの検索を開始するための種として作用する。このワードヒットは、累積アラインメントスコアを増加することができる限り、それぞれの配列に沿って両方向に延長される。それぞれの方向でのワードのヒットの延長は、累積アラインメントスコアがその到達した最大値から数量Xだけ低下したとき;累積スコアが1つまたは複数の負のスコアリング残基のアラインメントの累積によってゼロもしくはそれ以下になったとき;または、いずれかの配列の末端に達したときに停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、TおよびXはアラインメントの感度およびスピードを決定する。BLASTプログラムは、初期設定として、ワード長(W)11、BLOSUM62スコアリングマトリックス(HenikoffおよびHenikoff(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915〜10919を参照されたい)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=4、および両方の鎖の比較を使用する。
【0096】
BLASTアルゴリズムは2つの配列間の類似性の統計学的分析も実施する;例えば、KarlinおよびAltschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:5873〜5787を参照されたい。BLASTアルゴリズムにより提供される類似性の1つ尺度は、2つのポリヌクレオチド配列の間でマッチが偶然に起こるであろう確率の指標を提供する、最小合計確率(P(N))である。例えば、第1の配列と第2の配列との比較における最小合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満であるとき、および最も好ましくは約0.001未満であるなら、配列は他の配列と類似であると考えられる。
【0097】
相同性配列は、典型的には、少なくとも1、2、5、10、20以上の変異により相違し、変異はヌクレオチドの置換、欠失または挿入であってよい。
【0098】
プライマーまたはプローブなどの本発明のポリヌクレオチドは、単離されたまたは実質的に精製された形態で存在し得る。本発明のポリヌクレオチドは、その使用目的に干渉しない担体または希釈剤と混合し、それでもなお実質的に単離されたと見なすことができる。それらは、実質的に精製された形態であってもよく、その場合、一般に、製剤のポリヌクレオチドの少なくとも90%、例えば少なくとも95%、98%または99%を占めることになる。
【0099】
検出抗体
検出抗体は、1つの多型に対して特異的であるが、本明細書において記載した任意の他の多型には結合しない抗体である。検出抗体は、例えば、免疫沈殿技法を含む精製、単離またはスクリーニングの方法において有用である。
【0100】
抗体は、本発明のポリペプチドの特異的エピトープに対するものであってもよい。抗体、または他の化合物は、それが特異的であるタンパク質に対して優先的なまたは高い親和性をもって結合するが、他のポリペプチドには実質的に結合しないかまたは低い親和性でしか結合しないとき、ポリペプチドに「特異的に結合する」。抗体の特異的結合能力を決定するための競争的結合または放射免疫アッセイに対する種々のプロトコルが当技術分野において周知である(例えばMaddoxら、J .Exp.Med.158、1211〜1226、1993を参照されたい)。そのような免疫測定は、典型的には、特異的タンパク質とその抗体との間のコンプレックスの形成およびコンプレックス形成の測定を包含する。
【0101】
この発明の目的のために、用語「抗体」は、特に断らない限り、本発明のポリペプチドに結合するフラグメントを含む。そのようなフラグメントは、Fv、F(ab’)およびF(ab’)フラグメント、ならびに一本鎖抗体を含む。さらに、抗体およびそれらのフラグメントは、キメラ抗体、CDRグラフト抗体またはヒト化抗体であってもよい。
【0102】
抗体は、生物学的試料(本明細書において言及した任意のそのような試料など)中の本発明のポリペプチドを検出するための方法において使用することができ、その方法は
I.本発明の抗体を提供することと、
II.抗体抗原コンプレックスの形成が可能な条件下で、生物学的試料を前記抗体と共にインキュベートすることと、
III.前記抗体を含む抗体抗原コンプレックスが形成されているかどうかを決定することと
を含む。
【0103】
本発明の抗体は、任意の適当な方法により生成させることができる。抗体を調製し特徴づけるための手段は当技術分野において周知である。例えば、HarlowおよびLane(1988)「Antibodies:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY.を参照されたい。例えば、抗体は、宿主動物中で全ポリペプチドまたはそれらのフラグメント、例えばそれらの抗原性エピトープ、(今後「免疫原」と称する)に対して抗体を生じさせることにより生成させることができる。フラグメントは、本明細書において言及したフラグメント(典型的には少なくとも10個または少なくとも15個のアミノ酸の長さ)の任意のものであってよい。
【0104】
ポリクローナル抗体を生成させる方法は、適当な宿主動物、例えば実験動物を免疫原で免役して、イムノグロブリンを動物の血清から単離することを含む。したがって、動物に免疫原を接種し、続いて動物から血液を取り出して、IgG分画を精製することができる。モノクローナル抗体を生成させるための方法は、所望の抗体を生成する細胞を不死化することを含む。ハイブリドーマ細胞は、接種された実験動物からの脾臓細胞と腫瘍細胞とを融合することにより生成させることができる(KohlerおよびMilstein(1975) Nature 256、495〜497)。
【0105】
所望の抗体を生成する不死化された細胞は、従来の手順により選択することができる。ハイブリドーマは、培養で増殖させるかまたは腹水の形成のために腹腔内に注入するかまたは同種異系の宿主または免疫不全の宿主の血液ストリーム中に注入することができる。ヒト抗体は、ヒトリンパ球のインビトロでの免疫化に続く、エプスタインバールウイルスを用いるリンパ球の形質転換により調製することができる。
【0106】
モノクローナルおよびポリクローナル抗体の両方の生成のために、実験動物は、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、モルモット、ニワトリ、ヒツジまたはウマであることが適当である。所望であれば、免疫原は、免疫原が、例えばアミノ酸残基の1つの側鎖を通して、適当な担体に結合された複合体として投与することができる。担体分子は、通常、生理学的に許容される担体である。得られた抗体は単離して、所望であれば精製することができる。
【0107】
検出キット
本発明は、本明細書において定義した1つまたは複数の多型をタイピングするための手段を含むキットも提供する。特に、そのような手段は、本明細書において定義した多型を検出するかまたは検出に役立つことができる、本明細書において定義した特異的な結合剤、プローブ、プライマー、プライマーのペアまたは組合せ、または、抗体フラグメントを含む抗体を含むことができる。プライマーまたはペアまたはプライマーの組合せは、本明細書において論じた検出されるべき多型を含むポリヌクレオチド配列のPCR増幅のみを起こす配列特異的プライマーであることができる。プライマーまたはプライマーのペアは、多型のヌクレオチドに対して二者択一的に特異的ではなくてもよいが、上流(5’)および/または下流(3’)領域に対して特異的であり得る。これらのプライマーは、領域がコピーされるべき多型のヌクレオチドを包含することを可能にする。プライマー伸張技法で使用するのに適したキットは、標識されたジデオキシヌクレオチド三リン酸(ddNTP)を特異的に含むことができる。これらは、伸張生成物の検出およびそれに続く多型の位置に存在するヌクレオチドの決定を可能にするために、例えば蛍光標識または質量改変され得る。
【0108】
キットは、多型が存在しないことを検出することができる特異的な結合剤、プローブ、プライマー、プライマーのペアまたは組合せ、または抗体を含むこともできる。キットは、緩衝剤または水溶液を含むことができる。
【0109】
キットは、上記の方法の実施形態の任意のものが実施されることを可能にする1種または複数種の他の試薬または器具を追加して含むことができる。そのような試薬または器具は、以下の1つまたは複数を含むことができる:作用剤の多型に対する結合を検出する手段、蛍光性標識などの検出可能な標識、ポリヌクレオチドに作用し得る酵素、典型的にはポリメラーゼ、制限酵素、リガーゼ、リボヌクレアーゼHもしくは標識をポリヌクレオチドに付けることができる酵素、酵素試薬のための適当な緩衝剤(単数または複数)もしくは水溶液、本明細書において論じた多型に隣接する領域に結合するPCRプライマー、陽性および/もしくは陰性対照、ゲル電気泳動装置、試料からDNAを単離する手段、個体から試料を得る手段例えばスワブもしくは針を含む器具など、または検出反応をその上で実施することができるウェルを含む指示具。キットは、本発明の特異的な結合剤、好ましくはプローブを含むポリヌクレオチドアレイなどのアレイであることができ、またはそれを含むことができる。キットは、通常、キットを使用するための説明書のセットを含む。
【0110】
生物情報科学
多型の配列は、電子書式で、例えばコンピュータデータベースで貯蔵することができる。したがって、本発明は、ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および/またはそれらと連鎖不平衡にある1つもしくは複数の多型、ならびに肝臓の銅蓄積からのイヌの保護とのそれらの関連に関する情報を含むデータベースを提供する。データベースは、GOLGA5、ATP7AまたはUBL5各遺伝子における1もしくは複数の多型および/またはそれと連鎖不平衡にある1もしくは複数の多型、ならびにそれらと肝臓の銅蓄積に対するイヌの感受性との関連に関する情報を含むこともできる。データベースは、多型についての情報、例えば多型と、肝臓の銅蓄積からの保護またはそれに対する感受性との関連性をさらに含むことができる。
【0111】
本明細書に記載したデータベースは、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護またはそれに対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定するために使用することができる。そのような決定は、電子的手段により、例えばコンピュータシステム(PCなど)を使用することにより実施することができる。
【0112】
典型的には、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかの決定は、コンピュータシステムにイヌからの遺伝的データをコンピュータシステムに入力することと、遺伝的データを、ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および/またはそれらと連鎖不平衡にある1つもしくは複数の多型ならびに肝臓の銅蓄積からのイヌの保護とのそれらの関連に関する情報を含み、場合により、GOLGA5、ATP7aもしくはUBL5遺伝子における1つもしくは複数の多型および/またはそれらと連鎖不平衡にある1つもしくは複数の多型、ならびに肝臓の銅蓄積に対するイヌの感受性とのそれらの関連に関する情報を含むデータベースと比較することと、この比較に基づいて、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定することとにより実施されるであろう。この情報は、次に、イヌの肝臓の銅レベルの管理の指針として使用することができる。
【0113】
本発明は、前記プログラムをコンピュータ上で走らせるときに本発明の方法のすべてのステップを実施するためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラムも提供する。前記プログラムをコンピュータ上で走らせるときに本発明の方法を実施するための、コンピュータで可読の媒体上に貯蔵したプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品も提供される。コンピュータシステムにおいて実行される場合、コンピュータシステムに本発明の方法を実施するように指示する搬送波上のプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品も、追加で提供される。
【0114】
図4に例示したように、本発明は、本発明による方法を実施するために整えられた装置も提供する。装置は、典型的には、PCなどのコンピュータシステムを含む。一実施形態において、該コンピュータシステムは、イヌの遺伝的データを受け取る手段20;データを多型に関する情報を含むデータベース10と比較するためのモジュール30;および前記比較に基づいて、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からのイヌの保護またはそれに対するイヌの感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定するための手段40を備える。
【0115】
品種改良手段
育種価は個体の親としての価値と定義され、農業において家畜の望ましい特色を改良するために普通に使用される。イヌの全体的銅処理能力を改良して慢性肝炎などの銅関連疾患の発生を減少させるためには、肝臓の銅蓄積から保護される血統についてイヌを選択するのが有利であろう。この問題は、血統を知らせるために、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されるかどうかを決定するために使用することができる多型を使用することにより解決される。
【0116】
例えば、2頭のイヌの子孫の銅処理能力は、ATP7A遺伝子座における両親の遺伝子型により影響され得る。この遺伝子座における特定の変異の移動は、子孫にとって利益であり得る。遺伝子座における遺伝子型を決定することにより、将来の親の育種価を評価して、それにより所与の血統対が適当であるかどうかに関する決定をすることが可能であろう。
【0117】
したがって、本発明は、肝臓の銅蓄積から保護される子孫を作出することについてイヌを選択する方法であって、本発明の方法により、候補の第1のイヌで、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定し、それにより候補の第1のイヌが肝臓の銅蓄積から保護される子孫を作出するのに適するかどうかを決定することを含む方法を提供する。該方法は、本発明の方法により、第1のイヌと性が反対の第2のイヌで、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定することをさらに含むことができる。結果が第1のおよび/または第2のイヌが肝臓の銅蓄積からの保護を示す遺伝子型を有するということであれば、その場合、肝臓の銅蓄積から保護される子孫を産するために、第1のイヌを第2のイヌと交配させることができる。
【0118】
例えば、該方法は、ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)から選択される1つまたは複数の多型およびそれらと連鎖不平衡にある1つもしくは複数の多型の有無を、候補の第1のイヌのゲノムで決定することを含むことができる。より好ましくは、該方法はATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および/またはATP7a_Reg16_F_42のSNP(配列番号143)の有無を決定することを含む。本発明の方法は、ATP7a_Reg3_F_6(配列番号142)のT対立遺伝子および/またはATP7a_Reg16_F_42のSNP(配列番号143)のT対立遺伝子の有無を決定することを含むことができる。さらにより好ましくは、方法は、イヌが、ATP7a_Reg3_F_6のSNPおよび/またはATP7a_Reg16_F_42のSNP(配列番号143)のT対立遺伝子に対してホモ接合性か(雌イヌの場合)またはヘミ接合性か(雄イヌの場合)を決定することを含むことができる。該SNPの存在は、第1のイヌが肝臓の銅蓄積から保護されており、したがって第2のイヌと交配させるのによい候補であることを示す。第1のおよび第2のイヌは、該SNPのT対立遺伝子についてホモ接合性またはヘミ接合性であることが好ましい。第1のおよび/または第2のイヌのいずれかにおけるホモ接合は、このことにより子孫がホモ接合性であり、それにより肝臓の銅蓄積から選択される可能性が増大するので、最も好ましい。
【0119】
本発明は、銅蓄積に対する感受性を示す本発明の多型を使用することにより、肝臓の銅蓄積から保護される子孫を産するためのイヌを選択する方法も提供する。イヌのゲノム中のそのような多型が存在しないことは、そのイヌが交配のためのよい候補であることを示す。したがって、本発明の方法は、候補の第1のイヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定すること;およびそれにより候補の第1のイヌが肝臓の銅蓄積から保護される子孫を産するのに適するかどうかを決定することをさらに含むことができる。
【0120】
方法は、第一のイヌ候補のゲノムにおける、(c)肝臓の銅蓄積に対する感受性を示すGOLGA5、ATP7aまたはUBL5遺伝子における多型および/または(d)前記多型(c)と連鎖不平衡にある多型の有無を検出することを含むことができる。方法は、第一のイヌとは異なる性別の第二のイヌのゲノムが、肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかを決定することをさらに含むことができる。したがって、方法は、第二のイヌのゲノムにおける、(c)肝臓の銅蓄積に対する感受性を示すGOLGA5、ATP7aまたはUBL5遺伝子における多型および/または(d)前記多型(c)と連鎖不平衡にある多型の有無を検出することを含むことができる。結果が、第一および/または第二のイヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す遺伝子型を持たないものであれば、肝臓の銅蓄積に対して感受性ではない子孫を作出するために第一のイヌを第二のイヌと交配することができる。
【0121】
方法は、候補の第1のイヌのゲノムで、表III、IVおよびVにおいて特定されたSNPから選択される1つまたは複数の多型およびそれらと連鎖不平衡にある1つもしくは複数の多型の有無を決定することを含むことができる。これらの多型の1つまたは複数の存在は、第1のイヌが肝臓の銅蓄積に対して感受性であり、したがって肝臓の銅蓄積から保護される子孫を産するために第2のイヌと交配させるべきよい候補ではないことを示す。
【0122】
候補の第1のイヌおよび/または第2のイヌは、任意の血統のものであってよい。候補の第1のイヌおよび/または第2のイヌは、ラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバーまたはトイプードルから選択される血統を遺伝的に継承していることが好ましい。候補の第1のイヌおよび/または第2のイヌは、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承していることがより好ましい。イヌは、純粋種のラブラドールレトリーバーであってよい。あるいは、イヌは混血のもしくは交雑種のイヌ、または異系交配のイヌ(雑種)であってもよい。イヌの両親の一方または両方が純粋種のラブラドールレトリーバー犬であってもよい。イヌの祖父母の1、2、3または4頭が純粋種のラブラドールレトリーバー犬であってもよい。イヌは、その遺伝的背景において、少なくとも50%または少なくとも75%のラブラドールレトリーバーの血統を有することができる。したがって、イヌのゲノムの少なくとも50%または少なくとも75%は、ラブラドールレトリーバーの血統に由来してよい。
【0123】
イヌの遺伝的血統の継承は、遺伝的マーカーの、例えばSNPまたはマイクロサテライトの対立遺伝子の頻度を評価することにより決定することができる。イヌにおける異なったSNPまたはマイクロサテライトの対立遺伝子の頻度の組合せは、イヌの血統または混血血統のイヌを作り出す血統が決定されることを可能にする特色を提供する。そのような遺伝子検査は商業的に利用できる検査である。あるいは、イヌは、それがラブラドールレトリーバーの血統を継承すると、例えばイヌの飼い主または獣医により推定されるという理由で、ラブラドールレトリーバーの血統継承について検査される必要がないこともある。これは、例えばイヌの祖先の知識のため、またはその外観のためであり得る。
【0124】
オールブリードクラブ登録により認められた血統の最も純粋種のイヌは「非公開の血統台帳」により管理される。血統台帳は、典型的には、例えば、血統協会またはケンネルクラブにより保持される、与えられた血統の承認されたイヌの公式登録である。それは、イヌがそれらの両親の両方とも登録されている場合にのみ追加され得るなら、一般に「非公開」血統台帳と称される。大部分の血統は非公開の血統台帳を有し、その結果、遺伝的多様性は既存集団の外側から導入され得ないので近親交配が生じる。ケンネルクラブにより認められた多くの血統において、これは、遺伝的疾患または障害ならびに同腹子の数の減少、短命および自然受胎不能などの他の問題の高い発生率を生じている。
【0125】
近親交配に関連する問題を回避するためには、血縁的により密接なイヌに比較して血縁的に互いにより隔たった特定の血統の中で、血統についてイヌを選択するのが有利であろう。したがって本発明の一態様において、候補の第1のイヌおよび候補の第2のイヌの遺伝的血統の継承が、2頭のイヌの縁続きの程度を決定するために決定される。本発明のこの態様において、用語「遺伝的血統の継承」は、特定の血統内のイヌの遺伝的祖先の系統に関する。イヌの遺伝的血統の継承は本明細書に記載したようにして決定することができる。イヌの遺伝的継承を決定することにより、彼らがいかに密接に関係しているかを決定するために、単一血統内でイヌの間を区別することは可能である。
【0126】
したがって、本発明の一態様において、候補の第1のイヌと候補の第2のイヌとの縁続きの程度が決定され、それは候補の第1のイヌの遺伝的血統の継承を同じ血統の候補の第2のイヌと比較することを含む。好ましくは、イヌは純粋種のイヌである。各イヌの遺伝的血統の継承は、例えば、前記イヌにおいて、1つまたは複数の血統特異的多型の有無を確認することにより決定することができる。
【0127】
縁続きの程度は、イヌが共通して有する血統特異的多型の数から決定することができる。例えば、同じ血統の2頭のイヌは、0〜100%の、例えば10〜90%、20〜80%、30〜70%または40〜60%の検査済み血統特異的多型を共通して有することができる。したがって2頭のイヌは、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%の検査済み血統特異的多型を共通して有することができる。2頭のイヌの間に共通の検査済み血統特異的多型のパーセンテージは、それらの縁続きの程度の尺度として使用することができる。本発明のこの態様において、2頭のイヌは、彼らが遺伝的に十分無関係である場合にのみ、一緒に交配させるであろう。例えば、彼らは、60%、50%、40%、30%または20%未満の検査済み血統特異的多型を共通して有する場合にのみ、一緒に交配させることができる。
【0128】
本発明は、被験対象のイヌと交配させることについて1頭または複数のイヌを選択する方法であって、
(a)被験対象のイヌおよび被験対象のイヌと性が反対の2頭以上のイヌの検査群中の各イヌについて、ゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型、および場合により肝臓の銅蓄積に対して感受性を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定することと、
(b)被験対象のイヌと交配させることについて検査群から1頭または複数のイヌを選択することと
を含む方法も提供する。
【0129】
検査群は、少なくとも2、3、4、5、10、15、20、25、30、50、75、100または200頭の異なったイヌ、例えば2〜100、5〜70または10〜50頭のイヌからなってよい。イヌは、通常、肝臓の銅蓄積から保護されるという根拠で検査群から選択される。検査群から選択される1頭または複数のイヌは、被験対象のイヌと同じかまたは類似の血統を遺伝的に継承していてよい。
【0130】
被験対象のイヌおよび検査群中の各イヌの血統は任意でよい。被験対象のイヌおよび/または検査群中の各イヌは、ラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバーまたはトイプードルから選択される血統を遺伝的に継承していることが好ましい。イヌは、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承していることがより好ましい。イヌは純粋種のラブラドールレトリーバーであってよい。あるいは、イヌは、混血のもしくは交雑種のイヌ、または異系交配のイヌ(雑種)であってもよい。イヌの両親の一方または両方が、純粋種のラブラドールレトリーバー犬であってもよい。イヌの祖父母の1、2、3または4頭が純粋種のラブラドールレトリーバー犬であってもよい。イヌは、その遺伝的背景において、少なくとも50%または少なくとも75%のラブラドールレトリーバーの血統を有することができる。したがって、イヌのゲノムの少なくとも50%または少なくとも75%は、ラブラドールレトリーバーの血統に由来してよい。本発明の一実施形態においては、肝臓の銅蓄積からの保護またはそれに対する感受性に関する多型の有無に基づいて、検査群内の肝臓の銅蓄積から保護される可能性が最も高いイヌが、被験対象のイヌと交配させるために選択される。他の実施形態においては、検査群内の肝臓の銅蓄積から保護される可能性が高い多数のイヌが、被験対象のイヌと交配させるために選択される。例えば、検査群中の少なくとも2、3、4、5、10、15または20頭のイヌを選択することができる。その上、他の因子、例えば地理的位置、年齢、品種改良状態、既往歴、疾患感受性または身体的特性に基づいて選択されたイヌの群から、さらに選択することもできる。
【0131】
上で説明したように、遺伝的に最も無関係の同じ血統内でイヌを交配させることが好ましい。これは、遺伝的多様性を血統内で増加または維持し、かつ子孫に生じる近親交配に関係する問題の可能性を減少させるためである。したがって、検査群からのイヌのさらなる選択は、被験対象のイヌとの遺伝的関係に基づくことができる。したがって、本発明の一態様において、方法は、
(a)被験対象のイヌの遺伝的血統の継承を、同じ血統のかつ被験対象のイヌと性が反対の2頭以上のイヌの検査群中の各イヌの遺伝的血統の継承と比較することと、
(b)この比較から、被験対象のイヌと検査群中の各イヌとの間の縁続きの程度を決定することと、
(c)被験対象のイヌと交配させることについて検査群から1頭または複数のイヌを選択することと、
を含むことができる。
【0132】
イヌは、被験対象のイヌ(すなわち、精液をとるべきイヌ)とのそれらの関係に基づいて検査群から選択することができる。検査群から選択された1頭または複数のイヌは、イヌの検査群内で最も隔たった関係にある(すなわち最低の縁続きの程度を有する)ことが好ましい。被験対象のイヌおよび検査群中のイヌの遺伝的血統の継承は、すでに知られていてよく、または例えば市販の血統検査により決定してもよい。
【0133】
したがって、本発明は、1頭または複数の適当なイヌを被験対象のイヌと交配させるために推薦する方法を提供する。推薦は、被験対象のイヌの飼い主または世話人、獣医、イヌ飼育者、ケンネルクラブまたは血統登録に対して行うことができる。
【0134】
本発明は、肝臓の銅蓄積からの、性が反対の少なくとも2頭のイヌの保護またはそれに対する感受性が、場合により同じ血統内で、彼らを一緒に交配させる前に決定される、イヌを交配させる方法にも関する。
【0135】
肝臓の銅蓄積からのイヌの保護またはそれに対する感受性は、電子書式中、例えばコンピュータデータベース中に貯蔵することができる。したがって、本発明は、肝臓の銅蓄積に対する感受性またはそれからの保護、および1頭または複数のイヌの性に関する情報を含むデータベースを提供する。データベースは、イヌについてのさらなる情報、例えば、イヌの血統を遺伝的に継承している品種改良状態、年齢、地理的位置、既往歴、疾患感受性または身体的特性を含むことができる。データベースは、通常、各イヌについての固有の識別名、例えばイヌの登録名をさらに含む。データベースは、遠隔で、例えばインターネットを使用して評価することができる。
【0136】
本発明の食材
本発明は、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承しているイヌのための食材に関する。本発明者らは、市販の食餌中に見出される銅のレベルがラブラドールレトリーバーにおける肝臓の銅蓄積と関連していること、および食餌中の銅のレベルを減少させることが、驚くべきことに、薬剤のペニシラミンより効果的に、肝臓の銅レベルが正常レベルにもたらされることを可能にすることを発見した。本発明の食材は、低い銅濃度、具体的には21mg/kg(乾物)未満の銅濃度を有する。食材は、ラブラドールレトリーバーの肝臓における銅の蓄積を予防するために使用される。したがって、それは、肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患または病態を予防するために有用である。したがって、本発明の食材は、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むと本発明の方法により決定されているイヌに与えることができる。本明細書において使用される「食材」という用語は、食材、食餌、食料品またはサプリメントを包含する。これらの形態のいずれも、固体、半固体または液体であってよい。
【0137】
より詳細には、本発明の食材は、銅を21mg/kg(乾物)未満の濃度で含む。好ましくは、銅濃度は、20mg/kg未満、17mg/kg未満、15mg/kg未満、12mg/kg未満、10mg/kg未満または8mg/kg(乾物)未満である。好ましくは、銅濃度は、少なくとも3、少なくとも3.5、少なくとも4、少なくとも4.5、少なくとも4.75、少なくとも5または少なくとも8mg/kg(乾物)である。典型的には、銅濃度は、3〜21mg/kg、好ましくは、4〜12mg/kg、4.5〜12mg/kg、4〜11mg/kg、4.5〜11mg/kg、4〜10mg/kg、4.5〜10mg/kg、4〜9mg/kg、4.5〜9mg/kg、4〜8mg/kgまたは4.5〜8mg/kg(乾物)の範囲内である。銅は、任意の生理学的に許容される形態で食材中に存在してよい。したがって、銅は、硫酸銅などの任意の生理学的に許容される塩で提供することができる。
【0138】
食材は、亜鉛を少なくとも120mg/kg(乾物)の濃度でさらに含むことができる。好ましくは、亜鉛濃度は、少なくとも150、少なくとも180または少なくとも200mg/kg(乾物)である。亜鉛濃度は、食品規制当局により許容される最大値を超えないことが好ましい。典型的には、亜鉛濃度は250mg/kg未満、240mg/kg未満、230mg/kg未満または220mg/kg(乾物)未満である。通常、亜鉛濃度は、120〜250、150〜250または200〜250mg/kg(乾物)の範囲内であろう。
【0139】
食材中の亜鉛の量は銅の量を超えることが好ましい。イヌにより摂取される食材中の亜鉛および/または銅の効果的な濃度は、非消化性物質の有無により影響されることは理解されるであろう。好ましくは、食材中における亜鉛の銅に対する比は、食材の質量により5以上、例えば6、7、8、9、10以上である。
【0140】
亜鉛は、本発明の銅のレベルを提供する同じ食材中で提供することができる。あるいは、亜鉛は、本発明の食材に添加することができるサプリメントの形態で提供することもできる。サプリメントは、錠剤、粉末または液剤の形態であることができる。亜鉛は、食材中に存在するかまたは任意の生理学的に許容される形態にあるサプリメントとして提供することができる。したがって、亜鉛は、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛または酸化亜鉛などの任意の生理学的に許容される塩の中であってよい。
【0141】
食材中の銅または亜鉛の濃度は、本明細書に記載した乾物を基準にする。すなわち、異なった含水率を有し得る異なった食材間での直接比較を可能にするために、水を除いた食材を基準にする。湿潤したまたは半湿潤の食材中の銅または亜鉛の濃度を測定するために、食材の試料は、例えばオーブンを使用して最初に乾燥して水を除去する。その後、任意の適当な技法を使用して乾燥食材試料中の銅または亜鉛の濃度を測定することができる。当技術分野において周知のそのような技法の例は炎光原子吸収分光法である。
【0142】
本発明の食材は、例えば、湿潤ペットフード、半湿潤ペットフードまたは乾燥ペットフードの形態であることができる。湿潤ペットフードは、一般に65重量%を超える含水率を有する。半湿潤ペットフードは、通常、20〜65重量%の間の含水率を有しており、および微生物の増殖を防止するために吸湿剤および他の成分を含むことができる。キブルとも呼ばれる乾燥ペットフードは、一般に20重量%未満の含水率を有し、その加工は典型的には、押し出し、乾燥および/または加熱ベーキングを含む。
【0143】
食材は、湿潤および乾燥食物の混合物として提供することができる。そのような組合せは、予め混合して提供することができ、または別々に、同時にまたは順番に提供される2つ以上の別の食材としてイヌに与えることもできる。
【0144】
食材は、イヌがその食餌中で消費する任意の製品を包含する。本発明は、標準的食品ならびにペットフードスナックを含む。食材は、好ましくは調理された製品である。それは食肉または動物由来の材料(牛肉、鶏肉、七面鳥、ラム、魚その他など)を組み込むことができる。あるいは、製品は食肉を含まなくてもよい(好ましくは、タンパク質供給源を提供するための食肉代替物、例えば、ダイズ、トウモロコシ、グルテンまたはダイズ製品などを含む)。製品は1種または複数種の穀物(例えば、トウモロコシ、米、燕麦、大麦その他)などのデンプン供給源を含有してもよく、またはデンプンを含まなくてもよい。
【0145】
乾燥ペットフードの成分は、シリアル、穀物、食肉、家禽、脂肪、ビタミンおよびミネラルから選択することができる。成分は、通常、混合されて押し出し機/調理器を通して整えられる。次に、製品は、典型的には成形されて乾燥され、乾燥後、乾燥製品上に着香剤および脂肪がコートまたはスプレーされることもある。
【0146】
すべてのペットフードは、一定レベルの栄養分を提供することを求められている。例えば、Association of American Feed Control Officials(AAFCO)およびPET Food Instituteは共通して使用される成分に基づいて、ドッグフードのための栄養分プロファイルを制定した。これらの制定されたプロファイルは、「AAFCOドッグフード栄養分プロファイル」と呼ばれる。これらの規制の下で、ドッグフードは、AAFCOにより決定されたように最低レベルを満たしかつ最高レベルを超えない栄養分の濃度を含有するように作られなければならない。
【0147】
ドッグフード調合物は、イヌのカロリー、タンパク質、脂肪、炭水化物、繊維、ビタミンまたはミネラルの必要性に従って作ることができる。例えば、ドッグフード調合物は、ω−6およびω−3脂肪酸などの必須脂肪酸の正しい量または比を提供するように特注生産することができる。ω−6脂肪酸の主要な供給源は、ヒマワリ、ダイズ油、ベニバナおよびオオマツヨイグサ油などの植物であるが、それに対してω−3脂肪酸はアマニおよび海洋性供給源中に主として見出される。銅分が高くかつ食材の製造中に避けることができる食物成分には、貝、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、ナッツ、キノコ、シリアル、ココア、莢果および軟水(銅管)が含まれる。亜鉛に富みかつ調合時に含めることができる食物成分には、ミルク、ゼラチン、卵黄、米および馬鈴薯が含まれる。
【0148】
食材は好ましくは梱包される。梱包は、金属(通常、スズまたは柔軟なフォイルの形態で)、プラスチック(通常、小袋または瓶の形態で)、紙または厚紙であってよい。どのような製品中の水分量も、使用することができるまたは要求される梱包のタイプに影響し得る。
【0149】
本発明の食材は、亜鉛の供給源と一緒に梱包することができる。亜鉛は、任意の形態で提供することができる。亜鉛は、1種または複数種の食材中でまたは本発明の最高の銅のレベルを含む食材と共に梱包される別のサプリメントの形態で提供することができる。亜鉛が食材中で提供されるときには、それは、本発明の特定の銅のレベルを含有する同じ食材中で提供することができ、またはそれは、1つもしくは複数の別の食材もしくは両方の食材中で提供することができる。したがって本発明は、銅を21mg/kg(乾物)未満の濃度で有する食材および亜鉛サプリメントを含むパックを提供する。亜鉛サプリメントは、食材に添加されるときは、少なくとも120mg/kg(乾物)の濃度を提供する。食材および亜鉛サプリメントは、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承しているイヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患の予防に、同時に、別々にまたは順次に使用するためのものである。
【0150】
本発明は、本明細書において論じたラベルを付けた食材も提供する。ラベルは、例えば、食材がラブラドールレトリーバーの血統のイヌに適することを示すことができる。他の指示書または使用説明書も提供することができる。例えば、食餌または食材が、他の成分に加えて含有する銅および/または亜鉛の量を示すことができる。さらに、給餌説明書を提供することができる。
【0151】
ラブラドールレトリーバー
本発明の食材は、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承しているイヌにおける肝臓の銅蓄積を予防するのに適する。イヌは、典型的には伴侶犬またはペットである。イヌは、純粋種のラブラドールレトリーバーであってよい。あるいは、イヌは、混血のもしくは交雑種のイヌ、または異系交配されたイヌ(雑種)であってもよい。イヌの両親の一方または両方が純粋種のラブラドールレトリーバー犬であってもよい。イヌの祖父母の1、2、3または4頭が純粋種のラブラドールレトリーバー犬であってもよい。イヌは、その遺伝的背景において少なくとも50%または少なくとも75%のラブラドールレトリーバーの血統を有することができる。したがって、イヌのゲノムの少なくとも50%または少なくとも75%は、ラブラドールレトリーバーの血統に由来してよい。
【0152】
イヌの遺伝的血統背景は、遺伝マーカーの、例えばSNPまたはマイクロサテライトの対立遺伝子の頻度を評価することにより決定することができる。イヌにおける異なったSNPまたはマイクロサテライトの対立遺伝子の頻度の組合せは、イヌの血統または混血血統のイヌを作り出す血統が決定されることを可能にする特色を提供する。そのような遺伝子検査は商業的に利用できる検査である。あるいは、イヌは、それがラブラドールレトリーバーの血統を継承すると、例えばイヌの飼い主または獣医により推定されるという理由で、ラブラドールレトリーバーの血統継承について検査される必要がないこともある。これは、例えば、イヌの祖先の知識のため、またはその外観のためであり得る。
【0153】
該食物は、任意の年齢のイヌに適する。食物は、0〜12歳、例えば1〜5歳、2〜7歳または3〜9歳の年齢を有するイヌに適し得る。
【0154】
一般的に、該食材は、健康なイヌに適する。それは、検出し得る肝銅の蓄積を有しないイヌに適する。食材は、予防的使用、すなわちイヌの肝臓における銅の蓄積を予防することを意図される。食材は、銅蓄積の危険性を最小化して、それによりイヌが慢性肝炎、肝硬変または肝不全などの肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患または病態を発生する確率を減少させるために意図されている。典型的には、食材は、異常な肝銅濃度を有せず、したがって銅関連肝炎に罹る危険性の低いイヌにおける銅蓄積の予防に使用するためのものである。イヌは、銅を蓄積する履歴を有しなくてもよい。したがって、イヌは、好ましくは、約400mg/kg(乾燥肝臓重量)未満の範囲内の肝銅の正常レベルを有する。しかしながら、新生のイヌにおいて、肝銅の正常レベルは約600mg/kg(乾燥肝臓重量)未満であると考えることができる。食材をイヌに与える目的は、肝銅濃度を正常レベルより有意に高いレベルに達することから予防することである。イヌの肝臓における銅の濃度を決定するために使用することができる方法は、当技術分野において周知である。適当な方法は実施例4で記載される。
【0155】
食材は、銅関連慢性肝炎を予防するために使用することができる。食材は、好ましくは、上記の肝疾患を予防する目的で、検出可能な肝疾患を有しないイヌにおける銅蓄積の予防に使用するためのものである。食材は、慢性肝炎、肝硬変または肝不全などの肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患または病態を治療するために使用することもできる。肝疾患の証拠または症状には、嗜眠、下痢および黄疸などの臨床的指標が含まれる。肝疾患の生化学的指標には、血清ビリルビンおよびアルカリホスファターゼ(ALP)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびガンマグルタミルトランスペプチダーゼなどの血清肝臓酵素活性の異常な上昇が含まれる。そのような肝疾患指標の生化学的測定は、当技術分野において周知である。
【0156】
食物が意図されるイヌは、いかなる臨床的問題も有しないことが好ましい。
【0157】
食物の製造
本発明の食材は、適当な成分を一緒にして混合することにより作製することができる。製造は、食材が要求される銅濃度を有するように制御される。銅の濃度は、食材製造工程中にモニターすることができる。したがって本発明は、本発明の食材を作製する方法であって、食材が21mg/kg(乾物)未満の銅濃度を有するように、食材用の成分を一緒にして混合することを含む方法を提供する。食材中に組み込まれるべき1種または複数種の構成要素は、銅の供給源を提供し得る。しかしながら、銅に富みそうな構成要素の使用を避けることは重要である。銅分が高くかつ食材の製造中に避けることができる食物成分には、貝、肝臓、腎臓、心臓、筋肉、ナッツ、キノコ、シリアル、ココア、莢果および軟水(銅管)が含まれる。場合により、構成要素の1種または複数種は本発明の食材のために亜鉛の供給源を提供するであろう。亜鉛に富みかつ調合時に含めることができる食物成分には、ミルク、ゼラチン、卵黄、米および馬鈴薯が含まれる。構成要素/成分は、食材の製造/加工中の任意の時に添加することができる。
【0158】
食材中に存在する銅の濃度を、それが本発明による限界未満であるかどうかを決定するために、測定することは重要である。亜鉛の濃度も、本発明により好ましい最小レベルを超えていることを確認するために測定することができる。食材の製造方法におけるステップの1つは、食材の試料中の銅濃度の測定を含むことができる。銅濃度の少なくとも1回の測定は、食材が調製された後で食材の試料から行うことができる。測定は、さらなる成分の添加により蓄積される銅および/または亜鉛のレベルをモニターするために、食材の調製中にも行うことができる。例えば、測定は、1種または複数種の成分の添加後に試料について行うことができる。銅、亜鉛および他の元素の測定は、炎光原子吸収分光法などの当技術分野において知られる任意の適当な方法を使用して、試料について行うことができる。
【0159】
典型的には、本発明の食材を作製する方法は、成分を一緒にして、場合により任意の原料成分の調理と共に混合することと、食材の試料中の銅、および場合により亜鉛の濃度を測定することと、食材を梱包することとを含む。食材を作製する方法は、イヌの飼い主、イヌの給餌の担当者または獣医に食材を提供することおよび/または食材をイヌに与えることをさらに含み得る。
【0160】
食材が銅を少しも含まないということは普通ではないが、銅は、イヌの食餌における銅の毎日の最低必要量を達成するために、食材にサプリメントとして添加することができる(例えばAmerican Feed Control Official(AAFCO))により推奨されるように)が、一方それでも銅濃度を本発明によりその下と要求されるレベルに保つ。したがって本発明は、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承しているイヌのための食材の製造における銅の使用も提供し、この場合、食材は銅を21mg/kg未満の濃度で含み、前記イヌにおける銅蓄積の予防に使用するためのものである。銅は、任意の適当な形態で食材に添加することができる。銅サプリメントの例として、塩化銅および硫酸銅5水和物が挙げられる。本発明において使用される食品製造装置は、典型的には、以下の構成要素の1つまたは複数を備える:乾燥ペットフード成分のための容器;液体のための容器;混合機;成形具および/または押し出し機;切断デバイス;調理器(例えばオーブン);クーラー;梱包手段;およびラベルを付ける手段。乾燥成分容器は、典型的には、底部に開口部を有する。この開口部は、ロータリー・ロックなどの容量調節要素により覆うことができる。容量調節要素は、乾燥成分のペットフードへの添加を調節するために、電子製造指示により開閉することができる。ペットフードの製造において通常使用される乾燥成分には、トウモロコシ、小麦、食肉および/または家禽の肉が含まれる。ペットフードにおいて通常使用される液体成分には、脂肪、獣脂、および水が含まれる。液体容器は、例えば電子製造指示により、測定された量の液体をペットフードに添加するように制御され得るポンプを含むことができる。
【0161】
一実施形態において、乾燥成分容器(単数または複数)および液体容器(単数または複数)は混合機に接続され、特定された量の乾燥成分および液体を混合機に送達する。混合機は、電子製造指示により制御することができる。例えば、混合の持続時間または速度を制御することができる。次に、混合された成分は、典型的には成形具または押し出し機に送達される。成形具/押し出し機は、混合された成分を要求される形状に成形するために使用することができる、当技術分野において知られた任意の成形具または押し出し機であってもよい。典型的には、混合された成分は加圧下で限定された開口部を通して押し出され連続した紐の形状になる。紐が押し出されると、それは、ナイフなどの切断デバイスにより断片(キブル)に切ることができる。キブルは、通常、例えばオーブン中で調理される。調理時間および温度は、電子製造指示により制御することができる。調理時間は、食物を所望の含水率にするように変更することができる。次に、調理されたキブルは、クーラー、例えば1つまたは複数のファンを備えたチェンバーに移すことができる。
【0162】
ペットフード製造装置は、梱包装置を備えることができる。梱包装置は、通常、ペットフードをプラスチックまたは紙の袋または箱などの容器中に梱包する。装置は、ペットフードにラベルを、通常は、食物が梱包された後で付ける手段も備えることができる。ラベルは、食材が適するイヌの種類(すなわちラブラドールレトリーバー)、および/または食物の成分を表示することができる。
【0163】
食材の使用
本発明の食材は、イヌにおける肝臓の銅蓄積を予防する方法において使用することができる。したがって、銅関連慢性肝炎、肝硬変または肝不全などの高い肝臓銅と関連する疾患または病態を予防するために使用することができる。したがって、本発明は、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承しているイヌにおける肝臓の銅蓄積および肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患を予防する方法であって、イヌに本明細書に記載した食材を給餌することを含む方法を提供する。本発明は、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承しているイヌにおける銅関連慢性肝炎を予防する方法であって、本発明の食材をイヌに与えることを含む方法も提供する。本発明の食材は、典型的には、ラブラドールレトリーバーにおける銅の蓄積の予防における、予防的使用のためのものである。それはまた、典型的には、ラブラドールレトリーバーにおける銅関連慢性肝炎を予防するためのものである。
【0164】
本発明の食材は、好ましくは、本明細書に記載されている遺伝子検査によって、そのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含まないことが決定され、場合により肝臓の銅蓄積に対する感受性を示す1つまたは複数の多型を含むことが決定されたイヌにおける、肝臓銅の蓄積を予防する方法に用いるためのものである。
【0165】
したがって、本発明は、ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承するイヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患を予防する方法であって、(i)イヌのゲノムにおける、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および(b)(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型から選択される1つまたは複数の多型の有無の検出を含む、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定することと、(ii)少なくとも4.5から12mg/kg(乾物)未満の濃度の銅を含む食材をイヌに処方、提供または給餌することとを含む方法を提供する。食材は、イヌの飼い主、世話人または獣医に提供されてもよい。本発明は、前記方法に用いるための食材も提供する。
【0166】
本発明の食材の使用は、亜鉛の供給源をイヌに与えることを含むことができる。本明細書に記載したように、亜鉛は、イヌに適した任意の形態で提供することができる。本発明の低レベルの銅を含有する食材は、亜鉛を、例えば、少なくとも120mg/kg(乾物)の濃度でさらに含むことができる。あるいは、亜鉛は、1つまたは複数の別々の食材またはサプリメントの形態で提供することもできる。本発明の食材の使用は、亜鉛サプリメントをイヌに与えることを含むことができる。亜鉛サプリメントは、任意の時に、すなわち、別々に、同時にまたは順次に本発明の食材に提供することができる。亜鉛サプリメントは、例えば、それがイヌに与えられるかまたはそれをイヌの飲用水中に入れることができる前に、本発明の食材と混合することができる。
【0167】
本発明の食材は、イヌに1日当たり1回または複数回与えることができる。食材は、好ましくは、イヌの従来の食物の代わりに与えられる。銅蓄積を予防するまたは慢性肝炎を予防する方法は、無期限で、すなわちイヌの一生を通して使用することができる。
【0168】
本発明を以下の実施例により例示する。
【実施例1】
【0169】
銅蓄積に対する感受性と関連するSNPの解明
120頭のラブラドールのDNA試料を、22000を超えるSNPにわたって遺伝子型決定した。高銅のイヌ(肝臓銅のレベルが600mg/kgを超える)から72頭のイヌの試料および正常銅肝臓レベル(400mg/kg未満)から48頭のイヌの試料があった。データは、可能なイヌの対すべての間の相互比較を使用して分析した。データは、疾患を支持する情報を与える遺伝子座により配列した。高銅レベルに連関する最良のフィッティングマーカーを見出すために、Booleanオペレータを使用して、最良の3つのゲノムの遺伝子座からのデータを使用した。3つの遺伝子座を使用する簡単なBooleanモデルの結果を下に示す:
【0170】
【表1】

表Iの2進値に対するキーは以下の通りである。
ゲノムの遺伝子座CFA8(GOLGA5遺伝子)
1=BICF2P506595のSNPにAA遺伝子型がある場合
0=BICF2P506595のSNPの任意の他の遺伝子型がある場合
ゲノムの遺伝子座CFA32(UBL5遺伝子領域)
1=BICF2P772765にGG、BICF2S2333187にCCおよびBICF2P1324008にGGがある場合
0=これらのSNPのいずれかが異なった遺伝子型を示す場合
ゲノムの遺伝子座CFAX(ATP7A遺伝子領域)
1=BICF2P591872にAAまたはAGがある場合
0=BICF2P591872にGGがある場合
すべての遺伝子座において、X=使用されない対立遺伝子。
【0171】
表Iは、3つのゲノムの遺伝子座における対立遺伝子の2元状態を表す。ゲノムの遺伝子座CFA8において、1つのSNPが使用された(SNP1)。ゲノムの遺伝子座CFA32において3つのSNPが使用された(SNP2、3および4)。ゲノムの遺伝子座CFAXにおいて1つのSNPが使用された(SNP5)。2元値は、銅蓄積に対する感受性を示す対立遺伝子(「悪い」対立遺伝子)を有するイヌを示す。例えば000は、3つの悪い対立遺伝子のいずれも有しないことを表す。111は、3つの悪い対立遺伝子のすべてを有することを表す。Xはその遺伝子における使用されない対立遺伝子である。1xxのおよび0xxのラインは、GOLGA5遺伝子中のSNPのみを使用する1つの遺伝子検査が有する力を示す。
【0172】
表IIは、より多くの標示対立遺伝子を有するイヌほど、平均でより高い銅濃度を有することを示す。各パターンを有するイヌの数を見ることもできる。
【0173】
【表2】

【0174】
表IIIは、表IおよびII中の結果のために使用されたSNPの位置および配列を示す。
【0175】
結果は、3つのゲノムの遺伝子座(GOLGA5、UBL5およびATP7A遺伝子の中および周辺にある)は銅蓄積に対する感受性と関連することを示す。さらに、銅蓄積に対する感受性を示すこれらの領域中のSNPを表IVに示す。
【0176】
【表3】

【0177】
【表4】














【実施例2】
【0178】
肝臓の銅蓄積に対する感受性と関連するさらに別のSNPおよび保護SNPの同定
実施例1で同定された3つの遺伝子を調べて肝臓の銅蓄積に対する感受性と関連するさらなるSNPを同定した。3つの同定された遺伝子のエクソンを残らず網羅する33個の単位複製配列を選んだ。これらは、ラブラドールレトリーバーの血統のイヌからのゲノムのDNAの72個の試料中で増幅されていた。試料は、高銅(600mg/kgを超える肝臓銅のレベル)または正常銅肝臓レベル(400mg/kg未満)のいずれかのイヌから採取した。増幅された生成物は、サンガー法により両方向で配列を決定した。DNASTARにより供給されるソフトウェア「Seqman4.0」を各単位複製配列中の配列のアセンブルに使用した。次にアセンブリーを検査して一塩基変異(SNP)を見出した。次に、これらの変異は、両方向からの配列におけるSNPで、基準強度(base−intensity)を検査することにより遺伝子型を決定される。2つの方向からのSNPの遺伝子型が10個を超える試料中で不一致であれば、SNPはアーチファクトと分類されておよび無視される。同定された感受性SNPを表Vに提示する。
【0179】
驚くべきことに、保護SNPも発見された。これは表VIに示す。このSNPは、ATP7A遺伝子(X染色体連関遺伝子)のコード領域中にあり、コード配列中に変化を生じさせる。性別およびATP7A遺伝子型による肝臓銅の平均レベルの試験を実施した(表VII)。図5は、表VIIのデータをグラフで図示する。図6は、同じデータを銅の組織学的スコアとして図示する。p値(0.000396)は、群として、組織学的なスコアと性別遺伝子型とに対するクラスカル・ワリス検定により決定した。T対立遺伝子の存在はイヌが高い肝臓銅から保護されることを示すことがデータから明らかである。
【0180】
結果は、慢性肝炎の雌のバイアスを説明することができる。雄イヌは、1コピーのX染色体を有するだけなので、ATP7A遺伝子座でヘミ接合性である。X連関劣性遺伝子の効果は、雄のX染色体のヘミ接合性状態のために、雌よりも雄において見られる可能性が高い。この場合、保護効果は劣性であるので、雌集団における方が多くの症例が見られる。
【0181】
保護SNPは、ATP7Aのアミノ酸328位におけるトレオニンのイソロイシンへの変化を生じさせ、可能な水素結合の数の3から0への減少および疎水性の増大、可能性としてタンパク質の形状の変化をもたらす。この位置におけるトレオニンは、ウマ、ヒト、チンパンジーおよびイルカを含む多くの哺乳動物を通じて保存され、タンパク質の機能におけるこのアミノ酸の重要性を示す。
【実施例3】
【0182】
ATP7Aの保護SNPの血統および地理的多様性に関する調査
表VI中のATP7AのSNPは、該SNPが他の血統においても存在するかどうかを決定するために、ラブラドールレトリーバーに加えて他の血統のイヌからのDNA試料においても遺伝子型を決定された。表VIIIは、各遺伝子型のイヌの数について、結果を示す。「T」の縦欄はホモ接合体の雌(TT)およびヘミ接合体の雄(T)を示す。結果は、SNPは多様なイヌの血統に存在し、したがって種々の異なった血統、混血のイヌおよび雑種における銅蓄積からの保護の指標として使用することができることを示す。該SNPのT対立遺伝子は、米国および日本のラブラドール集団にも見出され、イヌの地理的位置はSNPの効用の障害ではないことを示す。
【0183】
【表5】



【0184】
【表6】

【0185】
【表7】

【0186】
【表8】

【実施例4】
【0187】
さらに別の保護性だが非コード領域にあるSNPの発見
ATP7A遺伝子の配列決定により、コード領域のATP7a_Reg3_F_6のSNPとほとんど完全な連鎖不平衡にあるイントロンのSNPが明らかになった。コード領域のSNPと同様に、イントロンのSNP(ATP7a_Reg16_F42)は、肝臓の銅蓄積からの保護と有意に関連する(表IX)。遺伝子型と疾患状態の独立性における2種類の自由度によるカイ2乗検定を用いて両者の有意性を測定した。疾患状態は、銅定量化が>600mg/kg(乾燥肝臓重量)かつ組織学スコアが>=2.5に対して陽性であり、銅定量化が<400mg/kg(乾燥肝臓重量)かつ組織学スコアが<2.5に対して陰性であった。予想の表は、2個の変数の独立性を予見する試料内における遺伝子型頻度および疾患頻度のベイズ法による予測に基づいていた。
【0188】
非コード領域のSNPとコード領域のSNPとの間の連鎖不平衡の計算された尺度は、D’=0.93、Rの2乗=0.86である。したがって、このSNP同士はほぼ完全に不平衡にある。
【0189】
ATP7a_Reg16_F42の前後の配列を表Xに示す。
【0190】
【表9】

【0191】
【表10】

【実施例5】
【0192】
コード領域突然変異(「ATP7AのSNP」)の機能的効果を決定するために行われたin vitro実験
材料と方法
細胞系
安楽死させた雌のラブラドールから、イヌ皮膚線維芽細胞CDFIB44、CDFIB62およびCDFIB111を単離した。安楽死させる前に採取した血液試料を本発明の遺伝子検査に付し、疾患に対する危険性の増加を確認した。CDFIB111はATP7AのSNPがホモ接合型であり、CDFIB62はヘテロ接合型であった。CDFIB42は対照として用いた。これらの細胞は、ATP7Aの野生型、ヘテロ接合型または変異型を発現するイヌ皮膚線維芽細胞に対応して、ATP7AC/C、ATP7AC/TまたはATP7AT/Tと言う。臨床的メンケス病患者(ATAC)からヒト皮膚線維芽細胞HB156を得た。対照として、H8881細胞を用いた。現在のところATP7Aは、これらの細胞では配列決定されていない。ATP7A配列に関する情報は、これらの細胞に関しては利用できない。
【0193】
線維芽細胞の培養物を、Lグルタミン(2mM)、10%FBS、MEM非必須アミノ酸(100μM)およびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ変法イーグル培地(Invitrogen)中で37℃、空気中5%CO2の加湿雰囲気下でルーチンに維持した。低血清培地は、2%FBSと同じ成分を含んだ。実験のため、継代4から9の間のイヌ細胞を用いた。小腸および肝臓から得られた組織を単離し、後に20℃でRNAの状態で必要とされるまで保存した。
【0194】
免疫蛍光法
免疫蛍光法のため、カバーガラス上で培養した顕微鏡観察用の細胞を、200mMバソクプロインジスルホン酸(BCS;Sigma)を含む低血清培地中で24時間インキュベートした。細胞を新しく調製した4%パラホルムアルデヒド/PBSで20分間固定し、洗浄し、0.2%Triton−X100/PBSで透過処理した。非特異的シグナルを0.2%Triton−X100を含む3%BSA/PBSで1時間ブロッキングし、続いてニワトリ抗ATP7A(1:50;ab13995(Abcam)、アミノ酸1407〜1500に対して作製)+マウス抗58k(1:50;Abcam)を含む同ブロッキング培地中で2時間インキュベーションした。Texas red結合ヤギ抗ニワトリ(1:100)およびFITC結合ロバ抗マウス(1:100)抗体(Abcam)を用いて一次抗体を検出した(1時間)。その後、Texas red結合ウサギ抗ヤギ抗体(1:1000;Abcam)を用いて、ヤギ抗ニワトリ二次抗体由来のシグナルを増幅した(1時間)。最後に、カバーガラスでProlong Anti−fade gold(Sigma)中にマウントし、落射蛍光によって観察した。
【0195】
ラジオアイソトープ実験
約170MBq.mg.−1の誘導放射能を与えるリアクタ内で一晩放射線照射された金属銅線(3.3mg)を用いて、64銅アイソトープを作製した。到着したら、照射の約4時間後かつ実験開始30分前に、50μlの濃HNO3(10.3M)に銅線を溶解し、1.3mlの0.5M NaOHで中和した。銅が最終濃度4.7mMになるようDMEM培地を添加した。6ウェルプレート中の添加剤入り5%FBS添加DMEM培地に、線維芽細胞を2回複製して蒔いた。
【0196】
銅処理のため、細胞を10、50および100μMの銅において24または48時間インキュベートした。処理後、培地を除去し、等量の非アイソトープ(cold)CuClを添加したハンクス液で細胞を4回洗浄した。洗浄後、325μlの0.2%SDSを添加して細胞を溶解し、細胞ライセートをピペットで採取してカウントチューブに入れた。Packard B5003ガンマカウンター(Packard BioScience Benelux、フローニンゲン、オランダ)において450から800keVの間で2分間、培地、洗浄ステップまたはライセートを含む各チューブにおける放射線を測定した。流出試験のため、24時間の銅処理の後、細胞をハンクス液で4回洗浄し、その後追加的な銅を含まない新鮮な暖かい培地で2時間インキュベーションした。次に、上述の通り細胞の銅を分析した。細胞ライセートのタンパク質濃度(Bio Radタンパク質アッセイキット、Bio Radを用いて定量化する)に対して銅蓄積を正規化し、並行してMTS比色アッセイ(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−5−[3−カルボキシメトキシフェニル]−2−[4−スルホフェニル]−2H−テトラゾリウム)(Promega)を行った。この定量分析は、死細胞ではなく生細胞を検出する。酵素結合による免疫吸着剤アッセイマイクロプレートリーダー(Bio−Rad)を用いて、490nm(検査波長)および650nm(参照波長)の吸光度を測定した。培地を含むが細胞を含まないウェルはブランク用となる。この実験において、100μLの培地中の104細胞を96ウェルプレートの各ウェルに播種した。70%コンフルエンスに達した後、細胞を10、50または100μMの銅で処理した。24および48時間インキュベーションの後、ウェルを洗浄し、各ウェルに100μLの培地および20μLのMTSを添加した。37℃で2時間インキュベーションした後、490nmの吸光度を測定した。
【0197】
RNAの単離
Qiagen RNeasy Tissue Kit(Qiagen)を用いてメーカーの取扱説明書に従って浄化する前に、フェノールクロロホルム抽出法を用いて組織の線維芽細胞から全RNAを3回繰り返して単離した。すなわち、約75mgの組織を単離し、1mlのTri Reagentおよび5mmのQiagen製スチールボールベアリングに加えた。TissueLyser(Qiagen)により、20 30Hz、2分間を3回行って組織をホモジナイズした。100μlの1ブロモ3クロロプロパンを添加し、短時間ボルテックス攪拌し、室温で5分間静置し、その後卓上遠心分離機によって15分間4℃で遠心分離した。透明な水相を取り分け、0.5mlのイソプロパノールに加えて静置し、10分間、4℃で再度スピンした。70%エタノール中でペレットを洗浄し、室温で風乾し、300μlの水に再懸濁した。gDNA除去カラムを用いてRNAの純度をさらに上げ、Qiagen RNeasy plusキットを用いて精製した。Qiagen RNeasy plusキットを用いて細胞から全RNAを単離した。
【0198】
High Capacity RNA to cDNA(ABI)キットをメーカーの取扱説明書に従って用いて、20μlの反応容量で合計2μgのRNAを逆転写した。qPCRによる検査の前に、組織由来のcDNAを1:20希釈した。細胞由来のcDNAは、ATP7A解析のために1:100希釈、またはMT1A解析のために1:10希釈した。
【0199】
RNA試料をDNaseI(Qiagen RNaseフリーDNaseキット)で処理した。Promega製Reverse Transcription System(Promega Benelux、ライデン、オランダ)を用いて、60μlの反応容量で合計3μgのRNAをポリ(dT)プライマーと共に42℃で45分間インキュベートした。
【0200】
リアルタイム定量PCR(qPCR)
Speeらによって記載されている通りにQ−PCRを行った(J Vet Intern Med 2006:20:1085〜1092)。リアルタイムPCRは、高親和性の二本鎖DNA結合染色試薬であるSYBR green Iに基づき、分光蛍光分析サーマルサイクラーにおいて3回繰り返して行った。PCR反応毎に、384ウェルプレートにおいて、1×Power SYBR(登録商標)Green PCR Master Mixおよび40pmolの両方のプライマーを含む20μlの反応容量において、8.7μlの(希釈ストックの)cDNAを用いた。表XIに図示されているプライマー対(ATP7Aのプライマー対を除く)は、Speeらを参照した。全PCRプロトコールは、5分間のポリメラーゼ活性化ステップと、それに続く40サイクルの(変性)95℃20秒間、アニーリング30秒間および伸長72℃30秒間、ならびに最後の伸長5分間72℃を含んでいた。アニーリング温度は50℃から67℃までの範囲であった(表XI)。解離曲線、Bioanalyser(Agilent2100)および配列決定(MWG)を用いて、各試料の純度および特異性を試験した。cDNAの段階的10倍希釈を行い、相対的な出発量対閾値サイクル数のプロットによって構築された効率曲線を作成した。各検量線の増幅効率E(%)=(10(1/s)1)・100(s=勾配)を決定し、これは広ダイナミックレンジで>95%かつ<105%であると考えられる。各実験試料は、適切な誤差伝搬により、内在性参照であるヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、RPL8、RPS5およびRPS19に対して正規化した。
【0201】
ウエスタンブロッティング
ラバーポリスマンを用いて細胞をこすり取り、細胞をPBSで3回洗浄し、200μlの新しく調製した煮沸用溶解バッファー(1%SDSを含むトリス緩衝食塩水(TBS))に溶解した。25ゲージの注射針に数回通過させることにより試料をホモジナイズし、続いて70℃で5分間加熱し、その後解析されるまで−20℃で保存した。細胞ライセートを解凍し、ローディングバッファー(50mM Tris.HCl、pH6.8、2%SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、10%グリセロール、40mM DTT)中で5分間煮沸し、予め組み立てられたSDS−PAGEにロードした。メンブレンを5%ミルク/PBS−Tで1〜2時間ブロッキングし、その後1時間RTで一次抗体とインキュベーションした。メンブレンをブロッキングバッファーで10分間、3回洗浄し、その後ブロッキングバッファーで1:10,000希釈したウサギ抗ニワトリIg抗体HRPと1時間室温でインキュベーションした。メンブレンをブロッキングバッファーで10分間3回洗浄し、続いてPBS−Tで1回洗浄した。メンブレンをPBSで短時間洗浄して洗剤を除去し、ECLウエスタンブロッティング検出試薬システムを用いてメーカーの取扱説明書に従って現像した。その後メンブレンをSuperRX Fuji X線フィルム(東京、日本)に露光し、Kodak自動プロセッサ(イーストマン・コダック社、日本)において現像した。
【0202】
等量のタンパク質がロードされたことを示すため、メンブレンをストリップしてリプローブした。マウス抗チューブリン(10,000倍希釈、5%BSA/TBS−T/T、1時間RT、その後、ヤギ抗マウスHRP(1:10,000)1%BSA/PBS−T/T、1時間RT)を用いてメンブレンをウエスタンブロットし、前述の通りECLウエスタンブロッティング検出試薬により可視化した。
【0203】
メンブレンのストリッピング
リプローブの前に、結合した抗体をメンブレンからストリップした。さらに別のウエスタンブロッティングを行う前に、メンブレンをストリッピングバッファー(100mM 2−メルカプトエタノール、2%SDS、62.5mM Tris−HCl、pH6.7)中で、55℃で30分間インキュベートし、次にPBSで十分に洗浄した。
【0204】
統計
解析前にqPCRデータをlog10変換し、分散の均一性を確実にした(パラメトリック解析の仮説)。次にlog10(発現)値をANOVAにより解析し、発現値の標準誤差に対して加重した。ATP7AC/C遺伝子型に対してペアワイズ比較を行い、95%信頼区間で倍数変化を算出した。
【0205】
【表11】

【0206】
結果
イヌ皮膚の変異型線維芽細胞は、野生型またはヘテロ接合型細胞と比べてより多くの銅64を取り込み、より遅い速度で流出させる
以後、野生型、ヘテロ接合型および変異型細胞は、それぞれATP7AC/C、ATP7AC/TまたはATP7AT/Tとする。線維芽細胞を超生理学的濃度のアイソトープ銅64(Cu64)(100μM)とインキュベーションすると、ATP7AC/C細胞と比べてATP7AT/T細胞およびATP7AC/T細胞において、24時間および48時間後に約2倍の銅取込み増加が示される(図7A)。より低濃度(50μM)では、ATP7AT/T細胞は、他の遺伝子型細胞と比べてより多量の銅を取り込んだ。生理学的濃度におけるインキュベーションは、取込みの細胞型間の差異を示さない。ATP7AT/T細胞におけるCu64レベルの増加が流出抑制によるものであったかを決定するために、次に本出願人らは、洗い流し法によって細胞からの流出レベルを測定した(図7B)。多量のCu64(100μM)を添加して2時間洗い流した後、ATP7AC/C細胞はアイソトープの約45%を保持し、一方ATP7AT/T細胞は90%近くを保持した。ATP7AT/T細胞と同様の量の銅を取り込んだATP7AC/T細胞は、ATP7AC/C細胞と同様の流出速度を示した。より多量の銅取込みに伴い、高い銅負荷下のATP7AT/T細胞において細胞生存率が低くなることが判明した(データなし)。
【0207】
対照として、ヒトの野生型細胞およびメンケス病患者に由来する細胞を用いた実験を並行して行った。予想されたように、メンケス病細胞は、使用したCu64全濃度においてより多くの取込みを示し(図7C)、野生型細胞と比べてより遅い速度でCu64を流出させた(図7D)。興味深いことに、24および48時間におけるCu64の取込みは、野生型とメンケス病細胞両者共にイヌ細胞と比べてより多かった。ヒトおよびイヌ各細胞における基本条件下の銅の定常状態レベルとはいかなるものであるか、依然として不明である。
【0208】
ATP7AT/T細胞におけるATP7A遺伝子発現は変化しない
流出低下がATP7Aの発現レベルに起因するものであるか証明するため、本出願人らは、qPCRによりATP7A転写レベルを解析した。イヌではATP7Aのイソ型が説明されていなかったため、3種のプライマーセットを次の通り設計した。スプライスバリアントを明らかにできるよう、ATP7Aiは突然変異と重複する領域を増幅し、ATP7AiiiおよびATP7Aiiは転写産物の3’および5’末端における領域を増幅するよう設計した。基本条件下または銅とのインキュベーションにおいて、遺伝子型の間でATP7A発現レベルの変化は見られなかった(図8A)。しかし、ATP7Aのタンパク質レベルを測定すると、ATP7Aの発現はイヌ細胞系全3種類において銅依存的であり、ATP7AT/T細胞における発現が最も高く(図8B)、これは測定された時点では銅キレート剤BCSの添加により回復できなかったことが判明した。興味深いことに、基本条件下では、ATP7AC/C細胞と比べてATP7AT/T細胞においてより高レベルのATP7A発現が見られた。メンブレン上に多くのバンドが示されたが、これらは異なるイソ型に相当すると思われる。しかし、これらのバンドは変化せず、単純ではなかった。ATP7A特異的バンドを同定するために、siRNAおよび過剰発現コンストラクトを用いたさらなる実験が行われるであろう。
【0209】
ATP7AT/T細胞はMT1A遺伝子発現が増加する
ATP7AT/T細胞におけるより高レベルの銅の取込みによってより高レベルの銅応答遺伝子発現がもたらされるか決定するため、本出願人らは、ATP7AC/C、ATP7AC/TおよびATP7AT/T各細胞におけるメタロチオネイン1A(MT1A)発現のqPCR解析を行った(図9)。無処理細胞におけるMT1Aの発現解析は、ATP7AC/TとATP7AT/T細胞の両方が、ATP7AC/C細胞と比べてMT1Aを有意により高レベルに発現することを示す(図9A)。ATP7AC/TおよびATP7AT/Tは、1〜100μMの銅に応答して有意に制御されないMT1A発現を行い、一方、ATP7AC/Cは、10μMを超える銅の添加で有意となった(図9B)。さらに、遺伝子型内における銅に応答したMT1A発現の上方制御の比較は、1μMの銅に応答させたATP7AT/Tを除く遺伝子型の間で比較した場合、有意ではなかった。ATP7AC/CUT対Cu1対ATP7AT/TUT対Cu1;(p=0.014)。したがって、ATP7AT/T細胞は銅に対してより感受性である(図9C)。
【0210】
銅依存的メタロチオネイン遺伝子発現はATP7AC/Cと比べてATP7AT/T細胞においてより高い
ATP7AT/T線維芽細胞における銅保持の増加および対応する銅依存的MT1A発現の増加から、本出願人らは、対応するメンケス病の表現型が腸および肝臓生検において観察されるか調査した。したがって、そこから線維芽細胞が外移植された3個体から生検された肝臓および小腸組織の凍結試料においてMT1A発現のqPCR解析を行った(図10)。MT1Aの発現は、ATP7AC/Cと比べてATP7AT/T肝臓組織において有意により低く、小腸組織において有意により高い。
【0211】
イヌ皮膚ATP7AT/T線維芽細胞はATP7A輸送が低下する
ATP7AT/T細胞における銅の増加がATP7A輸送の低下によるものであったか決定するため、本出願人らは、免疫細胞化学を用いて異なる細胞型におけるATP7Aを銅に応答させて局在化した。本出願人らは、BCSを用いて細胞外の銅をキレート化し、TGNにおけるATP7Aを「分類」した(上パネル)。予想された通り、ATP7AC/CとATP7AT/T細胞の両方において、ATP7Aは主としてTGNにあることが判明した(抗58Kによって示されている、中央パネル)。洗い流しを行い、続いて100μMの銅と1〜3時間インキュベーションした後、ATP7AC/C細胞におけるATP7Aは、銅を細胞から排出するためにTGNから細胞周縁へと移動した。ATP7Aは銅曝露後に主としてTGNに見られたため、ATP7AT/T細胞はATP7Aの移動の顕著な抑制を示した。パネルに示されている細胞密度は、成長速度を示すものではない。両方の細胞型は、同様の形態と密度で成長することが判明した。
【0212】
結論
本研究により、銅の蓄積率はタンパク質の変異型を発現する細胞においてより大きく、蓄積は銅曝露中により多く、放出は銅曝露後により遅いことが示された。さらに、銅曝露に応答した細胞内のATP7A移動は、突然変異を有する細胞で変化する。突然変異を有する細胞において、銅輸送タンパク質の発現も増加する。ATP7Aの発現レベルは、2種類の型を有する細胞の間で変化しない。
【0213】
本研究から得られた結果は、ATP7Aの正常型と変異型を有する細胞の間で銅の輸送および取扱いの有意差があることを示唆する。これらの差異から、ラブラドールの銅蓄積に対する見かけ上の差次的感受性の基礎をなす機序のCACHにおける因子としての説明を始めることができる。
【実施例6】
【0214】
まとめ
試験の目的は、食事管理がペニシラミンによる治療後のラブラドールにおいて肝銅濃度に影響するのに有効であるかどうか、および亜鉛による追加の治療が役に立つかどうかを調べることであった。
【0215】
試験は、12頭の雌および12頭の雄の純粋種ラブラドールからなる24頭のイヌの群に対して実施した。イヌは、以前の銅関連慢性肝炎患者犬の家族の構成員であった。食餌試行の開始時に、イヌは、臨床的には健康であったが、20頭のイヌの肝銅濃度は、400mg/kg(乾燥重量)という基準範囲を超えていた(平均値:894、範囲:70〜2810mg/kg(乾燥重量))。これらの濃度はペニシラミンによる治療の完了後に測定した。
【0216】
すべてのイヌは同じ食餌を給餌された。追加の治療は、グルコン酸亜鉛(7.5mg/kgPO BID、第1群)またはプラセボ(第2群)からなった。試験完了まで、薬剤師が群の割り付けを知る唯一の人物であった。平均8カ月(範囲5〜13カ月)、および16カ月(範囲12〜25カ月)間の治療前および後に、臨床検査および血液検査と併行して肝銅濃度および組織病理学を評価した。血漿亜鉛濃度を治療中の追加時点で測定した。
【0217】
21頭のラブラドール犬が試験を完了した。試験開始時に、第1群におけるイヌの平均年齢は4.1歳(範囲2.7〜8.3歳)であった。6頭のイヌは雌(5頭は卵巣を除去、1頭は除去せず)であり、および6頭は雄(2頭は去勢、4頭は去勢せず)であった。第2群におけるイヌの平均年齢は4.8歳(範囲3.6〜11.2歳)であった。6頭のイヌは雌(4頭は卵巣を除去、2頭は除去せず)であり、および6頭のイヌは雄(2頭は去勢、4頭は去勢せず)であった。嘔吐、食欲不振、および下痢が、グルコン酸亜鉛サプリメントを与えた群の3頭のイヌに副作用として観察された。
【0218】
食事管理をした両群における肝銅濃度は経時的に有意の差があった(8カ月:第1群p<0.001、第2群p=0.001、および16カ月:第1群p=0.03、第2群p=0.04)。しかしながら、治療前(p=0.65)、1度目の再チェック(p=0.52)、および2度目の再チェック(p=0.79)で、群間に肝銅濃度の差はなく、さらなる亜鉛補給の肝臓の銅蓄積に対する利益はないことを示唆した。
【0219】
この試験の結果は、食事管理は、ラブラドールにおいて肝銅濃度を減少させることに有効であり得ることを示す。亜鉛を用いる補助的治療は脱銅効果を増幅しなかった。
【0220】
ここで、試験をより詳細に説明する。
【0221】
材料および方法
ラブラドールレトリーバー
試験集団は、以前にCACHと記述されたイヌの家族構成員であった24頭の純粋種のラブラドールレトリーバーからなる。すべてのイヌは、オランダのラブラドールレトリーバーの血統クラブで登録された。
【0222】
すべてのイヌは、この試験の開始前にペニシラミンによるそれらの治療を完了していた。既往歴をすべてのイヌから得て、身体検査を実施した。クエン酸Na添加血液試料を、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)およびフィブリノーゲンを含む凝血プロファイルの分析のために採取した。ヘパリン−およびEDTA−血液を肝胆道酵素、アルカリホスファターゼ(ALP)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、胆汁酸(BA)の分析、ならびに血小板数、および血漿亜鉛濃度の測定のためにサンプリングした。肝生検材料はRothuizen(Rothuizen J,I.T.(1998) Tijdschr Diergeneeskd 123:246〜252)により与えられたMenghini技法に従って採取した。少なくとも3個の肝生検材料を各イヌから採取した。2個の生検材料は10パーセントの中性緩衝ホルマリンで固定し、1個の生検材料は銅を含まない容器中に銅定量のために貯蔵した。
【0223】
すべての生検材料は組織学的に評価した。肝組織は、銅の分布および半定量評価のために、以前に記載されたようにして(Van den Ingh T.S.G.A.M.R.J.、Cupery R.(1988) Vet Q10:84〜89)、ルベアン酸染色で染色した。適用された等級づけシステムに従って、2を超える銅スコアは異常である(0:銅なし、1:若干の銅陽性顆粒を含む孤立性肝細胞および/または細網組織球系(RHS)細胞、2:少量から中程度の量の銅陽性顆粒を含む肝細胞および/またはRHS細胞の小群、3:中程度の量の銅陽性顆粒を含む肝細胞および/またはRHS細胞の比較的大きい群または領域、4:多くの銅陽性顆粒を含む肝細胞および/またはRHS細胞の大きい領域、5:多くの銅陽性顆粒を含む肝細胞および/またはRHS細胞の散在性存在)。
【0224】
肝臓組織中の銅の定量的アッセイは、中性子活性化分析により、Teskeらにより記載されたプロトコルに従って、Bodeにより記載された施設を使用して(Bode,P.(1990) Journal of Trace and Microprobe Techniques 8 139;Teskら(1992) Vet Rec 131:30〜32)実施した。定量的銅濃度は、凍結乾燥された肝生検材料で測定してmg/kg(乾燥肝臓重量)で報告した。
【0225】
銅含有率とは別に、さらに組織学的な変化を、統計的検定を可能にするために0と5の間の尺度で等級づけした(0=炎症の組織学的徴候なし、1=反応性肝炎、2=軽症の慢性肝炎、3=中程度の慢性肝炎、4=重症の慢性肝炎、5=肝硬変)。
【0226】
試験はUtrecht University Institutional Animal Care and Use Committeeにより承認された。飼い主のインフォームドコンセントをすべてのイヌについて得た。
【0227】
無治療における肝臓の銅蓄積の進行
11頭のイヌで、何らかの治療に先立って、肝銅濃度の測定を、平均8.7カ月(範囲6〜15カ月)をおいて繰り返した。この期間中、すべての動物は、食物由来の12〜25mg/kg(乾物)の間の銅濃度および80〜270mg/kg(乾物)の間の亜鉛濃度を含有する、それらの通常の維持食餌を製造業者により給餌された。
【0228】
食餌
すべてのイヌの飼い主は、同じ特製の食餌を提供された。給餌された食餌の近似分析:水分57.9%、粗タンパク質6.1%、粗脂肪5.9%、ミネラル1.7%。給餌された代謝性エネルギー(Association of American Feed Control Officialsのプロトコルに従って測定した):1650kcal/kg)。食餌は、銅を4.75mg/kg(乾物)の濃度で、および亜鉛を102mg/kg(乾物)の濃度で含有した。イヌは、さらなる栄養補助食品およびご馳走はなしに食餌を給餌された。この試験のラブラドールは、420g食餌/日と840g食餌/日との間を与えられた。
【0229】
薬物動態試験
2頭の縁続きでない9歳の健康なラブラドールレトリーバー(1頭は雌および1頭は雄)を薬物動態試験で使用した。食物は、亜鉛の経口投与前の12時間の間、および検査期間初期の6時間の間許さなかった。水は自由に利用できた。経口グルコン酸亜鉛は、第1のイヌには10mg/kgの用量で、および第2のイヌには5mg/kgの用量で投与した。ヘパリン化血液試料(4ml)を頚静脈から服用前(0時間)および薬剤適用後15、30、45、60、90、120分、および4、8、12および24時間に捕集した。血漿は、原子吸収分光法を使用する亜鉛の分析まで−20℃で貯蔵した。
【0230】
薬剤調製、無作為化、および盲検化
グルコン酸亜鉛の選択は、該薬剤が、酢酸塩または硫酸塩のような他の塩より副作用が少ないという臨床的観察に基づいてなされた。錠剤が、ユトレヒト大学獣医学部の獣医学薬剤部により提供された。亜鉛錠剤は25mgの元素亜鉛をグルコン酸亜鉛塩として(Toppharm Zink 25 gluconaat、Parmalux BV、Uitgeest、NL)含有した。プラセボ錠剤は、160mgのラクトース(Albochin、Pharmachemie BV、Haarlem、NL)を含有した。両群の錠剤の外見は同一であった。
【0231】
薬剤師は、コインを弾くことによりプロスペクティブに(prospectively)に6頭のイヌの組の群割り付けを無作為化した。3頭のイヌは、プラセボを与えられ、および3頭のイヌは亜鉛で治療された。臨床医の処方に当たって、錠剤(プラセボまたは亜鉛)は無作為化表に従って分配された。
【0232】
処方の用量は以下のスキームによった:
【0233】
【表12】

【0234】
飼い主は、給餌の30分前に、彼らの少量の食餌と混合された錠剤を与えるように指示された。飼い主も臨床医も、どの治療が各イヌに与えられるかについて知らされなかった。無作為化表は試行の間薬剤部が保持し続けて、試行が完了したときにのみ明かされた。
【0235】
統計分析
薬物動態学的パラメーター(WinNonlin 4.0.1.(Pharsight Corporation、800 West El Camino Real、Mountain View、CA、USA)および統計分析(windows用のSPSS11.0、2001、SPSS Inc.、Chicago、IL、USA)は市販のソフトウェアパッケージの使用により計算した。小さい群サイズのため、ノンパラメトリック統計検定を群間の比較のために使用した。食餌およびグルコン酸亜鉛(第1群)を用いる治療の前および後の2回の対照検査時(1度目の再チェックおよび2度目の再チェック)、ならびに食餌およびプラセボ(第2群)を用いる治療後の両検査時の肝銅濃度の間の差を検出するために、Mann−Whitney検定を使用した。それに加えて該検定を、試験前、1度目の再チェック時、および2度目の再チェック時における第1群と第2群との間の差を検出するために使用した(有意性レベルp≦0.05)。
【0236】
結果
無治療における肝臓の銅蓄積の進行
11頭のラブラドール犬で、何らかの治療が与えられる前、イヌがそれらの通常の維持食餌を与えられていた間に、肝銅濃度の測定を繰り返した。1頭を除くすべてのイヌで、肝銅濃度は、8.7カ月の間隔の期間中に、両方の測定の間で、平均1000mg/kg(乾燥重量)(範囲290〜2370)から平均1626mg/kg(乾燥重量)(範囲630〜3610)にまで上昇した。患者犬の体重(平均:33.9kg、範囲25〜39.5kg)に関して、これは、8.7カ月の間に体重1kg当たり銅18mgの上昇であった。結果を図1に示す。
【0237】
薬物動態学的試験
2頭のイヌで10mg/kg(イヌ1)および5mg/kg(イヌ2)の元素亜鉛の経口適用後に測定された血漿亜鉛濃度から計算された薬物動態学的パラメーターは:
【0238】
イヌ1(10mg/kg):V_F:分布容積=2937.872ml/kg体重、K01:吸収速度定数=0.567212 1/時間、K10:脱離速度定数=0.053728 1/時間、AUC:曲線下面積=63.35272hrμg/ml、Cl_F:バイオアベイラビリティに関するクレアランス=157.8464ml/hr/kg、Tmax:最大濃度時間=4.589813時間、Cmax:最大クレアランス=2.659924μg/ml)
【0239】
イヌ2(5mg/kg):V_F:分布容積=2538.689ml/kg体重、K01:吸収速度定数=1.160647 1/時間、K10:脱離速度定数=0.037886 1/時間、AUC:曲線下面積=51.98513hrμg/ml、Cl_F:バイオアベイラビリティに関するクレアランス=96.18135ml/hr/kg、Tmax:最大濃度時間=3.047974時間、Cmax:最大クレアランス=1.754728μg/ml)。
【0240】
亜鉛の計算された半減期は、t1/2=15.1時間であった。
【0241】
R=1/(1−exp(−k1024)から計算された蓄積速度Rは1.52であった。投与間隔は12時間であるように選ばれた。両方のイヌのCL_Fの平均から計算された推定用量は127.0139ml/hr/kgであった。
【0242】
適当な用量の推定値は、意図された5μg/mlという最大亜鉛血漿濃度に基づいた。用量=Cl_F×意図する血液濃度×投与間隔=7.62mg/kg/12時間
【0243】
食餌試行および無作為化されたプラセボを対照とする亜鉛適用
食餌試行の開始時に、20頭のイヌの肝銅濃度は、400mg/kg(乾燥重量)という基準範囲を超えていた(平均:894、範囲:70〜2810)。銅の半定量的評価の結果は、0〜4.5の範囲であった。17頭のイヌの肝生検材料の組織学的検査は上昇した肝銅含有率を示し(2を超えた)、それは小葉中心の肝細胞に局在化した。銅に対する染色は5頭のイヌで正常であり、高い正常染色結果が、定量的分析から上昇した肝銅を有する2頭のイヌの生検材料から得られた。7頭のイヌに慢性肝炎が存在した。CHは、肝細胞のアポトーシスおよび壊死、単核性炎症、再生および線維症の変化する程度により特徴づけた。肝炎症の活性は炎症の程度ならびに肝細胞アポトーシスおよび壊死の程度により決定した。疾患のステージは線維症の程度およびパターンならびに肝硬変の存在により決定した。肝炎は4頭の患者犬で軽症、2頭のイヌで中程度であり、1頭のイヌにおいては肝硬変が診断された。13頭のイヌにおいて、肝臓に存在する炎症の組織学的な徴候はなく、4頭のイヌの生検材料で病理組織検査は反応性変化を示した。
【0244】
試験開始時に、第1群におけるイヌの平均年齢は、4.1歳(範囲2.7〜8.3)であった。6頭のイヌは卵巣を除去された雌であり、6頭は雄(2頭は去勢され、4頭は去勢せず)であった。平均体重は33kg(範囲26.2〜37.5)であった。第1群中のイヌの平均肝銅濃度は、961mg/kg(乾燥重量)(範囲340〜2810)であった。組織染色による銅の半定量的評価の平均は2〜3+(範囲0〜4.5)であった。
【0245】
第2群におけるイヌの平均年齢は、4.8歳(範囲3.6〜11.2)であった。6頭のイヌは雌(4頭は卵巣を除去、2頭は除去せず)であり、および6頭のイヌは雄(2頭は去勢、4頭は去勢せず)であった。平均体重は32.3kg(範囲25〜41.9)であった。第2群におけるイヌの平均肝銅濃度は861mg/kg(乾燥重量)(範囲70〜1680)であった。治療前の両群間の肝銅濃度に差はなかった(p=0.73)。組織染色による銅の平均の半定量的評価は2〜3+(範囲0.5〜3)であった。
【0246】
第1群の3頭のイヌは試験を完了しなかった。中断の理由は3頭すべてのイヌにおいて治療に無関係であった(1名の飼い主は彼のイヌが老いすぎつつあると感じ、1名の飼い主には個人的理由があり、および1頭のイヌは肥満細胞腫瘍を発症した)。21頭のイヌは、少なくとも1回の対照検査(1度目の再チェック)と共に試験を完了した。16頭のイヌにおいて、肝生検材料はそれより後の追加時点(2度目の再チェック)で得た。
【0247】
嘔吐および食欲不振が、第1群の3頭のイヌにおいて観察された副作用であった。これらのイヌの1頭には一過性の小腸下痢もあった。副作用は錠剤適用後に中程度で起こり、錠剤が食餌と混合されたときに解決した。
【0248】
血液検査
胆汁酸の濃度は、平均14μmol/l(範囲:3〜101)から、1度目の再チェックで平均7.8μmol/l(範囲:1〜39)に、および2度目の再チェックで7.1μmol/l(範囲:0〜21)に低下した。アルカリホスファターゼ(ALP)、およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の平均濃度は、すべての検査で正常範囲内にとどまった。治療前の平均ALP濃度は、41U/l(範囲:8〜111)であり、1度目の再チェックで平均ALP=37U/l(範囲12〜143)、2度目の再チェックで平均ALP=37U/l(範囲:19〜152)であった。治療前の平均ALT濃度は28U/l(範囲:10〜234)であり、1度目の再チェックで平均ALT=47U/l(範囲:11〜78)、2度目の再チェックで平均ALT=51U/l(26〜68)であった。
【0249】
試験開始時に、平均の血漿亜鉛濃度は、第1群および第2群においてそれぞれ95μg/dlおよび96μg/dlであった。1度目の再チェックおよび2度目の再チェックで、いずれの群の血漿亜鉛濃度にも差はなかった(p値は0.11と0.79との間)。3回の検査のいずれにおいても第1群と第2群との間で血漿亜鉛濃度に差は見出されなかった(p値は0.34と0.5との間)。血漿亜鉛濃度における差を見出し得た唯一の時点は、第1群における亜鉛を用いる治療の最初の1カ月後の血液検査であった。血液サンプリングは亜鉛適用の2〜6時間に実施された。この対照検査で平均血漿亜鉛濃度は165μg/dl(範囲117〜249、p=0.02)に上昇していた。
【0250】
肝銅測定
肝銅の定量的測定は両群において治療中に改善された。1度目の再チェック、および2度目の再チェックで、肝銅濃度は、両群のイヌにおいて開始時点に比較して有意に低下していた(第1群の1度目の再チェック:平均286mg/kg、範囲84〜700、p<0.001;第1群の2度目の再チェック:平均421mg/kg、範囲220〜790、p=0.03、第2群の1度目の再チェック:平均277mg/kg、範囲80〜450、p=0.001、第2群の2度目の再チェック:平均401mg/kg、範囲118〜850、p=0.04)。1度目の再チェックで両群における肝銅濃度に差はなく(p=0.52)、2度目の再チェックでも群間の差はなかった(p=0.79)。それに加えて、1度目の再チェックと2度目の再チェックとの間で肝銅濃度のさらなる低下はなかった(第1群p=0.44、第2群p=0.25)。結果は図2に示す。
【0251】
組織検査
銅についての組織染色は治療で改善された。銅の半定量的評価の組織検査スコアは、第1群および第2群において1度目の再チェックおよび2度目の再チェックで開始時点に比較して減少した(第1群 1度目の再チェックで:p=0.031、第1群 2度目の再チェックで:p=0.01、第2群 1度目の再チェックで:p=0.01、第2群 2度目の再チェックで:p=0.001)。どの時点においても両群間に差はなかった(p=0.16〜0.75)。
【0252】
肝臓の炎症の重症度に対する組織検査スコアは、両群のイヌのすべての検査を通じて不変のままであった(p=0.25〜0.45)。
【0253】
結論
CACHを有する患者犬に肝銅濃度のよりバランスのとれた長期の制御を提供するために、この試験の目的は、食事管理がペニシラミンを用いる治療後のラブラドールにおける肝銅濃度に影響するのに有効かどうか、および亜鉛を用いる追加治療が有用かどうかを調べることであった。この試験の結果は、食事管理は肝銅濃度を低下させるのに有効であり得ることを示す。亜鉛を用いる補助的治療は脱銅効果を増幅しなかった。
【実施例7】
【0254】
肝銅濃度に対する亜鉛の効果の検討中に、肝銅濃度を18頭の純粋種のラブラドールレトリーバーで測定した。イヌの半分は亜鉛のサプリメントを与えられ、他の半分はプラセボを与えられた。すべてのイヌは実施例2の食餌を給餌された。肝銅濃度は、実施例2の方法を使用して3つの時点で測定した:(1)ペニシラミンによる治療前、(2)ペニシラミンによる治療後であるが実施例2の食餌による治療前、および(3)食餌治療後。実施例2におけるように、亜鉛で治療されたイヌとプラセボで治療されたイヌの銅レベルの間に有意の差はなかった(データ掲載せず)。しかしながら、食餌の使用は銅レベルに対して有意の効果を有した。亜鉛で治療されたイヌとプラセボで治療されたイヌの組み合わされた結果は、図3に示され、低銅食餌は、肝臓の銅レベルを低下させることに対してペニシラミン単独よりも大きい有意の効果を有することを示す。
【実施例8】
【0255】
本発明の食材の例を下で述べる:
【0256】
【表13】

【0257】
この食材中のミネラルおよび微量元素の量の典型的分析を、使用された方法と一緒にして下に示す:
【0258】
【表14】

【実施例9】
【0259】
本発明の食材のさらなる例は以下の通りである:
【0260】
【表15】

【0261】
この食材中のミネラルおよび微量元素の量の典型的分析を、使用された方法と一緒にして下に示す:
【0262】
【表16】

【符号の説明】
【0263】
10 多型に関する情報を含むデータベース
20 イヌの遺伝的データを受け取る手段
30 データを多型に関する情報を含むデータベース10と比較するためのモジュール
40 比較に基づいて、イヌのゲノムが肝臓の銅蓄積に対するイヌの感受性またはそれからの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定するための手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌを検査してイヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定する方法であって、試料中のイヌのゲノムにおける、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および(b)(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型から選択される1つまたは複数の多型の有無を検出することを含む方法。
【請求項2】
(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)または(b)ATP7a_Reg16_F_42のSNP(配列番号143)の有無を検出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
イヌが生後1年以内である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
イヌがラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバーまたはトイプードルの血統を遺伝的に継承している、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
イヌがラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承している、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
イヌのゲノムにおける(c)肝臓の銅蓄積に対して感受性を示すGOLGA5、ATP7AまたはUBL5遺伝子における多型および/または(d)前記多型(c)と連鎖不平衡にある多型の有無を検出することをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
BICF2P506595(配列番号1)、BICF2P772765(配列番号2)、BICF2S2333187(配列番号3)、BICF2P1324008(配列番号4)、BICF2P591872(配列番号5)、ATP7a_Reg4_F_9(配列番号131)、UBL5_Reg1F_16(配列番号132)、golga5_Reg1_24(配列番号133)、golga5_26(配列番号134)、golga5_27(配列番号135)、golga5_28(配列番号136)、golga5_29(配列番号137)、golga5_30(配列番号138)、golga5_31(配列番号139)、atp7areg17_32(配列番号140)、atp7areg17_33(配列番号141)およびそれらと連鎖不平衡にある1つまたは複数のSNPから選択される1つまたは複数のSNPの有無を検出することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
BICF2P506595(配列番号1)、BICF2P772765(配列番号2)、BICF2S2333187(配列番号3)、BICF2P1324008(配列番号4)、およびBICF2P591872(配列番号5)のSNPの有無を検出することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
多型(a)または(c)と連鎖不平衡にある多型が、多型(a)または(c)の680kb以内にあり多型(a)または(c)と同一の染色体上に存在し、多型対間の連鎖不平衡の計算された尺度D’が0.9を超えるまたはそれに等しい、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および/またはそれらと連鎖不平衡にある1つもしくは複数の多型、ならびに肝臓の銅蓄積からのイヌの保護とのそれらの関連に関する情報を含むデータベース。
【請求項11】
イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定する方法であって、
(a)コンピュータシステムに、請求項1または2および場合により請求項6から8までのいずれか一項に記載の多型のイヌのゲノムにおける有無に関するデータを入力することと、
(b)前記データを、前記多型、および肝臓の銅蓄積からのイヌの保護またはそれに対するイヌの感受性とのそれらの関連に関する情報を含むコンピュータデータベースと比較することと、
(c)前記比較に基づいてイヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定することと
を含む方法。
【請求項12】
コンピュータシステムにおいて実行される場合、コンピュータシステムに請求項11に記載のすべてのステップを実施するように指示するプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のコンピュータプログラムおよび請求項10に記載のデータベースを含むコンピュータ記憶媒体。
【請求項14】
請求項11に記載の方法を実施するように構成されているコンピュータシステムであって、
(a)請求項1または2および場合により請求項6から8までのいずれか一項に記載の多型のイヌのゲノムにおける有無に関するデータを受け取る手段と、
(b)前記多型、および肝臓の銅蓄積からのイヌの保護またはそれに対するイヌの感受性とのそれらの関連に関する情報を含むデータベースと、
(c)前記データを前記データベースと比較するためのモジュールと、
(d)前記比較に基づいてイヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定するための手段と
を含むコンピュータシステム。
【請求項15】
イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定する方法であって、イヌのゲノムにおける、(a)ATP7a_Reg3_F_6のSNP(配列番号142)および(b)(a)と連鎖不平衡にある1つまたは複数の多型から選択される1つまたは複数の多型の有無を検出することを含む方法。
【請求項16】
イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性を決定するための、請求項1または2および場合により請求項6から8のいずれか一項に記載の多型の使用。
【請求項17】
肝臓の銅蓄積から保護される可能性が高い子孫を作出することについてイヌを選択する方法であって、
・請求項1から8、11および15のいずれか一項に記載の方法に従って、候補の第1のイヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定し、それにより候補の第1のイヌが肝臓の銅蓄積から保護される可能性が高い子孫を作出するのに適するかどうかを決定することと、
・場合により、請求項1から8、11および15のいずれか一項に従って、第1のイヌと反対の性の第2のイヌのゲノムが肝臓の銅蓄積からの保護を示す1つまたは複数の多型を含むかどうかを決定することと、
・場合により、第1のイヌと第2のイヌとを交配して、肝臓の銅蓄積から保護される可能性が高い子孫を作出することと
を含む方法。
【請求項18】
イヌがラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバーまたはトイプードルの血統を遺伝的に継承している、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
イヌがラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承している、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承しているイヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患を予防する方法に用いるための、4.5〜12mg/kg(乾物)の濃度の銅を含む食材であって、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性が、請求項1から8、11および15のいずれか一項に記載の方法によって決定されている、食材。
【請求項21】
亜鉛を少なくとも120mg/kg(乾物)の濃度でさらに含む、請求項20に記載の食材。
【請求項22】
4.5〜10mg/kgまたは4.5〜8mgの濃度の銅を含み、および/または120〜250mg/kgまたは150〜250mg/kg(乾物)の濃度の亜鉛を含む、請求項20または21に記載の食材。
【請求項23】
(i)少なくとも一方の親が純血種のラブラドールレトリーバーであり、
(ii)肝臓の銅蓄積と関連する臨床症状がなく、
(iii)400mg/kg(乾燥肝臓重量)未満の肝銅濃度を有し、および/または
(iv)検出可能な肝疾患にかかっていない
イヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患を予防する方法に用いるための、請求項20から22のいずれか一項に記載の食材。
【請求項24】
銅関連慢性肝炎を予防する方法において使用するための、請求項20から23までのいずれか一項に記載の食材。
【請求項25】
ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承しているイヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患を予防する方法であって、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性が、請求項1から8、11および15のいずれか一項に記載の方法によって決定されており、イヌに請求項20から24のいずれか一項に記載の食材を給餌することを含む方法。
【請求項26】
亜鉛を少なくとも120mg/kgの濃度で含む食材またはサプリメントをイヌに給餌することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
400mg/kg(乾燥肝臓重量)未満の肝臓銅濃度を有し、かつ/または検出可能な肝疾患を有しないイヌにおいて肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患を予防するための、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承するイヌ用の食材の製造における銅の使用であって、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性が、請求項1から8、11および15のいずれか一項に記載の方法により決定されており、前記食材が、銅を4.5〜12mg/kg(乾物)の濃度で含み、前記イヌにおいて肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患の予防に使用するためのものである使用。
【請求項29】
ラブラドールレトリーバーの血統を遺伝的に継承するイヌにおける肝臓の銅蓄積に起因し得る疾患の予防に同時に、別々にまたは順次に使用するための、銅を4.5〜12mg/kg(乾物)未満の濃度で有する食材と少なくとも120mg/kg(乾物)の濃度を提供するための亜鉛サプリメントとを含むパックであって、イヌが肝臓の銅蓄積から保護されている可能性が、請求項1から8、11および15のいずれか一項に記載の方法により決定されているパック。
【請求項30】
請求項20から24までのいずれか一項に記載のラベルを付けた食材または請求項29に記載のラベルを付けたパック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−523228(P2012−523228A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504068(P2012−504068)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000703
【国際公開番号】WO2010/116137
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(390037914)マース インコーポレーテッド (80)
【氏名又は名称原語表記】MARS INCORPORATED
【Fターム(参考)】